(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】歪みゲージセンサと位置推定手段を備える形状記憶合金アクチュエータとその製造方法
(51)【国際特許分類】
F03G 7/06 20060101AFI20220629BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20220629BHJP
G01B 7/16 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
F03G7/06 E
C22F1/10 G
G01B7/16 R
(21)【出願番号】P 2019514242
(86)(22)【出願日】2017-09-14
(86)【国際出願番号】 CA2017051084
(87)【国際公開番号】W WO2018049526
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-11
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512031264
【氏名又は名称】スマーター アロイズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ザマニ、ニマ
(72)【発明者】
【氏名】クンツ、ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】カーン、モハメッド、イブラヒーム
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-033612(JP,A)
【文献】特開昭63-136014(JP,A)
【文献】特開昭63-190130(JP,A)
【文献】特開平01-262372(JP,A)
【文献】特表2013-500864(JP,A)
【文献】特開2015-083135(JP,A)
【文献】特開2015-164539(JP,A)
【文献】米国特許第06149742(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102010054118(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 7/06
C22F 1/10
G01B 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶アクチュエータであって、
一体型の形状記憶合金と、
アクチュエーションのために構成される前記一体型の形状記憶合金の形状記憶効果区画(SME区画)と、
当該形状記憶アクチュエータの位置センシングを実現するセンサとして構成される前記一体型の形状記憶合金の擬弾性区画(PE区画)と、
前記
擬弾性区画(PE区画)のセンサ結果に基づいて少なくとも前記
形状記憶効果区画(SME区画)を通過する電流を制御することによりアクチュエータを制御するために構成される制御システムと
を備え
、
前記擬弾性区画(PE区画)は、前記形状記憶効果区画(SME区画)の意図される使用温度より低い変態温度を持つことを特徴とする形状記憶アクチュエータ。
【請求項2】
前記擬弾性区画(PE区画)は、歪みゲージとして構成される請求項1に記載の形状記憶アクチュエータ。
【請求項3】
制御システムを用いて形状記憶アクチュエータを通過する所定の電流を与えるステップと、
前記形状記憶アクチュエータの形状記憶効果区画(SME区画)の第1の抵抗を測定するステップと、
前記形状記憶アクチュエータの擬弾性区画(PE区画)の第2の抵抗を測定するステップと、
前記制御システムを用いて前記第1の抵抗および前記第2の抵抗に基づいて前記形状記憶アクチュエータの推定位置を計算するステップと、
前記制御システムを用いて、推定された位置に基づいて前記形状記憶アクチュエータに与える電流を適応させるステップと
を備える形状記憶アクチュエータの制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載の形状記憶アクチュエータの製造方法であって、
既存の擬弾性区画(PE区画)と異なる変態温度を持つ形状記憶区画(SME区画)を与えるために形状記憶合金をレーザ処理するステップと、
前記レーザ処理された形状記憶合金を加工熱処理するステップと、
前記加工熱処理された形状記憶合金をトレーニングするステップと
を備える形状記憶アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
前記加工熱処理するステップは、
前記レーザ処理された形状記憶合金を
溶体化焼鈍するステップと、
前記レーザ処理された形状記憶合金を硬化作業するステップと、
前記レーザ処理された形状記憶合金を熱処理するステップとを備える請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記硬化作業するステップは、
前記レーザ処理された形状記憶合金を1つ以上のダイを通して引く処理と、
前記引く処理中に前記レーザ処理された形状記憶合金を周期的に
インターアニーリングする処理とを備える請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記トレーニングするステップは、アイソサーマル・ストレスサイクリングまたはアイソストレス・サーマルサイクリングの片方または両方を備える請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本文書は、出願日2016年9月14日の仮出願62/394、491に基づく正式な出願であり、この仮出願の利益を主張する。この仮出願は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書で開示される実施形態は、歪みゲージセンサおよび/または位置推定手段を備える形状記憶合金アクチュエータ、および当該アクチュエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
形状記憶合金(SMAs)は、形状記憶効果(SME)および擬弾性(PE)を含む独特な特性を示す材料の一種である。SMEとしての挙動は、最初1932年にArne Olanderによって、カドミウム-金の合金で観測された。しかしながら同様の特性を示す材料全体に形状記憶合金という用語が与えられたのは、1960年台になってからであった。CuAlNi、TiNb、FePtその他を含む形状記憶合金の数々の合金の組成が特定されてきた。しかしながら、最も広く使われ商業的に入手可能なSMAは、一般にニチノールと呼ばれるNiTiである。NiTiは、高い力-質量比、大きな回復可能歪み、超弾性および生体適合性などの点で、他のSMAに対して複数の利点を持つ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SMAは、例えば医療用脈管ステント、自動車、ロボティクスおよび振動吸収などの様々な応用で使われている。しかしながら、SMAの応用を制限するであろういくつかの欠点、例えば位置取得の困難さおよび/またはアクチュエータからの歪みのフィードバックが残されている。
【0005】
このように、従来のSMAアクチュエータの少なくともいくつかの問題を解決する改良されたアクチュエータと、その製造(または作成)方法とが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件のある態様によれば、形状記憶アクチュエータが与えられる。この形状記憶アクチュエータは、一体型の形状記憶合金と、アクチュエーションのために構成される前記一体型の形状記憶合金の形状記憶効果区画(SME区画)と、位置センシングを実現するセンサとして構成される前記一体型の形状記憶合金の擬弾性区画(PE区画)と、前記PE区画のセンサ結果に基づいて少なくとも前記SME区画を通過する電流を制御することによりアクチュエータを制御するために構成される制御システムとを備える。
【0007】
特定の実施例では、PE区画は、歪みゲージとして構成されてよい。
【0008】
本件の別の態様によれば、形状記憶アクチュエータの制御方法が与えられる。この方法は、制御システムを用いて形状記憶アクチュエータを通過する所定の電流を与えるステップと、前記形状記憶アクチュエータの形状記憶効果区画(SME区画)の第1の抵抗を測定するステップと、前記形状記憶アクチュエータの擬弾性区画(PE区画)の第2の抵抗を測定するステップと、前記制御システムを用いて第1の抵抗および第2の抵抗に基づいて前記形状記憶アクチュエータの推定位置を計算するステップと、前記制御システムを用いて推定された位置に基づいて前記形状記憶アクチュエータに与える電流を適応させるステップとを備える。
【0009】
本件のさらに別の態様によれば、形状記憶アクチュエータの製造方法が与えられる。この方法は、既存の擬弾性区画(PE区画)と異なる変態温度を持つ形状記憶区画(SME区画)を与えるために形状記憶合金をレーザ処理するステップと、レーザ処理された形状記憶合金を加工熱処理するステップと、加工熱処理された形状記憶合金をトレーニングするステップとを備える。
【0010】
特定の実施例では、加工熱処理するステップは、レーザ処理された形状記憶合金をアニール溶解するステップと、レーザ処理された形状記憶合金を硬化作業するステップと、レーザ処理された形状記憶合金を熱処理するステップとを備えてよい。この実施例では、硬化作業するステップは、レーザ処理された形状記憶合金を1つ以上のダイを通して引く処理と、引く処理中にレーザ処理された形状記憶合金を周期的に内部アニールする処理とを備えてよい。
【0011】
さらに別の特定の実施例では、トレーニングするステップは、アイソサーマル・ストレスサイクリングまたはアイソストレス・サーマルサイクリングの片方または両方を備えてよい。
【0012】
当業者が以下のいくつかの典型的な実施形態の説明を読めば、別の態様や特徴は明らかだろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下、添付の図面を参照して、例示のみで実施形態を説明する。
【
図1】アクチュエータの実施形態を示す模式図である。
【
図2】トレーニングされた擬弾性NiTiワイヤの擬弾性に対する温度の効果を示す実験結果の図である。
【
図3(a)】レーザ処理されたNiTi変態温度に対するレーザパワーの効果とTiリッチな飽和領域とを示す図である。
【
図3(b)】レーザ処理の範囲と転換可能性とを示すDSC結果の図である。
【
図4】アクチュエータの大量生産に適した、連続レーザ処理配置の実施形態を示す模式図である。
【
図5(a)】ベースメタル(BM)のレーザ処理された領域を表す、レーザ処理後のNiTiワイヤの図である。
【
図5(b)】BM領域とLP領域の間の構造の均一性を表す、加工熱処理後のワイヤの図である。
【
図6】変態温度に関する様々なDSC結果を示す図である。(a)はベースメタル(およびPE)、(b)はレーザ処理後、(c)は加工熱処理後、(d)はトレーニング後である。
【
図7(b)】ポータブルなスタンドアロン実験設定の写真である。
【
図8】SMAアクチュエータ駆動回路と電気系の模式図である。
【
図9】ノイズキャンセル・フィルタを与えた後の電気回路から得られたデータを示す図である。(a)は加熱中(マルテンサイトからオーステナイト)の電気抵抗、(b)は冷却中(オーステナイトからマルテンサイト)の電気抵抗、(c)は加熱中の位置、(d)は冷却中の位置である。
【
図10】レーザ処理後のSMAアクチュエータのSME区画のオーステナイト相およびマルテンサイト相の変態温度と、加えられた応力との関係を示す図である。マルテンサイト相変態とオーステナイト相変態の傾きは等しくない。
【
図11】応力ゼロでのアクチュエータのSME区画のDSC結果から得られた熱容量と、正規分布関数に基づいてモデル化された応力ゼロでの熱容量とを示す図である。R相は、モデル化の結果にではなく、DSCの結果に存在することが示される。
【
図12】異なる応力を与えたときの、抵抗と位置との関係および温度と位置との関係を示すグラフである。実験結果を点線で示し、SMEモデル結果を実線で示す。
【
図13】PEの抵抗と異なる応力および温度との関係を示す図である。
【
図14】位置、温度および応力の推定アルゴリズムの概念的構成を示すブロック図である。
【
図15】位置推定の結果を示す図である。異なる応力レベルで推定された位置(および位置の誤差)が示される。
【
図16】アクチュエータの別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明は一般に、歪みゲージセンサを備え、位置推定アルゴリズムとともに使用することができる改良されたアクチュエータに関する。この位置推定アルゴリズムは、動的かつ未知の歪みレベルの下でアクチュエータを制御する制御システムによって、または直接の制御力によって使用することができる。一般にこのアクチュエータは、1つの一体型アクチュエータワイヤ内に2つ以上の異なる材料組成(区画)を含む。これらの組成の各々は、室温で異なる振る舞いをする。すなわち、一方はアクチュエーションに対し形状記憶効果(SME)を示し、他方は擬弾性(PE)効果を示す。これはセンサ(このセンサはアクチュエータ自身の一部でもあるため、しばしば埋め込みセンサと呼ばれる)を実現するために使われる。アクチュエータの製造は、レーザ処理、熱処理および冷間加工処理と、それに続くアイソストレス・サーマルサイクリングなどを用いた特性安定化のためのトレーニングを含む。アクチュエータは、2つの異なる材料組成に関する2つの抵抗測定を用いた、モデルベースの外部センサレス位置推定アルゴリズムを含んでもよい。現在までのところ、未知の与えられた動的応力の下でのSMAの外部センサレス位置推定は、不可能ではないとしても非常に難しい。これは、システムの複雑さと未知のパラメータ数が多いこととに起因する。本明細書に記載の実施形態では、埋め込みセンサから得られる追加情報がこの問題を解決するものと考える。特にここで提案されるアクチュエータは、機械的負荷が予め分からない場面に応用できるものと期待される。
【0015】
前述の通り、従来のSMAアクチュエータには、位置および歪みの測定を含むフィードバックに関連する問題が存在する。これは位置制御に関し改良の余地を残す。
【0016】
例えばSMAアクチュエータの位置制御は、異なる制御技術とフィードバック信号の使用を前提としてきた。典型的には、最も信頼性の高いフィードバック信号は位置測定に向けられる。しかしながら位置センサは非常に高価であり、アクチュエータの構成をより複雑化する可能性がある。このようにSMAは、圧電型アクチュエータや磁気アクチュエータなどの他のアクチュエーション技術を使うことではうまく実現することができなかった。位置制御と関連して、フィードバック信号として電気抵抗(ER)を用いたセンサレス法によるセンシングも検討されてきた。しかしながら多くの研究では、加えられる応力は一定または既知のいずれかであり、バネの場合のように応力と変位との関係は単純なものであった。
【0017】
本明細書の実施形態は、応力センサと位置センシングを含む改良されたアクチュエータを与えることを目的とする。
図1に、アクチュエータ100の実施形態を模式的に示す。アクチュエータ100は、異なる合金組成を有する2つの区画を持つシングルワイヤ105によって形成される。この実施形態では、大きい方の区画110(以下、「アクチュエーション区画」、「アクチュエーション部」、「形状記憶効果(SME)区画」または「SME部」とも呼ぶ)はアクチュエーションを促進し、小さい方の区画115(以下、「応力センシング区画」、「応力センシング部」、「擬弾性(PE)区画」または「PE部」とも呼ぶ)は応力をセンシングする。しかしながら、アクチュエーション区画と応力センシング区画とのサイズ比は、アクチュエータの特定の用途に必要な応用/パラメータに応じて変化してもよい。すなわち、アクチュエータも応力センシングも、一体型のSMEワイヤによって実現される。応力センシング区画115は、アクチュエーション区画110で意図される使用温度より低い変態温度を持つように構成される。これにより、応力センシング区画115は擬弾性(PE)の特性を示す。
図2に、PE挙動に対する温度の効果を示す。このアクチュエータでは、与えられたいかなる温度においても、加えられる応力が擬弾性プラトーより低い状態を保つように設定される。これにより、アクチュエータは、オーステナイト相の弾性変形内で動作することが保証される。従って、温度が異なった場合であっても、動作は比較的一定かつ線形のままである。アクチュエーション区画110は、最初の動作温度およびPE区画115の温度より高い変態温度を持つアクチュエーション(運動)に関し、SMEとしての特性を持つように構成される。
【0018】
図1に示されるように、アクチュエータは、電流を加えるためのまたはセンシングのための、電気接点120を含んでよい。このアクチュエータは、一般に2つの電気的構成が可能である。第1の電気的構成は、電流がPE区画115とSME区画110の両方を通って流れる、すなわち電流がこれら2つの区画の両方に向けて流れるものである。第2の電気的構成は、電流の大半がSME区画110のみを通って流れるものである。これらの構成はいずれも動作可能であるが、本明細書では後者の構成について説明する。
【0019】
一般にアクチュエータの製造または作成は、組成の調整(すなわち、SME区画110およびPE区画115の的確な生成)のためのレーザ処理と、その後の、望ましい機械的特性を得るための加工熱処理とを含む。
【0020】
[1.1.レーザ処理]
SMAに追加的な「記憶」を与えるためにSMAの組成を変化させるための、すなわち、異なる変態温度を有する区画を与え、PE(センシング)またはSME(アクチュエーション)としての特性与えるための、SMAへのパルスレーザ処理がなされてきた。SMAへのレーザ処理に関するさらなる詳細については、国際公開第2011/014962号(国際出願番号PCT/CA2010/001219)を参照されたい。この文献は参照として本明細書に組み込まれる。この方法/処理の実施形態により、SMAの機能特性を変化させることができる。なぜなら機能特性は合金組成に敏感だからである。たとえ微妙な変化(例えば0.01%)であっても、SMAの機能特性(例えば変態温度や擬弾性応力)を変化させることができる。この技術は、本明細書に記載の独特な熱化学特性および電気機械特性を持つ、異なる区画を有する一体型ワイヤの製造への道を切り開く。
【0021】
図3(a)に、5msレーザパルスパワーの、NiTiの変態温度への効果を示す。
図3(b)は示差走査熱量測定(DSC)のプロットであり、レーザ処理の範囲と転換可能性とを示す。レーザのパワーは、ニッケルの蒸散量に対して直接的なインパクトを持つことが示される。従ってパワーの量を制御することにより、ワイヤの異なる区画の特性を制御することができる。レーザパルスのパワーに加えて、レーザパルスの時間およびレーザスポットのオーバラップも前述の国際公開に記載される特性に影響を与える。例えば凝固線を与えるために、各パルスは前段のパルスに60%オーバラップしてよい。
図5(a)は、レーザ処理された(LP)NiTiの拡大写真であり、元のベースメタル(BM)とレーザ処理された(LP)領域との境界を示す。
図5(b)は、さらなる処理を受けた後の同じワイヤを示す。
【0022】
表面上の任意の不純物を除去するために、BMワイヤは、レーザ処理の前にエタノールとアセトン(または同様のもの)を用いて洗浄されてよい。その後BMワイヤは、例えば
図4に示されるようなコンピュータ制御システム200を用いた既知の方法でレーザ処理される。システム200は、ワイヤ供給ローラ205、ワイヤハンドリングローラ210、パルスレーザ215およびプロセッサ225を含む制御システム220を含んでよい。一般的には、SMA材料の性質に起因して、SME特性を持つ必要がある区画だけが処理されればよい。処理中の酸化を低減または回避する目的で、ワイヤはアルゴンガスチェンバ(または同様のもの)内で処理されてよい。本明細書のアクチュエータの実施形態では、1000Wで5msのパルスが使われた。レーザ処理のシステムおよび方法のさらなる詳細は、米国特許出願公開第20170165532号に記載されている。この文献は参照として本明細書に組み込まれる。
図6(a)および
図6(b)は、BMワイヤとLPワイヤのDSCの結果を示す。DSCの結果から、変態温度と材料組成の変化が示される。
【0023】
[1.2.加工熱処理]
レーザ処理されたワイヤを加工熱処理することにより、アクチュエータの最終的な微細構造と特性とが構成される。様々な熱処理がSMAの変態温度と機械的特性に影響を与える点に注意することは重要である。ワイヤの微細構造はレーザ処理により変化する。従ってレーザ処理後のワイヤは、例えば100℃で1時間アニール溶解されてよい。粒子構造を精製し、硬化作業により転位を導入するために、ワイヤは1つ以上のダイを通して引かれてもよい。本実施形態によれば、ワイヤの直径は、ワイヤ引き処理により最初の460マイクロメータから250マイクロメータに縮小される。過度の硬化作業と破損を避けるため、ワイヤは3つのダイのそれぞれを通過した後に、600℃で15分間内部アニールされてよい。ワイヤ引きステップが完了し次第、最後の熱処理が実行されてよい(この場合、480℃で2時間である)。SMAアクチュエータは、熱処理のこの段階で前述のPE区画とSME区画とを得る。
図6(c)は、加工熱処理後の変態温度を示す。
図5は、引かれたアクチェエータワイヤを示す。この図に示されるように、ワイヤ引き後は、BM領域とLP領域との間の境界は観察されない。その後のトレーニング処理により、アクチュエータの特性は安定化される。
【0024】
典型的には異なるタイプのトレーニング処理、すなわち、アイソサーマル・ストレスサイクリング、アイソストレス・サーマルサイクリングまたはサーマルサイクリングとストレスサイクリングの組合せが存在する。トレーニング処理は、材料の微細構造に優先粒(preferential grain)を一方向に導入するものであると考えられる。本明細書に記載のアクチュエータの実施形態では、SMAアクチュエータをトレーニングするために約1000回のアイソストレス・サーマルリサイクルが実行される。トレーニング後のワイヤの直径は、250μmから約226μmに縮小する。トレーニングの前と後とでの変態温度の違いは、
図6(c)および
図6(d)に示される。
【0025】
現在、SMA分野における開示の多くは、Flexinol(登録商標)として知られる商業的に入手可能なNiTi SMAを利用している。しかしながらSMAの合金組成と加工熱履歴との相違に起因し、本明細書で提案されるアクチュエータの機械的特性および電気的特性の少なくともいくつかは、現存する文献と異なっていてもよい。もっともその全体的な振る舞いは共通である。ここで説明する実験では、ワイヤの特性は一般に実験的に決定される。
【0026】
SMAアクチュエータの電気機械的特性を特徴付けるための実験システムが設計された。
図7(a)および
図7(b)はそれぞれ、実験システム300の実施概要を示す模式図と実施形態の写真である。システム300には、アクチュエータワイヤに動的な負荷を与えるための、トルク制御されたサーボモータ(図示せず)が設置された。しかしながら実験では、静的な重り305のみが使われた。アクチュエータワイヤ105の両端部は、2つのステンレススチールのプレート(図示せず)の間でクランプされた。重りはプレートの底部に接続された。ワイヤ105は、垂直方向にのみ運動するように、線形スプラインベアリング(図示せず)を用いてその運動が制限された(すなわち、ねじり方向の運動が制限された)。線形ベアリングは円滑に動作するとはいえ、ベアリング内の摩擦の影響は存在する。従って一定重量の重り305を用いたとしても、ワイヤに与えられる実際の応力は一定ではない。実際ワイヤに与えられる応力は、加速力、摩擦力および重力(重り305)の合力である。制御されていない環境における不規則で乱雑な気流(これはワイヤ105の伝達係数に影響を与える)を避けるために、システム300はプラスティックの環境(図示せず)の中に閉じ込められた。実験システムはまた、高精度のインクリメンタル光学位置エンコーダ310を含むセンサ、歪みゲージ/ロードセル315および高精度の環境温度センサ(図示せず)を与えられた。ワイヤ105の両端間の電圧を接続し、ワイヤ105内の電流/電圧を測定するために、電気コネクタ320が用いられた。
【0027】
[2.1 電流ドライバおよび測定回路]
ワイヤの加熱は、ジュール加熱を用いて行われた。ワイヤの温度を制御し、その後アクチュエータの位置を制御するために、可変で制御可能な電源325が用いられた。2つの抵抗測定を用いたセンサレス法でアクチュエータの位置を評価することを目的とするため、制御回路は2つの抵抗を非常に正確に測定することができる必要があった。
図8に、制御可能な電流源405を含む制御回路400の実施形態を示す。
【0028】
本例における電流源405には、高ゲインのダーリントン・ダイポールジャンクションNPNトランジスタ410が用いられた。トランジスタ410は、電気的負荷(アクチュエータ)100に対してシンク配置で設置された。電流を測定し、これをトランジスタに接続された差動アンプ420の負入力にフィードバックするために、ローサイド電流センシング・シャントレジスタ415が用いられた。デジタル-アナログコンバータ(DAC)(本例では16ビット)が、差動アンプ420の正入力に接続され、参照(指令)電流信号として機能した。このハードウェアフィードバックループは5MHzで動作し、電気的負荷(アクチュエータ抵抗)が変化しても指令電流が一定値に維持されるように構成された。
【0029】
本例では抵抗は、式1および2に示されるように、負荷を流れる電流測定とそれぞれの電圧降下測定とを用いて計算された。前述のように、測定された電流は、シャントレジスタによるものである。PE区画およびSME区画を横断する2つの電圧降下は、140dBの高同相信号除去比(CMPR)作動プログラマブルゲインアンプ(PGA)430を用いて測定される。CMPRは、アクチュエータのPE区画のような非常に低い作動電圧を測定するとき便利である。なぜなら、一般にCMPRが高ければ高いほど信号対雑音比が改善されるからである。PGA430のゲインは、シリアル・ペリフェラル・インタフェース(SPI)プロトコル440を用いて、マイクロコンピュータ(MC)435により選択される。PE区画を横断する電圧のようなより敏感な測定のためには、高増幅ゲインが用いられた。ゲインと同様に、PGA430は、マルチプレクサを含み、8個の入力を有する。これらの入力の各ペアは、やはりSPIシリアル通信を介して、作動のための選択が可能である。ADCからより高い実効分解能を得る目的で、オーバサンプリングと呼ばれる技術が用いられる。オーバサンプリングは、非常に高速のアナログ-デジタル変換を行いて、変換された値を平均化する。従って分解能と変換速度との間にはトレードオフが存在する。PGA430の出力は、第2のアナログ-デジタルコンバータ(ADC)445を通過し、変換されたデジタル値はMC435に送られる。さらに高精度で正確な電圧測定を行う目的で、ADCは高精度基準電圧を使ってもよい。そして変換値は、第2の高精度電圧計を用いて、オフセットとゲインエラーに関して較正される。
【数1】
【数2】
【0030】
制御回路400はまた、実験システム300から他の測定データを得る。例えば、歪みゲージセンサ315から実際の応力を得たり、高分解能インクリメンタル光学エンコーダ310、周辺温度センサ450およびシステム300への入力電圧455からアクチュエータの位置を得たりする。
【0031】
式1および2から明らかなように、計算された抵抗のノイズは、電流が低ければ低いほど高くなる。潜在的なノイズをフィルタする目的で、測定された電流と電圧とは、先ずメジアンフィルタと移動平均フィルタを用いてフィルタされた。本例では、MC435は、RS232シリアルインタフェースを介してコンピュータ/プロセッサ455に接続された。時間を含むすべての測定データは、ログを残すためにコンピュータ455に送られた。MC435は周波数200Hzで動作し、フィルタリングと信号処理はマイクロコントローラ上でリアルタイムに実行された。
図9に、異なる応力付与の下で得られたSME区画の位置と電気抵抗を示す。
【0032】
[2.2.電気接続]
前述の通り、アクチュエータワイヤの各端部は、2つのステンレススチールプレートの間でクランプされた。その後このプレートは、電流源回路とアクチュエータワイヤとの間に電気接続を形成するリング端子に接続された。本明細書の目的では、一時的な電気接続により、ミドルセンスプローブのみが接続された。電気接続やワイヤリングでなく、アクチュエータの真の抵抗を計算するために、4-ワイヤ抵抗測定技術により、回路から接続までの抵抗は0.32オームと測定された。
【0033】
[3.電気的特性とモデリング]
温度依存性のある材料特性を決定するために、アクチュエータワイヤの熱モデルが開発された。材料特性が決定された後、PE区画およびSME区画の振る舞いを記述するために、これらは現象論的モデルで使用された。
【0034】
[3.1.温度のシミュレーション]
SMEとPEの抵抗特性は、ワイヤの温度に依存し得る。ワイヤの温度は、熱電対、サーマルカメラその他類似のものを用いて測定することができる。しかしながらワイヤの直径(226μm)は細く、精度の改善が望まれるため、本実施形態ではアクチュエータの温度はシミュレーションされた。シミュレーションは、抵抗、伸び、入力電流および周辺温度の測定値が与えられた上で、基本的な放物型熱伝導PDE(式3)に基づき、MATLAB(登録商標)のPDEツールボックスライブラリを用いて実行された。この数学的熱伝導モデルを用いてSMAアクチュエータの温度を推定する手法は、他の研究で使われてきたものである。しかしながらこうした研究の大半は、問題を単純化するために、簡単な集中容量のアプローチを使い、一定の組成を持つ材料を扱った。これに対し、以下に説明するより複雑なシミュレーションを使うことにより、より正確な結果を得ることができる。これは、特に本実施形態のアクチュエータワイヤが、異なる熱特性を持つ複数の材料組成を有することによる。
【数3】
【0035】
アクチュエータワイヤは、円柱形のボディを持ち、従ってその長さ方向に関して軸対称であると考えられる。式3は、式4のように円柱座標で表すことができる。
【数4】
ジュール加熱は、内部熱生成(q=I
2R(t)(1/AL(t))としてモデル化される。半径が一定であり、熱伝導率の変化が非常に小さい(∂T/∂θ=0)と仮定すると、式4は以下のように簡略化される。
【数5】
ここでr、z、ρ、C、k、T、I、RおよびLは、それぞれ半径方向、長さ方向、密度、熱容量、熱伝導率、温度、電流、抵抗、および長さを表す。ワイヤの電流、抵抗および長さは、実験結果からシミュレーションに与えられる。応力がゼロの状態における相転移を表すために、熱容量は、DSCテストから温度の関数として得られた。NiTiの変態温度は加えられた応力の関数であり、応力の増加とともに上昇する。変態温度の上昇は、応力に対して線形であると仮定された。SMAアクチュエータをモデル化するとき、特に動的負荷が予測されるとき、できる限りこの変態温度の変化を考慮する必要がある。モデル化は以下のように表される。
【数6】
【0036】
定数C
AおよびC
Mは、安定状態で実行される実験に基づいて、実験的に得られた。M
sおよびA
sは実験的に得られ、M
fおよびA
fはそれぞれ平行であると仮定される。
図10の実験データは、変態温度と応力との関係を示す。
【0037】
PE区画とSME区画の熱容量は異なる。相転移に起因するSMEの熱容量の温度に対する変化は、潜在的な転位熱があることを示す。しかしながらPEは相転移しないため、熱容量係数は一定であると考えられる。シミュレーションにおける熱容量は、以下の区分ごとの関係によって定義される。
【数7】
【0038】
応力依存性を持つSME区画の熱容量は、式8および9に示される正規分布型の関数に基づいてモデル化される。曲線の中央部は、相転移の開始と終了の温度の平均である。標準偏差は変態温度の差の1/6であり、これは変態の95%を示す。熱容量モデルの結果は
図11に示される。
【数8】
【数9】
【0039】
PE区画とSME区画は2つの異なる材料組成を持つので、それらの熱伝導率も異なる。従ってマルテンサイト相とオーステナイト相の熱伝導率もまた異なる。その結果、SME区画の熱伝導率は相転移に依存する。式10は、オーステナイト相とマルテンサイト相の熱伝導率の荷重級数和で表した熱伝導率を示す。式11は、シミュレーションにおける熱伝導率の区分ごとの関係を示す。
【数10】
【数11】
【0040】
シミュレーションの目的のため、マルテンサイト相転移率は、特定の応力下での最大伸長に対する伸長率であると仮定する。
【0041】
アクチュエータワイヤの冷却は、熱対流と周辺環境への熱輻射の結果であると考えられる。ここで熱輻射は無視することができ、熱対流は式13への境界条件として与えられる。円柱形のワイヤの熱対流係数については、他の研究がなされてきた。最近、水平方向に対するワイヤの角度の対流係数への影響が研究され、それは式12で表される。
【数12】
【0042】
gを重力定数、Rcを気体定数、Zを空気の圧縮率因子、Dをワイヤの直径、Prをプランドル数、Pを気圧、μを空気の動粘性係数、kを空気の熱伝導率とする。A、Bおよびnは、ワイヤの角度に基づく実験定数である。ワイヤの温度は半径および長さ方向に関して一様でないため、平均温度はPE区画とSME区画に関して考慮される。シミュレーションは、アクチュエータに加えられる応力を変えて複数回実行された。
【0043】
[3.2.SMEのモデル化と特性]
SMEの挙動のモデル化には様々なアプローチ、例えば結晶構造と基本物理法則に基づく微小機械モデル化や熱力学モデル化などがある。しかしながらこれらのモデルは、複雑で定義し難いものとなる可能性がある。そこで本明細書の実施形態の目的を考慮して、巨視的な現象論的アプローチが選ばれた。このタイプのモデル化は、アクチュエーションと制御を目的とする場合は非常に一般的なものであり、2つの主要なカテゴリで実行することができる。すなわち、機械学習と、数値的方法または数学関数ベースである。これらのモデル化アプローチのいずれもが、アクチュエータの設計に適用することができる。
【0044】
式13および14は、実験結果に基づいてマルテンサイト相率を計算することにより、変態挙動を現象論的にモデル化する関数の組である。サインやコサイン、誤差関数および逆タンジェントなどの曲線とは若干異なるS字形関数もまた、SMA相転移をモデル化するために使われてきた。
【数13】
【数14】
【0045】
相転移の条件は式15および16で与えられる。
【数15】
【数16】
【0046】
様々な材料特性、R相(
図11に示される)の存在、その他の冶金学的現象(製造されたアクチュエータの微小2方向形状記憶効果など)などに起因して、実験結果とのより良好な一致を与えることを目的に、式13への線形相関が付加された。しかしながらこれは、アクチェエータのすべての実施形態に必要というわけではない。
【0047】
式17で示されるように、抵抗のマルテンサイト部分およびオーステナイト部分を、マルテンサイト相率に関する直列抵抗の組として追加することによって、SMEの抵抗はモデル化される。さらに、変態の伝播はワイヤの外端から始まって内側に向かって進むので、直列モデルは現象論的意味も有する。
【数17】
【0048】
オーステナイトとマルテンサイトのそれぞれの抵抗は、応力と温度の一次関数としてモデル化される。その相関は、安定状態での実験の組において実験的に得られる。式18はこの線形関係を示す。定数R
O
A,M、R
T
A,M、R
σ
A,Mはカーブフィッティングパラメータであり、
図9に示されるような実験データに基づいて取得される。
【数18】
【0049】
抵抗と同様に、SMEの弾性モジュールもまた相率の関数である。しかしながら抵抗モデルと同様のロジックで、弾性モデルは2つの平行な弾性メンバーとして追加される。
【数19】
【0050】
SMEの古典的な構造モデルは以下のように与えられる。
【数20】
θ
SMEは、熱の拡散を表し、これもまた相転移の関数である。
【数21】
【0051】
相転移の応力成分Ωは式22で表される。ここでε
max
SMEは最大回復可能歪みである。
【数22】
【0052】
図12に、異なる応力を与えたときのSMEのモデル化の結果が示され、実験データと比較されている。温度はシミュレーション結果であり、測定値ではないことに注意されたい。モデルは、オーステナイト変態の方がマルテンサイト変態より実験結果に近い。これは本明細書で説明される通り、材料に関係した理由による。
【0053】
[3.3.PE特性およびモデル化]
アクチェエータのSME部と異なり、PE部は相転移を起こさない。これは、加えられる応力が擬弾性プラトー応力より小さいことを前提とし、アクチュエーションは弾性領域でのみ発生することによる。従って、このアクチュエータのデザインに加えられる最大応力は、与えられたいかなる温度においても、擬弾性プラトーより小さくなければならない。従ってその振る舞いは、通常の弾性合金に極めて近い。すなわち
図13の実験データに示されるように、PE部の弾性領域の抵抗は、応力と温度に線形に依存する。
【数23】
【0054】
PE弾性のこの線形関係は、式18に示されるSME材料のマルテンサイト抵抗およびオーステナイト抵抗と同様にモデル化することができる。すなわち、相転移(ヒステリシス挙動)がないことから、PE部の温度とアクチュエータに加えられる応力との明示的な関係が得られる。異なる応力および温度に関し、PE領域の抵抗の実験的な抵抗測定が
図13に示される。
【数24】
【0055】
一般にSMAアクチュエータのアクチュエーションの範囲は、ワイヤに加えられる応力に依存する。一般的には、ジュール加熱を用いた制御は、相転移に起因するワイヤの伸長と熱拡散のみに対して可能であり、材料の弾性を原因とする伸長に対しては不可能である。例えばSME部が完全にオーステナイト相にあって応力が増加した場合、アクチュエータの位置は、純粋に加えられた応力の関数となる(熱伸長は無視できる)。これをワイヤの温度を変えることによって制御することはできない。従って応用が異なるときは、範囲と応力レベルに関するこれらの制限を考慮する必要がある。提案されるアクチュエータ(アクチュエータ位置)の全体の長さは、以下の式によって表される。
【数25】
【0056】
[4.位置推定アルゴリズム]
位置推定アルゴリズム(PEA)の実施形態は、前述のセクションの実験モデルに基づいて開発された。本セクションは、2つの抵抗(RPEとRSME)を測定することによりSMAアクチュエータワイヤの位置を推定するアルゴリズムの概要を説明することを目的とする。PEAのこの実施形態は、PEおよびSMEがいずれも同じ応力および熱環境条件(例えば周辺温度や対流)にあるという前提で機能する。
【0057】
PEはその弾性領域で動作するのみなので、相率の式はなく、式23から応力-温度の関係が直接得られる。しかしながら
図13に示されるように、温度の効果は応力の効果より大きい。従って加えられた応力を得るためには、PEの温度と抵抗の両方を知る必要がある。式26は、簡略化した集中容量熱伝導関数であり(これによりPE部の温度がリアルタイムで計算される)、PEAの一部である。この式は、以前のSME部の温度、周辺温度、PEの熱容量、PEの抵抗、熱伝導率およびPE部を通過して流れる電流に基づく。PE部の中央部とSME部の中央部との間隔はL
*で表される。A
PEはPE部の表面積である。相転移がないことでPE領域の特性はより一定となることから、PEの温度の計算はSMEオンラインより簡単である。
【数26】
【0058】
どの瞬間においても、相転移の方向に応じて式13または14は、メモリに依存する定数εaおよびεbに基づいて計算される。計算されたマルテンサイト相率の式は、その後式17の抵抗モデルに接続される。抵抗を測定し式17を用いることにより、特定の瞬間におけるSMEの温度と応力との関係を得ることができる。こうしてPE領域から得られた応力を用いることにより、現在時刻におけるSME領域の温度を計算することができる。
【0059】
得られた結果は、アクチュエータワイヤの温度と応力の推定値であると考えることができる。アクチュエータの完全に解決された状態を得るために、これらの推定されたパラメータは、前述のセクションで説明されたSMEとPEのモデルに接続されてよい。従って、モデルと推定された応力および温度を用いて、印加応力が変化するのときのアクチュエータワイヤの位置(長さ)を推定することができる。さらに応力は、力制御システム等で直接使うことができる。PEAの実施形態は、
図14に示されるブロック図に要約される。
図14に示されるように、アクチュエータの長さ/位置を決定するために、前述の様々な式が使われる。
【0060】
図15は、与えられた電流、推定および測定された位置、位置の誤差および測定された応力を示す。最初に、0.34Aのオープンループの安定状態の電流がアクチュエータに与えられる。続いてアクチュエータは、安定状態の位置に置かれる。この段階で、アクチェエータワイヤへの印加応力を増加させるために、追加の重りが与えられる。重りが追加されると、ワイヤは伸び始める。最後に、アクチュエータワイヤを完全にオーステナイトに変態させるために、アクチュエータワイヤに0.6Aの電流が与えられる。示される結果から読み取れるように、PEAは、実際の位置に非常に近いところに従う傾向がある。この実験では、最大の位置誤差は160μmであった。これは、与えられた最大応力の下での全アクチュエーションの約4%に相当する。
【0061】
概して本実施形態におけるアプローチは、ワイヤのPE区画およびSME区画の両方に関し、実験ベースの正確な数学的モデルを持つことに基づく。従って、モデルと実際との相違は、推定されたパラメータ(例えば、位置)の誤差を生じさせる可能性がある。しかしながら、本モデルで使われる材料および環境特性を高めるために、パラメータ特定や人工知能などの、適応可能な技術を使うことができる。種々のモデルおよびアルゴリズムのさらなる調整により、より良好な結果を得ることができる。
【0062】
本明細書では、埋め込み歪みゲージセンサを備え、1つの一体型アクチュエータワイヤ内に2つの異なる材料組成を有する、新規なSMAアクチュエータのデザインが提案され、その動作方法および製造/作成方法が議論される。アクチュエータのための線形電流源を与え、抵抗(例えばハイサイド抵抗)を測定するための電気回路基板が設計された。さらに、提案されたアクチュエータのデザインに基づいて、モデルベースの位置推定アルゴリズムが開発された。
【0063】
[アクチュエータの様々な例]
例1:埋め込みセンサを備えるSMAアクチェータ
【0064】
【0065】
SMAアクチュエータワイヤは、1つの一体型ワイヤの長さ方向に沿って、異なる2つの材料組成区画を備える。組成区画の一方はアクチュエータとして機能し、他方は埋め込みセンサとして機能する。従ってこのデザインは、1つのデバイス内にセンシングとアクチュエーションの両方を含む。アクチュエーションは、擬弾性アクチュエーションまたは形状記憶効果を原因とするものであってよい。
【0066】
位置推定。
【0067】
アクチュエータの位置および力は、前述のアクチュエータワイヤの2つの異なる区画の2つの抵抗測定を用いて推定される。これらの抵抗測定値は、モデルベースおよび/または機械学習の推定アルゴリズムに送られる。
【0068】
例2:一体型スプリングベースSMAアクチュエータおよびインダクタンス位置制御
【0069】
【0070】
SMAアクチュエータワイヤは、1つの一体型ワイヤの長さ方向に沿って、2つの異なる材料組成区画を備える。組成区画の一方はアクチュエータとして機能する。他方はスプリング型に形成され、センサと付勢力の両方として機能する。
【0071】
位置推定
【0072】
アクチュエータの位置および力は、ワイヤのスプリング部のインダクタンス測定を用いて計算される。スプリングのピッチ間隔が変化すると、スプリングのインダクタンスは変化する。伸びが大きければ大きいほど、インダクタンスは小さくなる。インダクタンス測定は、例えば3つの異なる方法を用いて実行することができる。すなわち、立ち上がり時間、LC共鳴回路を用いた周波数測定およびハイパスピーク検出回路を用いた周波数応答強度測定の3つである。次にインダクタンスが位置にマッピングされる。その後位置を制御するために、計算された位置が制御アルゴリズムで使われる。インダクタンスに加えて、(前述のように)アクチュエータの抵抗を測定し、これにより相転移の状態の決定を補助してもよい。
【0073】
例3:SMA挙動を線形化するための連続的に変化するニッケル量
【0074】
フーリエ級数の原理によれば、任意の単調連続関数は、無限個(または有限個)の三角関数の級数として得られる(または近似される)。異なる応用に有効なアクチュエータの特性を扱うために、これと同じ原理をレーザ処理されたSMEワイヤに適用することができる。与えられるレーザパルスのパワーと時間は、ワイヤのニッケル組成(すなわち、蒸発するニッケルの量)に影響することが知られている。従ってレーザパルスを制御することにより、ニッケルの量(すなわち、処理された区画の加工熱特性および電気機械特性)を制御することができる。異なる特性を持つ小区画を足し合わせることにより、特定の応用のために、全体の有効特性を形成し最適化することができる。例えば、ワイヤの異なる区画は異なるニッケル量を有してもよい。これにより、受動的または能動的応用のために、機械的または電気的特性が線形化される。結果として、アクチュエータの制御性がより容易となる。
【0075】
例4:磁気的振動によって導入されるSMAアクチュエータの束の冷却
【0076】
電磁気学の原理によれば、ワイヤを流れる電流は、同じ向きの電流同士は互いに引き合い、反対向きの電流同士は互いに反発し合う。電流の向きと強さを一定の周波数で切り替えることにより、束になったワイヤは互いに引き合いと反発を繰り返す結果、当該周波数での振動が発生する。この振動はワイヤに強制的な対流を発生させる。これにより、ワイヤは自然な対流と比較してはるかに速く冷却される。振動の周波数は、人間の可聴領域外のものを選択してもよい。
【0077】
他のアクチュエータのデザインを形成するために、前述の様々な実施形態が組み合わされてもよい。前述の実施形態の応用は、外骨格、触覚フィードバック、アダプティブシート(バックレストおよびランバーサポート)、バーチャル・リアリティ、リハビリ用グローブ、ウェアラブル、ロボティクス、自動車(アクチュエータ、バルブ等)、医療用デバイス、義肢(ステント、アクチュエータ、エンドエフェクタ等)、航空工学(可変翼、UAV等)その他を含むが、これらに限定されない。
【0078】
本明細書は、本開示を様々な実施形態や特定の実施例を参照して示して説明した。しかしながら、さらなる実施形態を形成するために、実施形態の要素を別の方法で組合せてもよいこと、他の実施形態および実施例により同様の機能および/または効果を実現してもよいことは、当業者には明らかであろう。すべてのこうした等価な実施形態および実施例は、請求項で定義される本開示の思想と範囲の中に含まれる。例えば本明細書の原理とコンセプトは、形状記憶プラスティック等を含む他の形状記憶材料に適応可能であると確信される。
【0079】
本明細書では説明を目的に、実施形態の完全な理解を与えるために、数々の詳細を説明した。しかしながら、すべての特定の詳細が必要でないことは、当業者に明らかであろう。理解を曖昧にしないために、別の実施例では、既知の構造がブロック図の形で示されてもよい。例えば、前述の実施形態の要素がソフトウェアルーティンに実装されるのか、あるいはプロセッサ、ハードウェア回路、ファームウェアまたはそれらの組合せで実行されるコンピュータ読み取り可能なコードに実装されるのかについての特定の詳細は与えられない。