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特許7096768炭化塩化ビニリデンコポリマーガス分離膜を介するガスの分離及び膜調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】炭化塩化ビニリデンコポリマーガス分離膜を介するガスの分離及び膜調製方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20220629BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 71/30 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20220629BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D71/02 500
B01D71/30
B01D69/02
B01D69/06
B01D69/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018545887
(86)(22)【出願日】2017-03-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 US2017022275
(87)【国際公開番号】W WO2017160817
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-02-28
(31)【優先権主張番号】62/308,899
(32)【優先日】2016-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ジュンチアン・リュー
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス・イー・ベイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ジャネット・エム・ゴス
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】エドワード・エム・カルバリー
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-310836(JP,A)
【文献】米国特許第05993969(US,A)
【文献】特表2011-527231(JP,A)
【文献】国際公開第2016/003680(WO,A1)
【文献】米国特許第06004374(US,A)
【文献】米国特許第05912048(US,A)
【文献】米国特許第05897915(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
B01D53/22
C02F1/44
C01B33/20-39/54
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素及びメタンであるより大きなガス分子を有するガス混合物から水素を分離するためのプロセスであって、前記プロセスが、
(i)水素/メタン選択率と組み合わせて水素透過率を有する炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜を提供することであって、水素透過率と水素/メタン選択率との前記組み合わせが、(i)少なくとも30GPUの水素透過率及び少なくとも200の水素/メタン選択率または(ii)少なくとも10GPUの水素透過率及び少なくとも700の水素/メタン選択率である、提供することと、
(ii)前記ガス混合物を前記炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜を通して流して、増加した濃度の前記水素を有する透過物第1流及び増加した濃度の前記より大きなガス分子を有する第2保持物流を生成することと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記より大きなガス分子が、オレフィン及びパラフィンから構成される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜が、異なるサイズのガスプローブ分子を用いるガス吸着によって決定して、前記より大きなガス分子の直径より大きな平均細孔サイズを有する、請求項1~2のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項4】
前記水素透過率が、少なくとも40GPUであり、前記水素/メタン選択率が、少なくとも700である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーが、示差走査熱量測定によって決定される25%~75%の結晶化度百分率を有する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーが、400℃~650℃の最高温度で熱分解されている、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマーを作製する方法であって、
(a)1マイクロメートル~250マイクロメートルの厚さを有するポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムまたは中空繊維を提供することと、
(b)前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムまたは中空繊維を100℃~180℃の前処理温度に加熱して拘束して、前処理されたポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムまたは中空繊維を形成することと、
(c)前記前処理されたポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムまたは中空繊維を350℃~750℃の最高熱分解温度に加熱して拘束することと、を含み、
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムまたは中空繊維が、1~8の延伸比で溶融押出によって形成される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素膜を使用したガス分離の分野に関する。より詳細には、それは、ガス混合物を炭化塩化ビニリデンコポリマー膜(フィルムまたは中空繊維壁)に通すことによるガス混合物からのガス、特に水素の分離に関する。
【0002】
炭素分子篩(CMS)及びCMS膜は、ガスを分離するために使用されてきた。CMSは、様々な温度及び/または様々な条件下で熱分解される様々な樹脂から調製され得る。熱分解は樹脂を炭素に還元するが、熱分解生成物中に微細孔の形態で少なくともいくらかの多孔度を維持する。そのようにして形成されたCMSは次いで、微細孔サイズがガス混合物中のどのガスが吸着され、どのガスが吸着されないかを決定する、充填床、カラムなどの、特定のガスの吸着を用いる従来のガス分離機器において用いられ得る。吸着及び脱着技術は、例えば、従来の圧力スイングまたは温度スイング吸着法に従って、分離を行うために交互に行われ得る。CMS膜はまた、ガス混合物をCMS膜に通して流すことによってガスを分離するために使用されている。
【0003】
しかしながら、当該技術分野において、所定の特定の分離のための正確なサイズ(複数可)の微細孔を有するCMSを調製する特定の課題がある。分離を達成するためのCMSの使用は、微細孔が少なくとも、微細孔に入る特定の分子と同じくらいの大きさか、またはそれよりも大きいことを想定しているため、分子の「サイズ」を知ることが必要である。その分子サイズを決定するための異なる方法が開発されている。1つの一般的に用いられるアプローチは、所与の分子の「動的直径(kinetic diameter)」を決定することであった。ゼオライト用途におけるそれらの使用に基づいて、様々なこれらの動的直径を列挙する参考文献は、D.W.Breck,Zeolite Molecular Sieves:Structure,Chemistry and Use,John Wiley&Sons,Inc.(New York,NY 1974),636であり、これらの決定は、スリット形状の細孔を有することが知られている非ゼオライト炭素分子篩に対してさえも頻繁に使用される。上記を考慮して及びこの目的のため、次いで、上記で引用したBreckの参考文献から得た以下の動的直径は、明細書において、以下の分子:He(2.6オングストローム、Å)、H(2.89Å)、N(3.64Å)、CO(3.3Å)、CH(3.8Å)、C(3.9Å)、C(4.3Å)、i-C10(5.0Å)、SF(六フッ化硫黄)(5.5Å)、及びi-C18(イソオクタン)(6.2Å)の代表的分子直径として使用される。しかしながら、その参考文献の表は、エタンの動的直径が不足しており、プロピレンについてそこで与えられた動的直径は、CMS材料それ自体について不正確であると少なくとも一部の研究者に考えられているので、それらの2つの材料については、Breck動的直径に代わってLennard-Jones衝突直径が本明細書で使用される。これらのLennard-Jones衝突直径は、それぞれ、C(4.1Å)、及びC(4.0Å)である。更なる論述については、例えば、Staudt-Bickel C.,Koros W.J.,「Olefin/paraffin gas separations with 6FDA-based polyimide membranes」,J.Membr.Sci.(2000)170(2),205-214を参照されたい。動的直径及びLennard-Jones衝突直径は、共に「代表的分子直径」と称される。
【0004】
ポリ塩化ビニリデン(PVDC)コポリマーは、熱分解されて炭素分子篩を形成してきたが、それらはより大きな細孔を形成する傾向がある。Lamond T.G.,et al.,「6Å molecular sieve properties of SARAN-type carbons」,Carbon(1965)3,59-63。この論文は、ネオペンタン(6.0Å)分子を拒絶するが、非限定的な例では、CO、ブタン、及びイソブタンなどのより小さな分子を非選択的に吸着するポリ塩化ビニリデン(PVDC)コポリマーからのCMSの調製を記載している。このことを踏まえ、その論文の著者らは、それらのCMSが6Åの微細孔を有すると結論付けた。
【0005】
別の例は、T.A.Centeno.,et al.,「Molecular sieve gas separation membranes based on poly(vinylidene chloride-co-vinyl chloride)」,Carbon(2000)38,1067-1073に開示されている。この論文は、上述の材料を使用した複合炭素膜の調製を記載している。その膜は、マクロ多孔性炭素基材(細孔サイズ1μm、マクロ多孔度30パーセント、%)上に支持された、ポリマーフィルムの熱分解によって得られた薄い微細孔性炭素層(厚さ0.8マイクロメートル、μm)で形成される。単一ガス透過実験は、ヘリウム(He)、CO、酸素(O)、窒素(N)、及びメタン(CH)を含む。選択率は、O/N系では特に高く記載されている。すなわち、25摂氏度(℃)で約14の選択率である。この情報から、微細孔サイズは、Oの代表的分子直径(3.46Å)からNのそれ(3.64Å)の範囲内のどこかにあると推測され得る。このCMS膜は、支持されたフィルムを、炭化の前にPVDCコポリマー前駆体が溶融する温度である200℃で前処理することによって調製される。溶融が必要とされるという事実は、開示されたCMS構造が、非支持形態で調製することができないことを意味する。
【0006】
例えば、Laredo G.C.,Meneses E.,Castillo J.,Marroquin J.O.,Jimeenez-Cruz F.,「Adsorption equilibrium and kinetics of branched octane isomers on a polyvinylidene chloride-based carbon molecular sieve」,Energy Fuels(2008)22(4 2641-2648を含む他の研究では、相応に大きな分子、すなわち、5.0Åよりも大きな代表的な分子直径を有するものの分離に好適な比較的大きな微細孔サイズ及び細孔容積を示すポリ塩化ビニリデンコポリマー系CMSが調製されている。
【0007】
より最近では、WO/2016/003680は、800℃~1700℃の高温で2段階熱分解を使用してPVDCコポリマーからCMSを形成することを記載した。形成されたCMSは、3Å~5Åの範囲の平均細孔サイズを有していた。これらのCMSは、プロピレン(C)及びプロパン(C);二酸化炭素(CO)及び窒素(N);N及びメタン(CH);エチレン(C)及びエタン(C);ならびにn-ブタン(C10)及びi-ブタンC10)を分離するのに有用であるものとして記載された。
【0008】
PVDCコポリマーから形成されたCMS膜も製造されてきたが、それらは、M.B.Rao and S.Sircar in J.Membrane Science,85(1993)253-264;T.A.Centeno and A.B Fuertes in Carbon,38(2000)1067-1073、及びK.Zhang and J.D.Way in J.Membrane Science 369(2011)243-249によって記載されているように、低いまたは逆転する(炭化水素の存在下での水素の拒絶)水素選択率が問題となっている。
【0009】
膜のガス透過特性は、ガス透過実験によって決定され得る。2つの固有の特性は、膜材料の分離性能を評価する際に有用性を有する:膜の固有の生産性の尺度である「透過性」;及び膜の分離効率の尺度である「選択率」。一方は、典型的には、バレル(1バレル=10-10[cm(STP)cm]/[cms cmHg]での「透過性」を決定し、これは、膜の上流と下流との間の分圧差(Δp)で除して、膜の厚さ(l)を乗じた流束(n)として計算される。
【0010】
【数1】
【0011】
別の用語の「透過率」は、本明細書において膜または中空繊維膜の生産性として定義され、典型的にはガス透過単位(GPU)(1GPU=10-6[cm(STP)]/[cms cmHg])で測定され、これは、有効膜分離層厚さで透過能力を除することによって決定される。
【0012】
【数2】
【0013】
最後に、「選択率」は、本明細書では、膜を通るあるガスの透過性または透過率の、別のガスの同じ特性に対する比として定義される。それは無単位の比として測定される。
【0014】
【数3】
【0015】
それ故、合成ガス、石油精製で発生するガス、天然ガス、及びオレフィン分解機ガス流において遭遇するものなどのガス混合物から水素を分離するのに有用である、CMS膜及びPVDCからCMS膜を作製するプロセスを実現することが望ましいであろう。支持されていない膜または中空繊維の形態のPVDCのCMSを提供することが特に望ましいであろう。
【0016】
本発明の一態様は、水素及びより大きなガス分子を有するガス混合物から水素を分離するためのプロセスであって、方法が、
(i)水素/メタン選択率と組み合わせて水素透過率を有する炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜を提供することであって、水素透過率と水素/メタン選択率との組み合わせが、(i)少なくとも30GPUの水素透過率及び少なくとも200の水素/メタン選択率または(ii)少なくとも10GPUの水素透過率及び少なくとも700の水素/メタン選択率である、提供することと、
(ii)ガス混合物を炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜を通して流して、増加した濃度の水素を有する透過物第1流及び増加した濃度のより大きなガス分子を有する第2保持物流を生成すること、を含む、プロセスである。
【0017】
本発明の第2の態様は、炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマーを作製する方法であって、
(a)1マイクロメートル~250マイクロメートルの厚さを有するポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムまたは中空繊維を提供することと、
(b)ポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムを100℃~180℃の前処理温度に加熱して拘束して、前処理されたポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムを形成することと、
(c)前処理されたポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムを350℃~750℃の最高熱分解温度に加熱して拘束することと、を含む、方法である。出願人は、驚くべきことに、PVDCのCMS膜が、ガス分子の吸着によって決定して、水素よりも著しく大きな、また更に分離されるべきガス分子(例えば、メタン)よりも大きな平均または代表的細孔サイズを有する場合であっても、PVDCのCMS膜は、メタンなどのガス分子から水素を分離する際に高い水素透過率で高い選択率(例えば、H/CH選択率)を有するPVDCのCMS膜を発見した。なぜかは分からないが、どのようにも限定することなく、特定のプロセスは、フィルムの表面の大きな細孔及びより小さな細孔サイズを有するフィルム内部の狭いバンドが存在し得るフィルムの厚さにわたって非対称の微細構造を実現し得ると考えられる。非対称性は、前処理及び熱分解中に局所的な雰囲気(例えば、HClの分圧)が変化した結果であり得、これは、フィルムの厚さ、フィルムの拘束、またはそれらの組み合わせに起因し得る。
【0018】
本発明のPVDCのCMSは、塩化ビニリデンモノマー及び少なくとも1種の更なるコモノマーを含む塩化ビニリデンコポリマーから調製され得る。コモノマーは、具体的な実施形態では、ビニルモノマー、塩化ビニルモノマー、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、スチレン系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イタコン酸、クロロトリフルオロエチレン、及びそれらの組み合わせを含む様々な材料から選択され得る。より具体的な実施形態では、ビニルモノマーの例には、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、及びそれらの組み合わせが含まれる。アクリレートモノマーのより具体的な例には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、及びそれらの組み合わせが含まれる。メタクリレートモノマーのより具体的な例には、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、及びそれらの組み合わせが含まれる。スチレン系モノマーのより具体的な例は、スチレン自体である。
【0019】
比例して、本明細書でポリビニリデンコポリマー(PVDC)と称される塩化ビニリデン系コポリマーは、コポリマーの総重量を基準として、少なくとも60重量%、より好ましい実施形態では少なくとも70重量%の塩化ビニリデンを含むことが好ましい。しかしながら、PVDCが最大で97重量%の塩化ビニリデンを含有し、それ故、好ましくは最小で少なくとも3重量%、より好ましくは3重量%~40重量%、更により好ましくは3重量%~30重量%、最も好ましくは3重量%~20重量%のコモノマーまたはコモノマーの組み合わせを含有することが更に望まれる。
【0020】
本発明における使用に好適なPVDCの特定の実施形態は、コモノマーとして、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、またはそれらの組み合わせなどのアクリレートを、PVDC全体の重量を基準として、3重量%~20重量%より好ましくは3.5重量%~15重量%、最も好ましくは4重量%~12重量%の量で含むものである。別の特定の実施形態は、塩化ビニルを3重量%~30重量%、より好ましくは7重量%~28重量%、最も好ましくは9重量%~25重量%の量で含むPVDCである。
【0021】
また、PVDCコポリマーの全体の重量平均分子量(Mw)は、10,000~250,000、より好ましくは50,000~200,000、最も好ましくは60,000~150,000の範囲であることが好ましい。
【0022】
PVDCにおける添加剤の使用もまた、本発明の範囲内であるものとして企図される。一般的な添加剤には、エポキシ化油安定剤、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、及びビスフェノールAのジグリシジルエーテルが含まれ得るが、必ずしもこれらに限定されない。また、例えばセバシン酸ジブチル、クエン酸アセチルトリブチル、フタル酸ジオクチルなど、及びそれらの組み合わせを含む脂肪族及び芳香族エステルなどの液体可塑剤が頻繁に用いられる。他の一般的な添加剤には、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、酸化ポリエチレンワックス、及びそれらの組み合わせなどの潤滑剤が含まれ得る。潤滑剤は、任意に含まれ得、例えば、高密度ポリエチレン、アクリレートコポリマー、及びシリコーンポリマー、及びそれらの組み合わせを含み得る。含まれ得る添加剤の別の群は、エポキシ化合物、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、ピロリン酸四ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、DHT4A(Kyowa Chemical Industryから入手可能な合成ハイドロタルサイト様ハロゲンスカベンジャー)、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、及びそれらの組み合わせなどの酸スカベンジャーである。フェノール系などの酸化防止剤も組み込まれ得る。これらの種類の添加剤のいずれかまたは全ての組み合わせがPVDCに含まれ得る。
【0023】
比例して、組み合わされた全ての添加剤の総量は、15重量%以下、より好ましくは8重量%または3重量%以下であることが好ましい。しかしながら、多くの用途では、少なくとも2重量%の組み合わされた全添加剤の量が典型的であり得、そのため、その使用は、好ましくは2重量%~8重量%、より好ましくは2重量%~3重量%の範囲である。当業者は、そのような添加剤の使用及びそれらの適応及び禁忌を、本明細書中の更なる指示なしに認識する。
【0024】
当業者はまた、コポリマーを調製するための様々な手段及び方法を認識している。しかしながら、一般的に、塊状重合、懸濁重合、及び乳化重合、好ましくは懸濁重合または乳化重合を含むがこれらに限定されない典型的または従来の重合方法のいずれかが用いられ得る。PVDC成分の全ての分解の回避を確保する温度、例えば、好ましくは10℃~120℃、より好ましくは20℃~100℃、最も好ましくは30℃~90℃で重合を行うことが一般に好ましい。
【0025】
共重合の完了後、PVDCは、当該技術分野において知られているものなどの任意の好適な方法によってフィルムまたは中空繊維に形成され得る。例えば、PVDCを薄いフィルムまたは中空繊維に形成するために、PVDCは、溶融押出、溶液またはラテックスキャストされ得る。フィルムが望まれる場合、インフレーションフィルムプロセス、例えば、二重バブルプロセスまたはキャストフィルムテンタープロセスなどの従来から知られている調製プロセスが、二軸配向フィルムを生成するために特に有用であり得る。PVDCフィルムを同時に押出し、二軸配向させ、アニールするために、二重バブルプロセスを用いることがより好ましい。繊維は、PVDCコポリマーのための既知の繊維プロセスを使用した一軸延伸によって生成され得、円形または成形された中空繊維、または任意の他の所望の中空繊維形態であり得る。また、前駆体フィルム及び/または繊維は、複数のPVDCコポリマー及び/または他のポリマーと同時押出され得ることが企図される。
【0026】
フィルムまたは繊維の調製プロセスのいずれかは、溶融押出フィルムまたは繊維を形成するために樹脂の延伸などの延伸を任意に含み得ることが留意される。この延伸は、特定の実施形態では、より迅速な結晶化を誘発し、PVDC結晶子の整列を増加させ、ひいては改善するために特に有効であり得る。望ましくは、延伸比は、1~8、より望ましくは1~6、更により望ましくは1~4、最も望ましくは2~4の範囲である。
【0027】
一般に、PVDCは、ある量の結晶化度を有することが有用である。本発明では、この結晶化度は典型的には、ASTM D3418に従って示差走査熱量測定(DSC)によって測定して、樹脂または成形されたフィルムの25%~75%の範囲である。このレベルは30%~55%の範囲であることがより好ましく、このレベルは35%~50%の範囲であることが最も好ましい。それ故、コモノマーの含有は一般に、前駆体結晶化度を低下させて所望の範囲を確保すること、及び溶融温度を低下させ、それによって得られるコポリマーの加工性を改善することを助ける。一般に、より嵩高いモノマーの含有は、嵩のより小さいモノマーの含有よりも多い量、コポリマー全体の結晶化度を低下させる傾向があり得る。それ故、例えば、ブチルアクリレートは、最終コポリマー組成物を基準として同じモルパーセント(mol%)で使用されると想定して、例えば、メチルアクリレートまたはエチルアクリレートよりも結晶化度を低下させる傾向がある。
【0028】
本発明のPVDCのCMSフィルムまたは中空繊維を形成するために、熱分解前の前処理が用いられる。一般に、前処理は、その炭化の前にコポリマー構造を安定化させるか、または「ロックする」ために使用される。この工程では、フィルムを少なくとも10%の範囲まで脱塩化水素化するために、PVDCフィルムまたは繊維をその溶融温度未満(典型的には前駆体の正確な組成に依存して約180℃未満)に加熱する。本明細書で使用される場合、「少なくとも10%脱塩化水素化された」という用語は、PVDCコポリマーフィルムまたは繊維がもはや溶融せず、実際に不溶解性になり始める点に、塩化水素を除去することによって前処理されたことを意味する。分子動力学におけるそのような変化は、およそ10%の脱塩化水素の点で起こり始め、脱塩化水素のレベルがその点を超えて増大するにつれて完了または維持されることは、当該技術分野でよく認められている。この工程は、炭化が達成される処理工程である熱分解工程の前に行われるため、「前処理」と称される。
【0029】
前処理の間、コポリマー構造の温度は、好ましくは、100℃~180℃、より好ましくは120℃~160℃、最も好ましくは130℃~150℃の範囲に維持される。これは、好ましくは、便宜上空気中で行われるが、他の雰囲気、例えばN及び他の不活性ガスまたは酸化性ガス、例えばCO、またはそれらの組み合わせもまたまたは代替的に使用され得るが、その理由は、一般に、コポリマーのわずかにすぎない酸化レベルは所与の温度範囲全体の範囲内であると予期されるからである。ロックされた構造の形成に関与する所望の脱塩化水素の達成は、ガンマ線、電子線、紫外線、またはそれらの組み合わせなどの高エネルギー照射源に曝露することによって達成され得る。時間は、コポリマーが不溶解性になり始める(すなわち、もはや溶融することができない)少なくとも10%の脱塩化水素点に達するのに必要に応じて、1時間(hr)~48時間、好ましくは1時間~24時間、最も好ましくは1時間~12時間で変動し得る。脱塩化水素度は、前処理温度及び時間に依存して、5%~100%で変動し得る。不溶解性の開始の視覚的確認を超えるものが望まれる場合には、脱塩化水素の百分率の追加的確認が、例えば、標準的かつよく知られている方法及び機器を使用して、熱重量分析(TGA)の手段によって得られ得る。
【0030】
前処理の間、繊維またはフィルムはその形状を維持するように拘束される。特定の拘束方法は、当該技術分野で知られているものでよく、張力または圧縮で保持され得る。特定の実施形態では、特にフィルムの場合、それらは圧縮力を適用することによって拘束される。特に、フィルムは、除去されているHClを含むガスに対して不浸透性であり得る2つの平坦な基材の間に配置される。例示的には、フィルムは、2つの低表面エネルギープレート(例えば、TEFLON(登録商標)プレートまたはシート)の間に拘束され得、これは更に、2つの金属、セラミック、またはグラファイトプレートの間に挟まれる。代替的には、プレートは、ハニカム構造のように、除去されているHClなどのガスに対して浸透性であり得る。張力または圧縮の量は、任意の有用な量であり得るが、典型的には、0.01MPa~10MPa、0.1~1MPa、または0.1~0.5MPaの範囲であり得る。同じように、熱分解中の拘束は、使用される最高熱分解温度に耐え得る同様の基材と同じ手法で実施され得る。
【0031】
脱塩化水素前処理に続いて、前処理されたフィルムまたは前処理された繊維、または代替的には前処理されたCMS材料が熱分解される。好ましくは、そのような熱分解により、コポリマーの少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%が炭化される結果となる。上記で既に指摘したように、この熱分解は「炭化」とも称されるが、その理由は、その結果がコポリマーがそのコポリマー構造の炭素のみ、またはほぼ炭素のみの骨格に転化される、すなわち、炭素以外の全てのまたは実質的に全ての原子が除去されるが、炭素-炭素結合は実質的にそのままで残るからであり、CMSはこれより「炭素質」であると称され得る。熱分解は、当業者に一般に知られている任意の手段を使用して行われ得るが、350℃~750℃の範囲内の到達最高温度で行われ得る。望ましくは、温度は少なくとも400℃、450℃から最大で700℃、650℃、600℃、または550℃である。
【0032】
その方法は、メタンを含有するガスから水素を分離するのに非常に有用な水素透過率と水素/メタン選択率との組み合わせを有するPVDCのCMS膜を形成し得る。そのような組み合わせは、一般に、合理的に高い選択率と共に合理的に高い水素透過率またははるかに高い選択率と共により低い水素透過率を必要とする。一般に、水素透過率が30GPU未満である場合、水素/メタン選択率は少なくとも700であることが望ましい。水素透過率が30GPUより大きい場合、水素/メタン選択率は約200以上であり得る。それにもかかわらず、水素透過率は、少なくとも40、50、60、80、または更に100から数百であることが望ましい。望ましくは、水素透過率が約30より大きい場合、水素/メタン選択率は、少なくとも100、150、200、250、400、または更に500から任意の実際的な量(例えば、数千)である。望ましくは、水素透過率が約30未満(すなわち、約10~30)である場合、水素/メタン選択率は、少なくとも750、800、900、または更に1000から任意の実際的な量(例えば、数千)である。
【0033】
驚くべきことに、PVDC膜は、水素及びガス混合物中の水素よりも大きなガス分子よりも大きな平均細孔サイズを有し得る。より大きなガス分子は、オレフィンまたはパラフィンから構成され得る。より大きなガス分子の例には、二酸化炭素、窒素、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ブタン、またはブチレンが含まれる。膜の平均細孔サイズが、より大きなガス分子の直径よりも大きくても、水素/メタンの選択率及び他の水素/より大きなガス分子の選択率であるため驚くべきことであり、このことは、そのようなより大きなガス分子が、膜を通って流れるときに優先的に拒絶されないであろう(すなわち、細孔にフィットし、膜を通って流れることが予期されるであろう)ことを示しているであろう。それ故、これは、上述したようにフィルムに非対称構造が形成されるという考えを生じさせる。一般に、PVDCのCMS膜の平均細孔サイズは、少なくとも3Å、4Å、または更に5Åから最大で約15Åである。膜の平均細孔サイズは、以下で実施例に記載されているように吸着によって決定され得る。
【0034】
平均微細孔サイズに加えて、液体Nの温度でBrunauer-Emmett-Teller(BET)法により測定され得る総微細孔容積を最適化することも当該技術分野でしばしば望ましい。それは、ヘリウム(He)ピクノメトリー及び水銀(Hg)圧入によって更に確認され得る。ほとんどの分離用途では、液体N温度でのBET法に従って、少なくとも0.10mL/g、好ましくは少なくとも0.15mL/g、より好ましくは少なくとも0.20mL/gの総微細孔容積が、商業的に効率的な望ましいガス吸着を確保するために必要とされる。
【0035】
到達最高熱分解温度に到達するための傾斜速度、及び/または到達最高熱分解温度での保持時間を含むがこれらに限定されない追加の要因が導入及び/または考慮される場合、平均細孔サイズ及び/または平均細孔容積は、あるとすれば少しの変更に耐えるようである。例えば、工業的な目的では、0.1℃/分~10℃/分の範囲の傾斜速度が典型的であり、保持時間は、0分(min)(すなわち、到達最高温度に続く即座の能動的または受動的温度低下までの傾斜)から最大で60分(すなわち、能動的または受動的温度低下の前の最大で60分間の到達最高熱分解温度での保持)の範囲であり得、典型的である。雰囲気は、PVDCのCMS膜を実現するものであり得る。それは、PVDCを実質的に酸化せず、かつ静的または流動する窒素、不活性ガス(例えば、アルゴン)、一酸化炭素、水素、またはそれらの任意の組み合わせなどの不活性または還元性雰囲気を含み得る雰囲気である。
【0036】
CMS膜は、水素及び別のより大きなガス分子を含有するガス供給物において他のガスから水素を分離するのに特に好適である。プロセスを実施する際に、所望の水素の増加した濃度を有する第1の流れ(透過物)及び他のガス分子(複数可)の増加した濃度を有する第2の流れ(保持物)がもたらされるようにガス供給物を(膜の上にまたは膜を通して)流動させる。プロセスを実施する場合、CMS膜は、一般に、封止可能な包囲体内に収容された本明細書に記載の炭素分子篩膜のうちの1つ以上から構成される封止可能な包囲体を含むモジュールに製作される。封止可能な包囲体は、水素及び少なくとも1種の他のより大きなガス分子から構成されるガス供給物を導入するための入口;透過ガス流(すなわち、水素)の排出を可能にする第1の出口;及び保持ガス流(すなわち、他のより大きなガス分子(複数可))の排出のための第2の出口;を有する。
【実施例
【0037】
PVDCコポリマーフィルムの調製:
MA4.8重量%コポリマーの溶融押出フィルム
The Dow Chemical Company,Midland,MIから入手可能なベース樹脂XUS32904.01(4.8重量%のメチルアクリレート(MA)コモノマーを有するPVDCコポリマー、Mw=96,000)を2重量%のエポキシ化大豆油(ブレンドの総量を基準とする)、4重量%のセバシン酸ジブチル、及び2重量%のPLASTISTRENGTH L-1000(Arkema PLC,Franceから入手可能なアクリル潤滑剤)とブレンドした。そのブレンドを1.75インチ幅のフィルムダイ(174℃に制御された)を通して押出し、続いて水急冷及び延伸巻取りを行った。巻取り速度は、異なる厚さのフィルム:2、4、8、及び、12ミル(1ミル=25.4マイクロメートル)を得るように制御した。巻取り後のフィルムをおよそ約12インチの幅及び2フィートの長さの切片に切断し、平坦な机の上に約1週間置いた。7/8インチの直径のクーポンを以下に記載の炭化のために切断した。
【0038】
MA8.5重量%コポリマーの溶融押出フィルム
The Dow Chemical Companyから入手可能なベース樹脂SARAN806(8.5重量%のメチルアクリレートコモノマーを有するPVDCコポリマー、Mw=85,000)を2重量%のエポキシ化大豆油及び2重量%のPLASTISTRENGTH L-1000とブレンドした。上記と同じ手法でブレンドを押出した。巻取り速度は、異なる厚さのフィルム:2、4、8、及び、12ミルを得るように制御した。巻取り後のフィルムをおよそ約12インチの幅及び2フィートの長さの切片に切断し、平坦な机の上に約1週間置いた。
【0039】
MA4.8%樹脂の溶液キャストフィルム
ベース樹脂XUS32904.01をテトラヒドロフラン(THF)に溶解して15重量%のポリマー溶液を実現した。その溶液を平坦なガラスプレート上に注ぎ、28ミルのクリアランスを有するナイフを使用してキャストした。空気中でのTHF蒸発後におよそ2ミルのフィルムが得られた。
【0040】
VC17.6%樹脂の溶液キャストフィルム
ベース樹脂XUS32061.01をテトラヒドロフラン(THF)に溶解して15重量%のポリマー溶液を作製した。その溶液を平坦なガラスプレート上に注ぎ、28ミルのクリアランスナイフを使用してキャストした。溶媒蒸発後におよそ2ミルのフィルムが得られた。
【0041】
DARAN SL158のラテックスキャストフィルム
DARAN SL158(Owensboro Specialty Polymers,Inc.)のラテックス分散液をガラスプレート上に注ぎ、4ミルのクリアランスを有するナイフを使用してキャストした。キャストフィルムを空気パージされたオーブン内で75℃で約2時間乾燥させた。およそ1.5ミルのフィルムが得られた。表1は、全ての11種の前駆体フィルムに関する情報の概要を示している。
【0042】
【表1】
【0043】
炭素膜形成
2工程の熱分解アプローチを使用した。前駆体フィルムを2L/分の空気によってパージされた低温オーブン内で130~150℃の第1の温度に24時間加熱し(前処理されたフィルム)、続いて5L/分の窒素によってパージされた6インチのID石英管炉内で350~950℃の範囲の温度に更に加熱して前処理されたフィルムを熱分解した。
【0044】
最初の低温前処理のために、12個のディスク(7/8インチの直径)をグラファイトプレートの間に挟んだ(2枚の10ミルのTEFLON(登録商標)シートをグラファイトプレートから膜の2つの面を分離させるために使用した)。グラファイトプレートの重量は約0.2~0.8kgである。代替的には、グラファイトプレート及びTEFLON(登録商標)シートを多孔性セラミックハニカムプレートに置き換え、これを介して、発生したHClは迅速に外に輸送される必要がある。このオーブンに接続されたスクラバーは、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液を含有していた。装填されたオーブンを1℃/分で130、140、または150℃に加熱し、2L/分の空気パージ下で24時間保持した。
【0045】
第2の加熱工程のために、12個の前処理されたディスクを、Teflonシートまたはハニカムプレートを有しないグラファイトプレートの間に挟み、6インチのID石英管炉に装填した。この炉に接続されたスクラバーは、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液を含有していた。炉を様々な傾斜速度(1、3、5℃/分)で350~950℃の範囲の異なる最終温度に上昇させ、最終温度で30分間保持し、次いで室温(~25℃)に冷却した。冷却後、炭素膜を5リットル/分の流速で乾燥窒素で連続的にパージされた貯蔵ボックスに入れた。
【0046】
炭素膜透過試験プロトコル
炭素膜を、不透過性のアルミニウムテープを使用して標準的な25mmフィルターホルダー(Millipore#4502500、EMD Millipore Corp.,Germany)上にマスクして、開口部が画定された透過領域を残した。次いで、2液型エポキシ(J-B Weld二重管)をテープと炭素膜との界面に沿って適用した。連続的上流供給(25sccm、1気圧)及び下流Heパージ(2.0sccm、1気圧)を用いて、いくつかのガス種の単一ガス透過試験を20℃で行った。Heパージガスによって運ばれた透過物を、TCD(H及びCO用の熱伝導率検出器)及びFID(CH用の炎イオン化検出器)を有するGC(ガスクロマトグラフィー)によって分析した。全てのガス中の濃度は5%未満であったため、下流におけるガス流速はHe流速と同じと考えられた。膜透過速度は、Heパージ流速とGCによって測定された透過濃度との積を使用して計算した。単一ガス透過試験は、次の順序-H、CO、及びCHで行った。試験は、透過液濃度が安定するまで数時間から数日間実行した。炭素膜を作製するためのパラメータ及び得られた透過結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示された結果から、最終熱分解温度は、H透過率及びH/CH選択率に対して最も影響を有する。約500~650℃の最終温度を有する膜は、H透過率とH/CH選択率との最良の組み合わせを示した。異なる厚さの溶融押出PVDC-MA4.8%樹脂から作製された実施例11~14では、前駆体フィルムの厚さが12ミルから2ミルに減少するにつれてH透過率及びH/CH選択率の両方が増加する。異なる厚さの溶融押出PVDC-MA8.5%樹脂から作製された実施例15~18では、前駆体フィルムの厚さが12ミルから2ミルに減少するにつれてH透過率が連続的に増加するが、H/CH選択率は4ミリでピークである。そのため、H透過率とH/CH選択率との組み合わせについての前駆体フィルムの最適な厚さは、コポリマーの組成にいくらか依存する。
【0049】
実施例19及び20(溶液キャスト前駆体フィルム)ならびに実施例21(ラテックス前駆体フィルム)は、溶融押出フィルムから作製されたものと同様の高いH透過率及びH/CH選択率を示す。
【0050】
炭素膜吸着
ガス吸着を使用して、実施例13の平均細孔サイズを測定した。吸着は、Micromeritics ASAP2020器具を使用して20℃で実施した。炭素膜を破砕して切片(~2から5mm)とし、石英サンプルホルダーに入れた。各サンプルを100℃で12時間脱気した後、各ガス吸着をCH、CO、C、C、及びiC10の順序で実施した。
【0051】
iC10を除いて全てのガスが~600mmHgで大量(約10cc(STD)/g超)に吸着する:C(83.3cc(STD)/g)及びiC10(4.1cc(STD)/g)。これらの結果から、平均微細孔サイズは、C及びiC10の分子サイズの間、すなわち、4.0~5.0Åと考えられた。そのため、実施例13の炭素膜は、高い速度でCH(3.8Åの分子サイズ)を透過するであろうことが予期される。しかしながら、驚くべきことに、CHガスは、本質的に実施例13の炭素膜を透過しないことが判明した。
(態様)
(態様1)
水素及びより大きなガス分子を有するガス混合物から水素を分離するためのプロセスであって、方法が、
(i)水素/メタン選択率と組み合わせて水素透過率を有する炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜を提供することであって、水素透過率と水素/メタン選択率との前記組み合わせが、(i)少なくとも30GPUの水素透過率及び少なくとも200の水素/メタン選択率または(ii)少なくとも10GPUの水素透過率及び少なくとも700の水素/メタン選択率である、提供することと、
(ii)前記ガス混合物を前記炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜を通して流して、増加した濃度の前記水素を有する透過物第1流及び増加した濃度の前記より大きなガス分子を有する第2保持物流を生成することと、を含む、プロセス。
(態様2)
前記より大きなガス分子が、オレフィン及びパラフィンから構成される、態様1に記載のプロセス。
(態様3)
前記より大きなガス分子が、二酸化炭素、窒素、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ブタン、またはブチレンのうちの少なくとも1種から構成される、態様1~2のいずれか1項に記載のプロセス。
(態様4)
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜が、異なるサイズのガスプローブ分子を用いるガス吸着によって決定して、前記より大きなガス分子の直径より大きな平均細孔サイズを有する、態様1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
(態様5)
前記平均細孔サイズが、3オングストロームより大きい、態様4に記載のプロセス。
(態様6)
前記平均細孔サイズが、4オングストロームより大きい、態様4に記載のプロセス。
(態様7)
前記平均細孔サイズが、5オングストロームより大きい、態様4に記載のプロセス。
(態様8)
前記水素透過率が、少なくとも40GPUである、態様1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
(態様9)
前記水素/メタン選択率が、少なくとも約700である、態様1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
(態様10)
前記炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜が、熱分解された塩化ビニリデンと、以下のもの:ビニルモノマー、塩化ビニルモノマー、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、スチレン系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イタコン酸、クロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1種とから構成されるポリ塩化ビニリデンコポリマーである、態様1~9のいずれか1項に記載のプロセス。
(態様11)
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーが、示差走査熱量測定によって決定される25%~75%の結晶化度百分率を有する、態様10に記載のプロセス。
(態様12)
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーが、350℃~750℃の最高温度で熱分解されている、態様10または11に記載のプロセス。
(態様13)
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーが、400℃~650℃の最高温度で熱分解されている、態様12に記載のプロセス。
(態様14)
前記炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマー膜が、1~250マイクロメートルの厚さを有する、態様1~13のいずれか1項に記載のプロセス。
(態様15)
前記厚さが、10~150マイクロメートルである、態様14に記載のプロセス。
(態様16)
炭化ポリ塩化ビニリデンコポリマーを作製する方法であって、
(a)1マイクロメートル~250マイクロメートルの厚さを有するポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムまたは中空繊維を提供することと、
(b)前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムを100℃~180℃の前処理温度に加熱して拘束して、前処理されたポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムを形成することと、
(c)前記前処理されたポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムを350℃~750℃の最高熱分解温度に加熱して拘束することと、を含む、方法。
(態様17)
工程(b)及び(c)の前記拘束が、圧縮力の適用による、態様16に記載の方法。
(態様18)
前記最高熱分解温度が、最大で650℃である、態様16または17に記載の方法。
(態様19)
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムが、共重合された塩化ビニリデンと、以下のもの:ビニルモノマー、塩化ビニルモノマー、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、スチレン系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イタコン酸、クロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1種とから構成されるポリ塩化ビニリデンコポリマーである、態様16~18のいずれか1項に記載の方法。
(態様20)
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーが、示差走査熱量測定によって決定される25%~75%の結晶化度百分率を有する、態様16~19のいずれか1項に記載の方法。
(態様21)
工程(b)の間の前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムが、少なくとも10%脱塩化水素化されているが完全には脱塩化水素化されていない、態様16~20のいずれか1項に記載の方法。
(態様22)
前記厚さが、10マイクロメートル~150マイクロメートルである、態様16~21のいずれか1項に記載の方法。
(態様23)
前記ポリ塩化ビニリデンコポリマーフィルムが、1~8の延伸比で溶融押出によって形成される、態様16~22のいずれか1項に記載の方法。