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  • 特許-ボビン形リチウム一次電池 図1
  • 特許-ボビン形リチウム一次電池 図2
  • 特許-ボビン形リチウム一次電池 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】ボビン形リチウム一次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/16 20060101AFI20220630BHJP
   H01M 6/02 20060101ALI20220630BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20220630BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H01M6/16 B
H01M6/02 Z
H01M4/06 X
H01M4/70 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018089403
(22)【出願日】2018-05-07
(65)【公開番号】P2019197613
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 春彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 皓己
(72)【発明者】
【氏名】濱田 浩
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-48913(JP,A)
【文献】特開2016-58220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/00-6/22
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に開口する有底円筒状の電池缶内に、中空円筒状の正極合剤と、当該正極合剤の内方にセパレータを介して配備される負極リチウムとが電解液とともに収納されており、前記電池缶の開口が封口体によって封口されてなるボビン形リチウム一次電池であって、
複数の前記正極合剤が、上下方向に同軸となるように互いに間隙を有して積層され、
前記負極リチウムは、板状のリチウム金属またはリチウム合金が中空円筒状に成形され、
中空円筒状の前記負極リチウムの内面に、金属製薄板からなる負極集電体が取り付けられ、
前記負極集電体は、その下端が前記正極合剤の前記間隙の領域に対向していることを特徴とする、ボビン形リチウム一次電池。
【請求項2】
最下層に位置する正極合剤と、その一つ上の層に位置する正極合剤との間隙に、前記負極集電体の下端が存在することを特徴とする、請求項1に記載のボビン形リチウム一次電池。
【請求項3】
前記間隙に、吸液性を有するスペーサーを設けることを特徴とする、請求項1または2記載のボビン形リチウム一次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビン形リチウム一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ボビン形リチウム一次電池は、リチウム金属またはリチウム合金を負極活物質として用い、エネルギー密度が高く高容量であるという特徴を有する。そのため、各種計測器や電子機器のメモリーバックアップ用の電池など、長期間にわたって無保守で使い続けるような用途に広く利用されている。
【0003】
一般的なボビン形リチウム一次電池の構造は、上方に開口する有底円筒状の電池缶内に、中空円筒状の正極合剤と、当該正極合剤の内方にセパレータを介して配備される負極リチウムとが電解液とともに収納されており、前記電池缶の開口が封口体によって封口されてなるものである(例えば特許文献1、2)。
【0004】
正極合剤の材料としては、ボビン形リチウム一次電池において通常使用されている物質であれば特に限定はされない。例えば、正極活物質としては二酸化マンガンなどを用いることができる。また、炭素材料などの導電助剤も適宜用いることができる。
【0005】
負極リチウムは、板状のリチウム金属またはリチウム合金が中空円筒状に成形され、中空円筒状の前記負極リチウムの内面に、金属製薄板からなる負極集電体が取り付けられている。負極集電体は帯状あるいは矩形状の金属薄板からなり、例えばその一端が中空円筒状の負極リチウムの内面側に圧着されている。
【0006】
ここで、電池に収納される電解液量は、放電末期の特性を左右するので、極力多い方が好ましい。しかしながら、電池を封口する際に電解液量が飛散する可能性があり、このことが電池特性のバラつき要因の一つとなっている。
【0007】
また、放電末期では、負極集電体周縁部のエッジ部でリチウムが切れ、電圧が急降下することにより、電池の容量を使いきれなくなってしまう課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-48913号公報
【文献】特開2016-58220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、電池内に収納した電解液が、封口時に飛散することを抑止し、電池特性のバラつきをなくす手段を提供することを目的とする。また、放電末期でのリチウム切れを抑制する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、上方に開口する有底円筒状の電池缶内に、中空円筒状の正極合剤と、当該正極合剤の内方にセパレータを介して配備される負極リチウムとが電解液とともに収納されており、前記電池缶の開口が封口体によって封口されてなるボビン形リチウム一次電池であって、複数の前記正極合剤が、上下方向に同軸となるように互いに間隙を有して積層され、前記負極リチウムは、板状のリチウム金属またはリチウム合金が中空円筒状に成形され、中空円筒状の前記負極リチウムの内面に、金属製薄板からなる負極集電体が取り付けられ、前記負極集電体は、その下端が前記正極合剤の前記間隙の領域に対向していることを特徴とする、ボビン形リチウム一次電池である。
【0011】
また、本発明は、最下層に位置する正極合剤と、その一つ上の層に位置する正極合剤との間隙に、前記負極集電体の下端が存在することを特徴とする、上記ボビン形リチウム一次電池、および、前記間隙に、吸液性を有するスペーサーを設けることを特徴とする、上記ボビン形リチウム一次電池にも及んでいる。
【発明の効果】
【0012】
正極合剤間に間隙が存在する本発明によると、正極合剤間に間隙が存在しない従来技術と同じ量の電解液を入れた場合、液面の高さが低くなり、電解液の飛散を抑止することができる。その結果、電池内の電解液の保液量が多くなり、バラつきも少なくなるため、放電末期での電池特性がより安定的になる。
【0013】
さらには、負極集電体の下端を正極合剤の間隙の領域に対向させることにより、リチウム切れも抑制することができ、この点においても電池特性の安定性に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るボビン形リチウム一次電池の構造を示す図である。
図2】本発明に係るボビン形リチウム一次電池の構造を示す図である。
図3】従来技術に係るボビン形リチウム一次電池の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明の範囲は、実施例を含めた当該記載に限定されるものではない。
【0016】
本発明に係るボビン形リチウム一次電池においては、複数の中空円筒状の正極合剤が、上下方向に同軸となるように互いに間隙を有して積層されていることを特徴とする。
【0017】
課題であった、電池の封口時の電解液の飛散は、電解液の液面の高さに起因しているものと考えられる。本発明においては、液面を下げる一つの手段として、正極合剤間に間隙を設けた。
【0018】
ここで、ボビン形リチウム一次電池の断面図を用いて、本発明を説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係るボビン形リチウム一次電池1の断面図である。上方に開口する有底円筒状の電池缶7内に、中空円筒状の正極合剤2が複数個保持され、その内方にセパレータ8を介し、負極リチウム4が電解液(図示しない)とともに収納されている。電池缶7の開口は、封口体10によって封口されている。封口体10は、具体的には、金属製の負極端子板11と封口板12とからなる。なお、符号9は、正極端子部を示す。本発明においては、正極合剤2が、上下方向に同軸となるように互いに間隙3を有して積層されている。さらに、負極リチウム4は、板状のリチウム金属またはリチウム合金が中空筒状に成形されているものであって、負極リチウム4の内面に、金属製薄板からなる負極集電体5が取り付けられ、負極集電体5は、下端6が、正極合剤間の間隙3の領域に対向している。
【0020】
図2は、図1に係るボビン形リチウム一次電池1を上下軸に沿って90度回転させたボビン形リチウム一次電池20の断面図である。なお、正極合剤をはじめとした構成要素の符号は、図1と同様である。
【0021】
図3は、従来技術に係るボビン形リチウム一次電池100の断面図である。図1の正極合剤2は102、負極リチウム4は104、負極集電体5は105、電池缶7は107、セパレータ8は108、正極端子部9は109、封口体10、金属製の負極端子板11、および封口板12は110、111、および112に、それぞれ相当する。即ち、図3に例示する従来のボビン形リチウム一次電池100には、図1の間隙3が存在しない。
【0022】
本実施形態のように、正極合剤間に間隙を設けた場合は、正極合剤の内円部分に加え、正極合剤の底面あるいは天面も電解液の吸水に寄与するので、正極合剤の電解液の吸液スピードが向上する。それに対して、従来技術(例えば特許文献1、特許文献2)のように、正極合剤間に間隙を設けずに、正極合剤同士を詰めて電池缶内に圧入した場合、電解液を吸収する部位は、正極合剤の内円部分にとどまる。
【0023】
すなわち、電解液を電池内に入れてから封口するまでの時間(エージング時間)が同じである場合、液面が正極合剤間に間隙を設けない場合より下がっているので、封口時の電解液の飛散を抑止することができる。これによって、放電末期での電解液枯渇状態の出現をより遅らせることが可能となり、より安定した電池特性を得ることが可能となる。
【0024】
また、間隙3に、吸液性を有するスペーサーを設けることによっても、同様の効果が期待できる。吸液性を有するスペーサーとしては、例えばセパレータを用いても良い。
【0025】
さらに、放電末期の電圧の急降下の原因の一つとして、いわゆる上述したような負極リチウム切れが挙げられる。具体的には、負極リチウム切れは下端から起こる。ここで、正極合剤2間の間隙3に対向する部分は、負極リチウム4が反応しにくい。このことに着目して、負極集電体5の下端部を正極合剤2の間隙3の領域に対向させることによって、リチウムの反応を抑制することができる。そして、経時で下端のリチウムが膨張してくるので、負極リチウムが切れる時間を延ばすことができ、さらに安定的な電池特性を得ることが可能である。
【0026】
なお、負極リチウム4と負極集電体5との接触面積を大きくするため、負極集電体5の下端6は、最下層に位置する正極合剤2と、その一つ上の層に位置する正極合剤2との間隙3に存在することが好ましい。
【0027】
ここで、正極合剤2間の間隙3の寸法は、上記効果を良好に得るために当業者が適宜調整することが可能であるが、間隙3を大きく広げすぎると、正極と負極の反応性に偏りが生じ、かえって電池特性にバラつきが生じることがある。また、電池の設計上、一定空間内に電池部材を入れる必要があるため、容量面でロスが生じてしまう。
【0028】
その他、ボビン形リチウム一次電池1を作製する際に用いられるバインダーや溶剤なども、従来のボビン形リチウム一次電池に使用されていた公知のものを用いることができる。
【0029】
===本発明の実施例===
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるべきものではない。
【0030】
<電解液保液率の測定>
以下に示す手順により、CR17450サイズの電池を準備した。
【0031】
(1)実施例として、図1と同等の構造のボビン形リチウム一次電池を、電解液を入れない状態で5本準備した。比較例として、正極合剤間に間隙が存在しない、図3と同等の構造のボビン形リチウム一次電池を、電解液を入れない状態で5本準備した。
(2)上記10本の電池にそれぞれ注入するための同一重量の電解液を10種類準備した上で、上記10本の各電池の重量を測定した。この各電池の重量と電解液の重量との合計を、「封口前重量」とする。
(3)上記10本の各電池に電解液を入れて、封口した。
(4)上記封口後の10本の各電池の重量を測定した。この各電池の重量を、「封口後重量」とする。
(5)上記10本の各電池について、(封口後重量/封口前重量)×100 の計算式で、電解液の電池内保液率を測定した。
【0032】
上記電池内保液率を、表1に示す。なお、σは、標準偏差である。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果から、実施例に係る、正極合剤間に間隙が存在するボビン形リチウム一次電池の方が、比較例に係る正極合剤間に間隙が存在しないボビン形リチウム一次電池と比べて、電解液の飛散による重量減が少なく、標準偏差、すなわちバラつきも小さいという結果を得た。
【0035】
<定抵抗放電試験>
上記封口後の10本の各電池について、さらに1kΩの条件で定抵抗放電試験を行った。充填容量(正極と負極との合計の理論容量)を100とした時の放電容量を、表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2の結果から、実施例に係る、正極合剤間に間隙が存在するボビン形リチウム一次電池の方が、比較例に係る、正極合剤間に間隙が存在しないボビン形リチウム一次電池よりも優れた放電性能を示した。
【符号の説明】
【0038】
1,20,100・・・ボビン形リチウム一次電池
2,102・・・正極合剤
3・・・正極合剤間の間隙
4,104・・・負極リチウム
5,105・・・負極集電体
6・・・負極集電体の下端
7,107・・・電池缶
8,108・・・セパレータ
9,109・・・正極端子部
10,110・・・封口体
11,111・・・負極端子板
12,112・・・封口板
図1
図2
図3