(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】粘着剤組成物及びその利用
(51)【国際特許分類】
C09J 133/06 20060101AFI20220630BHJP
C09J 193/04 20060101ALI20220630BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220630BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220630BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220630BHJP
【FI】
C09J133/06
C09J193/04
C09J11/08
C09J11/06
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2018087561
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】仁科 彰
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196544(JP,A)
【文献】国際公開第2014/188840(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/057413(WO,A1)
【文献】特開2008-120970(JP,A)
【文献】特開2015-098615(JP,A)
【文献】特開2000-319618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 -201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマー、金属キレート化合物及び液状ロジン系樹脂を含
み、
当該アクリル系ポリマーは、全モノマー成分中の、アルキル基の炭素数が1~12であるアルキル(メタ)アクリレートの含有量が、70~99.9質量%である、粘着剤組成物。
【請求項2】
上記液状ロジン系樹脂の粘度が1500~250000mPa・sである、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
上記液状ロジン系樹脂の重量平均分子量が500~5000である、請求項1又は2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
上記液状ロジン系樹脂の含有量が、上記アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.1~30質量部である、請求項1から3のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
上記金属キレート化合物の含有量が、上記アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.001~15質量部である、請求項1から4のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
上記アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート以外のモノマーである、その他のモノマーを含み、上記アクリル系ポリマーの全モノマー成分中の上記その他のモノマーの含有量が、0~20質量%である、請求項1から5のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
上記アクリル系ポリマーのTgが-65℃~-30℃である、請求項1から6のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量が、10万~150万である、請求項1から7のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか1項に記載の粘着剤組成物から得られた粘着剤層を含む、粘着製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキル(メタ)アクリレートを主たる構成成分とするアクリル系粘着剤は、粘着ラベル、粘着シート、粘着テープ等の粘着製品に幅広く使用されており、近年、これらの粘着製品の用途は、ますます拡大していく傾向にある。このため、粘着製品について更なる物性向上が要求されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基材としてアクリロニトリルを主成分とする不織布基材を用いることにより、粘着剤層と基材との密着性を高めた両面粘着テープが得られることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、分子量分布を広くしたアクリル系重合体に、キレート型硬化剤(すなわち、金属キレート化合物)及び当該キレート型硬化剤の反応抑制剤を添加することにより、粘着剤の貯蔵安定性及び粘着剤の塗工性が良好となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-331437号公報
【文献】特開2017-137471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術では、初期粘着性を維持しつつ再剥離性に優れた粘着製品を製造するための粘着剤組成物を提供するという観点からさらなる改善の余地があった。
【0007】
特許文献2において用いられる金属キレート化合物は、塗工してすぐにポリマーと架橋するため、テープ基材が凹凸を有する場合、粘着剤がその凹凸に追従する前に硬化することがあり、テープ基材と粘着剤との密着性が十分ではない。そのため、被着体に貼り付けた粘着テープを再剥離すると、テープ基材から粘着剤層が剥がれて粘着剤層が被着体に貼り付く、いわゆる糊残りが起こることがあり、再剥離性の観点から問題があった。
【0008】
本発明の一態様は、初期粘着性及び再剥離性に優れた粘着製品を製造するための粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、アクリル系ポリマー、金属キレート化合物及び液状ロジン系樹脂を含む粘着剤組成物を用いることにより、初期粘着性及び再剥離性に優れた粘着製品を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明の一態様は以下の構成を含む。
〔1〕アクリル系ポリマー、金属キレート化合物及び液状ロジン系樹脂を含む、粘着剤組成物。
〔2〕上記液状ロジン系樹脂の粘度が1500~250000mPa・sである、〔1〕に記載の粘着剤組成物。
〔3〕上記液状ロジン系樹脂の重量平均分子量が500~5000である、〔1〕又は〔2〕に記載の粘着剤組成物。
〔4〕上記液状ロジン系樹脂の含有量が、上記アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.1~30質量部である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の粘着剤組成物。
〔5〕上記金属キレート化合物の含有量が、上記アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.001~15質量部である、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の粘着剤組成物。
〔6〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の粘着剤組成物から得られた粘着剤層を含む、粘着製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、初期粘着性及び再剥離性に優れた粘着製品を製造するための粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
〔1.粘着剤組成物〕
本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物は、アクリル系ポリマー、金属キレート化合物及び液状ロジン系樹脂を含む。粘着剤組成物が当該構成であることにより、初期粘着性及び再剥離性が優れた粘着製品を製造するための粘着剤組成物を得ることができる。
【0013】
本明細書において、粘着製品が「再剥離性」に優れるとは、粘着製品を被着体に貼り付けた状態で静置した後、粘着製品を被着体から再剥離しても、粘着剤層が被着体に残りにくいことを意図する。粘着製品は、特に粘着製品が屋外にて高温多湿条件下で使用される場合があることから、湿熱再剥離性に優れることがより好ましい。ここで、粘着製品が「湿熱再剥離性に優れる」とは、粘着製品を被着体に貼り付けた状態で湿熱条件下(例えば、60℃90%RH)に静置した後、粘着製品を被着体から再剥離しても、粘着剤層が被着体に残りにくいことを意図する。湿熱再剥離性は、後述の実施例に記載された方法で評価される。
【0014】
また、本発明者らは、再剥離性は、剥離速度に影響され、特に低速にて剥離する場合に、再剥離性が低下する傾向にあることを見出した。粘着製品は、低速にて剥離する場合にも、再剥離性に優れることがより好ましい。ここで、剥離速度が低速であるとは、剥離速度が10mm/min~200mm/minであることをいう。
【0015】
本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物によれば、特に湿熱条件下における低速での再剥離において、再剥離性が優れた粘着製品を製造するための粘着剤組成物を得ることができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物を用いることにより粘着製品の再剥離性を向上させることができる理由としては、本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物は基材表面の凹凸へ追従しやすいため、基材への粘着剤組成物の密着性が改善したためであると考えられる。
【0017】
また、本明細書において、粘着製品が「初期粘着性」に優れるとは、粘着製品を被着体に貼り付けた後に時間が経過しない時点における粘着性に優れることを意図する。初期粘着性は後述の実施例に記載された方法で評価される。
【0018】
(アクリル系ポリマー)
本発明の一実施形態において「アクリル系ポリマー」とは、モノマーとして(メタ)アクリル酸又はアルキル(メタ)アクリレートを含むポリマーを意味する。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。上記アルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基の炭素数は、1~12であることが好ましい。そのようなアルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリルレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。粘着特性(保持力及び粘着力等)を考慮すれば、全モノマー成分中のアルキル(メタ)アクリレートの含有量は、70~99.9質量%とすることが好ましい。
【0019】
上記アクリル系ポリマーは、上述の(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート以外のモノマーを含んでいてもよい。そのようなモノマーを本明細書において、「その他のモノマー」とも称する。その他のモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;N-ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン等のN基含有モノマー;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等のアミド系モノマー;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基置換アルキル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、特に限定されるものではない。アクリル系ポリマー中のその他のモノマーの含有量は、0~20質量%とすることが好ましい。その他のモノマーの含有量が20質量%以下であれば、粘着剤組成物がガラス転移温度(Tg)の上昇に伴って硬くなることを防ぐことができる。それゆえ、粘着剤組成物の粘着性及び耐反発性等の特性の低下を防ぐことができる。
【0020】
アクリル系ポリマーは、常温で粘着性を有していることが好ましい。タック及び粘着力のバランスの観点から、アクリル系ポリマーのTgが-65℃~-30℃になるように、上記例示したモノマーを選択することが好ましい。TgはDSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、又はTMA(熱機械測定装置)によって求めることができる。また、ホモポリマーのTg(K)と、モノマーの重量分率等から求められる計算値をTgの目安にしてもよい。
【0021】
アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、再剥離性の観点から、好ましくは10万~150万であり、より好ましくは30万~100万である。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定したポリスチレン換算の分子量である。
【0022】
アクリル系ポリマーの製造方法としては、従来公知の重合方法によりモノマーを重合させる方法を採用することができ、その重合方法は特に限定されない。例えば、溶液重合法又はバルク重合法等を用いることができ、工業的には溶液重合法が好ましい。溶液重合法は、重合時の重合熱の除去が容易であり、且つ、操業性が良いからである。
【0023】
溶液重合法又はバルク重合法では、モノマー成分を一括仕込みで重合する方法、モノマーを滴下しながら重合する方法、一部を一括で仕込んでおき、残りのモノマーを滴下しながら重合する方法等、いずれも採用できる。一括仕込みで重合する場合、重合開始剤は最初の仕込みのとき及び後添加するとき以外、重合系に加えないようにすることが好ましい。これは、高分子量ポリマーを生成するためである。モノマー滴下の際は、重合反応容器中のモノマーと重合開始剤との比率をなるべく一定にするために、モノマーと重合開始剤との混合物を滴下することが好ましい。
【0024】
重合開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシオクトエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等を含む過酸化物系重合開始剤、又はアゾビスイソブチロニトリル等を含むアゾ系重合開始剤等の公知のものを利用することができる。重合開始剤は、後添加前においては重合反応容器内のモノマーの質量に対して、0.01~1質量%となるように使用することが好ましい。重合開始剤があまりに多いと、所望するポリマーが得られない。
【0025】
溶液重合で用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられるが、上記重合反応を阻害しなければ、特に限定されない。これらの溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を便宜混合して用いてもよい。なお、溶媒の使用量は、適宜決定すればよい。
【0026】
反応温度及び反応時間等の反応条件は、例えば、モノマー成分の組成、重合方法、あるいは、得られる粘着剤組成物の要求特性、粘着剤の用途等に応じて便宜設定すればよく、特に限定されない。また、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが望ましい。
【0027】
(金属キレート化合物)
本発明の一実施形態において金属キレート化合物は、1分子当たり金属キレート基を2個以上有する化合物であれば特に限定されない。本発明の一実施形態において、金属キレート化合物は架橋剤として使用される。本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物が金属キレート化合物を含むことにより、粘着剤組成物を基材に塗工して一定期間放置する工程(一般に、養生する工程とも呼ばれる)にかかる時間を短縮でき、生産効率を上げることができる。金属キレート化合物は、例えば、アルミニウム、亜鉛、カドミウム、ニッケル、コバルト、銅、カルシウム、バリウム、チタン、マンガン、鉄、鉛、ジルコニウム、クロム、錫等の金属に、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチル、サリチル酸メチル等が配位した金属キレート化合物等が挙げられる。これらの中でも金属キレート化合物は、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等のアルミニウムキレートが好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物において、金属キレート化合物の含有量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.001~15質量部であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましい。
【0029】
(液状ロジン系樹脂)
本発明の一実施形態において「液状ロジン系樹脂」とは、室温(23℃)で液体状態のロジン系樹脂を意図する。本発明の一実施形態において液状ロジン系樹脂は、粘着付与剤として使用される。従来、粘着付与剤として使用されるロジン系樹脂は、粘着性向上の観点から、軟化点が80℃以上である樹脂(すなわち、室温で固体である樹脂)が好ましいとされてきた。しかし、驚くべきことに、本発明者らは、室温(23℃)で液体状態のロジン系樹脂を用いることにより、初期粘着性及び再剥離性に優れる粘着剤組成物を得られることを見出した。なお、液状ロジン系樹脂は、室温(23℃)で液体状態であるため軟化点の測定が困難である。液状ロジン系樹脂が奏する作用機構としては、金属キレート化合物の硬化抑制に働いたこと、粘着剤組成物の流動性向上に働いたこと、基材との接着強度が向上したこと等が考えられる。なお、軟化点は、JIS K5902に規定されている乾球法にしたがって測定した軟化温度である。
【0030】
液状ロジン系樹脂としては、室温(23℃)で液体状態のロジン系樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、スーパーエステルL、スーパーエステルA-18、エステルガムAT(以上、荒川化学工業株式会社製)、ハリタックDP-2676-90E(ハリマ化成株式会社製、有効成分90wt%、有効成分100%の粘度は7000~8000mPa・s)等が挙げられる。
【0031】
液状ロジン系樹脂の室温雰囲気下での粘度は、1500~250000mPa・sであることが好ましい。液状ロジン系樹脂の室温雰囲気下での粘度が当該構成であれば、粘着剤がテープ基材に追従しやすいため好ましい。なお、液状ロジン系樹脂の室温雰囲気下での粘度は、BH型粘度計により測定される。
【0032】
液状ロジン系樹脂の重量平均分子量は、500~5000であることが好ましい。
【0033】
液状ロジン系樹脂の酸価は特に限定されないが、例えば、9~30である。
【0034】
本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物において、液状ロジン系樹脂の含有量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.1~30質量部であることが好ましく、1~25質量部であることがより好ましい。液状ロジン系樹脂の含有量が0.1質量部以上であれば、粘着付与剤による粘着力向上効果を十分に発揮させることができる。一方、上記粘着付与剤の含有量が30質量部以下であれば、粘着力の低下を防ぐことができる。
【0035】
(有機溶剤)
本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物は、さらに有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤は、粘着剤組成物の粘度を調製する希釈剤として使用される。上記有機溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタン、α-ピネン、ターピノーレン、リモネン等の脂環族炭化水素;トルエン、キシレン、ベンゼン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトンを挙げることができる。
【0036】
(その他の成分)
本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物は、さらに、必要に応じて、アルコール、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル及び、マロン酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいてもよい。これらを粘着剤組成物に添加すると金属キレート化合物に作用して、粘着剤組成物の硬化時間を長くし、基材への追従性を高めることができる。さらに、これらを添加することにより、粘着剤組成物のポットライフを大幅に長くすることができる。
【0037】
アルコールは、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、イソペンタノール、1-ヘキサノール、4-メチル-2-ペンタノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキサノール、1-ノナノール、イソノナノール、1-デカノール、1-ドデカノール、1-ミリスチルアルコール、セチルアルコール、1-ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルデカノール、2-オクチルドデカノール、2-ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、及びオレイルアルコール等が挙げられる。
【0038】
アセト酢酸エステルは、例えばアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸tert-ブチル等が挙げられる。
【0039】
マロン酸エステルは、例えばマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジブチル等が挙げられる。
【0040】
金属キレート化合物に作用しやすいため、粘着剤組成物の硬化時間をより長くすることができるという観点から、これらの中でもアセチルアセトンが好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態に係る粘着剤組成物は、さらに、必要に応じて、粘着剤に通常使用される添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、充填剤、顔料、希釈剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等が挙げられる。また、添加剤として、金属キレート化合物以外の架橋剤や液状ロジン系樹脂以外の粘着付与剤を用いてもよい。これらの添加剤は、1種類又は2種以上、使用可能である。これらの添加剤の含有量は、所望する物性が得られるように適宜設定すればよい。
【0042】
〔2.粘着製品〕
本発明の一実施形態に係る粘着製品は、上述の粘着剤組成物から得られた粘着剤層を含む。当該粘着製品としては、例えば、粘着シート、粘着ラベル、粘着テープ、両面テープ等が挙げられる。このような粘着製品は、基材レスで、又は基材に粘着剤の層を形成することにより製造される。より具体的には、例えば、段ボール、紙もしくはポリエチレンのシート、又は緩衝材など様々なものを固定化し、剥がした時に糊残りしにくい養生テープ、又は塗装時に塗料が余計な部分に付かないように保護するマスキングテープなどが粘着製品として挙げられる。
【0043】
基材としては、上質紙、クラフト紙、クレープ紙、グラシン紙等の従来公知の紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフテレート、ポリ塩化ビニル、セロファン等のプラスチック;織布、不織布等の繊維製品、ポリエチレンクロス紙、ポリプロピレンクロス紙、ポリエステル・ポリエチレン混合クロス紙等のラミネートクロス紙等を利用できる。ここで、ラミネートクロス紙とは、紙等の基材に樹脂でできたクロス(網)を積層した複合物をいう。基材が上述のラミネートクロス紙の場合、クロスの形状及びクロスの網目の大きさは特に限定されず、粘着製品の用途等に合わせて適宜決定すればよい。本発明の一実施形態に係る粘着製品が養生テープである場合、養生テープに使用される基材は、表面形状が凹凸であることが好ましい。表面凹凸の形状として、格子状、網目状、エンボス状等が挙げられ、具体的には、織布、不織布等の繊維製品やポリエチレンクロス紙、ポリプロピレンクロス紙、ポリエステル・ポリエチレン混合クロス紙が基材として使用される。基材の形状は、例えば、フィルム状、シート状、テープ状、板状、発泡体等が挙げられるが、特に限定されるものではない。基材の片面に粘着剤組成物を公知の方法で塗布することによって、粘着シート、粘着テープ、粘着ラベル等を得ることができる。また、紙、合成紙、プラスチックフィルム等のシート状物に離型剤が塗布されている離型紙等に粘着剤組成物を塗布することにより、基材レス(単層構造)の粘着製品が得られ、基材レスの両面テープとして使用することができる。また、上記基材の両面に同種又は異種の粘着剤組成物を塗布して、両面テープとしてもよい。
【0044】
粘着剤組成物を基材に塗布する方法は、特に限定されず、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法等の公知の方法を採用することができる。この場合、粘着剤組成物を基材に直接塗布する方法、離型紙等に粘着剤組成物を塗布した後、この塗布物を基材上に転写する方法等いずれも採用可能である。
【0045】
粘着剤組成物を塗布した後、乾燥させることにより、基材上に粘着剤層が形成される。乾燥温度は、特に限定されないが、加熱乾燥時に架橋反応が進行するので、架橋剤の種類に応じて架橋反応が速やかに進行する温度で乾燥することが好ましい。なお、用途によっては、粘着剤組成物を被着体に直接、塗布してもよい。
【0046】
基材上に形成された粘着剤層の表面には、例えば、離型紙を貼着してもよい。離型紙は剥離紙とも称される。これにより、粘着剤層の表面を好適に保護及び保存することができる。剥離紙は、粘着製品を使用する際に、粘着剤組成物の表面から引き剥がされる。なお、シート状又はテープ状等の基材の片面に粘着剤面が形成されている場合は、この基材の背面に公知の離型剤を塗布して離型剤層を形成することが好ましい。これにより、粘着剤層を内側にして、粘着シート(テープ)をロール状に巻けば、粘着剤層は、基材背面の離型剤層と当接することとなるので、粘着剤層の表面が保護及び保存される。
【0047】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0048】
〔実施例1〕
冷却管、窒素ガス導入管、温度計、滴下漏斗及び撹拌機を備えた反応容器内に、酢酸エチル100部(質量部、以下同じ)、2-エチルヘキシルアクリレート60部、ブチルアクリレート31.5部、アクリル酸3部、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.5部、及び酢酸ビニル5.0部を入れた。その後、この反応容器内に過酸化物系重合開始剤(日本油脂株式会社製、商品名:ナイパーBMT-K40)0.1部を入れ、窒素ガス雰囲気中にて80℃で3時間反応させた。その後、アゾ系重合開始剤(株式会社日本ファインケム社製、商品名:ABN-E)0.3部を添加し、さらに80℃で3時間反応させることで、重量平均分子量が52.5万のアクリル系ポリマーを得た。その後、得られたアクリル系ポリマーを含む反応混合物を室温まで冷却し、液状ロジン系樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名:スーパーエステルL)10.0部、及び酢酸エチル10.0部を添加し、1時間撹拌させることにより溶液を得た。
【0049】
得られた溶液100部に対して、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)(川研ファインケミカル株式会社製、商品名:アルミキレートA)1.0部とアセチルアセトン(株式会社ダイセル製)3.0部を添加することにより、粘着剤組成物を得た。
【0050】
アプリケーターを用いて上記粘着剤組成物を剥離紙(サンエー化研株式会社製、商品名:K-80HS)に塗布し、次いで90℃の温度で3分間乾燥させた。これにより、剥離紙上に、厚さが40μmである粘着剤層を形成させた。この粘着剤層上に養生テープ用基材(ポリエチレンクロス紙、基材表面に網目状の凹凸有り、60×15クロス、厚さ:100μm)を張り合わせることにより、片面が接着面である粘着テープを得た。
【0051】
〔実施例2~4〕
液状ロジン系樹脂を、表1に示す液状ロジン系樹脂に変更した以外は、実施例1と同様の反応及び操作を行い、アクリル系ポリマー、粘着剤組成物及び粘着テープを得た。
【0052】
なお、実施例2~4では、液状ロジン系樹脂として以下の製品を用いた。
実施例2:スーパーエステルA-18:荒川化学工業株式会社製
実施例3:エステルガムAT:荒川化学工業株式会社製
実施例4:ハリタックDP-2676-90E:ハリマ化成株式会社製、液状(有効成分90wt%、有効成分100%の場合の粘度は7000~8000mPa・s)
〔比較例1〕
液状ロジン系樹脂を使用しなかった以外は実施例1と同様の反応及び操作を行い、アクリル系ポリマー、粘着剤組成物及び粘着テープを得た。
【0053】
〔比較例2〕
アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)を使用しなかった以外は実施例1と同様の反応及び操作を行い、アクリル系ポリマー、粘着剤組成物及び粘着テープを得た。
【0054】
〔比較例3〕
液状ロジン系樹脂を表1に示すロジン系樹脂(D-135:荒川化学工業株式会社製、製品名:ペンセルD-135、フレーク状(軟化点135℃))に変更した以外は実施例1と同様の反応及び操作を行い、アクリル系ポリマー、粘着剤組成物及び粘着テープを得た。
【0055】
〔粘着テープの評価〕
実施例及び比較例にて得られた粘着テープの初期粘着性及び再剥離性を、以下の試験方法により評価した。
【0056】
(1)初期粘着性の試験方法
粘着テープを長さ50mm、幅25mmの長方形に裁断することにより、試験用粘着テープを作製した。得られた試験用粘着テープの剥離紙を剥離し、その剥離面に表面が研磨されたステンレス鋼板を載置した。その後、質量が2kgのロールを当該ステンレス鋼板上で往復させることにより、当該ステンレス鋼板を剥離面に貼り付け、室温(約23℃)で20分間静置した。その後、試験用粘着テープをステンレス鋼板から剥離角度180°、剥離速度300mm/minで剥離したときの剥離力を測定し、以下の評価基準に基づいて室温での粘着性(初期粘着性)を評価した。
(評価基準)
◎:剥離力が10N/25mm以上である。
○:剥離力が5N/25mm以上、10N/25mm未満である。
×:剥離力が5N/25mm未満である。
【0057】
(2)湿熱再剥離性の試験方法
粘着テープを長さ50mm、幅25mmの長方形に裁断することにより、試験用粘着テープを作製した。得られた試験用粘着テープの剥離紙を剥離し、その剥離面に表面が研磨されたステンレス鋼板を載置した。その後、質量が2kgのロールを当該ステンレス鋼板上で往復させることにより、当該ステンレス鋼板を剥離面に貼り付け、60℃90%RHで3日間静置した。その後、試験用粘着テープをステンレス鋼板から剥離角度180°、剥離速度100mm/minで剥離したときの剥離状態を以下の評価基準で目視評価した。
(評価基準)
◎:ステンレス鋼板に粘着剤が残っていない(界面破壊)。
×:ステンレス鋼板に多量の粘着剤が残っている(凝集破壊)。
【0058】
〔評価結果〕
下記表1に実施例及び比較例にて得られた粘着テープの評価結果を、粘着剤組成物の組成とともに示す。
【0059】
【0060】
表1で用いた略称は以下のとおりである。
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
BA:ブチルアクリレート
AA:アクリル酸
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート。
【0061】
表1中、アクリル系ポリマーの組成は、アクリル系ポリマーに含まれる各モノマー由来の構造単位の含有量(質量%)で表されている。また、表1中、ロジン系樹脂及び金属キレート化合物の添加量(含有量)は、アクリル系ポリマー100質量部に対する添加量(含有量)を意図する。
【0062】
実施例1~4より、アクリル系ポリマー、金属キレート化合物及び液状ロジン系樹脂を含む粘着剤組成物を用いて得られる粘着テープは、初期粘着力及び低速で剥離したときの湿熱再剥離性の両方に優れることがわかる。一方、比較例1及び3より、液状ロジン系樹脂を含まない粘着剤組成物を用いて得られる粘着テープは、湿熱再剥離性に劣ることがわかる。また、比較例2より、金属キレート化合物を含まない粘着剤組成物を用いて得られる粘着テープは、初期粘着力及び湿熱再剥離性の両方が劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、種々の粘着製品に利用することができる。