(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/10 20060101AFI20220630BHJP
H01S 3/0941 20060101ALI20220630BHJP
H01S 3/23 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H01S3/10 D
H01S3/0941
H01S3/23
(21)【出願番号】P 2018103964
(22)【出願日】2018-05-30
【審査請求日】2021-03-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、高輝度・高効率次世代レーザー開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】壁谷 悠希
(72)【発明者】
【氏名】関根 尊史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 義則
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102545000(CN,A)
【文献】特開平10-041565(JP,A)
【文献】特開平11-330597(JP,A)
【文献】特表2011-517066(JP,A)
【文献】特開2002-057395(JP,A)
【文献】特開2011-249399(JP,A)
【文献】特開2014-042016(JP,A)
【文献】特開2011-254035(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0262815(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0249315(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/02
H01S 3/04 - 3/0959
H01S 3/098 - 3/102
H01S 3/105 - 3/131
H01S 3/136 - 3/213
H01S 3/23 - 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード光を増幅するためのレーザ媒質と、
前記レーザ媒質を励起するための励起光を出力すると共に、前記励起光を前記レーザ媒質に入射させて前記レーザ媒質の励起領域に入力するための第1光学系と、
第1偏光の前記シード光を、前記レーザ媒質に対して0°よりも大きな入射角をもって前記レーザ媒質に入射させて前記励起領域に入力するための第2光学系と、
第3光学系と、
を備え、
前記第2光学系は、
前記第1偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に向かうように通過させると共に、前記レーザ媒質からの前記第1偏光と90°異なる第2偏光の前記シード光を反射する第1ビームスプリッタと、
前記第1ビームスプリッタと前記レーザ媒質との間に配置され、前記シード光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける第1位相シフト素子と、
前記第1位相シフト素子を介して前記レーザ媒質に入射された前記シード光を、前記レーザ媒質から出射されるよ
うに反射する第1ミラーと、
前記第1ミラーによって反射された前記シード光を、前記レーザ媒質を介して前記第1ミラーに戻すように反射することによって、前記第1ミラーによって再び反射させて前記第1位相シフト素子を介して前記第1ビームスプリッタに向かわせる第2ミラーと、
を有
し、
前記第3光学系は、前記第1ビームスプリッタによって反射された前記第2偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に入射させて前記励起領域に入力するためのものであり、
前記第3光学系は、
前記第1ビームスプリッタからの前記第2偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に向かうように反射すると共に、前記レーザ媒質からの前記第1偏光の前記シード光を通過させる第2ビームスプリッタと、
前記第2ビームスプリッタと前記レーザ媒質との間に配置され、前記シード光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける第2位相シフト素子と、
前記第2位相シフト素子を介して前記レーザ媒質に入射された前記シード光を、前記第2位相シフト素子を介して前記第2ビームスプリッタに向かうように反射する第3ミラーと、
を有する、
レーザ装置。
【請求項2】
前記第1ビームスプリッタと前記第2ビームスプリッタとの間に配置され、前記第1ビームスプリッタから前記第2ビームスプリッタに向かう方向に光を通過させる光アイソレータを備える、
請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記光アイソレータは、ファラデーアイソレータを含む、
請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記レーザ媒質は、第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、を含み、
前記第1光学系は、前記励起光を前記第1面側から前記レーザ媒質に入射させ、
前記第2光学系は、前記シード光を前記第2面側から前記レーザ媒質に入射させる、
請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記第1面には、前記励起光を透過すると共に前記シード光を反射するコートが形成されており、
前記第1ミラーは、前記コート
により構成されるミラーを含む、
請求項4に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記レーザ媒質は、活性元素としてYbを含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項7】
シード光を増幅するためのレーザ媒質と、
前記レーザ媒質を励起するための励起光を出力すると共に、前記励起光を前記レーザ媒質に入射させて前記レーザ媒質の励起領域に入力するための第1光学系と、
第1偏光の前記シード光を、前記レーザ媒質に対して0°よりも大きな入射角をもって前記レーザ媒質に入射させて前記励起領域に入力するための第2光学系と、
第3光学系と、
を備え、
前記第2光学系は、
前記第1偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に向かうように通過させると共に、前記レーザ媒質からの前記第1偏光と90°異なる第2偏光の前記シード光を反射する第1ビームスプリッタと、
前記第1ビームスプリッタと前記レーザ媒質との間に配置され、前記シード光の偏光方向を45°回転させるファラデーローテータと、
前記ファラデーローテータを介して前記レーザ媒質に入射された前記シード光を、前記レーザ媒質から出射されるように反射する第1ミラーと、
前記第1ミラーによって反射された前記シード光を、前記レーザ媒質を介して前記第1ミラーに戻すように反射することによって、前記第1ミラーによって再び反射させて前記ファラデーローテータを介して前記第1ビームスプリッタに向かわせる第2ミラーと、
を有
し、
前記第3光学系は、前記第1ビームスプリッタによって反射された前記第2偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に入射させて前記励起領域に入力するためのものであり、
前記第3光学系は、
前記第1ビームスプリッタからの前記第2偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に向かうように反射すると共に、前記レーザ媒質からの前記第1偏光の前記シード光を通過させる第2ビームスプリッタと、
前記第2ビームスプリッタと前記レーザ媒質との間に配置され、前記シード光の偏光方向を45°回転させる別のファラデーローテータと、
前記別のファラデーローテータを介して前記レーザ媒質に入射された前記シード光を、前記別のファラデーローテータを介して前記第2ビームスプリッタに向かうように反射する第3ミラーと、
を有する、
レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ装置が記載されている。このレーザ装置は、共振型レーザ増幅器と、共振型レーザ増幅器によって増幅されたレーザ光をさらに増幅するパス型レーザ光増幅器(マルチパスアンプ)と、を備えている。パス型レーザ光増幅器は、レーザ媒体と、レーザ光の光路(パス)を形成する6つ反射板と、を有する。反射板によって形成された光路は、全て、レーザ媒体を通過するように構成されている。共振型レーザ増幅器からのレーザ光は、反射板を次々と反射することにより、多数の光路を通過してから出力される。レーザ光は、これらの光路を通過するたびに、レーザ媒体を通過する。レーザ光は、レーザ媒体を通過するたびに増幅される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高いパルスエネルギーを出力するレーザ装置は、大型且つ高コストであると共に繰り返し率が低いため、産業展開が困難であった。近年、半導体レーザの高出力化により小型で繰り返し率が高い様々な固体レーザ装置の開発が進められている。それらの中でも、Yb系レーザは、Nd系レーザに比べて、少ない半導体レーザにより高出力化が望めるため期待されている。しかしながら、Yb系レーザは3準位のレーザであるため、低ドープイオン濃度化、高強度励起化、及び、低温化といったように、Nd系レーザとは異なる特別な対策が要求される場合がある。
【0005】
これに対して、特許文献1に記載されたレーザ装置のように、マルチパス方式によれば、低ドープイオン濃度化と高強度励起化とを実現して高出力化を図ることができるとも考えられるが、上記の通り複雑な光学系が必要である。また、低温化のためには、装置の全体が大型化するため、実用化が困難である。
【0006】
本発明は、簡単な構成により高出力化可能なレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るレーザ装置は、シード光を増幅するためのレーザ媒質と、レーザ媒質を励起するための励起光を出力すると共に、励起光を前記レーザ媒質に入射させてレーザ媒質の励起領域に入力するための第1光学系と、第1偏光のシード光を、レーザ媒質に対して0°よりも大きな入射角をもってレーザ媒質に入射させて励起領域に入力するための第2光学系と、を備え、第2光学系は、第1偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に向かうように通過させると共に、レーザ媒質からの第1偏光と異なる第2偏光の前記シード光を反射する第1ビームスプリッタと、第1ビームスプリッタとレーザ媒質との間に配置され、シード光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける第1位相シフト素子と、第1位相シフト素子を介してレーザ媒質に入射されたシード光を、レーザ媒質から出射されるように反射する反射する第1ミラーと、第1ミラーによって反射されたシード光を、レーザ媒質を介して第1ミラーに戻すように反射することによって、第1ミラーによって再び反射させて第1位相シフト素子を介して第1ビームスプリッタに向かわせる第2ミラーと、を有する。
【0008】
このレーザ装置においては、増幅対象のシード光は、第1偏光(例えばP偏光)において第1ビームスプリッタに入力される。第1偏光のシード光は、第1ビームスプリッタを通過してレーザ媒質に向かう。第1ビームスプリッタからレーザ媒質に向かう第1偏光のシード光は、第1位相シフト素子を通過することにより、その偏光成分に1/4波長の位相差がつく。第1位相シフト素子を通過したシード光は、0°よりも大きな入射角をもってレーザ媒質に入射する。レーザ媒質に入射したシード光は、励起領域に入力されて増幅された後に、第1ミラーによって反射されて再度増幅された後に、レーザ媒質から出射される。レーザ媒質から出射されたシード光は、第2ミラーによって反射されて再びレーザ媒質に入射される。第2ミラーによって反射されてレーザ媒質に入射されたシード光は、第1ミラーによって再び反射され、第1位相シフト素子を介して第1ビームスプリッタに向かう。
【0009】
このとき、シード光は、再び第1位相シフト素子を通過することにより、その偏光成分にさらに1/4波長の位相差がつけられ、第2偏光(例えばS偏光)とされている。このため、シード光は、第1ビームスプリッタによって反射されて分岐される。第1ビームスプリッタによって分岐されたシード光は、例えば、別の光学系よって再びレーザ媒質に導かれ、さらなる増幅に供されてもよい。このように、このレーザ装置においては、第1ビームスプリッタと第1位相シフト素子による偏光方向に応じた増幅経路の切り分けと、第1ミラー及び第2ミラーによる増幅経路の倍化と、が両立される。この結果、簡単な構成によって多数の増幅を実現して高出力化が可能である。なお、第1ビームスプリッタは、偏光ビームスプリッタである。
【0010】
本発明に係るレーザ装置は、第1ビームスプリッタによって反射された第2偏光のシード光をレーザ媒質に入射させて励起領域に入力するための第3光学系を備え、第3光学系は、第1ビームスプリッタからの第2偏光のシード光をレーザ媒質に向かうように反射すると共に、レーザ媒質からの第1偏光のシード光を通過させる第2ビームスプリッタと、第2ビームスプリッタとレーザ媒質との間に配置され、シード光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける第2位相シフト素子と、第2位相シフト素子を介してレーザ媒質に入射されたシード光を、第2位相シフト素子を介して前記第2ビームスプリッタに向かうように反射する第3ミラーと、を有してもよい。
【0011】
この場合、第1ビームスプリッタによって分岐されたシード光は、第2ビームスプリッタに入力される。第2ビームスプリッタに入力された第2偏光のシード光は、第2ビームスプリッタによってレーザ媒質に向かうように反射される。第2ビームスプリッタからレーザ媒質に向かう第2偏光のシード光は、第2位相シフト素子を通過することにより、その偏光成分に1/4波長の位相差がつく。第2位相シフト素子を通過したシード光は、レーザ媒質の励起領域に入力されて増幅された後に、第3ミラーによって反射されて再度増幅された後に再び第2位相シフト素子を通過し、第2ビームスプリッタに入力される。
【0012】
このとき、シード光は、再び第2位相シフト素子を通過することにより、その偏光成分にさらに1/4波長の位相差がつけられ、第1偏光とされている。このため、シード光は、第2ビームスプリッタを通過する。この結果、第2ビームスプリッタを通過したシード光は、少なくとも6度の増幅を経て出力される。このように、このレーザ装置においては、簡単な構成によってより多数の増幅を実現して高出力化が可能である。なお、第2ビームスプリッタは、偏光ビームスプリッタである。
【0013】
本発明に係るレーザ装置は、第1ビームスプリッタと第2ビームスプリッタとの間に配置され、第1ビームスプリッタから第2ビームスプリッタに向かう方向に光を通過させる光アイソレータを備えてもよい。この場合、第2ビームスプリッタから第1ビームスプリッタに向かう方向の光の進行が抑制される。この結果、意図しない共振器の構成及び誘導放射が避けられる。なお、このレーザ装置においては、第1ビームスプリッタからレーザ媒質の間、及び、第2ビームスプリッタからレーザ媒質との間の経路は、シード光が往復する。したがって、この場合のように、シード光の往復を要さない第1ビームスプリッタと第2ビームスプリッタとの間に光アイソレータを介在させることが有効である。なお、光アイソレータは、ファラデーアイソレータを含んでもよい。
【0014】
本発明に係るレーザ装置においては、レーザ媒質は、第1面と、第1面の反対側の第2面と、を含み、第1光学系は、励起光を第1面側からレーザ媒質に入射させ、第2光学系は、シード光を第2面側からレーザ媒質に入射させてもよい。この場合、励起光の光路と、シード光の光路とが、レーザ媒質の両側に分配されることとなる。このため、各々の光路の干渉を考慮することなく光学系を設計できる。
【0015】
本発明に係るレーザ装置においては、第1面には、励起光を透過すると共にシード光を反射するコートが形成されており、第1ミラーは、コートによる構成されるミラーを含んでもよい。この場合、より簡単な構成により高出力化が可能となる。
【0016】
本発明に係るレーザ装置においては、レーザ媒質は、活性元素としてYbを含んでもよい。このように、Yb系のレーザ媒質を用いた場合には、例えばNd系のレーザ媒質を用いた場合と比較して、高強度励起のために、より狭い励起領域に励起光及びシード光を入力する必要がある。このため、光学系のアライメントの高精度化及び容易化の重要性が相対的に高い。したがって、このレーザ装置によって簡単な構成を実現することがより有効となる。
【0017】
本発明に係るレーザ装置は、シード光を増幅するためのレーザ媒質と、レーザ媒質を励起するための励起光を出力すると共に、励起光をレーザ媒質に入射させてレーザ媒質の励起領域に入力するための第1光学系と、第1偏光のシード光を、レーザ媒質に対して0°よりも大きな入射角をもってレーザ媒質に入射させて励起領域に入力するための第2光学系と、を備え、第2光学系は、第1偏光のシード光をレーザ媒質に向かうように通過させると共に、レーザ媒質からの第1偏光と90°異なる第2偏光のシード光を反射する第1ビームスプリッタと、第1ビームスプリッタとレーザ媒質との間に配置され、シード光の偏光方向を45°回転させるファラデーローテータと、ファラデーローテータを介してレーザ媒質に入射された前記シード光を、レーザ媒質から出射されるように反射する第1ミラーと、第1ミラーによって反射されたシード光を、レーザ媒質を介して第1ミラーに戻すように反射することによって、第1ミラーによって再び反射させてファラデーローテータを介して第1ビームスプリッタに向かわせる第2ミラーと、を有する。
【0018】
このレーザ装置においても、上述したレーザ装置と同様に、簡単な構成によって多数の増幅を実現して高出力化が可能である。特に、このレーザ装置においては、偏光回転素子としてファラデーローテータを用いている。このため、レーザ媒質で発生した熱による偏光方向のばらつきを補償できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡単な構成により高出力化可能なレーザ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係るレーザ装置の全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図1に示された第1光学系を示す模式図である。
【
図4】ファラデーローテータの一例を示す図である。
【
図5】ファラデーアイソレータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一の要素同士、或いは、相当する要素同士には、互いに同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0022】
図1は、本実施形態に係るレーザ装置の全体構成を示す模式図である。
図1に示されるように、レーザ装置1は、2段階の増幅機構を備えている。レーザ装置1は、第1段の増幅機構として、光源2と、レーザ媒質3と、第1光学系10と、第2光学系20と、第3光学系40と、を備えている。光源2は、シード光(シード光C0)を出力する。シード光は、例えば、1030nm程度の波長を有するレーザ光である。レーザ媒質3は、シード光を増幅する。レーザ媒質3は、例えば、活性元素としてYbを含むレーザ利得媒質(一例としてYb:YAG)である。
【0023】
第1光学系10は、レーザ媒質3を励起するための励起光E1を出力すると共に、励起光E1をレーザ媒質3に入射させて後述する励起領域Rに入力する。励起光E1の波長は、シード光の波長と異なる。励起光E1は、例えば、940nm程度の波長を有するレーザ光である。第2光学系20は、光源2からのシード光を導光してレーザ媒質3の励起領域Rに入力する。
【0024】
図2は、
図1に示された第1光学系を示す模式図である。
図2に示されるように、第1光学系10は、励起光源11と、レンズ12,13,14,15と、を有する。励起光源11は、励起光E1を出力する。励起光源11は、例えば、半導体レーザ装置である。一例として、励起光源11は、半導体レーザアレイにより構成され得る。レンズ12~15は、励起光源11から出力された励起光E1を励起領域Rに集光する。レンズ12~15は、例えばシリンドリカルレンズである。レンズ12~レンズ15は、励起光源11からレーザ媒質3に向かって順に配列されている。
【0025】
レンズ12は、励起光源11から出力された励起光E1をファスト軸方向にコリメートする。レンズ13は、レンズ12からの励起光E1をスロー軸方向にコリメートする。レンズ14は、レンズ13からの励起光E1をファスト軸方向に集光する。レンズ15は、レンズ14からの励起光E1をスロー軸方向に集光する。これにより、励起光E1は、ファスト軸方向及びスロー軸方向の両方において集光され、レーザ媒質3の励起領域Rに入力される。
【0026】
図3は、
図1の要部を拡大して示す模式図である。
図1~3に示されるように、レーザ媒質3は、例えば平板状に形成されている。レーザ媒質3は、第1面3aと、第1面3aと反対側の第2面3bと、を有している。第1面3aと第2面3bとは、例えば互いに平行である。第1光学系10は、第1面3a側に配置されており、第1面3a側から励起光E1をレーザ媒質3に入射させて励起領域Rに入力する。第2光学系20及び第3光学系40の主な構成は、第2面3b側に配置されている。第2光学系20及び第3光学系40は、第2面3b側からシード光をレーザ媒質3に入射させて励起領域Rに入力する。
【0027】
第1面3aにはコート(第1ミラー、第3ミラー)4が形成されており、第2面3bにはコート5が形成されている。コート4,5は、例えば、誘電体多層膜である。コート4は、励起光E1の波長に対する無反射コートと、シード光の波長に対する反射コートと、を含む。すなわち、コート4は、励起光E1を透過すると共に、シード光を反射する。コート5は、励起光E1の波長に対する反射コートと、シード光の波長に対する無反射コートと、を含む。すなわち、コート5は、励起光E1を反射すると共に、シード光を透過する。
【0028】
第2光学系20は、ミラー21,22、光アイソレータ23、位相シフト素子24、ミラー25、第1ビームスプリッタ26、第1位相シフト素子27、及び、ミラー(第2ミラー)28を有している。第3光学系40は、第2ビームスプリッタ29、ミラー(第3ミラー)30、第2位相シフト素子31、ミラー(第3ミラー)32、ミラー33、及び、光アイソレータ34を有している。なお、第1ビームスプリッタ26及び第2ビームスプリッタ29は、偏光ビームスプリッタであり、第1位相シフト素子27及び第2位相シフト素子31は、例えば波長板(ここではλ/4波長板)である。
【0029】
ミラー21,22は、光源2から出力されたシード光C0を反射することにより導光して光アイソレータ23に入力する。光アイソレータ23は戻り光を防止する。位相シフト素子24は、光アイソレータ23から出力されたシード光C0を入力する。位相シフト素子24は、シード光C0の偏光成分に位相差をつけ、第1偏光(例えばP偏光)のシード光C1として出力する。ミラー25は、位相シフト素子24から出力された第1偏光のシード光C1を反射して第1ビームスプリッタ26に入力する。
【0030】
第1ビームスプリッタ26は、第1偏光のシード光をレーザ媒質3に向かうように通過させると共に、第1偏光と90°異なる第2偏光(例えばS偏光)のシード光を第2ビームスプリッタ29に向かうように反射する機能を有する。したがって、第1ビームスプリッタ26は、位相シフト素子24によって第1偏光とされてミラー25によって導光されたシード光C1を、レーザ媒質3に向けて通過させる。
【0031】
第1位相シフト素子27は、第1ビームスプリッタ26とレーザ媒質3との間に配置されている。第1位相シフト素子27は、光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける機能を有している。したがって、ここでは、第1位相シフト素子27は、第1ビームスプリッタ26からのシード光C1を入力し、その偏光成分に1/4波長の位相差をつけてシード光C2として出力する。第1位相シフト素子27から出力されたシード光C2は、レーザ媒質3(励起領域R)に入力され、レーザ媒質3での増幅に供される。ここでは、シード光C2は、レーザ媒質3の第1面3aに対して0°よりも大きな入射角(例えば30°程度)をもって斜めに入射される。
【0032】
コート4は、第1位相シフト素子27を介してレーザ媒質3に入射され、レーザ媒質3内を進行したシード光C2を、再びレーザ媒質3内を進行してレーザ媒質3から出射されるように反射する。ここでは、コート4は、シード光C2を、レーザ媒質3への入射角に応じた角度をもって斜めに出射する。ミラー28は、コート4によって反射されたシード光C2を反射してコート4に戻す。ミラー28の反射面は、シード光C2に直交している(ミラー28は0°ミラーである)。したがって、ミラー28によって反射されたシード光C2は、コート4からミラー28に向かう光路を逆に経てレーザ媒質3に戻される。また、レーザ媒質3に戻されたシード光C2は、コート4によって再び反射されて第1位相シフト素子27及び第1ビームスプリッタ26に向かう。すなわち、ミラー28は、コート4によって反射されたシード光C2を、レーザ媒質3を介してコート4に戻すように反射することにより、第1位相シフト素子27を介して第1ビームスプリッタ26に向かように反射する。これにより、シード光C2は、レーザ媒質3(励起領域R)を4回通過して増幅されることになる。
【0033】
レーザ媒質3と第1ビームスプリッタ26との間には、第1位相シフト素子27が介在されている。したがって、第1位相シフト素子27は、コート4及びミラー28により反射された増幅後のシード光C2を入力し、その偏光成分に1/4波長の位相差をつけてシード光C3として出力する。第1位相シフト素子27から出力されたシード光C3の偏光方向は、シード光C1と比較して、偏光成分の位相が1/2波長シフトすることで90°回転されることになり、第2偏光となる。第1位相シフト素子27から出力されたシード光C3は、第1ビームスプリッタ26に入力される。
【0034】
上述したように、第1ビームスプリッタ26は、第2偏光のシード光を第2ビームスプリッタ29に向かうように反射する機能を有する。したがって、第1ビームスプリッタ26は、第2偏光のシード光C3を、第2ビームスプリッタ29に向けて反射する。第2ビームスプリッタ29は、第2偏光のシード光をレーザ媒質3に向かうように反射すると共に、第1偏光のシード光を通過させる機能を有する。したがって、第2ビームスプリッタ29は、第1ビームスプリッタ26からの第2偏光のシード光C3を、レーザ媒質3に向かうように反射する。ここでは、第2ビームスプリッタ29は、シード光C3をミラー30に向けて反射する。ミラー30は、第2ビームスプリッタ29からのシード光C3をミラー32に向けて反射する。ミラー32は、ミラー30からのシード光C3をレーザ媒質3に向けて反射する。
【0035】
第2位相シフト素子31は、光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける機能を有している。第2位相シフト素子31は、ミラー30とミラー32との間、すなわち、第2ビームスプリッタ29とレーザ媒質3との間に配置されている。したがって、第2位相シフト素子31は、第2ビームスプリッタ29からミラー30を経由したシード光C3を入力し、その偏光成分に1/4波長の位相差をつけてシード光C4として出力する。第2位相シフト素子31から出力されたシード光C4は、ミラー32により反射されてレーザ媒質3に入力される。ここでは、シード光C4は、レーザ媒質3の第1面3aに対して0°の入射角をもって入射される。
【0036】
コート4は、レーザ媒質3に入射されたシード光C4をミラー32に向けて反射する。コート4の反射面は、シード光C4に直交している(コート4はシード光C4に対する0°ミラーである)。したがって、コート4によって反射されたシード光C4は、ミラー32からコート4に向かう光路を逆に経て、ミラー32,30、第2位相シフト素子31、及び、第2ビームスプリッタ29に向かう。すなわち、コート4、及び、ミラー32,30は、第2位相シフト素子31を介してレーザ媒質3に入力されたシード光C4を、第2位相シフト素子31を介して第2ビームスプリッタ29に向かように反射する。これにより、シード光C4は、レーザ媒質3(励起領域R)を2回通過して増幅されることになる。
【0037】
ミラー32とミラー30との間には、第2位相シフト素子31が介在されている。したがって、第2位相シフト素子31は、コート4により反射された増幅後のシード光C4を入力し、その偏光成分に1/4波長の位相差をつけてシード光C5として出力する。第2位相シフト素子31から出力されたシード光C5の偏光方向は、シード光C3と比較して、偏光成分の位相が1/2波長シフトすることで90°回転されることになり、第1偏光となる。第2位相シフト素子31から出力されたシード光C5は、ミラー30を介して第2ビームスプリッタ29に入力される。
【0038】
上述したように、第2ビームスプリッタ29は、第1偏光のシード光を通過させる機能を有する。したがって、第2ビームスプリッタ29は、ミラー30からの第1偏光のシード光C5を通過させる。第2ビームスプリッタ29を通過したシード光C5は、ミラー33により反射された後に、第2段の増幅機構に提供される。以上のように、レーザ装置1においては、第1段の増幅機構において、レーザ媒質3を通過する6つの経路が形成され、シード光の6回の増幅が行われる。
【0039】
なお、
図3に示されるように、レーザ装置1においては、第1ビームスプリッタ26と第2ビームスプリッタ29との間に光アイソレータ34が配置されている。光アイソレータ34は、第1ビームスプリッタ26から第2ビームスプリッタ29に向かう方向のみに光を通過させ、逆方向の光の通過を防止する。
【0040】
ここで、レーザ装置1は、第2段の増幅機構として、第1段の増幅機構と概ね同様の構成をさらに備えている。すなわち、レーザ装置1は、第2段の増幅機構として、ミラー51と、レーザ媒質3と、第1光学系10と、第2光学系50と、第3光学系70と、を備えている。第2光学系50には、第1段の増幅機構からのシード光C5がミラー51により反射されて導入される。
【0041】
第2光学系50は、第1ビームスプリッタ52、第1位相シフト素子53、及び、ミラー(第2ミラー)54を有している。第3光学系70は、第2ビームスプリッタ55、ミラー(第3ミラー)56、第2位相シフト素子58、ミラー(第3ミラー)57、ミラー59、及び、光アイソレータ(不図示)を有している。なお、第1ビームスプリッタ52及び第2ビームスプリッタ55は、偏光ビームスプリッタであり、第1位相シフト素子53及び第2位相シフト素子58は、例えば波長板(ここではλ/4波長板)である。
【0042】
第1ビームスプリッタ52は、第1偏光のシード光をレーザ媒質3に向かうように通過させると共に、第1偏光と90°異なる第2偏光のシード光を第2ビームスプリッタに向かうように反射する機能を有する。したがって、第1ビームスプリッタ52は、ミラー51により導光された第1偏光のシード光C5を、レーザ媒質3に向けて通過させる。
【0043】
第1位相シフト素子53は、第1ビームスプリッタ52とレーザ媒質3との間に配置されている。第1位相シフト素子53は、光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける機能を有している。したがって、ここでは、第1位相シフト素子53は、第1ビームスプリッタ52からのシード光C5を入力し、その偏光成分に1/4波長の位相差をつけてシード光C6として出力する。第1位相シフト素子53から出力されたシード光C6は、レーザ媒質3(励起領域R)に入力され、レーザ媒質3での増幅に供される。ここでは、シード光C6は、レーザ媒質3の第1面3aに対して0°よりも大きな入射角(例えば30°程度)をもって斜めに入射される。
【0044】
コート4は、第1位相シフト素子53を介してレーザ媒質3に入射され、レーザ媒質3内を進行したシード光C6を、再びレーザ媒質3を進行してレーザ媒質3から出射されるように反射する。ここでは、コート4は、シード光C6を、レーザ媒質3への入射角に応じた角度をもって斜めに出射する。ミラー54は、コート4によって反射されたシード光C6を反射してコート4に戻す。ミラー54の反射面は、シード光C6に直交している(ミラー54は0°ミラーである)。したがって、ミラー54によって反射されたシード光C6は、コート4からミラー54に向かう光路を逆に経てレーザ媒質3に戻される。また、レーザ媒質3に戻されたシード光C2は、コート4によって再び反射されて第1位相シフト素子53及び第1ビームスプリッタ52に向かう。すなわち、ミラー54は、コート4によって反射されたシード光C2を、レーザ媒質3を介してコート4に戻すように反射することにより、第1位相シフト素子53を介して第1ビームスプリッタ52に向かように反射する。これにより、シード光C6は、レーザ媒質3(励起領域R)を4回通過して増幅されることになる。
【0045】
レーザ媒質3と第1ビームスプリッタ52との間には、第1位相シフト素子53が介在されている。したがって、第1位相シフト素子53は、コート4及びミラー54により反射された増幅後のシード光C6を入力し、その偏光成分に1/4波長の位相差をつけてシード光C7として出力する。第1位相シフト素子53から出力されたシード光C7の偏光方向は、シード光C5と比較して、偏光成分の位相が1/2波長シフトすることで90°回転されることになり、第2偏光となる。第1位相シフト素子53から出力されたシード光C7は、第1ビームスプリッタ52に入力される。
【0046】
上述したように、第1ビームスプリッタ52は、第2偏光のシード光を第2ビームスプリッタ55に向かうように反射する機能を有する。したがって、第1ビームスプリッタ52は、第2偏光のシード光C7を、第2ビームスプリッタ55に向けて反射する。第2ビームスプリッタ55は、第2偏光のシード光をレーザ媒質3に向かうように反射すると共に、第1偏光のシード光を通過させる機能を有する。したがって、第2ビームスプリッタ55は、第1ビームスプリッタ52からの第2偏光のシード光C7を、レーザ媒質3に向かうように反射する。ここでは、第2ビームスプリッタ55は、シード光C7をミラー56に向けて反射する。ミラー56は、第2ビームスプリッタ55からのシード光C7をミラー57に向けて反射する。ミラー57は、ミラー56からのシード光C7をレーザ媒質3に向けて反射する。
【0047】
第2位相シフト素子58は、光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける機能を有している。第2位相シフト素子58は、ミラー57とレーザ媒質3との間、すなわち、第2ビームスプリッタ55とレーザ媒質3との間に配置されている。したがって、第2位相シフト素子58は、第2ビームスプリッタ55からミラー56,57を経由したシード光C7を入力し、その偏光成分に1/4波長の位相差をつけてシード光C8として出力する。第2位相シフト素子58から出力されたシード光C8は、レーザ媒質3に入力される。ここでは、シード光C8は、レーザ媒質3の第1面3aに対して0°の入射角をもって入射される。
【0048】
コート4は、レーザ媒質3に入射されたシード光C8をミラー57に向けて反射する。コート4の反射面は、シード光C8に直交している(コート4はシード光C8に対する0°ミラーである)。したがって、コート4によって反射されたシード光C8は、ミラー57からコート4に向かう光路を逆に経て、第2位相シフト素子58、ミラー57,56、及び、第2ビームスプリッタ55に向かう。すなわち、コート4、及び、ミラー57,56は、第2位相シフト素子58を介してレーザ媒質3に入力されたシード光C8を、第2位相シフト素子58を介して第2ビームスプリッタ55に向かように反射する。これにより、シード光C8は、レーザ媒質3(励起領域R)を2回通過して増幅されることになる。
【0049】
第2位相シフト素子58は、コート4により反射された増幅後のシード光C8を入力し、その偏光成分に1/4波長の位相差をつけてシード光C9として出力する。第2位相シフト素子58から出力されたシード光C9の偏光方向は、シード光C7と比較して、偏光成分の位相が1/2波長シフトすることで90°回転されることになり、第1偏光となる。第2位相シフト素子58から出力されたシード光C9は、ミラー56,57を介して第2ビームスプリッタ55に入力される。
【0050】
上述したように、第2ビームスプリッタ55は、第1偏光のシード光を通過させる機能を有する。したがって、第2ビームスプリッタ55は、ミラー57からのシード光C9を通過させる。第2ビームスプリッタ55を通過したシード光C9は、ミラー59,60により反射された後に、出力光として外部に取り出される。以上のように、レーザ装置1においては、第2段の増幅機構においても、レーザ媒質3を通過する6つの経路が形成され、シード光の6回の増幅が行われる。
【0051】
ここで、レーザ装置1は、上述した第1位相シフト素子27,53、及び、第2位相シフト素子31,58等の位相シフト素子に代えて、偏光回転素子であるファラデーローテータを備えていてもよい。
図4は、ファラデーローテータの一例を示す図である。ファラデーローテータは、磁場中を進行する光の偏光が回転する現象であるファラデー効果を利用した偏光回転素子である。
【0052】
図4の(a)に示されるように、ファラデーローテータFRは、第1方向に進行する第1偏光Daの光L1を入力した場合、その偏光方向を45°回転して、第2偏光Dbの光L2を出力する。また、
図4の(b)に示されるように、ファラデーローテータFRは、第1方向と逆方向の第2方向に進行する第2偏光Dbの光L2を入力した場合には、その偏光方向をさらに45°回転して、第3偏光Dc(第1偏光Daから90°回転した偏光)の光L3を出力する。
【0053】
したがって、上述した第1位相シフト素子27,53をファラデーローテータに置き換えた場合には、ファラデーローテータは、第1ビームスプリッタ26,52とレーザ媒質3との間に配置され、第1ビームスプリッタ26,52からのシード光C1,C5を入力し、その偏光方向を45°回転させてシード光C2,C6として出力することとなる。また、この場合、ファラデーローテータは、コート4により反射された増幅後のシード光C2,C6を入力し、その偏光方向を45°回転してシード光C3,C7として出力することとなる。
【0054】
さらに上述した第2位相シフト素子31,58をファラデーローテータに置き換えた場合には、ファラデーローテータは、第2ビームスプリッタ29,55とレーザ媒質3との間に配置され、第2ビームスプリッタ29,55からのシード光C3,C7を入力し、その偏光方向を45°回転してシード光C4,C8として出力することとなる。また、この場合には、ファラデーローテータは、コート4により反射された増幅後のシード光C4,C8を入力し、その偏光方向を45°回転してシード光C5,C9として出力することとなる。
【0055】
また、レーザ装置1における上述した光アイソレータ34等の光アイソレータは、例えば、ファラデーアイソレータを含む。ここでは、光アイソレータ34は、ファラデーアイソレータである。
図5は、ファラデーアイソレータを示す図である。
図5に示されるように、ファラデーアイソレータFIは、ファラデーローテータFRと、偏光素子Pa,Pbと、を有する。偏光素子Pa、ファラデーローテータFR、及び偏光素子Pbは、第1方向に順に配列されている。偏光素子Paは、第1偏光Daの光L1のみを通過させる。偏光素子Pbは、第1偏光Daと45°異なる第2偏光Dbの光L2のみを通過させる。
【0056】
したがって、
図5の(a)に示されるように、ファラデーアイソレータFIに対して第1偏光Daの光L1が第1方向から入力された場合には、光L1は偏光素子Paを通過してファラデーローテータFRに入力される。ファラデーローテータFRに入力された光L1は、その偏光方向が45°回転され、第2偏光Dbの光L2として出力される。ファラデーローテータFRから出力された光L2は、偏光素子Pbを通過して外部に出力される。
【0057】
一方、
図5の(b)に示されるように、ファラデーアイソレータFIに対して第2偏光Dbの光L2が、第1方向と逆方向の第2方向から入力された場合には、光L2は偏光素子Pbを通過してファラデーローテータFRに入力される。ファラデーローテータFRに入力された光L2は、その偏光方向がさらに45°回転され、第3偏光Dcの光L3として出力される。ファラデーローテータFRから出力された光L3は、偏光素子Paを通過できず、偏光素子Paにより遮蔽される。
【0058】
以上説明したように、レーザ装置1においては、増幅対象のシード光C1は、第1偏光において第1ビームスプリッタ26に入力される。第1偏光のシード光C1は、第1ビームスプリッタ26を通過してレーザ媒質3に向かう。第1ビームスプリッタ26からレーザ媒質3に向かう第1偏光のシード光C1は、第1位相シフト素子27を通過することにより、その偏光成分に1/4波長の位相差がつく。第1位相シフト素子27を通過したシード光C2は、0°よりも大きな入射角をもってレーザ媒質3に入射する。レーザ媒質3に入射したシード光C2は、励起領域Rに入力されて増幅された後に、コート4によって反射されて再度増幅された後に、レーザ媒質3から出射される。レーザ媒質3から出射されたシード光C2は、ミラー28によって反射されて再びレーザ媒質3に入射される。ミラー28によって反射されてレーザ媒質3に入射されたシード光C2は、コート4によって再び反射され、第1位相シフト素子27を介して第1ビームスプリッタ26に向かう。
【0059】
このとき、シード光C3は、再び第1位相シフト素子27を通過することにより、その偏光成分にさらに1/4波長の位相差がつけられ、第2偏光(例えばS偏光)とされている。このため、シード光C3は、第1ビームスプリッタ26によって反射されて分岐される。第1ビームスプリッタ26によって分岐されたシード光C3は、例えば、別の光学系(ここでは第3光学系40)よって再びレーザ媒質3に導かれ、さらなる増幅に供されてもよい。このように、このレーザ装置1においては、第1ビームスプリッタ26と第1位相シフト素子27による偏光方向に応じた増幅経路の切り分けと、コート4及びミラー28による増幅経路の倍化と、が両立される。この結果、簡単な構成によって多数の増幅を実現して高出力化が可能である。
【0060】
また、レーザ装置1は、第1ビームスプリッタ26によって反射された第2偏光のシード光C3をレーザ媒質3に入射させて励起領域Rに入力するための第3光学系40を備えている。第3光学系40は、第1ビームスプリッタ26からの第2偏光のシード光C3をレーザ媒質3に向かうように反射すると共に、レーザ媒質3からの第1偏光のシード光C5を通過させる第2ビームスプリッタ29と、第2ビームスプリッタ29とレーザ媒質3との間に配置され、シード光C3の偏光成分に1/4波長の位相差をつける第2位相シフト素子31と、第2位相シフト素子31を介してレーザ媒質3に入射されたシード光C4を、第2位相シフト素子31を介して第2ビームスプリッタ29に向かうように反射するコート4と、を有している。
【0061】
このため、第1ビームスプリッタ26によって分岐されたシード光C3は、第2ビームスプリッタ29に入力される。第2ビームスプリッタ29に入力された第2偏光のシード光C3は、第2ビームスプリッタ29によってレーザ媒質3に向かうように反射される。第2ビームスプリッタ29からレーザ媒質3に向かう第2偏光のシード光C3は、第2位相シフト素子31を通過することにより、その偏光成分に1/4波長の位相差がつく。第2位相シフト素子31を通過したシード光C4は、レーザ媒質3の励起領域Rに入力されて増幅された後に、コート4によって反射されて再度増幅された後に再び第2位相シフト素子31を通過し、第2ビームスプリッタ29に入力される。
【0062】
このとき、シード光c5は、再び第2位相シフト素子31を通過することにより、その偏光成分にさらに1/4波長の位相差がつけられ、第1偏光とされている。このため、シード光C5は、第2ビームスプリッタ29を通過する。この結果、第2ビームスプリッタ29を通過したシード光C5は、少なくとも6度の増幅を経て出力される。このように、このレーザ装置1においては、簡単な構成によってより多数の増幅を実現して高出力化が可能である。
【0063】
また、レーザ装置1においては、レーザ媒質3は、第1面3aと、第1面3aの反対側の第2面3bと、を含む。そして、第1光学系10は、励起光E1を第1面3a側からレーザ媒質3に入射させ、第2光学系20及び第3光学系40は、シード光を第2面3b側からレーザ媒質3に入射させる。このため、励起光E1の光路と、シード光の光路とが、レーザ媒質3の両側に分配されることとなる。このため、各々の光路の干渉を考慮することなく光学系を設計できる。
【0064】
また、レーザ装置1においては、第1面3aには、励起光E1を透過すると共にシード光を反射するコート4が形成されている。そして、シード光C2,C4を反射するミラーがコート4により構成されるミラーを含んでいる。このため、より簡単な構成により高出力化が可能となる。
【0065】
また、レーザ装置1は、第1ビームスプリッタ26と第2ビームスプリッタ29との間に配置され、第1ビームスプリッタ26から第2ビームスプリッタ29に向かう方向に光を通過させる光アイソレータ34を備えている。このため、第2ビームスプリッタ29から第1ビームスプリッタ26に向かう方向の光の進行が抑制される。この結果、意図しない共振器の構成及び誘導放射が避けられる。なお、このレーザ装置1においては、第1ビームスプリッタ26からレーザ媒質3の間、及び、第2ビームスプリッタ29からレーザ媒質3との間の経路は、シード光が往復する。したがって、この場合のように、シード光の往復を要さない第1ビームスプリッタ26と第2ビームスプリッタ29との間に光アイソレータ34を介在させることが有効である。
【0066】
また、レーザ装置1においては、レーザ媒質3は、活性元素としてYbを含んでもよい。このように、Yb系のレーザ媒質3を用いた場合には、例えばNd系のレーザ媒質を用いた場合と比較して、高強度励起のために、より狭い励起領域Rに励起光E1及びシード光を入力する必要がある。このため、光学系のアライメントの高精度化及び容易化の重要性が相対的に高い。したがって、レーザ装置1によって簡単な構成を実現することがより有効となる。
【0067】
さらに、レーザ装置1においては、第1位相シフト素子27及び第2位相シフト素子31に代えて偏光回転素子としてのファラデーローテータを用いてもよい。この場合、レーザ媒質3で発生した熱による偏光方向のばらつきを補償できる。
【0068】
以上の実施形態は、本発明に係るレーザ装置の一実施形態を説明したものである。したがって、本発明に係るレーザ装置は、上述したレーザ装置1に限定されず、種々の変形が可能である。
【0069】
例えば、上記実施形態においては、レーザ媒質3としてYb系のレーザ利得媒質を例示した。しかしながら、レーザ媒質3としては、例えば、活性元素としてNdを含むもの(例えばNd:YAG)であってもよい。
【0070】
さらに、上記実施形態においては、レーザ媒質3の第1面3aに設けられたコート4を、シード光C2,C4を反射するミラーとして用いる例を挙げた。これに対して、シード光C2,C4がレーザ媒質3を透過するように構成すると共に、第1面3aから離間した位置に、シード光C2,C4を第1面3aに向けて反射する別のミラーを設けてもよい。
【0071】
また、上記実施形態においては、レーザ装置1は、2段階の増幅機構を備えるものとしたが、1段階であってもよいし、3段階以上であってもよい。さらに、レーザ装置1は、光源2を備えなくてもよい。
【0072】
以上の実施形態について、以下に付記する。
[付記1]
シード光を増幅するためのレーザ媒質と、
前記レーザ媒質を励起するための励起光を出力すると共に、前記励起光を前記レーザ媒質に入射させて前記レーザ媒質の励起領域に入力するための第1光学系と、
第1偏光の前記シード光を、前記レーザ媒質に対して0°よりも大きな入射角をもって前記レーザ媒質に入射させて前記励起領域に入力するための第2光学系と、
を備え、
前記第2光学系は、
前記第1偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に向かうように通過させると共に、前記レーザ媒質からの前記第1偏光と90°異なる第2偏光の前記シード光を反射する第1ビームスプリッタと、
前記第1ビームスプリッタと前記レーザ媒質との間に配置され、前記シード光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける第1位相シフト素子と、
前記第1位相シフト素子を介して前記レーザ媒質に入射された前記シード光を、前記レーザ媒質から出射されるように反射する反射する第1ミラーと、
前記第1ミラーによって反射された前記シード光を、前記レーザ媒質を介して前記第1ミラーに戻すように反射することによって、前記第1ミラーによって再び反射させて前記第1位相シフト素子を介して前記第1ビームスプリッタに向かわせる第2ミラーと、
を有する、
レーザ装置。
[付記2]
前記第1ビームスプリッタによって反射された前記第2偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に入射させて前記励起領域に入力するための第3光学系を備え、
前記第3光学系は、
前記第1ビームスプリッタからの前記第2偏光の前記シード光を前記レーザ媒質に向かうように反射すると共に、前記レーザ媒質からの前記第1偏光の前記シード光を通過させる第2ビームスプリッタと、
前記第2ビームスプリッタと前記レーザ媒質との間に配置され、前記シード光の偏光成分に1/4波長の位相差をつける第2位相シフト素子と、
前記第2位相シフト素子を介して前記レーザ媒質に入射された前記シード光を、前記第2位相シフト素子を介して前記第2ビームスプリッタに向かうように反射する第3ミラーと、
を有する、
付記1に記載のレーザ装置。
[付記3]
前記レーザ媒質は、第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、を含み、
前記第1光学系は、前記励起光を前記第1面側から前記レーザ媒質に入射させ、
前記第2光学系及び前記第3光学系は、前記シード光を前記第2面側から前記レーザ媒質に入射させる、
付記2に記載のレーザ装置。
[付記4]
前記第1面には、前記励起光を透過すると共に前記シード光を反射するコートが形成されており、
前記第1ミラー及び前記第3ミラーは、前記コートによる構成されるミラーを含む、
付記3に記載のレーザ装置。
[付記5]
前記第1ビームスプリッタと前記第2ビームスプリッタとの間に配置され、前記第1ビームスプリッタから前記第2ビームスプリッタに向かう方向に光を通過させる光アイソレータを備える、
付記2~4のいずれか一項に記載のレーザ装置。
[付記6]
前記光アイソレータは、ファラデーアイソレータを含む、
付記5に記載のレーザ装置。
[付記7]
前記レーザ媒質は、活性元素としてYbを含む、
付記1~6のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【符号の説明】
【0073】
1…レーザ装置、2…光源、3…レーザ媒質、3a…第1面、3b…第2面、4…コート(第1ミラー,第3ミラー)、10…第1光学系、20…第2光学系、26…第1ビームスプリッタ、27…第1位相シフト素子、28…ミラー(第2ミラー)、29…第2ビームスプリッタ、30,32…ミラー(第3ミラー)、31…第2位相シフト素子、34…光アイソレータ、40…第3光学系、E1…励起光、C0~C5…シード光、FR…ファラデーローテータ、FI…ファラデーアイソレータ。