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特許7097103海岸湿地帯に対する侵食保護の構造およびその工事方法
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  • 特許-海岸湿地帯に対する侵食保護の構造およびその工事方法 図1
  • 特許-海岸湿地帯に対する侵食保護の構造およびその工事方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】海岸湿地帯に対する侵食保護の構造およびその工事方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/12 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
E02B3/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020544083
(86)(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 CN2018084138
(87)【国際公開番号】W WO2019204970
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】515223167
【氏名又は名称】中国海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088063
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 康治
(72)【発明者】
【氏名】李華軍
(72)【発明者】
【氏名】梁丙臣
(72)【発明者】
【氏名】孫文軒
(72)【発明者】
【氏名】楊冬鉄
(72)【発明者】
【氏名】付斌清
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-225996(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105800866(CN,A)
【文献】特開平02-132211(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0120095(KR,A)
【文献】特開2007-023501(JP,A)
【文献】特開平11-293643(JP,A)
【文献】特開2003-239241(JP,A)
【文献】特開2005-180152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海岸湿地帯に対する侵食保護の構造であって、傾斜堤と消波植生を含み、前記傾斜堤の頂部を前記消波植生が覆っており、
前記傾斜堤は、捨石堤ベース8、捨石堤コア7、有孔ケーソン6を含み、前記捨石堤ベース8の頂部に前記捨石堤コア7が積まれており、前記有孔ケーソン6が前記捨石堤コア7の内部に嵌入されており、前記捨石堤コア7の傾斜面と堤頂と有孔ケーソン6の表面のいずれも前記消波植生が覆っており、
前記捨石堤コア7は階段坂状を呈しており、前記有孔ケーソン6の頂部は前記捨石堤コア7の堤頂より低
前記消波植生は、塩生植物1、塩生アブラ・低木4、および人工水草3を含み、前記塩生植物1は、前記捨石堤コア7の堤頂に植えられており、前記塩生アブラ・低木4は、前記有孔ケーソン6の内部に植えられており、前記人工水草3は、前記捨石堤コア7の傾斜面に備え付けられている、
ことを特徴とする海岸湿地帯に対する侵食保護の構造。
【請求項2】
海岸湿地帯に対する侵食保護の構造であって、傾斜堤と消波植生を含み、前記傾斜堤の頂部を前記消波植生が覆っており、
前記傾斜堤は、捨石堤ベース8、捨石堤コア7、有孔ケーソン6を含み、前記捨石堤ベース8の頂部に前記捨石堤コア7が積まれており、前記有孔ケーソン6が前記捨石堤コア7の内部に嵌入されており、前記捨石堤コア7の傾斜面と堤頂と有孔ケーソン6の表面のいずれも前記消波植生が覆っており、
前記捨石堤コア7は階段坂状を呈しており、前記有孔ケーソン6の頂部は前記捨石堤コア7の堤頂より低く、
前記傾斜堤は、対称的構造である
とを特徴とする海岸湿地帯に対する侵食保護の構造。
【請求項3】
海岸湿地帯に対する侵食保護の構造の工事方法であって、
S1 基礎処理として、捨石堤ベース8を敷設するステップと、
S2 前記捨石堤ベース8に有孔ケーソン6を配置するステップと、
S3 石等級の異なるブロック形状の石を用いて堤ベースに対する捨石を行って、階段状の捨石堤コア7を形成するステップと、
S4 前記捨石堤コア7の傾斜面に人工水草3を敷設するステップと、
S5 前記有孔ケーソン6の内部と前記捨石堤コア7の堤頂に塩生植生を植えるステップと、
を含み、
ステップS5においては、前記塩生植生は、塩生植物1と塩生アブラ・低木4を含み、前記塩生植物1を前記捨石堤コア7の堤頂に植え、前記塩生アブラ・低木4を前記有孔ケーソン6の内部に植える
とを特徴とする海岸湿地帯に対する侵食保護の構造の工事方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸湿地帯に対する消波の技術領域に属し、具体的には海岸湿地帯に対する侵
食保護の構造およびその工事方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海岸湿地帯とは陸地生態系と海洋生態系とが入り交じった遷移地帯をいう。国際湿地条約
の定義によると、海岸湿地帯の下限は海面下6メートルのところであり、上限は大潮線の
上と内河流域とつながる淡水または半塩水湖及び海水が到達できない入海の河の河域であ
る。海岸湿地帯は貴重な自然資源であり、重要な生態系の構成の一つであり、代替できな
い総合的な機能を持っている。
【0003】
海岸湿地帯を保護するため、外海波の破壊を受けないようにすべく、伝統的な防波堤は海
岸湿地帯にとって、理想的な消波効果を得るためには大きな敷地面積と工事量が必要であ
る。一方、コンクリートと石塊からなる消波構造は鬱蒼とした湿地景観と合わず、湿地景
観の観賞価値を破壊する。
【0004】
そのため、どのように海岸湿地帯に対する侵食保護の新しい構造とその施工方法を提供す
るかは、当業者が早急に解決しなければならない問題である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、海岸湿地帯に対する侵食保護の構造を提供し、構造消波と、植生消波とを組み
合わせることにより湿地帯の美しい自然景観と整合化でき、海岸湿地帯の観賞価値を維持
することもでき、より小さな敷地面積にてよりより少ない工事量で、良い消波効果を得る
ことができる。
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は下記の技術方案を採用する。
【0007】
本開示にかかる海岸湿地帯に対する侵食保護の構造は、傾斜堤と消波植生を含み、傾斜堤
の頂部に消波植生が覆われている。傾斜堤は、捨石堤ベース、捨石堤コア、有孔ケーソン
、ドライストーンアーマー、および人工湿地物質を含む。捨石堤ベースの頂部に捨石堤コ
アが投げ積まれている。有孔ケーソンが捨石堤コアの内部に嵌入されている。ドライスト
ーンアーマーは捨石堤コアの傾斜面を覆っている。人工湿地物質は、有孔ケーソンの内部
、および捨石堤コアの堤頂に充填されている。ドライストーンアーマーと人工湿地物質の
表面にいずれも消波植生が覆われている。ドライストーンアーマーは、裏側にある捨石堤
コアを保護するものとして機能する。人工湿地物質は、消波植生に栽培条件を提供するも
のとして機能する。傾斜堤そのものは従来の消波構造の消波効果を果たすとともに、嵌入
される有孔ケーソンは生物防波堤を実現するために作用する重要なものである。本開示に
提供される海岸湿地帯に対する侵食保護の構造は、構造消波と、植生消波とを組み合わせ
ることにより、海岸湿地帯の美しい自然景観を破壊することなく、より小さな敷地面積と
工事量でより良い消波効果を得ることができる。
【0008】
さらに、捨石堤コアは、階段坂状を呈する。そして、有孔ケーソンの頂部は捨石堤コアの
堤頂より低い。階段坂式の捨石堤コアにより、様々な植生を常に適当な消波深度に保持さ
せることができ、消波効率を向上する。
【0009】
上記形態において、望ましくは、消波植生は、塩生植物、塩生アブラ・低木、および人工
水草を含む。塩生植物は、捨石堤コアの堤頂にある人工湿地物質に植えられる。塩生アブ
ラ・低木は、有孔ケーソンの内部にある人工湿地物質に植えられる。人工水草は、ドライ
ストーンアーマーの表面に備え付けられる。長根の塩生アブラ・低木は、有孔ケーソンの
内部にある人工湿地物質に植えられる。これにより、消波植生と防波堤の適宜な組み合わ
せを実現している。人工水草は、比較的良好な緩流と一定の消波効果を発揮できる。
【0010】
上記形態において、望ましくは、塩生植物の高さは、高水位にされている時には完全に水
没しなく、また低水位にされている時には完全に空気中に露出しないように設置される。
水位が樹冠層を超えた後での消波効果の大幅に低下することを避ける。塩生アブラ・低木
の植え深さは、根が完全に水没しないようにされることにより、植物の生存を保証するこ
とができる。
【0011】
上記形態において、望ましくは、捨石堤コアは、石等級の異なるブロック形状の石(石ら
)を用いる、小さな石を堤コアや斜坂の下部に置き、大きな石を波力の強い堤頂や外坂に
置くことにより、捨石堤コアの構造の安定性を保証することができる。
【0012】
上記形態において、望ましくは、有孔ケーソンが複数備えられる。それぞれの有孔ケーソ
ンに、ランダムに位置される複数の角穴が設けられている。捨石堤コアの構造の局所応力
集中を回避することができ、有孔ケーソンにおける湿地物質の水循環を保証する。
【0013】
上記形態において、望ましくは、傾斜堤は、対称的構成とされることにより、海岸湿地帯
に対する侵食保護の構造の美観を実現する。
【0014】
本開示にかかる海岸湿地帯に対する侵食保護の構造の工事方法は、
S1 基礎処理として、捨石堤ベース8を敷設するステップと、
S2 前記捨石堤ベース8に有孔ケーソン6を配置するステップと、
S3 石等級の異なる石らを用いて堤ベースに対する捨石を行って、階段状の捨石堤コア
7を形成するステップと、
S4 前記捨石堤コア7の斜坡面にドライストーンアーマー5を施工するステップと、
S5 前記有孔ケーソン6の内部と前記捨石堤コア7の堤頂に人工湿地物質2を充填する
ステップと、
S6 前記ドライストーンアーマー5の表面に人工水草3を敷設するステップと、
S7 前記人工湿地物質2に塩生植生を植えるステップと、
を含む。
【0015】
さらに、工程S7においては、塩生植生は、塩生植物と塩生アブラ・低木を含み、塩生植
物を捨石堤コアの堤頂にある人工湿地物質に植え、塩生アブラ・低木を有孔ケーソン内部
にある人工湿地物質に植えることを含む。
【0016】
海岸湿地帯に対する侵食保護の構造およびその工事方法を提供する。構造消波と、植生消
波とを組み合わせることにより、より小さな敷地面積にてより良い消波効果を得ることが
できるだけでなく、構造全体が鬱蒼として、湿地帯の美しい自然景観と整合化でき、海岸
湿地帯の観賞価値を維持することもできる。総じて、その工事が簡単で、占用面積が小さ
く、しかも、海岸湿地帯の美しい自然景観を維持できる。
【0017】
本発明は、海岸湿地帯に対する侵食保護の構造の新しい構造の施工方法を開示しており、
工程は簡単で、必要とする面積が小さく、しかも海岸湿地帯の美しい自然景観を保護する
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の実施形態または先行技術における技術方案をより明確に説明するために、以下で
は実施形態または先行技術説明において必要とされる図面を簡単に紹介する。以下の説明
における図面は本発明の実施形態だけのものであり、当該分野の一般技術者にとって、創
造的な労働を行わない前提として他の図面を獲得できることも明白である。
【0019】
図1】本発明によって提供される海岸湿地帯に対する侵食保護の構造の新しい構造の概略図である。
図2】本発明によって提供される海岸湿地帯に対する侵食保護の構造の新しい構造の施工方法のフローチャートである。
【0020】
[符号の説明]
1 塩生植物
2 湿地物質
3 人工水草
4 塩生アブラ・低木
5 ドライストーンアーマー(Dry-stone Armour)
6 有孔ケーソン
7 捨石堤コア
8 捨石堤ベース
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示にかかる海岸湿地帯に対する侵食保護の構造は、傾斜堤と消波植生を含み、傾斜堤
の頂部に消波植生が覆われている。傾斜堤は、捨石堤ベース8、捨石堤コア7、有孔ケー
ソン6、ドライストーンアーマー5、および人工湿地物質2を含む。捨石堤ベース8の頂
部に捨石堤コア7が投げ積まれている。有孔ケーソン6が捨石堤コア7の内部に嵌入され
ている。ドライストーンアーマー5は捨石堤コア7の傾斜面を覆っている。人工湿地物質
2は、有孔ケーソン6の内部、および捨石堤コア7の堤頂に充填されている。ドライスト
ーンアーマー5と人工湿地物質2の表面にいずれも消波植生が覆われている。
【0022】
本開示にかかる海岸湿地帯に対する侵食保護の構造においては、ドライストーンアーマー
5は、裏側にある捨石堤コア7を保護するものとして機能する。人工湿地物質2は、消波
植生に栽培条件を提供するものとして機能する。傾斜堤そのものは従来の消波構造の消波
効果を果たすとともに、嵌入される有孔ケーソン6は生物防波堤を実現するために作用す
る重要なものである。本開示に提供される海岸湿地帯に対する侵食保護の構造は、構造消
波と、植生消波とを組み合わせることにより、海岸湿地帯の美しい自然景観を破壊するこ
となく、より小さな敷地面積と工事量でより良い消波効果を得ることができる。
【0023】
さらに、捨石堤コア7は、階段坂状を呈する。そして、有孔ケーソン6の頂部は捨石堤コ
ア7の堤頂より低い。階段坂式の捨石堤コア7により、様々な植生を常に適当な消波深度
に保持させることができ、消波効率を向上する。
【0024】
上記形態において、望ましくは、消波植生は、塩生植物1、塩生アブラ・低木4、および
人工水草3を含む。塩生植物1は、捨石堤コア7の堤頂にある人工湿地物質2に植えられ
る。塩生アブラ・低木4は、有孔ケーソン6の内部にある人工湿地物質2に植えられる。
人工水草3は、ドライストーンアーマー5の表面に備え付けられる。長根の塩生アブラ・
低木4は、有孔ケーソン6の内部にある人工湿地物質に植えられる。これにより、消波植
生と防波堤の適宜な組み合わせを実現している。人工水草は、比較的良好な緩流と一定の
消波効果を発揮できる。
【0025】
上記形態において、望ましくは、塩生植物1の高さは、高水位にされている時には完全に
水没しなく、また低水位にされている時には完全に空気中に露出しないように設置される
。水位が樹冠層を超えた後での消波効果の大幅に低下することを避ける。塩生アブラ・低
木4の植え深さは、根が完全に水没しないようにされることにより、植物の生存を保証す
ることができる。
【0026】
上記形態において、望ましくは、捨石堤コア7は、石等級の異なる石らを用いる、小さな
石を堤コアや斜坂の下部に置き、大きな石を波力の強い堤頂や外坂に置くことにより、捨
石堤コア7の構造の安定性を保証することができる。
【0027】
上記形態において、望ましくは、有孔ケーソン6が複数備えられる。それぞれの有孔ケー
ソン6に、ランダムに位置される複数の角穴が設けられている。捨石堤コア7の構造の局
所応力集中を回避することができ、有孔ケーソンにおける湿地物質の水循環を保証する。
上記形態において、望ましくは、傾斜堤は、対称的構成とされることにより、海岸湿地帯
に対する侵食保護の構造の美観を実現する。
【0028】
本開示にかかる海岸湿地帯に対する侵食保護の構造の工事方法は、下記の工程を含む。
S1 捨石堤ベース8を敷設することにより、海岸湿地帯に対する侵食保護の構造に強固
な基礎を築く基礎処理。
S2 捨石堤ベース8に有孔ケーソン6を配置することにより、長根の塩生アブラ・低木
4と防護堤とを組み合わせること。
S3 石等級の異なるブロック形状の石(石ら)を用いて堤ベースに対する捨石を行って
、階段状の捨石堤コア7を築成することにより、構成の安定性を保証すること。
S4 捨石堤コア7の斜坡面にドライストーンアーマー5を実施することにより、捨石堤
コア7を保護すること。
S5 有孔ケーソン6の内部と捨石堤コア7の堤頂に人工湿地物質2を充填することによ
り、消波植生の植えに栽培の基礎を提供すること。
S6 ドライストーンアーマー5の表面に人工水草3を敷設することにより、捨石堤コア
7の斜坡面が綺麗な外観を有すること。
S7 人工湿地物質2に塩生植生を植えることにより、植生消波と構成消波とを組み合わ
せること。
【0029】
さらに、工程S7においては、塩生植生は、塩生植物1と塩生アブラ・低木4を含み、塩
生植物1を捨石堤コア7の堤頂にある人工湿地物質2に植え、塩生アブラ・低木4を有孔
ケーソン6内部にある人工湿地物質2に植えることを含む。
【0030】
本明細書では、各実施形態は、他の実施形態と異なる点を重点的に説明し、各実施形態の
間で同じような部分は相互参照することができる。実施形態に開示された装置については
、実施形態に開示された方法に対応するので、説明は比較的簡単なものとし、関連する点
は、当該方法の説明の一部を参照すればよい。
【0031】
開示された実施形態の上述の説明は、当業者が本発明を実現または使用することを可能に
する。これらの実施形態の様々な修正は、当業者にとって明白であり、本明細書で定義さ
れた一般的な原理は、本発明の精神または範囲を逸脱することなく、他の実施形態におい
て実現され得る。したがって、本発明は、本明細書で示したこれらの実施形態に限定され
るものではなく、本明細書で開示された原理および新規な特徴と一致する最も広い範囲に
適合するものである。
図1
図2