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特許7097138通信制御装置、通信制御プログラム及び通信制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】通信制御装置、通信制御プログラム及び通信制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 1/00 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
H04L1/00 E
H04L1/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018032117
(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2019149619
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501140452
【氏名又は名称】株式会社モバイルテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100180275
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 倫太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161861
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 裕介
(72)【発明者】
【氏名】夜船 誠致
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】雨澤 泰治
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-225761(JP,A)
【文献】特開2017-135545(JP,A)
【文献】特開2012-100010(JP,A)
【文献】特開2016-025560(JP,A)
【文献】特開2012-049757(JP,A)
【文献】特開2008-187341(JP,A)
【文献】特表2017-508372(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065294(WO,A1)
【文献】高橋宏和ほか,不均質なネットワークでのマルチキャストへのFEC適用に関する検討,2003年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会講演論文集2 B-7-2,2003年,p.183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消失訂正符号化を施した符号化パケットを、ネットワークを介して宛先端末に通信する通信制御装置において、
上記宛先端末に送信する通信信号を消失訂正符号化に必要な複数のパケットに分割し、分割した複数のパケットのそれぞれに対して消失訂正符号化処理を行なう消失訂正符号化手段と、
上記ネットワークのネットワーク情報を蓄積するネットワーク情報蓄積手段と、
消失訂正符号化を施した各符号化パケットの伝送に係る複数の冗長度のそれぞれを、上記ネットワーク情報に応じて要求される通信品質を満たすように包括的に逐次制御する冗長度制御手段と
を備え、
上記冗長度制御手段は、上記ネットワーク情報を用いて推定した、上記宛先端末までの経路を通じて伝送される上記符号化パケットの消失数及び上記宛先端末での復号遅延時間が、要求品質及び要求伝送遅延を満たしているか否かを判断して、上記複数の冗長度のそれぞれを制御する
ことを特徴とする通信制御装置。
【請求項2】
上記冗長度制御手段が、上記ネットワーク情報を用いて算出した上記宛先端末までの経路を通じて伝送レートが要求伝送レートを満たしているか否かを判断して、上記複数の冗長度のそれぞれを制御することを特徴とする請求項1に記載の通信制御装置。
【請求項3】
上記冗長度制御手段が、上記各判断の結果に応じて、上記消失訂正符号化に係るパケット長、符号化率、転送経路及び経路の分岐転送割合のいずれか又は全てを制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の通信制御装置。
【請求項4】
上記冗長度制御手段が、上記ネットワーク情報に含まれる上記宛先端末でのパケット損失率に基づいて、上記符号化パケットの消失数を推定することを特徴とする請求項1に記載の通信制御装置。
【請求項5】
上記冗長度制御手段が、上記ネットワーク情報に含まれる要求データのトラフィック種別及び又はQoSに基づいて、上記複数の冗長度のそれぞれを決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の通信制御装置。
【請求項6】
上記冗長度制御手段が、機械学習アルゴリズムを用いて、要求される通信品種を満たすように上記複数の冗長度のそれぞれの最適化をすることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の通信制御装置。
【請求項7】
消失訂正符号化を施した符号化パケットを、ネットワークを介して宛先端末に通信する通信制御プログラムにおいて、
上記ネットワークのネットワーク情報を蓄積するネットワーク情報蓄積手段を備えるコンピュータを、
上記宛先端末に送信する通信信号を消失訂正符号化に必要な複数のパケットに分割し、分割した複数のパケットのそれぞれに対して消失訂正符号化処理を行なう消失訂正符号化手段と、
消失訂正符号化を施した各符号化パケットの伝送に係る複数の冗長度のそれぞれを、上記ネットワーク情報に応じて要求される通信品質を満たすように包括的に逐次制御する冗長度制御手段と
して機能させ、
上記冗長度制御手段は、上記ネットワーク情報を用いて推定した、上記宛先端末までの経路を通じて伝送される上記符号化パケットの消失数及び上記宛先端末での復号遅延時間が、要求品質及び要求伝送遅延を満たしているか否かを判断して、上記複数の冗長度のそれぞれを制御する
ことを特徴とする通信制御プログラム。
【請求項8】
消失訂正符号化を施した符号化パケットを、ネットワークを介して宛先端末に通信する通信制御方法において、
消失訂正符号化手段が、上記宛先端末に送信する通信信号を消失訂正符号化に必要な複数のパケットに分割し、分割した複数のパケットのそれぞれに対して消失訂正符号化処理を行ない、
ネットワーク蓄積手段が、上記ネットワークのネットワーク情報を蓄積し、
冗長度制御手段が、消失訂正符号化を施した各符号化パケットの伝送に係る複数の冗長度のそれぞれを、上記ネットワーク情報に応じて要求される通信品質を満たすように包括的に逐次制御し、
上記冗長度制御手段が、上記ネットワーク情報を用いて推定した、上記宛先端末までの経路を通じて伝送される上記符号化パケットの消失数及び上記宛先端末での復号遅延時間が、要求品質及び要求伝送遅延を満たしているか否かを判断して、上記複数の冗長度のそれぞれを制御する
ことを特徴とする通信制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信制御装置、通信制御プログラム及び通信制御方法に関し、例えば、無線又は有線ネットワーク上で、消失訂正符号を用いたパケット通信システムに適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
UDP(User Datagram Protocol)通信は、事前に転送チャネルや通信経路等の設定を行わず、送信元端末と宛先端末との間で明確なハンドシェイクを行なわないコレクションレスの通信方式である。従って、ネットワーク上でパケット消失が生じ得るため、通信の信頼性、パケットの順序性、データ完全性を保証していない。このような通信の信頼性を確保するために消失訂正符号が適用される。
【0003】
消失訂正符号は、パケットの消失対策に関する技術であり、送信元端末が送信するデータパケットを分割し、冗長なデータパケットを付加して送信し、パケットが消失した場合には、他のデータパケットや冗長なデータパケットから消失したパケットを復元することができる。
【0004】
従来のパケット通信では、複数の冗長性(例えば、伝送遅延、伝送レート、チャネル周波数、通信経路等)に対して各階層で個別に冗長度が定義されており、各階層技術で個別に冗長度が制御されている。例えば、トランスポート層の消失訂正符号、ネットワーク層のルーティングプロトコル、データリンク層のリンクアグリゲーション、物理層の誤り訂正符号などのように、各階層における技術が個別に冗長度を制御している。
【0005】
例えば、特許文献1において、符号化パケットを複数システムに分配伝送し、符号化率を制御する手法が示されているが、パケット長や転送経路の制御は対象とされておらず、ネットワーク全体の冗長制御は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-278162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、各階層で個別に冗長性に関する冗長度が定義され、各階層技術で各冗長度を制御しようとすると、ネットワーク全体の冗長利用に無駄が生じ得る。
【0008】
また、複数の冗長性を最適制御するために、送信元端末と宛先端末との間で定期的に監視パケットを流すなどしてネットワーク状態を把握することが必要となってしまい、ネットワークの負荷増大につながる。
【0009】
そのため、本発明は、無線又は有線ネットワーク上で消失訂正符号を用いた通信システムにおいて、ネットワーク上の複数の冗長性を同時に利用して、ネットワーク情報に応じてネットワーク全体の冗長度を制御・決定することで、誤り率・データ伝送レート・遅延時間の改善を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために、第1の本発明に係る通信制御装置は、消失訂正符号化を施した符号化パケットを、ネットワークを介して宛先端末に通信する通信制御装置において、(1)宛先端末に送信する通信信号を消失訂正符号化に必要な複数のパケットに分割し、分割した複数のパケットのそれぞれに対して消失訂正符号化処理を行なう消失訂正符号化手段と、(2)ネットワーク情報を蓄積するネットワーク情報蓄積手段と、(3)消失訂正符号化を施した各符号化パケットの伝送に係る複数の冗長度のそれぞれを、ネットワーク情報に応じて要求される通信品質を満たすように包括的に逐次制御する冗長度制御手段とを備え、冗長度制御手段が、ネットワーク情報を用いて推定した、宛先端末までの経路を通じて伝送される符号化パケットの消失数及び宛先端末での復号遅延時間が、要求品質及び要求伝送遅延を満たしているか否かを判断して、複数の冗長度のそれぞれを制御することを特徴とする。
【0011】
第2の本発明に係る通信制御プログラムは、消失訂正符号化を施した符号化パケットを、ネットワークを介して宛先端末に通信する通信制御プログラムにおいて、ネットワーク情報を蓄積するネットワーク情報蓄積手段を備えるコンピュータを、(1)宛先端末に送信する通信信号を消失訂正符号化に必要な複数のパケットに分割し、分割した複数のパケットのそれぞれに対して消失訂正符号化処理を行なう消失訂正符号化手段と、(2)消失訂正符号化を施した各符号化パケットの伝送に係る複数の冗長度のそれぞれを、ネットワーク情報に応じて要求される通信品質を満たすように包括的に逐次制御する冗長度制御手段として機能させ、冗長度制御手段が、ネットワーク情報を用いて推定した、宛先端末までの経路を通じて伝送される符号化パケットの消失数及び宛先端末での復号遅延時間が、要求品質及び要求伝送遅延を満たしているか否かを判断して、複数の冗長度のそれぞれを制御することを特徴とする。
【0012】
第3の本発明に係る通信制御方法は、消失訂正符号化を施した符号化パケットを、ネットワークを介して宛先端末に通信する通信制御方法において、(1)消失訂正符号化手段が、宛先端末に送信する通信信号を消失訂正符号化に必要な複数のパケットに分割し、分割した複数のパケットのそれぞれに対して消失訂正符号化処理を行ない、(2)ネットワーク蓄積手段が、ネットワーク情報を蓄積し、(3)冗長度制御手段が、消失訂正符号化を施した各符号化パケットの伝送に係る複数の冗長度のそれぞれを、ネットワーク情報に応じて要求される通信品質を満たすように包括的に逐次制御し、冗長度制御手段が、ネットワーク情報を用いて推定した、宛先端末までの経路を通じて伝送される符号化パケットの消失数及び宛先端末での復号遅延時間が、要求品質及び要求伝送遅延を満たしているか否かを判断して、複数の冗長度のそれぞれを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、無線又は有線ネットワーク上で消失訂正符号を用いた通信システムにおいて、ネットワーク上の複数の冗長性を同時に利用して、ネットワーク情報に応じてネットワーク全体の冗長度を制御・決定することで、各階層で個別に冗長度を制御する場合に比べて、誤り率・データ伝送レート・遅延時間の改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る送信元端末の内部構成を示す内部構成図である。
図2】実施形態に係る通信システムの全体構成を示す全体構成図である。
図3】実施形態に係る宛先端末の内部構成を示す内部構成図である。
図4】実施形態に係る送信元端末における通信制御処理を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る送信元端末が送信するフレームの構成例を示す構成図である。
図6】実施形態に係る宛先端末が送信するフレームの構成例を示す構成図である。
図7】実施形態に係る転送割合及び転送経路の決定方法を説明する説明図である。
図8】実施形態に係る復号後消失確率と冗長度との関係を示す関係図である。
図9】実施形態に係る消失数推定部による消失数推定処理を説明する説明図である。
図10】実施形態に係る消失数推定部による消失数推定処理の変形例を説明する説明図である。
図11】実施形態に係る復号誤り率の判断処理を説明する説明図である。
図12】実施形態に係る転送経路決定部による経路割合の調整方法の一例を説明する説明図である。
図13】実施形態に係る復号遅延に関するデータを説明する説明図である。
図14】変形実施形態に係る送信元端末における通信制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(A)実施形態
以下では、本発明に係る通信制御装置、通信制御プログラム及び通信制御方法の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
(A-1)実施形態の構成
[通信システムの構成]
図2は、実施形態に係る通信システムの全体構成を示す全体構成図である。
【0017】
図2に示すように、実施形態に係る通信システムNTは、複数の中継装置3を介して、パケット通信を行なう送信元端末1(1-1~1-n;nは整数)、宛先端末2(2-1~2-m;mは整数)を有する。
【0018】
図2では、説明を容易にするために、送信元端末1と宛先端末2とを区別して説明するが、実際は、送信元端末1と宛先端末2の双方は、後述する送信元端末1の各種機能及び宛先端末2の各種機能を備えるものである。
【0019】
通信システムNTは、例えばインターネットに代表されるUDP通信を採用しているネットワークである。又、通信システムNTでは、UDP通信の信頼性を確保するため、消失訂正符号化技術を採用して、パケット転送中に消失したパケットを復元できるようにしている。通信システムNTの通信回線は、有線回線であってもよいし、無線回線を含むものであってもよい。
【0020】
送信元端末1は、送信データを含むデータパケット(以下では、単に「パケット」と呼ぶ。)を宛先端末2に送信する送信端末である。送信データは、特に限定されるものではないが、例えば、映像、音(音声や音響も含む)、データ信号等がある。送信元端末1は、例えば、サーバ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末、その他携帯端末等を適用することができる。
【0021】
また、送信元端末1は、パケットを複数に分割し、消失訂正符号化技術で冗長なパケットを付与して宛先端末2に送信するものである。さらに、送信元端末1は、過去のパケット通信で利用したネットワーク情報を宛先端末2や中継装置3から収集・蓄積し、その蓄積しているネットワーク情報を利用して、ネットワーク全体の冗長度を制御する機能を有する。ここで、ネットワーク情報は、パケット損失に関する情報、送信バッファ使用率、トラフィック種別、QoS等の一部又は全てを含む情報を適用する。なお、パケット損失に関する情報は、ネットワークを介して送信元端末1から宛先端末2に送信された経路毎の符号化パケットの損失を示す情報であり、例えばパケット損失率である場合を例示する。この実施形態では、パケット損失に関する情報をわかりやすく説明するため、「パケット消失数(消失パケット数)」、「パケット損失率」という用語を用いる。なお、ネットワーク情報を利用して、冗長度を制御する処理の詳細な説明は「(A-2)実施形態の動作」の項で行なう。
【0022】
宛先端末2は、送信元端末1から送信データを含むパケットを受信する受信端末である。宛先端末2は、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末、その他携帯端末等を適用することができる。宛先端末2は、受信したパケットを解析して、パケット消失が生じているときには、消失訂正符号を用いた冗長なパケットを用いて消失訂正復号を行ない、消失したパケットを復元する機能を有する。また、宛先端末2は、パケットが中継されて受信するまでの経路毎にパケット損失率を求め、その経路毎のパケット損失率を送信元端末1に送信する。これにより、経路毎のパケット損失率を、ネットワーク情報の1つとして送信元端末1に通知することができる。
【0023】
中継装置3は、無線又は有線ネットワークを構成するルータ装置、スイッチ装置、アクセスポイント等であり、送信元端末1と宛先端末2との間で授受されるパケットを中継するものである。
【0024】
[送信元端末1の内部構成]
図1は、実施形態に係る送信元端末1の内部構成を示す内部構成図である。
【0025】
図1において、実施形態に係る送信元端末1は、送受信部10、消失訂正符号化部11、パケット処理部13、ネットワーク情報管理部110、冗長度制御部120を有する。
【0026】
パケット処理部13は、図示しない上位層(例えばアプリケーション層)から供給(入力)されたデータをパケット化して、消失訂正符号化部11に与えるものである。パケット処理部13は、冗長度制御部120で決定されたパケット長が通知され、消失訂正符号化の対象とするパケット長に分割する。
【0027】
消失訂正符号化部11は、冗長度制御部120で決定された符号化パラメータの1つである符号化率が通知されて、その符号化率に従って、パケット処理部13から取得したパケットを用いた消失訂正符号化を行なうものである。消失訂正符号化には様々な方式がある。この実施形態は、消失訂正符号化の方式が特に限定されるものではなく、様々な方式を適用することができる。消失訂正符号化の方式として、例えば、パケットから冗長なパケット(「パリティパケット」とも呼ぶ。)を生成し、このパリティパケットを、パケットの後に付加する方式があり、この場合、例えば、パケットの数をK、パリティパケットの数をPとすると、符号化率Rは、R=K/(K+P)で表される。また例えば、元の分割パケットも符号化の対象とし、パリティパケットという区別がなく、全て符号化パケットとして生成する方式もあり、この場合、例えば、元の分割パケットの数をK、符号化パケットの数をNとすると、符号化率Rは、R=K/Nで表される。なお、この実施形態では、説明便宜上、前者を採用する場合を例示する。
【0028】
送受信部10は、消失訂正符号化部11から取得したパケットや冗長なパケット(パリティパケット)にヘッダを付与して、送信パケットを送信するものである。また、送受信部10は、宛先端末2、中継装置3からネットワーク情報として、経路毎のパケット損失率、トラフィック種別、QoS等を含むパケットを受信し、ネットワーク情報をネットワーク情報管理部110に与えるものである。
【0029】
ネットワーク情報管理部110は、送受信部10を通じて宛先端末2との間のネットワーク情報を収集し、ネットワーク情報を蓄積するものである。図1に示すように、ネットワーク情報管理部110は、ネットワーク情報を取得するネットワーク情報取得部111と、取得されたネットワーク情報を蓄積するネットワーク情報蓄積部112を有する。
【0030】
なお、ネットワーク情報管理部110は、取得したネットワーク情報を用いて統計的な処理を施し、その結果をネットワーク情報として蓄積するようにしてもよい。例えば、後述するように、宛先端末2から所定時間のパケット損失率を取得した場合、その過去のパケット損失率と、最新の所定時間のパケット損失率とを用いて、パケット損失率の平均値を求め、その平均パケット損失率を求めるようにしてもよい。
【0031】
また例えば、ネットワーク情報として、中継装置3の送信バッファ使用率を取得した場合に、その時点での中継装置3の送信バッファ使用率のみを蓄積することに限定されず、例えば、過去の当該中継装置3の送信バッファ使用率も用いて、送信バッファの使用率の変化率を求めるようにしてもよい。換言するとある時点の値に限定されるのではなく、時間的な変化率(変化値)をネットワーク情報として蓄積するようにしてもよい。
【0032】
冗長度制御部120は、ネットワーク情報管理部110のネットワーク情報蓄積部112に蓄積されているネットワーク情報を利用して、ネットワーク全体の冗長度を制御するものである。
【0033】
ここで、ネットワーク全体の冗長度とは、送信元端末1が宛先端末2に送信するデータを、宛先端末2で正しく受信できるようにするために、当該送信データ以外にチェックするために付加する余分な情報をいう。具体的には、消失訂正符号に係る符号化率、消失訂正符号化を施すパケット長、消失訂正符号化を施したパケットを複数の中継装置3を介して宛先端末2に伝達するまでの経路やその経路の転送割合等を含む。
【0034】
冗長度制御部120は、従来各階層で定義されている冗長に関する冗長度を個別に制御するのではなく、蓄積した過去のネットワーク情報を参照して、送信元端末1から宛先端末2までの各中継装置3の廃棄パケット数を推定して経路を決定したり、その経路で転送した場合のパケット損失率から消失訂正符号化に係るパケット長や符号化率を決定したり、宛先端末2でのパケット消失数を推定したり、伝送遅延や伝送レートを決定したり、要求を満たす経路、符号化パラメータ、伝送遅延、伝送レートを適宜適応させながら決定する。換言すると、過去のネットワーク情報を参照して、各階層で定義されている冗長に関する冗長度を逐次最適化する。
【0035】
冗長度制御部120は、転送経路決定部121、符号化率制御部122、パケット長制御部123、消失数推定部124、伝送遅延制御部125、伝送レート制御部126を有する。転送経路決定部121、符号化率制御部122、パケット長制御部123、消失数推定部124、伝送遅延制御部125、伝送レート制御部126のそれぞれの処理の詳細な説明は「(A-2)実施形態の動作」の項で行なう。
【0036】
冗長度制御部120のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、EEPROM、入出力インタフェース等を有する装置を適用することができ、CPUが、ROMに格納されている処理プログラム(例えば、通信制御プログラム等)を実行することにより、冗長度制御部120の各種機能が実現される。実施形態に係る通信制御プログラムがインストールされることにより構築されるようにしてもよく、その場合でも通信制御プログラムは、図1に例示する構成要素を有する。
【0037】
[宛先端末2の内部構成]
図3は、実施形態に係る宛先端末2の内部構成を示す内部構成図である。
【0038】
図3において、実施形態に係る宛先端末2は、送受信部20、消失訂正復号部21、パケット処理部23、ネットワーク情報管理部210を有する。
【0039】
送受信部20は、送信元端末1から送信されたパケットを受信し、受信したパケットを消失訂正復号部21に与えるものである。また、送受信部20は、後述するネットワーク情報管理部210のパケット損失率算出部213により算出された経路毎のパケット損失率を含むパケットを取得し、そのパケットを送信元端末1に送信する。
【0040】
消失訂正復号部21は、送受信部20から取得したパケットについて、消失したパケットがある場合に、消失訂正復号処理を行い、消失したパケットを復元するものである。消失訂正復号部21は、パケット損失率の算出に寄与するために、パケット消失数をネットワーク情報管理部210に与える。なお、消失したパケットがない場合には、そのまま、受信パケットをパケット処理部23に与える。
【0041】
パケット処理部23は、受信したパケットを取得し、パケットに含まれているデータを抽出して上位層(例えばアプリケーション層)に供給するものである。パケット処理部23は、受信パケットの経路やトラフィック種別などを管理するため、受信パケットに含まれている経路情報やトラフィック種別等をネットワーク情報管理部210に通知する。また、送信元端末1にパケット損失率を通知するため、パケット処理部23は、ネットワーク情報管理部210から経路毎のパケット損失率を取得してパケット化する。この経路毎のパケット損失率を含むパケットは、送受信部20に与えられて、送信元端末1に向けて送信される。
【0042】
ネットワーク情報管理部210は、送信元端末1との間のネットワーク情報を管理するものである。ネットワーク情報管理部210は、ネットワーク情報を取得するネットワーク情報取得部211と、取得されたネットワーク情報を蓄積するネットワーク情報蓄積部212と、ネットワーク情報蓄積部212に蓄積されているネットワーク情報を用いて、経路毎のパケット損失率を算出するパケット損失率算出部213とを有する。
【0043】
(A-2)実施形態の動作
次に、実施形態に係る送信元端末1及び宛先端末2との間の通信制御処理の動作を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0044】
図4は、実施形態に係る送信元端末1における通信制御処理を示すフローチャートである。
【0045】
[ネットワーク情報更新;ステップS300]
送信元端末1のネットワーク情報管理部110では、過去のパケット通信により無線又は有線ネットワーク上でのネットワーク情報がネットワーク情報蓄積部112に蓄積される(ステップS300)。送信元端末1が宛先端末2との間でパケット通信が実施されるたびに、新しいネットワーク情報が逐次蓄積されていき、更新される。
【0046】
ここで、ネットワーク情報の1つであるパケット損失率の取得方法の一例を例示する。
【0047】
図5は、実施形態に係る送信元端末1が送信するフレームの構成例を示す構成図であり、図6は、宛先端末2が送信するフレームの構成例を示す構成図である。
【0048】
図5及び図6では、消失訂正符号化されたパケット(以下、「符号化パケット」とも呼ぶ。)が、複数の中継装置(ここでは「ルータ」と呼ぶ。)3を介して、送信元端末1から宛先端末2に送信される場合を例示する。また、符号化パケットは、送信元端末⇒ルータ3-1⇒ルータ3-2⇒ルータ3-3⇒ルータ3-6⇒宛先端末2の経路で伝達されたものとする。
【0049】
図5に例示するように、送信元端末1が送信するパケットに含まれるデータフレームには、送信元端末1が送信する符号化パケットの総数(送信数)が含まれる。具体的には、送信元端末1は、Ether(登録商標)フレームのうち、UDPセグメントフレームのUDPペイロード内に符号化パケット総数(送信数)を格納して送信する。符号化パケット総数は、UDPペイロード内であれば、特に限定されるものではないが、例えば、UDPペイロードの数ビットの先頭領域に格納する。つまり、送信元端末1が送信する符号化パケット総数が「100」とすると、「100」を示す情報が格納される。
【0050】
宛先端末2では、UDPペイロード内に格納されている符号化パケット総数が、ネットワーク情報蓄積部212に蓄積される。また、宛先端末2では、実際に受信したパケット数を認識するために、経路毎に、所定時間内で受信した受信パケット数も蓄積する。従って、宛先端末2のネットワーク情報管理部210では、パケット損失率算出部213が、受信パケット数と符号化パケット総数とに基づいて、経路毎のパケット損失率(=受信パケット数÷符号化パケット総数)を算出する。
【0051】
そして、経路毎のパケット損失率を送信元端末1に通知するため、図6に示すように、宛先端末2は、経路毎のパケット損失率を含むパケットを送信元端末1に送信する。具体的には、図6に示すように、宛先端末2は、Ether(登録商標)フレームのうち、UDPセグメントフレームのUDPペイロード内に、対象経路のパケット損失率を格納して送信する。例えば、符号化パケット総数が「100」であり、宛先端末2での受信パケット数が「95」であるときには、パケット消失数が「5」であり、パケット損失率は「0.05」となる。従って、この場合、当該対象経路を特定する経路情報と、当該経路のパケット損失率「0.05」を示す情報とをUDPペイロード内に格納して送信元端末1に送信する。
【0052】
ここで、宛先端末2は、対象経路のパケット損失率を示す情報量は大きくないため、所定時間毎に、対象経路を特定する経路情報と、当該対象経路のパケット損失率を送信元端末1に送信するようにしてもよい。しかし、パケット損失率を含むパケットが逐次送信元端末1に通知されることで、ネットワークで授受されるパケット数が増大し、ネットワークにおけるトラフィックも増大する可能性もあるため、パケット損失情報が閾値以上でありパケット損失が高い場合に(すなわち、パケット消失数もしくはパケット損失率が閾値以上である場合)対象経路のパケット損失率を送信元端末1に通知するようにしてもよい。
【0053】
上記のようにして、送信元端末1は、経路毎のパケット損失率に関する情報を取得し、対象経路のパケット損失率をネットワーク情報蓄積部112に蓄積することができる。
【0054】
また、ネットワーク情報管理部110は、経路毎に、所定時間毎のパケット損失率を取得できるので、過去のパケット損失率を用いて平均パケット損失率を経路毎に算出して蓄積するようにしてもよい。
【0055】
[転送経路/割合の選択;ステップS301]
送信元端末1では、冗長度制御部120の転送経路決定部121が、ネットワーク情報蓄積部112に蓄積されているルータ3間のパケット損失率に基づいて、ルータ3間での転送割合を求めて、その転送割合を参照して、宛先端末2までの転送経路を決定する(ステップS301)。つまり、転送経路決定部121は、経由するルータ間のパケット損失率の合計値を算出して、その合計値(合計経路損失値)が最小となる経路を選択する。
【0056】
ルータ3では、受信したパケットを一時的にバッファに蓄積しておき、送信タイミング毎に順番に蓄積しているパケットを次のルータ3若しくは端末に送信している。トラフィックの状況等でルータ3がパケットを転送できず、タイムアウトしたパケットは廃棄されるため、ルータ3間のパケット損失率が、消失訂正符号の符号化率や伝送遅延等に影響する。そこで、転送経路決定部121は、ルータ3間のパケット損失率(若しくは平均パケット損失率)に基づいて、パケット損失率が小さい経路を選択する。なお、ルータ3間のパケット損失率に関する情報は、各ルータ3やネットワーク管理サーバ(図示しない)から取得するようにしてもよいし、宛先端末2から通知された経路のパケット損失率を利用して求めるようにしてもよい。
【0057】
図7は、実施形態に係る転送割合及び転送経路の決定方法を説明する説明図である。
【0058】
ここでは、説明を容易にするために、ルータ3-1の分岐経路であるルータ3-2及びルータ3-4を例示して説明する。ルータ3-1とルータ3-2との間のパケット損失率が0.00[%]であり、ルータ3-1とルータ3-4との間のパケット損失率が0.01[%]であるとすると、ルータ3-1とルータ3-2との間のパケット損失率が低損失である。この場合、ルータ3-1における、ルータ3-2への転送とルータ3-4への転送割合は「1:0」となる。このように、送信元端末1から宛先端末2までに経由するルータ間のパケット損失率を合計していき、その合計経路損失値が最小となる経路を決定する。なお、図7では単一経路を用いた場合が最小の合計損失となる例を示したが、複数経路を用いてもよく、最小の合計損失を持つものであれば複数経路にある割合で転送した場合が選択されても良い。
【0059】
宛先端末2に対する最初の経路決定については、例えば、それまでの過去のルータ3間のパケット損失率に基づいて、合計経路損失値が最小となる経路のみを選択する。その後、当該宛先端末2との間のパケット通信が継続して実施され、ルータ3間のパケット損失率が更新されると、最新のネットワーク情報(ルータ3間のパケット損失率を含む)を用いて、転送経路を逐次変更するようにしてもよい。
【0060】
[パケット長及び符号化率の選択;ステップS302及びS303]
パケット長制御部123は、消失訂正符号化に係るパケット長を決定し(ステップS302)、符号化率制御部122は、消失訂正符号化に係る符号化率を決定する(ステップS303)。
【0061】
図8は、実施形態に係る復号後消失確率と冗長度との関係を示す関係図である。
【0062】
図8は、消失訂正符号化に係る符号毎に、誤り率と符号化パケット数との関係を示している。なお、縦軸は復号後消失確率(すなわち、誤り率)を示し、横軸は冗長度(=1-符号化率)を示している。一般的に符号化率と符号化パケット数とはトレードオフの関係にある。すなわち、復号性能を向上する(誤り率を下げる)ためには、符号化率を低くすることが望まれるが、符号化パケット数が多くなる。逆に、符号化パケット数を少なくするためには、符号化率を高くすることが望まれるが、復号性能が低下する(誤り率が上昇する)。一方で、パケット損失率が低い状況であれば、符号化率が同じ場合でも、パケット長を短くして情報パケット数を増やすほど、受信パケット数が増えて復号性能の向上につながる。
【0063】
したがって、宛先端末2とのパケット通信において、最初は品質を優先するために、短いパケット長を設定し、低めの符号化率を設定する。最初の通信の際のパケット長及び符号化率は、予め設定したパケット長及び符号化率を用いるようにしてもよい。
【0064】
なお、符号化パケット数=情報パケット数÷符号化率で求めることができる。また、情報パケット数=要求レート÷パケット長で算出することができる。
【0065】
[パケット消失数の推定;ステップS304]
次に、消失数推定部124は、経路毎の、パケット損失率に基づいて、宛先端末2までのパケット消失数(合計消失数)を推定する(ステップS304)。
【0066】
図9は、実施形態に係る消失数推定部124による消失数推定処理を説明する説明図である。
【0067】
まず、消失数推定部124は、以下の式(1)に従って、ルータ3毎のパケット消失数を算出し、宛先端末2までの各経路での合計値(合計消失数)を宛先端末2での消失数として推定する。
パケット消失数=(前段ルータの受信パケット数)×(転送割合)×(パケット損失率) …(1)
【0068】
例えば、図9において、消失数推定部124は、ルータ3-1の分岐経路であるルータ3-2への転送とルータ3-4への転送割合を0.5:0.5とする。この場合、ルータ3-1からルータ3-4に転送した際に、パケット損失率が0.02とすると、ルータ3-4にパケット転送したときに、パケット消失数は1(=ルータ3-1の受信パケット数(100)×0.5×0.02)となる。
【0069】
上記のように、消失数推定部124は、ルータ3毎のパケット消失数を算出し、経由する各ルータ3のパケット消失数を加算して合計消失数を求める。そうすると、宛先端末2での消失数は2となる。
【0070】
なお、宛先端末2との間の最初のパケット通信のときには、上述したように式(1)に従って、宛先端末2までの合計消失数を求めることができる。
【0071】
また、宛先端末2との間のパケット通信が継続的に実施されて、宛先端末2から経路毎のパケット損失率を蓄積した場合には、消失数推定部124は、経路毎のパケット損失率を用いて、式(2)に従って宛先端末2までの合計消失数を求めるようにしてもよい。
パケット消失数=(送信元端末からの符号化パケット数)×(平均パケット損失率) …(2)
【0072】
図10は、実施形態に係る消失数推定部124による消失数推定処理の変形例を説明する説明図である。
【0073】
消失数推定部124による消失数推定処理は、上記に限定されるものではなく、各ルータ3から取得した送信バッファ使用率を用いて、各ルータ3のパケット消失数を算出するようにしてもよい。
【0074】
例えば、消失数推定部124は、各ルータ3の送信バッファ使用率を監視しており、経路上のルータ3の送信バッファ使用率が閾値以上となった場合には、そのルータ3を経由したパケットが廃棄されて、パケット消失数が大きくなる可能性がある。そこで、消失数推定部124は、以下の式(3)に従って、ルータ3の送信バッファ使用率を用いて、当該ルータ3のパケット消失数を求めるようにしてもよい。この場合、宛先端末2までの経路の各ルータ3の消失数を加算して合計消失数を求める。
パケット消失数=(前段ルータの受信パケット数)×(転送割合)×(パケット損失率)×(1-送信バッファ使用率) …(3)
【0075】
例えば、図10の例の場合、送信バッファ使用率に関する閾値が0.8であり、ルータ3-4の送信バッファ使用率が0.8であるとすると、パケット消失数が12となる。
【0076】
[復号誤り率の判断;ステップS305]
消失数推定部124は、上記のようにして、各ルータ3のパケット消失数を算出し、宛先端末2までの合計消失数を推定すると、その推定した合計消失数に基づく符号化率が、要求される復号後消失確率を満たしているか否かを判断する(ステップS305)。要求を満たしている場合にはステップS308に移行し、要求を満たしていない場合にはステップS306に移行する。
【0077】
[符号化率の再選択;ステップS306⇒ステップS303及びS307]
図11は、実施形態に係る復号誤り率の判断処理を説明する説明図である。
【0078】
図11は、図8の復号後消失確率と冗長度との関係を示す関係図に対応する。ここでは、符号Aの誤り率と符号化パケット数との関係を用いて説明する。
【0079】
符号化率制御部122は、推定された宛先端末2の合計消失数を用いて、式(4)に従って、符号化率を求める。
符号化率=情報パケット数÷(符号化パケット数-宛先端末2の合計消失数) …(4)
【0080】
例えば、要求されている復号後消失確率(誤り率)が1×10-2とする。宛先端末2との最初のパケット通信の際に、推定された合計消失数を考慮した符号化率(ここでは初回に選択した符号化率とする。)が0.08付近であるとする。
【0081】
この場合の復号後消失確率は1×10-1程度であり、要求されている復号後消失確率1×10-2と比較して、要求の復号後消失確率を満たしているか否かを判断する。
【0082】
この場合、要求されている復号後消失確率を満たしていないため、符号化率が低くなるようにして(横軸の冗長度が大きくなるようにして)、現時点で設定されているパケット長(すなわち、現在設定されている符号化パケット数)を用いた場合で、要求を満たす符号化率の候補があるか否かを判断する。
【0083】
現在設定されているパケット長で、要求を満たす符号化率がある場合には、ステップS303に移行して、符号化率制御部122が、要求されている復号後消失確率を満たす候補の中から、再度符号化率の選択を行なう。その後ステップS303以降の処理を繰り返し実施する。
【0084】
一方、現在設定されているパケット長で、要求を満たす符号化率がない場合には、ステップS307に移行する。
【0085】
[パケット長の再選択;ステップS307⇒ステップS302及びS301]
パケット長制御部123は、現在設定されている経路での転送割合で要求を満たしている候補があるか否かを判断し(ステップS307)、要求を満たしている場合には、ステップS302に移行してパケット長を再度調整する。その後S302以降の処理を繰り返し実施する。
【0086】
また、要求を満たしていない場合には、ステップS301に移行して、転送経路決定部121が、再度、宛先端末2までの経路の決定及び転送割合を選択する。その後S301以降の処理を繰り返し実施する。
【0087】
図12は、転送経路決定部121による経路割合の調整方法の一例を説明する説明図である。
【0088】
図12に示すように、転送経路決定部121は、要求を満たしていない場合に、ネットワーク情報蓄積部112に蓄積されているネットワーク情報を参照して、再度転送割合を設定するが、この場合には、例えば、各ルータ3間の転送割合を一律に調整するようにしてもよい。例えば、この例の場合、各ルータ3間の転送割合を「1:0」から「0.8:0.2」に変更する場合を例示している。
【0089】
上述したように、転送割合を一律に変更するようにしてもよいし、各ルータ3の送信バッファ使用率を考慮して、送信バッファ使用率が閾値以上となるルータ3を経由する場合には、そのルータ3への転送が少なくなるように設定変更するようにしてもよい。
【0090】
[伝送遅延の算出;ステップS308]
伝送遅延制御部125は、これまでの選択パラメータである経路及び転送割合、パケット長、符号化率を含む情報に基づいて、伝送遅延を推定する(ステップS308)。
【0091】
例えば、複数経路にパケットを転送している場合は、伝送遅延制御部125は、下式(5)に従って、経路中の最大伝送遅延を算出する。
最大伝送遅延=最大ホップ数×伝送遅延+復号遅延 …(5)
【0092】
式(5)において、最大ホップ数は、送信元端末1から宛先端末2までの複数の経路のうち、最大となるホップ数である。伝送遅延は、ルータ3間の伝送遅延時間を示す値であり、例えば1ms等のように任意の値を設定することができる。復号遅延は、宛先端末2における消失訂正符号化されたパケットの復号に要する遅延時間であり、例えば、図13に例示する予め設定されたデータを利用して求めることができる。
【0093】
図13は、実施形態に係る復号遅延に関するデータを説明する説明図である。
【0094】
図13は、パケット長と復号に要する遅延時間との関係を示す説明図である。この場合、設定した消失訂正符号の対象とするパケット長に基づいて、復号遅延を求めることができる。例えば、パケット長1024byte、符号化率(例えば、対応する符号化パケット数1024個)を選択した場合は、復号遅延は約500msとなり、この値を式(5)の復号遅延に代入する。
【0095】
[伝送遅延の判断;ステップS309]
伝送遅延制御部125は、推定した最大伝送遅延の値が、要求されている伝送遅延(以下、「要求伝送遅延」と呼ぶ。)を満たしているか否かを判断する(ステップS309)。要求伝送遅延を満たしている場合には、ステップS310に移行し、満たしていない場合、ステップS307に移行する。
【0096】
要求伝送遅延を満たしていない場合、ステップS307に移行して、パケット長制御部123が要求伝送遅延を満たすように、パケット長を長くする(ステップS302)。つまり、符号化パケット数を減らして低遅延化を図るようにする。
【0097】
それでも、要求伝送遅延を満たさない場合には、ステップS301に移行し、転送経路決定部121が、ホップ数の低い経路を選択したり、若しくは、送信バッファの使用率の低いルータ3を経由する経路を選択したりする。
【0098】
[伝送レートの算出;ステップS310]
伝送レート制御部126は、これまでの選択パラメータである経路及び転送割合、パケット長、符号化率、最大伝送遅延を含む情報に基づいて、伝送レートを推定する(ステップS310)。
【0099】
より具体的には、伝送レート制御部126は、伝送遅延制御部125により算出された最大伝送遅延を用いて、式(6)に従って、伝送レートを算出する。
伝送レート[bit/sec]=パケット長×符号化パケット数÷最大伝送遅延 …(6)
【0100】
[伝送レートの判断;ステップS311]
伝送レート制御部126は、算出した伝送レートが、要求されている伝送レートを満たしているか否かを判断する(ステップS311)。要求の伝送レートを満たしている場合には処理を終了し、満たしていない場合、ステップS307に移行する。
【0101】
要求されている伝送レートを満たしていない場合、ステップS307に移行して、パケット長制御部123が要求されている伝送レートを満たすように、パケット長を長くする(ステップS302)。つまり、符号化パケット数を減らして低遅延化を図るようにする。
【0102】
それでも、要求されている伝送レートを満たさない場合には、ステップS301に移行し、転送経路決定部121が、ホップ数の低い経路を選択したり、若しくは、送信バッファの使用率の低いルータ3を経由する経路を選択したりする。
【0103】
(A-3)実施形態の効果
以上のように、この実施形態によれば、過去のパケット通信を利用して宛先側で収集・蓄積したネットワーク情報(パケット損失率など)を必要に応じて送信元に通知することでネットワークへの負荷を抑えつつ、通知されたネットワーク情報とトラフィック種別・QoSに応じてネットワーク全体の冗長度(符号化パケットの符号化率、長さ、転送経路およびその割合)を制御・決定することができる。
【0104】
(B)他の実施形態
上述した実施形態においても、本発明の変形実施形態を言及したが、本発明は、以下の変形実施形態にも適用できる。
【0105】
(B-1)変形実施形態1
図14は、変形実施形態に係る送信元端末1における通信制御処理を示すフローチャートである。
【0106】
図14では、上述した実施形態の図4における処理と同一の処理には、同一の符号を付して示している。
【0107】
上述した実施形態では、消失訂正復号時のデータの品質を優先するため、最初のパケット長及び符号化率が低くなるように設定する場合を例示した。しかし、復号に要する遅延を下げるように、すなわち復号遅延を優先するようにしてもよい。この場合、符号化パケット数を少なくするために、パケット長を長めに設定するようにしてもよい。
【0108】
例えば、図14のステップS301では、転送経路決定部121は、ホップ数が最小となる最短経路選択する。ステップS302で、パケット長制御部123は、受信パケット数を減らして復号遅延を下げるようにするため、宛先端末2との最初のパケット通信ではパケット長を長めに設定する。ステップS303では、符号化パケット数を減らして復号遅延を減らすために、最初は符号化率を高めに設定する。
【0109】
そして、上述した実施形態と同様に、伝送遅延制御部125が、最大伝送遅延を算出し(ステップS308)、最大伝送遅延が要求を満たしているか否かを判断し(ステップS309)、要求を満たしている場合には、ステップS304に移行し、そうでない場合には、ステップS306に移行する。
【0110】
ここで、ステップS306では、現在よりも高い符号化率に設定可能であるか(候補があるか)否かを判断する。候補があれば、符号化率制御部122は、現在よりも高い符号化率に設定し(ステップS303)、ステップS303以降の処理を繰り返し実施する。一方、候補が無い場合は、ステップS307に移行して、現在よりも長いパケット長に設定可能であるか(候補があるか)否かを判断する。候補があれば、パケット長制御部123が、現在よりも長いパケット長に設定し(ステップS302)、ステップS302以降の処理を繰返し実施する。
【0111】
上記繰返し処理の結果、それでも要求伝送遅延を満たさずステップS307で候補がない場合には、転送経路決定部121が、バッファ使用率が低い経路への転送割合を段階的に変更し(ステップS301)、S301以降の処理を繰返し実施する。
【0112】
ステップS304では、上述した実施形態と同様に、消失数推定部124が、パケット損失率および送信バッファ使用率から宛先のパケット消失数を推定し、そして、推定した宛先端末2のパケット消失数を加味して判定する(ステップS305)。要求品質を満たしている場合にはステップS310に移行する。
【0113】
一方、要求品質を満たしていない場合には、ステップS306に移行して、上述した実施形態と同様に、符号化率制御部122が符号化率を下げるように調整したり(ステップS306⇒ステップS303)、パケット長制御部123がパケット長を短くするように調整したり(ステップS307⇒ステップS302)、転送経路決定部121が、低損失経路への転送割合を段階的に増やすように調整する(ステップS307⇒ステップS301)。
【0114】
そして、ステップS310及びS311では、上述した実施形態と同様に伝送レート制御部126が、伝送レートを算出し、要求レートを満たしているか否かの処理を行なうようにしてもよい。
【0115】
(B-2)変形実施形態2
上述した実施形態及び変形実施形態における冗長度制御部120の処理について、機械学習のアルゴリズムを用いて、消失訂正符号の符号化率、パケット長、転送経路及びその転送割合の一部又は全部の最適化処理を実施するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1(1-1~1-n)…送信元端末、2(2-1~2-m)…宛先端末、3…中継装置、NT…通信システム、10…送受信部、11…消失訂正符号化部、13…パケット処理部、110…ネットワーク情報管理部、111…ネットワーク情報取得部、112…ネットワーク情報蓄積部、120…冗長度制御部、121…転送経路決定部、122…符号化率制御部、123…パケット長制御部、124…消失数推定部、125…伝送遅延算出部、126…伝送レート制御部、20…送受信部、21…消失訂正復号部、23…パケット処理部、210…ネットワーク情報管理部、211…ネットワーク情報取得部、212…ネットワーク情報蓄積部、213…パケット損失率算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14