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特許7096549成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材
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  • 特許-成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材 図1
  • 特許-成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材 図2
  • 特許-成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材 図3
  • 特許-成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材 図4
  • 特許-成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220629BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220629BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08J5/04
B29C43/34
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018107044
(22)【出願日】2018-06-04
(65)【公開番号】P2019210366
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】玉田 靖
(72)【発明者】
【氏名】平井 伸治
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-231147(JP,A)
【文献】特開2017-110132(JP,A)
【文献】特開平07-247373(JP,A)
【文献】特開2002-167513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28;99/00
C08J5/00-5/02;5/12-5/22
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物繊維の粉末と、前記動物繊維の短繊維と、からなり、3点曲げ試験法で測定した最大応力が90~240MPaであり、破壊エネルギーが3.3MJ/m以上である成形体。
【請求項2】
前記短繊維は、前記成形体中に3.5質量%以上100質量%未満含有される、
ことを特徴とする請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記短繊維の繊度は、10~150デニールであり、前記短繊維の繊維長は、1~6mmである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
前記動物繊維は、シルクである、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項5】
(a)動物繊維の粉末と、前記動物繊維の短繊維と、を混合して混合物を得る工程と、
(b)前記混合物を加熱圧縮成形する工程と、
を含む成形体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)において、前記短繊維は、前記混合物中に3.5質量%以上100質量%未満混合される、
ことを特徴とする請求項5に記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記短繊維の繊度は、10~150デニールであり、前記短繊維の繊維長は、1~6mmである、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
前記動物繊維は、シルクである、
ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)において、前記混合物を温度150~200℃及び圧力1~100MPaで加熱圧縮成形する、
ことを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
動物繊維の粉末と、前記動物繊維の短繊維と、からなり、3点曲げ試験法で測定した最大応力が90~240MPaであり、破壊エネルギーが3.3MJ/m以上である、切削加工に供されることを特徴とする被切削加工材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材に関する。
【背景技術】
【0002】
櫛には通常、切削加工が可能な柘植材が用いられている。一方で、天然毛を用いたヘアブラシが好まれる場合があるように、天然の動物由来の繊維を用いた材料(櫛、美容用具等)については一定のニーズが存在する。
【0003】
天然の動物繊維を用いた材料の製造について、いくつか提案がなされてきた。
【0004】
特許文献1には、絹タンパク質を成形に供することを特徴とする、熱伝導性に優れ、且つ生分解性を有する熱伝導体の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、比較的軽い一方で、高い耐衝撃性を有する、熱可塑性ポリマーマトリックスを含むシルク繊維強化複合材料が記載されている。また、特許文献3には、絹タンパク質を成形に供することを特徴とする、誘電特性に優れ、且つ生分解性を有する誘電体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-277481号公報
【文献】特表2009-530469号公報
【文献】国際公開第2006/101223号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、3の方法で得られた成形体については、機械的特性の観点から切削加工ができないという問題点を有していた。また、特許文献2の方法では、シルク繊維の他に、非天然由来の熱可塑性ポリマーを用いるため、天然の動物繊維のみを用いた材料のニーズにはマッチするものではなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、動物繊維からなる切削加工可能な成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る成形体は、
動物繊維の粉末と、前記動物繊維の短繊維と、からなり、3点曲げ試験法で測定した最大応力が90~240MPaであり、破壊エネルギーが3.3MJ/m以上である。
【0009】
例えば、前記短繊維は、前記成形体中に3.5質量%以上100質量%未満含有される。
【0010】
例えば、前記短繊維の繊度は、10~150デニールであり、前記短繊維の繊維長は、1~6mmである。
【0011】
例えば、前記動物繊維は、シルクである。
【0012】
本発明の第2の観点に係る成形体の製造方法は、
(a)動物繊維の粉末と、前記動物繊維の短繊維と、を混合して混合物を得る工程と、
(b)前記混合物を加熱圧縮成形する工程と、
を含む。
【0013】
例えば、前記工程(a)において、前記短繊維は、前記混合物中に3.5質量%以上100質量%未満混合される。
【0014】
例えば、前記短繊維の繊度は、10~150デニールであり、前記短繊維の繊維長は、1~6mmである。
【0015】
例えば、前記動物繊維は、シルクである。
【0016】
例えば、前記工程(b)において、前記混合物を温度150~200℃及び圧力1~100MPaで加熱圧縮成形する。
【0017】
本発明の第3の観点に係る被切削加工材は、
動物繊維の粉末と、前記動物繊維の短繊維と、からなり、3点曲げ試験法で測定した最大応力が90~240MPaであり、破壊エネルギーが3.3MJ/m以上であり、切削加工に供されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、動物繊維からなる切削加工可能な成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は本実施例による成形体の製造工程を示す図であり、(b)は本実施例による成形体の外観を表す写真図である。
図2】(a)は本実施例による成形体の曲げ応力-歪曲線を示したグラフ図であり、(b)は本実施例による成形体の最大応力、弾性率及び破壊エネルギーを示した図であり、(c)は本実施例による成形体の生糸含有量と破壊エネルギーとの関係を示した図であり、(d)は本実施例による成形体の生糸含有量(0~20wt%)と破壊エネルギーとの関係を示した図である。
図3】(a)は本実施例による成形体の曲げ応力-歪曲線を示したグラフ図であり、(b)は本実施例による成形体の最大応力、弾性率及び破壊エネルギーを示した図である。
図4】本実施例による成形体のSEM写真の図である。
図5】本実施例による成形体の浸漬試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本実施形態による成形体について詳細に説明する。
【0021】
本実施形態による成形体は、動物繊維の粉末と、前記動物繊維と同種類の短繊維と、からなり、とりわけ3点曲げ試験法で測定した最大応力が90~240MPaであり、靱性の指標である破壊エネルギーが3.3MJ/m以上である。
【0022】
本明細書において「動物繊維」とは、非獣毛繊維、獣毛繊維、これらの再生繊維及びこれらの誘導体繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維を意味する。非獣毛繊維として、例えば、シルク、ホーネットシルク、スパイダーシルク、羽毛、これらの再生繊維及びこれらの誘導体繊維等を挙げることができ、獣毛繊維として、例えば、ウール、カシミヤ、モヘア、アルパカ、アンゴラ、ラクダ等を挙げることができる。再生繊維は、例えば、天然のシルクを溶媒に溶解して紡糸液とし、紡糸、延伸して繊維にしたものである。誘導体繊維は、例えば、天然のシルク由来のタンパク質をバイオ技術により産生し、これを溶媒に溶解して紡糸液とし、紡糸、延伸して繊維にしたものである。動物繊維は、好ましくはシルクである。
【0023】
動物繊維の粉末とは、上記動物繊維を粉砕して粉末状としたものであり、その粒径は、例えば、0.1~200μmである。動物繊維の粉砕には、例えば、ボールミル、ジェットミル等が用いられる。
【0024】
動物繊維の短繊維とは、上記動物繊維を所定の長さで切断したものである。なお、粉末と短繊維とで、同種の動物繊維が用いられる。例えば、動物繊維としてシルクを用いる場合、粉末としてシルク粉末、短繊維として生糸を所定の長さで切断したものを使用してもよい。所望の最大応力を有する成形体を得る観点から、例えば、動物繊維の短繊維の繊度は、10~150デニール(デニール:9000mあたり1gである繊維の太さ)であり、例えば、動物繊維の短繊維の繊維長は、1~6mmである。動物繊維の短繊維の繊度は、好ましくは20~115デニールであり、動物繊維の短繊維の繊維長は、好ましくは1~5.5mmである。
【0025】
動物繊維の短繊維は、例えば、成形体中に3.5質量%以上100質量%未満含有され、好ましくは、成形体中に3.5~70質量%含有される。
【0026】
本実施形態による成形体は、3点曲げ試験法で測定した最大応力が90~240MPaであり、3点曲げ試験法で測定した破壊エネルギーが3.3MJ/m以上であり、好ましくは、同測定した最大応力が90~235MPaであり、同測定した破壊エネルギーが3.3~20MJ/mであり、より好ましくは、同測定した最大応力が90~235MPaであり、同測定した破壊エネルギーが3.3~15.4MJ/mである。この範囲では、例えば柘植材以上の機械的特性を有することとなり、切削加工が可能となる。3点曲げ試験は、JIS K7177(ISO 178,ASTM D 790・FRP)に準拠した測定方法により行われ、曲げ試験機として例えばオートグラフAGS-X 1kN(株式会社島津製作所製)が用いられる。3点曲げ試験の測定条件は、支点間距離:14mm、試験速度:1mm/1min、試験片サイズ:長さ18~20mm、幅3.0~4.0mm、厚さ1~3mmである。
【0027】
次に、本実施形態による成形体の製造方法について詳細に説明する。
【0028】
本実施形態による成形体の製造方法は、
(a)動物繊維の粉末と、前記動物繊維の短繊維と、を混合して混合物を得る工程と、
(b)前記混合物を加熱圧縮成形する工程と、
を含む。
【0029】
工程(a)は、動物繊維の粉末と、同種の動物繊維の短繊維と、を混合して混合物を得る工程である。動物繊維、粉末、短繊維等については、上記同様である。混合物には、動物繊維の短繊維が、例えば、3.5質量%以上100質量%未満添加され、好ましくは、3.5~70質量%添加される。
【0030】
工程(b)は、工程(a)で得られた動物繊維の粉末と、同種の動物繊維の短繊維と、からなる混合物を、加熱圧縮成形する工程である。加熱圧縮成形は、例えば、温度150~200℃及び圧力1~100MPa、時間1~30分間の条件下で行われてもよく、好ましくは、温度150~180℃及び圧力10~100MPa、時間1~30分間の条件下で行われる。
【0031】
次に、本実施形態による被切削加工材について詳細に説明する。
【0032】
本実施形態による被切削加工材は、動物繊維の粉末と、前記動物繊維の短繊維と、からなり、3点曲げ試験法で測定した最大応力が90~240MPaであり、3点曲げ試験法で測定した破壊エネルギーが3.3MJ/m以上であり、好ましくは、同測定した最大応力が90~235MPaであり、同測定した破壊エネルギーが3.3~20MJ/mであり、より好ましくは、同測定した最大応力が90~235MPaであり、同測定した破壊エネルギーが3.3~15.4MJ/mである。動物繊維、粉末、短繊維、3点曲げ試験法、最大応力等については、上記同様である。
【0033】
本実施形態による被切削加工材は、切削加工に供されることを特徴とする。3点曲げ試験法で測定した最大応力が90~240MPaであり、破壊エネルギーが3.3MJ/m以上であるため、切削加工することが可能である。切削加工されて、例えば、櫛、美容用具等として使用することができる。
【0034】
以上説明したように、天然の動物繊維のみからなる切削加工可能な成形体、成形体の製造方法及び被切削加工材が提供される。本実施形態による成形体及び被切削加工材は、所定の靱性を有するため、切削加工が可能である。特に、櫛を作製する場合、例えばシルクは柘植に比較して靱性が小さく切削加工には難があったが、本発明によりシルク素材の櫛を作製することができる。また、本実施形態による成形体及び被切削加工材によれば、天然の動物繊維のみからなる櫛、美容用具等の材料に対するニーズを満たすことができる。さらに、動物繊維の短繊維は一般的に価格が高いが、本実施形態による成形体及び被切削加工材では、動物繊維の短繊維に、動物繊維の粉末を混合するため、低コストで成形体を製造することができる。
【実施例
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
シルク粉末と生糸とを混合して成形した成型体を用いて、各種試験を行った。
【0037】
シルク粉末(動物繊維の粉末)(シルクPIM試作品P80412、KBセーレン株式会社)と生糸(動物繊維(シルク)の短繊維)(宮坂製糸所株式会社)とを混合して、混合物を調製した。生糸として、21デニール(D)の繊維長1.5mm及び5mm並びに110Dの繊維長5mmの3種類を用いた。生糸の添加量は、混合物100質量%に対して0、3、5、30、50、70質量(wt)%とした。得られた混合物を図示しないホットプレス機(AH2003C 2-8157-02、AZ-ONE社)により加熱圧縮成形した。ホットプレス機で加熱圧縮成形するに際し、中央に直径20mmの円形の孔の空いたステンレス製のプレートを用意し、このプレートを第1樹脂基板の上に置き、この状態でプレートの孔の中に得られた混合物を充填して、第1樹脂基板と同形同大で同質の第2樹脂基板を被せた。第1及び第2樹脂基板で挟み込んだ混合物が充填されたプレートを、さらに第1及び第2樹脂基板と同形同大の2枚のステンレス板で挟み込んだ。このように用意された試料をホットプレスに入れ、加熱時間2~30分間、温度170℃、圧力90MPaで加熱圧縮した(図1(a))。このホットプレスにより直径20mm、厚さ2.5mm、質量1.0gの略円柱状の成形体を得た(図1(b))。
【0038】
次に、21Dで繊維長5mmの生糸を混合して得られた成型体を用いて、3点曲げ試験を行った。3点曲げ試験を、JIS K7177(ISO 178,ASTM D 790・FRP)に準拠した測定方法により行った。曲げ試験機として、オートグラフAGS-X 1kN(株式会社島津製作所製)を用いた。3点曲げ試験により、最大応力(MPa)、弾性率(GPa)及び破壊エネルギー(MJ/m)を測定した。
【0039】
結果を図2(a)、(b)に示す。3点曲げ強度は生糸の添加量とともに増加し、柘植材を凌駕する3点曲げ強度及び歪みを確認できた。特に、21Dの生糸を70wt%添加した成形体、すなわち21Dの生糸を70wt%含有する成形体では、最大応力が200MPaを超すという結果が得られた。また、生糸の含有量と破壊エネルギーとの関係を表したグラフを図2(c)に示し、特に生糸の低含有量(1~20wt%)でのグラフの拡大図を図2(d)に示す。図2(d)より、生糸の含有量3.5wt%から破壊エネルギーの急激な増加がみられ、生糸の含有量3.5wt%での破壊エネルギーは3.3MJ/mであった。
【0040】
21Dの繊維長1.5mm及び5mm並びに110Dの繊維長5mmの3種類の生糸を70wt%添加して上記同様得られた成型体を用いて、上記同様に3点曲げ試験を行った。
【0041】
結果を図3(a)、(b)に示す。いずれの生糸を添加した場合でも、柘植材を凌駕する3点曲げ強度及び破壊エネルギーを確認できた。このように、生糸のデニール数及び繊維長によらず高い3点曲げ強度及び破壊エネルギーが得られることが示された。
【0042】
得られた成型体の断面のSEM写真を図4に示す。シルク粉末のみの成型体では繊維の形状は確認されなかった一方で、生糸を添加した成形体では、繊維の形状が確認された。
【0043】
次に、浸漬試験を行った。110D、繊維長5mmの生糸を添加した成形体を水に168時間浸漬し、浸漬前後の厚さ、直径及び質量を測定した。
【0044】
結果を図5に示す。浸漬前後の厚さ、直径及び質量に大きな変化はなく、成形体の溶解及び膨潤は確認されなかった。
図1
図2
図3
図4
図5