(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】溶着方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/08 20060101AFI20220630BHJP
B29C 65/78 20060101ALI20220630BHJP
B29L 22/00 20060101ALN20220630BHJP
B29L 23/00 20060101ALN20220630BHJP
【FI】
B29C65/08
B29C65/78
B29L22:00
B29L23:00
(21)【出願番号】P 2017072271
(22)【出願日】2017-03-31
【審査請求日】2020-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 正明
(72)【発明者】
【氏名】谷 奈央人
(72)【発明者】
【氏名】脇 和夫
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-347821(JP,A)
【文献】特開2001-341516(JP,A)
【文献】特開昭50-007853(JP,A)
【文献】特開2006-234148(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00- 63/48
B29C 65/00- 65/82
F17C 1/00- 13/12
B23K 1/00-103/24
B60H 1/00- 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロー成形により成形された成形後の中空の成形体の外側壁面に対して別部材を押圧しながら溶着するに際し、ブロー成形時に形成される捨て袋部分を残し、当該捨て袋部分に形成される成形用吹込み孔を塞ぐことで、前記成形体を密閉しておくことを特徴とする溶着方法。
【請求項2】
成形後の中空の成形体の外側壁面に対して別部材を押圧しながら溶着するに際し、成形体の開口部をゴム栓により密閉することにより、前記成形体を密閉しておくことを特徴とする溶着方法。
【請求項3】
成形後の中空の成形体の外側壁面に対して別部材を押圧しながら溶着するに際し、前記成形体を密閉しておくことを特徴とし、
成形体及び別の部材がいずれもダクトであり、一方のダクトの経路部分に他方のダクトのフランジ部を溶着することを特徴とする溶着方法。
【請求項4】
密閉した成形体内に、圧縮流体を吹き込むことを特徴とする請求
項1から3のいずれか1項記載の溶着方法。
【請求項5】
圧縮流体が圧縮エアであることを特徴とする請求項4記載の溶着方法。
【請求項6】
溶着は、超音波溶着であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の溶着
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の空調用ダクトを連結する際に適用される溶着方法に関するものであり、特に、ダクトの経路に直接溶着することが可能な溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエアコンからの空気を通風させるための自動車用ダクトの製造方法としては、溶融樹脂を分割金型で型締めして成形するブロー方法が広く採用されている。ブロー成形では、種々の形態のダクトを簡単に成形することができ、複雑な形状のダクトを量産することが可能である。
【0003】
また、前述のダクトにおいては、2以上のダクトを連結して配管を構築することも行われている。ダクトを繋ぎ合わせることで、多様な配管形態に対応することが可能である。
【0004】
例えば特許文献1には、車両用インストルメントパネルの裏側に配置する空調用ダクトが開示されており、第1の筒体と、この第1の筒体に沿わせた第2の筒体と、これら第1、第2の筒体同士を結合するリベット等の止め部材と、第1、第2の筒体の少なくとも一方から車両用インストルメントパネルへ延した脚部とから構成することで、複雑な構成の空調用ダクトを、容易に製造可能としている。
【0005】
特許文献2には、車幅方向に延びる長尺状の第1ダクト及び第2ダクトが車幅方向に延びる薄肉ヒンジを介してブロー成形により一体成形された車両用空調ダクト構造が開示されており、第1及び第2ダクトを、薄肉ヒンジの車幅方向左側と右側とにそれぞれ設けられた係合突起と係合孔または係合凹部との係合により結合するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-120540号公報
【文献】特開2003-341340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ダクトを連結するに際しては、特許文献1に記載されるように、リベット等の止め部材を用いるのが一般的であるが、この場合、部品点数の増加を招き、製造コスト増の要因となるばかりでなく、作業性の点でも課題が多い。
【0008】
一方、特許文献2に記載されるような、係合突起と係合孔または係合凹部との係合により結合する方法は、簡便ではあるが、結合の信頼性という点で不十分であり、適用可能な構造が限られるという問題がある。
【0009】
このような状況から、ダクトの結合に超音波溶着のような溶着技術を適用することが検討されている。超音波溶着によれば、リベット等の余分な部品は必要なく、例えば超音波溶着機のヘッド(ホーン)を押し当てるだけで簡単にダクトを結合できるものと期待される。
【0010】
しかしながら、例えば超音波溶着の場合、ある程度の力でホーンを押し当てる必要があり、これまでのやり方では、中空のダクトに直接他のダクトを結合させることは難しい。中空のダクトの場合、ホーンを押し当てた際にダクトが変形する等して力を十分に加えることができないからである。
【0011】
そのため、各ダクトにフランジ部を形成し、これらフランジ部間を溶着することが行われている。フランジ部同士を溶着する場合には、フランジ部を重ねて背後に受け治具を設置すれば、受け治具で支えることで超音波溶着機のヘッド(ホーン)を所定の力で押し当てることができる。ただし、この場合には、構造上の制約が多くなり、適用し得るダクトの連結構造は限られたものとなる。
【0012】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、ダクトのような中空の成形体であっても自由に溶着することができ、低コストで簡単且つ確実に結合させることが可能な溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的を達成するために、本発明の溶着方法は、ブロー成形により成形された成形後の中空の成形体の外側壁面に対して別部材を押圧しながら溶着するに際し、ブロー成形時に形成される捨て袋部分を残し、当該捨て袋部分に形成される成形用吹込み孔を塞ぐことで、前記成形体を密閉しておくことを特徴とする。あるいは、成形後の中空の成形体の外側壁面に対して別部材を押圧しながら溶着するに際し、成形体の開口部をゴム栓により密閉することにより、前記成形体を密閉しておくことを特徴とする。さらには、成形後の中空の成形体の外側壁面に対して別部材を押圧しながら溶着するに際し、前記成形体を密閉しておくことを特徴とし、成形体及び別の部材がいずれもダクトであり、一方のダクトの経路部分に他方のダクトのフランジ部を溶着することを特徴とする。
【0014】
本発明は、中空の成形体を密閉状態とし、その内圧を利用して、あたかも受け治具があるかのように溶着を行うというのが基本的な考えである。ダクトのような中空の成形体は、一般的に剛性が不十分であることが多く、また、内側に受け治具を設置することも難しいことから、力を加えると溶着面が逃げて(後退して)しまい、十分な力を加えることができない。したがって、溶着することは難しい。これに対し、中空の成形体を密閉し、内部に空気を密封しておくと、内圧の働きで成形体の面剛性が向上する。この状態で溶着すれば、内圧が受けとなって十分な力を加えることが可能となり、溶着することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ダクトのような中空の成形体であっても自由に溶着することができ、低コストで簡単且つ確実に結合させることが可能である。また、フランジ部を形成する場合のように構造上の制約が生ずることがなく、自由に連結構造を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】結合するダクトの例を示す概略平面図であり、(A)はダクトの基本パーツを示す図であり、(B)はこれと組み合わせるパーツを示す図である。
【
図2】フランジ部による結合例を示す概略平面図である。
【
図3】フランジ部同士を溶着する工程を説明する図である。
【
図4】連結する前のダクトの一例を示すものであり、経路に他のダクトが溶着される被溶着ダクトの一例を示す概略平面図である。
【
図5】被溶着ダクトに対する連結ダクトの結合状態を示す概略平面図である。
【
図7】被溶着ダクトへの圧縮流体の吹き込みを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した溶着方法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本実施形態においては、溶着対象となる中空の成形体として、ダクトを例にして説明する。溶着対象となるダクトは、例えば断面方形や断面円形の発泡ダクトであり、エアコンユニットから供給される冷暖風を所望の部位へ流通させるための軽量な自動車用ダクトである。係る発泡ダクトは、例えば発泡剤を混合させた熱可塑性樹脂を分割金型で型締めし、ブロー成形することで成形される。
【0019】
使用する前記熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン系樹脂等を挙げることができ、1~20質量%のポリオレフィン系重合体や5~40質量%の水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを混合させたブレンド樹脂等を用いることもできる。
【0020】
発泡剤としては、物理発泡剤、化学発泡剤及びその混合物が挙げられる。物理発泡剤としては、空気、炭酸ガス、窒素ガス、水等の無機系物理発泡剤、及び、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の有機系物理発泡剤、更には、それらの超臨界流体を適用することができる。超臨界流体としては、二酸化炭素、窒素等を用いて作ることが好ましく、窒素であれば臨界温度-149.1℃、臨界圧力3.4MPa以上、二酸化炭素であれば臨界温度31℃、臨界圧力7.4MPa以上とすることで作ることができる。
【0021】
ブロー成形により形成される発泡ダクトの発泡倍率は、例えば2.0倍以上、5倍以下であり、複数の気泡セルを有する独立気泡構造(独立気泡率が70%以上)により構成される。厚み方向における気泡セルの平均気泡径は例えば300μm未満、好ましくは、100μm未満である。発泡ダクトの厚さとしては、例えば5mm以下程度である。特に発泡倍率が2.8倍以上、厚さが1.5mm以下のダクトにおいて本発明は有効である。
【0022】
なお、ダクトとしては、前述の発泡ダクトに限らず、非発泡のダクト(例えば厚さ2mm以下のポリオレフィン系非発泡ダクト等)であってもよい。
【0023】
前述のような中空のダクトを結合する場合、これまでのやり方ではダクトの経路(中空の壁面)に直接他のダクトを溶着することができず、それぞれフランジ部を形成し、これらフランジ部を重ねて例えば超音波溶着するようにしている。
【0024】
図1(A)は、自動車の空調ダクトを構成するパーツを示すものであり、自動車用空調ダクトは、基本的には、センターダクト1と、その両側に連結されるサイドダクト2,3とから構成される。ここに
図1(B)に示すような分岐ダクト4を結合することで、吹き出し口を様々な方向に設置することができる。
【0025】
例えば、一方のサイドダクト2(被溶着対象)と分岐ダクト4(別部材)を例にしてその結合構造を説明すると、略L字形状のサイドダクト2と、円弧形状の分岐ダクト4には、それぞれパーティングラインに沿って所定の位置に複数のフランジ部を形成しておく。本例の場合、サイドダクト2にはフランジ部2Aが2箇所形成されている。分岐ダクト4にも、やはりフランジ部4Aが2箇所形成されている。なお、これらフランジ部2A,4Aは、ブロー成形の際にパーティングラインに沿ってパリソンを押し潰すことにより形成されるものである。
【0026】
フランジ部2A,4Aを有するサイドダクト2、分岐ダクト4を結合する場合、
図2に示すように、フランジ部2Aとフランジ部4Aとが重なり合うようにサイドダクト2と分岐ダクト4を組み合わせる。その上で、サイドダクト2のフランジ部2Aに対して分岐ダクト4のフランジ部4Aを溶着し、サイドダクト2と分岐ダクト4を結合する。
【0027】
図3は、サイドダクト2のフランジ部2Aに対して分岐ダクト4のフランジ部4Aを超音波溶着する工程を示すものである。サイドダクト2のフランジ部2Aに対して分岐ダクト4のフランジ部4Aを超音波溶着する場合、フランジ部2Aとフランジ部4Aとを重ね、下側のフランジ部2Aの下面に受け治具11を設置する。受け治具11を設置することで、重ねたフランジ部2Aとフランジ部4Aに対して、超音波溶着機のヘッドであるホーン12を所定の力で押し付けることができ、フランジ部2Aとフランジ部4Aが溶着される。
【0028】
このようにフランジ部2Aとフランジ部4Aを溶着することでサイドダクト2と分岐ダクト4を結合する場合、フランジ部2A,4Aの形成位置が制約されること等から、サイドダクト2と分岐ダクト4の結合構造において、その自由度も制約される。したがって、空調ダクトの組み合わせ構造を自由に設計することは難しい。
【0029】
ここで、例えばサイドダクト2の経路(中空の壁面)に分岐ダクト4を溶着することができれば、空調ダクトの組み合わせ構造の設計の自由度は飛躍的に増すものと考えられるが、ダクトの中空の壁面に他のダクトを溶着しようとすると、壁面がへこんでしまい、溶着を行うことが難しい。また、内部に受け治具を設置することも難しい。
【0030】
そこで、本発明においては、溶着対象となるダクト(被溶着ダクト)を密閉し、その内圧を受けとして利用することで、中空のダクトの壁面への溶着を可能とする。以下、本発明を適用した溶着方法について説明する。
【0031】
被溶着ダクトとして先のサイドダクト2の成形を例にすると、サイドダクト2は、ブロー成形によりパリソンを所定のダクト形状に成形することで作製される。ブロー成形では、パリソンを密閉して内部にエアーを吹き込む必要があることから、成形されたサイドダクト2の両端には、捨て袋と称されるバリが残り、通常は成形後にこの捨て袋を切断して除去する。
【0032】
本実施形態では、
図4に示すように、サイドダクト2の成形後に、この捨て袋2Bを残しておく。また、この捨て袋2Bには、成形用吹込み孔が形成されており、成形時には、この成形用吹込み孔からパリソン内部にエアー吹き込みを行うが、溶着に際しては、この成形用吹込み孔を塞ぎ、サイドダクト2を密閉状態としておく。
【0033】
サイドダクト2の捨て袋2Bに形成された成形用吹込み孔を塞ぐ方法としては、特に制約されないが、例えば捨て袋2Bを熱を加えながら押し潰して溶着する方法等を採用することができる。あるいは、サイドダクト2の成形後に、捨て袋2Bを切断除去し、形成された開口部にゴム栓等を嵌め込んで密閉するようにしてもよい。
【0034】
このように密閉状態としたサイドダクト2に対して分岐ダクト4を結合させるが、本例の場合、
図5に示すように、分岐ダクト4は開放状態とし、分岐ダクト4に設けたフランジ部4Aをサイドダクト2の中空の壁面に溶着し、結合するようにしている。
【0035】
図6は、密閉したサイドダクト2の中空の壁面に分岐ダクト4のフランジ部4Aを溶着する工程を示すものである。溶着に際しては、超音波溶着機のヘッドであるホーン12をフランジ部4Aに対して所定の力で押し付け、溶着を行う。この時、サイドダクト2は密閉状態であるので、ホーン12の押し付けにより壁面に力が加わると、サイドダクト2内の空気が圧縮されて内圧が発生し、壁面を押し戻す。そのため、サイドダクト2の壁面の剛性が向上したかのようになり、超音波溶着機のヘッドであるホーン12を十分な力で押し付けることが可能となる。すなわち、受け治具を設置した場合と同様、超音波溶着を行うことができる。
【0036】
前述の通り、本実施形態の溶着方法では、サイドダクト2の中空の壁面に対して、通常通り超音波溶着を行うことが可能である。したがって、ダクトのような中空の成形体であっても自由に溶着することができ、低コストで簡単且つ確実に結合させることが可能である。また、結合に際して構造上の制約が生ずることがなく、例えばダクトの連結構造を自由に設計することができる。
【0037】
以上、本発明を適用した実施形態についてを説明してきたが、本発明が前述の実施形態に限られるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0038】
例えば、
図7に示すように、密閉したサイドダクト2に吹き込みノズル13より圧縮流体(例えば圧縮エアー)を強制的に吹き込むようにしてもよい。密閉されたサイドダクト2に強制的に圧縮エアーを送り込むことで、ピンホールの有無を確認することができ、サイドダクト2の密閉状態を確認することができる。また、圧縮エアーを送り込むことで、サイドダクト2の壁面の面剛性をより向上させることができ、その結果、溶着強度をより一層向上させることができる。なお、圧縮流体は、例えばサイドダクト2の捨て袋2Bに形成された成形用吹き込み孔から吹き込むようにしてもよい。
【0039】
また、先の実施形態では超音波溶着を例にして説明したが、溶着の方法としては超音波溶着に限られず、例えば振動溶着や熱板溶着等であってもよい。
【0040】
さらに、先の実施形態ではダクトの結合を例にして説明したが、溶着対象がダクトに限られるわけではなく、中空の成形体全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 センターダクト
2,3 サイドダクト
4 分岐ダクト
2A,4A フランジ部
2B 捨て袋
11 受け治具
12 ホーン
13 吹き込みノズル