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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】保護用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/00 20060101AFI20220629BHJP
   C09D 167/03 20060101ALI20220629BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D167/03
C09D5/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021517717
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2020009974
(87)【国際公開番号】W WO2021181449
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000166683
【氏名又は名称】互応化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 輝
(72)【発明者】
【氏名】駒引 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩司
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-067910(JP,A)
【文献】特開2009-275186(JP,A)
【文献】特開2009-275187(JP,A)
【文献】特開2013-245255(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042683(WO,A1)
【文献】特開2013-247177(JP,A)
【文献】特開平05-230198(JP,A)
【文献】特開昭55-005938(JP,A)
【文献】国際公開第2017/158643(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属上に保護膜を作製するために用いられ、
水溶性ポリエステル樹脂(A)を含有
前記水溶性ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸残基(a)を有し、
前記多価カルボン酸残基(a)は、ナフタレンジカルボン酸残基(a2)を含み、
前記ナフタレンジカルボン酸残基(a2)の割合は、前記多価カルボン酸残基(a)に対して、20モル%以上93モル%以下である、
保護用組成物。
【請求項2】
前記水溶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸残基(a)を有し、
前記多価カルボン酸残基(a)は、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)を有し、
前記金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)の割合は、前記多価カルボン酸残基(a)に対して、7モル%以上80モル%以下である、
請求項1に記載の保護用組成物。
【請求項3】
前記金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)の割合は、前記多価カルボン酸残基(a)に対して、7モル%以上15モル%未満である、
請求項2に記載の保護用組成物。
【請求項4】
前記水溶性ポリエステル樹脂(A)は、多価アルコール残基(b)を有し、
前記多価アルコール残基(b)は、エチレングリコール残基(b1)を含み、
前記エチレングリコール残基(b1)の割合は、前記多価アルコール残基(b)に対して、70モル%以上である、
請求項1からのいずれか一項に記載の保護用組成物。
【請求項5】
前記水溶性ポリエステル樹脂(A)の酸価は、10mgKOH/g以下である、
請求項1からのいずれか一項に記載の保護用組成物。
【請求項6】
前記水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、10℃以上100℃以下である、
請求項1からのいずれか一項に記載の保護用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保護用組成物に関し、詳しくは金属を保護するために使用される保護用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属に物理的又は化学的な表面加工を施す場合、又は金属に機械的な加工を施す場合に、金属における加工が施されない箇所を加工時に生じるガス等や飛散物、汚染物質等から保護するために、金属を保護膜で覆うことがある(例えば、特許文献1~3)。
【0003】
保護膜は、加工時等に金属から脱落しないように金属に対する密着性を有しながら、加工の後には金属から容易に除去されることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-1368号公報
【文献】特開2003-89060号公報
【文献】特開2019-191470号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の課題は、金属上に保護膜を作製するために用いられ、保護膜が金属に対する密着性を有し、かつ金属から容易に除去されやすい保護膜組成物を提供することである。
【0006】
本開示の一態様に係る保護用組成物は、金属上に保護膜を作製するために用いられ、
水溶性ポリエステル樹脂(A)を含有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0008】
本実施形態に係る保護用組成物は、金属上に保護膜を作製するために用いられる。保護用組成物は、水溶性ポリエステル樹脂(A)を含有する。
【0009】
このため、保護用組成物から作製された保護膜は、金属との密着性を有しやすい。さらに、保護膜を水系洗浄液と接触させることにより、保護膜を金属上から除去しやすい。
【0010】
水系洗浄液を用いて保護膜を除去できるので、保護膜を除去する際の作業環境の悪化を生じさせにくく、かつ廃液処理の必要性を無くし又は低減できる。
【0011】
保護膜が設けられる金属に制限はない。金属は半金属であってもよい。金属は例えば銅、アルミニウム、クロム、ニッケル、鉄、銀、金、ガリウム、インジウム、タンタル、ホウ素、ケイ素(シリコン)、ゲルマニウム、ヒ素、もしくはアンチモン等、又はこれらのうち一以上の金属を含む合金である。
【0012】
金属は、金属基材であってもよく、ガラス基材等の金属以外の基材に設けられた金属層であってもよい。
【0013】
金属上に保護膜を作製する理由に特に制限はない。例えば金属を保管する際、運搬する際、分割加工する際、切削加工する際、研磨加工する際、又はレーザアブレーション加工する際に金属の表面を保護するために保護膜を作製できる。また、金属にウェットエッチング、反応性ガス等を用いたドライエッチング、サンドブラスト処理、又はめっき処理等を施す際のレジストとして保護膜を作製することもできる。
【0014】
保護膜を作製する場合は、例えば金属に保護用組成物を塗布してから、必要に応じて乾燥することで、保護膜を作製できる。保護用組成物を塗布する方法に特に制限はない。例えば、保護用組成物をバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法又はスピンコート法で塗布することができる。保護用組成物を、必要に応じて二種以上のコート法を併用して塗布してもよい。保護用組成物の塗膜を乾燥する場合には、例えば塗膜を120℃以下の温度で、加熱する。減圧下で塗膜を乾燥してもよい。塗膜の厚みは適宜設定され、特に制限はない。
【0015】
金属から保護膜を除去する場合には、例えば保護膜を水性洗浄液に接触させることで除去する。水性洗浄液は、水でもよく、水と有機溶剤とを含む混合溶媒でもよい。有機溶剤は、例えばメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル及びジメチルアセトアミド等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。なお有機溶剤の例は前記のみには限られない。水性洗浄液は、必要に応じて添加剤を含有してもよい。添加剤は、例えば酸、界面活性剤、メタル防食剤等である。保護膜を水性洗浄液に接触させるにあたっては、保護膜を水性洗浄液に浸漬してもよく、保護膜に水性洗浄液をスプレー等で吹き付けてもよい。前記以外の方法で保護膜を水性洗浄液に接触させてもよい。
【0016】
保護用組成物について、更に詳しく説明する。
【0017】
上記のとおり、保護用組成物は、水溶性ポリエステル樹脂(A)を含有する。
【0018】
なお、水溶性ポリエステル樹脂(A)が水溶性を有することは、技術常識に基づいて判断される。特に、親水性有機溶剤や界面活性剤等の分散補助剤を使用しなくても、水溶性ポリエステル樹脂(A)が水に溶解することが好ましい。例えば、水溶性ポリエステル樹脂(A)と90℃の水とを1:4の質量比で混合し、得られた液の温度を90℃に保持したまま、十分な速度で2時間撹拌すると、水溶性ポリエステル樹脂(A)が水に全て溶解することが好ましい。
【0019】
水溶性ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸残基(a)を有してよい。水溶性ポリエステル樹脂(A)は、多価アルコール残基(b)を有してもよい。水溶性ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸残基(a)と多価アルコール残基(b)とを両方有してもよい。
【0020】
水溶性ポリエステル樹脂(A)は、モノマー成分がエステル結合で結合することで生成する重合生成物である。水溶性ポリエステル樹脂(A)が多価カルボン酸残基(a)を有する場合、例えばモノマー成分が多価カルボン酸成分を含有する。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分に由来する多価カルボン酸残基(a)を有することができる。水溶性ポリエステル樹脂(A)が多価アルコール残基(b)を有する場合、例えばモノマー成分は多価アルコール成分を含有する。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)は、多価アルコール成分に由来する多価アルコール残基(b)を有することができる。モノマー成分は、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを含有してもよい。
【0021】
多価カルボン酸成分は、二価以上の多価カルボン酸と多価カルボン酸のエステル形成性誘導体とから選択される、少なくとも一種の化合物から成る。多価カルボン酸のエステル形成性誘導体とは、多価カルボン酸の誘導体、例えば多価カルボン酸の無水物、エステル、酸クロライド、ハロゲン化物等、であって、後述する多価アルコール成分と反応してエステルを形成する化合物である。多価カルボン酸は、一分子あたり二以上のカルボキシ基を有する。
【0022】
多価アルコール成分は、二価以上の多価アルコールと多価アルコールのエステル形成性誘導体とから選択される、少なくとも一種の化合物から成る。多価アルコールのエステル形成性誘導体とは、多価アルコールの誘導体、例えば多価アルコールに対応するジアセテート化合物等、であって、多価カルボン酸成分と反応してエステルを形成する化合物である。多価アルコールは、一分子あたり二以上のヒドロキシ基を有する。
【0023】
モノマー成分は、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のエステル形成誘導体、ラクトン等の、カルボキシ基又はそのエステル形成性誘導基と、ヒドロキシ基又はそのエステル形成性誘導基とを有する化合物を含有してもよい。
【0024】
多価カルボン酸残基(a)は、カルボキシ基とそのエステル形成性誘導基以外に、反応性の官能基を有しないことが好ましい。また、多価アルコール残基(b)は、ヒドロキシ基とそのエステル形成性誘導基以外に、反応性の官能基を有しないことが好ましい。ここでいう反応性の官能基とは、例えばエチレン性不飽和結合、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、ニトロ基、エポキシ基、シアノ基、アゾ基等の反応基である。
【0025】
特に多価カルボン酸残基(a)と多価アルコール残基(b)とが、いずれも反応性の官能基を有しないことが好ましい。これらの場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)の反応性の官能基の量が低減し、或いは水溶性ポリエステル樹脂(A)が反応性を備えなくなる。そうすると、水溶性ポリエステル樹脂(A)を含む保護用組成物が基材に塗布された後で乾燥のために加熱されたり、保護用組成物から作製された保護膜が高速回転するブレードで切削加工された際に接触摩擦熱により加熱されたり、レーザアブレーション加工を施す際のレーザ照射により保護膜が加熱されたりしても、水溶性ポリエステル樹脂(A)の水溶性が低下しにくくなる。さらに、水溶性ポリエステル樹脂(A)が反応性の官能基を有しないと、水溶性ポリエステル樹脂(A)は、金属を変色させにくい。このため、保護膜で金属を覆っても、金属が変色しにくい。なお、金属スルホネート基は、前記の反応性の官能基には含まれない。
【0026】
水溶性ポリエステル樹脂が多価カルボン酸残基(a)を有する場合、多価カルボン酸残基(a)は、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)を含むことが好ましい。金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)によって、水溶性ポリエステル(A)は良好な水溶性を有することができ、そのため保護膜が水性洗浄液によって除去されやすい。
【0027】
金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)は、例えば5-スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩の残基、2-スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩の残基、4-スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩の残基、スルホテレフタル酸のアルカリ金属塩の残基、及び4-スルホナフタレン-2,6-ジカルボン酸のアルカリ金属塩の残基等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。水溶性ポリエステル樹脂(A)に良好な水溶性が付与されるためには、アルカリ金属がナトリウム、カリウム又はリチウムであることが好ましい。特に金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基が5-スルホイソフタル酸ナトリウム残基(例えば5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム残基又は5-スルホイソフタル酸ナトリウム残基等)を含むと、水溶性ポリエステル樹脂(A)中にスルホン酸ナトリウム基が有効に残存し、このため水溶性ポリエステル樹脂(A)に優れた水溶性が付与される。
【0028】
金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)の割合は、多価カルボン酸残基(a)に対して、7モル%以上であることが好ましい。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)の水溶性が良好となり、保護膜が水系洗浄液で除去されやすくなる。さらに、保護膜と金属との良好な密着性が実現されやすい。この割合は、10モル%以上であればより好ましく、15モル%以上であれば更に好ましい。また、この割合は例えば80モル%以下であり、70モル%以下であればより好ましく、60モル%以下であれば更に好ましい。
【0029】
金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)の割合が、多価カルボン酸残基(a)に対して、7モル%以上15モル%未満であることも好ましい。この場合、保護膜に、常温の水では除去されにくく、かつ温水によっては除去されやすいという特性が、付与されやすい。そのため、保護用組成物を、このような特性を利用した用途に適用可能である。例えば、高速回転するブレードを基材に押し当てながら切削加工を施すブレードダイシングでは、ブレードと基材とが接触することで接触摩擦熱が生じる。接触摩擦熱を緩和するため、ブレードと基材に水を吹きかけながら切削加工を施した後、基材上に設けた保護膜を温水によって除去する場合がある。このような用途では、保護膜に、常温の水では除去されにくく、かつ温水によっては除去されやすいという特性が必要となる。
【0030】
水溶性ポリエステル樹脂が多価カルボン酸残基(a)を有する場合、多価カルボン酸残基(a)が、ナフタレンジカルボン酸残基(a2)を含むことも好ましい。ナフタレンジカルボン酸残基(a2)によって、水溶性ポリエステル(A)及び保護膜は、波長355nm付近の光を吸収しやすくなり、保護用組成物がレーザ光吸収剤を含有しなくても、YAGレーザ(第三高調波)等によるレーザアブレーション加工の効率が高まりやすい。また、保護用組成物がレーザ光吸収剤を含有しなければ、保護用組成物の安定性が高まりやすく、かつ保護膜からのレーザ吸収剤のブリードアウト等の問題が生じない。
【0031】
ナフタレンジカルボン酸残基(a2)の割合は、多価カルボン酸残基(a)に対して、20モル%以上であることが好ましい。この場合、保護膜の波長355nm付近の光の吸収性が特に良好になりやすい。この割合が30モル%以上であればより好ましく、35モル%以上であれば更に好ましい。またこの割合は例えば93モル%以下であり、90モル%以下であれば好ましく、80モル%以下であれば更に好ましい。
【0032】
水溶性ポリエステル樹脂が多価カルボン酸残基(a)を有する場合、多価カルボン酸残基(a)が、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)とナフタレンジカルボン酸残基(a2)とを両方含むことも好ましい。この場合、保護膜は、水系洗浄液によって除去されやすく、かつ波長355nm付近の光の吸収性が良好になりやすい。
【0033】
多価カルボン酸残基(a)は、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)及びナフタレンジカルボン酸残基(a2)以外の多価カルボン酸残基(a3)を含有してもよい。
【0034】
多価カルボン酸残基(a3)は、例えば芳香族ジカルボン酸残基、脂肪族ジカルボン酸残基等の、ジカルボン酸残基を含有する。特に多価カルボン酸残基は、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基等の芳香族ジカルボン酸類の残基、並びにコハク酸残基、アジピン酸残基、セバシン酸残基、ドデカン二酸残基、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸残基等の脂肪族ジカルボン酸類の残基から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。この場合、水溶性ポリエステル樹脂(A)の耐久性が良好となる。特に、多価カルボン酸残基(a3)が脂肪族ジカルボン酸類の残基を含有すると、水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度を低減させやすい。ナフタレンジカルボン酸残基(a2)は水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度を高めやすいが、水溶性ポリエステル樹脂(A)が更に脂肪族ジカルボン酸類の残基を有すると、水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が過度に高くなりにくくできる。
【0035】
水溶性ポリエステル樹脂が多価アルコール残基(b)を有する場合、多価アルコール残基(b)は、グリコール残基を含むことが好ましい。グリコール残基は、エチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、ポリエチレングリコール残基、1,4-ブタンジオール残基等のブタンジオール類の残基、1,6-ヘキサンジオール残基等のヘキサンジオール類の残基、及びネオペンチルグリコール残基等から選ばれる、少なくとも一種を含むことが好ましい。この場合、保護膜の金属との密着性が特に高くなりやすい。また、水溶性ポリエステル樹脂(A)の耐久性の特性が良好となり、また、水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度を低減させやすい。多価アルコール残基に含まれる残基は前記のみには制限されず、例えば1,4-シクロヘキサンジメタノール類の残基、ビスフェノールA残基、ビスフェノールフルオレン残基、ビスフェノキシエタノールフルオレン残基等を含んでもよい。
【0036】
特に、多価アルコール残基(b)はエチレングリコール残基を含むことが好ましい。エチレングリコール残基(b1)の割合は、多価アルコール残基(b)に対して、70モル%以上であることが好ましい。この場合、保護膜の金属との密着性が特に高くなりやすい。エチレングリコール残基(b1)の割合は、75モル%以上であればより好ましく、80モル%以上であれば更に好ましい。
【0037】
多価アルコール残基(b)は、ポリエチレングリコール残基を含むことも好ましい。この場合、保護膜の金属との密着性が特に高くなりやすい。また、水溶性ポリエステル樹脂(A)の耐久性の特性が良好となり、また、水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度を低減させやすい。
【0038】
ポリエチレングリコール残基に対応するポリエチレングリコールの数平均分子量は、150以上20000以下であることが好ましい。この場合、保護膜の金属との密着性が特に高くなりやすい。この数平均分子量は、150以上10000以下であればより好ましく、150以上5000以下であれば更に好ましい。なお、この数平均分子量は、無水酢酸-ピリジン法等による水酸基価の測定結果から導出される。
【0039】
ポリエチレングリコール残基の割合は、多価アルコール残基(b)に対して、0.1モル%以上30モル%以下であることが好ましい。この場合、保護膜の金属との密着性が特に高くなりやすい。この割合は0.5モル%以上25モル%以下であればより好ましく、1モル%以上20モル%以下であれば更に好ましい。
【0040】
多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を含むモノマー成分とから水溶性ポリエステル樹脂(A)を合成する場合、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分との割合は、多価カルボン酸成分に含まれるカルボキシ基及びそのエステル形成性誘導基の総数と、多価アルコール成分に含まれるヒドロキシ基及びそのエステル形成性誘導基の総数とが、モル比率で1:1.1~2.5の範囲となるように調整されることが好ましい。
【0041】
水溶性ポリエステル樹脂(A)は、公知のポリエステル製造方法により多価カルボン酸成分及び多価アルコール成分を重合させて生成される。
【0042】
多価カルボン酸成分が多価カルボン酸であり、且つ多価アルコール成分が多価アルコールである場合には、例えば多価カルボン酸と多価アルコールとを一段階の反応で反応させる直接エステル化反応が採用される。
【0043】
多価カルボン酸成分が多価カルボン酸のエステル形成性誘導体であり、且つ多価アルコール成分が多価アルコールである場合には、例えば多価カルボン酸のエステル形成性誘導体と多価アルコールとのエステル交換反応である第一段反応と、第一段反応による反応生成物が重縮合する第二段反応とを経て、水溶性ポリエステル樹脂(A)が製造されてもよい。
【0044】
第一段反応と第二段反応とを経る水溶性ポリエステル樹脂(A)の製造方法について、更に具体的に説明する。第一段反応であるエステル交換反応においては、反応系中に水溶性ポリエステル樹脂(A)の製造に供される全ての原料が最初から含有されていてよい。例えばジカルボン酸ジエステルと多価アルコールとが反応容器に保持された状態で、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、常圧条件下で、150~260℃まで徐々に昇温加熱されることで、エステル交換反応が進行する。
【0045】
第二段反応である重縮合反応は、例えば6.7hPa(5mmHg)以下の減圧下、160~280℃の温度範囲内で進行する。
【0046】
第一段反応及び第二段反応において、任意の時期に、反応系中に触媒として、チタン、アンチモン、鉛、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、マンガン、アルカリ金属化合物等が添加されてもよい。
【0047】
水溶性ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は、1000以上50000以下であることが好ましい。数平均分子量が1000以上であれば、保護膜が十分な強度を有しやすい。数平均分子量が50000以下であれば、水溶性ポリエステル樹脂(A)の水溶性が十分に高くなり、保護膜の水溶性が効果的に向上する。数平均分子量が2000以上40000以下であればより好ましい。なお、水溶性ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(ポリスチレン換算)による測定結果から導出される。
【0048】
水溶性ポリエステル樹脂(A)の水溶性の程度は、例えば水溶性ポリエステル樹脂(A)の分子量と、水溶性ポリエステル樹脂(A)中の金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)の割合とが、バランスよく設定されることで、調整される。すなわち、水溶性ポリエステル樹脂(A)の水溶性が十分に高くなるように、水溶性ポリエステル樹脂(A)の分子量と、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)の割合とが、適宜設定されることが好ましい。
【0049】
また、水溶性ポリエステル樹脂(A)の酸価は、10mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が10mgKOH/g以下であれば、水溶性ポリエステル樹脂(A)は、金属を特に変色させにくい。
【0050】
水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、10℃以上100℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が10℃以上であれば、保護膜に過度な粘着性が生じにくいため、取り扱い性が良好になりやすい。ガラス転移温度が100℃以下であれば、保護用組成物の造膜性が良好となり、保護膜と金属との密着性が良好になりやすい。ガラス転移温度が20℃以上80℃以下であればより好ましく、30℃以上70℃以下であれば更に好ましい。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定による測定結果から導出される。
【0051】
保護用組成物中での水溶性ポリエステル樹脂(A)の割合は、保護用組成物の固形分(不揮発性成分)に対して1質量%以上100質量%以下であることが好ましく、10質量%以上90質量%以下であればより好ましく、15質量%以上80質量%以下であれば更に好ましい。
【0052】
保護用組成物は、水溶性ポリエステル樹脂(A)以外の水性樹脂を更に含有してもよい。水性樹脂によって、例えば保護用組成物の粘度を調整して保護用組成物の塗布性を高めることができる。水性樹脂は、例えばポリビニルアルコール、ポリウレタン、アクリル樹脂、セルロース誘導体、変性ポリプロピレン及び変性ポリエチレン等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0053】
保護用組成物は、適宜の添加剤を含有してもよい。添加剤は、例えばレベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び消泡剤等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0054】
保護用組成物は、水と親水性有機溶剤とのうち少なくとも一方を含有してもよい。この場合、例えば保護用組成物の粘度を調整することで、保護用組成物の塗布性を高めることができる。親水性有機溶剤は、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、1,2-プロパンジオール等のアルコール;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、n-ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル;及びアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトンからなる群から選択される、少なくとも一種を含有する。
【0055】
本実施形態に係る保護用組成物は、特にバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法又はスピンコート法で、容易に塗布しやすい。
【実施例
【0056】
以下、本実施形態の具体的な実施例を提示する。なお、本実施形態は、以下の実施例のみには制限されない。
【0057】
1.ポリエステル樹脂の調製
攪拌機、窒素ガス導入口、温度計、精留塔及び冷却コンデンサーを備える容量1000mlの反応容器を準備した。この反応容器内に、表に示す原料と、触媒であるシュウ酸チタンカリウムとを入れて、混合物を得た。この混合物を、常圧下、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら200℃に昇温し、続いて4時間かけて250℃にまで徐々に昇温することで、エステル交換反応を完了させた。次に、この混合物を250℃の温度下で0.67hPa(0.5mmHg)まで徐々に減圧してから、その状態で2時間保持することで、重縮合反応を進行させた。これにより、ポリエステル樹脂を得た。
【0058】
2.組成物の調製
(1)実施例1~14
ポリエステル樹脂50質量部と、水200質量部とを混合し、これらを攪拌しながら90℃の温度下に2時間保持することで、ポリエステル樹脂濃度20質量%のポリエステル樹脂溶液を得た。
【0059】
(2)比較例1~4
比較例1~4のポリエステル樹脂は水溶性が低く、実施例1~14の条件ではポリエステル樹脂を溶解できなかった。このため、親水性有機溶剤としてn-ブチルセロソルブを使用して樹脂を溶解した。詳しくは、ポリエステル樹脂50質量部と、n-ブチルセロソルブ25質量部と、水175質量部とを混合し、これらを攪拌しながら90℃の温度下に2時間保持することで、ポリエステル樹脂濃度20質量%のポリエステル樹脂溶液を得た。
【0060】
3.物性評価
(1)数平均分子量
組成物中のポリエステル樹脂の数平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィ(ポリスチレン換算)による測定結果から導出した。
【0061】
(2)ガラス転移温度
組成物中のポリエステル樹脂のガラス転移温度を、示差走査熱量測定による測定結果から導出した。
【0062】
(3)酸価
組成物中のポリエステル樹脂の酸価を、水酸化カリウムのエタノール溶液を用いた滴定により、測定した。
【0063】
4.評価方法
(1)基材密着性
基材として銅板、アルミニウム板、ステンレス板(SUS304)、及び単結晶シリコンウエハを用意した。各基材の上に、組成物をバーコーターで塗布し、100℃で10分間加熱することで乾燥させた。これにより、基材上に厚み5μmの保護膜を形成した。続いて、基材上の保護膜にセロハン粘着テープを密着させてから引き剥がし、基材上に残存する保護膜の様子を観察した。その結果を以下のように評価した。
A:保護膜の剥離が認められない。
B:保護膜の一部が剥離したことが認められる。
C:保護膜の大半の部分が剥離したことが認められる。
【0064】
(2)ブレード加工性
基材としてアルミニウム板を用意し、上記「(1)基材密着性」の場合と同じ方法で、基材上に厚み5μmの保護膜を形成した。この保護膜に高速回転する超硬金属ブレードを用いて幅約80μmの溝を形成した。続いて、基材の外観の様子をマイクロスコープで観察し、その結果を以下のように評価した。
A:良好な加工形状が得られ、保護膜に割れや剥離が認められない。
B:良好な加工形状が得られたが、保護膜の一部に割れや剥離が認められる。
C:良好な加工形状が得られず、保護膜の大半に割れや剥離が認められる。
【0065】
なお、上記評価後、流量1.94L/min、水温70℃の流水を5分間接触させたところ、全ての実施例において、基材上に保護膜は残存せず、保護されていた基材部分には、変色等の異常は認められなかった。
【0066】
(3)波長355nmの光吸収性評価
組成物を水希釈し、紫外可視分光光度計を用いてこの樹脂溶液の吸収スペクトルを測定した。その結果を以下のように評価した。
A:波長355nmの光の吸収が認められる。
B:波長355nmの光の吸収が認められない。
【0067】
(4)レーザ加工性
単結晶シリコン基材に組成物をスピンコート法で塗布してから、自然乾燥することで、厚み10μmの保護膜を形成した。保護膜にQスイッチレーザを用いてUVレーザ光(波長355nm)を照射して、幅約20μmの溝を形成するレーザアブレーションを施した。その結果から、保護膜のレーザ加工性を以下のように評価した。
A:良好な加工形状が得られ、保護膜と基材の間で剥離が認められない。
B:良好な加工形状が得られたが、保護膜と基材の間で一部剥離が認められる。
C:良好な加工形状が得られず、保護膜と基材の間で剥離が認められる。
【0068】
なお、上記評価後、流量1.94L/min、水温70℃の流水を5分間接触させたところ、全ての実施例において、基材上に保護膜は残存せず、評価がAまたはBだったものにおいては、保護されていた基材部分には、変色等の異常は認められなかった。
【0069】
(5)除去性-1
基材としてステンレス板(SUS304)を用意し、上記「(1)基材密着性」の場合と同じ方法で、基材上に厚み5μmの保護膜を形成した。この保護膜に流量1.94L/min、水温30℃の流水を5分間接触させた。続いて、基材の外観を観察し、その結果を以下のように評価した。流水の水温を70℃に変更した場合についても、同様に試験を行い、評価した。
A:基材上に保護膜の残存が認められない。
B:基材上の一部で保護膜の残存が認められる。
C:基材上の大半の部分で保護膜の残存が認められる。
【0070】
なお、いずれの場合においても、保護されていた基材部分には変色等の異常は認められなかった。
【0071】
(6)除去性-2
基材としてアルミニウム板を用意し、上記「(1)基材密着性」の場合と同じ方法で、基材上に厚み5μmの保護膜を形成した。この保護膜に高速回転する超硬金属ブレードを用いて幅約80μmの溝を形成した。その後、この保護膜に流量1.94L/min、水温30℃の流水を5分間接触させた。続いて、基材の外観の様子をマイクロスコープで観察し、その結果を以下のように評価した。流水の水温を70℃に変更した場合についても、同様に試験を行い、評価した。
A:基材上に保護膜の残存が認められない。
B:基材上の一部で保護膜の残存が認められる。
C:基材上の大半の部分で保護膜の残存が認められる。
【0072】
なお、いずれの場合においても、保護されていた基材には変色等の異常は認められなかった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
以上の実施形態及び実施例から明らかなように、本開示の第一の態様に係る保護用組成物は、金属上に保護膜を作製するために用いられ、水溶性ポリエステル樹脂(A)を含有する。
【0076】
第一の態様によると、保護用組成物から作製された保護膜は、金属との密着性を有しやすい。さらに、保護膜を水系洗浄液と接触させることにより、保護膜を金属上から除去しやすい。
【0077】
本開示の第二の態様に係る保護用組成物は、第一の態様において、水溶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸残基(a)を有し、多価カルボン酸残基(a)は、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)を有する。金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)の割合は、多価カルボン酸残基(a)に対して、7モル%以上80モル%以下である。
【0078】
第二の態様によると、水溶性ポリエステル樹脂(A)が特に良好な水溶性を有しやすく、そのため保護膜が水系洗浄液によって特に除去されやすい。
【0079】
第三の態様に係る保護用組成物は、第二の態様において、金属スルホネート基を有する多価カルボン酸残基(a1)の割合は、多価カルボン酸残基(a)に対して、7モル%以上15モル%未満である。
【0080】
第三の態様によると、保護膜に、常温の水では除去されにくく、かつ温水によっては除去されやすいという特性が、付与されやすい。
【0081】
第四の態様に係る保護用組成物は、第一から第三のいずれか一の態様において、水溶性ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸残基(a)を有し、多価カルボン酸残基(a)は、ナフタレンジカルボン酸残基(a2)を含み、ナフタレンジカルボン酸残基(a2)の割合は、多価カルボン酸残基(a)に対して、20モル%以上93モル%以下である。
【0082】
第四の態様によると、水溶性ポリエステル(A)及び保護膜は、波長355nm付近の光を吸収しやすくなり、保護用組成物がレーザ光吸収剤を含有しなくても、YAGレーザ(第三高調波)等によるレーザアブレーション加工の効率が高まりやすい。
【0083】
第五の態様に係る保護用組成物は、第一から第四のいずれか一の態様において、水溶性ポリエステル樹脂(A)は、多価アルコール残基(b)を有し、多価アルコール残基(b)は、エチレングリコール残基(b1)を含み、エチレングリコール残基(b1)の割合は、多価アルコール残基(b)に対して、70モル%以上である。
【0084】
第五の態様によると、保護膜の金属との密着性が特に高くなりやすい。
【0085】
第六の態様に係る保護用組成物は、第一から第五のいずれか一の態様において、水溶性ポリエステル樹脂(A)の酸価は、10mgKOH/g以下である。
【0086】
第六の態様によると、水溶性ポリエステル樹脂(A)は、金属を特に変色させにくい。
【0087】
第七の態様に係る保護用組成物は、第一から第六のいずれか一の態様において、水溶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、10℃以上100℃以下である。
【0088】
第七の態様によると、保護膜に過度な粘着性が生じにくく、かつ造膜性が良好となり、保護膜と金属との密着性が良好になりやすい。