(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】極薄型高速伝送用フラットケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/00 20060101AFI20220630BHJP
H01B 11/20 20060101ALI20220630BHJP
H01B 7/08 20060101ALI20220630BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H01B11/00 G
H01B11/20
H01B7/08
G02B6/44 371
G02B6/44 381
G02B6/44 391
G02B6/44 386
(21)【出願番号】P 2018073206
(22)【出願日】2018-04-05
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】立石 敏洋
(72)【発明者】
【氏名】疋田 益弘
(72)【発明者】
【氏名】宅野 智貴
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-053262(JP,A)
【文献】特開2014-229442(JP,A)
【文献】特開2012-003967(JP,A)
【文献】特開2017-117627(JP,A)
【文献】特開昭55-111018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 11/20
H01B 7/08
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の線条体を並列に配置し一体化したフラットケーブルにおいて、
該線条体は、チューブ、導電部材、電線、ケーブル、光ファイバーの少なくとも1種または2種以上から構成されるとともに、線条体の少なくとも1種は同軸ケーブルで
あり、
該同軸ケーブルは、少なくとも内部導体、誘電体、外部導体から構成され、該内部導体の外径はAWG38以下であり、
該線条体は、シート部材で挟持されることで一体化されるとともに、該フラットケーブルの幅方向における両端部は、該シート部材が融着層を介して固定されたシート連結部を有し、
該シート連結部の幅が、2.0mm以上4.0mm以下であり、
該線条体間は、該融着層が充填され、
該融着層の厚さが、50μm以上であり、
該シート部材及び該融着層の材質は、熱可塑性ポリウレタンであり、
該シート部材間の剥離強度が、5N以上であることを特徴とする、極薄型高速伝送用フラットケーブル。
【請求項2】
該線条体の外径が、0.5mm以下であることを特徴とする、
請求項
1に記載の極薄型高速伝送用フラットケーブル。
【請求項3】
該フラットケーブルの厚さが、1.2mm以下であることを特徴とする、
請求項
1または2のいずれか1項に記載の極薄型高速伝送用フラットケーブル。
【請求項4】
該シート部材の厚さは、該線条体の外径に対し、0.5~1.5倍であることを特徴とする、
請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の極薄型高速伝送用フラットケーブル。
【請求項5】
複数本の該線条体は、外径が異なる第1の線条体及び第2の線条体を有し、
該第2の線条体の外径は、該第1の線条体の外径より小さく、
該第2の線条体及び該シート部材の間に、該第1の線条体及び該第2の線条体との外径差に相当する調整部材を有することを特徴とする、
請求項
1乃至4のいずれか1項に記載の極薄型高速伝送用フラットケーブル。
【請求項6】
該フラットケーブルの線方向の少なくとも1箇所において、略曲線状、及び/または、折れ線状の配線パターンを有することを特徴とする、
請求項
1乃至5のいずれか1項に記載の極薄型高速伝送用フラットケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稼働部において使用するフラットケーブルに関し、特に電子機器内等の狭小部において好適に使用される、薄型化及び高周波特性に優れるフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の稼働部等において、フラットケーブルなどと称される、複数本のケーブルを並列固定したものが広く使用されている。
並列固定の方法としては、従来、接着層を有するテープを用いて、接着層を対面させる形でテープを重ね合わせる方法が挙げられる(例えば、特許文献1)。
接着層を有するテープによる接着方法は、簡易性に優れるが、テープの剥がれ、皺、浮きの発生、及び屈曲時に音が発生する懸念がある。また、屈曲に対する耐久性が不十分な場合もある。また、特許文献1に示された製造方法では、多用な配線パターンは製造できないため、また、異なる長さのケーブルを同時に配線することが難しいため、適用範囲が限定される。
【0003】
その他、並列固定の方法としては、FFC(フレキシブルフラットケーブル)による方法が知られている。FFCは、導体を幅方向に平行に並べ、その外周を絶縁層等で被覆した構造である(例えば、特許文献2)。
FFCは、ケーブル全体の薄型化が可能であり、絶縁層等の剥がれ、皺、浮きの懸念も少ないが、特許文献1のような構造と比較すると、高周波における伝送特性は高くない。グランド層の追加等を行うと、高周波における伝送特性は向上するが、ケーブルの厚さが増加するため、ケーブルの柔軟性は低下する。そのため、柔軟性や屈曲、捻回に対する耐久性及び高周波特性が必要な箇所には好適ではない。
【0004】
また、高周波特性の要求に対する手法として、パソコンのヒンジ部等の電子機器内に複数本の同軸ケーブルを施すが、従来では、同軸ケーブルは丸く束ねられる構造が一般的である。丸く束ねられる構造は、簡易性に優れるが、配線スペースの更なる狭小化により要求される、薄型化が必要な箇所には好適ではない。
【0005】
近年、高周波特性の要求に加え、配線スペースの更なる狭小化により、薄型化及び高周波特性に優れると共に、柔軟性及び屈曲、捻回に対する耐久性の向上が可能なフラットケーブルが切望されているが、従来技術では、全ての要求を満たすフラットケーブルの提供は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-324042号公報
【文献】特開2012-064478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、薄型化及び高周波特性に優れると共に、柔軟性及び屈曲、捻回に対する耐久性の向上が可能な極薄型高速伝送用フラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
(1)複数本の線条体を並列に配置し一体化したフラットケーブルにおいて、線条体は、チューブ、導電部材、電線、ケーブル、光ファイバーの少なくとも1種または2種以上から構成されるとともに、線条体の少なくとも1種は同軸ケーブルであり、同軸ケーブルは、少なくとも内部導体、誘電体、外部導体から構成され、内部導体の外径はAWG(アメリカンワイヤーゲージ)38以下であり、線条体は、シート部材で挟持されることで一体化されるとともに、フラットケーブルの幅方向における両端部は、シート部材が融着層を介して固定されたシート連結部を有し、シート連結部の幅が、2.0mm以上4.0mm以下であり、線条体間は、融着層が充填され、融着層の厚さは、50μm以上であり、シート部材及び融着層の材質は、熱可塑性ポリウレタンであり、シート部材間の剥離強度が、5N以上であることを特徴とする。
(2)線条体の外径が、0.5mm以下であることが好ましい。
(3)フラットケーブルの厚さが、1.2mm以下であることが好ましい。
(4)シート部材の厚さは、線条体の外径に対し、0.5~1.5倍であることが好ましい。
(5)複数本の線条体は、外径が異なる第1の線条体及び第2の線条体を有し、第2の線条体の外径は、第1の線条体の外径より小さく、第2の線条体及びシート部材の間に、第1の線条体及び第2の線条体との外径差に相当する調整部材を有することが好ましい。
(6)フラットケーブルの線方向の少なくとも1箇所において、略曲線状、及び/または、折れ線状の配線パターンを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に記載する優れた効果が期待できる。
【0011】
(1)線条体は、チューブ、導電部材、電線、ケーブル、光ファイバーの少なくとも1種または2種以上から構成されるとともに、線条体の少なくとも1種は同軸ケーブルであるため、フラットケーブルは、高速伝送用途に適しているとともに、多様な用途に対応が可能である。
(2)同軸ケーブルは、少なくとも内部導体、誘電体、外部導体から構成され、内部導体の外径は、AWG38以下である場合、フラットケーブルは、薄型化が可能であるとともに、高速伝送用途に好適に利用できる。
(3)線条体の外径が、0.5mm以下である場合、及び/または、フラットケーブルの厚さが、1.2mm以下である場合、フラットケーブルの薄型化が可能であり、フラットケーブルを配線する筐体の薄型化に貢献できる。
(4)線条体が、シート部材で挟持されることで一体化される場合、フラットケーブルの柔軟性が向上するとともに、高周波特性に優れたフラットケーブルが製造可能となる。
(5)フラットケーブルの幅方向における両端部が、シート部材が融着層を介して固定されたシート連結部を有する場合、シートの剥がれ、皺、浮きを防止できる。
(6)シート連結部の幅が、1.0mm以上4.0mm以下である場合、シート部材間の剥離強度が向上するとともに、フラットケーブルの屈曲及び捻回に対する耐久性が向上する。
(7)シート部材の厚さが、線条体の外径に対し、0.5~1.5倍である場合、フラットケーブルの薄型化が可能であるとともに、フラットケーブルの屈曲及び捻回に対する耐久性、及び対摩耗性を維持できる。
(8)線条体間に、融着層が充填されている場合、フラットケーブルの屈曲に対する耐久性が向上する。
(9)融着層の厚さは、50μm以上である場合、シート部材間の十分な剥離強度が確保されるとともに、フラットケーブルの屈曲及び捻回に対する耐久性が向上する。
(10)シート部材及び/又は該融着層の材質が、熱可塑性ポリウレタンである場合、フラットケーブルの柔軟性が向上するとともに、フラットケーブルの耐摩耗性や耐衝撃性が向上する。
(11)シート部材間の剥離強度が、5N以上である場合、シート部材間の十分な剥離強度が確保されるとともに、フラットケーブルの屈曲及び捻回に対する耐久性が向上する。
(12)複数本の線条体は、外径が異なる第1の線条体及び第2の線条体を有し、第2の線条体の外径は、第1の線条体の外径より小さく、第2の線条体及びシート部材の間に、第1の線条体及び第2の線条体との外径差に相当する調整部材を有する場合、フラットケーブルの配線作業の簡易化、効率化が可能となるとともに、フラットケーブルの屈曲及び捻回に対する耐久性が向上する。
(13)フラットケーブルの線方向の少なくとも1箇所において、略曲線状、及び/または、折れ線状の配線パターンを有する場合、多用な配線パターンに対応可能である。
(14)本発明の線条体、シート部材、シート連結部、融着層を組み合わせたフラットケーブルは、各構造における効果を合わせて期待できる。すなわち、細径化、薄型化、高速伝送、高周波特性、シート部材間の剥離強度の向上、屈曲及び捻回に対する耐久性の向上、全てにおいて最大の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のフラットケーブルにおける断面図の一例を示す。
【
図2】本発明のフラットケーブルにおける断面図の他の一例を示す。
【
図3】本発明のフラットケーブルにおける配線パターンの一例を示す。
【
図4】本発明のフラットケーブルにおける配線パターンの他の一例を示す。
【
図5】シート部材間の剥離強度を測定するときの試料セット方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のフラットケーブルの一例として、基本構成について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1において、1はフラットケーブル、2は線条体、3はシート部材、4は融着層、5はシート連結部である。線条体2は複数本であれば、本数は限定されない。
【0015】
本発明では、線条体2は、チューブ、導電部材、電線、ケーブル、光ファイバーの少なくとも1種または2種以上から構成されるとともに、線条体の少なくとも1種は同軸ケーブルであることを特徴としている。
フラットケーブル1は、高速伝送用途に適した同軸ケーブルを含むとともに、チューブ、導電部材、電線、ケーブル、光ファイバーの中から任意に選ぶことが可能なため、フラットケーブル1は、多様な用途に対応が可能である。
【0016】
線条体2に用いられる同軸ケーブルは、少なくとも内部導体、誘電体、外部導体から構成され、内部導体の外径がAWG38以下であることが好ましい。より好ましくはAWG40以下であり、最も好ましくはAWG42以下である。フラットケーブル1は、薄型化が可能であるとともに、高速伝送用途に好適に利用できる。
線条体2に用いられる同軸ケーブルは、外部導体の外周にシースを配しても良い。シースの材質は特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ふっ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル系エラストマー等が挙げられる。
シースの形態は、押出成形の他、テープ材を巻いて施してもよく、特に限定されない。
【0017】
線条体2の外径が、0.5mm以下であること、及び/または、フラットケーブル1の厚さTが、1.2mm以下であることが好ましい。より好ましくは、線条体2の外径が、0.45mm以下であること、及び/または、フラットケーブル1の厚さTが、1.1mm以下であることが好ましい。フラットケーブル1の薄型化が可能であるため、フラットケーブル1を配線する筐体の薄型化に貢献できる。
【0018】
線条体2は、シート部材3で挟持することで一体化されることが好ましい。
FFCによる方法や一体押出成形による方法と比較して、フラットケーブル1の柔軟性が高く、かつ、細径の同軸ケーブルを用いるため、減衰、反射、インピーダンス等の高周波特性に優れたフラットケーブル1が製造可能となる。
なお、シート部材3を片面のみに用いて、シート平面状に固定する構造であっても良い。
また、隣り合う線条体2間のピッチは特に限定されないが、機械的強度の観点においては、線条体2間に隙間を有し、融着層4が充填されていることが好ましい。
【0019】
さらに、フラットケーブル1の幅方向における両端部は、シート部材3が融着層4を介して固定されたシート連結部5を有することが好ましい。
シート連結部5を有することによって、線条体2とシート部材3、及びシート部材3同士の密着性が向上する。その結果、シート部材3の剥がれ、皺、浮きを防止できる。
シート連結部5は、フラットケーブル1の両端に形成された構造でもよく、片端に形成された構造でもよい。また、シート連結部5は、フラットケーブル1の全体を固定している必要は無く、少なくとも一部を固定していれば良い。
【0020】
シート3の材質は、柔軟性を有することが好ましく、熱可塑性ポリウレタンであることが、より好ましい。シート3が柔軟性を有することにより、フラットケーブル1の柔軟性が向上するとともに、フラットケーブル1の対摩耗性や耐衝撃性が向上する。また、屈曲時の音の発生も抑えることができる。
【0021】
融着層4の材質は、シート部材3と相溶性があることが好ましく、シート部材3の材質、及び線条体2の最外層の材質に応じて選択する。
シート部材3が熱可塑性ポリウレタンの場合、融着層4の材質も熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
【0022】
シート連結部5の幅は、2.0mm以上であることが好ましい。シート連結部5の幅が2.0mm以上であることにより、ケーブル2とシート3、及びシート3同士の密着性が大きく向上する。その結果、フラットケーブル1の屈曲及び捻回に対する耐久性が向上する。
また、シート連結部5の幅は、4.0mm以下であることが好ましい。
フラットケーブル1の幅が、必要以上に大きくなることを防ぐため、フラットケーブル1の小型化が可能である。
【0023】
シート部材3間の剥離強度は、5N以上であることが好ましく、10N以上であることがより好ましい。シート部材間の十分な剥離強度が確保されるとともに、フラットケーブル1の屈曲及び捻回に対する耐久性が向上する。
シート部材3間の剥離強度の測定方法は、後述の実施例にて示す。
【0024】
シート部材3の厚さは、線条体2の外径の0.5~1.5倍であることが好ましい。
シート部材3の厚さが、線条体2の外径の1.5倍以下である場合、フラットケーブル1の薄型化が可能である。より好ましくは、1.2倍以下である。
また、シート部材3の厚さが、線条体2の外径の0.5倍以上である場合、フラットケーブル1の屈曲及び捻回に対する耐久性、及び対摩耗性を維持することができる。
【0025】
また、線条体2をシート部材3に固定する際は、線条体2の間の空隙に、融着層4が充填されていることが好ましい。
線条体2の間の空隙に、融着層4が充填されることにより、線条体2とシート部材3、が、一層強固に固定される。その結果、フラットケーブル1の屈曲に対する耐久性が大きく向上する。
融着層4は、線条体2の間の空隙の少なくとも一部に充填されていればよいが、好ましくは、線条体2の間の空隙の全体に、融着層4が充填されていることである。
融着層4の厚さtは特に限定しないが、シート部材3の厚さ以上が好ましく、具体的には50μm以上が好ましい。剥離強度及び薄肉化の観点において、最も好ましくは100μm以上200μm以下である。
ここで、融着層4の厚さtとは、シート連結部5における融着層の厚さである。
【0026】
図1においては、フラットケーブル1は、シート部材3を上下で各1枚用いた構造であるが、特に限定されず、シートを複数枚重ねた構造であってもよい。
【0027】
フラットケーブル1の配線パターンは、直線状に限定されない。略曲線状、及び/または、折れ線状の配線パターンを有していても良い。略曲線状、及び/または、折れ線状の配線パターンを有することによって、フラットケーブル1は、多用な配線パターンに対応可能となる。異なる長さの線条体を同時に配線することも可能である。
配線パターンの一例を
図3に示す。
図3のフラットケーブル1は、曲線部7を1箇所に有する。曲線部7の箇所数は、特に限定されない。フラットケーブル1は、2箇所以上の曲線部7を有する構造であってもよい。
配線パターンの他の一例を
図4に示す。
図4のフラットケーブル1は、分岐部8を2箇所に有する。分岐部8の箇所数は、特に限定されない。フラットケーブル1は、1箇所の分岐部8を有する構造であってもよい。
【0028】
図1においては、線条体2の外径は全て同じであるが、特に限定されない。
外径が異なる第1の線条体2A、及び、第2の線条体2Bを有するフラットケーブルの一例を、
図2に示す。
第2の線条体2Bの外径は、第1の線条体2Aの外径より小さい。
【0029】
図2における特徴は、外径が異なる第1の線条体2A、及び、第2の線条体2Bを有する複数本の線条体2、及び、調整部材6である。線条体2は複数本であれば、本数は限定されない。
【0030】
図2のように、外径が異なる第1の線条体2A、及び、第2の線条体2Bを有する複数の線条体2を用いる場合、フラットケーブル1に一括することで、筐体に配線する際の作業性を向上できる。例えば、電源用の電線やエアチューブ、信号伝送用の同軸ケーブル等異なる用途、サイズの線条体を一体化することができる。
そのため、異なる外径を有する複数本の線条体2を、シート部材3に一括して接着している構造が好ましい。
【0031】
また、外径が異なる第1の線条体2A、及び、第2の線条体2Bを有する複数本の線条体2を、シート部材3に一括して融着する際に、第2の線条体2B及びシート部材3の間に、第1の線条体2A、及び、第2の線条体2Bとの外径差に相当する厚さの調整部材6を挟んだ構造であることが好ましい。
フラットケーブル1の屈曲に対する耐久性が向上するとともに、シート部材3の剥がれ、皺、浮きを防止できる。
【0032】
調整部材6の材質は、融着層4との相溶性があれば、特に限定されない。融着層4の材質、及びケーブル2の最外層の材質等に応じて適宜選択する。
例えば、ポリウレタンやふっ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等のシート材や、各種プラスチックやふっ素樹脂、金属材料等のテープ材、等が挙げられる。
【0033】
図2において、複数本の線条体2が、2種類の外径を有する場合を記載したが、複数本の線条体2は、3種類以上の外径を有していても良い。
複数本の線条体2が、3種類以上の外径を有する場合でも、線条体2の外径差に相当する厚さの調整部材6を、外径が小さい線条体2とシート部材3の間に挟んだ構造であることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明のフラットケーブル(
図1)に関して実施例をあげ具体的に説明するが、本発明の範囲について、これらに限定されるものではない。
【0035】
実施例は、線条体として、内部導体の外周に、誘電体、外部導体、シースを、順次被覆してなる同軸ケーブルを用いている。内部導体は、AWG40の導体を用いている。シースの材質は、PET、または、PFAで形成されている。線条体の外径は、0.37mmである。
【0036】
シート部材として、厚さ0.3mmの熱可塑性ポリウレタン製シート(以下、ウレタンシートと記載する)を用いている。
【0037】
融着層として、熱可塑性ポリウレタン製ホットメルトフィルム(以下、ホットメルトフィルムと記載する)を用いている。厚さは、表1において後述する。
【0038】
ウレタンシートとホットメルトフィルムを、熱によって貼り合わせる。以下、貼り合わせた後のシートを、融着シートと記載する。
次に、同軸ケーブル間のピッチが0.4mmとなるように、同軸ケーブル20本を、融着シート上下各1枚で挟み込み、シートの両面を加熱圧着し、ホットメルトフィルムを融かし、同軸ケーブルと融着シートとを、及び、融着シート同士を接着する。最後に、圧力を加えた状態で冷却を行い、フラットケーブルを得る。
融着シートの両端に同軸ケーブルを並べない箇所を設けることによって、シート連結部をフラットケーブルの両端に確保する。
圧力を加えずに冷却を行うと、冷却時の応力によって、ウレタンシートが剥がれる懸念がある。
【0039】
実施例1は、融着層の厚さを50μmとし、シート連結部の幅を変更した。「実施例1-1~1-3」と記載する。
実施例2は、融着層の厚さを100μmとし、シート連結部の幅を変更した。「実施例2-1~2-4」と記載する。
実施例3は、融着層の厚さを200μmとし、シート連結部の幅を変更した。「実施例3-1~3-3」と記載する。
実施例4は、シースにPFAを用いている。「実施例4-1、4-2」と記載する。その他の構成は、実施例4-1は実施例2-1と、実施例4-2は実施例3-3と同じである。
【0040】
比較例1は、シート部材として、ウレタンシート及びホットメルトフィルムの代わりにアクリル系両面テープを用いて、シート連結部の幅を3mmとした。
【0041】
以上のように作成した各フラットケーブルに対して、以下に述べる試験を行い、シート部材間の剥離強度を評価・比較した。
【0042】
(剥離強度試験方法)
引張試験機のチャックに、チャック間の距離が20mmとなるように、上面及び下面のシート部材を挟み固定する。
図5に示すように、200mm/minの速度で、シート部材を上下垂直方向へ引っ張った際に得られる最大強度[N]を、シート部材間の剥離強度とする。
本実施例におけるフラットケーブルのサンプル長は60mmであり、シート連結部の長さも60mmである。
【0043】
(評価)
シート部材間の剥離強度、フラットケーブルの総厚、生産性等を勘案し、フラットケーブルの総合的な評価を実施した。
評価欄の記号は以下のとおりである。
◎:剥離強度が20N以上、かつ、ホットメルトフィルムの厚さが100μm以下
〇:剥離強度が10N以上
△:剥離強度が5N以上
×:剥離強度が5Nより小さい
【0044】
各実施例、比較例の具体的な構成、及び測定結果は表1に示す。
なお、剥離強度が「50N以上」に関しては、剥離強度が強く、ウレタンシートが伸びるなどして、シート部材間の剥離強度は、正確に測定できなかった。
【表1】
【0045】
実施例はいずれも、両面テープにより固定された比較例と比較し、シート部材間の剥離強度が優れている。剥離強度に優れる理由として、比較例は接着剤を介した単なる接着による固定に対し、本発明である実施例は、各シート部材が融着層を介して相溶した状態であるためである。
【0046】
実施例1-2、及び実施例1-3は、実施例1-1と比較して、シート部材間の剥離強
度が高くなっている。これは、シート連結部の幅が2.0mm以上である場合、シート部
材間の剥離強度の向上に、シート連結部が寄与していることを示している。
実施例1-3は、シート部材として、ウレタンシートの変わりに両面テープを用いている比較例1と比べて、シート部材間の剥離強度が高くなっている。シート連結部の幅は、実施例1-3と比較例1とで同じであるため、両面テープと比較して、ホットメルトフィルムが、シート部材間の剥離強度の向上により寄与していることを示している。
【0047】
実施例2は、実施例1と比較して、シート部材間の剥離強度が高くなっている。これはホットメルトフィルムの厚さが増加したことにより、シート部材間の剥離強度も高くなっていることを示している。
また、シート連結部の幅を4mmよりさらに大きくした場合において、シート部材間の剥離強度はあまり変化しないと考えられる。フラットケーブルの小型化を考慮すると、シート連結部の幅は4.0mm以下が好ましい。
【0048】
実施例3は、シート連結部の幅によらず、シート部材間の剥離強度が高くなっている。これは、融着層の厚さを十分確保することにより、同軸ケーブルと融着シートとの接着、及び、融着シート同士の接着が、より強固になったことを示している。
実施例3-1より、シート連結部の幅が1.0mmの場合においても、シート部材間の剥離強度が高くなっている。
【0049】
シート部材間の剥離強度が一定以上(例えば、20N以上)確保できる場合、融着層はより薄い方が好ましい。融着層が薄いと、フラットケーブル生産の作業性が向上し、フラットケーブルの総厚を薄くすることが可能となる。
シート部材間の剥離強度、フラットケーブルの総厚、生産性等を勘案すると、本実施例においては、実施例2の形態が、より好ましい。
【0050】
実施例4-1の剥離強度は、シースの材質以外の構成が同じである、実施例2-1の剥離強度と同程度である。また、実施例4-2の剥離強度は、シースの材質以外の構成が同じである、実施例3-2の剥離強度と同程度である。
そのため、本実施例で用いたホットメルトフィルムにおいては、シースの材質がPET、PFAのどちらを用いても、シート部材間の剥離強度に大きな差は無いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、薄型化及び高周波特性に優れるフラットケーブルであり、電子機器等の様々な稼働部において、幅広く使用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 フラットケーブル
2 線条体
2A 第1の線条体
2B 第2の線条体
3 シート部材
4 融着層
5 シート連結部
6 調整部材
7 曲線部
8 分岐部
T フラットケーブルの厚さ
t 融着層の厚さ