(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】積層体およびそれを用いた封止部材
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20220630BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220630BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220630BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20220630BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/30 102
C08L83/04
C08L29/04 Z
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2019539355
(86)(22)【出願日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2018030427
(87)【国際公開番号】W WO2019044525
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017165214
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017165215
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義和
(72)【発明者】
【氏名】山田 絵美
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-185375(JP,A)
【文献】特開2004-250477(JP,A)
【文献】特開2006-082319(JP,A)
【文献】特開2007-210262(JP,A)
【文献】特開2015-193193(JP,A)
【文献】特開2000-309607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B65D65/00- 65/46
C07F 7/00- 7/30
C08G77/00- 77/62
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機化合物層と
有機無機混合物保護層とを基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、
該無機化合物層がアルミニウム、マグネシウム、チタン、錫、インジウム、ケイ素およびそれらの酸化物等から選択される1種以上の無機化合物を含み、該無機化合物層の厚さは5nm以上100nm以下であり、該
有機無機混合物保護層がビニルアルコール系樹脂
と直鎖状ポリシロキサンを含有し、該ビニルアルコール系樹脂が環状構造中にカルボニル基を有する環式化合物構造を含有
し、該有機無機混合物保護層をFT-IR法で測定した際の、Si-O-Si結合を表すピークの強度ν1とSi-OH結合を表すピークの強度ν2、および該有機無機混合物保護層の平均厚さT(nm)からなる式(1)の値が0.005以上0.030以下であることを特徴とする積層体。
(ν1/ν2)/T 式(1)
ν1:1,050~1,090cm
-1
におけるピークの強度
ν2:950~970cm
-1
におけるピークの強度
【請求項2】
前記ビニルアルコール系樹脂がラクトン構造を含有することを特徴とする請求項
1に記載の積層体。
【請求項3】
前記
有機無機混合物保護層の平均厚さTが10nm以上1,000nm以下であることを特徴とする請求項1
または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記無機化合物層が酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の積層体を用いてなることを特徴とする封止部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温熱水処理後でも優れた酸素及び水蒸気バリア性を有する積層体およびそれを用いた封止部材に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食物、医薬品、日用品など様々なものを包装するために、各種包装材料が用いられてきたが、これらの包装材料には、内容物の劣化を防止するために酸素バリア性、水蒸気バリア性が必要とされる。優れたガスバリア性を有する包装材料としては、アルミニウム箔が挙げられるが、アルミニウム箔はピンホールが発生しやすく、用途が限定される。また、視認性がないために内容物が見えなかったり、電子レンジを使用できなかったりする等の欠点がある。
【0003】
これらの問題を解決するため、ポリエステル等の樹脂フィルム上に、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)やエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)といったガスバリア性を有する層を備えた積層体が用いられてきた。しかしながら、PVDCはガスバリア性と成形加工性に制限がある一方、EVOHは乾燥状態での酸素バリア性には優れているが、水蒸気バリア性が低く、高温の熱水中で容易に溶解するといった課題がある。
【0004】
また、別の方法として、ポリエステル等のフィルム上に、真空蒸着法等によって、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素等の無機酸化物の蒸着膜を設けた蒸着フィルムも提案されている。これらの無機酸化物は透明であるため、視認性を有しており、また、電子レンジを利用した調理にも対応可能であるが、無機酸化物層が直接高温の熱水にさらされることでガスバリア性が著しく低下するという問題がある。
【0005】
そこで、ポリエステル等の樹脂フィルム上に、ケイ素酸化物や酸化アルミニウム等の無機化合物層を設け、さらにその上にポリマーコーティングしてガスバリア層を積層し、無機化合物層を保護することで、ガスバリア性を向上させたバリアフィルムが開示されている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-202822号公報
【文献】特開2015-193193号公報
【文献】特開2008-264998号公報
【文献】特開2007-290292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、基材上に第1層としてガスバリア層を設け、さらに第2層として水溶性高分子とケイ素化合物とを含むガスバリア性被膜層を設けてガスバリア性積層フィルムとしている。また、特許文献2では基材フィルム上に酸化アルミニウム蒸着膜を設け、さらに、シロキサンからなるSi-O-Si結合の網目構造と水溶性高分子微結晶を含む層を積層したガスバリア性フィルムとしている。特許文献3、4では、基材上に無機酸化物蒸着層を設け、さらに金属アルコキシドの加水分解物からなる数量体化合物とポリビニルアルコールやエチレン・ビニルアルコールなどの水溶性高分子とを含むガスバリア性塗布膜を積層したガスバリア性積層フィルムとしている。しかしながら、いずれの特許文献も、高分子成分の構造については考慮しておらず、水溶性高分子成分によって膜の耐水性が不足するため、特に高温熱水処理後のガスバリア性にはいまだ課題があった。
【0008】
本発明では、この課題を鑑み、積層体の好ましい状態を明らかにすることで、特に高温熱水処理後でのガスバリア性が優れた積層体を安定して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機化合物層と保護層とを基材フィルム側からこの順に有する積層体であり、該保護層がビニルアルコール系樹脂を含有し、該ビニルアルコール系樹脂が環状構造中にカルボニル基を有する環式化合物構造を含有することを特徴とする積層体である。さらに、該保護層が直鎖状ポリシロキサンを含む有機無機混合物層であり、該保護層をFT-IR法で測定した際の、Si-O-Si結合を表すピークの強度ν1とSi-OH結合を表すピークの強度ν2、および該保護層の平均厚さT(nm)からなる式(1)の値が0.005以上0.030以下であることを特徴とする積層体である。
(ν1/ν2)/T・・・式(1)
ν1:1,050~1,090cm-1におけるピークの強度
ν2:950~970cm-1におけるピークの強度。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温熱水処理後でも優れた酸素および水蒸気バリア性を有する積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の積層体について、さらに詳しく説明する。
【0012】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機化合物層と保護層とを基材フィルム側からこの順に有する積層体であり、該保護層がビニルアルコール系樹脂を含有し、該ビニルアルコール系樹脂が環状構造中にカルボニル基を有する環式化合物構造を含有し、さらに、該保護層は直鎖状ポリシロキサンを含む有機無機混合物層であり、該保護層をFT-IR法で測定した際の、Si-O-Si結合を表すピークの強度ν1とSi-OH結合を表すピークの強度ν2、および該保護層の平均厚さT(nm)からなる式(1)の値が0.005以上0.030以下であることを特徴とする積層体である。
(ν1/ν2)/T・・・式(1)
ν1:1,050~1,090cm-1におけるピークの強度
ν2:950~970cm-1におけるピークの強度。
【0013】
本発明の積層体は、無機化合物層上に積層する保護層がビニルアルコール系樹脂を含有し、該ビニルアルコール系樹脂が特定の構造として環状構造中にカルボニル基を有する環式化合物構造を含有することで耐水性が向上し、さらに特定のケイ素化合物として直鎖状ポリシロキサンを含み、前述の式(1)の値が0.005以上0.030以下となる結合状態を有することで、親水性の低い緻密な構造の保護層となり、酸素や水蒸気などのガス分子との相互作用を小さくしたり、ガス分子の透過経路を遮断したりすることで、高温熱水処理後でも優れたガスバリア性を発現することができると推定している。
【0014】
[基材フィルム]
本発明にかかる基材フィルムは特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、あるいはポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。中でも、無機化合物層との密着力やハンドリングの観点からポリエステルフィルムが好ましい。基材フィルムは、未延伸であっても、延伸(一軸又は二軸)されていてもよいが、熱寸法安定性の観点から二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0015】
基材フィルムの厚さは、特に制限はないが、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がさらに好ましく、10μm以上30μm以下がより好ましい。
【0016】
基材フィルムの表面には、無機化合物層との密着性を向上させるため、必要に応じて、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、グロー放電処理等を施してもよい。
【0017】
[無機化合物層]
本発明にかかる無機化合物層は、無機化合物を含む。無機化合物としては、例えばアルミニウム、マグネシウム、チタン、錫、インジウム、ケイ素およびそれらの酸化物等が挙げられ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。無機化合物層は、アルミニウム等の金属を含んでもよいが、金属酸化物または金属窒化物を含むことがより好ましい。無機化合物層が金属酸化物または金属窒化物を含む場合、高温熱水処理後のガスバリア性が発現しやすくなり、好ましい。金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム合金、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素が、金属窒化物としては窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素等が挙げられる。これらの無機化合物は単独であっても2種以上の混合物であってもよい。これらの中でも加工コストやガスバリア性能の観点から、酸化アルミニウムが好ましい。
【0018】
無機化合物層の形成方法に特に制限はなく、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法等、公知の方法で形成できるが、生産性の観点から真空蒸着法が好ましい。
【0019】
無機化合物層の厚さは、5nm以上100nm以下である。5nm未満ではガスバリア性が不十分となる場合がある。一方、100nmを超えると無機化合物層が割れる場合がある。
【0020】
[保護層]
保護層は、ビニルアルコール系樹脂を含有し、該ビニルアルコール系樹脂が環状構造中にカルボニル基を有する環式化合物構造を含有する。さらに、無機成分として直鎖状ポリシロキサンを含む有機無機混合物層である。ビニルアルコール系樹脂が、環状構造中にカルボニル基を有する環式化合物構造を含有することで、環状構造による疎水化と、カルボニル基による樹脂周囲の相互作用にて緻密な構造の膜となり、耐水性が向上する。また、無機成分として直鎖状ポリシロキサンを含み、有機無機混合層中でネットワークを形成し固定することで、有機無機混合層を構成する成分の分子鎖の動きを抑制し、温度等の環境変化による酸素や水蒸気の透過経路の拡大を抑えることができるため、親水性の低い緻密な構造の保護層となり、酸素や水蒸気などのガス分子との相互作用を小さくし、ガス分子の透過経路を遮断することで、高温熱水処理後でも優れたガスバリア性を発現すると考えられる。
【0021】
ビニルアルコール系樹脂としては例えば、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらの樹脂は単独で用いても、2種以上の混合物であってもよい。特にこのうちポリビニルアルコール(変性ポリビニルアルコールを含む)は、一般に、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよいが、けん化度が高い方が好ましい。けん化度は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。けん化度が低く、立体障害の大きい酢酸基を多く含むと、層の自由体積が大きくなる場合がある。ポリビニルアルコールの重合度は、1,000以上3,000以下が好ましく、1,000以上2,000以下がより好ましい。重合度が低い場合、ポリマーが固定されにくく、高温熱水処理後のガスバリアが低下する場合がある。
【0022】
本発明において、ビニルアルコール系樹脂は、前述のとおり環状構造中にカルボニル基を有する環式化合物構造を含有するものである。環状構造としては、三員環以上(例えば、三~六員環)であれば特に限定されるわけではなく、また環状構造内に例えば炭素以外の窒素、酸素、硫黄、リンなどのヘテロ元素等を有する複素環のような環式化合物構造であってもよい。また、この環式化合物構造を有する部位は、ビニルアルコール系樹脂における主鎖や側鎖、または架橋鎖のうちいずれに存在していてもよい。これら環状構造中にカルボニル基を有する環式化合物構造として、具体的には例えば環状エステルであるラクトン構造や環状アミドであるラクタム構造が挙げられ、これらは単独であっても、2種以上を含んであってもよく、特に限定されるものではないが、好ましくはラクトン構造である。ラクトン構造であると、高温熱水処理や後述するアルコキシシランの加水分解に使用する酸触媒に対し安定でありガスバリア性が維持しやすい。ラクトン構造を有するものとしては例えば、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0023】
本発明において、環状構造中にカルボニル基を有する環式化合物構造を含有するビニルアルコール系樹脂の製造方法は、特表2010-533760号公報に開示されているような、ビニルアルコール系樹脂の主鎖中のヒドロキシ基とカルボキシル基を反応させてエステル結合を形成する方法や、特開2003-105154号公報に開示されている特定の環式化合物構造基を有するビニルモノマーを共重合する方法、特開平8-151411号公報に開示された、特定のラクトンを直接ビニルアルコール系樹脂に反応させるものなどがあるが、特に限定されるものではない。
【0024】
直鎖状ポリシロキサンとは、下記化学式(1)で示されるものであり、ここで化学式(1)中のnは2以上の整数である。化学式(1)中のRは低級アルキル基として例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基や、分岐アルキル基としてiso-プロピル基、t-ブチル基などが挙げられる。直鎖状ポリシロキサンは、分子鎖に細孔が少なく、分子鎖同士は高い密度で存在できるため酸素や水蒸気が通過できる経路を遮断でき、ガスバリア性が高くなると考えられる。本発明において、直鎖状ポリシロキサンの直鎖構造が長いと保護層中でネットワークを形成し固定しやすくなるため、nは好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。
【0025】
【0026】
直鎖状ポリシロキサンは、Si(OR)4で表されるアルコキシシランから得ることができる。アルコキシシラン中のRは低級アルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基が挙げられる。アルコキシシランとしては具体的には、テトラメトキシシラン(TMOS、テトラメチルオルトシリケート、以下、メチルシリケートと称することがある)、テトラエトキシシラン(TEOS、テトラエチルオルトシリケート、以下、エチルシリケートと称することがある)、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられ、これらは単独であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0027】
アルコキシシランは、直鎖状ポリシロキサンを得るために水、触媒、有機溶媒の存在下で加水分解される。加水分解に使用される水は、Si(OR)4のアルコキシ基に対して0.8当量以上5当量以下であることが好ましい。水の量が0.8当量より少ないと、十分に加水分解が進行せず、直鎖状ポリシロキサンを得ることができなかったりする場合がある。水の量が5当量より多いと、アルコキシシランの反応がランダムに進行して、直鎖状でないポリシロキサンを多量に形成し直鎖状ポリシロキサンを得ることができない場合がある。
【0028】
加水分解に使用する触媒は、酸触媒であることが好ましい。酸触媒の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、酒石酸等が挙げられ、特に限定されるものではない。通常、アルコキシシランの加水分解および重縮合反応は、酸触媒であっても塩基触媒であっても進めることができるが、酸触媒を用いた場合、系中のモノマーは平均的に加水分解されやすく、直鎖状になりやすい。一方、塩基触媒を用いた場合は、同一分子に結合したアルコキシドの加水分解・重縮合反応が進みやすい反応機構であるため、反応がランダムに進行し反応生成物は空隙の多い状態になりやすい。触媒の使用量は、アルコキシシラン総モル量に対して、0.1モル%以上0.5モル%以下であることが好ましい。
【0029】
加水分解に使用する有機溶媒は、水およびアルコキシシランと混合可能なメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール類を用いることができる。
【0030】
加水分解温度は20℃以上45℃以下であることが好ましい。20℃未満で反応させた場合は、反応性が低く、Si(OR)4の加水分解が進みづらい場合がある。一方、45℃を超える温度で反応させた場合は、急激に加水分解、重縮合反応が進行し、ゲル化したり、直鎖状ではないランダムで疎なポリシロキサンになったりする場合がある。
【0031】
なお、直鎖状ポリシロキサンとして、あらかじめSi(OR)4が複数結合した市販のシリケートオリゴマー原料を使用することもできる。なお、本発明において、保護層には、ビニルアルコール系樹脂と直鎖状ポリシロキサンの他に、アルコキシシラン(アルコキシシランの加水分解物を含む)を別途含んでいてもよい。
【0032】
本発明において、保護層は、該保護層をFT-IR法で測定した際の、Si-O-Si結合を表すピークの強度ν1とSi-OH結合を表すピークの強度ν2、および該保護層の平均厚さT(nm)からなる式(1)の値が0.005以上0.030以下である。
(ν1/ν2)/T・・・式(1)
ν1:1,050~1,090cm-1におけるピークの強度
ν2:950~970cm-1におけるピークの強度。
【0033】
ここで、Si-OH結合が脱水縮合反応することで、Si-O-Si結合を形成することから、式(1)中の分子(ν1/ν2)は脱水縮合反応の進行度合いを示す。そこで発明者らは鋭意検討した結果、(ν1/ν2)の値が大きいほど反応が進行し保護層が緻密な構造であることを示す指標とした。一方で、脱水縮合反応では未反応の残存Si-OH結合が存在するが、その未反応の残存Si-OH結合は、水蒸気などのガス分子と水素結合などの相互作用をするためガスバリア性に影響を与える。脱水縮合反応の進行度合いが同じ(すなわち(ν1/ν2)の値が同じ)であっても、平均厚さTが厚い場合には、未反応の残存Si-OH結合の絶対量は多くなるため、ガスバリア性に大きな影響を与える。そこで発明者らは鋭意検討した結果、脱水縮合反応の進行度合いを示す(ν1/ν2)を平均厚さTで除した式(1)とすることで、単位厚さ当たりにおける脱水縮合反応の進行度合いと未反応の残存Si-OH結合の両方を考慮した指標となることから、式(1)は、ガス分子の透過経路を遮断する効果としての保護層の緻密性(すなわち脱水縮合反応の進行度合いを示す(ν1/ν2))と、酸素や水蒸気などのガス分子との相互作用する効果として未反応の残存Si-OH結合量の両方を考慮した、保護層のガスバリア性能を示す指標とした。したがって、式(1)の値が0.005以上0.030以下となる結合状態を形成することで、高温熱水処理後でも優れたガスバリア性を発現する。式(1)の値は好ましくは0.010以上0.025以下、さらに好ましくは0.015以上0.020以下である。
【0034】
保護層の式(1)の値が0.005以上0.030以下となる結合状態を形成する方法として、保護層中の有機成分であるビニルアルコール系樹脂と、直鎖状ポリシロキサンおよび前述したアルコキシシランの加水分解物の含有比率を調整する方法が挙げられる。含有比率は、直鎖状ポリシロキサンおよびアルコキシシランをSiO2換算し、無機成分の合計重量比率で、有機成分/無機成分=15/85~85/15の範囲が好ましく、20/80~65/35の範囲がより好ましく、20/80~35/65の範囲がさらに好ましい。SiO2換算した合計重量比率とは、直鎖状ポリシロキサンおよびアルコキシシランに含まれるケイ素原子の合計モル数からSiO2重量に換算したものであり、有機成分/無機成分(重量比)で表される。この値が85/15を超える場合は、有機成分を固定化することができず、ガスバリア性が低下する場合がある。一方、15/85未満であると、無機成分の比率が高くなり、層が硬くなるため、クラックが生じてガスバリア性が低下する場合がある。なお、保護層中の有機成分と無機成分の含有比率は後述する方法で測定することができる。
【0035】
さらに、無機成分中における直鎖状ポリシロキサンとアルコキシシランの混合比率を調整することも有効であり、直鎖状ポリシロキサンおよびアルコキシシランの、それぞれのSiO2換算した重量比率で、直鎖状ポリシロキサン/アルコキシシラン=15/85~90/10の範囲が好ましく、50/50~85/15の範囲がより好ましく、60/40~85/15の範囲がさらに好ましい。この値が90/10を超える場合は、直鎖状ポリシロキサン同士の相互作用が強くなり有機成分を固定化することができず、ガスバリア性が低下する場合がある。一方、15/85未満であると、アルコキシシラン由来のSi-OH結合が多くなり、式(1)の値を調整しにくく親水性が高くなりガスバリア性が低下する場合がある。無機成分中における直鎖状ポリシロキサンとアルコキシシランの混合比率は後述する方法で測定することができる。
【0036】
また、保護層の式(1)の値が0.005以上0.030以下となる結合状態を形成する別の方法として、保護層に含まれる直鎖ポリシロキサンおよびアルコキシシランの重縮合反応を熱によってを進行させる方法が挙げられる。重縮合反応が進行した場合、直鎖状ポリシロキサンやアルコキシシランに含まれるアルコキシ基および/またはヒドロキシ基が減少し、親水性が低下するため、水分子との相互作用を小さくすることができる。また、重縮合反応によって、直鎖状ポリシロキサンやアルコキシシランの分子量が大きくなるため、有機成分を固定する能力が高くなる。したがって、保護層は熱によって反応を進行させることでガスバリア性を向上できるため、温度は高い方が好ましい。しかしながら、温度が200℃を超える場合は、基材フィルムが熱によって収縮したり、無機化合物層のひずみやクラックが発生したりしてガスバリア性が低下する場合がある。
【0037】
保護層は、有機成分であるビニルアルコール系樹脂と無機成分である直鎖状ポリシロキサンやアルコキシシラン(アルコキシシランの加水分解物を含む)を含む塗液(以下、有機無機混合塗液と略す。)を、無機化合物層上に塗工、乾燥して得ることができる。したがって、前記重縮合反応を進行させるための温度である塗膜の乾燥温度は、100℃以上200℃以下であることが好ましく、120℃以上180℃以下であることがより好ましく、150℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。100℃未満の場合は、後述の溶媒として含まれる水が十分に蒸発せず、層を硬化できない場合がある。
【0038】
有機無機混合塗液は、有機成分を水または水/アルコール混合溶媒に溶解したものと、直鎖状ポリシロキサン、さらにはアルコキシシランを含む溶液とを混合して得ることができる。溶媒で使用されるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等が挙げられる。
【0039】
有機無機混合塗液を、無機化合物層上に塗工する方法としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、マイクログラビア方式、ロッドコート方式、バーコート方式、ダイコート方式、スプレーコート方式等、特に限定はなく既知の方法を用いることができる。
【0040】
本発明にかかる保護層には、ガスバリア性を損なわない限りにおいて、レベリング剤、架橋剤、硬化剤、密着剤、安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含んでもよい。架橋剤の一例としては例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等の金属アルコキシドおよびその錯体等が挙げられる。
【0041】
保護層の平均厚さTは10nm以上1,000nm以下が好ましく、より好ましくは、100nm以上600nm以下、さらに好ましくは350nm以上500nm以下である。平均厚さTが10nm未満の場合、無機化合物層のピンホールやクラックを十分に埋めることができず、十分なガスバリア機能を発現できない場合がある。一方、厚さが1,000nmを超えると、厚さによるクラックが生じたり、式(1)の値を調整しにくく硬化不足によってガスバリア性が低下したりする場合がある。
【0042】
保護層は、前述の通り熱によって縮合反応が進行し、ガスバリア性が高くなる。したがって、ガスバリア性を向上させるために保護層を形成した後、積層体をさらに熱処理することも好ましい。熱処理温度は、30℃以上100℃以下が好ましく、40℃以上80℃以下がより好ましい。熱処理時間は、1日以上14日以下が好ましく、3日以上7日以下がより好ましい。熱処理温度が30℃未満の場合は、反応促進に必要な熱エネルギーが不十分で効果が小さい場合があり、100℃を超える場合は、基材のカールやオリゴマーが発生したり、設備や製造のためのコストが高くなったりする場合がある。
[積層体の分析]
本発明の保護層における式(1)の値の算出方法を記載する。
【0043】
保護層のSi-O-Si結合を表すピークの強度ν1とSi-OH結合を表すピークの強度ν2は、FT-IR法(フーリエ変換赤外分光法)で測定する。Si-O-Si結合を表すピークの強度ν1とSi-OH結合を表すピークの強度ν2は、保護層の成分や構造により若干前後にシフトする可能性はあるが、ν1は1,050~1,090cm-1の波数領域におけるピークの強度、ν2は950~970cm-1の波数領域におけるピークの強度を用いる。なお、別途基材フィルムのみで同様にスペクトルを求めて確認したときにν1またはν2が、基材フィルムに由来するピークに重なる場合、基材フィルムのみで同様にスペクトルを求め、得られた積層体のスペクトルとの差スペクトルを求め、その差スペクトルから前記各波数領域に存在する該当するピークの強度をν1及びν2の値として用いる。
【0044】
保護層の平均厚さTは、その断面を透過型電子顕微鏡(以下TEMと略する)で観察する。なお、断面は、後述するFIB法やダイヤモンドナイフなどを備えたミクロトームで切削する方法が挙げられるが、サンプルの種類や平均厚さTにより適宜選択すればよい。
【0045】
本発明にかかる保護層中における直鎖状ポリシロキサンは、レーザーラマン分光法にて存在を確認することができる。レーザーラマン分光法では、直鎖状ポリシロキサンやアルコキシシラン(アルコキシシランの加水分解物を含む)の結合状態として直鎖状ポリシロキサンと、五員環以上の環構造を含み分岐も存在する構造であるランダムネットワーク構造と、四員環構造のラマンバンドは400~500cm-1に観測される。これらのラマンバンドは重畳するため、四員環構造は495cm-1、直鎖状ポリシロキサンは488cm-1、ランダムネットワーク構造は単一の規則構造ではないため450cm-1以下に広がりをもつバンドとして観測され、これらをガウス関数近似でフィッティングしてピーク分離することができる。
【0046】
上記の解析の結果、ランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と、直鎖状ポリシロキサンを示すラマンバンドの面積A2の比であるA2/A1が直鎖状ポリシロキサン/アルコキシシランの混合比率(SiO2換算の重量比)となる。
【0047】
保護層中の有機成分と無機成分の含有比率を求める方法を記載する。無機成分である直鎖状ポリシロキサンやアルコキシシラン(アルコキシシランの加水分解物を含む)の量は、前述の通りケイ素量に置き換えることが可能であり、ケイ素量は、蛍光X線分析によって得ることができる。まず、ケイ素量が既知でケイ素量の異なる5種類の標準サンプルを用意し、各サンプルの蛍光X線分析を実施する。蛍光X線分析は、X線照射によって元素に固有の蛍光X線を発生させ、それを検出する。発生するX線量は、測定対象に含まれる元素の量に比例するため、測定によって得られるケイ素のX線強度S(単位:cps/μA)とケイ素量は比例関係にある。ここで、標準サンプルの厚さを前述の平均厚さTと同様の方法で算出し、蛍光X線分析で求めたX線強度Sを標準サンプルの厚さで除して単位厚さ当たりのX線強度Sを算出し、既知のケイ素量と単位厚さ当たりのX線強度Sをプロットし検量線を作成する。その後、本発明の積層体において、同様に蛍光X線分析と平均厚さTから単位厚さ当たりのX線強度Sを求めて、検量線とその値からケイ素量を算出する。このケイ素量から、直鎖状ポリシロキサンおよびアルコキシシランに含まれるケイ素原子の合計モル数を求めSiO2重量に換算することで、無機成分の合計重量比率Sを求め、有機成分/無機成分の含有比率を求めることができる。
[用途]
本発明の積層体は、高温熱水処理後でも優れたガスバリア性を活かしてガスバリアフィルム、さらにはそれを用いた封止部材として好適に用いることができる。
【0048】
封止部材は、本発明の積層体の保護層面側に二軸延伸ポリエステルフィルムや二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムなどの表皮材がドライラミネート法や押出ラミネート法で接合され、基材フィルム側に未延伸のポリオレフィン系フィルムがシーラント層として同じくドライラミネート法等で接合された構成を代表的なものとする。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0050】
(1)保護層の成分分析・構造同定
サンプルから保護層を剥離し、溶解可能な溶剤に溶解した。必要に応じ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、液体高速クロマトグラフィー等に代表される一般的なクロマトグラフィー等を適用し、保護層に含まれる成分を、それぞれ単一物質に分離精製した。その後、各単一物質にDMSO-d6を加え、60℃に加温して溶解させ、この溶液を核磁気共鳴分光法として、1H-NMR、13C-NMR測定を行った。次いで各単一物質について、IR法(赤外分光法)、各種質量分析法(ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)、熱分解ガスクロマトグラフィー-質量分析法(熱分解GC-MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)、飛行時間型質量分析法(TOF-MS)、飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-TOF-MS)、ダイナミック二次イオン質量分析法(Dynamic-SIMS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を適宜組み合わせて定性分析を行い、サンプル中に含まれる成分の特定と構造同定を行った。なお、これら定性分析を組み合わせる場合には、より少ない組み合わせで測定できるものを優先して適用した。
【0051】
(2)保護層の(ν1/ν2)/Tの値の測定
保護層のSi-O-Si結合を表すピークの強度ν1とSi-OH結合を表すピークの強度ν2は、FT-IR法(フーリエ変換赤外分光法)で測定した。すなわち、積層体を10mm×10mmにサンプリングし、保護層の表面をATR結晶に圧着し減圧下で以下の測定条件にて測定した。Si-O-Si結合を表すピークの強度ν1は1,050~1,090cm-1の波数領域における最大値、Si-OH結合を表すピーク強度ν2は950~970cm-1の波数領域における最大値を用い、ν1/ν2を算出した。同様に計5サンプルを測定し計5点の平均値を算出しν1/ν2とした。
【0052】
測定条件は下記の通りとした。
・装置:フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR-6100(日本分光(株)製)
・光源:標準光源
・検出器:GTS
・分解能:4cm-1
・積算回数:256回
・測定方法:減衰全反射(ATR)法
・測定波数範囲:4,000~600cm-1
・ATR結晶:Geプリズム
・入射角:45°。
【0053】
次いで、保護層の平均厚さTは、その断面をTEMにより観察した。まず、断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム((株)日立製作所製 FB-2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118~119に記載の方法に基づいて)作製した。次いで、TEM((株)日立製作所製 H-9000UHRII)を用いて、加速電圧300kVで観察を行い、得られた断面を観察画像における層の厚さが占める割合が30~70%となるように観察倍率を調整し観察した。同様に計5サンプルを測定し計5点の平均値を算出し、nmに単位換算した値を平均厚さTとした。
【0054】
得られたν1/ν2の値を平均厚さTで除した値を本発明の(ν1/ν2)/Tとした。
【0055】
(3)保護層中の有機成分/無機成分の含有比率の測定
有機成分としてポリビニルアルコール(以下、PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度98.5%)および無機成分としてテトラエトキシシランの加水分解物からなり、有機成分/無機成分の含有比率(無機成分はSiO2重量換算)が80/20、65/35、50/50、35/65、20/80となるように混合して得た膜を、含有比率が異なる標準サンプルとして用意した。
【0056】
次いで、各標準サンプルを、株式会社島津製作所製蛍光X線分析装置EDX-700を用いて、ケイ素の特定X線Kαの強度を測定、得られたX線強度S(単位:cps/μA)を求めた。前記(2)に記載の方法で、各標準サンプルの厚さを測定し、単位厚さ当たりのX線強度Sを算出し、有機成分/無機成分の含有比率(無機成分はSiO2重量換算)との検量線を作成した。
【0057】
次いで、本発明の積層体について、同様に蛍光X線分析と平均厚さTから単位厚さ当たりのX線強度Sを求め、検量線から有機成分/無機成分の含有比率を求めた。
【0058】
(4)ケイ素の結合状態の分析(直鎖状ポリシロキサン/アルコキシシランの混合比率(SiO2換算の重量比))
積層体の保護層を切削により分離し、以下の条件を用いてラマン分光法で分析した。
・測定装置:Jobin Yvon/愛宕物産製 T-6400
・測定モード:顕微ラマン
・対物レンズ:100倍
・ビーム径:1μm
・光源:Ar+レーザー/514.5nm
・レーザーパワー:200mW
・回折格子:Single 600gr/mm
・スリット:100μm
・検出器:CCD/Jobin Yvon製 1,024×256 。
【0059】
アルコキシシランからなるランダムネットワーク構造を表す面積A1、直鎖状ポリシロキサンを表す面積A2を算出するための、ラマンスペクトルの解析条件は次の通りである。
【0060】
得られたラマンスペクトルを、スペクトル解析ソフトGRAMS/Thermo Scientificを使用して解析した。ラマンスペクトルを直線近似でベースライン補正した後、600~250cm-1の範囲でフィッティングした。フィッティングは、四員環構造(ピーク波数495cm-1、半値幅35cm-1)、直鎖状ポリシロキサン(ピーク波数488cm-1、半値幅35cm-1)、アルコキシシランからなるランダムネットワーク構造の3成分に分離した。アルコキシシランからなるランダムネットワーク構造は連続構造を反映したブロードなピークになるため、四員環構造、直鎖状ポリシロキサンと合わせた3成分にガウス関数近似で分離するとして自動フィッティングした。得られたバンドと、ベースラインで囲まれた領域の面積を算出し、アルコキシシランをからなるランダムネットワーク構造を表す面積をA1、直鎖状ポリシロキサンを表す面積をA2とし、A2/A1(直鎖状ポリシロキサン/アルコキシシランの混合比率(SiO2換算の重量比))を算出した。
【0061】
(5)酸素透過率
酸素透過率は、温度23℃、湿度90%RHの条件で、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(“OX-TRAN”(登録商標)2/21)を使用して測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を酸素透過率の値とした。
【0062】
(6)水蒸気透過率
水蒸気透過率は、温度40℃、湿度90%RHの条件で、モコン(MOCON)社製の水蒸気透過率透過率測定装置(“PERMATRAN”(登録商標)-W 3/31)を使用して測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を水蒸気透過率の値とした。
【0063】
(7)レトルト処理(高温熱水処理)
レトルト処理用サンプルとして、二軸延伸ナイロンフィルム(ユニチカ(株)製“エンブレム”(登録商標) 銘柄:ONUM 厚さ:15μm)の片面に、ポリエステル系ドライラミネート用接着剤(DICグラフィックス(株)製“ディックドライ”(登録商標)LX-500/KO55)を固形分3.0g/m2となるよう塗布し、無延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製“トレファン”(登録商標)NO タイプ:ZK100 厚さ:60μm)と貼りあわせた。次いで、二軸延伸ナイロンフィルムの無延伸ポリプロピレンフィルムを貼りあわせた面とは逆の面に、同様にポリエステル系ドライラミネート用接着剤を塗布し、本発明の積層体の保護層面とを貼りあわせた。その後、温度40℃で72時間のエージング処理をし、レトルト処理用サンプルを得た。
【0064】
次いで、高温加圧釜を用いて、レトルト処理用サンプルを高温熱水浴中にて135℃、30分間のレトルト処理を実施した。
【0065】
[実施例1]
<無機化合物層>
基材フィルムとして、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)P60)を使用し、真空蒸着法で厚さ15nmの酸化アルミニウム層を設け無機化合物層とした。
【0066】
<有機成分溶液>
ビニルアルコール系樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するγ-ブチロラクトン構造を含有する変性ポリビニルアルコール(以下、変性PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度93.0%)を、重量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10重量%の有機成分溶液を得た。
【0067】
なお、保護層の変性ポリビニルアルコールが、γ-ブチロラクトン構造を有することは以下の方法により確認することができた。
【0068】
保護層を剥離し、DMSO-d6により60~80℃で加熱し溶解させ、1H-NMR、13C-NMRにより、DEPT135測定を行った。
【0069】
1H-NMRから、0.8と1.0ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のメチレン基に由来したピークと同定した。また2.3ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のカルボニル基に隣接したメチレン基に由来したピークと同定した。
【0070】
13C-NMRから、74ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のメチレン基に由来したピークと同定した。また174ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のカルボニル基に由来したピークと同定した。また45ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のカルボニル基に隣のメチレン基に由来したピークと同定した。
【0071】
<無機成分溶液>
直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート(株)製エチルシリケート40(平均5量体のエチルシリケートオリゴマー)11.2g、メタノール16.9gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液7.0gを液滴して、5量体エチルシリケート加水分解液を得た。
【0072】
<有機無機混合層>
変性PVAの固形分と、SiO2換算固形分の重量比(変性PVAの固形分重量/SiO2換算固形分重量)が85/15になるように変性PVA溶液と、無機成分溶液を混合・撹拌し、水で希釈して固形分12重量%の塗工液を得た。この塗工液を無機化合物層上に塗工し、130℃で乾燥させて有機無機混合層を形成し、積層体とした。
【0073】
[実施例2]
無機成分溶液を以下に示す手順で調製し使用した以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0074】
<無機成分溶液>
TEOS11.7gとメタノール4.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液18.6gを撹拌しながら液滴することで、TEOS加水分解液を得た。一方で、直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート(株)製エチルシリケート40(平均5量体のエチルシリケートオリゴマー)11.2g、メタノール16.9gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液7.0gを液滴して、5量体エチルシリケート加水分解液を得た。5量体エチルシリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO2換算固形分の重量比が15/85になるように混合し、無機成分溶液とした。
【0075】
[実施例3]
無機成分溶液および有機無機混合層の塗工液を以下とした以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0076】
<無機成分溶液>
5量体エチルシリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO2換算固形分の重量比が90/10になるように混合したこと以外は実施例2と同様にして無機成分溶液とした。
【0077】
<有機無機混合層>
変性PVAの固形分と、SiO2換算固形分の重量比(変性PVAの固形分重量/SiO2換算固形分重量)が15/85になるようにした。
【0078】
[実施例4]
有機無機混合層の塗工液を以下とした以外は実施例3と同様にして積層体を得た。
【0079】
<有機無機混合層>
変性PVAの固形分と、SiO2換算固形分の重量比(変性PVAの固形分重量/SiO2換算固形分重量)が20/80になるようにした。
【0080】
[実施例5]
無機成分溶液および有機無機混合層の塗工液を以下とした以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0081】
<無機成分溶液>
5量体エチルシリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO2換算固形分の重量比が50/50になるように混合したこと以外は実施例2と同様にして無機成分溶液とした。
【0082】
<有機無機混合層>
変性PVAの固形分と、SiO2換算固形分の重量比(変性PVAの固形分重量/SiO2換算固形分重量)が65/35になるようにした。
【0083】
[実施例6]
無機成分溶液および有機無機混合層の塗工液を以下とした以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0084】
<無機成分溶液>
5量体エチルシリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO2換算固形分の重量比が85/15になるように混合したこと以外は実施例2と同様にして無機成分溶液とした。
【0085】
<有機無機混合層>
変性PVAの固形分と、SiO2換算固形分の重量比(変性PVAの固形分重量/SiO2換算固形分重量)が35/65になるようにした。
【0086】
[実施例7]
無機成分溶液および有機無機混合層の塗工液を以下とした以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0087】
<無機成分溶液>
5量体エチルシリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO2換算固形分の重量比が60/40になるように混合したこと以外は実施例2と同様にして無機成分溶液とした。
【0088】
<有機無機混合層>
変性PVAの固形分と、SiO2換算固形分の重量比(変性PVAの固形分重量/SiO2換算固形分重量)が20/80になるようにした。
【0089】
[実施例8]
無機成分溶液を以下とした以外は実施例7と同様にして積層体を得た。
【0090】
<無機成分溶液>
5量体エチルシリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO2換算固形分の重量比が80/20になるように混合したこと以外は実施例2と同様にして無機成分溶液とした。
【0091】
[実施例9]
無機成分溶液を以下とした以外は実施例7と同様にして積層体を得た。
【0092】
<無機成分溶液>
直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート(株)製メチルシリケート51(平均4量体のメチルシリケートオリゴマー)としたこと以外は、実施例8と同様にして無機成分溶液とした。
【0093】
[実施例10]
無機成分溶液を以下とした以外は実施例7と同様にして積層体を得た。
【0094】
<無機成分溶液>
直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート(株)製メチルシリケート53A(平均7量体のメチルシリケートオリゴマー)としたこと以外は、実施例8と同様にして無機成分溶液とした。
【0095】
[実施例11]
無機成分溶液を以下とした以外は実施例7と同様にして積層体を得た。
【0096】
<無機成分溶液>
直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート(株)製エチルシリケート48(平均10量体のエチルシリケートオリゴマー)としたこと以外は、実施例8と同様にして無機成分溶液とした。
【0097】
[実施例12]
有機無機混合層塗工時の乾燥温度を150℃としたこと以外は、実施例11と同様にして積層体を得た。
【0098】
[実施例13]
実施例12の積層体をさらに80℃で1週間、熱処理して積層体を得た。
【0099】
[実施例14]
有機無機混合層塗工時の乾燥温度を180℃としたこと以外は、実施例13と同様にして積層体を得た
[実施例15]
平均厚さTを表1となるように塗工したこと以外は、実施例14と同様にして積層体を得た。
【0100】
[実施例16]
有機成分溶液を以下としたこと以外は、実施例15と同様にして積層体を得た。
【0101】
<有機成分溶液>
ビニルアルコール系樹脂として、環状構造中にカルボニル基を含有するイソシアヌル酸構造を含有する変性ポリビニルアルコール(重合度1,700、けん化度93.0%)を、重量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10重量%の有機成分溶液を得た。
【0102】
[実施例17]
有機成分溶液を以下としたこと以外は、実施例15と同様にして積層体を得た。
【0103】
<有機成分溶液>
ビニルアルコール系樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するγ-ラクタム構造を含有する変性ポリビニルアルコール(重合度1,700、けん化度93.0%)を、重量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10重量%の有機成分溶液を得た。
【0104】
[実施例18]
無機化合物層を以下としたこと以外は実施例15と同様にして積層体を得た。
【0105】
<無機化合物層>
基材フィルムとして、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)P60)を使用し、真空蒸着法で厚さ50nmのアルミニウム層を設け無機化合物層とした。
【0106】
各実施例の積層体の構成、ガスバリア性を表1、表2に示す。
【0107】
[比較例1]
有機無機混合層を設けずに、実施例1と同様の無機化合物層を設けた基材フィルムのみで評価を行ったところ、積層体のガスバリア性及びレトルト処理後のガスバリア性ともに性能が劣るものとなった。
【0108】
[比較例2]
無機化合物層を設けずに、基材フィルムとして、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)P60)の上に、実施例1と同様の方法にて直接有機無機混合層を設けた積層体のみで評価を行ったところ、積層体のガスバリア性が劣っていたため、レトルト処理を実施しなかった。
【0109】
[比較例3]
有機成分溶液を以下としたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。この積層体における保護層の有機成分は、環状構造中にカルボニル基を有するγ-ブチロラクトン構造を含有するが、ビニル系樹脂ではなくアクリル系樹脂からなるものである。積層体のガスバリア性及びレトルト処理後のガスバリア性ともに性能が劣るものとなった。
【0110】
<有機成分溶液>
アクリル系樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するγ-ラクタム構造を有する変性ポリメチルメタクリレートを、重量比で酢酸エチル/シクロヘキサノン=95/5の溶媒に投入し、固形分10重量%の有機成分溶液を得た。
[比較例4]
有機成分溶液を以下としたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。この積層体における保護層の有機成分は、カルボニル基を有するが環状構造ではないアセチル基を含有するビニルアルコール系樹脂からなるものである。積層体のガスバリア性及びレトルト処理後のガスバリア性ともに性能が劣るものとなった。
【0111】
<有機成分溶液>
ビニルアルコール系樹脂として、カルボニル基を有するが環状構造ではないアセチル基を有するけん化度の低いPVA(重合度1,700、けん化度88%)を、重量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10重量%の有機成分溶液を得た。
【0112】
[比較例5]
有機成分溶液を以下としたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。この積層体における保護層の有機成分は、環状構造中にカルボニル基がない環式化合物構造を含有するビニルアルコール系樹脂からなるものである。積層体のガスバリア性及びレトルト処理後のガスバリア性ともに性能が劣るものとなった。
【0113】
<有機成分溶液>
ビニルアルコール系樹脂として、環状構造であるがカルボニル基のないテトラヒドロフルフリル構造を含有する変性ポリビニルアルコール(重合度1,700、けん化度93.0%)を、重量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10重量%の有機成分溶液を得た。
【0114】
[比較例6]
有機成分溶液と有機無機混合層を以下としたこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0115】
<有機成分溶液>
ビニルアルコール系樹脂として、ポリビニルアルコール(重合度1,700、けん化度98.5%)を、重量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10重量%のPVA溶液を得た。
【0116】
<有機無機混合層>
PVAの固形分と、SiO2換算固形分の重量比(PVAの固形分重量/SiO2換算固形分重量)が85/15になるようにPVA溶液と、無機成分溶液を混合・撹拌し、水で希釈して固形分12重量%の塗工液を得た。この塗工液を無機化合物層上に塗工し、常温で乾燥させて有機無機混合層を形成し、積層体とした。
【0117】
この積層体の評価を行ったところ、ビニルアルコール系樹脂が変性されていないポリビニルアルコールであり、またさらに有機無機混合層の(ν1/ν2)/Tの値が下限値未満となり、積層体のガスバリア性及びレトルト処理後のガスバリア性ともに性能が劣るものとなった。
【0118】
[比較例7]
無機成分溶液および有機無機混合層の塗工液を以下とし、有機無機混合層塗工時の乾燥温度を200℃としたこと以外は、比較例6と同様にして積層体を得た。
【0119】
<無機成分溶液>
5量体シリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO2換算固形分の重量比が50/50になるように混合したこと以外は実施例2と同様にして無機成分溶液とした。
【0120】
<有機無機混合層>
PVAの固形分と、SiO2換算固形分の重量比(PVAの固形分重量/SiO2換算固形分重量)が65/35になるようにした。
【0121】
この積層体の評価を行ったところ、ビニルアルコール系樹脂が変性されていないポリビニルアルコールであり、またさらに有機無機混合層の(ν1/ν2)/Tの値が上限値を超えてしまい、積層体にクラックが多数発生しガスバリア性の評価ができなかった。
【0122】
各比較例の積層体の構成、ガスバリア性を表3、表4に示す。
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】