(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】疼痛治療
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20220629BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20220629BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220629BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61P25/04
A61P35/00
C07K14/705 ZNA
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020183550
(22)【出願日】2020-11-02
(62)【分割の表示】P 2018502294の分割
【原出願日】2016-04-01
【審査請求日】2020-12-02
(32)【優先日】2015-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2015-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】510069984
【氏名又は名称】バイオセプター・(オーストラリア)・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・アレクサンダー・バーデン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/178783(WO,A1)
【文献】特表2013-502204(JP,A)
【文献】国際公開第2012/031333(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
C07K 16/00-16/46
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における疼痛の治療または管理における使用のための医薬であって、個体におけるP2X
7受容体に
特異的な免疫応答を誘発する能力がある
、P2X
7受容体のペプチドの形態である免疫原を含み、前記P2X
7受容体
及びそれに由来するペプチドが、通常の生理学的条件下でアポトーシス孔を形成することができないように、ATPに対する応答が損なわれている、医薬。
【請求項2】
前記個体は慢性疼痛を有する、請求項1に記載の使用のための医薬。
【請求項3】
前記慢性疼痛は限局性または全身性である、請求項2に記載の使用のための医薬。
【請求項4】
前記個体はがん疼痛を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項5】
前記がん疼痛は、侵害受容性疼痛および神経障害性疼痛からなる群から選択される、請求項4に記載の使用のための医薬。
【請求項6】
前記侵害受容性疼痛は、体性痛、内臓痛および表在性侵害受容性疼痛からなる群から選択される、請求項5に記載の使用のための医薬。
【請求項7】
前記体性痛は骨痛または筋骨格痛である、請求項6に記載の使用のための医薬。
【請求項8】
前記個体は、うずく痛み、鈍痛、拍動痛、灼熱痛、電撃痛、刺痛、鋭痛または痙攣痛からなる群から選択される疼痛の症状の軽減の前記レベルを測定するために評価される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項9】
前記個体における疼痛の前記治療または管理は、うずく痛み、鈍痛、拍動痛、灼熱痛、電撃痛、刺痛、鋭痛または痙攣痛からなる群から選択される疼痛の症状の前記軽減をもたらす、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項10】
前記がん疼痛は骨痛であり、かつ前記個体は、鈍痛、うずく痛みまたは拍動痛の形態での疼痛の症状の軽減について評価される、請求項4~9のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項11】
前記がん疼痛は、肉腫、骨肉腫または転移性疾患を有する前記個体から生じる、請求項10に記載の使用のための医薬。
【請求項12】
前記がん疼痛は体性痛であり、かつ前記個体における疼痛の前記治療または管理は、鈍痛、うずく痛みまたは拍動痛の形態での疼痛の症状の前記軽減をもたらす、請求項4~11のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項13】
前記がん疼痛は内臓痛であり、かつ前記個体は、圧力もしくは深部圧迫から生じる疼痛の形態での全身痛もしくは関連痛または鋭痛、痙攣痛、うずく痛みもしくは拍動痛症状の形態での疼痛の症状の軽減について評価される、請求項4~9のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項14】
前記がん疼痛は、臓器の原発性腫瘍を有する前記個体または転移性疾患から生じる、請求項13に記載の使用のための医薬。
【請求項15】
前記がん疼痛は内臓痛であり、かつ前記個体における疼痛の前記治療または管理は、圧力もしくは深部圧迫から生じる疼痛の形態での全身痛もしくは関連痛または鋭痛、痙攣痛、うずく痛みもしくは拍動痛症状の形態での疼痛の症状の前記軽減をもたらす、請求項4~9または13もしくは14のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項16】
前記がん疼痛は神経障害性疼痛であり、かつ前記個体は、灼熱痛、電撃痛または刺痛症状の形態での疼痛の症状の軽減について評価される、請求項4~9のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項17】
前記がん疼痛は、悪性または転移性疾患を有する個体から生じる、請求項16に記載の使用のための医薬。
【請求項18】
前記がん疼痛は神経障害性疼痛であり、かつ前記個体における疼痛の前記治療または管理は、灼熱痛、電撃痛または刺痛症状の形態での疼痛の症状の軽減をもたらす
、請求項4~9または17のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項19】
前記免疫原が、ATPに対する応答が損なわれているP2X
7受容体のペプチドもしくは断片を含み、前記ペプチドもしくは断片が、配列番号2~4から選択される配列を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項20】
前記免疫原が、前記個体で液性免疫応答を誘発
する、請求項1~19のいずれか一項に記載の使用のための医薬。
【請求項21】
液性応答が、通常の生理学的条件下でアポトーシス孔を形成することができないように、ATPに対する応答が損なわれているP2X
7
受容体に対して特異的である、請求項20に記載の使用のための医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性疼痛の治療、特にがん疼痛の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書中での任意の先行技術への参照は、この先行技術が任意の管轄権における共通の一般的知見の一部を形成することの承認または示唆ではない。
【0003】
慢性疼痛は、一般に想定される治癒期間より長く続く疼痛である。慢性疼痛の一部の定義は、30日より短く持続し得る急性疼痛および持続時間が1~6か月の亜急性疼痛と比べると、発端から3~6か月より長く持続している疼痛を指す。それに関連して随伴する状態が治療不能であるかまたは治癒しない場合、慢性疼痛は、その状態の持続時間にわたり存続する可能性がある。したがって、慢性疼痛は、がんおよび糖尿病の多数の形態において共通に認められる場合がある。
【0004】
慢性疼痛は、侵害受容器の持続的活性化から生じる「侵害受容性」疼痛の形態であり得る。一部の環境下で、疼痛は、疼痛シグナルを生成し、それに応答する非侵害受容性神経線維の生成に起因するか、またはそれにより促進される場合がある。「表在性侵害受容性疼痛」は、皮膚または表在性組織における侵害受容器により活性化されるが、「深部侵害受容性疼痛」は、臓器に由来する(すなわち、「内臓痛」)か、または靱帯、腱、骨、血管、筋膜および筋肉などの体性組織に由来する(「体性痛」)場合がある。体性痛がうずくような不十分に限局された疼痛を呈することがある一方、十分に限局される間の内臓痛は関連痛であることがあり、そのため、疼痛源を判定することが困難な場合がある。
【0005】
慢性疼痛はまた、神経系に対する損傷または神経系の変性に起因する「神経障害性」疼痛の形態で現れる場合がある。神経系損傷は、(例えば、がんにおける神経組織圧迫または侵入から生じる)様々ながん、糖尿病、感染、自己免疫疾患および末梢または中枢神経組織に対する外傷性または肉体的損傷で生じる場合がある。「末梢神経障害性疼痛」は、末梢神経系に由来し、また灼熱感、ピリピリ感、突き刺すような感覚またはしびれる感覚の形態で現れる場合がある。「中枢神経障害性疼痛」は、脳または脊髄から生じる。
【0006】
通常の非侵害刺激に対する痛覚過敏である「接触性アロディニア」は、慢性疼痛を患う個体において認められる場合がある。侵害刺激の痛覚の増強である「痛覚過敏」は、慢性疼痛の別の症状である場合がある。
【0007】
がん疼痛の形態での慢性疼痛は、機構的に侵害受容性疼痛または神経障害性疼痛として分類してもよい。侵害受容性疼痛は、最も一般的には、骨、内臓、胸膜、血管および他の軟部組織など、侵害刺激に対して高い感受性を有する構造への圧力、浸潤または腫瘍浸潤から生じる。胸膜、莢膜器官の膨満、胸水貯留および腹水の関与から骨を損傷させる転移性腫瘍からの疼痛は好発する。悪性または転移性腫瘍による神経浸潤または侵入、または良性腫瘍の成長からの神経圧迫は、神経障害性疼痛の特定要因であり得る。
【0008】
侵害受容におけるATPおよびプリン作動性シグナル伝達の関与が長期間にわたり認められている。1966年、ATPが、ヒト皮膚に適用されるとき、疼痛を開始し得ることが実証された。1990年代、細胞外ATPは機能的な神経伝達物質として認められた(Falk S.et al.2012 J.Osteo.Article ID758181)。今日、疼痛伝達におけるATPの役割は十分に確立されている(Tsuda M.et al.2010 Brain Res.Rev.63:222-232)。
【0009】
腫瘍部位は、余分な細胞ATPのレベル上昇に関連することが知られており、また腫瘍間質においてATPは数百マイクロモル範囲内に存在する一方、健常組織内では基本的に検出不能である。(Pellegatti P,Raffaghello L,Bianchi G,Piccardi F,Pistoia V,et al.(2008)Increased Level of Extracellular ATP at Tumor Sites:In Vivo Imaging with Plasma Membrane Luciferase.PLoS ONE3(7):e2599.doi:10.1371/journal.pone.0002599)。高濃度に限局されたこれらの腫瘍は、がん関連疼痛シグナルの起源であり得ると考えられる。
【0010】
感覚神経線維上のある範囲の侵害受容器は、ATP媒介性疼痛シグナルの伝達に関与すると考えられる。特に、P2Xリガンド依存性イオンチャネル受容体およびP2Y Gタンパク質共役受容体を含むプリン作動性受容体のATP媒介性アゴニズムは、現在、疼痛伝達に直接的に関与しているものとして確立されている。これらの受容体は、神経障害性疼痛の発生および侵害受容性疼痛伝達における主要な役割を有する(Falk et al.、上記)。
【0011】
ATPの一次感覚エフェクター(primary sensory effector)を媒介する場合でのP2X3サブユニットを含む受容体における重要な役割が提起されている。関連受容体は、主として、後根神経節および頭部感覚神経節の内部ならびにそれらの末梢神経末端上(皮膚、関節および内臓を含む組織内の受容野内)の小~中程度の直径CおよびAδの線維感覚神経に局在化される。P2X3サブユニットはまた、脊髄の後角内部および脳幹内のこれら一次感覚ニューロンの中心射影上に存在する(Ford A.,2012 Purinergic Signalling 8(Suppl 1):S3-S26;Chen,Y,et al 2012 Molecular Pain 8:9))。
【0012】
P2X7受容体はまた、一部の動物モデルにおけるATP媒介性疼痛シグナル伝達への部分的関与を有するものとして同定されているが、P2X7受容体が疼痛シグナルの伝達に関与する程度は、神経組織上のこれらの受容体の発現がP2X1受容体などの他のプリン作動性受容体の場合と比べて有意に低いと仮定すると不明である(Hughes J P et al.2007 Purinergic Signaling 3:163-169を参照)。これらの受容体は、細胞内N末端およびC末端ならびに膜貫通領域間の長い細胞外ループを有する2つの膜貫通ドメインからなる。細胞外ドメインは、ATPに対するATP結合部位、競合的拮抗剤および修飾金属イオンを含む(Falk S.et al.2012 J.Osteo.Article ID758181)。P2X7受容体だけでなく他のP2X受容体の一部の特徴は、大分子の浸透を可能にするポア形成を誘導する能力である。
【0013】
トランスジェニックノックアウトマウスと特定の受容体拮抗剤とを用いる試験によると、根底にある機構は理解されないものの、動物モデルにおける慢性疼痛を媒介する場合のP2X7受容体の役割が示されている。ATPのP2X7受容体への結合に対して形成されるP2X7ポアは、慢性疼痛に対する感受性を判定するために重要であると考えられる(Jian L.et al.2013 Frontiers in Pharmacology Vol.4,Article 55 p1-17)。より詳細には、障害されたポア機能を有する個体、およびポアを排除するためのペプチドで治療されてきた正常なポア機能を有する個体は、アロディニアが軽減していることが認められた(Sorge R.et al.2013 Nat.Med.18(4):595-599)。他の試験では、P2X7受容体拮抗剤A839977が、がん誘発性骨痛のモデルにおいて鎮痛性であることが見出された(Falk S et al.2015 Neuroscience S0306-4522)。さらに、広範に用いられる鎮痛剤のリドカインは、最近、P2X7受容体を横切るATP誘発性電流を阻害することが示されており(Okura D.et al.2015 Anesth.Analg.120:597-605)、さらにATP誘発性のP2X7受容体機能の拮抗作用が鎮痛を可能にすることを示唆している。
【0014】
P2X7受容体の1つの特定の変異体は、ATP結合の部分的欠損を有することが知られており、その1つの結果は、受容体が大分子の移入用のポアを形成するのに限られた能力を有することである。この受容体は、それ以外ではより小さい化合物の移入または放出を可能にし得る。この受容体は、受容体のATPに結合するための限られた能力を反映して、「非機能的」P2X7受容体のように様々に称されている。この受容体変異体は、ATP結合に対する限られた能力を有し、かつ疼痛シグナルを伝達する感覚神経線維上に見出されないことから、ATP媒介性疼痛シグナル伝達に関与しない。
【0015】
慢性およびがん疼痛は、非ステロイド性抗炎症剤、オピオイド、鎮痛薬および局所麻酔薬などの現在利用可能な治療薬に対して難治性であり得る。しかし、これらの治療薬の副作用は周知であり、個体を有害な機械的損傷または熱傷に対して部分的に非感受性にしておくような明らかな組織損傷から生じる急性疼痛の知覚の抑制を含む。例えば、慢性疼痛の状況下では、それは概ね病理学的対象になっている疼痛自体であり、一般的な全身性鎮痛をもたらすのではなく、正常な知覚から異常な知覚への変化から導かれる機構を標的化することに注目すべきである。
【0016】
新しい治療薬の開発への1つの手法は、ATP-プリン作動性受容体相互作用の拮抗作用を標的化することが意図されている。慢性疼痛および求心性感作のためのP2X3拮抗剤は極めて興味深い(Ford A.、上記)。P2X7ならびに他のP2XおよびP2Y受容体の拮抗作用について、同様の手法が提起されている。本手法の1つの潜在的な制限は、それがATP-受容体相互作用の拮抗作用のため、治療有効量の拮抗剤を維持することに依存する点である。より詳細には、その手法が、侵害受容ニューロンの活性化が生じる場合に局所ATPの量を最小化しないことから、慢性疼痛は、拮抗剤の量が治療レベル未満に減少するときに再発することになる。別の課題は、ATP媒介性疼痛シグナルがある範囲の無関係の侵害受容器により伝達され得ることから、疼痛を最小化するか、またはそうでなければ鎮痛を誘発するには広範囲の拮抗剤が必要であり得る点である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【文献】Falk S.et al.2012 J.Osteo.Article ID758181
【文献】Tsuda M.et al.2010 Brain Res.Rev.63:222-232
【文献】Pellegatti P,Raffaghello L,Bianchi G,Piccardi F,Pistoia V,et al.(2008)Increased Level of Extracellular ATP at Tumor Sites:In Vivo Imaging with Plasma Membrane Luciferase.PLoS ONE3(7):e2599.doi:10.1371/journal.pone.0002599
【文献】Ford A.,2012 Purinergic Signalling 8(Suppl 1):S3-S26;Chen,Y,et al 2012 Molecular Pain 8:9)
【文献】Hughes J P et al.2007 Purinergic Signaling 3:163-169
【文献】Jian L.et al.2013 Frontiers in Pharmacology Vol.4,Article 55 p1-17
【文献】Sorge R.et al.2013 Nat.Med.18(4):595-599
【文献】Falk S et al.2015 Neuroscience S0306-4522
【文献】Okura D.et al.2015 Anesth.Analg.120:597-605
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
慢性疼痛の治療、特にがん疼痛の治療に対する新しい手法が必要であり続けている。
【0019】
内臓痛または体性痛の形態での侵害受容性疼痛から生じることがある全身痛の症状を治療するための新しい手法が必要である。
【0020】
個体、好ましくはがん疼痛を有する緩和ケア中の個体の生活の質を、慢性疼痛、特に全身痛を最小化または軽減することによって改善する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
一実施形態では、個体における疼痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 疼痛管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体抗体を個体に投与するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。
【0022】
実施形態では、本方法は、
- 抗P2X7受容体抗体の投与後、個体における疼痛の症状の軽減のレベルを測定するために個体を評価するステップ
をさらに含んでもよく、それにより個体における疼痛を管理する。その後のさらなる投与および評価ステップが個体における疼痛を管理するために実行され得る。
【0023】
別の実施形態では、個体における疼痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体抗体の使用が提供される。
【0024】
別の実施形態では、個体における疼痛の治療に用いるための抗P2X7受容体抗体が提供される。
【0025】
別の実施形態では、
- がん疼痛の最小化に向けたP2X7受容体に結合するための少なくとも第1の可変ドメイン、
- がん細胞抗原に結合するための少なくとも第2の可変ドメイン
を含む、がん疼痛を最小化するための多量体抗体が提供される。
【0026】
別の実施形態では、上記のような多量体抗体を含む医薬組成物が提供される。
【0027】
一実施形態では、個体における疼痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 疼痛管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドを個体に投与し、それにより個体におけるその受容体、断片またはペプチドに対する液性免疫応答を形成するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。
【0028】
実施形態では、本方法は、
- 抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドの投与後、個体における疼痛の症状の軽減のレベルを測定するために個体を評価するステップ
をさらに含んでもよく、それにより個体における疼痛を管理する。その後のさらなる投与および評価ステップが個体における疼痛を管理するために実行され得る。
【0029】
別の実施形態では、個体における疼痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドの使用が提供される。抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドは、個体におけるその受容体、断片またはペプチドに対する液性免疫応答を形成するために用いられ、それにより個体における疼痛が管理される。
【0030】
別の実施形態では、個体における疼痛の治療に用いるための抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドが提供される。抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドは、個体における受容体、断片またはペプチドに対する液性免疫応答を形成するために用いられ、それにより個体における疼痛が管理される。
【0031】
抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドに関する上記の実施形態では、その受容体、断片またはペプチドは、アジュバント、担体またはハプテンを含む組成物の形態で提供されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】腫瘍細胞内でのATPの生成または発現のためのアッセイは、増加濃度(0uM(マイクロM)、0.62uM、1.25umおよび2.5uM)のFITCで標識された特異IgG抗体とのインキュベーションが5時間のインキュベーション期間にわたる培養下で全ATPの漸減を引き起こすことを示す。
【
図2】共焦点顕微鏡観察が実施され、培養下の細胞の半数が
図2中の共焦点画像で示されるようなFITC標識の密な細胞質分布を示すことを示した。これは、標識抗体のエンドサイトーシスが37Cで生じることを示した。
【
図3】別の共焦点顕微鏡画像は、一部のCOLO205細胞が37Cで3時間後に強力な内在化を有することを示した。
【
図4】2時間以内に特異的なFITC標識抗nfP2X
7抗体(IgG
1型)を飲食運動している前立腺PC3細胞の共焦点顕微鏡画像である。抗体は、原形質膜下に位置したファロイジン染色アクチンの下の細胞質内のEEA1標識エンドソーム内に見られる。核は青色に染色される。
【
図5】類似のATP阻害が同じ濃度の双頭(左側バー、青色)DID標識抗体およびV
H型の単頭ドメイン抗体(右側バー、赤色)で誘発された。
【発明を実施するための形態】
【0033】
P2X受容体は、細胞内N末端およびC末端ならびに膜貫通領域間の長い細胞外ループを有する2つの膜貫通ドメインからなる。細胞外ドメインは、ATPに対するATP結合部位、競合的拮抗剤および修飾金属イオンを含む。N末端はすべてのサブタイプにおいて同様の長さを有する一方、C末端はP2X6受容体における30残基からP2X7受容体における240残基にかけて大幅に変動する。P2X7受容体だけでなく他のP2X受容体の一部の特徴は、受容体がATPに結合しているときに大分子の浸透を可能にするポア形成を誘導する能力である。
【0034】
P2X7受容体の1つの特定の変異体は、ATP結合において幾つかの欠損を有することが知られており、その1つの結果は、受容体が大分子の移入のためのポアを形成するのに限られた能力を有することである。この受容体は、それ以外ではより小さい化合物の移入または放出を可能にする場合がある。この受容体は、受容体のATPに結合するための限られた能力を反映して、「非機能的」P2X7受容体のように様々に称されている。ATP結合のための限られた能力は、機能的受容体(すなわち、3つのATP結合部位を有する受容体)上に見出されるATP結合部位の2つまたは3つすべての欠損に起因することが理解される。
【0035】
非機能的P2X7受容体は、がんの確立されたバイオマーカーである。特に、この受容体は、細胞個体発生とは無関係に、中胚葉、外胚葉または内胚葉のいずれかの起源の大部分のがん細胞の表面上に発現される。
【0036】
非機能的P2X7受容体に結合するが、機能的P2X7受容体(すなわち、ポアを形成するための3つすべてのATP結合部位を含む受容体)に結合しない抗体を発生させてもよい。
【0037】
非機能的P2X7受容体が感覚ニューロンの表面上に見出されず、非機能的P2X7受容体がATPに結合し、それに関連するポアを形成するための能力が限られていると仮定すると、非機能的受容体は、がんにおける疼痛伝達に限られた役割を有することになると予想されたが、但し、特に疼痛伝達における低下がATP媒介性ポアを形成できないか、またはATP受容体結合に対して形成されるポアを排除するペプチドで治療されている個体で生じることが知られている。しかし、本発明者は、ATP媒介性疼痛伝達と非機能的P2X7受容体との間に関連性があることを見出している。
【0038】
特に、本明細書で例示される通り、本発明者は、P2X7受容体の抗体誘発エンドサイトーシスを経ているがん細胞においてATPの合成および/または分泌が低下していることをインビトロで観察している。さらに、本明細書中にさらに記載される臨床試験では、本発明者は、抗非機能的P2X7受容体抗体を受ける個体が、がん疼痛管理のための標準のオピオイド治療が神経障害性または侵害受容性疼痛の増加を伴わずに中止され得る程度まで慢性疼痛を軽減させたことを観察している。
【0039】
これらの観察結果は、P2X受容体のがん細胞表面での発現とがん細胞によるATPの合成および/または分泌との間の関係を示唆し、それによると、P2X受容体ががん細胞表面上で発現されるとき、がん細胞はATPを合成しかつ/または分泌し、それは、これらの受容体ががん細胞表面から除去されるときではない。P2X受容体ががん細胞表面から除去されるとき、がん細胞によるATP分泌は有効に阻害または制限される。
【0040】
P2X発現とATP合成/分泌との間の関係の根底にある分子機構の理解は完全ではないが、慢性疼痛を最小化するための機構は、がん細胞由来のプリン作動性受容体作動薬の侵害受容ニューロンが存在する部位での限られた利用可能性に基づくと考えられる。特に、P2Xのがん細胞表面での発現における低下は、がん細胞によりATPの合成および/または放出を低下させるように見られる。これは、ATP供給の局所的な侵害受容ニューロンを有効に欠乏させ、それにより、通常であれば侵害受容ニューロン上のプリン作動性受容体(例えば、P2X3)がATPによって結合されるときに生じることになる求心性線維を通じて疼痛伝達を制限する。
【0041】
重要なことに、本発明者は、慢性疼痛を最小化するための機構が、ATPの合成および/または放出に有効な有望な貯蔵所であるがん細胞の抗体誘導死から生じないことを認めている。第1に、慢性疼痛の軽減は、抗P2X7受容体抗体の投与から数日以内に、特に腫瘍負荷が有効に低減されていない時点においてインビボで認められる。第2に、がん細胞の全切除が反対の効果を有することが予想されることになる、すなわち、それは、がん細胞溶解がニューロン上のプリン作動性受容体に結合するための細胞外空間へ大量のATPを放出することになるため、一時的なATPに駆動される疼痛伝達を増加させるはずである。第3に、本明細書で例示される通り、インビトロデータは、著しい細胞死滅に先立つがん細胞でのATPの合成および/または放出の低下を明示している。
【0042】
慢性疼痛の最小化は、ATPとP2X7受容体との相互作用とは独立に作動する機構に基づくと理解される。詳細には、本明細書に記載の通り、非機能的P2X7受容体は、ATPに結合するための非常に限られた能力とアロディニアおよび疼痛伝達に関与するものとして同定されているポアを形成するのに限られた能力とを有する。その代わり、作動原理は、単純には、(P2X7-ATP相互作用とは独立した)細胞表面P2X7受容体の低減が、局所的な侵害受容ニューロン上に発現されるプリン作動性受容体によるATP結合への機会の付随的影響とともにATPの局所的欠損をもたらすということである。これに関連して、本発明は、ATPのプリン作動性受容体への結合の競合的阻害に注目する、慢性疼痛の最小化に対する他の手法とは違いが明確である。本発明によると、ATPの局所的枯渇に注目している。
【0043】
A.定義
本明細書で用いられるとき、文脈上特に必要がある場合を除き、用語「含む(comprise)」ならびにその用語の変化形である「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises)」および「含まれる(comprised)」などは、さらなる添加剤、成分、整数またはステップを除外することが意図されない。
【0044】
本明細書を解釈することを目的として、以下の定義が適用されることになり、また適切である場合は常に、単数で用いられる用語は複数も含み、その逆も言えることになる。示される任意の定義が参照により本明細書中に援用される任意の文献と矛盾する場合、後に示される定義が有効になるものとする。
【0045】
「P2X
7受容体は、一般に、3つのタンパク質サブユニットまたは単量体から形成されるプリン作動性受容体を指し、単量体の少なくとも1つは実質的に配列番号1で示されるようなアミノ酸配列を有する(
図6を参照)。P2X
7受容体は、下記のような機能的受容体または非機能的受容体であってもよい。「P2X
7受容体」は、P2X
7受容体の天然に存在する変異体を包含し、例えばP2X
7単量体は、スプライスバリアント、対立遺伝子変異体およびアイソフォーム、例えばP2X
7受容体を形成する単量体の天然に存在する切断または分泌形態(例えば、細胞外ドメイン配列からなる形態またはその切断形態)、天然に存在する変異体形態(例えば、選択的にスプライシングされた形態)および天然に存在する対立遺伝子変異体である。本発明の特定の実施形態では、本明細書に開示される天然配列P2X
7単量体ポリペプチドは、配列番号1で示される完全長アミノ酸配列を含む成熟または完全長天然配列ポリペプチドである。特定の実施形態では、P2X
7受容体は、修飾されたアミノ酸配列を有してもよく、例えば、配列番号1で示される配列における様々なアミノ酸は、置換、欠失されてもよく、または残基が挿入されてもよい。
【0046】
「機能的P2X7受容体は、一般に、ATPに結合するための結合部位または間隙を有するP2X7受容体の一形態を指す。ATPに結合されるとき、受容体は、カルシウムイオンのサイトゾルへの移入を可能にするポア様構造を形成し、その1つの結果はプログラム細胞死であってもよい。
【0047】
「非機能的P2X7受容体は、一般に、1つ以上の単量体が(配列番号1に従う)Pro210でシス異性化を有する、P2X7受容体の一形態を指す。その異性化は、例えば単量体一次配列の突然変異または異常な翻訳後プロセシングを含む、単量体のミスフォールディングをもたらす任意の分子事象に起因する場合がある。異性化の1つの結果は、受容体がATPに結合できないことである。その環境下で、受容体はポアを形成することができず、これはカルシウムイオンがサイトゾルに侵入し得る程度を制限する。非機能的P2X7受容体は、広範囲の上皮がんおよび造血器がんで発現される。
【0048】
用語「抗P2X7受容体抗体は、抗体がP2X7受容体、典型的には非機能的P2X7受容体を標的化する場合の診断薬および/または治療薬として有用であるような十分な親和性でP2X7受容体に結合する能力がある抗体を指す。好ましくは、P2X7受容体抗体が無関係の受容体タンパク質に結合する程度は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)により測定される場合、抗体のP2X7受容体への結合の約10%未満である。特定の実施形態では、P2X7受容体に結合する抗体は、<1μΜ、<100nM、<10nM、<1nM、または<0.1nMの解離定数(Kd)を有する。抗非機能的P2X7受容体抗体は、一般に、これらの血清学的特性の一部または全部を有し、かつ非機能的P2X7受容体に結合するが、機能的P2X7受容体に結合しないものである。
【0049】
「結合親和性」は、一般に、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有相互作用を合計した力を指す。一般に、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(Kd)によって表され得る。親和性は、当該技術分野で公知の一般的方法、例えば本明細書に記載の方法により測定され得る。低親和性抗体は、一般に、抗原に緩徐に結合し、容易に解離する傾向がある一方、高親和性抗体は、一般に、抗原により迅速に結合し、より長く結合状態を維持する傾向がある。結合親和性を測定する種々の方法が当該技術分野で公知であり、それらのいずれかを本発明の目的のために用いることができる。
【0050】
B.抗体の養子移植による慢性疼痛およびがん疼痛の最小化および管理
別の実施形態では、個体における疼痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体抗体の使用が提供される。
【0051】
別の実施形態では、個体における疼痛の治療に用いるための抗P2X7受容体抗体が提供される。
【0052】
別の実施形態では、個体における疼痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 疼痛管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体抗体を個体に投与するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。
【0053】
上記の実施形態では、個体は慢性疼痛を有してもよい。慢性疼痛は限局性または全身性である。
【0054】
疼痛はがん疼痛であってもよい。がん疼痛は、急性または慢性疼痛の形態であってもよく、またはさらに「突出」痛であってもよい。一般に、本発明は、慢性がん疼痛の治療を目的とする。
【0055】
がん疼痛は、侵害受容性疼痛(すなわち、体性痛または内臓痛)および神経障害性疼痛として記述されてもよい。
【0056】
体性痛は、骨または筋骨格要素などの深部組織に関連した深部体性痛であってもよい。それはまた、真皮または下層の結合組織に関連した表面痛または皮膚の体性痛であり得る。一般に、疼痛が体性痛である場合、それは深部体性痛、例えば骨痛または筋骨格痛である。深部体性痛は、鈍いまたはうずいているが限局性であるものとして記述され得るが、皮膚の体性痛は、より鋭いかもしくは刺すような感覚または灼熱感を有し得る。深部体性痛の共通原因は、原発性悪性腫瘍を含む。かかる腫瘍の一例が肉腫または骨肉腫である。別の原因が転移性疾患であってもよい。
【0057】
一実施形態では、良性または悪性腫瘍である原発性腫瘍、または転移性疾患から生じる、個体における深部体性のがん疼痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体抗体の使用が提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛の症状、好ましくは限局性拍動痛、鈍痛またはうずく痛みからなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0058】
別の実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体における深部体性のがん疼痛の治療に用いるための抗P2X7受容体抗体が提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛の症状、好ましくは限局性拍動痛、鈍痛またはうずく痛みからなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0059】
別の実施形態では、個体における深部体性のがん疼痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる深部体性のがん疼痛の管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体抗体を個体に投与するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。好ましくは、本方法は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛の症状、好ましくは限局性拍動痛、鈍痛またはうずく痛みからなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0060】
体性または表在性の侵害受容性疼痛の治療では、機能的P2X7受容体および非機能的P2X7受容体に結合する抗体、または非機能的P2X7受容体のみに結合する抗体、または機能的P2X7受容体のみに結合する抗体を用いてもよい。一実施形態では、抗体は機能的P2X7受容体に結合する。別の実施形態では、抗体は非機能的P2X7受容体のみに結合する。
【0061】
内臓痛は、軟部組織疼痛としても知られる場合があり、身体臓器または筋肉に由来する疼痛を指す。内臓痛は、胸部、腹部または骨盤内臓器の浸潤、圧迫、伸展またはストレッチに起因する疼痛受容体の活性化により引き起こされる場合がある。内臓痛は、十分に限局化されず、通常、圧力のような深部圧迫として記述される。内臓痛の共通原因は、膵がんおよび腹部転移を含む。これらの腫瘍の他の例として、肝腫瘍、胃腫瘍または卵巣腫瘍が挙げられる。好ましくは、腫瘍は肝細胞がんの形態での原発性悪性腫瘍である。腫瘍はまた、結腸直腸から肝臓への転移から生じる転移性疾患であってもよい。
【0062】
一実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体におけるがん性内臓痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体抗体の使用が提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛または関連痛の症状、好ましくは圧力もしくは深部圧迫から生じる疼痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0063】
別の実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体におけるがん性内臓痛の治療に用いるための抗P2X7受容体抗体が提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛または関連痛の症状、好ましくは圧力もしくは深部圧迫から生じる疼痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0064】
別の実施形態では、個体におけるがん性内臓痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる疼痛の管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体抗体を個体に投与するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。好ましくは、本方法は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛または関連痛の症状、好ましくは圧力もしくは深部圧迫から生じる疼痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0065】
侵害受容性内臓痛の治療では、機能的P2X7受容体および非機能的P2X7受容体に結合する抗体、または非機能的P2X7受容体のみに結合する抗体、または機能的P2X7受容体のみに結合する抗体を用いてもよい。一実施形態では、抗体は機能的P2X7受容体に結合する。別の実施形態では、抗体は非機能的P2X7受容体のみに結合する。
【0066】
一実施形態では、治療のために選択または提供される個体は、神経障害性疼痛ではなく、侵害受容性疼痛、特に侵害受容性体性痛を有し、好ましくは内臓痛をほとんど伴わない。かかる個体では、神経または神経組織に対する損傷が有意でなくてもよい。
【0067】
神経障害性疼痛または神経痛は、例えば腫瘍が圧迫する神経または浸潤および侵入する神経組織による神経系に対する損傷により引き起こされる。これは灼熱痛、電撃痛または刺痛として現れる。原発性または転移性疾患は神経痛を生じさせる場合がある。
【0068】
一実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体における神経障害性がん疼痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体抗体の使用が提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは局所痛の症状、好ましくは灼熱痛、電撃痛または刺痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0069】
別の実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体における神経障害性がん疼痛の治療に用いるための抗P2X7受容体抗体が提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは局所痛の症状、好ましくは灼熱痛、電撃痛または刺痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0070】
別の実施形態では、個体における神経障害性がん疼痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる疼痛の管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体抗体を個体に投与するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。好ましくは、本方法は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛または関連痛の症状、好ましくは灼熱痛、電撃痛または刺痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0071】
神経障害性疼痛の治療では、機能的P2X7受容体および非機能的P2X7受容体、または非機能的P2X7受容体のみ、または機能的P2X7受容体のみに結合する抗体を用いてもよい。一実施形態では、抗体は機能的P2X7受容体に結合する。別の実施形態では、抗体は非機能的P2X7受容体のみに結合する。
【0072】
別の実施形態では、本方法としての疼痛の治療に用いるための抗P2X7抗体の使用は、抗がん剤と同時投与されてもよい。これらの実施形態では、抗がん剤は、典型的には、手術または他の治療後に、またはフロントライン治療として、がん細胞を殺滅し、それにより腫瘍量を減量させるための細胞毒性薬として機能する。小分子または抗体などのより大きい生体分子を含む任意の抗がん剤を用いることができる。これらの実施形態では、抗P2X7抗体は、がん細胞内でのATPの生成または形成を、抗がん剤に曝露される腫瘍境界でそれらの細胞が殺滅される前に低下させるのに重要な役割を果たし、それにより通常であればP2X3などの疼痛受容体を活性化することになるATPの放出を阻止するかまたは実質的に阻止する。
【0073】
特に有用な抗がん剤は、抗がん細胞抗原またはバイオマーカー、特にがんに特異的な発現を有するバイオマーカーに特異的な細胞傷害抗体または抗体複合体である。
【0074】
抗がん剤が抗がん細胞抗原抗体である場合、抗P2X7抗体および抗がん細胞抗原抗体を、P2X7受容体に結合するための少なくとも第1の可変ドメインおよびがん細胞抗原に結合するための少なくとも第2の可変ドメインを含む多量体抗体の形態で同時に投与することは、これにより第2の可変ドメインが第1の可変ドメインのがん細胞への標的化を援助することが可能になることから、特に有用である。
【0075】
他の実施形態では、抗P2X7抗体は、がん細胞によるATPの生成または発現を、腫瘍境界でそれらが細胞傷害性抗がん剤によって溶解される前に低下させることができるように、抗がん剤が提供される前に提供されてもよい。
【0076】
C.P2X7受容体またはそれに由来する断片もしくはペプチドの投与による慢性疼痛の最小化および管理
本発明の一実施形態では、抗P2X7抗体は、疼痛の管理または最小化を必要とする個体において、個体内部で抗体を産生することにより提供される。これは、免疫原に対して個体における液性免疫応答を形成することにより達成され得る。
【0077】
免疫原は、個体における非機能的P2X7受容体に対する免疫応答を誘発する能力があるP2X7受容体、またはP2X7受容体の断片の形態で提供されてもよい。非機能的P2X7受容体は、ATPに結合することができない隣接する正確に詰まっている単量体間の界面で形成される3つのATP結合部位の少なくとも1つを有するものと定義される。かかる受容体は、アポトーシス孔への非選択的カルシウムチャネルの開口を延長することができない。
【0078】
免疫原は、主要組織適合性複合体クラスII分子上に提示される能力がある、および/またはTもしくはB細胞受容体またはB細胞膜結合免疫グロブリンと相互作用する能力があるような少なくとも1つの配列を含んでもよい。
【0079】
典型的には、形成される免疫応答は、非機能的P2X7受容体に特異的であり、その場合、非機能的P2X7受容体(すなわち、非ATP結合受容体)と反応性があるが、機能的P2X7受容体(すなわち、ATP結合受容体)と反応性がない抗体または細胞成分が個体において形成される。
【0080】
別の実施形態では、個体における疼痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドの使用が提供される。
【0081】
別の実施形態では、個体における疼痛の治療に用いるための抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドが提供される。
【0082】
これらの実施形態では、抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドが、個体におけるその受容体、断片またはペプチドに対する液性免疫応答を形成するために用いられ、それにより個体における疼痛が管理される。
【0083】
一実施形態では、個体における疼痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 疼痛管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドを個体に投与し、それにより個体における受容体、断片またはペプチドに対する液性免疫応答を形成するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。
【0084】
上記の実施形態では、個体は慢性疼痛を有してもよい。慢性疼痛は限局性または全身性である。
【0085】
疼痛は、がん疼痛であってもよい。一般に、本発明は慢性がん疼痛の治療を目的とする。
【0086】
一実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体における深部体性のがん疼痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドの使用が提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛の症状、好ましくは限局性拍動痛、鈍痛またはうずく痛みからなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0087】
別の実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体における深部体性のがん疼痛の治療に用いるための抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドが提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛の症状、好ましくは限局性拍動痛、鈍痛またはうずく痛みからなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0088】
別の実施形態では、個体における深部体性のがん疼痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる深部体性のがん疼痛の管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドを個体に投与するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。好ましくは、本方法は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛の症状、好ましくは限局性拍動痛、鈍痛またはうずく痛みからなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0089】
一実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体におけるがん性内臓痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドの使用が提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛または関連痛の症状、好ましくは圧力もしくは深部圧迫から生じる疼痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0090】
別の実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体におけるがん性内臓痛の治療に用いるための抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドが提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛または関連痛の症状、好ましくは圧力もしくは深部圧迫から生じる疼痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0091】
別の実施形態では、個体におけるがん性内臓痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる疼痛の管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドを個体に投与するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。好ましくは、本方法は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛または関連痛の症状、好ましくは圧力もしくは深部圧迫から生じる疼痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0092】
一実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体における神経障害性がん疼痛の治療用の薬剤の作製における抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドの使用が提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは局所痛の症状、好ましくは灼熱痛、電撃痛または刺痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0093】
別の実施形態では、良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる、個体における神経障害性がん疼痛の治療に用いるための抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドが提供される。好ましくは、その使用は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは局所痛の症状、好ましくは灼熱痛、電撃痛または刺痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0094】
別の実施形態では、個体における神経障害性がん疼痛を管理する方法であって、以下のステップ:
- 良性もしくは悪性腫瘍である原発性腫瘍または転移性疾患から生じる疼痛の管理を必要とする個体を提供するステップと、
- 抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドを個体に投与するステップと
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法が提供される。好ましくは、本方法は、疼痛の少なくとも1つの症状、好ましくは全身痛または関連痛の症状、好ましくは灼熱痛、電撃痛または刺痛からなる群から選択されるものの軽減をもたらす。
【0095】
別の実施形態では、本方法としての疼痛の治療に用いるための抗P2X7抗体、その断片またはそれに由来するペプチドの使用は、抗がん剤と同時投与されてもよい。これらの実施形態では、抗がん剤は、典型的には、手術または他の治療後に、またはフロントライン治療として、がん細胞を殺滅し、それにより腫瘍量を減量させるための細胞毒性薬として機能する。小分子または抗体などのより大きい生体分子を含む任意の抗がん剤を用いることができる。これらの実施形態では、抗P2X7受容体から作製される抗P2X7抗体、その断片またはそれに由来するペプチドは、がん細胞内でのATPの生成または形成を、抗がん剤に曝露される腫瘍境界でそれらの細胞が殺滅される前に低下させるのに重要な役割を果たし、それにより通常であればP2X3などの疼痛受容体を活性化することになるATPの放出を阻止するかまたは実質的に阻止する。
【0096】
特に有用な抗がん剤は、抗がん細胞抗原またはバイオマーカー、特にがんに特異的な発現を有するバイオマーカーに特異的な細胞傷害抗体または抗体複合体である。
【0097】
他の実施形態では、抗P2X7受容体、その断片またはそれに由来するペプチドは、がん細胞によるATPの生成または発現を、腫瘍境界でそれらが細胞傷害性抗がん剤によって溶解される前に低下させることができるように、個体において抗P2X7抗体を産生するように投与されてもよい。
【0098】
D.慢性がん疼痛の症状の評価、分類および監視
本明細書で考察の通り、慢性がん疼痛、特に体性痛、内臓痛または神経障害性疼痛の症状は、うずく痛み、鈍痛、拍動痛、灼熱痛、電撃痛、刺痛、鋭痛または痙攣痛として現れることがある。これらの症状の評価および診断は当業者に周知である。さらに、慢性がん疼痛の症状の管理を監視するための技術も当業者に周知である。
【0099】
実施形態では、本方法は、
- 抗P2X7受容体抗体の投与後または抗P2X7受容体、その断片もしくはそれに由来するペプチドの投与後、個体における疼痛の症状の軽減のレベルを測定するために個体を評価するステップ
を含み、それにより個体における疼痛を管理する、方法をさらに含んでもよい。その後、さらなる投与および評価ステップが個体における疼痛を管理するために実行され得る。したがって、一実施形態では、本方法は、さらなるステップ:
- 抗P2X7受容体抗体または抗P2X7受容体、その断片もしくはそれに由来するペプチドを個体にさらに投与するステップと、
- その後、前記投与から生じる個体における疼痛の症状の軽減のレベルを測定するために個体をさらに評価するステップと
をさらに含んでもよく、前記さらなる投与および評価は、個体が疼痛における軽減を経験するまで継続される。
【0100】
典型的には、個体は、うずく痛み、鈍痛、拍動痛、灼熱痛、電撃痛、刺痛、鋭痛または痙攣痛からなる群から選択される疼痛の症状の軽減のレベルを測定するために評価される。
【0101】
典型的には、個体における疼痛の管理は、うずく痛み、鈍痛、拍動痛、灼熱痛、電撃痛、刺痛、鋭痛または痙攣痛からなる群から選択される疼痛の症状の軽減をもたらす。
【0102】
一実施形態では、がん疼痛は骨痛であり、個体は、鈍痛、うずく痛みまたは拍動痛の形態での疼痛の症状の軽減について評価される。がん疼痛は、肉腫、骨肉腫または転移性疾患を有する個体から生じることがあり、個体における疼痛の管理は、鈍痛、うずく痛みまたは拍動痛の形態での疼痛の症状の軽減をもたらすことがある。
【0103】
一実施形態では、がん疼痛は内臓痛であり、個体は、鋭痛、痙攣痛、うずく痛みまたは拍動痛の形態での疼痛の症状の軽減について評価される。がん疼痛は、臓器の原発性腫瘍を有する個体または転移性疾患から生じることがあり、個体における疼痛の管理は、鋭痛、痙攣痛、うずく痛みまたは拍動痛の形態での疼痛の症状の軽減をもたらすことがある。
【0104】
別の実施形態では、がん疼痛は神経障害性疼痛であり、個体は、灼熱痛、電撃痛または刺痛の症状の形態での疼痛の症状の軽減について評価される。がん疼痛は、悪性または転移性疾患を有する個体から生じることがあり、個体における疼痛の管理は、灼熱痛、電撃痛または刺痛症状の形態での疼痛の症状の軽減をもたらすことがある。
【0105】
一実施形態では、治療用に選択される個体は食欲不良である。
【0106】
別の実施形態では、治療用に選択される個体は緩和療法患者である。
【0107】
一実施形態では、治療用に選択される個体は、グレード1、2、3、または4の腫瘍、好ましくはグレード3または4の腫瘍、より好ましくはグレード4の腫瘍を有する。グレード1の腫瘍では、腫瘍細胞および腫瘍組織の機構は、限局化され、ほぼ正常であり、十分に分化した細胞を伴うように見られる。これらの腫瘍は、緩徐に成長し、拡散する傾向がある。それに対し、グレード3(分化不良)およびグレード4(未分化)の腫瘍の細胞および組織は、正常細胞および組織と外見が異なる。グレード3およびグレード4の腫瘍は、急速に成長し、より低いグレードを有する腫瘍よりも迅速に拡散する傾向がある。
【0108】
E.疼痛を最小化するための抗P2X7受容体抗体およびそれを含有する組成物
本明細書に記載の通り、本発明は、疼痛、特に慢性がん疼痛を管理するための抗P2X7受容体抗体の使用を意図する。これらの抗体は、非機能的P2X7受容体に結合するが、機能的P2X7受容体に結合しないものであってもよい。例が、PCT/オーストラリア特許出願公開第2002/000061号明細書、PCT/オーストラリア特許出願公開第2002/001204号明細書、PCT/オーストラリア特許出願公開第2007/001540号明細書、PCT/オーストラリア特許出願公開第2007/001541号明細書、PCT/オーストラリア特許出願公開第2008/001364号明細書、PCT/オーストラリア特許出願公開第2008/001365号明細書、PCT/オーストラリア特許出願公開第2009/000869号明細書およびPCT/オーストラリア特許出願公開第2010/001070号明細書(その内容が全体として参照により援用される)に開示されている。
【0109】
他の実施形態では、これらの抗体は、機能的P2X7受容体と非機能的P2X7受容体とに共通するエピトープに結合する場合がある。これらのエピトープの例として、E140エピトープ、また一般にP2X7受容体細胞外ドメインの以下の領域:75-90;120-130;135-150;310-320の内部に見出されるエピトープが挙げられる。
【0110】
他の実施形態では、これらの抗体は、E200、E300およびE200-300からなる群から選択されるエピトープに結合してもよい。「E200エピトープ」は、一般に、非機能的P2X7受容体上に存在するエピトープを指す。ヒトでは、その配列はGHNYTTRNILPGLNITC(配列番号2)である。「E300エピトープ」は、一般に、非機能的P2X7受容体上に存在するエピトープを指す。ヒトでは、その配列はKYYKENNVEKTLIKVF(配列番号3)である。「複合エピトープ」は、一般に、E200およびE300エピトープの並立から形成されるエピトープを指す。
【0111】
特に好ましい実施形態では、抗P2X7受容体抗体は、PCT/オーストラリア特許出願公開第2010/001070号明細書(その内容が全体として参照により援用される)に記載のような2-2-1である。
【0112】
抗体は、免疫グロブリン可変ドメイン、全抗体、Fab、dab、scFv、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、融合タンパク質、複合体、二重特異性抗体または医薬組成物の形態で提供されてもよい。
【0113】
本明細書に記載の通り、抗体は一価であってもよく、特に二価およびより高いオーダーの結合価の抗体で見られるように細胞表面上の受容体に架橋するための能力を伴わない。1つの特定の好ましい実施形態では、抗体は単独ドメイン抗体であってもよい。
【0114】
本明細書に記載の通り、P2X7受容体に結合し、疼痛の最小化を可能にするための少なくとも1つの可変ドメイン、およびがんの治療のためのさらなる可変ドメインを含む多量体抗体は、さらに、P2X7受容体可変ドメインのがん細胞への標的化にとって特に有用である場合がある。かかる抗体により、表面上、腫瘍境界でがん細胞によりATPの生成または発現を無効にし、それによりATPが放出されることを阻止することができ、それは、腫瘍細胞が治療抗体により溶解されるかまたはそれとは別に殺滅されるときである。したがって、一実施形態では、
- がん疼痛の最小化に向けたP2X7受容体に結合するための少なくとも第1の可変ドメイン、
- がん細胞抗原に結合するための少なくとも第2の可変ドメイン
を含む、がん疼痛を最小化するための多量体抗体が提供される。
【0115】
多量体抗体を産生するための方法は、当業者に公知であり、Powers GA,Hudson PJ,Wheatcroft MP.2012;Methods Mol Biol.907:699-712.doi:10.1007/978-1-61779-974-7_39.“Design and production of multimeric antibody fragments,focused on diabodies with enhanced clinical efficacy”(その内容が全体として参照により援用される)を参照されたい。
【0116】
典型的には、本発明で用いるための抗P2X7抗体は、生細胞上のP2X7受容体に約1pM~約1uMの範囲内の親和性(KD)で結合する。典型的には、抗体がIgMの一部であるとき、生細胞上のP2X7受容体に対する親和性は、約1pM~約1nM、好ましくは約1pM~約50pMである。典型的には、抗体がIgGの一部であるとき、生細胞上のP2X7受容体に対する親和性は、約1pM~約1nM、好ましくは約1pM~約100pMである。典型的には、抗体がFabの一部であるとき、生細胞上のP2X7受容体に対する親和性は、約100pM~約100nM、好ましくは約1nM~約100nMである。典型的には、抗体がscFVの一部であるとき、生細胞上のP2X7受容体に対する親和性は、約10nM~約1uM、好ましくは約10nM~約100nMである。典型的には、抗体がdAbの一部であるとき、生細胞上のP2X7受容体に対する親和性は、約10nM~約10uM、好ましくは約100nM~約1uMである。
【0117】
F.抗体の養子移植における用量および投与レジーム
典型的には、抗P2X7抗体は疼痛軽減量で用いられる。この量は、がんのタイプにより、他の抗がん治療または他の薬学的治療および個体の一般的健康により、個体によって経験される疼痛の症状に依存し得る。安全性および有効性を最適化するため、治療用量は、当業者に公知の通常の方法を用いて滴定してもよい。
【0118】
特定の実施形態では、用量は、例えば、宿主体重の約0.0001~100mg/kg、より通常には0.01~5mg/kgの範囲(例えば、0.02mg/kg、0.25mg/kg、0.5mg/kg、0.75mg/kg、1mg/kg、2mg kgなど)であり得る。例えば、用量は、1mg/kg体重または10mg/kg体重または1~60mg/kgの範囲内、好ましくは少なくとも1mg/kgであり得る。上記範囲内の中間用量も本発明の範囲内であるように意図される。
【0119】
被験体は、毎日、隔日、毎週、または経験的分析により決定された任意の他のスケジュールに従い、かかる用量で投与され得る。例示的な治療は、例えば少なくとも6か月の延長期間にわたる複数回用量での投与を伴う。
【0120】
一実施形態では、疼痛の治療に用いるための抗P2X7抗体は、約2年以下の期間にわたり投与される。
【0121】
一実施形態では、抗P2X7抗体が2-2-1である場合、抗体は5mg/kgの量での単回用量として投与される。
【0122】
さらなる例示的な治療レジームは、2週間毎に1回または1か月に1回または3~6か月毎に1回の投与を伴う。例示的な投与計画は、連続日での1~10mg/kgまたは15mg/kg、隔日での30mg/kgまたは週毎での60mg/kgを含む。一部の方法では、異なる結合特異性を有する2種以上の抗P2X7受容体抗体を同時に投与してもよく、その場合、投与される各抗P2X7受容体抗体の用量は指定範囲内に該当する。
【0123】
抗P2X7受容体抗体は、複数の機会に投与され得る。単回用量間の間隔は、毎週、毎月または毎年であり得る。間隔は、患者における標的ポリペプチドまたは標的分子の血液レベルを測定することによって示されるため、不規則でもあり得る。用量は、一部の方法では1~1000ug/mL、また一部の方法では25~300ug/mLの血漿ポリペプチド濃度を得るように調整される。
【0124】
別の実施形態では、疼痛の治療に用いるための抗P2X7抗体は、1~4回/月の頻度で投与される。
【0125】
あるいは、抗P2X7受容体抗体は徐放性製剤として投与することができ、その場合、より少ない頻度の投与が要求される。用量および頻度は、患者における抗体の半減期に応じて変動する。抗体の半減期はまた、安定なポリペプチドまたは部分、例えばアルブミンまたはPEGへの融合を介して延長され得る。一般に、ヒト化抗体は最長の半減期を示し、キメラ抗体および非ヒト抗体がそれに続く。
【0126】
一実施形態では、抗P2X7受容体抗体は、非複合形態で投与され得る。別の実施形態では、本明細書に開示される方法で用いるための抗原結合部位は、複合形態で複数回投与され得る。さらに別の実施形態では、本発明の抗原結合部位は、非複合形態で、次いで複合形態で、またはその逆順で投与され得る。
【0127】
本明細書で考察される通り、慢性疼痛の最小化のための機構は、がん細胞の抗体誘導死に起因しない。したがって、特定の実施形態では、疼痛の最小化または管理のための本明細書中の本発明の方法における抗体の使用が、疼痛治療に必要とされる期間にわたって腫瘍量の実質的減少をもたらさないということになる。抗体の投与後1~2日目で疼痛の最小化が経験されることがあるが、疼痛の最小化は抗体の投与後1~4週間の期間で確立される。この投与スケジュールは、腫瘍の有意な減量をもたらす可能性が少ない。さらに、これらの実施形態では、治療効果または抗がん効果は、本明細書に記載の通り、別の抗がん剤によって提供される。
【0128】
G.P2X7受容体もしくは断片またはそれに由来するペプチドの投与における用量および投与レジーム
P2X7受容体またはそれに由来する断片もしくはペプチドの形態での免疫原は、個体への初期投与において提供され、それによりIgM産生を含む応答が形成される。さらに好ましい形態では、個体への初期投与において提供され、それによりIgM産生を含む応答が形成されている免疫原は、初期投与に対するさらなる投与において、それによりIgG産生を含む応答が形成されるような後の時点で投与される。この実施形態では、免疫原のさらなる投与は、個体における循環中のIgMのレベルが実質的に検出不能であるときに行ってもよい。
【0129】
形成される免疫応答は液性応答であるが、細胞傷害性を含む、応答に対する細胞成分を有する場合もある。液性応答は、抗体を分泌する形質細胞へのB細胞の形質転換、Th2活性化およびサイトカイン産生、胚中心形成およびアイソタイプ転換、B細胞の親和性成熟ならびに/または記憶細胞生成を含んでもよい。細胞応答は、活性化抗原に特異的な細胞傷害性Tリンパ球、活性化マクロファージおよびナチュラルキラー細胞、および/またはサイトカインを分泌するための刺激細胞を含んでもよい。液性応答は、がん細胞上のP2X7受容体に対する応答において形成される抗体の結合により、疼痛の最小化を引き起こすことがある。
【0130】
好ましくは、これらの方法で用いるための組成物は、担体、賦形剤または希釈剤を含む。好ましくは、組成物はアジュバントをさらに含む。好ましい形態では、組成物は、免疫原の個体への初期投与時での(IgM産生を含む)一次免疫応答の形成、および初期投与に対してさらなる免疫原の投与時での(IgG産生を含む)二次免疫応答の形成を可能にする。
【0131】
一実施形態では、疼痛を最小化するための治療用に選択される個体は、抗体免疫療法または他の形態の治療で治療されていない。別の実施形態では、上記の方法に従う治療用に選択される個体は、がんの治療のために抗体免疫療法を受けている個体、または受け続けている個体である。抗体免疫療法は、一般に、抗体の養子移植の場合など、外因性(さもなければ「非自己」として知られるまたは「非自己」)抗体の、治療を必要とする動物個体への投与を意味する。例えば、個体は、腫瘍学に関する指標として、規制当局の承認を受けている治療抗体のいずれか1つを受けていてもよい。
【0132】
本発明のこれらの方法に従う治療の目的は、疼痛をP2X7受容体に対する個体における免疫応答の誘導または形成により少なくとも最小化することである。したがって、治療用に選択される個体は、この目的を満たすのに十分な免疫応答を生成する能力がある必要がある。一般に、所望される免疫応答は、がんの再発と同様、個体が活性型がんを有するかまたはがんに罹患するときに、循環IgMおよびIgGの一方または両方を産生する能力を含む。
【0133】
本明細書に記載の免疫応答を生成する能力を有する個体は、免疫不全の検出における当該技術分野で周知の種々の方法により、選択またはスクリーニングされてもよい。典型的には、治療用に選択される個体は、正常パラメータの範囲内の少なくとも1つの白血球成分数を有する者となる。例えば、組み入れられるヒトは、一般に、2~10×109/Lの白血球数または0.5~5×109/Lのリンパ球数を有する者である。好中球数は1.5~7.5×109/Lであり、単球数は0.1~0.8×109/Lであり、好酸球は約0.4×109/L未満であり、かつ好塩基球は約0.01×109/L未満であってもよい。
【0134】
特定の実施形態では、特に個体が血液がんのある形態、例えばCML、CLLなどを有する場合の環境下で、これらの血球成分のいずれか1つにおける細胞数がこれらの記述される範囲外に該当し得ることは理解されるであろう。
【0135】
一般に、重要な要素はリンパ球数および/または単球数である。さらに詳細には、これらの数の一方または両方がこれらの成分における記述される範囲を有意に下回る場合、個体は免疫原の投与に対して応答する可能性がより低いことがあり得る。
【0136】
一般に、免疫原は、機能的P2X7受容体でなく、非機能的P2X7に対して免疫応答を誘導するものである。
【0137】
免疫原は、P2X7受容体の配列を含むペプチドを含んでもよいか、またはそのペプチドからなってもよい。ペプチドは、主要組織適合性複合体クラスII分子上に提示される能力があるか、またはB細胞受容体もしくはB細胞膜結合免疫グロブリンと相互作用する能力がある少なくとも1つの配列を含んでもよい。典型的には、ペプチドは、ヒトP2X7受容体またはその断片の配列を含む。
【0138】
ペプチド免疫原の範囲は、公知であり、PCT/オーストラリア特許出願公開第2002/000061号明細書、PCT/オーストラリア特許出願公開第2002/000061号明細書、PCT/オーストラリア特許出願公開第2008/001364号明細書およびPCT/オーストラリア特許出願公開第2009/000869号明細書(その内容が全体として援用される)で考察されている。非機能的P2X7受容体に対する免疫応答を生成するためのエピトープを含む、これらの明細書中の例示的なペプチド免疫原は下記の通りである。
PCT出願 ペプチド免疫原配列
PCT/オーストラリア特許出願公開第2002/000061号明細書 GHNYTTRNILPGLNITC(配列番号2)
PCT/オーストラリア特許出願公開第2008/001364号明細書 KYYKENNVEKRTLIKVF(配列番号3)
PCT/オーストラリア特許出願公開第2009/000869号明細書 GHNYTTRNILPGAGAKYYKENNVEK(配列番号4)
【0139】
これらが単に免疫応答を形成するのに有用な有望な免疫原の例であることは理解されるであろう。さらに、本発明は、非機能的P2X7受容体に対する免疫応答を形成するのに有用なこれらの適用に記載のような他のペプチドの使用を含む。
【0140】
典型的には、免疫レジームは2つ以上の免疫を含む。1回目の免疫では、目的は免疫に対するIgM応答を発生させることであってもよい。2回目の免疫は、IgG応答を発生させるためであってもよい。さらなる免疫は、IgG応答を追加免疫するためであってもよい。
【0141】
免疫原がペプチドである場合、ペプチドは1投与あたり約0.01~1mgの量で提供されてもよい。
【0142】
約0.3mgのペプチドのさらなる投与が適用されてもよい。
【0143】
一実施形態では、1回目の免疫が実施され、次にIgM産生のレベルが翌週にわたって監視される。1回目の免疫後の約4~5週目には、IgM抗体のレベルが無視できる循環レベルまで低下している可能性が高い。この時点で、次に2回目の免疫が実施され、IgG産生のレベル翌週にわたって監視される。翌月/翌年にわたる免疫のさらなる試験が実施されてもよく、また必要に応じて追加免疫が提供されてもよい。
【0144】
ペプチド免疫原は、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25もしくは26の残基長を有してもよい。
【0145】
一実施形態では、本発明の方法に従って免疫応答を形成するための免疫原は、シス立体構造中にPro210を有する場合または有しない場合があるP2X7受容体の配列を有するペプチドである。
【0146】
免疫原は、P2X7細胞外ドメインまたは任意の1つ以上のP2X7アイソフォームの形態であってもよい。免疫原は、可溶性形態での投与用に提供されてもよく、または細胞膜、ビーズ、もしくは他の表面などの固相を伴ってもよい。
【0147】
本明細書での本発明の方法に従う免疫応答を形成するための免疫原として使用可能なペプチドをスクリーニングするための方法が本明細書で開示される。一例として、ロゼット形成アッセイにおける赤血球の使用が挙げられる。このアッセイでは、機能的受容体に結合する抗体が、ロゼットが認められる場合の正の対照として用いられる。試験抗体は、ロゼットを形成しない場合、機能的受容体に結合しないと判定される。試験抗体は、非機能的受容体を発現する細胞株、例えば本明細書に開示されるものに結合することが認められる場合、非機能的受容体に結合すると判定される。
【0148】
本発明のペプチドは、固相合成および組換えDNA技術を含む、当該技術分野で公知の幾つもの技術によって作製することができる。
【0149】
当該技術分野で公知の通り、担体は、ペプチドエピトープに複合され、それにより免疫原性を増強し得る物質である。一部の担体は、分子量が増加した抗原を免疫応答が発生されるべき宿主に提供するように複数のペプチドに結合することにより、免疫原性を増強する。
【0150】
好ましい担体は、細菌性毒素またはトキソイドを含む。他の好適な担体として、髄膜炎菌(N.meningitidis)外膜タンパク質、ウシ血清アルブミンなどのアルブミン、合成ペプチド、熱ショックタンパク質、KLH、百日咳タンパク質、インフルエンザ菌(H.influenza)由来のタンパク質Dおよびクロストリジウム・ディフィシル(C.difficile)由来の毒素A、BまたはCが挙げられる。
【0151】
担体が細菌性毒素またはトキソイドである場合、ジフテリアまたはテタヌストキソイドが好ましい。
【0152】
好ましくは、担体は、本発明のペプチドと反応し得る官能基を含むか、またはペプチドと反応する能力があるように修飾されてもよい。
【0153】
免疫原は、皮下、皮内および/または筋肉内に投与されてもよい。
【0154】
好ましい形態では、本明細書に記載の本発明の方法で用いるためのP2X7受容体に対する免疫応答を形成するための組成物は、免疫応答を増強するためのアジュバントまたは化合物を含む。
【0155】
多数のアジュバントが公知であり、Allison(1998,Dev.Biol.Stand.,92:3-11;参照により本明細書中に援用される)、Unkeless et al.(1998,Annu.Rev.Immunol.,6:251-281)、およびPhillips et al.(1992,Vaccine,10:151-158)も参照されたい。本発明に従って利用可能な例示的なアジュバントとして、限定はされないが、サイトカイン、アルミニウム塩(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムなど;Baylor et al.,Vaccine,20:S18,2002)、ゲル型アジュバント(例えば、リン酸カルシウムなど);微生物アジュバント(例えば、CpGモチーフを含む免疫調節性DNA配列;モノホスホリル脂質Aなどの内毒素(Ribi et al.,1986,Immunology and Immunopharmacology of bacterial endotoxins,Plenum Publ.Corp.,NY,p407,1986);コレラ毒素、大腸菌(E.Coli)熱不安定毒素、および百日咳毒素などの外毒素;ムラミルジペプチドなど);油エマルションおよび乳化剤に基づくアジュバント(例えば、フロイントアジュバント、MF59[Novartis]、SAFなど);微粒子アジュバント(例えば、リポソーム、生分解性マイクロスフェアなど);合成アジュバント(例えば、非イオン性ブロック共重合体、ムラミルペプチド類似体、ポリホスファゼン、合成ポリヌクレオチドなど);および/またはそれらの組み合わせが挙げられる。他の例示的なアジュバントとして、一部のポリマー(例えば、ポリホスファゼン;米国特許5,500,161号明細書に記載)、Q57、サポニン(例えば、QS21,Ghochikyan et al.,Vaccine,24:2275,2006)、スクアレン、テトラクロロデカオキシド、CPG7909(Cooper et al.,Vaccine,22:3136,2004)、ポリ[ジ(カルボキシラトフェノキシ)ホスファゼン](PCCP;Payne et al.,Vaccine,16:92,1998)、インターフェロンγ(Cao et al.,Vaccine,10:238,1992)、ブロック共重合体P1205(CRL1005;Katz et al.,Vaccine,.18:2177,2000)、インターロイキン2(IL-2;Mbwuike et al.,Vaccine,8:347,1990)、ポリメチルメタクリレート(PMMA;Kreuter et al.,J.Pharm.ScL,70:367,1981)などが挙げられる。
【0156】
一実施形態では、P2X7受容体の配列を含むペプチド免疫原が、本明細書に記載の本発明の方法に従い、動物の免疫のためのバクテリオファージの表面上に提供される。
【0157】
本発明に従う疼痛の管理または最小化を必要とする個体は、典型的には哺乳動物、好ましくはヒトであるが、他の非ヒト哺乳動物は、コンパニオン動物およびパフォーマンス動物(performance animal)を含む。
【実施例】
【0158】
実施例1
培養下の成長する腫瘍細胞の上清および細胞内ストア内で検出される細胞外ATPを、Promega ATP Lite Detection Systemを用いて測定した。検出レベルにおける変化は、nfP2X
7受容体表面に結合された特異抗体とのCOLO205細胞のインキュベーションに従った。
図1は、増加濃度のFITCで標識した特異IgG抗体とのインキュベーションが、5時間のインキュベーション期間にわたる培養下(3連で50,000細胞/ウェル)で全ATPの漸減を引き起こすことを示す。
【0159】
かかる短いインキュベーション期間は細胞死を伴わなかった。37Cでの標識抗体のエンドサイトーシスは明白であった。培養下の細胞の半数にわたり、
図2中の共焦点画像で示されるようなFITC標識の密な細胞質分布が示された。
【0160】
図3で示される通り、一部のCOLO205細胞が37Cで3時間後に強力な内在化を示した一方、それ以外はほとんど効果を示さなかった。
【0161】
同様に、前立腺PC3細胞が特異的なFITC標識抗nfP2X
7抗体(IgG
1型)を2時間以内に飲食運動した(
図4)。抗体は、原形質膜下に位置したファロイジン染色アクチンの真下の細胞質内のEEA1標識エンドソーム内に見られる。核は青色に染色する。
【0162】
実施例2
ATPの放出の阻害を誘発するのに標的受容体の架橋が要求されるか否かに関する課題は、V
H型の単頭ドメイン抗体の効果をDID標識抗体の場合と比較することによって対処した。
図5が示す通り、酷似するATP阻害が同じ濃度の双頭ドメイン(左側バー、青色)および単一ドメイン(右側バー、赤色)で誘発された。
【0163】
実施例3
上清中の測定可能なATPの量が全細胞内ストアのわずか1%オーダーであることから、ATPの阻害は細胞溶解後に測定するのが最良である。上清に放出されるATPは急速に加水分解される。形式がドメイン、ジドメインまたは全抗体のいずれかである場合、全ATPの漸減は、抗P2X7抗体と結合された受容体のエンドサイトーシスに続く。ATPストアは、エンドサイトーシスを駆動するのに用いられるATPを介して供給されるエネルギーに応じて枯渇される。
【0164】
したがって、成長する腫瘍細胞により放出される利用可能なATP全体は、P2X3などの受容体を利用し、プリン作動性疼痛経路を活性化するのに利用可能なアゴニストの供給を低減する様々な形式の飽和レベルの結合抗体の存在下で低減される(Chessell IP,Hatcher JP,Bountra C,Michel AD,Hughes JP,Green P,Egerton J,Murfin M,Richardson J,Peck WL,Grahames CB,Casula MA,Yiangou Y,Birch R,Anand P and BuellGN.Disruption of the P2X7 purinoceptor gene abolishes chronic inflammatory and neuropathic pain.Pain 2005,114:386-96)。
【0165】
腫瘍細胞によって供給されるアゴニストにより惹起される全身痛シグナルからの緩和は、十分な用量の外因性抗体の場合、1~2日にわたり生じると想定される。静脈内を介して適用される親和性がより高い形式では、同じ効果を得るため、はるかにより低い用量を用いるのは当然である。これは、用量が1mg/kg未満に低下され得るような多価提示を介して得られる、より高い親和性抗体またはより高い結合活性を含んでもよい。
【0166】
実施例4
体重が3.7kgの去勢手術を受けた3歳雄ネコを動物の腫瘍クリニックに移し、直径1cmの原発性膵がんを検出した後の6週目に安楽死させた。介入期間中、その原発性がんは、3cmに成長しており、肝臓(直径4cmの二次性)および網(直径が最大1cmの極めて多数の二次性がん)に転移していた。患者はもはや立つことも食事もできず、これらの症状は全身性侵害受容性疼痛を患う個体の特徴である。ヒツジ由来のP2X7特異抗体の注入を準備し、2mg/kgの腹腔内投与および2mg/kgの静脈内投与を、カテーテルを介して脚に20分にわたり適用した(容積5mL)。2日以内に、患者は、食欲と、常に喉をゴロゴロ鳴らすことおよび遊ぶことを含む態度とを回復したが、それは疼痛の著しい軽減を示唆する。患者は胃腸の問題を何も示さなかった。ネコの挙動および態度は、疼痛におけるこの著しい軽減が毎週の治療とともに維持されたことを示唆する。
【0167】
実施例5
33.6kgの13歳雌ゴールデンリトリーバーを、重篤な左前肢跛行を有する紹介された顧客として診療所に渡した。そのゴールデンリトリーバーは立つことができなかった。CT(コントラストおよび単純)は、左近位上腕骨の著明な溶解を示した。このゴールデンリトリーバーは、疼痛緩和のため、非ステロイド性抗炎症剤、トラマドールおよびガバペンチンを受けていた。
【0168】
抗ヒツジ抗体効果に対する予防として抗ヒスタミンを前投与した後、ハートマン溶液500mL中、10mg/kgのヒツジ由来のP2X7抗体を静脈内送達で4時間の期間にわたり投与した。注入に対する有害反応は全く認められなかった。翌日には、家族はゴールデンリトリーバーがその食欲を急速に回復し、「満足感の明らかな兆候」を示すことを報告した。家族は、階段を使用する意欲の高まり、散歩に行くことへの欲求、家族構成員の周りへの追従によって示されるようにゴールデンリトリーバーの可動性が改善したことを報告した。疼痛はもはや明らかな特徴ではなかった。
【0169】
治療は6週にわたり毎週継続した。
【0170】
実施例6
例は、肝臓および腹膜壁に転移した末期食道がんを有する42歳男性であった。治療前の数週間、男性は体重が約30kg減っており、有意な侵害受容性疼痛の特徴を有し、疼痛薬の組み合わせで治療され、睡眠遮断を経験しつつあった。初期注入として5mg/kgのヒト特異抗体を2時間にわたり投与した後、男性は疼痛の軽減を経験し、薬剤の大量投与(breakthrough doses)をもはや必要とせず、その睡眠は初期に改善し、男性はより明晰になり、患者は一貫性のある会話を保つことができた。その2回目の治療に先立ち、男性は体重がさらに約10kg減っており、治療の朝に意識消失していた。2回目の治療後、男性は一貫性があり、数か月ぶりにその最初の食事をとり、疼痛の軽減およびその疼痛管理レジームでの対応する軽減を有した。その3回目の治療前に、男性の疼痛は再発し、増強された疼痛管理および緩和ケアに関連することを必要とした。その3回目の治療後、男性はより一貫するようになった。
【0171】
実施例7
例は、基底細胞がんに由来する大容積の全身転移性疾患を有する末期54歳患者であった。治療薬は、nfP2X7受容体の発現に対する内因性の特異抗体応答を生成するように設計されたペプチド治療ワクチンの形態で投与した。患者は、初期は外来であったが、弱々しく、不快感が顕著であった。初期治療薬を皮下に適用し、追加免疫を2週間隔で適用し、これは液性応答の形成のために設計された投与レジームであり、それから液性応答が他の実験において検出されている。患者の全体的な生活の質は、疼痛緩和ならびに患者の肌の色合い、全身のエネルギーおよび全体的態度に対する改善からも明らかなように改善した。
【0172】
本明細書中で開示され、定義される本発明が、本文または図面に記述されるかまたはそれから明らかである2つ以上の個別の特徴のあらゆる代替的な組み合わせに拡張されることは理解されるであろう。これらの異なる組み合わせのすべては、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
【配列表】