(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】翼構造体、翼構造体の制御方法及び航空機
(51)【国際特許分類】
B64C 9/16 20060101AFI20220629BHJP
B64C 21/10 20060101ALI20220629BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
B64C9/16
B64C21/10
H05H1/24
(21)【出願番号】P 2018082348
(22)【出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏基
(72)【発明者】
【氏名】菊地 真貴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】中里 展之
(72)【発明者】
【氏名】岩本 智文
【審査官】岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03724784(US,A)
【文献】特開2008-290710(JP,A)
【文献】特開2012-249510(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0173837(US,A1)
【文献】浅田健吾ほか,DBDプラズマアクチュエータを用いた翼剥離制御におけるバースト発振周波数効果,第24回数値流体力学シンポジウム,JSFM,2010年,p.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 9/16
B64C 21/10
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用の翼構造体であって、
静翼と、
前記静翼との間に常時隙間が形成されるように配置される動翼と、
前記静翼の上面側と下面側にそれぞれ配置され、前記隙間に形成される空気の流れを制御するため
のプラズマアクチュエータと、
前記動翼の舵角に応じた条件で前記プラズマアクチュエータを作動させる制御装置と、
を備え
、
前記制御装置は、前記動翼の舵角がゼロである場合には、前記静翼の上面側に配置されたプラズマアクチュエータと、前記静翼の下面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させることによって、前記隙間への空気の流入を防止させるための空気の流れを形成するように構成される翼構造体。
【請求項2】
航空機用の翼構造体であって、
静翼と、
前記静翼との間に常時隙間が形成されるように配置される動翼と、
前記静翼の上面側と下面側にそれぞれ配置され、前記隙間に形成される空気の流れを制御するためのプラズマアクチュエータと、
前記動翼の舵角に応じた条件で前記プラズマアクチュエータを作動させる制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記動翼の舵角が負である場合には、前記静翼の上面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させる一方、前記静翼の下面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させないことによって、前記静翼の上面側から前記隙間を通って前記動翼の下面側に向かう空気の流れを形成するように構成
される翼構造体。
【請求項3】
航空機用の翼構造体であって、
静翼と、
前記静翼との間に常時隙間が形成されるように配置される動翼と、
前記静翼の上面側と下面側にそれぞれ配置され、前記隙間に形成される空気の流れを制御するためのプラズマアクチュエータと、
前記動翼の舵角に応じた条件で前記プラズマアクチュエータを作動させる制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記動翼の舵角が正である場合には、前記静翼の下面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させる一方、前記静翼の上面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させないことによって、前記静翼の下面側から前記隙間を通って前記動翼の上面側に向かう空気の流れを形成するように構成
される翼構造体。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の翼構造体を備えた航空機。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の翼構造体の制御方法であって、
前記動翼の舵角に応じた条件で前記プラズマアクチュエータを
作動させることによって前記隙間に形成される空気の流れを制御する翼構造体の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、翼構造体、翼構造体の制御方法及び航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の主翼や尾翼等の翼周りの空気の流れを制御する構成要素として補助翼(エルロン)、方向舵(ラダー)、昇降舵(エレベータ)、フラップ、スポイラ及びフラッペロン等の動翼が知られている。航空機の姿勢は、動翼の舵角をアクチュエータの駆動によって変化させることによって制御することができる。
【0003】
更に、近年、航空機の翼周りの空気の流れを制御する補助的なデバイスとして、プラズマアクチュエータ(PA:plasma actuator)を用いる研究がなされている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。航空機の翼に取付けられるプラズマアクチュエータとして実用的なのは、誘電体バリア放電(DBD:Dielectric Barrier Discharge)を用いて空気の流れを形成するDBD-PAである。
【0004】
DBD-PAは誘電体を挟んで電極を配置し、電極間に高い交流電圧を印加することによって誘電体の片面のみにプラズマを発生させるようにしたプラズマアクチュエータである。DBD-PAを用いれば、プラズマの制御によって空気の剥離を抑制し、気流を変化させることができる。このため、DBD-PAを翼に取付けることによって、補助翼やフラップ等の動翼を省略する試みもなされている。すなわち、DBD-PAは、航空機の舵面を代替する要素として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-056814号公報
【文献】特開2008-290710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フラップの一形式であるスロッテッドフラップは、静翼との間に隙間が生じるように取付けられるフラップである。スロッテッドフラップの展開時には、静翼とスロッテッドフラップとの間に形成される隙間を通って翼の下面側から上面側に向かう空気の流れが形成される。この翼の下面側から上面側に向かう空気の流れによってスロッテッドフラップの上面側における空気の剥離防止効果を得ることができる。
【0007】
スロッテッドフラップに代表されるように静翼との間に形成される隙間に空気を導く動翼の場合、動翼の舵角を制御するためのアクチュエータのみならず、動翼を展開するためのアクチュエータも必要となる。このため、航空機の重量が増加するという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、静翼との間に形成される隙間に空気を導くようにした動翼を備えた翼構造体及び航空機の重量を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る翼構造体は、航空機用の翼構造体であって、静翼と、前記静翼との間に常時隙間が形成されるように配置される動翼と、前記静翼の上面側と下面側にそれぞれ配置され、前記隙間に形成される空気の流れを制御するためのプラズマアクチュエータと、前記動翼の舵角に応じた条件で前記プラズマアクチュエータを作動させる制御装置とを備え、前記制御装置は、前記動翼の舵角がゼロである場合には、前記静翼の上面側に配置されたプラズマアクチュエータと、前記静翼の下面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させることによって、前記隙間への空気の流入を防止させるための空気の流れを形成するように構成されるものである。
また、本発明の実施形態に係る翼構造体は、航空機用の翼構造体であって、静翼と、前記静翼との間に常時隙間が形成されるように配置される動翼と、前記静翼の上面側と下面側にそれぞれ配置され、前記隙間に形成される空気の流れを制御するためのプラズマアクチュエータと、前記動翼の舵角に応じた条件で前記プラズマアクチュエータを作動させる制御装置とを備え、前記制御装置は、前記動翼の舵角が負である場合には、前記静翼の上面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させる一方、前記静翼の下面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させないことによって、前記静翼の上面側から前記隙間を通って前記動翼の下面側に向かう空気の流れを形成するように構成されるものである。
また、本発明の実施形態に係る翼構造体は、航空機用の翼構造体であって、静翼と、前記静翼との間に常時隙間が形成されるように配置される動翼と、前記静翼の上面側と下面側にそれぞれ配置され、前記隙間に形成される空気の流れを制御するためのプラズマアクチュエータと、前記動翼の舵角に応じた条件で前記プラズマアクチュエータを作動させる制御装置とを備え、前記制御装置は、前記動翼の舵角が正である場合には、前記静翼の下面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させる一方、前記静翼の上面側に配置されたプラズマアクチュエータを作動させないことによって、前記静翼の下面側から前記隙間を通って前記動翼の上面側に向かう空気の流れを形成するように構成されるものである。
【0010】
また、本発明の実施形態に係る航空機は、上述した翼構造体を備えたものである。
【0011】
また、本発明の実施形態に係る翼構造体の制御方法は、上述した翼構造体の制御方法であって、前記動翼の舵角に応じた条件で前記プラズマアクチュエータを作動させることによって前記隙間に形成される空気の流れを制御するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る翼構造体の構成を示す横断面図。
【
図3】
図1に示すアクチュエータの別の構成例を示す図。
【
図4】
図1に示すプラズマアクチュエータの原理を示す図。
【
図5】
図1に示す動翼の舵角を負にした状態を示す翼構造体の横断面図。
【
図6】
図1に示す動翼の舵角を正にした状態を示す翼構造体の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る翼構造体、翼構造体の制御方法及び航空機について添付図面を参照して説明する。
【0014】
(構成及び機能)
図1は本発明の実施形態に係る翼構造体の構成を示す横断面図であり、
図2は
図1に示す翼構造体の部分上面図である。
【0015】
翼構造体1は航空機2用の主翼や尾翼等の構造体である。従って、翼構造体1は航空機2に備えられる。翼構造体1は、静翼3及び動翼4を有する。動翼4は、静翼3との間に常時隙間が形成されるように配置される。動翼4の例としては、エルロン、ラダー、エレベータ、フラップ、スポイラ及びフラッペロン等が挙げられる。
図1乃至3は、翼構造体1が主翼構造体であり、動翼4がフラップである場合の例を示している。動翼4の1つであるフラップは、航空機の離着陸の際に操舵される高揚力装置である。
【0016】
動翼4には動翼4の舵角を制御するためのアクチュエータ5が設けられる。動翼4は従来の展開機構で展開することによって隙間を形成するスロッテッドフラップ等とは異なり、静翼3との間に常時隙間が形成されるように静翼3と連結される。従って、従来のスロッテッドフラップ等とは異なり、動翼4には動翼4の展開機構が不要である。このため、動翼4の舵角を制御するためのアクチュエータ5のみによって動翼4が機械的に制御されるように構成することができる。
【0017】
図1及び
図2に示す例では、動翼4の舵角を変えるための回転シャフト4Aを回転させるモータ5Aでアクチュエータ5が構成されている。すなわち、モータ5Aの出力軸が動翼4の回転シャフト4Aと連結されている。このため、モータ5Aの回転によって動翼4の舵角を変えることができる。但し、アクチュエータ5の構成は任意であり、他の構成を有するアクチュエータ5を用いても良い。
【0018】
図3は
図1に示すアクチュエータ5の別の構成例を示す図である。
【0019】
図3に示すようにシリンダチューブ10に対してロッド11が移動する動力シリンダ12で、静翼3側に固定されたホーンアームやL型アーム等の第1のアーム13Aと、動翼4側に固定された第2のアーム13Bとを連結することによってアクチュエータ5を構成することもできる。
【0020】
翼構造体1には、空気の流れを制御するための構成要素として上述したようなアクチュエータ5で機械的に駆動する動翼4の他、少なくとも1つのプラズマアクチュエータ14が設けられる。プラズマアクチュエータ14は、動翼4と静翼3との間における隙間に形成される空気の流れを制御するための流れ制御デバイスである。
【0021】
図4は
図1に示すプラズマアクチュエータ14の原理を示す図である。
【0022】
プラズマアクチュエータ14は、第1の電極21、第2の電極22、誘電体23及び交流電源24で構成される。第1の電極21と第2の電極22は、放電エリアが形成されるように誘電体23を挟んで互いにシフトして配置される。第1の電極21は、空気の流れを誘起すべき空間に露出した状態で配置される。一方、第2の電極22は、空気の流れを誘起すべき空間に露出しないように誘電体23で覆われる。また、第2の電極22は、航空機2の機体に接地される。第1の電極21と第2の電極22との間には、交流電源24によって交流電圧が印加される。
【0023】
交流電源24を動作させて第1の電極21と第2の電極22との間に交流電圧を印加すると、第1の電極21が配置されている側の誘電体23の表面に形成される放電エリアには電子と正イオンから成るプラズマが生じる。その結果、プラズマによって誘電体23の表面に向かう空気の流れが誘起される。尚、第1の電極21と第2の電極22との間に誘電体23を挟んで誘電体バリア放電を起こすプラズマアクチュエータ14は、DBD-PAと呼ばれる。
【0024】
プラズマアクチュエータ14を構成する第1の電極21及び第2の電極22は、薄いフィルム状にすることができる。このため、動翼4の表面に貼付けるか、或いは取付位置となる表面層に埋め込んで使用することができる。
【0025】
プラズマアクチュエータ14の数及び取付位置は、動翼4と静翼3との間に形成される隙間に適切な空気の流れを形成できるように風洞試験やシミュレーションによって決定することができる。
図1及び
図2に示す例では、静翼3の上面側と下面側にそれぞれプラズマアクチュエータ14が配置されている。すなわち、動翼4と静翼3との間に形成される隙間に適切な空気の流れを形成できるように、静翼3の上面側の後縁と下面側の後縁にそれぞれプラズマアクチュエータ14が取付けられている。
【0026】
このように翼構造体1には、空気の流れを制御する装置として動翼4に加えて、プラズマアクチュエータ14が設けられる。従って、翼構造体1には、動翼4及びプラズマアクチュエータ14を制御するための制御装置30が設けられる。制御装置30は電気信号として制御信号を生成及び出力する電気回路を用いて構成することができる。また、動翼4を駆動するためのアクチュエータ5が油圧式又は空気圧式である場合には、油圧信号又は空気圧信号として制御信号を生成及び出力できるように油圧信号回路又は空気圧信号回路を用いて制御装置30を構成することができる。
【0027】
動翼4の舵角はアクチュエータ5の制御量によって調整することができる。このため、制御装置30からは動翼4の舵角を制御するためにアクチュエータ5の制御量を指示する制御信号がアクチュエータ5に出力される。一方、プラズマアクチュエータ14は、交流電源24から第1の電極21と第2の電極22との間に印加される交流電圧の有無及び交流電圧の波形によって制御することができる。このため、制御装置30からはプラズマアクチュエータ14の作動条件を制御するために交流電源24から第1の電極21と第2の電極22との間に印加される交流電圧の有無及び交流電圧の波形を指示する制御信号が交流電源24に出力される。
【0028】
動翼4及びプラズマアクチュエータ14は、制御装置30による制御下において互いに連動させることができる。すなわち、制御装置30による制御下において、動翼4の舵角に応じた好適な条件でプラズマアクチュエータ14を作動させることができる。実用的な例として、航空機2の巡行時には翼構造体1による揚力が維持されるように
図1に例示されるように動翼4の舵角がゼロとなる。
【0029】
動翼4の舵角がゼロである場合には、制御装置30による制御によって、静翼3の上面側に配置されたプラズマアクチュエータ14と、静翼3の下面側に配置されたプラズマアクチュエータ14の双方を作動させることができる。そうすると、静翼3の上面側に配置されたプラズマアクチュエータ14と、静翼3の下面側に配置されたプラズマアクチュエータ14によって、静翼3と動翼4との間における隙間への空気の流入を防止させるための空気の流れを形成することができる。すなわち、静翼3と動翼4との間における隙間への空気の流入を防止させるためのエアカーテンを形成することで、静翼3と動翼4との間に空気が流入することにより生じる空気抵抗を低減することができる。
【0030】
一方、動翼4を操舵して正又は負のゼロで無い舵角を取る際においても、適切な位置に配置されたプラズマアクチュエータ14を作動させることによって、舵面の効果を向上させることができる。
【0031】
図5は
図1に示す動翼の舵角を負にした状態を示す翼構造体の横断面図である。
【0032】
図5に例示されるように動翼4の舵角が負である場合には、制御装置30による制御によって、静翼3の上面側に配置されたプラズマアクチュエータ14を作動させる一方、静翼3の下面側に配置されたプラズマアクチュエータ14を作動させないようにすることができる。そうすると、静翼3の上面側に配置されたプラズマアクチュエータ14の作動によって、静翼3の上面側から隙間を通って動翼4の下面側に向かう空気の流れを形成することができる。これにより、動翼4の下面側に空気の流れによるエネルギが供給され、動翼4の下面側において空気の剥離を抑制する効果を得ることができる。
【0033】
図6は
図1に示す動翼の舵角を正にした状態を示す翼構造体の横断面図である。
【0034】
図6に例示されるように動翼4の舵角が正である場合には、制御装置30による制御によって、静翼3の下面側に配置されたプラズマアクチュエータ14を作動させる一方、静翼3の上面側に配置されたプラズマアクチュエータ14を作動させないようにすることができる。そうすると、静翼3の下面側に配置されたプラズマアクチュエータ14の作動によって、静翼3の下面側から隙間を通って動翼4の上面側に向かう空気の流れを形成することができる。これにより、動翼4の上面側に空気の流れによるエネルギが供給され、動翼4の上面側において空気の剥離を抑制する効果を得ることができる。
【0035】
各プラズマアクチュエータ14の交流電源24から第1の電極21と第2の電極22との間に印加される交流電圧の波形は、風洞試験やシミュレーションによって適切な空気の流れが形成されるように決定することができる。プラズマアクチュエータ14の交流電源24から第1の電極21と第2の電極22との間に印加される交流電圧の波形としては、連続波の他、バースト波とすることが効果的であることが風洞試験等によって確認されている。
【0036】
図7は典型的なバースト波の波形を表すグラフである。
【0037】
図7において縦軸は電圧Vを示し、横軸は時間tを示す。バースト波は、
図7に示すように、振幅が変化する期間と、振幅が変化しない期間を一定のバースト周期Tで繰り返す波である。従って、交流電圧の波形がバースト波である場合には、振幅Vmの交流電圧が連続的に印加される期間Tonがバースト周期Tで断続的に繰り返されることになる。バースト周期Tに対する交流電圧の印加期間Tonの比Ton/Tは、デューティ比に相当し、バースト比BRと呼ばれる。
【0038】
従って、プラズマアクチュエータ14を作動させることによって目的とする空気の流れを形成するために適切なバースト周期Tやバースト比BR等の波形パラメータを風洞試験やシミュレーションによって事前に求め、データベース化することができる。すなわち、プラズマアクチュエータ14を作動させることによって形成すべき空気の流れと、プラズマアクチュエータ14の第1の電極21と第2の電極22との間に印加すべき交流電圧の波形との関係を表すテーブルや関数等の情報を記憶させた記憶装置を制御装置30に備えることができる。これにより、プラズマアクチュエータ14の第1の電極21と第2の電極22との間に印加される交流電圧の波形を制御装置30によって自動制御することができる。もちろん、プラズマアクチュエータ14のON状態とOFF状態との間における切換えを航空機2の操縦者が手動で行えるようにしてもよい。
【0039】
尚、バースト周期T又はバースト周期Tの逆数であるバースト周波数fを無次元化して風洞試験又はシミュレーションを行うと、翼構造体1の形状や空気の流速が異なる場合であっても、共通の風洞試験又はシミュレーションによって適切なバースト周期T又はバースト周波数fを決定することが可能となる。例えば、バースト周波数fは
図1に例示されるように定義される翼構造体1の翼弦長c1又は動翼4の舵面長c2と、空気の主流速度Uを基準として無次元化することができる。
【0040】
具体的には、翼構造体1の翼弦長c1と空気の主流速度Uで無次元化されたバースト周波数F1は式(1)で表される。
F1=(1/T)/(U/c1)=f/(U/c1) (1)
【0041】
一方、動翼4の舵面長c2と空気の主流速度Uで無次元化されたバースト周波数F2は式(2)で表される。
F2=(1/T)/(U/c2)=f/(U/c2) (2)
【0042】
従って、動翼4と静翼3とによって構成される翼構造体1の翼弦長c1又は動翼4の舵面長c2で無次元化したバースト周波数F1、F2又はバースト周期のバースト波形としてプラズマアクチュエータ14の第1の電極21と第2の電極22との間に印加すべき交流電圧の波形を決定することができる。これにより、翼構造体1の翼弦長c1又は動翼4の舵面長c2に依らず、共通の無次元化されたバースト周波数F1、F2又はバースト周期を決定することができる。また、空気の主流速度Uで無次元化すれば、空気の主流速度Uに依らず、共通の無次元化されたバースト周波数F1、F2又はバースト周期を決定することができる。
【0043】
以上のような翼構造体1、翼構造体1の制御方法及び航空機2は、動翼4を静翼3との間に常時隙間が形成されるように配置し、少なくとも1つのプラズマアクチュエータ14を用いて隙間に形成される空気の流れを制御するようにしたものである。
【0044】
(効果)
このため、翼構造体1、翼構造体1の制御方法及び航空機2によれば、動翼4の重量を軽減することができる。すなわち、翼構造体1、動翼4の制御方法及び航空機2によれば、従来のスロッテッドフラップに設けられる展開機構を不要にすることができる。このため、動翼4を展開するためのアクチュエータが不要となり、舵角を制御するためのアクチュエータ5のみで動翼4を操舵することが可能となる。
【0045】
しかも、プラズマアクチュエータ14を動翼4の舵角に応じて適切に作動させることによって、動翼4を静翼3との間に隙間が常時形成されることに起因する悪影響を無くすことができるのみならず、舵角を取った際における舵の効きを向上させることが可能である。
【0046】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0047】
1 翼構造体
2 航空機
3 静翼
4 動翼
4A 回転シャフト
5 アクチュエータ
5A モータ
10 シリンダチューブ
11 ロッド
12 動力シリンダ
13A 第1のアーム
13B 第2のアーム
14 プラズマアクチュエータ
21 第1の電極
22 第2の電極
23 誘電体
24 交流電源
30 制御装置