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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】軸受装置の冷却構造
(51)【国際特許分類】
   F16C 37/00 20060101AFI20220629BHJP
   F16N 7/32 20060101ALI20220629BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20220629BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
F16C37/00 B
F16N7/32 C
F16C33/66 Z
F16C19/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018171129
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020041647
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】那須 惠介
(72)【発明者】
【氏名】小畑 智彦
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117820(JP,A)
【文献】特開2012-21574(JP,A)
【文献】特開2006-329265(JP,A)
【文献】特開2001-289245(JP,A)
【文献】国際公開第2013/011815(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 37/00,33/66,19/18
F16N 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の外輪および内輪にそれぞれ隣接する外輪間座および内輪間座を有し、前記外輪間座に、前記内輪間座の外周面に向けて圧縮エアを吐出する空冷ノズルが設けられた軸受装置の冷却構造であって、
前記内輪間座は前記外輪間座に比べて、熱伝導率が高く、かつ軸方向の線膨張係数が高く、前記転がり軸受の予圧形式が定位置予圧である軸受装置の冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受装置の冷却構造において、前記内輪間座が、内輪間座本体と、この内輪間座本体の少なくとも前記転がり軸受の内輪と接触する端面を覆う覆い材とを有し、前記覆い材が前記内輪間座本体よりも機械加工性の良い材質である軸受装置の冷却構造。
【請求項3】
請求項1に記載の軸受装置の冷却構造において、前記内輪間座が、内輪間座本体と、この内輪間座本体の軸方向両端面に接合された端部材とを有し、この端部材は、前記内輪間座本体よりも機械加工性の良い材質である軸受装置の冷却構造。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の軸受装置の冷却構造において、前記内輪間座本体よりも機械加工性の良い材質は、外輪間座と同じ材質である軸受装置の冷却構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の軸受装置の冷却構造において、軸方向に並ぶ2列以上の軸受を備え、隣合う軸受の外輪間および内輪間に前記外輪間座および内輪間座がそれぞれ介在する軸受装置の冷却構造。
【請求項6】
請求項5に記載の軸受装置の冷却構造において、前記隣合う軸受がアンギュ玉軸受であって、背面組み合わせに配置された軸受装置の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受装置の冷却構造に関し、例えば、工作機械の主軸装置における軸受の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸装置では、加工精度を確保するために、装置の温度上昇は小さく抑える必要がある。しかしながら最近の工作機械では、加工能率を向上させるため高速化の傾向にあり、主軸を支持する軸受からの発熱も高速化と共に大きくなってきている。また、装置内部に駆動用のモータを組込んだいわゆるモータビルトインタイプが多くなってきており、装置の発熱要因ともなってきている。
発熱による軸受の温度上昇は、軸受の予圧の増加をもたらす結果となり、主軸の高速化、高精度化を考えると極力抑えたい。
【0003】
温度上昇により軸受の予圧が上がることを調整する機構としては、内輪間座を、主軸より熱伝導率が大きく、主軸の材料より比重の小さい材料で構成する「工作機械主軸軸受の予圧調整機構」( 特許文献1)が提案されている。
また、外輪間座に圧縮空気を内輪間座に向けて吐出するノズルを設けた「工作機械主軸用空冷間座付軸受」(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-19805号公報
【文献】特許第6144024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の提案は、外輪間座と内輪間座の熱膨張差により、軸受の予圧を軽減する技術であり、温度差が生じにくい低速域から中速域では、効果が発揮されにくい。
特許文献2の提案は、内輪間座に圧縮空気を吹き付けて冷却する技術であり、圧縮エアの供給量が多いと軸受冷却効果が増し、軸受の高速化、高剛性化に寄与する。しかし、その反面、より大きな容量を持つ圧縮機を採用しなければならず、工作機械の大形化やエネルギー消費量の増加を招くため、少ない圧縮エアで軸受を効率良く冷却する必要がある。また、特許文献2の空冷間座付軸受は、内輪間座を冷却することで隣接する軸受を冷却するが、その際、内輪間座の熱膨張は、空冷を実施しない場合に比べ小さい。また、通常、工作機械の主軸において、アンギュラ形式の転がり軸受は背面組合せで使用されるため、空冷間座が軸受の背面間にある場合は、内輪間座の熱膨張が小さい方が、予圧や軸受の軌道面の接触面圧が増大し、発熱しやすくなる。そのため、空冷の効果を得にくい。
【0006】
この発明の目的は、低速域から高速域まで、少ない圧縮エアで軸受を効率良く冷却することができ、また予圧の調整が行い易い軸受装置の冷却構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の軸受装置の冷却構造は、転がり軸受の外輪および内輪にそれぞれ隣接する外輪間座および内輪間座を有し、前記外輪間座に、前記内輪間座の外周面に向けて圧縮エアを吐出する空冷ノズルが設けられた軸受装置の冷却構造であって、
前記内輪間座は前記外輪間座に比べて、熱伝導率が高く、かつ軸方向の線膨張係数が高く、前記転がり軸受の予圧形式が定位置予圧である。
【0008】
この構成によると、外輪間座に設けた空冷ノズルより内輪間座の外周面に圧縮エアを吐出することで、内輪間座が冷却され、内輪間座における熱伝導で軸受が冷却される。このため、内輪間座に熱伝導率の高い材質を用いることで、冷却効果を上げることができる。特に、低速域から中速域では、少量の圧縮エアで軸受を冷却することができる。
また、定位置予圧形式であって、内輪間座の材質に外輪間座の材質よりも線膨張係数の高いものを使用することで、内輪間座は熱膨張しやすくなり、軸受の予圧や回転中の軸受の軌道面の接触面圧が低減でき、軸受の昇温をより抑えられる。この線膨張差による予圧や軌道面の接触面圧の低減は、高速域の場合に効果的である。
このように、外輪間座と内輪間座の熱膨張差、内輪間座の高熱伝導率、および空冷間座の技術を組み合わせることで、上記各課題は解消される。
【0009】
この発明において、前記内輪間座が、内輪間座本体と、この内輪間座本体の少なくとも前記軸受の内輪と接触する端面を覆う覆い材とを有し、前記覆い材が前記内輪間座本体よりも機械加工性の良い材質からなっていてもよい。
内輪間座の端面が機械加工性の良い材質の覆い材で覆われていると、内輪間座の端面の直角度と表面粗さを高精度に仕上げることができて、軸受の内輪と密接させることができる。そのため、熱伝導性の向上による冷却効果の向上が期待できる。
内輪間座は、熱伝導率が高い材質であることが必要であり、例えば銅やアルミが好ましいが、銅やアルミなど、熱伝導率が高い材質は一般的に軟質金属であるため、高精度に加工するには工数がかかる。この課題につき、内輪間座を熱伝導性に優れた内輪間座本体とその表面を覆う材料とで構成することで、内輪間座内部での熱伝導性の向上と、加工精度の向上による密着性の向上による接触部での熱伝導性の向上とが両立され、冷却効果をより高めることができる。
【0010】
この発明において、前記内輪間座が、内輪間座本体と、この内輪間座本体の軸方向両端面に接合された端部材とを有し、この端部材は、前記内輪間座本体よりも機械加工性の良い材質からなるようにしてもよい。
この構成の場合も、内輪間座内部での熱伝導性の向上と、加工精度の向上による密着性の向上による接触部での熱伝導性の向上とが両立され、冷却効果をより高めることができる。
【0011】
前記内輪間座における、前記内輪間座本体よりも機械加工性の良い材質は、外輪間座と同じ材質であってもよい。
外輪間座は冷却ノズルの形成等のために鋼材等の機械加工性の良い材質が用いられる。そのため、内輪間座における機械加工性の良い材料に外輪間座と同じ材質を用いることができる。
【0012】
この発明において、軸方向に並ぶ2列以上の軸受を備え、隣合う軸受の外輪間および内輪間に前記外輪間座および内輪間座がそれぞれ介在していてもよい。
例えば、前記隣合う軸受がアンギュ玉軸受であって、背面組み合わせに配置されていてもよい。
2列以上の軸受の場合に、内輪間座の線膨張係数を高くしたことによる予圧の調整効果が良好に得られる。
特に、軸受が背面組み合わせに配置されたアンギュ玉軸受の場合、内輪間座の線膨張係数を高くしたことによる予圧の調整効果がより良好に得られる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の軸受装置の冷却構造は、転がり軸受の外輪および内輪にそれぞれ隣接する外輪間座および内輪間座を有し、前記外輪間座に、前記内輪間座の外周面に向けて圧縮エアを吐出する空冷ノズルが設けられた軸受装置の冷却構造であって、前記内輪間座は前記外輪間座に比べて、熱伝導率が高く、かつ軸方向の線膨張係数が高く、前記転がり軸受の予圧形式が定位置予圧であるため、少ない圧縮エアで軸受を効率良く冷却することができ、また予圧の調整が行い易い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の第1の実施形態に係る軸受装置の冷却構造の一部を示す部分縦断面図である。
図2】同軸受装置の間座部分の横断面図である。
図3】同軸受装置を備えた工作機械の主軸装置の縦断面図である。
図4】この発明の他の実施形態に係る軸受装置の冷却構造の一部を示す部分縦断面図である。
図5】この発明のさらに他の実施形態に係る軸受装置の冷却構造の一部を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の第1の実施形態に係る軸受装置の冷却構造を図1ないし図3と共に説明する。この例の軸受装置の冷却構造は、工作機械の主軸装置や、他の種々の装置に適用される。
図1に示すように、この軸受装置は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受1,1の外輪2、2間および内輪3、3間に、外輪間座4および内輪間座5をそれぞれ介在させている。外輪間座4と内輪間座5とで間座装置14が構成される。外輪2および外輪間座4が図3のようにハウジング6に設置され、内輪3および内輪間座5が回転軸7に嵌合される。
図3は、この軸受装置の冷却構造を備えた工作機械の主軸装置の、例えばフロント側となる一部の断面図である。前記回転軸7は、この主軸装置の主軸である。
【0016】
各転がり軸受1,1は、アンギュラ玉軸受であり、背面組合せで設置されている。内輪外径面および外輪内径面における接触角の反偏り側に、それぞれカウンタボアが設けられている。内輪3のカウンタボアは、内輪端面側から軌道面側に向かうに従って、大径となるように傾斜する傾斜面3aに形成されている。内外輪3、2の軌道面間に複数の転動体8が介在され、これら転動体8が保持器9により円周等配に保持される。保持器9は外輪案内形式のリング形状である。
【0017】
転がり軸受1,1の予圧構造につき説明する。
2列の転がり軸受1,1のうち、ハウジング6の内側(図の右側)の転がり軸受1における外輪2は、ハウジング6の内周面に設けられた段差部6aに側面が係合する。ハウジング6の端面側の転がり軸受1における外輪2は、ハウジング6の端面にボルト等で固定されたリング状の蓋部材17の側面に係合する。
2列の転がり軸受1,1のうち、回転軸7の中央側の転がり軸受1における内輪3は、外輪7の外周に嵌合して位置固定された内側スリーブ26の端面に係合する。ハウジング6の端面側の転がり軸受1における内輪23、ハウジング6の端面の外周に設けられた端部側スリーブ27の端面に係合する。回転軸7の端部の外周面は雄ねじ部7aに形成され、雄ねじ部7aに螺合するナット部材28により、前記端部側スリーブ27が軸方向の内側に押しつけらている。
このように、両列の転がり軸受1,1が外輪間座4および内輪間座5を挟んで配置され、両列の転がり軸受1,1の外輪2,2および内輪3,3がハウジング6および回転軸7に位置固定されることで、転がり軸受1,1は定位置予圧されている。
【0018】
冷却構造について説明する。
外輪間座4は、中央の外輪間座本体24と、一対の潤滑ノズル構成部材25,25とでなる。外輪間座本体24は断面略T字形状に形成され、外輪間座本体24の内径側における両側部に、前記一対の潤滑ノズル部材25,25がそれぞれ嵌め込み状態に接合され、左右対称形状の外輪間座4を構成する。外輪間座本体24および潤滑ノズル構成部材25,25は、いずれもリング状である。
外輪間座本体24に、内輪間座5の外周面に向けて圧縮エアを吐出する1個または複数個(この例では3個)の空冷ノズル10が設けられている。これら空冷ノズル10のエア噴出方向は、図2のように、主軸7の回転方向L1の前方へ傾斜させている。これら複数個の空冷ノズル10は円周等配に配設されている。
各空冷ノズル10は、それぞれ直線状である。空冷ノズル10は、外輪間座4の軸心に垂直な断面における任意の半径方向の直線L2から、この直線L2と直交する方向にオフセットした位置に設けることで、前記傾斜を生じさせている。ノズル10を傾斜させる理由は、吐出エアを主軸7の回転方向に旋回流とするためである。
【0019】
図3において、外輪間座本体24の外周面には、冷却エアである圧縮エアを導入する導入溝11が設けられている。この導入溝11は、外輪間座4の外周面における軸方向中間部に設けられ、かつ、図2に示すように、各ノズル10に連通する円弧状に形成されている。導入溝11は、外輪間座本体24の外周面において、エアオイル供給孔(図示せず)が設けられる円周方向位置を除く円周方向の大部分を占める角度範囲α1(図2参照)にわたって設けられている。
圧縮エアの導入経路は、軸受潤滑用のエアオイルとは独立経路で構成される。よって図3に示すように、ハウジング6に冷却エア用供給孔13が設けられ、この冷却エア用供給孔13に導入溝11が連通するように構成されている。ハウジング6の外部には、冷却エア用供給孔13に圧縮エアを供給する図示外の供給装置が配管接続されている。
【0020】
冷却作用につき説明する。
外輪間座4の空冷ノズル10から内輪間座5の外周に圧縮空気を吹き付ける。これにより、内輪間座5が冷却され、熱伝導によって転がり軸受1の内輪3が冷却される。空冷ノズル10は上記のように回転方向前方に傾けられているため、吐出エアが主軸7の回転方向に旋回流として作用し、冷却効果が向上する。
【0021】
潤滑構造について説明する。
外輪間座4は、転がり軸受1内にそれぞれエアオイルを供給する潤滑用ノズル16を有する。外輪間座4の前記両側の潤滑ノズル構成部材25,25は、転がり軸受1内に突出して内輪3の前記傾斜面3aに隙間δを介して対向する環状の鍔部23を有していて、この鍔部23内の円周方向の1箇所または複数箇所に前記潤滑用ノズル16が形成されている。内輪3の前記傾斜面3aには環状溝3aaが設けられ、前記潤滑用ノズル16は、環状溝3aaに向けてエアオイルを吐出するように設けられている。
【0022】
潤滑用ノズル16の入口部は、ハウジング6に設けられたエアオイル供給孔(図示せず)に連通し、このエアオイル供給孔に設けられた図示外のエアオイル供給装置からエアオイルが供給される。
【0023】
排気構造について説明する。
この軸受装置には、潤滑用のエアオイルを吐出するエアオイル排気路19が設けられている。このエアオイル排気路19は、外輪間座4の外輪間座本体24における円周方向の一部に設けられた排気溝20と、ハウジング6に設けられ排気溝20に連通するハウジング内排気溝21と、ハウジング6内で軸方向に延びるハウジング内排気孔22とで構成される。
【0024】
間座装置14の材質、加工精度等につき説明する。
この間座装置14は、内輪間座5が外輪間座4に比べて、熱伝導率が高く、かつ軸方向の線膨張係数が高い特性を有している。
外輪間座4の材質は、次の理由より炭素鋼などが良い。
・炭素鋼は機械加工性に優れているため、空冷ノズル10などの複雑な形状を加工する上で好ましい。
・コスト、入手性が良い。
内輪間座5の材質は、次の理由より銅やアルミニウムが良い。
・圧縮エアによる冷却効果を上げるためには、熱伝導率が高い材質にする必要がある。 ・内輪間座5と外輪間座4との熱膨張差を利用し、転がり軸受1の予圧を軽減させるためには、内輪間座5は線膨張係数が外輪間座4よりも高い材質にする必要がある。
・コスト、入手性が良い
【0025】
内輪間座5の加工精度については、冷却効率を上げるために次のように、端面の直角度と表面粗さを高精度に仕上げることが好ましい。これにより、内輪間座5の端面を転がり軸受1の内輪3の端面と密接させることができ、熱伝導性が向上して冷却効果の向上が期待できる。
【0026】
以上より、内輪間座5は、熱伝導率が100W/m ・k 以上であり、内輪間座5の端面の直角度は、内輪間座5の内周面に対し、5μm 以下であり、表面粗さはRa1.0μm 以下であり、線膨張係数が15×10-6以上であることが望ましい。
また、予圧が付加されている状態の転がり軸受1に対し、内輪間座5を円滑に膨張させるためには、内輪間座5のヤング率も重要となり、60GPa 以上が望ましい。
【0027】
作用、効果につき説明する。
外輪間座4に設けた空冷ノズル10より内輪間座5の外周面に圧縮エアを吐出することで、内輪間座5が冷却され、内輪間座5における転がり軸受1の内輪3への熱伝導で、転がり軸受1が冷却される。このため、内輪間座5に熱伝導率の高い材質を用いることで、冷却効果を上げることができる。特に、低速域から中速域では、少量の圧縮エアの軸受1を冷却することができる。
また、定位置予圧形式であって、内輪間座5の材質に外輪間座4の材質よりも線膨張係数の高いものを使用しているため、内輪間座5は熱膨張しやすくなり、転がり軸受1の予圧や回転中の転がり軸受1の軌道面の接触面圧が低減でき、転がり軸受の昇温がより抑えられる。この線膨張差による予圧や軌道面の接触面圧の低減は、高速域の場合に効果的である。特に、転がり軸受1,1が背面組み合わせの場合により効果的である。
【0028】
なお、熱の影響による各間座4,5の軸方向の延伸は、次式、
ΔL=a×L×(T2-T1)
で求めることができる。
ここで、
ΔL:熱の影響による間座の軸方向の延伸、
a:線膨張係数、
L:間座幅寸法、
T1:初期の温度、T2:変化後の温度
上式のように、線膨張係数a以外に、温度差(T2-T1)、間座幅寸法Lの影響も受ける。高速域で温度差が生じやすい条件や間座幅寸法Lが長い場合、内輪間座5に線膨張係数が高い材質を用いれば、より大きく内輪間座5と外輪間座4との膨張差が生じる。
【0029】
内輪間座5の端面の直角度や表面粗さは、上記のように冷却効果の向上のためには高精度であることが好ましい。しかし、熱伝導率が高く、かつ線膨張係数が高いことから内輪間座5に好ましい材質である銅やアルミニウムは、軟質金属であるため、加工性は良くない。高精度に加工するためには、工数がかかる。
そのため、内輪間座5は、銅やアルミニウムを主体とし、精度が必要な面に炭素鋼を用いた構成としてもよい。これにより加工性が上がる。ただしその場合、銅やアルミニウムの効果を低減させないために、内輪間座5の断面に対し、80%以上を銅やアルミニウムなどの軟質金属にすることが望ましい。
【0030】
内輪間座5を、銅やアルミニウムを主体とし、精度が必要な面に炭素鋼を用いる構成としては、次の図4および図5の各実施形態が採用できる。これらの実施形態において、特に説明する事項の他は、第1の実施形態と同様である。
図4の実施形態は、内輪間座5が、内輪間座本体5aと、この内輪間座本体5aの少なくとも転がり軸受1の内輪3と接触する端面を覆う覆い材5bとを有し、この覆い材5bが、内輪間座本体5aよりも機械加工性の良い材料からなっている。
内輪間座本体5aは、銅またはアルミニウムからなり、覆い材5bは炭素鋼等の加工性の良い材料からなる。覆い材5bは、例えば外輪間座4と同じ材質とされる。
【0031】
覆い材5bは、内周面における円周方向の複数箇所に軸方向に延びる嵌合溝5baaが形成された環状の覆い材本体5baと、環状の蓋材5bbとでなり、覆い材本体5baの各嵌合溝5baaに、円周方向に分割された内輪間座本体5aの各分割体が嵌合している。この嵌合により、内輪間座本体5aの各分割体の周方向への動きが阻止されている。蓋材5bbは、覆い材本体5baの嵌合溝開口側の端面に被せられ、ビン29を蓋材5bbおよび内輪間座本体5aに渡って設けられたピン孔に圧入することなどで固定されている。
このように内輪間座5を、内輪間座本体5aと覆い材5bとで構成することで、銅やアルミニウムを主体とし、精度が必要な面に炭素鋼を用いた構成とすることができる。
【0032】
図5の実施形態は、内輪間座5が、環状の内輪間座本体5cと、この内輪間座本体5cの軸方向両端面に接合された環状の端部材5d,5dとを有する。内輪間座本体5cは、銅またはアルミニウム等からなり、端部材5d,5dは、内輪間座本体5cよりも機械加工性の良い材料、例えば炭素鋼からなる。内輪間座本体5cと端部材5d,5dとの接合は、接着剤等による接着、ピン等の止め具による固定、圧接などで行われる。
このように内輪間座5を、内輪間座本体5cと端部材5d,5dとで構成した場合も、銅やアルミニウムを主体とし、精度が必要な面に炭素鋼を用いた構成とすることができる。
【0033】
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、ここで開示した実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0034】
1…転がり軸受
2…外輪
3…内輪
4…外輪間座
5…内輪間座
5a,5c…内輪間座本体
5b…覆い材
5d…端部材
6…ハウジング
7…回転軸
8…転動体
9…保持器
10…空冷ノズル
16…潤滑用ノズル
図1
図2
図3
図4
図5