(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】電気化学反応単位および電気化学反応セルスタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/02 20160101AFI20220629BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220629BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20220629BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20220629BHJP
H01M 8/24 20160101ALI20220629BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20220629BHJP
【FI】
H01M8/02
C25B9/00 A
H01M4/86 U
H01M8/0202
H01M8/24
H01M8/12
(21)【出願番号】P 2017070325
(22)【出願日】2017-03-31
【審査請求日】2019-11-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2017030882
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 智聡
(72)【発明者】
【氏名】井上 志郎
(72)【発明者】
【氏名】山際 勝也
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】市川 篤
【審判官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-188642(JP,A)
【文献】特開2017-16909(JP,A)
【文献】特開2010-218817(JP,A)
【文献】特開2005-190981(JP,A)
【文献】特開2007-165143(JP,A)
【文献】特開2011-129309(JP,A)
【文献】国際公開第2007/148761(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/297
H01M 8/08- 8/2495
H01M 4/86- 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層に対して第1の方向の一方側に配置された燃料極と、前記電解質層に対して前記第1の方向の他方側に配置された空気極と、を備える電気化学反応単セルと、
前記空気極における前記第1の方向の前記他方側の表面に接する複数の凸部を有する導電性の集電体と、
を備える電気化学反応単位において、
前記空気極における前記集電体側の部分の気孔率は、30%以上、45%以下であり、
前記複数の凸部は、互いに同一の形状であり、かつ、前記第1の方向と前記空気極に面する空気室におけるガスの流れ方向との両方に直交する第2の方向に沿って等間隔に配置されており、
かつ、前記空気室におけるガスの流れ方向に沿って等間隔に配置されており、
前記複数の凸部の内の少なくとも1つである特定凸部について、前記第2の方向における前記特定凸部の前記空気極に接する部分の幅γに対する、前記第1の方向における前記空気極の厚さβの比である第1の比率(β/γ)は、0.07以上であり、
前記空気極における前記第1の方向の前記他方側の部分の気孔率は、前記空気極における前記第1の方向の前記一方側の部分の気孔率より高いことを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単位において、
前記特定凸部について、前記特定凸部と前記特定凸部に対して前記第2の方向の隣に位置する前記凸部との間の前記第2の方向における最短距離αに対する、前記第1の方向における前記空気極の厚さβの比である第2の比率(β/α)は、0.035以上であることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項3】
請求項2に記載の電気化学反応単位において、
前記特定凸部について、前記第1の比率(β/γ)は、0.16以下であることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項4】
請求項3に記載の電気化学反応単位において、
前記特定凸部について、前記第2の比率(β/α)は、0.05以上であることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項5】
請求項4に記載の電気化学反応単位において、
前記特定凸部について、前記第2の比率(β/α)は、0.13以下であることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の電気化学反応単位において、
前記電気化学反応単セルは、燃料電池単セルであることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項7】
前記第1の方向に並べて配列された複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単位の少なくとも1つは、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の電気化学反応単位であることを特徴とする、電気化学反応セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単位に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池発電単位(以下、「発電単位」という)は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という)を備える。単セルは、電解質層と、電解質層に対して所定の方向(以下、「第1の方向」という)の一方側に配置された燃料極と、電解質層に対して第1の方向の他方側に配置された空気極とを含む。
【0003】
また、発電単位は、単セルを構成する空気極に対向する位置に配置された導電性の集電体を備える。集電体は、単セルにおける発電反応によって生じる電力を取り出すための部材である。集電体は、空気極における第1の方向の上記他方側の表面に接する複数の凸部を有する。発電運転時には、空気極の該表面と集電体の各凸部とが接する部分において、空気極と集電体との間の電子のやりとりが行われる。また、空気極に面する空気室に供給された酸化剤ガスは、空気極の該表面の内、集電体の各凸部と接しない(各凸部に覆われていない)部分から空気極内に流入する。
【0004】
従来、発電単位の性能を向上させるため、空気極の厚さ(第1の方向における厚さ)の好ましい範囲が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のように空気極の厚さの好ましい範囲を考慮するだけでは、発電単位の性能を十分に向上させることができず、さらなる性能向上の余地がある。
【0007】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という)の構成単位である電解セル単位にも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池発電単位と電解セル単位とをまとめて、電気化学反応単位と呼ぶ。
【0008】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単位は、電解質層と、前記電解質層に対して第1の方向の一方側に配置された燃料極と、前記電解質層に対して前記第1の方向の他方側に配置された空気極と、を備える電気化学反応単セルと、前記空気極における前記第1の方向の前記他方側の表面に接する複数の凸部を有する導電性の集電体と、を備える電気化学反応単位において、前記空気極における前記集電体側の部分の気孔率は、30%以上であり、前記複数の凸部の内の少なくとも1つである特定凸部について、前記第1の方向に直交する第2の方向における前記特定凸部の前記空気極に接する部分の幅γに対する、前記第1の方向における前記空気極の厚さβの比である第1の比率(β/γ)は、0.07以上である。本電気化学反応単位では、空気極における集電体側の部分の気孔率が30%以上であるため、ガスを空気極内に良好に進入させることができ、ガス拡散分極の増大を抑制することができる。また、本電気化学反応単位は、空気極の厚さβがある程度厚く、および/または、集電体の特定凸部の空気極に接する部分の幅γがある程度狭い構成であるため、空気極内に流入した酸化剤ガスが第1の方向に対する傾きがある程度の範囲の方向に沿って流れるときに、空気極における反応場の内、酸化剤ガスが到達しにくい領域を減らすことができ、ガス拡散分極の増大を抑制することができる。従って、本電気化学反応単位によれば、電気化学反応単位の性能を向上させることができる。
【0011】
(2)上記電気化学反応単位において、前記特定凸部について、前記第2の方向における前記特定凸部と前記特定凸部の隣に位置する前記凸部との間の最短距離αに対する、前記第1の方向における前記空気極の厚さβの比である第2の比率(β/α)は、0.035以上である構成としてもよい。本電気化学反応単位は、空気極の厚さβがある程度厚く、および/または、集電体の凸部と凸部との間の最短距離αがある程度短い構成であるため、空気極内に進入した電子が第1の方向に対する傾きがある程度の範囲の方向に沿って移動するときに、空気極における反応場の内、電子が到達しにくい領域を減らすことができ、活性化分極の増大を抑制することによって電気化学反応単位の性能を向上させることができる。
【0012】
(3)上記電気化学反応単位において、前記特定凸部について、前記第1の比率(β/γ)は、0.16以下である構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、空気極の厚さβが過度に厚くなることを抑制できる、および/または、集電体の特定凸部の空気極に接する部分の幅γが過度に狭くなることを抑制できるため、ガス拡散分極の増大や応力集中による空気極の破損を抑制することによって電気化学反応単位の性能を効果的に向上させることができる。
【0013】
(4)上記電気化学反応単位において、前記特定凸部について、前記第2の比率(β/α)は、0.05以上である構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、空気極の厚さβをより厚くする、および/または、集電体の凸部と凸部との間の最短距離αをより短くすることができるため、空気極における反応場の内、電子が到達しにくい領域をさらに効果的に減らすことができ、活性化分極の増大をさらに効果的に抑制することによって電気化学反応単位の性能をさらに効果的に向上させることができる。
【0014】
(5)上記電気化学反応単位において、前記特定凸部について、前記第2の比率(β/α)は、0.13以下である構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、空気極の厚さβが過度に厚くなることを抑制できる、および/または、集電体の凸部と凸部との間の最短距離αが過度に短くなることを抑制できるため、ガス拡散分極の増大を抑制することによって電気化学反応単位の性能をより一層効果的に向上させることができる。
【0015】
(6)上記電気化学反応単位において、前記空気極における前記第1の方向の前記他方側の部分の気孔率は、前記空気極における前記第1の方向の前記一方側の部分の気孔率より高い構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、反応場(三相界面長さ)を確保しつつ、ガス拡散分極の増大を抑制することができる。
【0016】
(7)上記電気化学反応単位において、前記電気化学反応単セルは、燃料電池単セルである構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、電気化学反応単位の発電性能を向上させることができる。
【0017】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単位(燃料電池発電単位または電解セル単位)、複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図4】
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図である。
【
図5】
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図6】
図4のVI-VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
【
図7】
図4のVII-VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
【
図8】凸部接触部幅γおよび凸部間最短距離αの特定に用いる断面SE1を示す説明図である。
【
図9】凸部接触部幅γおよび凸部間最短距離αの特定に用いる断面SE1を示す説明図である。
【
図10】凸部接触部幅γおよび凸部間最短距離αの測定位置を示す説明図である。
【
図12】第1の比率R1(=β/γ)と発電性能との関係を概念的に示す説明図である。
【
図13】第1の比率R1(=β/γ)と発電性能との関係を概念的に示す説明図である。
【
図14】第1の比率R1(=β/γ)と発電性能との関係を概念的に示す説明図である。
【
図15】第2の比率R2(=β/α)と発電性能との関係を概念的に示す説明図である。
【
図16】第2の比率R2(=β/α)と発電性能との関係を概念的に示す説明図である。
【
図17】第2の比率R2(=β/α)と発電性能との関係を概念的に示す説明図である。
【
図18】空気極114の気孔率の特定方法を示す説明図である。
【
図19】変形例における集電体190付近の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1(および後述する
図6,7)のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1(および後述する
図6,7)のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。
【0020】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0021】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0022】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0023】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0024】
また、
図1および
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0025】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、
図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0026】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0027】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
図5の上部には、発電単位102の一部分のYZ断面構成が拡大して示されている。また、
図6は、
図4のVI-VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図であり、
図7は、
図4のVII-VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
【0028】
図4および
図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0029】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0030】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112の上下方向(第1の方向)の一方側(下側)に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112の上下方向の他方側(上側)に配置された空気極(カソード)114と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0031】
電解質層112は、Z方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。すなわち、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0032】
空気極114は、Z方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。なお、本実施形態では、空気極114の気孔率は、Z軸方向に平行な方向において概ね一様であるが、Z軸方向において異なり得る。例えば、空気極114における上側の部分の気孔率(後述の空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1)は、空気極114における下側の部分の気孔率(後述の空気極114における電解質層112側の部分の気孔率RO2)より高い。このような構成によれば、反応場(三相界面長さ)を確保しつつ、ガス拡散分極の増大を抑制することができる。空気極114における上記上側の部分の気孔率(気孔率RO1)は、ガス拡散性を確保するためにある程度高いことが好ましい。具体的には、空気極114における上記上側の部分の気孔率(気孔率RO1)は、30%以上であることが好ましく、45%以下であることが好ましい。
【0033】
燃料極116は、Z方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメットにより形成されている。
【0034】
中間層180は、略矩形の平板形状部材であり、GDC(ガドリニウムドープセリア)を含むように形成されている。中間層180は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO3)が生成されることを抑制する。
【0035】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0036】
図4~6に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0037】
図4,5,7に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0038】
図4,5,7に示すように、燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0039】
図4~6に示すように、空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。
【0040】
なお、空気極側集電体134を構成する2つの隣り合う集電体要素135の間の空間は、酸化剤ガスOGが流れるガス流路として機能する。
図6に示すように、本実施形態では、各集電体要素135は、軸方向(長手方向)がX軸方向に略一致する向きで、X軸方向およびY軸方向に並ぶように配置されている。そのため、酸化剤ガスOGが流れるガス流路は、Z軸方向視でX軸方向およびY軸方向に格子状に延びるような形状となっている。
【0041】
また、本実施形態では、空気極側集電体134(集電体要素135)とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材の内の、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形状の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形状の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の集電体要素135が空気極側集電体134として機能する。
【0042】
また、
図4および
図5に示すように、空気極側集電体134(集電体要素135)の表面は、導電性のコート136によって覆われている。コート136は、例えば、スピネル型酸化物(例えば、Mn
1.5Co
1.5O
4やMnCo
2O
4、ZnCo
2O
4、ZnMn
2O
4、ZnMnCoO
4、CuMn
2O
4)により形成されている。空気極側集電体134の表面へのコート136の形成は、例えば、スプレーコート、インクジェット印刷、スピンコート、ディップコート、めっき、スパッタリング、溶射等の周知の方法で実行される。なお、上述したように、本実施形態では、空気極側集電体134(集電体要素135)とインターコネクタ150とが一体の部材として形成されているため、実際には、空気極側集電体134(集電体要素135)の表面の内、インターコネクタ150との境界面はコート136により覆われていない一方、インターコネクタ150の表面の内、少なくとも酸化剤ガスOGが流れるガス流路に面する表面(例えば、インターコネクタ150における空気極114側の表面)はコート136により覆われている。また、空気極側集電体134等に対する熱処理によって酸化クロムの被膜ができることがあるが、その場合には、コート136は、当該被膜ではなく、当該被膜が形成された空気極側集電体134を覆うように形成された層である。以下の説明では、特記しない限り、空気極側集電体134(集電体要素135)は「コート136に覆われた空気極側集電体134(集電体要素135)」を意味する。なお、
図6では、コート136の図示を省略している。
【0043】
また、
図4および
図5に示すように、空気極114と空気極側集電体134(集電体要素135)とは、導電性を有する接合層138により接合されている。接合層138は、例えば、スピネル型酸化物(例えば、Mn
1.5Co
1.5O
4やMnCo
2O
4、ZnCo
2O
4、ZnMn
2O
4、ZnMnCoO
4、CuMn
2O
4)により形成されている。本実施形態では、一の集電体要素135と空気極114とを接合する接合層138と、他の集電体要素135と空気極114とを接合する接合層138とは、互いに独立している。また、接合層138は、集電体要素135における先端部(空気極114に近い部分)の角部を覆っている。このような構成の接合層138は、例えば、接合層用のペーストを、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の先端部に印刷し、空気極114の表面に押し付けた状態で所定の条件で焼成を行うことにより形成することができる。接合層138により、空気極114と空気極側集電体134とが電気的に接続される。先に、空気極側集電体134は空気極114の表面と接触していると説明したが、正確には、空気極側集電体134と空気極114との間には接合層138が介在している。
【0044】
図5に示すように、上述した構成において、インターコネクタ150と空気極側集電体134(集電体要素135)との一体部材と、コート136と、接合層138とを1つの部材(以下、「集電体190」という)と捉えると、該集電体190の内、コート136に覆われた集電体要素135と接合層138との組合せから構成される複数の部分(以下、「凸部192」という)は、インターコネクタ150から構成される部分から空気極114側に突出している。また、該複数の凸部192のそれぞれは、空気極114における上側の表面に接している。すなわち、集電体190は、空気極114における上側の表面に接する複数の凸部192を有する。本実施形態における集電体190は、特許請求の範囲における集電体に相当し、本実施形態における凸部192は、特許請求の範囲における凸部に相当する。
【0045】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0046】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は集電体190(インターコネクタ150、空気極側集電体134、コート136、接合層138の集合体)に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介してインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0047】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、
図3および
図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0048】
A-3.性能評価:
本実施形態の燃料電池スタック100を構成する各発電単位102は、空気極114と集電体190との関係に特徴がある。以下、空気極114と集電体190との関係に関して行った性能評価について説明する。
【0049】
(各パラメータについて)
図5に示すように、本性能評価では、Z軸方向における空気極114の厚さを、「空気極厚さβ」という。なお、空気極114の厚さが一様ではない場合には、空気極厚さβは、空気極114(ただし、集電体190の凸部192に接する部分)における最薄部の厚さとする。
【0050】
また、集電体190の各凸部192(空気極側集電体134(集電体要素135)と接合層138との組合せ)における空気極114に接する部分の幅(Z軸方向に直交する方向の大きさ)を、「凸部接触部幅γ」という。
【0051】
なお、凸部接触部幅γの特定は、
図8および
図9に示すように、集電体要素135のXY断面において、集電体要素135の外周線に4点(P1~P4)以上で内接する仮想楕円VEを設定したときの、該仮想楕円VEの短径Amを含み、かつ、Z軸方向に平行な断面SE1(
図8および
図9の例ではYZ断面)において行うものとする。
【0052】
また、上記断面SE1における凸部接触部幅γの測定位置は、空気極114(ただし、集電体190の凸部192に接する部分)における最薄部の上端位置から、上方に距離Lx(=10μm)だけ離れた位置とする。例えば、
図5に示すように、空気極114の厚さが略一様である構成では、凸部接触部幅γは、上記断面SE1(
図5の例ではYZ断面)における、空気極114の上面から距離Lx(=10μm)だけ上方に位置し、かつ、Z軸方向に直交する仮想直線VL1上において特定される。同様に、例えば
図10に示すように、空気極114の厚さが略一様であり、かつ、接合層138が集電体要素135における先端部の角部を覆っていない構成においても、凸部接触部幅γは、上記断面SE1(
図10の例ではYZ断面)における、空気極114の上面から距離Lx(=10μm)だけ上方に位置し、かつ、Z軸方向に直交する仮想直線VL1上において特定される。
【0053】
また、一の凸部192とその隣に位置する他の凸部192との間の最短距離(Z軸方向に直交する方向における最短距離)を、「凸部間最短距離α」という。凸部間最短距離αは、凸部接触部幅γと同様に、上記断面SE1における上記仮想直線VL1上において特定される(
図5,10参照)。
【0054】
また、凸部接触部幅γに対する空気極厚さβの比率(β/γ)を、「第1の比率R1」という。第1の比率R1の値が高いことは、凸部接触部幅γの値が小さいこと(すなわち、凸部192の幅が狭いこと)、および/または、空気極厚さβの値が大きいことを意味する。また、凸部間最短距離αに対する空気極厚さβの比率(β/α)を、「第2の比率R2」という。第2の比率R2の値が高いことは、凸部間最短距離αの値が小さいこと(すなわち、2つの凸部192間の間隔が狭いこと)、および/または、空気極厚さβの値が大きいことを意味する。
【0055】
(各サンプルについて)
図11は、性能評価結果を示す説明図である。
図11に示すように、性能評価に用いられた発電単位102の各サンプル(S1~S13)は、上述した凸部間最短距離α、空気極厚さβ、および、凸部接触部幅γの値が互いに異なっており、その結果、第1の比率R1および第2の比率R2の値が互いに異なっている。さらに、各サンプルは、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1、および、空気極114における電解質層112側の部分の気孔率RO2の値が互いに異なっている。
図11に示すように、性能評価に用いられたすべてのサンプルにおいて、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1は、空気極114における電解質層112側の部分の気孔率RO2より高くなっている。気孔率RO1および気孔率RO2の特定方法については、後述する。
【0056】
各サンプルの作製にあたり、空気極114はペロブスカイト型酸化物を含むように構成した。また、空気極114の気孔率RO1および気孔率RO2を、原料の粒度を調整したり焼成温度を調整したりすることによって調整した。また、集電体190を構成するインターコネクタ150および空気極側集電体134(集電体要素135)を金属(フェライト系ステンレス)により構成し、コート136および接合層138をスピネル型酸化物により構成した。各サンプルについて、集電体要素135等の形状や配置を互いに異ならせることにより、凸部間最短距離αおよび凸部接触部幅γの値を互いに異ならせた。なお、すべてのサンプルにおいて、接合層138を、コート136に覆われた集電体要素135の先端部の角部を覆うように形成した(
図5参照)。
【0057】
(評価方法について)
本性能評価では、発電性能についての評価を行った。具体的には、作製した発電単位102の各サンプルについて、温度:700℃、電流密度:0.55A/cm2の条件における初期電圧を測定し、初期電圧の値に応じて以下のように「A」~「G」の7段階で評価した(「A」が最も優れているという評価であり、「G」が最も劣っているという評価である)。
・評価:「A」・・・初期電圧:0.92V以上
・評価:「B」・・・初期電圧:0.915V以上、0.92V未満
・評価:「C」・・・初期電圧:0.91V以上、0.915V未満
・評価:「D」・・・初期電圧:0.905V以上、0.91V未満
・評価:「E」・・・初期電圧:0.9V以上、0.905V未満
・評価:「F」・・・初期電圧:0.8V以上、0.9V未満
・評価:「G」・・・初期電圧:0.8V未満
【0058】
(評価結果について)
(サンプルS1について)
図11に示すように、サンプルS1の評価結果は、最も低い「G」評価であった。サンプルS1では、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1が26%であり、他のサンプル(いずれも気孔率RO1が30%以上である)と比べて低い値となっている。そのため、サンプルS1では、空気室166に供給された酸化剤ガスOGが空気極114内に良好に進入せず、空気極114における反応場(電解質層112側の部分)において酸化剤ガスOGが不足することによってガス拡散分極が極めて大きくなり、その結果、初期電圧が極めて低くなったものと考えられる。この結果から、発電単位102の発電性能向上(発電性能低下の抑制)のためには、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1は30%以上であることが好ましいと言える。
【0059】
(サンプルS2,S3について)
サンプルS2,S3の評価結果は、2番目に低い「F」評価であった。サンプルS2,S3では、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1が30%以上ではあるものの、第1の比率R1(=β/γ)が0.06であり、サンプルS4~S13(いずれも第1の比率R1が0.07以上である)と比べて低い値となっている。そのため、サンプルS2,S3では、以下に説明するように、サンプルS4~S13と比べて初期電圧が低くなったものと考えられる。
【0060】
図12から
図14は、第1の比率R1(=β/γ)と発電性能との関係を概念的に示す説明図である。
図12から
図14には、発電単位102の一部(
図5のX1部)のYZ断面構成が示されている。
図12に示す発電単位102の構成では、
図14に示す発電単位102の構成と比較して、凸部接触部幅γの値が大きい。そのため、
図12に示す発電単位102の構成では、
図14に示す発電単位102の構成と比較して、第1の比率R1の値が小さくなっている。また、
図13に示す発電単位102の構成では、
図14に示す発電単位102の構成と比較して、空気極厚さβの値が小さい。そのため、
図13に示す発電単位102の構成では、
図14に示す発電単位102の構成と比較して、第1の比率R1の値が小さくなっている。
【0061】
ここで、空気室166に供給された酸化剤ガスOGは、空気極114の表面の内、集電体190の凸部192に接する部分(すなわち、凸部接触部幅γに対応する部分)からは流入せず、集電体190の凸部192に接しない部分(すなわち、凸部間最短距離αに対応する部分)から空気極114内に流入する。また、空気極114内に流入した酸化剤ガスOGは、Z軸方向に対する傾きが概ね所定値θ1以内の範囲の方向に沿って、空気極114における反応場Ax0(空気極114における電解質層112側の部分)に向けて流れる。そのため、
図12に示すように凸部接触部幅γの値が比較的大きい構成や
図13に示すように空気極厚さβの値が比較的小さい構成(すなわち、第1の比率R1の値が比較的小さい構成)では、空気極114における反応場Ax0の内の一部の領域Ax1に酸化剤ガスOGが到達しにくくなることによってガス拡散分極が大きくなり、その結果、発電単位102の初期電圧が低くなる。
【0062】
これに対し、
図14に示す発電単位102の構成では、
図12に示す発電単位102の構成と比較して、凸部接触部幅γの値が小さく、また、
図13に示す発電単位102の構成と比較して、空気極厚さβの値が大きい。すなわち、
図14に示す発電単位102の構成では、
図12および
図13に示す発電単位102の構成と比較して、第1の比率R1の値が大きい。
図14に示す発電単位102の構成では、凸部接触部幅γの値が比較的小さいため、空気極114における反応場Ax0の内、酸化剤ガスOGが到達しにくい領域の面積を減らすことができる。また、
図14に示す発電単位102の構成では、空気極厚さβの値が比較的大きいため、空気極114内に進入した酸化剤ガスOGの、Z軸方向に直交する方向への移動距離(拡散距離)を比較的長くすることができる。従って、
図14に示すように、第1の比率R1の値が比較的大きい構成では、空気極114における反応場Ax0の内、酸化剤ガスOGが到達しにくい領域を減らすことができ、ガス拡散分極の増大を抑制することによって初期電圧の低下を抑制することができる。
【0063】
上述したように、第1の比率R1(=β/γ)が0.07未満であるサンプルS2,S3の評価結果が、第1の比率R1が0.07以上であるサンプルS4~S13の評価結果より劣ることを考慮すると、発電単位102の発電性能向上(発電性能低下の抑制)のためには、第1の比率R1は0.07以上であることが好ましいと言える。
【0064】
(サンプルS4について)
サンプルS4の評価結果は、3番目に低い「E」評価であった。サンプルS4では、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1が30%以上であり、かつ、第1の比率R1(=β/γ)が0.07以上であるものの、第2の比率R2(=β/α)が0.032であり、サンプルS5~S13(いずれも第2の比率R2が0.035以上である)と比べて低い値となっている。そのため、サンプルS4では、以下に説明するように、サンプルS5~S13と比べて初期電圧が低くなったものと考えられる。
【0065】
図15から
図17は、第2の比率R2(=β/α)と発電性能との関係を概念的に示す説明図である。
図15から
図17には、発電単位102の一部(
図5のX1部)のYZ断面構成が示されている。
図15に示す発電単位102の構成では、
図17に示す発電単位102の構成と比較して、凸部間最短距離αの値が大きい。そのため、
図15に示す発電単位102の構成では、
図17に示す発電単位102の構成と比較して、第2の比率R2の値が小さくなっている。また、
図16に示す発電単位102の構成では、
図17に示す発電単位102の構成と比較して、空気極厚さβの値が小さい。そのため、
図16に示す発電単位102の構成では、
図17に示す発電単位102の構成と比較して、第2の比率R2の値が小さくなっている。
【0066】
ここで、空気極114と集電体190との間の電子(e
-)のやりとりは、空気極114の表面の内、集電体190の凸部192に接しない部分(すなわち、凸部間最短距離αに対応する部分)では行われず、集電体190の凸部192に接する部分(すなわち、凸部接触部幅γに対応する部分)で行われる。また、空気極114内に進入した電子は、Z軸方向に対する傾きが概ね所定値θ2以内の範囲の方向に沿って、空気極114における反応場Ax0(空気極114における電解質層112側の部分)に向けて移動する。そのため、
図15に示すように凸部間最短距離αの値が比較的大きい構成や
図16に示すように空気極厚さβの値が比較的小さい構成(すなわち、第2の比率R2の値が比較的小さい構成)では、空気極114における反応場Ax0の内の一部の領域Ax2に電子が到達しにくくなることによって活性化分極が大きくなり、その結果、発電単位102の初期電圧が低くなる。
【0067】
これに対し、
図17に示す発電単位102の構成では、
図15に示す発電単位102の構成と比較して、凸部間最短距離αの値が小さく、また、
図16に示す発電単位102の構成と比較して、空気極厚さβの値が大きい。すなわち、
図17に示す発電単位102の構成では、
図15および
図16に示す発電単位102の構成と比較して、第2の比率R2の値が大きい。
図17に示す発電単位102の構成では、凸部間最短距離αの値が比較的小さいため、空気極114における反応場Ax0の内、電子が到達しにくい領域の面積を減らすことができる。また、
図17に示す発電単位102の構成では、空気極厚さβの値が比較的大きいため、空気極114内に進入した電子の、Z軸方向に直交する方向への移動距離を比較的長くすることができる。従って、
図17に示すように、第2の比率R2の値が比較的大きい構成では、空気極114における反応場Ax0の内、電子が到達しにくい領域を減らすことができ、活性化分極の増大を抑制することによって初期電圧の低下を抑制することができる。
【0068】
上述したように、第2の比率R2(=β/α)が0.035未満であるサンプルS4の評価結果が、第2の比率R2が0.035以上であるサンプルS5~S13の評価結果より劣ることを考慮すると、発電単位102のさらなる発電性能向上(発電性能低下の抑制)のためには、第2の比率R2は0.035以上であることが好ましいと言える。
【0069】
(サンプルS5,S6について)
サンプルS5,S6の評価結果は、4番目に低い(すなわち、4番目に高い)「D」評価であった。サンプルS5,S6では、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1が30%以上であり、第1の比率R1(=β/γ)が0.07以上であり、かつ、第2の比率R2(=β/α)が0.035以上であるものの、第1の比率R1が0.16を超えており、サンプルS7~S13(いずれも第1の比率R1が0.16以下である)と比べて過度に高い値となっている。第1の比率R1が過度に高いということは、空気極厚さβの値が過度に大きいこと、および/または、凸部接触部幅γの値が過度に小さいことを意味する。空気極厚さβの値が過度に大きいと、空気極114の表面から反応場Ax0までの酸化剤ガスOGの拡散経路が過度に長くなるため、ガス拡散分極が大きくなり、その結果、初期電圧が低くなる上に、空気極114を形成するための使用材料量の増加や空気極114と他の層との界面剥離の可能性増加を引き起こす。また、凸部接触部幅γの値が過度に小さいと、空気極114と集電体190との接触面積が過度に小さくなるため、応力が集中して空気極114の破損を引き起こし、その結果、初期電圧が低くなる。これらの内の少なくとも1つの理由によって、サンプルS5,S6では、初期電圧が低くなったものと考えられる。第1の比率R1(=β/γ)が0.16を超えるサンプルS5,S6の評価結果が、第1の比率R1が0.16以下であるサンプルS7~S13の評価結果より劣ることを考慮すると、発電単位102のさらなる発電性能向上(発電性能低下の抑制)のためには、第1の比率R1は0.16以下であることが好ましいと言える。
【0070】
(サンプルS7,S8について)
サンプルS7,S8の評価結果は、5番目に低い(すなわち、3番目に高い)「C」評価であった。サンプルS7,S8では、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1が30%以上であり、第1の比率R1(=β/γ)が0.07以上、0.16以下であり、かつ、第2の比率R2(=β/α)が0.035以上であるものの、第2の比率R2が0.05未満であり、サンプルS9~S13(いずれも第2の比率R2が0.05以上である)と比べて低い値となっている。上述したように、第2の比率R2の値が大きいほど、空気極114における反応場Ax0の内、電子が到達しにくい領域を減らすことができ、活性化分極の増大を抑制することによって発電性能を向上させる(発電性能の低下を抑制する)ことができる。第2の比率R2(=β/α)が0.05未満であるサンプルS7,S8の評価結果が、第2の比率R2が0.05以上であるサンプルS9~S13の評価結果より劣ることを考慮すると、発電単位102のさらなる発電性能向上(発電性能低下の抑制)のためには、第2の比率R2は0.05以上であることが好ましいと言える。
【0071】
(サンプルS9について)
サンプルS9の評価結果は、6番目に低い(すなわち、2番目に高い)「B」評価であった。サンプルS9では、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1が30%以上であり、第1の比率R1(=β/γ)が0.07以上、0.16以下であり、かつ、第2の比率R2(=β/α)が0.05以上であるものの、第2の比率R2が0.13を超えており、サンプルS10~S13(いずれも第2の比率R2が0.13以下である)と比べて過度に高い値となっている。第2の比率R2が過度に高いということは、空気極厚さβの値が過度に大きいこと、および/または、凸部間最短距離αの値が過度に小さいことを意味する。空気極厚さβの値が過度に大きいと、空気極114の表面から反応場Ax0までの酸化剤ガスOGの拡散経路が過度に長くなるため、ガス拡散分極が大きくなり、その結果、初期電圧が低くなる上に、空気極114を形成するための使用材料量の増加や空気極114と他の層との界面剥離の可能性増加を引き起こす。また、凸部間最短距離αの値が過度に小さいと、空気極114における集電体190の凸部192に覆われていない部分の面積が過度に小さくなるため、空気室166に供給された酸化剤ガスOGが空気極114内に良好に進入せず、ガス拡散分極が大きくなり、その結果、初期電圧が低くなる。これらの内の少なくとも1つの理由によって、サンプルS9では、初期電圧が低くなったものと考えられる。第2の比率R2(=β/α)が0.13を超えるサンプルS9の評価結果が、第2の比率R2が0.13以下であるサンプルS10~S13の評価結果より劣ることを考慮すると、発電単位102のさらなる発電性能向上(発電性能低下の抑制)のためには、第2の比率R2は0.13以下であることが好ましいと言える。
【0072】
(性能評価結果のまとめ)
以上説明した性能評価結果を参照すると、発電単位102の発電性能向上(発電性能低下の抑制)のためには、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1が30%以上であり、かつ、第1の比率R1(凸部接触部幅γに対する空気極厚さβの比(β/γ))が0.07以上であることが好ましく、第2の比率R2(凸部間最短距離αに対する空気極厚さβの比(β/α))が0.035以上であることがさらに好ましく、第1の比率R1が0.16以下であることがさらに好ましく、第2の比率R2が0.05以上であることがさらに好ましく、第2の比率R2が0.13以下であることが最も好ましいと言える。
【0073】
A-4.空気極114の気孔率の特定方法:
上述した空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1の特定は、水谷惟恭著「セラミックプロセシング」(技報堂出版)のp.193-195の記載を参考に、以下の方法に従って行った(
図18参照)。まず、発電単位102(単セル110)において、酸化剤ガスOGの流れ方向(
図4および
図6に示すように本実施形態ではX軸方向)に沿って並ぶ任意の3つの位置で、酸化剤ガスOGの流れ方向に略直交する断面(本実施形態ではYZ断面)を設定し、各断面の任意の3カ所で、空気極114における集電体190側の表面を含む部分が写ったFIB-SEM(加速電圧1.5kV)におけるSEM画像(5000倍)を得る。つまり、9つのSEM画像が得られる。上記各SEM画像において、空気極114における集電体190側の表面付近に、Z軸方向に直交する5本の仮想直線VL(VL11~VL15)を1μm間隔で設定する。5本の仮想直線VLのそれぞれにおいて、気孔にあたる各部分の長さを測定し、仮想直線VLの全長に対する気孔にあたる各部分の長さの合計の比を、当該仮想直線VL上における気孔率とする。すべてのSEM画像において設定されたすべての仮想直線VL上における気孔率の平均値を、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1とする。
【0074】
同様に、空気極114における電解質層112側の部分の気孔率RO2の特定は、以下の方法に従って行った(
図18参照)。まず、発電単位102(単セル110)において、酸化剤ガスOGの流れ方向(本実施形態ではX軸方向)に沿って並ぶ任意の3つの位置で、酸化剤ガスOGの流れ方向に略直交する断面(本実施形態ではYZ断面)を設定し、各断面の任意の3カ所で、空気極114における電解質層112側(中間層180側)の表面を含む部分が写ったFIB-SEM(加速電圧1.5kV)におけるSEM画像(5000倍)を得る。つまり、9つのSEM画像が得られる。上記各SEM画像において、空気極114における電解質層112側(中間層180側)の表面付近に、Z軸方向に直交する5本の仮想直線VL(VL21~VL25)を1μm間隔で設定する。なお、空気極114における電解質層112側(中間層180側)の表面は、上記各SEM画像において、空気極114と電解質層112や中間層180との構成物質の相違等に基づき特定することができる。5本の仮想直線VLのそれぞれにおいて、気孔にあたる各部分の長さを測定し、仮想直線VLの全長に対する気孔にあたる各部分の長さの合計の比を、当該仮想直線VL上における気孔率とする。すべてのSEM画像において設定されたすべての仮想直線VL上における気孔率の平均値を、空気極114における電解質層112側の部分の気孔率RO2とする。
【0075】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0076】
上記実施形態における単セル110、発電単位102または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、空気極114は、単層構成であるとしているが、空気極114が、構成材料の互いに異なる複数の層から構成されているとしてもよい。空気極114が複数の層から構成されている場合でも、上下方向(第1の方向)における空気極114の厚さβは、空気極114全体の厚さ(各層の厚さの合計)を意味する。
【0077】
例えば、空気極114が、電解質層112側に位置する第1の空気極(活性層)と、集電体190側に位置する第2の空気極(集電層)と、の二層構成であるとしてもよい。このような構成では、上下方向(第1の方向)における空気極114の厚さβは、第1の空気極(活性層)の厚さと第2の空気極(集電層)の厚さとの合計を意味する。なお、このような構成でも、空気極114における第2の空気極(集電層)の気孔率(空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1)は、空気極114における第1の空気極(活性層)の気孔率(空気極114における電解質層112側の部分の気孔率RO2)より高いことが好ましい。例えば、空気極114における第2の空気極(集電層)の気孔率(空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1)は、30%以上であることが好ましく、45%以下であることが好ましい。また、空気極114における第1の空気極(活性層)の気孔率(空気極114における電解質層112側の部分の気孔率RO2)は、15%以上であることが好ましく、40%以下であることが好ましい。
【0078】
また、上記実施形態では、単セル110が中間層180を備えているが、単セル110は必ずしも中間層180を備える必要は無い。また、上記実施形態では、インターコネクタ150と空気極側集電体134(集電体要素135)とが一体部材であるが、インターコネクタ150と空気極側集電体134とが別部材であってもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、空気極側集電体134(集電体要素135)がコート136に覆われているが、空気極側集電体134がコート136に覆われていないとしてもよい。このような構成では、集電体190には、コート136が含まれない。また、上記実施形態では、(コート136に覆われた)空気極側集電体134(集電体要素135)が接合層138を介して空気極114に接しているが、空気極側集電体134が接合層138を介さずに空気極114に接しているとしてもよい。このような構成では、集電体190には、接合層138が含まれない。
【0080】
また、
図19は、変形例における集電体190付近の構成を概略的に示す説明図である。
図19に示す変形例では、接合層138の気孔率が例えば30%~45%と比較的高く、また、接合層138が空気極114の表面を連続的に覆っている。
図19に示す変形例では、接合層138は、集電とガス拡散の役割を担っているため、機能的には「空気極」の一部である。そのため、
図19に示す変形例では、インターコネクタ150と空気極側集電体134(集電体要素135)との一体部材と、コート136とが、集電体190として機能し、該集電体190の内、コート136に覆われた集電体要素135から構成される複数の部分が、空気極(空気極114+接合層138)における上側の表面に接する凸部192として機能する。また、
図19に示す変形例では、空気極厚さβは、空気極(空気極114+接合層138)の内の集電体190の凸部192に接する部分における最薄部の厚さである。また、
図19に示す変形例では、凸部接触部幅γおよび凸部間最短距離αは、空気極(空気極114+接合層138)の内の集電体190の凸部192に接する部分における最薄部の上端から距離Lx(=10μm)だけ上方に位置し、かつ、Z軸方向に直交する仮想直線VL1上において特定される。
【0081】
なお、上述した凸部間最短距離α、空気極厚さβ、凸部接触部幅γは、それぞれ、以下の範囲であることが好ましい。
・1000μm≦凸部間最短距離α≦2000μm
・30μm≦空気極厚さβ≦200μm
・300μm≦凸部接触部幅γ≦2000μm
【0082】
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110(発電単位102)の個数は、あくまで一例であり、単セル110(発電単位102)の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
【0083】
また、上記実施形態に記載した発電単位102の発電性能向上(発電性能低下の抑制)のための構成要件(例えば、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1が30%以上であり、かつ、第1の比率R1(=β/γ)が0.07以上であること等)は、必ずしも燃料電池スタック100を構成する複数の発電単位102のすべてにおいて満たされている必要はなく、燃料電池スタック100を構成する複数の発電単位102の内の少なくとも1つにおいて満たされていればよい。また、1つの発電単位102に注目したときに、該構成要件は、必ずしも集電体190が備える複数の凸部192のすべてにおいて満たされている必要はなく、集電体190が備える複数の凸部192の内の少なくとも1つにおいて満たされていればよい。なお、発電単位102の効果的な発電性能向上(発電性能低下の抑制)のため、集電体190が備えるすべての凸部192の内、30%以上の凸部192において上記構成要件が満たされていることが好ましく、50%以上の凸部192において上記構成要件が満たされていることがより好ましく、70%以上の凸部192において上記構成要件が満たされていることがさらに好ましく、90%以上の凸部192において上記構成要件が満たされていることが一層好ましく、100%の凸部192において上記構成要件が満たされていることが最も好ましい。該構成要件が満たされている凸部192は、特許請求の範囲における特定凸部に相当する。
【0084】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セル単位および電解セルスタックにおいても、性能向上(性能低下の抑制)のためには、上記実施形態と同様に、空気極114における集電体190側の部分の気孔率RO1が30%以上であり、かつ、第1の比率R1(=β/γ)が0.07以上であることが好ましく、第2の比率R2(=β/α)が0.035以上であることがさらに好ましく、第1の比率R1が0.16以下であることがさらに好ましく、第2の比率R2が0.05以上であることがさらに好ましく、第2の比率R2が0.13以下であることが最も好ましい。
【0085】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 100:燃料電池スタック 102:燃料電池発電単位 104:エンドプレート 106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 135:集電体要素 136:コート 138:接合層 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:中間層 190:集電体 192:凸部