(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】受信電力推定方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
H04B 17/318 20150101AFI20220629BHJP
H04W 16/18 20090101ALI20220629BHJP
【FI】
H04B17/318
H04W16/18 110
(21)【出願番号】P 2018099163
(22)【出願日】2018-05-23
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】松田 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】原 晋介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 龍
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
(72)【発明者】
【氏名】小野 文枝
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-241574(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130877(WO,A1)
【文献】特開平07-253446(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0253436(US,A1)
【文献】特開2015-162188(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107251600(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/318
H04W 16/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機からの3次元空間上の送信位置(i
1、i
2、i
3)、受信機による3次元空間上の受信位置(j
1、j
2、j
3)の何れか1以上を含むと共に、必要な場合には上記送信機からの無線信号の周波数k、上記無線信号の発信時点tの何れか1以上を含む変数に基づいて、上記各受信位置上の受信電力を推定する受信電力推定方法において、
全体空間領域Ω
0よりも小さい部分空間領域Ωにおける各観測位置の観測受信電力に基づいて、上記変数で構成されるn階(n:変数の種類数)の観測テンソルY(=[y
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を定義する観測ステップと、
上記観測ステップにおいて定義された観測テンソルYに基づいて、全体空間領域Ω
0内の各受信位置におけるn階の受信電力テンソルX(=[x
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を推定することより、上記受信電力を推定する推定ステップとを有し、
上記観測ステップでは、(1)式からなる観測テンソルYを定義し、
【数1】
・・・・・(1)
上記推定ステップでは、上記受信電力テンソルXを、上記部分空間領域Ωにおいて観測テンソルYで構成すると共に、上記部分空間領域Ωを除く全体空間領域Ω
0において上記観測テンソルYに基づいて低ランク近似により近似させたn階のテンソルとして推定すること
を特徴とする受信電力推定方法。
【請求項2】
上記推定ステップでは、上記部分空間領域Ωを除く全体空間領域Ω
0において、推定すべき受信電力テンソルXのランクを最小化するn階のテンソルを最適化問題に基づいて探索すること
を特徴とする請求項1記載の受信電力推定方法。
【請求項3】
上記推定ステップでは、推定した上記階の受信電力テンソルXと、上記送信位置(i
1、i
2、i
3)と、上記受信位置(j
1、j
2、j
3)との距離に基づく距離減衰とに基づいて上記受信電力を推定すること
を特徴とする請求項1又は2記載の受信電力推定方法。
【請求項4】
上記観測ステップでは、上記送信位置(i
1、i
2、i
3)と、上記受信位置(j
1、j
2、j
3)と、上記周波数kと、上記発信時点tからなる変数で構成される8階の観測テンソルY(=[y
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を定義し、
上記推定ステップでは、上記8階の受信電力テンソルX(=[x
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を推定することより、上記受信電力を推定すること
を特徴とする請求項1~3のうち何れか1項記載の受信電力推定方法。
【請求項5】
上記観測ステップでは、部分空間領域Ω内を飛行する無人航空機により上記無線信号を上記各受信位置(j
1、j
2、j
3)において受信することで上記観測受信電力を取得することを連続して行うこと
を特徴とする請求項4記載の受信電力推定方法。
【請求項6】
送信機からの3次元空間上の送信位置(i
1、i
2、i
3)、受信機による3次元空間上の受信位置(j
1、j
2、j
3)の何れか1以上を含むと共に、必要な場合には上記送信機からの無線信号の周波数k、上記無線信号の発信時点tの何れか1以上を含む変数に基づいて、上記各受信位置上の受信電力を推定する受信電力推定システムにおいて、
全体空間領域Ω
0よりも小さい部分空間領域Ωにおける各観測位置の観測受信電力に基づいて、上記変数で構成されるn階(n:上記変数の種類数)の観測テンソルY(=[y
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を定義する観測手段と、
上記観測
手段において定義された観測テンソルYに基づいて、全体空間領域Ω
0内の各受信位置におけるn階の受信電力テンソルX(=[x
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を推定することより、上記受信電力を推定する推定手段とを備え、
上記観測手段は、(1)式からなる観測テンソルYを定義し、
【数1】
・・・・・(1)
上記推定手段は、上記受信電力テンソルXを、上記部分空間領域Ωにおいて観測テンソルYで構成すると共に、上記部分空間領域Ωを除く全体空間領域Ω
0において上記観測テンソルYに基づいて低ランク近似により近似させたn階のテンソルとして推定すること
を特徴とする受信電力推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信機から発信される無線信号の受信電力を予め全体空間領域内において推定する上で好適な受信電力推定方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において無人航空機(UA:Unmanned Aircraft)を利用した無線通信方法が各種検討されている。中でも無人航空機を無線通信の中継機として利用する方法も研究が進んでおり、例えば孤立地域からの無線通信を無人航空機が中継することにより、災害時等における正常な通信インフラの動作も試みられている。このような無線通信の中継機として利用される無人航空機においては、地上局と無人航空機、或いは無人航空機同士の無線通信リンクを確立することが必要不可欠となる。
【0003】
例えば
図5に示すように、無人航空機72により撮影された映像の配信等の応用技術において必要となる、地上局71と無人航空機72との無線通信について考えてみる。このような地上局71と無人航空機72との無線通信においては、地上局71と無人航空機72との間に存在する山等の地形や建築構造物による減衰や、他の地上局71と他の無人航空機72との間における無線通信に基づく干渉が存在する。このため地上局71と無人航空機72との間で良好な無線通信を実現するためには、これらの影響を十分に考慮した上で、無線通信を開始する無人航空機72の3次元空間上の位置や通信方式を決定する必要がある。従って、地上局71、無人航空機72間の無線通信に与える影響を考察するためには、この地上局71や無人航空機72による無線信号の受信電力の空間分布を先ずは把握する必要がある。そして、把握した受信電力の空間分布に基づいて、無人航空機72が飛行する各受信位置に応じて回線設計やネットワーク設計を行う必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】MIMO 伝搬特性の測定装置・測定方法・解析方法・モデル化、電子情報通信学会論文誌B、Vol.88(9),pp1624-1640,2005-09-01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した無線信号の受信電力は、地上局71と無人航空機72の位置関係に基づいて決まる。この無人航空機72は、あらゆる3次元空間上の領域を飛行する可能性がある。このため、地上局71や無人航空機72による無線信号の受信電力の空間分布を把握しようとした場合、無人航空機72が飛行する可能性がある全ての3次元空間上の位置と地上局71の組み合わせに対して受信電力分布を計測する必要が出てくる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、このような3次元空間全体について受信電力を測定するためには3次元空間全体の各位置、時間帯、周波数毎に網羅的に測定を行う必要があり、無人航空機72が飛行する可能性がある全ての3次元空間全体が広大なものであるほど、これに比例して膨大な数の受信電力測定を行わなければならなくなる。その結果、受信電力分布を得るための測定時間が過大となり、計算量も大幅に増加してしまう。
【0007】
また、このような3次元空間全体の各位置、時間帯、周波数毎に受信電力を網羅的に測定しようとする場合には、測定前における事前の処理や地形データの入力を始めとした条件設定を行う必要があり、これらに基づいた膨大な計算量が必要となる。この測定前における条件設定等がわずかに変化した場合には、計算そのものを初めからやり直さなければならない。また災害後に建築構造物や地形において変化が生じた場合に、直ちに建築構造物や地形のデータ等を入手することは一般に困難である。このため、災害後においては特に精度の高い値を算出することが難しいという問題点があった。
【0008】
この受信電力測定を無人航空機72を移動させながら測定する場合には、その測定環境が逐次変化する可能性が高いことから、計算のやり直しを余儀なく行わなければならないケースが増大し、3次元空間上の受信電力分布の測定効率が低下してしまう問題点があった。
【0009】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、3次元空間全体の各位置、時間帯、周波数毎に受信電力分布を求める上でこれを網羅的に全て測定することなく推定することが可能な受信電力推定方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る受信電力推定方法は、送信機からの3次元空間上の送信位置(i
1、i
2、i
3)、受信機による3次元空間上の受信位置(j
1、j
2、j
3)の何れか1以上を含むと共に、必要な場合には上記送信機からの無線信号の周波数k、上記無線信号の発信時点tの何れか1以上を含む変数に基づいて、上記各受信位置上の受信電力を推定する受信電力推定方法において、全体空間領域Ω
0よりも小さい部分空間領域Ωにおける各観測位置の観測受信電力に基づいて、上記変数で構成されるn階(n:変数の種類数)の観測テンソルY(=[y
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を定義する観測ステップと、上記観測ステップにおいて定義された観測テンソルYに基づいて、全体空間領域Ω
0内の各受信位置におけるn階の受信電力テンソルX(=[x
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を推定することより、上記受信電力を推定する推定ステップとを有し、
上記観測ステップでは、(1)式からなる観測テンソルYを定義し、
【数1】
・・・・・(1)
上記推定ステップでは、上記受信電力テンソルXを、上記部分空間領域Ωにおいて観測テンソルYで構成すると共に、上記部分空間領域Ωを除く全体空間領域Ω
0において上記観測テンソルYに基づいて低ランク近似により近似させたn階のテンソルとして推定することを特徴とする。
【0011】
第2発明に係る受信電力推定方法は、第1発明において、上記推定ステップでは、上記部分空間領域Ωを除く全体空間領域Ω0において、推定すべき受信電力テンソルXのランクを最小化するn階のテンソルを最適化問題に基づいて探索することを特徴とする。
【0012】
第3発明に係る受信電力推定方法は、第1発明又は第2発明において、上記推定ステップでは、推定した上記階の受信電力テンソルXと、上記送信位置(i1、i2、i3)と、上記受信位置(j1、j2、j3)との距離に基づく距離減衰とに基づいて上記受信電力を推定することを特徴とする。
【0013】
第4発明に係る受信電力推定方法は、第1発明~第3発明の何れかにおいて、上記観測ステップでは、上記送信位置(i1、i2、i3)と、上記受信位置(j1、j2、j3)と、上記周波数kと、上記発信時点tからなる変数で構成される8階の観測テンソルY(=[yi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t])を定義し、上記推定ステップでは、上記8階の受信電力テンソルX(=[xi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t])を推定することより、上記受信電力を推定することを特徴とする。
【0014】
第5発明に係る受信電力推定方法は、第4発明において、上記観測ステップでは、部分空間領域Ω内を飛行する無人航空機により上記無線信号を上記各受信位置(j1、j2、j3)において受信することで上記観測受信電力を取得することを連続して行うことを特徴とする。
【0015】
第6発明に係る受信電力推定システムは、送信機からの3次元空間上の送信位置(i
1、i
2、i
3)、受信機による3次元空間上の受信位置(j
1、j
2、j
3)の何れか1以上を含むと共に、必要な場合には上記送信機からの無線信号の周波数k、上記無線信号の発信時点tの何れか1以上を含む変数に基づいて、上記各受信位置上の受信電力を推定する受信電力推定システムにおいて、全体空間領域Ω
0よりも小さい部分空間領域Ωにおける各観測位置の観測受信電力に基づいて、上記変数で構成されるn階(n:上記変数の種類数)の観測テンソルY(=[y
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を定義する観測手段と、上記観測
手段において定義された観測テンソルYに基づいて、全体空間領域Ω
0内の各受信位置におけるn階の受信電力テンソルX(=[x
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を推定することより、上記受信電力を推定する推定手段とを備え、
上記観測手段は、(1)式からなる観測テンソルYを定義し、
【数1】
・・・・・(1)
上記推定手段は、上記受信電力テンソルXを、上記部分空間領域Ωにおいて観測テンソルYで構成すると共に、上記部分空間領域Ωを除く全体空間領域Ω
0において上記観測テンソルYに基づいて低ランク近似により近似させたn階のテンソルとして推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上述した構成からなる本発明によれば、全体空間領域Ω0内における各小領域al、m、n毎の受信電力について3次元空間全体の各位置、時間帯、周波数毎に網羅的に測定を行う必要がなく、一部の部分空間領域Ωについてのみ観測受信電力を測定することで全体空間領域Ω0内における無線信号の受信電力の空間分布を把握することが可能となる。このため、全体空間領域Ω0が広大なものであっても、膨大な数の受信電力測定を行う必要が無くなることから、受信電力分布を得るための測定時間が過大になることもなく、計算量を縮減させることが可能となり、測定効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を適用した受信電力推定システムの全体構成を示す図である。
【
図2】推定装置により受信電力分布を推定する3次元空間で現される全体空間領域の例を示す図である。
【
図3】全体空間領域内において部分空間領域を設定した例を示す図である。
【
図5】無人航空機を利用した無線通信方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した受信電力推定方法及びシステムについて図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0019】
図1は、本発明を適用した受信電力推定システム1の全体構成を示している。この受信電力推定システム1は、3次元空間においてそれぞれ送信機2と受信機3を互いに空間的に配置する。その上でこの受信機3により取得された観測受信電力に基づいて3次元空間における各受信位置の受信電力を推定する推定装置6を備えている。
【0020】
送信機2は無線信号の送信機能のみならずその受信機能を有するものであってもよいし、受信機3は無線信号の受信機能のみならずその送信機能を有するものであってもよいが、以下の説明では、送信機2から送信された無線信号を受信機3により受信する場合を例にとり説明をする。
【0021】
送信機2は、受信機3に向けて無線信号を発信する。送信機2は、地上において設置される基地局等を想定している。送信機2における3次元空間上の送信位置は、xyz座標系において(i1、i2、i3)とする。送信機2を基地局とする場合において、通常この送信位置は固定されるが、これに限定されるものではなく、送信機2の送信位置が移動するものであってもよい。つまり送信機2は基地局に限定されるものではなく移動自在に構成されていてもよい。これに加えて、互いに異なる位置に設置された複数の送信機2で構成されていてもよい。複数の送信機2の何れかから無線信号が発信されるケースも同様に、送信機2自体が位置が固定されているものではないものとみなすことができる。
【0022】
受信機3は、3次元空間内を自在に飛行する無人航空機4に搭載され、送信機2から送信されてくる無線信号を受信する。受信機3は、この受信した無線信号を中継し、これを他の通信システムに対して送信する、いわゆる中継機としての役割を担う場合もある。受信機3における3次元空間上の受信位置は、xyz座標系において(j1、j2、j3)とする。受信機3は無人航空機4に搭載されることを前提とした場合、この無人航空機4が3次元空間上を自在に移動する場合には、この受信機3の受信位置(j1、j2、j3)も自在に移動することが前提となる。但し、この受信機3は、無人航空機4に搭載されることに限定されるものではないため、完全に固定された建築構造物等に搭載される場合もある。かかる場合において、この受信機3の受信位置(j1、j2、j3)は、完全に固定されることになる。
【0023】
ちなみに、送信機2と受信機3とのOFDM信号からなる無線信号を送受信する場合には、各地上局を構成する送信機2に異なるサブキャリアを割り当て、受信機3を介して周波数領域でのランダムサンプリングを行うようにしてもよい。
【0024】
推定装置6は、例えばパーソナルコンピュータ等の電子機器等で構成され、受信機3により受信された無線信号及びその電力に関するデータが送られる。推定装置6では、送信機2の送信位置(i1、i2、i3)及び受信機3の受信位置(j1、j2、j3)、更に送信機2からの無線信号の周波数k、送信機2からの無線信号の発信時点tからなる最大8種類からなる変数に基づいて、受信電力分布の推定を行う。推定装置6は、この推定した受信電力に基づいて、無人航空機4に搭載された受信機3による無線信号の受信環境そのものを推定することも行う。ちなみに発信時点tとは、時間、分、秒レベルで細分化してもよいが、無人航空機4が1回飛行するタイミングを一つの時点として捉えるようにしてもよい。
【0025】
図2は、この推定装置6により受信電力分布を推定する3次元空間で現される全体空間領域Ω
0の例を示している。全体空間領域Ω
0は、無人航空機4が飛行する可能性のある全ての領域である。仮にこの全体空間領域Ω
0は、B
1×B
2×B
3の直方体であるものと仮定する。この全体空間領域Ω
0は、大きさb
1×b
2×b
3の小領域a
l、
m、
nに分割できるものとする。ここでl=1、2、・・・、B
1/b
1、m=1、2、・・・、B
2/b
2、n=1、2、・・・、B
3/b
3)に分割する。ここでN
1=B
1/b
1、N
2=B
2/b
2、N
3=B
3/b
3は各軸における観測点の数である。簡単のため、N
1、N
2、N
3が整数となるように、b
1、b
2、b
3を与えるものとする。全体空間領域Ω
0における3次元空間内の空間座標は以下のように表現することができる。
{(j
1、j
2、j
3)|j
q=1、2、3、・・・・、N
q、q=1、2、3}
【0026】
このような全体空間領域Ω0の領域内において自在に飛行する無人航空機4における受信機3は、この小領域al、m、nの中心において観測すると仮定する。各小領域al、m、nの中心において観測された受信電力をPl、m、n(dBm)とする。
【0027】
本発明においては、このようにして定義した全体空間領域Ω
0における全ての小領域a
l、
m、
nについて、受信電力P
l、
m、
nを推定することを行う。この推定を行うに当たり、全体空間領域Ω
0よりも小さい部分空間領域Ωにおける各観測位置の観測受信電力P´
l、
m、
nを測定する。
図3は、この全体空間領域Ω
0において部分空間領域Ωを設定した例を示している。部分空間領域Ωを構成する各小領域a
l、
m、
nについて、上述のように受信機3を搭載した無人航空機4を飛行させ、各受信位置(j
1、j
2、j
3)において無線信号を受信することで観測受信電力P´
l、
m、
nを計測する。この動作を繰り返し実行することにより、部分空間領域Ω内における観測受信電力P´
l、
m、
nを順次得ることができる。この観測受信電力P´
l、
m、
nを計測する上でも同様に部分空間領域Ωを構成する各小領域a
l、
m、
nの中心において受信電力を観測するものと仮定する。このようにして測定された観測受信電力P´
l、
m、
nは、その測定位置の3次元座標(j
1、j
2、j
3)と共に受信機3から推定装置6へ送られる。推定装置6は、この観測受信電力P´
l、
m、
nの分布に基づいて、8階の観測テンソルY(=[y
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])を定義する。この観測テンソルYは、送信機2の送信位置(i
1、i
2、i
3)及び受信機3の受信位置(j
1、j
2、j
3)、更に送信機2からの無線信号の周波数k、送信機2からの無線信号の発信時点tからなる最大8種類からなる変数に支配される。ちなみにテンソルの各要素は、無線信号の受信電力(dBm)を表す。
【0028】
以下の式(1)は、観測テンソルY(=[yi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t])を定義する上での一般式を示している。
【0029】
【0030】
この(1)式より、測定した観測受信電力P´l、m、nに基づく受信電力分布f(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)が部分空間領域Ω内において測定したものであれば、観測テンソルY(=[yi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t])を受信電力分布f(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)とし、観測受信電力P´l、m、nに基づく受信電力分布f(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)が部分空間領域Ω外において測定したものであれば、観測テンソルYを0とする。受信電力分布f(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)は、座標全体においてどのように受信電力が分布するかの傾向を示すものである。受信電力は同じ座標位置でも時間的に変動することもあるため、受信電力分布f(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)はそのような変動も含めて捉えたものである。
【0031】
推定装置6は、このようにして観測テンソルYを得た場合には、部分空間領域Ω内における8階の受信電力テンソルX(=[xi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t])を観測テンソルYとする。
【0032】
これに対して、部分空間領域Ωを除く全体空間領域Ω0では上記観測テンソルYに基づいて低ランク近似により近似させたテンソルを受信電力テンソルXとして推定する。このような推定を行う理由としては、f(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)は全体空間領域Ω0内において、空間、周波数、時間について強い相関を持つものと仮定する。つまり送信位置(i1、i2、i3)や受信位置(j1、j2、j3)に近いほど、受信電力は互いに近い値を取るものと仮定しているためである。同様に周波数kが近いほど、受信電力は互いに近い値を取るものと仮定し、発信時点tが近いほど、受信電力は互いに近い値を取るものと仮定しているためである。
【0033】
推定装置6は、この観測テンソルYに基づく低ランク近似を行う過程において、以下の(2)式に基づいた最適化問題に基づいて行うようにしてもよい。かかる場合には、推定すべき受信電力テンソルXのランクを最小化するテンソルを最適化問題に基づいて探索していくことになる。
【0034】
【数2】
Subject to Z(=[z
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t])=Y(=[y
i1、
i2、
i3、
j1、
j2、
j3、
k、
t]) [(i
1、i
2、i
3、j
1、j
2、j
3、k、t)が部分空間領域Ωに含まれる前提]・・・・・・・(2)
【0035】
ここでいうZは、テンソル[zi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t]を意味している。このテンソルZは、まだランクを最小化する最適化問題を解く前の段階のものである。(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)がΩに含まれる場合には、テンソルZをY(=[yi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t])とする。
【0036】
一方、部分空間領域Ω以外においては、このテンソルZのランクを最小化する最適化問題を解いていくことになる。この最適化問題を解いた結果、ランクが最小となったテンソルを受信電力テンソルXとする。
【0037】
部分空間領域Ω以外において最適化問題を解くことによるテンソル補完を行うことで、受信電力テンソルXを求めていくことが可能となる。このようにして全体空間領域Ω0内における全ての小領域al、m、nについてテンソル補完に基づき受信電力テンソルXを求める。
【0038】
推定装置6は、このようにして得られた受信電力テンソルXを推定することより、それぞれの小領域al、m、nについて受信電力を推定する。推定する受信電力は、受信電力テンソルXに基づくものであればいかなる方法で定義されるものであってもよい。換言すれば、この推定する受信電力を受信電力テンソルXそのもので表現するようにしてもよい。推定装置6はこのようにして推定した全体空間領域Ω0内における各小領域al、m、n毎の受信電力テンソル(受信電力)を記録し、ユーザからの要求に応じてこれを読み出し、或いは送信することになる。ユーザは、全体空間領域Ω0内における各小領域al、m、n毎の受信電力に基づいて、無線信号の受信電力の空間分布を把握することが可能となる。把握した受信電力の空間分布に基づいて、無人航空機4が飛行する各受信位置に応じて回線設計やネットワーク設計を行うことが可能となる。
【0039】
しかも本発明によれば、全体空間領域Ω0内における各小領域al、m、n毎の受信電力について3次元空間全体の各位置、時間帯、周波数毎に網羅的に測定を行う必要がなく、一部の部分空間領域Ωについてのみ観測受信電力を測定すればよい。このため、全体空間領域Ω0が広大なものであっても、膨大な数の受信電力測定を行う必要が無くなることから、受信電力分布を得るための測定時間が過大になることもなく、計算量を縮減させることが可能となり、測定効率を向上させることが可能となる。
【0040】
なお、上述した実施の形態においては、受信電力分布fを構成する変数をi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、tとし、観測テンソルY(=[yi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t])、受信電力テンソルX(=[xi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t])をそれぞれ8階で構成される場合を例にとり説明をしたがこれに限定されるものではない。送信機2からの3次元空間上の送信位置(i1、i2、i3)、受信機3による3次元空間上の受信位置(j1、j2、j3)の何れか1以上を含むものであればよい。例えば送信機2が例えば固定基地局であれば、送信位置(i1、i2、i3)を変数から除外し、位置情報を受信機3の受信位置(j1、j2、j3)のみで構成することができる。また受信機3が建築構造物上にて固定されるものであれば、受信位置(j1、j2、j3)を変数から除外し、位置情報を送信機の送信位置(i1、i2、i3)のみで構成することができる。
【0041】
無線信号の周波数k、無線信号の発信時点tについても必須ではなく、省略するようにしてもよい。特に特定の周波数のみでしか無線通信を行わない場合に周波数kを固定する代わりに変数から除外し、また発信時点tについても同様にある特定の時点のみでしか通信を行わない場合には、発信時点tを固定する代わりに変数から除外してもよい。
【0042】
即ち、送信位置(i1、i2、i3)又は受信位置(j1、j2、j3)が変数として含まれていれば、周波数k、発信時点tは変数から除外してもよいし、或いは周波数k、発信時点tの何れか1以上を変数に含むようにしてもよい。
【0043】
仮に受信位置(j1、j2、j3)のみで変数が構成されるのであれば、観測テンソルYは、[yj1、j2、j3])、受信電力テンソルXは、[xj1、j2、j3])と3階のテンソルで表現されることになる。また、受信位置(j1、j2、j3)、周波数k、発信時点tのみで変数が構成されるのであれば、観測テンソルYは、[yj1、j2、j3、k、t])、受信電力テンソルXは、[xj1、j2、j3、k、t])と5階のテンソルで表現されることになる。このテンソルの階数は、変数の種類数と同一となる。上述した3階のテンソルの例では、変数の種類数が3であり、5階のテンソルの例では、変数の種類数が5である。つまり、変数の種類数をnとしたときに、各変数に基づいて構成される受信電力テンソルX、観測テンソルYの階数はn階となる。
【0044】
従って、本実施の形態においては、この変数(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)のうち、実際に受信電力分布を推定する上で支配的になる変数を選択し、その選択した変数の種類に基づき、その種類数nによるn階の観測テンソルY、受信電力テンソルXをそれぞれ定義していくことになる。
【0045】
また実際に受信電力を推定する上で、距離減衰の影響も反映させるようにしてもよい。距離減衰の影響を考慮しないのであれば、上述した変数種n=8の場合には、最適化問題の解としての受信電力テンソルX(=[xi1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t])に基づき、以下の式(3)で表すことが可能となる。
f(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)=X・・・・・(3)
【0046】
これに対して、距離減衰の影響を考慮するのであれば、最適化問題の解としてのXと、距離減衰Qに基づいて以下の(4)式で表すことが可能となる。
f(i1、i2、i3、j1、j2、j3、k、t)=X+Q・・・・・(4)
【0047】
この距離減衰は、送信位置(i1、i2、i3)と、受信位置(j1、j2、j3)との距離が判明すれば計算により求めることが可能となる。送信位置、受信位置の何れかが固定されていても、或いは両方が移動するものであっても、両者間の距離は、周知の手法により求めることができる。求めた距離に基づく距離減衰Qを算出し、これを(4)式に代入することにより、受信電力を推定することができる。
【実施例1】
【0048】
以下、本発明を適用した受信電力推定システム1の効果を検証するために行ったシミュレーションについて説明をする。このシミュレーションでは、単一の送信機2で構成されると共にその位置は固定される。また周波数k、発信時点tは共に固定されており、変数からは除外するものとする。このため変数種としては、受信機3の受信位置(j1、j2、j3)の3つで構成されているものとする。求めるべき受信電力分布は、f(j1、j2、j3)であり、観測テンソルYは、[yj1、j2、j3]、受信電力テンソルXは、[xj1、j2、j3]で表現される。テンソルの各要素は、送信機2から発信された無線信号の各受信位置(j1、j2、j3)における受信電力(dBm)で表される。全体空間領域Ω0において、N1=18、N2=24、N3=5とすることで、合計2160個の小領域al、m、nで構成されている。部分空間領域Ωは、全体空間領域Ω0を構成する合計2160個の小領域al、m、nから、ランダムに選択した1000個の小領域al、m、nで構成される。このシミュレーションでは、建物による距離減衰を考慮しないものとする。
【0049】
シミュレーションでは、全体空間領域Ω0において合計2160個の小領域al、m、nについて受信電力の真値を設定しておく。ちなみに真値は実際に実測した受信電力としている。この真値がシミュレーションの解となる。このようにして設定した真値に対して、部分空間領域Ωにおいて選択した1000個の小領域al、m、nでは、真値を検知したものとみなし、観測テンソルYに真値を当てはめ、これに基づいて残りの全体空間領域Ω0について、受信電力テンソルXを求める。
【0050】
図4にシミュレーションの結果を示す。このシミュレーションの結果より、推定値が真値に対して比較的良い相関を示しているのがわかる。このため、本発明を適用した受信電力推定システム1を通じて、全体空間領域Ω
0を構成する各小領域a
l、
m、
nについて受信電力の実測値に近い計算値を得ることができることが示されている。
【符号の説明】
【0051】
1 受信電力推定システム
2 送信機
3 受信機
4 無人航空機
6 推定装置
71 地上局
72 無人航空機