(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】硬脆材料製品を切断するためのレーザ切断ヘッド及びレーザ切断装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20220629BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20220629BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20220629BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20220629BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
B23K26/38 Z
B23K26/064 A
G02B5/30
G02B5/18
C03B33/09
(21)【出願番号】P 2019560771
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 CN2019074007
(87)【国際公開番号】W WO2020154985
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2019-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】515016891
【氏名又は名称】ハンズ レーザー テクノロジー インダストリー グループ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 小軍
(72)【発明者】
【氏名】苑 学瑞
(72)【発明者】
【氏名】兪 萍萍
(72)【発明者】
【氏名】▲盧▼ 建剛
(72)【発明者】
【氏名】尹 建剛
(72)【発明者】
【氏名】高 云峰
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102642092(CN,A)
【文献】特開2009-269057(JP,A)
【文献】特開2018-188324(JP,A)
【文献】特開平10-282450(JP,A)
【文献】特開平09-061610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/38
B23K 26/064
G02B 5/30
G02B 5/18
C03B 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬脆材料製品を切断するためのレーザ切断ヘッドにおいて、順に設けられた偏光素子とバイナリ位相素子と合焦素子とを含み、レーザ光が偏光素子を通過して偏光レーザ光となってから、バイナリ位相素子に入射して回折レーザ光となり、そして合焦素子に入射して硬脆製品を切断するための合焦レーザ光となり、
前記バイナリ位相素子は、
全体が透明ガラスを使用し、ベースと、ベースにおいて内から外への順に設けられた複数の円環構造とを含み、隣接する円環構造同士の位相差はπであ
り、
前記合焦素子は合焦対物レンズであり、前記合焦対物レンズのNA値は0.5~1.2の範囲にあることを特徴とするレーザ切断ヘッド。
【請求項2】
前記円環構造は四つ設けられていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ切断ヘッド。
【請求項3】
前記合焦対物レンズのNA値は0.8であることを特徴とする請求項
1または請求項2に記載のレーザ切断ヘッド。
【請求項4】
前記偏光素子の偏光方向は径方向であることを特徴とする請求項
1から3のいずれか一項に記載のレーザ切断ヘッド。
【請求項5】
レーザ発生装置と、請求項1から請求項
4のいずれか
一項に記載のレーザ切断ヘッドとを含み、前記レーザ発生装置は、レーザ切断ヘッドへレーザ光を出射することを特徴とするレーザ切断装置。
【請求項6】
硬脆材料製品を締め付けるための締付け装置をさらに含むことを特徴とする請求項
5に記載のレーザ切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ切断の分野、具体的に、硬材料製品を切断するためのレーザ切断ヘッド及びレーザ切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子産業の発展に従って、電子製品に用いられるシート材は、透明な脆性材料、例えばガラスやセラミック等となることが多い。様々な製品における脆性材料部は厚いものもあれば薄いものもあり、適切かつ制御可能な加工方法にて加工する必要があるため、硬脆材料の切断加工分野における課題となっている。
【0003】
現在、ガラス等の硬脆材料の切断手法として、主に切断ホイールによる切断とレーザ切断がある。切断ホイールによる切断は、そのプロセスの効果や歩留まりのいずれも安定的であるが、このような機械加工は効率の向上が求められている。レーザ切断は、より高い潜在力を持つもので、レーザ発生装置と外部光学素子との連携により目的とするスポット効果が実現されるものである。しかしながら、光学系自体の光学性能、及び、被加工材において合焦されるスポット領域でのスポットの大きさや焦点深度範囲等に対する回折限界や光学収差による制限のため、厚い材料、特に透明な脆性材料の切断にあたっては、一般的な光路素子では望ましい切断効果が達成できなかった。例えば、アキシコンはベッセルビームを発生する一般的な素子であるが、その加工精度と組付け精度によるスポットへの影響が高く、ビームが合焦される領域での焦点深度におけるエネルギのピークパワー密度の分布が不均一となりやすいものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術の上記問題点に対して、硬脆材料製品を切断するためのレーザ切断ヘッド及びレーザ切断装置を提供し、従来のレーザ切断手法にかかる硬脆材料製品を良好に切断できないという問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、硬脆材料製品を切断するためのレーザ切断ヘッドにおいて、順に設けられた偏光素子とバイナリ位相素子と合焦素子とを含み、レーザ光が偏光素子を通過して偏光レーザ光となってから、バイナリ位相素子に入射して回折レーザ光となり、そして合焦素子に入射して硬脆材料製品を切断するための合焦レーザ光となるレーザ切断ヘッドを提供する。
【0006】
また、好ましい態様として、前記バイナリ位相素子は、ベースと、ベースにおいて内から外への順に設けられた複数の円環構造とを含み、隣接する円環構造同士の位相差は0.5π~2πの範囲にある。
【0007】
また、好ましい態様として、隣接する円環構造同士の位相差はπである。
【0008】
また、好ましい態様として、前記円環構造は四つ設けられている。
【0009】
また、好ましい態様として、前記合焦素子は合焦対物レンズである。
【0010】
また、好ましい態様として、前記合焦対物レンズのNA値は0.5~1.2の範囲にある。
【0011】
また、好ましい態様として、前記合焦対物レンズのNA値は0.8である。
【0012】
また、好ましい態様として、前記偏光素子の偏光方向は径方向である。
【0013】
本発明は、レーザ切断装置において、レーザ発生装置と上記のようなレーザ切断ヘッドとを含み、前記レーザ発生装置は、レーザ切断ヘッドへレーザ光を出射するレーザ切断装置をさらに提供する。
【0014】
また、好ましい態様として、前記レーザ切断装置は、硬脆材料製品を締め付けるための締付け装置をさらに含む。
【発明の効果】
【0015】
従来技術に比べて、本発明による硬脆材料製品を切断するためのレーザ切断ヘッド及びレーザ切断装置によれば、レーザ光は、順に偏光素子、バイナリ位相素子及び合焦素子を通過することで、焦点深度が長く、且つエネルギのピークパワー密度の変化が均一な合焦レーザ光に変換されるため、硬脆材料製品を確実に貫通し、良好に切断可能である。
【0016】
以下、図面及び実施例に合わせて、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明によるレーザ切断ヘッドの模式図である。
【
図2】本発明によるバイナリ位相素子の模式図である。
【
図3】本発明による合焦レーザ光のスポットの効果図である。
【
図5】本発明による合焦レーザ光の焦点深度におけるエネルギのピークパワー密度の均一な変化の効果図である。
【
図6】本発明によるスポットのエネルギ密度の座標図である。
【
図7】本発明によるレーザ切断ヘッドを用いた打抜き切断時の合焦レーザ光のスポットの効果図である。
【
図8】本発明によるレーザ切断ヘッドを用いた打抜き切断時の合焦レーザ光のスポット分布の効果図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に合わせて、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。
【0019】
図1~
図8に示されるように、本発明は、硬脆材料製品を切断するためのレーザ切断ヘッドの好ましい実施例を提供する。
【0020】
具体的に、
図1を参照すると、硬脆材料製品10を切断するためのレーザ切断ヘッドにおいて、前記硬脆材料製品10はガラスやセラミック等の透明製品で、電子製品によく用いられており、前記レーザ切断ヘッドは、順に設けられた偏光素子1とバイナリ位相素子2と合焦素子3とを含み、具体的には、
図1に示されるように、前記偏光素子1、バイナリ位相素子2及び合焦素子3は上から下へ順に設けられ、前記硬脆材料製品10は合焦素子3の下に配置されている。前記レーザ切断ヘッドはハウジングをさらに含み、前記偏光素子1、バイナリ位相素子2及び合焦素子3はいずれも、互いに一定の間隔をおいてハウジング内に設けられており、前記合焦素子3はハウジングの先端に設けられてもよく、前記ハウジングにより、偏光素子1、バイナリ位相素子2及び合焦素子3が保護されている。外部レーザ光が偏光素子1に入射すると、前記偏光素子1の偏光方向が径方向であり、レーザ光の伝搬方向が偏光素子1の偏光方向と異なるため、偏光素子1により偏光レーザ
光が形成可能となる。そして、偏光レーザ光がバイナリ位相素子2に入射して変調されることにより回折レーザ光が形成され、合焦素子3に入射して硬脆材料製品10を切断するための合焦レーザ光が形成される。
【0021】
図3を参照すると、合焦レーザ光はスポットが非常に小さいものであるから、硬脆材料製品10の表面ないし内部において従来よりも小さい熱影響域を形成可能である。シミュレーションを行った結果が
図4に示され、X軸にスポットの横方向座標、Y軸にスポット強度が表示されるように、合焦レーザ光のスポットが非常に小さいものであることが分かった。
図5を参照すると、長い焦点深度が出来るとともに、焦点深度全体におけるエネルギのピークパワー密度の変化が均一となり、即ち、焦点深度方向でのエネルギ分布が一層均一となり、被切断材の内部に発生する応力が一層均一となる。シミュレーションを行った結果が
図6に示され、X軸に焦点深度方向座標、Y軸にスポットのエネルギ密度が表示されるように、合焦レーザ光の焦点深度方向でのエネルギ分布が均一となることが分かった。
【0022】
前記レーザ切断ヘッドは加工しやすく、加工精度が保証され、また、機械的に取り付けられるものであるから、光学についての試運転は行われやすくなり、そして、光路構造がコンパクトとなるため、機械や空間に起因した加工安定性の不具合や誤差が低減され、その他、合焦レーザ光の焦点深度方向でのエネルギ分布が一層均一となり、被切断材の内部に発生する応力が一層均一となるので、硬脆材料製品10を貫通でき、良好に切断可能である。
【0023】
そのうち、
図1と
図2を参照すると、前記バイナリ位相素子2は、光の回折を理論的基礎とするバイナリ光学素子で、コンピュータ援用により設計が最適化され、超大規模集積回路プロセスにより製造される位相限定変調型の回折光学素子である。前記バイナリ位相素子2全体は透明ガラスを使用し、ベースと、ベースにおいて内から外への順にエッチングされて設けられた複数の円環構造21とを含む。具体的には、
図2に示されるように、前記円環構造21は四つ設けられ、それぞれの円環構造21の半径が異なるものであり、最も半径の小さい円環構造21が内部に設けられるように、半径の小さい順に外へ拡張して設けられている。隣接する円環構造21同士の位相差は0.5πから2πの範囲にあり、位相差とは、異なる振幅状態でのレーザ間の差異を言い、好ましくは、隣接する円環構造21同士の位相差はπである。
【0024】
有益なこととして、偏光素子1に入射するレーザ光のスポット寸法や、バイナリ位相板に応じた内部環状構造のパラメータを変更すると、焦点深度の異なる合焦レーザ光を得ることができ、厚さの異なる硬脆材料製品10の貫通切断が実現され、さまざまな電子製品における硬脆材料の部分についての切断プロセスに対する要求が満たされうる。
【0025】
そのうち、前記合焦素子3は合焦対物レンズであり、回折レーザ光を受けて合焦させ、硬脆材料製品10に入射させることができる。前記合焦対物レンズのNA値は0.5から1.2の範囲にあり、NA値とは、開口数を言い、合焦対物レンズがレーザ光を集められる角度範囲を評価するパラメータであり、NA=n*sinθで、nは作動体であるレンズの屈折率、θはビームのレンズでの入射や出射時における最大開口角の半分を示す。本実施例では、前記合焦対物レンズのNA値は高く、即ち、前記合焦対物レンズによる出射ビームの最大開口角は大きく設定されている。好ましくは、前記合焦対物レンズのNA値は0.8である。
【0026】
偏光素子1を通過した径方向偏光光のトポロジー電荷数を変更すると、
図7を参照すると、半径の異なる円環状スポットが得られ、
図8を参照すると、長い焦点深度が出来るとともに、焦点深度全体におけるスポット分布が均一となることで、透明な脆性材料に対す
るテーパーなしの打抜き切断が実現される。
【0027】
本発明は、レーザ切断装置の好ましい実施例をさらに提供する。
【0028】
具体的には、レーザ切断装置は、レーザ発生装置と上記のようなレーザ切断ヘッドとを含み、前記レーザ発生装置は、レーザ切断ヘッドへレーザ光を出射し、前記レーザ切断ヘッドは、硬脆材料製品10へ合焦レーザ光を出射することにより、硬脆材料製品10に対する切断操作が行われる。
【0029】
さらには、前記レーザ切断装置は、硬脆材料製品10を締め付けるための締付け装置をさらに含み、切断操作の場合、締付け装置により硬脆材料製品10を締め付ける必要がある。
【0030】
要するに、上記は本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明の保護範囲を限定するものではない。本発明の精神と原則に基づいてなされたあらゆる変更、等価取替や改良等はすべて本発明の保護範囲に含まれることとする。