(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】cBN焼結体および切削工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5831 20060101AFI20220630BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20220630BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2018183380
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】小口 史朗
(72)【発明者】
【氏名】矢野 雅大
(72)【発明者】
【氏名】宮下 庸介
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204152(WO,A1)
【文献】特開2005-297068(JP,A)
【文献】特開2015-193072(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0134494(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5831
B23B 27/14
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
cBN粒子とTi系セラミックス結合相からなるcBN焼結体において、平均粒径が10nm以上100nm以下のCrSi化合物粒子が、前記焼結体に対する含有割合として1体積%以上15体積%以下となるように
前記結合相に分散していることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項2】
切削工具の切れ刃が、請求項1に記載のcBN焼結体から構成されていることを特徴とするcBN焼結体製切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靭性に優れた立方晶窒化ほう素(以下、「cBN」で示す)基超高圧焼結体(以下、「cBN焼結体」という)、および、これを工具基体とする切削工具(以下、「CBN工具」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、cBN焼結体は、靭性に優れることが知られており、鋼、鋳鉄等の鉄系被削材の切削工具材料として広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、cBN焼結体中のcBN含有率が20体積%以上60体積%以下であり、結合相に少なくともAl2O3、及びZr化合物を含み、前記cBN焼結体中の任意の直線上において、Al2O3が占める連続する距離の平均値が0.1μm以上1.0μm以下であり、かつ該Al2O3が占める連続する距離の標準偏差が0.8以下であり、当該直線上において、Al2O3とZr化合物との接点の数をX、Al2O3とcBN成分との接点の数と、Al2O3とAl2O3及びZr化合物以外の結合相成分との接点の数との合計をYとした場合、X/Yが0.1以上1以下であり、Zr化合物の平均粒径が0.01μm以上0.1μm以下であることを特徴とするcBN焼結体工具が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、原料中においてcBN成分が50体積%以上82体積%以下であり、結合材が前記原料中においてTiCを3体積%以上20体積%以下と、Al2O3及びZrO2を15体積%以上49体積%以下含有しており、かつZrO2/Al2O3の重量比が0.1以上4以下となる組成であることを特徴とする遠心鋳造鋳鉄の切削用cBN焼結体が記載されている。
【0005】
さらに、例えば、特許文献3には、20体積%以上80体積%以下のcBN粒子と結合材とを有する複合焼結体であって、前記結合材は、周期律表第4a族元素、第5a族元素、第6a族元素の窒化物、炭化物、硼化物、酸化物、およびこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも一種と、Zr、Si、W、Co等の単体、化合物、および固溶体からなる群の中から選択された少なくとも1種と、Alの化合物とからなり、前記複合焼結体中にW及び/又はCoが含有される場合には、該W及び/又はCoの合計質量は2.0質量%未満であり、かつ前記Zr、Si等(以下、「X」とする。)のいずれか一以上を含有し、該Xはそれぞれ0.005質量%以上2.0質量%未満であり、かつX/(X+W+Co)が0.01以上1.0以下を満たし、かつAlの質量が2.0質量%以上20.0質量%以下であるcBN焼結体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5732663号公報
【文献】特許第5428118号公報
【文献】特許第5189504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に記載されたcBN焼結体は、ZrO2の相転移による体積変化によってクラック伝搬を抑制、もしくはAl2O3粒子の靭性を向上させることにより、工具としての耐欠損性を向上させている。しかし、主結合相であるTi系セラミックス結合相とAl2O3のビッカース硬さが同程度なため、クラックを誘導させる効果が低減し、さらには、ZrO2粒子界面をクラックが伝播する場合、相転移による体積変化によりクラックをより広げる方向に働く可能性がある。
【0008】
特許文献3に記載されたcBN焼結体は、Wおよび/またはCo、SiまたはZrを結合相中に分散させることにより、結合相の強度と靭性を向上させている。しかし、分散性が悪い場合、局所的に添加物が凝集した領域と、ほとんど添加物が存在しない、つまり分散による反応抑制の効果が十分得られない領域ができるため、結合相の強度と靭性を向上させることが困難である。
【0009】
本発明は、前記先行技術においてcBN焼結体が十分な耐クラック伝搬性や靱性を確保できないという課題を解決するものであって、靱性の高いcBN焼結体およびこれを工具基体とするCBN工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、cBN焼結体およびこれを工具基体とするcBN工具について前記課題を解決すべく、cBN焼結体中のTi系セラミックス結合相中に、このTi系セラミックスに比してビッカース硬さが低く脆性な粒子を分散させることについて検討したところ、CrSi化合物粒子がcBN焼結体内で生じたクラックの進展を細かく迂回させること、加えて、結合相中でのクラックの細かな伝播の誘導を強くすることにより、靱性の高いcBN焼結体を得ることができること、また、このcBN焼結体を切削工具として使用すれば、刃先への負荷の大きい断続切削あたって刃先が欠損しにくいという優れた切削性能を有することを知見した。
【0011】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)cBN粒子とTi系セラミックス結合相からなるcBN焼結体において、平均粒径が10nm以上100nm以下のCrSi化合物粒子が、前記焼結体に対する含有割合として1体積%以上15体積%以下となるように前記結合相に分散していることを特徴とするcBN焼結体。
(2)切削工具の切れ刃が、前記(1)に記載のcBN焼結体から構成されていることを特徴とするcBN焼結体製切削工具。」
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、結合相の主たる材料であるTiN、TiC、TiCNのビッカース硬さ(3000~3400HV)に比してビッカース硬さが低い(1000~1500HV)CrSi化合物を前記結合相中に分散させることにより、焼結体中を進行するクラックの先端を硬さの低いCrSi化合物へ誘導させ、その進展をより細かく迂回させることにより、より一層のcBN焼結体の靱性の向上、さらに、前記結合相の耐酸化性の向上という優れた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のcBN焼結体の焼結組織を表す模式図であり、各組織の形状や寸法は実際の組織を写生したものではない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明でいうCrSi化合物はCrSi2が代表的なものであるが、他に、Cr3Si、CrSi、Cr5Si3や化学量論的組成ではないCrとSiとの化合物であってもよく、さらに、これらの混合物であってもよい。また、Ti系セラミックス結合相とは、Ti系セラミックスの他、結合相形成原料粉末に由来する化合物、例えば、Alの酸化物、窒化物が含まれていてもよい。なお、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「~」を用いて表現する場合、その範囲は上限および下限の数値を含むものである。
【0015】
1.cBN焼結体中の結合相に分散させるCrSi化合物
(1)平均粒径
焼結体中に占めるCrSi化合物粒の平均粒径は、10nm以上100nm以下とする。CrSi化合物の平均粒径が、100nmを超えると、結合相中のCrSi化合物粒子を起点とするクラックの発生や進展を生じやすくなるため、cBN焼結体の靱性が低下する。したがって、結合相中に存在するCrSi化合物の平均粒径の上限値は100nmとする。より好ましい上限値は50nmである。また、CrSi化合物の粒径が10nm未満であればクラックの進展を細かく迂回させ、直線的な進展を抑えることが十分でないことから、CrSi化合物の粒径の下限値は10nmとした。
【0016】
(2)含有割合
焼結体中に占めるCrSi化合物粒の含有割合は、1体積%(vol%)以上15体積%以下とする。その理由は、1体積%未満であるとクラックを細かく迂回させてその進展を抑制することが十分にできずcBN焼結体の靱性を向上させるには十分な量ではなく、一方、15体積%超えるとcBN焼結体中においてCrSi化合物粒同士の距離が近くなり、CrSi化合物を起点としてクラック伝番が促進され、cBN焼結体の靱性低下し、好ましくないからである。
【0017】
2.CrSi化合物の平均粒径と含有割合の測定方法
(1)CrSi化合物の平均粒径
平均粒径は、cBN焼結体の断面組織をオージェ電子分光(Auger Electron Spectrography:以下、AESという)装置を用いて、Cr元素、およびSi元素のマッピング像を得て、Cr元素およびSi元素が重なる部位を画像処理によって抜き出し、当該部位をCrSi化合物粒子と特定し、次いで、特定した各粒子に対して画像解析を行って平均粒径を求める。具体的には、結合相中のCrSi化合物粒子を明確に判断するため、AESを用いて得た同一視野におけるCr元素およびSi元素の各マッピング像は、対象元素が存在しない部位を白、存在する部位を黒とし、黒を0、白を255の256階調のモノクロにて取得し、各々のモノクロ像において各元素が存在する位置が白色となるように2値化処理する。2値化処理し得られた同一視野内におけるCr元素およびSi元素のマッピング像において、2元素が存在する、すなわち2元素の各マッピング像を比較しいずれも黒色となる部位をCrSi化合物粒子と特定する。
なお、CrSi化合物粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、画像処理法の1つであるウォーターシェッドを用いて接触していると思われるCrSi化合物粒同士を分離する処理を、2元素の各マッピング像を比較しいずれも黒色である部分を抜き出した後の像へ行ってもよい。
【0018】
2値化処理後に得られた画像内のCrSi化合物粒にあたる部分(黒の部分)を粒子解析し、求めた最大長を各粒子の直径とする。最大長を求める粒子解析としては、例えば、1つのCrSi化合物粒子に対してフェレ径を算出することより得られる2つの長さから大きい長さの値を最大長とし、その値を各粒子の直径とする。この直径を有する理想球体と仮定して計算より求めた体積を各粒子の体積として累積体積を求め、この累積体積を基に縦軸を体積百分率[%]、横軸を直径[μm]としてグラフを描画させ、体積百分率が50%のときの直径をCrSi化合物粒子の平均粒径とし、これを3観察領域に対して行い、その平均値をCrSi化合物の平均粒径[μm]とした。粒子解析を行う際には、あらかじめSEMにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。画像処理に用いる観察領域としては、5.0μm×3.0μm程度の視野領域が望ましい。
【0019】
(2)含有割合
含有割合は、AESを用いて、Cr元素およびSi元素のマッピング像を得て、Cr元素およびSi元素が重なる部位を画像処理によって抜き出し、当該部位をCrSi化合物粒子と特定し、画像解析によりCrSi化合物粒子が占める面積を算出して、CrSi化合物粒子の面積割合を求める。これを少なくとも3画像に対して行い、算出した各CrSi化合物粒子の面積割合の平均値をcBN焼結体に占めるCrSi化合物の含有割合として求める。画像処理に用いる観察領域として、5.0μm×3.0μm程度の視野領域が望ましい。
【0020】
3.cBN焼結体中のcBN粒子の平均粒径と含有割合
本発明で用いるcBN粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、0.2~8.0μmの範囲であることが好ましい。
これは、硬質なcBN粒子を焼結体内に含むことにより耐欠損性を高める効果に加えて、平均粒径が0.2~8.0μmのcBN粒子を焼結体内に分散させることにより、工具使用中に工具表面のcBN粒子が脱落して生じる刃先の凹凸形状を起点とする欠損、チッピングを抑制するだけでなく、工具使用中に刃先に加わる応力により生じるcBN粒子と結合相との界面から進展するクラック、あるいはcBN粒子が割れて進展するクラックの伝播を抑制することにより、優れた耐欠損性を有することができるためである。
【0021】
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、特に限定されるものではないが、40体積%未満では、焼結体中に硬質物質が少なく、工具として使用した場合に、耐欠損性が低下することがあり、一方、78体積%を超えると、焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下することがある。そのため、本発明が奏する効果をより一層発揮するためには、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、40~78体積%の範囲とすることが好ましい。
【0022】
cBN粒子の平均粒径と含有割合は、以下のとおりにして求めることができる。
平均粒径:
cBN焼結体の断面組織をSEMにてcBN焼結体組織を観察し、二次電子像を得る。得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析より求めた各粒子の最大長を基に平均粒径を算出する。
画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出すにあたり、cBN粒子と結合相とを明確に判断するため、画像は0を黒、255を白の256階調のモノクロで表示し、cBN粒子部分の画素値と結合相部分の画素値の比が2以上となる画素値の像を用いてcBN粒が黒となるように2値化処理を行う。
ここで、cBN粒子部分や結合相部分の画素値を求めるための領域として、0.5μm×0.5μm程度の領域内の平均値より求め、少なくとも同一画像内から異なる3個所より求めた平均の値を各々のコントラストとすることが望ましい。
なお、2値化処理後はcBN粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、ウォーターシェッドを用いて接触していると思われるcBN粒同士を分離する。
2値化処理後に得られた画像内のcBN粒にあたる部分(黒の部分)を粒子解析し、求めた最大長を各粒子の直径とする。最大長を求める粒子解析としては、例えば、1つのcBN粒子に対してフェレ径を算出することより得られる2つの長さから大きい長さの値を最大長とし、その値を各粒子の直径とする。この直径を有する理想球体と仮定して計算より求めた体積を各粒子の体積として累積体積を求め、この累積体積を基に縦軸を体積百分率[%]、横軸を直径[μm]としてグラフを描画させ、体積百分率が50%のときの直径をcBN粒子の平均粒径とし、これを3観察領域に対して行い、その平均値をcBNの平均粒径[μm]とした。粒子解析を行う際には、あらかじめSEMにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。画像処理に用いる観察領域として、cBN粒子の平均粒径が3μmの場合、15.0μm×15.0μm程度の視野領域が望ましい。
【0023】
含有割合:
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、cBN焼結体の断面組織をSEMによって観察し、得られた二次電子像内のcBN粒子の部分を画像処理によって抜き出し、画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出し、1画像内のcBN粒子が占める割合を求め、少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をcBN粒子の含有割合として求める。画像内のcBN粒子の部分を抜き出す画像処理は、cBN粒の平均粒径の2値化処理後の像を得る手順と同様に行う。画像処理に用いる観察領域として、例えば、cBN粒子の平均粒径0.3μmの場合、5.0μm×3.0μm程度の視野領域が望ましい。
【0024】
4.製造方法
本発明の製造方法の一例を以下に示す。
(1)結合相を構成する成分の原料粉末の準備
結合相を構成する原料粉末として、CrSi化合物原料と結合相の主となる原料を用意する。CrSi化合物原料として、平均粒径2~10μmのCrSi化合物粉末を用意する。CrSi化合物粉末は、所望の粒径に粉砕したCrSi化合物原料粉とするため、例えば、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をした後にボールミルにより粉砕を行った後、遠心分離装置を用いて分級することにより、縦軸を体積百分率、横軸を粒子径とした場合のメディアン径D50を粉砕したCrSi化合物原料粉の平均粒径とし、その値が10~200nmのCrSi化合物原料粉を得る。また、結合相の主となる原料としては、従来から知られている結合相形成原料粉末(TiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末)を準備する。
【0025】
(2)粉砕・混合
これらの原料粉末を、例えば、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をした後にボールミルにより粉砕および混合を行う。
その後、硬質相として機能させる平均粒径0.2~8.0μmのcBN粉末を焼結後のcBN粒子の含有割合が所定の体積%となるように添加して、さらに、ボールミル混合を行う。
【0026】
(3)成形、焼結
得られた焼結体原料粉末を、所定圧力で成形して成形体を作製し、これを真空下、1000℃で仮焼結し、その後、超高圧焼結装置に装入して、例えば、圧力:3~8GPa、温度:1000~1800℃の範囲内の所定の温度で焼結することにより、本発明のcBN焼結体を作製する。
【0027】
5.CBN工具
このように作製した本発明の、靭性に優れたcBN焼結体を工具基体とするcBN基超高圧焼結体製切削工具は、例えば、高硬度鋼の断続切削加工においても、耐欠損性に優れ、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性を発揮する。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について記載する。
【0029】
本実施例のcBN焼結体の製造では、結合相を構成するためのCrSi化合物の原料粉末として、CrSi2粉末を準備し、CrSi2の粒径制御のため、ボールミルにて粉砕の処理を施した後、遠心分離法を用いて分級することにより所望の粒径範囲のCrSi2原料粉を用意した。
すなわち、平均粒径2~5μmのCrSi2粉末を準備し、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をした後にボールミルを用いて粉砕を実施後、混合したスラリーを乾燥させた後、遠心分離装置を用いて分級することにより平均粒径が10~100nmのCrSi2原料粉を得ることができる。
上記のように事前に準備したCrSi2原料粉と、平均粒径が0.3μm~0.9μmのTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末を用意し、これら原料粉末の中から選ばれたいくつかの結合相構成用原料粉末(各原料粉末の体積%を表1に示す)と、硬質相用原料としてのcBN粉末の合量を100体積%としたときの焼結後のcBN粒子の含有割合が40~78体積%となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。
次いで、得られた焼結体原料粉末を、成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、1000℃の範囲内の所定温度に保持して仮焼結し、その後、超高圧焼結装置に装入して、圧力:5GPa、温度:1400℃の温度で焼結することにより、表2に示す本発明のcBN焼結体1~15(本発明焼結体1~15という)を作製した。なお、成形体に施す熱処理は、湿式混合時の溶媒を除去することが主な目的である。
また、上記作製工程は、超高圧焼結までの工程において原料粉末の酸化を防止することが好ましく、具体的には非酸化性の保護雰囲気中での取り扱いを実施することが好ましい。
【0030】
【0031】
【0032】
比較のため、本発明において規定する範囲外のCrSi2平均粒径、含有割合の場合を検討すべく、CrSi2を含まないおよび含む原料をボールミルを用いて粉砕し、遠心分離装置を用いて分級し、平均粒径0.3μm~0.9μmのTiN粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末を用意し、これら原料粉末の中から選ばれたいくつかの結合相構成用原料粉末(各原料粉末の体積%を表3に示す)と、硬質相としてのcBN粉末との含量を100体積%としたときの焼結後のcBN粒子の含有割合が42~61体積%となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。
その後、本発明焼結体1~15と同様な条件で成形体を作製し、熱処理し、この成形体を、本発明焼結体1~15と同様な条件で超高圧高温焼結することにより、表3に示す比較例のcBN焼結体(以下、比較例焼結体という)1~6を作製した。
【0033】
【0034】
次に、前記で作製した本発明品1~15、比較品1~6を、ワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、Cu:26質量%、Ti:5質量%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことにより、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもつ本発明のcBN基超高圧焼結体切削工具(本発明工具という)1~15、および、比較例のcBN基超高圧焼結体切削工具(比較例工具という)1~6を製造した。
【0035】
なお、本発明焼結体1~15、比較例焼結体1~6の結合相は、前述の結合相形成原料粉末に由来するAlの酸化物、窒化物が存在したが、CrおよびSiそれぞれの酸化物、窒化物、ほう化物、SiAlON、AlONは観察されなかった。
【0036】
次いで、本発明工具1~15と比較工具1~6に対して、以下の切削条件で切削加工を実施し、欠損に至るまでの工具寿命(回数)を測定した。
<切削条件>
被削材:浸炭焼き入れ鋼(JIS・SCM415、硬さ:HRC58~62)の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度:200m/min、
切り込み:0.1mm、
送り:0.1mm/rev
の条件での、高硬度鋼の乾式切削加工試験を実施。
各工具の刃先がチッピングあるいは欠損に至るまでの断続回数を工具寿命とし、断続回数200回毎に刃先を観察し、刃先の欠損やチッピングの有無を確認した。
表4に、上記切削加工試験の結果を示す。
【0037】
【0038】
表4に示される結果から、本発明工具は、比較例工具に比して、突発的な刃先の欠損、チッピングが発生することなく、工具寿命が格段に延命化されており、靱性が向上したことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の靱性に優れたcBN焼結体は、靱性が高くCBN工具の工具基体として用いると、欠損、破損を発生することなく長期の使用にわたって、優れた耐欠損性を発揮し、工具寿命の延命化が図られるものであることから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、低コスト化に十分満足に対応できるものである。