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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】残留応力の最適測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
G01L1/00 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017241255
(22)【出願日】2017-12-16
(65)【公開番号】P2019109099
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】509311643
【氏名又は名称】株式会社山本金属製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504226733
【氏名又は名称】コベルコ溶接テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】河合 真二
(72)【発明者】
【氏名】武田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】永井 卓也
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-184118(JP,A)
【文献】特開2017-146113(JP,A)
【文献】特開平05-180709(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0219444(US,A1)
【文献】三上 隆男,“DHD残留応力測定法について”,IIC REVIEW,日本,株式会社IHI検査計測,2009年10月,No. 42,p. 19-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00
G01L 5/00
G01N 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象部材の測定箇所に厚み方向の参照孔と該参照孔と略同心外側に環状にくり抜いたトレパニング孔とを形成し、前記トレパニング孔の形成前後の前記参照孔の孔径変化を測定し、前記測定対象部材の表面および内部の残留応力値を算出する残留応力の最適測定方法において、
前記参照孔とトレパニング孔とを
前記トレパニング孔の内径/前記参照孔の孔径<3.0
となるように形成することを特徴とする残留応力の最適測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造物などの測定対象物に参照孔とその同心外側に環状のトレパニング孔とを穿けて参照孔の孔径変化を測定することで測定対象物の表面および内部の残留応力を測定する方法において、種々の測定対象物の残留応力測定評価として標準化すべく最適な参照孔に対するトレパニング孔の孔径比を数値範囲化した残留応力の最適測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、深穴穿孔法(DHD:Deep Hole Drilling)による残留応力評価方法は、図7に示すような4つの手順により、応力解放前後の孔径を測定し孔径変化量から板厚内部の残留応力値を算出する。まず、被測定物の穴あけ箇所に当金(Front bush)を装着し、ガンドリル(Gun drill)を用いて、孔あけ加工による貫通もしくは未貫通孔(Reference hole(以下。「参照孔」と称する))を加工する(図7(a)のStep1参照)。次に、この参照孔に関して孔深さ方向に1箇所以上、周方向に3箇所以上、エアプローブ(Air probe)を用いて、孔径を測定する(図7(b)のStep2参照)。次に、この参照孔に対して、電極(Electrode)を用いて、同軸に円筒状にくり抜き加工(トレパニング加工)などの除去加工を行い、周辺の拘束を開放し、残留応力を開放する(図7(c)のStep3参照)。そして、再度、トレパニング加工で周辺除去した後の参照孔に関して孔深さ方向に1箇所以上、周方向に3箇所以上、孔径を測定する(図7(d)のStep4参照)。これらの測定値より、弾性材料であること、無限平板における孔であること、平面応力状態であることなどの仮定をすることで、孔径に対する面内応力(σx、σy、σxy)が算出できる。
【0003】
また、同軸に円筒状にトレパニング加工を施す応力解放過程に生じる塑性変形の影響を排除するために、トレパニング加工と孔径測定とを逐次実施する逐次深穴穿孔法(iDHD法:incremental Deep Hole Drilling)などがあり、上述の深穴穿孔法で算出できる孔軸方向成分(σz)も算出することができる。
【0004】
しかしながら、深穴穿孔法および逐次深穴穿孔法ともに孔径に及ぼす三次元的な応力状態や塑性変形の影響が織り込まれておらず、実値が理論値から乖離し精度があがらないという課題があった。
【0005】
また、従来の深孔穿孔法および逐次深孔穿孔法(以下、総称して「DHD法」と称する)による残留応力測定方法は、上述のように測定対象が弾性材料であること、無限平板における孔であること、平面応力状態であることなどを仮定し、孔径に対して垂直方向成分の残留応力(σx、σy、σxy)を算出する方法である。したがって、仮定条件により残留応力の精度が落ちるため、DHD法は残留応力測定方法の実用的な測定方法として普及しておらず、仮定条件を実現象に近づける三次元応力状態、塑性変形の影響を考慮できる高精度の板厚内部残留応力測定方法が切望されていた。
【0006】
上記DHD法の課題を解決すべく本発明者らは、仮定条件を実現象に近づける三次元応力状態、及び、塑性変形の影響を考慮できる改良型の深孔穿孔法(以下、「MIRS法」と称する)を特許文献2において提供した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-167937号公報
【文献】特開2015-184118号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】「一次系実機配管に対する残留応力の現場測定法の提案」INSS JOURNAL Vol.21.2014,61-74 前川ら
【文献】「構造部材内部に閉じ込められた残留応力の計測技術」IHI技法 Vol.53,2013,54-58 中代ら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記深孔穿孔法(DHD法、MIRS法(以下「MIRS法等」とも称する。))において測定対象物の同一平面内の応力は一様と仮定している。しかしながら、実際の測定対象物の同一平面内の応力場は一様でないことがわかっている。例えば、図5図6には突合せ溶接接手での溶接線方向の残留応力の分布を参照孔及びトレパニング孔の中心を零点座標として重ね合わせた平面図が例示されている。図5の例では、トレパニング孔の内径の内側にはx軸上の応力分布で概ね引張を示す領域が入っている。一方、図6の例では、トレパニング孔の内径の内側にはx軸上の応力分布で引張だけでなく圧縮を示す領域も含まれていることがわかる。図6に示すようにトレパニング孔の内径の内側に引張応力と圧縮応力とが含まれる場合、トレパニングにより残留応力を解放しても圧縮応力分も解放され、参照孔位置の引張応力(残留応力)の解放に基づく算出ができないため正確な測定結果を得ることができない。このことから、参照孔とトレパニング孔とに挟まれたコア部の肉厚が残留応力値の測定値に大きく影響することがわかった。
【0010】
したがって、MIRS法等において正確な測定結果を得るには図6のような場合、図5のようにトレパニング孔の内径に概ね引張応力だけが含まれ引張応力の最大値を評価し得るるように、コア部の肉厚を小さくする必要があることがわかる。本発明者は測定方法として測定対象や加工条件を問わず標準化するためには無次元化した推奨測定条件を数値で提供することが必要であると考えた。
【0011】
そこで、本発明は、種々の測定対象物の残留応力測定評価として標準化すべく最適な参照孔に対するトレパニング孔の孔径比の数値範囲を示した残留応力の最適測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、測定対象部材の測定箇所に厚み方向の参照孔と該参照孔と略同心外側に環状にくり抜いたトレパニング孔とを形成し、前記トレパニング孔の形成前後の前記参照孔の孔径変化を測定し、前記測定対象部材の表面および内部の残留応力値を算出する残留応力の最適測定方法であって、
予め定められた所定の測定誤差範囲内に対応する前記トレパニング孔の内径/前記参照孔の孔径の範囲内に形成する。
【0013】
本発明の残留応力の最適測定方法では、
前記参照孔とトレパニング孔とを
1.5≦前記トレパニング孔の内径/前記参照孔の孔径
となるように形成する。
【0014】
また、上記残留応力の最適測定方法では、前記参照孔とトレパニング孔とを
前記トレパニング孔の内径/前記参照孔の孔径の内径<3.0
となるように形成することが好ましい。
【0015】
上述したようにMIRS法等では孔径比を小さくした方が残留応力内の引張応力の最大値を評価することができることがわかった。その一方、MIRS法等を汎用性のある測定方法とするには許容できる測定誤差範囲内であることが必要である。本発明では、測定誤差の許容範囲を引張応力を評価し得る基準となる孔径比に対応して最適な測定方法を提供している。したがって、許容可能な測定誤差の設定には差があっても孔径比を最適な測定方法として提供する場合には、本発明の技術思想を踏襲したものである。
【0016】
具体的には、後述するように測定誤差は、80%以上であれば残留応力評価して良好とされることがわかった。これは後述するように、1.5≦孔径比 であり、隅部のような測定対象であっても1.5以上の孔径比を確保する必要がある。
【0017】
また、上述するように孔径比は小さくした方が残留応力の評価として良好であるが、トレパニングの内径を大きくする又は参照孔を小さくするしかなく、前者は隅部等に向かず、後者は加工が難しく本測定方法の汎用性に欠ける。その意味では標準化した測定条件として数値範囲を提供するには上限値も設定することが好ましい。本発明では後述するように残留応力評価として高精度と言える97%を上限値とし、それ以上の精度を求めることは標準化した測定条件としては過要求(むしろ孔径比が大きくなり圧縮応力も評価されたり、前記隅部等や加工の点から弊害となる)として排除した。従来は経験則上、3以上の測定例が開示されていたが、当業者も特に検証なくこれに従ってきたのが現状であったが。本発明者は、結果としてこれより小さい範囲で測定され、残留応力の最適な測定条件を提供したものと言える。
なお、従来は、孔径比で算出すると3.0以上の例ばかり散見され、これより小さい範囲が最適な測定条件である点を初めて提供した本発明は画期的であり、3.0未満の条件で測定するケースは本発明の測定方法を実施したものであると言える。
【発明の効果】
【0018】
本発明の残留応力の最適測定方法によれば、種々の測定対象物の残留応力測定評価として標準化するために、参照孔に対するトレパニング孔の孔径比の所定の数値範囲を最適な測定条件として提供した点で大きく有利である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】MIRS法におけるトレパニング加工の前後における元孔10の長さ変化(伸び量ΔZ)の測定方法を説明するための図であって、(a)は、元孔10及びくり抜き孔11が形成された測定対象部材1を示した斜視図である。(b)は、測定対象部材1の上面視図である。(c)は、トレパニング加工後において円筒部分12の軸方向(Z方向)の長さが変化した状態を示す図である。
図2】(a)~(e)は、本発明の一実施形態に係る残留応力測定方法の各工程を示した説明図である。
図3】(a),(b)は、トレパニング加工の前後における元孔の軸の傾き(倒れ量Δθ)の測定方法を説明するための図である。(c)は、トレパニング加工後において円筒部分が傾斜した状態の一例を示す図である。
図4】参照孔とトレパニング孔11との孔空け加工した際に、残留応力の推定値/入力値ついて整理した結果を示すグラフ図である。
図5】突合せ溶接接手での溶接線方向の残留応力の分布を参照孔及びトレパニング孔の中心を零点座標として重ね合わせた平面図である。
図6】突合せ溶接接手での溶接線方向の残留応力の分布を参照孔及びトレパニング孔の中心を零点座標として重ね合わせた平面図である。
図7】従来の深穴穿孔法による残留応力評価方法の各工程を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図1図7を参照しつつ、本発明の実施形態に係る残留応力の最適測定方法について説明する。
【0021】
《残留応力測定方法(MIRS法)》
まず、本発明の残留応力測定方法の実施形態の説明として、改良型の深穴穿孔法において測定対象部材の1つの箇所の残留応力値の測定について説明する。図2(a)~(e)は、1つの箇所の残留応力測定方法の各工程を示している。この残留応力評価方法では、図2(a)~(e)に示すような5つの手順により、板厚内部の残留応力値を算出する。ここで、図中の符号1は、溶接構造物などの測定対象部材であり、符号2は測定対象部材1に参照孔10を形成可能なドリルである。また、符号3は、測定対象部材1に形成された参照孔10の内径を測定可能なエアプローブ(孔径測定部及び孔径再測定部)であり、符号4は、放電によって参照孔10の周辺にくり抜き加工(トレパニング加工)を施してくり抜き孔(トレパニング孔)11を形成可能な放電加工機である。符号5は、円筒部分12の軸方向の伸び量ΔZ及び倒れ量Δθのそれぞれを測定可能なタッチプローブである。ここで本残留応力測定方法では、少なくとも、エアプローブ3を用いて、トレパニング加工(くり抜き加工)の前後における参照孔10の形状変化に基づき、測定対象部材1の表面および内部の残留応力値を算出する。残留応力値の算出においては、参照孔10の孔径、参照孔10の長手方向の長さ変化(伸び量ΔZ)、及び、参照孔10の軸の傾き(倒れ量Δθ)を考慮する。
【0022】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、XYZ三次元座標系を定義し、この座標系を参照しながら残留応力の測定方法について説明する。図2では、参照孔10の中心位置を原点O、紙面右方向をX軸、紙面に垂直奥方向をY軸、上垂直方向をZ軸とする。すなわち、測定対象部材1の上側表面はXY平面を規定し、参照孔10の長手方向(深さ方向)に沿ってZ軸が通り、円筒部分12の軸方向はZ軸方向となる。
【0023】
まず、図2(a)において、測定対象部材1の孔あけ箇所に当金(不図示)を装着し、ドリル2を用いた孔あけ加工によって参照孔10を形成する。なお、この参照孔10は、貫通孔であっても未貫通孔であっても良い。次に、図2(b)において、この参照孔10に関して長手方向(Z方向)に1箇所以上、周方向に3箇所以上、エアプローブ3を用いた孔径の測定を行う。次に、図2(c)において、参照孔10の周辺に対してくり抜き加工(トレパニング加工)を行い、参照孔10の周辺部分の拘束を解放(残留応力を解放)し、同軸に円筒状の円筒部分12を形成する。そして、図2(d)において、再度、周辺除去加工後の参照孔10に関して長手方向(Z方向)に1箇所以上、周方向に3箇所以上、エアプローブ3を用いた孔径の測定(再測定)を行う。そして、図2(e)において、タッチプローブ5を用いて、円筒部分12の軸方向(Z方向)の伸び量(ΔZ)、及び、XY方向の倒れ量(Δθ)を測定する。これら伸び量(ΔZ)及び倒れ量(Δθ)の測定により、DHD法で残留応力測定が、(σx、σy、σxy)の3つからなる残留応力成分のみを考慮するものであるのに対して、特許文献2での改良型の深穴穿孔法では、(σx、σy、σz、σxy、σyz、σzx)の6成分からなる残留応力成分まで考慮した残留応力測定が可能となり、これまでの仮定条件では省略されていた三次元の残留応力成分を高精度に測定することができる。
【0024】
《トレパニング前後における参照孔10の長さ変化(伸び量ΔZ)の測定方法》
次に、図1を参照しながら、トレパニング加工の前後における参照孔10の長さ変化(伸び量ΔZ)の測定方法について説明する。図1(a)は、参照孔10及びくり抜き孔11が形成された測定対象部材1を示した斜視図である。図1(b)は、測定対象部材1の上面視図である。図1(c)は、トレパニング加工後において円筒部分12の軸方向(Z方向)の長さが変化した状態を示す図である。なお、図1(b)中の黒い正方形で示した記号■は、トレパニング加工前における測定対象部材1の高さ方向(Z方向)の測定点を示し、黒い正三角形で示した記号▲は、トレパニング加工後における測定対象部材1の高さ方向(Z方向)の測定点を示す。本実施形態では、図1(b)に示すように、各測定点■、▲は、測定対象部材1の上面であって、参照孔10の中心軸Oの周りに等角度(本実施形態では90°)おきであって、且つ、中心軸Oから等距離となる位置に4つずつ設けられている。本実施形態では、トレパニング加工の前後において各測定点■、▲で測定された測定値の平均値が、測定対象部材1の高さ変化(ΔZ)、つまり、円筒部分12の軸方向(Z方向)の伸び量(ΔZ)として測定され、その測定結果が応力値算出部(不図示)に入力される。これにより、応力値算出部は、トレパニング加工の前後における残留応力値の算出において、参照孔10の長手方向の長さ変化(伸び量ΔZ)を考慮することが可能となる。なお、各測定点■、▲の点数は4点に限らず、2点以上であれば何点でも良い。
【0025】
《トレパニング前後における参照孔10の軸の傾き(倒れ量Δθ)の測定方法》
次に、図3を参照しながら、トレパニング加工の前後における参照孔10の軸の傾き(倒れ量Δθ)の測定方法について説明する。図3(a),(b)は、トレパニング加工の前後における参照孔10の軸の傾き(倒れ量Δθ)の測定方法を説明するための図である。図3(c)は、トレパニング加工後において円筒部分12が傾斜した状態の一例を示す図である。ここで、図3(b)は、測定対象部材1の高さ方向(Z方向)から見た参照孔10の外形であって、紙面左側に太線で示す円形状は、トレパニング加工前における参照孔10の外形を示し、紙面右側に破線で示す円形状は、トレパニング加工後における参照孔10の外形を示す。また、図3(a)中の点a、bは、参照孔10の内周面において測定対象部材1の上面から紙面下方向(Z軸方向)に深さhの箇所に位置する点であって、図3(b)中の線分abは、参照孔10のX方向の直径を示し、線分cdは、参照孔10のY方向の直径を示す。なお、深さh[mm]は、2.5mm程度に設定されることが好ましい。なお、図3(a)では図示を省略したが、点c、dも、点a、bと同様に、参照孔10の内周面において測定対象部材1の上面から紙面下方向(Z軸方向)に深さhの箇所に位置している。また、図3(b)中の点O、O´は、トレパニング加工前後における参照孔10の各中心を示す。中心O、O´の位置座標は、4点a~dの位置座標を平均することによって取得可能である。本実施形態では、中心O、O´の位置座標に基づき、中心O、O´の位置ズレを見ることで、参照孔10の軸の傾き(倒れ量Δθ)が測定される。
【0026】
≪トレパニング孔の内径/参照孔の孔径について≫
以上、MIRS法における参照孔10の形状変化に基づく残留応力測定について説明したが、本発明では参照孔の形状変化のうち最も基本となるトレパニング前後の参照孔10の孔径変化からの残留応力測定する場合における参照孔/トレパニング孔径の最適比を知得した。以下、具体的に説明する。
まずここで図4を参照する。図4は、参照孔10とトレパニング孔11との孔空け加工した際に、残留応力の推定値/入力値ついて整理した結果を示すグラフ図である。縦軸は残留応力の推定値/入力値、横軸はトレパニング孔11の内径/参照孔10の孔径を示している。このグラフ図からトレパニング孔11の内径/参照孔10の孔径が小さくなると残留応力の推定精度が低下していることがわかる。一方、トレパニング孔11の内径/参照孔10の孔径が大きくなるにつれ残留応力の推定精度が向上し、1.0に収束している。その意味ではトレパニング孔11を大きくする必要があるが、測定対象部材1の隅部等のスペースがない場合や面内応力の変化が急激で近距離で複数測定したい場合には、信頼度の高い測定精度を十分に担保できれば十分であり、むしろ測定技量に鑑みれば一般測定技術として推奨するものとしてはトレパニング孔11の内径/参照孔10の孔径を大きくすることによるスペース的な無駄を排除する必要もある。したがって、トレパニング孔11の内径/参照孔10の孔径の上限下限を数値化した方が好ましい。
【0027】
上記非特許文献1~2には、実際に残留応力評価として適正と考えられる誤差について提示されている。具体的には、まず非特許文献1では、80%以上であれば残留応力評価として採用できるとされている。これを図4の数値解析結果で検証すると、80%に相当する残留応力の推定値/入力値=0.8でのトレパニング孔11の内径/参照孔10の孔径=1.5であり、この値以上あれば残留応力評価としては十分に採用することができると言える。
【0028】
また、非特許文献2では、3%以下であれば通常以上の高精度な残留応力評価に至っているとされている。したがって、通常、97%未満程度で十分な残留応力評価として採用できると言え、今後普及が期待される評価方法としてのMIRS法においては97%以上の要求は好ましいとは言えない。この考えを図4の数値解析結果で検証すると、97%に相当する残留応力の推定値/入力値=0.97でのトレパニング孔11の内径/参照孔10の孔径=3.0であり、この値以上は測定技量の差やスペースの無駄を考慮すると不必要に高精度を要求するものとして推奨範囲外とすることの方が好ましい。したがって、トレパニング孔11の内径/参照孔10の孔径<3.0が適正なものと考えられる。
【0029】

以上を総合すると、参照孔10に対するトレパニング孔11の内径の関係は、
トレパニング孔の内径/参照孔の孔径≧1.5 であり、
好ましくは、
1.5≦トレパニング孔11の内径/参照孔10の孔径<3.0
が推奨される。
【0030】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないことは言うまでもない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1 測定対象部材
2 ドリル
3 エアプローブ
4 放電加工機
5 タッチプローブ
10 元孔
11 くり抜き孔
12 円筒部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7