(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】アシルスズ化合物を含む重合性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/50 20060101AFI20220629BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20220629BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20220629BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20220629BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20220629BHJP
A61L 24/04 20060101ALI20220629BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C08F2/50
A61K6/62
A61L27/14
A61L27/34
A61L27/40
A61L24/04
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2019512730
(86)(22)【出願日】2017-09-04
(86)【国際出願番号】 EP2017072099
(87)【国際公開番号】W WO2018046438
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-06-15
(32)【優先日】2016-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(73)【特許権者】
【識別番号】509213990
【氏名又は名称】テクニッシュ ユニべルシタット ウィーン
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】モスツナー, ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー, ウルス カール
(72)【発明者】
【氏名】ブルチャー, ペーター
(72)【発明者】
【氏名】リスカ, ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ナーク, パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ミッテルバウアー, モリッツ
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0282700(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2、290、299、A61K6
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性組成物であって、前記重合性組成物が、
それぞれの場合において、前記組成物の総質量に対して
(a)光開始剤としての、0.001重量%~5重量%の一般式(I)
【化21】
による少なくとも1種のアシルスズ化合物、
(b)10重量%~99.999重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~85重量%の充填剤、および
(d)0重量%~70重量%の添加剤(複数可)
を含有し、
ここで、式(I)の可変基は、以下の意味:
[R
1、R
2、R
3は、互いに独立して、それぞれの場合において、式(II)
【化22】
の基、
1つまたは複数の環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20-アルキル、C
1~20-アルケニル、C
1~20-アルコキシ、C
1~20-アルキルチオまたはC
1~20-アルケノキシラジカルによって置換されていてもよい芳香族C
6~30ラジカルであって、名前が挙げられた置換基自体が、-O-、-S-もしくは-NR
9-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10によって置換されていてもよい、芳香族C
6~30ラジカル、
-O-、-S-もしくは-NR
9-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10によって置換されていてもよい環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20-アルキル、C
1~20-アルケニル、C
1~20-アルコキシ、C
1~20-アルキルチオ、C
1~20-アルケノキシまたはC
1~20-アシルオキシラジカル、またはベンゾイルオキシラジカル、
-H、トリメチルシリル、-OH、ハロゲンまたは-CN
であり、
ここで、R
1およびR
2は、一緒になって、二重結合される酸素または硫黄原子を表してもよく、または、それらが結合しているSn原子と一緒になって、前記Sn原子に加えて2~6個の炭素原子および任意で1個または複数の酸素原子を含有する飽和または不飽和の脂肪族環を形成していてもよく、ここで、1個もしくは複数の炭素原子は、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環は芳香環と縮合していてもよく、
R
4、R
5、R
6、R
7、R
8は、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-O-、-S-もしくは-NR
9-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10によって置換されていてもよい環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20-アルキル、C
1~20-アルケニル、C
1~20-アルキルオキシまたはC
1~20-アルケノキシラジカル、あるいは-OR
9、ハロゲン、-SR
9、-N(R
9)
2、-CF
3、-CN、-NO
2、-COOR
9または-CONHR
9であり、
R
9は、-H、または環式、分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状のC
1~20-アルキルもしくはC
1~20-アルケニルラジカルであり、
R
10は、-OH、-C
xF
2x+1(x=1~20)または-[Si(CH
3)
2]
y-CH
3(y=1~20)である]
を有し、
そして、少なくとも1種の一官能性もしくは多官能性(メタ)アクリレートまたはその混合物をバインダーとして含むことを特徴とする、
重合性組成物。
【請求項2】
それぞれの場合において、互いに独立して、
R
1、R
2、R
3が、互いに独立して、それぞれの場合において、前記式(II)の基、1つまたは複数の分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~12-アルキルまたはC
1~12-アルコキシラジカルによって置換されていてもよい芳香族C
6~15ラジカルであって、名前が挙げられた置換基自体が-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい芳香族C
6~15ラジカル、あるいは-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~12-アルキル、C
1~12-アルケニル、C
1~12-アルコキシ、C
1~12-アルキルチオまたはC
1~12-アシルオキシラジカル、あるいはベンゾイルオキシラジカル、トリメチルシリル、-OH、ハロゲンまたは-CNであり、
ここで、R
1およびR
2は、一緒になって、二重結合される酸素もしくは硫黄原子を表してもよく、またはそれらが結合しているSn原子と一緒になって、前記Sn原子に加えて2~6個、特に4個の炭素原子および任意で1個または複数の、特に2個の酸素原子を含有する飽和もしくは不飽和の脂肪族環を形成していてもよく、ここで、1個もしくは複数、特に2個の炭素原子が、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環が、芳香族の特に6員の環と縮合していてもよく、
R
4、R
5、R
8が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~12-アルキル、C
1~12-アルケニル、C
1~12-アルキルオキシまたはC
1~12-アルケノキシラジカル、あるいは-OR
9、ハロゲン、-SR
9、-N(R
9)
2、-CF
3、-CNまたは-NO
2であり、
R
6、R
7が、互いに独立して、それぞれの場合において、-Hまたは-F、あるいは-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~12-アルキル、C
1~12-アルケニル、C
1~12-アルキルオキシもしくはC
1~12-アルケノキシラジカルであり、
R
9が、-Hまたはメチルである、
請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
それぞれの場合において、互いに独立して、
R
1、R
2、R
3が、互いに独立して、それぞれの場合において、前記式(II)の基、フェニル、トリメチルフェニル、分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状のC
1~8-アルキル、C
1~12-アルキルチオもしくはC
1~12-アシルオキシラジカル、ベンゾイルオキシ、ビニルもしくはメタクリロイルラジカル、トリメチルシリル、-OH、-Clまたは-CNであり、
ここで、R
1およびR
2は、一緒になって、二重結合される酸素または硫黄原子を表してもよく、あるいはそれらが結合しているSn原子と一緒に、ジオキサスタンネピン環を形成していてもよく、前記ジオキサスタンネピン環の1個もしくは好ましくは2個の炭素原子が、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環が、ベンゼン環と縮合していてもよく、
R
4、R
5、R
8が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、1~30個の原子によって分断されていてもよいおよび/またはビニルによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~8-アルキルラジカル、あるいは-OR
9、ハロゲン、-SR
9、-N(R
9)
2、-CF
3、-CNまたは-NO
2であり、
R
6、R
7が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-F、あるいは1~30個の原子によって分断されていてもよいおよび/またはビニルによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~8-アルキルラジカルであり、
R
9が、-Hまたはメチルである、
請求項1または2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
それぞれの場合において、互いに独立して、
R
1、R
2、R
3が、互いに独立して、それぞれの場合において、前記式(II)の基、フェニル、直鎖状C
1~C
8-アルキルラジカルまたはトリメチルシリルであり、
R
4、R
5、R
8が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、メチル、-OR
9または-Fであり、
R
6、R
7が、互いに独立して、それぞれの場合において、-Hまたは-Fであり、
R
9が、-Hまたはメチルである、
請求項1から3の
いずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項5】
歯科用材料としての使用のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
セメント、充填複合材料または前装材料としての口腔内使用のための、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~50重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)40重量%~70重量%の充填剤、および
(d)0重量%~5重量%の添加剤(複数可)
を含有する、歯科用セメントとしての使用のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~40重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)50重量%~85重量%の充填剤、および
(d)0重量%~5重量%の添加剤(複数可)
を含有する、歯科用複合材料としての使用のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99.989重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~20重量%のナノ粒子状充填剤、
(d)0.01重量%~2重量%の添加剤(複数可)、および
(e)0重量%~70重量%の溶媒
を含有する、歯科用コーティング材料としての使用のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99.989重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~20重量%のナノ粒子状充填剤、および
(d)0.01重量%~2重量%の添加剤、
(e)0重量%~50重量%の溶媒、ならびに
(f)1重量%~20重量%のラジカル重合性接着性モノマー
を含有する、歯科用接着剤としての使用のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~80重量%の充填剤(複数可)、および
(d)0重量%~10重量%の添加剤(複数可)
を含有する、ステレオリソグラフィーまたは3D印刷のための材料としての使用のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)20重量%~99重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~20重量%の染料(複数可)および/または顔料(複数可)、ならびに(d)0重量%~10重量%のさらなる添加剤(複数可)
を含有する、コーティング材料としての使用のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)20重量%~95重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)1重量%~20重量%の染料(複数可)および/または顔料(複数可)、ならびに(d)0重量%~10重量%のさらなる添加剤(複数可)
を含有する、印刷インクとしての使用のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
歯科修復物、補綴、人工歯、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの口腔外の製造または補修のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項15】
生成プロセスによる成形体の製造のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項16】
補聴器、眼内レンズ、コンタクトレンズ、成形体、コーティング、ワニス、接着剤またはフォトレジストの製造のための、請求項1から4の
いずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項17】
ラジカル重合のための光開始剤としての、式(I)によるアシルスズ化合物の使用
であって、 ここで、式(I)が、
【化21A】
であり、
ここで、式(I)の可変基は、以下の意味:
[R
1
、R
2
、R
3
は、互いに独立して、それぞれの場合において、式(II)
【化22A】
の基、
1つまたは複数の環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20
-アルキル、C
1~20
-アルケニル、C
1~20
-アルコキシ、C
1~20
-アルキルチオまたはC
1~20
-アルケノキシラジカルによって置換されていてもよい芳香族C
6~30
ラジカルであって、名前が挙げられた置換基自体が、-O-、-S-もしくは-NR
9
-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10
によって置換されていてもよい、芳香族C
6~30
ラジカル、
-O-、-S-もしくは-NR
9
-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10
によって置換されていてもよい環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20
-アルキル、C
1~20
-アルケニル、C
1~20
-アルコキシ、C
1~20
-アルキルチオ、C
1~20
-アルケノキシまたはC
1~20
-アシルオキシラジカル、またはベンゾイルオキシラジカル、
-H、トリメチルシリル、-OH、ハロゲンまたは-CN
であり、
ここで、R
1
およびR
2
は、一緒になって、二重結合される酸素または硫黄原子を表してもよく、または、それらが結合しているSn原子と一緒になって、前記Sn原子に加えて2~6個の炭素原子および任意で1個または複数の酸素原子を含有する飽和または不飽和の脂肪族環を形成していてもよく、ここで、1個もしくは複数の炭素原子は、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環は芳香環と縮合していてもよく、
R
4
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
は、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-O-、-S-もしくは-NR
9
-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10
によって置換されていてもよい環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20
-アルキル、C
1~20
-アルケニル、C
1~20
-アルキルオキシまたはC
1~20
-アルケノキシラジカル、あるいは-OR
9
、ハロゲン、-SR
9
、-N(R
9
)
2
、-CF
3
、-CN、-NO
2
、-COOR
9
または-CONHR
9
であり、
R
9
は、-H、または環式、分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状のC
1~20
-アルキルもしくはC
1~20
-アルケニルラジカルであり、
R
10
は、-OH、-C
x
F
2x+1
(x=1~20)または-[Si(CH
3
)
2
]
y
-CH
3
(y=1~20)である]
を有する、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合開始剤としてアシルスズ化合物を含有する重合性組成物に関する。この組成物は、接着剤、コーティング、セメント、複合材料、成形品、例えばロッド、プレート、ディスクまたはレンズ、ならびに特に歯科用材料、および成形品のステレオリソグラフィー製造のための材料の調製に特に好適である。
【背景技術】
【0002】
使用される光開始剤は、光多反応性樹脂の硬化において決定的な役割を果たす。UVまたは可視光で照射すると、それは光を吸収し、重合開始種を形成する。ラジカル重合の場合、これらはフリーラジカルである。光開始剤は、ラジカル形成の化学的機序に基づいた2つのクラスに分けられる。
【0003】
ノリッシュI型光開始剤は、照射すると、一分子結合開裂によってフリーラジカルを形成する。照射すると、ノリッシュII型光開始剤は二分子反応を経て、ここで、励起状態における光開始剤は、第2の分子である共開始剤と反応し、重合開始ラジカルが電子およびプロトンの移動によって形成する。I型およびII型光開始剤は、UV光硬化のために使用される;現在まで、ビスアシルジアルキルゲルマニウム化合物を別にして、ほぼ排他的にII型光開始剤が可視光範囲に対して使用されている。
【0004】
UV硬化は、高い反応速度を特徴とし、例えば木材、金属またはガラスなどの異なる基材のコーティングのために頻繁に使用される。したがって、例えばEP1247843A2において、ジエトキシフェニルアセトフェノンまたはアシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシドなどのI型光開始剤が使用されるUV硬化コーティング材料が記載されている。
【0005】
WO01/51533A1は、同様にアシルホスフィンオキシド、α-ヒドロキシアルキルフェノンまたはα-ジアルコキシアセトフェノンが光開始剤として使用されるUV硬化木材用コーティング材料を記載している。とりわけ、低い層厚を有する透明なコーティングは、UV光の低い波長によるUV硬化によって生成することができる。UV硬化の限度には、充填系における際立った遮蔽化または色素沈着により、およびより大きい層厚により到達する。明らかに透過性の低減したこのような光多反応性樹脂は、UV光で不完全にしか硬化しない。
【0006】
例えば光硬化歯科用充填材料の硬化の場合など、より大きい侵入深度(Durchhartungstiefen)が必要とされる場合には、可視光が照射に使用される。このために最も頻繁に使用される光開始剤系は、例えばGB1408265に記載されている通り、α-ジケトンとアミン共開始剤との組合せである。
【0007】
この光開始剤系が使用される歯科用組成物は、例えばUS4,457,818またはUS4,525,256に開示されており、ここで、好ましくはカンファキノンがα-ジケトンとして使用される。カンファキノンは、468nmの波長で吸収極大を有する。結果として、カンファキノンは、開始剤系が完全に漂白されるわけでないので、カンファキノン/アミンによって開始された材料が硬化後に黄色をしばしば呈するという不利な点を有しているため、強い黄色の着色を示す(N. Moszner、R. Liska、Photoinitiators for direct adhesive restorative materials、Basic and Applications of Photopolymerization Reactions、1巻;Fouassier, J.-P.、Allonas, X.編、Research Signpost、Kerala、2010年、93~114頁)。この漂白挙動は、特に、完全に重合された材料の明るい白色遮蔽の場合、非常に不利である。加えて、酸性接着剤において使用される場合、カンファキノン/アミン系は、ラジカル形成アミン構成成分がプロトン化され、それによってラジカル形成に関して部分的に非活性化されるという不利な点を有する。
【0008】
光開始剤としてのゲルマニウム化合物の使用は公知である。ビスアシルジアルキルゲルマニウム化合物は、特に、青色光範囲において硬化するための効果的なノリッシュI型光開始剤である(B. Ganster、U. K. Fischer、N. Moszner、R. Liska、New photocleavable structures、Diacylgerman-based photoinitiators for visible light curing、Macromolecules 41巻(2008年)2394~2400頁;N. Moszner、U.K. Fischer、B. Ganster、R. Liska、V. Rheinberger、Benzoyl germanium derivatives as novel visible light photoinitiators for dental materials Dent. Mater.24巻(2008年)901~907頁;N. Moszner、F. Zeuner、I. Lamparth、U. K. Fischer、Benzoylgermanium derivatives as novel visible-light photoinitiators for dental composites、Macromol. Mater. Eng.294巻(2009年)877~886頁)。
【0009】
EP1905413A1およびEP1905415A1は、可視光で歯科用材料を硬化するための光開始剤として好適であるモノアシルゲルマニウム化合物、ビスアシルゲルマニウム化合物およびトリアシルゲルマニウム化合物を開示している。それらの合成はコストがかかり、ジチアン保護基技法、およびカラムクロマトグラフィーを使用する精製を使用して、高価なジアルキルゲルマニウムジハロゲン化物から出発して実施される。
【0010】
EP2103297A1から、いくつかのゲルマニウム原子を含有する好適なアシルゲルマニウム化合物が光開始剤として公知である。
【0011】
WO2015/067815A1は、式R1R2R3Ge(CO)GeR4R5R6のビス(ゲルミル)ケトンおよびその調製のためのプロセスを開示している。これらのビス(ゲルミル)ケトンは、その上、歯科用材料のための光開始剤として好適であることが意図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第01/51533号
【文献】英国特許出願公開第1408265号明細書
【文献】米国特許第4,457,818号明細書
【文献】米国特許第4,525,256号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1905413号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1905415号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2103297号明細書
【文献】国際公開第2015/067815号
【非特許文献】
【0013】
【文献】N. Moszner、R. Liska、Photoinitiators for direct adhesive restorative materials、Basic and Applications of Photopolymerization Reactions、1巻;Fouassier, J.-P.、Allonas, X.編、Research Signpost、Kerala、2010年、93~114頁
【文献】B. Ganster、U. K. Fischer、N. Moszner、R. Liska、New photocleavable structures、Diacylgerman-based photoinitiators for visible light curing、Macromolecules 41巻(2008年)2394~2400頁
【文献】N. Moszner、U.K. Fischer、B. Ganster、R. Liska、V. Rheinberger、Benzoyl germanium derivatives as novel visible light photoinitiators for dental materials Dent. Mater.24巻(2008年)901~907頁
【文献】N. Moszner、F. Zeuner、I. Lamparth、U. K. Fischer、Benzoylgermanium derivatives as novel visible-light photoinitiators for dental composites、Macromol. Mater. Eng. 294巻(2009年)877~886頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、可視範囲内の光で硬化することができる重合性組成物を提供することであり、これは、高い反応性および良好な硬化特性ならびに良好な漂白挙動を特徴とし、特に、可視スペクトルの長波長範囲内の可視光によって硬化することができる。
【0015】
本目的は一般式(I)
【化1】
[式中、
R
1、R
2、R
3は、互いに独立して、それぞれの場合において、式(II)
の基、
【化2】
1つまたは複数の環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20-アルキル、C
1~20-アルケニル、C
1~20-アルコキシ、C
1~20-アルキルチオまたはC
1~20-アルケノキシラジカルによって置換されていてもよい芳香族C
6~30ラジカルであって、名前が挙げられた置換基自体が、-O-、-S-もしくは-NR
9-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10によって置換されていてもよい、芳香族C
6~30ラジカル、
-O-、-S-もしくは-NR
9-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10によって置換されていてもよい環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20-アルキル、C
1~20-アルケニル、C
1~20-アルコキシ、C
1~20-アルキルチオ、C
1~20-アルケノキシまたはC
1~20-アシルオキシラジカル、またはベンゾイルオキシラジカル、
-H、トリメチルシリル、-OH、ハロゲンまたは-CN
であり、
ここで、R
1およびR
2は、一緒になって、二重結合される酸素または硫黄原子を表してもよく、または、それらが結合しているSn原子と一緒になって、前記Sn原子に加えて2~6個の炭素原子および任意選択で1個または複数の酸素原子を含有する飽和または不飽和の脂肪族環を形成していてもよく、ここで、1個もしくは複数の炭素原子は、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環は芳香環と縮合していてもよく、
R
4、R
5、R
6、R
7、R
8は、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-O-、-S-もしくは-NR
9-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10によって置換されていてもよい環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20-アルキル、C
1~20-アルケニル、C
1~20-アルキルオキシまたはC
1~20-アルケノキシラジカル、-OR
9、ハロゲン、-SR
9、-N(R
9)
2、-CF
3、-CN、-NO
2、-COOR
9または-CONHR
9であり、
R
9は、-H、または環式、分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状のC
1~20-アルキルもしくはC
1~20-アルケニルラジカルであり、
R
10は、-OH、-C
xF
2x+1(x=1~20)または-[Si(CH
3)
2]
y-CH
3(y=1~20)である]
による少なくとも1種のアシルスズ化合物を光開始剤として含有する、重合性組成物によって達成される。
【0016】
1つの型のいくつかのラジカル、例えばいくつかのラジカルR4、R5、R6などが存在する場合には、これらは異なっていてもよく、また、好ましくは同一であってもよい。ラジカルにおける置換基として存在することができる好ましいラジカル重合性基は、ビニル、スチリル、アクリレート(CH2=CH-CO-O-)、メタクリレート(CH2=C(CH3)-CO-O-)、アクリルアミド(R’=HまたはC1~C8-アルキルであるCH2=CH-CO-NR’-)、メタクリルアミド(CH2=C(CH3)-CO-NH-)、特に好ましくは(メタ)アクリレート、メタクリルアミドおよび/またはN-アルキルアクリルアミドである。ラジカルは、好ましくは、0~3つ、特に0~1つのラジカル重合性基を保有する。非環式ラジカルにおいて、重合性基は、好ましくは末端に配置される。
【0017】
本明細書に示されている式(I)および残りの式は、全ての立体異性体、ならびに例えばラセミ体などの異なる立体異性体の混合物を包含する。前記式は、化学原子価理論と適合性のある化合物だけを包含する。
【0018】
ラジカルがOなどのヘテロ原子によって分断され得るという指示は、O原子がラジカルの炭素鎖または炭素環に挿入される、即ち、両側で炭素原子に隣接していることを意味すると理解されるべきである。ヘテロ原子の数は、そのため、炭素原子の数よりも少なくとも1小さく、ヘテロ原子は末端であり得ない。炭素原子およびヘテロ原子を含有する炭化水素ラジカルの場合、ヘテロ原子の数は、置換基を考慮せずに、炭素原子の数よりも常に小さい。
【0019】
ハロゲン(halと省略される)は、特に、F、Cl、BrまたはI、好ましくはF、Cl、非常に特に好ましくはClを表す。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
重合性組成物であって、前記重合性組成物が、一般式(I)
【化16】
[式中、
R
1
、R
2
、R
3
は、互いに独立して、それぞれの場合において、式(II)
【化17】
の基、
1つまたは複数の環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20
-アルキル、C
1~20
-アルケニル、C
1~20
-アルコキシ、C
1~20
-アルキルチオまたはC
1~20
-アルケノキシラジカルによって置換されていてもよい芳香族C
6~30
ラジカルであって、名前が挙げられた置換基自体が、-O-、-S-もしくは-NR
9
-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10
によって置換されていてもよい、芳香族C
6~30
ラジカル、
-O-、-S-もしくは-NR
9
-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10
によって置換されていてもよい環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20
-アルキル、C
1~20
-アルケニル、C
1~20
-アルコキシ、C
1~20
-アルキルチオ、C
1~20
-アルケノキシまたはC
1~20
-アシルオキシラジカル、またはベンゾイルオキシラジカル、
-H、トリメチルシリル、-OH、ハロゲンまたは-CN
であり、
ここで、R
1
およびR
2
は、一緒になって、二重結合される酸素または硫黄原子を表してもよく、または、それらが結合しているSn原子と一緒になって、前記Sn原子に加えて2~6個の炭素原子および任意で1個または複数の酸素原子を含有する飽和または不飽和の脂肪族環を形成していてもよく、ここで、1個もしくは複数の炭素原子は、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環は芳香環と縮合していてもよく、
R
4
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
は、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-O-、-S-もしくは-NR
9
-によって1回もしくは複数回分断されていてもよく、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくはラジカルR
10
によって置換されていてもよい環式、分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~20
-アルキル、C
1~20
-アルケニル、C
1~20
-アルキルオキシまたはC
1~20
-アルケノキシラジカル、あるいは-OR
9
、ハロゲン、-SR
9
、-N(R
9
)
2
、-CF
3
、-CN、-NO
2
、-COOR
9
または-CONHR
9
であり、
R
9
は、-H、または環式、分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状のC
1~20
-アルキルもしくはC
1~20
-アルケニルラジカルであり、
R
10
は、-OH、-C
x
F
2x+1
(x=1~20)または-[Si(CH
3
)
2
]
y
-CH
3
(y=1~20)である]
による少なくとも1種のアシルスズ化合物を光開始剤として含有することを特徴とする、重合性組成物。
(項目2)
それぞれの場合において、互いに独立して、
R
1
、R
2
、R
3
が、互いに独立して、それぞれの場合において、前記式(II)の基、1つまたは複数の分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~12
-アルキルまたはC
1~12
-アルコキシラジカルによって置換されていてもよい芳香族C
6~15
ラジカルであって、名前が挙げられた置換基自体が-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい芳香族C
6~15
ラジカル、あるいは-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~12
-アルキル、C
1~12
-アルケニル、C
1~12
-アルコキシ、C
1~12
-アルキルチオまたはC
1~12
-アシルオキシラジカル、あるいはベンゾイルオキシラジカル、トリメチルシリル、-OH、ハロゲンまたは-CNであり、
ここで、R
1
およびR
2
は、一緒になって、二重結合される酸素もしくは硫黄原子を表してもよく、またはそれらが結合しているSn原子と一緒になって、前記Sn原子に加えて2~6個、特に4個の炭素原子および任意で1個または複数の、特に2個の酸素原子を含有する飽和もしくは不飽和の脂肪族環を形成していてもよく、ここで、1個もしくは複数、特に2個の炭素原子が、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環が、芳香族の特に6員の環と縮合していてもよく、
R
4
、R
5
、R
8
が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~12
-アルキル、C
1~12
-アルケニル、C
1~12
-アルキルオキシまたはC
1~12
-アルケノキシラジカル、あるいは-OR
9
、ハロゲン、-SR
9
、-N(R
9
)
2
、-CF
3
、-CNまたは-NO
2
であり、
R
6
、R
7
が、互いに独立して、それぞれの場合において、-Hまたは-F、あるいは-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~12
-アルキル、C
1~12
-アルケニル、C
1~12
-アルキルオキシもしくはC
1~12
-アルケノキシラジカルであり、
R
9
が、-Hまたはメチルである、
項目1に記載の重合性組成物。
(項目3)
それぞれの場合において、互いに独立して、
R
1
、R
2
、R
3
が、互いに独立して、それぞれの場合において、前記式(II)の基、フェニル、トリメチルフェニル、分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状のC
1~8
-アルキル、C
1~12
-アルキルチオもしくはC
1~12
-アシルオキシラジカル、ベンゾイルオキシ、ビニルもしくはメタクリロイルラジカル、トリメチルシリル、-OH、-Clまたは-CNであり、
ここで、R
1
およびR
2
は、一緒になって、二重結合される酸素または硫黄原子を表してもよく、あるいはそれらが結合しているSn原子と一緒に、ジオキサスタンネピン環を形成していてもよく、前記ジオキサスタンネピン環の1個もしくは好ましくは2個の炭素原子が、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環が、ベンゼン環と縮合していてもよく、
R
4
、R
5
、R
8
が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、1~30個の原子によって分断されていてもよいおよび/またはビニルによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~8
-アルキルラジカル、あるいは-OR
9
、ハロゲン、-SR
9
、-N(R
9
)
2
、-CF
3
、-CNまたは-NO
2
であり、
R
6
、R
7
が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-F、あるいは1~30個の原子によって分断されていてもよいおよび/またはビニルによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC
1~8
-アルキルラジカルであり、
R
9
が、-Hまたはメチルである、
項目1または2に記載の重合性組成物。
(項目4)
それぞれの場合において、互いに独立して、
R
1
、R
2
、R
3
が、互いに独立して、それぞれの場合において、前記式(II)の基、フェニル、直鎖状C
1
~C
8
-アルキルラジカルまたはトリメチルシリルであり、
R
4
、R
5
、R
8
が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、メチル、-OR
9
または-Fであり、
R
6
、R
7
が、互いに独立して、それぞれの場合において、-Hまたは-Fであり、
R
9
が、-Hまたはメチルである、
項目1から3の一項に記載の重合性組成物。
(項目5)
項目1から4の一項に記載の組成物であって、その総質量に対して、0.001重量%~5重量%の前記式(I)のアシルスズ化合物および少なくとも1種の重合性バインダーを含有する、組成物。
(項目6)
少なくとも1つのラジカル重合性モノマーおよび/またはプレポリマーを重合性バインダーとして含有する、項目5に記載の組成物。
(項目7)
少なくとも1種の一官能性もしくは多官能性の(メタ)アクリレートまたはその混合物をバインダーとして含有する、項目6に記載の組成物。
(項目8)
それぞれの場合において、前記組成物の総質量に対して
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、(b)10重量%~99.999重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~85重量%の充填剤、および
(d)0重量%~70重量%添加剤(複数可)
を含有する、項目5から7の一項に記載の組成物。
(項目9)
歯科用材料としての使用のための、項目1から8の一項に記載の組成物。
(項目10)
セメント、充填複合材料または前装材料としての口腔内使用のための、項目9に記載の組成物。
(項目11)
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~50重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)40重量%~70重量%の充填剤、および
(d)0重量%~5重量%の添加剤(複数可)
を含有する、歯科用セメントとしての使用のための、項目8に記載の組成物。
(項目12)
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~40重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)50重量%~85重量%の充填剤、および
(d)0重量%~5重量%の添加剤(複数可)
を含有する、歯科用複合材料としての使用のための、項目8に記載の組成物。
(項目13)
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99.989重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~20重量%のナノ粒子状充填剤、
(d)0.01重量%~2重量%の添加剤(複数可)、および
(e)0重量%~70重量%の溶媒
を含有する、歯科用コーティング材料としての使用のための、項目8に記載の組成物。
(項目14)
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99.989重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~20重量%のナノ粒子状充填剤、および
(d)0.01重量%~2重量%の添加剤、
(e)0重量%~50重量%の溶媒、ならびに
(f)1重量%~20重量%のラジカル重合性接着性モノマー
を含有する、歯科用接着剤としての使用のための、項目8に記載の組成物。
(項目15)
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~80重量%の充填剤(複数可)、および
(d)0重量%~10重量%の添加剤(複数可)
を含有する、ステレオリソグラフィーまたは3D印刷のための材料としての使用のための、項目8に記載の組成物。
(項目16)
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)20重量%~99重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~20重量%の染料(複数可)および/または顔料(複数可)、ならびに(d)0重量%~10重量%のさらなる添加剤(複数可)
を含有する、コーティング材料としての使用のための、項目8に記載の組成物。
(項目17)
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)20重量%~95重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)1重量%~20重量%の染料(複数可)および/または顔料(複数可)、ならびに(d)0重量%~10重量%のさらなる添加剤(複数可)
を含有する、印刷インクとしての使用のための、項目8に記載の組成物。
(項目18)
歯科修復物、補綴、人工歯、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの口腔外の製造または補修のための、項目1から8の一項に記載の組成物の使用。
(項目19)
生成プロセスによる成形体の製造のための、項目1から8の一項に記載の組成物の使用。
(項目20)
補聴器、眼内レンズ、コンタクトレンズ、成形体、プロトタイプ、素体、コーティング、ワニス、接着剤またはフォトレジストの製造のための、項目1から8の一項に記載の組成物の使用。
(項目21)
ラジカル重合のための光開始剤としての、式(I)によるアシルスズ化合物の使用。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
好ましいのは、特に、一般式(I)に従うアシルスズ化合物であって、
それぞれの場合において、互いに独立して、
R1、R2、R3が、互いに独立して、それぞれの場合において、前記式(II)の基、1つまたは複数の分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC1~12-アルキルまたはC1~12-アルコキシラジカルによって置換されていてもよい芳香族C6~15ラジカルであって、名前が挙げられた置換基自体が-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい芳香族C6~15ラジカル、あるいは-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC1~12-アルキル、C1~12-アルケニル、C1~12-アルコキシ、C1~12-アルキルチオまたはC1~12-アシルオキシラジカル、あるいはベンゾイルオキシラジカル、トリメチルシリル、-OH、ハロゲンまたは-CNであり、
ここで、R1およびR2は、一緒になって、二重結合される酸素もしくは硫黄原子を表してもよく、またはそれらが結合しているSn原子と一緒になって、前記Sn原子に加えて2~6個、特に4個の炭素原子および任意選択で1個または複数の、特に2個の酸素原子を含有する飽和もしくは不飽和の脂肪族環を形成していてもよく、ここで、1個もしくは複数、特に2個の炭素原子が、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環が、芳香族の特に6員の環と縮合していてもよく、
R4、R5、R8が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC1~12-アルキル、C1~12-アルケニル、C1~12-アルキルオキシまたはC1~12-アルケノキシラジカル、-OR9、ハロゲン、-SR9、-N(R9)2、-CF3、-CNまたは-NO2であり、
R6、R7が、互いに独立して、それぞれの場合において、-Hまたは-F、あるいは-O-によって1回もしくは複数回分断されていてもよい、そして/または1つもしくは複数のラジカル重合性基および/もしくは-OHによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC1~12-アルキル、C1~12-アルケニル、C1~12-アルキルオキシもしくはC1~12-アルケノキシラジカルであり、
R9が、-Hまたはメチルである、
アシルスズ化合物である。
【0022】
特に好ましいのは、式(I)のアシルスズ化合物であって、それぞれの場合において、互いに独立して、
R1、R2、R3が、互いに独立して、それぞれの場合において、前記式(II)の基、フェニル、トリメチルフェニル、分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状のC1~8-アルキル、C1~12-アルキルチオもしくはC1~12-アシルオキシラジカル、ベンゾイルオキシ、ビニルもしくはメタクリロイルラジカル、トリメチルシリル、-OH、-Clまたは-CNであり、
ここで、R1およびR2は、一緒になって、二重結合される酸素または硫黄原子を表してもよく、あるいはそれらが結合しているSn原子と一緒に、ジオキサスタンネピン環を形成していてもよく、前記ジオキサスタンネピン環の1個もしくは好ましくは2個の炭素原子が、二重結合される酸素原子によって置換されていてもよく、そして/または前記環が、ベンゼン環と縮合していてもよく、
R4、R5、R8が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、1~30個の原子によって分断されていてもよいおよび/またはビニルによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC1~8-アルキルラジカル、あるいは-OR9、ハロゲン、-SR9、-N(R9)2、-CF3、-CNまたは-NO2であり、
R6、R7が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、-F、あるいは1~30個の原子によって分断されていてもよいおよび/またはビニルによって置換されていてもよい分枝鎖状または好ましくは直鎖状のC1~8-アルキルラジカルであり、
R9が、-Hまたはメチルである、
アシルスズ化合物である。
【0023】
相当に特に好ましいのは、式(I)のアシルスズ化合物であって、 それぞれの場合において、互いに独立して、
R1、R2、R3が、互いに独立して、それぞれの場合において、前記式(II)の基、フェニル、直鎖状C1~C8-アルキルラジカルまたはトリメチルシリルであり、
R4、R5、R8が、互いに独立して、それぞれの場合において、-H、メチル、-OR9または-Fであり、
R6、R7が、互いに独立して、それぞれの場合において、-Hまたは-Fであり、
R9が、-Hまたはメチルである、
アシルスズ化合物である。
【0024】
全ての変数が上で定義されている好ましい意味の1つを各々有する化合物は、特に好ましい。
【0025】
本発明に従って使用される一般式(I)のアシルスズ化合物の一部は、最先端技術からすでに公知である。モノアシルスタンナンの合成は、例えば、塩化トリオルガノスズのリチオ化およびその後の酸塩化物との反応によって実施することができる(G. J. D. Peddle、J. Organometal. Chem.14巻(1968年)139~147頁を参照のこと)。
【化3】
具体例:
【化4】
【0026】
アシルスズ化合物の合成についてのさらなる可能性は、最初にSnグリニャール化合物が調製され、これを次いでアルデヒドと反応させる合成の変形である(J. P. Quintard、B. Elissondo、D. Mouko-Mpegna、J. Organomet. Chem.251巻(1983年)175~187頁を参照のこと)。
【化5】
具体例:
【化6】
【0027】
さらなる合成経路において、ヘキサオルガノ二スズ化合物が出発原料として使用される(T. N. Mitchell、K. Kwetkat、J. Organomet. Chem.439巻(1992年)127~138頁を参照のこと)。
【化7】
具体例:
【化8】
【0028】
さらに、アシルスズ化合物は、1,3-ジチアンから得られるカルボアニオンと塩化スズとを反応させることによって合成することができる(A. G. Brook、J. M. Duff、P. F. Jones、N. R. Davis、J. Am. Chem. Soc.89巻(1967年)、431~434頁を参照のこと)。
【化9】
【0029】
得られたジチアンは、当業者に一般的に知られている様々な方法(A. G. Brook、J. M. Duff、P. F. Jones、N. R. Davis、J. Am. Chem. Soc.89巻(1967年)、431~434頁、およびJ.-P. Bouillon、C. Portella、Eur. J. Org. Chem.1999年、1571~1580頁を参照のこと)に従って、対応するケトンに加水分解することができる。
【化10】
【0030】
対応するゲルマニウム化合物に類似して、アシルスズ化合物をヒドロキシル基の酸化によって得ることもできる(T. Nakamura、H. Yorimitsu、H. Shinokubo、K. Oshima、Tetrahedron57巻(2001年)9827~9836頁を参照のこと)。
【化11】
【0031】
特に好ましい化合物の具体例は以下である。
【化12-1】
【化12-2】
【化12-3】
【化12-4】
【化13-1】
【化13-2】
【化13-3】
【化13-4】
【化13-5】
【化13-6】
【化14-1】
【化14-2】
【化14-3】
【化14-4】
【化15-1】
【化15-2】
【化15-3】
【0032】
式(I)の化合物は、重合のための、特にラジカル重合のための、特に、下に定義されているモノマーに基づく開始組成物のための光開始剤として極めて好適であることが、驚くべきことに見出された。式(I)の化合物は相対的に簡便に入手でき、非常に良好な重合開始効果および優れた漂白挙動を呈する。それらは、例えば重付加などの他の多反応のための光開始剤としてもさらに好適である。
【0033】
式(I)の化合物は、医学的用途に、例えば、骨セメントおよびコンタクトレンズ、眼内レンズまたは他の医学用成形品、例えば補聴器シェル、軟骨移植片および人工組織部品などの製造に、ならびに非常に特に、接着剤、コーティング、セメントおよび複合材料などの歯科用材料の調製に特に好適である。式(I)のアシルスズ化合物は、ステレオリソグラフィープロセスによる成形品の製造のための材料の調製にもさらに好適である。
【0034】
さらに、式(I)の開始剤は、複数の非医学的用途に、例えば、ロッド、プレート、ディスクまたはレンズなどの成形品、印刷インクまたは塗料、ワニス、接着剤の製造に、印刷プレート、集積回路、フォトレジスト、はんだ付け用マスク、カラープリンター用インクの製造に、ホログラフィックデータ記憶用の材料として、ナノサイズ化された微小電気機械素子、光導波管、成形品の製造に、および情報担体の光学的製造などに好適である。重要な用途分野は、技術的な成形品の、例えば精密な成形品およびセラミック素体のステレオリソグラフィー製造における光開始剤としての使用である。
【0035】
本発明による組成物は、好ましくは、組成物の総質量に対して0.001重量%~5重量%、特に好ましくは0.01重量%~1.0重量%の式(I)のアシルスズ化合物を含有する。
【0036】
式(I)のアシルスズ化合物に加えて、組成物は、好ましくは重合性バインダーも含有する。好ましいバインダーは、ラジカルおよび/またはカチオン重合性モノマーおよび/またはプレポリマー、特に好ましくはラジカル重合性モノマー、ラジカル重合性プレポリマーまたはその混合物である。
【0037】
一官能性もしくは多官能性(メタ)アクリレートまたはその混合物は、ラジカル重合性バインダーとして特に好適である。一官能性(メタ)アクリル化合物は、1つの重合性基を有する化合物を意味し、多官能性(メタ)アクリル化合物は、2つまたはそれより多くの重合性基、好ましくは2~3つの重合性基を有する化合物を意味する。
【0038】
これに関する例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートもしくはイソボルニル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビス-GMA(メタクリル酸およびビスフェノールAジグリシジルエーテルの付加生成物)、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの付加生成物)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートもしくはテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ならびにグリセロールジメタクリレートおよびグリセロールトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、または1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートである。2つまたはそれより多くの、好ましくは2~3つのラジカル重合性基を有する少なくとも1つのラジカル重合性モノマーを含有する組成物が、特に好ましい。多官能性モノマーは架橋特性を有する。
【0039】
加水分解に安定な希釈モノマー、例えば、加水分解に安定なモノ(メタ)アクリレートなど(例えば、メタクリル酸メシチル、または2-(アルコキシメチル)アクリル酸、例えば2-(エトキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、N-一置換もしくは二置換アクリルアミド、例えば、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドもしくはN-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドなど、またはN-一置換メタクリルアミド、例えば、N-エチルメタクリルアミドもしくはN-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミドなど)、ならびにN-ビニルピロリドンまたはアリルエーテルは、ラジカル重合性バインダーとしても使用することができる。加水分解に安定な架橋性モノマーの好ましい例は、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸およびジイソシアネート(例えば、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートもしくはイソホロンジイソシアネートなど)のウレタン、架橋性ピロリドン(例えば、1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサンなど)、または市販のビスアクリルアミド(例えば、メチレンビスアクリルアミドもしくはエチレンビスアクリルアミドなど)もしくはビス(メタ)アクリルアミド(例えば、N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)-プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)-ブタンもしくは1,4-ビス(アクリロイル)-ピペラジンなど)(これらは、対応するジアミンと(メタ)アクリル酸塩化物からの反応によって合成することができる)である。
【0040】
例えば一官能性もしくは多官能性ビニルシクロプロパンまたは二環式シクロプロパン誘導体(DE19616183C2またはEP1413569A1を参照のこと)あるいは環式アリルスルフィド(US6,043,361またはUS6,344,556を参照のこと)などの、公知の低収縮ラジカル開環重合性モノマーは、さらに、ラジカル重合性バインダーとして使用することもでき、加えて、上に列挙されているジ(メタ)アクリレートクロスリンカーと組み合わせて使用することもできる。好適な開環重合性モノマーは、1,1-ジ(エトキシカルボニル)-2-ビニルシクロプロパンもしくは1,1-ジ(メトキシカルボニル)-2-ビニルシクロプロパンなどのようなビニルシクロプロパン、またはエチレングリコール、1,1,1-トリメチロールプロパン、1,4-シクロヘキサンジオールもしくはレゾルシノールとの1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸もしくは1-メトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸のエステルである。好適な二環式シクロプロパン誘導体は、2-(ビシクロ[3.1.0]ヘキサ-1-イル)アクリル酸のメチルもしくはエチルエステル、または3位におけるそれらの二置換生成物(例えば、(3,3-ビス(エトキシカルボニル)ビシクロ[3.1.0]ヘキサ-1-イル)アクリル酸のメチルもしくはエチルエステルなど)である。好適な環式アリルスルフィドは、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン1,6-ジイソシアネートとの2-(ヒドロキシメチル)-6-メチレン-1,4-ジチエパンもしくは7-ヒドロキシ-3-メチレン-1,5-ジチアシクロオクタンの付加生成物、または非対称ヘキサメチレンジイソシアネート三量体(例えば、Bayer AGからのDesmodur(登録商標)VP LS 2294)である。
【0041】
ビニルエステル、ビニルカーボネートおよびビニルカルバメートに基づく配合物もラジカル重合性モノマーとして好ましい。加えて、スチレン、スチレン誘導体もしくはジビニルベンゼン、不飽和ポリエステル樹脂およびアリル化合物、またはラジカル重合性ポリシロキサン(これは、例えば、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシランなどの好適なメタクリルシランから調製することができ、また、例えば、DE19903177C2に記載されている)が、モノマーとして使用され得る。
【0042】
さらに、前に名前を挙げたモノマーと、接着性モノマーとも呼ばれるラジカル重合性の酸基含有モノマーとの混合物も、ラジカル重合性バインダーとして使用することができる。好ましい酸基含有モノマーは、例えば、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシンまたは4-ビニル安息香酸などの重合性カルボン酸である。
【0043】
ラジカル重合性ホスホン酸モノマー、特にビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、4-メタクリルアミド-4-メチル-ペンチル-ホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸、または2-[2-ジヒドロキシホスホリル)-エトキシメチル]-アクリル酸のエチルもしくは2,4,6-トリメチルフェニルエステルも、接着性モノマーとして好適である。
【0044】
さらに、酸性の重合性リン酸エステル、特にリン酸一水素2-メタクリロイルオキシプロピルもしくはリン酸二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸一水素2-メタクリロイルオキシエチルもしくはリン酸二水素2-メタクリロイルオキシエチル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、ジペンタエリスリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸モノ-(1-アクリロイル-ピペリジン-4-イル)エステル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシル、およびリン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピル-アミノ)-プロパン-2-イルが、接着性モノマーとして好適である。
【0045】
加えて、重合性スルホン酸、特にビニルスルホン酸、4-ビニルフェニルスルホン酸または3-(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸が、接着性モノマーとして好適である。
【0046】
一官能性または多官能性メルカプト化合物および二官能性または多官能性不飽和モノマー、とりわけアリルまたはノルボルネン化合物の混合物を含有するチオール-エン樹脂は、重付加による硬化性のバインダーとして特に好適である。
【0047】
一官能性または多官能性メルカプト化合物の例は、o-ジメルカプトベンゼン、m-ジメルカプトベンゼンまたはp-ジメルカプトベンゼン、およびチオグリコール酸または3-メルカプトプロピオン酸の、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくはブチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパンまたはペンタエリスリトールとのエステルである。
【0048】
二官能性または多官能性アリル化合物の例は、ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸(例えば、マロン酸、マレイン酸、グルタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸もしくは没食子酸など)とアリルアルコールとのエステル、ならびに一官能性または三官能性アリルエーテル(例えば、ジアリルエーテル、α,ω-ビス[アリルオキシ]アルカン、レゾルシノールもしくはハイドロキノンジアリルエーテル、ならびにピロガロールトリアリルエーテルなど)、または他の化合物(例えば、1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン、テトラアリルシランもしくはテトラアリルオルトシリケートなど)である。
【0049】
二官能性または多官能性ノルボルネン化合物の例は、二官能性または多官能性(メタ)アクリレートとシクロペンタジエンまたはフランとのディールス-アルダー付加生成物、ならびに5-ノルボルネン-2-メタノールまたは5-ノルボルネン-2-オールと、ジカルボン酸またはポリカルボン酸(例えば、マロン酸、マレイン酸、グルタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸または没食子酸など)、あるいはジイソシアネートまたはポリイソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートもしくはその環状三量体、2,2,4-トリメチルヘキサ-メチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートなど)とのエステルおよびウレタンである。
【0050】
一般式(I)のアシルスズ化合物に加えて、本発明による組成物は、有利には追加として、例えば、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドまたはビスアシルホスフィンオキシド、α-ジケトン(例えば、9,10-フェナントレンキノン、ジアセチル、フリル、アニシル、4,4’-ジクロロベンジルおよび4,4’-ジアルコキシベンジルならびにカンファキノンなど)など、UVまたは可視範囲のための公知の光開始剤(J.P. Fouassier、J.F. Rabek(編)、Radiation Curing in Polymer Science and Technology、II巻、Elsevier Applied Science、LondonおよびNew York 1993年を参照のこと)も含有することができる。ノリッシュI型光開始剤、とりわけアシルホスフィンオキシドまたはビスアシルホスフィンオキシド(例えば、市販の化合物である2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドおよびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドなど)との組合せは非常に好適であり、モノアシルトリアルキルゲルマニウム化合物、ジアシルジアルキルゲルマニウム化合物、トリアシルアルキルゲルマニウム化合物およびテトラアシルゲルマニウム化合物(例えば、ベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウムまたはビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムおよびテトラベンゾイルゲルマニウムなど)が特に好適である。異なる光開始剤の混合物も使用することができる。芳香族のジアリールヨードニウム塩またはトリアリールスルホニウム塩(例えば、市販の化合物である4-オクチルオキシフェニル-フェニル-ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネートまたはイソプロピルフェニル-メチルフェニル-ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート)を追加で含有する一般式(I)のアシルスズ化合物の開始剤組合せも使用することができる。
【0051】
本発明による組成物は、デュアル硬化のために一般式(I)のアシルスズ化合物に加えて、アゾ化合物(例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス-(4-シアノ吉草酸)など)、または過酸化物(例えば、ジベンゾイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、tert-ブチルペルオクトエート、tert-ブチルペルベンゾエートもしくはジ-(tert-ブチル)ペルオキシドなど)をさらに含有することもできる。過酸化物によって開始を加速するために、芳香族アミンとの組合せも使用することができる。すでに成功が証明されているレドックス系は、アミン(例えば、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルまたは構造的に関連した系など)と過酸化ベンゾイルとの組合せである。加えて、過酸化物および還元剤(例えば、アスコルビン酸、バルビツレートもしくはスルフィン酸など)からなるレドックス系、またはヒドロペルオキシドと、還元剤および触媒金属イオンとの組合せ(例えば、クメンヒドロペルオキシド、チオ尿素誘導体および銅(II)アセチルアセトネートの混合物など)からなるレドックス系も、デュアル硬化に好適である。
【0052】
本発明によると、1種または複数の充填剤、好ましくは有機または無機の粒子状充填剤を含有する組成物が好ましい。1nm~10μm、好ましくは5nm~5μmの平均粒度を有する粒子状材料は、好ましくは充填剤として使用される。「平均粒度」という用語は、本明細書中で、それぞれの場合において体積平均を指す。
【0053】
特に歯科分野にとっての好ましい無機粒子状充填剤は、酸化物に基づく非晶質球状ナノ粒子状充填剤(例えば、10nm~200nmの平均粒度を有する、ヒュームドシリカ(pyrogene kieselsaeure)もしくは沈殿シリカ、ZrO2およびTiO2、またはSiO2、ZrO2および/もしくはTiO2の混合酸化物など)、ミニ充填剤(例えば、0.2μm~5μmの平均粒度を有する、石英、ガラスセラミックまたはガラス粉末)、ならびにX線不透明充填剤(例えば、三フッ化イッテルビウムまたはナノ粒子状酸化タンタル(V)もしくは硫酸バリウム)である。加えて、繊維状充填剤(例えば、ナノファイバー、ガラス繊維、ポリアミドまたは炭素繊維など)も、使用することができる。
【0054】
非歯科用途については、上で名前を挙げた材料に加えて、ホモポリマーおよび/もしくはコポリマー(好ましくはポリ((メタ)アクリレート)、ビニルポリマー、好ましくはポリスチレンもしくはポリ酢酸ビニル)、または縮合ポリマー(好ましくは、ポリエステル)も、充填剤として考慮に入れられる。これらの充填剤は、好ましくは、0.5μm~100μmの間の平均粒度を有する粉末として使用される。それらはモノマーにおいて部分的に可溶性である。無機充填剤(例えば、CaCO3、タルク、TiO2、CaSO4、シリケート、ガラス、炭素粉末もしくは炭素繊維、またはAl、Zn、CuもしくはNiに基づく金属粉末など)も、非歯科用途にさらに使用することができる。
【0055】
追加として、本発明による組成物は、必要ならば、さらなる添加剤、例えば、安定剤、UV吸収剤、染料もしくは顔料など、および溶媒、例えば、水、エタノール、アセトンもしくは酢酸エチルなど、または滑沢剤を含有することができる。
【0056】
本発明に従う材料は、好ましくは、
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99.999重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~85重量%の充填剤、および
(d)0重量%~70重量%添加剤(複数可)
を含有する。
【0057】
別段に示されていない限り、全ての百分率は材料の総質量に対してである。
【0058】
歯科用セメントとして特に好適な材料は、好ましくは、
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~50重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)40重量%~70重量%の充填剤、および
(d)0重量%~5重量%の添加剤(複数可)
を含有する。
【0059】
歯科用複合材料として特に好適な材料は、好ましくは、
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~40重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)50重量%~85重量%の充填剤、および
(d)0重量%~5重量%の添加剤(複数可)
を含有する。
【0060】
歯科用コーティング材料として特に好適な材料は、好ましくは、
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99.989重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~20重量%のナノ粒子状充填剤、
(d)0.01重量%~2重量%の添加剤(複数可)、および
(e)0重量%~70重量%の溶媒
を含有する。
【0061】
歯科用接着剤として特に好適な材料は、好ましくは、
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99.989重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~20重量%のナノ粒子状充填剤、および
(d)0.01重量%~2重量%の添加剤、
(e)0重量%~50重量%の溶媒、ならびに
(f)1重量%~20重量%のラジカル重合性接着性モノマー
を含有する。
【0062】
ステレオリソグラフィーまたは3D印刷のために特に好適な材料は、好ましくは、
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)10重量%~99重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~80重量%の充填剤(複数可)、および
(d)0重量%~10重量%の添加剤(複数可)
を含有する。
【0063】
コーティングとして特に好適な材料は、好ましくは、
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)20重量%~99重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)0重量%~20重量%の染料(複数可)および/または顔料(複数可)、ならびに
(d)0重量%~10重量%のさらなる添加剤(複数可)
を含有する。
【0064】
印刷インクとして特に好適な材料は、好ましくは、
(a)0.001重量%~5重量%の前記一般式(I)のアシルスズ化合物(複数可)、
(b)20重量%~95重量%のラジカル重合性バインダー、
(c)1重量%~20重量%の染料(複数可)および/または顔料(複数可)、ならびに
(d)0重量%~10重量%のさらなる添加剤(複数可)
を含有する。
【0065】
本発明による組成物は、光重合物の調製に、および複合材料、セメント、コーティング材料、プライマーまたは接着剤として好適である。それらは、医学分野において、とりわけ充填複合材料、固定用セメント、接着剤、補綴材料、前装材料などの歯科用材料としての使用に、ならびにクラウン、インレーまたはコーティングの製造に特に好適である。
【0066】
歯科用材料は、損傷歯を修復するための歯科医による口腔内用途に、即ち治療用途に好適であり、例えば歯科用セメント、充填複合材料および前装材料として好適である。しかしながら、それらは、口腔外で、例えば補綴、人工歯、インレー、アンレー、クラウンおよびブリッジなどの歯科修復物の製造または補修において使用することもできる。
【0067】
さらに、本発明による材料は、外科手術(例えば、組織再生など)における医学的用途に、補聴器の製造に、または、眼科において、眼内レンズもしくはコンタクトレンズの製造に好適である。
【0068】
技術用途において、本発明による組成物は、成形体、プロトタイプまたは素体の製造のためのステレオリソグラフィーまたは3D印刷において、コーティングの分野において、またはマイクロエレクトロニクスにおいて、例えば、フォトレジスト技術またはナノインプリントリソグラフィーにおいて使用することができる。本発明による材料の特に好ましい使用は、リソグラフィーに基づくプロセスによるセラミックまたは金属粉末の3D印刷の分野における使用である。本発明によって調製された光重合体は、本明細書において焼結プロセスにおける犠牲構造を表す。本発明による式(I)の化合物の相対的に長い波長の吸収極大に起因して、セラミック(例えば、ケイ素をベースとする、例えば、ジルコニウムの酸化物、炭化物および窒化物など)、ならびに金属粉末(例えば、ステンレス鋼または工具鋼)さえも、印刷することができる。
【0069】
さらに、本発明による組成物およびそれから調製される重合物は、その上、様々な表面上のワニスまたはコーティングとして、例えば、木材、紙、ボール紙および特にプラスチック、セラミックまたは金属上の装飾コーティングおよび保護コーティングなどとして好適である。本発明による式(I)の化合物の相対的に長い波長の吸収極大は、例えばインクジェットプロセスの領域における顔料系または充填系の貫通硬化深度に特に特別な利点を提供する。さらに、本発明による組成物およびそれから調製された重合物は、多種多様な材料を結合するための、または成形、加圧、高速プロトタイピングもしくは3D印刷することによる成形体の調製のための接着剤として使用することもできる。
【0070】
本発明を、実施例を参照してより詳細に以下に説明する。
【実施例】
【0071】
実施例1:
ベンゾイルトリフェニルスズ(BtPhSn)の合成
グローブボックスを使用して、1当量(1.69g)の塩化トリフェニルスズおよび3当量(0.09g)のリチウム箔を秤量して別々のシュレンク管に入れ、次いで10mlの無水THFをこれらのフラスコの各々に添加した。反応容器を実験室にて橙色光下で不活性ガスマニホールドに接続し、その後、0.05当量(0.03g)のナフタレン(触媒として)をリチウム懸濁液に添加した。懸濁液を超音波浴に20分間室温(RT)で入れ、次いで、さらに30分間集中的に撹拌すると、懸濁液が暗色に急速に変化した。次いで、塩化トリフェニルスズ溶液をシリンジおよびセプタムによってリチウム懸濁液にRTで、20分の期間をかけて滴下添加し、これによって反応混合物が再び短時間で脱色した。撹拌を4時間RTで続け、さらなるシュレンク管を乾燥THF中の1.06当量(0.54ml)の塩化ベンゾイルの溶液10mlと共に準備した。両方の溶液をアセトン/N2混合物によって-78℃に冷却し、次いで、第1の反応混合物を塩化ベンゾイル溶液に20分の期間をかけて滴下添加した。添加が完了した後、冷却浴を除去し、混合物を18時間RTで遮光しながら撹拌した。溶媒を高真空中で取り除いた。残りの物質混合物を20mlの無水n-ペンタン中に入れ、次いで、不活性条件下で濾過した。続いて、それを、各回10mlの無水n-ペンタンで2回洗浄し、次いで、溶媒を濾液から遮光しながら除去した。次いで、得られた強い黄色の結晶を高真空中で乾燥し、アルゴン下で冷蔵庫(4℃)中に遮光しながら貯蔵した。得られた生成物(1.25g、理論の63%、融点:58℃)は、精製ステップを用いずに、すでに非常に良好な純度を有しており、GC-MS、HPLCおよびNMR分光法によって確認することができた。
【0072】
GC-MS(CH2Cl2):m/z(rel.):455(M,4%), 379(6%), 351(100%), 197(44%), 120(10%), 77(10%).
1H-NMR:δH(400MHz, CDCl3): 7.82-7.28(20H, m,Ar-H).
13C-NMR:δC(100MHz, CDCl3): 161.35(C=O);141.56;137.24;136.14;135.11;132.64;128.31;128.04; 127.82;127.73(Carom).
119Sn-NMR:δSn(CDCl3):-217.74.
【0073】
1.0mmol/lの濃度を有するBtPhSnのアセトニトリル溶液の吸収スペクトルを、ベンゾイルトリメチルゲルマニウムと比較して、
図1に示す。BtPhSnの吸収極大は430nmにあり(ベンゾイルトリメチルゲルマニウム:411nm)、吸収係数は309l/cm・molである(ベンゾイルトリメチルゲルマニウム:146l/cm・mol)。さらに、BtPhSnの場合、著しい吸収がもはや観察されない波長は、500nmを超える波長のみである一方、ベンゾイルトリメチルゲルマニウムの場合、およそ465nmからそれはすでに発生する。比較は、Sn化合物のベンゾイル発色団が、Ge化合物と比較して、より長い波長でより強く吸収し、光開始剤としての使用に有利であることを示している。
【0074】
実施例2:
BtPhSnの溶液の光分解
0.5mol/lのMMA濃度を有し、1.0mmol/lの濃度である実施例1からのBtPhSnのアセトニトリル溶液に、1cmのキュベット中で、ハロゲンと同様の385nm~515nmの広帯域スペクトルを有するBluephase 20 iポリウェーブLED(Ivoclar Vivadent AG)を照射し、吸収スペクトルを照射時間の関数として記録した。結果をベンゾイルトリメチルゲルマニウム(BtMGe)と比較して
図2に表す。結果は、照射でSn光開始剤BtPhSnが、類似したGe光開始剤BtMGeよりも迅速に明らかに漂白されることを証明している。
【0075】
実施例3:
実施例1からのベンゾイルトリフェニルスズ(BtPhSn)を使用する光硬化性複合材料の調製
ジメタクリレートUDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの付加生成物)およびTEGDMA(トリエチレングリコール)およびビス-GMA(メタクリル酸およびビスフェノールAジグリシジルエーテルの付加生成物)および実施例1からのSn光開始剤BtPhSn、ならびに充填剤:OX-50,sil.(シラン化ヒュームドシリカ、Degussa)、YbF
3(三フッ化イッテルビウム、Sukgyung、South Korea)、SiO
2-ZrO
2混合酸化物,sil.(シラン化SiO
2-ZrO
2混合酸化物、Transparent Materials、USA)およびガラス充填剤GM27884,sil.(シラン化ガラス充填剤GM27884、1.0μm、Schott)の混合物(重量%での数値)(表1)から、光硬化用複合材料C1(セメント様稠度)およびC2(充填複合材料)を、「Exakt」ローラーミル(Exakt Apparatebau、Norderstedt)によって調製した。
【表1】
【0076】
対応する試験片を材料から調製し、歯科用光源(Spectramat(登録商標)、Ivoclar Vivadent AG)で3分間2回照射し、それによって硬化させた。室温で試験片の24時間貯蔵(RT)または水中にて37℃で24時間貯蔵(WS)の後に、ISO規格であるISO-4049(歯学用ポリマーベースの充填材料、修復材料および合着材料)に従って、曲げ強度および曲げ弾性率を決定した(表2)。
【表2】
1) MPa単位での曲げ強度(FS)
2) 曲げ弾性率(FME)、GPa