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特許7097153正極活物質、正極、及び非水電解質蓄電素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】正極活物質、正極、及び非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220630BHJP
【FI】
H01M4/525
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2016176210
(22)【出願日】2016-09-09
(65)【公開番号】P2018041677
(43)【公開日】2018-03-15
【審査請求日】2019-03-19
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】水野 祐介
【合議体】
【審判長】酒井 朋広
【審判官】畑中 博幸
【審判官】棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/183653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M 4/00-4/62
H01G2/24,2/02,2/08
H01G9/00,9/07,9/21
H01G9/26,9/28
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム及びコバルトを含み、逆蛍石型の結晶構造を有する酸化物であり、
CuKα線を用いたX線回折における(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される上記酸化物の平均結晶子サイズが240Å以下であり、
上記酸化物がLiCoOであり、
上記平均結晶子サイズは、上記X線回折における各ピークに基づきそれぞれ下記式(1)により算出される結晶子サイズの平均値である、非水電解質蓄電素子用の正極活物質。
D=Kλ/βcosθ ・・・(1)
(上記式(1)中、Dは結晶子サイズ(Å)、Kはシェラー定数、λは使用X線の波長、βは半値幅(rad)、θはブラッグ角(rad)をそれぞれ示す。Kは0.94とする。λは1.54015Åとする。)
【請求項2】
CuKα線を用いたX線回折における(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される平均結晶子サイズが240Å以下のLiCoOであり、
上記平均結晶子サイズは、上記X線回折における各ピークに基づきそれぞれ下記式(1)により算出される結晶子サイズの平均値である、非水電解質蓄電素子用の正極活物質。
D=Kλ/βcosθ ・・・(1)
(上記式(1)中、Dは結晶子サイズ(Å)、Kはシェラー定数、λは使用X線の波長、βは半値幅(rad)、θはブラッグ角(rad)をそれぞれ示す。Kは0.94とする。λは1.54015Åとする。)
【請求項3】
CuKα線を用いたX線回折における(110)面、(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される平均結晶子サイズが270Å以下であり、上記平均結晶子サイズは、上記X線回折における各ピークに基づきそれぞれ下記式(1)により算出される結晶子サイズの平均値である請求項1又は請求項2の正極活物質。
D=Kλ/βcosθ ・・・(1)
(上記式(1)中、Dは結晶子サイズ(Å)、Kはシェラー定数、λは使用X線の波長、βは半値幅(rad)、θはブラッグ角(rad)をそれぞれ示す。Kは0.94とする。λは1.54015Åとする。)
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項の正極活物質を有する非水電解質蓄電素子用の正極。
【請求項5】
請求項4の正極を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項6】
通常使用時の正極の充電終止電位が、3.2V(vs.Li/Li)以上4.5(vs.Li/Li)以下である請求項5の非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、正極、及び非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子の正極及び負極には、各種活物質が採用されており、通常、正極活物質としては、複合酸化物が広く用いられている。逆蛍石型の結晶構造を有するLiCoOは、理論容量が977mAh/gと大きい。そのため、LiCoOは非水電解質蓄電素子の大容量化を可能とする正極活物質の一つとして期待されている。
【0004】
しかし、実際にこのLiCoOを用いた非水電解質蓄電素子において、200mAh/g以上の放電容量が示された報告は確認されていない(特許文献1、2及び非特許文献1、2参照)。LiCoOを用いた非水電解質蓄電素子に関し、特許文献1には、初期の放電容量が140mAh/g程度であることが、特許文献2には、初期の放電容量の記載は無いものの、10サイクル目の放電容量が88mAh/gであることが、非特許文献1には、初期の放電容量が150mAh/g程度であることが、非特許文献2には、初期の放電容量が13mAh/g程度であることが記載されている。このように、LiCoOは、理論容量自体は大きいものの、このLiCoOが用いられた非水電解質蓄電素子の放電容量は決して大きくはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-332480号公報
【文献】特開2003-68302号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】S.Narukawa,Y.Takeda,M.Nishijima,N.Imanishi,O.Yamamoto,M.Tabuchi,Solid State Ionics,122,59-64(1999).
【文献】M.Noh,J.Cho,J.Electrochem.Soc.,159,A1329-A1334(2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、非水電解質蓄電素子の放電容量を大きくすることができる正極活物質、並びにこの正極活物質を有する正極及び非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、リチウム及びコバルトを含み、逆蛍石型の結晶構造を有する酸化物であり、X線回折における(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される上記酸化物の平均結晶子サイズが240Å以下である非水電解質蓄電素子用の正極活物質(a)である。
【0009】
本発明の他の一態様は、X線回折における(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される平均結晶子サイズが240Å以下のLiCoOである非水電解質蓄電素子用の正極活物質(b)である。
【0010】
本発明の他の一態様は、当該正極活物質(a)又は当該正極活物質(b)を有する非水電解質蓄電素子用の正極である。
【0011】
本発明の他の一態様は、当該正極を備える非水電解質蓄電素子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非水電解質蓄電素子の放電容量を大きくすることができる正極活物質、並びにこの正極活物質を有する正極及び非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
図3図3は、実施例1~4及び比較例1の正極活物質のX線回折(XRD)スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る正極活物質は、リチウム及びコバルトを含み、逆蛍石型の結晶構造を有する酸化物であり、X線回折における(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される上記酸化物の平均結晶子サイズAが240Å以下である非水電解質蓄電素子用の正極活物質(a)である。
【0015】
当該正極活物質(a)を用いることにより、非水電解質蓄電素子の放電容量を大きくすることができる。この理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。リチウム及びコバルトを含み、逆蛍石型の結晶構造を有する酸化物においては、その各結晶子間の界面でリチウムイオン等のイオンが移動しやすい。一方、当該正極活物質(a)においては、平均結晶子サイズAが240Å以下と小さいため、結晶子間の界面が多く存在する。これにより当該正極活物質(a)においてはイオンの伝導性が高まり、放電容量が大きくなると推測される。また、当該正極活物質(a)によれば、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル容量維持率(以下、単に「容量維持率」ということもある。)、特に高電圧で作動させる際の容量維持率の低下を抑えることができる。
【0016】
なお、「平均結晶子サイズ」は、粉末X線回折(XRD)測定により得られるXRDスペクトルを用いたシェラー法により求められる値である。シェラー法は、以下のシェラーの式によって、結晶子サイズを算出する方法である。
D=Kλ/βcosθ
上記式中、Dは結晶子サイズ(Å)、Kはシェラー定数、λは使用X線の波長、βは半値幅(rad)、θはブラッグ角(rad)をそれぞれ示す。
【0017】
具体的には、以下の方法により求めたものとする。試料(酸化物)粉末をアルゴン雰囲気中で密閉型試料板に配置する。この粉末は、測定に影響しない他の成分(例えばアセチレンブラック等)との混合物であってもよい。次いで、この酸化物について、Cu(銅)製X線管球及び高感度検出器DteXを備えたXRD装置(リガク社の「Miniflex II」)にて、XRDスペクトルを取得する。なお、線源CuKα線、走査範囲2θ=10-80°、走査速度2°/min、ステップ幅0.02°とする。得られたXRDスペクトルから、解析ソフト(リガク社の「PDXL」)を用いて結晶子サイズを導出する。結晶子サイズの導出手順は、PDXLのマニュアルに沿って実施する。解析ソフトにおいて、以下のような手法により、結晶子サイズが算出される。K(シェラー定数)は0.94とする。λ(使用X線の波長)は1.54015Åとする。β(半値幅)をピークトップ法により導出する。すなわち、各回折線の強度(cps)からバックグラウンド強度(cps)を差し引き、その強度が1/2となる部分の回折線の広がり(degree)をラジアン角に変換した値(rad)とする。θ(ブラッグ角)は、ICDD PDFに記載されるhkl=201及び222に相当するブラッグ角(degree)をラジアン変換した値(rad)とする。これらの値を、上記のシェラーの式に導入し、算出された値を結晶子サイズD(Å)とする。各ブラッグ角((201)面及び(222)面)に対応する2つの結晶子サイズの平均値を平均結晶子サイズA(Å)とする。
【0018】
上記酸化物がLiCoOであることが好ましい。リチウム及びコバルトを含み、逆蛍石型の結晶構造を有する酸化物としてLiCoOを用いることにより、非水電解質蓄電素子の放電容量をより大きくすることができる。
【0019】
本発明の他の一実施形態に係る正極活物質は、X線回折における(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される平均結晶子サイズAが240Å以下のLiCoOである非水電解質蓄電素子用の正極活物質(b)である。
【0020】
当該正極活物質(b)を用いることにより、非水電解質蓄電素子の放電容量を大きくすることができ、また、容量維持率の低下も抑えることができる。上記効果が生じる理由については、上記正極活物質(a)と同様に、LiCoOの平均結晶子サイズAを小さくし、結晶子間の界面を多く存在させることで、イオンの伝導性が高まることによると推測される。
【0021】
当該正極活物質(a)及び正極活物質(b)のX線回折における(110)面、(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される平均結晶子サイズBが270Å以下であることが好ましい。これにより、非水電解質蓄電素子の放電容量をより大きくすることができる。この平均結晶子サイズBは、上述した方法に準じて求めることができる。すなわち、θ(ブラッグ角)として、hkl=110、201及び222に相当するブラッグ角を採用し、各ブラッグ角((111)面、(201)面及び(222)面)に対応する3つの結晶子サイズの平均をとることで、上記平均結晶子サイズBを求めることができる。
【0022】
本発明の他の一実施形態に係る正極は、当該正極活物質(a)又は当該正極活物質(b)を有する非水電解質蓄電素子用の正極である。当該正極によれば、非水電解質蓄電素子の放電容量を大きくすることができ、また、容量維持率の低下も抑えることができる。
【0023】
本発明の他の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、当該正極を備える非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ということもある。)である。当該蓄電素子は、放電容量が大きく、容量維持率の低下も抑えられる。
【0024】
当該非水電解質蓄電素子においては、通常使用時の正極の充電終止電位が、3.2V(vs.Li/Li)以上4.5V(vs.Li/Li)以下であることが好ましい。当該蓄電素子は、上記充電終止電位範囲において、特に大きい放電容量を有することができ、また、容量維持率の低下を抑えることができる。ここで、「通常使用時」とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合であり、当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。なお、例えば、黒鉛を負極活物質とする非水電解質蓄電素子では、設計にもよるが、充電終止電圧が4.0Vのとき、正極電位は約4.1V(vs.Li/Li)である。
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る正極活物質(a)、正極活物質(b)、正極、及び非水電解質蓄電素子について、順に説明する。
【0026】
<正極活物質(a)>
当該正極活物質(a)は、リチウム及びコバルトを含み、逆蛍石型の結晶構造を有する酸化物である。なお、酸化物の結晶構造は、XRDスペクトルに基づく公知の解析方法により特定することができる。
【0027】
上記酸化物は、リチウム、コバルト及び酸素以外の他の元素を含むことができる。他の元素としては、マンガン、鉄、ニッケル、銅等のコバルト以外の遷移金属元素、マグネシウム、アルミニウム等の遷移金属元素以外の金属元素、その他、フッ素等のハロゲンなどを挙げることができる。なお、遷移金属元素とは、周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素をいう。
【0028】
上記酸化物において、全遷移金属元素に占めるコバルトの含有割合(原子数比)としては、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、99モル%であってもよい。一方、この上限は、100モル%が好ましい。
【0029】
また、上記酸化物において、全元素に占めるリチウム、コバルトを含む遷移金属元素及び酸素以外の他の元素の含有割合(原子数比)としては、20モル%以下が好ましいことがあり、10モル%以下が好ましいことがあり、1モル%以下が好ましいことがある。
【0030】
上記酸化物の具体例としては、LiCoα1-α(0<α≦1、Mはコバルト以外の遷移金属元素を表す)、LiCoβFe1-β(0<β<1)、LiCoγMn1-γ(0<γ<1)等を挙げることができる。これらの中でも、LiCoα1-αが好ましい。αは0.5以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、1がさらに好ましい。すなわち、上記酸化物としては、LiCoOが最も好ましい。
【0031】
X線回折における(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される上記酸化物の平均結晶子サイズAの上限は、240Åであり、150Åが好ましく、120Åがより好ましいこともあり、115Åがさらに好ましいこともある。平均結晶サイズAを上記上限以下とすることで、非水電解質蓄電素子の放電容量をより大きくすることができ、また、十分な容量維持率を発揮することができる。
【0032】
一方、上記平均結晶子サイズAの下限は、特に限定されないが、例えば10Åであり、30Åが好ましく、50Åがより好ましく、100Åがさらに好ましい。また、この下限は、120Åが好ましいこともあり、150Åが好ましいこともある。充電終止電位等によれば、比較的平均結晶子サイズAが大きい方が、放電容量維持率がより高くなる場合がある。
【0033】
X線回折における(110)面、(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される上記酸化物の平均結晶子サイズBの上限は、270Åが好ましく、240Åがより好ましく、210Åがさらに好ましく、190Åがよりさらに好ましく、150Åがよりさらに好ましい。平均結晶サイズBを上記上限以下とすることで、非水電解質蓄電素子の放電容量をより大きくすることができ、また、十分な容量維持率を発揮することができる。
【0034】
一方、上記平均結晶子サイズBの下限は、特に限定されないが、例えば10Åであり、30Åが好ましく、50Åがより好ましく、100Åがさらに好ましい。また、この下限は、140Åが好ましいこともあり、180Åが好ましいこともある。充電終止電位等によれば、比較的平均結晶子サイズBが大きい方が、放電容量維持率がより高くなる場合がある。
【0035】
当該正極活物質は、公知の方法により製造することができる。例えば、LiCoOの場合、LiOとCoOとを3:1のモル比で混合し、不活性ガス雰囲気下で焼成することで合成することができる。また、平均結晶子サイズ(平均結晶子サイズA及び平均結晶子サイズB)は、例えば焼成後に粉砕処理することなどにより調整することができる。この粉砕処理は、例えば乳鉢やボールミル装置など、公知の機器を用いて行うことができる。このような粉砕処理により、結晶子の少なくとも一部が破壊・微細化され、平均結晶子サイズが小さくなるものと推測される。
【0036】
<正極活物質(b)>
当該正極活物質(b)は、X線回折における(201)面及び(222)面に由来するピークから算出される平均結晶子サイズAが240Å以下のLiCoOである。当該正極活物質(b)は、酸化物がLiCoOである正極活物質(a)として上述したとおりである。但し、当該正極活物質(b)の結晶構造は逆蛍石型に限定されるものではなく、どのような結晶構造を有していてもよい。また、正極活物質(b)の結晶構造は、充放電の繰り返しに伴って変化してもよい。
【0037】
<正極>
当該正極は、上述した当該正極活物質(a)又は当該正極活物質(b)を有する非水電解質蓄電素子用の正極である。当該正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
【0038】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0039】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。
【0040】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0041】
上記正極活物質として、上述した当該正極活物質(a)又は正極活物質(b)を含む。上記正極活物質としては、当該正極活物質(a)及び正極活物質(b)以外の公知の正極活物質が含まれていてもよい。全正極活物質に占める当該正極活物質(a)及び正極活物質(b)の含有割合としては、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい。当該正極活物質(a)及び正極活物質(b)の含有割合を高めることで、非水電解質蓄電素子の放電容量や容量維持率を十分に高めることができる。上記正極活物質層における上記正極活物質の含有割合は、例えば30質量%以上95質量%以下とすることができる。
【0042】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0043】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0044】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0045】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラスなどが挙げられる。
【0046】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知のアルミニウムケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0047】
(正極)
当該蓄電素子に備わる正極は、上述したとおりである。
【0048】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0049】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0050】
上記負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0051】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非晶質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0052】
さらに、負極合材(負極活物質層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0053】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0054】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0055】
(非水電解質)
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。
【0056】
上記非水溶媒としては、一般的な二次電池用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。
【0057】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0058】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0059】
電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiPF(C、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
【0060】
上記非水電解質には、その他の添加剤が添加されていてもよい。また、上記非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0061】
(充電終止電位)
当該非水電解質二次電池(蓄電素子)は、比較的高い作動電圧で用いることができる。例えば、通常使用時の充電終止電圧における正極電位(充電終止電位)は、3.2V(vs.Li/Li)より貴とすることができ、3.4V(vs.Li/Li)より貴とすることもでき、3.6V(vs.Li/Li)より貴とすることもでき、4.0V(vs.Li/Li)より貴とすることもできる。一方、この通常使用時の充電終止電圧における正極電位の上限は、例えば5.0V(vs.Li/Li)であり、4.5V(vs.Li/Li)であってもよく、4.0V(vs.Li/Li)であってもよく、3.6V(vs.Li/Li)であってもよい。
【0062】
当該蓄電素子は、公知の方法で製造することができる。例えば、当該蓄電素子の製造方法は、正極を作製する工程、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極をセパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を電池容器に収容する工程、並びに上記電池容器に上記非水電解質を注入する工程を備える。注入後、注入口を封止することにより当該蓄電素子を得ることができる。
【0063】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、当該非水電解質蓄電素子の正極において、正極合材は明確な層を形成していなくてもよい。例えば上記正極は、メッシュ状の正極基材に正極合材が担持された構造などであってもよい。
【0064】
また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0065】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が電池容器3(ケース)に収納されている。電極体2は、正極活物質を含む正極合材を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。この正極の活物質として、本発明の一実施形態に係る正極活物質(a)又は正極活物質(b)が使用される。また、電池容器3には、非水電解質が注入されている。
【0066】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0067】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1~4及び比較例1]
(LiCoOの合成)
LiOとCoOとを3:1のモル比で混合し、N雰囲気下、700℃で12時間焼成し、LiCoOを合成した。アルゴン雰囲気下にて、LiCoOとアセチレンブラックを1:1の質量比で混合し、直径5mmのタングステンカーバイド製ボールが250g入った内容積80mLのタングステンカーバイド製ポットに投入し、蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数200rpmで20分間乾式粉砕することで、実施例1の正極活物質とアセチレンブラックとの混合物を調製した。実施例2、3及び4については、粉砕時間をそれぞれ1時間、2時間及び3時間とした。比較例1については、アルゴン雰囲気下にて、LiCoOとアセチレンブラックを1:1の質量比で混合し、メノウ製乳鉢で粉砕することにより、比較例1の正極活物質とアセチレンブラックとの混合物を調製した。
【0069】
(平均結晶子サイズの測定)
得られた正極活物質について、アセチレンブラックとの混合状態において、上記の方法にてXRD測定を行い、平均結晶子サイズを求めた。得られたXRDスペクトルを図3に示す。XRDスペクトルより、得られた正極活物質の結晶構造は逆蛍石型であることを確認した。また、求めた平均結晶子サイズを表1に示す。なお、平均結晶子サイズAは、(201)面及び(222)面に由来するピークからそれぞれ算出される2つの結晶子サイズの平均値である。また、平均結晶子サイズBは、(110)面、(201)面及び(222)面に由来するピークからそれぞれ算出される3つの結晶子サイズの平均値である。
【0070】
(蓄電素子(評価セル)の作製)
得られた実施例1~4及び比較例1の各正極活物質とアセチレンブラックの混合物に、NMP溶媒にPVDF粉末を溶解した溶液を加え、正極合材ペーストを作製した。この正極合材ペーストにおける、正極活物質とアセチレンブラックとPVDFの質量比を40:40:20とした。この正極合材ペーストをメッシュ状のアルミニウム基材に塗布し、乾燥させることにより正極を得た。
また、ECとDMCとEMCとを30:35:35の体積比で混合した非水溶媒に、1Mの濃度でLiPFを溶解させ、非水電解質を調製した。上記正極及び非水電解質を用い、また、負極及び参照極をリチウム金属として、評価セル(蓄電素子)としての三極式ビーカーセルを作製した。
【0071】
(充放電サイクル試験)
得られた評価セルについて、20℃の環境下、9サイクルの充放電サイクル試験を行った。充電電位は、3.2V(vs.Li/Li)、3.4V(vs.Li/Li)、3.6V(vs.Li/Li)又は4.5V(vs.Li/Li)とした。放電電位は、1.0V(vs.Li/Li)とした。電流密度は50mA/gとして、定電流(CC)充放電を行った。各充電電位に対応する充放電サイクル試験において、測定した1サイクル目の放電容量(初期放電容量)、及び初期放電容量に対する9サイクル目の放電容量の比(容量維持率)を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示されるように、実施例1~4の蓄電素子は、1サイクル目の放電容量が大きく、容量維持率も高いことがわかる。特に、平均結晶子サイズを小さくするほど、放電容量が大きくなる傾向が見て取れる。また、容量維持率に関し、比較例1においては、特に4.5Vでの充放電サイクル試験で容量維持率が大きく低下しているのに対し、各実施例においては、容量維持率の低下が抑えられていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質蓄電素子、及びこれに備わる電極、正極活物質などに適用できる。
【符号の説明】
【0075】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3