(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】血管内皮細胞の一酸化窒素産生を亢進する物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/31 20060101AFI20220630BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220630BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220630BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20220630BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A61K36/31
A61P43/00 107
A61P9/00
A61P9/14
A61P9/12
(21)【出願番号】P 2021172441
(22)【出願日】2021-10-21
(62)【分割の表示】P 2017112908の分割
【原出願日】2017-06-07
【審査請求日】2021-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514296906
【氏名又は名称】株式会社大橋製茶
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加治屋 勝子
(72)【発明者】
【氏名】數村 公子
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-112024(JP,A)
【文献】特開昭61-239855(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103610152(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103610058(CN,A)
【文献】国際公開第2010/035253(WO,A1)
【文献】日本内科学会雑誌 (1995) vol.84, no.1, p.30-35
【文献】日本農芸化学会大会講演要旨集 (2016) 3E081
【文献】日本農芸化学会2015年度中四国・西日本支部合同大会講演要旨集 (2015) p.41(B-1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/31
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
桜島大根を有効成分として含有する、血管内皮細胞の一酸化窒素産生亢進剤。
【請求項2】
桜島大根を有効成分として含有する、
血管の収縮抑制、血管の弛緩亢進、又は、高血圧の改善剤。
【請求項3】
前記桜島大根が、桜島大根の葉、実
及び皮
からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞の一酸化窒素(NO)産生を亢進する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の死因別死亡率のうち、循環器疾患である心疾患と脳血管疾患が占める割合は癌に匹敵している。循環器疾患は、死亡のみならず、治療、後遺症のために、個人的にも社会的にも大きな損失が生じるため、これらを予防することが求められている。
【0003】
動脈硬化をはじめとした血管関連疾患は、血管の最も内側に位置している血管内皮の機能が低下してしまうことで起こる。血管は、外側から、外膜、中膜、内膜の三層で構成されている。血管の最も内側に位置する内膜には血管内皮細胞が存在しており、血管内皮細胞は一酸化窒素(NO)を放出している。NOは、血管の収縮及び弛緩の調節、白血球などの血管内皮への付着による血栓形成の防御などに大きく関わっており、血管に直接働きかけることで血管を保護している。しかし、喫煙、飲酒、高血圧及び糖尿病等により血管が酸化ストレスを受けると、血管内皮細胞が傷害を受け、NOの産生が抑制されてしまい、結果として動脈硬化を始めとした心疾患、脳血管疾患が引き起こされる。血管関連疾患を予防するには、血管内皮機能を改善して、血管の弛緩作用を維持させる必要がある。
【0004】
血管内皮細胞のNO産生能を測る方法として、グリース反応法(Griess法)、電極法、電子スピン共鳴法、オゾン化学発光法等のNOを直接又は間接的に測定する方法(例えば、非特許文献1)、NOを合成する酵素である一酸化窒素合成酵素(NOS)を専用蛍光試薬で測定する方法、ウエスタンブロットで測定する方法等が知られている。
【0005】
また、血管拡張物質として、アセチルコリン、カルバコール、ピロカルピンなどが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】岩医大歯誌,2012年,37巻,pp.38-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Griess法は、NOの代謝物であるNO2
-がGriess試薬と反応して生成するアゾ化合物の吸光度を測定する方法であり、NOの生成量を推測するもっとも簡便な方法として知られている。Griess法は、NOの半減期が短く(3~6秒程度)不安定なため、NOの酸化物である亜硝酸イオンNO2
-及び硝酸イオンNO3
-の存在量からNOの存在量を算出する方法である。Griess法では、例えば、NO2
-は2,3-ジアミノナフタレンと反応して、蛍光付加体であるナフタレントリアゾールを形成するので、この蛍光付加体の生成量を蛍光で測定する。最近では生体試料中で代謝されたNO2
-のほとんどはさらに酸化されてNO3
-となることが明らかになったため、還元酵素を共存させて、NO3
-をNO2
-に還元して、「NO2
-とNO3
-」の合計量に基づいてNOの存在量を推測する方法が一般的になっている。
【0008】
また、NOSを専用蛍光試薬で測定する方法、ウエスタンブロットで測定する方法も広く使われている。
【0009】
しかし、これらは間接的にNOの産生を測定したものであり、実際のNOの産生量を反映しているのか否か、NO3
-を全て還元剤でNO2
-に還元できているのか否か、また細胞のある一瞬の時間を切り取って得られた結果に過ぎず細胞の状態を反映できているのか否か等の問題がある。また、ウエスタンブロットは、専門的な技術が必要とされ手技による結果のばらつきがあり、また高価な抗体を必要とする。加えてGriess法は、多種類の試薬を添加する作業が多く、また、定量のための検量線の作成に多くの時間がかかる。蛍光によるNOS測定でも、細胞と蛍光色素のインキュベート後にウェルの培地を全部除去し、再度測定バッファを入れる等、かなり煩雑で手間がかかる問題もある。
【0010】
直接的にNOを検出する方法として、電極法、ESR法があるが、高価な装置と高度な技術が必要とされる。
【0011】
そこで、本発明は、血管内皮細胞の一酸化窒素(NO)産生を亢進する物質を、迅速かつ簡便に選抜できるスクリーニング方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、血管内皮細胞の一酸化窒素(NO)産生を亢進する物質のスクリーニング方法であって、インビトロで、血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液に一酸化窒素指示薬及び活性酸素指示薬を添加するステップと、上記培養細胞に被験物質を接触させるステップと、上記一酸化窒素指示薬及び活性酸素指示薬を指標として、一酸化窒素量及び活性酸素量を測定するステップと、を含み、一酸化窒素量の測定値が一酸化窒素の基準値を超え、かつ活性酸素量の測定値が活性酸素の基準値以下である場合、上記被験物質が血管内皮細胞の一酸化窒素産生を亢進する物質であると評価される、スクリーニング方法に関する。
【0013】
本発明のスクリーニング方法は、一酸化窒素指示薬及び活性酸素指示薬を指標とした測定に基づくものであるため、検出にあたり高価な装置、高度な技術、及び煩雑な操作は要求されず、迅速かつ簡便に血管内皮細胞のNO産生を亢進する物質を選抜することができる。
【0014】
また、血管内皮細胞は、スーパーオキシド(O2
-)を産生することがある。スーパーオキシドは、一酸化窒素との反応性が高く、一酸化窒素の消去に関与する(つまり、一酸化窒素の産生亢進効果を打ち消す)ほか、消去反応により生成するペルオキシナイトライト(ONOO-)は、スーパーオキシドよりも更に強い細胞傷害作用を有する。したがって、スーパーオキシド量を増加させない被験物質の方が好ましい。本発明のスクリーニング方法は、NOと共にスーパーオキシドを同時にモニタすることで、被験物質のNO産生亢進効果をより明確化でき、NOの産生のみを亢進する物質の選別が可能となる。
【0015】
本発明のスクリーニング方法において、一酸化窒素の基準値が、上記培養細胞を被験物質に接触させずに測定した一酸化窒素量の測定値であり、かつ活性酸素の基準値が、上記培養細胞を被験物質に接触させずに測定した活性酸素量の測定値であってもよい。これにより、NO及びスーパーオキシド量の増減をより正確に評価することができる。
【0016】
本発明のスクリーニング方法において、上記活性酸素はスーパーオキシド(O2
-)であってよい。
【0017】
本発明のスクリーニング方法において、上記一酸化窒素量の測定が蛍光の検出に基づくものであり、かつ上記活性酸素量の測定が化学発光の検出に基づくものであってもよい。これにより、蛍光及び化学発光の測定装置による検出が可能となり、より一層迅速かつ簡便に血管内皮細胞によるNO産生を亢進する物質を選抜することができる。
【0018】
本発明のスクリーニング方法において、上記一酸化窒素指示薬が蛍光指示薬であり、かつ上記活性酸素指示薬が化学発光指示薬であってもよい。
【0019】
本発明のスクリーニング方法は、上記培養細胞に上記被験物質を接触させる前に、上記培養細胞を含む反応液にカルシウムイオン(Ca2+)指示薬を添加するステップと、上記培養細胞に上記被験物質を接触させた後に、上記カルシウムイオン指示薬を指標として、カルシウムイオン量を測定するステップと、カルシウムイオン量の測定値に基づき、上記被験物質が血管内皮細胞による一酸化窒素産生を亢進する作用機序を判定するステップと、を更に含み、カルシウムイオン量の測定値がカルシウムイオンの基準値を超える場合、上記被験物質が、カルモジュリンを介した一酸化窒素合成酵素の活性化により一酸化窒素産生を亢進すると判定する、又はカルシウムイオン量の測定値がカルシウムイオンの基準値以下の場合、上記被験物質が、一酸化窒素合成酵素を直接活性化することにより一酸化窒素産生を亢進すると判定するものであってもよい。
【0020】
血管内皮細胞によるNO産生の作用機序の一つとして、Ca2+チャネルの開口による細胞内へのCa2+流入や、Ca2+ストアからのCa2+の放出により、細胞内Ca2+濃度が上昇し、それがトリガーとなってNO合成酵素(Nitric Oxide Synthase:NOS)が活性化し、L-アルギニンからNOが産生されるという作用機序が知られている。細胞質内Ca2+量(Ca2+濃度)を同時にモニタすることにより、被験物質がNO産生を亢進する作用機序を同時に推定することが可能となる。
【0021】
上記カルシウムイオンの基準値が、上記培養細胞を被験物質に接触させずに測定したカルシウムイオン量の測定値であってもよい。これにより、カルシウムイオン量の増減をより正確に評価することができる。
【0022】
上記カルシウムイオン量の測定が蛍光の検出に基づくものであってもよく、上記カルシウムイオン指示薬が蛍光指示薬であってもよい。
【0023】
本発明はまた、桜島大根を有効成分として含有する、血管内皮細胞の一酸化窒素産生亢進剤を提供する。本発明者らは、桜島大根が血管内皮細胞のNO産生を亢進し、かつ活性酸素(スーパーオキシド)の産生には影響を与えない作用を有するという新規知見を得た。本発明に係る血管内皮細胞の一酸化窒素産生亢進剤は、この新規知見に基づくものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、血管内皮細胞の一酸化窒素(NO)産生を亢進する物質を、迅速かつ簡便に選抜できるスクリーニング方法の提供が可能となる。
【0025】
本発明のスクリーニング方法によれば、従来法と比較して、NO量の測定に要する時間と経費を大幅に軽減でき、またリアルタイムで迅速かつ簡便に定量的な解析をすることが可能である。したがって、多くの被験物質を評価することができるため、スクリーニング方法として有用である。また、本発明の好ましい態様によれば、NOSの活性化に関与する細胞質内Ca2+濃度を同時にモニタすることで、作用機序の一端も解明することが可能となる。
【0026】
世界に先駆けて超高齢社会に突入した日本において、健康長寿を妨げる大きな原因となる循環器疾患の予防には高い関心が見込まれる。さらに、「食」による予防医療への期待も高まっている今、食への応用が可能な物質について血管内皮細胞の機能改善効果を迅速に簡便に評価し、効果の高い物質を選抜できる方法は、健康長寿社会実現に大いに貢献できるものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1における、一酸化窒素(NO)量の経時変化を示すグラフである。
【
図2】実施例1における、スーパーオキシド(O
2
-)量の経時変化を示すグラフである。
【
図3】実施例1における、細胞質内カルシウムイオン(Ca
2+)量の経時変化を示すグラフである。
【
図4】参考例1における、グリース法(Griess法)により測定した一酸化窒素(NO)量を示すグラフである。
【
図5】(A)参考例1において、桜島大根又は青首大根の実から抽出した水溶性成分を添加した培養細胞、及び対照(コントロール)の培養細胞に対して細胞内NOS検出試験を実施したときの顕微鏡像を示す写真である。(B)細胞内NOS検出試験において、蛍光の輝度毎に集計した細胞数のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
〔血管内皮細胞の一酸化窒素(NO)産生を亢進する物質のスクリーニング方法〕
本実施形態に係るスクリーニング方法は、血管内皮細胞のNO産生を亢進する物質を選抜するためのものである。本実施形態に係るスクリーニング方法は、インビトロで、血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液に一酸化窒素指示薬及び活性酸素指示薬を添加するステップと、培養細胞に被験物質を接触させるステップと、一酸化窒素指示薬及び活性酸素指示薬を指標として、一酸化窒素量及び活性酸素量を測定するステップと、を含む。
【0030】
(血管内皮細胞由来の培養細胞)
血管内皮細胞由来の培養細胞は、例えば、生体から採取された血管内皮細胞から樹立された細胞株であってもよく、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞)から血管内皮細胞に分化誘導された細胞株であってもよい。
【0031】
生体から採取された血管内皮細胞としては、被験物質のNO産生亢進効果をより正確に評価できることから、哺乳動物から採取された血管内皮細胞であることが好ましく、ブタ、ヒト、イヌ、ウシ、モルモット、ウサギ等から採取された血管内皮細胞であることがより好ましい。採取された血管内皮細胞から細胞株を樹立する方法は、特に制限されず、常法に従うことができる。
【0032】
血管内皮細胞由来の培養細胞の具体例としては、臍帯静脈内皮細胞、臍帯動脈内皮細胞、冠状動脈内皮細胞、伏在静脈内皮細胞、肺動脈内皮細胞、大動脈内皮細胞、皮膚血管内皮細胞、皮膚微小血管内皮細胞、子宮微小血管内皮細胞、肺微小血管内皮細胞、心臓微小血管内皮細胞、皮膚微小リンパ管内皮細胞等が挙げられる。
【0033】
血管内皮細胞由来の培養細胞は、各培養細胞に適した培養培地及び温度等の条件下で培養することで維持及び継代することができる。例えば、ブタ大動脈内皮細胞の場合、血管内皮細胞用培養メディウム(コスモ・バイオ(株)製)中、37℃、5%CO2雰囲気下で培養することができる。
【0034】
(反応液)
血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液は、血管内皮細胞由来の培養細胞を緩衝液(例えば、RH緩衝液、PBS(-)緩衝液、HEPES緩衝液、1mM CaCl2を含むHEPES溶液)等に懸濁させることで調製することができる。
【0035】
反応液中の培養細胞の密度は、使用する一酸化窒素指示薬及び活性酸素指示薬の種類、培養細胞の種類等に応じて適宜設定してよい。反応液中の培養細胞の密度は、通常1.0~2.0×105cells/mLである。
【0036】
(一酸化窒素指示薬)
一酸化窒素指示薬としては、一酸化窒素の存在量と相関する信号を検出できる試薬であればよく、例えば、一酸化窒素と定量的に反応する蛍光指示薬、発光(例えば、化学発光)指示薬、又は吸光指示薬を用いることができる。一酸化窒素指示薬は、市販されているものを用いてもよい。そのような指示薬として、例えば、ジアミノフルオレセイン-2ジアセテート(DAF-2DA)、ジアミノフルオレセイン-FM ジアセテート(DAF-FM DA)、ジアミノローダミン-4M アセトキシメチルエステル(DAR-4M AM、いずれも積水メディカル(株)製)が挙げられる。
【0037】
血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液に一酸化窒素指示薬を添加する方法としては、例えば、上述した一酸化窒素指示薬又はその溶液等を反応液に加える方法が挙げられる。反応液に添加された一酸化窒素指示薬は、細胞膜を透過した反応液中の一酸化窒素と反応するか、又は一酸化窒素指示薬そのものの細胞膜透過性により血管内皮細胞由来の培養細胞の細胞内に取り込まれ、細胞質内の一酸化窒素と反応することになる。
【0038】
反応液中又は細胞質内の一酸化窒素量の測定は、一酸化窒素指示薬を指標として、常法により行われる。例えば、一酸化窒素指示薬が蛍光指示薬の場合、励起光源から出力された励起光を血管内皮細胞由来の培養細胞を含む試料容器に照射し、放出された蛍光を蛍光検出器により検出することで、一酸化窒素量を測定することができる。一酸化窒素指示薬が化学発光指示薬の場合、血管内皮細胞由来の培養細胞を含む試料容器から放出された化学発光を化学発光検出器で検出することで、一酸化窒素量を測定することができる。
【0039】
(活性酸素指示薬)
活性酸素指示薬としては、活性酸素の存在量と相関する信号を検出できる試薬であればよく、例えば、活性酸素と定量的に反応する蛍光指示薬、発光(例えば、化学発光)指示薬、又は吸光指示薬を用いることができる。活性酸素指示薬は、市販されているものを用いてもよい。そのような指示薬として、例えば、2-メチル-6-フェニル-3,7-ジヒドロイミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン(CLA)、2-メチル-6-(4-メトキシフェニル)-3,7-ジヒドロイミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン(MCLA)、2-メチル‐6-p-メトキシフェニルエチニルイミダゾピラジノン(MPEC)、インドシアニン型イミダゾピラノジン化合物(NIR-CLA)、2-[2,4,5,7-テトラフルオロ-6-(2-ニトロ-4,5-ジメトキシフェニルスルホニルオキシ)-3-オキソ-3H-キサンテン-9-イル]安息香酸(BES-So)ジヒドロエチジウム等のスーパーオキシドと反応する指示薬、カルボキシ-H2DCFDA(2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート)、ジヒドロカルセイン、ジヒドロローダミン123、ルミノール等の過酸化水素と反応する指示薬、CM-H2DCFDC、プロキシルフルオレスカミン、TEPO-9-AC等のヒドロキシラジカルと反応する指示薬、トランス-1-(2’-メトキシビニル)ピレン等の一重項酸素と反応する指示薬が挙げられる。
【0040】
血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液に活性酸素指示薬を添加する方法としては、例えば、上述した活性酸素指示薬又はその溶液等を反応液に加える方法が挙げられる。反応液に添加された活性酸素指示薬は、反応液中の活性酸素と反応するか、又は活性酸素指示薬そのものの細胞膜透過性により血管内皮細胞由来の培養細胞の細胞内に取り込まれ、細胞質内の活性酸素と反応することになる。
【0041】
インビトロで血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液に活性酸素指示薬を添加するステップは、活性酸素量を迅速に評価できることから、インビトロで血管内皮細胞由来の培養細胞の細胞内に活性酸素指示薬を添加するステップであってもよい。
【0042】
血管内皮細胞由来の培養細胞の細胞内に活性酸素指示薬を添加する方法としては、例えば、活性酸素指示薬そのものの細胞膜透過性を利用して反応液に活性酸素指示薬を添加することにより細胞内に移動させる方法、活性酸素指示薬と細胞内への物質導入に汎用されている試薬(例えば、リポフェクション試薬)を混合して反応液に添加することにより細胞内に導入する方法、物理的に活性酸素指示薬を細胞内に導入する方法(例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法)を挙げることができる。
【0043】
反応液中又は細胞質内の活性酸素量の測定は、活性酸素指示薬を指標として、常法により行われる。活性酸素量の測定方法の具体例としては、一酸化窒素量の測定方法の具体例と同様の方法を例示できる。
【0044】
一酸化窒素指示薬と活性酸素指示薬の添加順序は任意であり、同時に添加してもよい。
【0045】
一酸化窒素量及び活性酸素量の測定においては、より迅速かつより簡便に検出を可能にするという観点から、一酸化窒素指示薬が蛍光指示薬であり、かつ活性酸素指示薬が化学発光指示薬であってよい。
【0046】
一酸化窒素量及び活性酸素量は、略同時に測定してもよい。これにより、同一の条件下における一酸化窒素量及び活性酸素量を測定することができ、血管内皮細胞のNO産生の亢進効果をより正確に評価することができる。
【0047】
一酸化窒素量及び活性酸素量は、例えば、蛍光検出装置、化学発光検出装置、吸光度測定装置を用いて測定することができる。また、一酸化窒素量及び活性酸素量を蛍光と化学発光により略同時に測定する場合、例えば、特開2004-61438号公報、特開2000-131234号公報等に記載の蛍光及び化学発光を同時に測定する装置(例えば、浜松ホトニクス株式会社製,CFL-C2000)を用いて測定することもできる。
【0048】
検出する活性酸素としては、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、一重項酸素が挙げられる。より精度よい評価が可能になることから、活性酸素としてスーパーオキシドを採用することが好ましい。
【0049】
(被験物質)
被験物質に特に制限はなく、任意の物質を用いることができる。被験物質としては、例えば、天然由来の化合物、人工合成された化合物、ペプチド、タンパク質、脂質、核酸(リボ核酸、デオキシリボ核酸等)が挙げられる。被験物質として、食品由来の物質を用いてもよい。被験物質は、単一の化合物であってもよく、抽出物(例えば、桜島大根の抽出物)等の組成物であってもよい。
【0050】
被験物質を血管内皮細胞由来の培養細胞に接触させる方法としては、例えば、血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液に被験物質、又は被験物質の溶液を添加することにより行うことができる。
【0051】
(評価ステップ)
上述のように測定された一酸化窒素量及び活性酸素量に基づき、被験物質が血管内皮細胞の一酸化窒素産生を亢進するか否かを評価することができる。すなわち、一酸化窒素量の測定値が一酸化窒素の基準値を超え、かつ活性酸素量の測定値が活性酸素の基準値以下である場合、当該被験物質は、血管内皮細胞の一酸化窒素産生を亢進する物質であると評価される。本実施形態に係るスクリーニング方法は、このような評価を行うステップを更に含むものであってもよい。
【0052】
(一酸化窒素の基準値)
評価の際の一酸化窒素の基準値は、評価目的、求める一酸化窒素産生の亢進効果の水準の程度に応じて、随時設定することができる。一酸化窒素の基準値の一例として、例えば、血管内皮細胞由来の培養細胞を被験物質に接触させずに測定した一酸化窒素量の測定値を基準値とすることができる。このように基準値を設定することによって、被験物質との接触による一酸化窒素量の増減をより正確に評価することができる。また、例えば、血管内皮細胞由来の培養細胞を、一酸化窒素産生を亢進する(又は抑制する)ことが知られている既知物質と接触させて測定した一酸化窒素量の測定値を基準値とすることもできる。
【0053】
(活性酸素の基準値)
評価の際の活性酸素の基準値は、評価目的、求める一酸化窒素産生の亢進効果の水準の程度に応じて、随時設定することができる。活性酸素の基準値の一例として、例えば、血管内皮細胞由来の培養細胞を被験物質に接触させずに測定した活性酸素量の測定値を基準値とすることができる。このように基準値を設定することによって、被験物質との接触による活性酸素量の増減をより正確に評価することができる。また、例えば、血管内皮細胞由来の培養細胞を、一酸化窒素産生を亢進する(又は抑制する)ことが知られている既知物質と接触させて測定した活性酸素量の測定値を基準値とすることもできる。
【0054】
(カルシウムイオン量の評価)
本実施形態に係るスクリーニング方法は、一酸化窒素量及び活性酸素量に基づく評価と共に、カルシウムイオン量に基づいた評価を行ってもよい。すなわち、本実施形態に係るスクリーニング方法は、血管内皮細胞由来の培養細胞に被験物質を接触させる前に、血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液にカルシウムイオン(Ca2+)指示薬を添加するステップと、血管内皮細胞由来の培養細胞に被験物質を接触させた後に、カルシウムイオン指示薬を指標として、カルシウムイオン量を測定するステップと、カルシウムイオン量の測定値に基づき、被験物質が血管内皮細胞による一酸化窒素産生を亢進する作用機序を判定するステップと、を更に含んでいてもよい。これにより、被験物質がNO産生を亢進する作用機序を同時に推定することが可能となる。
【0055】
(カルシウムイオン指示薬)
カルシウムイオン指示薬としては、カルシウムイオンの存在量と相関する信号を検出できる試薬であればよく、例えば、カルシウムイオンと定量的に反応する蛍光指示薬、発光(例えば、化学発光)指示薬、又は吸光指示薬を用いることができる。カルシウムイオン指示薬は、市販されているものを用いてもよい。そのような指示薬として、例えば、Fluo-3、Fluo-3 AM、Fluo-4、Fluo-4 AM(いずれもDOJINDO社製)、Indo-1、Indo-5F、bis-fura-2、Quin-2、Quin-AM、Rhod-2、X-Rhod-1(いずれもMolecular Probes社製)が挙げられる。
【0056】
血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液にカルシウムイオン指示薬を添加する方法としては、例えば、上述したカルシウムイオン指示薬又はその溶液等を反応液に加える方法が挙げられる。反応液に添加されたカルシウムイオン指示薬は、細胞膜を透過した反応液中のカルシウムイオンと反応するか、又はカルシウムイオン指示薬そのものの細胞膜透過性により血管内皮細胞由来の培養細胞の細胞内に取り込まれ、細胞質内のカルシウムイオンと反応することになる。
【0057】
インビトロで血管内皮細胞由来の培養細胞を含む反応液にカルシウムイオン(Ca2+)指示薬を添加するステップは、細胞質内の濃度変化をより迅速に評価できることから、インビトロで血管内皮細胞由来の培養細胞の細胞内にカルシウムイオン(Ca2+)指示薬を添加するステップであることが好ましい。
【0058】
血管内皮細胞由来の培養細胞の細胞内にカルシウムイオン指示薬を添加する方法としては、例えば、カルシウムイオン指示薬そのものの細胞膜透過性を利用して反応液にカルシウムイオン指示薬を添加することにより細胞内に移動させる方法、カルシウムイオン指示薬と細胞内への物質導入に汎用されている試薬(例えば、リポフェクション試薬)を混合して反応液に添加することにより細胞内に導入する方法、物理的にカルシウムイオン指示薬を細胞内に導入する方法(例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法)を挙げることができる。
【0059】
反応液中又は細胞質内のカルシウムイオン量の測定は、カルシウムイオン指示薬を指標として、常法により行われる。例えば、カルシウムイオン指示薬が蛍光指示薬の場合、励起光源から出力された励起光を血管内皮細胞由来の培養細胞を含む試料容器に照射し、放出された蛍光を蛍光検出器により検出することで、カルシウムイオン量を測定することができる。カルシウムイオン指示薬が化学発光指示薬の場合、血管内皮細胞由来の培養細胞を含む試料容器から放出された化学発光を化学発光検出器で検出することで、カルシウムイオン量を測定することができる。
【0060】
(測定順序の例)
カルシウムイオン指示薬を添加する場合、一酸化窒素指示薬、活性酸素指示薬及びカルシウムイオン指示薬の添加順序は任意であり、同時に添加してもよい。また、各指示薬から検出される信号の種類に応じて、例えば、2種の量(例えば、一酸化窒素量及び活性酸素量)を略同時に測定したうえで、別途他の1種の量(例えば、カルシウムイオン量)を測定してもよいし(測定を2回に分けて行う)、一酸化窒素量、活性酸素量及びカルシウムイオン量の3種を略同時に測定してもよい。
【0061】
前者の具体例としては、例えば、一酸化窒素量を蛍光指示薬(例えば、ジアミノフルオレセイン-2ジアセテート(DAF-2DA),励起波長495nm,蛍光波長515nm)を使用し、活性酸素量を化学発光指示薬(例えば、6-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-3,7-ジヒドロイミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン塩酸塩(MCLA),発光波長465nm)を使用し、蛍光及び化学発光を同時に測定する装置(例えば、CFL-C2000,浜松ホトニクス株式会社製)を用いて略同時に測定した後、別途カルシウムイオン量を蛍光指示薬(例えば、1-[2-アミノ-5-(2,7-ジフルオロ-6-アセトキシメトキシ-3-オキソ-9-キサンテニル)フェノキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(Fluo-4 AM),励起波長495nm,蛍光波長518nm)を使用し、蛍光を測定する装置を用いて測定することができる。
【0062】
後者の具体例としては、例えば、一酸化窒素量を蛍光指示薬(例えば、ジアミノフルオレセイン-2ジアセテート(DAF-2DA),励起波長495nm,蛍光波長515nm)を使用し、活性酸素量を化学発光指示薬(例えば、6-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-3,7-ジヒドロイミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン塩酸塩(MCLA),発光波長465nm)を使用し、カルシウムイオン量を蛍光指示薬(例えば、1-[2-アミノ-5-(2,7-ジフルオロ-6-アセトキシメトキシ-3-オキソ-9-キサンテニル)フェノキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(Fluo-4 AM),励起波長495nm,蛍光波長518nm)を使用し、蛍光及び化学発光を同時に測定する装置(例えば、CFL-C2000,浜松ホトニクス株式会社製)を用いて略同時に測定することができる。
【0063】
(カルシウムイオン量に基づく評価ステップ)
上述のように測定されたカルシウムイオン量に基づき、被験物質がNO産生を亢進する作用機序を同時に推定することができる。すなわち、カルシウムイオン量の測定値がカルシウムイオンの基準値を超える場合、被験物質が、カルモジュリンを介した一酸化窒素合成酵素の活性化により一酸化窒素産生を亢進すると判定することができる。また、カルシウムイオン量の測定値がカルシウムイオンの基準値以下の場合、被験物質が、一酸化窒素合成酵素を直接活性化することにより一酸化窒素産生を亢進すると判定することができる。本実施形態に係るスクリーニング方法は、このような評価を行うステップを更に含むものであってもよい。
【0064】
(カルシウムイオンの基準値)
評価の際のカルシウムイオンの基準値は、例えば、血管内皮細胞由来の培養細胞を被験物質に接触させずに測定したカルシウムイオン量の測定値を基準値とすることができる。このように基準値を設定することによって、被験物質との接触によるカルシウムイオン量の増減をより正確に評価することができる。また、例えば、カルモジュリンを介した一酸化窒素合成酵素の活性化により一酸化窒素産生を亢進する(又は一酸化窒素合成酵素を直接活性化することにより一酸化窒素産生を亢進する)ことが知られている既知物質と接触させて測定したカルシウムイオン量の測定値を基準値とすることもできる。
【0065】
〔血管内皮細胞の一酸化窒素(NO)産生亢進剤〕
本実施形態のスクリーニング方法によれば、血管内皮細胞のNO産生を亢進する被験物質を選抜することができる。選抜された被験物質は、血管内皮細胞のNO産生を亢進する作用に基づき、血管内皮細胞のNO産生亢進剤として利用することもできる。
【0066】
例えば、後述する実施例で具体的に確認しているとおり、桜島大根は、血管内皮細胞のNO産生を亢進し、活性酸素(スーパーオキシド)の産生には影響を与えない。したがって、本発明の一実施形態として、桜島大根を有効成分として含有する、血管内皮細胞の一酸化窒素(NO)産生亢進剤が提供される。当該有効成分は、桜島大根(例えば、実、葉又は皮)の抽出物であることが好ましく、桜島大根の水溶性抽出物であることがより好ましい。水溶性抽出物は、例えば、メタノール/水/酢酸溶液(90:9.5:0.5(体積比))で桜島大根を抽出して得られる、水溶性成分を含む抽出物であってよい。
【0067】
本実施形態の血管内皮細胞のNO産生亢進剤は、固体、液体(懸濁液を含む)、ペースト等のいずれの形状であってもよい。また、剤形としては、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤等のいずれであってもよい。
【0068】
上述の各種製剤は、有効成分(本発明のスクリーニング方法により選抜された被験物質)のみからなるものであってもよく、当該有効成分と薬学的に許容される添加剤との混合物であってもよい。また、上述の製剤は、例えば、有効成分、及び必要に応じて添加剤を混和し、上記剤形に成形することによって調製することができる。添加剤を含む場合、上記有効成分の含有量は、例えば、製剤全量を基準として、0.1~90質量%である。
【0069】
薬学的に許容される添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤を挙げることができる。
【0070】
賦形剤としては、例えば、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、例えば、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、例えば、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。
【0071】
本実施形態の血管内皮細胞のNO産生亢進剤は、ヒトに投与しても、非ヒト哺乳動物に投与してもよい。投与量及び投与方法は、投与される個体の状態、年齢等に応じて適宜決定することができる。好適な投与方法としては、例えば、経口投与が挙げられる。
【0072】
本実施形態の血管内皮細胞のNO産生亢進剤は、医薬品、医薬部外品、一般食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性食品、栄養補助食品、食品添加物、飼料、飼料添加物等として使用することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
〔実施例1:一酸化窒素量及びスーパーオキシド量の測定に基づく被験物質の評価〕
<被験物質の調製>
鹿児島県産の桜島大根(Raphanus sativus cv. Sakurajima Daikon)を可食部(実)と非可食部(葉及び皮)に分け、それぞれホモジナイズした後、凍結乾燥により粉末化した。次に、各粉末50mgに対し、メタノール/水/酢酸溶液(90:9.5:0.5(体積比))2mLを添加して混合し、超音波処理を5分間行ってから遠心分離(1,610×g、10分間、4℃)して残渣を取り除いた後、抽出溶媒を除去することにより、水溶性成分からなる被験物質を得た。
【0075】
また、比較のために、桜島大根に代えて青首大根(Raphanus sativus var. Longipinnatus)を用いて、上記と同様に被験物質を調製した。
【0076】
<血管内皮細胞由来の培養細胞の調製>
ブタ血管内皮細胞由来の培養細胞(ブタ大動脈内皮細胞)は、増殖培地(血管内皮細胞用培養メディウム(コスモ・バイオ(株)製)中、37℃、5%CO2雰囲気下で維持及び継代した。
【0077】
<一酸化窒素量及びスーパーオキシド量の同時計測>
ブタ血管内皮細胞由来の培養細胞が80%コンフルエントになった時点で、増殖培地5mLに終濃度50μMとなるようにNO検出用蛍光試薬(DAF-2DA(ジアミノフルオレセイン-2ジアセテート),五稜化薬(株)製)を添加した。37℃、5%CO2雰囲気下で1時間インキュベートした後、細胞を回収した。回収した細胞に1mM CaCl2を含むHEPES溶液を添加し、細胞密度を1.0~2.0×105cells/mLに調製した細胞溶液を調製した。当該細胞溶液を2mLキュベット(10mm角ディスポキュベット)に移し、これに終濃度0.5μMとなるようにスーパーオキシド検出用化学発光試薬(MCLA(6-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-3,7-ジヒドロイミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン塩酸塩),東京化成工業(株)製)を添加した。7分間プレインキュベートした後、キュベットを蛍光及び化学発光を同時に測定する装置(CFL-C2000,浜松ホトニクス株式会社製)にセットし、測定を開始した。測定開始から1200ポイント(10分)経過後に2mg/mLの被験物質を100μL添加し、更に4時間測定を継続した。被験物質として、桜島大根の可食部(実)から抽出した水溶性成分、比較として青首大根の可食部(実)から抽出した水溶性成分、及び対照(コントロール)として1mM CaCl2及び0.5μM MCLAを含むHEPES溶液を使用した。
【0078】
<カルシウムイオン量の計測>
NO検出用蛍光試薬の代わりにCa2+検出用蛍光試薬(Fluo-4 AM(1-[2-アミノ-5-(2,7-ジフルオロ-6-アセトキシメトキシ-3-オキソ-9-キサンテニル)フェノキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸),同仁化学研究所製)を終濃度3μMとなるように添加したこと以外は、<一酸化窒素量及びスーパーオキシド量の同時計測>と同様の操作を行い、カルシウムイオン量を計測した。
【0079】
結果を
図1~
図3に示す。
図1は、一酸化窒素(NO)量の経時変化を示すグラフである。
図2は、スーパーオキシド(O
2
-)量の経時変化を示すグラフである。
図3は、細胞質内カルシウムイオン(Ca
2+)量の経時変化を示すグラフである。
【0080】
桜島大根の可食部(実)から抽出した水溶性成分は、対照(コントロール)と比較して、一酸化窒素(NO)量を有意に増加させることが確認された(
図1)。この結果は、桜島大根の可食部(実)から抽出した水溶性成分が、血管内皮細胞による一酸化窒素産生を亢進することを示している。当該亢進作用は、青首大根の可食部(実)から抽出した水溶性成分には認められず(
図1)、桜島大根に特有の作用であった。
【0081】
また、血管内皮機能の破綻に関与するスーパーオキシド(O
2
-)量の増加は、桜島大根及び青首大根共に認められず、被験物質を添加することによる細胞傷害もないことが確認された(
図2)。スーパーオキシド(O
2
-)は、一酸化窒素との反応性が高く、一酸化窒素の消去に関与する(つまり、一酸化窒素の産生亢進効果を打ち消す)ほか、消去反応により生成するペルオキシナイトライト(ONOO
-)は、スーパーオキシドよりも更に強い細胞傷害作用を有する。したがって、スーパーオキシド(O
2
-)量を増加させない被験物質の方が好ましい。
【0082】
さらに、桜島大根は一酸化窒素(NO)量と同様に、対照(コントロール)と比較して、細胞質内カルシウムイオン(Ca
2+)量を有意に増加させることが確認された(
図3)。この結果は、桜島大根の可食部(実)から抽出した水溶性成分による一酸化窒素産生の亢進には、細胞質内カルシウムイオン(Ca
2+)濃度の上昇を介した一酸化窒素合成酵素(NOS)活性の亢進が関与していることを示唆している。
【0083】
〔参考例1:従来法による一酸化窒素量の測定〕
一酸化窒素量の測定に従来用いられているグリース法(Griess法)により、桜島大根による一酸化窒素産生亢進効果を確認した。
【0084】
ブタ血管内皮細胞由来の培養細胞が80%コンフルエントになった時点で、増殖培地5mLに終濃度0.6mg/mL、1.2mg/mL、2.4mg/mL又は4.8mg/mLとなるように桜島大根の実、皮及び葉から抽出した水溶性成分を添加した。同様に、終濃度1μg/mL、10μg/mL、50μg/mL又は100μg/mLとなるように桜島大根の実から抽出した水溶性成分を添加した。対照(コントロール)として、桜島大根の水溶性成分を添加しない培養細胞も用意した。37℃、5%CO
2雰囲気下でコンフルエントになるまでインキュベートした後、細胞を回収した。回収した細胞に対して、Griess法を利用したキット(NO
2/NO
3 Assay Kit-FX(Fluorometric),(株)同仁化学研究所製)により一酸化窒素量を測定した。結果を
図4に示す。
【0085】
図4は、グリース法(Griess法)により測定した一酸化窒素(NO)量を示すグラフである。桜島大根の実、皮及び葉から抽出した水溶性成分のいずれも、対照(コントロール)と比較して、一酸化窒素(NO)量の増加が認められた。また、桜島大根の実から抽出した水溶性成分は、濃度依存的にNO量の増加が認められ(
図4(B))、50μg/mL以上の濃度で有効であることが分かった。
【0086】
(一酸化窒素合成酵素(NOS)発現量の測定)
更に、桜島大根又は青首大根の実から抽出した水溶性成分を終濃度0.6mg/mL添加した培養細胞、及び対照(コントロール)の培養細胞を使用して、一酸化窒素合成酵素(NOS)発現量を測定した。
【0087】
上記培養細胞に対し、蛍光顕微鏡によりNOSを測定するキット(EZCell Intracellular Nitric Oxide Synthase(NOS) Detection Kit,バイオビジョン製)により細胞内NOSを検出した。結果を
図5に示す。
【0088】
図5(A)は、桜島大根又は青首大根の実から抽出した水溶性成分を添加した培養細胞、及び対照(コントロール)の培養細胞に対して細胞内NOS検出試験を実施したときの顕微鏡像を示す写真である。
図5中、「NOS」は蛍光顕微鏡像、「血管内皮細胞」は位相差顕微鏡像、「merge」は蛍光顕微鏡像と位相差顕微鏡像のマージ像である。NOSは細胞内で発現しており、桜島大根の実から抽出した水溶性成分を添加したときに、対照(コントロール)と比較して、最も活性化することが示された。なお、
図5(B)は、細胞内NOS検出試験において、蛍光の輝度毎に集計した細胞数のヒストグラムである。