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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】隔膜圧力計及び複合圧力計
(51)【国際特許分類】
   G01L 21/00 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
G01L21/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022045867
(22)【出願日】2022-03-22
【審査請求日】2022-03-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390038896
【氏名又は名称】バキュームプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(72)【発明者】
【氏名】北條 久男
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-243276(JP,A)
【文献】特開2008-8688(JP,A)
【文献】米国特許第3965746(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00-23/32
G01L27/00-27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定圧力下に配置される構造体と、
対向配置されて前記構造体に取付けられる2つの隔膜と、
前記2つの隔膜に固定され、前記2つの隔膜の変位を検出する検出素子と、
を有し、
前記2つの隔膜の各々は、両面の一方が対向面とされ、前記両面の他方を非対向面としたとき、前記構造体及び前記2つの隔膜は、前記対向面及び前記非対向面の一方が臨む空間を基準真空に維持する気密空間とし、前記対向面及び前記非対向面の他方に前記被測定圧力を作用させる隔膜圧力計。
【請求項2】
請求項1において、
前記構造体は、
対向配置される前記2つの隔膜を支持する内側構造体と、
前記内側構造体が内部に支持され、前記2つの隔膜の前記非対向面を前記被測定圧力の雰囲気中に露出させる開口を含む外側構造体と、
を含み、
前記2つの隔膜、前記前記内側構造体及び前記外側構造体で気密に囲まれる前記気密空間が前記基準真空に設定されて、前記対向面に前記基準真空が作用し、前記非対向面に前記被測定圧力が作用する隔膜圧力計。
【請求項3】
請求項1において、
前記構造体は、
内部の前記気密空間が前記基準真空に設定される外側構造体と、
前記外側構造体に支持されて、前記外側構造体内に配置されて、前記基準真空により断熱される内側構造体と、
を有し、
前記内側構造体は、
前記外側構造体より外方に突出した突出端に、前記被測定圧力の気体の導入口を有する導入管と、
前記導入管を介して前記被測定圧力に設定される内側室と、
を含み、
前記2つの隔膜は、前記内側室の一部の隔壁として設けられて、前記対向面に前記被測定圧力が作用し、前記非対向面に前記基準真空が作用する隔膜圧力計。
【請求項4】
請求項3において、
前記内側室は、
前記導入管を介して前記被測定圧力に設定される第1室と、
前記外側構造体の前記内部と連通し、前記第1室とは気密に隔離される第2室と、
前記第1室と前記第2室に区画し、かつ、前記2つの隔膜と連結される、前記2つの隔膜の変位を許容するように変形可能なベローズと、
を含み、
前記2つの隔膜は、前記対向面が、前記第1室の内部に臨んで配置され、
前記検出素子は前記第2室に配置される隔膜圧力計。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、
前記構造体は、前記構造体を前記被測定圧力下に配置して固定する固定部材に、熱絶縁体を介して取付けられる隔膜圧力計。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項において、
前記構造体を包囲する、少なくとも一部に被測定気体を通過させる防着シールド及び/又は熱シールドをさらに有する隔膜圧力計。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項において、
前記検出素子が水晶振動子である隔膜圧力計。
【請求項8】
請求項7に記載の隔膜圧力計と、
被測定圧力下に配置される電離真空計と、
を有し、
前記隔膜圧力計の測定領域と前記電離真空計の測定領域とがオーバーラップする複合圧力計。
【請求項9】
請求項8において、
前記隔膜圧力計の測定領域と前記電離真空計の測定領域とは、0.01~10.0Paの範囲でオーバーラップする複合圧力計。
【請求項10】
請求項8または9において、
前記電離真空計のイオン電流値は窒素換算値に換算され、前記隔膜圧力計の測定値は、前記電離真空計の前記窒素換算値の上限値と整合するようにレベルシフトされる複合圧力計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定圧力下に配置される隔膜圧力計及び複合圧力計に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定圧力下に配置される真空計は、ヌード真空計と称され、特許文献1及び2に記載されているように、電離真空計(熱陰極電離真空計又は冷陰極電離真空計)が知られている。一方、隔膜を用いる隔膜圧力計は、特許文献3に示すように、大気圧雰囲気に配置されて、気密容器内に配置される隔膜の一面に被測定圧力が作用し、他面に基準真空が作用する。
【0003】
また、大気圧から高真空領域まで計測できる複合型真空計として、電離真空計とピラニ真空計と大気圧センサとを組み合わせたもの、あるいは電離真空計と水晶摩擦真空計とを組み合わせたものが知られている。電離真空計として熱陰極電離真空計を用いるものは、冷陰極電離真空計よりも精度が優れており、プロセス圧力制御に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-096763号公報
【文献】特開2007-024849号公報
【文献】特許第6744636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷陰極電離真空計は、熱陰極電離真空計と比較して精度が劣り、特に被測定圧力が高いと放電現象に伴う電極の汚染や消耗が生ずる。ただし、消耗品は交換し易い構造となっている。熱陰極電離真空計は、冷陰極電離真空計の上述した問題はないが、熱源であるフィラメントを有する。ヌード真空計として用いられる電離真空計(熱陰極電離真空計又は冷陰極電離真空計)は、低真空の被測定領域では使用できない。その理由の一つは、酸素分圧が高いと、冷陰極電離真空計では電極が、熱陰極電離真空計ではフィラメントが消耗し、細いフィラメントは断線するからである。他の理由は、フィラメントから飛び出す電子と衝突する分子が多いのでイオン電流が多くなり、感度が低下するからである。一方、ヌード真空計とし用いられずに大気圧雰囲気に配置される隔膜圧力計は、測定値が環境温度に依存して変動する。特に低い被測定圧力では測定誤差が大きくなり、正確な圧力測定ができない。
【0006】
また、大気圧から高真空領域まで計測できる従来の複合圧力計は、少なくとも3種類(熱陰極電離真空計、ピラニ真空計及び大気圧センサ)を組み合わせる必要があった。あるいは、複合圧力計のうち低真空領域の測定に用いられるピラニ真空計または水晶摩擦真空計の圧力指示値は、気体種による感度差があることからプロセス気体組成によって影響を受けるため、正確な真の圧力をリアルタイムで計測することが困難であった。
【0007】
本発明の目的は、環境温度や気体種に依存せずに大気圧以下の圧力を計測できる、被測定圧力下に配置される隔膜圧力計を提供することにある。
本発明の他の目的は、環境温度に依存せずに大気圧から高真空までの広い範囲の圧力を、上記隔膜圧力計を含む2種類の圧力計を組み合わせて測定できる複合圧力計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様は、
被測定圧力下に配置される構造体と、
対向配置されて前記構造体に取付けられる2つの隔膜と、
前記2つの隔膜に固定され、前記2つの隔膜の変位を検出する検出素子と、
を有し、
前記2つの隔膜の各々は、両面の一方が対向面とされ、前記両面の他方を非対向面としたとき、前記構造体及び前記2つの隔膜は、前記対向面及び前記非対向面の一方が臨む空間を基準真空に維持する気密空間とし、前記対向面及び前記非対向面の他方に前記被測定圧力を作用させる隔膜圧力計に関する。
【0009】
本発明の一態様によれば、対向配置される2つの隔膜の各々は、両面の一方に基準真空が作用し、他方に被測定圧力が作用して、その差圧に応じて変位する。よって、気体種に拘わらず、被測定気体分子の一定面積に働く力そのものを測るため、正確な被測定気体圧力を検出できる。この2つの隔膜の変位は絶対値は等しく互いに逆向きであるので、個々の変位が例えば7μm~10μmと小さくても感度は2倍となる。2つの隔膜の変位は、検出素子からの信号に基づき圧力に比例した信号に変換される。検出素子は、圧電素子、静電容量検出素子等を用いることができる。特に、圧電素子が水晶振動子または双音叉型水晶振動子であると、2つの隔膜の変位は水晶振動子の周波数変化として検出され、被測定圧力に比例した出力信号が得られる。この隔膜圧力計は、大気圧から基準真空までの間の被測定圧力を測定することができる。
【0010】
ここで、この隔膜圧力計は被測定圧力下に配置され、しかも熱陰極電離真空計のように熱源が不要であるので、測定雰囲気の温度は被測定圧力下の雰囲気の温度と常に同じとなる。従って、大気圧から低真空までの被測定圧力では環境温度の温度変動に対する測定誤差は小さい。被測定圧力が高真空になるほど、環境温度に対する真空断熱効果が高くなる。よって、大気圧から基準真空までの間の被測定圧力を正確に測定することができる。
【0011】
(2)本発明の一態様(1)では、前記構造体は、対向配置される前記2つの隔膜を支持する内側構造体と、前記内側構造体が内部に支持され、前記2つの隔膜の前記非対向面を前記被測定圧力の雰囲気中に露出させる開口を含む外側構造体と、を含むことができる。こうすると、前記2つの隔膜、前記前記内側構造体及び前記外側構造体で気密に囲まれる前記気密空間が前記基準真空に設定されて、前記対向面に前記基準真空が作用し、前記非対向面に前記被測定圧力が作用する。
【0012】
(3)本発明の一態様(1)では、前記構造体は、内部の前記気密空間が前記基準真空に設定される外側構造体と、前記外側構造体内に配置されて、前記基準真空により断熱される内側構造体と、を有することができる。前記内側構造体は、前記外側構造体より外方に突出した突出端に、前記被測定圧力の気体の導入口を有する導入管と、前記導入管を介して前記被測定圧力に設定される内側室と、を含むことができる。この場合、前記2つの隔膜は、前記内側室の一部の隔壁として設けられて、前記対向面に前記被測定圧力が作用し、前記非対向面に前記基準真空が作用する。
【0013】
(4)本発明の一態様(3)では、前記内側室は、前記導入管を介して前記被測定圧力に設定入される第1室と、前記外側構造体の前記内部と連通し、前記第1室とは気密に隔離される第2室と、前記第1室と前記第2室に区画し、かつ、前記2つの隔膜と連結される、前記2つの隔膜の変位を許容するように変形可能なベローズと、を含むことができる。この場合、前記2つの隔膜は、前記対向面が、前記第1室の内部に臨んで配置され、前記圧電素子は前記第2室に配置される。
【0014】
(5)本発明の一態様(1)~(4)では、前記構造体は、前記構造体を前記被測定圧力下に配置して固定する固定部材に、熱絶縁体を介して取付けることができる。こうすると、固定部材が環境温度の変動を空けても、その環境温度の固体伝熱を熱絶縁体により遮断することができる。
【0015】
(6)本発明の一態様(1)~(5)では、前記構造体を包囲する、少なくとも一部にて被測定気体を通過させる、防着シールド及び/又は熱シールドをさらに有することができる。こうすると、被測定圧力下に例えば蒸着源が配置されても、蒸着源からの粒子や熱を遮断することができる。
【0016】
(7)本発明の一態様(1)~(6)では、前記検出素子は水晶振動子とすることができる。水晶振動子は、大気圧から高真空領域例えば10-2Paまでの被測定圧力を測定することができる。
【0017】
(8)本発明の他の態様は、
本発明の一態様(7)の隔膜圧力計と、
被測定圧力下に配置される電離真空計と、
を有し、
前記隔膜圧力計の測定領域と前記電離真空計の測定領域とがオーバーラップする複合圧力計に関する。
【0018】
本発明の他の態様によれば、隔膜圧力計の測定領域と電離真空計の測定領域とがオーバーラップすることから、一つの複合圧力計によって大気圧から高真空または超高真空までの被測定圧力を測定することができる。電離真空計は、熱陰極であっても冷陰極であってもよいが、精度の観点から熱陰極が好ましい。この複合圧力計は被測定圧力下に配置されるので、測定雰囲気の温度は被測定圧力下の雰囲気の温度と常に同じとなる。ここで、大気圧から低真空までの被測定圧力では外気の温度変動に対する測定誤差は小さく、しかもこの範囲の被測定圧力は、熱源のない本発明の一態様に係る隔膜圧力計によって測定できる。一方、高真空の被測定圧力は主として電離真空計、特に熱源を含む熱陰極電離真空計よって測定される。電離真空計は、気体種による感度の違いはあるが、イオン電流(測定値)と圧力の間に比例関係が保証されているので、圧力の相対精度は読み取り精度並みの信頼性がある。よって、大気圧から高真空または超高真空までの間の被測定圧力を正確に測定することができる。
【0019】
(9)本発明の他の態様(8)では、前記隔膜圧力計の測定領域と前記電離真空計の測定領域とは、0.01~10.0Paの範囲でオーバーラップさせることができる。この場合、隔膜圧力計は大気圧から0.01Paまでを測定領域とし、電離真空計は10.0Paより低い真空領域を測定領域とすることができる。このオーバーラップ領域は、0.1~10.0Pa、あるいは0.1~1.0Paとしても良い。
【0020】
(10)本発明の他の態様(8)または(9)では、前記電離真空計のイオン電流値は窒素換算値に換算され、前記隔膜圧力計の測定値を、前記電離真空計の前記窒素換算値の上限値と整合するようにレベルシフトしてもよい。こうすると、大気圧から高真空または超高真空までの測定値はリニアな特性となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係る隔膜圧力計を示す断面図である。
図2】被測定圧力と熱遮断効果との相関を示す特性図である
図3図3(A)~図3(C)は、図1に示す隔膜圧力計の一例を示す図である。
図4図4(A)及び図4(B)は、図1に示す隔膜圧力計の他の例を示す図である。
図5図1に示す隔膜圧力計のさらに他の例を示す図である。
図6図1に示す隔膜圧力計のさらに他の例を示す断面図である。
図7図6に示す隔膜圧力計の要部の断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る複合圧力計を示す断面図である。
図9】複合圧力計の被測定圧力範囲を示す特性図である。
図10】複合圧力計のうち、電離真空計では気体種による感度の違いが生じることを示す、図9の特性の元になる特性図である。
図11図8のフィラメントの配置を変更した変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
1.第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る隔膜圧力計10を示している。この隔膜圧力計10は、2つの隔膜20と、検出素子30と、構造体40とを含む。構造体40は被測定圧力(Pm)下に配置される。2つの隔膜20は、対向配置されて構造体40に取付けられる。検出素子30は、2つの隔膜20に固定される。フランジ90は、構造体40を被測定圧力(Pm)下に配置して固定するための固定部材である。フランジ90は、例えば真空チャンバー等に取り付けられることで、構造体40を被測定圧力(Pm)下に配置する。構造体40は、熱絶縁体92を介してフランジ90に取付けることができる。こうすると、フランジ90が環境温度の影響を受けても、その環境温度の固体伝熱を熱絶縁体92により遮断することができる。フランジ90の大気圧側には、検出素子30を駆動する駆動回路や信号出力回路等が設けられる回路ブロック94が固定される。2つの隔膜20の変位を検出する検出素子30は、例えば振動子等の圧電素子である。駆動回路である発振回路により振動子30を振動させ、その共振抵抗Zを求める。この測定された共振抵抗Zと、固有共振抵抗Z(高真空における値)との差ΔZ(=Z-Z)から、気体の圧力を測定することができる。
【0023】
2つの隔膜20の各々は、両面の一方が対向面20Aとされ、両面の他方を非対向面20Bとする。構造体40及び2つの隔膜20は、対向面20A及び非対向面20Bの一方、図1では対向面20Aが臨む空間が基準真空(Pr)に維持するための気密空間40Aに設定する。対向面20A及び非対向面20Bの他方、図1では非対向面20Bに、被測定圧力(Pm)を作用させる。
【0024】
本実施形態によれば、対向配置される2つの隔膜20の各々は、両面の一方である対向面20Aに既知の基準真空(Pr)が作用し、他方である非対向面20Bに被測定圧力(Pm)が作用して、その差圧に応じて変位する。この2つの隔膜20の変位は絶対値は等しく互いに逆向きであるので、個々の変位が例えば7μm~10μmと小さくても感度は2倍となる。さらに、2つの隔膜20の間に検出素子30を固定することで、従来の隔膜圧力計において隔膜自身の自重で生じている圧力測定誤差をキャンセルできる。つまり、真空計の取り付け姿勢に起因して生じ得る誤差を解消している。こうして、2つの隔膜20の変位は、圧電素子30により圧力に比例した信号に変換される。特に、圧電素子30が水晶振動子または双音叉型水晶振動子であると、2つの隔膜20の変位は水晶振動子の周波数変化として検出され、被測定圧力(Pm)に比例した出力信号が得られる。それにより、大気圧から基準真空までの間の被測定圧力(Pm)を測定することができる。
【0025】
ここで、この隔膜圧力計10の構造体40は被測定圧力(Pm)下に配置され、しかも電離真空計のように熱源が不要であるので、測定雰囲気の温度は被測定圧力(Pm)下の雰囲気の温度と常に同じとなる。図2は、被測定圧力(Pm)と熱遮断効果との相関を示す。一般に、大気圧(1.013×10Pa)よりも圧力が低い真空領域は、低真空(10~10Pa)、中真空(10~10-1Pa)、高真空(10-1~10-5Pa)と分類される。図2の通り、被測定圧力(Pm)が大気圧(約10Pa)から高真空(10-2Pa)までは、被測定圧力(Pm)の熱遮断効果は0%から100%に向けて変化し、例えば10-2Paよりも高真空側(10-2Pa~10-5Pa)では熱遮断効果は100%となる。つまり、被測定圧力(Pr)が高真空領域(10-1~10-5Pa)では、外気温度に対する真空断熱効果が高い。一方、温度に対する圧力変動に伴う測定誤差は、高真空(10-1~10-5Pa)よりも、大気圧から中真空(10~10-1Pa)までの被測定圧力(Pm)では小さい。よって、大気圧から中真空(10~10-1Pa)までの被測定圧力(Pm)では、被測定圧力(Pm)の熱遮断効果が小さくても、温度に対する圧力変動に伴う測定誤差を無視できる。よって、大気圧から高真空までの間の被測定圧力(Pm)を精度よく測定することができる。
【0026】
構造体40は、図3(A)~図3(C)に示すように、気密空間40Aと連通する排気管41及びポンプ収容部42を有することができる。ポンプ収容部42には未活性のゲッターポンプ43が収容される。例えば立方体の構造体40の一面が開放されている状態で、2つの隔膜20が構造体40に取り付けられると共に、振動子30の両端部が2つの隔膜20に固定される。その後、構造体40の開放された一面に蓋が固定される。ポンプ収容部42の回りにヒーターを巻いて例えば500℃で例えば1時間、ゲッターポンプ43を活性化し、その際に排気管41の解放された端部から真空ポンプで排気する。その後ポンプ収容部42を冷却し、排気管41の端部を封止する。その状態でゲッターポンプ43が作動すると、気密空間40Aが例えば10-5Paの基準真空(Pr)に設定される。
【0027】
あるいは構造体40は、図4(A)及び図4(B)に示すように、気密空間40Aと連通する排気管44を有するものであっても良い。排気管44は、ゲッターポンプ45を収容する収容部を兼ねることができる。
【0028】
あるいは構造体40は、図5に示すように、内側構造体50と外側構造体52と、を含むものであっても良い。内側構造体50は、対向配置される2つの隔膜20を支持する。外側構造体52は、内部に内側構造体50が支持され、2つの隔膜20の非対向面20Bを被測定圧力(Pm)の雰囲気中に露出させる開口52Aを含むことができる。こうすると、2つの隔膜20、内側構造体50及び外側構造体52で気密に囲まれる気密空間40Aが基準真空(Pr)に設定される。この場合、対向面20Aに基準真空(Pr)が作用し、非対向面20Bに被測定圧力(Pm)が作用する。2つの隔膜20及び検出素子30を内側構造体50に取付けた後に、その内側構造体50が外側構造体52内に配置されて固定される。こうすると、図3(A)~図3(C)に示す構造体40よりも組立工程が容易となる。
【0029】
あるいは構造体40は、図6に示すように、内部の気密空間40Aが基準真空(Pr)に設定される外側構造体60と、外側構造体60内に配置されて、基準真空(Pr)により断熱される内側構造体70と、を有するものであっても良い。内側構造体70は、外側構造体60より外方に突出した突出端に、被測定圧力の気体の導入口を有する導入管72と、導入管72を介して被測定圧力(Pm)に設定される内側室74と、を含むことができる。この場合、2つの隔膜20は、内側室74の一部の隔壁として設けられて、対向面20Aに被測定圧力(Pm)が作用し、非対向面20Bに基準真空(Pr)が作用する。
【0030】
図6及び図7に示すように、内側室74は、導入管72を介して被測定圧力(Pm)に設定入される第1室80と、外側構造体60の内部の気密空間40Aと連通し、第1室80とは気密に隔離される第2室82と、第1室80と第2室82に区画し、かつ、2つの隔膜20と連結される、2つの隔膜の変位を許容するように変形可能なベローズ84と、を含むことができる。この場合、2つの隔膜20は、対向面20Aが、第1室80の内部に臨んで配置され、圧電素子30は第2室82に配置される。
【0031】
内側構造体70は、2つの隔膜20とベローズ84とを連結する2つの剛体71をさらに設けることができる。剛体71の各々は、図7に示すように、基準真空(Pr)に設定されている気密空間40Aと第2室82とを連通させる開口71Aを有することができる。こうすると、ベローズ84内は、2つの隔膜20に形成された中心孔及び開口71Aを介して基準真空(Pr)に設定される。こうすると、圧電素子30は基準真空(Pr)下に配置され、かつ、その周囲の気密空間40Aも基準真空(Pr)となる。よって、熱遮断効果は図2の特性C2となり、温度の影響を受けることがない。例えば、被測定圧力下に蒸発源等の熱源があっても温度の影響は少ない。こうして、圧力測定精度をより高めることができる。
【0032】
2.第2実施形態
本発明の第2実施形態に係る複合圧力計200は、本発明の第1実施形態に係る隔膜圧力計10と、電離真空計100とを含む。隔膜圧力計10と電離真空計100とは、連結部材110により連結されて、共に被測定圧力(Pm)下に配置される。連結部材110は、真空チャンバーに固定される。
【0033】
ここで、電離真空計100は、熱陰極電離真空計(フィラメントを加熱して熱電子を取り出すタイプ)または冷陰極電離真空計(電界放射により電子を取り出すタイプ)として構成される。ここでは、電離真空計100として熱陰極電離真空計を例に挙げて説明する。例えば熱陰極電離真空計100は、フィラメント102と、グリッド104と、コレクタ106とを有する。フィラメント102に通電すると、フィラメント102より電子が飛び出す。フィラメント102より飛び出した電子は何度か往復しながらグリッド104へ向かうが、その過程で電子は被測定圧力(Pm)中の気体をイオン化する。被測定圧力(Pm)が高いほうがイオン化される分子、原子は多い。フィラメント102から放出される熱電子の電流(エミッション電流)が一定である条件の下で、イオン化された分子、原子が負にバイアスされたコレクタ106に流れ込むイオン電流を測定することによって、間接的に圧力を測定できる。
【0034】
ここで、熱陰極電離真空計100は、図11に示すように、フィラメント102は、螺旋状のグリッド104の外側に配置することがより好ましい。外側に配置されるフィラメント102は1本でも良い。こうすると、被測定圧力(Pm)が比較的高くても、感度の低下を抑制できる。なぜなら、フィラメント102から放出される電子によりイオン化された分子、原子が、螺旋状のグリッド104の内側のコレクタ106に流れ込むことが抑制されるからである。また、フィラメント102から放出される電子によりイオン化された分子、原子は、熱陰極電離真空計100の筐体にも流れ込むことが可能となり、被測定圧力(Pm)が比較的高くても過度にイオン電流が増加しないからである。
【0035】
ここで、図9及び図10に、複合圧力計200の圧力特性を示す。図10は、複合圧力計200のうち、電離真空計100のイオン電流(特性C4’)は気体種による感度の違いが生じることを示す、図9の特性の元になる特性図である。ただし、電離真空計100ではイオン電流と圧力の間に比例関係が保証されているので、圧力の相対精度は読み取り精度並みの信頼性がある。そこで、本実施形態で採用している図9の特性では、隔膜圧力計10の測定値(特性C3)を電離真空計100の特性C4(気体種に拘わらず圧力の間に比例関係があるイオン電流値の特定気体換算値、例えば窒素換算値)の上限イオン電流値にソフト上でレベルシフトしている。それにより、隔膜圧力計10と電離真空計100とを使用する複合圧力計200では、電離真空計100の表示圧力は被測定気体の組成に係わらず真の圧力が得られる。
【0036】
図9の通り、隔膜圧力計10は例えば大気圧(10+5Pa)から中真空(10-2Pa)までを測定範囲とし、電離真空計100は例えば中真空(1Pa)から極高真空(10-7Pa)までを測定範囲とする。こうして、複合圧力計200は例えば大気圧(10+5Pa)から極高真空(10-7Pa)までを測定範囲とすることができる。この例では、隔膜圧力計10の測定領域と電離真空計100の測定領域とは、0.01~1.0Paの範囲でオーバーラップしているが、これに限定されない。このオーバーラップ領域は、0.01~10.0Pa、さらには0.1~1.0Pa等としても良い。本実施形態では、隔膜圧力計10の測定範囲が拡大したので、隔膜圧力計10及び電離真空計100から構成される複合圧力計200により、大気圧から超高真空(例えば10-7Pa)の領域を測定することができる。
【0037】
この複合圧力計200は被測定圧力(Pm)下に配置されるので、測定雰囲気の温度は被測定圧力(Pm)下の雰囲気の温度と常に同じとなる。ここで、大気圧から低真空までの被測定圧力(Pm)では外気の温度変動に対する測定誤差は小さく、しかもこの範囲の被測定圧力(Pm)は、熱源のない本発明の一態様に係る隔膜圧力計によって測定できる。一方、高真空や超高真空の被測定圧力(Pm)は主として熱源を含む熱陰極電離真空計100よって測定される。熱陰極電離真空計100では、気体種による感度の違いは、イオン電流と圧力の間に比例関係が保証されているので、圧力の相対精度は読み取り精度並みの信頼性がある。よって、大気圧から高真空や超高真空までの間の被測定圧力(Pm)を、正確に測定することができる。
【0038】
ここで、熱陰極電離真空計100のフィラメント102は測定中に常時通電されるのではなく、隔膜圧力計10で測定される圧力値によってフィラメント102への通電をオン/オフしても良い。例えば隔膜圧力計10で測定される圧力値が、図9に示す熱陰極電離真空計100の測定上限値の前後あるいは測定上限値以下となったら、フィラメント102への通電をオンすることができる。こうして、熱源であるフィラメント102が隔膜圧力計10に与える悪影響を低減することができる。
【0039】
また、熱陰極電離真空計100で隔膜圧力計10の測定下限(図9では10-2Pa)未満の被測定圧力(Pm)を測定している時に、隔膜圧力計10のゼロ点補正を実施しても良い。隔膜圧力計10の測定下限未満の被測定圧力(Pm)では、隔膜圧力計10の測定値はゼロであるべきだからである。
【0040】
図8に示すように、構造体40を包囲する、防着シールド及び/又は熱シールドであるシールド部材120をさらに設けることができる。シールド部材120は、少なくとも一部にて被測定気体を通過させることができるので、シールド部材120の内側を被測定気体圧力とすることができる。図8では、シールド部材120の全体が、多孔質である例えばセラミックス等の燒結体で形成される。それにより、シールド部材120は、被測定気体の通気性が確保される。さらに、シールド部材120の外側の被測定圧力(Pm)下に例えば蒸着源が配置されても、蒸着源からの粒子や熱をシールド部材120により遮断することができる。つまり、シールド部材120は、蒸着源からの粒子を遮断して隔膜圧力計10が成膜されることを防止する防着シールドとしての機能と、蒸着源(熱源)からの熱が隔膜圧力計10に伝熱することを防止する熱シールドとしての機能を併せ持つことができる。シールド部材120は、少なくとも一部にフィルターまたはバッフル(邪魔板)を有する非通気性の熱シールド体でもよい。この場合、フィルターまたはバッフルにより、通気性と防着シールドの機能が担保される。
【0041】
図8に示すように、連結部材110に熱シールド部材130を追加することができる。この熱シールド部材130は、例えばバッフル(邪魔板)で構成できる。こうすると、熱陰極電離真空計100の熱源(フィラメント)からの熱が隔膜圧力計10に伝熱されることを、熱シールド部材130により防止することができる。
【0042】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、図1に示す構造体40を包囲して、防着シールド及び/又は熱シールドである図8のシールド部材120をさらに設けることができる。
【符号の説明】
【0043】
10…隔膜圧力計、20…隔膜、20A…対向面、20B…非対向面、30…検出素子、40…構造体、40A…基準真空となる気密空間、41、44…排気管、42…ポンプ収容部、43、45…ゲッターポンプ、50…内側構造体、52…外側構造体、60…外側構造体、70…内側構造体、71…剛体、71A…開口、72…導入管、74…内側室、80…第1室、82…第2室、84…ベローズ、90…固定部材、92…熱絶縁体、94…回路ブロック、100…電離真空計、110…連結部材、120…シールド部材、130…熱シールド部材、200…複合圧力計、Pm…被測定圧力、Pr…基準真空
【要約】
【課題】 環境温度や気体種に依存せずに大気圧以下の圧力を計測できる、被測定圧力下に配置される隔膜圧力計を提供すること。
【解決手段】 隔膜圧力計10は、被測定圧力(Pm)下に配置される構造体40と、対向配置されて前記構造体に取付けられる2つの隔膜20と、前記2つの隔膜に固定され、前記2つの隔膜の変位を検出する検出素子30と、を有する。前記2つの隔膜の各々は、両面の一方が対向面とされ、前記両面の他方を非対向面としたとき、前記構造体及び前記2つの隔膜は、前記対向面及び前記非対向面の一方が臨む空間を基準真空(Pr)に維持する気密空間40Aとし、前記対向面及び前記非対向面の他方に前記被測定圧力を作用させる。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11