(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】制振装置、および、制振装置の整備方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220629BHJP
H02K 7/00 20060101ALI20220629BHJP
H02K 33/00 20060101ALI20220629BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
F16F15/02 C
H02K7/00 Z
H02K33/00 A
E04H9/02 341D
(21)【出願番号】P 2019004389
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】早野 哲央
(72)【発明者】
【氏名】今関 正典
(72)【発明者】
【氏名】風間 睦広
(72)【発明者】
【氏名】井澤 竜生
(72)【発明者】
【氏名】長井 悠
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190572(JP,A)
【文献】特開2008-067463(JP,A)
【文献】特開2011-035993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
H02K 7/00
H02K 33/00
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベース上に設けられた一方向に延びるガイド装置と、
前記ガイド装置に往復移動可能に保持された可動子座と、
前記可動子座の上側に載置された可動マスと、
前記可動子座および前記可動マスに駆動力を付与するリニアモータと、を備え、
前記リニアモータは、
固定子が、前記ベースの上面に前記可動子座および前記可動マスの往復移動方向に沿い配列されると共に、取り外し可能な固定装置により前記ベースに取り付けられ、
可動子が、前記可動子座の下側に配置されると共に、前記可動子の上面に設けた複数のねじ穴に、前記可動子座に上下方向に貫通して設けたボルト挿通孔に上方から通した可動子固定用のボルトを螺着させて締めることで、前記可動子が前記可動子座の下側に取り付けられた構成を備え、
前記可動マスは、ジャッキアップポイントを備えたこと
を特徴とする制振装置。
【請求項2】
制振装置の整備方法であって、
前記制振装置は、
ベースと、
前記ベース上に設けられた一方向に延びるガイド装置と、
前記ガイド装置に往復移動可能に保持された可動マスと、
前記可動マスに駆動力を付与するリニアモータと、を備え、
前記リニアモータは、
固定子が、前記ベースの上面に前記可動マスの往復移動方向に沿い配列されると共に、取り外し可能な固定装置により前記ベースに取り付けられ、
可動子が、前記可動マスの下側に配置されると共に、前記可動子の上面に設けた複数のねじ穴に、前記可動マスに上下方向に貫通して設けたボルト挿通孔に上方から通した可動子固定用のボルトを螺着させて締めることで、前記可動子が前記可動マスの下側に取り付けられた構成を備え、
前記可動マスの往復移動方向をX方向とし、
前記可動マスを、前記X方向の一端側に寄せて配置する工程と、
前記X方向の他端側で前記固定子を、前記ベースから取り外す工程と、
前記可動マスを、前記固定子が取り外された状態の前記X方向の他端側に移動させる工程と、
前記可動マスの上方からの操作により、前記可動子の固定に用いられているボルトを取り外して、前記可動子を前記ベース上に落下させる工程と、
前記可動子が取り外された前記可動マスを、前記X方向の一端側に移動させて、前記ベース上に載置された前記可動子を露出させる工程と、
前記可動子を搬出する工程と、を行うこと
を特徴とする制振装置の整備方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の制振装置の整備方法であって、
前記可動子座および前記可動マスの往復移動方向をX方向とし、
前記可動子座および前記可動マスを、前記X方向の一端側に寄せて配置する工程と、
前記可動マスのジャッキアップ処理を行って、前記可動子座による前記可動マスの支持を解除する工程と、
前記X方向の他端側で前記固定子を、前記ベースから取り外す工程と、
前記可動子座を、前記固定子が取り外された状態の前記X方向の他端側に移動させる工
程と、
前記可動子座の上方からの操作により、前記可動子の固定に用いられているボルトを取り外して、前記可動子を前記ベース上に落下させる工程と、
前記可動子が取り外された前記可動子座を、前記X方向の一端側に移動させて、前記ベース上に載置された前記可動子を露出させる工程と、
前記可動子を搬出する工程と、を行うこと
を特徴とする制振装置の整備方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動マスをリニアモータで駆動する方式の制振装置、および、該制振装置の整備方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高層建築物などの構造物は、風や地震などにより生じる振動を低減する目的で、一軸方向または二軸方向に移動可能な錘(可動マス)の慣性力を利用して制振を行う制振装置を備えた構成とされることがある。
【0003】
制振装置の一つの形式としては、構造物の揺れをセンサで検出し、可動マスをアクチュエータで制御するアクティブ式の制振装置がある。
【0004】
また、アクティブ式の制振装置としては、可動マスに駆動力を付与するアクチュエータにリニアモータを採用したリニアモータ型の制振装置が知られている。
【0005】
ところで、リニアモータ型の制振装置は、力学の観点から考えると、リニアモータが可動マスの下に配置される構成が有利である。
【0006】
そこで、リニアモータ型の制振装置は、制振対象となる構造物に設置された基礎フレーム上に、一対のガイドを介して可動マスが一軸方向に移動可能に支持された構成を備え、更に、リニアモータの固定子は、一対のガイドの間に可動マスの移動方向に沿う配置で設け、リニアモータの可動子は、固定子に対向する配置で可動マスの下面側に設けた構成とすることが従来提案されている(たとえば、特許文献1(
図1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、制振装置では、リニアモータに故障や経年劣化が生じた場合は、リニアモータを整備する必要が生じる。
【0009】
リニアモータを整備する場合は、可動マスをガイドの長手方向の一端側に寄せた配置、または、他端側に寄せた配置にすると、ガイドの長手方向における可動マスの配置と逆側では、リニアモータの固定子の上方に空間を形成することができる。
【0010】
よって、リニアモータの固定子は、可動マスの位置を調整して、整備対象となる固定子の上方に空間が形成された状態とすることで、作業者が整備対象となる固定子の上方から、補修や交換などの整備を行うことが可能である。
【0011】
これに対し、リニアモータの可動子は、可動マスの下側に取り付けられているものであり、しかも、固定子との隙間が1mm前後に保持されているものである。そのため、可動マスの下側に取り付けられたリニアモータの可動子については、作業者が下方から整備を行うための空間は確保できない。
【0012】
なお、可動マスをガイド上から一旦取り外して、可動子が取り付けられている可動マスの下面側を露出させれば、可動子の整備を行うことは可能になると考えられる。
【0013】
しかし、この手法を実施するためには、取り外した可動マスを一時的に置くための保管場所を、制振装置の設置個所とは別に確保する必要がある。
【0014】
しかも、制振対象となる構造物の規模が大きい場合には、制振装置の可動マスは、100tなどの重量に達することがあり、この場合は、可動マスをガイド上から取り外して保管場所まで搬送する作業が、クレーンなどを用いる大規模な作業となる。
【0015】
したがって、可動マスの下側にリニアモータの可動子が取り付けられた構成を備える制振装置については、リニアモータの整備性の向上化を図ることが望まれる。
【0016】
そこで、本発明は、可動マスを駆動するアクチュエータとしてリニアモータを採用した構成を有する制振装置について、リニアモータの整備性の向上化を図ることができる制振装置、および、制振装置の整備方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前記課題を解決するために、ベースと、前記ベース上に設けられた一方向に延びるガイド装置と、前記ガイド装置に往復移動可能に保持された可動マスと、前記可動マスに駆動力を付与するリニアモータと、を備え、前記リニアモータは、固定子が、前記ベースの上面に前記可動マスの往復移動方向に沿い配列されると共に、取り外し可能な固定装置により前記ベースに取り付けられ、可動子が、前記可動マスの下側に配置されると共に、前記可動子の上面に設けた複数のねじ穴に、前記可動マスに上下方向に貫通して設けたボルト挿通孔に上方から通した可動子固定用のボルトを螺着させて締めることで、前記可動子が前記可動マスの下側に取り付けられた構成を有する制振装置とする。
【0018】
更に、前記制振装置の整備方法であって、前記可動マスの往復移動方向をX方向とし、前記可動マスを、前記X方向の一端側に寄せて配置する工程と、前記X方向の他端側で前記固定子を、ベースから取り外す工程と、前記可動マスを、前記固定子が取り外された状態のX方向の他端側に移動させる工程と、前記可動マスの上方からの操作により、前記可動子の固定に用いられているボルトを取り外して、前記可動子を前記ベース上に落下させる工程と、前記可動子が取り外された前記可動マスを、前記X方向の一端側に移動させて、前記ベース上に載置された前記可動子を露出させる工程と、前記可動子を搬出する工程と、を行うようにする制振装置の整備方法とする。
【0019】
また、ベースと、前記ベース上に設けられた一方向に延びるガイド装置と、前記ガイド装置に往復移動可能に保持された可動子座と、前記可動子座の上側に載置された可動マスと、前記可動子座および可動マスに駆動力を付与するリニアモータと、を備え、前記リニアモータは、固定子が、前記ベースの上面に前記可動子座および前記可動マスの往復移動方向に沿い配列されると共に、取り外し可能な固定装置により前記ベースに取り付けられ、可動子が、前記可動子座の下側に配置されると共に、前記可動子の上面に設けた複数のねじ穴に、前記可動子座に上下方向に貫通して設けたボルト挿通孔に上方から通した可動子固定用のボルトを螺着させて締めることで、前記可動子が前記可動子座の下側に取り付けられた構成を備え、前記可動マスは、ジャッキアップポイントを備えた構成を有する制振装置とする。
【0020】
更に、前記制振装置の整備方法であって、前記可動子座および前記可動マスの往復移動方向をX方向とし、前記可動子座および前記可動マスを、前記X方向の一端側に寄せて配置する工程と、前記可動マスのジャッキアップ処理を行って、前記可動子座による前記可動マスの支持を解除する工程と、前記X方向の他端側で前記固定子を、前記ベースから取り外す工程と、前記可動子座を、前記固定子が取り外された状態のX方向の他端側に移動させる工程と、前記可動子座の上方からの操作により、前記可動子の固定に用いられているボルトを取り外して、前記可動子を前記ベース上に落下させる工程と、前記可動子が取り外された前記可動子座を、前記X方向の一端側に移動させて、前記ベース上に載置された前記可動子を露出させる工程と、前記可動子を搬出する工程と、を行うようにする制振装置の整備方法とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の制振装置、および、制振装置の整備方法によれば、制振装置について、リニアモータの整備性の向上化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】制振装置の第1実施形態を示す概略図である。
【
図2】
図1の制振装置を別の方向から示す図である。
【
図3】制振装置のリニアモータを対象とする整備方法の手順を示す図である。
【
図4】制振装置の整備方法について、
図3に続く手順を示す図である。
【
図5】リニアモータの可動子を可動マスの下側に取り付ける手法の一例を示す図である。
【
図6】リニアモータの可動子を可動マスの下側に取り付ける手法の別の例を示す図である。
【
図7】制振装置の第2実施形態を示す概略図である。
【
図8】
図7の制振装置を別の方向から示す図である。
【
図9】
図7の制振装置における可動子座を示す概略図である。
【
図10】
図7の制振装置において、可動子座および可動マスを往復移動方向の一端側に寄せて配置した状態を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の制振装置について、図面を参照して説明する。
【0024】
[第1実施形態]
図1は、制振装置の第1実施形態を示すもので、
図1(a)は、概略平面図、
図1(b)は、概略側面図である。
図2は、
図1(b)のA-A方向矢視図である。
【0025】
図3は、制振装置のリニアモータを対象とする整備方法の手順を示すもので、
図3(a)は、可動マスを往復移動方向であるX方向の一端側に寄せて配置した状態を示す平面図、
図3(b)は、X方向の他端寄り領域のリニアモータの固定子を取り外した状態を示す平面図、
図3(c)は、可動マスを固定子が取り外されたX方向の他端側に配置した状態を示す平面図、
図3(d)は、
図3(c)の状態をX方向の他端側から見た図である。
図4は、制振装置のリニアモータを対象とする整備方法の
図3に続く手順を示すもので、
図4(a)は、可動子固定用のボルトを取り外した状態を示す平面図、
図4(b)は、
図4(a)の状態をX方向の他端側から見た図、
図4(c)は、可動子が取り外された可動マスをX方向の一端側へ移動させた状態を示す平面図である。
【0026】
図5は、可動子取り付け工程の一例の手順を示すもので、
図5(a)は、ベースに載置された可動子の上方に、可動マスが配置された状態を示す概略切断側面図、
図5(b)は、可動子引き上げ用のボルトを、可動マスのボルト挿通孔を通して可動子のねじ穴に螺着させた状態を示す概略切断側面図、
図5(c)は、可動子をベース上から引き上げた状態を示す概略切断側面図、
図5(d)は、引き上げられた可動子のねじ穴に、可動マスのボルト挿通孔を通した可動子固定用のボルトを螺着させた状態を示す概略切断側面図、
図5(e)は、可動子固定用のボルトを締めて可動子を可動マスの下側に接する配置とした状態を示す概略切断側面図、
図5(f)は、可動子引き上げ用のボルトを可動子固定用のボルトに替えた状態を示す概略切断側面図である。
【0027】
図6は、可動子取り付け工程の別の例の手順を示すもので、
図6(a)は、ベースに載置された可動子の上方に、可動マスが配置された状態を示す概略切断側面図、
図6(b)は、寸切りボルトを、可動マスのボルト挿通孔を通して可動子のねじ穴に螺着させた状態を示す概略切断側面図、
図6(c)は、寸切りボルトに座金とナットを嵌め、ナットを回転させて、可動子を、ベース上から可動マスの下側に接する位置まで引き上げた状態を示す概略切断側面図、
図6(d)は、引き上げられた可動子のねじ穴に、可動マスのボルト挿通孔を通した可動子固定用のボルトを螺着させた状態を示す概略切断側面図、
図6(e)は、寸切りボルトを可動子固定用のボルトに替えた状態を示す概略切断側面図である。
【0028】
本実施形態の制振装置は、本開示の制振装置の整備方法の実施に用いる制振装置の一例を示すもので、
図1(a)(b)、
図2に符号1で示すものである。
【0029】
本実施形態では、説明の便宜上、
図1(a)に示すように、水平面内で直交する2軸方向における一方の軸方向をX方向、他方の軸方向をY方向といい、本実施形態の制振装置1の構成は、後述する可動マス2の往復移動方向が、X方向に一致するものとして説明する。なお、このX方向およびY方向は、東西南北などの方位に関連するものではなく、また、本実施形態の制振装置1を図示しない制振対象の構造物に設置する際の向きを規定するものでもない。
【0030】
本実施形態の制振装置1は、制振対象の構造物(図示せず)に設置されるベース3と、ベース3上にX方向に沿う姿勢で設けられた一対のガイド装置4と、ガイド装置4にX方向に沿い往復移動可能に保持された可動マス2と、可動マス2に駆動力を付与するアクチュエータとしてのリニアモータ5と、を備えた構成とされている。
【0031】
ベース3は、本実施形態では、X方向に延びる矩形のプレート状の部材とされている。
【0032】
ベース3のX方向の寸法は、ガイド装置4のレール6に必要とされるX方向の寸法に対応して設定されている。なお、ガイド装置4のレール6のX方向の長さ寸法の設定については後述する。
【0033】
ガイド装置4は、
図1(a)(b)および
図2に示すように、ベース3の上側にX方向に延びる姿勢で設置されたレール6と、レール6にスライド可能に取り付けられた複数のブロック7とを備えた構成とされている。
【0034】
ガイド装置4は、ベース3上に、Y方向に設定された間隔を隔てて2台一組で設けられている。
【0035】
各ガイド装置4は、2個ずつのブロック7を備えていて、一方のガイド装置4の2個のブロック7と、他方のガイド装置4の2個のブロック7とによる計4個のブロック7が、可動マス2の下面側の四隅部に取り付けられている。これにより、可動マス2は、対応するブロック7を介して、レール6にX方向に往復移動可能に保持される。
【0036】
なお、ガイド装置4としては、リニアガイドといわれる直動転がり案内方式のガイド装置4を使用することが好ましいが、各ブロック7に可動マス2の荷重を受けた状態の下で、各ブロック7がレール6に沿い往復移動可能となっていれば、任意の形式のガイド装置4を採用してよいことは勿論である。
【0037】
リニアモータ5は、永久磁石である固定子8が、ベース3の上側における一対のガイド装置4同士の間に、X方向に沿い配列されている。
【0038】
固定子8には、
図2に示すように、上下方向に貫通し、上端側開口の周囲にざぐりを備えたボルト挿通孔9が設けられている。一方、ベース3の上面には、X方向に配列される各固定子8の各ボルト挿通孔9と対応する位置に、ねじ穴10が設けられている。
【0039】
リニアモータ5では、固定子8の各ボルト挿通孔9に上方から通した固定子固定用のボルト11の先端側を、ベース3の対応するねじ穴10に螺着させて締めることで、固定子8がベース3の上面に取り付けられている。
【0040】
したがって、リニアモータ5は、固定子8の上方からの操作により、固定子8のベース3への取り付けに用いられている各ボルト11を緩めて取り外すことで、固定子8のベース3に対する固定を解除することができる。よって、本実施形態では、ボルト11が、固定子8の固定に用いられる取り外し可能な固定装置となっている。
【0041】
なお、
図1(a)に示した固定子8のX方向の寸法とX方向の配列数、および、各固定子8の固定に用いられるボルト11の数は、図示するための便宜上のもので、実際の固定子8のX方向の寸法とX方向の配列数、および、ボルト11の数を反映したものではない。
【0042】
リニアモータ5のコイルを備えた可動子12は、可動マス2の下側に配置される。
【0043】
可動子12には、上面に、複数のねじ穴13が設けられている。可動マス2には、可動子12の各ねじ穴13と対応する位置に、上下方向に貫通するボルト挿通孔14が設けられている。
【0044】
リニアモータ5では、可動マス2のボルト挿通孔14に上方から通した可動子固定用のボルト15の先端側を、可動子12の対応するねじ穴13に螺着させて締めることで、可動子12が、可動マス2の下側に取り付けられている。
【0045】
したがって、リニアモータ5は、可動マス2の上方からの操作により、可動子12の可動マス2への取り付けに用いられているボルト15を緩めて取り外すことで、可動子12の可動マス2に対する固定を解除することができる。
【0046】
なお、
図1(a)では、可動子12におけるねじ穴13は、X方向に4個配置された列が、Y方向に2列の計8個として示してあり、それに合わせて、可動マス2におけるボルト挿通孔14の数と配置、および、ボルト15の本数を記載してあるが、これは、図示するための便宜上のものであリ、実際の構成を反映したものではない。したがって、本実施形態の制振装置1は、実機では、可動子12におけるねじ穴13の数と配置、それに対応する可動マス2におけるボルト挿通孔14の数と配置、ボルト15の本数は、図示した以外の配置や数として設定されていてもよいことは勿論である。
【0047】
リニアモータ5では、ベース3の上面に取り付けられた固定子8と、可動マス2の下側に取り付けられた可動子12との隙間は、1mm程度に保持されている。この構成は、たとえば、ベース3の上面と、ベース3上にガイド装置4を介して支持される可動マス2の下面との間隔が、固定子8の上下方向寸法と可動子12の上下方向寸法の和よりも1mm程度大きくなるように、ガイド装置4の上下方向寸法を設定するか、または、スペーサなどを用いてガイド装置4の上下方向寸法を調整することで実現できる。
【0048】
これにより、本実施形態の制振装置1は、リニアモータ5の可動子12のコイルに電流を流して磁場を発生させることで、可動子12を、固定子8に対してX方向に動作させることができる。したがって、本実施形態の制振装置1は、可動マス2に、リニアモータ5の可動子12で発生させるX方向の力を、可動マス2をX方向に往復動作させるための駆動力として付与することができる。
【0049】
なお、本実施形態の制振装置1は、制振対象となる構造物に生じる振動を、図示しないセンサで検出し、検出された振動に応じて、可動マス2をX方向に往復動作させるときの位相や振幅を制御して制振機能を発揮する点は、既存のリニアモータ型の制振装置、あるいは、従来提案されているリニアモータ型の制振装置と同様であるため、説明は省略する。
【0050】
以上の構成としてある本実施形態の制振装置1は、リニアモータ5の整備を行う場合には、以下の手順で整備方法を実施する。
【0051】
先ず、本実施形態の制振装置1は、
図3(a)に示すように、可動マス2を、X方向の一端側、
図3(a)では左側に寄せて配置する。このときの可動マス2の移動は、リニアモータ5の運転が可能な場合は、リニアモータ5の駆動力で行うようにすればよい。また、リニアモータ5の運転が停止中の場合は、可動マス2の移動は、図示しない作業者が手動で行うようにしてもよいし、本実施形態の制振装置1のX方向の一端側に位置する固定部と、可動マス2との間に図示しないチェーンブロックを掛け、このチェーンブロックを作業者が操作して、可動マスをX方向の一端側へ引き寄せて移動させるようにしてもよい。
【0052】
これにより、本実施形態の制振装置1は、X方向の他端側(
図3(a)では右側)に、リニアモータ5の固定子8の上方に可動マス2が配置されていない領域、すなわち、固定子8が上方に露出されている領域が形成される。
【0053】
次に、作業者は、
図3(a)に示す状態から
図3(b)に示すように、X方向の他端側で上方に露出されている固定子8を、ベース3から取り外す。この固定子8の取り外しは、固定子8の上方からの操作により、ボルト11を緩めて取り外すことで、固定子8のベース3に対する固定を解除し、その後、固定子8を図示しない保管場所へ搬送するようにすればよい。
【0054】
この際、ベース3からの取り外しの対象となる固定子8は、
図3(c)に示すように、可動マス2をX方向の他端側に寄せて配置したときに、可動マス2に取り付けられている可動子12の真下の領域に全部または一部が入る固定子8と、その領域に可動子12が固定されていない状態で置かれたときに、その可動子12を引き寄せるような磁力の影響を与える範囲の固定子8とを含む。
【0055】
したがって、本実施形態の制振装置1は、可動マス2をガイド装置4のレール6に沿いX方向の一端側に配置した状態のときに、前記したベース3からの取り外しの対象となる固定子8がすべて露出されるように、レール6のX方向の長さ寸法が設定されている。
【0056】
なお、リニアモータ5の固定子8として用いられる永久磁石は、一般的に強いとされる磁力を有している。そのため、固定子8のベース3からの取り外しは、X方向の他端側に位置する固定子8から順に、X方向の他端側への抜き取りおよび保管場所への搬送を行うことが好ましい。これは、ベース3から取り外された固定子8同士が、互いの磁力で吸着すると、分離が困難になるので、そのような固定子8同士の吸着を未然に防ぐためである。
【0057】
次いで、作業者は、
図3(c)(d)に示すように、可動マス2を、固定子8が取り外された状態のX方向の他端側に移動させる。この移動は、作業者が手動か、または、チェーンブロックなどを用いて行うようにすればよい。
【0058】
このように、可動マス2が、下方に固定子8がない領域に配置されると、作業者は、
図4(a)(b)に示すように、可動マス2の上方からの操作により、可動子12の固定に用いられているボルト15を緩めて取り外す。これにより、可動子12は、可動マス2に対する固定が解除されるため、その場でベース3上に落下する。
【0059】
この際、可動子12の下方に位置していた固定子8や、可動子12を引き寄せる虞のある固定子8は、予め取り外されているので、可動子12は、コイルの鉄心などの磁性体を備えた構成であるとしても、いずれの固定子8にも吸着されることなく、ベース3上に載置された状態となる。
【0060】
その後、作業者は、
図4(c)に示すように、可動子12が取り外された後の可動マス2を、X方向の一端側に移動させる。この移動は、作業者が手動か、または、チェーンブロックなどを用いて行うようにすればよい。これにより、X方向の他端側でベース3上に載置された可動子12は、可動マス2が移動してもその場に留まるので、可動子12が上方に露出された状態になる。
【0061】
よって、この状態で、作業者は、可動マス2から取り外された可動子12を搬出して、検査や修理を適宜行って再使用に供するか、あるいは、新たな可動子12に交換すればよい。
【0062】
本実施形態の制振装置1は、可動マス2に可動子12を取り付けて、リニアモータ5の整備を開始した時と同様の状態に復帰させる場合は、基本的には、
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)(d)、
図4(a)(b)、
図4(c)に示した手順と逆の手順を行うようにすればよい。
【0063】
すなわち、
図4(c)に示したと同様に、可動マス2がX方向の一端側に位置している状態で、作業者は、X方向の他端側のベース3上に、点検済み、修理済みの可動子12、もしくは、交換した可動子12を載置する。
【0064】
次に、作業者は、
図4(a)(b)と同様に、可動マス2を可動子12の真上となる位置に移動させる。この際、作業者は、可動マス2の各ボルト挿通孔14と、可動子12の対応するねじ穴13が同軸心上に配置されるように、リーマーや、その他の治具を用いた位置合わせを行うようにすればよい。
【0065】
次いで、作業者は、可動マス2の上方からの操作により、可動子12を可動マス2の下側に取り付ける可動子取り付け工程を行う。
【0066】
その後、作業者は、
図3(c)(d)と同様に、可動マス2の下側に可動子12が取り付けられると、
図3(b)に示したと同様に、可動マス2をX方向の一端側に移動させ、その状態で、
図3(a)に示したと同様に、ベース3のX方向の他端側にて、固定子8を取り付ける作業を行う。
【0067】
これにより、リニアモータ5は、固定子8および可動子12が、整備作業を開始する前と同様の構成に復帰される。よって、本実施形態の制振装置1は、整備作業を開始する前と同様の運転可能な状態となる。
【0068】
ところで、前記した可動子取り付け工程を行うときには、
図5(a)に示すように、ベース3上に載置された可動子12の上面と、その真上に配置された可動マス2の底面との間には、隙間16が形成されている。なお、
図5(a)では、図示する便宜上、可動マス2とベース3上に載置された可動子12以外の記載は省略してある。また、後述する
図5(b)~(f)では、可動マス2への可動子12の取り付けに関与するもの以外の記載は省略する(後述する
図6(a)~(e)も同様)。
【0069】
この隙間16の寸法Wは、
図2に示したリニアモータ5の固定子8の上下方向寸法と、リニアモータ5にて固定子8と可動子12との間に保持される1mm程度の隙間の寸法とを足した寸法に対応している。
【0070】
ところで、可動子固定用のボルト15は、可動マス2のボルト挿通孔14に上方から通され、先端側が可動子12のねじ穴13に螺着することで、可動子12の可動マス2への固定を行うものである。そのため、
図5(a)に二点鎖線で示すように、可動マス2のボルト挿通孔14に上方からボルト15を挿入すると、ボルト15の先端側は、可動マス2の下方へ突出する。ここで、可動マス2のボルト挿通孔14に上方からボルト15を通した状態で、ボルト15の先端側が可動マス2の下方へ突出する長さを、仮に、ボルト突出寸法Lという。
【0071】
可動子取り付け工程では、隙間16の寸法Wが、ボルト突出寸法Lに比して、ボルト15のねじピッチの数ピッチ分、小さくなっている場合は、可動マス2のボルト挿通孔14に上方より通したボルト15の先端側を、ベース3上に載置された可動子12のねじ穴13に螺着させることが可能である。
【0072】
よって、この場合は、作業者は、可動マス2の上方からの操作として、可動マス2の各ボルト挿通孔14にボルト15をそれぞれ通し、各ボルト15の先端側を可動子12のねじ穴13に螺着させる。次に、作業者は、各ボルト15を、ねじ穴13に対するねじ込み方向に回転させる作業を行う。これにより、可動子12は、各ねじ穴13にねじ込まれる各ボルト15により、可動マス2の下側に接する位置まで引き上げられ、この状態で、各ねじ穴13に対するボルト15の締め込みが行われるので、可動子12は可動マス2に固定される。
【0073】
一方、可動子取り付け工程では、
図5(a)に示すように、隙間16の寸法Wが、ボルト突出寸法Lと同等か、または、ボルト突出寸法Lよりも大となる場合がある。
【0074】
この場合は、可動子固定用のボルト15を可動マス2のボルト挿通孔14に上方より通しても、ベース3上に載置された可動子12のねじ穴13に届かない。
【0075】
よって、この場合は、
図5(b)に示す如く、可動子固定用のボルト15よりも長く、且つ以下の2つの条件を満たす長さ寸法を有する可動子引き上げ用のボルト17を、複数本用意する。
【0076】
ボルト17の長さ寸法を規定する第1の条件は、
図5(b)に示すように、可動マス2のボルト挿通孔14に上方から通したボルト17の先端側を、ベース3上に載置された可動子12のねじ穴13に螺着させることができるという条件である。
【0077】
ボルト17の長さ寸法を規定する第2の条件は、
図5(d)に示すように、可動マス2のボルト挿通孔14に上方から通したボルト17を、可動子12のねじ穴13にねじ込むことで、可動子12を、可動マス2のボルト挿通孔14に上方より通した可動子固定用のボルト15の先端側を可動子12のねじ穴13に螺着させることが可能となる高さ位置まで引き上げることができる、という条件である。
【0078】
以上の長さ寸法を有するボルト17を用いて可動子取り付け工程を行う場合は、作業者は、先ず、
図5(b)に示すように、可動マス2の各ボルト挿通孔14のうちの複数のボルト挿通孔14に、上方からボルト17を通して、各ボルト17の先端側を、可動子12の対応するねじ穴13に螺着させる。この際、各ボルト17の配置は、後で可動子12を引き上げるときの可動子12を支持する位置のバランスを考慮して、たとえば、可動子12の四隅に近い配置の4つのねじ穴13に螺着させるなど、分散された配置とすることが好ましい。しかし、可動子12をほぼ水平な姿勢で引き上げることができれば、複数のボルト17を螺着させる可動子12のねじ穴13の配置や数は自在に設定してよいことは勿論である。
【0079】
次に、作業者は、各ボルト17を、ねじ穴13に対するねじ込み方向に回転させる作業を行う。これにより、
図5(c)に示すように、可動子12は、各ねじ穴13にねじ込まれる各ボルト17により、ベース3に接する位置から上方へ引き上げられる。更に、前記したボルト17の長さ寸法を規定する第2の条件に基づき、可動子12は、可動マス2のボルト挿通孔14に上方より通した可動子固定用のボルト15の先端側を可動子12のねじ穴13に螺着させることが可能となる高さ位置に配置される。
【0080】
次いで、作業者は、
図5(d)に示すように、可動マス2の各ボルト挿通孔14のうち、ボルト17が配置されていない各ボルト挿通孔14に、上方からボルト15を通して、各ボルト15の先端側を可動子12の対応するねじ穴13に螺着させる。
【0081】
更に、作業者は、各ボルト15を、ねじ穴13に対するねじ込み方向に回転させる作業を行う。これにより、
図5(e)に示すように、可動子12は、各ねじ穴13にねじ込まれる各ボルト15により、可動マス2の下側に接する位置まで引き上げられる。
【0082】
その後、作業者は、可動子引き上げ用のボルト17を緩めて上方へ取り外すと共に、このボルト17の取り外しによって空いた可動マス2の各ボルト挿通孔14に、
図5(f)に示すように、上方からボルト15を通して、可動子12の対応する各ねじ穴13にねじ込む作業を行う。
【0083】
しかる後、作業者は、各ボルト15を、可動子12の各ねじ穴13に対し締め込む作業を行う。これにより、可動子12は、すべてのねじ穴13にボルト15が締め付けられた状態で、可動マス2に固定される。
【0084】
なお、可動子引き上げ用のボルト17を可動子固定用のボルト15に替える作業は、
図5(d)に示すように、可動マス2の複数のボルト挿通孔14に上方からボルト15を通して、各ボルト15の先端側を可動子12の対応するねじ穴13に螺着させた以降であれば、いつ行ってもよいことは勿論である。
【0085】
また、隙間16の寸法Wが、ボルト突出寸法Lと同等か、または、ボルト突出寸法Lよりも大となる場合、可動子取り付け工程は、
図6(a)~(e)に示す手順で行うようにしてもよい。
【0086】
すなわち、
図6(a)に示すように、隙間16の寸法Wが、二点鎖線で示す可動子固定用のボルト15のボルト突出寸法Lと同等か、または、ボルト突出寸法Lよりも大となる場合は、
図6(b)に示す如き、可動子固定用のボルト15の全長よりも長く且つ頭部のないおねじ部品である寸切りボルト18と、この寸切りボルト18に螺着可能なナット19と、寸切りボルト18に対応するサイズの座金20を複数組用意する。
【0087】
以上の寸切りボルト18とナット19と座金20を用いて可動子取り付け工程を行う場合は、作業者は、先ず、
図6(b)に示すように、可動マス2の各ボルト挿通孔14のうちの複数のボルト挿通孔14に、上方から寸切りボルト18を通して、各寸切りボルト18の下端側を、可動子12の対応するねじ穴13に螺着させる。この際、各寸切りボルト18の配置は、
図5(a)~(f)で説明した可動子取り付け工程におけるボルト17の配置と同様に設定すればよい。
【0088】
次に、作業者は、各寸切りボルト18の上端側から、座金20を嵌めると共に、ナット19を螺着させて、各ナット19を各寸切りボルト18に対し締め込む方向に回転させる作業を行う。
【0089】
これにより、
図6(c)に示すように、可動子12は、各ねじ穴13に取り付けられた各寸切りボルト18と共に、ベース3に接する位置から、可動マス2の下側に接する位置まで引き上げられる。
【0090】
次いで、作業者は、
図6(d)に示すように、可動マス2の各ボルト挿通孔14のうち、寸切りボルト18が配置されていない各ボルト挿通孔14に、上方からボルト15を通して、各ボルト15の先端側を可動子12の対応するねじ穴13にそれぞれ螺着させて、締める。
【0091】
その後、作業者は、可動子12の複数のねじ穴13から寸切りボルト18を緩めて上方へ取り外すと共に、この寸切りボルト18の取り外しによって空いた可動マス2の各ボルト挿通孔14に、
図5(e)に示すように、上方からボルト15を通して、可動子12の対応する各ねじ穴13にねじ込む作業を行う。
【0092】
これにより、可動子12は、すべてのねじ穴13にボルト15が締め付けられた状態で、可動マス2に固定される。
【0093】
したがって、本実施形態の制振装置1は、前記した整備方法を実施することで、リニアモータ5の可動子12を取り外して、点検、修理、あるいは、交換による整備を行うことができる。また、この整備方法では、リニアモータ5の整備を行う際に、固定子8のベース3からの取り外しと取り付けの作業は、固定子8の上方から行うことができ、可動子12の可動マス2からの取り外しと取り付けの作業は、可動マス2の上方から行うことができる。
【0094】
このため、本実施形態の制振装置1は、リニアモータ5の整備を行うときに、可動マス2をガイド装置4から取り外す必要はない。したがって、本実施形態の制振装置1は、リニアモータ5の整備について、可動マス2の保管場所を別途用意する必要はなく、また、可動マス2を保管場所まで搬送するためのクレーンも不要であることから、リニアモータの整備性の向上化を図ることができる。
【0095】
[第2実施形態]
図7は、制振装置の第2実施形態を示すもので、
図7(a)は、概略平面図、
図7(b)は、概略側面図である。
図8は、
図7(b)のB-B方向矢視図である。
図9は、可動子座を示すもので、
図9(a)は、概略平面図、
図9(b)は、概略切断側面図である。
図10は、可動子座および可動マスをX方向の一端側に寄せて配置した状態を示す概略平面図である。
【0096】
なお、
図7(a)(b)、
図8、
図9(a)(b)、
図10において、第1実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0097】
本実施形態の制振装置は、
図7(a)(b)、
図8に符号1aで示すもので、第1実施形態と同様の構成において、ガイド装置4によって可動マス2が支持され、リニアモータ5の可動子12が可動マス2の下側に取り付けられた構成に代えて、ガイド装置4に支持された可動子座21を備えると共に、リニアモータ5の可動子12が可動子座21の下側に取り付けられた構成を備えて、可動マス2aが、可動子座21の上側に載置される構成としたものである。よって、本実施形態では、リニアモータ5で駆動されるのは、可動子座21および可動マス2aであり、その往復移動方向をX方向として説明する。
【0098】
可動子座21は、
図9(a)(b)に示すように、矩形のプレート状の部材であり、上面が、
図9(b)に二点鎖線で示す可動マス2aの載置面とされている。なお、図示しないが、可動子座21の上面側と、可動マス2aの下面側には、相互に係合するピンとピン穴などの係合部を備えた構成とされている。これにより、可動子座21に載置された可動マス2aに、可動マス2aの質量に応じた水平方向の慣性力が作用しても、可動子座21と可動マス2aとの水平方向の相対変位が防止される。
【0099】
また、可動子座21は、下面側の四隅部に、各ガイド装置4の2個ずつの計4個のブロック7が取り付けられている。これにより、可動子座21は、対応するブロック7を介して、レール6にX方向に往復移動可能に保持される。
【0100】
本実施形態では、リニアモータ5のコイルを備えた可動子12は、可動子座21の下側に取り付けられる。
【0101】
そのため、可動子座21には、可動子12の各ねじ穴13と対応する位置に、上下方向に貫通し、上端側開口の周囲にざぐりを備えたボルト挿通孔14aが設けられている。
【0102】
リニアモータ5は、可動マス2aのボルト挿通孔14aに上方から通した可動子固定用のボルト15aの先端側を、可動子12の対応するねじ穴13に螺着させて締めることで、可動子12が、可動子座21の下側に取り付けられている。
【0103】
したがって、リニアモータ5は、可動子座21の上方からの操作により、可動子12の可動子座21への取り付けに用いられているボルト15aを緩めて取り外すことで、可動子12の可動マス2aに対する固定を解除することができる。
【0104】
リニアモータ5は、ベース3の上面に取り付けられた固定子8と、可動子座21の下側に取り付けられた可動子12との隙間は、第1実施形態におけるリニアモータ5と同様に、1mm程度に保持されている。
【0105】
本実施形態では、可動マス2aは、
図8に示すように、可動マス2aのY方向の両端縁部が、可動子座21のY方向の両端部より、Y方向の両外側へ設定された寸法で張り出すように、可動マスのY方向の寸法が設定されている。更に、可動マス2aは、Y方向の両端縁部における可動子座21よりもY方向の両外側に張り出す領域であって、可動マス2aの四隅部の下面側となる4個所に、ジャッキアップポイント22が設けられている。
【0106】
これにより、本実施形態の制振装置1aは、可動マス2aの各ジャッキアップポイント22の真下となる位置に、
図8に二点鎖線で示すように、ジャッキ23をそれぞれ配置し、次いで、各ジャッキ23を伸長作動させて、可動マス2aのジャッキアップポイント22を下方から押し上げることにより、
図8に一点鎖線で示すように、可動マス2aのジャッキアップ処理を行うことができる。よって、本実施形態の制振装置1では、可動マス2aのジャッキアップ処理を行うことにより、可動マス2aの重量を、可動子座21から各ジャッキ23へ受け代えることができて、可動子座21による可動マス2aの支持を解除することができる。
【0107】
この際、本実施形態の制振装置1aは、可動マス2aのジャッキアップ処理を、
図10に示すように、可動マス2aをX方向の一端側へ寄せて配置した状態で行うことにより、可動マス2aの支持が解除された可動子座21を、可動マス2aの下方となるX方向の一端側の位置と、二点鎖線で示す如きX方向の他端側の位置との間で移動させることができる。
【0108】
よって本実施形態の制振装置1aは、この状態で、第1実施形態の制振装置1におけるリニアモータ5の整備方法と同様の手順により、リニアモータ5の整備方法を実施することができる。
【0109】
なお、本実施形態におけるリニアモータ5の整備方法は、第1実施形態で説明した整備方法における、可動マス2、ボルト挿通孔14、可動子固定用のボルト15を、それぞれ可動子座21、ボルト挿通孔14a、可動子固定用のボルト15aに置き換えるようにすればよい。
【0110】
更に、本実施形態では、リニアモータ5の整備が完了した後、可動マス2aの下方に可動子座21を配置し、次いで、可動マス2aのジャッキアップを解除すれば、本実施形態の制振装置1aは、初期状態と同様の構成に復帰させることができる。
【0111】
したがって、本実施形態の制振装置1aは、第1実施形態と同様にリニアモータ5の整備を行うことができて、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0112】
なお、本開示の制振装置、および、制振装置の整備方法は、前記各実施形態にのみ限定されるものではない。
【0113】
各実施形態の制振装置1,1aについて、各図に示した各構成機器の配置、形状、サイズ、各構成機器同士のサイズの比は、図示するための便宜上のものであって、実際の各構成機器の配置、形状、サイズ、各構成機器同士のサイズの比を反映したものではない。
【0114】
リニアモータ5の固定子8のベース3への取り付けは、固定子固定用のボルト11を用いるものとして説明したが、ベース3の上面に対して固定子8を取り外し可能な状態で固定することができれば、ボルト以外の固定装置により固定した構成を採用してもよい。
【0115】
本開示の制振装置、および、制振装置の整備方法は、可動マスのX方向の往復動作に必要とされる駆動力の大きさに応じて、Y方向に複数台のリニアモータを備えた形式の制振装置に適用してもよい。また、本開示の制振装置、および、制振装置の整備方法は、可動マスの重量の大きさに応じて、ベース上に、Y方向に設定された間隔を隔てて3台以上の複数台のガイド装置を備えて、可動マスを保持する形式の制振装置に適用してもよい。更に、本開示の制振装置、および、制振装置の整備方法は、Y方向に設定された間隔を隔てて3台以上の複数台のガイド装置を備える形式であって、Y方向に隣接するガイド装置同士の間ごとにリニアモータを備える形式の制振装置に適用してもよい。
【0116】
本開示の制振装置、および、制振装置の整備方法は、1台のリニアモータが、共通の固定子8に対して同期して動作する複数の可動子を備える形式の制振装置に適用してもよい。この場合、複数の可動子の配置は、X方向に並ぶ配置でもよいし、Y方向に並ぶ配置でもよいし、X方向およびY方向に配列されていてもよい。また、本開示の制振装置、および、制振装置の整備方法は、1台のリニアモータが、X方向に配列された固定子の列を、Y方向に複数列備える形式の制振装置に適用してもよい。
【0117】
更に、本開示の制振装置、および、制振装置の整備方法は、可動マスを載置する可動子座がX方向に複数分割され、各可動子座の分割体に個別の可動子が取り付けられた形式の制振装置に適用してもよい。この場合は、X方向に配列された複数の可動子座の分割体のうち、X方向の一端寄りの分割体と、他端寄りの分割体とに区分して、リニアモータの可動子の取り外しと取り付けの作業を、それぞれX方向の一端側の領域と、他端側の領域で分けて行うようにしてもよい。
【0118】
第2実施形態では、ベース3が、可動マス2aのジャッキアップに用いるジャッキ23を配置するジャッキ受けを備えた構成として、可動マス2aのジャッキアップを行うときに、可動マス2aの荷重を、ジャッキ23を介してベース3で受ける構成としてもよい。
【0119】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0120】
2,2a 可動マス
3 ベース
4 ガイド装置
5 リニアモータ
8 固定子
11 ボルト(固定装置)
12 可動子
13 ねじ穴
14,14a ボルト挿通孔
15,15a ボルト
21 可動子座
22 ジャッキアップポイント