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特許7097070クロライドチャネルの標的発現及びその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】クロライドチャネルの標的発現及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20220630BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220630BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20220630BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220630BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220630BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20220630BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220630BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220630BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20220630BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K38/17
A61K35/761
A61P19/02
A61P25/04
A61P29/02
A61P43/00 111
C12N15/12
C12N15/864 100
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018536695
(86)(22)【出願日】2016-09-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 US2016054199
(87)【国際公開番号】W WO2017058926
(87)【国際公開日】2017-04-06
【審査請求日】2019-09-20
(31)【優先権主張番号】62/235,914
(32)【優先日】2015-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/235,920
(32)【優先日】2015-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/303,907
(32)【優先日】2016-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/378,509
(32)【優先日】2016-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518112044
【氏名又は名称】ゴレイニ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】トーマス, グリフィス ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】フレージャー, ショーナリア ジミー
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-504966(JP,A)
【文献】国際公開第2014/093251(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0289058(US,A1)
【文献】特表2004-500126(JP,A)
【文献】特表2018-531926(JP,A)
【文献】The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,2002年,Vol. 300, No. 2,pp. 526-534
【文献】The Journal of Biological Chemistry,2013年,Vol. 288, No. 29,pp. 21029-21042
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/17
A61K 35/761
A61K 48/00
A61P 19/02
A61P 25/04
A61P 29/02
A61P 43/00
A61K 31/7088
A61K 45/00
C12N 15/12
C12N 15/864
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛または炎症の処置を必要とする哺乳動物において疼痛を処置する方法において使用するための組成物であって、前記組成物は、発現カセットを含むベクターを含み、前記方法は、発現カセットを含む前記ベクターの有効量を前記哺乳動物に投与することを包含し、前記発現カセットが、ヒトGlyRa1(hGlyRa1)サブユニットをコードする核酸に対して作動可能に連結されたヒトシナプシン-1プロモーター(hSyn)を含み、前記サブユニットは、内因性アゴニストによって活性化される能力のあるグリシン受容体を形成し、前記方法は、GlyRアゴニストを前記哺乳動物に投与することを含まない、組成物。
【請求項2】
前記コードされたサブユニットが、野生型hGlyRa1サブユニットと少なくとも約80%の配列同一性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記コードされたhGlyRa1サブユニットが、配列番号3と少なくとも約90%の配列同一性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記コードされたhGlyRa1サブユニットが、配列番号3と少なくとも約95%の配列同一性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記コードされたhGlyRa1サブユニットが、配列番号3と約99%の配列同一性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記コードされたhGlyRa1サブユニットが、配列番号3を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ベクターがウイルスベクターであり、前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、自己相補性AAV(scAAV)、ポリオウイルス、HSV、またはマウスマロニーベースのウイルスベクターである、請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記ウイルスベクターは、末梢ニューロンに指向性を有するAAVベクターである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ウイルスベクターは、末梢ニューロンに感染する、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記ウイルスベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9、rAAV2/6およびscAAV2ベクターからなる群より選択されるAAVベクターまたはscAAVベクターである、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記ウイルスベクターがAAV6ベクターである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記ウイルスベクターはrAAV2/6ベクターである、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記方法が、1つ以上の他の治療剤を前記哺乳動物に投与することをさらに包含し、前記1つ以上の他の治療剤がグリシン受容体アゴニストではない、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
ヒトGlyRa1(hGlyRa1)サブユニットをコードする前記核酸が、配列番号1と少なくとも約90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1および7~1のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
ヒトGlyRa1(hGlyRa1)サブユニットをコードする前記核酸が、配列番号1を含む、請求項1および7~1のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記疼痛は慢性疼痛である、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記疼痛は関節痛または神経因性疼痛である、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記哺乳動物はヒトである、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年10月1日に出願された米国仮出願第62/235,914号、2015年10月1日に出願された米国仮出願第62/235,920号、2016年3月4日に出願された米国仮出願第62/303,907号、及び2016年8月23日に出願された米国仮特許出願第62/378,509号(それらの出願は、参照により本明細書に組み込まれる)の優先権利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
興奮性細胞(例えば、ニューロン及び筋肉細胞)の電気生理学的反応を調節する可能性は、潜在的に、神経筋の状態、疼痛及びこのような細胞の活性に関連する他の障害の処置につながる可能性がある。しかしながら、内因性イオンチャネルに作用するリガンドの投与は、全身送達による広範な副作用の可能性のために大きな障害をもたらす。さらに、局所的に作用する薬剤(例えば、銀またはカプサイシン)は、望ましくない副作用を有し、かつ永続的な損傷を引き起こす可能性がある。無脊椎動物において見出されるニコチニコイドファミリー受容体であるグルタメートゲートのクロライドチャネル(GluCl)の発現が、ニューロンをサイレンシングするために使用された、リガンドゲートのアニオンチャネルの発現によるニューロン活性の調節は以前に示されている(Slimko E.et al.(2002)J Neurosci.22(17):7373-9)。GluClは、低濃度で内因性の哺乳類のイオンチャネルに対してほとんど、または全く影響を及ぼさない高効力のリガンドであるイベルメクチンの添加によって選択的に活性化され得る。しかしながら、脊椎動物、特にヒト患者での使用のためには、このアプローチは、そのような外来タンパク質に対する免疫応答を生じさせ、潜在的な自己免疫疾患を引き起こすというリスクをもたらす。免疫リスクを克服するために、ヒトグリシンゲートのクロライドチャネル(GlyR)は、同様の様式で使用されている(Goss JR et al.(2010)Molecular Therapy 19(3):500-506;米国特許第8,957,036号)。しかし、チャネルを活性化するためにイベルメクチンの投与が必要であったGluClの場合と同様に、GlyRチャネルの活性化及びその後の生理学的効果は、アゴニスト(グリシン)の局所的または全身的投与によって達成された。グリシンは、26-245分の範囲で身体の半減期が短い(Hahn R.(1993)Urol Res.21:289-91)ので、米国特許第8,957,036号明細書に記載されている方法及び試薬による、持続的または慢性状態、例えば、慢性疼痛、高眼圧症または痙性緊張症の処置のための生理学的効果の維持は、大量のグリシンの反復した注射もしくは摂取;またはGlyRチャネルの選択的な長い半減期合成アゴニストの開発及びその後の反復投与を必要とする。したがって、興奮性細胞の電気生理学的活性の長期間の調節のためのさらなる方法及び試薬が必要とされる。さらに、興奮性細胞関連疾患及び状態を処置するために、新しい組成物及び方法が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第8,957,036号明細書
【文献】米国特許第8,957,036号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】Slimko E.et al.(2002)J Neurosci.22(17):7373-9
【文献】Goss JR et al.(2010)Molecular Therapy 19(3):500-506
【文献】Hahn R.(1993)Urol Res.21:289-91
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要旨
したがって、本発明の特定の実施形態は、興奮性細胞の電気生理学的活性を調節するための方法及び試薬を提供する。
本発明の特定の実施形態は、発現カセットを含むベクターであって、ここで発現カセットが、多量体クロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸に対して作動可能に連結されたプロモーターを含む、哺乳動物細胞の電気生理学的活性の調節(例えば、インビボ調節)のためのベクターを提供する。
本発明の特定の実施形態は、哺乳動物細胞の電気生理学的活性の調節(例えば、インビボ調節)のための方法であって、細胞と(例えばインビボで)、多量体クロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸と作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含むベクターとを接触させることを包含する、方法を提供する。
【0006】
本発明の特定の実施形態は、発現カセットを含むベクターの使用であって、この発現カセットが、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含み、哺乳動物細胞の電気生理学的活性の調節(例えば、インビボ調節)のための医薬を調製する使用、を提供する。
【0007】
そのような方法は、哺乳動物(例えば、ヒト)の興奮性細胞においてGlyRタンパク質の外因性発現を引き起こすことを包含し得る。その後、興奮性細胞は、GlyRタンパク質のアゴニストとして作用する内因性グリシンに曝露される。内因性グリシンに応答する外因性GlyRタンパク質(イオンチャネル)の調節は、外因性アゴニストまたは受容体のアロステリックモジュレーターの投与なしに、興奮性細胞の電気生理学的活性を調節する。
【0008】
本発明の特定の実施形態では、構成的に活性なチャネルを形成するようにイオンチャネルのサブユニットを改変してもよく、この場合、アゴニストへの暴露はもはや必要ではない。この方法は、疼痛、高眼圧症及び痙性などの興奮性細胞関連の疾患または状態を処置するために使用してもよい。
【0009】
したがって、本発明の特定の実施形態は、発現カセットを含むベクターであって、ここでこの発現カセットが、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、興奮性細胞関連の疾患または状態の予防的または治療的な処置のためのベクターを提供する。
【0010】
本発明の特定の実施形態は、それを必要とする哺乳動物における興奮性細胞関連の疾患または状態を処置する方法であって、発現カセットを含む有効量のベクターを哺乳動物(例えば、ヒト)に投与することを包含し、ここでこの発現カセットは、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む方法、を提供する。
【0011】
本発明の特定の実施形態は、発現カセットを含むベクターの使用であって、ここで、この発現カセットが、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含み、それを必要とする哺乳動物における興奮性細胞関連の疾患または状態の処置のための医薬を調製する使用、を提供する。
【0012】
本発明の特定の実施形態は、発現カセットを含むベクターであって、ここでこの発現カセットが、薬物療法における使用のために多量体クロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含むベクター、を提供する。
【0013】
本発明の特定の実施形態は、興奮性細胞関連の疾患または状態の予防的または治療的処置のための薬学的組成物であって、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含むベクター、及び薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物、を提供する。
【0014】
本発明の特定の実施形態は、a)多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含むベクターと;b)1種以上の他の治療剤との組み合わせであって、興奮性細胞関連の疾患または障害の予防的または治療的処置のための組み合わせ、を提供する。
【0015】
本発明の特定の実施形態は、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含むベクターと;パッケージング材料と、それを必要とする哺乳動物にこのベクターを投与して興奮性細胞関連の疾患または状態を処置するための説明書とを備えるキット、を提供する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
発現カセットを含むベクターであって、前記発現カセットが、興奮性細胞関連の疾患または状態の予防的または治療的処置のために、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に対して作動可能に連結されたプロモーターを含む、ベクター。
(項目2)
発現カセットを含むベクターの有効量を哺乳動物に投与することを包含する、それを必要とする哺乳動物における興奮性細胞関連の疾患または状態を処置する方法であって、前記発現カセットが、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に対して作動可能に連結されたプロモーターを含む、方法。
(項目3)
前記サブユニットが、1つ以上のさらなるサブユニットと多量体化することによって多量体イオンチャネルを形成し得る、項目1または2に記載のベクターまたは方法。
(項目4)
項目3に記載のベクターまたは方法であって、処置が、アゴニストまたはアロステリックモジュレーターの投与の非存在下であるか;または多量体イオンチャネルのアゴニストまたはアロステリックモジュレーターが哺乳動物に投与されない、ベクターまたは方法。
(項目5)
前記アゴニストがグリシンである、項目4に記載のベクターまたは方法。
(項目6)
前記多量体イオンチャネルが、内因性アゴニストによって活性化される、項目3に記載のベクターまたは方法。
(項目7)
前記核酸がクロライドチャネルのサブユニットをコードする、項目1または2に記載のベクターまたは方法。
(項目8)
前記核酸が、グリシン受容体(GlyR)、γ-アミノ酪酸受容体(GABA R)またはグルタメートゲートのクロライドチャネル(GluCl)のサブユニットをコードする、項目7に記載のベクターまたは方法。
(項目9)
前記核酸がGlyRのサブユニットをコードする、項目8に記載のベクターまたは方法。
(項目10)
前記コードされたGlyRサブユニットが、α-1サブユニット、α-2サブユニット、α-3サブユニット、α-4サブユニット及びβサブユニットからなる群より選択される、項目9に記載のベクターまたは方法。
(項目11)
コードされたGlyRサブユニットが、GlyR(GlyRa1)のアルファ-1-サブユニットである、項目10に記載のベクターまたは方法。
(項目12)
前記コードされたGlyRサブユニットが、ヒトGlyRa1(hGlyRa1)である、項目11に記載のベクターまたは方法。
(項目13)
前記核酸がGABA Rのサブユニットをコードする、項目8に記載のベクターまたは方法。
(項目14)
前記核酸が、GABA A-ρ 受容体のサブユニットをコードする、項目13に記載のベクターまたは方法。
(項目15)
前記コードされたGABA Rサブユニットが、GABRA1(α )、GABRA2(α )、GABRA3(α )、GABRA4(α )、GABRA5(α )、GABRA6(α )、GABRB1(β )、GABRB1(β )、GABRB1(β )、GABRG1(γ )、GABRG2(γ )、GABRG3(γ )、GABRD(δ)、GABRE(ε)、GABRP(π)、GABRQ(θ)、GABRR1(ρ )、GABRR2(ρ )及びGABRR3(ρ )からなる群より選択される、項目13に記載のベクターまたは方法。
(項目16)
前記核酸がGluClのサブユニットをコードする、項目8に記載のベクターまたは方法。
(項目17)
前記コードされたGluC1サブユニットが、α 、α 2A 、α 2B 、GBR2A(α 3A )、GBR2B(α 3B )及びβからなる群より選択される、項目16に記載のベクターまたは方法。
(項目18)
前記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと比較して少なくとも1つの変異を含む、項目1または2に記載のベクターまたは方法。
(項目19)
前記変異体サブユニットを含む多量体イオンチャネルが構成的に活性である、項目18に記載のベクターまたは方法。
(項目20)
前記変異体サブユニットを含む多量体イオンチャネルが、対応する野生型多量体イオンチャネルと比較してアゴニスト感受性が増強されている、項目18に記載のベクターまたは方法。
(項目21)
前記コードされたサブユニットがM2膜貫通ドメインを含み、少なくとも1つの変異が対応する野生型サブユニットと比較してM2膜貫通ドメインにある、項目18~20のいずれか1項に記載のベクターまたは方法。
(項目22)
前記少なくとも1つの変異が、対応する野生型サブユニットと比較して、ロイシン9’残基にある、項目21に記載のベクターまたは方法。
(項目23)
前記少なくとも1つの変異が、対応する野生型サブユニットと比較してL9’AまたはL9’Gである、項目22に記載のベクターまたは方法。
(項目24)
前記コードされたサブユニットが、前記少なくとも1つの変異がL263であるGABA α-サブユニット;少なくとも1つの変異がL259であるGABA β-サブユニット;少なくとも1つの変異がL274にあるGABA γ-サブユニット;または少なくとも1つの変異が対応する野生型サブユニットと比較してT314、L317もしくはL301である、GABACρ-サブユニットである、項目18または19に記載のベクターまたは方法。
(項目25)
前記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと約80%の配列同一性~約99%の配列同一性を有する、項目18に記載のベクターまたは方法。
(項目26)
前記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと約90%の配列同一性~約99%の配列同一性を有する、項目25に記載のベクターまたは方法。
(項目27)
前記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと約95%の配列同一性~約99%の配列同一性を有する、項目26に記載のベクターまたは方法。
(項目28)
前記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと約99%の配列同一性を有する、項目27に記載のベクターまたは方法。
(項目29)
前記プロモーターが調節可能なプロモーターである、項目1または2に記載のベクターまたは方法。
(項目30)
前記プロモーターが構成的プロモーターである、項目1または2に記載のベクターまたは方法。
(項目31)
前記プロモーターが組織特異的プロモーターである、項目1または2に記載のベクターまたは方法。
(項目32)
前記プロモーターが、ヒトシナプシン-1プロモーター(Syn1またはhSyn)、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター、筋特異的デスミンプロモーター、マトリックスGlaタンパク質(MGP)プロモーターまたはそのフラグメント及びキチナーゼ3様1(Ch3L1)遺伝子の5’プロモーター領域からなる群より選択される、項目1または2に記載のベクターまたは方法。
(項目33)
前記ベクターがウイルスベクターである、項目1または2に記載のベクターまたは方法。
(項目34)
前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、自己相補性AAV(scAAV)、ポリオウイルス、HSV、またはマウスマロニーベースのウイルスベクターである、項目33に記載のベクターまたは方法。
(項目35)
前記ウイルスベクターがAAVベクターである、項目34に記載のベクターまたは方法。
(項目36)
前記AAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9及びrAAV2/6からなる群より選択される、項目35に記載のベクターまたは方法。
(項目37)
前記ベクターがAAV6ベクターである、項目36に記載のベクターまたは方法。
(項目38)
前記ベクターがscAAVベクターである、項目34に記載のベクターまたは方法。
(項目39)
前記scAAVベクターがscAAV2ベクターである、項目38に記載のベクターまたは方法。
(項目40)
前記興奮性細胞関連の疾患または状態が、疼痛、炎症、高眼圧症または痙性緊張症である、項目1または2に記載のベクターまたは方法。
(項目41)
前記興奮性細胞関連疾患が疼痛である、項目40に記載のベクターまたは方法。
(項目42)
前記疼痛が慢性疼痛である、項目41に記載のベクターまたは方法。
(項目43)
前記疼痛が、関節痛または神経因性疼痛である、項目41に記載のベクターまたは方法。
(項目44)
前記興奮性細胞関連の疾患または状態が炎症である、項目40に記載のベクターまたは方法。
(項目45)
前記炎症が関節炎症である、項目44に記載のベクターまたは方法。
(項目46)
前記ベクターがAAV6ベクターであり、前記プロモーターがヒトシナプシン(hSyn)プロモーターであり、前記核酸がGlyRサブユニットをコードする、項目41~45のいずれか1項に記載のベクターまたは方法。
(項目47)
前記GlyRサブユニットが、前記サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRを生じる少なくとも1つの変異を含む、項目46に記載のベクターまたは方法。
(項目48)
前記興奮性細胞関連の疾患または状態が高眼圧症である、項目40に記載のベクターまたは方法。
(項目49)
前記興奮性細胞関連の疾患または状態が緑内障である、項目48に記載のベクターまたは方法。
(項目50)
前記ベクターがscAAV2ベクターであり、前記プロモーターがマトリックスGlaタンパク質(MGP)プロモーターであり、前記核酸がGlyRサブユニットをコードする、項目48または49に記載のベクターまたは方法。
(項目51)
前記GlyRサブユニットが、前記サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRをもたらす少なくとも1つの変異を含む、項目50に記載のベクターまたは方法。
(項目52)
前記興奮性細胞関連の疾患または状態が痙性緊張症である、項目40に記載のベクターまたは方法。
(項目53)
前記ベクターがAAV2またはAAV6ベクターであり、前記プロモーターがヒトシナプシン(hSyn)プロモーターであり、かつ前記核酸がGlyRサブユニットをコードする、項目52に記載のベクターまたは方法。
(項目54)
前記GlyRサブユニットが、前記サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRをもたらす少なくとも1つの変異を含む、項目53に記載のベクターまたは方法。
(項目55)
前記ベクターがAAV8またはAAV9ベクターであり、前記プロモーターがヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーターまたはCAGもしくは筋肉特異的デスミンプロモーターであり、前記核酸がGlyRサブユニットをコードする、項目52に記載のベクターまたは方法。
(項目56)
前記GlyRサブユニットが、前記サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRをもたらす少なくとも1つの変異を含む、項目55に記載のベクターまたは方法。
(項目57)
前記ベクターがAAV8であり、前記プロモーターが筋特異的デスミンプロモーターである、項目55または56に記載のベクターまたは方法。
(項目58)
1つ以上の他の治療剤を哺乳動物に投与することをさらに包含する、項目2に記載の方法。
(項目59)
前記1つ以上の他の治療剤が、疼痛、炎症、高眼圧症及び/または痙性緊張症の処置に有用な薬剤である、項目58に記載の方法。
(項目60)
前記1つ以上の他の治療剤が、前記多量体イオンチャネルのアゴニストまたはアロステリックモジュレーターではない、項目58に記載の方法。
(項目61)
前記1つ以上の他の治療剤がグリシンではない、項目60に記載の方法。
(項目62)
多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、発現カセットを含むベクターを含む、興奮性細胞関連の疾患または状態の予防的または治療的処置のための薬学的組成物、及び薬学的に許容される担体。
(項目63)
a)多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含むベクターと;b)1種以上の他の治療剤との組み合わせであって;興奮性細胞関連の疾患または障害の予防的または治療的処置のための組み合わせ。
(項目64)
前記1つ以上の他の治療剤が、疼痛、炎症、高眼圧症及び/または痙性緊張症の治療に有用な薬剤である、項目63に記載の組み合わせ。
(項目65)
前記1つ以上の追加の治療剤が、前記多量体イオンチャネルのアゴニストでも、アロステリックモジュレーターでもない、項目63に記載の組み合わせ。
(項目66)
前記1つ以上の追加の治療剤がグリシンではない、項目65に記載の組み合せ。
(項目67)
多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、発現カセットを含むベクターと;パッケージング材料と、前記ベクターをそれを必要とする哺乳動物に投与して興奮性細胞関連の疾患または状態を処置するための説明書とを備える、キット。
(項目68)
1つ以上の他の治療剤をさらに備える、項目67に記載のキット。
(項目69)
発現カセットを含むベクターの使用であって、前記発現カセットが、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含み、それを必要とする哺乳動物における、興奮性細胞関連の疾患または状態の治療のための薬剤を調製するための、使用。
(項目70)
発現カセットを含むベクターであって、前記発現カセットが、薬物療法において使用するための多量体クロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、ベクター。
(項目71)
発現カセットを含むベクターであって、前記発現カセットが、哺乳動物細胞の電気生理学的活性のインビボ調節のために、多量体クロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、ベクター。
(項目72)
哺乳動物細胞の電気生理学的活性のインビボ調節のための方法であって、前記細胞を、多量体クロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含むベクターと接触させることを包含する方法。
(項目73)
前記サブユニットが、1つ以上のさらなるサブユニットとともに多量体化し、多量体イオンチャネルを形成する、項目71または72に記載のベクターまたは方法。
(項目74)
多量体イオンチャネルのアゴニストまたはアロステリックモジュレーターが哺乳動物に投与されない、項目73に記載の方法。
(項目75)
前記アゴニストがグリシンである、項目74に記載の方法。
(項目76)
前記多量体イオンチャネルが、内因性アゴニストによって活性化される、項目71または72に記載のベクターまたは方法。
(項目77)
前記核酸が、グリシン受容体(GlyR)、γ-アミノ酪酸受容体(GABA R)またはグルタメートゲートのクロライドチャネル(GluCl)のサブユニットをコードする、項目71または72に記載のベクターまたは方法。
(項目78)
前記核酸がGlyRのサブユニットをコードする、項目77に記載のベクターまたは方法。
(項目79)
前記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと比較して少なくとも1つの変異を含む、項目71または72に記載のベクターまたは方法。
(項目80)
前記多量体イオンチャネルが構成的に活性である、項目79に記載のベクターまたは方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1A~Bは、リガンドの非存在下でのGluCl受容体のバックグラウンドコンダクタンスを示す。図1A。GluCl WTからの電流応答の例。容量補償のない全細胞電圧クランプ細胞は、50msにわたって-60mVから+60mVまで傾斜した。膜Imにまたがる全電流は、容量性電流Icと抵抗性電流Iとの和である。図1B。バックグラウンドコンダクタンスは、記録された細胞の数に対する各受容体の平均容量によって正規化した(カッコ内に示されている)。可溶性GFPを、ニセのトランスフェクション対照として用いた。
図2-1】図2A~Fは、GluClチャネルを示す。図A。グルタメート及びIVM分子が結合した改変GluClαホモマーのチャネル(3RIF.pdb)の結晶構造(側面図)。アゴニストは、サブユニット界面で結合する;グルタミン酸は、細胞外ドメインに結合し、IVMは、膜貫通ドメインの上半分に結合する。図B。GluClは、グルタミン酸及びIVMによって異なって活性化される。電気生理学的トレースは、アフリカツメガエル卵母細胞で発現されたヘテロマーのGluClαβチャネルから得た。図C。細孔を形成するサブユニットの対称配置を示すGluClチャネルの上面図。図D、E、及びF。らせん形の細孔ライニングM2ドメインの残基。ロイシン9’は、高度に保存された細孔ライニング残基である。
図2-2】図2A~Fは、GluClチャネルを示す。図A。グルタメート及びIVM分子が結合した改変GluClαホモマーのチャネル(3RIF.pdb)の結晶構造(側面図)。アゴニストは、サブユニット界面で結合する;グルタミン酸は、細胞外ドメインに結合し、IVMは、膜貫通ドメインの上半分に結合する。図B。GluClは、グルタミン酸及びIVMによって異なって活性化される。電気生理学的トレースは、アフリカツメガエル卵母細胞で発現されたヘテロマーのGluClαβチャネルから得た。図C。細孔を形成するサブユニットの対称配置を示すGluClチャネルの上面図。図D、E、及びF。らせん形の細孔ライニングM2ドメインの残基。ロイシン9’は、高度に保存された細孔ライニング残基である。
図3図3は、ヒトの目の解剖学的構造の特定の態様を示す。
図4図4は、1ミクロンの孔がより堅くなるのにともなう、1ミクロンの孔を有する可撓性膜の数学的モデルを示す。その孔を通るポアズイユ流の関係を用いて、水溶液の流動抵抗は、膜がより堅くなるにつれて変化しているとマーキングされる。3つの曲線が2~3マイクロリットル/分の流量でプロットされている。この単純化された例によって、TMがより堅くなるにつれて容易性が影響を受けることが示されている。
図5図5A~5Bは、GlyRαサブユニット(hGlyRa1)を発現するHEK-293細胞の膜電位に対するグリシンの効果を示す。図5A)グリシンは、GlyRα-サブユニット(hGlyRa1)を発現するHEK-293細胞の膜電位に用量依存的な効果を示す。図5B)グリシンに対する応答は、タウリン(100μM)の存在によって影響されない。
図6図6は、GlyRαサブユニット(hGlyRa1)を発現するHEK293細胞の膜電位におけるグリシンに対する用量応答曲線を示す。グリシン±タウリンの添加の4.5分後に集められたデータによって、グリシンがHEK-293細胞のGlyRα-サブユニット(hGlyRa1)の膜電位に用量依存的な効果を有したことが示される。タウリンは、これらの細胞の膜電位に影響を及ぼさなかった。フィットした曲線によって、グリシンに対する応答が、100μMタウリン(EC50=43μM)の存在によって有意に影響されなかった92μMというEC50濃度を有したことが示される。
図7図7は、GlyRαサブユニット(hGlyRa1)を発現するHEK-293の膜電位に対するグリシン±タウリンの効果を示す。GlyRαサブユニット(hGlyRa1)を発現するHEK-293細胞では、ベースライン膜電位(図5A~5Bのグリシンの添加の前の最初の20秒を参照)(ベースライン)は、タウリンの添加によって有意に変化しなかった(300μM)が、処置の4.5分後に測定した場合、グリシン(300μM)の添加によって変化した。グリシン(300μM)に対する処置後4.5分の応答は、タウリン(100μM)の存在によって影響されなかった。
図8図8は、ラットにおける神経因性疼痛のSNIモデルにおけるGTX-01の鎮痛効果の時間経過を示す。ベースライン評価を-1日目に測定し、腓骨神経及び脛骨神経を切断する手術を第0日に行った。全てのラットは、手術後10日目に機械的刺激(異痛症)に対して過敏である。GTX-01または対照ベクターを10日目に投与した。末梢神経における遺伝子治療のウイルス送達と一致する、異痛症の時間依存性逆転が観察された。データ点は、4匹の動物「GTX-01」及び5匹の動物「対照」±SEMの平均を表す。**P<0.01、***P<0.001。
図9図9は、GTX-01または対照ベクターのいずれかで処置したSNIラットの体重を示す。体重を測定し、研究を通して記録した。GTX-01対、対照ベクターで処置した動物の体重には差異は見られなかった。
図10図10によって、イベルメクチンがGluClグルタミン酸受容体単独の野生型α-サブユニットを発現するHEK-293細胞の膜電位に用量依存的効果を示すことが示される。このことは、単量体のクロライド選択的チャネルがGluClグルタメート受容体のα-サブユニットによって形成され得ることを実証する。
図11図11によって、イベルメクチン添加の4.5分後に集めたデータ(図10に示す)は、イベルメクチンが、GluClグルタミン酸受容体の単量体の野生型α-サブユニット発現するHEK-293細胞の膜電位に用量依存的な効果を有することを示したことが図示される。データを曲線に当てはめると、イベルメクチンに対する応答は、147nMのEC50濃度を有したことが示される。
図12図12では、GluClグルタメート受容体α-サブユニット単独のL9’A変異を発現するHEK-293細胞において、ベースライン膜電位(イベルメクチン添加前の最初の20秒前)が最大変化し、最大有効濃度のイベルメクチンによって刺激された場合に、GluClグルタミン酸受容体の野生型α-サブユニットを発現する細胞において見られたものと同等であったことが示される。GluClグルタミン酸受容体αサブユニットのL9’A変異を発現する細胞では、イベルメクチンは、ベースライン時に測定されたものを上回り膜電位の変化を増強することはなかった。
図13図13は、ラットにおける神経因性疼痛のSNIモデルにおけるGTX-01の鎮痛効果の経時変化を示す。ベースライン評価を、-1日目に測定し、腓骨神経及び脛骨神経を切断する手術を第0日に行った。全てのラットは、手術後10日目に機械的刺激(異痛症)に対して過敏である。GTX-01または対照ベクターを、10日目に投与した。末梢神経における遺伝子治療のウイルス送達と一致する異痛症の時間依存的逆転が観察され、処置後13日で異痛症の33%逆転、ならびに処置後22日目及び35日目の両方で77%の逆転であった。データ点は、6匹の動物(最終データ点で5匹)±SDの平均を表す。***P<0.001。
図14図14は、手術後46日目にガバペンチン(100mg/kg:IP)を投与した場合の反応を示す。対照ベクター(対照)で以前に処置され、機械的刺激に対して過敏なままであった動物では、ガバペンチンは異痛症応答を投与後1時間で25%、2時間で44%減少させた。ガバペンチンは、以前にGTX-01で処置した動物では機械的刺激に対するほぼ正常な応答に影響を与えなかった。点線は、手術前にこれらの動物で測定された平均ベースライン引っ込め閾値を表す(図13参照)。データポイントは、5匹の動物±SDの平均を表す。**P<0.01;***P<0.001。
図15図15は、治療後22日目に採取したGTX-01処理動物からのDRGの免疫組織化学的評価を示す。右側のパネルには、EYFP(GTX-01によって送達されたpFB-hSyn-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A遺伝子の産物)について陽性に染色された個々の細胞体。同様に、左パネルは、EYFPについて陽性に染色された同じ動物由来の足の真皮層の下に位置する神経終末。
図16図16は、グリシンによって活性化される活性Clチャネルを形成するGlyR受容体チャネル(hGlyRa1)のα-1サブユニットで非トランスフェクション、ニセトランスフェクトされるか(ニセ(Mock))またはトランスフェクトされたHEK-293細胞の生存率を示す。トランスフェクション後、細胞を、グリシンを含まない培地またはグリシン(400μM)を含有するDMEMのいずれかで培養した。細胞生存率は、トランスフェクションの72時間後にトリパンブルー色素排除を用いて測定した。
図17図17は、トランスフェクトされていないか、ニセトランスフェクトされた(ニセ(Mock))か、または野生型GluClαサブユニット(GluCl)、もしくは構成的に活性なC1-チャネル(GluCl)を形成するGluClアルファサブユニットのL9’A変異でトランスフェクトされたHEK-293細胞の細胞生存率を示す。細胞生存率は、トランスフェクションの48時間後にトリパンブルー色素排除を用いて測定した。
図18図18A~Bは、細胞内Ca++におけるカルバコール(Cch)誘導増大、及び正常な健康ドナーの肺から培養された平滑筋細胞におけるフォルモテロール(1μM)によるその拮抗作用を示す。Cchへの応答は、GluClアルファサブユニットL9’A変異体(pFB-CMV-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A)でトランスフェクトされた両方のドナー由来の細胞において減少する。
図19図19A~Bは、正常な健康ドナーの肺から培養された平滑筋細胞における細胞内Ca++のヒスタミン誘発性の増大を示す。ヒスタミン応答は、pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP-WT(野生型GlyRα-1サブユニット)でトランスフェクトされ、グリシン(100μMまたは1mM)に曝露された細胞では弱くなった。ヒスタミン応答もまた、グリシンを添加しないで、pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP-L9’A(GlyRアルファ-1サブユニットL9’A)でトランスフェクトした細胞では減弱した。
図20図20は、培養中のヒトDRG細胞の画像を示す。AAV6-hSyn-GFPニューロン細胞(矢印)への暴露後4日目に、GFPの発現を示す。GFP発現は、ニューロン対グリア細胞に限定される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法
本発明の特定の実施形態は、興奮性細胞の電気生理学的活性を調節する方法を提供する。
【0018】
本発明の特定の実施形態はまた、哺乳動物細胞の電気生理学的活性のインビボ調節のための方法であって、インビボで細胞を本明細書に記載のベクターと接触させることを包含する方法を提供する。
【0019】
本発明の特定の実施形態は、哺乳動物細胞の電気生理学的活性のインビボ調節のための本明細書に記載のベクターを提供する。
【0020】
本発明の特定の実施形態は、哺乳動物細胞の電気生理学的活性のインビボ調節のための医薬を調製するための、本明細書に記載のベクターの使用を提供する。
【0021】
本明細書で使用する場合、「哺乳動物細胞の電気生理学的活性の調節」という用語は、細胞の膜電位の変化であって、これは生物細胞の内部と外部との間の電位差である膜電位を指す。細胞の外部に関して、膜電位の典型的な値は、-40mV~-80mVの範囲である。例えば、塩化物イオン(Cl-)の導入を介して、細胞の内部をより負(過分極)にすることによってこの膜電位を増大させることで、細胞の電気的活性化の可能性を減少させること(脱分極)によって興奮性細胞の活性が低下される。細胞の電気生理学は、当技術分野で公知の技術を用いて、例えば、細胞膜を横切る電圧変化を検出するために使用されるFLIPR膜電位アッセイを用いて、本明細書に記載のパッチクランプ手順または蛍光に基づくアッセイを用いて、測定してもよい。
【0022】
そのような方法は、哺乳動物(例えば、ヒト)の興奮性細胞中の多量体イオンチャネルのサブユニット(例えば、グリシン受容体(GlyR)のサブユニット)の外因性発現を引き起こすことを含み得る。特定の実施形態では、興奮性細胞は、イオンチャネルの内因性アゴニスト(例えば、グリシン)に曝露され得る。内因性アゴニストに応答するイオンチャネル(外因性サブユニットを含む)の調節は、イオンチャネルの外因性アゴニストまたはアロステリックモジュレーターの投与なしに、興奮性細胞の電気生理学的活性を調節する。特定の実施形態では、サブユニット(例えば、GlyRまたはGluClサブユニット)は、サブユニットの多量体化の際に、構成的に活性なイオンチャネルをもたらす少なくとも1つの変異を含み得る。構成的に活性なイオンチャネルの場合、アゴニストへの曝露はもはや必要ではなく、外因性アゴニストまたはチャネルのアロステリックモジュレーターの投与なしに、興奮性細胞の電気生理学的活性が調節されるであろう。
【0023】
本明細書に記載されるように、興奮性細胞とは、イオンチャネル活性化の結果としてその膜電位に変動を経験する任意の細胞であり得る。そのような細胞としては、筋細胞、ニューロンなどが挙げられる。特定の実施形態では、興奮性細胞は、末梢ニューロン、骨格筋細胞または眼の小柱網細胞である。
【0024】
本明細書で使用される場合、「外因性」という用語は、細胞(例えば、興奮性細胞)において天然には発現されないタンパク質を指す。例えば、GlyRは、一般には、主に脊髄及び下脳内の細胞で発現される。したがって、たとえ野生型GlyRタンパク質(すなわち、突然変異タンパク質以外の)が、例えば末梢ニューロンにおいて発現される場合でも、そのような細胞におけるその発現は外因性である。また、外因性発現は、野生型発現よりも有意に高いレベルでのタンパク質の発現であり得る。このように、低レベルでタンパク質を発現する細胞におけるタンパク質の発現の誘発は、細胞が誘導の結果として測定可能なより多くのタンパク質を産生するように誘導される場合、「外因性」とみなされる。また、GluClタンパク質は、哺乳動物で発現されないことから、それらの発現は外因性であるとみなされることにも留意されたい。
【0025】
本発明の特定の実施形態は、薬物療法における使用のための本明細書に記載のベクターを提供する。
【0026】
本発明の特定の実施形態は、本明細書に記載のベクターの有効量を哺乳動物に投与することを包含する、それを必要とする哺乳動物における興奮性細胞関連の疾患または状態を処置する方法を提供する。
【0027】
本発明の特定の実施形態は、興奮性細胞関連の疾患または状態の予防的または治療的処置のための本明細書に記載のベクターを提供する。
【0028】
本発明の特定の実施形態は、それを必要とする哺乳動物において興奮性細胞関連の疾患または状態を処置するための医薬を調製するための、本明細書に記載のベクターの使用を提供する。
【0029】
本明細書で使用される「興奮性細胞関連の疾患または状態」という用語は、アニオン(例えば塩化物)チャネル活性及びカチオン(例えば、ナトリウム)チャネル活性の正味の効果に基づいて興奮性細胞の電気生理学的活性から生じるか、それを伴うか、または関連する任意の疾患または状態を指す。特定の実施形態では、疾患または状態は、興奮性細胞における異常な電気生理学的活性の結果であり得る(すなわち、そのような疾患または状態に罹患していない哺乳動物の興奮性細胞に存在する電気生理学的活性と比較して)。興奮性細胞関連の疾患または状態は、当該分野で公知であり、例えば、疼痛(例えば、慢性疼痛、例えば関節痛または神経因性疼痛)、炎症(例えば、関節炎症)、高眼圧症(例えば、緑内障)及び痙性緊張症(痙性)が挙げられる。したがって、特定の実施形態では、興奮性細胞関連の疾患または状態は、疼痛(例えば、慢性疼痛、例えば関節痛または神経因性疼痛)、炎症(例えば、関節炎症)、高眼圧症(例えば、緑内障)または痙性緊張症(痙性)である。
【0030】
特定の実施形態では、本方法は、1つ以上の他の治療剤(例えば、医薬品)を哺乳動物に投与することをさらに包含する。したがって、特定の実施形態では、この方法は、高眼圧症(例えば、緑内障)の処置に有用な1つ以上の他の治療薬(例えば、医薬品)を哺乳動物に投与することをさらに包含する。特定の実施形態では、1つ以上の他の治療剤は、β遮断薬(例えば、Timolol)または有害物質(例えば、Pilocarpine)または炭酸脱水酵素阻害薬(例えば、アセタゾラミド)または交感神経刺激薬(例えば、Dipivefrin)またはプロスタグランジンアナログ(例えば、ラタノプロスト)またはRhoキナーゼ阻害剤である。特定の実施形態では、本方法はさらに、疼痛(例えば、慢性疼痛、例えば関節痛または神経因性疼痛)を処置するために有用な1つ以上の他の治療薬(例えば、医薬品)を哺乳動物に投与することを包含する。特定の実施形態では、この方法は、炎症(例えば、関節炎)の処置に有用な1つ以上の他の治療剤(例えば、医薬品)を哺乳動物に投与することをさらに包含する。特定の実施形態では、1つ以上の他の治療剤は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(例えば、イブプロフェン)またはステロイドである。特定の実施形態では、この方法は、痙性緊張症の処置に有用な1つ以上の他の治療剤(例えば、バクロフェン、ベンゾジアゼピン、ダントロレンナトリウム、イミダゾリンまたはガバペンチンなどの薬剤)を哺乳動物に投与することをさらに包含する。特定の実施形態では、1つ以上の他の治療剤は、免疫系抑制剤、エンハンサー、抗生物質(例えば、殺微生物剤または殺菌剤)及びアドレナリンから選択され得る。
【0031】
本明細書に記載されるように、本発明の方法において使用され得るベクターは、発現カセットを含んでもよく、ここで発現カセットは、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸を含む。特定の実施形態では、多量体イオンチャネルは、内因性化合物によって活性化される。他の実施形態では、多量体イオンチャネルは、構成的に活性である。したがって、特定の実施形態では、アゴニスト(例えば、グリシン)またはイオンチャネルのアロステリックモジュレーターは、哺乳動物に投与されない。したがって、そのような実施形態では、上記の1つ以上の他の治療剤は、イオンチャネルのアゴニスト(例えば、グリシン)またはアロステリックモジュレーターではない。
【0032】
本明細書で使用される「アゴニスト」という用語は、受容体/イオンチャネルに結合し、この受容体/イオンチャネルを活性化して生物学的応答を生成することができる化学物質を指す。例えば、グリシンはGlyRアゴニストである。
【0033】
本明細書中で使用される場合、「アロステリックモジュレーター」という用語は、イオンチャネルを作動させるか、または拮抗(開放または閉鎖)し得る化学物質を指す。したがって、この用語は、アゴニスト及びアンタゴニストの両方を包含する。例えば、GlyRのアゴニストとしてはグリシン、タウリン及びベータアラニンが挙げられ、一方で、GlyRのアンタゴニストとしてはストリキニーネが挙げられる。さらに、この用語は、標的タンパク質、例えば受容体におけるアゴニストまたはインバースアゴニストの効果に間接的に影響を及ぼす(調節する)物質を包含する。アロステリックモジュレーターは、オルトステリックアゴニスト結合部位の部位とは異なる部位に結合し得る。通常、それらは、タンパク質構造内の立体配座変化を誘発する。正のアロステリックモジュレーター(PAM)またはアロステリックエンハンサーは、標的タンパク質に対するオルトステロイドアゴニストの結合親和性または機能的効力を増強することによって、オルトステリックアゴニストの効果の増幅を誘導する。ネガティブモジュレータ(NAM)は、オルトステリックリガンドの効果を減少させるが、オルトステリックリガンドの非存在下では不活性である。アロステリック結合部位を占有し、機能的に中性である物質は、サイレントアロステリックモジュレーター(SAM)と呼ばれる。古典的なベンゾジアゼピンは、GABA受容体の周知のPAMである。
【0034】
特定の実施形態では、本発明の方法は、哺乳類の食餌を改変することをさらに含んでもよい。特定の実施形態では、食餌は、哺乳動物の内因性グリシンのレベルを増大または減少させるように改変され得る。
【0035】
疼痛及び炎症の治療方法
本発明の特定の実施形態は、それを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト患者)において疼痛(例えば、慢性疼痛、例えば、関節痛または神経因性疼痛)を処置する方法であって、本明細書に記載のベクターの有効量を哺乳動物に投与することを包含する方法、を提供する。特定の実施形態では、この方法を使用して疼痛の感覚を軽減し得る。
【0036】
本発明の特定の実施形態は、それを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト患者)における炎症(例えば関節炎)の治療方法であって、有効量の本明細書に記載のベクターを哺乳動物に投与することを包含する方法も提供する。
【0037】
本発明の特定の実施形態は、哺乳動物の疼痛または炎症を処置するための医薬を調製するための、本明細書に記載のベクターの使用を提供する。
【0038】
本発明の特定の実施形態は、疼痛または炎症の治療的処置のための本明細書に記載のベクターを提供する。
【0039】
最大1億人のアメリカ人が慢性疼痛を患っていると推定されている。慢性疼痛では、患者のかなりの割合が現在の治療では不十分であり、そのような状態の薬理学的及び非薬理学的介入における大きなギャップを強調する。疼痛は孤立した疼痛であってもよいし、または疼痛は特定の疾患と関連する場合もある。疼痛は、限定するものではないが、慢性術後疼痛、神経腫、例えば、断端神経腫及びモートン神経腫、仙腸痛を含む関節痛、背部痛及び任意の公知のヒト疾患に伴う疼痛などの特定の状態に関連し得、これには限定するものではないが、糖尿病、関節炎、心血管疾患、自己免疫疾患、呼吸器疾患(例えば、肺気腫)、感染性疾患(例えば、ウイルスまたは細菌の感染)、神経学的疾患(例えば、アルツハイマー病)、胃腸疾患、肝臓疾患、血液障害、アレルギー、内分泌疾患、及びがんが挙げられる。疼痛は、口腔癌(例えば、舌癌及び口腔癌)、咽頭、消化器系(例えば、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、胆嚢及び膵臓)、呼吸器系(例えば、肺癌)、骨及び関節(例えば、骨転移、骨肉腫)、軟部組織、皮膚(例えば、黒色腫)、乳房、生殖器系(例えば、卵巣癌)、泌尿器系(例えば、膀胱癌、腎臓癌)、眼及び眼窩、脳及び神経系(例えば、神経膠腫)、または内分泌系(例えば、甲状腺)の癌に関連し得る。癌はまた、リンパ腫(例えば、ホジキン病及び非ホジキンリンパ腫)、多発性骨髄腫または白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病など)であり得る。また、慢性疼痛、例えば、限定するものではないが、脳卒中後疼痛または多発性硬化症に関連する疼痛、脊髄損傷、偏頭痛、HIV関連神経障害性疼痛、ヘルペス後神経痛、糖尿病性神経障害、膵炎、炎症性腸症候群、腰痛疼痛、線維筋痛、または神経障害もしくは損傷から生じる疼痛、例えば、開胸術後痛もしくはヘルニア修復後痛、または切断後の「断端疼痛」、または神経損傷、例えば、側方大腿皮神経閉塞(メルジア症疼痛)または他の状況から生じる疼痛(これにより、疼痛は、例えば、絞扼、虚血または炎症に起因する神経損傷から生じる)である。
【0040】
疼痛(例えば、慢性疼痛)の処置のために、本明細書に記載のベクターは、局所麻酔薬の送達に使用されるものと同様の従来の注射技術を用いて疼痛の部位に送達することができる。非限定的な例として、慢性術後疼痛(CPSP)またはヘルペス後神経痛(PHN)のような状態で皮膚から生じる疼痛を処置するために、皮内注射を使用しても、または皮下注射を使用してもよい。非限定的な例として、神経組織に直接注射を行って、モートン神経腫などの状態または切断後に生じる「断端神経腫」の状態を処置してもよい。また、非限定的な例として、糖尿病性神経障害または内臓癌に関連する疼痛などの局所痛の治療のために、神経線維及び神経幹または神経節に直接注射を行ってもよい。この治療法はまた、非限定的な例として変形性関節症、外傷、老化または炎症に伴う疼痛を低減するために関節に直接送達してもよい。これらの関節としては、椎間関節、仙腸関節、膝、股関節、肩、足首、手首、肘などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書に記載のベクターを用いて疼痛を処置する能力は、ある範囲の動物モデル、例えば、ヨード酢酸モノナトリウム誘発性変形性関節症(MIA-OA)モデル(Bove SE. et al.(2003)Osteoarthritis and Cartilage 11(11);821-30;Schuelert N.及びMcDougall JJ.(2009)Neuroscience Letters 465(2):184-188;Combe R.et al.(2004)Neuroscience Letters 370(2-3):236-240)または炎症性疼痛モデル、例えば、CFA(フロイント完全アジュバント)炎症性疼痛モデル(Fehrenbacher JC.et al.(2012)Current Protocols in Pharmacology 5.4.1-5.4.7、March 2012)を用いて試験してもよい。神経因性疼痛モデルはまた、神経の損傷から生じる疼痛など、例えば、Chungの脊髄神経結紮モデル(Chung JM et al.(2004)Methods Mol Med.99:35-45)、スペアード神経傷害(Spared Nerve Injury)モデル(Richner M.et al.(2011)Journal of Visualized Experiments 18(54):pii 3092)Bennett慢性狭窄神経損傷モデル(Austin PJ. et al.(2012)Journal of Visualized Experiments 13(61):pii 3393)またはリゾホスファチジン酸モデル(Inoue M.et al.(2004)Nat Med.10(7):712-718;Ogawa K et al.(2012)Eur J Pain 16(7):994-1004)を用いてもよい。
【0042】
本明細書に記載のように、本発明の特定の実施形態は、それを必要とする哺乳動物における疼痛の処置のための方法であって、哺乳動物に有効量の本明細書に記載のベクターを投与することを包含する、方法を提供する。このような実施形態では、このベクターは、発現カセットを含むウイルスベクター(例えば、AAVベクター)であってもよく、ここでこの発現カセットは、プロモーター及びクロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸を含む。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、AAV6ベクターである。特定の実施形態では、プロモーターは、ヒトシナプシン(hSyn)プロモーターである。特定の実施形態では、この核酸は、GlyRのサブユニットをコードする。特定の実施形態では、核酸は、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なイオンチャネルを生じる少なくとも1つの変異をサブユニットが含む、クロライドチャネルのサブユニットをコードする。特定の実施形態では、このサブユニットは、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRチャネルをもたらす少なくとも1つの変異を含むGlyRサブユニットである。
【0043】
グリシン及びタウリンの有意なレベルは、滑液(SF)、特に炎症を起こした関節のレベルにおいても存在する。以前の研究では、活動性関節炎状態の患者から抽出されたSFにおける興奮性アミノ酸(EAA)及び他の神経伝達物質のレベルの上昇が示されている(Appelgren A.et al.(1991)Scand J Dent Res.99:519-521;Larsson J.et al.(1991)Scand J Rheumatol.20:326-335;McNearney T.et al.(2000)J Rheumatol.27:739-745)。さらなる研究では、関節リウマチ患者の血漿アミノ酸(AA)値の上昇が正常対照と比較して報告されている(Trang LE.et al.(1985)Scand J Rheumatol.14:393-402)。増加したSF EAAレベルの供給源(複数可)は知られていないが、可能性としては、局所細胞産生、神経原性浸出、または滑膜を横切る血液または血漿からの受動拡散が挙げられる。症候性関節症におけるSF EAAの濃度上昇、ならびにSF RANTES及びMIP1-α濃度とのそれらの報告された関連付けによって、血漿からの受動拡散ではなく局所的な炎症性関節プロセスが、SF EAA濃度を決定することが示唆される(McNearney T.et al.(2004)Clin Exp Immunol.137:621-627)。これを評価するために、McNearney及びWestlundは、最近死亡した14人の死体及び9人の活動性関節炎の患者の膝から血漿及び滑液を同時に採取し、EAAと他のAAのレベルを測定して区画としてSF:血漿の濃度比を評価した。(McNearney T.及びWestlund K.(2013)Int J Clin Exp Pathol.6(3):492-497)。それらのデータによって、非関節炎サンプルでは、グリシン及びタウリンの平均SF:血漿濃度比がそれぞれ-2.11及び-1.57であることが示された。しかし、ライター症候群に罹患している患者では、グリシンの平均SF:血漿濃度比は、血漿中のSFの約2倍高かった。グリシンの上昇に加えて、SFグルタメートのレベルもこの患者において7.5倍に有意に上昇した。
【0044】
活動性関節炎におけるSF Glu及びAsp濃度の上昇の原因は不明であるが、可能性のある候補としては、血漿、関節嚢中の滑膜細胞もしくは骨細胞からの局所産生、または神経線維からの局所分泌が挙げられる。小さな生理学的分子は、通常、血漿と滑液の間で完全に平衡しているので、SF Glu及びAspは、サイズに基づいて、血漿と完全に平衡すると予想され得る(McCarty D.Arthritis及びAllied Conditions.Edited by Koopman WJ.Baltimore:Williams and Wilkins、1997;pp:81-102)。しかし、生前の関節炎のない死体由来のサンプルは、他の9つのAAと比較して、EAA SF:血漿濃度比を有意に低下させた。SF Glu及びAspの有意に大きな区画比の相違によって、血漿がSF EAAの単独の、または主要な供給源ですらないことが示される。生前関節炎がある1人の死体における、及び活性炎症性関節炎プロセスを有するいくつかの患者における、より高いSF:血漿濃度比によって、また、SF EAA濃度が関節における局所的な生理学的過程を反映するという仮説が支持される。これらの興奮性アミノ酸の最も可能性の高い供給源は、関節に物質Pを放出すると考えられるように、関節に供給される一次求心性神経末端からの刺激された放出であり得る(Yaksh TL.et al.(1988)Peripheral release of substance P from primary afferents.Proceedings from the Vth World Congress on Pain.Edited by Dubner R、Gebhart GF.Bond MR.Amsterdam:Elsevier、pp:51-54)。正常なラットに由来するSF EAA値は、低値が能動性関節炎の非存在下で生理学的であり、炎症性関節において上昇することが示唆される(Lawand NB.et al.(2000)Pain 86:69-74;Lawand NB.et al.(1997)Eur J Pharmacol.324:169-177)。以前の研究では、サルの炎症関節を供給する中央の関節神経においてGlu免疫反応性の増大が示されている(Westlund KN.et al.(1992)Brain Res Rev.17:15-27)。したがって、グルタミン酸塩が神経線維によって関節に放出されることも想定することは合理的である。ラットのカオリン/カラギーナン誘発性関節炎モデルでは、末梢神経からの神経伝達物質の放出を減少させる、関節内リドカインによる前処置により、SF Gluの予想される増大が抑止された(Lawand NB.et al.(2000))。局所的なグルタミン酸塩及びアスパラギン酸塩は、局所的な骨細胞、軟骨細胞及び滑膜細胞上の末梢受容体に結合して活性化し、局所的な炎症及び病状を増強または永続化し得る(Skerry TM.及びGenever PG.(2001)Trends Pharmacol Sci.22:174-181;Lawand NB.et al.(1997)Eur J Pharmacol.324:169-177;Flood S. et al.(2007)Arthritis Rheum.56:2523-2534;Gu Y. et al.(2002)Calcif Tissue Intl.70:194-203;Laketic-Ljubojevic I.et al.(1999)Bone 25:631-637;McNearney TA et al.(2010)Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol.298:R584-598;Ramage L.et al.(2008)Osteoarthritis Cartilage 16:1576-1584)。従って、炎症を起こした関節を支配する局所求心性神経の過分極が疼痛を軽減するだけでなく、また関節への炎症促進性のメディエーターの放出を減少させることによって炎症を減少させるとの予想は妥当である。
【0045】
高眼圧症の処置のための方法
本発明の特定の実施形態は、それを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト患者)における高眼圧症(例えば、緑内障)を処置する方法であって、本明細書に記載のベクターの有効量を哺乳動物に投与することを包含する方法、を提供する。特定の実施形態では、投与は、哺乳動物において眼内圧を低下させる。
【0046】
本発明の特定の実施形態は、哺乳動物における高眼圧症を処置するための医薬を調製するための、本明細書に記載のベクターの使用を提供する。
【0047】
本発明の特定の実施形態は、高眼圧症の治療的処置のための本明細書に記載のベクターを提供する。
【0048】
緑内障は、世界で2番目に大きな失明の原因であり、2020年までに全世界で5,860万人、米国で340万人に増大すると予測されている。緑内障は、大まかには、2つの主なカテゴリー、開放隅角及び閉鎖隅角(または閉塞角)緑内障に分類され得る。図3を参照すると、ヒトの目の特徴を示す解剖図が示されている。緑内障に関して、「角度」とは虹彩と角膜との間の空間を指し、これを通じて流体(房水(AH))が小柱網(TM)を介して眼から排出されなければならない。閉塞隅角緑内障は、突然出現することがあり、しばしば疼痛を伴う;視力喪失は迅速に進行することがあるが、不快感は、永久的な損傷が生じる前に患者が医療処置を求めることにつながることが多い。開放角の慢性緑内障は、より遅い速度で進行する傾向があり、患者は、病気が有意に進行するまで視力を失ったことに気付かないことがある。開放隅角緑内障の正確な病因論は未知のままである。しかしながら、ほとんどの緑内障患者にとっての主要な危険因子、及び処置の焦点は、眼内圧(IOP)の上昇、すなわち高眼圧症(OHT)である。網膜神経線維層における細胞喪失による視野の進行性喪失は、OHTの直接の結果である。視力喪失は、運転能力などの患者の生活の質及び移動性に悪影響を及ぼし、重大なマイナスのマクロ経済的影響をもたらす可能性がある。本発明は、主として、開放隅角緑内障におけるOHTの処置に関する。
【0049】
IOPは、眼の毛様体によって生成される房水によって主に維持される。毛様体が房水を生成すると、房水は、まず、後眼房(レンズ及び虹彩で囲まれる)に流入する。その後、虹彩の瞳孔を通って前眼房(虹彩及び角膜に囲まれている)に流れる。ここから、房水は、TMを通って流れ、シュレム管(SC)を介して正常な体循環に入る。ヒトの眼では、SCは、平均して毎分約3μlの房水を転送する。したがって、AHの合成と排液との間の微妙なバランスによって眼圧が維持される。OHTの主なメカニズムは、線維柱帯網またはブドウ膜強膜路を通る流出の減少である。主要な流出経路は、TMを介して行われ、TMはまた、房水の流出抵抗に最も寄与し、本発明の治療上の焦点である。
【0050】
緑内障管理の近代的な目標は、緑内障の損傷及び神経損傷を回避し、副作用を最小限に抑えながら患者の視野及び全身の生活の質を維持することである。緑内障のスクリーニングは、通常、標準眼検査の一部として実施され、眼圧検査を介したIOPの測定を含むべきである。
【0051】
IOPは、薬物(通常は点眼薬)により低下する場合がある。いくつかの異なるクラスの薬物が使用されており、各クラスにはいくつかの異なる薬物がある。しばしば、これらの医薬品のそれぞれの治療効果は、局所及び全身の副作用によって制限され得る。副作用が生じる場合、患者は一般的に、それらを容認するか、薬物レジメンを改善するために処置医師と連絡をとることを享受しなければならない。緑内障患者の視力喪失の主な理由として、投薬及びフォローアップ訪問の遵守不良が挙げられている(Nordstrom BL.et al.(2005)Am J Ophthalmol.140:598)。
【0052】
OHTを処置するために、特に先天性緑内障の患者のために、レーザー手術及び従来の手術の両方が行われている。彼らの成功率は高いものの、これらの手技は一般的に一時的な解決策であり、2年ごとのような定期的な再治療が必要である。ほとんどの場合、術後IOPを管理及び維持するためには依然として薬物治療が必要である。しかし、手術は必要な投薬量を減らす場合がある。
【0053】
したがって、OHTの治療のための強固でかつ信頼できる治療法の必要性が依然として存在する。例えば、AHの流出に対して水圧インピーダンスを低下させることによって、TMの細胞を弛緩させてIOPを低下させる処置方法。
【0054】
伝統的な概念では、小柱網は不活性組織であり、それ自体の調節特性はない。この概念では、流出抵抗の調節は、毛様体筋によって決定される。しかし、過去20年間に行われた研究により、毛様体筋によって受動的に拡張されることに加えて、小柱網は、それ自身の収縮特性を有すること、ならびにこの構造の収縮及び弛緩は、弛緩が眼圧を低下させるという意味で眼の流出に影響し得ることが確認された。十分な証拠によって、小柱網が平滑筋様の特性を有するという理論が支持される。さらに、小柱網細胞は、多数のトランスポーター、チャネル及び受容体を発現し、その多くは平滑筋収縮性を調節することが知られている。小柱網は、アセチルコリン及びエンドセリンなどの薬理学的薬剤に応答して収縮及び弛緩するように誘導され得ることが示された(Lepple-Wienhues A.et al.(1991)Exp Eye Res.53(1):33-38;Stumpff F.and Wiederholt M.(2000)Ophthalmologica.214(1):33-53)。細胞レベルでは、これは原形質膜の脱分極及び細胞内カルシウムの上昇と相まっている。この細胞内Ca2+の増大は、小胞体からのCa2+の放出によって媒介されるが、L型電圧ゲートののCa2+チャネルの開口を介して細胞外Ca2+の流入も媒介される。この効果は、L型電圧ゲートのチャネル遮断薬ニフェジピンによってブロックされ得る(Stumpff F.及びWiederholt M.(2000)Ophthalmologica.214(1):33-53)。一方、小柱網の弛緩は、過分極及びL型カルシウムチャネルの閉鎖を誘発する、マキシ-Kチャネルの刺激と関連しているようである(Stumpff F. et al.(1999)Invest Ophthalmol Vis Sci.40(7):1404-1417;Stumpff F.及びWiederholt M.(2000)Ophthalmologica.214(1):33-53)。
【0055】
TMの弛緩は、例えば、原子間力顕微鏡法(AFM)を用いて測定されるような網目構造のより大きなコンプライアンスをもたらすであろう。このようにして測定されたヤング率(コンプライアンスの尺度)は、小柱網の流れ抵抗と相関することが示されている。図4(米国特許出願公開2013/0184318号A1)に示されているように、正常眼の小柱網の顎傍領域(JCT)領域のヤング率は、1.1~6.5kPaであるのに対して、緑内障眼のJCTのヤング率は、100~250kPaである。
【0056】
本明細書に記載されているのは、TM細胞弛緩を引き起こすメカニズムである。これらの機構は、細胞内カルシウムの利用可能性を低下させるか、または細胞内の収縮要素を活性化するのに必要な細胞内カルシウムを利用する細胞の能力を弱めることによって、TM細胞の収縮性を低下させる。
【0057】
TMと平滑筋細胞との間の類似性、特に収縮を維持するために必要な細胞内Ca2+を提供するL型電圧ゲートのCa2+チャネルの役割を考慮して、平滑筋細胞は、TM細胞の薬理学的特性のモデルとして有用であり得る場合があるようである。したがって、気道平滑筋のCl流入及びその後の弛緩による細胞の過分極(Yim PD.et al.(2011)FASEB Journal 25(5):1706-1717)が予想され、及び実施例8(図18及び19)によって示されるように、TM細胞の同様の過分極が、TMの弛緩を生じることが予測される。
【0058】
上述の技術を用いて小柱網細胞の表面上に発現される構成的に活性なチャネルの使用は、リガンド活性化チャネルまたは光活性化チャネル(米国特許番号20150217133A1号)を上回る有意な利点を有する。リガンド活性化チャネル及び光活性化チャネルの活性は、リガンドの利用可能性及び濃度または光の放射照度レベルに依存する。リガンド活性化チャネルは、リガンドの効力及び薬物動態(PK)特性に依存する。標的組織に対するリガンドの接近可能性(特に、眼内の問題)、リガンドの局所的な遊離濃度、及び組織内のリガンドの滞留時間は全て、リガンドゲートのチャネルの活性パターンの重要な決定因子である。オプシンは、光の光子によって活性化されたときにのみ活性であり、したがって、低光(例えば、夜間)の期間、チャネルは活性ではない。化学的または物理的活性化剤への依存性は、構成的に活性なチャネルにとっては問題ではなく、生理的効果は、全ての条件下で、かつ患者が任意の薬物を服用する必要なく持続する。OHTとPOAGの場合、これらの患者のコンプライアンスが30~70%と推定されるため、これは非常に重要な利点である。オプシンの場合、日中ほとんどの患者には光が豊富であるが、夜間には、21mmHg未満のIOPを維持するために従来の薬物療法を使用する必要がある。リガンドゲートのチャネルの場合、これらは送達、代謝及びクリアランスという同じPKの問題、ならびに従来の薬理学的療法の使用を複雑にし、制限する副作用を起こしやすい。
【0059】
構成的に活性なクロライドチャネルのサブユニットのような、外因性の遺伝物質(すなわち、イオンチャネルのサブユニット)をコードする遺伝子の組織特異的送達及び細胞選択的発現を利用して、非限定的な例として、化学的または物理的刺激のいずれも使用せずにTM細胞内の収縮要素の弛緩を引き起こすアプローチが本明細書において提示されている。TMの弛緩は、TM組織構造の透過性を増大させ、水圧インピーダンスの低下をもたらし、それによって高いIOPを減少させてOHTを制御する。
【0060】
選択された外因性物質の哺乳類(例えば、ヒト患者)の眼への送達は、以下に記載されるような1つ以上のパラダイムに従ってもよく、これは、他のシステム及び/または構造に対するヒトの眼の独特の解剖学的位置/アクセスを利用し得る。Buie LK.et al.(2010)(Invest Ophthalmol Vis Sci.,51;1:236-48)に記載されているように、眼の流出経路の細胞の位置、形態及び生理学は、それら自身が効率的な遺伝子送達に役立つ。房水の自然な流れのおかげで、前房に送達された遺伝子は、優先的に小柱網に到達し得る。ベクターが一旦小柱網に到達すれば、小柱網細胞層の間及びその周りの流体の生理学的流れパターンは、より長い接触時間を有する転移分子を提供し得、細胞への進入を容易にし得る。
【0061】
標的解剖学的構造の細胞内で発現されるべき外因性受容体遺伝子材料を含む、本明細書に記載のベクターの送達は、限定されるものではないが、内部局所注射または適用を含む、1つ以上の構成で、シリンジまたは他のデバイスによる注射を包含し得る(すなわち、内視鏡技術などを介して、一般的には外科手術アクセスの後、解剖学的構造の標的部分に関連する組織構造の表面上、または解剖学的構造自体への注入)。これらの注入構成の各々は、以下により詳細に検討される。
【0062】
組織構造表面への房内投与または適用を利用して、遺伝物質(すなわち、本明細書に記載のベクター)を送達してもよい。組換えベクターは、そのような局所適用または曝露後に、組織及び感染細胞を通って拡散し得る。ウイルスベクターの局所適用の有効性は、ゲル中に懸濁したベクター溶液を用いて増大されている。一実施形態では、ベクターをゲル中に懸濁させ、組織の表面に適用するか、または標的組織と同じ解剖学的空間に配置してもよい。内部局所適用は、外科装置(カメラ、針、器具など)の挿入を可能にするために、眼の外層(複数可)及び他の関連組織構造を通して1つ以上の小さな切開を行うことができる腹腔鏡技術を用いて達成され得る。針は、(スリットランプ生体顕微鏡または手術顕微鏡のようなカメラまたは他の撮像装置によって視覚化されるように)、カメラ内に挿入されてもよい。全ての場合において、ベクターは、ゲル(例えば、Abbottの商品名「Healon」、またはAlconの「Viscoat」の商品名で販売されている製品)と混合し、次いで適切な組織の表面上に噴霧されても、塗装されても、または注射されてもよい。例えば、1×1011vgのAAVを含有する約0.1mLの生理食塩水の用量を用いて、各1cmの領域をカバーしてもよい。これらの範囲は例示的なものであり、標的TM細胞と対になる各ベクターについて用量を試験する。
【0063】
局所適用の1つの特定の例において、高眼圧は、顕微鏡的視覚化の下で針を使用して眼の前房内のベクター溶液またはゲルを局所適用することによって対処して、光生成物質の適切な細胞への移動を達成することができる。このベクターは、TMの細胞を感染させることを目的とする、利用可能なTM表面のできるだけ多くを覆うように、前房の房水中にボーラスとして、またはTM付近の複数の部位で、直接及び局所的に適用されてもよい。あるいは、ウイルスを含むゲルのプラグを前房に入れ、数時間にわたってウイルスを溶出させてもよい。ただし、プラグはTMを実質的に閉塞しないように配置するべきである。さらに別の実施形態では、同様の効果のために、ウイルス溶出性小柱栓を挿入してもよい。ベクトル注入を準備するために、Alconによる、BSSのような眼科用の平衡塩類溶液を使用してもよい。
【0064】
前房へのアクセスは、プロパラカイン(Alcaineとして、Alconが販売)のような局所麻酔剤を点滴した後に行われてもよく、Storzによる、Seibel 3-D Lid Speculumのようなリッドスペキュラムを挿入して、前房へ針注射を挿入してもよい。あるいは、針注射の代わりに、ASICOによるMIPダイヤモンドナイフのような鋭利な刺し刃を使用することにより、上顎側頭葉で穿刺を行ってもよい。ある量の房水を排出してもよく、ベクター注入は、穿刺によりACに挿入される、例えば、25~30ゲージの前房カニューレ、例えば、Storzによる、鈍い先端のKnolle Anterior Chamber Irrigating Cannulaを用いて行ってもよい。あるいは、置換された房水は、穿刺を介して術中に通気されてもよい。
【0065】
本明細書に記載のベクター(例えば、本明細書に記載の野生型または改変クロライドチャネルのサブユニットをコードする)能力及び小柱網へのその送達は、ラット、マウスまたはウサギのような正常な実験動物における眼圧に対する処置の効果を測定するなどある範囲の動物モデルを用いて試験してもよい。そのような測定は、眼圧計を用いて、意識がある動物または鎮静状態の動物のいずれで行ってもよい。あるいは、高眼圧症のモデルを使用して、治療の効果を測定してもよい。1つのこのようなモデルは、0.5%の酢酸プレドニゾロンを3週間または4週間、毎日3回眼に投与することによって生成される(Gerometta R.et al.(2008)Investigative Ophthalmology & Visual Science 50(2):669-73)。
【0066】
本明細書に記載するように、本発明の特定の実施形態は、それを必要とする哺乳動物における高眼圧症の処置方法であって、本明細書に記載の有効量のベクターを哺乳動物に投与することを包含する方法を提供する。このような実施形態では、ベクターは、発現カセットを含むウイルスベクター(例えば、AAV)であってもよく、ここでは、発現カセットは、プロモーター及びクロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸を含む。特定の実施形態では、ウイルスベクターはscAAV2ウイルスベクターである。特定の実施形態では、プロモーターは、マトリックスGlaタンパク質(MGP)プロモーターである。特定の実施形態では、核酸は、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なイオンチャネルを生じる少なくとも1つの変異をサブユニットが含む、クロライドチャネルのサブユニットをコードする。特定の実施形態では、このサブユニットは、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRチャネルをもたらす少なくとも1つの変異を含むGlyRサブユニットである。
【0067】
痙性緊張症の処置方法
本発明の特定の実施形態は、それを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト患者)における痙性緊張症(痙性)を処置する方法であって、有効量の本明細書に記載のベクターを哺乳動物に投与することを包含する方法、を提供する。
【0068】
本発明の特定の実施形態は、哺乳類における痙性緊張(痙性)を処置するための医薬を調製するための、本明細書に記載のベクターの使用を提供する。
【0069】
本発明の特定の実施形態は、痙性緊張(痙性)の治療的処置のための本明細書に記載のベクターを提供する。
【0070】
痙性は、特定の筋肉が連続的に収縮する状態である。この収縮は、筋肉の硬直または緊張を引き起こし、正常な運動、発声及び歩行を妨害し得る。痙性は、通常、随意運動を制御する脳または脊髄の部分の損傷によって引き起こされる。損傷は、神経系と筋肉との間の信号のバランスの変化を引き起こす。この不均衡は、筋肉の活動を増大させる。痙性は四肢の筋肉及び関節に悪影響を及ぼし、成長する子供に特に有害である。
【0071】
痙性は、世界中の推定1,200万人以上に影響を与える。脳性麻痺(CP)の人々の約80%が様々な程度の痙性を有する。CPのいくつかの形態が米国では50万人と推定され、これは約40万人がある程度のCP関連の痙性を伴うことに相当する。多発性硬化症(MS)の人々の約80%は様々な程度の痙性を有する。MS患者は米国で40万人と推定されているが、これは約32万人がある程度のMS関連の痙性を伴うことに相当する。痙性を生じ得る他の状態としては:外傷性脳損傷(TBI)、脊髄損傷(SCI)、酸素欠乏による脳損傷、脳卒中、脳炎、髄膜炎、副腎白質ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ルーゲーリック病)及びフェニルケトン尿症が挙げられる。
【0072】
痙性は、筋肉の緊張の感覚と同じくらい軽い場合もあるし、または疼痛を伴う制御不能な四肢(最も一般的には脚と腕)の痙攣を生じるほど深刻な場合もあり得る。痙性はまた、関節内及び関節周囲の疼痛または緊張感を生じ、腰痛を引き起こす場合がある。痙性の有害な影響としては以下が挙げられる:筋肉の硬さ、運動の精度の低下、特定の作業の実行が困難;制御不能でしばしば疼痛を伴う筋肉収縮を引き起こす筋痙攣;脚の不随意的な交差;筋肉及び関節の変形;筋肉疲労;縦方向の筋の成長の阻害;筋肉細胞におけるタンパク質合成の阻害。これらは、尿路感染症、慢性的な便秘、発熱または他の全身的な疾患及び圧痛のようなさらなる合併症を引き起こす可能性がある。
【0073】
以下の共通の目標を共有する、利用可能ないくつかのタイプの処置がある:痙攣の徴候及び症状の軽減;筋肉収縮の疼痛及び頻度の減少;歩行、衛生、日常生活の活動、及びケアの容易さの改善;身支度、摂食、移動及び入浴などの介護者の課題の軽減;対象物への到達、把持、移動及び解放などを含む自発運動機能の改善;小児のさらに正常な筋肉成長を可能にすること。これらの治療の選択肢としては、物理療法及び作業療法;経口薬、例えば、バクロフェン、ベンゾジアゼピン、ダントロレンナトリウム、イミダゾリン及びガバペンチンが挙げられる。髄腔内バクロフェン(ITB)ポンプ及び選択的背側神経根切断術(SDR)を含む外科的選択肢も利用可能である。
【0074】
ボトックス(Botox)注射剤としても公知のボツリヌス毒素(BTA)は、痙攣性の筋肉を麻痺させることによって、少量で使用すると効果的であることが証明されている。注射部位は、痙攣のパターンに基づいて注意深く決定される。ボトックスが筋肉内に注入されると、アセチルコリンの放出が阻止され、過活動性筋肉の弛緩が生じる。注射(複数可)は一般的には数日以内に効力を発揮するが、新しい神経終末が戻って罹患した筋肉(複数可)が回復するまで約12-16週間しか持続しない。投与可能な注射回数には限界がある。
【0075】
したがって、痙性の治療の選択肢は限られているため、侵襲性が低く、より効果的で患者に優しい治療が必要である。
【0076】
痙性の治療のために、本明細書に記載の有効量のベクターを哺乳動物(例えば、ヒト患者)に投与してもよい。例えば、複数の注射針を用いて、罹患した筋肉群にベクターを直接送達してもよい。処置中に、小さな電極が、患部の筋肉領域上の患者の皮膚にテープで取り付けられる。電極は、筋電図装置(EMG)に取り付けられる。EMGを用いて、注射前に針の位置を確認し、正しい筋肉が識別されていることを確認する。次いで、医師が、患者に筋肉群を動かすように求める。患者がこれを行えない場合、医師は患者の運動範囲の運動を行う。これによって、彼または彼女は注射から最大の利益を得ることを助けられる。このベクターは、EMG機械に取り付けられた小さな針を用いて筋肉に注入される。医師は、筋肉群に沿って、または多くの筋肉群内のいくつかの位置に少量のベクターを注射してもよい。これは、治療の利益を最大化するのに役立つ。特定の実施形態では、送達されるべきベクターは、Childers et alが記載したように、標的骨格筋群の全てもしくは一部(複数可)(Childers M.et al.(2014)Sci Transl Med.6(220):220ra210)、またはTowneらによって記載されているように、標的筋肉群を神経支配する運動神経の全てもしくは一部(Towne C.et al.(2010)Gene Therapy 17(1):141-6)のいずれかの過分極を引き起こすように調整してもよい。筋肉細胞または神経細胞のいずれかの標的化は、使用されるベクターのタイプ(例えば、AAVベクターサブタイプのタイプ)、ならびに発現カセットに含まれるプロモーターのタイプに基づいて決定される。
【0077】
本明細書に記載のベクターが痙性を処置する能力は、様々な動物モデルにおいて試験され得る。例えば、本発明のベクターは、選択された筋肉群に注射されてもよく、4~6週間の期間後、神経刺激に応答する筋肉の機能は、動物全体において(Fertuck HC.et al(1775)J Cell Biol.66、209-13)、または標的筋肉及びその関連する運動神経を除去し、インビトロで電気神経刺激に対する応答を測定すること(Franco JA.(2014)J.Vis.Exp.(91)、e51948、doi:10.3791/51948)によって測定され得る。
【0078】
特定の実施形態では、ベクターは、痙性を処置するために運動神経を標的とするように設計される。そのような状況では、ベクターは、AAVベクター(例えば、AAV6またはAAV2)であってもよい。特定の実施形態では、ベクターは、AAV6ベクターである。特定の実施形態では、ベクターは、発現カセットを含み、この発現カセットは、プロモーター及びクロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸を含む。特定の実施形態では、プロモーターは、ヒトシナプシン(hSyn)プロモーターである。特定の実施形態では、核酸は、GlyRクロライドチャネルのサブユニットをコードする。特定の実施形態では、サブユニットは、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRチャネルをもたらす少なくとも1つの変異を含むGlyRサブユニットである。
【0079】
特定の実施形態では、ベクターは、痙性を処置するために骨格筋細胞を標的とするように設計される。そのような状況では、このベクターはAAVベクターであってもよい。特定の実施形態では、このベクターはAAV8ベクターである。特定の実施形態では、このベクターはAAV9ベクターである。特定の実施形態では、ベクターは、発現カセットを含み、この発現カセットは、プロモーター及びクロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸を含む。特定の実施形態では、プロモーターは、ヒトサイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーターである。特定の実施形態では、プロモーターは、ニワトリβ-アクチン(「CBA」)プロモーターである。特定の実施形態では、プロモーターは、CAGまたは筋特異的デスミンプロモーターである。特定の実施形態では、核酸は、GlyRクロライドチャネルのサブユニットをコードする。特定の実施形態では、サブユニットは、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRチャネルをもたらす少なくとも1つの変異を含むGlyRサブユニットである。特定の実施形態では、ベクターは、発現カセットを含むAAV8ベクターであり、この発現カセットは、筋特異的デスミンプロモーター及びGlyRのサブユニットをコードする核酸を含み、このGlyRサブユニットは、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRチャネルを生じる少なくとも1つの変異を含んでいる。
【0080】
発現カセット
本明細書に記載のベクターは、本発明の方法において使用され得る。そのようなベクターは、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする発現カセットを含み得る。
【0081】
特定の実施形態では、発現カセットは、サブユニットが活性なイオンチャネルを形成する(例えば、多量体化する)ことができる多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸を含む。特定の実施形態では、サブユニットは、1つ以上のさらなるサブユニットと多量体化することによって活性なイオンチャネルを形成する。特定の実施形態では、1つ以上のさらなるサブユニットは、内因性に発現される。特定の実施形態では、1つ以上の追加のサブユニットが組換え発現される。特定の実施形態では、多量体イオンチャネルはホモマーである。特定の実施形態では、多量体イオンチャネルはヘテロマーである。
【0082】
本明細書で使用される場合、「多量体」という用語は、同じ(ホモマー)または異なる(ヘテロマー)であり得る複数のサブユニットを含むイオンチャネルを指す。特定のタイプの多量体イオンチャネルは、それらの種々のサブユニット及び立体配座と同様に以下に考察される。本明細書中で使用される場合、「多量体化」という用語は、サブユニットであって、同一であっても異なっていてもよく、内因性に発現されても、または組換え発現されてもよく、会合して機能的イオンチャネルを形成する、サブユニットを指す。
【0083】
特定の実施形態では、イオンチャネルは、クロライドチャネルであり/クロライドチャネル(例えば、選択的クロライドチャネル)として機能する。したがって、特定の実施形態では、核酸は、多量体クロライドチャネルのサブユニットをコードする。
【0084】
特定の実施形態では、イオンチャネルは、カリウムチャネルであり/カリウムチャネル(例えば、選択的カリウムチャネル)として機能する。したがって、特定の実施形態では、核酸は、多量体カリウムチャネルのサブユニットをコードする。
【0085】
イオンチャネル及びそのサブユニット
本発明の方法は、本明細書に記載のベクターを利用してもよい。そのようなベクターは、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする発現カセットを含んでもよい。例えば、これらのベクターを使用して、哺乳動物の特定の細胞(複数可)への多量体イオンチャネルの発現を標的とし、それによって細胞(複数可)(例えば興奮性細胞(複数可))の電気生理学的活性を調節してもよい。例えば、このような調節は、生理的効果(例えば、感覚ニューロンのコンダクタンスを変化させて疼痛を軽減する)をもたらし得る。
【0086】
以下の表1は、Cysループ受容体(すなわち、多量体イオンチャネル)、それらのサブユニット及びそれらのリガンドの非限定的なリストを含む。これらのイオンチャネル/サブユニットは、本明細書に記載の方法で使用してもよい。したがって、特定の実施形態では、イオンチャネルは、以下の表1に記載の少なくとも1つのサブユニットを含む。したがって、特定の実施形態では、発現カセットは、表1に記載のサブユニットから選択されるサブユニットをコードする核酸を含む。
【0087】
特定の実施形態では、多量体イオンチャネルは、グリシン受容体(GlyR)である。特定の実施形態では、コードされたサブユニットは、アルファ-1サブユニット、アルファ-2サブユニット、及びアルファ-3サブユニット、アルファ-4サブユニット及びGlyRのβサブユニットからなる群より選択される。特定の実施形態では、GlyRサブユニットは、1つ以上のさらなるサブユニットであって、同じであっても異なっていてもよく、内因性に発現されても、または組換えにより発現されてもよい、サブユニットと多量体化し得る。特定の実施形態では、コードされたサブユニットは、GlyR(GlyRa1)のアルファ-1-サブユニットである。特定の実施形態では、GlyRa1は、ヒトGlyRa1(hGlyRa1)である。GlyRサブユニットは、当該分野で公知である;様々なGlyRサブユニット配列の受託番号、ならびに特定のGlyRサブユニット配列が、以下に含まれる。
【0088】
特定の実施形態では、多量体イオンチャネルは、γ-アミノ酪酸受容体(GABAR)である。特定の実施形態では、多量体イオンチャネルは、GABAA-ρ受容体(GABA)である。特定の実施形態では、コードされたサブユニットは、GABRA1(α)、GABRA2(α)、GABRA3(α)、GABRA4(α)、GABRA5(α)、GABRA6(α)、GABRB1(β)、GABRB1(β)、GABRB1(β)、GABRG1(γ)、GABRG2(γ)、GABRG3(γ)、GABRD(δ)、GABRE(ε)、GABRP(π)、GABRQ(θ)、GABRR1(ρ)、GABRR2(ρ)及びGABRR3(ρ)からなる群より選択される。GABARサブユニットは、当該分野で公知であり;様々なヒトGABARサブユニット配列についての受託番号としては以下が挙げられる:GABRA1(NM_000806)、GABRA2(NM_000807)、GABRA3(NM_000808)、GABRA4(NM_000809)、GABRA5(NM_000810)、GABRA6(NM_000811)、GABRB1(NM_000812)、GABRB2(NM_021911)、GABRB3(NM_000814)、GABRG1(NM_173536)、GABRG2(NM_198904)、GABRG3(NM_033223)、GABRD(NM_000815)、GABRE(NM_004961)、GABRP(NM_014211)、GABRQ(NM_018558)、GABRR1(NM_002042)、GABRR2(NM_002043)及びGABRR3(NM_001105580)。
【0089】
特定の実施形態では、多量体イオンチャネルは、グルタメートゲートのクロライドチャネル(GluCl)である。特定の実施形態では、コードされたサブユニットは、α、α2A、α2B、GBR2A(α3A)、GBR2B(α3B)及びβからなる群より選択される。上記のように、GluClタンパク質は、哺乳動物において発現されず、免疫特権でない組織において免疫応答を引き起こし得る。したがって、本発明の特定の方法では、発現カセットを含むベクターであって、この発現カセットがGluClのサブユニットをコードする核酸を含むベクターは、限定されるものではないが、中枢神経系(脳及び脊髄を含む)及び眼を含む免疫特権細胞に対して標的され得る。GluC1サブユニットは、当該分野で公知である。種々のGluClサブユニット配列の受託番号としては、GluClアルファ(AY195802.1)及びGluClベータ(AY195803.1)が挙げられる。
【0090】
特定の実施形態では、このサブユニットは、少なくとも1つの変異(すなわち、突然変異タンパク質サブユニット;例えば、対応する野生型サブユニットと比較して)を含む。特定の実施形態では、コードされたサブユニットは、対応する野性型サブユニットに対して、約70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0091】
「野生型」または「天然に存在する」または「天然の」とは、なんら既知の突然変異なしに自然界に見出される正常な遺伝子、タンパク質または生物を指す。したがって、「野生型サブユニット」とは、なんら既知の突然変異のない自然界に見出される正常なサブユニットを指す。対応するサブユニットは、同じタイプ及び種のサブユニット、例えば、野生型hGlyRa1と比較した変異体hGlyRa1を指す。
【0092】
特定の実施形態では、サブユニットは、(例えば、対応する野生型イオンチャネルと比較して)イオンチャネルのアゴニスト感受性を高める少なくとも1つの変異を含む。
【0093】
特定の実施形態では、このイオンチャネルは、内因性アゴニスト/リガンドによって活性化され得る。
【0094】
特定の実施形態では、コードされたサブユニットは、そのサブユニットの多量体化の際に構成的に活性なイオンチャネルをもたらす少なくとも1つの変異を含む。そのような構成的に活性なイオンチャネルは、以下により詳細に考察される。
【表1-1】
【表1-2】
表1.Cys-ループリガンドゲートイオンチャンネルのメンバー及びそれらのそれぞれのサブユニット及びそれらのアミノ酸リガンド。列挙されたチャネルは、Cys-ループリガンドゲートのイオンチャネルの塩化物選択的メンバーである。成人型のGlyRは、3つのαサブユニットと2つのβサブユニットまたは4つのαサブユニット及び1つのβサブユニットの化学量論を有すると考えられるヘテロマーのαβ受容体である。5つのサブユニットは、GABAチャネルを形成するために異なる方法で組み合わせてもよい。GABAゲートのイオンチャネルを生成するための最低限の要件は、αサブユニット及びβサブユニットの両方を含むことであるが、脳内で最も一般的なタイプは、2つのα、2つのβ及びγを含む五量体(αβγ)である。GluClチャネルは、αサブユニット及びβサブユニットからなる五量体構造である。α-及びβ-サブユニットの比率は固定されていないが、通常、それぞれ相補的な3または2つのβサブユニットを有する2または3つのαサブユニットからなる。GlyR及びGluClの場合、α-サブユニットは、哺乳動物細胞系において機能的ホモ五量体受容体を形成し得る。
【0095】
グリシン受容体(GlyR)
GlyRは、中枢神経系(CNS)における速い神経伝達を媒介するリガンドゲートのイオン向性受容体のニコチニコイド(nicotinicoid)スーパーファミリーのメンバーである。GlyRの場合、グリシン(約100μMのEC50)または他のアゴニストの結合は、このアニオン選択性チャネルの一時的なゲーティングをもたらす。成人では、GlyRは、典型的に2αサブユニット及び3βサブユニットの化学量論を有すると考えられている(Rajendra S.et al.(1997)Pharmacol Ther.73(2):121-46)。しかしながら、ヒトα1サブユニットのみの異種発現は、天然のチャネルと本質的に同一の薬理学的特性を有する活性なグリシンゲートのチャネルを再構成するのに十分である(Sontheimer H.et al.(1989)Neuron 2(5):1491-1497;Jensen AA.及びKristiansen U.(2004)Biochemical Pharmacology 67(9):1789-1799)。したがって、本発明の方法における使用のために、GlyRタンパク質は、GlyRの野生型サブユニット(例えば、α1、α2、α3、α4またはβ)であってもよい。特定の実施形態では、GlyRサブユニットは、哺乳動物GlyRサブユニットであってもよい。特定の実施形態では、GlyRサブユニットは、対応する野生型GlyRサブユニットと比較して、1つ以上の変異を含んでもよい(すなわち、核酸は、GlyRサブユニットの突然変異タンパク質をコードし得る)。GlyRタンパク質は、十分に特徴づけられており(Rajendra S.et al.(1997)、Pharmacol Ther.73(2):121-46)、哺乳動物種由来の多くのサブユニットをコードする配列は、遺伝子データベースで索引付けされているか、そうでなければ利用可能である。例えば、GlyRのα1サブユニットに関連する配列は、NCBI受託番号NM_000171(ヒト)、NM_020492(マウス)及びNM_013133(ラット)で見出され得る。GlyRのα2サブユニットに関連する配列は、NCBI受託番号NM_002063(ヒト)、CR450343(cDNA)(ヒト)、NM_183427(マウス)及びNM_012568(ラット)に見出すことができる。GlyRのアルファ3サブユニットに関連する配列は、NCBI受託番号NM_0062929(ヒト)、NM_001042543(ヒト)、BC036086(ヒト)、NM_080438(マウス)、AY230204(マウス)、AF362764(マウス)、及びNM-053724(ラット)で見出され得る。GlyRのアルファ4サブユニットに関連する配列は、NCBI受託番号NM_010297(マウス)及びBC110630(マウス)で見出され得る。GlyRのベータサブユニットに関連する配列は、NCBI受託番号NM_000824(ヒト)、NM_010298(マウス)及びNM_053296(ラット)に見出すことができる。
【0096】
野生型GlyRサブユニットに加えて、改変された活性を有するGlyRサブユニットの変異体(突然変異タンパク質)もまた公知であり、本発明の文脈で使用することができる。これに関して、核酸は、対応する野生型GlyRサブユニット(すなわち、突然変異タンパク質GlyRサブユニット)と比較して、1つ以上の突然変異を含むGlyRサブユニットをコードし得る。例えば、GlyRタンパク質の特定の突然変異タンパク質は、カチオン性イオンチャネルを生じるような、変化したイオンチャネル特性を生じる(例えば、Δ250 A251E:Keramidas A.et al.(2002)J.Gen.Physiol.119、393-410)。アロステリックモジュレーターの亜鉛増強または亜鉛阻害(Hirzel K.et al.(2006)Neuron 52:679-690)親和性の部位を欠く他の突然変異タンパク質が知られている(例えば、麻酔増強(Hemmings HC.et al.(2005)Trends Pharmacol.Sci.26,503-10)、またはリガンドに対する親和性(Rajendra S.et al.,(1995)Neuron 14、169-175;Schrnieden V.et al.(1993)Science 262、256-258)。GlyRサブユニットの変異はまた、イオン透過(例えば、陰イオン選択性または陽イオン選択性チャネル)を選択的に変化し得、受容体サブユニットのリガンド結合ポケットを再設計して固有の薬理学的因子を認識する。例えば、特定のリガンドについてGlyRタンパク質の感度及び選択性を変更するために、GlyRα1サブユニットにおいて、用量応答曲線を左または右にシフトさせると予想される(すなわち、グリシンに対してより少なくまたはより特異的である)点突然変異を作成してもよい。
【0097】
変異体型のサブユニット(例えば、GlyR)は、当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて生成してもよい。このような方法としては、例えば、部位特異的突然変異誘発、PCRによるランダム突然変異誘発、DNAのリンカースキャニング突然変異誘発、及び化学的突然変異誘発が挙げられる(例えば、Ausubel et al.,eds.、Short Protocols in Molecular Biology、5thEd.,John Wiley & Sons、Inc.(2002)を参照のこと)。
【0098】
本明細書中に記載されるベクターから標的細胞中で一旦発現されると、GlyRサブユニットは、多量体化して細胞の表面上にチャネルを形成し得る(例えば、興奮性細胞)。これらのチャネルは、末梢循環グリシン(内因性グリシン)によって活性化され得る。グリシンの血中濃度は、約230~330μMであると報告されている。具体的には、正常成人男性では、242.0±44.0μM、正常成人女性では258.0±64.0μM(Geigy Scientific Tables,8th Rev edition,pp.93.Edited by C.Lentner,West Cadwell,N.J.:Medical education Div.,Ciba-Geigy Corp.Basel,Switzerland c1981-1992);正常成人では両方の性別とも329.9+/-105.6μM(Psychogios N.et al.(2011)PLoS One 6(2):e16957);正常な成人男性では212.4+/-57.4μM(Grant SL.et al.(2006)J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci.844(2):278-82);正常な成人では両方の性別とも230.0μM(178.0-282.0μM)(Cynober LA.(2002)Nutrition 18(9):761-6);正常な成人では両方の性別とも325.4+/-126.8μM(Psychogios N.et al.(2011)PLoS One 6(2):e16957)であった。
【0099】
神経の求心性がグリシン受容体のαサブユニットでトランスフェクトされた場合、神経細胞の生理学は、1)ヒト血中に報告されているグリシンの上記レベル;2)関節炎関節において、グリシンのレベルが血液中のレベルの約2倍であるという観察(McNearney T.及びWestlund K.(2013)Int J Clin Exp Pathol.6(3):492-497);ならびに3)αサブユニットのみの発現によって形成されるGlyRのグリシン感受性の観察(ED50=85~100μM)(Sontheimer H.et al.(1989)Neuron 2(5):1491-1497;Jensen AA.and Kristiansen U.(2004)Biochemical Pharmacology 67(9):1789-1799)に基づいて、内因性のグリシンによって活性化されたグリシン受容体を介したClの流入に起因する膜電位の変化により変化し得ることが想定され得る。
【0100】
構成的に活性なイオンチャネル
上記で考察されたように、特定の実施形態では、多量体イオンチャネルは、構成的に活性なイオンチャネル(例えば、構成的に活性なGlyRまたはGluCl)であってもよい。したがって、構成的に活性なイオンチャネルを、本発明の方法において使用してもよい(例えば、興奮性細胞の活性を調節し、慢性疼痛、高眼圧症または痙性などの興奮性細胞関連の疾患または状態を処置する)。
【0101】
したがって、本発明の特定の実施形態では、発現カセットは、サブユニットが少なくとも1つの変異(すなわち、突然変異タンパク質サブユニット)を含む(その結果、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なイオンチャネルが生じる)、多量体イオンチャネル(例えば、単量体またはヘテロマーイオンチャネル)のサブユニットをコードする核酸を含む。特定の実施形態では、構成的に活性なイオンチャネルは、クロライドチャネルとして機能する。特定の実施形態では、構成的に活性なイオンチャネルは、カリウムチャネルとして機能する。
【0102】
本明細書で使用される「構成的に活性なイオンチャネル」という用語は、連続的に活性化され、かつアゴニスト(例えば、化学的または生物学的)または物理的アクチベータ(例えば、圧力、熱または光)またはそれが活性化される細胞の電気生理学的状態に暴露される必要はないイオンチャネルを指す。イオンチャネルの活性を測定するためのアッセイは、当技術分野で公知である。特定の実施形態では、実施例に記載のアッセイを用いて、イオンチャネルが構成的に活性化されているかどうかを判定してもよい。したがって、構成的に活性なイオンチャネルを利用するそのような実施形態では、アゴニストまたはアロステリックモジュレーターは、哺乳動物に投与されないであろう。
【0103】
非限定的な例として、Caenorhabditis elegansグルタメートゲートのクロライドチャネル(GluCl)の特定の変異は、構成的に活性または漏出性であることが示されている。これらの変異のいくつかは、表2に列挙されており、細胞膜で発現された場合、図1に記載されたそれらの活性は、塩化物イオンによって運ばれる基底コンダクタンスをもたらす。
【表2】
表2:最小の側鎖(アラニンまたはグリシン)を有するアミノ酸に対するGluClチャネルのα-サブユニットのM2ドメインにおけるロイシン9’残基の置換は、WT受容体とは有意に異なった、最大のバックグラウンドコンダクタンスを有する構成的にオープンなチャネルを生じた。β分岐側鎖(イソロイシン、バリンまたはスレオニン)を有する3つのL9’変異体は、平均してWT受容体よりも大きなバックグラウンドコンダクタンスを有したが、この増大は、サンプリングされた細胞の数に対して統計的に有意ではなかった。
【0104】
興奮性細胞の電気的活性を調節するために本発明の方法において構成的に活性なクロライドチャネルを利用する実施形態では、非限定的な例として、改変グルタメートゲートのクロライド(GluCl)チャネルを用いてもよい。塩化GluCl電流は、伝統的な神経伝達物質グルタメート及び半合成抗蠕虫薬のイベルメクチン(IVM)によってゲートされる。改変ホモマーのGluClチャネルの3.3Å分解能の結晶構造によって、これらのアゴニストのそれぞれの結合部位の位置が明らかになる(図2A、2B)。グルタメートは、2つのサブユニットの界面で細胞外ドメインに位置する古典的な神経伝達物質結合部位で結合する。イベルメクチンは、別個の通常ではない部位で結合し、隣接する2つのサブユニットの界面でも膜貫通らせんの上端部に挿入する。チャネルの構造的座標は、細孔ライニング残基の側鎖が明確に定義された開放孔構造を示す(図2C、2D)。1つの細孔ライニング残基、ロイシン9’(L9’)は、M2膜貫通ドメインの中間に存在する。L9’は、Cys-ループ受容体ファミリーのサブユニット間で高度に保存されており、疎水性チャネルゲートとして機能することが提唱されている(図2E、2F)(Unwin N.(1993)J Mol Biol.229:1101-1124;Miyazawa A.et al.(2003)Nature 423:949-955;Beckstein O.and Sansom MS.(2006) Phys Biol.3:147-159)。
【0105】
GluClチャネルのα-サブユニットのM2ドメイン中の高度に保存されたロイシン9’残基を7つの他の残基、L9’I、F、V、A、G、S、Tのそれぞれに変異させた(それによりL9’ロイシン残基は、それぞれイソロイシン、フェニルアラニン、バリン、アラニン、グリシン、セリンまたはトレオニンで置換された)(表2参照)。トランスフェクトされたHEK293細胞は、容量性補償なしに全細胞構成で電圧クランプされた。リガンドの非存在下で、電圧は50msにわたって-60mVから+60mVまで連続的に傾斜された。WT電流応答の一例を図1Aに示す。バックグラウンドコンダクタンスは、抵抗性電流傾斜の傾きから測定され、容量性電流オフセットから計算することができた各受容体の平均膜容量によって正規化された。GluCl WT及びWT-XFP受容体は、ニセトランスフェクトされた対照と異なることはない、最小のバックグラウンドコンダクタンスを示した(図1B)。最小の側鎖を有する2つのL9’変異、L9’A及びL9’Gは、WT受容体と有意に異なる最大のバックグラウンドコンダクタンスを有していた。(Frazier SJ.(2012)Optimization of the GluCl/IVM Neuronal Silencing Tool via Protein Engineering.PhD Thesis,California Institute of Technology)。
【0106】
上記のような、野生型GluClチャネルの、自然のチャネル活性もしくは構成的にオープンなチャネルへの変換、またはL9’におけるアミノ酸置換によるCl細孔の例は、例示的な実施形態を意味する。同様の改変を、設計及び試験して、Cysループ受容体ファミリーの任意のチャネル、特にグリシン受容体(GlyR)クロライドチャネル、GABA及びGABA受容体、ただし、より一般的には任意の生物体からの任意のイオンチャネルを変換してもよい。構成的に活性なチャネルを生じるクロライドチャネルの自発的開口を生じることが示されたGABA及びGABA受容体のα、β、γ及びρ-サブユニットの、保存されたいくつかのアミノ酸への変異の具体例を表3に記載する。
【表3】
表3.GABA及びGABA受容体の自発的活性を増大させて構成的に活性なクロライドチャネルをもたらすことが報告されている、チャネル細孔内のロイシン及びチロシン残基への変異。(Chang Y.and Weiss DS.(1999)Biophys J.77:2542-2551;Thompson SA.et al.(1999)Br J Pharmacol.127:1349-1358;Chang Y.and Weiss DS.(1998)Mol Pharmacol.53:511-523;Pan ZH.et al.(1997)Proc Natl Acad Sci USA 94:6490-6495)。
【0107】
したがって、特定の実施形態では、構成的に活性なイオンチャネルは、構成的に活性なGluClイオンチャネルである。特定の実施形態では、サブユニットはα-サブユニットであり、α-サブユニットは、多量体化して構成的に活性なGluClイオンチャネルを形成し得る。特定の実施形態では、サブユニットは、表2に記載のサブユニットのM2ドメインにおける少なくとも1つの突然変異を含む。特定の実施形態では、少なくとも1つの突然変異は、表2に記載のL9’AまたはL9’Gである。
【0108】
特定の実施形態では、構成的に活性なイオンチャネルは、構成的に活性なGlyRである。特定の実施形態では、サブユニットはα-サブユニット(例えばα-1)であり、ここでは、α-サブユニットは多量体化して構成的に活性なGlyRイオンチャネルを形成し得る。特定の実施形態では、サブユニットは、表2に記載のサブユニットのM2ドメインにおける少なくとも1つの変異を含む。特定の実施形態では、少なくとも1つの変異は、表2に記載のL9’AまたはL9’Gである。
【0109】
特定の実施形態では、構成的に活性なイオンチャネルは、構成的に活性なGABA受容体である。特定の実施形態では、この構成的に活性なイオンチャネルは、構成的に活性なGABA受容体である。特定の実施形態では、サブユニットはα-、β-またはγ-サブユニットであり、α-、β-またはγ-サブユニットは、多量体化して構成的に活性なGABA受容体を形成し得る。特定の実施形態では、サブユニットはρ-サブユニットであり、このρ-サブユニットは多量体化して構成的に活性なGABA受容体を形成し得る。特定の実施形態では、サブユニットは、表3に記載される少なくとも1つの変異を含む。従って、特定の実施形態では、コードされたサブユニットは、L263(例えば、L263S)に少なくとも1つの変異を有するGABAαサブユニット、L259に少なくとも1つの変異を有する(例えばL259S)GABAβサブユニット、L274に少なくとも1つの突然変異(例えばL274S)を有するGABAγ-サブユニット、またはT314(例えばT314A)、L317(例えば、L317A)またはL301(例えば、L301A、L301G、L301S、L301T、L301V、L301Y)に少なくとも1つの突然変異を有するGABAρ-サブユニットである。さらに、対応する突然変異は、他のタイプのイオンチャネル由来のサブユニットにおいてもなされ得る;そのような対応するアミノ酸は、配列アラインメントプログラムを用いて当業者によって同定され得る。
【0110】
プロモーター
特定の実施形態では、本明細書に記載の発現カセットは、プロモーターをさらに含んでもよい。特定の実施形態では、プロモーターは、核酸に作動可能に連結される。プロモーターは、標的化された細胞セット内のイオンチャネルサブユニットの発現を駆動するように選択され得る。これは、標的組織に特異性を付与し得る。したがって、特定の実施形態では、プロモーターは、組織特異的プロモーターである。
【0111】
例えば、疼痛(感覚ニューロン)または痙性(運動ニューロン)の処置の場合のように、標的細胞型がニューロンである場合、選択されたプロモーターは、汎ニューロン(pan-neuronal)ヒトシナプシン-1プロモーター(Syn1またはhSyn)(Iyer SM.et al.(2014)Nature Biotechnology 32(3):274-278)であろう。あるいは、ヒトサイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーターまたはニワトリβ-アクチン(「CBA」)プロモーター(いずれも神経特異的ではなく、それぞれが神経変性疾患の遺伝子療法試験で安全に利用されている))のようなユビキタスプロモーターを利用してもよい。
【0112】
痙性の処置のために骨格筋細胞を標的とする場合、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーター、ニワトリβ-アクチン(「CBA」)プロモーターまたは筋特異的デスミンプロモーターを使用してもよい(Childers M.et al.(2014)Sci Transl Med.6(220):220ra210;Falk DJ.et al.(2015)Molecular Therapy-Methods & Clinical Development 2:15007)。
【0113】
高眼圧症の処置のために小柱網(TM)を標的とする場合、流出経路のTM細胞へのAAV媒介遺伝子移入を介した標的遺伝子発現は、マトリックスGlaタンパク質(MGP)遺伝子由来のプロモーターフラグメントを使用して以前に示されている(Gonzalez P.et al.(2004)Invest Ophthalmol Vis Sci.45:1389-1395)。選択的な標的化はまた、TMの最も外側の前方及び後方領域に特異的に向けられた発現を有するキチナーゼ3様1(Ch3L1)遺伝子の5’プロモーター領域を用いて達成されている(Liton PB.et al.(2005)Invest Ophthalmol Vis Sci.46:183-190)。さらに、小柱網の多数の遺伝子プロファイリング研究が公開されており、小柱網細胞選択的プロモーターの追加の別の構成が提供される(Gonzalez P.et al.,(2000)Invest Ophthalmol Vis Sci.41:3678-3693;Wirtz,et al.(2003)Invest Ophthalmol Vis Sci.43:3698-3704;Tomarev,et al.(2003)Invest Ophthalmol Vis Sci.44:2588-2596;Liton,et al.(2006)Mol Vis.12:774-790;Fan,et al.(2008)Invest Ophthalmol Vis Sci.49:1886-1897;Fuchshofer,et al.(2009)Exp Eye Res.88:1020-1032;Paylakhi,et al.(2012)Mol Vis.18:241-254;Liu,et al.(2013)Invest Ophthalmol Vis Sci.54:6382-6389)。
【0114】
したがって、特定の実施形態では、プロモーターは、本明細書に記載の任意のプロモーターであり得る。特定の実施形態では、プロモーターは、調節可能なプロモーターである。特定の実施形態では、プロモーターは構成的プロモーターである。
【0115】
特定の実施形態では、プロモーターは、ヒトシナプシン-1プロモーター(Syn1またはhSyn)、ヒトサイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーター、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター、筋肉特異的デスミンプロモーター、マトリックスGlaタンパク質(MGP)プロモーターまたはそのフラグメント、及びキチナーゼ3様1(Ch3L1)遺伝子の5’プロモーター領域からなる群より選択される。
【0116】
特定の実施形態では、プロモーターは、イオンチャネル/サブユニットの発現を特定の細胞型に限定するように設計された選択的プロモーターである。したがって、特定の実施形態では、このプロモーターは、イオンチャネル/サブユニット(例えば、構成的に活性なイオンチャネル)の発現を、小柱網の細胞及び/または房水の排液に関連する他の細胞に限定するように設計された選択的プロモーターである。特定の実施形態では、このプロモーターは、イオンチャネル/サブユニット(例えば、構成的に活性なイオンチャネル)の発現をニューロン細胞(例えば、ヒトシナプシンプロモーター(hSyn))に限定するように設計された選択的プロモーターである。特定の実施形態では、プロモーターは、イオンチャネル/サブユニット(例えば、構成的に活性なイオンチャネル)の発現を筋肉細胞(例えば、デスミンプロモーター)に限定するように設計された選択的プロモーターである。
【0117】
特定の実施形態では、発現カセットは、マーカー遺伝子(例えば、GFPまたはYFPのような蛍光タンパク質をコードする遺伝子)をさらに含む。
【0118】
特定の実施形態では、発現カセットは、核酸配列に作動可能に連結された発現制御配列(例えば、エンハンサー)をさらに含む。発現制御配列及び配列を作動可能に連結するための技術は、当技術分野において周知である。
【0119】
細胞
本発明の特定の実施形態は、本明細書に記載の発現カセットを含む細胞を提供する。特定の実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞、例えば、眼に位置する細胞(例えば、小柱網細胞)、末梢神経系に位置する細胞(例えば、侵害受容性求心性神経細胞)または筋細胞である。特定の実施形態では、発現カセットは、ベクター中に含まれる。特定の実施形態では、ベクターは、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ポリオウイルス、HSV、またはマウスマローニー系のウイルスベクターである。特定の実施形態では、ベクターはAAV6ウイルスベクターである。
【0120】
ベクター
任意の適切な方法を用いて、哺乳動物(例えば、興奮性細胞などの哺乳類細胞)において、イオンチャネルサブユニット(例えば、GlyRまたはGluClなどのクロライドチャネルのサブユニット)の外因性発現を引き起こすかまたは誘導することができる。例えば、興奮性細胞のゲノム由来のサブユニットをコードする遺伝子の転写を活性化する薬剤を哺乳動物に投与してもよい。しかしながら、典型的には、イオンチャネルサブユニットの外因性発現は、遺伝子移入技術によって引き起こされるか、または誘導される。
【0121】
したがって、本発明の特定の実施形態は、本明細書に記載の発現カセットを含むベクターを提供する。さらに、特定の実施形態は、本明細書に記載のベクターを興奮性細胞(例えば、哺乳動物の興奮性細胞)に接触/導入させることを提供する。特定の実施形態はまた、本明細書に記載のベクターを哺乳動物に投与することを包含する(例えば、興奮性細胞における発現のため)。
【0122】
本明細書に記載の発現カセットを哺乳動物細胞(例えば、興奮性細胞)に導入するためには、任意の適切なベクターを使用してもよい。適切なベクターの例としては、プラスミド、リポソーム、分子コンジュゲート(例えば、トランスフェリン)、及びウイルスが挙げられる。
【0123】
特定の実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。ウイルス発現系は、標的となる解剖学的構造における強力な発現レベルのために、高い感染性/コピー数と組み合わせて、迅速かつ多用途に実施するという二重の利点を有する。組換えウイルスベクター内にパッケージングされた所望のプロモーター-タンパク質配列をコードするDNAの送達を含む技術などのウイルス発現技術は、標的された解剖学的構造を効果的にトランスフェクトするために哺乳動物で首尾よく利用されている。それらは、標的細胞の核に遺伝物質を送達し、それによって、そのような細胞が所望のタンパク質、例えばGluCl、GlyRまたは他のクロライドチャネルタンパク質のようなイオンチャネルのサブユニットを産生するように誘導する。イオンチャネルの場合、これらのタンパク質は、その後、細胞膜に輸送される。
【0124】
適切なウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルス系のベクター及びパルボウイルス系のベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)系のベクター、AAV-アデノウイルスキメラベクター及びアデノウイルス系のベクター)が挙げられる。特定の実施形態では、このベクターは、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、自己相補性AAV(scAAV)、ポリオウイルス、HSV、またはマウスマロニー系のウイルスベクターが挙げられる。特定の実施形態では、ベクターは、AAVベクターである。特定の実施形態では、ベクターは、特定のタイプの標的化された興奮性細胞について既知の向性を有するAAVベクターである。特定の実施形態では、このAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9及びrAAV2/6からなる群より選択される。特定の実施形態では、ベクターは、AAV6ウイルスベクターである。
【0125】
本明細書中に記載されるように、本発明のベクターは、発現カセットを含んでもよく、ここでこの発現カセットは、多量体イオンチャネルのサブユニット(例えば、GlyRまたはGluClのサブユニット)をコードする核酸を含む。特定の実施形態では、発現カセットは、所望の細胞集団においてのみタンパク質の発現を駆動する選択的プロモーターをさらに含んでもよい。皮膚、筋肉、関節、眼の部位、または他の周辺部位の接種後、ウイルスベクター(例えば、AAV)は、感染された細胞内で、コードされたタンパク質(例えば、GlyRまたはGluClのサブユニット)の発現を促進する1つ以上の細胞(例えば、興奮性細胞)に感染する。しかしながら、このようなベクターは、典型的には複製欠損であるため、細胞内で複製して他の領域に広がることはない。したがって、選択指向性を有するAAVベクターを用いてサブユニットをコードする核酸を送達する場合、接種部位を選択して、哺乳動物の予め選択された領域に対する処置を標的としてもよい。
【0126】
非限定的な例として、GlyRクロライドチャネル構成の場合、典型的には、ウイルスベクターは、「GlyRクロライドチャネル発現カセット」と呼ばれ得るものをパッケージングし、これは、GlyRクロライドチャネルのサブユニットをコードするDNA及びGlyRクロライドチャネルタンパク質の発現を駆動するように選択されるプロモーターを含む。アデノ随伴ウイルス(AAV)の場合、目的の遺伝子(この例ではGlyRクロライドチャネルサブユニット)は、ただ1つの活性クロライドチャネル発現カセットを有する一本鎖構成であってもよい。
【0127】
GluClまたはGlyRクロライドチャネルの構成及び発現カセットをAAVベクター内にパッケージングする場合、いくつかの構成を使用してもよい。AAVは、逆方向末端反復に隣接する4.7kbの一本鎖(ss)DNAを含む欠陥のあるパルボウイルスである。それらは感染のためのヘルパーアデノウイルスを必要とし、それらのゲノムは、複製及びパッケージングに必要とされるAAVタンパク質をコードする。細胞に入ると、ウイルスssDNAは、宿主酵素によって転写的に活性な二本鎖DNAに変換される。組換えAAVベクターは、そのウイルスタンパク質の両方をコードするDNAを、導入遺伝子発現カセットで置き換え、したがって、なんらオープンなウイルスリーディングフレームを含まない。この置換により、約4.5kb(4500塩基対(bp))の導入遺伝子挿入サイズが可能になる(Buie LK.et al.(2010)Invest Ophthalmol Vis Sci.51;1:236-48)。以下の遺伝子コード配列サイズに基づいて、AAVウイルスベクターにパッケージングできるGluCl及びGlyRサブユニットをコードする核酸を含む発現カセットの例を以下に示す:GluClのαサブユニット及びβサブユニット(以下に記載するチャネル)は、約1400bpであり;GlyRαサブユニットは約1200bpであり;ヒトシナプシン(hSyn))プロモーターの遺伝子コード配列のサイズは約500bpであり;一般的に使用される発現レポーターである単量体黄色蛍光タンパク質(mYFP)のサイズは、720bpである。
GluClを含む発現カセットの例
1.hSynプロモーター+GluCl-αサブユニット(約2Kb)
2.hSynプロモーター+GluCl-βサブユニット(約2Kb)
3.hSynプロモーター+GluCl-αサブユニット+mYFP(約2.7Kb)
4.hSynプロモーター+GluCl-βサブユニット+mYFP(約2.7Kb)
5.hSynプロモーター+GluCl-αサブユニット+hSynプロモーター+GluCl-βサブユニット(約4Kb)
及び可能性としては:
6.hSynプロモーター+GluCl-αサブユニット+hSynプロモーター+GluCl-βサブユニット+mYFP(約4.7Kb)
GlyRを含む発現カセットの例
1.hSynプロモーター+GlyR-αサブユニット(約1.7Kb)
2.hSynプロモーター+GlyR-αサブユニット+mYFP(約2.4Kb)
【0128】
自己相補性AAV(scAAV)構造では、互いに配列中で相補的でヘアピンループによって接続された発現カセットの2つのコピーが、ウイルスエンベロープ内に封入される。scAAVは、より安定であり、特にいくつかの細胞、例えば小柱網細胞においてより高い発現レベルを示すと考えられている。scAAV発現カセットのサイズは、元の4.5~2.2kbから減少する(Buie LK.et al.(2010)Invest Ophthalmol Vis Sci.51;1:236-48)。scAAVのサイズ制限を考慮すれば、GluCl発現カセットの構成1または2(上記)及びおそらく3または4(上記)を、scAAVウイルスベクターにパッケージングしてもよい。しかし、GlyR発現カセットの構成1または2(上記)のいずれかを、scAAVウイルスベクターにパッケージングしてもよい。
【0129】
上記の発現カセットの上記説明において、GluCl及びGlyR受容体を、非限定的な例として使用した。同様の発現カセットを設計し、GABA及びGABA受容体のトランスフェクションに利用してもよい。さらに、遺伝子産物の発現は、ウイルスの異なる血清型(ウイルスキャプシドまたはコートタンパク質によって付与される)によって標的化され得る;異なる血清型は異なる組織指向性を示す。例えば、ウイルス(例えば、AAV)ウイルスは、特定の細胞型(例えば、侵害受容ニューロンなどの感覚ニューロン)を標的とするように設計してもよい。
【0130】
ウイルスは、中枢神経系、及びその末梢の両方における多くの組織構造及び系を標的とするために利用されている。例えば、侵害受容器への遺伝子移入は、慢性疼痛の管理のための有望な戦略であり、これによって神経系の制限部位での導入遺伝子の発現が可能になり、それによって標的外効果を誘発することなく疼痛関連経路を選択的に標的とする。
【0131】
侵害受容ニューロンへの遺伝子移入は、ウイルス及び非ウイルスの両方の方法によって達成されている。タンパク質の発現を駆動するプラスミドDNAは、感覚ニューロンに対してリポソームを介して(Meuli-Simmen C.et al.(1999)Hum Gene Ther.10:2689-700)、エレクトロポレーション(Lin CR.et al.(2002)Neurosci Lett. 317:1-4)及び中枢神経系への末梢注射または直接注射による高浸透圧希釈剤(Milligan ED.et al.(2006)Pain 126:294-308)によって送達されている。これらの方法の主な欠点は、一過性タンパク質発現が2週間を超えて持続しないことである。あるいは、ウイルスを使用して、さらに長い導入遺伝子発現を駆動してもよい。ウイルス媒介性遺伝子送達の有効性は、送達方法の種類及び使用されるウイルスの種類に主に依存する。アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、レンチウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)は、皮下(Wilson SP.et al.(1999)Proc Natl Acad Sci USA 96:3211-6;Goss,JR.et al.(2010)Molecular Therapy 19(3):500-506;米国特許第8957036号)、筋肉内(Ghadge GD.et al.(1995)Gene Ther.2:132-7)、神経内(Palmer JA.et al.(2000)J Virol.74:5604-18)、髄腔内(Storek B.et al.(2006)Mol Pain 2:4;Stroke B.et al,(2008)Proc Natl Acad Sci USA 105:1055-60、脊髄内(Pezet S.et al.(2006)Mol Ther.13:1101-9;Meunier A.et al.(2008)J Neurosci Methods 167:148-59、直接後根神経節注射(Xu Y.et al.(2003)Hum Gene Ther.14:897-906)、及びまたHSVの場合のウイルスの局所的適用(Antunes Bras JM.et al.(1998)J Neurochem.70:1299-303;Zhang G.et al.(2008)Anesthesiology 108:305-13)を含めて多数の送達経路を通じて非侵害性経路に導入遺伝子を送達することが報告されている。これらの研究により、好都合な部位での導入遺伝子発現及び疼痛関連行動の付随する低下が生じるが、形質導入プロファイルは、しばしば特徴づけられていない。これは、エンケファリン、エンドモルフィン及びインターロイキンのような細胞外環境で作用する分泌された導入遺伝子を利用する研究では一般的であり、ここでは、罹患した細胞近傍に導入遺伝子を送達し、疼痛感覚を調節するにはごくわずかな形質導入細胞しか必要としない(Mata M.et al.(2008).Curr Gene Ther.8:42-8)。
【0132】
2009年に、Towneらは、マウスの慢性疼痛の発生及び発症に関与する細胞機構を標的とするための遺伝子移入ツールとしての組換えAAV(rAAV)血清型6を評価した。rAAVは、それらの広い組織向性、効率的でかつ安定した形質導入(>年)、低い免疫原性及びインビボで有糸分裂後細胞に感染する能力のおかげで、強力な遺伝子移入ベクターである(Mandel RJ.et al.(2006)Mol Ther.13:463-83)。血清型6のベクター(rAAV2/6)は、マウスにおける以前の実験(Towne C.et al.(2008)Mol Ther.16:1018-25)における静脈内送達後の感覚繊維形質導入、及び中枢神経系への直接注射後の神経の高い向性(Azeredo da Silveira S.et al.(2009)Hum Mol Genet.18:872-87)の観察から選択された。Towneらは、種々の投与経路を通じてrAAV2/6を送達し、後根神経節(DRG)及び脊髄(Towne C.et al.(2009)Molecular Pain 5(1):52)内で得られた形質導入プロファイルを正確にマッピング及び比較した(Towne C.et al.(2009)Molecular Pain 5(1):52)。DRGニューロンに遺伝子を送達する組換えAAV血清型6(rAAV2/6)の能力を評価した。さらに、5つの異なる投与経路による侵害受容器の形質導入が、マウスにおいて特徴づけられた。緑色蛍光タンパク質(eGFP)を発現するrAAV2/6の坐骨神経中への直接注射によって、L4 DRGニューロンの最大30%eGFP陽性細胞が用量依存的に形質導入された。形質導入された細胞の90%超が、小から中の大きさのニューロン(<700μm)であり、主に侵害受容ニューロンのマーカーと共局在し、脊髄後角の表層の薄層にeGFP陽性の中央末端繊維を有していた。形質導入の効率及びプロフィールは、マウスの遺伝的背景とは無関係であった。rAAV2/6の髄腔内投与は、最高レベルの形質導入をもたらし(約60%)、同様のサイズプロファイルを有し、侵害受容ニューロンと共局在した。髄腔内投与はまた、子宮頸部及び胸部のレベルでDRGニューロンに形質導入し、神経因性疼痛のマウスモデルにおいて匹敵するレベルの形質導入をもたらした。皮下及び筋肉内送達は、L4 DRGにおける形質導入のレベルが低かった。同様に、尾静脈注射による送達は、DRG内の比較的少数のeGFP陽性細胞をもたらしたが、この形質導入は、全ての脊椎レベルで観察され、大きな非侵害受容性細胞型に対応した。これらのデータから、rAAV2/6は、マウスの侵害受容ニューロンに導入遺伝子を送達するための効率的なベクターであると結論した。さらに、形質導入プロフィールの特徴付けは、神経障害性疼痛の背後の機序を解明するための遺伝子導入研究を容易にし得る。
【0133】
これらの研究は、後にIyer et al.(2014)によって支持され、彼らは、光に応答して、興奮性または抑制性のオプシンのいずれかを有するマウスにおいて、求心性侵害受容器神経を選択的にトランスフェクトして、それぞれ、疼痛感覚を発生または抑制する送達ベクターとしてAAV6を再度使用した(Iyer SM.et al.(2014)Nature Biotechnology 32(3):274-278)。これらの研究は、特定のニューロン集団が、特定のAAV血清型を用いて選択的に標的化され得ることを示す。この場合、疼痛感知ニューロンは、AAV6を用いて選択的に標的化された。これらの研究はまた、AAV6が、皮下及び筋肉内送達後の侵害受容性求心性神経によって取り込まれ得ることを実証する。これによって、慢性関節痛のための皮内または関節内注射の場合のような疼痛の部位への局所注入が、同じ手足(接触など)またはその手足の運動活動からの他のニューロン媒介性感覚に影響を及ぼすことなく、疼痛を伴う領域または関節を局所的に神経支配する、侵害受容性神経を特異的かつ選択的にトランスフェクトするためのAAVベクター化遺伝子治療の実行可能な送達経路であることが強く示唆される。
【0134】
このアプローチの全体的な結果は、皮内、皮下または関節内経路を介して送達される局所麻酔薬の非常に長時間作用性の(長年にわたり持続することができる)麻酔効果に類似している。現在、仙腸関節ブロック(Rupert M.et al.(2009)Pain Physician 12(2):399-418)としても知られている、例えば、仙腸関節における皮膚または関節内に局所麻酔薬を注入することは、一般的な手技である。
【0135】
別の実施形態では、遺伝子産物(例えば、イオンチャネルサブユニット)は、眼内の構造体に対して標的化されてもよい。マウス、ラット、及び霊長類の眼に遺伝子を導入するために、レンチウイルスベクター及びアデノ随伴(AAV)ウイルスベクターが首尾よく利用されている(Borras T.et al.(2002)Invest Ophthalmol Vis Sci.43(8):2513-2518)。加えて、これらは、良好な耐容性を示し、報告された副作用がなく比較的長期間にわたり高度に発現され、長期の処置パラダイムの機会を提供する。
【0136】
ウイルスは、毛様体上皮、毛様体筋網膜神経節細胞及び小柱網細胞を含むが、これに限定されない多くの組織構造及び系を標的にするために利用されている。今日まで、少なくとも6つの送達系が、関連する組織または細胞に遺伝子を送達する能力について試験されている。これらとしては、アデノウイルス(Ad)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、レンチウイルス(LV;ネコ免疫不全ウイルス[FIV]及びヒト免疫不全ウイルス[HIV])、リポソーム(LP)、及び裸のDNAが挙げられる。これらのうち、AAVは、その安全性プロフィールのおかげで好ましいベクターであり得る。しかしながら、自己相補的なAAVは、AAVを含む伝統的な一本鎖DNAよりもTM細胞を感染させる上でより有効であり得るとことが文献報告で示唆されている。したがって、高眼圧症の処置のために小柱網内で遺伝物質が発現される特定の実施形態では、ウイルスベクターは、自己相補性AAV2(scAAV2)であってもよい。このベクターは、マウス及び霊長類の目に、小柱網細胞において、緑色蛍光タンパク質(GFP)の標的化及び長期発現を効果的にすることが示されている(Buie LK.et al.(2010)Invest Ophthalmol Vis Sci.51;1:236-48)。
【0137】
本明細書で考察するように、本発明のベクター(例えば、GlyRまたはGluC1サブユニットをコードする核酸を含む発現カセットを含む)は、痙性の処置のために使用され得る。特定の実施形態では、所望の効果をもたらすために必要とされるように、サブユニットの発現を筋肉ニューロンもしくは運動ニューロンのいずれかまたは両方に標的してもよい。例えば、痙攣性緊張(痙性)の処置のために運動ニューロンにおいて遺伝物質が発現される場合、ベクターとは、弛緩すべき筋の筋内または神経筋接合部に注入されたAAV6ベクターであり得る。このベクターは、非ヒト霊長類の運動ニューロン細胞における緑色蛍光タンパク質(GFP)の標的化及び効果的な長期発現に有効であることが示されている(Towne C.et al.(2010)Gene Therapy 17(1):141-6)。例えば、痙性緊張症(痙性)の処置のために、サブユニットが骨格筋で発現されるべき場合、ベクターはAAVタイプ1、3、または5のうちの1つであり得る(Chao H.(2000)Molecular Therapy 2(6):619-23)またはAAV8(Childers M.et al.(2014).Sci Transl Med. 6(220):220ra210)またはAAV9(Falk DJ.et al.(2015)Molecular Therapy-Methods & Clinical Development 2:15007)。これらのベクターは、NOD/SCIODマウスの骨格筋細胞におけるイヌ第IX因子の標的化及び効果的な長期発現に有効であることが示されている。このベクターは、治療される筋肉に直接注射される。
【0138】
ベクターの調製及び投与
本明細書に記載のベクターを作製した後、ベクターを精製してもよい。組成物中のベクターの濃度を増強するためのベクター精製は、密度勾配精製、クロマトグラフィー技術、または限界希釈精製などの任意の適切な方法によって達成され得る。特定の精製技術は、当業者に公知であり、ベクターの種類(例えば、AAVの種類のようなウイルスの種類)に依存して変化するであろう。
【0139】
本発明の特定の実施形態では、ベクターは、AAVベクターのようなウイルスベクターである。一般に、ウイルスベクターは、十分なウイルスを細胞集団に送達して、その細胞が所定の数のウイルスに確実に対抗することができるようにさせる場合に最も有用である。したがって、本発明は、ウイルスベクター(例えば、AAVベクター)を含むストック、好ましくは均一ストックを提供する。ウイルスストック(例えば、AAVストック)の調製及び分析は、当技術分野において周知である。ウイルスストックは、ウイルス遺伝子型、ならびにそれらを調製するために使用されるプロトコール及び細胞系に大きく依存して、力価においてかなり変化する。特定の実施形態では、そのようなストックは、少なくとも約10pfuまたはさらにより具体的には少なくとも約10pfuなど、少なくとも約10プラーク形成単位(pfu)のウイルス力価を有する。さらにより具体的な実施形態では、力価は、少なくとも約10pfu、または少なくとも約10pfuであってもよい。特定の実施形態では、ストックは、少なくとも約1010pfuまたは少なくとも約1011pfuの高力価のストックである。
【0140】
本発明はさらに、本明細書に記載のベクター(例えば、AAVベクター)及び担体を含む組成物を提供する。組成物の担体は、ベクターのための任意の適切な担体であり得る。担体は、典型的には液体であるが、固体であっても、または液体及び固体成分の組み合わせであってもよい。担体は、望ましくは、薬学的に許容される(例えば、生理学的または薬理学的に許容される)担体(例えば、賦形剤または希釈剤)である。薬学的に許容される担体は周知であり、容易に入手可能である。担体の選択は、組成物を投与するために使用される特定のベクター及び特定の方法によって少なくとも部分的に決定される。この組成物は、特に、組成物及び/またはその最終用途の安定性を高めるために、任意の他の適切な成分をさらに含んでもよい。従って、本発明の組成物の広範な種々の適切な製剤が存在する。以下の処方及び方法は、単なる例示であり、決して限定するものではない。
【0141】
上記のように、本明細書に記載のベクターは、薬学的組成物として処方され、選択された投与経路に適合した様々な形態、すなわち、経口的にまたは非経口的に、静脈内、筋肉内、局所または皮下経路で、ヒト患者のような哺乳動物宿主に投与されてもよい。
【0142】
ベクターは、皮内、皮下、気管内、筋肉内または眼内の注入もしくは注射によって投与されてもよい。局所(局地的)注射または非経口投与に適した製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び製剤を意図されたレシピエントの血液と等張にする溶質を含み得る水性及び非水性の等張性滅菌注射溶液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、及び防腐剤を含み得る水性及び非水性の滅菌懸濁液が挙げられる。ベクターの溶液は、必要に応じて無毒性界面活性剤と混合されたた水中で調製してもよい。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン、及びそれらの混合物中で、ならびに油中で調製されてもよい。通常の保存及び使用条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐために保存剤を含む。この製剤は、アンプル及びバイアルのような単位用量または複数用量密封容器で提供されてもよく、使用の直前に、注射のための、滅菌液体賦形剤、例えば、水を添加することしか必要としない凍結乾燥(freeze-dried)(凍結乾燥(lyophilized))状態で保管されてもよい。即時注射溶液及び懸濁液は、前述の種類の滅菌の粉末、顆粒及び錠剤から調製してもよい。
【0143】
注射または注入に適した医薬剤形としては、必要に応じてリポソームにカプセル化された、滅菌注射可能または注入可能な溶液もしくは分散液の即時調製に適合したベクターを含む、滅菌水溶液または分散液または滅菌粉末が挙げられる。全ての場合において、最終的な剤形は、製造及び貯蔵の条件下において無菌で、流動性があり、かつ安定でなければならない。液体担体またはビヒクルは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、非毒性のグリセリルエステル、及びそれらの適切な混合物を含む溶媒、または液体分散媒体であってもよい。適切な流動性は、例えば、リポソームの形成によって、分散液の場合には必要とされる粒子サイズの維持によって、または界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖、緩衝剤または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物中での使用によってもたらされ得る。
【0144】
滅菌注射溶液は、必要に応じて、上に列挙した種々の他の成分を用いて、適切な溶媒中に必要量のベクターを組み込み、続いて滅菌することによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌ろ過された溶液中に存在する有効成分プラス任意の追加の所望の成分の粉末を生じる真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0145】
本ベクターはまた、不活性希釈剤のような薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせて局所投与することもできる。局所投与のために、本発明のベクターは、純粋な形態で、すなわちそれらが液体である場合に適用され得る。しかしながら、液体であってもよい皮膚科学的に許容される担体と組み合わせて、それらを組成物または製剤として皮膚に投与することが一般的に望ましいであろう。
【0146】
有用な液体担体としては、水、アルコールまたはグリコールまたは水-アルコール/グリコールブレンドが挙げられ、ここで本ベクターは、必要に応じて非毒性界面活性剤の助けを借りて有効なレベルで溶解または分散され得る。所与の用途のための特性を最適化するために、芳香剤及び追加の抗菌剤などのアジュバントを添加してもよい。得られた液体組成物は、吸収パッドから塗布してもよいし、包帯及び他の包帯に含浸させるために使用してもよいし、またはポンプ型噴霧器もしくはエアロゾル噴霧器を使用して患部に噴霧してもよい。
【0147】
合成ポリマー、脂肪酸、脂肪酸塩及びエステル、脂肪アルコール、変性セルロースまたは変性鉱物材料などの増粘剤もまた、液体担体と一緒に用いて、ユーザーの皮膚に直接塗布するための、展延性ペースト、ゲル、軟膏、石けんなどを形成してもよい。
【0148】
本発明のベクターを皮膚に送達するために使用することができる有用な皮膚科学的組成物の例は、当該分野で公知である。例えば、Jacquet et al.(米国特許第4,608,392号)、Geria(米国特許第4,992,478号)、Smith et al.(米国特許第4,559,157号)及びWortzman(米国特許第4,820,508号)を参照のこと。
【0149】
本明細書に記載のベクターの有用な用量は、インビトロ活性及び動物モデルにおけるインビボ活性を比較することによって決定してもよい。マウス及び他の動物における有効投薬量をヒトに外挿する方法は、当該分野で公知である;例えば、Nathwani AC.et al.(2011)Mol Ther.19:876-885;Nathwani AC.et al.(2014)N Engl J Med.371(21):1994-2004を参照のこと。
【0150】
処置に使用するのに必要なベクターの量は、投与経路、処置される状態の性質ならびに患者の年齢及び状態によって変化し、最終的には担当医または臨床医の裁量である。
【0151】
所望の用量は、単回用量で、または適切な間隔で、例えば1日あたり2、3、4またはそれ以上の副用量として投与される分割用量として都合よく与えられてもよい。副用量それ自体は、例えば、多数の別個のおおまかな間隔の投与にさらに分割されてもよい(目に対する複数の液滴の適用など)。
【0152】
本明細書で考察されるように、ベクターは、他の治療剤または生物学的に活性な薬剤、例えば興奮性細胞関連の疾患または状態、例えば疼痛、炎症、高眼圧症または痙性高緊張症を処置するのに有用な他の薬剤と組み合わされて投与されてもよい。さらに、免疫系抑制因子、エンハンサー、抗生物質またはアドレナリンは、本明細書に記載のベクターと組み合わせて投与されてもよい。したがって、一実施形態では、本発明は、本明細書に記載のベクター、少なくとも1つの他の治療剤または生物学的に活性な薬剤、及び薬学的に許容される希釈剤または担体を含む組成物も提供する。例えば、特定の適応症の処置に有用な治療因子が存在し得る。イブプロフェンまたはステロイドなどの炎症を制御する因子は、ベクターのインビボ投与を伴う腫脹及び炎症ならびに生理学的苦痛を軽減するための組成物の一部であり得る。免疫系の抑制因子は、ベクター自体に対する、または障害に関連する任意の免疫応答を低下させるための複合方法と共に施されてもよい。あるいは、疾患に対する身体の自然防御をアップレギュレートするために、免疫増強剤を組成物に含めてもよい。抗生物質、すなわち殺菌剤及び殺菌剤は、遺伝子移入手順に関連する感染及び他の障害のリスクを低減するために存在し得る。さらに、アドレナリンのような薬理学的に活性な薬剤を、製剤に添加して血管収縮を誘発し、局所麻酔薬として使用されるように注射部位からのAAVのクリアランスを減少させてもよい。本発明はまた、本明細書に記載のベクター、少なくとも1つの他の治療剤または生物活性剤、パッケージング材料、及び本明細書に記載のベクター、ならびに他の治療/生物学的に活性な薬剤(複数可)を動物に投与して、興奮性の細胞関連の疾患または状態を処置するための説明書を備えるキットを提供する。
【0153】
本発明の特定の実施形態
実施形態1.発現カセットを含むベクターであって、この発現カセットが、哺乳動物細胞の電気生理学的活性のインビボ調節のために、多量体イオンチャネル(例えば、クロライドチャネル)のサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、ベクター。
【0154】
実施形態2.哺乳動物細胞の電気生理学的活性のインビボ調節のための方法であって、多量体イオンチャネル(例えば、塩素チャネル)のサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットを含むベクターと細胞とを接触させることを包含する、方法。
【0155】
実施形態3.発現カセットを含むベクターであって、この発現カセットが、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、興奮性細胞関連の疾患または状態の予防的または治療的処置のためのベクター。
【0156】
実施形態4.それを必要とする哺乳動物における興奮性細胞関連の疾患または状態を処置する方法であって、発現カセットを含むベクターの有効量を哺乳動物に投与することを包含し、ここでこの発現カセットが、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、方法。
【0157】
実施形態5.実施形態1-4のいずれか1つに記載のベクターまたは方法であって、ここでこのサブユニットが、1つ以上のさらなるサブユニットと多量体化することによって多量体イオンチャネルを形成し得る、ベクターまたは方法。
【0158】
実施形態6.実施形態1~5のいずれか1つに記載のベクターまたは方法であって;処置がアゴニストまたはアロステリックモジュレーターの投与の非存在下であり、多量体イオンチャネルのアゴニストまたはアロステリックモジュレーターが哺乳動物に投与されない;及び/または哺乳動物細胞が外因性アゴニストまたは外因性アロステリックモジュレーターと接触していない、方法。
【0159】
実施形態7.アゴニストがグリシンである、実施形態6に記載に記載のベクターまたは方法。
【0160】
実施形態8.多量体イオンチャネルが内因性アゴニストによって活性化される、実施形態1~7のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0161】
実施形態9.核酸がクロライドチャネルのサブユニットをコードする、実施形態1~8のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0162】
実施形態10.核酸が、グリシン受容体(GlyR)、γ-アミノ酪酸受容体(GABAR)またはグルタメートゲートのクロライドチャネル(GluCl)のサブユニットをコードする、実施形態9に記載のベクターまたは方法。
【0163】
実施形態11.核酸がGlyRのサブユニットをコードする、実施形態10に記載のベクターまたは方法。
【0164】
実施形態12.コードされたGlyRサブユニットが、α-1サブユニット、α-2サブユニット、及びα-3サブユニット、α-4サブユニット及びβ-サブユニットからなる群より選択される、実施形態11に記載のベクターまたは方法。
【0165】
実施形態13.コードされたGlyRサブユニットが、GlyRのアルファ-1-サブユニット(GlyRa1)である、実施形態12に記載のベクターまたは方法。
【0166】
実施形態14.コードされたGlyRサブユニットが、ヒトGlyRa1(hGlyRa1)である、実施形態13に記載のベクターまたは方法。
【0167】
実施形態15.核酸がGABARのサブユニットをコードする、実施形態10に記載のベクターまたは方法。
【0168】
実施形態16.核酸がGABAA-ρ受容体のサブユニットをコードする、実施形態15に記載のベクターまたは方法。
【0169】
実施形態17.コードされたGABARサブユニットが、GABRA1(α)、GABRA2(α)、GABRA3(α)、GABRA4(α)、GABRA5(α)、GABRA6(α)、GABRB1(β)、GABRB1(β)、GABRB1(β)、GABRG1(γ)、GABRG2(γ)、GABRG3(γ)、GABRD(δ)、GABRE(ε)、GABRP(π)、GABRQ(θ)、GABRR1(ρ)、GABRR2(ρ)及びGABRR3(ρ)からなる群より選択される、実施形態15に記載のベクターまたは方法。
【0170】
実施形態18.上記核酸がGluClのサブユニットをコードする、実施形態10に記載のベクターまたは方法。
【0171】
実施形態19.コードされたGluC1サブユニットが、α、α2A、α2B、GBR2A(α3A)、GBR2B(α3B)及びβからなる群より選択される、実施形態18に記載のベクターまたは方法。
【0172】
実施形態20.コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと比較して少なくとも1つの突然変異を含む、実施形態1~19のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0173】
実施形態21.変異体サブユニットを含む多量体イオンチャネルが構成的に活性である、実施形態20に記載のベクターまたは方法。
【0174】
実施形態22.変異体サブユニットを含む多量体イオンチャネルが、対応する野生型多量体イオンチャネルと比較してアゴニスト感受性が増強されている、実施形態20に記載のベクターまたは方法。
【0175】
実施形態23.コードされたサブユニットが、M2膜貫通ドメインを含み、かつ少なくとも1つの変異が、対応する野生型サブユニットと比較してM2膜貫通ドメインにある、実施形態20~22のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0176】
実施形態24.対応する野生型サブユニットと比較して、少なくとも1つの変異がロイシン9’残基にある、実施形態23に記載のベクターまたは方法。
【0177】
実施形態25.少なくとも1つの変異が野生型サブユニットと比較してL9’AまたはL9’Gである、請求項24に記載のベクター、または方法。
【0178】
実施形態26.コードされたサブユニットは、対応する野性型サブユニットと比較して、少なくとも1つの変異がL263であるGABAα-サブユニット;少なくとも1つの変異がL259であるGABAβ-サブユニット;少なくとも1つの変異がL274であるGABAγ-サブユニット;または少なくとも1つの変異がT314、L317もしくはL301であるGABAρ-サブユニットである、実施形態20~22のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0179】
実施形態27.上記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと約80%の配列同一性~約99%の配列同一性を有する、実施形態20~26のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0180】
実施形態28.上記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと少なくとも90%の配列同一性を有する、実施形態27に記載のベクターまたは方法。
【0181】
実施形態29.上記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットと少なくとも95%の配列同一性を有する、実施形態28に記載のベクターまたは方法。
【0182】
実施形態30.上記コードされたサブユニットが、対応する野生型サブユニットに対して約99%の配列同一性を有する、実施形態29に記載のベクターまたは方法。
【0183】
実施形態31.上記プロモーターが調節可能なプロモーターである、実施形態1~30のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0184】
実施形態32.上記プロモーターが構成的プロモーターである、実施形態1~30のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0185】
実施形態33.上記プロモーターが組織特異的プロモーターである、実施形態1~30のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0186】
実施形態34.上記プロモーターが、ヒトシナプスシン-1プロモーター(Syn1またはhSyn)、ヒトサイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーター、ニワトリベータ-アクチン(「CBA」)プロモーター、筋特異的デスミンプロモーター、マトリックスGlaタンパク質(MGP)プロモーターまたはそのフラグメント、及びキチナーゼ3様1(Ch3L1)遺伝子の5’プロモーター領域からなる群より選択される、実施形態1~30のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0187】
実施形態35.上記ベクターがウイルスベクターである、実施形態1~34のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0188】
実施形態36.上記ウイルスベクターが、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、自己相補性AAV(scAAV)、ポリオウイルス、HSV、またはマウスマロニー系のウイルスベクターである、実施形態35に記載のベクターまたは方法。
【0189】
実施形態37.上記ウイルスベクターがAAVベクターである、実施形態36に記載のベクターまたは方法。
【0190】
実施形態38.上記AAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9及びrAAV2/6からなる群より選択される、実施形態37に記載のベクターまたは方法。
【0191】
実施形態39.上記ベクターがAAV6ベクターである、実施形態38に記載のベクターまたは方法。
【0192】
実施形態40.上記ベクターがscAAVベクターである、実施形態36に記載のベクターまたは方法。
【0193】
実施形態41.上記scAAVベクターがscAAV2ベクターである、実施形態40に記載のベクターまたは方法。
【0194】
実施形態42.上記興奮性細胞関連の疾患または状態が、疼痛、炎症、高眼圧症または痙性緊張症である、実施形態3~41のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0195】
実施形態43.上記興奮性細胞関連疾患が疼痛である、実施形態42に記載のベクターまたは方法。
【0196】
実施形態44.上記疼痛が慢性疼痛である、実施形態43に記載のベクターまたは方法。
【0197】
実施形態45.上記疼痛が関節痛または神経因性疼痛である、実施形態43または44に記載のベクターまたは方法。
【0198】
実施形態46.上記興奮性細胞関連の疾患または状態が炎症である、実施形態42に記載のベクターまたは方法。
【0199】
実施形態47.上記炎症が関節炎である、実施形態46に記載のベクターまたは方法。
【0200】
実施形態48.上記ベクターがAAV6ベクターであり、上記プロモーターがヒトシナプシン(hSyn)プロモーターであり、上記核酸がGlyRサブユニットをコードする、実施形態42~47のいずれか1つに記載のベクターまたは方法。
【0201】
実施形態49.上記GlyRサブユニットが、サブユニットの多量体化の際に恒常的に活性なGlyRをもたらす少なくとも1つの変異を含む、実施形態48に記載のベクターまたは方法。
【0202】
実施形態50.上記興奮性細胞関連の疾患または状態が高眼圧症である、実施形態42に記載のベクターまたは方法。
【0203】
実施形態51.上記興奮性細胞関連の疾患または状態が緑内障である、実施形態50に記載のベクターまたは方法。
【0204】
実施形態52.上記ベクターがscAAV2ベクターであり、上記プロモーターがマトリックスGlaタンパク質(MGP)プロモーターであり、かつ上記核酸がGlyRサブユニットをコードする、実施形態50または51に記載のベクターまたは方法。
【0205】
実施形態53.GlyRサブユニットが、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRを生じる少なくとも1つの変異を含む、実施形態52に記載のベクターまたは方法。
【0206】
実施形態54.上記興奮性細胞関連の疾患または状態が痙性緊張症である、実施形態42に記載のベクターまたは方法。
【0207】
実施形態55.上記ベクターがAAV2またはAAV6ベクターであり、上記プロモーターがヒトシナプシン(hSyn)プロモーターであり、上記核酸がGlyRサブユニットをコードする、実施形態54に記載のベクターまたは方法。
【0208】
実施形態56.上記GlyRサブユニットが、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRを生じる少なくとも1つの変異を含む、実施形態55に記載のベクターまたは方法。
【0209】
実施形態57.上記ベクターがAAV8またはAAV9ベクターであり、上記プロモーターがヒトサイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーター、ニワトリβ-アクチン(「CBA」)プロモーターまたはCAGもしくは筋特異的デスミンプロモーターであり、上記核酸はGlyRサブユニットをコードする、実施形態54に記載のベクターまたは方法。
【0210】
実施形態58.上記GlyRサブユニットが、サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRをもたらす少なくとも1つの変異を含む、実施形態57に記載のベクターまたは方法。
【0211】
実施形態59.上記ベクターがAAV8であり、上記プロモーターが筋特異的デスミンプロモーターである、実施形態57または58に記載のベクターまたは方法。
【0212】
実施形態60.1つ以上の他の治療剤を哺乳動物に投与することをさらに包含する、実施形態4~59のいずれか1つに記載の方法。
【0213】
実施形態61.前記1つ以上の他の治療剤が、疼痛、炎症、高眼圧症及び/または痙性緊張症の処置に有用な薬剤である、実施形態60に記載の方法。
【0214】
実施形態62.1つ以上の他の治療剤が、多量体イオンチャネルのアゴニストまたはアロステリックモジュレーターではない、実施形態60に記載の方法。
【0215】
実施形態63.前記1つ以上の他の治療剤がグリシンでない、実施形態62に記載の方法。
【0216】
実施形態64.興奮性細胞関連の疾患または状態の予防的または治療的処置のための医薬組成物であって、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、発現カセットを含むベクターと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【0217】
実施形態65.a)多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、発現カセットを含むベクター;及びb)1種以上の他の治療剤と、の組み合わせであって;興奮性細胞関連の疾患または障害の予防的または治療的処置のための組み合わせ。
【0218】
実施形態66.1つ以上の他の治療剤が、疼痛、炎症、高眼圧症及び/または痙性緊張症の処置に有用な薬剤である、実施形態65に記載の組み合せ。
【0219】
実施形態67.上記1つ以上の追加の治療剤が、多量体イオンチャネルのアゴニストでも、またはアロステリックモジュレーターでもない、実施形態65の組み合せ。
【0220】
実施形態68.上記1つ以上の追加の治療剤がグリシンではない、実施形態67の組み合わせ。
【0221】
実施形態69.多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、発現カセットを含むベクター;パッケージング材料、及びそれを必要とする哺乳動物にこのベクターを投与して興奮性細胞関連の疾患または状態を処置するための説明書を備えるキット。
【0222】
実施形態70.1つ以上の他の治療剤をさらに含む、実施形態69に記載のキット。
【0223】
実施形態71.発現カセットを含むベクターの使用であって、この発現カセットが、多量体イオンチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含み、それを必要とする哺乳動物において、興奮性細胞関連の疾患または状態の処置のための医薬を調製するための使用。
【0224】
実施形態72.発現カセットを含むベクターであって、この発現カセットが、医学療法での使用のために多量体クロライドチャネルのサブユニットをコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む、ベクター。
【0225】
実施形態73.その必要な哺乳動物において疼痛、炎症、高眼圧症または痙性緊張症を処置する方法であって、発現カセットを含むベクターの有効量を哺乳動物に投与することを包含し、上記発現カセットが、GlyRのサブユニット(例えば、GlyRa1、例えば、hGlyRa1)をコードする核酸に対して作動可能に連結されたプロモーターを含む、方法。
【0226】
実施形態74.その必要な哺乳動物において疼痛、炎症、高眼圧症または痙性緊張症を処置する方法であって、発現カセットを含む有効量のベクターをこの哺乳動物に投与することを包含し、上記発現カセットが、GluClのサブユニット(例えば、GluClのαサブユニット)をコードする核酸に対して作動可能に連結されたプロモーターを含む、方法。
【0227】
実施形態75.上記アゴニストまたはアロステリックモジュレーターが哺乳動物に投与されない、実施形態73または74に記載の方法。
【0228】
実施形態76.前記コードされたサブユニットが少なくとも1つの変異を含む、実施形態73~75のいずれか1つに記載の方法。
【0229】
実施形態77.グリシン受容体(GlyR)のα-サブユニットをコードする配列を含む核酸であって、前記αサブユニットが、前記サブユニットの多量体化の際に構成的に活性なGlyRをもたらす少なくとも1つの変異を含む核酸。
【0230】
実施形態78.GlyRのコードされたα-サブユニットが、α-1サブユニット、α-2サブユニット、及びα-3サブユニット及びα-4サブユニットからなる群より選択される、実施形態77に記載の核酸。
【0231】
実施形態79.GlyRのコードされたα-サブユニットが、GlyRのヒトα-サブユニットである、実施形態77に記載の核酸。
【0232】
実施形態80.GlyRのコードされたα-サブユニットが、GlyRのα-1-サブユニット(GlyRa1)である、実施形態79に記載の核酸。
【0233】
実施形態81.GlyRのコードされたα-サブユニットが、ヒトGlyRa1(hGlyRa1)である、実施形態79に記載の核酸。
【0234】
実施形態82.GlyRのコードされたα-サブユニットが、M2膜貫通ドメインを含み、かつ少なくとも1つの変異が、M2膜貫通ドメインにある(対応するGlyRの野生型α-サブユニットと比較して)、実施形態77~81のいずれか1つに記載の核酸。
【0235】
実施形態83.上記少なくとも1つの変異が、ロイシン9’残基にある(GlyRの対応する野生型α-サブユニットと比較して)、実施形態82に記載の核酸。
【0236】
実施形態84.少なくとも1つの変異が表2に記載されている、実施形態82に記載の核酸。
【0237】
実施形態85.上記少なくとも1つの変異が、L9’AまたはL9’Gである(GlyRの対応する野生型α-サブユニットと比較して)、実施形態82に記載の核酸。
【0238】
実施形態86.上記少なくとも1つの変異が、L9’Aである、実施形態82に記載の核酸。
【0239】
実施形態87.上記核酸が、配列番号2に対して少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態82に記載の核酸。
【0240】
実施形態88.上記核酸が、配列番号2に対して少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態87に記載の核酸。
【0241】
実施形態89.上記核酸が配列番号2を含む、実施形態87に記載の核酸。
【0242】
実施形態90.上記核酸が配列番号2からなる、実施形態87に記載の核酸。
【0243】
実施形態91.本明細書に記載の核酸によってコードされるポリペプチド。
【0244】
実施形態92.本明細書に記載の核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセット。
【0245】
実施形態93.上記プロモーターが調節可能なプロモーターである、実施形態92に記載の発現カセット。
【0246】
実施形態94.上記プロモーターが構成的プロモーターである、実施形態92に記載の発現カセット。
【0247】
実施形態95.上記プロモーターが組織特異的プロモーターである、実施形態92に記載の発現カセット。
【0248】
実施形態96.上記プロモーターが、ヒトシナプスシン-1プロモーター(Syn1またはhSyn)、ヒトサイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーター、ニワトリβ-アクチン(「CBA」)プロモーター、筋特異的デスミンプロモーター、マトリックスGlaタンパク質(MGP)プロモーター、またはそのフラグメント及びキチナーゼ3様1(Ch3L1)遺伝子の5’プロモーター領域からなる群より選択される、実施形態92に記載の発現カセット。
【0249】
実施形態97.上記プロモーターがヒトシナプシン-1プロモーター(hSyn)である、実施形態92に記載の発現カセット。
【0250】
実施形態98.(例えば、実施形態92~97のいずれか1つに記載されるような)本明細書に記載の発現カセットを含むベクター。
【0251】
実施形態99.上記ベクターがウイルスベクターである、実施形態98に記載のベクター。
【0252】
実施形態100.上記ウイルスベクターが、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、自己相補性AAV(scAAV)、ポリオウイルス、HSV、またはマウスマローニーベースのウイルスベクターである、実施形態99に記載のベクター。
【0253】
実施形態101.上記ウイルスベクターがAAVベクターである、実施形態100に記載のベクター。
【0254】
実施形態102.上記AAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9及びrAAV2/6からなる群より選択される、実施形態101に記載のベクター。
【0255】
実施形態103.上記ベクターがAAV6ベクターである、実施形態102に記載のベクター。
【0256】
実施形態104.本明細書に記載のベクター(例えば、実施形態98~103のいずれか1つに記載のもの)及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【0257】
実施形態105.本明細書に記載のベクターを含むウイルスストック。
【0258】
本明細書中に記載される本発明の方法において、本発明のベクター(例えば、実施形態98~103のいずれか1つに記載されるような)を使用してもよい。
【0259】
DNA及びタンパク質配列は、ヒトGlyRa1サブユニットについて以下に示される。野生型及びL9’A変異体配列の両方がそれぞれ示されている。さらに、M2ドメインの配列も含まれる。
【0260】
核酸配列
ヒトGlyRa1野性型
【化1】
*L9’残基のコドンは太字で示す。
【0261】
ヒトGlyRa1 L9’A突然変異タンパク質
【化2】
*L9’A残基のコドンは太字で示す。
【0262】
タンパク質翻訳
ヒトGlyRa1野性型
【化3】
*M2領域には下線を付し、L’9残基は太字で示す。
野性型ヒトGlyRa1のM2領域
【化4】
*L’9残基は太字で示し、下線を付している。
【0263】
ヒトGlyRa1 L9’A突然変異タンパク質
【化5】
*M2領域には下線を付し、L’9A残基は太字で示す。
L9’A変異体ヒトGlyRa1のM2領域
【化6】
*L’9A残基は太字で示し、下線を付している。
【0264】
特定の定義
「核酸」という用語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、及びそのポリマーであって、糖、リン酸塩及びプリンまたはピリミジンのいずれかである塩基を含む単量体(ヌクレオチド)から構成される一本鎖または二本鎖型のポリマーを指す。特に限定されない限り、この用語は、参照核酸と類似の結合特性を有し、かつ天然に存在するヌクレオチドと同様に代謝される天然ヌクレオチドの公知のアナログを含む核酸を包含する。特に明記しない限り、特定の核酸配列はまた、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換)及び相補的配列ならびに明示的に示される配列を暗示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(または全ての)コドンの第3位が、混合塩基及び/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al.(1991)Nucl.Acids Res.,19:508;Ohtsuka et al.(1985)JBC,260:2605;Rossolini et al.(1994)Mol.Cell.Probes,8:91。「核酸フラグメント」は、所与の核酸分子の画分である。大部分の生物におけるデオキシリボ核酸(DNA)は、遺伝物質であり、一方、リボ核酸(RNA)は、DNA内に含まれる情報のタンパク質への移動に関与している。「ヌクレオチド配列」という用語は、DNAまたはRNAポリマーへの組み込みを可能にする合成、非天然または変更されたヌクレオチド塩基を必要に応じて含む、一本鎖であってもまたは二本鎖であってもよいDNAまたはRNAのポリマーを指す。「核酸」、「核酸分子」、「核酸フラグメント」、「核酸配列またはセグメント」、または「ポリヌクレオチド」という用語はまた、遺伝子、遺伝子によってコードされるcDNA、DNA及びRNAと互換的に用いられてもよい。
【0265】
本発明の核酸分子、配列またはセグメントに関連する「部分」または「フラグメント」とは、発現のために他の配列に連結されている場合、少なくとも80ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも150ヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも400ヌクレオチドを有する配列を意味する。発現のために使用されない場合、「部分」または「フラグメント」とは、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列に対応する、少なくとも9個、好ましくは12個、より好ましくは15個、さらにより好ましくは少なくとも20個の連続するヌクレオチド、例えばプローブ及びプライマー(オリゴヌクレオチド)を意味する。
【0266】
「タンパク質」、「ペプチド」及び「ポリペプチド」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0267】
本発明は、単離または実質的に精製された核酸またはタンパク質組成物を包含する。本発明の文脈において、「単離された」または「精製された」DNA分子または「単離された」または「精製された」ポリペプチドは、その本来の環境から離れて存在し、したがって自然の産物ではないDNA分子またはポリペプチドである。単離されたDNA分子またはポリペプチドは、精製された形態で存在してもよく、または非天然環境、例えばトランスジェニック宿主細胞などの中に存在してもよい。例えば、「単離された」または「精製された」核酸分子もしくはタンパク質、またはその生物学的に活性な部分は、組換え技術によって産生された場合、他の細胞材料も、培養培地も実質的に含まず、または化学的に合成された場合、化学前駆体も他の化学物質も実質的に含まない。一実施形態では、「単離された」核酸は、核酸が由来する生物体のゲノムDNAにおいて、核酸に天然に隣接する配列(すなわち、核酸の5’及び3’末端に位置する配列)が、ない。例えば、種々の態様において、単離された核酸分子は、核酸が由来する細胞のゲノムDNA中で核酸分子に天然に隣接する約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kb、または0.1kb未満のヌクレオチド配列を含んでもよい。実質的に細胞性物質を含まないタンパク質は、約30%、20%、10%、5%(乾燥重量で)未満の混入タンパク質を有するタンパク質またはポリペプチドの調製物を含む。本発明のタンパク質またはその生物学的に活性な部分が組換え生産される場合、好ましくは、培養培地は、約30%、20%、10%または5%(乾燥重量で)未満の化学前駆体または目的の非タンパク質化学物質に相当する。開示されたヌクレオチド配列のフラグメント及び改変体ならびにそれによってコードされるタンパク質または部分長タンパク質もまた本発明に包含される。「フラグメント」または「部分」とは、ポリペプチドもしくはタンパク質をコードするヌクレオチド配列またはそのポリペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列の全長または全長未満を意味する。
【0268】
「天然に存在する」または「野生型」とは、人工的に生産されたものとは異なる天然に見出され得る物体を表すために使用される。例えば、天然の供給源から単離可能で、実験室でヒトによって意図的に改変されていない生物(ウイルスを含む)中に存在するタンパク質またはヌクレオチド配列は、天然に存在している。
【0269】
分子の「改変体」は、天然の分子の配列と実質的に同様である配列である。ヌクレオチド配列に関して、改変体は、遺伝子コードの縮重のために、天然タンパク質の同一のアミノ酸配列をコードする配列を包含する。これらのような天然に存在する対立遺伝子改変体は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及びハイブリダイゼーション技術などの周知の分子生物学技術を用いて同定することができる。改変体ヌクレオチド配列はまた、例えば、天然タンパク質をコードする部位特異的突然変異誘発を用いて生成されたもの、ならびにアミノ酸置換を有するポリペプチドをコードするものを用いて生成されたものなどの、合成由来ヌクレオチド配列を含む。一般に、本発明のヌクレオチド配列改変体は、天然(内因性)ヌクレオチド配列に対して、少なくとも40、50、60~70%、例えば、好ましくは71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%~79%、一般には少なくとも80%、例えば81%~84%、少なくとも85%、例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、~98%の配列同一性を有する。
【0270】
特定の核酸配列の「保存的に改変されたバリエーション」とは、同一もしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸配列、または核酸配列がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を指す。遺伝子コードの縮重のために、多数の機能的に同一の核酸が任意の所与のポリペプチドをコードする。例えば、コドンCGT、CGC、CGA、CGG、AGA及びAGGは全て、アミノ酸アルギニンをコードする。したがって、コドンによってアルギニンが特定されるあらゆる位置において、コードされたタンパク質を改変することなく、記載された対応するコドンのいずれかにコドンを変更してもよい。そのような核酸バリエーションは、「保存的に改変されたバリエーション」の1種である「サイレントなバリエーション」である。ポリペプチドをコードする、本明細書に記載されているあらゆる核酸配列は、また他に注記されている場合を除いて、あらゆる可能なサイレントバリエーションも記載する。当業者は、核酸中の各コドン(通常はメチオニンの唯一のコドンであるATGを除く)を改変して、標準的な技術によって機能的に同一の分子を得ることができることを認識するであろう。従って、ポリペプチドをコードする核酸の各「サイレントバリエーション」は、記載された各配列に暗示される。
【0271】
「組換えDNA分子」は、例えば、Sambrook and Russell、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、NY:Cold Spring Harbor Laboratory Press(3rd edition、2001)に記載されているような、DNA配列を一緒に連結するために使用される組換えDNA技術及び手順を用いて一緒に連結されるDNA配列の組み合せである。
【0272】
「異種DNA配列」、「外因性DNAセグメント」または「異種核酸」という用語は、それぞれ、特定の宿主細胞の外来の供給源に由来する配列を指すか、または同じ供給源の場合には元の形態から改変されている配列を指す。したがって、宿主細胞中の異種遺伝子としては、特定の宿主細胞に対して内因性であるが改変されている遺伝子が挙げられる。これらの用語はまた、天然に存在するDNA配列の天然に存在しない複数のコピーも包含する。したがって、この用語は、細胞に対して外来性もしくは異種性であるか、または細胞と相同であるが、宿主細胞核酸内の位置であって、通常そのエレメントが見出されない位置にあるDNAセグメントを指す。外因性DNAセグメントは、外因性ポリペプチドを生じるように発現される。
【0273】
「相同な」DNA配列は、それが導入される宿主細胞に天然に付随するDNA配列である。
【0274】
「野生型」とは、正常な遺伝子、または既知の変異のない自然界に見られる生物体を指す。
【0275】
「ゲノム」とは、生物の完全な遺伝物質を指す。
【0276】
「ベクター」とは、とりわけ、自己伝播性または動員可能であってもなくてもよく、原核生物もしくは真核生物の宿主を、細胞ゲノムへの組み込みによって形質転換し得るか、または染色体外に存在し得る(例えば、複製起点を有する自律的に複製するプラスミド)、二本鎖または一本鎖の線状または環状形態の任意のウイルスベクター、プラスミド、コスミド、ファージまたはバイナリーベクターを包含すると定義される。
【0277】
「クローニングベクター」は、典型的には、ベクターの本質的な生物学的機能を損なうことなく外来DNA配列を決定可能な様式で挿入することができる、1つまたは少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位、ならびにクローニングベクターで形質転換された細胞の同定及び選択における使用に適したマーカー遺伝子を含む。マーカー遺伝子は、典型的には、テトラサイクリン耐性、ハイグロマイシン耐性またはアンピシリン耐性を提供する遺伝子を含む。
【0278】
本明細書において用いられる場合、「発現カセット」とは、終止シグナルに作動可能に連結された目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む、適切な宿主細胞における特定のヌクレオチド配列の発現を指向し得るDNA配列を意味する。それはまた、典型的には、ヌクレオチド配列の適切な翻訳に必要な配列を含む。コード領域は、通常、目的のタンパク質をコードするが、またセンスまたはアンチセンス方向に目的の機能的RNA、例えばアンチセンスRNAまたは非翻訳RNAをコードしてもよい。目的のヌクレオチド配列を含む発現カセットは、キメラであってもよく、キメラとは、その成分の少なくとも1つがその他の成分の少なくとも1つに対して異種であることを意味する。発現カセットはまた、天然に存在するが、異種発現に有用な組換え型で得られたものであってもよい。発現カセット中のヌクレオチド配列の発現は、宿主細胞が何らかの特定の外部刺激に曝された場合にのみ転写を開始する、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターの制御下にあってもよい。多細胞生物の場合、プロモーターはまた、特定の組織または器官または発生段階に特異的であってもよい。
【0279】
そのような発現カセットは、目的のヌクレオチド配列に連結された本発明の転写開始領域を含む。このような発現カセットには、調節領域の転写調節下に目的の遺伝子を挿入するための複数の制限部位が設けられている。発現カセットは、選択マーカー遺伝子をさらに含んでもよい。
【0280】
「RNA転写物」という用語は、DNA配列のRNAポリメラーゼ触媒転写から生じる産物を指す。RNA転写物がDNA配列の完全な相補的コピーである場合、それは一次転写物と呼ばれるか、または一次転写物の転写後プロセシングに由来するRNA配列であってもよく、成熟RNAと呼ばれる。「メッセンジャーRNA」(mRNA)とは、イントロンを含まず、細胞によってタンパク質に翻訳され得るRNAを指す。「cDNA」とは、mRNAに相補的であり、mRNAに由来する一本鎖または二本鎖DNAを指す。
【0281】
「調節配列」及び「適切な調節配列」とは、それぞれ、コード配列の上流(5’非コード配列)、内部または下流(3’非コード配列)に位置し、転写、RNAプロセシングもしくは安定性、または関連するコード配列の翻訳に影響するヌクレオチド配列を指す。調節配列としては、エンハンサー、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、及びポリアデニル化シグナル配列が挙げられる。それらには、天然配列及び合成配列、ならびに合成及び天然配列の組み合わせであり得る配列が含まれる。上記のように、「適切な調節配列」という用語は、プロモーターに限定されない。しかし、本発明において有用ないくつかの適切な調節配列には、限定するものではないが、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、発生特異的プロモーター、誘導性プロモーター及びウイルスプロモーターが挙げられる。
【0282】
「5’非コード配列」とは、コード配列の5’(上流)に位置するヌクレオチド配列を指す。これは、開始コドンの上流に完全にプロセシングされたmRNA中に存在し、mRNAに対する一次転写物のプロセシング、mRNAの安定性または翻訳効率に影響し得る(Turner et al.(1995)Mol.Biotech.3:225)。
【0283】
「3’非コード配列」とは、コード配列の3’(下流)に位置するヌクレオチド配列を指し、ポリアデニル化シグナル配列及びmRNAプロセシングまたは遺伝子発現に影響を及ぼし得る調節シグナルをコードする他の配列を含む。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの付加に影響を及ぼすことによって特徴付けられる。
【0284】
「翻訳リーダー配列」という用語は、RNAに転写され、翻訳開始コドンの上流(5’)の完全にプロセシングされたmRNA中に存在するプロモーターとコード配列との間の遺伝子のDNA配列部分を指す。翻訳リーダー配列は、一次転写物のmRNAへのプロセシング、mRNA安定性または翻訳効率に影響を及ぼし得る。
【0285】
「成熟」タンパク質という用語は、シグナルペプチドが無くなった、翻訳後プロセシングされたポリペプチドを指す。「前駆体」タンパク質とは、mRNAの翻訳の一次産物を指す。「シグナルペプチド」とは、前駆体ペプチドを形成するポリペプチドと併せて翻訳され、分泌経路に入るために必要とされる、ポリペプチドのアミノ末端伸長を指す。「シグナル配列」という用語は、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を指す。
【0286】
「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼ及び適切な転写に必要な他の因子に対する認識を提供することによってコード配列の発現を制御する、通常そのコード配列の上流(5’)のヌクレオチド配列を指す。「プロモーター」としては、TATAボックス及び転写開始部位を特定するのに役立つ他の配列からなる短いDNA配列であり、発現制御のために調節エレメントが付加された最小プロモーターが挙げられる。「プロモーター」はまた、コード配列または機能的RNAの発現を制御することができる調節エレメントに加えて最小プロモーターを含むヌクレオチド配列を指す。このタイプのプロモーター配列は、近位及びより遠位の上流エレメントからなり、後者のエレメントはしばしばエンハンサーと呼ばれる。したがって、「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激し得るDNA配列であり、プロモーターの本来のエレメントであっても、またはプロモーターのレベルもしくは組織特異性を高めるために挿入された異種エレメントであってもよい。プロモーターは、天然の遺伝子から完全に誘導されてもよく、または天然に見出される異なるプロモーターに由来する異なるエレメントから構成されてもよく、または合成DNAセグメントから構成されてもよい。プロモーターはまた、生理学的または発生的条件に応答して転写開始の有効性を制御するタンパク質因子の結合に関与するDNA配列を含んでもよい。
【0287】
「開始部位」は、位置+1とも定義される、転写された配列の一部である第一のヌクレオチドを取り囲む位置である。この部位に関して、遺伝子及びその制御領域の他の全ての配列には番号が付けられている。下流の配列(すなわち、3’方向のさらなるタンパク質コード配列)は、陽性とされるが、上流の配列(主に5’方向の制御領域のもの)は陰性とされる。
【0288】
不活性であるか、または上流の活性化の非存在下で大幅に減少したプロモーター活性を有するプロモーターエレメント、特にTATAエレメントは、「最小プロモーターまたはコアプロモーター」と呼ばれる。適切な転写因子の存在下で、最小プロモーターは転写を可能にするように機能する。したがって、「最小またはコアプロモーター」は、転写開始に必要な全ての基本エレメント、例えば、TATAボックス及び/または開始剤のみからなる。
【0289】
「構成的発現」とは、構成的プロモーターまたは調節されたプロモーターを用いる発現を指す。「条件付き」及び「調節発現」とは、調節されたプロモーターによって制御される発現を指す。
【0290】
「作動可能に連結された」とは、一方の機能が他方の機能に影響を及ぼすような、単一の核酸フラグメント上の核酸配列の会合をいう。例えば、調節性DNA配列がコードDNA配列の発現に影響を及ぼすように2つの配列が位置する場合(すなわち、コード配列または機能的RNAがプロモーターの転写制御下にある)、調節性DNA配列は、RNAまたはポリペプチドをコードするDNA配列に「作動可能に連結されている」かまたは「関連する」と言われる。コード配列は、センス方向またはアンチセンス方向で調節性配列に作動可能に連結されてもよい。
【0291】
「発現」とは、内因性遺伝子、導入遺伝子の細胞における転写及び/または翻訳、ならびにセンス(mRNA)または機能性RNAの転写及び安定な蓄積を指す。アンチセンス構築物の場合、発現は、アンチセンスDNAのみの転写を指してもよい。発現はまた、タンパク質の産生を指す場合もある。
【0292】
「転写停止フラグメント」とは、転写を終結し得るポリアデニル化シグナル配列のような1つ以上の調節シグナルを含むヌクレオチド配列を指す。転写停止フラグメントの例は、当該分野で公知である。
【0293】
「翻訳停止フラグメント」とは、翻訳を終結し得る1つ以上の調節性シグナル、例えば、3つのフレームの全てにおける1つ以上の終止コドンを含むヌクレオチド配列を指す。コード配列の5’末端で開始コドンに隣接するか、またはその近傍に翻訳停止フラグメントを挿入すると、翻訳が起こらないかまたは不適切な翻訳が生じる。部位特異的組換えによる翻訳停止フラグメントの排除は、開始コドンを用いた適切な翻訳に干渉しない、部位特異的配列をコード配列に残す。
【0294】
「シス作用配列」及び「シス作用エレメント」という用語は、その機能が、それらが同じ分子上にあることを必要とするDNAまたはRNA配列を指す。
【0295】
「トランス作用配列」及び「トランス作用エレメント」という用語は、その機能が、それらが同じ分子上にあることを必要としないDNAまたはRNA配列を指す。
【0296】
以下の用語は、以下の2つ以上の配列(例えば核酸、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド)の間の配列関係を記載するために用いられる:(a)「参照配列」、(b)「比較ウインドウ」、(c)「配列同一性」、(d)「配列同一性のパーセンテージ」、及び(e)「実質的同一性」。
【0297】
(a)本明細書中で使用される場合、「参照配列」とは、配列比較のための基礎として使用される定義された配列である。参照配列は、指定された配列のサブセットであっても、または全体であってもよい;例えば、全長cDNA、遺伝子配列もしくはペプチド配列のセグメント、または完全なcDNA、遺伝子配列もしくはペプチド配列として。
【0298】
(b)本明細書中で使用される場合、「比較ウインドウ」は、配列の連続し、かつ特定のセグメントを参照し、ここで比較ウインドウ内の配列は、2つの配列の最適なアラインメントのための、参照配列(付加も欠失も含まない)と比較して付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。一般に、比較ウインドウは、少なくとも20個の連続したヌクレオチド長であり、必要に応じて30、40、50、100、またはそれ以上の長さであってもよい。当業者は、配列中にギャップを含むことに起因する参照配列との高い類似性を回避するために、ギャップペナルティが典型的には導入され、マッチの数から差し引かれることを理解する。
【0299】
比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野において周知である。したがって、任意の2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。そのような数学的アルゴリズムの非限定的な例は、Myers and Miller(1988)CABIOS、4:11のアルゴリズム;Smith et al.(1981)Adv.Appl.Math.2:482の局所相同性アルゴリズム;Needleman and Wunsch、(1970)JMB、48:443の相同性整列アルゴリズム;Pearson and Lipman、(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:2444の類似方法の検索;Karlin及びAltschulのアルゴリズム(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、87:2264(Karlin及びAltschul、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:5873のように改変された)である。
【0300】
これらの数学的アルゴリズムのコンピュータの実行は、配列の同一性を決定するために配列の比較に利用してもよい。そのような実行には、限定されないが、以下が挙げられる:PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics、Mountain View、Californiaから入手可能);Wisconsin Genetics Software Package、バージョン8(Genetics Computer Group(GCG)、575 Science Drive、Madison、Wisconsin、USAから入手可能)におけるALIGNプログラム(バージョン2.0)及びGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA及びTFASTA。これらのプログラムを使用するアライメントは、デフォルトのパラメータを使用して実行可能である。CLUSTALプログラムは、Higgins et al.(1988)Gene 73:237;Higgins et al.(1989)CABIOS 5:151;Corpet et al.(1988)Nucl.Acids Res.16:10881;Huang et al.(1992)CABIOS 8:155;及びPearson et al.(1994)Meth.Mol.Biol.24:307によって詳しく記載されている。ALIGNプログラムは、上記のMyers and Millerのアルゴリズムに基づいている。AltschulらのBLASTプログラム(1990)JMB、215:403;Nucl.Acids Res.,25:3389(1990)は、上記のKarlin及びAltschulのアルゴリズムに基づいている。
【0301】
BLAST解析を実行するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(ncbi.nlm.nih.gov/でワールドワイドウェブで入手可能)を通じて公開されている。このアルゴリズムは、データベースの配列中の同じ長さのワードに整列されたときに、ある正の値の閾値スコアTに一致するかまたは満足する、問い合わせ配列中の長さWの短いワードを識別することによって、高いスコアリング配列対(HSP)を最初に特定することを包含する。Tは隣接ワードスコア閾値と呼ばれる。これらの最初の隣接ワードヒットは、それらを含むさらに長いHSPを見つけるために検索を開始するためのシードとして働く。次いで、ワードヒットは、累積アラインメントスコアを増大させることができる限り、各配列に沿って両方向に拡張される。累積スコアは、ヌクレオチド配列に関して、パラメータM(一致する残基の対についての報酬スコア;常に>0)及びN(不一致残基についてのペナルティースコア;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列については、スコアリングマトリックスを用いて累積スコアを計算する。累積アラインメントスコアがその最大到達値から量Xだけ低下すると、各方向のワードヒットの延長が停止され、1つ以上のネガティブスコアリング残基アライメントの蓄積に起因して累積スコアがゼロ以下になるか、いずれかの配列の終わりに達する。
【0302】
配列同一性パーセントを計算することに加えて、BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計分析も行う。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列間の一致が偶然に起こる確率の指標に相当する、最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸配列と参照核酸配列との比較における最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、試験核酸配列は、参照配列と類似しているとみなされる。
【0303】
比較目的のためにギャップのあるアラインメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0における)をAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389中に記載されるとおり利用してもよい。あるいは、PSI BLAST(BLAST 2.0における)を用いて、分子間の遠隔の関係を検出する反復検索を行ってもよい。上記のAltschulらを参照のこと。BLAST、Gapped BLAST、PSI-BLASTを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータ(例えば、ヌクレオチド配列のBLASTN、タンパク質のBLASTX)を使用してもよい。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、デフォルトとして、11のワード長(W)、10の期待値(E)、100のカットオフ、M=5、N=4、及び両方の鎖の比較を用いる。アミノ酸配列に関して、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3のワード長(W)、10の期待値(E)、及びBLOSUM62スコアリングマトリックスを使用する。ncbi.nlm.nih.govでワールドワイドウェブを参照のこと。整列は目視検査によって手動で行ってもよい。
【0304】
本発明の目的のために、別の配列に対する配列同一性パーセントの決定のための配列の比較とは、そのデフォルトパラメータまたは任意の同等のプログラムを有するBlastNプログラム(バージョン1.4.7またはそれ以降)を用いて行ってもよい。「等価プログラム」とは、問題の任意の2つの配列について、好ましいプログラムによって生成された対応するアライメントと比較したとき、同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の一致及び同一のパーセント配列同一性を有するアライメントを生成する任意の配列比較プログラムを意味する。
【0305】
(c)本明細書中で使用される場合、2つの核酸またはポリペプチド配列の文脈における「配列同一性」または「同一性」とは、配列比較アルゴリズムによって、または目視検査によって測定されるような、特定の比較ウインドウにまたがって最大対応のために配列された場合同じである、2つの配列中の指定された残基のパーセンテージを指す。配列同一性のパーセンテージを、タンパク質に関して使用される場合、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なる場合が多く、保存的アミノ酸置換では、アミノ酸残基が類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する他のアミノ酸残基に置換され、したがって、分子の機能的特性を変化させてないことが認識される。配列が保存的置換で異なる場合、置換の保存的性質を補正するために、配列同一性パーセントを上方に調節してもよい。このような保存的置換によって異なる配列は、「配列類似性」または「類似性」を有すると言われている。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。典型的には、これは完全なミスマッチではなく部分的なものとして保存的置換を採点し、それにより配列同一性のパーセンテージを増大させることを包含する。したがって、例えば、同一のアミノ酸にスコア1を与え、非保存的置換にゼロのスコアを与えた場合、保存的置換には0と1の間のスコアが与えられる。保存的置換のスコアリングは、例えば、プログラムPC/GENE(Intelligenetics、Mountain View、California)で実行されるように算出される。
【0306】
(d)本明細書中で使用される場合、「配列同一性のパーセンテージ」とは、比較ウインドウにわたって2つの最適に整列された配列を比較することによって決定される値であって、比較ウインドウにおける配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのための参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい値を意味する。パーセンテージは、両方の配列において同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が生じる位置の数を決定して適合した位置の数を得て、適合した位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数で割ること、及びその結果に100を掛けて、配列同一性のパーセンテージを得ることによって算出される。
【0307】
(e)(i)配列の「実質的同一性」という用語は、ポリヌクレオチドが、標準的なパラメータを用いて記載されるアラインメントプログラムのうちの1つを用いて参照配列と比較して、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、または79%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、少なくとも90%、91%、92%、93%、または94%、及び少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列を含むことを意味する。当業者は、これらの値が、コドン縮重、アミノ酸類似性、リーディングフレーム位置決定などを考慮に入れて、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質の対応する同一性を決定するために適切に調整され得ることを認識するであろう。これらの目的のためのアミノ酸配列の実質的同一性は、通常、少なくとも70%、少なくとも80%、90%、少なくとも95%の配列同一性を意味する。
【0308】
ヌクレオチド配列が実質的に同一であることの別の指標は、2つの分子がストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズするか否かである(下記参照)。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度及びpHでの特定の配列の熱融点(T)より約5℃低いように選択される。しかしながら、ストリンジェントな条件は、本明細書中で他に認定された所望のストリンジェンシーの程度に依存して、約1℃~約20℃の範囲の温度を包含する。ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズしない核酸は、それらがコードするポリペプチドが実質的に同一であれば、やはり実質的に同一である。これは、例えば、核酸のコピーが遺伝コードによって許容される最大コドン縮重を用いて作製される場合に起こり得る。2つの核酸配列が実質的に同一であるという1つの示唆は、第1の核酸によってコードされるポリペプチドが、第2の核酸によってコードされるポリペプチドと免疫学的に交差反応する場合である。
【0309】
(e)(ii)ペプチドの文脈における「実質的同一性」という用語は、あるペプチドが、特定の比較ウインドウにわたって、参照配列に対して、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%または79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、少なくとも90%、91%、92%、93%、または94%、または95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列を含むことを示す。Needleman及びWunsch、J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズムを用いて最適なアラインメントを行う。2つのペプチド配列が実質的に同一であるという指標は、1つのペプチドが第2のペプチドに対して惹起された抗体と免疫学的に反応性であることである。したがって、ペプチドは、例えば2つのペプチドが保存的置換のみによって異なる第2のペプチドと実質的に同一である。
【0310】
配列比較のために、典型的には、1つの配列は、試験配列が比較される参照配列として働く。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験及び参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。次に、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列(複数可)のパーセント同一性を算出する。
【0311】
上記のように、2つの核酸配列が実質的に同一であるという別の指標は、2つの分子がストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。「特異的にハイブリダイズする」という語句は、その配列が複雑な混合物(例えば、全細胞)DNAまたはRNA中に存在する場合に、ストリンジェントな条件下で特定のヌクレオチド配列にのみ分子を結合、二重化またはハイブリダイズさせることを指す。「実質的に結合する」とは、プローブ核酸と標的核酸との間の相補的ハイブリダイゼーションを指し、標的核酸配列の所望の検出を達成するためにハイブリダイゼーション媒体のストリンジェンシーを低下させることによって対応できるわずかなミスマッチを包含する。
【0312】
サザンハイブリダイゼーション及びノーザンハイブリダイゼーションのような核酸ハイブリダイゼーション実験の文脈における「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」及び「ストリンジェントなハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存性であり、異なる環境パラメータの下では異なる。配列が長いほど、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。熱融点(T)は、標的配列の50%が完全に一致したプローブにハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度及びpH下で)である。特異性とは、典型的にはポストハイブリダイゼーション洗浄の関数であり、重要な因子は、最終洗浄溶液のイオン強度及び温度である。DNA DNAハイブリッドの場合、Tは、Meinkoth and Wahl(1984)Anal.Biochem.138:267の式から概算されてもよく;T81.5℃+16.6(logM)+0.41(GC%)-0.61(%形態)-500/L;ここで、Mは一価カチオンのモル濃度であり、%GCは、DNA中のグアノシン及びシトシンヌクレオチドのパーセンテージであり、%形態は、ハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドのパーセンテージであり、Lは塩基対におけるハイブリッドの長さである。Tは、1%のミスマッチごとに約1℃低下する;したがって、T、ハイブリダイゼーション、及び/または洗浄条件は、所望の同一性の配列にハイブリダイズするように調整してもよい。例えば、90%超の同一性を有する配列が求められる場合、Tは10℃低下することができる。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度及びpHにおける特定の配列及びその相補体についてのTより約5℃低いように選択される。しかし、厳密にストリンジェントな条件は、Tより1、2、3または4℃低いハイブリダイゼーション及び/または洗浄を利用し得;中程度にストリンジェントな条件は、Tよりも6、7、8、9または10℃低いハイブリダイゼーション及び/または洗浄を利用し得;低ストリンジェンシー条件は、Tよりも11、12、13、14、15または20℃低いハイブリダイゼーション及び/または洗浄を利用し得る。この式、ハイブリダイゼーション及び洗浄組成物、ならびに所望の温度を使用して、当業者はハイブリダイゼーション及び/または洗浄溶液のストリンジェンシーのバリエーションが本質的に記載されていることを理解するであろう。所望の程度のミスマッチが45℃(水溶液)または32℃(ホルムアミド溶液)未満の温度になる場合、より高い温度が使用できるようにSSC濃度を増大させることが好ましい。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な手引きは、Tijssen、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology Hybridization with Nucleic Acid Probes,part I chapter 2「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays」Elsevier,New York(1993)に見い出される。一般に、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、規定されたイオン強度及びpHで特定の配列のTよりも約5℃低いように選択される。
【0313】
高度にストリンジェントな洗浄条件の例は、72℃で約15分間、0.15M NaClである。ストリンジェントな洗浄条件の一例は、65℃で15分間の0.2×SSC洗浄である(SSC緩衝液の説明については、以下のSambrookを参照のこと)。しばしば、高ストリンジェンシー洗浄の前に、バックグラウンドプローブシグナルを除去するための低ストリンジェンシー洗浄が行われる。例えば、100ヌクレオチドを超える二本鎖についての例示的な中程度のストリンジェンシー洗浄は、45℃で15分間の1×SSCである。例えば100ヌクレオチドを超える二本鎖についての低ストリンジェンシー洗浄の例は、40℃で15分間の4~6XのSSCである。短いプローブ(例えば、約10~50ヌクレオチド)の場合、ストリンジェントな条件は、典型的には、約1.5M未満、より好ましくは約0.01~1.0Mの塩濃度、Naイオン濃度(または他の塩)でpH7.0~8.3であり、及び温度は、典型的には、さらに長いプローブ(例えば>50ヌクレオチド)に関して、少なくとも約30℃及び少なくとも約60℃である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によっても達成され得る。一般に、特定のハイブリダイゼーションアッセイにおいて無関係のプローブで観察されるものよりも2倍(またはそれ以上)のシグナル対ノイズ比は、特異的ハイブリダイゼーションの検出を示す。ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズしない核酸は、それらがコードするタンパク質が実質的に同一である場合、依然として実質的に同一である。これは、例えば、遺伝子コードによって許容される最大コドン縮重を用いて核酸のコピーが作製される場合に起こる。
【0314】
極めてストリンジェントな条件は、特定のプローブのTに等しくなるように選択される。サザンブロットまたはノーザンブロットでフィルター上に100を超える相補的残基を有する相補的核酸のハイブリダイゼーションのストリンジェントな条件の例は、50%ホルムアミド、例えば50%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS中37℃でのハイブリダイゼーション、及び60~65℃で0.1X SSC中での洗浄である。例示的な低ストリンジェンシー条件は、30~35%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の緩衝溶液との37℃でのハイブリダイゼーション、及び1X~2XのSSC(20× SSC=3.0M NaCl/0.3Mのクエン酸三ナトリウム)中での50~55℃の洗浄を含む。例示的な中程度のストリンジェンシー条件は、37℃での40~45%ホルムアミド、1.0MのNaCl、1%SDS中でのハイブリダイゼーション、及び55~60℃での0.5X~1XのSSCでの洗浄を含む。
【0315】
「改変体」ポリペプチドは、天然タンパク質のN末端及び/もしくはC末端に対する欠失(いわゆる切断)または1つ以上のアミノ酸の付加による、天然タンパク質に由来するポリペプチド;天然タンパク質の1つ以上の部位で1つ以上のアミノ酸の欠失もしくは付加;または天然タンパク質中の1つ以上の部位における1つ以上のアミノ酸の置換を意図する。そのような改変体は、例えば、遺伝子多型またはヒトの操作から生じ得る。そのような操作のための方法は、当技術分野において一般的に公知である。
【0316】
したがって、本発明のポリペプチドは、アミノ酸の置換、欠失、切断及び挿入を含む様々な方法で改変してもよい。そのような操作のための方法は、当技術分野において一般的に知られている。例えば、ポリペプチドのアミノ酸配列改変体は、DNAにおける突然変異によって調製してもよい。突然変異誘発及びヌクレオチド配列変更のための方法は、当技術分野において周知である。例えば、Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488;Kunkel et al.(1987)Meth.Enzymol.154:367;米国特許第4,873,192号;Walker and Gaastra(1983)Techniques in Mol.Biol.(MacMillan Publishing Co.,及びそこに引用される参考文献を参照。目的のタンパク質の生物学的活性に影響しない適切なアミノ酸置換に関する手引きは、Dayhoff et al.,Atlas of Protein Sequence and Structureのモデルに見出され得る(Natl.Biomed.Res.Found.1978)。保存的置換、例えば、アミノ酸の1つを類似の特性を有する別のアミノ酸で置き換えることが好ましい。
【0317】
したがって、本発明の遺伝子及びヌクレオチド配列は、天然に存在する配列ならびに変異型の両方を含む。同様に、本発明のポリペプチドは、天然に存在するタンパク質、ならびにそれらのバリエーション及び改変型を包含する。そのような改変体は、所望の活性を保持し続けるであろう。特定の実施形態では、本明細書に包含されるポリペプチド配列の欠失、挿入及び置換は、ポリペプチドの特徴に根本的な変化をもたらさない場合がある。しかしながら、そうする前に置換、欠失または挿入の正確な効果を予測することが困難な場合、当業者は、その効果が慣用的なスクリーニングアッセイによって評価されることを理解するであろう。
【0318】
コードされた配列中の単一のアミノ酸または小さい割合のアミノ酸(典型的には5%未満、より典型的には1%未満)を変更、追加または削除する個々の置換の欠失または付加は、「保存的に改変された変異」であり、この変更によって、化学的に類似したアミノ酸でのアミノ酸の置換が生じる。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野で周知である。以下の5つの群は、お互いの保存的置換であるアミノ酸を各々が含む:脂肪族:グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I);芳香族:フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);硫黄含有:メチオニン(M)、システイン(C);塩基性:アルギニン(R)、リジン(K)、ヒスチジン(H);酸性:アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)。さらに、コードされた配列中の単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更、追加または欠失する個々の置換、欠失または付加も、「保存的に改変されたバリエーション」である。
【0319】
「形質転換」という用語は、核酸フラグメントの宿主細胞のゲノムへの移入であって、遺伝的に安定した遺伝をもたらす移入を指す。形質転換された核酸フラグメントを含む宿主細胞は「トランスジェニック」細胞と呼ばれ、トランスジェニック細胞を含む生物は「トランスジェニック生物」と呼ばれる。
【0320】
「形質転換された」、「トランスジェニック」、「形質導入された」及び「組換え体」とは、異種核酸分子が導入された宿主細胞または生物体を指す。核酸分子は、当該分野で一般的に公知であるゲノムに安定に組み込まれ得、上記のSambrook and Russell、に開示されている。また、Innis et al.,PCR Protocols、Academic Press(1995);及びGelfand、PCR Strategies、Academic Press(1995);ならびにInnis及びGelfand、PCR Methods Manual、Academic Press(1999)を参照のこと。公知のPCRの方法には、限定するものではないが、対になったプライマー、ネステッドプライマー、単一特異的プライマー、縮重プライマー、遺伝子特異的プライマー、ベクター特異的プライマー、部分的ミスマッチプライマーなどを用いる方法が挙げられる。例えば、「形質転換された」、「形質転換体」及び「トランスジェニック」細胞は、形質転換プロセスを経ており、それらの染色体に組み込まれた外来遺伝子を含む。「形質転換されていない」という用語は、形質転換プロセスを経ていない正常細胞を指す。
【0321】
疾患状態/条件を処置することに関して、「治療上有効量」という用語は、単回投与または複数回投与として投与された場合、ある疾患の状態/条件の任意の症状、局面、または特徴に対して単独か、または任意の検出可能な正の効果を有し得る薬学的組成物に含まれる、ベクターの量を指す。そのような効果は、有益であるために絶対的である必要はない。
【0322】
「処置する」及び「処置」という用語は、治療的処置及び予防的または予防性の手段の両方を指し、この目的は望ましくない生理学的変化または障害を予防または減少させることである。本発明の目的のために、有益なまたは望ましい臨床結果としては、限定するものではないが、症状の軽減、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(すなわち悪化しない)、疾患の進行の遅延または緩慢化、疾患状態の改善または緩和、及び緩解(部分的であろうと全体的であろうと)が、検出可能であろうと検出不可能であろうと挙げられる。「処置」は、治療を受けていない場合の予想される生存と比較して、生存期間を延長させることも意味する。治療を必要とするものとしては、既にその状態または障害を有するもの、ならびにその状態または障害を有する傾向があるもの、またはその状態または障害が予防されるべきものが挙げられる。
【0323】
本発明の方法は、哺乳動物(例えば、哺乳動物の興奮性細胞)、ならびに他の脊索動物門(例えば、鳥類、爬虫類、両生類、硬骨魚及び軟骨魚など)、例としては、ヒト、一般的な研究室動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ブタ、サル、類人猿など)及びネコ、イヌ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジなどの獣医学的動物に対して適用され得る。
【実施例
【0324】
本発明の特定の実施形態を、以下の非限定的な実施例によって例示する。
【0325】
実施例1
目的
この研究の目的は、HEK-293細胞におけるβサブユニット(単量体発現)の非存在下でのhGlyRa1単独の発現が、天然アゴニストであるグリシン及び/またはタウリンに応答する機能的チャネルを形成し得るか否かを決定することであった。
【0326】
材料
蛍光的にタグ化されたヒトグリシン受容体サブユニットα1及び単量体増強黄色蛍光タンパク質(mEYFP)アイソフォームaの完全なコード配列を含むプラスミドベクターpFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP(GenScript)をこの研究で使用した。合成遺伝子pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFPを、合成オリゴヌクレオチド及び/またはPCR産物から構築した。フラグメントを、pcDNA3.1(+)に挿入した。形質転換細菌からプラスミドDNAを精製し、UV分光法により濃度を決定した。最終構築物を配列決定によって確認した。
遺伝子名:pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP
遺伝子の大きさ:1374bp
ベクター骨格:pcDNA3.1(+)
クローニング部位:BamHI/AscI
【0327】
細胞
ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞を、ATCC(#CRL-1573)から購入した。細胞を、10%FBS(Gibco#26140)、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン(Gibco#15140)及び1mMのピルビン酸ナトリウム(Gibco #11360)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Gibco#11965)中で培養し、加湿インキュベーター内で37℃及び5%COで維持した。3~4日おきに1:5または1:10の継代培養比でコンフルエントになったとき細胞を継代した。
【0328】
方法の説明
細胞培養
FlexStationアッセイのために、HEK-293細胞を、側面黒色/底透明の96ウェルイメージングプレート(BD Falcon#353219)中で、プレート容量100μl/ウェルで、20,000細胞/ウェルでプレートした。トランスフェクションのために、750μlのOpti-MEM(Gibco 31985-070)中の16μgの総DNAを、750μlのOpti-MEM中の30μlのExpressFectと混合し、20分間プレインキュベートし、次いで15μl/ウェルで100μlの新鮮な培養培地を含む細胞に添加した。プレーティングの24時間後に細胞をトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後にアッセイした。トランスフェクション混合物を、培養物から37℃/5%COで4~6時間のインキュベーション期間後に取り出し、L-グルタミン(Gibco 25030-081)を補充した新鮮なグリシンを含まない培養培地(Gibco 12360-038)で置き換えた。
【0329】
膜電位測定
FLIPR Membrane Potential Assay Kit、BLUE処方(Molecular Devices、#R8042)を用いた蛍光に基づくアッセイを用いて、細胞膜を横切る電圧変化を検出した。染料ローディング緩衝液を、パッケージの文献に従って調製した。具体的には、BLUE試薬の1つのバイアルの内容物を、5mlの1×アッセイ緩衝液で溶解し、続いてさらに5mlの1×アッセイ緩衝液でバイアルを洗浄して、総量10mlの色素ローディング緩衝液を得た。色素ローディング緩衝液の未使用部分は-20℃で保存し、5日以内に使用した。機能アッセイのために、培養培地を細胞から取り除き、50μlのグリシンを含まないMEMと交換した。次いで、細胞に50μlのブルー色素(Blue dye)ローディング緩衝液をロードし、37℃/5%COで40分間インキュベートした。シグナルは、SoftMax Proデータ取得及び分析ソフトウェア(Molecular Devices)によって操作されるFlexStation 3マルチモードベンチトップマイクロプレートリーダーを使用して検出した。励起波長及び発光波長は、それぞれ530nm及び565nmに設定し、550nmの発光カットオフとした。プレート読み取りは、30℃で「低PMT」設定で行った。最初の20秒で基本蛍光が測定された実行時間は、グリシン誘導シグナルに対して300秒であった。他のFlexStationパラメータは、130μlというピペット高さ、100μlという初期ウェル容量、50μlという移動量(したがって、薬物濃度は3回調製した)、及び約31μl/秒に相当する2という転送速度設定を含んでいた。
【0330】
グリシン及びタウリンに対する濃度/応答曲線を、hGlyRa1トランスフェクト細胞において作成した。用いたグリシン及びタウリンの濃度は、1、3、10、30、100、300、1000μMであった。100μMのタウリンの存在下でもグリシンに対する用量反応曲線を作成した。グリシン及びタウリンを10mMストックとしてDMSOに溶解し、-20℃で0.3mMアリコートとして保存した。FlexStationアッセイのグリシン及びタウリン濃度は、0.1%DMSOを含有するpH7.4の20mM HEPESを含む1×HBSSを用いて調製した。
【0331】
実験的な処置
細胞を以下のプラスミド:ヒトグリシン受容体サブユニットα1、アイソフォームa(hGlyRa1)(pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP)でトランスフェクトした。以下のアゴニストを使用して、GlyRアルファサブユニット:グリシン(Sigma#G2879)またはタウリン(Sigma#T0625)を刺激した。
【0332】
データに対して実行される計算または操作の説明
Raw FlexStationシグナルは、SoftMax Pro 5から「.txt」ファイルとしてエクスポートして、Microsoft Excel 2008及びOrigin 7.0を使用してオフラインで分析した。
【0333】
統計
プールされたデータは平均±SEMとして示される。
【0334】
結果
GlyRαサブユニット(hGlyRa1)を発現する細胞では、膜電位における刺激されていない変化はなく(図5A~5B、図7)、タウリン濃度の増大に対する膜電位の変化にも応答しなかった(1μM~1mM)(図6図7)。これらの細胞では、増大する濃度のグリシン(1μM~1mM)の添加は、92μMのEC50及び約300μMのEC100で膜電位の用量依存的変化を生じた(図5A~5B)(図6)。グリシンに対する応答は、タウリン(100μM)の存在によって有意に影響されなかった(EC50=43μM)。これらのデータは、同様のアッセイを用いて、Sontheimer H.et al.((1989)Neuron 2(5):1491-1497)(EC50=100μM)ならびにJensen AA.及びKristiansen U.((2004)Biochemical Pharmacology 67(9):1789-1799)(EC50=82μM)によって以前に報告されたデータとよく一致している。
【0335】
これらのデータによってまた、これらの単量体チャネルが、ヒト血漿中に存在する正常な内因性レベルのグリシン(242~258μM)によって活性化され得ることが示される(Geigy Scientific Tables、8th Rev edition,pp.93.Edited by C.Lentner、West Cadwell NJ.:Medical Education Div.,Ciba-Geigy Corp.Basel,Switzerland c1981-1992)。
【0336】
神経細胞で発現されると、HEK-293細胞で測定された膜電位におけるこれらの変化は、GlyRαサブユニットの単量体発現及びその後の受容体の内因性アゴニストグリシンへの暴露によって形成されたC1選択的チャネルを介したClイオンの流入に起因して過分極をもたらすと予想される。タウリンは、αβ-多量体GlyRの部分アゴニストであると報告されているが、これらの研究では、単量体のチャネル上に直接効果はなく、グリシン応答に影響があった。タウリンは、ヒト血漿中に141~162μMの濃度で存在する(Geigy Scientific Tables、8th Rev edition、pp.93.Edited by C.Lentner、West Cadwell,NJ.:Medical Education Div.,Ciba-Geigy Corp.Basel、Switzerland c1981-1992)。
【0337】
結論
HEK-293細胞におけるグリシン受容体αサブユニット(hGlyRa1)の単量体発現は、正常ヒト血漿中に存在する濃度でグリシンに応答する機能的なクロライドチャネルを形成する。
【0338】
実施例2
目的
正常な雄ラット血漿中に存在するグリシンレベルを測定し、ウイルスベクターを介して侵害受容ニューロンに送達され、続いて内因性グリシンによって活性化された場合のGlyRa1の鎮痛効力を評価するのにラットが適した種であることを確認すること。
【0339】
方法
6匹の成体雄性Sprague Dawleyラットから、K2EDTA上に血液を採取した。サンプルを遠心分離し、血漿を分離し、貯蔵及び輸送のために凍結させた。
【0340】
一旦、解凍し、血漿タンパク質が沈殿すれば、ラット血漿サンプル中のグリシン濃度を、LC/MS/MSシステム(AB Sciex API-4000Qtrap質量分析計及びThermo Silica 100×2.1mm HPLCカラムを備えた島津20A HPLC)で測定した。MRMスキャン(m/z、76/48)による陽性ESIイオン化を用いた。この方法の較正範囲は、10~5000ng/mLであった。
【0341】
結果
雄ラット血漿中の血漿グリシンレベルは、13.8~23.0μg/mL(184~307μM)に及び平均が240.9±45.2μM(平均±SD)であった。
【0342】
結論
ラット血漿中に存在するグリシンのレベルは、正常な成人の男性で報告された242.0±44.0μM、及び正常な成人女性での258.0±64.0μMと同様である(Geigy Scientific Tables、8th Rev edition,pp.93.Edited by C.Lentner、West Cadwell、NJ.:Medical Education Div.,Ciba-Geigy Corp.Basel、Switzerland c1981-1992)。ラット血漿中のグリシンレベルは、末梢組織で発現される場合、92μMのEC50及び約300μMのEC100図6)を有する単量体GlyRa1チャネルを活性化するのに適した範囲内である。
【0343】
ラット及びヒト血漿中のグリシンレベルの類似性に基づいて、ラットは、ウイルスベクターを介して侵害受容ニューロンに送達され、続いて内因性グリシンによって活性化される場合、GlyRa1の鎮痛効力を評価するのに適した種である。
【0344】
実施例3
目的
慢性神経因性疼痛のラットモデルにおいて、痛覚過敏/異痛症応答を減弱させるGTX-01の有効性を評価すること。
【0345】
材料
ウイルスベクター
AAVを用いて送達される遺伝子治療DNA配列から構成される処置。遺伝子治療は、以下の成分から構成される:
・アデノ随伴ウイルス(血清型6)-AAV6
・ヒトシナプスンプロモーター-hSyn
・GlyR受容体のα1-サブユニットをコードするDNA-GlyRa1
・緑色蛍光タンパク質-GFP
【0346】
このベクターは、Goleini、Inc.がデザインし、クローニングして、合成し、バキュロウイルス発現系を利用して無血清条件下で、昆虫細胞においてAAVベクターを産生するBAC-to-AAV技術を用いて、Virovec、Inc.(Hayward、CA)によってAAV6にパッケージングした。
【0347】
能動的処置:(GTX-01)AAV6-hSyn-GlyRa1。ウイルスは、9.41e13ウイルス粒子/mLを含有する水溶液として供給され、投与された。
【0348】
対照処置:(対照)AAV6-hSyn-GFP。ウイルスは、2.22e13ウイルス粒子/mLを含有する水溶液として供給され、投与された。
【0349】
動物
182gと227gとの間の体重の9匹の雄性のSprague-Dawleyラット(Envigo、Hayward、CA)は、神経因性疼痛のSNIモデルを確立するために下記のように手術を受けた。全ての動物は、規則的な間隔で再マーキングされた尾のマーキングによって個々に特定された。この試験を通して、動物は自由に食物及び水に接近することができた。
【0350】
方法
スペアード神経傷害(Spared Nerve Injury)(SNI)モデル-手術
イソフルラン麻酔下で、大腿の外側表面の皮膚を切開し、大腿二頭筋を直接的に切開して切片を作製し坐骨神経及びその3つの末端枝(腓腹筋、総腓骨神経及び脛骨神経)を露出させた。SNI手順は、脛骨及び総腓骨神経の軸索切断及び結紮を含んで、腓骨神経をそのまま残していた。一般的な腓骨神経及び脛骨神経を5.0本の絹で緊密に結紮し、結紮の遠位に切開し、遠位神経切痕の2±4mmを除去した。無傷の腓腹神経との接触または伸展を避けるために十分な注意を払った。筋肉及び皮膚を2層で閉じた(Decosterd I.及びWoolf C.(2000)Pain 87(2):149-158)。本研究では、これを第0日とみなした。
【0351】
機械的過敏症の試験
試験は、日周期サイクルの日中のみ(06:00-18:00h)に実施した。ラットを、持ち上がった金網プラットフォーム上の倒置したプラスチックケージに入れ、足に完全に接近させた。ケージの探索及び主要なグルーミング活動が終了するまで、行動的調節を約15分間許容した。試験された領域は、敏感性の劣る円環(足蹠)を避けて、腓腹神経分布における足底左後肢の側方領域であった。足には、対数的に増大する剛性(0.41、0.70、1.20、2.00、3.63、5.50、8.50及び15.10g)(Stoelting)を有する1の一連の8von Freyフィラメントと接触させた。von Freyフィラメントは、足にわずかな座屈を引き起こすのに十分な力で足底面に対して垂直に与えられ、約6~8秒間保持された。刺激は、数秒の間隔で提示され、以前の刺激に対する任意の行動反応の明らかな解明が可能になった。足が急に引っ込められた場合、陽性の反応が認められた。毛髪を除去した直後の尻込みもまた陽性の反応と考えられた。歩行はあいまいな反応と考えられ、そのような場合には刺激を繰り返した。正常な非手術ラットの観察に基づいて、より固いフィラメントが屈曲よりも脚全体を上昇させ、刺激の性質を実質的に変化する傾向があったので、試験の上限として15.10gフィラメントというカットオフ(より小さいラットの体重の約10%)を選択した(Chaplan S.et al.(1994)J Neurosci Methods 53(1):55-63)。
【0352】
手術の1日前(-1日)、動物を機械的刺激(機械的感受性)に対するベースライン応答について試験した。手術後10日目に、全ての動物を機械的感受性について再試験した。
【0353】
手術後10日目に、動物を対照ベクターまたはGTX-01のいずれかで処置した。全身麻酔下(イソフルラン)で、GTX-01または対照ベクターのいずれかを、後肢肉球の側方領域に皮下注射した20μL(2×10μL注射)の容量で、それぞれ1.88e12及び4.44e11のベクターゲノムの用量で投与した。
【0354】
処置後14、21、29、36、44及び51日目(手術後24、31、39、46、54及び61日目)に、動物を機械的感受性について再評価した。これらの測定の全てについて、オペレーターは動物の同一性に関して盲検化された。
【0355】
実験的な処置(2)
動物群に以下の処置の1つを与えた:
・GTX-01:4匹の動物に、2×10μL/足というAAV6ウイルス調製物を、推定濃度9.41e13ウイルス粒子/mLで与えた。このウイルスは、pFB-hSyn-GlyRa1をコードしたDNAを保持していた。
・対照:5匹の動物に、2×10μL/足というAAV6ウイルス調製物を、推定濃度2.22e13ウイルス粒子/mLで与えた。このウイルスは、hSyn-GFPのためにコードされたDNAを保持していた。
【0356】
データに対して実行される計算または操作の説明
Dixonのアップダウン法を用いて50%引っ込め閾値を決定した(Dixon、WJ.(1980)Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.20:441-462;Chaplan S.et al.(1994)J Neurosci Methods 53(1):55-63)。このパラダイムでは、シリーズの中央で、2.0gのフィラメントで試験を開始した。刺激は、昇順であるか降順であるかにかかわらず、常に連続した方式で与えられた。最初に選択されたフィラメントに対する足の引っ込め応答がない場合、より強い刺激を与えた;足を引っ込めると、次に弱い刺激を選択した。Dixonによると、この方法による最適な閾値計算には、50%閾値付近で6つの応答が必要である。閾値は知られていないので、閾値にいずれかの方向から近づくにつれて類似の応答の列が生成されることがある。したがって、全ての応答が注目されたが、応答閾値が最初に交差するまで、重要な6データ点のカウントは開始されず、この時点で、閾値にまたがる2つの応答を、一連の6の最初の2つの応答としてレトロスペクティブに指定した。ラットの応答に基づいて、連続的に上下に変化した刺激の継続的な提示に対する4つの追加的な応答が、一連の残りの部分を構成した。したがって、このパラダイムを用いて収集された実際の応答の数は、最小値4(足引っ込めの場合、2.0~0.4gの下降範囲の4本のフィラメントまで連続しており:閾値は実際の刺激の範囲より下にある)から最大値9(15.1gで5番目の上向性の刺激提示で最初の引っ込めが生じた後、15.1gまたはそれ以下で引っ込めが続いていると仮定して4回の追加反応の誘発)まで変化し得る。刺激セットの消耗に対して連続的な陽性または陰性の反応が観察された場合、それぞれ15.00g及び0.25gの値を割り当てた。得られた陽性及び陰性の反応パターンを、慣例、X=撤回;0=引っ込めなしを用いて表にして、50%応答閾値は、ChaplanのバージョンのDixonのアップダウン法(Chaplan S.et al.(1994)J Neurosci Methods 53(1):55-63;Dixon WJ(1980)Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.20:441-462)に基づくアルゴリズムを使用して補間した。
【0357】
処置後14、21、29、36、44及び51日目の対照群とGTX01処置群との間の機械的刺激に対する応答の差異を、対のないスチューデントのt検定を用いて統計的有意性について分析した。
【0358】
結果
GTX-01群では、処置後29日目(P<0.001)、36日目(P<0.001)、44日目(P<0.001)及び51日目(P<0.01)に引っ込め閾値の上昇で測定されるとおり有意な鎮痛作用が示された。対照群(n=5)及びGTX-01(n=4)の両方の群についてのデータを表4及び図8に示す。
【表4】
表4.ラットの機械的閾値(g)であって、このラットは、0日目に腓骨神経を無傷(スペアード神経傷害(spared nerve injury))で残して、脛骨及び総腓骨神経の軸索切開及び結紮を受け、10日目に対照ウイルス(対照)またはGTX-01のいずれかで処置された。機械的閾値(g)データは、5匹の動物(対照)及び4匹のGTX-01の平均±標準偏差(SD)として示される。対照群及びGTX-01群を、対になっていないスチューデントのt検定を用いて統計学的有意性について分析した。有意差は、**P<0.01または***P<0.001で示される。
【0359】
-1日目のベースラインデータをとって正常または100%鎮痛に相当するものとし、10日目のデータを0%鎮痛とし、GTX-01の投与後29、36、44、及び51日におけるGTX-01の平均鎮痛効果は、それぞれ52%、70%、59%及び58%であった。
【0360】
体重を測定し、研究を通して記録した。GTX-01対対照ベクター(図9)で処置した動物の体重には差異は見られなかった。
【0361】
結論
他の薬剤を投与しないでGTX-01を単回投与すると、ラットの慢性神経因性疼痛のSNIモデルにおいて有意でかつ持続的な鎮痛効果が生じた。これは、Goss JR.et al.(2010)Molecular Therapy 19(3):500-506及び米国特許第8,957,036号によって報告されたデータとは異なっており、かつ対照的であり、ここでは、彼らは、GlyRa1のウイルス送達後の鎮痛、及びその後の受容体アゴニスト(グリシン)が、「ホルマリン注入足の足底面」のような疼痛部位への注射の形態、または頸静脈を介した全身性の形態のいずれかで(間質性膀胱炎のモデルを処置するために)動物に投与された場合の引き続く発現についてのみ記載している。
【0362】
実施例4
目的
この研究の目的は、HEK-293細胞におけるβサブユニット(単量体発現)の非存在下でのL9’A変異GluC1αサブユニット単独の発現が、構成的に活性なクロライドチャネル(GluClと称する)を形成できるか否かを決定することであった。
【0363】
材料
蛍光的にタグ化されたCaenorhabditis elegansのGluClαサブユニットの完全に最適化されたコード配列を含むプラスミドベクターGluCLoptbetmFYPY182F(Life Technologies)を、この研究では使用した。増強された黄色蛍光タンパク質(YFP)挿入は、細胞内M3-M4ループ内に位置する。合成遺伝子GluCLoptbetmFYPY182Fを、合成オリゴヌクレオチド及び/またはPCR産物から組み立てた。フラグメントを、pcDNA3.1(+)に挿入した。プラスミドDNAを、形質転換細菌から精製し、UV分光法により濃度を決定した。最終構築物を、配列決定によって確認した。
名称:E.coli K12(dam+dcm+tonA rec-)遺伝子名:GluCLoptbetmFYPY182F
遺伝子のサイズ:2043bp
ベクターのバックボーン:pcDNA3.1(+)
クローニング部位:HindIII/XhoI
【0364】
部位特異的突然変異誘発
ロイシン9’変異は、以下のフォワード及びリバースプライマーを使用して、PfuTurbo DNAポリメラーゼ(Agilent Technologies#600250)を用いてQuikChange II XL部位特異的突然変異誘発キット(Agilent Technologies#200522)を用いて行った:5’-CC CTG GGC GTG ACC ACC CTG xxx AC-3’及び5’-GC GGA CTG AGC GGT CAT GGT xxx CA-3’(ここで’xxx’は、変異したLeu9’コドンを示す)。GluClについては、Leu9’をAlaに変異させた。全ての変異は、DNA配列決定により確認した。
【0365】
細胞
ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞を、ATCC(#CRL-1573)から購入した。細胞を、10%FBS(Gibco#26140)、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco#15140)及び1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco#11360))を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Gibco#11965)中で培養し、加湿インキュベーター内で37℃、及び5%COで維持した。3~4日おきに1:5または1:10の継代培養比でコンフルエントになると細胞を継代した。
【0366】
方法の説明
細胞培養
FlexStationアッセイのために、黒色側面/透明底の96ウェルイメージングプレート(BD Falcon#353219)中で、HEK-293細胞を20,000細胞/ウェルで、100μl/ウェルのプレート容積でプレートした。トランスフェクションのために、750μlのDMEM中の16μgの全DNAを、750μlのDMEM中の30μlのExpressFectと混合し、20分間プレインキュベートし、次いで100μlの新鮮な培養培地を含む細胞に15μl/ウェルで加えた。プレートの24時間後に細胞をトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後にアッセイした。トランスフェクション混合物を、37℃/5%COで4~6時間のインキュベーション期間後に培養物から取り出し、新鮮な培養培地と交換した。
【0367】
膜電位測定
FLIPR Membrane Potential Assay Kit、BLUE処方(Molecular Devices、#R8042)を用いた蛍光に基づくアッセイを使用して、細胞膜を横切る電圧変化を検出した。染料ローディング緩衝液を、パッケージの文献に従って調製した。具体的には、BLUE試薬の1つのバイアルの内容物を、5mlの1×アッセイ緩衝液で溶解し、続いて別の5mlの1×アッセイ緩衝液でバイアルを洗浄して、総量10mlの色素ローディング緩衝液を得た。色素ローディング緩衝液の未使用部分を-20℃で保存し、5日以内に使用した。機能アッセイのために、培養培地を細胞から除去し、50μlのDMEMで置き換えた。次いで、細胞に50μlの青色色素ローディング緩衝液(Blue dye loading buffer)をロードし、37℃/5%COで40分間インキュベートした。シグナルは、SoftMax Pro Data Acquistion & Analysis Software(Molecular Devices)によって操作されるFlexStation 3マルチモードベンチトップマイクロプレートリーダーを使用して検出した。励起波長及び発光波長は、それぞれ530nm及び565nmに設定し、発光カットオフは550nmであった。プレート読み取りは、30℃で「低PMT」設定で行った。最初の20秒で測定された基礎蛍光の実行時間は、イベルメクチン誘発シグナルに対して300秒であった。他のFlexStationパラメータは、ピペット高さ230μl、初期ウェル容量100μl、トランスファー容量50μl(したがって、薬物濃度は3倍に調製された)、及び約31μl/秒に対応する2という転送速度設定を含んでいた。
【0368】
イベルメクチンに対する濃度/応答曲線は、GluCl及び野生型トランスフェクト細胞の両方で生じた。使用したイベルメクチン濃度は、1、3、10、30、100、300、1000nMであった。イベルメクチンを、10mMストックとしてDMSOに溶解し、-20℃で0.3mMアリコートとして保存した。FlexStationアッセイのイベルメクチン濃度は、0.1%DMSOを含有するpH7.4の20mM HEPESを含む1×HBSSを用いて調製した。
【0369】
実験的な処置
細胞を以下のプラスミドの1つでトランスフェクトした:
●pFB-CMV-GluCloptalpha-mEYFP-L9’L(野性型)(GluCLoptbetmFYPY182F)
●pFB-CMV-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A(GluCl
以下のアゴニストを用いて、トランスフェクトされた細胞を刺激した
●イベルメクチン(Sigma#18898)
【0370】
データに対して実行される計算または操作の説明
Raw FlexStation信号は、SoftMax Pro 5から‘.txt’ファイルとしてエクスポートされ、Microsoft Excel 2008及びOrigin 7.0を使用してオフラインで分析した。
【0371】
統計
プールされたデータは平均±SEMとして示される。
【0372】
結果
野生型GluClα-サブユニットを発現する細胞では、膜電位の刺激されていない変化はなかった(図10)。漸増濃度のイベルメクチンの添加は、147nMのEC50図11)で膜電位における用量依存的変化を生じた(図10)。
【0373】
L9’A変異GluClαサブユニット(GluCl)を発現する細胞では、ベースライン膜電位が最大限に変化した(図12)。この応答は、1μMのイベルメクチンに応答して野生型GluClαサブユニットで見られた応答と大きさにおいて同様であった(図10)。GluClを発現する細胞に漸増用量のイベルメクチンを添加することは、膜電位の変化を増大させなかった(図12)。
【0374】
神経細胞で発現させた場合、HEK-293細胞で測定された膜電位におけるこれらの変化は、GluClαサブユニットの単量体発現及びその後の受容体アゴニストイベルメクチンの適用によって形成されたC1選択性チャネルを介したClイオンの流入による過分極をもたらすと予想される。ニューロン細胞におけるGluClαサブユニットのL9’A変異の単量体発現は、構成的に活性なC1を形成することが予想され、これはアゴニストの添加なしに神経組織の永久超分極をもたらすと予想される。
【0375】
結論
HEK-293細胞におけるCaenorhabditis elegans GluClグルタメート受容体α-サブユニットのL9’A変異の単量体発現は、機能的かつ構成的に活性なクロライドチャネルを形成する。
【0376】
実施例5
目的
この研究の目的は、慢性神経因性疼痛のラットモデルにおいて、痛覚過敏/異痛症の応答を減弱させるGTX-01の有効性を評価することであった。
【0377】
材料
AAVを用いて送達される遺伝子治療DNA配列からなる処置。遺伝子療法は、以下の構成要素から構成される:
●アデノ随伴ウイルス(血清型6)-AAV6
●ヒトシナプスンプロモーター-hSyn
●GluClをコードするDNA-構成的にオープンなチャネルを生成するL9’A変異を有するGluCl受容体のαサブユニット。pFB-hSyn-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A
●強化された黄色蛍光タンパク質-EYFP
【0378】
ベクターは、Goleini、Inc.によって設計、クローニング及び合成し、バキュロウイルス発現系を利用して無血清状態下において昆虫細胞中でAAVベクターを産生する独自のBAC-to-AAV技術を用いて、Virovec、Inc.(Hayward、CA)によってAAV6にパッケージングした。
【0379】
能動的処置:GTX-01
AAV6-hSyn-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A。ウイルスは、9.79e13ウイルス粒子/mLを含有する水溶液として供給され、投与された。
【0380】
コントロール処置:対照
AAV6-hSyn-EYFP。このウイルスは、2.22e13ウイルス粒子/mLを含有する水溶液として供給され、投与された。
研究の終わりに、動物にガバペンチン(100mg/kg:IP)(Sigma Aldrich、G154)を与えた。
【0381】
動物
神経因性疼痛のSNIモデルを確立するために、下記のように手術を受けた21頭の動物の初期集団から、体重200~250g(6~7週齢)の6匹の雄性Sprague-Dawleyラット(Envigo、Hayward、CA)の2群を選択した。動物は、手術後10日目の機械的感受性に基づいて選択した。選択された12匹の動物は、機械的刺激と同様の過敏症を有した。選択された12匹の動物は、機械的感受性に従ってランク付けされ、「処置」及び「対照」群に対して代替的に割り当てられ、機械的刺激と同様の過敏症を有する動物の2つの「バランスのとれた」群を作成した。全ての動物は、規則的な間隔で再マーキングされた尾のマーキングによって個々に特定した。この試験を通して、動物は自由に食物及び水に接近することができた。
【0382】
方法論
研究は、AfaSciの動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認されたプロトコールに従って行った。
【0383】
方法の説明
スペアード神経傷害(Spared Nerve Injury)(SNI)モデル-手術:
イソフルラン麻酔下で、大腿の外側表面の皮膚を切開し、大腿二頭筋を直接的に切開し、坐骨神経及びその3つの末端枝(腓腹筋、総腓骨神経及び脛骨神経)を露出させる切片を作製した。SNI手順は、脛骨及び総腓骨神経の軸索切断及び結紮を含んで、腓骨神経をそのまま残した。一般的な腓骨神経及び脛骨神経を、5.0の絹で緊密の結紮し、結紮の遠位に切開し、遠位神経切痕の2±4mmを除去した。無傷の腓腹神経との接触または伸展を避けるために十分な注意を払った。筋肉及び皮膚を、2層で閉じた(Decosterd I.及びWoolf C.(2000)Pain 87(2):149-158)。現在の研究では、これを第0日とみなした。
【0384】
機械的過敏症の試験:
試験は、日周期サイクルの日中のみ(06:00-18:00h)行った。ラットは、持ち上がった金網プラットフォーム上の倒置したプラスチックケージに入れ、足に完全に接近させた。ケージの探索及び主要なグルーミング活動が終了するまで、行動的順応を約15分間許容した。試験された領域は、敏感性に劣る円環(足蹠)を避けて、腓腹神経分布における足底左後肢の側方領域であった。足に対数的に増大する剛性(0.41、0.70、1.20、2.00、3.63、5.50、8.50及び15.10g)(Stoelting)を有する一連の8本のフォンフライ(von Frey)のフィラメントの1本と接触させた。フォンフライのフィラメントは、足にわずかな座屈を引き起こすのに十分な力で足底面に対して垂直に提示され、約6~8秒間保持された。刺激は、数秒の間隔で提示され、以前の刺激に対するいずれの行動反応も明らかな解明を可能にした。足が急に引っ込められた場合、正の反応が認められた。毛髪を除去した直後の尻込みもまた正の反応と考えられた。歩行運動はあいまいな反応と考えられ、そのような場合には刺激を繰り返した。正常な未処置ラットの観察に基づいて、より強いフィラメントはバックルに対してよりも脚全体を持ち上げ、実質的に刺激の性質を変更する傾向があったので、試験の上限として15.10gフィラメントのカットオフ(より小さいラットの体重の約10%)を選択した(Chaplan S.et al.(1994)J Neurosci Methods 53(1):55-63)。
【0385】
手術の1日前(-1日目)、動物を機械的刺激(機械的感受性)に対するベースライン応答について試験した。手術後10日目に、全ての動物を機械的感受性について再試験した。
【0386】
手術後10日目に、最大の機械的過敏症を有する12匹の動物を、コントロールベクターまたはGTX-01のいずれかの処置に関して選択した。全身麻酔下(イソフルラン)、GTX-01または対照ベクターを、左後肢肉球の横領域中に皮下注射した20μL(2×10μL注射)の容量で、それぞれ1.96e12及び4.44e11ベクターゲノムの用量で投与した。
【0387】
処置後13日目、22日目及び35日目(手術後23,32及び45日目)に、動物の機械的感受性について再評価した。これらの測定の全てについて、オペレーターは動物の同一性に関して盲検化された。
【0388】
処置後22日目(手術後32日目)に、対照及びGTX-01処置群のそれぞれからの1匹の動物を安楽死させ、組織を採取し、下記のように処理した。
【0389】
処置後36日目(手術後46日目)に、動物にガバペンチン(100mg/kg:IP)を投与した。ガバペンチン投与の1時間後及び2時間後に、その動物を機械的刺激に対する感受性について評価した。
【0390】
組織採取:
処置後22日目及び処置後36日目の実験終了時に、動物をイソフルランの投与及びその後の開胸により安楽死させた。左背側根神経節(L4、L5及びL6)、左腓腹神経及び左後肢を採取し、4℃で、4%パラホルムアルデヒド中で14日間固定し、次いで20%スクロースに少なくとも24時間移した。続いて組織を凍結切片にし、共焦点顕微鏡法を用いて組織学的評価のために染色した。YFPに対する一次抗体を使用して、pFB-hSyn-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A遺伝子の発現を同定した。
【0391】
実験的な処置
動物群に以下の処置の1つを投与した:
GTX01-6匹の動物に、2×10μL/足のAAV6ウイルス調製物を、推定濃度9.79e13ウイルス粒子/mLで与えた。このウイルスは、pFB-hSyn-GluCloptalpha-mEYFP-L9’AをコードしたDNAを保持した。
【0392】
対照-6匹の動物に、2×10μL/足のAAV6ウイルス調製物を、2.22e13ウイルス粒子/mLの推定濃度で与えた。このウイルスは、hSyn-EYFPをコードしたDNAを保持していた。
【0393】
除外パラメータ:
研究から除外した動物はいなかった。研究中に死亡した動物はなかった。
【0394】
データに対して実行される計算または操作の説明
50%引っ込め閾値は、Dixon(Chaplan S.et al.(1994)J Neurosci Methods 53(1):55-63;Dixon WJ.(1980)Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol 20:441~462)のアップダウン法を使用して決定した。このパラダイムでは、シリーズの中央で、フィラメント2.0gで試験を開始した。刺激は、昇順であるか降順であるかにかかわらず、常に連続して提示された。最初に選択されたフィラメントに対する足の引っ込め応答がない場合、より強い刺激を与えた;足を引っ込めると、次にさらに弱い刺激を選択した。Dixonによると、この方法による最適な閾値計算には、50%閾値のすぐ近くに6つの応答が必要である。閾値は知られていないので、閾値にいずれかの方向から近づくにつれて類似の応答の列が生成されることがある。したがって、全ての応答が注目されたが、応答閾値が最初に交差するまで、重要な6データ点のカウントは開始されず、この時点で、閾値にまたがる2つの応答を、一連の6の最初の2つの応答としてレトロスペクティブに指定した。ラットの応答に基づいて、連続的に上下に変化した刺激の継続的な提示に対する4つの追加的な応答が、一連の残りの部分を構成した。したがって、このパラダイムを用いて収集された実際の応答の数は、最小値4(足引っ込めの場合、2.0~0.4gの下降範囲の4本のフィラメントまで連続しており:閾値は実際の刺激の範囲より下にある)から最大値9(15.1gで5番目の上向性の刺激提示で最初の引っ込めが生じた後、15.1gまたはそれ以下で引っ込めが続いていると仮定して4回の追加反応の誘発)まで変化し得る。刺激セットの消耗に対して連続的な陽性または陰性の反応が観察された場合、それぞれ15.00g及び0.25gの値を割り当てた。得られた陽性及び陰性の反応パターンを、慣例、X=撤回;0=引っ込めなしを用いて表にして、50%応答閾値は、ChaplanのバージョンのDixonのアップダウン法(Chaplan S.et al.(1994)J Neurosci Methods 53(1):55-63;Dixon WJ.(1980)Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.20:441-462)に基づくアルゴリズムを使用して補間した。
【0395】
処置後13日目、22日目及び35日目の対照群とGTX-01処置群との間の機械的刺激に対する応答の差異を、対応のないスチューデントのt検定を用いて統計的有意性について分析した。ガバペンチンへの応答を、ガバペンチン投与の1時間後及び2時間後と、前処理値とを、対のないスチューデントのt検定を用いて比較することによって、統計的有意性について分析した。
【0396】
結果
-1日目に、研究のために選択された動物のベースライン引っ込め閾値は、6.24±0.09g(対照群)及び6.27±0.09g(GTX-01群)の平均値を有した。手術後10日目に、対照ベクター及びGTX-01処置のために選択された動物における引っ込め閾値は、それぞれ1.40±0.18g及び1.51±0.14gであった。対照ベクターまたはGTX-01のいずれかの投与後13日目に、引っ込め閾値は1.58±0.28g及び3.07±0.68g(P<0.001)であった。処置後22日までに、対照群の引っ込め閾値は、1.69±0.17gではほとんど変わらなかったが、GTX-01群のGTX-01引っ込め閾値は、5.18±0.74g(P<0.001)までさらに上昇した。試験した最後の時点(処置後35日)に、対照群(2.53±0.40g)における機械的刺激に対する過敏症のわずかな喪失があったが、GTX-01群は、機械的刺激に対する感受性のレベルを正常レベルに近く維持した(5.21±0.43g)(P<0.001)(図13)。
【0397】
-1日目のベースラインデータが正常または100%鎮痛に相当するものとし、10日目のデータを0%鎮痛とするならば、処置後13日目、22日目及び35日目のGTX-01の鎮痛効果は、それぞれ正常の33%、77%及び77%である。
【0398】
手術後46日目に、ガバペンチン(100mg/kg:IP)は、以前に「コントロールベクター」を投与していた動物の機械的過敏症を減少させた。投与前、投与後1時間及び2時間後のそれらの動物における引っ込め閾値は、それぞれ2.46±0.49g、3.44±0.36g(P<0.01)及び4.15±0.19g(P<0.001)であった(図14)。ガバペンチンは、以前にGTX-01で処置した動物における機械的刺激に対するほぼ正常な応答に影響を及ぼさなかった(図14)。
【0399】
処置後22日目に採取したGTX-01処置動物からのDRGの免疫組織化学的評価によって、EYFPについて陽性に染色された個々の細胞体が示された(GTX-01によって送達されたpFB-hSyn-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A遺伝子の産物)(図15)。同様に、同じ動物由来の足の真皮層の下に位置する神経終末は、EYFPに対して陽性に染色された(図15)。これらのデータによって、ウイルスが注射部位の神経終末に取り込まれ、DRGの細胞体に輸送されること、及び遺伝子産物が神経終末に首尾よく発現されたことが示される。
【0400】
結論
GTX-01の単回投与は、ラットにおける慢性神経因性疼痛のSNIモデルにおいて、有意でかつ長時間作用性の鎮痛効果をもたらした。
【0401】
実施例6
目的
この研究の目的は、HEK-293細胞中のヒトグリシン受容体サブユニットα1アイソフォームa(hGlyRa1)の単量体発現が、細胞生存率に影響を及ぼすか否かを決定することであった。
【0402】
方法
ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞を、ATCC(#CRL-1573)から購入した。細胞を、10%FBS(Gibco#26140)、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco#15140)及び1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco#11360)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Gibco#11965)中で培養し、加湿インキュベーター内で37℃及び5%COで維持した。3~4日おきに1:5または1:10の継代培養比でコンフルエントになると細胞を継代した。次いで、細胞を透明な96ウェル培養プレート中に100μl/ウェルのプレーティング容量で20,000細胞/ウェルでプレーティングした。24時間の培養後、細胞をニセトランスフェクションするか、またはhGlyRa1(pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP-WT)でトランスフェクトした。トランスフェクションのために、750μlのOpti-MEM(Gibco 31985-070)中の16μgの総DNAを750μlのOpti-MEM中の30μlのExpressFectと混合し、20分間プレインキュベートし、次いで100μlの新鮮な培養培地を含む細胞に15μl/ウェルで添加した。トランスフェクション混合物を37℃/5%COで4~6時間インキュベートした後、培養から取り出し、新鮮なDMEM(400μMグリシンを含む)または新鮮なグリシンを含まない、L-グルタミン(Gibco 25030-081)を補充した培養培地(Gibco 12360-038)で置き換えた。未トランスフェクション、ニセトランスフェクション及びトランスフェクトされた細胞の半分をDMEM(400μMグリシン含有)で培養し、残りの半分をグリシンを含まない培地中で培養した。72時間後、細胞生存率のマーカーとしてトリパンブルー色素排除を用いて細胞生存率を測定した。双眼顕微鏡下で、染色されていない(生存)細胞及び染色された(生存不可能な)細胞を別々に数えた。5つの別々のウェルを各条件について評価した。
【0403】
結果
グリシンの非存在下及び存在下でのトランスフェクトされていない細胞は、平均細胞生存率がそれぞれ94.6%及び95.6%であった。ニセトランスフェクトされた細胞は、グリシンの非存在下では93.8%、及びグリシン存在下では92.8%の平均細胞生存率を有した。hGlyRa1の単量体発現は、グリシン非存在下(細胞の92.0%が生存可能)またはアルファサブユニットによって形成された単量体クロライドチャネルを活性化するグリシンの存在下(細胞の94.0%が生存可能である)で細胞生存率に影響を与えなかった(図16)。
【0404】
結論
グリシン受容体チャネル(hGlyRa1)のアルファサブユニットの単量体発現及びそれに続くHEK-293細胞でのグリシンへの72時間の曝露は、細胞生存率に影響を及ぼさなかった。
【0405】
実施例7
目的
この研究の目的は、HEK-293細胞におけるGluClαサブユニットのL9’A変異の単量体発現が細胞生存率に何らかの効果を有するか否かを決定することであった。
【0406】
方法
ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞を、ATCC(#CRL-1573)から購入した。細胞を、10%FBS(Gibco#26140)、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco#15140)及び1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco#11360)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Gibco#11965)中で培養し、加湿インキュベーター内で37℃及び5%COで維持した。3~4日おきに1:5または1:10の継代培養比でコンフルエントになると、細胞を継代した。次いで、細胞を透明な96ウェル培養プレートに、100μl/ウェルのプレート容積で20,000細胞/ウェルでプレートした。培養24時間後、細胞をニセトランスフェクトするか、またはGluCl(pFB-CMV-GluCloptalpha-mEYFP-WT)またはGluCl(pFB-CMV-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A)のいずれかのα-サブユニットを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションのために、750μlのOpti-MEM(Gibco 31985-070)中の16μgの総DNAを、750μlのOpti-MEM中の30μlのExpressFectと混合し、20分間プレインキュベートし、次いで100μlの新鮮培養培地を含む細胞に15μl/ウェルで添加した。トランスフェクション混合物を、37℃/5%COで4~6時間のインキュベーション期間後に培養物から取り出し、新鮮な培養培地で置き換えた。48時間後、細胞生存率のマーカーとしてトリパンブルー色素排除を用いて細胞生存率を測定した。双眼顕微鏡下で、染色されていない(生存)細胞及び染色された(生存不可能な)細胞を、別々に数えた。5つの別々のウェルを各条件(非トランスフェクト、ニセトランスフェクト、GluCl及びGluCl)について評価した。
【0407】
結果
トランスフェクトされていない細胞及びニセトランスフェクトされた細胞の平均細胞生存率は、それぞれ94.8%及び92.8%であった。GluCl野生型α-サブユニットの単量体発現は、細胞生存率に影響しなかった(91.8%の細胞が生存可能であった)。構成的に活性なC1チャネル(GluCl)を形成するGluClαサブユニットのL9’A変異の単量体発現は、細胞生存率に対して有意な効果を有さなかった(94.0%の細胞が生存可能であった)(図17)。
【0408】
結論
HEK-293細胞におけるGluClαサブユニットのL9’A変異の単量体発現は、細胞生存率に影響を及ぼさなかった。
【0409】
実施例8
目的
ヒト平滑筋細胞におけるムスカリン受容体アゴニストカルバコールの添加時の遊離細胞内Ca++に対するGluCl受容体αサブユニットL9’A変異体及びグリシン受容体α-1サブユニット変異体(L9’A)の効果を評価する。
【0410】
方法
ヒト気道平滑筋(HASM)細胞は、National Disease Research Interchange(Philadelphia,PA,USA)及びInternational Institute for the Advancement of Medicine(Edison,NJ,USA)から入手した気管に由来した。細胞を、10%FBS、100U/mL-1ペニシリン、0.1mg/mL-1ストレプトマイシン及び2.5mg/mL-1アンフォテリシンBを補充したHam’s F-12培地中で培養し、この培地を、72時間毎に交換した。HASM細胞は天然の収縮性タンパク質の発現を保持しているため、第1~5継代の継代培養ではHASM細胞を使用した。HASM細胞は、健常な正常ドナーに由来した。
【0411】
GluCl受容体
細胞は、2人の個々のドナー(HSAM-N030116K/1及びN082715/3)の気管に由来した。それらを約80%のコンフルエントまで増殖させ、次いでpFB-CMV-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A(GluCl受容体αL9’A変異体)でトランスフェクトするか、または72時間トランスフェクションなしとした。細胞を24時間血清飢餓状態にし、カルバコール(10μM)で刺激する前にFluo 8カルシウム感受性色素を1時間ロードした。カルバコール(10μM)で刺激する前に、別々のウェルをフォルモテロール(1μM、10分)で刺激した。この研究における全てのインキュベーション及び刺激は、グリシンを含む組織培養培地中で行った。
【0412】
Gly受容体
2つの個々のドナー(HASM-N070112/3及びN082112/3)の気管に由来する細胞を約80%コンフルエントまで増殖させ、次いでpFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP-WT(野生型GlyRα-1サブユニット)、pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP-L9’A(GlyRα-1サブユニットL9’A)でトランスフェクトするか、または72時間のトランスフェクションなしとした。細胞を24時間血清飢餓状態にし、Fluo 8カルシウム感知色素を1時間負荷した後、ヒスタミンで刺激した。pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP-WTでトランスフェクトした細胞を、グリシン(100μMまたは1mM)と1時間プレインキュベートした後にヒスタミン(1μM)で刺激した。pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP-L9’Aでトランスフェクトした細胞にグリシンは添加しなかった。この研究における全てのインキュベーション及び刺激は、グリシンを含まないクレブス緩衝液中で行った。両方の研究からの全てのデータは、相対蛍光単位として表される。
【0413】
結果
GluCl受容体の結果を、図18A~Bに示す。具体的には、ムスカリン受容体アゴニストカルバコールの添加時に遊離の細胞内Ca++が増大した。細胞N030116K/1では、応答は非常に迅速であり、第2のドナーであるN082715/3由来の細胞中では緩やかであった。フォルモテロール(ベータ-アドレナリン受容体アゴニスト及び既知の平滑筋弛緩薬)は、カルバコール誘発性の細胞内Ca++増大を拮抗させた。構成的に活性なGluClαサブユニットL9’A突然変異(pFB-CMV-GluCloptalpha-mEYFP-L9’A)でトランスフェクトされた細胞も、カルバコールによって誘導された細胞内Ca++の減少を示した。これは両方のドナー由来の細胞で観察された。この観察は、この変異が構成的に活性なクロライドチャネルを生成して細胞の過分極を引き起こし、次にこれが電圧依存性Ca++(L型)チャネルの開口を弱め、これによって細胞内Ca++のレベルを低下するというFrazier(2012)の観察と一致する。
【0414】
GlyRの結果を、図19A図19Bに示す。具体的には、ヒスタミンの添加時に遊離の細胞内Ca++が増大した。細胞のN082112/3では、応答は非常に迅速であり、ドナーN070112/3由来の細胞では緩やかであった。グリシン(100μmまたは1mM)の存在下でpFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP-WT(野生型GlyRアルファ-1サブユニット)でトランスフェクトした細胞では、細胞内Ca中のヒスタミン誘発性の増大が拮抗された。pFB-CMV-hGlyRa1-P2A-mEYFP-L9’A(GlyRアルファ-1サブユニットL9’A)でトランスフェクトされた両方のドナーからの細胞において、グリシンの非存在下ではヒスタミン応答と同等の拮抗作用が見られた。
【0415】
結論
GluC1αサブユニットL9’A変異体の観察は、この変異が細胞の過分極を引き起こす構成的に活性なクロライドチャネルを生成し、これが次に電圧依存性Ca++(L型)チャネルの開口を弱め、これによって細胞内Ca++のレベルを低下させることになるというFrazier(2012)の観察と一致する。
【0416】
GlyRに関するこれらのデータは、GlyRα-1サブユニットL9’Aが、細胞の過分極を導く構成的に活性なクロライドチャネルを形成し、これが次に電圧依存性Ca++(L型)チャネルの開口を弱め、これによって細胞内Ca++のレベルを低下させるという仮説と一致する。
【0417】
実施例9
目的
AAV6が培養中のヒト神経細胞を形質導入する能力を評価すること。
【0418】
方法
解剖顕微鏡下で、ドナーからの死後収集されたヒト後根神経節(hDRG)は、過剰な脂肪、結合組織、及び神経根を浄化させた。その後、神経節を小片にスライスした。これらの小片を、0.25%コラゲナーゼP及び0.1%ディスパーゼIの酵素カクテルで消化し、37℃で18時間インキュベートした。消化後、細胞をハンクス平衡塩類溶液で酵素溶液を用いずに洗浄した。
【0419】
精製後、解離した細胞を、組織培養皿にプレートした。プレート前に、皿を10μg/mlのポリ-L-リシン及び1型のラット-テールコラーゲンで処理した。細胞を、B-27補充物(Invitrogen)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.4mMのL-グルタミン、2.5g/Lグルコース及び1%ウシ胎仔血清を補充したNeurobasal-A培地(Invitrogen)中で維持した。
【0420】
培養した細胞が一旦安定化すれば(4~5日)、それらをAAV6-hSyn-GFPで形質導入し、2.2e11vg/mLの濃度で細胞に添加し、細胞と少なくとも6時間接触させた。その細胞を蛍光顕微鏡下で2~3日毎に検査し、GFP発現をチェックした。観察はデジタル画像によって記録した。
【0421】
結果
AAV6ニューロン細胞への曝露の4日後に、GFPタンパク質の強い発現が示された(図20)。GFPの発現は、全てのニューロン細胞において見られず、これはAAV6が小さな侵害受容ニューロンに対する選択性を示すことを示している、マウスにおける以前の研究と一致する(Towne C.et al.(2009)Molecular Pain 5(1):52)。グリア細胞も、GFPを発現しなかった。このレベルの選択性は、部分的にはAAV6向性に起因する可能性があり、GFPのニューロン選択的発現を可能にするhSynプロモーターの使用によって確かに影響される。
【0422】
結論
これらのデータによって、AAV6が培養中のヒト神経細胞に形質導入できることが示される。この観察は、げっ歯類で実証されているように、AAV6が末梢に注射されるとき、注射領域で侵害受容ニューロンを形質導入し、それらのニューロンの生理学に影響を及ぼし得る遺伝子を送達することができることを示唆する。これらの観察は、内因性に活性化されるかまたは構成的に活性なクロライドチャネルを末梢侵害受容ニューロンに送達し、ヒトの末梢から脊髄への疼痛シグナルの伝達を防止するためのAAV6の使用の概念と一致する。
【0423】
参照によって援用されるのは、本明細書に引用される、刊行物、特許出願及び特許を含む全ての引用文献であって、あたかも各参照が個々にかつ具体的に参照により組み入れられるように示され、その全体が本明細書に記載される程度まで引用される文献である。
【0424】
本発明(特に、添付の特許請求の範囲の文脈において)を記述する文脈における用語「a」及び「an」、ならびに「the」、また同様の指示対象の使用は、本明細書において別段示されることもなく、または文脈上明確に矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方を包含するものと解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」という用語は、別段の記載がない限り、制限のない用語(すなわち、「含むが、これに限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書中に別段の指示がない限り、その範囲内におさまる各別個の値を個々に言及する簡略方法として役立つことを単に意図しており、それぞれの個別値は、あたかも本明細書に個別に列挙されているかのように、本明細書内に組み込まれる。本明細書中に記載される全ての方法は、本明細書中で他に指示されない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施され得る。本明細書で提供される任意のかつ全ての例、または例示的な言語(例えば、「~など」)の使用は、単に本発明をより良く示すことを意図するだけであり、別段の主張がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる言葉も、本発明の実施に不可欠な任意の非請求の要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0425】
本発明を実施するために本発明者らに知られている最良の形態を含む、本発明の好ましい実施形態を本明細書に記載する。これらの好ましい実施形態のバリエーションは、前述の説明を読むことにより当業者には明らかになるであろう。本発明者らは、当業者がこのような変形を適切に使用することを期待しており、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載されたものとは別の方法で実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用法によって許容されるように、添付の特許請求の範囲に記載された主題の全ての改変及び等価物を包含する。さらに、本明細書中で他に指示されない限り、または文脈によって明らかに否定されない限り、それらの全ての可能なバリエーションにおける上記の要素の任意の組み合せが本発明に包含される。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
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