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特許7096945成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220629BHJP
   C22C 38/08 20060101ALI20220629BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220629BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/00 302A
C22C38/00 301Z
C22C38/08
C22C38/58
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C21D9/46 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021502939
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 KR2019008381
(87)【国際公開番号】W WO2020022667
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-01-19
(31)【優先権主張番号】10-2018-0087721
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 テ-ジン
(72)【発明者】
【氏名】ク、 ミン-ソ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-524986(JP,A)
【文献】特開2006-118000(JP,A)
【文献】特表2014-501852(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0075138(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
B23K 20/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材、及び前記母材の両側面に備えられるクラッド材を含むクラッド鋼板であって、
前記母材は、重量%で、C:0.3~1.0%、Mn:4.0~16.0%、Al:4.5~9.0%、さらにSi:0.03~2.0%、Ni:0.1~4.0%、N:0.04%以下(0%は除く)、P:0.03%以下、及びS:0.03%以下、残部Fe及び不可避不純物からなる軽量鋼板であり、
前記クラッド材は、重量%で、C:0.1~0.45%、Mn:1.0~3.0%、さらにSi:0.03~2.0%、Al:0.02~0.3%、N:0.04%以下(0%は除く)、B:0.0005~0.005%、P:0.03%以下、及びS:0.03%以下、さらにCr:0.1~1.0%、Ni:0.1~1.0%、Mo:0.05~1.0%、Ti:0.005~0.05%、及びNb:0.005~0.05%のうち1種以上、残部Fe及び不可避不純物からなるマルテンサイト系炭素鋼であり、
前記クラッド材の片面の厚さは20μm以上であり、両面の厚さ合計は前記クラッド鋼板の厚さ合計の30%以下であり、
前記クラッド鋼板は、疲労強度が500MPa以上、伸び率が25%以上、表面硬度400Hv以上、及び比重が7.4g/cm 以下であり、
前記疲労強度は曲げ疲労試験機で応力比-1の条件で測定し、疲労限は2,000,000に設定した結果である、成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板。
【請求項2】
前記軽量鋼板は、残留オーステナイトを面積分率で10%以上含む、請求項1に記載の成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板。
【請求項3】
前記マルテンサイト系炭素鋼の微細組織は、基地組織がマルテンサイトであり、第2相として、炭化物、フェライト、残留オーステナイト、及びベイナイトのうち1種以上を含む、請求項1に記載の成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板。
【請求項4】
前記マルテンサイト系炭素鋼の微細組織は、基地組織が焼戻しマルテンサイトであり、第2相として、炭化物、フェライト、残留オーステナイト、及びベイナイトのうち1種以上を含む、請求項1に記載の成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板。
【請求項5】
前記クラッド鋼板は、前記クラッド材上に形成されるめっき層をさらに含む、請求項1に記載の成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板。
【請求項6】
前記めっき層は、Zn系、Zn-Fe系、Zn-Al系、Zn-Mg系、Zn-Mg-Al系、Zn-Ni系、Al-Si系、及びAl-Si-Mg系からなる群より選択された1種である、請求項に記載の成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板。
【請求項7】
前記母材と前記クラッド材との間の接合界面に、前記母材と前記クラッド材が直接固相結合する固相接合部が形成される、請求項1に記載の成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のクラッド鋼板の製造方法であって、
重量%で、C:0.3~1.0%、Mn:4.0~16.0%、Al:4.5~9.0%、さらにSi:0.03~2.0%、Ni:0.1~4.0%、N:0.04%以下(0%は除く)、P:0.03%以下、及びS:0.03%以下、残部Fe及び不可避不純物からなる軽量鋼板である母材を設ける段階と、
重量%で、C:0.1~0.45%、Mn:1.0~3.0%、さらにSi:0.03~2.0%、Al:0.02~0.3%、N:0.04%以下(0%は除く)、B:0.0005~0.005%、P:0.03%以下、及びS:0.03%以下、さらにCr:0.1~1.0%、Ni:0.1~1.0%、Mo:0.05~1.0%、Ti:0.005~0.05%、及びNb:0.005~0.05%のうち1種以上、残部Fe及び不可避不純物からなるマルテンサイト系炭素鋼であるクラッド材を設ける段階と、
二つの前記クラッド材の間に前記母材を配置して積層物を得る段階と、
前記積層物の端を溶接した後、1050~1350℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記加熱された積層物を最初のパス(Pass)の圧下率が30%以上になるようにして、750~1050℃の温度範囲で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を400~700℃で巻取る段階と、
前記巻取られた熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧下率35~90%を適用して冷間圧延して冷延鋼板を得る段階と、
前記冷延鋼板を550℃以上前記クラッド材のA3+200℃以下の温度範囲で焼鈍する段階と、を含む、成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記焼鈍する段階後に、前記クラッド鋼板をマルテンサイト終了温度以下に冷却した後、600℃以下の温度で再加熱する焼戻し処理する段階をさらに含む、請求項に記載の成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のシャーシ構造部材などに用いられることができる優れた成形性及び疲労特性を有する低比重クラッド鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、地球温暖化を低減するための二酸化炭素の規制により、自動車の軽量化が強く求められている。同時に、乗客の安全を向上させるために、自動車用鋼板の超高強度化が継続的に行われている。
【0003】
自動車部品のうちロアアームやサブフレームなどのシャーシ部品は、車両の重さ重心の下端に位置するため、部品軽量化による燃費低減の効果が非常に高い部分である。かかる軽量化効果を最大化するために、アルミニウムなどの軽量素材の使用が考慮されることができるが、上記アルミニウムなどの軽量素材は成形性及び溶接性が劣化するため部品製作時に鋳造方法を介して製作されることから、部品の製造コストが高いという短所があり、強度が低く乗客の安全を担保することが難しいという問題がある。
【0004】
一方、シャーシ部品は、走行時に疲労による破壊を防止するために、疲労特性に優れるようにする必要がある。鋼材の疲労特性は、一般的に鋼の降伏強度に比例して増加するため、降伏強度が高く、冷間プレス成形に適するように成形性に優れるようにする必要がある。一般に、自動車シャーシ部品用鋼板を生産するためには低温変態組織を活用している。但し、この場合、高レベルの強度及び冷間プレス成形に適した成形性をともに確保することが難しいという問題がある。
【0005】
機械用構造部材の場合、成形後に高周波硬化処理や表面火炎処理を介して表面にのみ局部的に降伏強度が高いマルテンサイト層を生成させることにより、疲労性能を大幅に向上させる方法が一般的に用いられてきた。しかし、自動車部品は、特性上、厚さが薄く形状が複雑であるため、自動車用構造部材に上記表面硬化処理を適用するには現実的に難しいという問題がある。
【0006】
一方、韓国公開特許第2012-0065464号公報には、炭素鋼にマンガン及びアルミニウムを多量に添加して微細組織のオーステナイトが90%以上になるようにすることで、強度及び成形性に優れるとともに、比重が低く軽量化効果に優れた軽量鋼材について開示されている。しかし、上記韓国公開特許第2012-0065464号公報の鋼材をはじめとする従来の軽量鋼材では、引張強度及び伸び率、低比重についてのみ考慮していただけで、長時間応力が集中する自動車用部材の特性を考慮した自動車の安定性を保証するための疲労特性の向上については言及していない。
【0007】
シャーシ部品の疲労破壊には、使用中に進行しているか否かを確認することが難しいという短所があり、走行中の破損時における乗客の安全に多大な悪影響を及ぼす可能性があるため、安全係数を高めて保守的に適用する必要があり、自動車構造部材に適用される高サイクル疲労モードでの疲労限界以下に設計することが理想的である。したがって、疲労限界が高く比重が低い素材を用いてシャーシ部品を軽量化することができる場合には、優れた燃費削減の効果を期待することができる。
【0008】
そこで、シャーシ部品の軽量化を最大化するために、成形性及び疲労特性に優れるとともに、比重が低い自動車用鋼材の開発が必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、優れた成形性及び低比重を有するとともに、疲労特性に優れたクラッド鋼板及びその製造方法を提供することである。
【0010】
一方、本発明の課題は上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解されることができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解するのに何ら問題がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、母材、及び上記母材の両側面に備えられるクラッド材を含むクラッド鋼板であって、上記母材は、重量%で、C:0.3~1.0%、Mn:4.0~16.0%、Al:4.5~9.0%、残部Fe及び不可避不純物を含む軽量鋼板であり、上記クラッド材は、重量%で、C:0.1~0.45%、Mn:1.0~3.0%、残部Fe及び不可避不純物を含むマルテンサイト系炭素鋼である成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板に関する。
【0012】
本発明の他の一側面は、重量%で、C:0.3~1.0%、Mn:4.0~16.0%、Al:4.5~9.0%、残部Fe及び不可避不純物を含む軽量鋼板である母材を設ける段階と、重量%で、C:0.1~0.45%、Mn:1.0~3.0%、残部Fe及び不可避不純物を含むマルテンサイト系炭素鋼であるクラッド材を設ける段階と、二つの上記クラッド材の間に上記母材を配置して積層物を得る段階と、上記積層物の端を溶接した後、1050~1350℃の温度範囲で加熱する段階と、上記加熱された積層物を最初のパス(Pass)の圧下率が30%以上になるようにして、750~1050℃の温度範囲で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を400~700℃で巻取る段階と、上記巻取られた熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧下率35~90%を適用して冷間圧延して冷延鋼板を得る段階と、上記冷延鋼板を550℃以上上記クラッド材のA3+200℃以下の温度範囲で焼鈍する段階と、を含む成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板の製造方法に関する。
【0013】
尚、上記した課題の解決手段は、本発明の特徴をすべて列挙したものではない。本発明の様々な特徴とそれに伴う利点及び効果は、以下具体的な実施形態を参照してより詳細に理解されることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、7.4g/cm以下の比重、500MPa以上の疲労強度を有するため、自動車シャーシ部品の用途に好適に適用することができる。また、伸び率が25%以上と優れるため、冷間プレス成形を適用することができるクラッド鋼板及びその製造方法を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】軽量鋼板を母材(B)、マルテンサイト系炭素鋼をクラッド材(A及びC)とする本発明のクラッド鋼板の模式図である。
図2】発明例1の母材とクラッド材との間の境界部の微細組織を示す光学顕微鏡写真である。
図3】発明例1の走査電子顕微鏡写真であって、母材とクラッド材との間の境界部の元素分布状態を示す写真である。
図4】発明例1の全厚さを測定した走査電子顕微鏡写真、及び各厚さの位置で測定した微小硬度分布を示すグラフである。
図5】比較例5の熱間圧延後の外観を撮影した写真である。
図6】比較例1、比較例2、及び発明例1の疲労実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、いくつかの他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野における平均的な知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものである。
【0017】
本発明者らは、従来の軽量鋼板において、引張強度が高く比重が低い鋼材の製造は可能であるが、降伏強度が低く、疲労性能が劣化するという問題があることを認知し、これを解決するために深く研究した。
【0018】
疲労破壊は、疲労亀裂の生成過程及び伝播過程を介して最終破断に至り、疲労寿命は、疲労亀裂の生成段階が全体の寿命の約70%レベルを占有することが知られているため、疲労性能の改善のためには、疲労亀裂の生成を効果的に防止することが重要である。疲労亀裂は、表面、内部介在物、結晶粒界などで生成されることが知られているが、実部品では、主に表面で生成される場合が大部分である。これは、実際の使用環境に適用される曲げ疲労のモードにおいて印加される応力の大きさが表面で最も高いためである。したがって、降伏強度が高く、疲労亀裂の生成に対する抵抗性が高いマルテンサイト系鋼材を外部に配置し、成形性に優れ、比重が低い軽量鋼板を母材とする複合鋼板を製造することにより、優れた成形性及び低比重を実現できることは言うまでもなく、疲労特性に優れた自動車用鋼板を製造することが可能であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0019】
以下、本発明の一側面による成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板について詳細に説明する。
【0020】
本発明の一側面による成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板は、母材、及び上記母材の両側面に備えられるクラッド材を含むクラッド鋼板であって、上記母材は、重量%で、C:0.3~1.0%、Mn:4.0~16.0%、Al:4.5~9.0%、残部Fe及び不可避不純物を含む軽量鋼板であり、上記クラッド材は、重量%で、C:0.1~0.45%、Mn:1.0~3.0%、残部Fe及び不可避不純物を含むマルテンサイト系炭素鋼であることを特徴とする。
【0021】
以下、本発明の母材及びクラッド材についてそれぞれ説明した後、上記母材の両側面に備えられるクラッド材を含むクラッド鋼板について説明する。
【0022】
母材(軽量鋼板)
以下、本発明の一側面であるクラッド鋼板の母材を構成する軽量鋼板の合金組成について詳細に説明する。各元素の含有量の単位は、特別な記載がない限り重量%である。
【0023】
炭素(C):0.3~1.0%
炭素は、オーステナイト相の安定化に寄与する元素であり、その含有量が増加するほどオーステナイト相を確保するのに有利である。軽量鋼板の微細組織内に分布するオーステナイトは強度及び伸び率をともに増加させる役割を果たす。かかる炭素の含有量が0.3%未満の場合には、引張強度及び伸び率を確保することが難しいという問題がある。これに対し、その含有量が1.0%を超えると、鋼材内にセメンタイト及びカッパ炭化物が生成され、強度は増加するが、鋼の延性が著しく低下する。特に、アルミニウムが添加された鋼では、カッパ炭化物が結晶粒界に析出して脆性を起こすため、上限を1.0%とすることが好ましい。したがって、本発明では、上記炭素の含有量を0.3~1.0%に制限することが好ましい。
【0024】
マンガン(Mn):4.0~16.0%
マンガンは、炭素とともにオーステナイト相を安定化させる元素であり、オーステナイト相内の炭素固溶度を増加させることで、炭化物の生成を抑制する作用をする。また、マンガンは、鋼の格子定数を増加させて鋼の密度を低下させるため、鋼材の比重を下げる役割を果たす。マンガンの含有量が4.0%未満の場合には、炭化物の生成を抑制する効果を期待することが難しい。これに対し、16.0%を超えると、中心偏析によるバンド組織を形成し、延性を低下させるという問題がある。したがって、本発明では、マンガンの含有量を4.0~16.0%に制限することが好ましい。
【0025】
アルミニウム(Al):4.5~9.0%
本発明において、アルミニウムは、鋼材の比重を低減させる役割を果たす最も重要な元素である。このためには、4.5%以上添加されることが好ましい。アルミニウムは、比重の低減のために多量添加することが好ましいが、多量に添加されると、カッパ炭化物やFeAl、FeAlなどの金属間化合物が増加し、鋼の延性を低下させるため、その上限を9.0%に制限することが好ましい。したがって、本発明では、上記アルミニウムの含有量を4.5~9.0%に制限することが好ましい。
【0026】
上記母材の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲の環境から意図されない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。かかる不純物は、通常の製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を具体的に本明細書に記載しない。
【0027】
上記組成に加えて、母材を構成する軽量鋼板は、重量%で、Si:0.03~2.0%、Ni:0.1~4.0%、N:0.04%以下(0%を除く)、P:0.03%以下、及びS:0.03%以下をさらに含むことができる。
【0028】
シリコン(Si):0.03~2.0%
シリコンは、固溶強化による鋼の降伏強度及び引張強度を向上させるために添加することができる成分である。シリコンは、脱酸剤として用いられるため、通常、0.03%以上鋼中に含まれることができる。シリコンの含有量が2.0%を超えると、熱間圧延時においてシリコン酸化物が表面に多量に形成されて酸洗性を低下させ、且つ電気比抵抗を増加させて溶接性が劣化するという問題がある。したがって、本発明では、シリコンの含有量を0.03~2.0%に制限することが好ましい。
【0029】
ニッケル(Ni):0.1~4.0%
ニッケルは、マンガンのようにオーステナイトの安定性を増大させ、強度及び延性を増加させる。これにより、マンガンとともに添加する場合には、鋼の強度及び延性を向上させることができる。但し、多量に添加される場合には、鋼の製造原価が増大するという問題があるため、その含有量を4.0%以下にすることが好ましい。一方、0.1%未満添加される場合には、強度及び延性の増加効果が顕著ではないため、本発明では、ニッケルの含有量を0.1~4.0%に制限することが好ましい。
【0030】
窒素(N):0.04%以下(0%を除く)
窒素は、不可避に含有される不純物であって、アルミニウムと作用して微細な窒化物を析出させ、鋼の加工性を低下させる元素であるため、その含有量を可能な限り低く制御することが好ましい。理論上、窒素の含有量を可能な限り低く制御することが好ましいが、製造工程上必然的に含有せざるを得ない。したがって、上限を管理することが重要であり、本発明における上記窒素の含有量を0.04%以下に管理する。
【0031】
リン(P):0.03%以下
リンは、不可避に含有される不純物であって、偏析による鋼の加工性を低下させるのに主な原因となる元素であるため、その含有量を可能な限り低く制御することが好ましい。理論上、リンの含有量は0%に制限することが有利であるが、製造工程上必然的に含有せざるを得ない。したがって、上限を管理することが重要であり、本発明では、上記リンの含有量の上限を0.03%に管理する。
【0032】
硫黄(S):0.03%以下
硫黄は、不可避に含有される不純物であって、粗大なマンガン硫化物(MnS)を形成してフランジクラックのような欠陥を発生させ、鋼板の穴拡げ性を大幅に低下させるため、その含有量を可能な限り低く制御することが好ましい。理論上、硫黄の含有量を0%に制限することが有利であるが、製造工程上必然的に含有せざるを得ない。したがって、上限を管理することが重要であり、本発明では、上記硫黄の含有量の上限を0.03%に管理する。
【0033】
一方、本発明において、母材を構成する軽量鋼板は、上記成分系を満足するだけでなく、鋼板の微細組織として、残留オーステナイトを面積分率で10%以上含むことが好ましい。残留オーステナイトは、変形中に変態誘起塑性或いは誘起双晶の生成を介して鋼材の成形性を優れたものにする。したがって、その含有量が面積分率で10%未満の場合には25%以上の伸び率を確保することができない。一方、オーステナイトの分率は、その量が増加するにつれて成形性に優れるようになるという特性があるため、上限については制限しない。本発明では、上記のような微細組織を確保することにより、強度、低比重、及び伸び率をすべて確保することができる。
【0034】
クラッド材(マルテンサイト系炭素鋼)
以下、本発明の一側面であるクラッド鋼板のクラッド材を構成するマルテンサイト系炭素鋼の合金組成について詳細に説明する。各元素の含有量の単位は、特別な記載がない限り重量%である。
【0035】
炭素(C):0.1~0.45%
炭素は、鋼の硬化能を増加させる元素であって、マルテンサイト組織の確保を容易にする元素である。また、マルテンサイト内において侵入型位置に位置するようになって、固溶強化により鋼の強度を向上させる元素である。その含有量が0.1%未満の場合には、マルテンサイト変態開始が高い温度で起こるため、冷却中の炭素が転位に拡散し、固溶強化により鋼の強度を向上させる役割を期待することができない。これに対し、その含有量が0.45%を超えると、鋼板の溶接性が低下するおそれがある。したがって、本発明では、上記炭素の含有量を0.1~0.45%に制限することが好ましい。
【0036】
マンガン(Mn):1.0~3.0%
マンガンは、硬化能を増加させて鋼板の強度を向上させる元素である。かかる効果を得るために、その含有量が1.0%以上であることが好ましい。これに対し、3.0%を超えると、偏析層の構造により鋼板の成形性が低下するおそれがある。したがって、本発明では、マンガンの含有量を1.0~3.0%に制限することが好ましい。
【0037】
上記クラッド材の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。かかる不純物は、通常の製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を具体的に本明細書に記載しない。
【0038】
上記組成に加えて、クラッド材を構成するマルテンサイト系炭素鋼は、重量%で、Si:0.03~2.0%、Al:0.02~0.3%、N:0.04%以下(0%を除く)、B:0.0005~0.005%、P:0.03%以下、及びS:0.03%以下をさらに含むことができる。
【0039】
シリコン(Si):0.03~2.0%
シリコンは、鋼板内に固溶されて鋼の強度を向上させる役割を果たす。シリコンは、溶鋼中に不純物として存在する元素であって、0.03%未満に制御するためには過度な費用が発生し、その含有量が2.0%を超えると、焼鈍時に表面酸化物を生成し、鋼板の表面品質を劣化させる。したがって、上記シリコンの含有量は0.03~2.0%であることが好ましい。
【0040】
アルミニウム(Al):0.02~0.3%
アルミニウムは、通常、脱酸のために添加する元素であって、その含有量を0.02%未満に制御するためには、過度な費用が発生する。一方、アルミニウムは、マルテンサイト変態開始温度を上昇させる元素であって、鋼の硬化能を劣化させる役割を果たす。また、その含有量が0.3%を超えると、焼鈍時に表面酸化物を生成させ、鋼板の表面品質を劣化させる。したがって、上記アルミニウムの含有量は0.02~0.3%であることが好ましい。
【0041】
窒素(N):0.04%以下(0%を除く)
窒素は、不可避に含有される元素であって、鋼中に残留するアルミニウムと反応して生成された窒化アルミニウム(AlN)が連続鋳造時に表面亀裂を生じさせる可能性がある。したがって、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましいが、製造工程上必然的に含有せざるを得ない。窒素は、上限を管理することが重要であり、本発明では、上記窒素の含有量の上限を0.04%に管理する。
【0042】
ホウ素(B):0.0005~0.005%
ホウ素は、オーステナイト結晶粒界に偏析して結晶粒界のエネルギーを低減する元素であって、鋼の硬化能を向上させる元素である。このために、ホウ素は0.0005%以上含まれることが好ましいが、0.005%を超えると、表面に酸化物を形成して鋼板の表面品質を劣化させる。したがって、上記ホウ素の含有量は0.0005~0.005%であることが好ましい。
【0043】
リン(P):0.03%以下
リンは、不可避に含有される不純物であって、偏析によって鋼の加工性を低下させる主な原因となる元素であるため、その含有量を可能な限り低く制御することが好ましい。理論上、リンの含有量を0%に制限することが有利であるが、製造工程上必然的に含有せざるを得ない。したがって、上限を管理することが重要であり、本発明では、上記含有量の上限を0.03%に管理する。
【0044】
硫黄(S):0.03%以下
硫黄は、不可避に含有される不純物であって、粗大なマンガン硫化物(MnS)を形成してフランジクラックのような欠陥を発生させ、鋼板の穴拡げ性を大幅に低下させるため、その含有量を可能な限り低く制御することが好ましい。理論上、硫黄の含有量は0%に制限することが有利であるが、製造工程上必然的に含有せざるを得ない。したがって、上限を管理することが重要であり、本発明では、上記硫黄の含有量の上限を0.03%に管理する。
【0045】
また、上記組成に加えて、クラッド材を構成するマルテンサイト系炭素鋼は、重量%で、Cr:0.1~1.0%、Ni:0.1~1.0%、Mo:0.05~1.0%、Ti:0.005~0.05%、及びNb:0.005~0.05%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0046】
クロム(Cr):0.1~1.0%
クロムは、鋼の硬化能を向上させる元素であって、低温変態相の生成を促進して鋼の強度を向上させる元素である。かかる効果を得るためには、その含有量が0.1%以上であることが好ましい。その含有量が1.0%を超えると、意図する強度の向上効果に比べて過度な製造コストの増加を誘発する可能性がある。したがって、上記クロムの含有量は0.1~1.0%であることが好ましい。
【0047】
ニッケル(Ni):0.1~1.0%
ニッケルは、鋼の硬化能を向上させて鋼の強度を向上させる元素である。かかる効果を得るためには、その含有量が0.1%以上であることが好ましい。その含有量が1.0%を超えると、意図する強度の向上効果に比べて過度な製造コストの増加を誘発する可能性がある。したがって、上記ニッケルの含有量は0.1~1.0%であることが好ましい。
【0048】
モリブデン(Mo):0.05~1.0%
モリブデンは、鋼の硬化能を向上させる元素であって、低温変態相の生成を促進して鋼の強度を向上させ、鋼中に炭化物を形成して鋼の強度を向上させる元素である。かかる効果を得るためには、その含有量が0.05%以上であることが好ましい。その含有量が1.0%を超えると、意図する強度の向上効果に比べて過度な製造コストの増加を誘発する可能性がある。したがって、上記モリブデンの含有量は0.05~1.0%であることが好ましい。
【0049】
チタン(Ti):0.005~0.05%
チタンは、鋼材内部の窒素及び炭素と反応して炭窒化物を形成し、強度を増加させる役割を果たす。このために、チタンは0.005%以上含まれることが好ましいが、0.05%を超えると、沈殿物が過度に形成されて鋳造性を悪化させる。したがって、上記チタンの含有量は0.005~0.05%であることが好ましい。
【0050】
ニオブ(Nb):0.005~0.05%
ニオブは、チタンのような炭窒化物形成元素として鋼材内部の窒素及び炭素と反応して強度を増加させる役割を果たす。このために、ニオブは0.005%以上含まれることが好ましいが、0.05%を超えると、沈殿物が過度に形成されて鋳造性を悪化させる。したがって、上記ニオブの含有量は0.005~0.05%であることが好ましい。
【0051】
一方、本発明において、クラッド材を構成するマルテンサイト系炭素鋼は、上記成分系を満足するだけでなく、微細組織が、マルテンサイトを基地組織とし、残りは残留オーステナイト、フェライト、ベイナイト及び炭化物のうち1種以上からなることができる。より好ましくは、上記マルテンサイトの面積分率は65面積%以上であることができる。かかる微細組織を確保することにより、優れた引張強度及び降伏強度を確保することができる。
【0052】
また、焼戻し処理を介して微細組織が焼戻しマルテンサイトを基地組織とし、残りは残留オーステナイト、フェライト、ベイナイト及び炭化物のうち1種以上からなることができる。より好ましくは、上記焼戻しマルテンサイトの面積分率は65面積%以上であることができる。これは、焼戻し処理を介したマルテンサイト変態によって鋼の内部に生成された残留応力を除去し、鋼の靭性を向上させるためである。
【0053】
クラッド鋼板
本発明の一側面によるクラッド鋼板は、上述した母材、及び上記母材の両側面に備えられる上述したクラッド材を含む。図1には、軽量鋼板を母材(B)、マルテンサイト系炭素鋼をクラッド材(A及びC)とする本発明のクラッド鋼板の模式図が示されている。
【0054】
クラッド鋼板とは、二つ以上の金属材料の表面を冶金学的に接合して一体化させた積層型の複合材料として定義される。一般に、クラッド鋼板は、ニッケル(Ni)や銅(Cu)のような貴金属をクラッド材として用いて厳しい腐食環境などの特殊な目的の下で使用されてきた。
【0055】
本発明の内部鋼材である母材は、多量のマンガン及びアルミニウムを添加して、比重が低く成形性に優れた軽量鋼板である。上記軽量鋼板は、引張強度には優れているものの、降伏強度が低く、疲労特性が要求されるシャーシ部品として用いるには不適切である。
【0056】
本発明の外部鋼材であるクラッド材は、降伏強度及び引張強度にともに優れたマルテンサイト系炭素鋼である。しかし、マルテンサイト系炭素鋼は、伸び率が低く、冷間プレス成形に要求される成形性を確保することが難しい。
【0057】
マルテンサイト鋼材の伸び率が低い理由は、成形時に変形が局部的に集中し、一様伸びが低い現象に起因する。但し、本発明者は、内部にオーステナイト相を多量に含む軽量鋼板を配置する場合には、マルテンサイト系鋼材の局部的な変形集中が防止され、成形性が向上する現象を発見した。
【0058】
したがって、本発明では、上述したオーステナイトを含む軽量鋼板を母材とし、且つ母材の両側面に上述したマルテンサイト系炭素鋼を含ませることにより、それぞれの欠点を克服し、成形性及び疲労特性にともに優れながらも比重が低いという効果を奏することができるようにした。
【0059】
このとき、上記クラッド材の片面の厚さは20μm以上であり、両面の厚さ合計は上記クラッド鋼板の厚さ合計の30%以下であることができる。ここで、クラッド材の片面の厚さとは、母材の一側面に備えられる1枚のクラッド材の厚さを意味し、クラッド材の両面の厚さとは、母材の両側面に備えられる2枚のクラッド材の厚さ合計を意味する。また、クラッド鋼板の厚さ合計とは、母材の厚さ及び上記クラッド材の両面の厚さをともに加えた厚さを意味する。クラッド材の一面にめっき層が形成される場合には、そのめっき層の厚さも含む。製造工程の熱間圧延及び焼鈍工程における母材とクラッド材との間では成分差による元素濃度の勾配が発生し、界面では元素の拡散が進行する。このとき、アルミニウムは、含有量が高い母材からクラッド材に移動し、局部的にアルミニウムの含有量が高い領域がクラッド材内に生成される。アルミニウムは、マルテンサイト開始温度を上昇させる役割を果たすことで、鋼の硬化能を低下させる元素であるため、クラッド材の内部に拡散する場合には、クラッド材の強度を低下させる原因として作用する可能性がある。本発明では、アルミニウムの拡散距離を考慮したとき、クラッド材の厚さが20μm以上の場合には、マルテンサイト変態に影響を及ぼさないことが確認された。
【0060】
一方、クラッド材の厚さが過度に厚い場合には、本発明で達成しようとする比重7.4g/cm以下を確保することができない。比重が7.4g/cm以下の場合には、一般の鋼材に比べて5%以上の軽量化を達成することができる。母材に含有されるアルミニウムの含有量に応じて多少の差異があるものの、クラッド材の厚さがクラッド鋼板の厚さの30%以下の場合には、クラッド鋼板の比重を7.4g/cm以下に確保することができる。
【0061】
また、本発明のクラッド鋼板の上記母材と上記クラッド材は互いに直接固相結合することがよい。本発明の母材は、多量のアルミニウムを含有しており、このアルミニウムが空気中の酸素と接触して簡単に酸化膜を形成する。母材とクラッド材との間にアルミニウム酸化膜などが介在する場合には、母材とクラッド材の接合が不安定になり、安定した複層構造を形成することができなくなる。したがって、安定した構造のクラッド鋼板を製造するためには、上記のような酸化膜の形成を最大限に抑えるか、又は酸化膜を除去する必要がある。
【0062】
このために、本発明では、積層物の製作時に端を溶接し、外部から侵入する酸素を遮断することで酸化膜の形成を最大限に抑える。また、これと同時に、圧延における最初のパス(pass)の圧下率を30%以上にすることにより、微量の酸素によって形成された酸化膜を破砕して母材とクラッド材が直接固相結合するようにする。かかる製造方法を介して製造された本発明のクラッド鋼板では、母材とクラッド材との間の接合界面に酸化アルミニウムなどの酸化物が観察されず、母材とクラッド材が直接固相結合した固相結合部が形成されることが観察される。図2には、本発明の条件を満足する発明例1の走査電子顕微鏡写真が示されており、図3には、母材とクラッド材との間の境界部におけるC、O、Al、Si、Mn、CPの元素分布状態が示されている。図3の元素分布から分かるように、母材クラッド材間の接合界面では、酸化物を含む特定の組織が観察されないことが容易に確認できる。
【0063】
また、上記クラッド材を構成するマルテンサイト系炭素鋼の表面で測定したビッカース硬度は400Hv以上、クラッド鋼板の伸び率は25%以上であることが好ましい。かかる表面硬度及び伸び率を確保することにより、自動車シャーシ部品などに好適に適用されることができる。
【0064】
上記クラッド鋼板は、上記クラッド材上に形成されるめっき層をさらに含むことができる。また、上記めっき層は、溶融めっき法を介して形成されることができ、Zn系、Zn-Fe系、Zn-Al系、Zn-Mg系、Zn-Mg-Al系、Zn-Ni系、Al-Si系、及びAl-Si-Mg系からなる群より選択された1種であることができる。
【0065】
以下、本発明の他の一側面である成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0066】
本発明の他の一側面である成形性及び疲労特性に優れた低比重クラッド鋼板の製造方法は、上述した合金組成を満足する軽量鋼板である母材を設ける段階と、上述した合金組成を満足するマルテンサイト系炭素鋼であるクラッド材を設ける段階と、二つの上記クラッド材の間に上記母材を配置して積層物を得る段階と、上記積層物の端を溶接した後、1050~1350℃の温度範囲で加熱する段階と、上記加熱された積層物を最初のパス(Pass)の圧下率が30%以上になるようにして、750~1050℃の温度範囲で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を400~700℃で巻取る段階と、上記巻取られた熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧下率35~90%を適用して冷間圧延して冷延鋼板を得る段階と、上記冷延鋼板を550℃以上上記クラッド材のA3+200℃以下の温度範囲で焼鈍する段階と、を含む。
【0067】
上述した合金組成を満足する母材及びクラッド材を設けた後、二つの上記クラッド材の間に上記母材を配置して積層物を得る。このとき、積層前に母材及びクラッド材の表面を洗浄することができる。
【0068】
上記母材及びクラッド材の製造方法は、一般的な製造工程を適用して生産することができるため、特に限定されない。但し、好ましい一例として、上記母材は、電気炉又は高炉で生産された溶鋼を鋳造して製造することができ、上記クラッド材は、高炉で生産された溶鋼を精錬及び鋳造し、不可避に含有され得る不純物の含有量を制御することで製造することができる。
【0069】
上記積層物の端を溶接した後、1050~1350℃の温度範囲で加熱する。積層物の端を溶接することにより、母材とクラッド材との間に酸素が侵入することを防止するとともに、加熱時における接合界面での酸化物の生成を効果的に防止することができる。
【0070】
上記加熱温度が1050℃未満の場合には、熱間圧延時に仕上げ圧延温度の確保が難しく、温度の低下による圧延荷重が増加し、所定の厚さまで十分に圧延することが難しいという問題がある。これに対し、加熱温度が1350℃を超えると、結晶粒度が増加し、表面酸化が発生して強度が低下するか、又は表面が劣化する傾向があるため好ましくない。また、連鋳スラブの柱状晶粒界に液相膜が生成されるため、後続する熱間圧延時に亀裂が発生するおそれがある。したがって、上記加熱温度は1050~1350℃であることが好ましい。
【0071】
上記加熱された積層物を最初のパス(Pass)の圧下率が30%以上になるようにして、750~1050℃の温度範囲で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る。
【0072】
本発明では、熱間圧延段階における最初のパス(Pass)の圧下率が30%以上になるようにすることが非常に重要である。積層物の製作時に端を溶接して加熱する段階において外部から侵入する酸素を遮断しても、母材を構成する軽量鋼板に含有される多量のアルミニウムは、積層物の間に存在する微量の酸素によっても酸化膜を形成する可能性がある。かかる界面酸化物が母材とクラッド材との間に介在する場合には、母材とクラッド材との間の接合強度が弱くなり、板分離が発生するおそれがある。
【0073】
より具体的に、本発明者らは、圧延における最初のパス(Pass)の圧下率が30%以上の場合には、圧延とともに酸化物が破砕され、破砕された酸化アルミニウムの間で酸化しない母材とクラッド材が互いに高温で接合して固相接合部を形成することにより、安定した複層構造を得ることができることを発見した。また、界面酸化物の面積は圧延量が増加しても大幅に増加しないが、固相接合部の面積は圧延量に比例して増加することから、圧延における最初のパス(Pass)において接合を維持することが非常に重要であり、最初のパス(Pass)において接合を維持する場合には、その後の圧延は無理なく行われることができる。
【0074】
これに対し、最初のパス(Pass)の圧下率が30%未満の場合には、固相接合部の面積が不足し、十分な接合強度を確保することができないため板分離が進行し、分離された板の間に侵入した酸素によって継続的な酸化が発生し、安定した複層構造を形成することができなくなる。したがって、熱間圧延における厚さ合計圧下率を管理するよりも、最初のパス(Pass)の圧下率が30%以上になるように管理することが非常に重要である。
【0075】
一方、上記仕上げ圧延温度が750℃未満の場合には圧延荷重が高くなり、圧延機に無理がかかるという問題がある。これに対し、仕上げ圧延温度が1050℃を超えると、圧延時に表面酸化が発生するおそれがある。したがって、上記仕上げ圧延温度は750~1050℃であることが好ましい。
【0076】
次に、上記熱延鋼板を400~700℃で巻取る。巻取り温度が400℃未満の場合には、冷却中に低温変態相が生成され、熱延鋼板の強度が過度に増加するようになる。これは、冷間圧延時における圧延負荷を増加させる原因として作用する可能性がある。これに対し、巻取り温度が700℃を超えると、熱延鋼板の表面に厚い酸化膜が生成され、酸洗過程において酸化層の制御が容易でなくなるという問題がある。したがって、上記巻取り温度は400~700℃に制限することが好ましい。
【0077】
次に、上記巻取られた熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧下率35~90%を適用して冷間圧延することで冷延鋼板を得る。上記冷間圧下率が35%未満の場合には、母材及びクラッド材の再結晶が円滑に行われず、加工性が劣化するという問題がある。これに対し、冷間圧下率が90%を超えると、圧延負荷が原因となって板破断の発生可能性が高くなるという問題がある。したがって、上記冷間圧下率は35~90%であることが好ましい。
【0078】
次に、上記冷延鋼板を550℃以上上記クラッド材のA3+200℃以下の温度範囲で焼鈍する。冷間圧延により形成された多数の転位は、焼鈍時における静的再結晶によって減少する。これは、鋼の加工性を確保することができるようにする。焼鈍温度が550℃未満の場合には、十分な加工性を確保することができない。これに対し、クラッド材のA3+200℃を超える温度で焼鈍する場合には、表面脱炭などによってクラッド材の表面硬度が低下する可能性がある。したがって、焼鈍温度は550℃以上上記クラッド材のA3+200℃以下の温度範囲で行うことが好ましい。
【0079】
一方、上記焼鈍する段階後に、溶融めっき法を介してめっきしてめっき層を形成する段階をさらに含むことができる。上記めっき層は、Zn系、Zn-Fe系、Zn-Al系、Zn-Mg系、Zn-Mg-Al系、Zn-Ni系、Al-Si系、及びAl-Si-Mg系からなる群より選択された1種であることができる。
【0080】
また、上記焼鈍する段階後に、上記クラッド材のマルテンサイト終了温度以下に冷却した後、600℃以下の温度で再加熱してクラッド材の基地組織を焼戻し処理することができる。
【実施例
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、後述する実施例は、本発明を例示してさらに具体化するためのものであって、本発明の権利範囲を制限するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0082】
(実施例)
下記表1に示した成分組成を有する炭素鋼及び軽量鋼板の鋼塊を設ける。次に、鋼塊の表面を洗浄した後、二つの炭素鋼の間に軽量鋼板を配置して下記表2の積層比を有するように3重積層物を製作した。その後、積層物の境界面に沿って溶接棒を用いてアーク溶接した。上記境界面が溶接された積層物を1150℃の加熱炉で1時間再加熱した後、900℃の仕上げ圧延温度で圧延して熱延鋼板を製造した。続いて、上記熱延鋼板を550℃で巻取った後、酸洗後、50%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造した。次に、焼鈍温度を下記表2に示した条件で焼鈍を行った。
【0083】
製造されたそれぞれの試験片に対して機械的性質及びめっき性を測定し、下記表3に示した。万能引張実験機を用いて引張試験を行った後、降伏強度(YS)、引張強度(TS)、全伸び率(TEL)を測定した。ここで、降伏強度(YS)及び引張強度(TS)の単位はMPaであり、全伸び率(TEL)の単位は%である。
【0084】
比重は、鋼板を100×100mmのサイズに製作した後、常温で重量を測定し、その後、直径0.05mmのワイヤーに吊り下げ、常温の水が収容されたビーカーに浸漬させた後の重量を測定する方法で測定した。基準となる水の比重は1g/ccとした。
【0085】
表面硬度は、マイクロビッカース硬度計を用いて荷重300gfで10秒間圧入した後の圧痕のサイズを計測して測定した。このとき、測定精度を確保するために、表面10μmを研磨してから測定した。
【0086】
疲労限は、比較例1、比較例2、発明例1の曲げ疲労実験機で応力比-1の条件で測定した。上記疲労限は200万に設定した結果である。
【0087】
【表1】

上記表1において、各元素の含有量の単位は重量%である。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
上記表1~表3に示すように、本発明の組成をすべて満足する発明例1~発明例7は、25%以上の伸び率、7.4g/cm以下の比重、及び400Hv以上の表面硬度を確保できることを確認することができる。これに対し、比較例1は、クラッド材を構成しないマルテンサイト系炭素鋼であって、表面硬度が高く疲労特性には優れているが、25%以上の伸び率を確保することができなかった。
【0091】
比較例2は、クラッド材を構成しない軽量鋼板であって、伸び率及び比重は満足したが、表面硬度が低く疲労特性が劣化した。
【0092】
比較例3は、クラッド材の片側の厚さが15μmレベルであって、表面硬度を確保することができなかった。
【0093】
比較例4は、クラッド材の厚さ比が30%以上と成形性及び表面硬度は満足したが、7.4g/cm以下の比重を確保することができなかった。
【0094】
比較例5は、最初のパス(Pass)の圧下率が30%未満であるため板分離が起こり、クラッド鋼材を製造することができなかった。
【0095】
図2は、発明例1の母材とクラッド材との間の境界部の微細組織を示す光学顕微鏡写真である。図3は、発明例1の走査電子顕微鏡写真であって、母材とクラッド材との間の境界部の元素分布状態を示す。母材である軽量鋼板はオーステナイト単相で構成され、クラッド材はマルテンサイト組織で構成される。母材とクラッド材との間では、酸化物を含む特定の組織が観察されない。これは、図3の元素分布からも確認することができる。
【0096】
図4は、発明例1の全厚さを測定した走査電子顕微鏡写真、及び各厚さの位置で測定した微小硬度分布を示すグラフである。マルテンサイトで構成されたクラッド材の硬度は450Hvレベルを示し、軽量鋼板で構成された母材は260Hvレベルを示す。
【0097】
図5は、比較例5の熱間圧延後の外観を撮影した写真である。1パス(Pass)の直後に板分離が発生し、後続する圧延を行うことができなかった。
【0098】
図6は、比較例1、比較例2、及び発明例1の疲労実験結果を示すグラフである。表面硬度が高い比較例1及び発明例2は、500MPa以上の疲労限を示す。これは、疲労亀裂伝播が表面から開始するため、表面硬度が高い場合には耐久性が向上するためである。すなわち、鋼材の疲労寿命は、表層素材の硬度に比例することが分かる。
【0099】
以上、実施例を参照して説明したが、当該技術分野における熟練した当業者は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で本発明を多様に修正及び変更することができることを理解することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6