(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】凝血塊の圧力ベース検出のための装置、システム、及び方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20220629BHJP
A61M 60/113 20210101ALI20220629BHJP
A61M 60/37 20210101ALI20220629BHJP
A61M 60/508 20210101ALI20220629BHJP
【FI】
A61M1/36 153
A61M60/113
A61M60/37
A61M60/508
(21)【出願番号】P 2018520540
(86)(22)【出願日】2016-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2016001762
(87)【国際公開番号】W WO2017067668
(87)【国際公開日】2017-04-27
【審査請求日】2019-10-21
(31)【優先権主張番号】102015013610.0
(32)【優先日】2015-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ティス マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ノアック ヨアヒム
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-083091(JP,A)
【文献】実開昭62-004346(JP,U)
【文献】特表2007-512057(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/274172(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/14 ー 1/38
A61M 60/00 ー 60/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外血液回路内の凝血塊の圧力ベースの検出のための装置であって、
前記体外回路内に配置された流体を搬送する少なくとも1つの周期的に作動するポンプ(B)と、
前記ポンプ(B)の現在の搬送サイクルで前記ポンプ(B)によって搬送された前記流体における現在の圧力曲線(1)を経時的に決定するように配置される少なくとも1つの圧力センサ(P)と、
前記ポンプ(B)の前記現在の搬送サイクルに先行する前記ポンプ(B)の搬送サイクルで決定された経時的な少なくとも1つの圧力曲線(2)に基づく、少なくとも1つの基準圧力曲線(3)を記憶する少なくとも1つのメモリと、
前記現在の圧力曲線(1)を、対応する時間にわたって前記基準圧力曲線(3)と比較するように構成される少なくとも1つの評価ユニット(E)を備えており、
前記装置は、前記ポンプ(B)の搬送部材の位置を検出する少なくとも1つのセンサを有し、前記センサは、前記現在の圧力曲線(1)と前記基準圧力曲線(3)との間の対応する時間において比較するために前記評価ユニット(E)に接続されている、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記装置の前記評価ユニット(E)又は別のユニットは、前記現在の圧力曲線(1)が前記基準圧力曲線(3)に到達するか又は前記基準圧力曲線(3)を超えたときに少なくとも1つの措置を実行するように構成されている、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ポンプ(B)は、周期的な圧力曲線が前記ポンプによって搬送される前記流体をもたらすように周期的に変動する搬送速度を有するポンプである、
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記基準圧力曲線(3)は、前記現在の圧力曲線(1)に対して位相シフトした圧力曲線(2)に基づくこと、及び/又は、前記基準圧力曲線(3)は、前記現在の圧力曲線(1)の直前の前記圧力曲線(2)及び/又はさらに過去における圧力曲線(2)に基づいている、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記基準圧力曲線(3)は、前記ポンプ(B)の先行する搬送サイクルで決定された圧力曲線(2)に、前記圧力曲線(2)に関する補足値をプラスして形成される、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記体外回路は、少なくとも1つの動脈ライン(A)及び少なくとも1つの静脈ライン(V)を有し、前記圧力センサ(P)は、前記動脈ライン(A)及び/又は前記静脈ライン(V)に配置されている、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
凝血塊捕捉器(C)は、前記圧力センサ(P)が配置される前記動脈ライン(A)又は前記静脈ライン(V)に配置されないか、又は、凝血塊捕捉器は、前記動脈ライン(A)及び/又は前記静脈ライン(V)に配置されている、
請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記評価ユニット(E)又は前記別のユニットは、措置として、前記体外回路内に配置された少なくとも1つの弁(F)を閉じる、及び/又は、前記ポンプ(B)を停止する、及び/又は、前記装置のユーザーに信号を出力するように構成されている、
請求項2に記載の装置。
【請求項9】
前記体外回路を有する少なくとも1つの血液処理ユニットを備え、請求項1から8のいずれか1項に記載の凝血塊の圧力ベースの検出のための少なくとも1つの装置を備えている、
システム。
【請求項10】
前記体外回路は、前記体外回路を患者に接続する少なくとも1つのコネクタ(A1、A2)を備えている、
請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記血液処理ユニットが、血液濾過ユニット、血液透析ユニット、血液透析濾過ユニット、血液成分分離ユニット、又は薬治療用装置である、
請求項9又は10に記載のシステム。
【請求項12】
凝血塊の圧力ベースの検出のための方法であって、
少なくとも1つのポンプ(B)によって実行される血液処理ユニットの体外回路から流体を周期的に搬送するステップを含み、
前記ポンプ(B)の現在の搬送サイクルにおいて、現在の圧力曲線(1)は、前記ポンプ(B)によって搬送された前記流体において経時的に決定され、
前記ポンプ(B)の搬送部材の位置を検出し、
前記検出した前記ポンプ(B)の搬送部材の位置を用いて、前記現在の圧力曲線(1)は、基準圧力曲線(3)と対応する時間にわたって比較され、
前記基準圧力曲線(3)は、前記現在の圧力曲線(1)に先行する前記ポンプ(B)の少なくとも1つの搬送サイクルで測定された経時的な前の圧力曲線(2)に基づく、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
少なくとも1つの措置は、前記現在の圧力曲線(1)が前記基準圧力曲線(3)に到達するか又は前記基準圧力曲線(3)を超えたときに実行される、
請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記ポンプ(B)は、前記方法を実行するために前記ポンプ(B)が前記血液処理中に動作する方向とは反対の方向に作動される、
請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記体外回路は、少なくとも1つの動脈ライン(A)及び少なくとも1つの静脈ライン(V)を有し、前記圧力測定は、前記動脈ライン(A)及び/又は前記静脈ライン(V)において行われる、
請求項12ないし14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記措置は、前記体外回路の遮断及び/又は前記ポンプ(B)の停止及び/又はユーザーへの信号の出力である、
請求項1
3に記載の方法。
【請求項17】
前記体外回路から搬送され、圧力曲線が測定される前記流体は、凝血塊捕捉器(C)を通って導かれない、
請求項12ないし16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記基準圧力曲線(3)は、前記現在の圧力曲線(1)に対して位相シフトされた圧力曲線に基づくこと、及び/又は、前記基準圧力曲線(3)は、前記ポンプの先行する搬送サイクルにおいて決定された圧力曲線(2)に前記圧力曲線(2)に関する補足値をプラスしたものから形成されている、
請求項12ないし17のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝血塊の圧力ベース検出のための装置、及び少なくとも1つの当該装置を有するシステムに関し、システムは、少なくとも1つの体外回路を有する少なくとも1つの血液処理ユニットを備え、体外回路内に位置する流体を搬送するために、少なくとも1つの周期的に作動するポンプが協働する。
【0002】
さらに、本発明は、凝血塊の圧力ベース検出方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、血液濾過ユニット、血液透析濾過ユニット、及び血液透析ユニットなどの血液治療装置は、体外回路内に凝血塊捕捉器を備えることが知られており、凝血塊捕捉器は、血液を体外回路から患者に注入する前に血液を濾過によって危険なほど大きい凝血塊から遊離させることを目的としている。
【0004】
凝血塊捕捉器の使用は、明らかに、このような凝血塊が患者の血液回路へ進入するのを防止する利点をもたらすが、血流中の凝血塊捕捉器自身が血液に悪影響を与えるという欠点がある。血流が凝血塊捕捉器に衝突する際に乱流が生じる。この乱流に起因して、血液中で物理的及び生化学的プロセスが始まり、これは、血液の凝固が活発になる又は血球が破壊されるという影響を与える可能性がある。血液が凝固すると、凝塊が凝血塊捕捉器の下流側で生じることがあり、凝塊は血管を詰まらせるか又は血液が血管を通って流れるのを妨げ、患者に危険をもたらす可能性がある。
【0005】
血球の破壊が発生した場合(溶血)、血液は、もはや生体内でその機能を十分に果たすことができず、同様に患者に危険な状況をもたらす可能性がある。
【0006】
凝血塊捕捉器は、利点がその欠点を上回るので通常使用されている。
【0007】
従来の血液処理の枠内では、血液は、体外回路の動脈ラインを介して体外回路に吸い込まれ、体外回路内で、例えば、透析装置内などで処理されて、静脈ラインを介して患者の静脈へ注入される。この場合、凝血塊捕捉器は、静脈ライン内、すなわち血液が再び患者に供給される体外回路のラインセクション内に設けられることが知られている。
【0008】
血液処理後に体外回路内に位置する血液を患者に戻すために、この血液の返血が体外回路から患者へ行われる。この点において、血液処理後に体外回路内に依然として位置する血液は、置換流体による置き換えによって体外回路の動脈ライン及び静脈ラインの両方を介して患者に運ばれることが知られている。
【0009】
従って、血液のこの返血の間に血流の方向に対する逆流が動脈ライン内で発生し、これは血液処理の後に続き、血液処理に対して時間が非常に短い。また、凝血塊捕捉器が動脈ライン内に設けられる場合、これは、返血の枠内で、危険なほど大きい凝血塊が患者の血液循環に再び入ることを明らかに防止できるという利点を有することになる。しかしながら、凝血塊捕捉器は、血液中の乱流の生成に関する、従って凝血塊捕捉器の下流側での凝血塊形成に関する、又は溶血に関する、比較的長い処理時間中の上記の欠点を有することになる。この背景に照らして、凝血塊捕捉器は、体外回路の動脈ラインでは使用されていない。
【0010】
国際公開第2013/000777号には、体外回路内の圧力信号の測定が開示されている。測定された重畳圧力信号を特定するために、この圧力信号から血液ポンプで生じた圧力信号をフィルタで除去する。独国公開第24 41 210号の方法が知られており、周期的な方法で、患者から体外回路に血液を移動させるときに静脈ラインを遮断し、体外回路から患者に血液を供給するときに動脈ラインを遮断して、サイクルの長さから何らかの不規則性に関する結論を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2013/000777号
【文献】独国公開第24 41 210号
【文献】独国公開第10 2009 024 606号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の基本的な目的は、回路からの返血の枠内で患者への凝血塊の進入を検出することができる装置、システム、及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1の特徴を有する装置、請求項10の特徴を有するシステム、及び請求項14の特徴を有する方法によって達成される。
【0014】
従って、装置は、体外回路内に位置する流体を搬送する少なくとも1つの周期的に作動するポンプと、ポンプの現在の搬送サイクルでポンプによって搬送された流体における現在の圧力曲線を経時的に決定するように配置される少なくとも1つの圧力センサとを備え、装置は、ポンプの現在の搬送サイクルに先行するポンプの搬送サイクルで決定された経時的な少なくとも1つの圧力曲線に基づく、少なくとも1つの基準圧力曲線を記憶した少なくとも1つのメモリを有し、装置は、現在の圧力曲線を、対応する時間にわたって基準圧力曲線と比較するように構成される少なくとも1つの評価ユニットを備える。
【0015】
「周期的に作動するポンプ」は、搬送性能、及び/又は、搬送性能によってもたらされた搬送流体における圧力曲線が、時間的に一定ではなく、好ましくは、動作サイクル内で時間的に連続して変わるポンプと理解されたい。好ましくは、ポンプは、連続的な期間又はサイクルでポンプ送給すると理解される。
【0016】
装置は、経時的に過去の圧力曲線に基づく少なくとも1つの基準圧力曲線を記憶する少なくとも1つのメモリをさらに有する。この過去の圧力曲線は、現在の圧力曲線に先行するポンプの少なくとも1つの搬送サイクルにおけるポンプによって搬送された流体における、圧力センサによって決定されたものである。
【0017】
少なくとも1つの措置は、現在の圧力曲線が基準圧力曲線に到達するか又は基準圧力曲線を超えるたきに評価ユニットによって開始できるようにされることが好ましい。
【0018】
「対応する時間にわたる比較」は、基準圧力曲線の対応する時点が現在の圧力曲線の対応する時点と比較されるものと理解されたい。従って、圧力は、例えば、基準圧力曲線の時点t=10秒で現在の圧力曲線の同じ時点(t=10秒)と比較される。このプロセスにおいて、現在の圧力曲線の値が基準圧力曲線の値に到達するか又は基準圧力曲線の値を超えることが見出された場合、評価ユニットは、例えば、体外回路の弁の閉鎖による血液返血の停止、指定されたポンプの停止など、少なくとも1つの措置を開始できるようにされることが好ましい。
【0019】
危険を引き起こすサイズの凝血塊は、有効な流量断面を低減し、体外回路から患者に搬送する場合に患者コネクタ又は患者コネクタに接続された針を目詰まりさせる可能性がある。結果的に生じる圧力上昇が検出されると、好ましい措置として、搬送は、凝血塊が患者の血液循環に入ることを防止するために直ちに停止される。凝血塊は機械的に柔らかいので、特定の状況では、その前方に位置する狭窄部よりも少しだけ大きい凝血塊は、患者コネクタを通過するか、又は患者コネクタに接続された針を通過し、随意的に1秒足らずで管状器官に入る可能性がある。本発明による圧力監視は、凝血塊によって引き起こされた圧力変化を検出し、その後、対応する措置を取るのに十分に敏感である。
【0020】
ホースローラーポンプなどの周期的に作動するポンプの搬送挙動は経時的に均一ではないので、一定の圧力制限に対する監視は、感度が低すぎるために一時的に停止する。
【0021】
周期的に作動するポンプによって経時的に引き起こされる、搬送媒体(血液、置換流体、又はこの2つの混合物)の不均一な流量は、ホースローラーなどの搬送に関与する要素が起動されるたびに周期的に繰り返され、ホースローラーは移動距離にわたって体外回路のホースの一部を圧迫し、結果的に流体の搬送に影響を与える。
【0022】
本発明による装置又はシステム又は方法は、凝血塊によって引き起こされた圧力上昇を迅速に検出することができるように、その都度、現在実行中のサイクルの現在の圧力曲線を基準圧力曲線と比較することができることを基本としている。
【0023】
好ましくは、周期的に作動するポンプに関するある期間又は一部期間を包含する全ての圧力曲線のうちの一部領域は、基準圧力曲線と比較される。
【0024】
ポンプは、例えば、蠕動ポンプ又はホースローラーポンプとすることができる。しかしながら、本発明は、周期的に作動する他のポンプもカバーする。時間推移で脈動する、又は周期的圧力曲線を有する、又は周期的に変動する搬送速度を有する全てのポンプ、すなわち均一に搬送しないポンプをカバーする。このようなポンプの更なる実施例は、膜ポンプである。
【0025】
好ましくは、基準圧力曲線は、現在の圧力曲線に対して位相シフトされた圧力曲線に基づく。従って、例えば、ポンプの半回転の間に圧力曲線を測定し、これを基準圧力曲線として、随意的に次の半回転のための補足値と共に使用することが考えられている。好ましくは、現在の搬送サイクルの圧力が基準値曲線又は閾値曲線を越えた場合又はこれらに到達した場合、ポンプが閉鎖される、弁が閉じられる、及び/又はアラームがトリガーされるなどの1又は2以上の措置は実行される。
【0026】
好ましくは、基準圧力曲線は、現在の圧力曲線の直前の圧力曲線に基づいて決定される。従って、比較的小さなデータ記憶エフォート(effort)だけが必要である。
【0027】
一般に、基準圧力曲線は、過去、すなわち任意の所望の時点での現在の圧力曲線に先行した圧力曲線からの圧力曲線とすることができる。好ましくは、基準圧力曲線は、搬送ポンプの直前の期間又は一部期間における圧力曲線などの現在の圧力曲線の直前の圧力曲線、又は搬送ポンプの以前の期間又は一部期間、すなわち時間的に更に遡って定められた期間又は一部期間において決定された圧力曲線又はその一部のうちの1又は2以上の圧力曲線である。
【0028】
結果的に回転当たり2つのほぼ同じ搬送サイクルを有するポンプを含む2ホースローラーが想定される場合、このことは、常に、現在の圧力曲線が、ポンプの先行する半回転の間に決定された先行する圧力曲線と比較するだけでよいことを意味することになる。
【0029】
結果的に、膜ポンプのように1回転当たり2回の搬送サイクルを有するポンプだけでなく、周期的に作動するポンプなど連続的に搬送しない全ての他のポンプについても同様である。
【0030】
発明のさらなる実施形態において、基準圧力曲線は、ポンプの先行する搬送サイクルで決定された圧力曲線に、この圧力曲線に関する補足値をプラスして形成できるようにされる。
【0031】
絶対的な補足値又は相対的な補足値をこの測定された圧力曲線に追加することが考えられる。基準圧力曲線は、圧力曲線を5~50%だけ持ち上げることで形成されることが考えられる。この補足値は、ポンプの搬送成分の間の小さな差異では間違った警報が発生されないという利点をもたらす。
【0032】
本発明のさらなる実施形態において、体外回路は、少なくとも1つの動脈ライン及び少なくとも1つの静脈ラインを有し、圧力センサは、動脈ライン及び/又は静脈ライン内に配置することができるようにされる。
【0033】
好ましくは、圧力センサは動脈ライン内に配置されている。好ましくは、圧力センサは静脈ライン内に配置されない。好ましい実施形態において、むしろ、凝血塊捕捉器は動脈ライン以外に配置される。
【0034】
本発明は、凝血塊捕捉器が配置されないように構成することもできる。また、本発明は、一般的に、凝血塊捕捉器を動脈ライン及び静脈ラインの両方に又はこれらのラインの一方にのみに配置することを想定すること及びカバーすることができる。
【0035】
本発明は、一般的に、動脈ライン、又は静脈ライン、又は動脈ライン及び静脈ラインの両方で使用することができる、本発明はこれらの実施形態の全てをカバーする。
【0036】
本発明のさらなる実施形態において、評価ユニットは、措置として、凝血塊が前方へ搬送されず患者の血液循環に入らないように、例えば、体外回路内の弁を閉じるように及び/又はポンプを停止するように構成される。
【0037】
代替的に又は付加的に、警報信号などの信号をユーザーに出力することができ、これは、凝血塊の存在を知らせる。
【0038】
本発明は、さらに請求項10の特徴を有するシステムに関する。システムは、本発明による少なくとも1つの装置を備え、好ましくは、体外回路を患者に接続することができる少なくとも1つのコネクタを有する少なくとも1つの体外回路を含む。体外回路内に位置する流体を搬送する装置の少なくとも1つの周期的に作動するポンプは、体外回路と協働する。
【0039】
システムは、血液治療装置によって形成すること又は血液治療装置を備えることができる。前者の場合、システムの構成要素は、血液治療装置の要素であり、後者の場合、システムの少なくとも1つの構成要素は、血液治療装置の要素ではなくて、むしろ外部ユニットによって形成される。
【0040】
血液処理ユニットは、例えば、血液濾過ユニット、血液透析ユニット、血液透析濾過ユニット、血液成分分離ユニット、又は薬治療用装置とすることができる。
【0041】
本発明は、さらに、請求項1から9のいずれかに記載の装置での使用、又は請求項10から12のいずれかに記載のシステムでの使用が意図された適切なホースセットに関する。
【0042】
ホースセットは、体外回路又はそのセクションを形成し、ホースセットは、体外回路を患者に接続する少なくとも1つのコネクタを備え、ホースセットは、動脈ライン及び静脈ラインを有し、凝血塊捕捉器は、静脈ライン内に配置されない、又は凝血塊捕捉器は、動脈ライン内に配置されない、又は凝血塊捕捉器は、いずれのライン内にも配置されない。従って、ホースセットは、凝血塊捕捉器なしに形成することができる。
【0043】
本発明は、さらに請求項14の特徴を有する方法に関する。
【0044】
本発明による方法によれば、ポンプによって搬送された流体の現在の圧力曲線は、ポンプの現在の搬送サイクルにおいて経時的に決定することができるようにされる。この現在の圧力曲線は、指定された基準圧力曲線と比較される。前述したように、少なくとも1つの措置は、現在の圧力曲線が基準圧力曲線を超えるか又は基準圧力曲線に到達したときに開始される。
【0045】
この点に関して、好ましくは、体外回路の動脈部に配置されたポンプは、この方法を実行するために、血液治療中に通常の搬送方向と反対の方向に動作することができるようにされる。従って、動脈ライン内の流体は、コネクタから離れて搬送されず、コネクタの方に搬送される。
【0046】
前述したように、圧力測定は、動脈ライン及び/又は静脈ラインで行われる。圧力測定は、凝血塊捕捉器が配置されないラインで行うことが好ましい。
【0047】
指定された措置は、1又は2以上の弁による体外回路の遮断、ポンプの停止、アラームなどのユーザーへの信号の出力、又は複数のこれらの措置とすることができる。
【0048】
好ましくは、体外回路から搬送される流体、すなわち血液、流体、及び置換流体の混合物又は置換流体自体は、動脈側の凝血塊捕捉器を通って導かれ得ないようにされる。
【0049】
基準圧力曲線は、現在の圧力曲線に対して位相シフトされた圧力行程に基づくことができる。基準圧力曲線は、ポンプの先行する搬送サイクルで決定された圧力曲線にこの圧力曲線に関する補足値をプラスして形成することができる。
【0050】
従って、本発明の好適な実施形態において、本発明は、凝血塊捕捉器を使用するに及ばない、体外血液回路から患者に戻る血液の返血のためのシステム又は方法に関する。圧力値の上昇が凝血塊の拡大に起因して発生する場合、圧力監視によって、ホースクランプの閉鎖として理解されるポンプ停止又は弁閉鎖などの対抗策が開始されることが保証される。
【0051】
本発明の好適な実施形態において、体外血液回路内のホースポンプに起因して変調されかつ半回転だけ位相シフトされた圧力曲線は、本発明による基準圧力曲線として又は圧力監視の限界曲線として使用される。
【0052】
本発明のさらなる詳細及び利点は、図面に描かれた実施形態を参照してさらに詳細に説明することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】体外血液回路を有する血液処理ユニットの単純化された概略図である。
【
図2】体外血液回路を有する血液処理ユニットのさらなる図である。
【
図3】複数の搬送サイクルの経時的な圧力曲線の図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図は、参照記号(A1)によって、血液処理中に血液がポンプBによって動脈ラインAに流入する、体外血液回路の動脈患者接続部を示す。血液は、処理中にポンプBによって、この動脈患者接続部を通って、透析装置とすることができる処理装置Dの方向に圧送される。処理装置は、置換流体を供給することができる。処理後、血液は、矢印の方向に従って、凝血塊捕捉器Cを通って静脈ラインVを介して静脈患者接続部A2に移動する。
【0055】
参照記号Fは、動脈ラインAを遮断可能な電動式クランプを示す。
【0056】
参照番号Pは、このクランプFと血液ポンプBとの間に配置された圧力センサを示す。
【0057】
評価ユニットは、参照記号Eで表記されており、圧力センサの出力信号及び出力信号αを供給する回転角センサから、凝血塊によって引き起こされる可能性がある圧力上昇が存在するか否かを判定する。圧力が上昇した場合、クランプFを直ちに閉じる。
【0058】
血液処理後の体外血液回路からの血液の返血中、血液は、処理装置から搬送されて患者接続部A1及びA2を介して患者に戻される。
【0059】
この目的のために、ポンプBは、通常とは反対の方向に(ここでは時計回りに)作動する。この結果、血液又は置換流体は、処理中のように接続部A1からポンプBではなく、逆にポンプBから接続部A1に搬送される。静脈ラインV内の血液は、同様に患者に戻され、実際には置換流体による置き換えによって接続部A2を介して戻される。従って、静脈側では血液処理中の流れ方向と比べると流れ方向は変化しない。
【0060】
図1からわかるように、凝血塊捕捉器Cは静脈ラインVにのみに配置されている。従って、接続部A2を通る患者への凝血塊の供給は、体外回路の静脈側では起こらないはずである。
図1からわかるように、当該凝血塊捕捉器は、動脈側には設けられていない。凝血塊の患者の血液循環へ進入が動脈側でも起こらないことを保証するために、本発明による方法は、動脈側で実行される。
【0061】
しかしながら、本発明は、本発明による方法を動脈側で使用することに限定されない。代替的に又は付加的に、本発明は、体外血液回路の静脈側で使用することもができる。
【0062】
図1による実施形態は、返血に関する想定できるが非常に単純化された装置及び運転モードを説明する。
【0063】
実施できる返血の詳細な説明は、独国公開第10 2009 024 606号に見ることができ、本明細書はその開示内容全てを参照する。
図2は、独国公開第10 2009 024 606号の実施形態を示し、これを参照して、返血の実施例を以下のように説明することができる。
【0064】
参照番号5、7は、患者に至る動脈ポート(5)及び静脈ポート(7)を示す。参照番号1は、動脈ラインを示し、参照番号3は、静脈ラインを示す。透析装置又は別の血液処理ユニットが、参照番号15によって示されている。
【0065】
動脈ライン1は、ホースクランプ9によって遮断可能であり、静脈ライン3は、ホースクランプ11によって遮断可能である。
【0066】
血液処理終了後に血液を体外血液回路から患者に戻すため、クランプ9、11を開放して、血液ポンプ13及び置換ポンプ23を作動させる。血液ポンプ13は、
図2に従って時計回りに、結果として血液処理中に搬送される搬送方向とは逆に回転し、置換ポンプ23は、反時計回りに、結果として血液処理中に搬送される搬送方向と同じに回転する。置換溶液がライン27を介して導入される。この目的のために、前希釈追加ポート29の前希釈追加弁291がある。代替的に又は付加的に、後希釈追加ポート31での追加も考えられる。後希釈追加弁311は、この実施形態では閉鎖されている。
【0067】
血液処理中の搬送方向とは逆の血液ポンプ13の動作によって、血液ポンプ3は、返血中に血液を圧送して患者に戻し、血液は、血液ポンプとポート5との間の体外回路のセクション1内に位置する。置換ポンプ23は、透析装置15を含む体外血液回路の残りの部分を通じて置換流体を搬送し、その際、この部分に位置する血液を置き換える。血液は、静脈ポートを介して患者に戻る。
【0068】
図3は、時点t
4にてセンサPによって測定され、凝血塊によって引き起こされる圧力上昇を伴う圧力曲線を示す。
【0069】
時間周期t
0~t
1、t
1~t
2、t
2~t
3などは、各々、ポンプBの搬送成分、すなわちそれぞれの搬送サイクル、すなわち搬送期間のアクティビティ期間を表す。
図3から分かるように、圧力曲線は、血液及び置換流体の混合物の血液含有量が返血の間に減少するので、全体的に減少するものであり、流体の粘度が低下し、低下する圧力が、システムのホースに導入されており、ポンプの搬送性能は変わらない。
【0070】
本発明による方法は、返血の開始時に、すなわち時点t0で始まる。ポンプBは、処理装置Dから患者接続部A1に搬送する。この点において、典型的な圧力が、動脈ラインAで生じ、この圧力は評価ユニットEで連続的に記録される。
【0071】
時点t1において、個々の搬送成分の完全な搬送サイクル又はアクティビティサイクルを記録した。
【0072】
評価ユニットEは、ポンプBに機械的に結合されるか又はポンプBの一部を形成するポンプBの回転角センサαのデータを用いて搬送サイクルの終了を検出する。あるいは、圧力曲線の検出による、又はポンプ速度、ロータの回転時間又は回転角、及びギアボックスのギヤ比を用いた計算による搬送サイクルの終了検出が想定され、本発明によってカバーされている。
【0073】
第1の搬送サイクルで記録された圧力値が、随意的に補足値を加えてものが、時間周期t1~t2での次の搬送サイクルの警報閾値として定義される。
【0074】
図3において、測定された動脈圧は、参照番号1によって示され、それぞれの前述のローラー通路又は搬送サイクル内の動脈圧は、参照番号2によって示され、閾値又は警報閾値は、参照番号3によって示されている。従って、参照番号3は、現在の圧力曲線1が比較される基準圧力曲線を示す。
【0075】
従って、ここでは警報閾値3が、この時間間隔で現在の圧力流圧1とそれぞれ比較される間隔t1-t2について説明する。典型的には0~150mmHgの範囲にあるそれぞれの現在の圧力1は、典型的には0~225mmHgの範囲にある警報閾値3と比較される。
【0076】
現在の圧力1が警報閾値すなわち基準圧力曲線3を超えた場合、動脈ラインA内の流体の搬送は、クランプFを閉鎖することによって直ちに停止される。
【0077】
警報閾値3は、圧力が前述の搬送成分又は搬送サイクルのアクティビティサイクル内で同時に使用されるように、評価ユニットEによって計算され、随意的に、より高い圧力に向かって係数によってさらに変位される(オフセット)。この係数は、5%~50%の範囲とすることができる。これによって、2つの搬送成分の差異が何らかの誤った警報を発生させないことが可能となる。
【0078】
また、負のオフセットが一般に可能であり、閾値を個々のサイクル間の大きな圧力降下に適切な方法で適応させるために本発明によってカバーされている。
【0079】
従って、間隔t
1~t
2の警報閾値3は、先行する間隔t
0~t
1の圧力曲線に
図3の実施形態に対する補足値をプラスしたものから計算される。
【0080】
図3からさらに分かるように、時間間隔t
0~t
1の曲線2及び3は、時間がオフセットして始まる。また、この開始範囲t
0~t
1の基準値を定義できるように、基準値は、本発明の実施形態において、固定値又は推移する値に、又は過去の測定値からの経験値に設定される。
【0081】
この実施形態は、2つの搬送要素、すなわち回転軸に対して反対側に配置される2つのローラーを有するホースローラーポンプに関する。本発明は基本的にこれに限定されず、3つ以上の搬送要素を有する蠕動ポンプなどのあらゆる周期的に作動するポンプをカバーする。
【0082】
圧力測定は、体外回路の何らかの患者ラインで行うこと、例えば、そこで成長した凝血塊を認識するために、静脈ライン内の凝血塊フィルタの後で行うこともできる。
【0083】
しかしながら、
図1に示す動脈ラインの圧力検出及びクランプを備えた配置は特に好都合である。
【0084】
前述したように、実際の警報閾値すなわち基準圧力曲線を決定するために、約数mmHgが先行するローラー通路又はローラーサイクルからの圧力曲線に追加される。
【0085】
測定された圧力値1が基準圧力値3以上である場合、考慮することができる処置は、クランプFの閉鎖、ポンプBの停止、置換流体を含む容器を接続部A1に接続する方法による返血の継続(置換流体は、その後、NaClのみの返血の継続など、処理装置の方向にポンプBによって(前方に)搬送される)、及びポンプBの後方向搬送の防止、又はこれらの措置の組み合わせである。