(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】植物の土壌病害防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 63/38 20200101AFI20220629BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20220629BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20220629BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
A01N63/38
A01G7/00 605Z
A01N25/08
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2018079798
(22)【出願日】2018-04-18
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2017082969
(32)【優先日】2017-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517139576
【氏名又は名称】小山 修
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】小山 修
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-292741(JP,A)
【文献】国際公開第2006/085567(WO,A1)
【文献】特開2012-144507(JP,A)
【文献】特開2014-111557(JP,A)
【文献】特開2011-140463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかの菌類を含有する微生物資材を土壌に施用すること
、並びに
土壌病害の要因となる菌類と拮抗作用を有する微生物又は前記微生物を含む微生物製剤を前記土壌にさらに施用すること、を含
み、
前記微生物が、トリコデルマ属の糸状菌である植物の土壌病害防除方法。
【請求項2】
菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかの菌類を含有する微生物資材を土壌に施用することを含み、
前記微生物資材が、土壌病害の要因となる菌類と拮抗作用を有する微生物又は前記微生物を含む微生物製剤を予め添加したものであり、
前記微生物が、トリコデルマ属の糸状菌である植物の土壌病害防除方法。
【請求項3】
前記
菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかの菌類が、ハラタケ目、キクラゲ目、シロキクラゲ目、及びタマチョレイタケ目からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1
又は2に記載の植物の土壌病害防除方法。
【請求項4】
前記
菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかの菌類が、ヒラタケ、ヒラヤマヒラタケ、シイタケ、ブナシメジ、エノキタケ、マッシュルーム、キクラゲ、本キクラゲ、マツタケ、マイタケ、ナメコ、エリンギ、ハタケシメジ、ヤマブシダケ、オオヒラタケ、カワラタケ、アワビタケ、アラゲキクラゲ、シロキクラゲ、フクロタケ、ホンシメジ、ハクレイタケ、アギタケ、ハナビラタケ、タモギタケ、ヤナギマツタケ、ササクレヒトヨタケ、オオアワビタケ、クロアワビタケ、ヌメリスギタケ、及びトリュフからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1
~3のいずれか一項に記載の植物の土壌病害防除方法。
【請求項5】
前記微生物資材が、副資材として、小麦フスマ、米ぬか、オカラ、油カス、大豆カス、おがくず、トウモロコシの芯、及び廃菌床からなる群より選択される少なくとも一種をさらに含有する請求項1~
4のいずれか一項に記載の植物の土壌病害防除方法。
【請求項6】
そうか病、褐条病、苗立枯細菌病、苗立枯病、ばか苗病、もみ枯細菌病、白紋羽病、紫紋羽病、青枯れ病、白絹病、根腐れ病、根こぶ病、又はべと病を防除する請求項1~
5のいずれか一項に記載の植物の土壌病害防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物や果樹などの植物の土壌病害を防除する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の病原菌に対する拮抗作用を有する微生物(以下、「拮抗微生物」とも記す)を用いた微生物資材が数多く研究されている。なお、拮抗微生物とは、植物の土壌病害等の要因となる特定の菌をはじめとする各種菌類の増殖や活動を抑制する微生物を意味する。農薬の使用量を低減した有機農業や、減農薬及び無農薬農業等の環境保全型の農業への移行が推進される現状においては、農薬と同等の機能を有する、拮抗微生物を用いた微生物資材の開発が期待されている。
【0003】
このような拮抗微生物を用いる防除方法として、例えば、土壌病害の要因となる病原菌に対して強い拮抗作用を有する土壌微生物の一種であるトリコデルマ属の糸状菌を用いる土壌病害の方法が知られている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-101815号公報
【文献】特開平6-192028号公報
【文献】特許第4566757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、拮抗微生物を用いた場合の防除活性は、たとえ実験室で確認されたとしても、圃場試験などでは認められないことが多い。これは、pHなどの土壌環境や土壌に従来生息している各種の微生物が拮抗微生物に適していない、或いは各種の微生物の激しい生存競争に適応できない等の理由により、拮抗微生物が土壌で十分に生育できないためであると考えられる。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、植物の土壌病害を環境に負荷を掛けることなく安全かつ有効に防除することが可能な植物の土壌病害防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下に示す植物の土壌病害防除方法が提供される。
[1]菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかの菌類を含有する微生物資材を土壌に施用することを含む植物の土壌病害防除方法。
[2]前記菌類が、ハラタケ目、キクラゲ目、シロキクラゲ目、及びタマチョレイタケ目からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の植物の土壌病害防除方法。
[3]前記菌類が、ヒラタケ、ヒラヤマヒラタケ、シイタケ、ブナシメジ、エノキタケ、マッシュルーム、キクラゲ、本キクラゲ、マツタケ、マイタケ、ナメコ、エリンギ、ハタケシメジ、ヤマブシダケ、オオヒラタケ、カワラタケ、アワビタケ、アラゲキクラゲ、シロキクラゲ、フクロタケ、ホンシメジ、ハクレイタケ、アギタケ、ハナビラタケ、タモギタケ、ヤナギマツタケ、ササクレヒトヨタケ、オオアワビタケ、クロアワビタケ、ヌメリスギタケ、及びトリュフからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の植物の土壌病害防除方法。
[4]前記微生物資材が、副資材として、小麦フスマ、米ぬか、オカラ、油カス、大豆カス、おがくず、トウモロコシの芯、及び廃菌床からなる群より選択される少なくとも一種をさらに含有する前記[1]~[3]のいずれかに記載の植物の土壌病害防除方法。
[5]土壌病害の要因となる菌類と拮抗作用を有する微生物又は前記微生物を含む微生物製剤を前記土壌にさらに施用する前記[1]~[4]のいずれかに記載の植物の土壌病害防除方法。
[6]土壌病害の要因となる菌類と拮抗作用を有する微生物又は前記微生物を含む微生物製剤を予め添加した前記微生物資材を土壌に施用する前記[1]~[4]のいずれかに記載の植物の土壌病害防除方法。
[7]そうか病、褐条病、苗立枯細菌病、苗立枯病、ばか苗病、もみ枯細菌病、白紋羽病、紫紋羽病、青枯れ病、白絹病、根腐れ病、根こぶ病、又はべと病を防除する前記[1]~[6]のいずれかに記載の植物の土壌病害防除方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、植物の土壌病害を環境に負荷を掛けることなく安全かつ有効に防除することが可能な植物の土壌病害防除方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の植物の土壌病害防除方法(以下、単に「防除方法」とも記す)は、菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかの菌類を含有する微生物資材を土壌に施用することを含む方法である。以下、本発明の防除方法の詳細について説明する。
【0010】
ヒラタケなどのキノコ類を菌床栽培する際の重大な病害として、トリコデルマ病が知られている。トリコデルマ病は、糸状菌の一種であるトリコデルマ属の菌類がヒラタケの菌糸の細胞壁を溶解させて増殖し、菌床全体を被うまでに増殖する病害である。すなわち、トリコデルマ属に属する多くの菌は、ヒラタケなどのキノコ類を好んで資化すると考えられている。本発明においては、上記のようなトリコデルマ属の菌類の特性を応用し、植物の土壌病害を効果的に防除する。すなわち、本発明の防除方法では、菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかの菌類を含む微生物資材を土壌に散布等して施用する。これにより、施用対象となる圃場等の土壌に従来存在する土着の菌類などの、キノコ類等の菌床栽培可能な子嚢菌類や担子菌類を好んで資化するとともに、土壌病害の要因となる菌類と拮抗作用を有する多くの有用な微生物を増殖させることができる。増殖した微生物は、土壌病害の要因となる菌類と拮抗し、これらの菌類の増殖を抑制する。このため、本発明によれば、菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかの菌類を含有する微生物資材を土壌に施用することで、そうか病などの重大な土壌病害を間接的に抑制することができる。
【0011】
微生物資材に用いる菌類は、菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかである。そのような菌類としては、ハラタケ目、キクラゲ目、シロキクラゲ目、及びタマチョレイタケ目などのキノコ類を挙げることができる。より具体的には、ヒラタケ、ヒラヤマヒラタケ、シイタケ、ブナシメジ、エノキタケ、マッシュルーム、キクラゲ、本キクラゲ、マツタケ、マイタケ、ナメコ、エリンギ、ハタケシメジ、ヤマブシダケ、オオヒラタケ、カワラタケ、アワビタケ、アラゲキクラゲ、シロキクラゲ、フクロタケ、ホンシメジ、ハクレイタケ、アギタケ、ハナビラタケ、タモギタケ、ヤナギマツタケ、ササクレヒトヨタケ、オオアワビタケ、クロアワビタケ、ヌメリスギタケ、及びトリュフなどのキノコ類を挙げることができる。これらのキノコ類は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのキノコ類は食用キノコでもあるため、安全性も高い。
【0012】
微生物資材は、通常、菌類の菌糸を成長させるための培地を含む。このため、微生物資材は、例えば、小麦フスマ、米ぬか、オカラ、油カス、大豆カス、おがくず、トウモロコシの芯、及び廃菌床などを副資材として含むことが好ましい。これらの副資材は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明の防除方法では、菌床栽培可能な子嚢菌類及び担子菌類の少なくともいずれかの菌類を含有する微生物資材を土壌に施用する。微生物資材を土壌に施用する具体的な態様については特に限定されない。例えば、必要に応じて適度に細かくした微生物資材を対象植物の根周り等に散布する、漉き込む等すればよい。また、微生物資材を予め混合した土壌を使用して植物を栽培してもよい。
【0014】
本発明の防除方法においては、(i)キノコ類の菌床を含有する微生物資材とともに、土壌病害の要因となる菌類と拮抗作用を有する微生物や、そのような微生物を含む微生物製剤を土壌にさらに施用すること;又は(ii)これらの微生物やその微生物製剤を予め添加した微生物資材を土壌に施用することが好ましい。これらの微生物やその微生物製剤を用いることで、土壌病害の要因となる菌類と拮抗作用を有する微生物(拮抗微生物)の増殖をさらに促すことができるため、植物の土壌病害をより有効に防除することができる。なお、土壌の種類等により、含まれる拮抗微生物の量(密度)は種々相違する。このため、(i)キノコ類の菌床を含有する微生物資材とともに、上記の微生物やその微生物資材を土壌にさらに施用する;又は(ii)これらの微生物やその微生物製剤を予め添加した微生物資材を土壌に施用することで、土壌の種類や土地の相違等によってバラつくことなく土壌病害をより有効に防除することができる。
【0015】
(ii)上記の微生物やその微生物製剤を予め添加した微生物資材を土壌に施用する場合の具体例としては、上記の微生物やその微生物製剤、微生物資材、及び適当な肥料を混合して得た混合物を、必要に応じて数日~数週間程度保存した後に土壌に施用することなどを挙げることができる。肥料としては、油粕、草木灰等の植物性肥料;たい肥、魚粕、牛糞、鶏糞等の動物性肥料;などの有機肥料を用いることができる。なお、微生物等、微生物資材、及び適当な肥料を混合して得た上記の混合物を適当な期間保存することで拮抗微生物の増殖を促進することができ、土壌病害をより有効に防除することができるために好ましい。
【0016】
上記の微生物製剤の好適な例としては、トリコデルマ属の糸状菌を用いた微生物製剤等の生物農薬を挙げることができる。入手可能な市販品としては、以下商品名で、「エコホープ」、「エコホープDJ」、「エコホープドライ」等のトリコデルマ アトロビリデの水和剤やフロアブル剤(以上、クミアイ化学工業社製);「トリコデソイル」等のトリコデルマ ハルジアナムを用いた土壌改良資材(アリスタライフサイエンス社製);「ソウカムテキ」等のトリコデルマ属の菌を用いた微生物資材(日鉄住金環境社製);などを挙げることができる。
【0017】
本発明の防除方法の対象となる植物としては、各種の野菜、穀物、果樹、観葉植物等を挙げることができる。具体的には、ジャガイモ、ダイコン、稲、タバコ、ナシ、リンゴ、白桃、桜桃、アスパラガス、トマト、ナス、ピーマン、キュウリ、メロン、イチゴ、カブ、玉ねぎなどを挙げることができる。
【0018】
また、本発明の防除方法で防除しうる土壌病害としては、例えば、そうか病、褐条病、苗立枯細菌病、苗立枯病、ばか苗病、もみ枯細菌病、白紋羽病、紫紋羽病、青枯れ病、白絹病、根腐れ病、根こぶ病、べと病などを挙げることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
そうか病の罹病率が高く、ジャガイモの栽培が困難な北海道の畑の土壌(網走地区及び帯広地区の5ヶ所;土壌A、B、C、D、及びE)を用いてプランター試験を実施した。具体的には、まず、上記の土壌100Lに、窒素(N)、リン(P)、カリ(K)がそれぞれ10kg/反となるように化学肥料を入れた。次いで、以下に示す試験区(1)~(3)、並びに比較区(1)及び(2)の土壌を調製し、120Lのプランターに入れた。オキシテトラサイクリン・ストレプトマイシン水和剤(商品名「アグリマイシン100水和剤、ファイザー社製)を用いて種芋消毒したジャガイモ(ニシユタカ)4個を20cm間隔で各試験区に植えた。また、この試験は3反復ずつ実施した。3ヵ月後、そうか病の発病率を調査した。
【0021】
[試験区(1)]
ヒラタケの菌床を100L/反となるように土壌に混合した。
【0022】
[試験区(2)]
ヒラタケの菌床、小麦フスマ、及びおがくずを40:10:40の体積比で混合した混合物を用意した。この混合物を100L/反となるように土壌に混合した。
【0023】
[試験区(3)]
ポテトデキストロース寒天培地(日水製薬社製)を用いて、トリコデルマ属の糸状菌(トリコデルマ菌)を用いた資材(商品名「ソウカムテキ」、日鉄住金環境社製、トリコデルマ アスペレラム(Trichoderma asperellum) F-288株を含む)からトリコデルマ菌を分離した。滅菌した小麦フスマにて分離したトリコデルマ菌を2週間培養して培養物を得た。一方、ヒラタケの菌床、小麦フスマ、及びおがくずを40:10:40の体積比で混合した混合物を用意した。用意した混合物100Lに上記の培養物100gを添加及び混合し、1週間経過したものを、100L/反となるように土壌に混合した。
【0024】
[試験区(4)]
ポテトデキストロース寒天培地(日水製薬社製)を用いて、トリコデルマ属の糸状菌(トリコデルマ菌)を用いた資材(商品名「ソウカムテキ」、日鉄住金環境社製、トリコデルマ アスペレラム(Trichoderma asperellum) F-288株を含む)からトリコデルマ菌を分離した。滅菌した小麦フスマにて分離したトリコデルマ菌を2週間培養して培養物を得た。得られた培養物、市販の発酵牛糞たい肥(販売元:カインズ)、及びヒラタケの菌床を1:50:1の体積比で混合して混合物を得た。得られた混合物を常温で1週間放置した後、1,000kg/反となるように土壌に混合した。
【0025】
[比較区(1)]
トリコデルマ属の糸状菌(トリコデルマ菌)を用いた資材(商品名「ソウカムテキ」、日鉄住金環境社製)を100L/反となるように土壌に添加及び混合した。
【0026】
[比較区(2)]
資材を添加しなかった。
【0027】
[比較区(3)]
ヒラタケを2回収穫した後の廃菌床を100L/反となるように土壌に添加及び混合した。
【0028】
[比較区(4)]
ポテトデキストロース寒天培地(日水製薬社製)を用いて、トリコデルマ属の糸状菌(トリコデルマ菌)を用いた資材(商品名「ソウカムテキ」、日鉄住金環境社製、トリコデルマ アスペレラム(Trichoderma asperellum) F-288株を含む)からトリコデルマ菌を分離した。滅菌した小麦フスマにて分離したトリコデルマ菌を2週間培養して培養物を得た。得られた培養物、及び市販の発酵牛糞たい肥(販売元:カインズ)を1:50の体積比で混合して混合物を得た。得られた混合物を常温で1週間放置した後、1,000kg/反となるように土壌に混合した。
【0029】
(結果)
90日間栽培して収穫したジャガイモのそうか病の発病率を下記式(1)より算出した。結果を以下に示す。なお、そうか病の羅病斑が2個以上認められたジャガイモを「発病イモ」として計測した。
発病率(%)=(発病イモ数/全イモ数)×100 ・・・(1)
【0030】
【0031】
表1に示すように、試験区(3)で防除効果が最も高かったことがわかる。また、試験区(1)、(2)及び(4)でも十分な防除効果を得ることができた。なお、試験区(1)及び(2)では、試験区(3)よりも防除効果が高い土壌(土壌B及び土壌E)があった一方で、試験区(3)よりも防除効果が低い土壌(土壌A、土壌C、及び土壌D)もあった。これは、土着の有用菌を多く含む土壌では防除効果が高くなった一方で、土着の有用菌が少ない土壌では防除効果が低くなったためと推測される。すなわち、有用菌であるトリコデルマ菌を予め添加した試験区(3)に比して、トリコデルマ菌を予め添加しなかった試験区(1)及び(2)では防除効果にバラつきが生じたと考えられる。なお、比較区(3)で使用したヒラタケ収穫後の菌床には種々の微生物が繁殖して拮抗微生物の増殖が妨げられたため、防除効果が低くなったと推測される。
【0032】
(実施例2)
千葉県木更津市の梨園の土壌に、梨の枝(直径2cm、長さ2cm)で予め培養した白紋羽病菌(野生株)を1重量%となるように添加して混合し、試験土壌を調製した。この試験土壌を20Lの植木鉢に入れるとともに、以下に示す試験区(5)~(7)、並びに比較区(5)~(7)を用意し、1日後に梨の苗木を定植した。
【0033】
[試験区(5)]
ヒラタケの菌床を10重量%となるように試験土壌に混合した。
【0034】
[試験区(6)]
ヒラタケの菌床を10重量%となるように試験土壌に混合した後、フルアジナムのフロアブル剤(商品名「フロンサイドSC」、石原産業製)を500倍に希釈したものでさらに処理した。
【0035】
[試験区(7)]
ヒラタケの菌床に、トリコデルマ属の糸状菌(トリコデルマ菌)を用いた資材(商品名「トリコデソイル」、アリスタライフサイエンス社製、トリコデルマ ハルジアナム(Trichoderma harzianum T-22株を含む)を1重量%となるように添加及び混合し、1週間経過したものを、10重量%となるように試験土壌に混合した。
【0036】
[比較区(5)]
資材を混合しなかった。
【0037】
[比較区(6)]
フルアジナムのフロアブル剤(商品名「フロンサイドSC」、石原産業製)を500倍に希釈したもので処理した。
【0038】
[比較区(7)]
トリコデルマ属の糸状菌(トリコデルマ菌)を用いた資材(商品名「トリコデソイル」、アリスタライフサイエンス社製、トリコデルマ ハルジアナム(Trichoderma harzianum T-22株を含む)を0.1重量%となるように試験土壌に混合した。
【0039】
(結果)
3ヵ月後、木の状態及び根の状態(感染している白紋羽病菌)を観察した。結果を以下に示す。
【0040】
[木の状態]
試験区(5):樹勢に変化なし。
試験区(6):樹勢に変化なし。
試験区(7):樹勢に変化なし。
比較区(5):枯死した。
比較区(6):樹勢に変化なし。
比較区(7):枯死した。
【0041】
[根の状態]
試験区(5):菌糸なし。
試験区(6):菌糸なし。
試験区(7):菌糸なし。
比較区(5):菌糸あり。
比較区(6):菌糸あり。
比較区(7):菌糸あり。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の植物の土壌病害防除方法によれば、野菜、果樹等の農作物に深刻な被害を与え、かつ、防除が困難な土壌病害を、環境に過度の負荷を掛けることなく安全に防除することができる。