(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】光検出装置
(51)【国際特許分類】
H01L 31/107 20060101AFI20220630BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20220630BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H01L31/10 B
H01L27/144 K
H01L27/146 F
H01L27/146 A
(21)【出願番号】P 2022517402
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2022011878
【審査請求日】2022-03-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502226380
【氏名又は名称】株式会社オプトハブ
(74)【代理人】
【識別番号】100086368
【氏名又は名称】萩原 誠
(72)【発明者】
【氏名】倉知 郁生
(72)【発明者】
【氏名】高野 紘
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 保昌
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-510308(JP,A)
【文献】特表2019-533302(JP,A)
【文献】特開2021-27358(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0358488(US,A1)
【文献】国際公開第2004/027879(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/107
H01L 27/144-27/148
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物からの入射光を検出する光検出装置において、
(i)P型シリコン(Si)基板と、
(ii)前記P型シリコン(Si)基板の表面となる第1面にエピタキシャル成長により形成したP型ゲルマニウム(Ge)層と、
(iii)前記P型ゲルマニウム(Ge)層上に形成したP型薄膜シリコン(Si)層と、を含み、
(iv)前記P型薄膜シリコン(Si)層はシャロートレンチアイソレーション(STI:Shallow Trench Isolation)により第1の領域と第2の領域とに区画され、前記第1の領域にはアレイ状に配列された複数の単一光子検出ダイオード(SPAD)が、前記第2の領域には前記SPADを駆動するCMOSトランジスタ回路が形成されてなる光検出装置。
【請求項2】
前記P型薄膜シリコン(Si)層が、表面活性化接合技術と水素イオン注入によるスマートカット技術とにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記P型薄膜シリコン(Si)層が、前記P型ゲルマニウム(Ge)層上にシリコン(Si)のエピタキシャル成長により薄膜化されて形成されることを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項4】
前記P型シリコン(Si)基板の裏面となる第2面からの前記入射光を受光するよう構成してなる請求項1乃至3のいずれかに記載の光検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物からの入射光、特に、波長が0.9~1.6μm程度の赤外光の単一光子を検出する複数の光検出素子と、該光検出素子を駆動する駆動回路とを内蔵した光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単一光子の検出が可能な光検出素子は、従来、一般的にはシリコンを用いたSPAD(Single Photon Avalanche Diode)として実現されている(特許文献1参照)。
しかし、この場合、シリコン固有のバンドギャップ(Eg≒1.12eV)のため1μm程度より短い波長(λ)の光子しか検出出来ない。1μm以上の波長を有する赤外線の光子を検出するためには、シリコンよりもバンドギャップの狭い半導体を検出素子として用いる必要がある。このため、一般に1μm以上の波長の赤外線の光子を検出するためにはインジウムガリウムヒ素(InGaAs)やゲルマニウム(Ge)が用いられている。
【0003】
前者のInGaAsは結晶欠陥が多く、特に深い準位のトラップが形成されているため、アバランシェフォトダイオード(APD)として動作させた時、アフターパルス(“ノイズ”)という不良が多く発生することが知られている。
また、InGaAsは単結晶としては製造できず、一般にInP基板上に金属有機物化学気相反応(MOCVD)によるエピタキシャル成長によって形成される。
そのため、基板作製コストが高額になるという欠点がある。
さらに、結晶品質を十分に高くすることが困難である。
【0004】
また、APDからの信号を増幅したり、処理するための駆動回路をAPDと一体化して同一チップ内に構成することが出来なかった。
後者のGeでは、アバランシェ領域をGe内に形成しなければならず、Geはバンドキャップが上述したように狭いことから容易に熱的に励起されたキャリアが発生し、そのキャリアによってアバランシェ増幅が起き、光がない“暗い”場合でも“光子”計数してしまう。これは暗計数率(ダークカウントレート:DCR)と呼ばれ、DCRが高くなるという問題があった。
また、光検出装置を長距離被写体検知システム(Laser Imaging Detection and Ranging:LiDAR)として使用する場合等には、2次元的な距離情報が必要となり、複数のSPADをアレイ状に配列して配置しなければならない。しかし、InGaAsやGeを用いた検出装置の場合、複数のSPADを同一チップ内にアレイ状に配列することが困難であった。
【0005】
非特許文献1には、シリコン基板上に形成したゲルマニウム(Ge)層に単一光子検出ダイオード(SPAD)を形成することが開示されている。
非特許文献2には、Ge吸収層とSi増倍層で構成され、pドープSi電荷層で分離されて構成される増倍アバランシェフォトダイオード(SACM-APD)が開示されている。
しかし、非特許文献1,2に開示されているSPADは単一ダイオードの構造であって複数のダイオードをアレイ状に配列する構成ではなく、また、SPADを駆動する回路が同一基板上に形成されてはいない。
【0006】
非特許文献3には、NIR LiDARレシーバで使用されるN+PシングルエンドSPADのアクティブリセット用の回路が開示されている。しかし、SPADとリセット用の回路を同一基板上でどのように構成させるのかについての詳細は開示されていない。
非特許文献4には、0°および6°オフカットシリコン(001)上にゲルマニウム(Ge)をエピタキシャル成長させ、その特性評価結果を開示している。
非特許文献5には、2段階プロセスを使用してシリコン(100)上にゲルマニウム(Ge)薄膜をエピタキシャル成長させることが開示されている。
【0007】
非特許文献4,5はシリコン層上にエピタキシャル成長させたGe層の特性について評価しているのみで、光検出装置の構成については何等開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】"High performance planar germanium-on-silicon single-photon avalanche diode detectors", Peter Vines, etc. 「nature communications, (2019)10;1086」
【文献】"Modelling Ge/Si Avalanche Photodiodes", F.Gity etc.「Science Foundation Ireland(SF1) under grand 07/SRC/11173」
【文献】"Active-Reset for the N+P Single-Ended SPAD Used in the NIR LiDAR Receivers」, A.Katz, etc.「IE3 TRANSACTIONS ON ELECTRON DEIVES, Vol. 66, No.12 December 2019」
【文献】"Comparative Studies of the Growth and Characterization of Germanium Epitaxial Film on Silicon(001) with 0°and 6°Offcut." Kwang Hong Lee, etc.「Journal of Electronic Materials, vol.42, No.6, 2013」
【文献】「Epitaxial Germanium thin films of Silicon(100) using two-step process」,Saloni Chaurasia, etc."VTC from IEEE Xplore"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、基板作製コストをInGaAsと比べ、十分に低く抑え、且つアフターパルスも少なく、DCRも抑えたSPADを備えた光検出装置とその製造方法を提供することを目的としている。
さらに、アレイ状に配列された複数のSPADを駆動するシリコンベースのCMOSトランジスタ回路を同一基板上に配列して載置出来る光検出装置とその製造方法とを提供することもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光検出装置はP型のシリコン(Si)基板と該シリコン(Si)基板上にエピタキシャル成長により形成したP型のゲルマニウム(Ge)層とそのゲルマニウム(Ge)層上にP型シリコン(Si)を表面活性化接合で接合されており、該P型シリコン(Si)は水素イオン注入を用いたスマートカット技術で0.8μm乃至1.2μmに薄膜化されている構造をもとに作られている。
薄膜化されたP型シリコン(Si)にはイオン注入により赤外線を検出するアレイ状に配列された複数のSPADと、このSPADを駆動し検出した信号を増幅・処理するCMOSトランジスタ回路とが形成される。
該P型シリコン(Si)のアバランシェダイオード部では、ボロン等のIII族不純物によるイオン注入でドープされたAPD Pウエル層、リン等のV族不純物によるイオン注入でドープされたAPD Nウエル層、APD Nウエル層にはコンタクト抵抗を十分に下げるためヒ素等のV族不純物で高濃度にドープされたN+拡散層が形成されている。また該N+拡散層周辺にはエッジブレークダウンを回避するNWガードリング層がイオン注入により設置されている。
【0012】
Nチャネルトランジスタ部にはボロン等のIII族のイオン注入によるPウエル層が、該Pウエル層内にはトランジスタのソース及びドレインを構成するヒ素等のV族のイオン注入により形成されるN+拡散層がある。さらにPウエル層とコンタクトをするためのボロン等によるP+拡散層も形成されている。同様にPチャネルトランジスタ部ではイオン注入によりNウエル層、P+拡散層、N+拡散層が形成されている。
【0013】
これらのトランジスタの形成方法は既存のロジックLSIの製造方法に従っており、本発明の光検出装置の製造を容易にし、且つ製造コスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光検出装置によれば、赤外線による光電効果でのキャリア発生をゲルマニウム空乏層内で起こし、この発生したキャリアのアバランシェを高品質のシリコン内のPN接合部で起こすことで、SPADのノイズであるDCRを低減し、アフターパルスも低減することが可能となる。また、アバランシェダイオードは一つ一つ分離されており、複数のアバランシェダイオードをアレイ状に配置することが可能となり、2次元のイメージセンサを1チップで作ることが可能となる。
【0015】
更に通常のシリコンCMOS回路が容易に搭載できるため、センサーダイオードのみならずセンサーから出力される電気信号を増幅・処理する回路を1チップ内に搭載でき、装置のサイズ・コストの低減を図ることが可能である。
加えて、本発明の光検出装置の製造方法はほぼ通常のCMOSロジックプロセスに準じており、製造の容易性及びコスト低減が担保される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る光検出装置の概略構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は断面図。
【
図2】
図1(b)に示す断面構造の詳細を示す模式的断面図。
【
図3】本発明による赤外線単一光子検出可能な光検出装置を製造する基本材料となるウエハの製造方法を示す図。
【
図4(a)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その1)。
【
図4(b)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その2)。
【
図4(c)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その3)。
【
図4(d)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その4)。
【
図4(e)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その5)。
【
図4(f)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その6)。
【
図4(g)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その7)。
【
図4(h)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その8)。
【
図4(i)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その9)。
【
図4(j)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その10)。
【
図4(k)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その11)。
【
図4(l)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その12)。
【
図4(m)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その13)。
【
図4(n)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その14)。
【
図4(o)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その15)。
【
図4(p)】赤外線単一光子検出可能な光撮像装置のウエハプロセスを説明する概略断面図(その16)。
【
図5】APDの主要部分のプロセスシミュレーションにより得たキャリア濃度プロファイルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態の詳細を説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態に係る光検出装置10の概略構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は断面図を示す。
本発明の光検出装置10では、同一シリコンチップ1上に複数の単一光子検出ダイオード(SPAD)のピクセル2がアレイ状に配列され、その周辺にはこれらのピクセル2を駆動するRow(行)制御回路4-1、Column(列)制御回路4-2、及び信号処理回路4-3などで構成されるCMOSトランジスタ回路4が形成される。
【0019】
シリコンチップ1の表面の薄膜シリコン(Si)層は後に詳細に説明するシャロートレンチアイソレーション(STI:Shallow Trench Isolation)により、第1の領域と第2の領域とに区画され、第1の領域には、アレイ状に配列されたピクセル2が、第2の領域にはCMOSトランジスタ回路4が形成されている。
各ピクセル2間及びピクセル2とRow制御回路4-1及びColumn制御回路4-2との間は金属配線3で結ばれている。
【0020】
図2は
図1(b)に示す断面構造の詳細を示す模式的断面図である。
本光検出装置は、P型にドープされたP型ゲルマニウムエピタキシャル層102がP型にドープされたシリコン基板101とP型薄膜シリコン層103とでサンドウィッチされたウエハをウエハプロセスの原材料として用い、イオン注入及び熱処理を行う事で赤外線単一光子を検出するフォトダイオード(SPAD)202とフォトダイオード202からの信号を増幅し処理するCMOSトランジスタ回路201を構成している。
なお、
図2にはCMOSトランジスタ回路201及びフォトダイオード(SPAD)202は単位個数しか例示されていないが、実際の光検出装置では、
図1に示すように、アレイ状に配列された複数のSPAD202と、複数のCMOSトランジスタ回路201を組み合わせたSPAD202の駆動用のCMOSトランジスタ回路が構成される。
さらにフォトダイオード202内の素子、CMOSトランジスタ回路201内の素子、及びフォトダイオード202とCMOSトランジスタ回路201間の配線を既存のプロセス製造技術により形成することで、信号増幅できる増幅器や信号の処理ができるCMOSトランジスタ回路201を包含した一体型の赤外線単一光子検出可能な光検出装置が実現される。
【0021】
フォトダイオード(SPAD)202はP型シリコン基板101上に形成されており、P型シリコン基板101は汎用のシリコンウエハで、ボロン等III族不純物でドープされており、そのキャリア濃度は1×1015cm-3乃至1×1019cm-3であり、望ましくは1×1018cm-3である。
【0022】
P型ゲルマニウムエピタキシャル層102はシリコン基板101上にエピタキシャル成長により形成された層でP型にドープされており、その濃度は1×1015cm-3乃至1×1016cm-3、望ましくは7×1015cm-3であり、厚さは4μm乃至7μm、望ましくは5.5μmである。
【0023】
P型ゲルマニウムエピタキシャル層102上には、濃度1×1015cm-3乃至1×1016cm-3、望ましくは7×1015cm-3で厚さ0.8μm乃至1.2μm、望ましくは1.0μmのP型薄膜シリコン層103が形成されている。このP型薄膜シリコン層103はP型ゲルマニウムエピタキシャル層102と表面活性化接合により常温真空中で接合される。
またP型薄膜シリコン層103は水素イオン注入を用いたスマートカット技術により薄くかつ均一な膜厚として実現される。
【0024】
フォトダイオード202の部分では、P型薄膜シリコン層103中に深い方から通常のイオン注入技術によりAPD Pウエル層105、APD Nウエル層106、N+拡散層108が形成されており、N+拡散層108を取り囲むようにガードリングNウエル層107が配置されている。
【0025】
APD Pウエル層105はP型薄膜シリコン層103の表面から深さ0.7μmから0.8μmに位置し、濃度1×1016cm-3乃至1×1017cm-3、望ましくは7×1016cm-3のP型の拡散層であり、この層によりP型薄膜シリコン層103とP型ゲルマニウムエピタキシャル層102との接合部の電界を低減するよう制御することで、この界面で発生する暗電流を低減している。
【0026】
APD Nウエル層106はP型薄膜シリコン層103の表面から深さ0.2μmから0.7μmに位置し、濃度1×1015cm-3乃至1×1016cm-3、望ましくは7×1015cm-3のN型の拡散層である。
【0027】
APD Pウエル層105とAPD Nウエル層106とはともにPN接合を形成しており、この接合部分にアバランシェ増幅が可能となるに十分な高電界がかかっている。
このAPD Nウエル層106と電気的に接続し十分に低い抵抗値で金属配線3とコンタクトを取るために、P型薄膜シリコン層103の表面から0.2μmの深さで濃度1×1019cm-3乃至1×1021cm-3のN+拡散層108が形成されている。このN+拡散層108はのちに述べるCMOSトランジスタ回路201部に用いるN+拡散層108と同時に形成しても良い。
【0028】
さらに、このフォトダイオードのN+拡散層108の周辺には、エッジブレークダウンを避けるために濃度1×1017cm-3乃至1×1019cm-3のガードリングNウエル層107が配置される。
また各フォトダイオード202の周辺には、電気的分離を行うためにSTI(Shallow Trench Isolation)層104が配備されている。
【0029】
CMOSトランジスタ回路201は基本的にP型薄膜シリコン層103内に既存のCMOS製造技術で作られる。
図2の110および111はそれぞれNチャネルトランジスタが構成されるPウエル層、Pチャネルトランジスタが構成されるNウエル層である。各ウエル層内にはソースドレインを構成する高濃度の拡散層であるN
+拡散層108、及びP
+拡散層109が配置されている。
N
+拡散層108及びP
+拡散層109はまたウエル層110、111と低抵抗で接続をするウエルコンタクトとなっている。MOSFETのゲート電極は112であり、トランジスタの各電極は電極プラグ114により電気的に接続され、メタル配線115により光検出装置の回路構成がなされる。
【0030】
図3は本発明による赤外線単一光子検出可能な光検出装置を製造する基本材料となるウエハの製造方法を示したものである。
まず、
図3(a)に示すように、既存のボロン等III族不純物が濃度1×10
15cm
-3乃至1×10
19cm
-3、望ましくは1×10
18cm
-3でドープされたP型シリコン基板301にP型ゲルマニウムエピタキシャル層302をエピタキシャル成長により形成する。
この時、P型ゲルマニウムエピタキシャル層302のキャリア濃度は1×10
15cm
-3乃至1×10
16cm
-3、望ましくは7×10
15cm
-3であり、厚さは4μm乃至7μm、望ましくは5.5μmである。
【0031】
一方、
図3(b)に示すように、既存のボロン等III族不純物が濃度1×10
15cm
-3乃至1×10
16cm
-3、望ましくは7×10
15cm
-3でドープされたP型シリコン基板303に、水素イオン(H
+)を1×10
16cm
-3乃至1×10
17cm
-3、望ましくは5×10
16cm
-3のドーズ量でエネルギ110keVで注入する。
【0032】
これらの二つの基板301、303を
図3(c)に示したように表面活性化接合技術により真空中で接合する。この表面活性化接合では、二つの基板を図示しない真空チャンバに導入し、Arイオンによりそれぞれの表面をスパッタリングした後、それぞれの表面を接合させ、300N程度の圧力を60秒程度加えることで二つの基板は機械的に接合される。
【0033】
この接合された基板を400乃至600℃の温度でアニールすることで、
図3(d)に示したように水素イオン注入部で劈開が起こり、P型ゲルマニウムエピタキシャル層302上に1μm程度のP型シリコン層303を形成することができる。
さらにP型シリコン層303側の表面平坦化のため化学機械研磨(CMP)を施し、表面のダメージを取り除くためのウエットエッチングを行い、赤外線単一光子検出可能な光検出装置のウエハプロセスの原材料となるウエハが
図3(e)に示すように完成する。
【0034】
図4は赤外線単一光子検出可能な光検出装置のウエハプロセスを説明する概略断面図である。
前記ゲルマニウム402をシリコン401、403で挟んだウエハをスターティングマテリアルとする。このウエハをRCA等の洗浄をした後、熱酸化により10乃至30nmのパッド酸化膜404を成長させる。さらに100乃至200nm程度の窒化シリコン膜405を減圧CVD法により堆積させる。その後、既存のフォトリソグラフィ技術とフォトレジスト406をマスクとしたエッチングにより窒化シリコン膜405およびパッド酸化膜404をパターニングすることで
図4(a)の構造が得られる。
【0035】
その後、フォトレジスト406を除去し窒化シリコン膜405をハードマスクとしたエッチングによりシリコン膜403にシャロートレンチを形成する。RCA洗浄等を施したのち熱酸化によりトレンチ表面に酸化シリコン膜を10乃至20nm形成する。さらに高密度プラズマHDP-CVDにより酸化シリコン膜を500乃至700nm堆積し、化学的機械研磨(CMP)によって平坦化することで素子分離のためトレンチに内に埋め込まれたSTI酸化膜407を形成することができ、
図4(b)の断面構造が得られる。
【0036】
熱リン酸により窒化シリコン膜405を除去、フッ酸によりパッド酸化膜404を除去するとともにSTI酸化膜の高さをシリコン表面に合わせる。さらに熱酸化により10乃至20nmの犠牲酸化を施すことで
図4(c)の構造を得る。この工程までは通常のCMOS LOGICプロセスに準拠する。次からは赤外線単一光子検出可能な光検出装置に特有な追加工程となる。
【0037】
まずAPD Pウエル層409を形成するため通常のフォトリソグラフィ技術でフォトレジスト406をマスクとし、ボロンイオンを加速エネルギ310keVでドーズ量6×10
11cm
-2で注入する(
図4(d))。その後、フォトレジスト406を除去する。
【0038】
同様にAPD Nウエル層410を形成するため通常のフォトリソグラフィ技術でフォトレジスト406をマスクとし、リンイオンを加速エネルギ330keVでドーズ量7×10
11cm
-2と加速エネルギ90keVでドーズ量2×10
15cm
-2とで注入する(
図4(e))。その後、フォトレジスト406を除去する。
【0039】
その後、ガードリングNウエル層411を形成するため、同様に通常のフォトリソグラフィ技術でフォトレジスト406をマスクとし、リンイオンを加速エネルギ70keVでドーズ量4×10
11cm
-2と加速エネルギ200keVでドーズ量4×10
11cm
-2とで注入する(
図4(f))。その後フォトレジスト406を除去する。
【0040】
APD Pウエルフォトリソグラフィ工程からこの工程までが赤外線単一光子検出可能な光検出装置製造に必要な通常のCMOS LOGICプロセスに対しての追加工程となる。この工程以降は通常のCMOS LOGICプロセスに準ずることになるため詳細条件は省略する。
【0041】
まず、Nチャネルトランジスタを形成するために、これも通常のフォトリソグラフィ技術とフォトレジスト406をマスクとしてボロンをイオン注入することでLogic Pウエル層412が形成される(
図4(g))。この工程ではNチャネルトランジスタの閾値を調整するボロンやBF2のイオン注入も含まれる。イオン注入後にフォトレジスト406は除去される。
【0042】
さらに、Pチャネルトランジスタを形成するために、これも通常のフォトリソグラフィ技術とフォトレジスト406をマスクとしてリンをイオン注入することでLogic Nウエル層413が形成される(
図4(h))。この工程ではPチャネルトランジスタの閾値を調整するリンのイオン注入も含まれる。イオン注入後にフォトレジスト406は除去される。
【0043】
その後、犠牲酸化膜408をフッ酸等により除去する。RCA等の前洗浄を行った後、ゲート酸化膜414を熱酸化により形成する。ゲート電極415となるポリシリコンを減圧CVDで堆積し、通常のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術によりゲート電極415をパターニングし、フォトレジスト406を除去することで
図4(i)の構造を得る。
【0044】
次にNチャネルトランジスタのドレイン電界緩和とショートチャネル効果の抑制のためのn
-部416を形成するため、通常のフォトリソグラフィ技術により
図4(j)に示されたようにNチャネルトランジスタ部のフォトレジスト406が開口されたパターンを形成した後、ドレイン電界緩和のためのLDD(Lightly Doped Drain)を形成するためのヒ素のイオン注入とショートチャネル効果緩和のためのポケットを作るボロンあるいはBF2のイオン注入を行い、フォトレジスト406を除去する。
【0045】
同様に
図4(k)に示すようにp
-部417を形成するため、Pチャネルトランジスタ部のフォトレジスト406が開口されたパターンを形成した後、LDDとしてのBF2イオン注入とポケットとしてのリンのイオン注入を行いフォトレジスト406を除去する。その後、酸化シリコン膜をCVD法により形成し異方性エッチングにより
図4(l)に示したようにゲート電極415の側壁にサイドウォールスペーサ418を形成する。
【0046】
次にNチャネルトランジスタのN
+拡散層419を形成するため、
図4(m)に示すようにNチャネルトランジスタ部が開口されたフォトレジスト406パターンを形成する。この時、同時にAPDのN
+拡散層419も形成するため、APD上部にもフォトレジスト開口を行っている。このフォトレジスト406をマスクとしてヒ素のイオンを注入することでNチャネルトランジスタのソースドレイン及びAPDのN
+拡散層419が形成される。
【0047】
同様にPチャネルトランジスタのソースドレインP
+拡散層420形成のため、
図4(n)に示すようにPチャネルトランジスタ部が開口されたフォトレジスト406パターンを形成し、このフォトレジスト406をマスクとしてBF2のイオン注入を行い、フォトレジスト406を除去する。さらに全面に酸化シリコン膜をCVD法等によって形成し、その後の低抵抗化のためのサリサイド工程でシリサイドが形成して欲しくない領域に酸化シリコン膜422が残るようにパターニングを行う。
シリサイドが形成して欲しくない領域とは本発明では具体的にAPD部分であるが、APD部分であっても後のコンタクトが形成される部分にはシリサイドが形成されるように
図4(o)の構造とする。
【0048】
その後コバルト等をスパッタし、500℃程度の比較的低温でコバルトとシリコンを反応させ、反応の起こらない酸化シリコン膜上のコバルトは選択エッチングで除去される。さらに熱処理を加えることでシリサイド化を進ませ、低抵抗のサリサイド層を作る。
【0049】
この後、既存の層間絶縁膜423の形成、コンタクト及びコンタクト中のタングステンプラグ424の形成、第1層目の配線層425の形成により
図4(p)の構造が得られる。ここには示していないが、この後、メタル層間膜、ヴィア形成、上層のメタル配線層の形成により、多層メタル配線構造を得る。さらに最上層のメタル層上にはチップの保護のための保護膜形成、電気的な導通のためにパッド上の保護膜を除去する工程を経たのち、ウエハを所望の厚さにするバックグラインドを行い、裏面の低抵抗化のための裏面ボロン注入を行い裏面のP
+拡散層を形成することで本発明の光検出装置のウエハプロセスは完了する。
【0050】
なお上述した実施の形態では、P型薄膜シリコン層103は、
図3に示すように表面活性化接合技術と水素イオン注入によるスマートカット技術により形成しているが、本発明は、これに限定されるものではなく、P型ゲルマニウムエピタキシャル層102上にシリコンを1μm程度エピタキシャル成長させる方法で形成してもよい。
【0051】
図5には、上記プロセスにより形成されるAPDの主要部分のプロセスシミュレーションにより得たキャリア濃度プロファイルを示す。横軸はシリコン膜403表面からの深さ、縦軸は拡散層の濃度を示している。
図2で示された構造が本発明の製造方法によりほぼ実現できていることが分かる。
【0052】
なお、対象物からの入射光を検出するためにSPADを照射する方法には表面照射と裏面照射とがある。本発明によるSPADでは、
図6に示すように表面のn
+接合108が0.5μmと薄く、その下のP型ゲルマニウムエピタキシャル層102内に光電効果の起こる空乏層がある。P型薄膜シリコン層103は可視光を吸収するが、0.5μmの厚さだけですべての可視光を吸収することは困難である。従って表面照射の場合には、可視光を遮蔽するための可視光遮光フィルタ120が必要である。
【0053】
次に裏面照射の場合について考察する。
P型ゲルマニウムエピタキシャル層102は5μm程度と薄く、その下のP型シリコン基板101はチップの機械的強度確保のため最低200μm以上の厚さが必要である。可視光遮光フィルタを裏面に設けなくても、この厚いP型シリコン基板が可視光を吸収し、P型ゲルマニウムエピタキシャル層102に形成されている空乏層には届かない。
【0054】
これに対し、波長1.1μm程度の赤外光はシリコン(Si)では通過し、空乏層に到達する。従って、可視光遮光フィルタがなくても赤外線だけを選択的に感知するSPADを実現できる。従ってフィルタを作成する工程が不必要となるため、工程簡略化やコスト低減が可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 シリコンチップ
2 ピクセル
3 金属配線
4,201 CMOSトランジスタ回路
4-1 Row制御回路
4-2 Column制御回路
4-3 信号処理回路
10 光検出装置
101,301 P型シリコン基板
102,302 P型ゲルマニウムエピタキシャル層
103 P型薄膜シリコン層
104 STI層
105,409 APD Pウエル層
106,410 APD Nウエル層
107,411 ガードリングNウエル層
108,419 N+拡散層
109,420 P+拡散層
110,111 ウエル層
112,415 ゲート電極
114 電極プラグ
115 メタル配線
120 可視光遮光フィルタ
202 フォトダイオード
303 P型シリコン基板、P型シリコン層
401 シリコン
402 ゲルマニウム
403 シリコン膜
404 パッド酸化膜
405 窒化シリコン膜
406 フォトレジスト
407 STI酸化膜
408 犠牲酸化膜
412 Logic Pウエル層
413 Logic Nウエル層
414 ゲート酸化膜
416 n-部
417 p-部
418 サイドウォールスペーサ
422 酸化シリコン膜
423 層間絶縁膜
424 タングステンプラグ
425 配線層
【要約】
基板作製コストをInGaAsと比べ、十分に低く抑え、且つアフターパルスも少なく、DCRも抑えたSPADを備えた光検出装置とその製造方法を提供する。
対象物からの入射光を検出する光検出装置において、(i)P型シリコン(Si)基板と、(ii)前記P型シリコン(Si)基板の表面となる第1面にエピタキシャル成長により形成したP型ゲルマニウム(Ge)層と、(iii)前記P型ゲルマニウム(Ge)層上に形成したP型薄膜シリコン(Si)層と、を含み、(iv)前記P型薄膜シリコン(Si)層はシャロートレンチアイソレーション(STI:Shallow Trench Isolation)により第1の領域と第2の領域とに区画され、前記第1の領域にはアレイ状に配列された複数の単一光子検出ダイオード(SPAD)が、前記第2の領域には前記SPADを駆動するCMOSトランジスタ回路が形成される。