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特許7096638プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/32 20060101AFI20220629BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20220629BHJP
   F28F 19/02 20060101ALI20220629BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20220629BHJP
   F28D 1/053 20060101ALI20220629BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20220629BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20220629BHJP
   B23K 1/20 20060101ALI20220629BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20220629BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20220629BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20220629BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
F28F1/32 B
C22C21/00 E
F28F19/02 501Z
F28F21/08 B
F28D1/053 A
F28F21/08 D
B23K1/00 330L
B23K1/19 D
B23K1/19 E
B23K1/20 A
B23K35/28 310B
B23K35/22 310E
C22C21/00 D
C22C21/00 J
B23K101:14
B23K103:10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2016177996
(22)【出願日】2016-09-12
(65)【公開番号】P2018044693
(43)【公開日】2018-03-22
【審査請求日】2019-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩見 幸平
(72)【発明者】
【氏名】藤村 涼子
(72)【発明者】
【氏名】水田 貴彦
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-134311(JP,A)
【文献】特開2013-137153(JP,A)
【文献】特開2013-204892(JP,A)
【文献】特開2006-348372(JP,A)
【文献】特表2013-507258(JP,A)
【文献】特開2012-224923(JP,A)
【文献】特開2004-025297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/32
C22C 21/00
F28F 19/02
F28F 21/08
F28D 1/053
B23K 1/00
B23K 1/19
B23K 1/20
B23K 35/28
B23K 35/22
B23K 101/14
B23K 103/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる心材と、該心材上に積層されたろう材とを有するブレージングシートと、
上記ブレージングシートの表面に形成された、親水性を有する塗膜と、を有し、
上記ろう材は、Si:5~10質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
上記塗膜は、ケイ酸塩及び非晶質シリカの少なくとも一方を含有し、
上記塗膜中のSi量が10~300mg/m2である、プレコートフィン材。
【請求項2】
上記塗膜は、ケイ酸リチウムを含有する、請求項1に記載のプレコートフィン材。
【請求項3】
上記塗膜は、さらにフッ化物フラックスを40~5000mg/m2含有する、請求項1または2に記載のプレコートフィン材。
【請求項4】
上記心材は、Si:0.05~0.8質量%、Fe:0.05~0.8質量%、及びMn:0.8~2質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項5】
上記心材は、さらにZn:0.3~3質量%を含有する、請求項4に記載のプレコートフィン材。
【請求項6】
上記心材は、さらにMg:1質量%以下及びCu0.5質量%以下の少なくとも一方を含有する、請求項4又は5に記載のプレコートフィン材。
【請求項7】
上記心材は、さらにIn:0.3質量%以下及びSn:0.3質量%以下の少なくとも一方を含有する、請求項4~6のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項8】
上記心材は、さらにTi:0.3質量%以下、V:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、Cr:0.3質量%以下、及びNi:2質量%以下から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項4~7のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項9】
上記ろう材は、さらにSr:0.1質量%以下を含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項10】
上記ろう材は、さらにZn:0.3質量%以下及びCu:0.3質量%以下の少なくとも一方を含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のプレコートフィン材からなるフィンと、該フィンに接合されたアルミニウム管とからなるコア部を有する、熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ブレージングシートと、塗膜とを有するプレコートフィン材、及びこれを使用した熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オールアルミニウム製の熱交換器は、冷媒が流れるアルミニウム管と、管の外側の空気との間で熱交換を行うためのアルミニウムフィンとを有しており、管とフィンとは互いに接合されている。熱交換器の熱交換性能にはフィンの親水性が大きく影響するため、表面に親水性の塗膜が形成されたフィンがよく用いられている。このような親水性の塗膜を有するフィンと管との接合には、フィンに設けられた孔内に挿入した管を拡管させることによって両者を機械的に接合する方法が用いられている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
接合方法としては、上述の機械的接合の他にもろう付け接合が想定される。しかし、一般的な樹脂系又は無機系の塗膜は、ろう付け時の加熱温度で変質又は分解してしまうため、ろう付け後に親水性を十分に発揮できない。また、ろう付けにフラックスを用いると、塗膜の存在によりフラックス作用が阻害され、ろう付け接合が不十分になるおそれがある。そのため、ろう付けによって熱交換器を製造する場合には、一般にろう付け後に塗膜が形成されている(特許文献3参照)。しかし、この場合には、専用の塗膜形成設備が必要となるため、製造コストが増大するという問題がある。また、この場合には、熱交換器の大型化への対応が困難になる。
【0004】
そこで、ろう付け前に塗膜がプレコートされたフィン材として、ケイ酸塩を主成分とする塗膜を有するフィン材が提案されている(特許文献4参照)。また、熱交換器の作製において、ろう付け前に、キシレン等の支持体やシリコーンオイル等の珪素系結合剤等を含む被膜を予め形成したフィンを作製する方法が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-278189号公報
【文献】特開2012-052747号公報
【文献】特開2004-347314号公報
【文献】特開2013-137153号公報
【文献】特表2008-508103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでの塗膜や被膜がプレコートされたフィン材は、ろう付後の親水持続性が不十分であったり、ろう付け機能が不十分であった。すなわち、従来のフィン材は、優れた親水持続性と優れたろう付け機能とを兼ね備えてはいなかった。そのため、フィン材を用いた熱交換器の製造にあたって別途ろう材を供給する必要があり、その結果、製造工程の増加による製造性の低下や、部材調達による製造コスト増加が見込まれる。また、プレコートされた塗膜や被膜は、ろう材を用いたフィンとアルミニウム管とのろう付け接合に悪影響を及ぼし、接合性を不十分にするおそれがある。そこで、優れた親水持続性に保持すると共に、ろう材を用いることなく接合が可能であり、かつフィンとアルミニウム管との接合性に優れた熱交換器を製造することができるプレコートフィン材の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、フィンの親水持続性に優れ、ろう材を別途供給することなくフィンとアルミニウム管との接合が可能であり、かつ接合性に優れた熱交換器を製造することができるプレコートフィン材、及び該プレコートフィン材を用いた熱交換器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、アルミニウム合金からなる心材と、該心材上に積層されたろう材とを有するブレージングシートと、
上記ブレージングシートの表面に形成された、親水性を有する塗膜と、を有し、
上記ろう材は、Si:5~10質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
上記塗膜は、ケイ酸塩及び非晶質シリカの少なくとも一方を含有し、
上記塗膜中のSiの含有量が10~300mg/m2である、プレコートフィン材にある。
【0009】
本発明の他の態様は、上記プレコートフィン材からなるフィンと、該フィンに接合されたアルミニウム管とからなるコア部を有する、熱交換器にある。
【発明の効果】
【0010】
上記プレコートフィン材は、アルミニウム合金からなる心材と、該心材上に積層されたろう材とを有するブレージングシートを有し、ろう材がSiを上記特定の範囲で含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する。そのため、心材上に積層形成されたろう材によって、プレコートフィン材を例えばアルミニウム管等の他部材に接合させることができる。したがって、別途ろう材等の接合部材を用いなくても接合が可能になると共に、充分な接合性を確保することが可能になる。さらに、ろう材等の接合部材を別途使用することなく接合が可能であるため、製造工程の増加を防止できると共に、接合部材を別途調達する必要がなくなるためコストダウンの要求に応えることができる。また、上記特定組成のろう材は、ブレージングシート上に形成された塗膜の性能を損ねることを防止できる。
【0011】
また、Si量が上記ごとく調整された塗膜は、加熱等により塗膜性能が劣化し難い。そのため、塗膜は、例えばアルミニウム管のような他部材との接合時における加熱後においても優れた親水性を発揮することができると共に、初期の優れた親水性を長期間維持することができる。また、塗膜は、例えばアルミニウム管のような他のアルミニウム部材とプレコートフィン材との接合をほとんど阻害しない。そのため、上記プレコートフィン材は、塗膜を有しているにもかかわらず、例えばアルミニウム管との充分な接合が可能である。
【0012】
このように、上記プレコートフィン材においては、塗膜及びろう材の成分が上記のごとく適正化されている。そのため、フィンの親水持続性に優れ、ろう材を別途供給することなくフィンとアルミニウム管との接合が可能であり、かつ接合性に優れた熱交換器を製造することが可能になる。
【0013】
また、上記熱交換器は、上述の親水持続性、及び接合性に優れたプレコートフィン材からなるフィンと、フィンに接合されたアルミニウム管とからなるコア部を有している。
したがって、熱交換器は、フィンが優れた親水持続性を発揮するため、通風抵抗の増加を抑制し、良好な熱交換性能を長期間安定して発揮することができる。また、熱交換器においては、例えばアルミウム管とフィンとが十分に接合されるため、アルミニウム管とフィンとの熱交換性能が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1における、プレコートフィン材の断面図。
図2】実施例1における、熱交換器のコア部(具体的にはミニコア)の斜視図。
図3】実施例1における、熱交換器のコア部(具体的にはミニコア)の断面図。
図4】実施例1における、熱交換器のフィンの拡大断面図。
図5】実施例1における、接合前のフィンとアルミニウム管との当接部の部分断面図。
図6】実施例2における、熱交換器の正面図。
図7】実施例3における、熱交換器の要部の斜視図。
図8図7における当接部近傍の部分拡大断面図。
図9図7における、III-III線矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
プレコートフィン材は、このプレコートフィン材からなるフィンとアルミニウム管と接合させ、熱交換器を得るために用いられる。本明細書において、「アルミニウム管」は、純アルミニウム製の管だけでなく、アルミニウム合金製の管を含む概念である。具体的には、A1000系の純アルミニウム、A3000系のアルミニウム合金等を用いることができる。
【0016】
プレコートフィン材は、アルミニウム合金からなる心材と、この心材上に積層されたろう材とを有するブレージングシートを有する。ブレージングシートは、例えばクラッド材であり、アルミニウム合金(すなわち心材)にAl-Si系合金(すなわち、ろう材)がクラッドされている。プレコートフィン材は熱交換性能が要求されるフィンに用いられるという観点から、ブレージングシートの厚みは例えば0.15mm以下が好ましい。また、腐食速度が高くなってもフィン材自体の体積が大きいのでフィン材が残存し、一定の期間、犠牲陽極効果が継続するので耐食性が問題になりにくいという観点から、ブレージングシートの厚みは例えば0.05mm以上が好ましい。
【0017】
心材のアルミニウム合金の化学成分は、Al、不可避的不純物の他に、Si、Fe、Mn、Zn、Mg、Cu、In、Sn、Ti、V、Zr、Cr、及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素をさらに含有することができる。
【0018】
心材のアルミニウム合金の化学成分は、例えばSi:0.05~0.8質量%、Fe:0.05~0.8質量%、及びMn:0.8~2質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなることが好ましい。心材のMn含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性が害され、クラッド材の製造が困難となり易い。
【0019】
心材中のSiは、MnあるいはFe等のその他の添加元素と微細析出物を形成して、心材の強度を向上させ、また、Mnの固溶量を減少させて熱伝導度(電気伝導度)を向上させる。心材のSi含有量は、好ましくは上述のごとく0.05~0.8質量%である。Siの含有量が0.05質量%未満の場合には、その添加効果が不十分になり、0.8質量%を超えると、心材の融点が低下してろう付時の変形や局部溶融が生じ易くなる。Siの添加効果を十分に得ると共に、変形や局部溶融を十分に防止するという観点から、Siの含有量は、より好ましくは0.1~0.8質量%、更に好ましくは0.3~0.5質量%である。
【0020】
心材中のFeは、Mnと共存して、ろう付前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させる。心材のFe含有量は、好ましくは上述のごとく0.05~0.8質量%である。心材のFeの含有量が、0.05質量%未満の場合には、その添加効果が不十分になり、0.8質量%を超える場合には、結晶粒が細かくなって、溶融ろうが心材中に浸食し易くなり、耐高温座屈性が低下し易くなり、自己腐食性が増大し易くなる。Feの添加効果を十分に得ると共に、耐高温座屈性の低下をより抑制し、自己腐食性の増大をより抑制するという観点から、Feの含有量は、より好ましくは0.1~0.8質量%、更に好ましくは0.3~0.5質量%である。
【0021】
心材中のMnは、心材の強度を向上させ、耐高温座屈性を改善するよう機能する。心材のMn含有量は、好ましくは上述のごとく0.8~2質量%である。心材のMn含有量が0.8質量%未満の場合には、その添加効果が不十分になり、2質量%を超える場合には、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性が害され、クラッド材の製造が困難となり易い。Mnの添加効果を十分に得ると共に、圧延加工性の低下をより抑制するという観点から、Mnの含有量は、より好ましくは0.9~2質量%、更に好ましくは1~1.7質量%である。
【0022】
心材は、さらにZn:0.3~3質量%を含有することができる。すなわち、心材のアルミニウム合金の化学成分は、例えば、Si:0.05~0.8質量%、Fe:0.05~0.8質量%、Mn:0.1~2質量%を含有し、さらにZn:0.3~3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物である。心材中のZnは、電位を卑にして犠牲陽極効果を高めることができ、プレコートフィン材の耐食性を向上させることができる。心材のZn含有量が、0.3質量%未満の場合には、その添加効果が不十分になり、3質量%を超える場合には、心材自体の自己耐食性が悪くなり易く、粒界腐食感受性も増加し易くなる。Znの添加効果を十分に得ると共に、耐食性をより向上させるという観点から、心材のZn含有量は、より好ましくは1~2.5質量%、更に好ましくは2~2.3質量%である。
【0023】
心材は、さらにMg:1質量%以下及びCu:0.5質量%以下の少なくとも一方を含有することができる。すなわち、心材のアルミニウム合金の化学成分は、例えば、Si:0.05~0.8質量%、Fe:0.05~0.8質量%、Mn:0.1~2質量%、Zn:0.3~6質量%を含有し、さらにMg:1質量%以下及びCu:0.5質量%以下の少なくとも一方を含有し、残部がAl及び不可避的不純物である。
【0024】
心材中のMgは、Siとの析出物の形成によってろう付け前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させる。心材のMgの含有量は、好ましくは上述のごとく1質量%以下である。Mgの含有量が1質量%を超える場合には、心材の融点が低下してろう付時の変形や局部溶融が生じ易くなる。Mgの添加効果を十分に得るという観点から、心材のMgの含有量は、より好ましくは0.05~1質量%、更に好ましくは0.3~1質量である。
【0025】
心材中のCuは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させるが、耐粒界腐食性を低下させる。心材のCuの含有量は、好ましくは上述のごとく0.5質量%以下である。Cuの含有量が0.5質量%を超える場合には、フィン材の電位が貴となってフィン材の犠牲陽極効果が低下し易くなるとともに、耐粒界腐食性も低下し易くなる。Cuの添加効果を十分に得るという観点から、心材のCuの含有量は、より好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0026】
心材は、さらにIn:0.3質量%以下及びSn:0.3質量%以下の少なくとも一方を含有することができる。すなわち、心材のアルミニウム合金の化学成分は、例えば、Si:0.05~0.8質量%、Fe:0.05~0.8質量%、Mn:0.1~2質量%、Zn:0.3~6質量%を含有し、さらにIn:0.3質量%以下及びSn:0.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物である。
【0027】
心材中のSnは、表面電位を卑化して電位を卑にして犠牲陽極効果を高める。心材のSn含有量は、好ましくは上述のごとく0.3質量%以下である。心材のSn含有量が、0.3質量%を超える場合には、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。Snの添加効果を十分に得るという観点から、心材のSnの含有量は、より好ましくは0.005~0.3質量%である。
【0028】
心材中のInは、表面電位を卑化して電位を卑にして犠牲陽極効果を高める。心材のIn含有量は、好ましくは上述のごとく0.3質量%以下である。Inの含有量が0.3質量%を超える場合には、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。Inの添加効果を十分に得るという観点から、心材のInの含有量は、より好ましくは0.005~0.3質量%である。
【0029】
心材は、さらにTi:0.3質量%以下、V:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、Cr:0.3質量%以下、及びNi:2質量%以下から選ばれる少なくとも1種を含有することができる。すなわち、心材のアルミニウム合金の化学成分は、例えば、Si:0.05~0.8質量%、Fe:0.05~0.8質量%、Mn:0.1~2質量%、Zn:0.3~6質量%を含有し、さらにTi:0.3質量%以下、V:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、Cr:0.3質量%以下、及びNi:2質量%以下から選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がAl及び不可避的不純物である。
【0030】
心材中のTiは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材の腐食を層状腐食形態として、局部的な腐食を緩和する。また、Tiは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させるとともに、高温座屈性を改良する。心材のTi含有量は、好ましくは上述のごとく0.3質量%以下である。心材のTi含有量が、0.3質量%を超える場合には、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。Tiの添加効果を十分に得るという観点から、心材のTiの含有量は、より好ましくは0.01~0.3質量%である。
【0031】
心材中のVは、アルミニウム合金組織のマトリックス中に固溶して強度を向上させる他、層状に分布して板厚方向の腐食の進展を防ぐ効果がある。また、Vは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させるとともに、高温座屈性を改良する。心材のV含有量は、好ましくは上述のごとく0.3質量%以下である。心材のV含有量が0.3質量%を超える場合には、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。Vの添加効果を十分に得るという観点から、心材のVの含有量は、より好ましくは0.01~0.3質量%である。
【0032】
心材中のZrは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させるとともに、高温座屈性を改良する。心材のZr含有量は、好ましくは上述のごとく0.3質量%以下である。心材のZr含有量が0.3質量%を超える場合には、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。Zrの添加効果を十分に得るという観点から、心材のZrの含有量は、より好ましくは0.01~0.3質量%である。
【0033】
心材中のCrは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させるとともに、高温座屈性を改良する。心材のCr含有量は、好ましくは上述のごとく0.3質量%以下である。心材のCr含有量が0.3質量%を超える場合には、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。Crの添加効果を十分に得るという観点から、心材のCrの含有量は、より好ましくは0.01~0.3質量%である。
【0034】
心材中のNiは、ろう付前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させる。心材のNi含有量は、好ましくは上述のごとく2質量%以下である。心材のNi含有量が2質量%を超える場合には、結晶粒が細かくなって、溶融ろうが心材中に浸食し易くなり、耐高温座屈性が低下し易く、自己腐食性が増大し易くなる。Niの添加効果を十分に得るという観点から、心材のNiの含有量は、より好ましくは0.05~2質量%、更に好ましくは0.1~2質量%である。
【0035】
ろう材は、Si:5~10質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する。ろう材中のSiは、ろう付け加熱時に溶融ろうの流動性を高めて接合に寄与する。ろう材のSi含有量が5質量%未満の場合には、その添加効果が不十分になり、10質量%を超える場合には、溶融ろうが過多となり、溶融ろうによって塗膜が流されて親水持続性が低下する。Siの添加効果をより十分に得ると共に、親水持続性の低下をより抑制するという観点から、ろう材のSi含有量は、より好ましくは7~9質量%である。
【0036】
ろう材は、さらにSr:0.1質量%以下を含有することができる。すなわち、ろう材のアルミニウム合金の化学成分は、例えば、Si:5~10質量%を含有し、さらにSr:0.1質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物である。
【0037】
ろう材中のSrは、ろう付後のろう材中のSi粒子径を小さくする。ろう材のSr含有量は、好ましくは上述のごとく0.1質量%以下である。ろう材のSr含有量が0.1質量%を超えると、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。Srの添加効果を十分に得るという観点から、ろう材のSrの含有量は、より好ましくは0.001~0.1質量%である。
【0038】
ろう材は、さらにZn:0.3質量%以下及びCu:0.3質量%以下の少なくとも一方を含有することができる。すなわち、ろう材のアルミニウム合金の化学成分は、例えば、Si:5~10質量%、Sr:0.1質量%以下を含有し、さらに、Zn:0.3質量%以下及びCu:0.3質量%以下の少なくとも一方を含有し、残部がAl及び不可避的不純物である。
【0039】
ろう材中のZnは、犠牲陽極効果を高めるよう機能する。ろう材のZn含有量は、好ましくは上述のごとく0.3質量%以下である。ろう材のZn含有量が0.3質量%を超える場合には、製造時の加工性が低下し易くなるとともに、自然電位が卑となり自己腐食性が増大し易くなる。Znの添加効果を十分に得るという観点から、ろう材のZn含有量は、より好ましくは0.05~0.3質量%である。
【0040】
ろう材中のCuは、ろう付後フィレットの電位を貴化して接合部の耐食性を向上させる。ろう材のCu含有量は、好ましくは上述のごとく0.3質量%以下である。ろう材のCu含有量が0.3質量%を超える場合には、フィン材の電位が貴となってフィンの犠牲陽極効果が低下し易くなる。Cuの添加効果を十分に得ると共に、フィンのフィ性陽極効果の低下をより抑制するという観点から、ろう材のCuの含有量は、より好ましくは0.05~0.3質量%、更に好ましくは0.1~0.2質量%である。
【0041】
ろう材の厚さは、ろう材中のSi含有量、フィンとアルミニウム管との接合形状、フィンピッチ等との関係で、適宜選択され、好ましくは7μm以上、より好ましくは7~30μmである。
【0042】
ブレージングシートにおいて、ろう材は心材の片面のみにクラッドされていてもよいし、両面にクラッドされていてもよい。ろう材のクラッド率は、常識的な範囲であれば適用可能であり、適宜選択されるが、好ましくは3~25%である。ろう材のクラッド率が、上記範囲未満だと、ろう付け加熱時に溶融したろう材が少なくなり易く、フィレットが十分に形成されない場合があり、一方、上記範囲を超えると、ろう付け加熱時に溶融するろう材が多過ぎるために、心材が溶ける場合がある。
【0043】
ブレージングシートは、心材の片面又は両面にろう材をクラッドすることにより得られる。心材にろう材をクラッドする方法としては、心材又はろう材中の各元素の組成と同じ組成を有する心材用の合金鋳塊及びろう材用の合金鋳塊を鋳造し、次いで、心材用の合金鋳塊については常法に従って均質化処理を行い、ろう材用の合金鋳塊については熱間圧延を行い、次いで、均質化処理後の心材用の合金鋳塊とろう材用の合金鋳塊の熱間圧延物を重ね合わせて、熱間圧延を行ってクラッド板を作成する。その後、冷間圧延を行い、必要に応じて中間焼鈍を行い、仕上げ冷間圧延をして、ブレージングシートを得る方法が挙げられる。仕上げ冷間圧延を行った後、製品幅に条切断され、フィン用素材としてのブレージングシートとなる。条切断の前又は後に、ブレージングシートに対して後述の塗膜の形成行うことができる。
【0044】
次に、ブレージングシートの表面に形成される塗膜について説明する。
塗膜は、ブレージングシートの片面に形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。塗膜は、例えばケイ素(Si)を含む酸化物、複合酸化物等によって形成され、Siを含有する。塗膜中のSi量は10~300mg/m2である。Si量が10mg/m2未満の場合には、親水持続性が低下するおそれがある。親水持続性の低下をより抑制するという観点から、塗膜中のSi量は100mg/m2以上がより好ましい。一方、Si量が300mg/m2を超える場合には、塗膜によってろう付け時の接合性が損なわれるおそれがある。なお、Si量は塗膜片面当たりの量である。また、塗膜中のSi量が10~300mg/m2である場合において、塗膜の付着量は20~800mg/m2であることが好ましい。
【0045】
塗膜は、ケイ酸塩及び非晶質シリカの少なくとも一方を含有しているこれにより、塗膜の親水持続性がより向上する。親水持続性をさらに向上させるという観点から、塗膜は少なくともケイ酸塩を含有することがより好ましい。ケイ酸塩とは、例えばケイ酸ナトリウムやケイ酸リチウム等である。ケイ酸塩を含む塗膜は、例えば水ガラスのような、ケイ酸塩を含有する水溶液をブレージングシートの表面に塗装し、乾燥することにより形成することができる。親水持続性をより向上させるという観点から、ケイ酸塩は、水ガラス由来であることがより好ましい。
【0046】
また、非晶質シリカとしては、例えば非晶質コロイダルシリカを乾燥してなる凝集体があり、親水持続性をより向上できるという観点から、非晶質シリカは、非晶質コロイダルシリカ由来であることが好ましい。非晶質シリカを含む塗膜は、非晶質コロイダルシリカをブレージングシートの表面に塗装し、乾燥することにより形成することができる。また、非晶質コロイダルシリカとケイ酸塩を含有する水溶液との混合物をブレージングシートの表面に塗装し、乾燥することにより、非晶質シリカとケイ酸塩とを含有する塗膜を形成することができる。
【0047】
塗膜は、さらに、フッ化物フラックスを含有することができる。フッ化物フラックスの含有量は0であってもよい。フッ化物フラックスの含有量は、0以上、5000mg/m2以下がよい。この場合には、フラックス効果を得ることができると共に、親水持続性能をより向上させることができる。フッ化物フラックスの含有量が少なすぎると、フラックスの添加効果が十分に得られなくなるおそれがある。したがって、フッ化物フラックスの含有量は、40mg/m2以上であることがより好ましく、500mg/m2以上であることがさらに好ましく、1000mg/m2以上であることがさらにより好ましい。一方、フッ化物フラックスの含有量が多すぎると、親水持続性が低下するおそれがある。親水持続性の低下を抑制するという観点から、フッ化物フラックスの含有量は、上述のごとく5000mg/m2以下であることが好ましく、3000mg/m2以下であることがより好ましく、2000mg/m2以下であることがさらに好ましい。塗膜が上記範囲でフッ化物フラックスを含有する場合には、塗膜の付着量は、50~6000mg/m2であることが好ましい。
【0048】
フッ化物フラックスとしては、KAlF4、K2AlF5、K2AlF5・H2O、K3AlF6、AlF3、KZnF3、K2SiF6、Cs3AlF6、CsAlF4・2H2O、Cs2AlF5・H2O等が挙げられる。また、塗膜がフッ化物フラックスを含有する場合には、塗膜は、Si量が10~300mg/m2であり、フッ化物フラックスを含有する単層によって形成されていてもよいし、Si量が10~300mg/m2である層と、フッ化物フラックスを主成分とする層との積層体によって形成されていてもよい。具体的には、単層の場合には、塗膜は、例えばケイ酸塩及び非晶質シリカの少なくとも一方とフッ化物フラックスとを含有する層によって形成される。2層構造の積層体の場合には、塗膜は、例えばケイ酸塩及び非晶質シリカの少なくとも一方を主成分とする層と、フッ化物フラックスを主成分とする層によって形成される。
【0049】
また、塗膜は、さらに有機樹脂を含有することができる。この場合には、塗膜形成時の塗工性が向上する。また、ケイ酸塩、非晶質シリカ等のSi成分が塗膜から脱落することを防止できる。
【0050】
有機樹脂は、水溶性アクリル樹脂及び/又はポリオキシエチレンアルキレングリコール(PAE)からなることが好ましい。この場合には、有機樹脂が例えば接合時の加熱により分解され易く、塗膜中から有機樹脂を消失させることが可能になる。その結果、接合後の塗膜中の有機樹脂が少なくなるため、有機樹脂により接合性が阻害されることを防止できる。
【0051】
また、プレコートフィン材は、ブレージングシートと塗膜との間に形成された化成皮膜からなる下地処理層を有していてもよい。化成皮膜からなる下地処理層は、例えばリン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、ベーマイト処理などにより形成することができる。下地処理層は、ブレージングシートと塗膜との密着性を向上させることができればよく、その他の処理により形成してもよい。
【0052】
熱交換器において、プレコートフィン材よりなるフィンとしては、差し込みフィン、コルゲートフィン等の形状を採用することができる。熱交換性能の向上のため、フィン材はスリットを有していてもよい。
【0053】
アルミニウム管の形状としては、冷媒が流れる冷媒通路管であれば、特に制限されず、丸管あるいは扁平管等を採用することができる。管内には、内部を複数の通路に区画する内柱が形成されていてもよい。より具体的には、アルミニウム管としては、例えば扁平多穴管を採用することができる。アルミニウム管は、表面にクラッドされたろう材を有していても、ろう材を有していなくてもよい。
【0054】
次に、プレコートフィン材からなるフィンとアルミニウム管との接合方法について説明する。接合においては、ろう材を別途使用することなく、ブレージングシートにおいて心材上に積層形成されているろう材の接合能力を利用することができる。熱交換器のフィンとしての利用を考慮すれば、フィン材自身の変形を避けることが望まれ、そのために接合加熱条件を管理することができる。ろう付け加熱温度は、例えば590℃~605℃であり、ろう付け加熱時間は、例えば1~10分間である。また、ろう付け加熱の際の雰囲気は、窒素ガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気である。
【0055】
プレコートフィン材は、上記のごとく、心材上にろう材と塗膜とを有している。塗膜は、上述のごとく、心材上に形成することもできるし、ろう材上に形成することもできる。ろう付け加熱時において、ろう材の少なくとも一部は軟化又は溶融して、アルミニウム管との当接部において接合に寄与するフィレットが形成されうる。このとき、ろう材上に塗膜が形成されていたとしても、熱交換器のフィンは、優れた親水持続性を発揮することができる。これは、ろう材が軟化又は溶融しても、フィン上に塗膜中のSi成分(ケイ酸塩、非晶質シリカ等)が保持されるためと考えられる。
【0056】
熱交換器は、プレコートフィン材からなるフィンと、このフィンに接合されたアルミニウム管とからなるコア部を有する。熱交換器の具体例は、後述の実施例において図面を用いて説明するが、熱交換器は、コア部に、ヘッダ、サイドサポート、出入り口管等を組み付けることにより製造される。
【0057】
熱交換器は、例えば、空調機、冷蔵庫に用いることができる。また、自動車のコンデンサ、エバポレータ、ラジエータ、ヒータ、インタークーラ、オイルクーラ等に用いることもできる。さらに、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モータを制御するインバータユニットに備えられたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の発熱体を冷却するための冷却装置に用いることもできる。
【実施例
【0058】
(実施例1)
本例は、実施例及び比較例にかかる複数のプレコートフィン材を作製し、その性能を比較する例である。本例においては、後述の表1~表11に示すごとく、心材の合金の組成、ろう材の合金組成、塗膜の組成が異なる複数のプレコートフィン材(試料E1-1~試料E9-2、試料C1-1~試料C9-2)を作製する。そして、これらのプレコートフィン材をそれぞれ用いて、熱交換器用のコア部を作製し、親水持続性、接合性を比較評価する。本例においては、コア部として試験用のミニコアを作製する。
【0059】
図1に例示されるように、プレコートフィン材1は、ブレージングシート11と、その表面に形成された塗膜12とを有する。ブレージングシート11は、アルミニウム合金からなる心材111と、この心材111の両面に形成されたろう材112とを有する。塗膜12は、ブレージングシート11の両面に形成されており、具体的には、塗膜12は、ろう材112上に、図示を省略する化成皮膜からなる下地処理層を介して積層形成されている。下地処理層の形成は任意であり、形成されていなくてもよい。
【0060】
ろう材112は、後述の表1に示す添加成分(元素)を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する。本例においては、表1に示す組成が異なる試料A1~試料A10のろう材を用いる。心材111は、後述の表2に示す添加成分(元素)を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する。本例においては、表2に示す組成が異なる試料B1~B34の心材を用いる。塗膜12は、後述の表3~表11に示す含有量でケイ酸リチウム由来のSiを含有し、さらに塗工性を向上できる程度の量の水溶性アクリル樹脂を含有する。また、本例において作製するプレコートフィン材1のうちの一部において、塗膜12は、後述の表に示す量でさらにフラックスを含有する。
【0061】
図2及び図3に示すごとく、ミニコア2は、プレコートフィン材1からなるフィン3と、アルミニウム管4とを有し、コルゲート形状のフィン3がアルミニウム管4に挟まれている。なお、図2においては、フィン2のコルゲート形状を明示するために、フィン3を挟む2つのアルミニウム管4の一方を破線にて示してある。
【0062】
フィン3は、コルゲート状に成形されたプレコートフィン材1よりなる。より具体的には、図4に示すごとく、フィン3は、心材111と、その両面に形成されたろう材112とからなるブレージングシート11、さらにその両面に形成された塗膜12を有する。
【0063】
図2及び図3に示すごとく、アルミニウム管4は、アルミニウム合金製の扁平多穴管からなる。アルミニウム管4は、冷媒を流通させるための多数の冷媒流路411を有している。ミニコア2においては、コルゲート状のフィン3は、各頂点30においてアルミニウム管4と接合している。
【0064】
以下、本例のミニコア1の製造方法について説明する。具体的には、まず、連続鋳造により、表2に示す組成を有する心材用アルミニウム合金と、表1に示す組成を有するろう材用アルミニウム合金を造塊して、常法に従って均質化処理し、ろう材用アルミニウム合金鋳塊については更に熱間圧延して、心材用アルミニウム合金鋳塊の片面にろう材が10%となる比率にてクラッドした後、熱間圧延し、次いで、冷間圧延を行い、中間焼鈍を施した後、最終冷間圧延を経て、ブレージングシート11を製造した。各表中に示される添加成分以外の成分、すなわち残部は、Al及び不可避的不純物である。
【0065】
次いで、下地処理を行うことにより、ブレージングシート11の両面に、図示を省略する化成皮膜からなる下地処理層を形成した。下地処理としては、リン酸クロメート処理を行った。下地処理層の厚みは例えば1μm程度である。
【0066】
次いで、バーコーターを用いて、下地処理層上に、水ガラス、水溶性アクリル樹脂、及び必要に応じて添加されるフッ化物フラックスであるKAlF4を含有する塗料を所定量塗布し、温度200℃で乾燥させることにより塗膜12を形成した(図1参照)。このようにして、表3~表11に示される含有量で水ガラス由来のSiを含有する塗膜12をブレージングシート11上に有するプレコートフィン材1を作製した。塗膜12は、ブレージングシート11の両面に形成した。
【0067】
塗膜12中のSi量は、蛍光X線分析により測定した。蛍光X線分析は、Rigaku社製のZSXPrimusIIを用いて、雰囲気:真空、管球:Rh、出力:50kV-60mAという条件で行った。塗膜中のSiの定量は、標準Si試料を用いた検量線法にて行った。
【0068】
次いで、プレコートフィン材1をコルゲート状に加工した。このようにして、ブレージングシート11の両面に形成された塗膜12を有するコルゲート状のフィン3を得た(図2図4参照)。これらのフィン3は、ミニコア1の製造にそれぞれ用いられる。
【0069】
次いで、アルミニウム管4として、押出加工により3000系アルミニウム合金製の扁平多穴管を作製した(図2及び図3参照)。2つのアルミニウム管4の間に、コルゲート状のフィン3を挟み込んで組立品を作製した(図2及び図3参照)。このとき、図5に示すごとく、コルゲート状のフィン3の各頂点30とアルミニウム管4とを当接させた。次いで、窒素ガス雰囲気で温度600℃の炉内に、組立品を3分間保持した後、室温(25℃)まで冷却した。この炉内での加熱時にフィン3のろう材112が軟化又は溶融し、冷却時にろう材が凝固する。このろう材の軟化又は溶融、凝固により、コルゲート状のフィン3の各頂点30とアルミニウム管4とが当接部において接合する(図示略)。このようにして、図2及び図3に例示されるように、フィン3とアルミニウム管4とが接合されたミニコア2を得た。
【0070】
次に、上記のようにして得られた各試料のプレコートフィン材1、ミニコア2について、以下のようにして親水持続性、接合性、強度、耐食性、変形率、製造性の評価を行った。その結果を表3~表11に示す。
【0071】
<親水持続性>
親水持続性の評価は、各試料のプレコートフィン材を用いて行った。各試料に対しては、塗膜形成の後に行われるフィンの接合を想定した加熱が行われている。具体的には、プレコートフィン材を窒素ガス雰囲気で温度600℃の炉内で3分間加熱した。次いで、プレコートフィン材を純水に2分間浸漬した後、6分間風乾した。この純水への浸漬と風乾というサイクルを300回繰り返し実施した。次いで、各試験板の塗膜上における水滴の接触角を測定した。接触角の測定は、協和界面化学株式会社製のFACE自動接触角計「CA-Z」を用いて行った。具体的には、室温で、塗膜上に水滴を滴下し、30秒後の水滴の接触角を測定した。接触角が10°未満の場合を「A」と評価し、10°以上かつ20°未満の場合を「B」と評価し、20°以上かつ30°未満の場合を「C」と評価し、30°以上の場合を「D」と評価した。
【0072】
<接合性>
接合後の各ミニコアにおける接合部をカッターナイフにより切断し、フィンの接合長さL1をフィンの山部の長さL2の総和で割算して100分率で表した値(L1/L2×100)を接合率(%)とした。接合率が90%以上の場合を「A」と評価し、接合率が80%以上かつ90%未満の場合を「B」と評価し、接合率が70%以上かつ80%未満の場合を「C」と評価し、70%未満の場合を「D」と評価した。
【0073】
<強度>
強度の測定は、各試料のプレコートフィン材を用いた引張試験により行った。各試料に対しては、塗膜形成の後に行われるフィンの接合を想定した加熱が行われている。具体的には、プレコートフィン材を窒素ガス雰囲気で温度600℃の炉内で3分間加熱した。引張試験は、各試料に対し、引張速度10mm/min、ゲージ長50mmの条件で、JIS Z2241(2011年)に従って、常温にて実施した。
【0074】
<耐食性>
CASS試験を500h行い、フィンの腐食状態を確認した。光学顕微鏡による断面観察においてフィンの残存量が70%以上の場合を「A」と評価し、50%以上かつ70%未満の場合を「B」と評価し、30%以上かつ50%未満の場合を「C」と評価し、30%未満の場合を「D」と評価した。
【0075】
<変形率>
接合前後のミニコアのフィン高さを測定してフィン座屈による変形率についても評価した。すなわち、接合前のフィン高さに対する接合前後のフィン高さ変化の割合が5%以下の場合を「A」と評価し、5%を超えかつ10%以下の場合を「B」と評価し、10%を超えかつ15%以下の場合を「C」と評価し、15%を超えるものを「D」と評価した。
【0076】
<製造性>
アルミニウム合金の圧延加工時に、例えば表面割れが起こり良好な板材が製造できなかった場合を「×」と評価し、良好な板材が製造できた場合を「○」と評価した。なお、製造性が「×」の場合には上述の他の評価は省略した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
【表7】
【0084】
【表8】
【0085】
【表9】
【0086】
【表10】
【0087】
【表11】
【0088】
表1~表3に示されるように、試料E1-1及び試料E1-2は、試料C1-1及び試料C1-2に比べて、親水持続性が優れ、接合率が高い。したがって、ブレージングシート11と塗膜12とを有するプレコートフィン材1において、ブレージングシート11のろう材112は、Siを5~10質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有することが好ましいことがわかる。また、試料E1-3及び試料E1-4は、試料C1-3及び試料C1-4に比べて、親水持続性に優れ、接合率が高い。したがって、塗膜12中のSi量は、10~300mg/m2であることが好ましいことがわかる。
【0089】
また、表4における試料E2-1及び試料E-2と、試料E2-3及び試料E-4とを比較してわかるように、塗膜はフッ化物フラックスを含有することができ、フッ化物フラックスの含有量を40~5000mg/m2に調整することにより、親水持続性をより向上させることができる。
【0090】
また、表1、表2、表5より知られるように、心材のアルミニウム合金に、Si:0.05~0.8質量%、Fe:0.05~0.8質量%、及びMn:0.8~2質量%を含有する試料E3-1~試料E3-6は、これらの添加成分の含有量が上記範囲を外れる試料C3-1~試料C3-6にそれぞれ比べて、強度又は耐食性がより優れていた。
【0091】
また、表1、表2、表6より知られるように、心材のアルミニウム合金に、Zn:0.3~3質量%を含有する試料E4-1及び試料4-2は、Znの含有量が上記範囲を外れる試料C4-1~試料C4-2に比べて、耐食性がより優れていた。
【0092】
また、表1、表2、表7より知られるように、心材のアルミニウム合金に、Mg:1質量%以下及びCu0.5質量%以下の少なくとも一方を含有する試料E5-1及び試料5-2は、これらの添加成分の含有量が上記範囲を外れる試料C5-1~試料C5-2に比べて、耐食性、接合性がより優れていた。
【0093】
また、表1、表2、表8より知られるように、心材のアルミニウム合金に、In:0.3質量%以下及びSn:0.3質量%以下の少なくとも一方を含有する試料E6-1及び試料6-2は、耐食性が向上した。一方、これらの添加成分の含有量が上記範囲を外れる場合には、製造性が損なわれた。
【0094】
また、表1、表2、表9より知られるように、心材のアルミニウム合金に、Ti:0.3質量%以下、V:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、Cr:0.3質量%以下、及びNi:2質量%以下から選ばれる少なくとも1種を含有する試料E7-1~試料7-5は、変形率が低下して改良されていた。一方、これらの添加成分の含有量が上記範囲を外れる場合には、製造性が損なわれるか、かえって変形率が増大していた。
【0095】
また、表1、表2、表10より知られるように、ろう材のアルミニウム合金に、Sr:0.1質量%以下を含有する試料E8-1は、変形率が低く改良されていた。一方、Srの含有量が上記範囲を超える場合には、製造性が損なわれた。
【0096】
また、表1、表2、表11より知られるように、ろう材のアルミニウム合金に、Zn:0.3質量%以下及びCu:0.3質量%以下の少なくとも一方を含有する試料E9-1及び試料E9-2は、これらの添加成分の含有量が上記範囲を外れる試料C9-1及び試料C9-2にそれぞれ比べて、耐食性が向上していた。
【0097】
(実施例2)
次に、実施例1において示したプレコートフィン材を用いたコア部を有する熱交換器の例について説明する。図6に示すごとく、熱交換器5は、実施例1のミニコアと同様の構成を多数備えるコア部2を有する。具体的には、コア部2は、コルゲート状のプレコートフィン材1からなるフィン3と、アルミニウム管4とを交互に多数積層してなり、フィン3とアルミニウム管4とが実施例1のミニコアと同様にして接合されている。
【0098】
アルミニウム管4の両端には、ヘッダ51が組み付けられており、コア部2の積層方向における両端(最外側)には、サイドプレート52が組み付けられている。また、ヘッダ51には、タンク53が組み付けられている。これらのヘッダ51、サイドプレート52、及びタンク53は、例えばろう付けにより接合させることができる。
【0099】
熱交換器5においては、上述の表3~表11に示す試料E1-1~試料E9-2と同様のプレコートフィン材1を用いることができる。すなわち、熱交換器5は、上述の親水持続性及び接合性等に優れたプレコートフィン材1からなるフィン3と、フィン3に接合されたアルミニウム管4とからなるコア部2を有する。そのため、熱交換器5は、フィン3が優れた親水持続性を発揮するため、通風抵抗の増加を抑制し、良好な熱交換性能を長期間安定して発揮することができる。また、熱交換器5においては、例えばアルミウム管4とフィン3とが十分に接合されるため、アルミニウム管4とフィン3との熱交換性能が良好になる。
【0100】
(実施例3)
本例は、フィンに形成した組み付け孔内に扁平多穴管からなるアルミニウム管が挿入された構成の熱交換器の例である。図7に例示されるように、熱交換器6は、アルミニウム管7と、フィン8とを有している。図7及び図9に例示されるように、フィン8は、アルミニウム管7が挿入される組み付け孔81を有している。図7及び図8に例示されるように、アルミニウム管7は、当接部61においてフィン8に当接している。図7図9に例示されるように、当接部61においては、アルミニウム管7とフィン8との間に両者を接合するフィレット600が形成されている。
【0101】
本例の熱交換器6は、図7に例示されるように、板厚方向に互いに間隔をあけて並べられた多数のフィン8と、フィン8の板厚方向に延びた複数のアルミニウム管7とを有している。フィン8は、板厚方向から視た平面視において略長方形状を呈している。
【0102】
図8及び図9に例示されるように、フィン8は、実施例1と同様のブレージングシート11と、その両面に形成された塗膜12とを有するプレコートフィン材1よりなるが、ブレージングシート11においては、ろう材112は、心材111の片面に形成されている。より具体的には、ろう材112は、アルミニウム管7との当接部61側に形成されており、反対側にはろう材112は形成されていない。塗膜12は、ろう材112の形成面側においては、ろう材112上に積層形成されており、ろう材の非形成面側においては、心材111上に積層形成されている。ろう材、塗膜の形成方法は、実施例1と同様である。
【0103】
フィン8における組み付け孔81は、フィン8の外周縁部に設けられた切り欠き811である。切り欠き811は、フィン8の外周縁部から板幅方向に延びており、平面視においてU字状を呈している。また、切り欠き811は、フィン8の外周縁部に設けられた開放部812からアルミニウム管7を圧入することができるように構成されている。
【0104】
また、図7及び図9に示すように、フィン8は、組み付け孔81の周縁から突出したカラー部82を有している。カラー部82の高さは特に限定されないが、例えば、200μm以上とすることができる。
【0105】
図7に例示されるように、アルミニウム管7は、長手方向の断面が長円形を呈しており、内部に複数の流路711が形成された扁平多穴管である。扁平多穴管は、その幅方向と、フィンプレートの板幅方向とが平行になるように配置されている。また、図7及び図8に例示されるように、扁平多穴管よりなるアルミニウム管7は、その幅方向における一方の端部712、即ち表面が曲面状を呈している部分において、カラー部82に当接している。そして、アルミニウム管7の一方の端部712とカラー部82のU字形状における先端部821とが当接部61を構成している。図示を省略するが、当接部61においては、フィン8のろう材112が後述の接合時の加熱及び冷却によってフィン8とアルミニウム管7とを接合している。
【0106】
本例の熱交換器6は、例えば以下のようにして作製することができる。まず、ろう材112を心材111の片面に形成した点を除いて実施例1と同様にしてプレコートフィン材1を作製し、このフィン材を用いて常法によりフィン8を作製する。そして、複数のフィン8を、板厚方向に互いに間隔をあけて並べる。次に、常法により準備された扁平多穴管からなるアルミニウム管7をフィン8の組み付け孔81に圧入し、少なくともアルミニウム管7の一方の端部712とカラー部82の先端部821とを当接させる。その後、例えば窒素ガス雰囲気下、温度600℃で3分間加熱した後冷却させる。加熱によりフィン8のろう材112軟化又は溶融し、冷却によりろう材を凝結させることにより、当接部61においてフィン8とアルミニウム管7とが接合する。このようにして、アルミニウム管7とフィン8とが接合したコア部を有する熱交換器6を作製することができる。本例の熱交換器においても、実施例2と同様の作用効果を奏することできる。
【0107】
以上のように、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の各実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 プレコートフィン材
11 ブレージングシート
111 心材
112 ろう材
12 塗膜
5、6 熱交換器
3、8 フィン
4、7アルミニウム管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9