(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】彫込錠
(51)【国際特許分類】
E05B 9/08 20060101AFI20220629BHJP
E05B 9/04 20060101ALI20220629BHJP
E05B 15/00 20060101ALI20220629BHJP
E05B 63/08 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
E05B9/08 B
E05B9/04
E05B15/00 A
E05B63/08 B
(21)【出願番号】P 2018138240
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000131511
【氏名又は名称】株式会社シブタニ
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】福井 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】中 利友
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-291666(JP,A)
【文献】特開2002-213113(JP,A)
【文献】特開2003-325917(JP,A)
【文献】実開平4-16269(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 9/04-9/08
E05B 15/00
E05B 63/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアの内部に設置される錠ケースと、前記錠ケースのシリンダ設置口に挿入されるハウジングを有するシリンダと、を備える彫込錠において、
前記ハウジングが、当該ハウジングの外側で軸方向に並ぶ複数の突部と、回止め部材を軸方向から挿入可能な取付部と、を有し、
前記シリンダ設置口が、前記複数の突部を軸方向に挿入可能な内径を成す大径部と、前記複数の突部を軸方向に挿入不可な内径を成す小径突部と、前記取付部に固定された前記回止め部材を周方向に受ける回転制限部と、を有し、
前記ハウジングが前記突部を前記大径部へ向けるように前記シリンダ設置口へ挿入され、当該シリンダ設置口に対する当該ハウジングの軸方向位置が調整された状態で当該ハウジングが回されることによって、当該調整位置に対応の前記突部が当該調整位置を維持できるように前記小径突部と軸方向に重なる係止状態とされ、当該係止状態で前記取付部に前記回止め部材が固定され、当該回止め部材が前記回転制限部に周方向に受けられることによって、当該係止状態を維持できるように当該ハウジングの回転が規制されることを特徴とする彫込錠。
【請求項2】
前記ハウジングが、前記複数の突部の周方向片端に連続するように軸方向に延び、かつ当該ハウジングを前記係止状態にするための一方向回転を前記小径突部との当接で規制するように設けられた係合部を有し、
前記回転制限部が、前記取付部に固定された前記回止め部材を前記ハウジングの他方向回転を規制可能な方向に受ける形状である請求項1に記載の彫込錠。
【請求項3】
前記回転制限部が、前記小径突部の一部として設けられている請求項1又は2に記載の彫込錠。
【請求項4】
前記錠ケースが、前記シリンダ設置口を形成する一対の側板部を有し、
前記一対の側板部間には、前記シリンダのカムに連結されるカムリングが配置されており、
前記大径部と前記ハウジングとの間が前記カムの回転空間になる請求項1から3のいずれか1項に記載の彫込錠。
【請求項5】
前記回止め部材が、前記ハウジングの前記取付部にねじ込むことによって当該取付部に固定可能な雄ねじからなる請求項1から4のいずれか1項に記載の彫込錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、施解錠機構を収容、支持する錠ケースを備え、その錠ケースがドアの内部に設置される彫込錠に関する。
【背景技術】
【0002】
彫込錠としては、錠ケースに接続されるシリンダと、錠ケースに接続されるサムターンとを備えるものが一般的である。この種の彫込錠は、ドアに対して室外側からシリンダの鍵穴に鍵を挿入し、その鍵を回す操作により、また、ドアに対して室内側からサムターンを回す操作により、施解錠を行えるように設置される。
【0003】
従来、錠ケースに対するシリンダの接続構造として、シリンダのハウジングを錠ケースのシリンダ設置口に挿入し、そのハウジングをシリンダ設置口で支持する構造が採用されている。ドアの厚さやドアに対する錠ケースの取付位置は、ドアの仕様によって異なる。このため、錠ケースに対するハウジングの取付位置を軸方向に関して調整可能な接続構造を採用し、その調整により、シリンダの鍵穴等をドアの仕様に応じた適切な位置へ調整することができるように構成された彫込錠が提案されている。
【0004】
特許文献1に開示された彫込錠では、ドアの室外側の意匠性を考慮し、シリンダのハウジングをドアの室内側パネルの開口からシリンダ設置口に挿入可能な構造になっている。シリンダの鍵穴は、ドアの内部においてドアの室外側パネルの小さな開口に臨むように配置される。ハウジングは、軸方向に並ぶ複数の受け穴部を有する。錠ケースの内部には、スタッドと、スタッドを支持するロックガイドとが設けられている。スタッドの一端面は、錠ケースのフロントパネルの小さな開口に対向し、スタッドの他端面は、シリンダ設置口に対向する。シリンダ設置口に挿入されたハウジングの軸方向位置を受け穴部の配置間隔に応じて調整し、その調整位置に対応の当該受け穴部にスタッドを挿入すれば、錠ケースに対するハウジングの位置が固定される。この調整機能を利用すれば、ドアの厚さ等に応じて鍵穴をドアの室外側パネルの開口近傍に適切に配置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような彫込錠では、ドア内のシリンダ設置口を眺めてハウジングを適切な向きでシリンダ設置口へ軸方向に挿入、位置調整する作業と、ドアの戸先部に位置するフロントパネルの開口からスタッドを眺めてねじ回し具を接続し、ハウジングの受け穴部へ挿入する位置固定作業とを直交する二方向から行うことになる。このため、作業者は、ドア内のシリンダ設置口に向き合う体勢から、フロントパネルを視認する体勢を変えなければ、スタッドを操作してハウジングを調整位置に固定する作業を行いにくい点で、作業性に改良の余地がある。
【0007】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、錠ケースのシリンダ設置口に対してシリンダのハウジングを調整位置に固定する際の作業性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するため、この発明は、ドアの内部に設置される錠ケースと、前記錠ケースのシリンダ設置口に挿入されるハウジングを有するシリンダと、を備える彫込錠において、前記ハウジングが、当該ハウジングの外側で軸方向に並ぶ複数の突部と、回止め部材を軸方向から挿入可能な取付部と、を有し、前記シリンダ設置口が、前記複数の突部を軸方向に挿入可能な内径を成す大径部と、前記複数の突部を軸方向に挿入不可な内径を成す小径突部と、前記取付部に固定された前記回止め部材を周方向に受ける回転制限部と、を有し、前記ハウジングが前記突部を前記大径部へ向けるように前記シリンダ設置口へ挿入され、当該シリンダ設置口に対する当該ハウジングの軸方向位置が調整された状態で当該ハウジングが回されることによって、当該調整位置に対応の前記突部が当該調整位置を維持できるように前記小径突部と軸方向に重なる係止状態とされ、当該係止状態で前記取付部に前記回止め部材が固定され、当該回止め部材が前記回転制限部に周方向に受けられることによって、当該係止状態を維持できるように当該ハウジングの回転が規制される構成を採用した。
【0009】
上記構成によれば、シリンダ設置口にハウジングを軸方向に挿入し、その軸方向位置を調整してからハウジングを回し、シリンダ設置口の小径突部にハウジングの対応の突部を軸方向に重ねて係止状態にすると、ハウジングの軸方向移動を突部と小径突部の当接で規制し、ハウジングをその調整位置に維持することができる。その係止状態で回止め部材を軸方向から取付部に挿入して固定すると、回止め部材をシリンダ設置口の回転制限部で周方向に受けてハウジングの回転を規制し、その係止状態を維持することができる。すなわち、ハウジングをシリンダ設置口へ軸方向に挿入、位置調整し、その調整位置に固定するまでの作業は、シリンダ設置口に向き合う体勢で行うことが可能になるため、作業性が向上させられる。
【発明の効果】
【0010】
このように、この発明は、上記構成の採用により、錠ケースのシリンダ設置口に対してシリンダのハウジングを調整位置に固定する際の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の実施形態に係る彫込錠のシリンダ付近の分解斜視図
【
図5】
図4のハウジングを短手方向の軸線回りに反転させた外観を示す図
【
図6】
図5のハウジングを長手方向の軸線回りに90°回転させた外観を示す図
【
図12】
図1のシリンダのハウジングをシリンダ設置口に挿入する際の位相を示す図
【
図13】
図2のハウジングの突部とシリンダ設置口の係止状態を示す部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の一例としての実施形態に係る彫込錠を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図2、
図3に示すように、この彫込錠は、ドアDの内部に設置される錠ケース1と、錠ケース1に取り付けられるシリンダ2と、を備える。ドアDとして、家屋の戸口を開閉するものが想定されている。
【0014】
錠ケース1は、デッドボルト3を出没させる施解錠機構を収容、支持するケーシングである。錠ケース1は、ドアDの屋外側パネルDp1と屋内側パネルDp2との間にドアDの戸先側から吊り側に向かって挿入される。
【0015】
図1~
図3に示すように、錠ケース1は、箱状のケース本体4と、ケース本体4のバック側に連結された箱状の拡張ケース5とを有する。錠ケース1は、ケース本体4を構成するフロントパネルにおいてドアDの戸先部に連結される。ケース本体4には、サムターン6が接続される。拡張ケース5には、シリンダ2が接続される。
【0016】
シリンダ2は、筒状のハウジング7と、鍵穴を形成する内筒(図示省略)の回転トルクを出力するカム8と、ハウジング7に連結された裏蓋9と、を有する。ここで、軸方向は、シリンダ2のカム8の回転軸線に沿った方向のことをいう。以下、その回転軸線に対して直角な方向のことを径方向といい、その回転軸線回りの円周方向のことを周方向という。
【0017】
ハウジング7は、錠ケース1に対して静止する部位となる。シリンダ2の鍵穴(図示省略)は、ハウジング7の軸方向一端側の開口から露出している。シリンダ2の鍵穴は、屋外側ドアパネルDp1に形成された鍵挿入孔Dh1とドアDの内部で軸方向に対向する。屋外からのドアDの意匠性を良好にするため、鍵挿入孔Dh1は、可及的に小さく形成されている。サムターン6、シリンダ2は、屋内側ドアパネルDp2に形成された組込孔Dh2からケース本体4、拡張ケース5に接続される。屋内側ドアパネルDp2に取り付けられるドアキャップDcにより、ドアDに対して屋内側から、シリンダ2、組込孔Dh2が露出しないように覆い隠される。鍵挿入孔Dh1からシリンダ2の鍵穴に鍵(図示省略)を挿入し、その鍵を回す操作により、また、サムターン6を回す操作により、デッドボルト3を錠ケース1に出没させる施解錠の切り替えを行えるようになっている。
【0018】
錠ケースに収容、支持される施解錠機構は特に限定されない。図示のケース本体4には、本出願人が特開2013-221299号公報において開示した電気錠(同公報の発明の実施の形態参照)と同様の施解錠機構が収容、支持されている。ケース本体4に収容された施解錠機構と、前述の電気錠の錠箱に収容された施解錠機構との比較において相違する点は、拡張ケース5に接続されたシリンダ2とデッドボルト3とサムターン6間の連動機構が追加されたことのみである。その相違点は後述し、共通点の詳細説明は省略する。
【0019】
カム8は、錠ケース1内の施解錠機構へ回転トルクを伝達する。カム8は、周方向等配の二箇所で軸方向に延びる一対の脚部を有し、これら径方向に対向する一対の脚部から前術の施解錠機構側へトルクを出力するようになっている。カム8の一対の脚部は、ハウジング7の軸方向他端側の開口からハウジング7の外側まで延びている。カム8の各脚部とハウジング7の外側との間には径方向隙間が設定されている。前述の鍵回し操作により、カム8が回転する角度は、90°未満に設定されている。
【0020】
裏蓋9は、ハウジング7の軸方向他端側からカム8等が抜け出すことを防止する。裏蓋9は、ハウジング7の軸方向他端部にねじ止めされている。
【0021】
図4~
図8に示すように、ハウジング7は、その外側で軸方向に並ぶ複数の突部10a~10cと、最も軸方向一端側に位置する突部10aよりも軸方向一端側に位置する取付部11とを有する。
【0022】
各突部10a~10cは、ハウジング7の外周の大部分を占める基準外径面から径方向外側へ突出した形状である。各突部10a~10cは、周方向に沿う外径面を有する。軸方向の並びの中央に位置する突部10cは、突部10cの軸方向両端に位置する両端面(一端面、他端面)を有する。突部10cに対して軸方向一端側に並ぶ各突部10aは、当該突部10aの軸方向一端に位置する一端面と、当該突部10aの外径面に向かって当該一端面側へ傾斜したテーパ面と、を有する。突部10cに対して軸方向他端側に並ぶ各突部10bは、当該突部10bの軸方向他端に位置する他端面と、当該突部10bの外径面に向かって当該他端面側へ傾斜したテーパ面と、を有する。各突部10a~10cの軸方向幅は、一定に設定されている。突部10cの両端面、各突部10aの一端面、及び各突部10bの他端面は、それぞれ径方向に沿った平坦面状に形成されている。各突部10a,10cの一端面が軸方向に並ぶ間隔は、一定間隔に設定されている。各突部10b,10cの他端面が軸方向に並ぶ間隔も、前述の一定間隔に設定されている。突部10cに対して軸方向一端側に位置する突部10aの並び数と、突部10cに対して軸方向他端側に位置する突部10bの並び数は等しく、図示例では、その並び数を4としている。軸方向に隣り合う突部10a~10c間の各間は、前述の基準外径面の一部になっている。なお、突部10a~10cは、図示のような形態に限定されるものでなく、例えば、同一形状に統一してもよい。
【0023】
取付部11は、回止め部材12を軸方向から挿入して回止め部材12をハウジング7に固定することができるように、前述の基準外径面から径方向外側へ突出した形状である。取付部11は、当該取付部11を軸方向に貫通する雌ねじ孔部11aを有する。回止め部材12は、雌ねじ孔部11aに対して軸方向他端側からねじ込まれる雄ねじからなる。
【0024】
ハウジング7の外側には、ハウジング7の軸方向他端から取付部11の雌ねじ孔部11aまで軸方向に延びる溝部13が形成されている。溝部13は、回止め部材12を雌ねじ孔部11aまで軸方向に挿入可能にする空間を確保するためのものである。
【0025】
また、ハウジング7は、軸方向に延びる係合部14を有する。係合部14は、複数の突部10a~10cの周方向片端に連続する。係合部14は、前述の基準外径面から径方向外側に突出したリブ状であり、その突出高さは突部10a~10cよりも高く設定されている。
【0026】
ハウジング7は、突部10a~10cとして、係合部14と溝13の周方向一方側の溝縁間で周方向に延びるものと、溝13の周方向他方側の溝縁から周方向他方側へ延びるものとを有する。溝13に対して周方向他方側に位置する突部10a~10cは、当該溝13に対して周方向一方側に位置する突部10a~10cの周方向延長上に位置する。
【0027】
各突部10a~10c、取付部11、溝13、及び係合部14は、ハウジング7の外側のうち、
図1、
図2に示すカム8と径方向に対向し得ず、かつカム8と周方向に接触不可な領域に位置する。また、各突部10a~10c、取付部11、溝13、及び係合部14は、周方向に180°回転対称を成すように形成されている。
【0028】
裏蓋9は、取付部11と軸方向に対向する支持部15を有する。支持部15には、回止め部材12を軸方向から挿通可能な貫通孔が形成されている。支持部15の軸方向他端側の表面は、取付部11に対するねじ込みによってハウジング7に固定される回止め部材12の頭部を受ける座面となる。なお、回止め部材12は、円筒部を有する半ねじになっており、取付部11にねじ込み可能な範囲は一端部に限定される。このため、回止め部材12を取付部11にねじ込む際に支持部15に過負荷が加えられる懸念はない。
【0029】
拡張ケース5は、軸方向に対面する一対の側板部16,17を有する。シリンダ2のハウジング7が挿入されるシリンダ設置口18は、一対の側板部16,17の内周縁によって構成されている。一対の側板部16,17の内周縁は、それぞれ大径部19と一対の小径突部20とによって構成されている。大径部19は、一対の円弧状縁部からなる。大径部19における内径(一対の円弧状縁部間での内径)は、複数の突部10a~10c、取付部11及びカム8の脚部を軸方向に挿入可能な大きさに設定されている。小径突部20は、複数の突部10a~10c、取付部11及びカム8の脚部を軸方向に挿入不可な内径を成す縁部分からなる。一対の側板部16,17の内周縁は、互いに同位相を成す形状である。各側板部16,17における一対の小径突部20は、180°回転対称を成すように形成されている。
【0030】
小径突部20の周方向中央部は、取付部11に固定された回止め部材12を周方向に受ける回転制限部21になっている。回転制限部21は、回止め部材12の円筒部の半周以上に沿うように凹んだ切欠き状である。このため、回転制限部21は、回止め部材12の円筒部を周方向の両方向(一方向と他方向)に受けることができると共に、径方向に受けることもできる。なお、回転制限部21は、小径突部20を軸方向に貫通する孔状に形成してもよい。
【0031】
小径突部20は、回転制限部21以外の部分においてシリンダ設置口18の最小内径を規定する内径面を有する。一対の小径突部20の内径面が成す前述の最小内径は、ハウジング7の前述の基準外径面に普通嵌め又はすきま嵌めとなり、かつ突部10a~10cに外接する円径よりも小さく設定されている。小径突部20の板厚は、ハウジング7の突部10a~10cの各間における軸方向の最小隙間よりも僅かに小さく設定されている。
【0032】
図1、
図9、
図10に示すように、一対の側板部16,17間には、シリンダ2のカム8に連結されるカムリング22が配置されている。カムリング22は、一対の側板部16,17によって軸方向移動を規制される。
図1、
図9、
図11に示すように、一対の側板部16,17には、カムリング22をシリンダ設置口18と同軸回りに回転可能に支持する案内部23が形成されている。案内部23は、一対の側板部16,17のそれぞれに周方向四等配に配置されている。各案内部23は、各側板部16,17をカムリング22側に向かって円弧状に軸方向へ凹ませた板部分からなる。カムリング22の外周両端部は、それら等配の案内部23によって径方向に支持される。
【0033】
図1、
図3、
図9に示すように、カムリング22の内側には、軸方向に延びる一対のカム溝部24が形成されている。一対のカム溝部24は、カム8の一対の脚部を軸方向から挿入可能な形状であり、180°回転対称を成すように形成されている。一対のカム溝部24は、挿入されたカム8の一対の脚部を周方向の両方向に受けると共に径方向に受ける。一対のカム溝部24にカム8の一対の脚部が挿入されることにより、カム8とカムリング22が一体に回転可能に連結される。
【0034】
図1、
図9、
図10に示すように、一方の側板部16は、ケース本体4のバックパネルに締結されるねじ止め部25と、ケース本体4の下面部に締結されるねじ止め部26とを有する。ケース本体4内においてサムターン6と電動機構の施解錠切り替え動作を連動させるラックプレートは、拡張ケース5内においてラック方向に往復可能に配置された伝達端部27を有する。ラックプレートの伝達端部27と、カムリング22の係合腕部28との当接により、サムターン6と、電動機構と、シリンダ2のカム8との施解錠動作が連動させられるようになっている。
【0035】
上述のシリンダ2を錠ケース1に取り付ける作業は、次のようなものとなる。すなわち、この作業は、錠ケース1が
図2に示すようにドアDの内部に設置された状態で、屋内側ドアパネルDp2の組込孔Dh2から行われる。シリンダ2をシリンダ設置口18に挿入する作業は、全ての回止め部材12がシリンダ2から抜き取られた状態で行われる。
【0036】
シリンダ設置口18へシリンダ2を挿入する際の向きは、
図1に示すように、カム8の一対の脚部が一対のカム溝部24に軸方向に対向し、突部10a~10c、取付部11が小径突部20と軸方向に対向しない(大径部19へ向ける)向きとする。この向きでカム8の一対の脚部が、
図12に示すように、一対のカム溝部24に軸方向に挿入される。この挿入により、ハウジング7がシリンダ設置口18と同軸上に位置するように配置される。また、その挿入に際し、ハウジング7の取付部11は、大径部19に向くようにシリンダ設置口18へ一旦挿入された後、シリンダ設置口18の外へ出て、シリンダ設置口18よりも屋外側ドアパネルDp1に近いところへ配置される一方、裏蓋9の支持部15は、シリンダ設置口18に挿入されない状態となる(
図2参照)。この挿入状態が維持される範囲内かつ突部10a~10cの軸方向の並び間隔に対応のピッチで、シリンダ設置口18に対するハウジング7の軸方向位置が調整される。当該調整位置の当該ハウジング7が、図中反時計回りの一方向に回されることによって、カムリング22も一体に回転させられ、
図13に示すように、当該調整位置に対応の軸方向二箇所の突部10a,10b,10cが当該調整位置を維持できるように対応の小径突部20と軸方向に重なる係止状態となり、小径突部20に係合部14が周方向に突き当ることにより、その一方向回転が規制される。
【0037】
例えば、
図2に示すように、屋外側ドアパネルDp1が実線で描く位置にあり、シリンダ2が実線で描く調整位置(調整範囲内で最も屋内側に寄せた位置)に取り付けられる場合、
図13において実線で描く小径突部20と複数の突部10a~10cの位置関係となり、最も軸方向一端側の突部10aの一端面が、屋外側に位置する小径突部20に軸方向に重なり、並び中央の突部10cの他端面が、屋内側に位置する小径突部20に軸方向に重なる状態となる。これら突部10aの一端面が対応の小径突部20に軸方向に係止されることにより、シリンダ7の屋外側への軸方向移動が実質的に不可能状態に規制される一方、これら突部10cの他端面が対応の小径突部20に軸方向に係止されることにより、シリンダ7の屋内側への軸方向移動が実質的に不可能な状態に規制される。
図2に示すように、屋外側ドアパネルDp1´が二点鎖線で描く位置にあり、シリンダ2が二点鎖線で描く調整位置(調整範囲内で最も屋外側に寄せた位置)に取り付けられる場合、
図13において二点鎖線で描く小径突部20´と実線で描く複数の突部10a~10cの位置関係となり、最も軸方向他端側の突部10bの他端面が、屋内側に位置する小径突部20´に軸方向に重なり、並び中央の突部10cの一端面が、屋外側に位置する小径突部20´に軸方向に重なる状態となる。これら突部10bの他端面が対応の小径突部20´に軸方向に係止されることにより、シリンダ7の屋内側への軸方向移動が実質的に不可能状態に規制される一方、これら突部10cの一端面が対応の小径突部20´に軸方向に係止されることにより、シリンダ2の屋外側への軸方向移動が実質的に不可能な状態に規制される。なお、実線、二点鎖線で描いた限界位置以外の中間の調整位置は三段階あり、これら中間の調整位置では、対応の突部10aの一端面と突部10bの他端面の組み合わせでハウジング7の軸方向移動が規制されることになる。
【0038】
前述の係止状態では、ハウジング7の一対の溝13と、一対の小径突部20の周方向中央部に位置する切欠き状の回転制限部21とが径方向に対向し、シリンダ設置口18の外に位置する裏蓋9の支持部15が小径突部20に軸方向に対向することになる。この係止状態で、回止め部材12が、そのねじ先端部から裏蓋9の支持部15の貫通孔に通され、さらに取付部11の雌ねじ孔部11aにねじ込まれることによって取付部11に固定される(
図3参照)。取付部11に固定された回止め部材12が回転制限部21に周方向に受けられることによって、当該係止状態を維持できるように当該ハウジング7の図中時計回りの他方向回転が規制される。全ての回止め部材12が対応の取付部11に固定されることにより、ハウジング7の他方向回転規制が完全となり、拡張ケース5に対するシリンダ2の取り付け作業が完了する。
【0039】
施解錠切り替え時には、シリンダ2のカム8が施錠方向又は解錠方向に回転することになる。このとき、カム8の一対の脚部のうち、大径部19と径方向に対向する部分は、
図3から明らかなように、大径部19とハウジング7の前述の基準外径面との間の径方向の隙間を移動することになる。
【0040】
この彫込錠は、上述のようなものであり、ハウジング7がこの外側で軸方向に並ぶ複数の突部10a~10cと、回止め部材12を軸方向から挿入可能な取付部11とを有し、シリンダ設置口18が複数の突部10a~10cを軸方向に挿入可能な内径を成す大径部19と、複数の突部10a~10cを軸方向に挿入不可な内径を成す小径突部20と、取付部11に固定された回止め部材12を周方向に受ける回転制限部21とを有し、ハウジング7が突部10a,10b,10cを大径部19へ向けるようにシリンダ設置口18へ挿入され、当該シリンダ設置口18に対する当該ハウジング7の軸方向位置が調整された状態で当該ハウジング7が回されることによって、当該調整位置に対応の突部10a,10b,10cが当該調整位置を維持できるように小径突部20と軸方向に重なる係止状態とされ、当該係止状態で取付部11に回止め部材12が固定され、当該回止め部材12が回転制限部21に周方向に受けられることによって、当該係止状態を維持できるように当該ハウジング7の回転が規制される。
【0041】
すなわち、シリンダ2を錠ケース1に取り付ける作業者は、シリンダ設置口18にハウジング7を軸方向に挿入し、その軸方向位置を調整してからハウジング7を回し、シリンダ設置口18の対応の小径突部20にハウジング7の対応の突部10a,10b,10cを軸方向に重ねて係止状態にすると、ハウジング7の軸方向移動を対応の突部10a,10b,10cと対応の小径突部20の当接で規制し、ハウジング7をその調整位置に維持することができる。その係止状態で回止め部材12を軸方向から取付部11に挿入して固定すると、回止め部材12をシリンダ設置口18の回転制限部21で周方向に受けてハウジング7の回転を規制し、その係止状態を維持することができる。すなわち、ハウジング7をシリンダ設置口18へ軸方向に挿入、位置調整し、その調整位置に固定するまでの作業は、シリンダ設置口18に向き合う体勢で行うことが可能になる。このため、この彫込錠は、錠ケース1のシリンダ設置口18に対してシリンダ2のハウジング7を調整位置に固定する際の作業性を向上させることができる。
【0042】
また、この彫込錠は、ハウジング7が複数の突部10a~10cの周方向片端に連続するように軸方向に延び、かつ当該ハウジング7を係止状態にするための一方向回転を小径突部20との当接で規制するように設けられた係合部14を有し、回転制限部21が取付部11に固定された回止め部材21をハウジング7の他方向回転を規制可能な方向に受ける形状であるので、軸方向負荷に対する突部10a~10cの耐変形性を係合部14で補強すると共に、その係合部14と小径突部20を利用してハウジング7の一方向回転を係止状態になる適切な位置で停止させることができる。
【0043】
また、この彫込錠は、回転制限部21が小径突部20の一部として設けられているので、シリンダ設置口18の小径突部20と大径部19の径差を成す肉部を利用して回転制限部21を設けることが可能であり、ひいては、シリンダ設置口18の形状複雑化を抑えることができる。
【0044】
また、この彫込錠は、錠ケース1がシリンダ設置口18を形成する一対の側板部16,17を有し、一対の側板部16,17間にはシリンダ2のカム回転(カム8の施錠方向回転又は解錠方向回転)を伝達するカムリング22が配置されており、大径部19とハウジング7との間がカム8の回転空間になるので、シリンダ2のカム8の回転に必要な空間を利用してハウジング7の突部10a~10cの挿入用空間を確保することができる。
【0045】
また、この彫込錠は、回止め部材12がハウジング7の取付部11にねじ込むことによって当該取付部11に固定可能な雄ねじからなるので、回止め部材12を取付部11に固定する際、係止状態の突部10a~10cに衝撃荷重が負荷される懸念がない。すなわち、ピン状の回止め部材を取付部のピン孔に対する圧入で固定することも考えられるが、この場合、圧入時の衝撃が係止状態の突部と小径突部に負荷される懸念があるのに対し、ねじによる固定の場合、その懸念がない。
【0046】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1 錠ケース
2 シリンダ
5 拡張ケース
7 ハウジング
8 カム
10a~10c 突部
11 取付部
12 回止め部材
14 係合部
16,17 側板部
18 シリンダ設置口
19 大径部
20 小径突部
21 回転制限部
22 カムリング