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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】無線通信システム及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20220628BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20220628BHJP
   H01Q 21/28 20060101ALI20220628BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20220628BHJP
   H04W 88/02 20090101ALI20220628BHJP
【FI】
H04B7/06 956
H04B7/08 800
H01Q21/28
H01Q3/26 A
H04W88/02 170
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022007418
(22)【出願日】2022-01-20
(62)【分割の表示】P 2017027041の分割
【原出願日】2017-02-16
(65)【公開番号】P2022048229
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2022-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖
(72)【発明者】
【氏名】官 寧
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0148107(US,A1)
【文献】特開2008-219503(JP,A)
【文献】国際公開第2011/055536(WO,A1)
【文献】特表2016-528830(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0206406(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H04B 7/08
H01Q 21/28
H01Q 3/26
H04W 88/02
IEEE Xplore
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-2
CT WG1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線局からなる無線通信システムであって、
前記複数の無線局のうち少なくとも2つの無線局のそれぞれは、
第1周波数帯の電波を伝送する第1アンテナと、
前記第1周波数帯よりも周波数が低い第2周波数帯で電波を伝送する第2アンテナと、
前記第1周波数帯で主信号を送受信する第1送受信部と、
前記第2周波数帯で制御信号を送受信する第2送受信部と、
を備え、
前記少なくとも2つの無線局のうち、少なくとも1つの無線局は、
前記第1アンテナとしてビーム方向が可変である可変ビームアンテナと、
前記第2アンテナとして前記ビーム方向の可変範囲以上の放射範囲を有する広角アンテナと、
前記制御信号に基づいて前記可変ビームアンテナのビーム方向を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記制御信号として前記ビーム方向の探索に係る受信走査開始信号、送信走査開始信号、または送信走査更新信号のいずれかを他局から受信するとき、自局の可変ビームアンテナのビーム方向を探索する
無線通信システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記主信号の伝送状態を測定し、前記伝送状態が所定の伝送状態よりも劣るとき、前記制御信号として前記ビーム方向の探索に係る接続要求信号を他局に送信する
請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの無線局は、
前記可変ビームアンテナとして、前記第1周波数帯の電波を送信する送信可変ビームアンテナと、前記第1周波数帯の電波を受信する受信可変ビームアンテナとを備え、
前記制御部は、他局の前記送信可変ビームアンテナのビーム方向と自局の前記受信可変ビームアンテナのビーム方向を独立に定める
請求項1または請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第2周波数帯における伝送速度は、前記第1周波数帯における伝送速度よりも低い
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
複数の無線局からなる無線通信システムにおける無線通信方法であって、
前記複数の無線局のうち、少なくとも2つの無線局のそれぞれは、
第1周波数帯の電波を伝送する第1アンテナと、
第1周波数帯よりも周波数が低い第2周波数帯で電波を伝送する第2アンテナと、
を備え、
前記第1周波数帯で主信号を送受信する第1送受信過程と、
前記第2周波数帯で制御信号を送受信する第2送受信過程と、
を有し、
前記少なくとも2つの無線局のうち、少なくとも1つの無線局は、
前記第1アンテナとしてビーム方向が可変である可変ビームアンテナと、
前記第2アンテナとして前記ビーム方向の可変範囲以上の放射範囲を有する広角アンテナと、
を備え、
前記制御信号に基づいて前記可変ビームアンテナのビーム方向を制御する制御過程、
を有し、
前記制御信号として前記ビーム方向の探索に係る受信走査開始信号、送信走査開始信号、または送信走査更新信号のいずれかを他局から受信するとき、自局の可変ビームアンテナのビーム方向を探索する無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーム方向が可変である可変ビームアンテナを用いてビームフォーミングを行う無線通信システム及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波帯などの高周波帯の電波を用いる無線通信システムは、高い伝搬損失を補うために高利得で鋭い指向性を有するビームアンテナを用いる。そして、無線通信システムは、ビームフォーミングを行ってビーム方向を通信相手となる相手局の方向に向け、その方向に追従させて通信を行うことが一般的である。ビームフォーミングを行う際、通信中に自局と相手局との間で最適なビーム方向を逐次に探索する必要がある。
【0003】
図8に示す3局の無線局からなる無線通信システム7を例にして、非特許文献1に示される従来の探索手順について図9を用いて説明する。この例では、無線局70-1~70-3は、それぞれ60GHz帯の可変ビームアンテナと送受信機を備える。そのため、無線局70-1~70-3は、高利得で鋭いビームを方向1から4までの範囲内で変化させることができる。また、可変ビームアンテナは、利得は低いが方向1~4の範囲に対しほぼ一様な利得を有する準オムニビーム(quasi-omnidirectional beam)も形成することもできる。なお、無線通信システム7のネットワークトポロジは、無線局70-1を親局、無線局70-2および無線局70-3を子局とするスター型トポロジである。
【0004】
図9(a)は、無線通信システム7における信号伝送のタイムチャートである。伝送される信号は、周期的なフレーム構造を有し、各フレームはビーム方向決定区間と、主信号通信区間とを含んで構成される。ビーム方向決定区間とは、各無線局の可変ビームアンテナのビーム方向を決定する区間である。主信号通信区間は、主信号による通信を行う区間である。主信号とは、相手先の通信局のユーザとの間で伝達する主な情報を含む信号である。
【0005】
ビーム方向決定区間における処理手順を図9(b)に例示する。まず、無線局70-1は、方向探索信号を搬送するビームを送信する方向を方向1から方向4まで順次変更する。他方、無線局70-2は自局のビームの指向性を準オムニビームと定め、無線局70-1が送信した方向探索信号の受信状態を測定する。次に無線局70-2は、方向1から方向4までの各方向にビーム方向を順次向けて方向探索信号を送信する。そして、無線局70-1は自局の指向性を準オムニビームとし、受信した方向探索信号の受信状態を各ビーム方向について測定する。このとき、無線局70-2が送信する方向探索信号には、無線局70-1からの方向探索信号に関し、無線局70-2の受信状態が最良であった無線局70-1の送信方向情報が含まれる。無線局70-1は、受信した方向探索信号に基づいて無線局70-2との通信に用いるビーム方向を決定する。無線局70-2が方向1~方向4のいずれに対して方向探索信号を送信した後、無線局70-1は無線局70-2からの方向探索信号のうち受信状態が最良となる送信方向を無線局70-2に通知する。無線局70-2は、この通知に従って無線局70-1との通信に用いるビーム方向を決定する。同様の手順が無線局70-1と無線局70-3の間でも実施される。よって、全ての相手局に対するビーム方向が決定される。上記ビーム方向決定区間は一定のフレーム周期毎に現れるため、ビーム方向は逐次更新される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-167878号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】IEEE Computer Society, IEEE Standard for Information technology-Telecommunications and information exchange between systems Local and metropolitan area networks-Specific requirements, Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer Specifications Amendment 3: Enhancements forVery High Throughput in the 60 GHz Band, IEEE Std 802.11ad 2012, p.281-288, 28 December 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の方法では、送信側が方向探索信号を送信する間、受信側は準オムニビームで方向探索信号の到来を待機する必要がある。そのため、準オムニビームの形成機構を有しない無線局同士が高利得で鋭いビームのみを用いて方向探索する場合には適用できなかった。この場合、双方のビーム方向が全く未知である初期状態では、送信側がどの方向に方向探索信号を送信しても、送信側のビーム方向と受信側のビーム方向とが一致していなければ受信側の無線局は方向探索信号を受信できない。そのため、送信側のビーム方向を探索することができない。これを回避するために、受信側のビーム方向も送信側と協調(ネゴシーエーション)して走査させる手法も考えられる。しかしながら、初期状態では双方においてビーム方向の走査タイミングを同期させることが困難である。そのことから、探索時間が大幅に長延化する問題があった。
【0009】
また、方向探索信号を送受信し、ビーム方向を決定するビーム方向決定区間では主信号を伝送できないが、従来の方法では、このビーム方向決定区間が一定のフレーム周期で設定される必要がある。これは、ビーム方向を相手局あるいは自局の移動や方向転換に追従することや、未知の地点から新たに通信を開始する無線局に対して最適方向を決定するためである。そのため、主信号の平均通信速度が低下する問題があった。通信を行う無線局の数が増えると、主信号の平均通信速度低下は一層顕著になる。
このような問題を回避するため、特許文献1に記載されているようにミリ波帯とは別の周波数の回線を使用して各無線局の位置情報を送信することも考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、位置情報や可変ビームアンテナの角度基準が得られなければビーム方向を決定できず、かつ直接波以外で通信する場合には最適なビーム方向を予測することは困難であった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ビーム方向を確実に定め、安定した主信号の通信を実現することができる無線通信システム及び無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、複数の無線局からなる無線通信システムであって、前記複数の無線局のうち少なくとも2つの無線局のそれぞれは、第1周波数帯の電波を伝送する第1アンテナと、前記第1周波数帯よりも周波数が低い第2周波数帯で電波を伝送する第2アンテナと、前記第1周波数帯で主信号を送受信する第1送受信部と、前記第2周波数帯で制御信号を送受信する第2送受信部と、を備え、前記少なくとも2つの無線局のうち、少なくとも1つの無線局は、前記第1アンテナとしてビーム方向が可変である可変ビームアンテナと、前記第2アンテナとして前記ビーム方向の可変範囲以上の放射範囲を有する広角アンテナと、前記制御信号に基づいて前記可変ビームアンテナのビーム方向を制御する制御部と、を備える無線通信システムである。
【0012】
本発明の他の態様は、上述した無線通信システムであって、前記制御部は、前記制御信号として前記ビーム方向の探索に係る情報を他局から受信するとき、自局の可変ビームアンテナのビーム方向を探索することを特徴とする。
【0013】
本発明の他の態様は、上述した無線通信システムであって、前記制御部は、前記主信号の伝送状態を測定し、前記伝送状態が所定の伝送状態よりも劣るとき、前記制御信号として前記ビーム方向の探索に係る情報を他局に送信する。
【0014】
本発明の他の態様は、上述した無線通信システムであって、前記少なくとも1つの無線局は、前記可変ビームアンテナとして、前記第1周波数帯の電波を送信する送信可変ビームアンテナと、前記第1周波数帯の電波を受信する受信可変ビームアンテナとを備え、前記制御部は、前記送信可変ビームアンテナのビーム方向と自局の前記受信可変ビームアンテナのビーム方向を独立に定める。
【0015】
本発明の他の態様は、上述した無線通信システムであって、前記第2周波数帯における伝送速度は、前記第1周波数帯における伝送速度よりも低い。
【0016】
本発明の他の態様は、複数の無線局からなる無線通信システムにおける無線通信方法であって、前記複数の無線局のうち、少なくとも2つの無線局のそれぞれは、第1周波数帯の電波を伝送する第1アンテナと、前記第1周波数帯よりも周波数が低い第2周波数帯で電波を伝送する第2アンテナと、を備え、前記第1周波数帯で主信号を送受信する第1送受信過程と、前記第2周波数帯で制御信号を送受信する第2送受信過程と、を有し、前記少なくとも2つの無線局のうち、少なくとも1つの無線局は、前記第1アンテナとしてビーム方向が可変である可変ビームアンテナと、前記第2アンテナとして前記ビーム方向の可変範囲以上の放射範囲を有する広角アンテナと、を備え、前記制御信号に基づいて前記可変ビームアンテナのビーム方向を制御する制御過程、を有する無線通信方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、可変ビームアンテナのビーム方向の制御に要する情報が、ビーム方向と無線局との位置関係によって伝送品質が大きく変化する第1周波数帯ではなく、ビーム方向に大きく依存せず一定の伝送品質が得られる第2周波数帯を介して伝送される。このため、第1周波数帯による伝送品質によらず自局のビーム方向と相手局のビーム方向の組み合わせを確実に定めることができる。そのため、安定した主信号の通信を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態に係る無線通信システムの一構成例を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る無線局の構成を示すブロック図である。
図3】第1の実施形態に係るビーム方向決定区間とビーム方向決定手順の一例を示す図である。
図4】第1の実施形態に係るビーム方向決定区間とビーム方向決定手順の他の例を示す図である。
図5】第2の実施形態に係る無線通信システムの一構成例を示すブロック図である。
図6】第2の実施形態に係る無線局の一構成例を示すブロック図である。
図7】第2の実施形態に係るビーム方向決定区間とビーム方向決定手順の一例を示す図である。
図8】従来の無線通信システムの一構成例を示すブロック図である。
図9】従来のビーム方向決定手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の無線通信システム及び無線通信方法の実施形態について説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る無線通信システムの一構成例について説明する。
図1は、本実施形態に係る無線通信システムの一構成例を示すブロック図である。
無線通信システム1は、3個の無線局10-1~10-3を含んで構成される。図1に示す例では、無線通信システムのネットワークトポロジは、スター型である。無線局10-1~10-3のうち、無線局10-1が親局、無線局10-2、10-3が子局である。なお、無線局間で共通の事項を説明する場合、無線局を特定しない場合には、無線局10と総称し、10-1の符号の末尾である-1を省略する。
【0021】
無線局10-1~10-3は、それぞれ60GHz帯送受信機12-1~12-3と、960MHz帯送受信機14-1~14-3と、可変ビームアンテナ16-1~16-3と、無指向性アンテナ19-1~19-3と、を含んで構成される。60GHz帯送受信機12は、可変ビームアンテナ16を用いて60GHz帯の電波を送信ならびに受信する。60GHz帯の電波は、波長が1~10mm(周波数30~300GHz)であるミリ波に属する。ミリ波は、直進性が強いうえ、空気中で伝搬する際、吸収や散乱の影響を強く受ける。そのため、ミリ波を十分な電界強度で受信するために、可変ビームアンテナ16-1~16-3は、ある1つの方向に他の方向よりも強い指向性を有するビームを放射する。ビームの放射指向性において放射強度が最も高い方向をビーム方向と呼ぶ。一般に、ビームの放射指向性は、受信指向性に相当する。即ち、ビーム方向から到来する電波の受信感度が他の方向からの受信感度よりも高くなる。960MHz帯送受信機14は、無指向性アンテナ19を用いて960MHz帯の電波を送信ならびに受信する。960MHz帯は、波長が10~1m(周波数300MHz~3GHz)であるUHF(Ultra High Frequency)に属する帯域である。UHF帯域の電波は、ミリ波よりも周波数が低いので、直進性が強くない。必ずしも指向性を有するビームを放射する必要はない。図1に示す例では、UHF帯域の電波を送受信するため無指向性アンテナ19-1~19-3が用いられている。
【0022】
ある無線局10-1から送信されるビームは、地面、建造物、構造物、その他の物体の表面において反射して他の無線局10-2で受信されることがある。そのため、無線局10-1が送信するビームのビーム方向が、無線局10-1から無線局10-2の方向に一致するとき、無線局10-2における受信強度が最も高くなるとは限らない。また、無線局10-1、10-2間のビームの伝搬経路は、無線局10-1、10-2間の物体の有無や、その配置に依存する。そこで、無線局10-1、10-2は、相互に良好な受信状態を得るために所定時間毎にビーム方向を制御する。図1に示す例では、各無線局は、可変ビームアンテナ16のビーム方向を、4方向(方向1~方向4)のいずれかに定める。
【0023】
(無線局の構成)
次に、本実施形態に係る無線局10の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る無線局10の一構成例を示すブロック図である。
無線局10は、第1送受信部112と、第2送受信部114と、第1アンテナ16と、第2アンテナ19と、制御部120と、を含んで構成される。
【0024】
第1送受信部112は、第1アンテナ16に他の無線局10との間で信号を第1周波数帯の電波で伝送させる。第1送受信部112は、上述した60GHz帯送受信機12に相当する。第1送受信部112は、制御部120から入力される送信信号の帯域を基底帯域(ベースバンド)からアップコンバートして得られる第1周波数帯の送信信号を第1アンテナ16に供給する。また、第1送受信部112は、第1アンテナ16から入力される第1周波数帯の受信信号をダウンコンバートして得られる基底帯域の受信信号を制御部120に出力する。第1周波数帯は、ミリ波帯(例えば、60Hz帯)である。
【0025】
また、第1送受信部112は、通信制御部122から入力される方向制御信号が示すビーム方向に、第1アンテナ16が放射するビーム方向を制御する。第1送受信部112は、ビーム方向を制御するための部材として、例えば、移相器を備える。移相器は、第1アンテナ16を構成するアンテナ素子毎の受信信号もしくは送信信号の位相を可変にする。アンテナ素子間の位相差は、所定のアンテナ素子の間隔と波長のもとでビーム方向に対応する。第1送受信部112は、アンテナ素子間でビーム方向に対応した位相差が与えられた受信信号をアンテナ素子間で合成し、合成して得られる合成受信信号をダウンコンバート対象の受信信号とする。移相器は、アップコンバートして得られる送信信号に対してアンテナ素子間でビーム方向に位相差を与え、位相差が与えられた送信信号を各アンテナ素子に供給する。ここで、第1送受信部112は、予めビーム方向とアンテナ素子毎の位相とを対応付けてなるデータテーブルを設定しておいてもよい。第1送受信部112は、設定されたデータテーブルを参照し、方向制御信号が示すビーム方向に対応するアンテナ素子毎の位相を特定する。
【0026】
第2送受信部114は、第2アンテナ19に他の無線局10との間で信号を第2周波数帯の電波で伝送させる。第2送受信部114は、上述した960MHz帯送受信機14に相当する。第2送受信部114は、制御部120から入力される送信信号の帯域を基底帯域からアップコンバートして得られる第2周波数帯の送信信号を第2アンテナ19に供給する。また、第2送受信部114は、第2アンテナ19から入力される第2周波数帯の受信信号をダウンコンバートして得られる基底帯域の受信信号を制御部120に出力する。第2周波数帯は、第1周波数帯よりも十分に低い周波数帯域(例えば、960MHz帯)であればよい。また、第2周波数帯の帯域幅(伝送速度)は、第1周波数帯の帯域幅(伝送速度)よりも狭く(遅く)てもよい。第1周波数帯は、主に主信号の伝送に用いられるのに対し、第2周波数帯は、主に制御信号の伝送に用いられる。
【0027】
第1アンテナ16は、第1周波数帯の電波をビームとして送信又は受信する。第1アンテナ16は、ビーム方向を可変とする可変ビームアンテナである。第1アンテナ16は、上述した可変ビームアンテナ16-1~16-3に相当する。第1アンテナ16は、ビーム方向を制御するための構成として、例えば、複数のアンテナ素子を備える。複数のアンテナ素子は、一定方向に所定の間隔で規則的に配列される。各アンテナ素子から、指示されるビーム方向へ放射される電波の波面の位相を揃えることで、利得が高く、幅が狭いビームが形成される。アンテナ素子の配列は、例えば、2次元配列である。2次元配列によれば、アンテナ素子の配列面に対する法線方向を中心軸とする半球面内の各方向にビーム方向を制御することができる。第1アンテナ16は、例えば、マイクロストリップアンテナである。上記の説明では、第1アンテナ16と移相器がフェーズドアレイを形成して、ビーム方向を可変にしている場合を例にしたが、これには限られない。第1アンテナ16は、例えば、ビーム方向が固定されている導波素子と、その導波素子を支持し、その向きを機械的に回転可能とする支持部とを備えて構成されてもよい。
【0028】
第2アンテナ19は、第2周波数帯の電波を送信又は受信する。第2アンテナ19は、その指向性の幅が所定の幅よりも広い広角アンテナである。第2アンテナ19の指向性の幅は、第1アンテナ16のビーム方向の可変範囲以上であればよい。例えば、第1アンテナ16のビーム方向の可変範囲が半球面内の各方向である場合には、第2アンテナ19のビーム幅は、180°以上であればよい。ビーム幅は、方向間の放射強度が最大となる最大放射強度(ピーク強度)よりも3dB低い放射強度以上の放射強度が得られる放射方向の範囲である。従って、第2アンテナ19は、無指向性アンテナであってもよい。第2アンテナ19は、図1に示す無指向性アンテナ19-1~19-3に相当する。また、第2アンテナ19の指向性は、固定されていてもよい。
【0029】
制御部120は、通信制御部122を備える。制御部120は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの制御デバイスを含んで構成される。制御デバイスは、所定の制御プログラムに記述された命令が指示する処理を実行することで、その機能を実現してもよい。また、制御部120は、専用の部材で構成されてもよい。
【0030】
通信制御部122は、他の無線局10との通信を制御する。以下、図3を参照しながら通信制御部122が行う処理について説明する。図3は、親局である無線局10-1と子局である無線局10-2との間で行われる制御を例にする。以下の説明では、子局とは接続要求を行う無線局、親局とは接続要求を受け付ける無線局を意味し、必ずしもネットワークトポロジ上の無線局の役割と一致していなくてもよい。無線局10-1、10-2の各構成部を特定する場合には、それぞれ子番号-1、-2を用いる。無線局10に共通の事項、その他、無線局10を特定しない場合には、子番号を用いないものとする。無線局10-2の通信制御部122-2は、第2送受信部114-2を介して予め所定の通信方式を用いて、無線局10-1との間で接続を確立する。第2送受信部114-2を介した通信において、例えば、IEEE802.15.4e、IEEE802.15.4gなどの通信方式が利用可能である。無線局10-1、10-2間で各種の信号を送受信する期間には、図3(a)に示すようにビーム方向決定区間と主信号通信区間とがある。ビーム方向決定区間は、無線局10-1、10-2間で相互に第1アンテナ16-1、16-2のビーム方向を決定する期間である。主信号通信区間は、無線局10-1、10-2間で主信号を送信又は受信する期間である。ビーム方向決定区間と主信号通信区間は、所定の周期で順次に繰り返されてもよい。その周期毎に通信を行う無線局10の対(ペア)が異なっていてもよいし、一定であってもよい。
また、通信開始に伴う接続要求がなされる毎にビーム方向決定区間が開始されてもよい。
【0031】
通信制御部122は、ビーム方向決定区間において、ビーム方向を決定するための制御信号を他の無線局との間で相互に第2送受信部114を介して送受信する。送受信される制御信号には、接続要求信号、受信走査開始信号、終了信号などがある。接続要求信号は、子局から親局に対する接続要求を示す信号である。受信走査開始信号は、親局から子局に対してビーム方向の走査の開始を指示する信号である。終了信号とは、子局が、自局におけるビーム方向の走査の終了を親局に通知する信号である。終了信号には、自局において受信状態が最も良好な自局のビーム方向と、その受信状態を示す指標値の情報が付加される。指標値として、受信電力、搬送波レベル対干渉雑音比、信号対干渉雑音比、ビット誤り率、などが利用可能である。受信電力、信号対干渉雑音比は、それぞれ値が大きいほど受信状態が良好であることを示す指標値である。ビット誤り率は、その値が小さいほど受信状態が良好であることを示す指標値である。
【0032】
親局である無線局10-1の通信制御部122-1は、図3(b)に示すように子局である無線局10-2から終了信号を受信するまで、1通りのビーム方向で方向探索信号を第1アンテナ16-1から放射する。このため、通信制御部122-1は、方向探索信号を送信信号として、そのビーム方向を示す情報を方向制御信号として、それぞれ第1送受信部112-1に出力する。方向探索信号は、指標値の測定に用いられる参照信号である。方向探索信号として、予め送信強度、周波数成分、ビット系列などの特性が既知である参照信号が利用可能である。
【0033】
他方、子局である無線局10-2の通信制御部122-2は、図3(b)に示すように、無線局10-1から1通りのビーム方向で方向探索信号が送信されている間、第1アンテナ16-2にビーム方向の走査を指示するために、異なるビーム方向を示す方向制御信号を順次第1送受信部112-2に出力する。このビーム方向の走査を、受信走査開始信号を受信する毎に繰り返す。また、通信制御部122-2は、第1送受信部112-2から入力される受信信号を用いて、その受信状態を示す指標値を自局の第1アンテナ16-2のビーム方向毎に測定する。その後、通信制御部122-2は、無線局10-1のビーム方向と無線局10-2のビーム方向との組合せ毎に測定された指標値を比較し、最も良好な指標値に係る無線局10-1のビーム方向と無線局10-2ビーム方向の組み合わせを定める。無線局10-2の通信制御部122-2は、定めた組み合わせに係る自局のビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-2に出力する。従って、無線局10-2の第1アンテナ16-2は、方向制御信号で指示されたビーム方向で第1周波数帯の電波を送受信することができる。他方、無線局10-1の通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して無線局10-2から受信した終了信号に付加された受信状態を示す指標値を無線局10-1のビーム方向間で比較し、最も良好な指標値に係る無線局10-1のビーム方向を定める。従って、無線局10-1においても無線局10-2のビーム方向と無線局10-1のビーム方向との組合せ毎に測定された指標値のうち最も良好な指標値が特定される。無線局10-1の通信制御部122-1は、定めたビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-1に出力する。従って、無線局10-1の第1アンテナ16-1は、方向制御信号が示すビーム方向で第1周波数帯の電波を送受信することができる。ビーム方向決定手順の例については、後述する。
【0034】
図2に戻り、通信制御部122は、主信号通信区間において、第1送受信部112を介して相手局と主信号を送受信する。主信号とは、自局又は相手局のユーザが伝達しようとする情報もしくはその情報を搬送する信号である。主信号は、例えば、音声信号、映像信号、テキストなど各種のデータが該当する。主信号は、ユーザデータとも呼ばれる。通信制御部122は、自局で取得した主信号を送信信号として第1送受信部112を介して相手局に送信する。通信制御部122は、相手局から第1送受信部112を介して主信号を受信信号として受信する。
【0035】
(ビーム方向決定手順)
次に、本実施形態に係るビーム方向決定手順の一例について説明する。
図3(b)は、本実施形態に係るビーム方向決定手順の一例を示す。図3(b)は、次の点を前提として、無線通信システム1において子局である無線局10-2から親局である無線局10-1に対して第1周波数帯として60GHz帯を用いた通信を要求する場合を例にする。
・無線局10-1の第2送受信部114-1と無線局10-2の第2送受信部114-2は、相互に第2周波数帯として920MHz帯を用いて、予め接続が確立している。
・無線局10-1の第1送受信部112-1、無線局10-2の第1送受信部112-2が、第1アンテナ16-1、第1アンテナ16-2のビーム方向を、それぞれ4通りのビーム方向1~4のいずれかに設定可能とする。
・無線局10-1の通信制御部122-1、無線局10-2の通信制御部122-2には、それぞれ無線局10-1の第1アンテナ16-1、無線局10-2の第1アンテナ16-2が設定可能とするビーム方向数と、ビーム方向の探索におけるビーム方向の順序がビーム方向の番号の昇順に予め設定されている。
・1個のビーム方向決定区間内において、接続要求から無線局10-1でのビーム方向と、無線局10-2でのビーム方向の決定までの一連の手順を実行する。
【0036】
まず、無線局10-2の通信制御部122-2は、第2送受信部114-2を介して接続要求信号を無線局10-1に送信する。
無線局10-1の通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して無線局10-2から接続要求信号を受信する。この接続要求信号をトリガとしてビーム方向決定区間が開始される。このとき、通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して受信走査開始信号を送信し、第1送受信部112-1を介して第1アンテナ16-1にビーム方向1で方向探索信号を送信させる。また、通信制御部122-1が、第1送受信部112-1を介して主信号を送信している場合には、その送信を停止する。通信制御部122-1は、第1送受信部112-1にビーム方向1を示す方向制御信号を出力し、送信信号として方向探索信号を送信させる。よって、通信制御部122-1は、ビーム方向1について無線局10-2に対してビーム方向探索処理を実行させることができる。
【0037】
無線局10-2の通信制御部122-2は、第2送受信部114-2を介して受信走査開始信号を受信し、第1送受信部112-2を介して無線局10-1からの方向探索信号を受信する。このとき、通信制御部122-2は、無線局10-2の第1アンテナ16-2についてビーム方向探索処理を行う。通信制御部122-2が、第1送受信部112-2を介して主信号を送信している場合には、その送信を停止する。
ビーム方向探索処理において、通信制御部122-2は、自局のビーム方向毎に、第1送受信部112-2を介して受信する方向探索信号について受信状態を示す指標値を測定する。そこで、通信制御部122-2は、ビーム方向1を示す方向制御信号を第1送受信部112-2に送信させ、その後、第1送受信部112-2を介して受信した方向探索信号について指標値を測定する。通信制御部122-2は、第1送受信部112-2に設定するビーム方向をビーム方向2、3、4に順次切り替え、各ビーム方向について入力される方向探索信号について指標値を測定する。その後、通信制御部122-2は、測定した指標値のうち、最も良好な受信状態を示す指標値を特定し、特定した指標値に対応するビーム方向を、無線局10-2のビーム方向として特定する。通信制御部122-2は、無線局10-1のビーム方向1について無線局10-2におけるビーム方向探索処理の終了を示す終了信号を、第2送受信部114-2を介して無線局10-1に送信する。この終了信号には、特定された指標値と特定した無線局10-2のビーム方向の情報が付加される。無線局10-1の通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して無線局10-2から終了信号を受信する。
【0038】
そして、無線局10-1の通信制御部122-1は、終了信号の受信毎に、第1送受信部112-1に設定するビーム方向をビーム方向2、3、4に順次切り替え、各ビーム方向について無線局10-2に対してビーム方向探索処理を実行させる。無線局10-2の通信制御部122-2は、実行を完了したビーム方向探索処理の回数を計数する。
無線局10-1の通信制御部122-1は、無線局10-1の各ビーム方向について無線局10-2から終了信号を受信し、その終了信号の受信回数を計数する。
【0039】
無線局10-2の通信制御部122-2は、実行を完了したビーム方向探索処理の回数が4回に達したとき、無線局10-1の各ビーム方向についてビーム方向探索処理が完了したと判定する。このとき、通信制御部122-2は、無線局10-1のビーム方向と無線局10-2のビーム方向の組み合わせ毎に測定した指標値のうち、最も良好な受信状態を示す指標値を与えるビーム方向の組み合わせを選択する。無線局10-2の通信制御部122-2は、選択した組み合わせから無線局10-2のビーム方向を特定し、特定したビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-2に出力する。よって、無線局10-2の第1アンテナの16-2のビーム方向が、その特定した方向に設定される。
【0040】
他方、無線局10-1の通信制御部122-1は、無線局10-2からの終了信号の受信回数が4回に達したとき、無線局10-1の各ビーム方向についてビーム方向探索処理が完了したと判定する。通信制御部122-1は、第1送受信部112-1への方向探索信号の出力を停止し、無線局10-1の各ビーム方向に係る終了信号に付加された指標値のうち、最も良好な受信状態を示す指標値に対応するビーム方向を特定する。通信制御部122-1は、特定した無線局10-1のビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-1に出力する。よって、無線局10-1の第1アンテナの16-1のビーム方向が、その特定した方向に設定される。
【0041】
その後、無線局10-1の通信制御部122-1は第1送受信部112-1を介して、無線局10-2の通信制御部122-2は第1送受信部112-2を介して、相互間で主信号の通信を開始する。従って、ビーム方向決定区間が終了し、主信号通信区間が開始される。
【0042】
(他の無線局による通信開始)
上述した、ビーム方向決定手順は、無線局10-1、10-2の対とは、他の対において実行されてもよい。例えば、無線局10-1と無線局10-2との主信号の通信中において、通信中の無線局10-1、10-2とは別個の無線局10-3が無線局10-1との通信を要求する場合にビーム方向決定手順が開始されてもよい。
このとき、図4(b)に示すように、無線局10-3の通信制御部122-3は、第2送受信部114-3を介して接続要求信号を無線局10-1に送信する。無線局10-1の通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して無線局10-3から接続要求信号を受信する。この接続要求信号の受信に応じて、無線局10-1の通信制御部122-1は、第1送受信部112-1を介した無線局10-2への主信号の送信、無線局10-2からの主信号の受信を停止させる。その後、無線局10-3との間で上述したビーム方向決定手順を実行する。ビーム方向決定手順により、無線局10-3の通信制御部122-3と無線局10-1の通信制御部122-1は、それぞれ最も良好な受信状態を示す指標値に係る組み合わせとして、無線局10-1のビーム方向と無線局10-3のビーム方向の組み合わせを定める。その後、無線局10-3の通信制御部122-3、無線局10-1の通信制御部122-1は、それぞれ第1送受信部112-3、112-1を介して、各無線局について定められたビーム方向で主信号の送受信を開始する。
【0043】
以上に説明したように、本実施形態に係る無線通信システム1は、複数の無線局10からなる。複数の無線局10のうち少なくとも2台の無線局10のそれぞれは、第1周波数帯で主信号を伝送する第1送受信部112と、第1周波数帯よりも周波数が低い第2周波数帯で制御信号を伝送する第2送受信部114と、を備える。また、少なくとも2台の無線局10のそれぞれは、第1周波数帯の電波を伝送し、ビーム方向が可変である第1アンテナ16と、第2周波数帯の電波を伝送し、第1アンテナ16のビーム方向の可変範囲以上の放射範囲を有する第2アンテナ19と、制御信号に基づいて第1アンテナのビーム方向を制御する通信制御部122とを備える。
【0044】
この構成によれば、第1アンテナ16のビーム方向の制御に要する情報が、ビーム方向と無線局10との位置関係によって伝送品質が大きく変化する第1周波数帯ではなく、ビーム方向に大きく依存せず一定の伝送品質が得られる第2周波数帯を介して伝送される。このため、第1周波数帯による伝送品質によらず自局のビーム方向と相手局のビーム方向の組み合わせを確実に定めることができる。例えば、相手局が自局のビーム方向から外れることで回線断あるいは信号強度が低下した場合でも、速やかにビーム方向を更新し通信を回復することができる。
【0045】
また、第2周波数帯を用いた制御により、第1周波数帯で伝送される方向探索信号を、ビーム方向探索に必要とされるタイミングで送受信できる。例えば、新たな無線局10が通信を開始させる場合など、ビーム方向の探索が必要となる場合に主信号の送信を中断して方向探索信号を送信させ、それ以外の場合に主信号の送信を継続できる。そのため、主信号の平均通信速度の低下を抑制することができる。
また、第2周波数帯は、第1周波数帯よりも周波数が低いため、第2周波数帯での単位距離当たりの伝搬損失が第1周波数帯よりも小さくなる。そのため、第2アンテナ19が利得の低い広角アンテナであっても、利得が高い第1アンテナ16を用いて伝送される主信号より低い送信電力で、主信号と同等以上の距離に到達させることができる。
また、第2周波数帯の伝送速度は、第1周波数帯の伝送速度よりも低く設定されるため、伝搬損失に対するマージンが大きくなる。そのため、第2アンテナ19が利得の低い広角アンテナであっても、利得が高い第1アンテナ16を用いて伝送される主信号よりさらに低い送信電力で、主信号と同等以上の距離に到達させることができる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。次の説明では、主に上記の実施形態との差異点を主とする。上記の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を援用する。
図5は、本実施形態に係る無線通信システムの一構成例を示すブロック図である。
無線通信システム1を構成する無線局10-1~10-3は、それぞれ各1個の可変ビームアンテナ16-1~16-3に代え、各1対の送信可変ビームアンテナ17-1~17-3と受信可変ビームアンテナ18-1~18-3を備える。送信可変ビームアンテナ17-1~17-3は、それぞれ送信信号を搬送する電波のビームを送信するための可変ビームアンテナである。受信可変ビームアンテナ18-1~18-3は、それぞれ受信信号を搬送する電波を受信するための可変ビームアンテナである。本実施形態では、親局である無線局10-1の受信可変ビームアンテナ18-1とその相手となる子局である無線局10-2の送信可変ビームアンテナ17-2との組み合わせと、無線局10-2の受信可変ビームアンテナ18-2と無線局10-1の送信可変ビームアンテナ17-1との組み合わせ、のそれぞれについてビーム方向探索処理が行われる。以下の説明では、無線局10-1の送信可変ビームアンテナ17-1と無線局10-2の受信可変ビームアンテナ18-2との組み合わせに係るビーム方向探索処理を受信走査と呼び、無線局10-2の送信可変ビームアンテナ17-2と無線局10-1の受信可変ビームアンテナ18-1に係るビーム方向探索処理を送信走査と呼ぶ。
【0047】
(無線局の構成)
次に、本実施形態に係る無線局10の構成について説明する。
図6は、本実施形態に係る無線局10の一構成例を示すブロック図である。
無線局10は、第1送受信部112と、第2送受信部114と、送信可変ビームアンテナ17と、受信可変ビームアンテナ18と、制御部120と、を含んで構成される。
【0048】
送信可変ビームアンテナ17は、第1周波数帯の電波をビームとして送信する可変ビームアンテナである。送信可変ビームアンテナ17は、上述した送信可変ビームアンテナ17-1~17-3に相当する。
受信可変ビームアンテナ18は、第1周波数帯の電波をビームとして受信する可変ビームアンテナである。受信可変ビームアンテナ18は、上述した受信可変ビームアンテナ18-1~18-3に相当する。
送信可変ビームアンテナ17、受信可変ビームアンテナ18は、それぞれ第1アンテナ16と同様の構成を備えていてもよい。
【0049】
第1送受信部112は、送信可変ビームアンテナ17に送信信号を第1の周波数の電波で他の無線局10に送信させる。また、第1送受信部112は、他の無線局10から受信可変ビームアンテナ18に到来する第1の周波数の電波で搬送される受信信号を取得する。
第1送受信部112は、送信可変ビームアンテナ17、受信可変ビームアンテナ18のそれぞれについて独立にビーム方向を設定することができる。以下の説明では、送信可変ビームアンテナ17、受信可変ビームアンテナ18のそれぞれに設定するビーム方向を、送信ビーム方向、受信ビーム方向と呼ぶ。第1送受信部112は、通信制御部122から入力される方向制御信号が示す送信ビーム方向に、送信可変ビームアンテナ17が電波を送信するためのビーム方向を制御する。また、第1送受信部112は、通信制御部122から入力される方向制御信号が示す受信ビーム方向に、受信可変ビームアンテナ18が電波を受信するためのビーム方向を制御する。
【0050】
次に、図7を参照しながら、通信制御部122が行う処理について説明する。図7は、親局である無線局10-1と子局である無線局10-2との間で行われる制御を例示する。無線局10-1の通信制御部122-1と無線局10-2の通信制御部122-2は、自局の受信可変ビームアンテナ18と相手局の送信可変ビームアンテナ17との組み合わせと、相手局の受信可変ビームアンテナ18と自局の送信可変ビームアンテナ17との組み合わせと、のそれぞれについてビーム方向探索処理を制御する。図7(b)に示すように、通信制御部122-1、122-2は、制御信号として接続要求信号、受信走査開始信号、終了信号の他、送信走査開始信号、送信走査更新信号、確認信号、送信走査終了信号を相手局との間で相互に第2送受信部114を介して送受信する。受信走査開始信号と終了信号は、受信走査に用いられる制御信号である。この受信走査の手順は、第1の実施形態で説明したビーム方向探索処理の手順を、子局である無線局10-2における受信ビーム方向と親局である無線局10-1における送信ビーム方向の組み合わせの探索に適用したものに相当する。従って、受信走査の手順については、第1の実施形態の説明を援用する。
【0051】
他方、送信走査開始信号、送信走査更新信号、確認信号、送信走査終了信号は、送信走査に用いられる制御信号である。送信走査開始信号は、親局から子局への送信走査の開始を示す信号である。確認信号は、子局における親局からの送信走査開始信号又は送信走査更新信号の受信の確認、および親局における受信ビーム方向の走査開始を子局から親局に示すための信号である。確認信号には、子局の送信ビーム方向を示す情報が付加されてもよい。送信走査更新信号は、親局から子局への送信ビーム方向の更新の指示を示す信号である。送信走査終了信号は、親局から子局に対して送信走査の終了を示す信号である。送信走査更新信号ならびに送信走査終了信号には、その直前に行われた受信ビーム方向の走査において受信状態が最も良好な親局の受信ビーム方向と、その受信状態を示す指標値の情報が付加される。
【0052】
送信走査においては、図7(b)に示すように子局である無線局10-2の通信制御部122-2は、親局である無線局10-1における各1回の受信ビーム方向の走査について、1通りの送信ビーム方向で方向探索信号を自局の送信可変ビームアンテナ17-2から放射する。このため、無線局10-2の通信制御部122-2は、方向探索信号を送信信号として、その送信ビーム方向を示す情報を方向制御信号として、第1送受信部112-2に送信する。
【0053】
親局である無線局10-1の通信制御部122-1は、無線局10-2から1通りのビーム方向で方向探索信号が送信されている間、自局の受信ビーム方向が一巡するよう、受信可変ビームアンテナ18-1の受信ビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-1に順次出力する。この受信ビーム方向の走査を、無線局10-2の送信ビーム方向毎に繰り返す。その後、通信制御部122-1は、無線局10-1の受信ビーム方向と無線局10-2の送信ビーム方向の組合せ毎に測定された指標値を比較し、最も受信状態が良好な指標値に係る無線局10-1の受信ビーム方向と無線局10-2の送信ビーム方向の組み合わせを定める。通信制御部122-1は、定めた組み合わせに係る無線局10-1の受信ビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-1に出力する。従って、無線局10-1の受信可変ビームアンテナ18-1は、方向制御信号で指示された受信ビーム方向で第1周波数帯の電波を受信することができる。
【0054】
他方、無線局10-2の通信制御部122-2は、第2送受信部114-2を介して無線局10-1から受信した送信走査更新信号ならびに送信走査終了信号に付加された受信状態を示す指標値を自局の送信ビーム方向間で比較し、最も良好な指標値に係る自局の送信ビーム方向を定める。従って、送信ビーム方向に関しても相手局の受信ビーム方向と自局の送信ビーム方向との組合せ毎に測定された指標値のうち最も受信状態が良好な指標値が特定される。無線局10-2の通信制御部122-2は、定めた送信ビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-2に出力する。従って、無線局10-2の送信可変ビームアンテナ17-2は、方向制御信号で指示される送信ビーム方向で第1周波数帯の電波を送信することができる。
【0055】
(ビーム方向決定手順)
次に、本実施形態に係るビーム方向決定手順の一例について説明する。
図7(b)は、本実施形態に係るビーム方向決定手順の一例を示す。図7(b)は、無線通信システム1において子局である無線局10-2から親局である無線局10-1に対して第1周波数帯として60GHz帯を用いた通信を要求する場合を例にする。
【0056】
まず、無線局10-2の通信制御部122-2は、第2送受信部114-2を介して接続要求信号を無線局10-1に送信する。
無線局10-1の通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して無線局10-2から接続要求信号を受信する。この接続要求信号をトリガとしてビーム方向決定区間が開始され、無線局10-1、10-2は受信走査を行う。ここで、通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して受信走査開始信号を送信し、第1送受信部112-1を介して送信可変ビームアンテナ17-1に送信ビーム方向1で方向探索信号を送信させる。
【0057】
無線局10-2の通信制御部122-2は、第1送受信部112-2を介して方向探索信号を受信し、自局の受信可変ビームアンテナ18-2についてビーム方向探索処理を行う。通信制御部122-2は、第1送受信部112-2に設定する受信ビーム方向を受信ビーム方向1、2、3、4と順次切り替え、各受信ビーム方向について受信される方向探索信号について指標値を測定する。その後、通信制御部122-2は、測定した指標値のうち、最も良好な受信状態を示す指標値に対応する無線局10-2の受信ビーム方向を特定する。通信制御部122-2は、送信ビーム方向1について無線局10-2における受信ビーム方向のビーム方向探索処理の終了を示す終了信号を、無線局10-1に第2送受信部114-2を介して送信する。この終了信号には、特定された指標値と無線局10-2の受信ビーム方向の情報が付加される。無線局10-1の通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して無線局10-2から終了信号を受信する。
【0058】
そして、無線局10-1の通信制御部122-1は、終了信号の受信毎に、第1送受信部112-1に設定する送信ビーム方向として送信ビーム方向2、3、4と順次切り替え、各送信ビーム方向について無線局10-2に対して受信ビーム方向のビーム方向探索処理を実行させる。無線局10-1の通信制御部122-1は、無線局10-1の各送信ビーム方向について無線局10-2から終了信号を受信する。
【0059】
無線局10-2の通信制御部122-2は、無線局10-1の各送信ビーム方向について受信ビームのビーム方向探索処理が完了したと判定するとき、無線局10-1の送信ビーム方向と無線局10-2の受信ビーム方向の組み合わせ毎に測定した指標値のうち、最も良好な指標値を与える無線局10-1の送信ビーム方向と無線局10-2の受信ビーム方向の組み合わせを選択する。そして、通信制御部122-2は、選択した組み合わせに係る無線局10-2の受信方向を特定する。
他方、無線局10-1の通信制御部122-1は、無線局10-1の各送信ビーム方向についてビーム方向探索処理が完了したと判定するとき、第1送受信部112-1への方向探索信号の送信を停止し、無線局10-1の各送信ビーム方向に係る終了信号に付加された指標値のうち、最も良好な受信状態を示す指標値を特定し、その特定した指標値に対応する無線局10-1の送信ビーム方向を特定する。これにより、受信走査が終了する。
【0060】
その後、無線局10-1の通信制御部122-1は、送信走査開始信号を、第2送受信部114-1を介して無線局10-2に送信する。この送信走査開始信号をトリガとして、無線局10-1、10-2は送信走査を開始する。
無線局10-2の通信制御部122-2は、第2送受信部114-2を介して無線局10-1から送信走査開始信号を受信する。このとき、通信制御部122-2は、第2送受信部114-2を介して無線局10-2における受信ビーム方向の走査開始の確認を示す確認信号を送信し、第1送受信部112-2を介して送信可変ビームアンテナ17-2に送信ビーム方向1で方向探索信号を送信する。よって、通信制御部122-2は、無線局10-2の送信ビーム方向1について、無線局10-1に対して受信ビーム方向のビーム方向探索処理を実行させることができる。
【0061】
無線局10-1の通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して無線局10-2から確認信号を受信する。この確認信号をトリガとして、通信制御部122-1は、無線局10-1の受信ビーム方向についてビーム方向探索処理を行う。通信制御部122-1は、第1送受信部112-2に設定する受信ビーム方向として受信ビーム方向1、2、3、4と順次切り替え、各受信ビーム方向について受信される方向探索信号について指標値を測定する。その後、通信制御部122-1は、測定した指標値のうち、最も良好な受信状態を示す指標値に対応する無線局10-1の受信ビーム方向を特定する。通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して無線局10-2に、送信走査更新信号を送信する。この送信走査更新信号には、特定された指標値と無線局10-1の受信ビーム方向の情報が付加される。無線局10-2の通信制御部122-2は、第2送受信部114-2を介して無線局10-1から送信走査更新信号を受信する。
【0062】
他方、無線局10-2の通信制御部122-2は、送信走査更新信号の受信毎に、第1送受信部112-2に設定する送信ビーム方向を、送信ビーム方向2、3、4と順次切り替え、各送信ビーム方向について、無線局10-1に対して受信ビーム方向のビーム方向探索処理を実行させる。無線局10-1の通信制御部122-1は、実行を完了したビーム方向探索処理の回数を計数する。無線局10-1の通信制御部122-1は、実行を完了した受信ビーム方向のビーム方向探索処理の回数が4回に達したとき、無線局10-2の各送信ビーム方向について無線局10-1の受信ビーム方向のビーム方向探索処理、つまり送信走査が完了したと判定する。このとき、通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して無線局10-2に、送信走査更新信号に代えて送信走査終了信号を送信する。この送信走査終了信号に特定された指標値と、直前に実行されたビーム方向探索処理で特定された無線局10-1の受信ビーム方向の情報が付加される。
【0063】
無線局10-1の通信制御部122-1は、無線局10-2の送信ビーム方向と無線局10-1の受信ビーム方向の組み合わせ毎に測定した指標値のうち、最も良好な受信状態を示す指標値を与える無線局10-2の送信ビーム方向と無線局10-1の受信ビーム方向の組み合わせを選択する。通信制御部122-1は、選択した組み合わせから無線局10-1の受信ビーム方向を特定する。通信制御部122-1は、受信走査において特定された無線局10-1の送信ビーム方向を示す方向制御信号と、送信走査において特定された無線局10-1の受信ビーム方向を示す方向制御信号とを第1送受信部112-1に出力する。よって、その送信ビーム方向、受信ビーム方向が、それぞれ無線局10-1の送信可変ビームアンテナ17-1のビーム方向、受信可変ビームアンテナ18-1のビーム方向として設定される。
【0064】
他方、無線局10-2の通信制御部122-2は、第2送受信部114-2を介して無線局10-1から送信走査終了信号を受信するとき、無線局10-2の各送信ビーム方向について無線局10-1の受信ビーム方向のビーム方向探索処理、つまり送信走査が完了したと判定する。通信制御部122-2は、第1送受信部112-2への方向探索信号の出力を停止し、無線局10-2の各送信ビーム方向に係る送信走査更新信号又は送信走査終了信号に付加された指標値のうち、最も良好な受信状態を示す指標値に対応する無線局10-2の送信ビーム方向を特定する。通信制御部122-2は、受信走査において特定された無線局10-2の受信ビーム方向を示す方向制御信号と、送信走査において特定された無線局10-2の送信ビーム方向を示す方向制御信号とを第1送受信部112-2に出力する。よって、その受信ビーム方向、送信ビーム方向が、それぞれ無線局10-2の受信可変ビームアンテナ18-2のビーム方向、送信可変ビームアンテナ17-2のビーム方向として設定される。
【0065】
その後、無線局10-1の通信制御部122-1は第1送受信部112-1を介して、無線局10-2の通信制御部122-2は第1送受信部112-2を介して、相互間で主信号の通信を開始する。
なお、本実施形態においても、2台の無線局における主信号の通信中において、他の組み合わせの2台の無線局が図7を用いて説明したビーム方向決定手順を実行し、その後、その組み合わせの2台の無線局が主信号の通信を開始してもよい(図4参照)。
【0066】
以上に説明したように、本実施形態に係る無線通信システム1において、少なくとも2台の無線局10のそれぞれは、第1周波数帯の電波を送信する送信可変ビームアンテナ17と、第一の周波数帯の電波を受信する受信可変ビームアンテナ18を備える。通信制御部122は、他局の送信可変ビームアンテナ17のビーム方向と自局の受信可変ビームアンテナ18のビーム方向との組み合わせ毎の伝送状態のうち、最も良好な伝送状態に係るビーム方向の組み合わせを定める。
そのため、自局から他局、他局から自局のそれぞれの伝送経路について独立に最も良好な伝送状態に係るビーム方向の組みあわせが定められ、定められたビーム方向の組み合わせを用いて第1周波数帯で自局と他局の相互間で主信号が伝送される。また、一般に波長が短い第1周波数帯の電波の伝搬状態は、アンテナの設置位置の変化に対して敏感に変化する。従って、自局から他局、他局から自局のそれぞれの信号の伝送について共通の伝送経路が用いられる場合よりも伝送状態が良好になる。
【0067】
(変形例)
以上、図面を参照してこの発明の実施形態について説明してきたが、具体的な構成や制御手順は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0068】
図3、4、7に示す例では、接続要求信号をトリガとして各1個のビーム方向決定区間内において、方向探索信号を送信する無線局のビーム方向を順次変更して、各ビーム方向についてビーム方向探索処理を行い、一方の無線局のビーム方向と他方のビーム方向の全ての組み合わせのそれぞれについて受信状態を示す指標値を測定するが、これには限られない。ビーム方向探索処理は、主信号の通信中において、方向探索信号を送信する無線局のビーム方向毎に間欠的に実行されてもよい。
【0069】
つまり、図3、7に示す例において、無線局10-1の通信制御部122-1が受信走査開始信号を送信するタイミングは、必ずしも無線局10-2からの接続要求信号又は終了信号の受信直後でなくてもよい。接続要求信号又は終了信号の受信から次の受信走査開始信号の送信までの間に、所定の時間長を有する主信号通信区間が設定されてもよい。但し、通信制御部122-1は、受信走査開始信号を送信する際、その受信走査開始信号に方向探索信号の送信に係る自局のビーム方向を示す情報を付加し、主信号の送信を停止する。自局のビーム方向は、ビーム方向探索処理を未実行のビーム方向であれば、各1回のビーム方向決定について選択されるビーム方向の順序は任意であってもよい。これにより、無線局10-2の通信制御部122-2には、無線局10-1から受信した受信走査開始信号に付加された情報により方向探索信号の送信に係るビーム方向が通知される。また、この通知されたビーム方向について、無線局10-2の通信制御部122-2は、ビーム方向探索処理の実行後、無線局10-1に終了信号を送信する。そのため、無線局10-1の通信制御部122-1と無線局10-2の通信制御部122-2との間で、ビーム方向探索処理の実行済の方向探索信号の送信に係るビーム方向の情報が共有される。
【0070】
また、図7に示す例において、無線局10-2の通信制御部122-2が確認信号を送信するタイミングは、無線局10-1からの送信走査開始信号又は送信走査更新信号の受信直後でなくてもよい。送信走査開始信号又は送信走査更新信号の受信から次の確認信号の送信までの間に、所定の時間長を有する主信号通信区間が設定されてもよい。但し、通信制御部122-2は、確認信号を送信する際、その確認信号に方向探索信号の送信に係る自局の送信ビーム方向を示す情報を付加し、主信号の送信を停止する。自局の送信ビーム方向として、ビーム方向探索処理を未実行の送信ビーム方向であれば、1回の送信走査に係るビーム方向決定において選択される送信ビーム方向の順序は任意であってもよい。これにより、無線局10-1の通信制御部122-1には、無線局10-2から受信した確認信号に付加された情報をもって方向探索信号の送信に係る送信ビーム方向が通知される。また、この通知された送信ビーム方向について、無線局10-1の通信制御部122-1は、ビーム方向探索処理の実行後、無線局10-2に送信走査更新信号又は送信走査終了信号を送信する。そのため、無線局10-1の通信制御部122-1と無線局10-2の通信制御部122-2との間で、ビーム方向探索処理の実行済の方向探索信号の送信に係る送信ビーム方向の情報が共有される。そのため、ビーム方向探索処理の実行に係るビーム方向の順序や個数が、必ずしも事前に無線局10-1、10-2間で設定されていなくてもよい。
【0071】
なお、無線局10-1の通信制御部122-1が受信走査開始信号を送信するタイミング、又は無線局10-2の通信制御部122-2が確認信号を送信するタイミングを、送受信に係る主信号の通信速度が所定の通信速度よりも低いときに定めてもよい。所定の通信速度は、第1周波数帯の帯域幅のうち主信号の送受信に割り当てられた帯域幅で可能とする通信速度よりも低ければよい。
【0072】
また、主信号が第1周波数帯で伝送され、第2周波数帯で主信号とは独立にビーム方向の制御に要する情報が伝送されるため、無線局10-1の通信制御部122-1は、通信中に自局あるいは相手局のビーム方向を修正することで、より良好な伝送状態が得られるビーム方向を探索してもよい。自局のビーム方向を修正する際、無線局10-1の通信制御部122-1は、その時点における第1アンテナ16-1のビーム方向から所定の微小な角度(例えば、0.5°~2°)ずつ変化させる。通信制御部122-1は、変化後のビーム方向毎に受信状態を示す指標値を相手局である無線局10-2から第2送受信部114-1を介して取得してもよい。そして、通信制御部122-1は、取得した指標値が最も良好な受信状態を示すビーム方向を特定し、特定したビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-1に出力することで、第1アンテナ16-1にその方向で信号を送信させる。
【0073】
自局のビーム方向毎の指標値を取得する際、無線局10-1と無線局10-2は、次の処理を行う。
無線局10-1の通信制御部122-1は、変化後の自局のビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-1に出力し、無線局10-1の第1アンテナ16-1にその方向で主信号を送信させる。通信制御部122-1は、そのビーム方向に係る受信状態要求信号を第2送受信部114-1を介して無線局10-2に送信する。
無線局10-2の通信制御部122-2は、無線局10-1から第2送受信部114-2を介して受信状態要求信号を受信し、受信した受信状態要求信号が示すビーム方向を特定する。通信制御部122-2は、第1送受信部112-2を介して受信する主信号について受信状態を示す指標値を測定し、測定した指標値を示す受信状態報告信号を第2送受信部114-2を介して無線局10-1に送信する。
無線局10-1の通信制御部122-1は、第2送受信部114-2を介して無線局10-2から受信した受信状態報告信号が示す指標値を、そのビーム方向に係る受信状態を示す指標値として特定する。
【0074】
相手局のビーム方向を修正する際、無線局10-1の通信制御部122-1は、第2送受信部114-1を介して相手局である無線局10-2の第1アンテナ16-2のビーム方向を微小な角度ずつ変化させ、変化後のビーム方向毎に受信状態を示す指標値を第1送受信部112-1から取得する。この場合、通信制御部122-1は、取得した指標値が最も良好な受信状態を示すビーム方向を特定し、特定したビーム方向を第2送受信部114-1を介して無線局10-2の通信制御部122-2に伝達する。通信制御部122-2は、特定したビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-2に出力することで、第1アンテナ16-2にその方向で信号を送信させる。
【0075】
相手局のビーム方向毎の指標値を取得する際、無線局10-1と無線局10-2は、次の処理を行う。
無線局10-1の通信制御部122-1は、相手局である無線局10-2の変化後のビーム方向の情報を第2送受信部114-1を介して無線局10-2に送信する。
無線局10-2の通信制御部122-2は、無線局10-1から第2送受信部114-2を介してそのビーム方向の情報を受信し、受信したビーム方向を示す方向制御信号を第1送受信部112-2に出力し、無線局10-2の第1アンテナ16-2にその方向で信号を送信させる。
無線局10-1の通信制御部122-1は、第1送受信部112-1を介して受信する主信号について受信状態を示す指標値を測定する。
【0076】
また、上述した実施形態では、第1周波数帯が単一の周波数帯で構成される場合を例にしたが、これには限られない。第1周波数帯は、複数の周波数帯で構成され、これら複数の周波数帯を用いて無線局間で各種の信号が送受信されてもよい。送受信対象の信号は、方向探索信号、主信号のいずれであってもよい。
第1の実施形態では、これらの複数の周波数帯が各無線局10について1個の第1アンテナ16で共用され、周波数分割複信(FDD:Frequency Division Duplex)方式が適用されてもよい。例えば、無線局10-1の通信制御部122-1は、第1送受信部112-1に対して無線局10-2への信号の送信に用いる周波数帯として70GHz帯を割り当てる。その場合、無線局10-2の通信制御部122-2は、第1送受信部112-2に対して無線局10-1からの信号の受信に用いる周波数帯として70GHz帯を割り当てる。これに対し、無線局10-2の通信制御部122-2は、第1送受信部112-2に対して無線局10-2への信号の送信に用いる周波数帯として80GHz帯を割り当てる。その場合、無線局10-1の通信制御部122-1は、第1送受信部112-1に対して無線局10-2からの信号の受信に用いる周波数帯として80GHz帯を割り当てる。
【0077】
第2の実施形態では、複数の周波数帯が各無線局10について、その送受信の区別に応じて送信可変ビームアンテナ17、受信可変ビームアンテナ18間で割り当てられればよい。例えば、無線局10-1の通信制御部122-1は、第1送受信部112-1に対して無線局10-2への信号の送信に用いる周波数帯として70GHz帯を割り当て、その信号を搬送する電波を送信可変ビームアンテナ17-1に送信させる。その場合、無線局10-2の通信制御部122-2は、第1送受信部112-2に対して無線局10-1からの信号の受信に用いる周波数帯として70GHz帯を割り当て、その信号を搬送する電波を受信可変ビームアンテナ18-2に受信させる。これに対し、無線局10-2の通信制御部122-2は、第1送受信部112-2に対して無線局10-1への信号の送信に用いる周波数帯として80GHz帯を割り当て、その信号を搬送する電波を送信可変ビームアンテナ17-2に送信させる。その場合、無線局10-1の通信制御部122-1は、第1送受信部112-1に対して無線局10-2からの信号の受信に用いる周波数帯として80GHz帯を割り当て、その信号を搬送する電波を受信可変ビームアンテナ18-1に受信させる。
【0078】
図3、7に示す例では、主に無線局10-2が無線局10-1に対して接続を要求するときに、図4に示す例では、無線局10-3が無線局10-1に対して接続を要求するときに、ビーム方向決定手順を開始する場合について説明した。ビーム方向決定手順を開始するタイミングは、これには限られない。そのタイミングは、通信中の主信号の伝送状態が、所定の伝送状態よりも劣るときであってもよい。所定の伝送状態よりも劣るときには、信号の送受信ができずに接続が中断された場合も含まれる。
より具体的には、無線局10-2の通信制御部122-2は、第1送受信部112-2を介して主信号を無線局10-1から受信するとき、受信した主信号について所定の周期毎にその受信状態を示す指標値を測定する。通信制御部122-2は、測定した指標値が示す受信状態が所定の閾値が示す受信状態よりも劣るとき、第2送受信部114-2を介して相手局である無線局10-1に接続要求信号を送信する。無線局10-1の通信制御部122-1は、無線局10-2から受信した接続要求信号をトリガとして無線局10-2との間でビーム方向の制御を開始することができる。
【0079】
その他、上述した無線局10を構成する各機能部の名称、制御信号の名称は、任意に定められてもよく、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、無線通信システム1を構成する無線局10の数は、3個に限られず2個又は4個以上であってもよい。それらの無線局10のうち、第1周波数帯と第2周波数帯を用いて通信可能とする無線局10は少なくとも2個以上あればよい。また、可変ビームアンテナ16、又は送信可変ビームアンテナ17ならびに受信可変ビームアンテナ18を備える無線局10は、少なくとも1個あればよい。それ以外の全ての無線局10が有するビームアンテナのビーム方向が固定されている場合には、その少なくとも1個の無線局10は、移動可能な移動局よりも、位置が固定されている固定局であることが望ましい。また、各無線局のビーム方向の個数は、4個に限られず、2個、3個又は5個以上であってもよい。また、各1回のビーム方向決定手順におけるビーム方向の順序は、必ずしもその符号の順序でなくてもよく、任意に設定されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…無線通信システム、10…無線局、12…60GHz帯送受信機、14…920MHz帯送受信機、16…第1アンテナ(可変ビームアンテナ)、17…送信可変ビームアンテナ、18…受信可変ビームアンテナ、19…第2アンテナ(無指向性アンテナ)、112…第1送受信部、114…第2送受信部、120…制御部、122…通信制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9