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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】推定装置、及び推定方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20220630BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20220630BHJP
【FI】
E21D9/093 Z
E21D9/093 B
E21D9/093 C
E21D9/093 E
G06N20/00 160
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018029144
(22)【出願日】2018-02-21
(65)【公開番号】P2019143385
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】和田 健介
(72)【発明者】
【氏名】野澤 剛二郎
(72)【発明者】
【氏名】本多 眞
(72)【発明者】
【氏名】杉山 博一
(72)【発明者】
【氏名】金丸 清人
(72)【発明者】
【氏名】小島 英郷
(72)【発明者】
【氏名】大木 智明
(72)【発明者】
【氏名】中谷 武彦
(72)【発明者】
【氏名】安井 克豊
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-307185(JP,A)
【文献】特開平07-279582(JP,A)
【文献】特開平04-055595(JP,A)
【文献】特開平03-107093(JP,A)
【文献】特開平04-089998(JP,A)
【文献】特開2018-021402(JP,A)
【文献】米国特許第05529437(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/093
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘削機の掘進の方向に関する方向データであって、テールクリアランス、ジャッキストローク、ジャッキ推進速度のいずれかのデータを含む方向データを取得する方向データ取得部と、
少なくとも前記方向データを含むデータを推定モデルに入力することにより、前記シールド掘削機が掘進すべき力点の位置を推定する力点位置推定部
を備え、
前記推定モデルは、前記方向データに対応するデータを含む入力データに前記シールド掘削機が掘進すべき力点の位置が対応づけられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたモデルである
ことを特徴とする推定装置。
【請求項2】
前記方向データ取得部は、前記シールド掘削機が掘進する方向として指示された指示方向データ、前記シールド掘削機が実際に掘進した方向として測定された測定方向データを取得し、
前記指示方向データと前記測定方向データとの差分である計画路線偏差を算出する方向データ処理部を更に備え、
前記力点位置推定部は、前記計画路線偏差を前記推定モデルに入力することにより、前記力点の位置を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記方向データ処理部は、前記方向データ、又は前記計画路線偏差の少なくともいずれかにおける所定時間ごとの移動平均を示す移動平均データを算出し、
前記力点位置推定部は、前記移動平均データを、前記推定モデルに入力することにより、前記力点の位置を推定する
ことを特徴とする請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
方向データ取得部が、シールド掘削機の掘進の方向に関する方向データであって、テールクリアランス、ジャッキストローク、ジャッキ推進速度のいずれかのデータを含む方向データを取得する工程と、
力点位置推定部が、少なくとも前記方向データを含むデータを推定モデルに入力することにより、前記シールド掘削機が掘進すべき力点の位置を推定する工程
を有し、
前記推定モデルは、前記方向データに対応するデータを含む入力データに前記シールド掘削機が掘進すべき力点の位置が対応づけられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたモデルである
ことを特徴とする推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘削機が掘進すべき力点位置を推定する推定装置、及び推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土圧式シールド工法(泥土圧シールド工法)によりトンネルなどを築造している。シールド掘削機が掘削する現場の施工環境(土質、水圧など地山の状態)は、現場の掘削する位置により刻々と変化する。このため、予め計画されている掘進指示と、施工環境に対応して測定される各種測定装置からの測定データとを比較したり、測定データを監視したりしながら、オペレータが手動でシールド掘削機の操作を行う。
シールド掘削機は、計画された掘進指示書に従って掘削を進める。掘進指示書には、リング毎に掘削終了時における水平方向の方位(指示方位)、及び鉛直方向の方位(指示ピッチ)が示されたトンネル計画線が記載され、トンネル計画線に沿って掘削を進める(掘進する)必要がある。このため、オペレータは、ジャイロコンパス等を用いて測定した、シールド掘削機により実際に掘進された測定方位及び測定ピッチを取得し、指示された方向と実際に掘削した方向との差分(計画路線偏差)が小さくなるようにシールド掘削機の掘進方向を制御する。シールド掘削機の掘進方向は、シールド掘削機の後方等に備えられ、シールド掘削機を押す複数のシールドジャッキを操作することにより制御される。例えば、全てのシールドジャッキの推進量を均等にすることでシールド掘削機は直進する。また、進行方向に左側のシールドジャッキの推進量を右側のシールドジャッキの推進量と比較して大きくすることでシールド掘削機は右側に曲がる。
例えば、トンネル計画線が曲線であってもシールド掘削機のシールドジャッキの推進量を精度良く制御する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-279582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際の地山は掘削する位置により地質が様々であるため、例えば、地質が変化する地点では全てのシールドジャッキの推進量を均等にしてもシールド掘削機が直進しない場合が考えられる。このため、オペレータは、方向やピッチ、計画路線偏差を監視しながら、トンネル計画線に沿うようにシールドジャッキの推進量の調整を行わなければならず、操作は熟練度の高いオペレータでなければ難しい。
熟練したオペレータは減少の傾向にあり、確保することが難しく、また、熟練度の高いオペレータを養成するには多大な時間を要する。また、熟練したオペレータであっても操作のタイミングや設定値を誤ることがあり、シールド掘削機に対する操作が適切に行われない場合、掘削されたトンネルの設計に対する精度や安全性が低下してしまう懸念がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シールド掘削機の掘進の方向を定めるシールドジャッキの力点の位置を機械的に推定することを可能とする推定装置、及び推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明の一実施形態の推定装置は、シールド掘削機の掘進の方向に関する方向データであって、テールクリアランス、ジャッキストローク、ジャッキ推進速度のいずれかのデータを含む方向データを取得する方向データ取得部と、少なくとも前記方向データを含むデータを推定モデルに入力することにより、前記シールド掘削機が掘進すべき力点の位置を推定する力点位置推定部を備え、前記推定モデルは、前記方向データに対応するデータを含む入力データに前記シールド掘削機が掘進すべき力点の位置が対応づけられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたモデルであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の一実施形態の推定装置では、前記方向データ取得部は、前記シールド掘削機が掘進する方向として指示された指示方向データ、前記シールド掘削機が実際に掘進している方向が測定された測定方向データを取得し、前記指示方向データと前記測定方向データと差分を示す計画路線偏差を算出する方向データ処理部を更に備え、前記力点推定部は、前記計画路線偏差を前記推定モデルに入力することにより、前記力点の位置を推定することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一実施形態の推定装置では、前記方向データ処理部は、前記方向データ、又は前記計画路線偏差の少なくともいずれかにおける所定時間ごとの移動平均を示す移動平均データを算出し、前記力点位置推定部は、前記移動平均データを前記推定モデルに入力することにより、前記力点の位置を推定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一実施形態の推定方法は、方向データ取得部が、シールド掘削機の掘進の方向に関する方向データであって、テールクリアランス、ジャッキストローク、ジャッキ推進速度のいずれかのデータを含む方向データを取得する工程と、力点位置推定部が、少なくとも前記方向データを含むデータを推定モデルに入力することにより、前記シールド掘削機が掘進すべき力点の位置を推定する工程とを有し、前記推定モデルは、前記方向データに対応するデータを含む入力データに前記シールド掘削機が掘進すべき力点の位置が対応づけられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたモデルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、この発明によれば、シールド掘削機の掘進の方向を定めるシールドジャッキの力点の位置を機械的に推定することを可能とする。これにより、操作支援や操作の均一化を図ることができ、十分な機械学習を行うことにより、シールド掘削機の方向制御の自動化を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の推定装置30に適用されるシールド掘削機10の構成例を示す概略構成図である。
図2】実施形態の推定装置30の構成例を示すブロック図である。
図3】実施形態の操作データ記憶部34が記憶する情報の構成例を示す図である。
図4】実施形態の方向データ記憶部35が記憶する情報の構成例を示す図である。
図5】実施形態の方向データ記憶部35が記憶する情報の構成例を示す図である。
図6】実施形態の推定装置30の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の、推定装置を、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の推定装置30が適用されるシールド掘削機10の構成例を示す概略構成図である。図1(a)は、シールド掘削機10を側面から見た概念図、図1(b)は、シールド掘削機10を推進させるシールドジャッキ20を正面からみた概念図をそれぞれ示している。
図1(a)に示すように、シールド掘削機10は、円筒形のスキンプレート11のy軸の負方向の後部において、エレクタ(不図示)によりセグメントを組み立てて、一次覆工Sを施工しつつ、地山を掘削するための機構である。シールド掘削機10においては、カッタービット15を備えた環状かつ面板型のカッター16のy軸の負方向の後部にチャンバー12が設けられている。チャンバー12内の側壁には複数の土圧計Dが設置される。土圧計Dは、チャンバー12における泥土の圧力を測定する。
チャンバー12には作泥土材注入管13から作泥土材14が注入される。チャンバー12内に堆積された掘削土は、練混ぜ翼(不図示)により、作泥土材14と撹拌することで練混ぜられ、泥土に変換される。
スクリューコンベア17は、チャンバー12の泥土を、排土ゲートGを介してコンベア18に排土する。そして、コンベア18は、スクリューコンベア17より排出された泥土を、コンベア19を介してトンネルの外部に搬出する。架台Mは、スクリューコンベア17と、コンベア18、及び19とを支持している。
【0014】
また、図1(b)に示すように、シールドジャッキ20は、スキンプレート11の内周を囲むようにして複数設けられ、スキンプレート11とセグメントとの間に配置される。シールドジャッキ20が油圧操作により推進(伸長)されることでスキンプレート11の面が押されシールド掘削機10が推進する。
ここで、いずれの位置のシールドジャッキを推進させるかによりスキンプレート11の面を推進させる力点の位置が設定され、シールド掘削機10の推進方向が決定される。また、シールドジャッキ20を推進させる速度によりシールド掘削機10の推進速度が決定される。すなわち、いずれのシールドジャッキ20を選択するかを設定する操作が行われることによりシールド掘削機10の推進方向が制御される。また、シールドジャッキの推進速度を設定する操作が行われることによりシールド掘削機10の推進速度が制御される。
【0015】
図2は、実施形態の推定装置30の構成例を示すブロック図である。
推定装置30は、操作データ取得部31と、方向データ取得部32と、方向データ処理部33と、操作データ記憶部34と、方向データ記憶部35と、学習済みモデル記憶部36と、力点位置推定部37と、推定結果出力部38と、を備える。
【0016】
操作データ取得部31は、シールド掘削機10の推進方向を制御するために行われた操作のデータを取得する。操作データ取得部31は、例えば、推進方向を制御するために行われた操作として、シールドジャッキ20に対して行われた操作のデータを取得する。操作データ取得部31は、例えば、操作されたシールドジャッキ20の位置とそのシールドジャッキ20の推力を取得し、取得した操作データに基づいて、全てのシールドジャッキ20が発生する推力における力点の位置を算出する。操作データ取得部31は、算出した力点の位置を操作データ記憶部34に記憶させる。
【0017】
方向データ取得部32は、シールド掘削機10の推進方向に関連する方向データを取得する。方向データ取得部32は、方向データとして、掘進指示書にて指示されたシールド掘削機10が推進する方向に関連する指示方向データ、及びシールド掘削機10が実際に掘進した方向に関連する測定方向データを取得する。
【0018】
方向データ取得部32は、指示方向データとして、例えば、指示方位、指示ピッチ、および指示ジャッキストローク差を取得する。
指示方位は、掘進指示書にて指示された水平方向(左右方向)の方位である。指示ピッチは、掘進指示書にて指示された鉛直方向(上下方向)の方位である。
指示方位と指示ピッチとは、例えば、トンネル断面の一周分のセグメントを組み立てたリング単位で指示される。指示方位は、例えば、一つのリングの掘削が終了した地点における水平方向の方位を示す。指示ピッチは、例えば、一つのリングの掘削が終了した地点における鉛直方向の方位を示す。方向データ取得部32は、取得した指示方位、指示ピッチ、および指示ジャッキストローク差を示すデータを方向データ記憶部35に記憶させる。
指示ジャッキストローク差は、シールド掘削機10をトンネル計画線で計画された曲線に沿って掘進させるために掘進指示書にて指示された複数のシールドジャッキ20の各々の推進量(ストローク)の差分である。
例えば、指示ジャッキストローク差が0(ゼロ)である場合、トンネル計画線は直線である。また、左側のシールドジャッキ20の推進量を、右側のシールドジャッキ20の推進量に対して大きくなるように指示ジャッキストローク差が指示されている場合、トンネル計画線は、進行方向に対して右側に曲がる曲線である。
【0019】
方向データ取得部32は、測定方向データとして、例えば、シールド掘削機10に備えられたジャイロコンパス(不図示)を用いて測定したシールド掘削機10における測定方位、および測定ピッチを取得する。シールド掘削機10における測定方位は、シールド掘削機10が実際に掘進した方向として測定された方向のうちの水平方向の方位を示す。シールド掘削機10における測定ピッチは、シールド掘削機10が実際に掘進した方向として測定された方向のうちの鉛直方向の方位を示す。
【0020】
また、方向データ取得部32は、シールド掘削機10が実際に掘進した方向に関連するデータとして、シールドジャッキ20の一端から他端までの距離(ジャッキストローク)を取得する。方向データ取得部32は、例えば、シールドジャッキ20の各々に設けられた測距センサにより測定された各シールドジャッキ20のジャッキストロークを取得する。
【0021】
また、方向データ取得部32は、シールド掘削機10が実際に掘進した方向に関連するデータとして、スキンプレート11の内側からセグメントの外側までの距離(テールクリアランス)を取得する。方向データ取得部32は、例えば、テールクリアランスを測る測距センサにより測定されたテールクリアランスを取得する。
方向データ取得部32は、取得した測定方位、測定ピッチ、およびジャッキストローク、およびテールクリアランスを示すデータを方向データ記憶部35に記憶させる。
【0022】
方向データ処理部33は、方向データ取得部32により取得されたデータについて各種の処理を行う。
方向データ処理部33は、トンネル計画線と実際に掘られたトンネル出来形の中心線とのずれ量である計画路線偏差を算出する。方向データ処理部33は、水平方向、及び鉛直方向の各々について計画路線偏差を算出する。
方向データ処理部33は、計画路線偏差を算出するために、例えば、方向データ取得部32により取得された測定方位、測定ピッチ、およびジャッキストロークからシールド掘削機10が実際に掘削した長さである掘削長を算出する。
【0023】
また、方向データ処理部33は、測定方位と掘削長の水平方向成分からシールド掘削機10における水平方向の先端の位置、およびセグメントがシールドジャッキ20と接する位置(セグメント端の位置)のそれぞれを取得する。そして、方向データ処理部33は、取得したシールド掘削機の先端の位置とセグメント端の位置とのそれぞれに対応する水平方向のトンネル計画線上の位置との差分を算出することで、水平方向の計画路線偏差を算出する。なお、水平方向のトンネル計画線は、リング毎の指示方位を、リング番号順に接続することで取得することが可能である。
【0024】
また、方向データ処理部33は、測定ピッチと掘削長の鉛直方向成分からシールド掘削機10における鉛直方向の先端の位置とセグメント端の位置のそれぞれを取得する。そして、方向データ処理部33は、取得したシールド掘削機の先端とセグメント端とのそれぞれの位置に対応する鉛直方向のトンネル計画線上の位置との差分を算出することで、鉛直方向の計画路線偏差を算出する。なお、鉛直方向のトンネル計画線は、リング毎の指示ピッチを、リング番号順に接続することで取得することが可能である。
方向データ処理部33は、算出した水平方向、及び鉛直方向の各々の計画路線偏差を方向データ記憶部35に記憶させる。
また、方向データ処理部33は、ジャッキストロークの時系列変化に基づいて、シールドジャッキ20の各々の推進速度(ジャッキ推進速度)を算出する。方向データ処理部33は、算出したジャッキ推進速度を方向データ記憶部35に記憶させる。
【0025】
また、方向データ処理部33は、方向データ取得部32により取得された測定方向データを短時間(例えば、10秒)移動平均、および/又は長時間(例えば、60秒)移動平均した移動平均データを算出する。方向データ処理部33は、算出した移動平均データを方向データ記憶部35に記憶させる。
【0026】
学習済みモデル記憶部36は、シールド掘削機10の推進方向に関連するデータを入力データとし、当該入力データに推進方向における力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成された、掘進方向における力点の位置を推定する推定モデルを記憶する。
【0027】
推定モデルを作成する機械学習の技法としては、決定木学習、ニューラルネットワーク、遺伝的プログラミング、サポートベクタマシンなどの一般的に用いられている技法のいずれを用いてもよい。
機械学習に用いる学習データは、例えば、シールド掘削機の推進方向に関連するデータに対して、熟練のオペレータの操作により設定された理想的な力点の位置を示すデータである。なお、推定モデルの作成に用いられる学習データは、シールド掘削機10に関するデータを用いて作成されてもよいし、一般的なシールドマシンにおいて、チャンバー内の泥土が排土される状況を示す画像に、操作の設定値が対応づけられたものであってもよい。
【0028】
推定モデルは、様々な入力データの組合せに理想的な力点の位置が対応づけられた学習データを学習したモデルであり、すでに学習済みである入力データの組合せと同じである、あるいは学習済みである入力データの組合せに類似すると判定された組合せが入力された場合、対応する出力データとして学習済みである理想的な力点の位置を出力する。
【0029】
力点位置推定部37は、学習済みモデル記憶部36に記憶された推定モデルを用いて、シールド掘削機10の推進方向として設定すべき力点の位置を推定する。
力点位置推定部37は、操作データ記憶部34、方向データ記憶部35に記憶されたデータの組合せを推定モデルに入力し、推定モデルから出力された力点の位置を、推定したシールド掘削機10の推進方向として設定すべき力点の位置とする。
【0030】
推定結果出力部38は、力点位置推定部37による推定結果を出力する。推定結果出力部38は、例えば、シールド掘削機10の操作室(不図示)の操作画面に推定結果を出力することにより、オペレータに力点の位置の推定値を認識させる。これにより、オペレータは、推定装置30をガイダンスとして利用することができる。つまり、オペレータは、推定装置30が推定した力点の位置に基づいて、使用するシールドジャッキ20を選択し、選択したシールドジャッキ20の推力を調整する操作を行うことが可能となる。
【0031】
図3は、実施形態の操作データ記憶部34が記憶する操作データの構成例を示す図である。
図3に示すように、例えば、操作データは、データ種別、データ項目、タイムスタンプの各項目を有する。データ種別には、シールド掘削機10から取得されたデータの種別(操作データ、指示方向データ、測定方向データ、又は移動平均データのいずれか)が記憶される。データ項目には、データ種別に対応する各種データの項目が記憶される。タイムスタンプには、時刻T1~T4…毎にデータ項目に対応する値が記憶される。タイムスタンプは、操作の頻度に応じた所定の時間毎(例えば1秒毎)の時刻が記憶される。
【0032】
図3の例では、データ種別として操作の実績を示す操作データが記憶され、データ項目としてジャッキ操作による力点の位置における上下方向と左右方向とを示す項目が記憶され、タイムスタンプの時間ごとに、操作データ取得部31により取得された力点の位置が記憶される。
【0033】
図4は、実施形態の方向データ記憶部35が記憶する情報の構成例を示す図である。図4は、指示方向データの構成例を示している。
図4に示すように、例えば、指示方向データは、データ種別、データ項目、リング番号の各項目を有する。データ種別には、データの種別が記憶される。データ項目には、データ種別に対応する各種データの項目が記憶される。リング番号には、リング毎にデータ項目に対応する値が記憶される。
【0034】
図4の例では、データ種別として指示方向データが記憶され、データ項目として指示された方向における指示方位(水平方向に対する方位)と指示ピッチ(鉛直方向に対する方位)とを示す項目、および指示ジャッキストローク差として上下方向と左右方向とそれぞれの差を示す項目が記憶され、リングごとに方向データ取得部32により取得された指示値が記憶される。
【0035】
図5は、実施形態の方向データ記憶部35が記憶する情報の構成例を示す図である。図5は、測定方向データ、及び移動平均データの構成例を示している。
図5に示すように、例えば、測定方向データ及び移動平均データは、データ種別、データ項目、タイムスタンプの各項目を有する。データ種別には、データの種別が記憶される。データ項目には、データ種別に対応する各種データの項目が記憶される。タイムスタンプには、時刻T1~T4…毎にデータ項目に対応する値が記憶される。タイムスタンプは、操作の頻度に応じた所定の時間毎の時刻が記憶される。
【0036】
図5の例では、データ種別として測定方向データ、又は移動平均データが記憶され、データ項目として測定方向データに対応するデータ項目であるシールド掘削機位置(測定方位、測定ピッチ)、シールド掘削機先端における計画路線偏差(水平方向、鉛直方向)、セグメント端における計画路線偏差(水平方向、鉛直方向)、テールクリアランス、ジャッキストローク、ジャッキ推進速度の項目の各々が記憶される。また、移動平均データに対応するデータ項目として、方向データに対応するデータ項目と同様の項目が記憶される。タイムスタンプ毎に方向データ取得部32により取得された測定方向データ、又は方向データ処理部33により算出された移動平均データが記憶される。
なお、データ項目のうち、テールクリアランスについては、所定時間ごとの測定値に代えて、予め定めたリング毎の掘削開始時と掘削終了時における所定の時間毎にデータが記憶されるようにしてもよい。
【0037】
図6は、実施形態の推定装置30の動作例を示すフローチャートである。
まず、推定装置30の操作データ取得部31は、シールド掘削機10に対して行われたジャッキ操作に基づくシールドジャッキ20全体の力点の位置を示す操作データを取得する(ステップS10)。
次に、方向データ取得部32は、シールド掘削機が掘進する方向に関する方向データとして、指示方向データ(指示方位、指示ピッチ、ジ指示ャッキストローク差)、測定方向データ(測定方位、測定ピッチ、テールクリアランス、ジャッキストローク、推進速度)等を取得する(ステップS11)。また、方向データ処理部33は、方向データ取得部32により取得された測定方向データを用いて計画路線偏差を算出し、また、測定方向データ、及び計画路線偏差の移動平均データを算出する。
【0038】
次に、力点位置推定部37は、操作データ、及び方向データを推定モデルに入力する(ステップS12)。推定モデルは、入力されたデータの組合せに対応する出力データを推定して出力するモデルである。推定モデルは、入力されたデータの組合せに対して、推定モデルが有する学習済みのデータから、入力されたデータの組合せと同じ組み合わせ、又は類似する組合せのデータを抽出し、抽出したデータに対応づけられた力点の位置を示すデータを出力する。
次に、力点位置推定部37は、推定モデルから出力されたデータを、シールド掘削機10の推進すべき力点の位置として推定する(ステップS13)。
そして、推定結果出力部38は、力点位置推定部37により推定された力点の位置を、シールド掘削機10の操作室(不図示)の操作画面等に出力する(ステップS14)。
【0039】
以上説明したように、実施形態の推定装置30は、シールド掘削機10の掘進の方向に関するデータを取得する方向データ取得部32と、少なくとも方向データを含むデータを推定モデル(例えば、学習済みモデル記憶部36に記憶された推定モデル)に入力することにより、シールド掘削機が掘進すべき力点の位置を推定する力点位置推定部37を備え、推定モデルは、方向データに対応するデータを含む入力データにシールド掘削機10が掘進すべき力点の位置が対応づけられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたモデルである。
これにより、実施形態の推定装置30は、推定モデルに方向データを入力することにより、機械的にシールドジャッキ20の力点を推定することができる。推定モデルは、方向データの組合せに対して理想的なシールド掘削機10の掘進における力点の位置が対応づけられたモデルであるため、理想的な力点の位置の推定値としてシールドジャッキ20の操作に用いられることで操作支援や操作の均一化を図ることができる。
【0040】
また、実施形態の推定装置30では、方向データ取得部32は、シールド掘削機10が掘進する方向として指示された指示方向データ(例えば、指示方位や指示ピッチ)、シールド掘削機10が実際に掘進した方向が測定された測定方向データ(例えば、測定方位や測定ピッチ)を取得し、方向データ処理部33は、指示方向データと測定方向データとの差分である計画路線偏差を算出し、力点位置推定部37は、計画路線偏差を推定モデルに入力することにより、力点の位置を推定する。これにより、実施形態の推定装置30は、計画路線偏差を考慮した力点の位置を推定することができる。
【0041】
また、実施形態の推定装置30では、方向データ処理部33は、方向データ取得部32により取得された方向データ、又は計画路線偏差の少なくともいずれかにおける所定時間ごとの移動平均を示す移動平均データを算出し、力点位置推定部37は、移動平均データを前記推定モデルに入力することにより、力点の位置を推定する。これにより、実施形態の推定装置30は、移動平均データを考慮した力点の位置を推定することができる。例えば、何らかの理由で一時的に測定方位や測定ピッチがトンネル計画線から大きく外れる場合があっても、移動平均を算出することにより、大きく外れた部分のデータが平均化され、当該大きく外れた部分のデータに基づいて偏った力点の位置が推定されてしまうことを抑制することができる。
【0042】
また、実施形態の推定装置30では、シールド掘削機10の掘進の方向を制御するために行われた操作を示す操作データを取得する操作データ取得部31を更に備え、力点位置推定部37は、操作データを、推定モデルに入力することにより、力点の位置を推定する。これにより、実施形態の推定装置30は、シールド掘削機10に対してすでに行われた操作を考慮した力点の位置を推定することができる。
【0043】
なお、上述した実施形態では、推定装置30が推定した力点位置をオペレータの操作画面等に表示させることで、オペレータがジャッキ操作のガイダンスとして推定装置30を利用する場合を例示して説明したが、これに限定されない。推定装置30は、力点の位置を推定し、推定した力点の位置に基づいて、複数のシールドジャッキ20のうち、使用すべきシールドジャッキ20を選択し、選択したシールドジャッキ20の推進量を計算して出力するようにしてもよい。この場合、推定装置30が出力するジャッキ選択、及び推進量を示す信号に基づいて、シールド掘削機10が操作されるようにすることで自動運転を実現するようにしてもよい。
【0044】
また、上述した実施形態では、方向データ処理部33が、シールド掘削機10における先端の位置とセグメント端の位置とにおける計画路線偏差を算出する場合を例示して説明したが、これに限定されない。方向データ処理部33が、シールド掘削機10が中折れタイプの掘削機であれば、その中折点における計画路線偏差を算出してもよい。また、方向データ処理部33は、シールド掘削機10の後端の位置(シールドジャッキ20の伸長する部分におけるセグメントと接する方の一端とは異なる他端の位置)における計画路線偏差を算出してもよい。
この場合、力点位置推定部37は、シールド掘削機10の先端とセグメント端とのそれぞれの位置における計画路線偏差に加えて、中折点やシールド掘削機10の後端の位置における計画路線偏差を推定モデルに入力することにより、力点の位置を推定してもよい。また、先端やセグメント端における計画路線偏差を用いずに、中折点や後端の位置における計画路線偏差のみを推定モデルに入力することにより、力点の位置を推定してもよい。
【0045】
また、上述した実施形態では、推定モデルが予め用意された学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたモデルである場合を例示して説明したが、この推定モデルが、シールド掘削機10の掘進に伴って蓄積されるデータを学習データとして、学習を積み重ねる(強化学習を行う)ようにしてもよい。推定モデルが学習を積み重ねることによって、推定装置30が、より精度の高い推定結果を出力することが可能となる。
【0046】
上述した実施形態における推定装置30が行う処理の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0047】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0048】
10…シールド掘削機、20…シールドジャッキ、30…推定装置、31…操作データ取得部、32…方向データ取得部、33…方向データ処理部、34…操作データ記憶部、35…方向データ記憶部、36…学習済みモデル記憶部、37…力点位置推定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6