IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 美津濃株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ 図1
  • 特許-ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ 図2
  • 特許-ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ 図3
  • 特許-ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ 図4
  • 特許-ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ 図5
  • 特許-ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ 図6
  • 特許-ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ 図7
  • 特許-ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20220629BHJP
【FI】
A63B53/04 C
A63B53/04 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019238737
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021106675
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 圭
【審査官】石原 豊
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-245352(JP,A)
【文献】特開平10-000250(JP,A)
【文献】特開2011-104123(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0127300(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B53/00-53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース部を備え、
前記フェース部は、第1面を有するベース部と、前記第1面上に配置されておりかつ打球面を有する表面層とを含み、
前記ベース部を構成する材料は鋼あるいはマルエージング鋼または炭素鋼であり、前記ベース部を構成する材料中のクロムの含有量は0重量%以上11重量%未満であり、
前記打球面の任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値が0.48μm以下であり、
前記表面層を構成する材料は、前記ベース部を構成する材料よりも高い防錆性を有しており、
前記ベース部の表面の、任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値が0.43μm以下である、ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記打球面の任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの標準偏差が0.20μm以下である、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記ベース部を構成する材料は、マルエージング鋼である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
シャフトと、
前記シャフトの一方端に取り付けられたグリップと、
前記シャフトの前記グリップと反対側の他方端に取り付けられた請求項1~のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッドとを備えた、ゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なゴルフクラブヘッドのフェース部は、鉄系材料により構成されており、このような鉄系材料としてマルエージング鋼および析出硬化型ステンレス鋼が知られている。
【0003】
近年、ウッド型ゴルフクラブヘッドのフェース部には、高反発性、高耐久性、および高防錆性が求められている。析出硬化型ステンレス鋼およびマルエージング鋼はいずれも高強度であるため、これらを薄肉化することにより高反発性および高耐久性が実現され得る。しかし、マルエージング鋼は、析出硬化型ステンレス鋼と比べて錆びやすい。そのため、高反発性、高耐久性、および高防錆性が求められるウッド型ゴルフクラブヘッドのフェース部には、一般的に析出硬化型ステンレス鋼が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2004-531642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、構成材料に析出硬化型ステンレス鋼を含むゴルフクラブヘッドの製造コストは、構成材料にマルエージング鋼を含むゴルフクラブヘッドの製造コストと比べて、一般的に高くなる。これは、析出硬化型ステンレス鋼は高価な添加元素であるクロム(Cr)を比較的多く含有しており、また析出硬化型ステンレス鋼の汎用性が比較的低いためである。
【0006】
また、マルエージング鋼から成るベース部と、該ベース部の表面に形成されたイオンプレーティング層との積層体として構成されたベース部を備えるウッド型ゴルフクラブヘッドも知られている。しかしながら、本発明者らは、このようなゴルフクラブヘッドのうち、イオンプレーティング層を構成する材料の防錆性がベース部を構成する材料の防錆性よりも高いものであっても、該フェース部の防錆性が十分に高くないことを確認した。
【0007】
本発明の主たる目的は、マルエージング鋼から成るベース部とイオンプレーティング層との積層体として構成された従来のゴルフクラブヘッドのフェース部と比べて防錆性が高いフェース部を備えるゴルフクラブヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゴルフクラブヘッドは、フェース部を備える。フェース部は、第1面を有するベース部と、第1面上に配置されておりかつ打球面を有する表面層とを含む。ベース部を構成する材料は鉄を含み、ベース部を構成する材料中のクロムの含有量は11重量%未満である。打球面の任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値が0.60μm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マルエージング鋼から成るベース部とイオンプレーティング層との積層体として構成された従来のゴルフクラブヘッドのフェース部と比べて防錆性が高いフェース部を備えるゴルフクラブヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係るウッド型ゴルフクラブヘッドを示す正面図である。
図2図1に示されるウッド型ゴルフクラブヘッドのフェース部の、矢印II-IIから視た部分断面図である。
図3図1に示されるウッド型ゴルフクラブヘッドから表面層を選択的に除去することによって得られた本体部の正面図である。
図4】本実施の形態に係るゴルフクラブを示す斜視図である。
図5】塩水噴霧試験後の試料1を示す写真である。
図6】塩水噴霧試験後の試料4を示す写真である。
図7】塩水噴霧試験後の試料6を示す写真である。
図8】塩水噴霧試験後の試料8を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0012】
<ウッド型ゴルフクラブヘッドの構成>
図1に示される本実施の形態に係るゴルフクラブヘッドは、フェアウェイウッドに用いられるウッド型ゴルフクラブヘッド100として構成されている。なお、ウッド型ゴルフクラブヘッド100は、ドライバーゴルフクラブに用いられるウッド型ゴルフクラブヘッドとして構成されていてもよいし、ユーティリティクラブに用いられるハイブリッドゴルフヘッドとして構成されていてもよい。また、本実施の形態に係るゴルフクラブヘッドは、ウッド型ゴルフクラブヘッドに限られるものではなく、アイアンゴルフクラブヘッドであってもよい。
【0013】
図1に示されるように、ウッド型ゴルフクラブヘッド100は、フェース部1、トウ部2、ヒール部3、クラウン部4、ソール部5、図示しないバック部、およびホーゼル部6とを含む。フェース部1、トウ部2、ヒール部3、クラウン部4、ソール部5、図示しないバック部、およびホーゼル部6は、一体として構成されている。ホーゼル部6には、後述するゴルフクラブ200においてシャフト110が接続される。
【0014】
フェース部1は、打球面1Aを有し、ウッド型ゴルフクラブヘッド100の前方側に位置する。打球面1Aには、例えば図示しない複数のスコアラインが形成されている。トウ部2は、打球面1Aに対してヒール部3と反対側の端部に位置する。ヒール部3は、打球面1Aに対してホーゼル部6(言い換えると、シャフト110(図5参照))側の端部に位置する。クラウン部4はフェース部1に対して上方に位置する。ソール部5はフェース部1に対して下方に位置する。バック部は、フェース部1よりも後方側に位置する。クラウン部4およびソール部5はフェース部1とバック部とを接続している。ウッド型ゴルフクラブヘッド100は、フェース部1とバック部との間であって、クラウン部4とソール部5との間に、中空領域を有している。
【0015】
以下、トウ部2からフェース部1を経てヒール部3に向かう方向をトウヒール方向とよぶ。クラウン部4からフェース部1を経てソール部5に向かう方向をクラウンソール方向とよぶ。フェース部1からバック部に向かう方向をフェースバック方向とよぶ。
【0016】
図2に示されるように、フェース部1は、ベース部11と、表面層12とを含む。ベース部11は、裏面1Bと、裏面1Bとは反対側に位置する第1面11Aとを有している。第1面11Aは、例えば打球面1Aと平行である。ベース部11の厚み、すなわちベース部11の第1面11Aと裏面1Bとの間の最短距離は、例えば1.6mm以上2.2mm以下である。ベース部11を構成する材料は、鉄(Fe)を含む。ベース部11を構成する材料中のクロム(Cr)の含有量は11重量%未満である。ベース部11を構成する材料は、ステンレス鋼以外の鋼であり、例えばマルエージング鋼または炭素鋼である。第1面11Aは、研磨処理により表面が平滑化された面である。研磨処理は、例えば研磨紙を用いた研磨である。なお、打球面1Aは、例えば研磨されていない面である。
【0017】
表面層12は、ベース部11の第1面11A上に配置されている。表面層12は、打球面1Aと、打球面1Aとは反対側に位置し第1面11Aと接触している面とを有している。言い換えると、表面層12において第1面11Aと接触している面とは反対側の面が、打球面1Aを成している。表面層12の厚み、すなわち打球面1Aと第1面11Aとの間の最短距離は、ベース部11の上記厚み未満であり、例えば1μm程度である。
【0018】
表面層12は、ベース部11に対して高い防錆性を与えている。すなわち、JIS Z 2371 2015に規定された塩水噴霧試験方法において、表面層12を構成する材料から成る試験片の腐食面積は、ベース部11を構成する材料から成る試験片の腐食面積よりも小さい。表面層12を構成する材料は、ベース部11を構成する材料よりも高い防錆性を有する任意の材料であればよいが、例えば窒化チタン(TiN)または炭化チタン(TiC)を含む。
【0019】
表面層12は、例えば上記のように研磨された第1面11A上にイオンプレーティングによって形成されたイオンプレーティング層である。なお、表面層12の形成方法は、イオンプレーティングに限られるものではなく、イオンプレーティング、スパッタリング、または電子ビーム蒸着等の任意の物理蒸着(PVD)法により形成されていてもよい。
【0020】
以下では、ウッド型ゴルフクラブヘッド100のうち、表面層12以外の他の部材、すなわち、ベース部11、トウ部2、ヒール部3、クラウン部4、ソール部5、バック部、およびホーゼル部6を、本体部10(図3参照)とよぶ。表面層12は、例えば一体的に成型された本体部10の第1面11A上に成膜される。
【0021】
なお、ウッド型ゴルフクラブヘッド100では、フェース部1以外の部分も、ベース部およびイオンプレーティング層を含んでいてもよい。例えば、図2に示されるように、ソール部5は、上記ベース部11と一体として構成されたベース部51と、表面層12と一体として構成された表面層52とを含んでいてもよい。ソール部5の表面層は、例えばフェースバック方向においてフェース部1側に位置する部分にのみ形成されている。
【0022】
<打球面および第1面の表面粗さ>
打球面1Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値は、0.60μm以下である。打球面1Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの標準偏差は、0.20μm以下である。打球面1Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの最大値は、1.00μm未満である。
【0023】
打球面1Aの任意の複数点は、トウヒール方向およびクラウンソール方向の少なくともいずれかにおいて互いに間隔を隔てて配置されている複数点として任意に選択され得る。複数点は、2以上の点であればよいが、例えば3以上の点である。打球面1Aの任意の複数点は、例えばトウヒール方向における打球面1Aの中央領域から任意に選択された1点、該中央領域よりもトウ部2側に位置するトウ側領域から任意に選択された1点、および該中央領域よりもヒール部3側に位置するヒール側領域から任意に選択された1点を含む。あるいは、打球面1Aの任意の複数点は、例えばクラウンソール方向における打球面1Aの中央領域から任意に選択された1点、該中央領域よりもクラウン部4側に位置するクラウン側領域から任意に選択された1点、および該中央領域よりもソール部5側に位置するソール側領域から任意に選択された1点を含む。
【0024】
各算術平均粗さRaは、JIS B 0601 2013に規定された算術平均粗さRaであり、当該規格に基づいて測定された粗さ曲線から算出された値である。粗さ曲線の方向は、特に制限されるものではないが、例えばクラウンソール方向に沿っている。
【0025】
好ましくは、打球面1Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値は、0.45μm以下である。好ましくは、打球面1Aの任意の複数点で測定された各算術平均粗さRaは、0.60μm以下である。打球面1Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの標準偏差は、好ましくは0.15μm以下であり、より好ましくは0.10μm以下である。
【0026】
打球面1Aの任意の複数点で測定された最大高さRyの平均値は、5.00μm以下である。打球面1Aの任意の複数点で測定された各最大高さRyは、5.50μm以下である。打球面1Aの任意の複数点で測定された最大高さRyの標準偏差は、1.50μm以下である。
【0027】
各最大高さRyは、JIS B 0601 1994に規定された最大高さRyであり、上述した算術平均粗さRaの算出に用いられた粗さ曲線から算出された値である。
【0028】
好ましくは、打球面1Aの任意の複数点で測定された最大高さRyの平均値は、4.00μm以下である。好ましくは、打球面1Aの任意の複数点で測定された各最大高さRyは、5.00μm以下である。打球面1Aの任意の複数点で測定された最大高さRyの標準偏差は、好ましくは1.10μm以下であり、より好ましくは1.00μm以下である。
【0029】
以上のように、打球面1Aの算術平均粗さRaおよび最大高さRyは、トウヒール方向およびクラウンソール方向において、一様である。異なる観点から言えば、打球面1Aは、全体的に一様に平滑化されている。打球面1Aの算術平均粗さRaは、クラウン部4の表面の算術平均粗さRaよりも小さい。
【0030】
図3は、ウッド型ゴルフクラブヘッド100から表面層12を選択的に除去することによって得られた本体部10の正面図である。なお、図3において後述する第3面11C上の環状線は、後述するベース部11と鋳造本体との溶接箇所を示している。
【0031】
ウッド型ゴルフクラブヘッド100から表面層12を選択的に除去した後に得られるベース部11の表面を、第3面11Cとする。ウッド型ゴルフクラブヘッド100から表面層12を選択的に除去した後の第3面11Cの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値は、0.60μm以下である。上記第3面11Cの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの標準偏差は、0.20μm以下である。上記第3面11Cの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの最大値は、1.00μm未満である。
【0032】
好ましくは、上記第3面11Cの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値は、0.45μm以下である。好ましくは、上記第3面11Cの任意の複数点で測定された各算術平均粗さRaは、0.60μm以下である。上記第3面11Cの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの標準偏差は、好ましくは0.15μm以下であり、より好ましくは0.10μm以下である。
【0033】
上記第3面11Cの任意の複数点で測定された最大高さRyの平均値は、5.00μm以下である。上記第3面11Cの任意の複数点で測定された各最大高さRyは、5.50μm以下である。上記第3面11Cの任意の複数点で測定された最大高さRyの標準偏差は、1.50μm以下である。
【0034】
好ましくは、上記第3面11Cの任意の複数点で測定された最大高さRyの平均値は、4.00μm以下である。好ましくは、上記第3面11Cの任意の複数点で測定された各最大高さRyは、5.00μm以下である。上記第3面11Cの任意の複数点で測定された最大高さRyの標準偏差は、好ましくは1.10μm以下であり、より好ましくは1.00μm以下である。
【0035】
上記除去処理は、ベース部11に対する表面層12のエッチング選択比が高いエッチング処理である。該エッチング処理に用いられるエッチャントは、ベース部11および表面層12を構成する材料に応じて任意に選択され得る。例えば、ベース部11を構成する材料がマルエージング鋼であり、かつ表面層12を構成する材料がTiCである場合、エッチャントは過酸化水素水である。
【0036】
以上のように、第3面11Cの算術平均粗さRaおよび最大高さRyは、トウヒール方向およびクラウンソール方向において、一様である。
【0037】
<ウッド型ゴルフクラブヘッドの製造方法>
次に、ウッド型ゴルフクラブヘッド100の製造方法の一例を説明する。ウッド型ゴルフクラブヘッド100の製造方法では、ベース部11を含む本体部10を準備する工程と、ベース部11を研磨することにより第1面11Aを形成する工程と、第1面11A上に表面層12を形成する工程とが順に実施される。
【0038】
本体部10を準備する工程では、まず、プレス加工により成型されたベース部11と、鋳造により一体に成型されたトウ部2、ヒール部3、クラウン部4、ソール部5、バック部、およびホーゼル部となるべき鋳造本体とが準備される。次に、ベース部11と鋳造本体とが溶接される。これにより、上記中空領域が設けられた本体部10が準備される。
【0039】
ベース部11を研磨することにより第1面11Aを形成する工程は、第1研磨工程と、第1研磨工程後に実施される第2研磨工程とを含む。
【0040】
第1研磨工程では、本体部10に含まれるベース部11において第1面11Aとなるべき表面が、研磨紙によって研磨される。研磨紙の番手は、例えばJIS R 6011に規定される320である。なお、研磨紙の番手は、例えばJIS R 6011に規定される240、360、400、または500であってもよい。
【0041】
第2研磨工程では、上記第1研磨工程により研磨された上記表面が、いわゆるバフおよび研磨剤を用いて研磨される。バフは、多孔質部材であり、例えばスポンジである。研磨剤は、例えば粒度がJIS R 6011に規定される180であるダイヤモンド研磨剤を含む懸濁液である。
【0042】
上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値は、0.60μm以下である。上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの標準偏差は、0.20μm以下である。上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの最大値は、1.00μm未満である。
【0043】
好ましくは、上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値は、0.45μm以下である。好ましくは、上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された各算術平均粗さRaは、0.60μm以下である。上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの標準偏差は、好ましくは0.15μm以下であり、より好ましくは0.10μm以下である。
【0044】
上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された最大高さRyの平均値は、5.00μm以下である。上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された各最大高さRyは、5.50μm以下である。上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された最大高さRyの標準偏差は、1.50μm以下である。
【0045】
好ましくは、上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された最大高さRyの平均値は、4.00μm以下である。好ましくは、上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された各最大高さRyは、5.00μm以下である。上記研磨後であって表面層12が形成される前の第1面11Aの任意の複数点で測定された最大高さRyの標準偏差は、好ましくは1.10μm以下であり、より好ましくは1.00μm以下である。
【0046】
このように、本工程では、トウヒール方向およびクラウンソール方向において一様に平滑化された第1面11Aが形成される。
【0047】
第1面11A上に表面層12を形成する工程では、表面層12が例えばイオンプレーティングにより形成される。上述のように、表面層12を形成する方法は、イオンプレーティングに限られるものではないが、好ましくはイオンプレーティング、スパッタリング、または電子ビーム蒸着等の物理蒸着法である。イオンプレーティング後、打球面1Aに対する研磨工程は実施されない。以上のようにして、ウッド型ゴルフクラブヘッド100が製造される。
【0048】
<コルフクラブの構成>
図4は、ゴルフクラブヘッド100を備えるゴルフクラブ200を示す図である。図4に示されるように、ゴルフクラブ200は、ゴルフクラブヘッド100と、シャフト110と、グリップ120とを備える。シャフト110の一方端は、ゴルフクラブヘッド100のホーゼル部6に取り付けられている。
【0049】
<作用効果>
ウッド型ゴルフクラブヘッド100は、フェース部1を備える。フェース部1は、第1面11Aを有するベース部11と、第1面11A上に配置されておりかつ打球面1Aを有する表面層12とを含む。ベース部11を構成する材料はFeを含み、ベース部11を構成する材料中のCrの含有量は11重量%未満である。打球面1Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値が0.60μm以下である。
【0050】
本発明者らは、ウッド型ゴルフクラブヘッド100のフェース部1の防錆性が、マルエージング鋼から成るベース部とイオンプレーティング層との積層体として構成された従来のウッド型ゴルフクラブヘッドのフェース部の防錆性と比べて高いことを確認した。具体的には、本発明者らは、ベース部とイオンプレーティング層との積層体として構成された従来のウッド型ゴルフクラブヘッドの打球面の任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの上記平均値が0.60μmよりも大きいこと、ならびに、上記平均値が0.60μm以下であるウッド型ゴルフクラブヘッドおよび上記平均値が0.60μmよりも大きいウッド型ゴルフクラブヘッドに対し同等の試験条件にて塩水噴霧試験を行った結果、前者の腐食面積が後者の腐食面積よりも小さいことを確認した。詳細は後述する。
【0051】
つまり、ウッド型ゴルフクラブヘッド100は、構成材料に析出硬化型ステンレス鋼を含む従来のウッド型ゴルフクラブヘッドと比べて、ベース部とイオンプレーティング層との積層体として構成された従来のウッド型ゴルフクラブヘッドのフェース部と比べて防錆性が高いフェース部1を備えている。
【0052】
ウッド型ゴルフクラブヘッド100において、打球面1Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの標準偏差は、0.20μm以下である。
【0053】
このようにすれば、打球面1Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの標準偏差が0.20μmよりも大きい場合と比べて、防錆性およびスピン特性などの算術平均粗さRaに由来する特性のトウヒール方向におけるばらつきが抑制されている。
【0054】
ウッド型ゴルフクラブヘッド100では、ベース部11に対する表面層12のエッチング選択比が高いエッチング処理によって表面層12を除去した後に表出した第3面11Cの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値は、0.60μm以下である。
【0055】
本発明者らは、打球面1Aの算術平均粗さRaが第1面11Aの算術平均粗さRaに依存することを確認した。さらに、本発明者らは、第1面11Aの算術平均粗さRaが第3面11Cの算術平均粗さRaと略同等となるため、第1面11Aの算術平均粗さRaが第3面11Cの算術平均粗さRaから見積もられることを確認した。
【0056】
例えば、第1面11Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値が0.60μm以下であれば、該第1面11A上にイオンプレーティングにより形成された表面層12の打球面1Aの任意の複数点で測定された表面粗さRaの平均値も、0.60μm以下であった。さらに、このとき、第3面11Cの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値も0.60μm以下であった。
【0057】
一方、第1面11Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値が0.60μmよりも大きければ、該第1面11A上にイオンプレーティングにより形成された表面層12の打球面1Aの任意の複数点で測定された表面粗さRaの平均値も、0.60μmよりも大きかった。このとき、第3面11Cの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの平均値も0.60μmよりも大きかった。詳細は後述する。
【0058】
ウッド型ゴルフクラブヘッド100では、ベース部11を構成する材料はマルエージング鋼であってもよい。また、ウッド型ゴルフクラブヘッド100のフェース部1の防錆性は、打球面1Aの任意の複数点で測定された算術平均粗さRaの上記平均値が0.60μm以下であるため、析出硬化型ステンレス鋼から成るベース部とイオンプレーティング層との積層体として構成されておりかつ打球面の上記平均値が0.60μmよりも大きい従来のウッド型ゴルフクラブヘッドのフェース部の防錆性と比べて高い。
【実施例
【0059】
本発明者らは、ベース部を研磨して第1面を形成する工程での研磨条件と、第1面11Aの表面粗さおよび打球面1Aの表面粗さとの関係性を評価した。さらに、本発明者らは、打球面1Aの表面粗さと、ウッド型ゴルフクラブヘッド100の防錆性との関係性を評価した。
【0060】
<試料>
実施例として試料1~3が準備され、比較例として試料4~9が準備された。実施例と比較例との違いは、ベース部を研磨して第1面を形成する工程での研磨条件のみとした。試料1~9に係る各ウッド型ゴルフクラブヘッドでは、ベース部を構成する材料がマルエージング鋼、表面層を構成する材料はTiCとした。表1は、各試料のベース部を構成するマルエージング鋼の化学成分比を示す。各表面層はイオンプレーティング層とし、各表面層の厚みは1μmとした。
【0061】
【表1】
【0062】
試料1~3では、第1面を形成する工程において第1研磨工程および第2研磨工程が順に施された。試料1~3における第1研磨工程および第2研磨工程の各研磨条件は、互いに同一とした。第1研磨工程では、番手がJIS R 6011に規定される320である研磨紙が用いられた。第2研磨工程では、バフと、粒度がJIS R 6011に規定される180であるダイヤモンド研磨剤を含む懸濁液とが用いられた。
【0063】
試料4~9では、第1面を形成する工程において研磨工程が一回のみ施された。試料4および5における研磨条件は、互いに同一とした。試料4および5における研磨工程では、番手がJIS R 6011に規定される150である研磨紙が用いられた。試料6および7における研磨条件は、互いに同一とした。試料6および7における研磨工程では、番手がJIS R 6011に規定される240である研磨紙が用いられた。試料8および9における研磨条件は、互いに同一とした。試料8および9における研磨工程では、番手がJIS R 6011に規定される320である研磨紙が用いられた。つまり、試料8および9における第1面を形成する工程は、上記第2研磨工程が実施されなかった点でのみ、試料1~3におけるそれと異なるものとされた。
【0064】
<第1面、打球面、および第3面の表面粗さ>
試料1~3および試料4~9に係る各ウッド型ゴルフクラブヘッドの1組について、第1面を形成する工程後であって表面層を形成する工程前の第1面の表面粗さ、表面層を形成する工程後の打球面の表面粗さ、および表面層を形成する工程後に表面層を選択的に除去した後の第3面の表面粗さを、ミツトヨ製Surftest SJ-210を用いて測定した。各表面粗さは、算術平均粗さRaおよび最大高さRyとした。
【0065】
試料1~3および試料4~9において、表面層を選択的に除去する処理でのエッチング条件は互いに同一とした。エッチャントは過酸化水素水を用いた。エッチング時間は8~12時間とした。
【0066】
第1面、打球面、および第3面の各々の表面粗さの測定箇所は、第1面、打球面、および第3面の各々において、トウヒール方向における中央に位置する第1領域、第1領域よりも上記トウヒール方向のトウ側に位置する第2領域、および第1領域よりも上記トウヒール方向のヒール側に位置する第3領域の各々の内の1か所とした。なお、第1面、打球面、および第3面の各々での測定箇所は、打球面に垂直な方向において略重なる箇所とした。打球面での各測定箇所は、第1面での各測定箇所と打球面に垂直な方向において略重なる箇所とした。第3面での各測定箇所は、打球面での各測定箇所と略同じ箇所とした。各粗さ曲線の延在方向はクラウンソール方向に沿ったものとした。
【0067】
表2は、第1面を形成する工程後であって表面層を形成する工程前の第1面の表面粗さの測定結果を示す。表3は、表面層を形成する工程後の打球面の表面粗さの測定結果を示す。表4は、表面層を形成する工程後に表面層を選択的に除去した後の第3面の表面粗さの測定結果を示す。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
表2および表4に示されるように、試料4~9の各々の第1面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの平均値は0.60μmよりも大きかった。これに対し、試料1~3の各々の第1面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの平均値は0.60μm以下であった。
【0072】
表2に示されるように、表面層を形成する工程の前では、試料4~9の各々の第1面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの最小値は、0.63μmであった。表2に示されるように、試料1~3の各々の第1面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの最大値は0.53μmであった。
【0073】
表4に示されるように、表面層を除去する工程の後では、試料4~9の各々の第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの最小値は、0.57μmであった。表4に示されるように、試料1~3の各々の第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの最大値は0.52μmであった。
【0074】
表2および表4に示されるように、試料4~9の各々の第1面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の最大高さRyの平均値は、5.00μmより大きかった。これに対し、試料1~3の各々の第1面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の最大高さRyの平均値は、5.00μm以下であった。
【0075】
表2および表4に示されるように、試料1~3の各々の第1面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの標準偏差は0.20μm以下であった。試料1~3の各々の第1面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の最大高さRyの標準偏差は、1.50μm以下であった。
【0076】
表2および表4に示される測定結果から、表面層を形成する工程前の第1面の表面粗さは、表面層を除去する工程後の第1面の表面粗さと略等しいことが確認された。試料4~9間の対比から、研磨紙の番手が大きいほど第1面の表面粗さが小さかった。試料1~3と試料8および9との算術平均粗さRaの差、すなわち第2研磨工程による算術平均粗さRaの減少量は、試料6および試料7と試料8および試料9との算術平均粗さRaの差、すなわち第1研磨工程での研磨紙の番手240と番手320との違いによる変化量よりも大きかった。上記結果から、第1研磨工程で用いられる研磨紙の番手が320よりも小さい(例えば240である)場合であっても、その後に第2研磨工程が施されることにより、第1面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの平均値が0.60μm以下になり得ると推察される。
【0077】
表3に示されるように、試料4~9の各々の打球面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの平均値は0.60μmよりも大きかった。試料4~9の各々の打球面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの最小値は0.57μmであった。これに対し、試料1~3の各々の打球面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの平均値は0.60μm以下であった。試料1~3の各々の打球面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの最大値は0.56μmであった。
【0078】
表3に示されるように、試料4~9の各々の打球面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の最大高さRyの平均値は、5.00μmより大きかった。これに対し、試料1~3の各々の打球面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の最大高さRyの平均値は、5.00μm以下であった。
【0079】
表3に示されるように、試料1~3および試料4~9の各々の打球面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の算術平均粗さRaの標準偏差は0.20μm以下であった。試料1~3の各々の打球面および第3面の第1領域、第2領域、および第3領域の最大高さRyの標準偏差は、1.50μm以下であった。
【0080】
表2~表4に示される測定結果から、打球面の表面粗さは、表面層を形成する工程前の第1面の表面粗さおよび表面層を除去した後の第3面の表面粗さ、と正の相関関係にあることが確認された。
【0081】
<打球面の防錆性>
試料1~3および試料4~9に係る各ウッド型ゴルフクラブヘッドの残りの1組について、打球面の防錆性を評価した。具体的には、各ウッド型ゴルフクラブヘッドの打球面に対する塩水噴霧試験を行い、打球面における腐食面積を評価した。なお、塩水噴霧試験は、各ウッド型ゴルフクラブヘッドの打球面のうち、クラウンソール方向におけるクラウン部4側に位置する領域に樹脂製の粘着テープを貼り付けた状態で実施された。
【0082】
塩水噴霧試験は、JIS Z 2371 2015に規定された塩水噴霧試験方法と基本的に同様の方法で行った。
【0083】
図5は、塩水噴霧試験後の試料1を示す写真である。図6は、塩水噴霧試験後の試料4を示す写真である。図7は、塩水噴霧試験後の試料6を示す写真である。図8は、塩水噴霧試験後の試料8を示す写真である。
【0084】
図5図8に示されるように、試料1および試料4,6,8の各打球面に、錆が確認された。図5図8において、打球面内にて明るく変色している部分が、錆が生じた部分である。一方で、図5図8に示されるように、試料1の打球面において錆が生じた領域の面積(腐食面積)は、試料4,6,8の各打球面において錆が生じた領域の面積(腐食面積)よりも小さく、それらの約10%以下であった。つまり、試料1の打球面の防錆性は、試料4,6,8の各打球面の防錆性よりも高いことが確認された。
【0085】
以上の結果から、試料1~3の各ウッド型ゴルフクラブヘッドでは、上述した第1面の算術平均粗さRaの上記平均値が0.60μm以下であることにより、試料4~9に係るウッド型ゴルフクラブヘッドと比べてベース部に対する表面層の被覆性が向上し、表面層による防錆効果が高められていると考えられる。
【0086】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 フェース部、1A 打球面、1B 裏面、2 トウ部、3 ヒール部、4 クラウン部、5 ソール部、10 本体部、11 ベース部、11A 第1面、12 表面層、20 ホーゼル部、100 ウッド型ゴルフクラブヘッド、110 シャフト、120 グリップ、200 ゴルフクラブ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8