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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】藻類及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20220630BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20220630BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20220630BHJP
   A23K 20/158 20160101ALI20220630BHJP
   C12P 7/6427 20220101ALI20220630BHJP
   C12P 7/6432 20220101ALI20220630BHJP
   C12P 7/6434 20220101ALI20220630BHJP
【FI】
C12N1/12 C ZNA
A23L33/12
A23K10/16
A23K20/158
C12P7/6427
C12P7/6432
C12P7/6434
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018022990
(22)【出願日】2018-02-13
(65)【公開番号】P2019135989
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-19
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22337
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 省吾
(72)【発明者】
【氏名】酒徳 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 大祐
(72)【発明者】
【氏名】山本 縁
(72)【発明者】
【氏名】大島 義徳
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-500514(JP,A)
【文献】特表2012-529912(JP,A)
【文献】Slocombe, Stephen P., et al.,Unlocking nature’s treasure-chest: screening for oleaginous algae,Scientific reports,2015年,Vol.5, No.1,pp.1-17, Dataset S7,https://doi.org/10.1038/srep09844
【文献】Pahl, Stephen L., et al.,Heterotrophic growth and nutritional aspects of the diatom Cyclotella cryptica (Bacillariophyceae): Effect of some environmental factors,Journal of bioscience and bioengineering,2010年,Vol.109, No.3,pp.235-239,https://doi.org/10.1016/j.jbiosc.2009.08.480
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロテラ・エスピー(Cyclotella sp.)3FG株(FERM P-22337)。
【請求項2】
請求項1に記載のサイクロテラ・エスピー3FG株及びその抽出物を含む栄養剤。
【請求項3】
請求項2に記載の栄養剤を含む栄養成分補給用組成物。
【請求項4】
栄養成分がω3不飽和脂肪酸である請求項3に記載の栄養成分補給用組成物。
【請求項5】
前記ω3不飽和脂肪酸がα-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸からなる群から選択される1種類以上である請求項4に記載の栄養成分補給用組成物。
【請求項6】
食品である請求項3~5のいずれか一項に記載の栄養成分補給用組成物。
【請求項7】
機能性食品又は栄養補助食品である請求項6に記載の栄養成分補給用組成物。
【請求項8】
飼料又はペットフードである請求項3~5のいずれか一項に記載の栄養成分補給用組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のサイクロテラ・エスピー3FG株を培養する培養工程を備える栄養成分の製造方法。
【請求項10】
更に、前記培養工程の後に、
前記サイクロテラ・エスピー3FG株を破砕して細胞破砕物を得る破砕工程と、
前記細胞破砕物から栄養成分を分離する分離工程と、
をこの順に備える請求項9に記載の栄養成分の製造方法。
【請求項11】
前記栄養成分がω3不飽和脂肪酸である請求項9又は10に記載の栄養成分の製造方法。
【請求項12】
前記ω3不飽和脂肪酸がα-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸からなる群から選択される1種類以上である請求項11に記載の栄養成分の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類及びその使用に関する。具体的には、本発明は、藻類、栄養剤、栄養成分補給用組成物及び栄養成分の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇及び温室効果ガスの削減の面から、バイオマス燃料の開発に高い関心が集まっており、現在、微細藻類から燃料油を生産する研究がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方で、微細藻類の多くは、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic acid;DHA)、エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid;EPA)等のω3又はω6不飽和脂肪酸等の機能性物質を産生し、これらは様々な機能性を有する。そのため、微細藻類の健康及び機能性食品や医薬品等への利用が注目されている。
また、これまでにも、バイオ燃料用油又は機能性物質を産生する微細藻類種が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-009953号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Traller JC, et al., “Genome and methylome of the oleaginous diatom Cyclotella cryptica reveal genetic flexibility toward a high lipid phenotype.”, Biotechnol Biofuels, Vol. 9, No. 258, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、産業的に実用化されている微細藻類は、数種の藻類種に限定されており、炭化水素、機能性油又は機能性物質を産生する新規微細藻種が求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、産業利用が可能な新規微細藻類、該藻類を用いた新規栄養剤、該栄養剤を含む栄養成分補給用組成物、及び前記微細藻類を用いた栄養成分の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、サイクロテラ・エスピー(Cyclotella sp.)3FG株(FERM P-22337)が炭化水素、及び、α-リノレン酸、DHA、EPA等の機能性油等の多種の有用物質を産生することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る藻類は、サイクロテラ・エスピー(Cyclotella sp.)3FG株(FERM P-22337)である。
【0010】
本発明の第2態様に係る栄養剤は、上記第1態様に係るサイクロテラ・エスピー3FG株及びその抽出物を含む。
【0011】
本発明の第3態様に係る栄養成分補給用組成物は、上記第2態様に係る栄養剤を含む。
上記第3態様に係る栄養成分補給用組成物において、栄養成分がω3不飽和脂肪酸であってもよい。
前記ω3不飽和脂肪酸がα-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸からなる群から選択される1種類以上であってもよい。
上記第3態様に係る栄養成分補給用組成物は、食品であってもよい。
上記第3態様に係る栄養成分補給用組成物は、機能性食品又は栄養補助食品であってもよい。
上記第3態様に係る栄養成分補給用組成物は、飼料又はペットフードであってもよい。
【0012】
本発明の第4態様に係る栄養成分の製造方法は、上記第1態様に係るサイクロテラ・エスピー3FG株を培養する培養工程を備える方法である。
上記第4態様に係る栄養成分の製造方法は、更に、前記培養工程の後に、前記サイクロテラ・エスピー3FG株を破砕して細胞破砕物を得る破砕工程と、前記細胞破砕物から栄養成分を分離する分離工程と、をこの順に備えてもよい。
前記栄養成分がω3不飽和脂肪酸であってもよい。
前記ω3不飽和脂肪酸がα-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸からなる群から選択される1種類以上であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記態様によれば、産業利用が可能な新規微細藻類、該藻類を用いた新規栄養剤、該栄養剤を含む栄養成分補給用組成物、及び前記微細藻類を用いた栄養成分の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】サイクロテラ・エスピー3FG株の顕微鏡写真である。上の画像は、明視野での顕微鏡写真である。下の画像は暗視野での顕微鏡写真である。
図2】18Sリボソームの塩基配列に基づくサイクロテラ属の分子系統樹を示す。既知のサイクロテラ・メネギニアーナG188D(AY496207)株、サイクロテラ・クリプティカ(KY364697)株及びサイクロテラ・クリプティカCCAP1070/2(FR865514)株を点線で囲み、3FG株を実線で囲んだ。
図3】実施例における光強度65μmol/m/s又は150μmol/m/sでの3FG株の増殖速度を示すグラフである。
図4A】実施例におけるF培地又はIMK培地を添加した化石海水又は人工海水での3FG株の増殖速度を示すグラフである。
図4B】実施例におけるF培地又はIMK培地を添加した人工海水又は化石海水でのタヒチ株の増殖速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪藻類≫
本発明の一実施形態に係る藻類は、サイクロテラ・エスピー(Cyclotella sp.)3FG株(FERM P-22337)(以下、「3FG」と称する場合がある。)である。
【0016】
サイクロテラ属は、分類学上、黄色植物門、珪藻綱(Bacillariophyceae)、中心目(Centrales)、コスキノディスクス亜目(Coscinodiscineae)、タラシオシラ科(Thalassiosiraceae)に分類される。また、サイクロテラ属は、タイコケイソウ属とも呼ばれる。タラシオシラ科に属する藻類は、サイクロテラ属の他に、ステファノディスクス属(Stephanodiscus)及びタラシオシラ属(Thalassiosira)が知られている。タラシオシラ科に属する藻類は、自然界では、淡水、海洋等に広く生息している。
【0017】
3FG株は、サイクロテラ属に属し、且つ、炭化水素、及び、α-リノレン酸、DHA、EPA等の機能性油等の多種の有用物質を産生する。従来、サイクロテラ属に属する既知の藻類において、上述のような有用物質を産出することは知られていたが、特にDHA及びEPAを高濃度で産出するものは知られていなかった。なお、サイクロテラ属の中で、炭化水素と共に、α-リノレン酸、DHA、EPA等の機能性油を産出するものと知られていたのは、サイクロテラ・クリプティカ(Cyclotella cryptica)、及び、サイクロテラ・メネギニアーナ(Cyclotella meneghiniana)のみである。そのため、3FG株は、炭化水素と共に、DHA及びEPAを高濃度で産出するという点で、他のサイクロテラ属に属する藻類とは区別される。
【0018】
3FG株は、日本国富山県の富山湾神通川の河口表層水より単離された珪藻である。3FG株は、2017年6月27日付で、受託番号NITE P-22337として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託されている。
【0019】
3FG株は、培養初期では、薄い褐色を呈しているが、コロニーが混在しないと色はほとんど識別できない。一方、培養時間の増加に伴い、コロニーが形成され混在することで、濃い褐色となる。
細胞の形状及び大きさは、直方体状、円柱状又は球状で、大きさの異なるものが混在している。形状の違いは、細胞周期によるものであると推察され、球状のものは、分裂前の母細胞であると考えられる。さらに、培養時間の増加に伴い、細胞殻から細胞が抜け出して球状のものが増加し、さらに複数の細胞が融合して、単一細胞よりも大きな球状の細胞が形成される。
細胞の大きさとして具体的には、直方体状又は円柱状のものでは、平均長径が10~15μm程度、平均短径が3~5μm程度である。また、球状のものは、平均直径が8~11μmであり、融合した球状のものは平均直径が50μm程度である。
【0020】
3FG株は、二分裂で増殖する。3FG株は、古海水を用いることで好適に増殖する。
なお、ここでいう「古海水」とは、昔の海水が地層の隙間などに閉じ込められ、貯留されたものを意味する。古海水は、化石海水とも呼ばれる。この貯留された海水は、貯留している地層や、その深度による圧力や温度を要因として、海水中の含有成分が化学反応を起こすと考えられている。そのため、現在の海水の含有成分と古海水の含有成分は異なる。
【0021】
また、3FG株の培養における至適温度は約25℃、至適pHは8.4付近である。
【0022】
18S リボソームDNAの塩基配列に基づく分子系統解析の結果、3FG株は、サイクロテラ属に分類された。3FG株の18S リボソームDNAの塩基配列を配列番号1に示す。
【0023】
3FG株の近縁種である藻類としては、例えば、18S リボソームDNAの塩基配列が、配列番号1と、90%以上の同一性を有する藻類が挙げられる。該藻類が有する18S リボソームDNAの塩基配列と、配列番号1に記載の塩基配列との同一性は、95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが特に好ましい。
【0024】
なお、塩基配列同士の同一性(相同性)は、2つの塩基配列を、対応する塩基が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除く塩基配列全体に対する一致した塩基の割合として求められる。塩基配列同士の同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。例えば、塩基配列の同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTnにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができる。
【0025】
また、藻類が有する18S リボソームDNAの塩基配列は、公知の方法により得ることができる。例えば、対象とする藻類の細胞から公知の方法によりDNAを抽出し、PCR法等により18S リボソームDNAのDNA断片を増幅する。次に、増幅したDNA断片の塩基配列をDNAシーケンサーで解析することにより、対象とする藻類の18S リボソームDNAの塩基配列を得ることができる。18S リボソームDNAを増幅するためのプライマーとしては、例えば、本明細書の実施例で用いたプライマー等が挙げられる。
【0026】
また、本実施形態の藻類としては、3FG株の変異株も好適な例として挙げられる。
本明細書において、「変異株」とは、自然発生的又は人為的に、元の藻類株のゲノム(核ゲノム、葉緑体ゲノム、ミトコンドリアゲノムを含む。以下、同じ。)に変異が生じた藻類株を意味する。ゲノムに変異を生じさせる人為的手法は、特に限定されず、紫外線照射、放射線照射、亜硝酸等による化学的処理;遺伝子導入、ゲノム編集等の遺伝子工学的手法等を例示することができる。
なお、本明細書において、「3FG株の変異株」とは、3FG株のゲノムに変異が生じた藻類株であって、3FG株が有する栄養成分組成と類似の栄養成分組成を有する藻類株を指す。例えば、3FG株が産生した油成分総量に対するEPAの含有量が10質量%以上50質量%以下であってもよく、20質量%以上40質量%以下であってもよく、25質量%以上35質量%以下であってもよい。また、例えば、3FG株が産生した油成分総量に対するDHAの含有量が0.5質量%以上10質量%以下であってもよく、1質量%以上7質量%以下であってもよく、1.5質量%以上5質量%以下であってもよい。
3FG株の変異株としては、3FG株の全ゲノムに対する変異の割合が、全ゲノム中の10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、2%以下又は1%以下であることが特に好ましい。
【0027】
本実施形態の藻類は、中温環境(15~35℃)、弱塩基性(pH7.8~8.8)条件下において、増殖可能である。そのため、地域や季節に応じて培養条件を変更することも可能であり、屋外大量培養に適している。
さらに、高塩耐性もあり、海水等の高塩条件下(500mM NaCl等)でも増殖可能である。また、光強度としては、1500~5000luxの範囲で増殖することができ、強光下でも増殖可能である。
【0028】
本実施形態の藻類は、燃料油となり得る炭化水素、及び、アミノ酸類、ビタミン類、タンパク質、脂質(特に、α-リノレン酸、DHA、EPA等の機能性油)、食物繊維等の栄養成分を豊富に含有する。
特に後述の実施例に示すように、EPAは、従来のEPA及びDHA産生藻類として知られているイソクリシス・エスピー(Isochrysis sp.)タヒチ株(Tahiti)「増養殖研究所保存株」と比較しても、高濃度に含有することが確認されている。
【0029】
なお、本明細書において、「機能性油」とは、中性脂肪低下作用、認知機能改善効果、血中コレステロール低下作用等の機能を有する食用油を意味する。機能性油として具体的には、例えば、α-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic acid;DHA)、エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid;EPA)等のω3脂肪酸、リノール酸、アラキドン酸等のω6脂肪酸等が挙げられる。
本実施形態の藻類は、後述の実施例に示すように、機能性油として、DHA、EPA等を含有する。
【0030】
本実施形態の藻類は、燃料油となり得る炭化水素を含有する。そのため、本実施形態の藻類を用いて、バイオマス燃料を製造することができる。
さらに、本実施形態の藻類は、DHA、EPA等の機能性油等の多種の栄養成分を含有する。そのため、本実施形態の藻類が、後述する栄養剤としてヒト又はヒト以外の動物に摂取された場合に、上記のような栄養成分が体内に吸収され得る。また、本実施形態の藻類から、適宜、栄養成分を含む抽出物を調製することができる。
【0031】
本実施形態の藻類は、微細藻類培養用の培地を用いて培養することができる。培地としては、特に限定されないが、窒素源、リン源、微量元素(亜鉛、ホウ素、コバルト、銅、マンガン、モリブデン、鉄等)等を含む無機塩培地が例示される。例えば、窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩、亜硝酸塩、尿素、アミン類等が挙げられる。また、リン源としては、リン酸塩等が挙げられる。培地は液体培地であってもよく、寒天培地であってもよい。
上記培地として具体的には、例えば、後述の実施例に示すKWSW培地、DIFCO社製のマリンブロス2216(Marine broth 2216)及びマリンアガー2216(Marine Agar 2216)等が挙げられる。
【0032】
本実施形態の藻類は、上記のとおり、比較的幅広い培養条件で増殖させることができる。pH条件としては、pH7.8~8.8を例示することができ、pH8.0~8.6が好ましい。
温度条件としては、15~35℃を例示することができ、20~30℃が好ましい。
光強度としては、1500~5000luxを例示することができ、2500~3500luxが好ましい。屋外で培養する場合には、太陽光下で培養すればよい。室内で培養する場合には、連続光で培養してもよく、明暗周期(12L:12D等)を設けてもよい。
【0033】
本実施形態の藻類は、上記のように、栄養成分を豊富に含み、屋外大量培養に適しているため、後述する栄養剤として産業利用することができる。また、本実施形態の藻類から栄養成分を抽出することができ、そのままヒト又はヒト以外の動物に摂取された場合でも、栄養成分が体内に吸収され得る。
【0034】
≪栄養剤≫
本発明の一実施形態に係る栄養剤は、上記実施形態のサイクロテラ・エスピー3FG株又はその抽出物を含む。
【0035】
本実施形態の栄養剤が含む藻類は、上記実施形態の藻類である。すなわち、3FG株及びその変異株(以下、「本藻類」という。)である。本実施形態の栄養剤に含まれる本藻類の好ましい例としては、上記で例示したものと同様である。
本藻類は、適切な培地を用いて培養して増殖させ、遠心分離やろ過等の公知の方法により回収し、適宜、洗浄、乾燥等を行って、本実施形態の栄養剤に用いることができる。
【0036】
また、本実施形態の栄養剤は、本藻類に替えて、又は本藻類と共に、本藻類の抽出物を含んでいてもよい。
本明細書において、「本藻類の抽出物」とは、本藻類の細胞に対して、物理的処理又は化学的処理を行って、細胞内の成分を抽出したものをいう。例えば、本藻類の抽出物は、物理的処理又は化学的処理によって、本藻類の細胞を破砕した細胞破砕物であってもよい。また、本藻類の抽出物は、前記細胞破砕物を濃縮したものであってもよく、前記細胞破砕物から固形分を除去したものであってもよく、前記細胞破砕物から一部の成分を分離したものであってもよい。
【0037】
細胞に対する物理的処理又は化学的処理の方法は、特に限定されず、細胞の破砕に一般的に用いられる方法を用いることができる。物理的処理としては、例えば、ガラスビーズ、乳鉢、超音波処理、フレンチプレス、ホモジナイザー等による細胞破砕が挙げられる。化学的処理としては、例えば、中和処理、低張処理、凍結融解処理等が挙げられる。
細胞破砕物を濃縮する場合、濃縮方法は特に限定されず、一般的に用いられる濃縮方法を用いればよい。細胞破砕物の濃縮方法としては、例えば、乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。
また、細胞破砕物から固形分を除去する場合、固形分の除去方法は特に限定されず、固形分の除去等に一般的に用いられる方法を用いることができる。固形分の除去方法としては、例えば、ろ過、遠心分離等が挙げられる。
細胞破砕物から一部の成分を分離する場合、分離方法は特に限定されず、生化学物質の分離及び精製等に一般的に用いられる方法を用いることができる。分離方法としては、例えば、塩析、透析、溶媒抽出、吸着、各種クロマトグラフィー(ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等)等が挙げられる。これらの方法は、単独で用いてもよく、2以上の処理を組み合わせて用いてもよい。ただし、単一の成分に精製されたものは、「本藻類の抽出物」からは除かれる。本藻類の抽出物は、好ましくは、本藻類の細胞成分を2種以上、より好ましくは4種以上、さらに好ましくは6種以上含む。
【0038】
上記のとおり、本藻類は、機能性油等の栄養成分を多く含むため、本藻類の抽出物も同様に、機能性油等の栄養成分を多く含む。そのため、本実施形態の栄養剤として用いることができる。
【0039】
本実施形態の栄養剤は、本藻類又はその抽出物に加えて、適宜、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に限定されないが、薬学的に許容される担体等が挙げられる。
なお、「薬学的に許容される担体」とは、本藻類が含む栄養成分の機能を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。
また、「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。
薬学的に許容される担体としては、特に限定されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、安定剤、希釈剤、油性基剤、増粘剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、キレート剤、溶媒等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本実施形態の栄養剤における本藻類又はその抽出物の含有量は、特に限定されず、例えば、1~100質量%の範囲で適宜選択可能である。本実施形態の栄養剤における本藻類又はその抽出物の含有量としては、50~100質量%が好ましく、60~99質量%がより好ましく、70~99質量%がさらに好ましい。
本藻類又はその抽出物は、適宜他の成分と混合し、定法に従って、乾燥粉末、顆粒剤、錠剤、ゼリー剤、液剤、カプセル剤等の形態とすることができる。
【0041】
本実施形態の栄養剤は、機能性油等の栄養成分を多く含むため、栄養剤としてヒトやヒト以外の動物に使用することができる。本実施形態の栄養剤により供給される栄養成分としては、アミノ酸類、ビタミン類、タンパク質、脂質(特に、機能性油)、食物繊維等が例示される。中でも、本実施形態の栄養剤は、機能性油(DHA、EPA等)を補給するために、好適に用いることができる。
本実施形態の栄養剤は、特に、DHA、EPAを補給するために、好適に用いることができる。
【0042】
また、本実施形態の栄養剤は、後述する栄養成分補給用組成物に配合して用いてもよい。本実施形態の栄養剤を配合することにより、機能性油等の栄養成分を豊富に含む組成物を調製することができる。
【0043】
≪栄養成分補給用組成物≫
本発明の一実施形態に係る栄養成分補給用組成物は、上記実施形態の栄養剤を含む。
【0044】
本明細書において、「栄養成分補給用組成物」とは、ヒト又はヒト以外の動物が栄養成分を体内に取り入れるために用いられる組成物をいう。栄養成分の体内への取り込みは、経口的なものであってもよく、非経口的なものであってもよい。
【0045】
本実施形態の栄養成分補給用組成物が含む栄養成分としては、アミノ酸類、ビタミン類、タンパク質、脂質(特に、DHA、EPA等のω3不飽和脂肪酸)及び食物繊維等が挙げられる。これらの成分は、上述の栄養剤が多く含む栄養成分である。これらの中でも、本実施形態の栄養成分補給用組成物は、ω3不飽和脂肪酸を多く含む点に特徴がある。
特に、ω3不飽和脂肪酸の中では、DHA及びEPAを多く含む点に特徴がある。
例えば、DHAは、認知機能改善効果を有することが知られている。また、EPAは、中性脂肪低下作用を有することが知られている。
したがって、本実施形態の栄養成分補給用組成物を摂取することにより、上記のような栄養成分が有する体調改善効果等を得ることができる。
【0046】
本実施形態の栄養成分補給用組成物は、ヒト又はヒト以外の動物が栄養成分を体内に取り入れるために用いられるものであれば、特に限定されない。本実施形態の栄養成分補給用組成物としては、例えば、食品、飼料、ペットフード、化粧品等が挙げられる。
【0047】
<食品>
本実施形態の栄養成分補給用組成物は、食品であってもよい。
本実施形態の栄養成分補給用組成物が食品である場合、上述の栄養剤は、食品添加剤として、食品に添加されてもよい。上述の栄養剤を食品に添加することにより、上述の栄養剤が含む栄養成分が強化された食品を調製することができる。そのため、本発明の一実施形態に係る食品添加剤は、本藻類又はその抽出物を含む。
本実施形態の食品は、上述の栄養剤を食品原料に添加し、適宜他の食品添加物を添加して、食品の種類に応じた既知の方法に従って、製造することができる。
【0048】
本実施形態の食品において、食品の種類は特に限定されない。食品としては、例えば、そば、うどん、はるさめ、中華麺、即席麺、カップ麺等の各種の麺類;パン、小麦粉、米粉、ホットケーキ、マッシュポテト等の炭水化物類;青汁、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、野菜飲料、乳酸飲料、乳飲料、スポーツ飲料、茶、コーヒー等の飲料;豆腐、おから、納豆などの豆製品;カレールー、シチュールー、インスタントスープ等の各種スープ類;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓類;飴、クッキー、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、その他の焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、はんぺん、ハム、ソーセージなどの水産又は畜産加工食品;加工乳、発酵乳、バター、チーズ、ヨーグルト等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、ドレッシング、味噌、醤油、たれ等の調味料;各種レトルト食品、ふりかけ、漬物等のその他加工食品等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0049】
上記のような食品において、上述の栄養剤の含有量は特に限定されず、食品の種類に応じて適宜含有量を設定すればよい。例えば、食品の風味等を考慮し、食品における上述の栄養剤の含有量は、本藻類又はその抽出物の含有量として、0.01~30質量%を例示することができる。食品の風味等の観点からは、0.05~20質量%が好ましく、0.1~15質量%がより好ましく、0.1~10質量%がさらに好ましく、0.1~5質量%が特に好ましい。
【0050】
あるいは、本実施形態の栄養成分補給用組成物は、機能性食品又は栄養補助食品であってもよい。機能性食品又は栄養補助食品は、上述のような一般的な食品の形態であってもよく、乾燥粉末、顆粒剤、錠剤、ゼリー剤、ドリンク剤等の形態であってもよい。この場合、上述の栄養剤と、適宜他の成分とを混合して、定法に従って、乾燥粉末、顆粒剤、錠剤、ゼリー剤、ドリンク剤等の形態とすることができる。
他の成分としては、特に限定されず、例えば、薬学的に許容される担体等が例示される。薬学的に許容される担体としては、上記の「≪栄養剤≫」で挙げたものと同様のものが挙げられる。また、風味等を改善するために、甘味剤、矯味剤、各種調味料、香料、油脂類、その他の食品添加物等を他の成分として用いてもよい。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
上記のような機能性食品又は栄養補助食品において、上述の栄養剤の含有量は特に限定されず、機能性食品又は栄養補助食品の種類に応じて適宜含有量を設定すればよい。例えば、機能性食品又は栄養補助食品が乾燥粉末、顆粒剤、錠剤等の形態である場合、当該機能性食品又は栄養補助食品における上述の栄養剤の含有量は、本藻類又はその抽出物の含有量として、0.1~99質量%が例示される。風味及び栄養成分の効率的補給の観点からは、1~90質量%が好ましく、10~85質量%がより好ましく、20~85質量%がさらに好ましく、25~85質量%が特に好ましい。また、機能性食品又は栄養補助食品がゼリー剤、ドリンク剤等の形態である場合、該機能性食品又は栄養補助食品における上述の栄養剤の含有量は、本藻類又はその抽出物の含有量として、0.05~80質量%が例示される。風味及び栄養成分の効率的補給の観点からは、1~75質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、15~70質量%がさらに好ましく、20~70質量%が特に好ましい。
【0052】
本実施形態の食品は、本藻類が含有する上述のような栄養成分を効率的に補給するために、摂取することができる。
【0053】
<飼料、ペットフード>
本実施形態の栄養成分補給用組成物は、飼料又はペットフードであってもよい。
本実施形態の栄養成分補給用組成物が飼料又はペットフードである場合、上述の栄養剤は、飼料添加剤又はペットフード添加剤として、飼料又はペットフードに添加されてもよい。上述の栄養剤を飼料又はペットフードに添加することにより、上述の栄養剤が含む栄養成分が強化された飼料又はペットフードを調製することができる。そのため、本発明の一実施形態に係る飼料添加剤又はペットフード添加剤は、本藻類又はその抽出物を含む。
【0054】
本実施形態の飼料又はペットフードは、上述の栄養剤を飼料原料又はペットフード原料に添加し、適宜他の飼料添加物又はペットフード添加物を添加して、飼料原料又はペットフードの種類に応じた既知の方法に従って、製造することができる。
【0055】
本実施形態の飼料又はペットフードが与えられる動物の種類は特に限定されない。例えば、家畜類(牛、豚、鶏、馬、ヒツジ、ヤギ等)、魚類、貝類、愛玩動物(イヌ、ネコ、ハムスター、ウサギ、インコ、熱帯魚、爬虫類、両生類、昆虫等)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
本実施形態の飼料又はペットフードにおいて、上述の栄養剤の含有量は特に限定されず、飼料又はペットフードの種類に応じて適宜含有量を設定すればよい。例えば、飼料又はペットフードにおける上述の栄養剤の含有量は、本藻類又はその抽出物の含有量として、0.01~90質量%が例示され、0.1~80質量%が好ましく、1~70質量%がさらに好ましく、1~60質量%が特に好ましい。
【0057】
本実施形態の飼料又はペットフードは、本藻類が含有する上述のような栄養成分を、当該動物に効率的に補給させるために用いることができる。
【0058】
≪栄養成分の製造方法≫
本発明の一実施形態に係る栄養成分の製造方法は、上記実施形態のサイクロテラ・エスピー3FG株を培養する培養工程を備える方法である。
以下、本実施形態の製造方法の工程について説明する。
【0059】
<培養工程>
培養工程は、本藻類を培養する工程である。
【0060】
本工程で用いる本藻類の好適な例としては、上述の≪藻類≫で記載したものと同様のものが挙げられる。
また、培養工程は、上述の≪藻類≫に記載の方法で行うことができる。
【0061】
本実施形態の製造方法は、更に、前記培養工程の後に、前記サイクロテラ・エスピー3FG株を破砕して細胞破砕物を得る破砕工程と、前記細胞破砕物から栄養成分を分離する分離工程と、をこの順に備えてもよい。
【0062】
<破砕工程>
破砕工程は、本藻類の細胞を破砕して細胞破砕物を得る工程である。
【0063】
本藻類の細胞の破砕方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。細胞の破砕方法としては、例えば、ガラスビーズ、乳鉢、超音波処理、フレンチプレス、ホモジナイザー等の物理的処理;中和処理、低張処理、凍結融解処理等の化学的処理等が挙げられる。これらの処理は、単独で行ってもよく、2種以上の処理を組み合わせて行ってもよい。
【0064】
中和処理の方法としては、pH7~10程度の中和液に、本藻類の細胞を浸漬する方法が挙げられる。本藻類は、酸性域のpHに適応しているため、中性~塩基性の中和液に浸漬することにより、細胞が破壊される。中和液の組成は、特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液などの緩衝液等を用いることができる。中和液への細胞の浸漬時間は、細胞が破壊される程度の時間とすればよく、例えば、10~30分程度が例示される。
【0065】
低張処理の方法としては、水などの低張液に、本藻類の細胞を浸漬する方法が挙げられる。本藻類は、皮殻を有するが、穴が多く脆いと考えられ、低張液に浸漬することにより、細胞が破裂する。低張液の組成は、特に限定されず、本藻類の細胞が破裂する程度の低張な液体であればよい。低張液としては、例えば、水、低濃度の緩衝液等を挙げることができる。低張液への細胞の浸漬時間は、細胞が破裂する程度の時間とすればよく、例えば、1~30分程度が例示される。
【0066】
凍結融解処理の方法としては、本藻類の細胞に対して、凍結と融解のサイクルを1回以上行う方法が挙げられる。凍結と融解のサイクル回数は、特に限定されず、本藻類の細胞が破砕される程度の回数であればよい。凍結と融解のサイクル回数は、例えば、1~5回程度が例示される。凍結及び融解の各時間は、特に限定されず、例えば、各々10~30分程度が例示される。
【0067】
上記のような方法で、本藻類の細胞を破砕することにより、本藻類の細胞破砕物を得ることができる。
【0068】
<分離工程>
分離工程は、本藻類の細胞破砕物から栄養成分を分離する工程である。
【0069】
本工程において、分離対象となる栄養成分は、本藻類が有する栄養成分であれば特に限定されない。上述の≪栄養剤≫において記載したように、本藻類は、アミノ酸類、ビタミン類、タンパク質、脂質(特に、ω3不飽和脂肪酸)、食物繊維等の栄養成分を多く含む。そのため、本工程において分離対象となる栄養成分としては、ω3不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0070】
前記栄養成分の中でも、ω3不飽和脂肪酸としては、α-リノレン酸、DHA及びEPAからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。好ましくは、ω3不飽和脂肪酸としては、DHA及びEPAが挙げられる。
【0071】
本工程において分離される栄養成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。また、ω3不飽和脂肪酸(α-リノレン酸、DHA、EPA等)等の種類ごとに分離してもよい。
【0072】
細胞破砕物からの栄養成分の分離方法は、特に限定されず、栄養成分の種類に応じて適切な方法を選択すればよい。栄養成分の分離方法には、生化学物質の分離・精製等に一般的に用いられる方法を適宜組み合わせて用いることができる。分離方法としては、例えば、遠心分離、洗浄、塩析、透析、再結晶、再沈殿、溶媒抽出、吸着、濃縮、ろ過、ゲルろ過、限外ろ過、各種クロマトグラフィー(ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
<任意工程>
本実施形態の製造方法は、培養工程、破砕工程及び分離工程に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、本藻類を培養液から回収する工程(回収工程)、本藻類の細胞を洗浄する工程(洗浄工程)等が挙げられる。これらの工程は、上述の培養工程の後であって、破砕工程の前に行うことができる。
【0074】
回収工程は、ろ過や遠心分離等の公知の方法により行うことができる。また、洗浄工程は、pH0.1~5.0の洗浄液(緩衝液等)に細胞を懸濁し、次いでろ過や遠心分離等の方法で洗浄液から細胞を回収することにより行うことができる。
【0075】
本実施形態の製造方法により、製造された栄養成分は、栄養剤、食品、飼料、ペットフード、医薬品、試薬類等の各種用途に用いることができる。
【実施例
【0076】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
1.新規微細藻類の単離
日本国富山県の富山湾神通川において河口表層水を採水した。次に、河口表層水を0.45μmのポリカーボネートメンブレンフィルターで減圧濾過し、フィルター上に微細藻類を含む微生物を捕獲した。次に、そのフィルターごと、KWSW培地、SGI培地(Sager & Granick Medium I)、IMK培地及びドナリエラ用培地が入った培養液に入れ、白色蛍光灯下でエアレーションしながら培養した。なお、KWSW培地の組成を以下の表1に、SGI培地の組成を以下の表2に、IMK培地の組成を以下の表3及び表4に、ドナリエラ用培地の組成を以下の表5及び表6に示す。
【0078】
その結果、微細藻類が増殖し、緑色又は褐色に濁った培養液の一部を、上記各培地で作製した1.5%(w/v)寒天培地上に塗布し、白色蛍光灯下で培養した。寒天培地上に塗布された微細藻類が増殖し、形成された個々のコロニーを単離することで微細藻類の選別及び単離(単一種化)を行った。これにより、3FG株が単離された。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
次に、3FG株の顕微鏡(オリンパス社製、BX51N-33-PH)の観察を
(倍率:40倍)を行った。3FG株の顕微鏡写真を図1に示す。上の画像は、明視野での顕微鏡写真である。下の画像は暗視野での顕微鏡写真である。
図1から、3FG株の細胞の形態は直方体状、円柱状又は球状で、大きさの異なるものが混在していることが確認された。
【0086】
2.18S リボゾマルDNA配列に基づく系統解析
3FG株の細胞から抽出したDNAを鋳型として、18S リボゾマルDNAのほぼ全長を以下の表7に示すSR-1及びSR-12のプライマーを用いてPCRで増幅した。3FG株の18S リボゾマルDNAの塩基配列を配列番号1に示す。
さらに、得られたPCR産物を鋳型として、以下の表7に示すプライマーをペアで用いて(SR-1及びSR-5、SR-4及びSR-9、並びに、SR-6及びSR-12)、nested PCRを行った。
【0087】
【表7】
【0088】
3FG株の18S リボゾマルDNAの塩基配列に基づき、最尤法による分子系統解析を行った。具体的には、データベースから得た近縁種の配列のアライメントをMEGA5.05 software(http://www.megasoftware.net/)を用いて行い、近隣接合法により分子系統樹を作成した。18S リボゾマルDNAの塩基配列に基づく分子系統樹を図2に示す。
図2から、3FG株の18S リボゾマルDNAは、下記表8に示す既知の藻類種と近縁種であることが判明した。
【0089】
【表8】
【0090】
上記分子系統解析の結果より、3FG株は、サイクロテラ属に属すると判定された。
【0091】
3.3FG株の成分分析
(1)3FG株の培養
・温度の検討
3FG株を、KWSW培地を用いて、通気培養した。培養温度は25℃又は30℃とし、光強度を60μmol/m/sとして、エアレーションしながら、9日間通気培養した。
【0092】
その結果、25℃及び30℃において、増殖速度に大きな差は見られなかった。但し、25℃では、3FG株の濃度が高濃度である期間が長く続くため、これ以降の試験では、培養温度を25℃で行うこととした。
【0093】
・培地の検討
3FG株を、1L容のガラス瓶を用いて、人工海水又は化石海水を用いて作製した、F培地又はIMK培地を用いて培養した。培養温度は25℃とし、光強度を90μmol/m/sとした。照射サイクルは、18時間連続的に光を照射し、6時間暗所におく条件を1サイクルとして繰り返した。また、24時間曝気しながら、9日間培養した。また、F培地の組成を以下の表9に示す。なお、F培地は、Guillard F培地(Guillard and Ryther、1962)を参考に作成した培地(Guillard Fの変更培地)である。人工海水は、ナプコ・リミテッド社製のインスタントオーシャン(製品名)33gを1Lの水に希釈したものを使用した。また、化石海水の組成を表10に示す。なお、化石海水は、0.45μmフィルターに通し、簡易滅菌したものを使用した。また、対照として、DHAを生産する藻類で、かつ、比較的増殖速度が速いことが知られているイソクリシス・エスピー(タヒチ株)「増養殖研究所保存株」(以下、「タヒチ株」と称する場合がある)を用いて、同様条件下で培養した。
【0094】
【表9】
【0095】
【表10】
【0096】
次いで、680nmにおける吸光度(OD680)を経時的に測定し、増殖速度を観察した。図4Aは、3FGの増殖速度を示すグラフである。また、図4Bは、タヒチ株の増殖速度を示すグラフである。また、培養終了後に藻体を凍結乾燥させて、乾燥重量を測定した。培養の結果、3FG株は人工海水では培養できず、化石海水では良好に培養できることが明らかとなった。一方、タヒチ株は化石海水では培養できず、人工海水では良好に培養できることが明らかとなった。
【0097】
図4A及び図4Bから、培養9日目までの培養速度について、3FG株とタヒチ株とでは大きな差はなく、同等であった。また、化石海水を用いて作製したF培地で培養した3FGの乾燥重量は0.21g/Lであり、化石海水を用いて作製したIMK培地で培養した3FGの乾燥重量は0.26g/Lであった。一方、人工海水を用いて作製したF培地で培養したタヒチ株の乾燥重量は0.26g/Lであり、人工海水を用いて作製したIMK培地で培養したタヒチ株の乾燥重量は0.28g/Lであった。タヒチ株の乾燥重量の方が、3FG株よりもやや大きかったが、ほぼ同等であった。
【0098】
また、図示していないが、深層海水を用いて作製したF培地を用いて、3FG株及びタヒチ株の培養を同様に行ったところ、3FG株は培養できず、タヒチ株は良好に培養できた。さらに、深層海水を用いて作製したF培地(微量金属溶液不含)を用いて、タヒチ株の培養を行ったところ、培養できなかった。
【0099】
以上のことから、3FG株は化石海水を用いることで、良好に培養できることが明らかとなった。また、タヒチ株の培養には、微量金属が必要であることが確かめられた。
【0100】
・光強度(光量子束密度)の検討
3FG株を、1L容のガラス瓶で、F培地を用いて、2種類の光条件(65μmol/m/s又は150μmol/m/s)で培養した。照射サイクルは、18時間連続的に光を照射し、6時間暗所におく条件を1サイクルとして繰り返した。培養温度は25℃、24時間曝気しながら、9日間培養した。680nmにおける吸光度(OD680)を経時的に測定し、生育速度を推定した。結果を図3に示す。また、OD680が頭打ちになった時点で培養を終了した。培養終了後に藻体を凍結乾燥させて、乾燥重量を測定した。
【0101】
図3から、65μmol/m/s及び150μmol/m/sにおいて、増殖速度に大きな差は見られず、いずれにおいても良好に生育した。また、65μmol/m/sで培養した藻体の乾燥重量は0.41g/Lであり、150μmol/m/sで培養した藻体の乾燥重量は0.42g/Lであり、乾燥重量についても大きな差は見られなかった。
【0102】
また、培養開始から6日で濁度が収まっていることから、ここまでに上記乾燥重量の藻類が増殖したと仮定した場合、3FGの増殖速度は、約70mg/L/day(≒0.4g/L/6day)であると推定された。タヒチ株「増養殖研究所保存株」を用いて、化石海水を人工海水に変えて、ほぼ同様の試験を行った場合、75mg/L/dayである。そのため、3FG株は、タヒチ株とほぼ同程度の増殖速度であることが確かめられた。
【0103】
・脂肪酸の分離及び分析
次いで、凍結乾燥させた各藻類1~10mgを秤量し、キャップ付きの耐圧試験管に入れた。そこへ、2%硫酸メタノール溶液を0.5mL入れ、80℃で3時間反応後冷却した。次いで、飽和炭酸ナトリウム1/4溶液0.3mLとヘキサン0.3mLとを入れ、ボルテックス後、遠心分離を行った。次いで、上澄みのヘキサン層とその中に含まれる脂肪酸メチルエステルとを回収し、ガスクロマトグラフィーで測定した。
【0104】
次に、試料中の脂肪酸の含有量をキャピラリーガスクロマトグラフィー(GC-2010、島津製作所製)にて測定した。キャピラリーガスクロマトグラフィーの分析条件を以下に示す。
【0105】
(キャピラリーガスクロマトグラフィーの分析条件)
カラム:FAMEWAX(GLサイエンス社製、30m、内径0.25μm)
ガス:ヘリウムガス(He、75.8kPa)
検出器:FID
【0106】
得られた各藻類の脂肪酸の測定結果を以下の表11に示す。
【0107】
【表11】
【0108】
表11から、DHA含有量は、藻体あたり1.1%、EPA含有量は5.2~5.6%、合計油脂量は22~24%程度であった。タヒチ株を用いて、化石海水を人工海水に変えて、ほぼ同様の試験を行った場合、DHA含有量が2~2.5%、EPAが0.1%未満、合計油脂量が10~13%と、3FG株よりも少ない。よって、EPA及びDHAを併せた含有量としては、タヒチ株よりも3FG株に優位性が認められた。
【0109】
以上のことから、3FG株は化石海水を用いることで、良好に培養できること明らかとなった。また、タヒチ株の培養には、微量金属が必要であることが確かめられた。
【0110】
以上のことから、3FG株から、十分な量のEPA及びDHAが得られることが確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本実施形態によれば、産業利用が可能な新規微細藻類、該藻類を用いた新規栄養剤、該栄養剤を含む栄養成分補給用組成物、及び前記微細藻類を用いた栄養成分の製造方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
【配列表】
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