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特許7096636排水栓及び排水栓を用いた圃場の水管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】排水栓及び排水栓を用いた圃場の水管理方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
A01G25/00 501B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018241980
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020103044
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(74)【代理人】
【識別番号】100197549
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昌三
(72)【発明者】
【氏名】平尾 和弘
(72)【発明者】
【氏名】谷川 伸一
(72)【発明者】
【氏名】四元 友治
(72)【発明者】
【氏名】末吉 康則
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193914(JP,A)
【文献】特開2011-115059(JP,A)
【文献】特開2009-060883(JP,A)
【文献】特開平06-280243(JP,A)
【文献】特開2006-314249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0066484(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00
E02B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
田面からの上下高さを調節可能な排水水位調節部と、アクチュエータを介して前記排水水位調節部の上下高さを自動調整する水位制御部と、前記水位制御部と外部装置とを接続する無線通信部とを備えて構成され、圃場の貯水水位を調節する排水栓であって、
前記排水水位調節部と連動して上下し、前記排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位を測定する第1の水位センサを備えている排水栓。
【請求項2】
前記排水水位調節部と連動して上下し、前記排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位より低い相対水位を測定する第2の水位センサをさらに備え、
前記第1の水位センサを上限水位センサとし、前記第2の水位センサを下限水位センサとし、前記水位センサは前記上限水位センサと前記下限水位センサで構成されている請求項1記載の排水栓。
【請求項3】
前記水位センサは、圃場の水位に応じて上下するフロートスイッチで構成されている請求項1または2記載の排水栓。
【請求項4】
前記排水水位調節部は堰板または排水筒で構成され、前記水位センサは前記堰板または排水筒に取付けられている請求項1から3の何れかに記載の排水栓。
【請求項5】
田面からの上下高さを手動により調節可能な排水水位調節部を備え、圃場の貯水水位を調節する排水栓であって、
前記排水水位調節部と連動して上下し、前記排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位を測定する水位センサを備えている排水栓。
【請求項6】
前記相対水位または前記相対水位から算出した圃場の貯水水位を外部装置に送信する通信部を備えている請求項5記載の排水栓。
【請求項7】
前記通信部が無線通信部である請求項6記載の排水栓。
【請求項8】
請求項1から4の何れかに記載の排水栓を用いた圃場の水管理方法であって、
前記無線通信部を介して外部装置から圃場の貯水水位を送信する貯水水位指令ステップと
前記水位制御部により前記アクチュエータを介して前記排水水位調節部を前記貯水水位に対応した上下高さに調整する排水水位調節ステップと、
前記水位センサにより水位が検出されると、前記相対水位または前記相対水位から算出した圃場の貯水水位を、前記無線通信部を介して前記外部装置に送信する圃場水位送信ステップと、
を備えている圃場の水管理方法。
【請求項9】
請求項6記載の排水栓を用いた圃場の水管理方法であって、
前記水位センサにより水位が検出されると、前記相対水位または前記相対水位から算出した圃場の貯水水位を、前記通信部を介して給水栓に送信する圃場水位送信ステップと、
圃場の貯水水位を調整するために、前記給水栓と通信した外部装置が前記給水栓に開閉を指示する指令を送信する給水栓開閉指令ステップと、
を備えている圃場の水管理方法。
【請求項10】
請求項7記載の排水栓を用いた圃場の水管理方法であって、
前記水位センサにより水位が検出されると、前記相対水位または前記相対水位から算出した圃場の貯水水位を、前記無線通信部を介して前記外部装置に送信する圃場水位送信ステップと、
圃場の貯水水位を調整するために、前記無線通信部を介して、前記外部装置より給水栓に開閉を指示する指令を送信する給水栓開閉指令ステップと、
を備えている圃場の水管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水栓及び排水栓を用いた圃場の水管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圃場への給水または圃場からの排水を制御するための変位機構を作動させる圃場用電動アクチュエータを備えた給水栓や排水栓が開示されている。これらの給水栓や排水栓を用いることにより、圃場への給水や圃場からの排水をクラウドサーバなどを介して遠隔制御することが可能になる。
【0003】
そのために、圃場には水位センサが設けられ、水位センサにより検出された水位に基づいて給水栓や排水栓が制御される。
【0004】
このような水位センサとして、無線通信機能を備え、所定の範囲内で任意の水位を検出可能な圧力式水位センサや、水深を示す目盛を備え田面に立設された支柱と、支柱に対してアタッチメントを介して取付位置を上下方向に調整可能なフロートスイッチと、信号線とを備えたフロート式水位センサが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-193914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した圧力式水位センサは、初期に圃場の所定位置に設置すると、その後は自動的に水位が計測され、計測された水位が無線通信により給水栓を含む外部装置に送信されるので、その後のメンテナンスから開放され、利便性が高いのであるが、非常に高価であるため多数の圃場に設置するための設備費が嵩むという問題があった。
【0007】
また、上述したフロート式水位センサは、水面位置を検出するセンサであり非常に安価であるが、各圃場に支柱を立設し、水深を示す目盛が田面からの高さと整合するように位置調整する必要があり、設置後に圃場の水位を調整する必要がある度に、目標となる水深に対応した水面位置を検知できるように目盛に従ってフロートスイッチの上下位置を手動で調整する必要があるなど、煩雑な設置作業や調整作業が必要になるという問題があった。
【0008】
そのため、上述した圃場用電動アクチュエータを備えた給水栓や排水栓を用いて実施され、コスト負担の低減と同時にメンテナンスの手間を軽減可能な圃場の水管理方法が求められていた。
【0009】
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、設置作業や検出水位の調整作業が簡素化され、しかも安価に水位を検出可能な排水栓及び排水栓を用いた圃場の水管理方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明による排水栓の第一の特徴構成は、田面からの上下高さを調節可能な排水水位調節部と、アクチュエータを介して前記排水水位調節部の上下高さを自動調整する水位制御部と、前記水位制御部と外部装置とを接続する無線通信部とを備えて構成され、圃場の貯水水位を調節する排水栓であって、前記排水水位調節部と連動して上下し、前記排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位を測定する第1の水位センサを備えている点にある。
【0011】
水位制御部によって排水水位調節部の田面からの上下高さがアクチュエータを介して自動調整されることにより給水栓による圃場の貯水水位が調整される。第1の水位センサが当該排水水位調節部と連動して上下するように構成されるので、排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位が第1の水位センサによって測定される。即ち、第1の水位センサによって測定された相対水位と排水水位調節部により調節された圃場の貯水水位とから圃場の水位が把握できる。排水水位調節部の田面からの上下高さの調整に伴って第1の水位センサの上下方向位置が自動調整されるため、第1の水位センサの水位検出位置を手動で調整する作業が不要になる。
【0012】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記排水水位調節部と連動して上下し、前記排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位より低い相対水位を測定する第2の水位センサをさらに備え、前記第1の水位センサを上限水位センサとし、前記第2の水位センサを下限水位センサとし、前記水位センサは前記上限水位センサと前記下限水位センサで構成されている点にある。
【0013】
例えば、圃場に湛水するような場合に、第1の水位センサによって検出された水位で圃場への給水が停止された後に、圃場の水位が低下したことが第2の水位センサによって検出されると、給水栓からの給水が再開されることになる。風などの影響うけて水面が波打つと、そのたびに第1の水位センサの出力が切り替わり、給水栓からの給水と給水停止が頻繁に繰り返されるという好ましくない状況が生じる。そのような場合でも、第2の水位センサを備えることにより、例えば水面位置が水位センサより低下しても第2の水位センサで水面位置が検知されている場合には給水栓を閉止しておき、第2の水位センサで水面位置が検知されなくなった場合に給水栓からの給水を再開するような制御が可能になる。
【0014】
同第三の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記水位センサは、圃場の水位に応じて上下するフロートスイッチで構成されている点にある。
【0015】
圃場内で上下する水面に応じてフロートが上下する。フロートが近接すると作動するスイッチの位置が水位検出位置に調整されていれば、水面の上昇に伴って上昇するフロートが当該スイッチに近接したときにスイッチが作動して水面が水位検出位置に達したことが検知される。
【0016】
同第四の特徴構成は、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記排水水位調節部は堰板または排水筒で構成され、前記水位センサは前記堰板または排水筒に取付けられている点にある。
【0017】
排水水位調節部として堰板または排水筒が好適に用いられ、堰板または排水筒を排水水位に合わせて上下位置調整する際に、堰板または排水筒に取付けられた水位センサが堰板または排水筒に連動して上下することで検出水位が調整されるようになる。
【0018】
同第五の特徴構成は、田面からの上下高さを手動により調整可能な排水水位調節部を備え、圃場の貯水水位を調節する排水栓であって、前記排水水位調節部と連動して上下し、前記排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位を測定する水位センサを備えている点にある。
【0019】
手動で調節される排水水位調節部と連動して水位センサが上下するため、排水水位調節部の上下高さを調節する度に手動で水位センサの上下位置を調節する作業が不要になる。
【0020】
同第六の特徴構成は、上述した第五の特徴構成に加えて、前記相対水位または前記相対水位から算出した圃場の貯水水位を外部装置に送信する通信部を備えている点にある。
【0021】
水位センサにより検出された相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位が通信部を介して外部装置に送信されると、当該水位に基づいて外部装置で適切な処理が可能になる。
【0022】
同第七の特徴構成は、上述した第五の特徴構成に加えて、前記通信部が無線通信部である点にある。
【0023】
水位センサにより検出された相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位が無線通信部を介して外部装置に送信されると、当該水位に基づいて外部装置で適切な処理が可能になる。無線通信部を備えることにより、外部装置が遠隔に位置する場合でも容易に水位を送信することができる。
【0024】
本発明による圃場の水管理方法の第一の特徴構成は、上述した第一から第四の何れかの特徴構成を備えた排水栓を用いた圃場の水管理方法であって、前記無線通信部を介して外部装置から圃場の貯水水位を送信する貯水水位指令ステップと前記水位制御部により前記アクチュエータを介して前記排水水位調節部を前記貯水水位に対応した上下高さに調整する排水水位調節ステップと、前記水位センサにより水位が検出されると、前記相対水位または前記相対水位から算出した圃場の貯水水位を、前記無線通信部を介して前記外部装置に送信する圃場水位送信ステップと、を備えている点にある。
【0025】
貯水水位指令ステップで外部装置から圃場の貯水水位が送信されると、排水水位調節ステップでアクチュエータを介して排水水位調節部が貯水水位に対応した上下高さに調整され、排水水位調節部に連動して水位センサの上下高さが地同調性され、圃場水位送信ステップで水位センサにより検出された相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位が外部装置に送信される。例えば外部装置が給水栓であれば、圃場水位送信ステップで圃場の貯水水位が所定水位に達したことを判定して給水を停止することができ、例えば外部装置がクラウドサーバであれば、圃場への貯水制御が遠隔で行なうことができる。
【0026】
同第二の特徴構成は、上述の第六の特徴構成を備えた排水栓を用いた圃場の水管理方法であって、前記水位センサにより水位が検出されると、前記相対水位または前記相対水位から算出した圃場の貯水水位を、前記通信部を介して給水栓に送信する圃場水位送信ステップと、圃場の貯水水位を調整するために、前記給水栓と通信した外部装置が前記給水栓に開閉を指示する指令を送信する給水栓開閉指令ステップと、を備えている点にある。
【0027】
圃場水位送信ステップにより排水栓から水位センサによって検出された水位が給水栓に送信され、給水栓開閉指令ステップにより給水栓から外部装置に当該水位が送信され、当該水位に基づいて外部装置から給水栓に開閉を指示する指令が送信される。
【0028】
同第三の特徴構成は、上述の第七の特徴構成を備えた排水栓を用いた圃場の水管理方法であって、前記水位センサにより水位が検出されると、前記相対水位または前記相対水位から算出した圃場の貯水水位を、前記無線通信部を介して前記外部装置に送信する圃場水位送信ステップと、圃場の貯水水位を調整するために、前記無線通信部を介して、前記外部装置より給水栓に開閉を指示する指令を送信する給水栓開閉指令ステップと、を備えている点にある。
【0029】
圃場水位送信ステップにより排水栓から水位センサによって検出された水位が外部装置に無線送信され、圃場水位送信ステップにより当該水位に基づいて外部装置から給水栓に開閉を指示する指令が無線送信される。
【発明の効果】
【0030】
以上説明した通り、本発明によれば、設置作業や検出水位の調整作業が簡素化され、しかも安価に水位を検出可能な排水栓及び排水栓を用いた圃場の水管理方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】圃場及び圃場の水管理システムの説明図
図2】(a)は排水栓の側面視の説明図、(b)は排水制御機構の説明図
図3】(a)は排水機構22Aに取付けられた水位センサの説明図、(b),(c)は圃場水位と水位センサの動作の説明図
図4】給水栓の説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、排水栓及び給水栓排水栓を備えた圃場管理装置及び圃場管理方法を説明する。
[圃場の水管理システムの構成]
図1に示すように、稲作が行なわれている各圃場1には、給水管10に流れる用水を、導水路11を介して圃場1に導く給水栓12と、放水路21を介して圃場1の水を排水路20に排水する排水栓22が設けられ、圃場1の近傍にはインターネット30との接続を中継するWi-Fiルータなどの中継器32が設置されている。さらに、排水栓22には圃場1の水位を計測する水位センサ2が設けられている。
【0033】
各給水栓12及び排水栓22がインターネット30を介してクラウドサーバ34と接続可能に構成され、圃場1の管理者が所有するスマートフォンなどの携帯端末36がインターネット30を介してクラウドサーバ34と接続可能に構成されている。即ち、各給水栓12及び排水栓22、携帯端末36、クラウドサーバ34と、それらを通信可能に接続するインターネット30により圃場の水管理システム100が構成されている。
【0034】
稲作を例に説明すると、稲作の各工程、例えば、代掻き、田植え、活着期、分げつ期(前期、後期)、幼穂形成期~出穂開花期、登熟期など、各時期に応じて圃場の貯水水位を調整する必要がある。特に代掻き時期には複数の圃場が一斉に導水することになるため、湛水のために効率的に給水管理する必要がある。
【0035】
そのため、クラウドサーバ34は、各管理者により携帯端末36を介して要求された各圃場1に対する給水要求に基づいて各圃場1に対する給水スケジュールを生成するように構成されている。
【0036】
携帯端末36から送信される給水要求には、給水対象となる圃場を特定する圃場ID、給水日時、給水水位が含まれる。クラウドサーバ34は、予め登録された圃場マップに従って、給水要求があった各圃場に対する給水スケジュールを生成して記憶部に記憶するように構成されている。
【0037】
圃場マップとは各圃場の位置を示す圃場地図であり、クラウドサーバ34には当該圃場マップとともに、圃場マップで特定される圃場毎に圃場IDが付され、各圃場に設置された給水栓12及び排水栓22を特定する給水栓ID及び排水栓ID、並びに管理者IDが圃場IDと関連付けられた圃場データベースを備えている。
【0038】
クラウドサーバ34は、記憶部に記憶された給水スケジュールに定められた給水日時に、該当する圃場1の排水栓22に対して排水水位調整指令を出力するとともに、該当する圃場1の給水栓12に給水指令を出力する。排水水位とは目標とする圃場の貯水水位を意味する。
【0039】
排水水位調整指令を受信した排水栓12は排水水位を調整し、給水指令を受信した給水栓12は給水弁を開放して圃場に用水を導く。水位センサ2の信号線が接続された排水栓12は、水位センサ2により圃場水位が所定の貯水水位に達したことが検知されると、クラウドサーバ34に水位情報を送信し、クラウドサーバ34は当該水位情報を受信すると給水栓12に対して給水停止指令を送信する。給水停止指令を受信した給水栓12は吸水バルブを制御して給水を停止する。
【0040】
[排水栓及び水位センサの構成]
以下、圃場の貯水水位を調節する排水栓22及び排水栓2に配された水位センサ2について詳述する。
図2(a),(b)に示すように、排水栓22は、圃場に設けられた排水桝201に収容される排水機構22Aと、排水桝201の上面に着脱自在に取り付けられ、排水機構22Aを制御して排水水位(貯水水位)を調整する排水制御機構22Bを備えている。
【0041】
排水機構22Aは、排水桝201の底部に設置された受枠部材211と、受枠部材211によって上下移動可能に支持される円筒状の排水筒である堰体212と、堰体212を上下移動する昇降機構220を備えている。堰体212の上端開口が排水口212aとして機能し、圃場1に給水された余剰の用水が当該排水口212aから溢流して放水路21に流出する。
【0042】
堰体212の上端開口に側面視コの字状の支持部213が固定され、当該支持部213に昇降機構220が取り付けられている。昇降機構220は、支持部213の上面に固定され、内周面に雌ネジが形成された円筒状の可動部221と、外周面に雄ネジが形成され、可動部221の雌ネジと螺合する回転軸222と、可動部221が回転軸222と連れ回りすることを防止する一対の棒状体223を備えている。
【0043】
つまり、回転軸222が一方向に回転することにより、支持部213を介して可動部221に取付けられた堰体212が可動部221とともに上昇し、回転軸222が反対方向に回転することにより、支持部213を介して可動部221に取付けられた堰体212が可動部221とともに降下する。上述した堰体212と昇降機構220によって排水水位調節部210が構成されている。
【0044】
排水制御機構22Bは、排水桝201の上面に台座202を介して着脱自在に取り付けられた水密性のケーシング231と、ケーシング231の天面に太陽を臨むように傾斜姿勢で取り付けられたソーラーパネル232と、ケーシング231に収容された駆動機構240と、蓄電池233と、アンテナ234と、制御盤235などを備えて構成されている。制御盤235には、水位制御部236と無線通信部237などが組み込まれている。
【0045】
水位制御部236及び無線通信部237はCPU、メモリ、入出力回路や通信回路などの周辺回路を備えて構成され、メモリに格納された制御プログラムがCPUで実行されることにより所定の機能、ここでは排水水位調節部210に対する制御機能が実現される。
【0046】
水位制御部236は、無線通信部237を介してクラウドサーバ34から指示された排水水位となるように駆動機構240を介して排水水位調節部210を制御し、後述の水位センサ2を介して圃場の貯水水位が目標水位となったことを検知すると無線通信部237を介してクラウドサーバ34に貯水水位に達した旨を報告する。
【0047】
ソーラーパネル232による発電電力が蓄電池233に充電され、蓄電池233の充電電力が水位制御部236及び無線通信部237の制御電力として消費される。
【0048】
駆動機構240は、エンコーダが内蔵されたDCモータ241と、DCモータ241の出力軸に設けられたギア242と噛合する中空のメインギア243と、メインギア243の中空部に挿通された駆動軸246などを備えて構成され、排水水位調節部210を昇降駆動するアクチュエータとして機能する。
【0049】
メインギア243は、上下方向に延びる円筒状のボス部244と、ボス部244の上下方向中央部に延出形成された円盤状のギア部245とを備えた両ボス型のギアで、ボス部244の上下が軸受で回転可能に支持されている。ボス部244の内周面に形成されたキー溝に駆動軸246の外周面に突出形成されたキー246kが勘合して、メインギア243と駆動軸246とが一体回転するように構成されている。
【0050】
駆動軸246の下端と回転軸222の上端がカップリング247(図2(a)参照。)を介して駆動連結され、DCモータ241が一方向に回転駆動すると堰体212が上昇して排水水位(貯水水位)が上昇し、DCモータ241が反対方向に回転駆動すると堰体212が降下して排水水位(貯水水位)が下降する。
【0051】
堰体212の上端開口位置が田面レベルとなる位置を基準位置に設定し、DCモータ241の駆動時に検出されるエンコーダのパルス数に基づいて、堰体212の上端開口位置を管理することにより、堰体212の上端開口位置を所望の高さに制御することができる。
【0052】
図3(a)から(c)に示すように、堰体212の上端開口に取付けられた支持部213に、水平姿勢で先端が排水桝201の開口201aから圃場1側に突出する長さに設定されたアーム部材250が取り付けられ、アーム部材250の先端側の垂下部251に上下高さを異ならせた一対のフロートスイッチ方式の水位計252,253が取り付けられている。一対のフロートスイッチ方式の水位計252が第1の水位センサ、水位計253が第2の水位センサとなる。なお、アーム部材250は支持部213以外に取付けられていてもよく、堰体212と一体に上下するように配置されていればよい。
【0053】
フロートスイッチ方式の水位計は、例えば磁性体が内蔵されたフロートfと、フロートfを上下移動可能に保持する支軸aと、支軸aの上部位置に設けられたリードスイッチsなどで構成され、圃場1の貯水水位の上昇に伴ってフロートfが支軸aに沿って上昇してリードスイッチsに達すると、リードスイッチsの接点が閉じることにより、水位が所定水位に達したことを検知するスイッチである。
【0054】
従って、フロートスイッチ方式の水位計は、圧力式の水位計とは異なり、田面からの水位を直接検出できないのであるが、リードスイッチなどの接点が位置する高さに水位が達したことをフロートの上昇により検知することができる。本実施形態では、排水水位調節部210と連動して上下し、排水水位調節部210を基準とする圃場の相対水位が測定される。
【0055】
具体的に、アーム部材250の先端側の垂下部251のうち、田面1sを基準に排水水位調節部210を構成する堰体212の上端開口の高さh1に相当する位置に第1の水位センサとなる水位計252のリードスイッチが設けられ、堰体212の上端開口の高さh2(=h1-Δh)に相当する位置に第2の水位センサとなる水位計253のリードスイッチが設けられている。
【0056】
図3(b)は、水位が所定のh3に設定され、図3(c)は水位がh4(<h3)に設定された例を示している。それぞれ圃場1の水位がh3、h4になった時に水位計252により水面が目標水位に達したことが検知される。この場合、何れも第二の水位センサである水位計253は既にオンしていることはいうまでもない。
【0057】
圃場1への給水開始後に第1の水位センサとなる水位計252で水位が検知されると、排水栓22に備えた水位制御部236は目標の貯水水位に達したと判断して、無線通信部237を介してクラウドサーバ34に目標貯水水位に達したことを報告する。クラウドサーバ34は、これに応答して対応する圃場1の給水栓12に止水指令を送信する。
【0058】
水面が波打っているような場合に、第1の水位センサとなる一方の水位計252のフロートが水面の波打ちに伴って上下するリードスイッチの接点が断続するチャターが生じ、これに応答してクラウドサーバ34に水位の上下変動が報告されると、給水栓12に対して給水指令と止水指令が交互に送信されるような不都合な事態が生じる。
【0059】
そのような場合に備えて、水位制御部236は、第1の水位センサとなる一方の水位計252で水面が検出された後は、第2の水位センサとなる他方の水位計253で水面が低下したことが検知されるまでの間はクラウドサーバ34に水位変動を報告せず、他方の水位計253で水面が低下したことが検知されて初めてクラウドサーバ34に水位低下を報告するように構成されている。水位計252,253の検出水位差は数十mm(例えば20mm程度)に設定されている。
【0060】
なお、水面の波打に備えて、堰体212の上端開口の高さをh3(=h1+Δh)に設定するとともに、田面を基準に堰体212の上端開口の高さよりΔh低い位置に一方の水位計252のリードスイッチが設けられていてもよい。この様に設定すると、一方の水位計252により貯水水位が目標水位に達したことを適切に検出することができ、水面が波打った場合でも堰体212の上端開口から無駄に排水されることがなくなる。
【0061】
上述した実施形態では、水位センサとして、排水水位調節部と連動して上下し、排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位を測定する第1の水位センサと、排水水位調節部と連動して上下し、排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位より低い相対水位を測定する第2の水位センサを備えた例を説明したが、第1の水位センサのみ備えた構成であってもよい。
【0062】
また、第1の水位センサにより検出される圃場の相対水位と、第2の水位センサにより検出される圃場の相対水位との中間の相対水位を検出する第3の水位センサを備えてもよい。
【0063】
上述した実施形態では、排水水位調節部210が排水筒(堰体212)で構成され、水位センサ2が排水筒と連動して上下する例を説明したが、排水水位調節部210が圃場1と放水路21を仕切る堰板で構成され、水位センサ2が堰板と連動して上下するように構成してもよい。圃場と放水路を仕切る堰板の上下高さを調整することにより圃場からの溢流水位が調整され、調整された溢流水位を検出するように堰板に上述したアーム部材が圃場に延びるように配置されていればよい。
【0064】
即ち、排水栓22は、田面1sからの上下高さを調節可能な排水水位調節部と、アクチュエータを介して排水水位調節部の上下高さを自動調整する水位制御部と、水位制御部と外部装置であるクラウドサーバ34とを接続する無線通信部とを備えて構成されている。
【0065】
そして、排水水位調節部と連動して上下し、排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位を測定する水位センサと、同様に排水水位調節部と連動して上下し、排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位より低い下限水位を検出する下限水位センサを備えている。
【0066】
排水水位調節部は堰板または排水筒で構成され、水位センサ及び下限水位センサは、圃場の水位に応じて上下するフロートスイッチで構成され、排水筒に取付けられている。
【0067】
なお、水位センサとしてフロートスイッチ以外のセンサ、例えば電気接点式のセンサなどを用いてもよい。例えば、一方の接点を目標水位に対応付けてアーム部材の垂下部に取り付け、他方の接点を田面近傍位置に設置し、両電極間に流れる電流の有無を検出するような構成であってもよい。
【0068】
上述した例では、給水栓12及び排水栓22がWi-Fiルータなどの中継器32を介してインターネットに接続される態様を説明したが、給水栓12及び排水栓22に備えた無線通信部を携帯電話回線に接続可能な端末で構成し、ゲートウェイを介してインターネットに接続可能に構成してもよい。
【0069】
また、複数の圃場をグループ化して給水栓12及び排水栓22に備えた無線通信部を特定小電力無線に基づく通信を行なう通信機で構成し、親機となる1台の通信機と子機となる他の通信機が互いに無線通信し、親機となる通信機に備えたインターネット接続可能な通信機が、子機から集信した水位情報などを含めて一括してクラウドサーバに送信するような構成であってもよい。
【0070】
[給水栓の構成]
以下、給水栓12について詳述する。
図4に示すように、給水栓12は、圃場に設けられた給水桝101に収容される給水機構12Aと、給水機構12Aの上面に着脱自在に取り付けられ、給水機構12Aを制御して給水または止水の何れかに切り替える給水制御機構12Bを備えている。
【0071】
給水機構12Aは、円筒状の弁箱120と、弁箱120の上下方向中央部に内周側に突出形成された弁座121と、弁座121に対向配置され、下面にゴム製のシール部材123が取り付けられた円盤状の弁体124を備えている。弁箱120の下端が給水管10から分岐した導水路11に接続されている。
【0072】
弁箱120の上端部には、内周面に雌ネジが形成された軸受126が取り付けられ、軸受126には外周面に雄ネジが形成された弁軸125が螺合されている。そして弁軸125の下端が弁体124に固定されている。
【0073】
弁座121の中央部には通水孔122が形成され、弁箱120の側壁上部には、複数の出水窓127が周方向に並ぶように形成されている。弁軸125に回転力が付与されると、軸受126に沿って弁軸125が上下移動し、弁軸125の上下移動に伴って弁体124が上下する。即ち、弁座121と弁体124と弁座121と弁体124との間に設けられたシール部材123などで弁機構が構成されている。
【0074】
給水制御機構12Bは、上述した排水栓22に備えた排水制御機構22Bと同様に、水密性のケーシング131と、ケーシング131の天面に太陽を臨むように傾斜姿勢で取り付けられたソーラーパネル132と、ケーシング131に収容された駆動機構140と、蓄電池133と、アンテナ134と、制御盤135などを備えて構成されている。制御盤135には、弁の開閉制御部136と無線通信部137などが組み込まれている。
【0075】
開閉制御部136及び無線通信部137はCPU、メモリ、入出力回路や通信回路などの周辺回路を備えて構成され、メモリに格納された制御プログラムがCPUで実行されることにより所定の機能、ここでは給水機構12Aに備えた弁機構に対する開閉制御機能が実現される。
【0076】
開閉制御部136は、無線通信部137を介してクラウドサーバ34から給水指示されると予め設定された弁開度まで開弁するべく駆動機構140を介して弁機構を制御し、クラウドサーバ34から圃場の貯水水位が目標水位となったことが送信されると弁機構を閉止する。
【0077】
ソーラーパネル132による発電電力が蓄電池133に充電され、蓄電池133の充電電力が開閉制御部136及び無線通信部137の制御電力として消費される。
【0078】
駆動機構140は、エンコーダが内蔵されたDCモータ141と、DCモータ141の出力軸に設けられたギア142と噛合する中空のメインギア143と、メインギア143の中空部に挿通された駆動軸146などを備えて構成され、弁体124を昇降駆動するアクチュエータとして機能する。
【0079】
メインギア143は、上下方向に延びる円筒状のボス部144と、ボス部144の上下方向中央部に延出形成された円盤状のギア部145とを備えた両ボス型のギアで、ボス部144の上下が軸受で回転可能に支持されている。ボス部144の内周面に形成されたキー溝に駆動軸146の外周面に突出形成されたキーが嵌合して、メインギア143と駆動軸146とが一体回転するように構成されている。
【0080】
駆動軸146の下端と弁軸125の上端がカップリング147を介して駆動連結され、DCモータ141が一方向に回転駆動すると弁体124が上昇して給水状態となり、DCモータ141が反対方向に回転駆動すると弁体124が降下して止水状態になる。
【0081】
[圃場の水管理方法]
上述した圃場の水管理システム100により、無線通信部を介して外部装置(クラウドサーバ)から圃場の貯水水位を送信する貯水水位指令ステップと、水位制御部によりアクチュエータを介して排水水位調節部を貯水水位に対応した上下高さに調整する排水水位調節ステップと、水位センサにより水位が検出されると、相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位を、無線通信部を介して外部装置(クラウドサーバ)に送信する圃場水位送信ステップと、を備えた圃場の水管理方法が実行される。
【0082】
貯水水位指令ステップで外部装置(クラウドサーバ)から圃場の貯水水位が送信されると、排水水位調節ステップでアクチュエータを介して排水水位調節部が貯水水位に対応した上下高さに調整され、排水水位調節部に連動して水位センサの上下高さが自動で調整される。給水栓からの用水の給水が開始され、圃場水位送信ステップで水位センサにより検出された相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位が外部装置(クラウドサーバ)に送信される。例えば外部装置が給水栓であれば、圃場水位送信ステップで圃場の貯水水位が所定水位に達したことを判定して給水を停止することができ、例えば外部装置がクラウドサーバであれば、圃場への貯水制御が遠隔で行なうことができる。
【0083】
以下、排水栓及び排水栓に配された水位センサの別実施形態を説明する。
上述した実施形態では、水位制御部によりアクチュエータを介して排水水位調節部の上下高さが自動調整される例を説明したが、排水水位調節部の上下高さが手動調整可能に構成されていてもよい。
【0084】
つまり、田面からの上下高さを手動により調整可能な排水水位調節部を備え、圃場の貯水水位を調節する排水栓であって、排水水位調節部と連動して上下し、排水水位調節部を基準とする圃場の相対水位を測定する水位センサを備えていればよい。
【0085】
例えば、上述した排水制御機構22Bに替えて、回転軸222を手動回転させるハンドルを排水桝201の上面に設けてもよいし、堰体212の上端開口に取付けた支持部213を直接手動で上下操作するように構成してもよい。
【0086】
手動で調節される排水水位調節部と連動して水位センサが上下するため、排水水位調節部の上下高さを調節する度に手動で水位センサの上下位置を調節する作業が不要になる。
【0087】
また、排水水位調節部の上下高さが手動調整され、排水水位調節部に連動して水位センサが上下調整される場合でも、排水水位調節部に対する水位センサの相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位を外部装置に送信する無線通信部を備えていることが好ましく、水位センサにより検出された相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位が通信部を介して上述したクラウドサーバのような外部装置に送信されると、当該水位に基づいて外部装置で適切な処理、例えば給水栓の遠隔制御などが可能になる。
【0088】
この様な手動で調節される排水水位調節部を備えた排水栓では、水位センサにより水位が検出されると、相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位を、無線通信部を介してクラウドサーバなどの外部装置に送信する圃場水位送信ステップと、圃場の貯水水位を調整するために、無線通信部を介して、当該外部装置より給水栓に開閉を指示する指令を送信する給水栓開閉指令ステップと、を備えることにより圃場の水管理方法が実行される。
【0089】
水位センサの相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位を外部装置に送信するために無線通信部に替えて有線の通信部、具体的には水位センサの接点状態を出力する信号線を備えていてもよい。当該信号線を介して外部装置である無線通信機能を備えた給水栓12に接点状態を出力することで、給水栓12からクラウドサーバに水位情報を報告することができる。
【0090】
このような排水栓では、水位センサにより水位が検出されると、相対水位または相対水位から算出した圃場の貯水水位を、通信部を介して給水栓に送信する圃場水位送信ステップと、圃場の貯水水位を調整するために、給水栓と通信したクラウドサーバなどの外部装置が給水栓に開閉を指示する指令を送信する給水栓開閉指令ステップと、を備えることにより圃場の水管理方法が実行される。
【0091】
以上説明した実施形態は本発明の一例に過ぎず、該記載により本発明の技術的範囲が限定されることを意図するものではなく、排水栓、圃場の水管理方法の具体的な構成は本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0092】
100:圃場の水管理システム
1:圃場
1s:田面
2,252,253:水位センサ
10:給水管
12:給水栓
20:排水路
22:排水栓
30:インターネット
32:中継器
34:圃場管理サーバ(外部装置)
210:排水水位調節部
236:水位制御部
240:駆動機構(アクチュエータ)
図1
図2
図3
図4