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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】鋸刃
(51)【国際特許分類】
   B23D 61/12 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
B23D61/12 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018119508
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2020001098
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(73)【特許権者】
【識別番号】504279326
【氏名又は名称】株式会社アマダマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】小藪 恵太
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特公平07-049168(JP,B2)
【文献】特開2014-176960(JP,A)
【文献】特開平11-333626(JP,A)
【文献】特開2000-263327(JP,A)
【文献】特開2003-165020(JP,A)
【文献】特開2003-251525(JP,A)
【文献】特開2005-349512(JP,A)
【文献】特開2009-119869(JP,A)
【文献】特表2015-536254(JP,A)
【文献】登録実用新案第3124503(JP,U)
【文献】実用新案登録第2603636(JP,Y2)
【文献】特許第3283572(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2007/0163416(US,A1)
【文献】米国特許第04604933(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 45/00-65/04
B27B 25/00-33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削の際の移動方向に繰り返し形成された複数の歯を有する帯状であって、
前記複数の歯のうちの少なくとも一歯が、
-50°以上かつ-20°以下の負のすくい角で形成されたすくい面と、
前記すくい面と歯底部との間に、前記すくい面を含む仮想平面と交わり、歯元側が前記移動方向の前方側となるよう前記移動方向に対し145°以上170°以下の角度をなす当て面と、を有する鋸刃。
【請求項2】
前記当て面は、前記仮想平面と交わる位置に対する前方側と後方側とに延在し前記移動方向において少なくとも2mm以上の範囲に形成されていることを特徴とする請求項1記載の鋸刃。
【請求項3】
歯高が3mm以上かつ10mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の鋸刃。
【請求項4】
外周部において周方向に繰り返し形成された複数の歯を有する円盤状であって、
前記複数の歯のうちの少なくとも一歯が、
-50°以上かつ-20°以下の負のすくい角で形成されたすくい面と、
前記すくい面と歯底部との間に、前記すくい面を含む仮想平面と基準位置で交わり、歯元側が切削方向の前方側となるよう前記基準位置における接線に対し145°以上170°以下の角度をなす当て面と、を有する鋸刃
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋸刃に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、切削で切り出した切削屑をカールさせ、その切削屑を、隣接する二つの歯の間の空間であるガレットから外部に排出し易くする帯鋸刃が記載されている。
特許文献2に、歯の先端に面取り部を有する鋸刃が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3283572号公報
【文献】実用新案登録第2603636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された帯鋸刃は、切削屑をカールさせるための歯面形状として、すくい面に接続した円弧状の切削誘導面を有する。切削で切り出された切削屑は、切削抵抗に伴う発熱で高温となった状態でこの円弧状の切削誘導面に沿って移動するためカールする。カールした切削屑は、ガレットに目詰まりしにくく容易に排出される。
【0005】
一般に、切削誘導面を有する歯面形状では、すくい面のすくい角が0°又は正値とされている。これにより、切り出された切削屑が切削誘導面に誘導され易くなっている。
すくい角が0°のすくい面は、鋸刃の進行方向に直交する面である。すくい角が正値のすくい面は、歯先から歯元に向かうに従って、鋸刃の進行方向とは反対の後方側に傾斜する面である。
【0006】
近年、帯鋸盤の大型化,高剛性化,及び高馬力化が進んだことから、低炭素鋼を主とする鉄系材料の切断加工において、切断速度の高速化が図られている。
切断速度の高速化に伴い、環状帯鋸刃は、尖鋭な歯先に微少な欠け(チッピング)が生じる可能性が高くなっている。そのため、環状帯鋸刃を、歯先に特許文献2に記載されたような面取り部を有するものにする、或いは、すくい角が負値となるすくい面を有するものにしていた。
【0007】
しかしながら、歯先に面取り部を形成する、或いはすくい角が負値のすくい面を形成すると、切削屑は、面取り部、或いはすくい面に沿って切り出され、切削誘導面に誘導されずに歯底部に対し大きい角度で当たるようになる。そのため、切削屑はカールせず折り重なるように交互に屈曲してガレットに詰まり、ガレットからの排出に不具合が生じたり、歯先の欠損が生じる場合があった。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、切削屑が良好に排出される鋸刃を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。
1) 切削の際の移動方向に繰り返し形成された複数の歯を有する帯状であって、
前記複数の歯のうちの少なくとも一歯が、
-50°以上かつ-20°以下の負のすくい角で形成されたすくい面と、
前記すくい面と歯底部との間に、前記すくい面を含む仮想平面と交わり、歯元側が前記移動方向の前方側となるよう前記移動方向に対し145°以上170°以下の角度をなす当て面と、を有する鋸刃である。
2) 前記当て面は、前記仮想平面と交わる位置に対する前方側と後方側とに延在し前記移動方向において少なくとも2mm以上の範囲に形成されていることを特徴とする1)に記載の鋸刃である。
3) 歯高が3mm以上かつ10mm以下であることを特徴とする1)又は2)に記載の鋸刃である。
4) 外周部において周方向に繰り返し形成された複数の歯を有する円盤状であって、
前記複数の歯のうちの少なくとも一歯が、
-50°以上かつ-20°以下の負のすくい角で形成されたすくい面と、
前記すくい面と歯底部との間に、前記すくい面を含む仮想平面と基準位置で交わり、歯元側が切削方向の前方側となるよう前記基準位置における接線に対し145°以上170°以下の角度をなす当て面と、を有する鋸刃である
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、切削屑が良好に排出される、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る鋸刃の実施例である帯鋸刃51を示す側面図である。
図2図2は、図1におけるA部拡大図である。
図3図3は、すくい角θAとびびり発生率との関係を示すグラフである。
図4図4は、すくい角θAと切削抵抗との関係を示すグラフである。
図5図5は、切削屑Wtの生成状態を説明するための側面図である。
図6図6は、当て角θBと切削屑Wtの非カール化率との関係を示すグラフである。
図7図7は、変形例の帯鋸刃51Aを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例)
本発明の実施の形態に係る鋸刃の実施例を、帯鋸刃51により説明する。
図1は、帯鋸刃51の一部を示す側面図である。
帯鋸刃51は、環状に形成されており、帯鋸盤に装着されて循環移動し被切削材を切断する。
帯鋸刃51は、帯状の胴部511と、胴部511の幅方向の一方側の縁部に繰り返し形成された複数の歯1を含む歯部512と、を有する。
高性能な帯鋸盤に用いられる帯鋸刃51は、一般的に、胴部511と歯部512とを合わせた全幅が54mm又は67mmであり、厚さは1.6mmである。
【0013】
図1に示されるように、胴部511の幅方向長さを胴幅Hw、歯部512の幅方向長さを歯高Hbとする。
説明の便宜のため、胴幅Hwの幅方向中心に、長手方向に延びる仮想の基準線LN51を設定する。基準線LN51と胴部511における歯部512の反対側の端面513は平行である。
隣接する二つの歯1,1との間の谷形状の部分がガレットGとなる。
【0014】
図2は、図1に示された隣接する二つの歯1,1を含むA部拡大図である。
帯鋸刃51の、帯鋸盤における循環移動の移動方向は矢印DRaで示されている。また、移動方向における前後の向きも、矢印DRaに付記されている。移動方向は、鋸刃51の切削方向である。
【0015】
歯1の先端部位には硬質の切削チップ11が溶接により接合されている。切削チップ11は、研磨によって所定の刃先形状に形成されている。
隣接する二つの歯1,1の間のガレットGにおける谷底となる歯底部13は、胴部511における歯部512側の縁部となっている。
【0016】
切削チップ11は、先端部位に面取り部11aが形成されている。面取り部11aの先端部11tは、歯底部13から歯高Hbの位置にある。
面取り部11aは、歯先側から歯元側に向かうに従って進行方向(矢印DRa)の前方側に傾斜する面取り面11a1を有して形成されている。
面取り面11a1は、実質的に切削におけるすくい面である。従って、面取り面11a1を含む仮想平面である面取り基準面LNbと、基準線LN51に直交する直交基準面LNvと、のなす劣角である角度θAは、負値(-)のすくい角となっている。以下、角度θAを便宜的にすくい角θAと称する。面取り面11a1はすくい面11a1とも称する。
【0017】
切削チップ11の形状において、先端部11tから後方側は、胴部511側に接近するよう傾斜する逃げ面11cとされ、面取り部11aから胴部511側へは、直交基準面LNvに概ね平行なチップ前面11bとされている。
【0018】
歯1は、切削チップ11と歯底部13とを繋ぐ外形形状において、切削チップ11側から、連結部12,繋ぎ部15a,当て部14,及び繋ぎ部15bを有する。繋ぎ部15a,15bは、それぞれ側面視で滑らかな曲線となる部分であって、歯部512に力が付与されたときの応力集中を抑制する。
連結部12は、端面として概ね直交基準面LNvに沿った連結面12aを有し、当て部14は、端面として前方側が歯底部13に接近するように傾斜して延在する当て面14aを有する。
図2に示されるように、歯底部13は、基準線LN51と平行に形成されている。歯底部13を含み基準線LN51に平行で紙面に直交する平面を、歯底基準面LN13とする。
【0019】
当て部14の当て面14aは、次のように形成されている。
まず、歯底基準面LN13から歯先側に所定の距離Ha隔てた位置に、歯底基準面LN13と平行に当て位置基準面LNaを設定する。
次に、側面視において、当て位置基準面LNaと面取り面11a1を含む面取り基準面LNbとの交点を求め、当て部基準位置P1とする。
当て部基準位置P1を中心とし、当て位置基準面LNaに対し図2の反時計回り方向に鈍角の当て角θBをなす面を設定し、当て面14aとする。
【0020】
当て面14aは、側面視において、基準線LN51の延びる方向の、少なくとも当て部基準位置P1を含む距離Laとなる範囲が平面となるように形成される。そのため、距離Haは、少なくとも繋ぎ部15bを形成できるように設定する。
【0021】
後述のように、当て部基準位置P1は距離Laの中央に位置しているとよい。また、距離Laは、2mm以上にするとよい。
そのため、距離Haは、側面視において、当て部基準位置P1が、当て面14aと繋ぎ部15bとの接続点P3から基準線LN51の延びる方向に1mm以上の位置となるよう設定するとよい。
【0022】
上述の歯1の形状において、すくい角θAは、-50°~-20°の範囲α内で設定されている。また、当て角θBは、145°~170°の範囲β内で設定されている。
【0023】
まず、すくい角θAの範囲αについて、図3及び図4を参照して詳述する。
図3は、負値領域のすくい角θA(°)と、切削におけるびびり発生率(%)と、の関係を示すグラフである。切削及び測定の条件は次のとおりである。
被切削材:SUJ3(高炭素クロム軸受鋼) 丸棒 直径200(mm)
切削速度:200(m/mim)
切削率:400(cm/mim)
測定回数:4本カット分の平均
【0024】
図4は、負値領域のすくい角θA(°)と、切削抵抗(×10N)と、の関係を示すグラフである。切削及び測定の条件は次のとおりである。
被切削材:S45C(機械構造用炭素鋼) 丸棒 直径250(mm)
切削速度:60(m/mim)
切削率:200(cm/mim)
測定回数:5本カット分の平均
【0025】
図3に示されるように、すくい角θAが負値として小さいほど(負値の絶対値が大きいほど)びびり発生率が低下するため、すくい角θAは負値として小さいほど好ましい。特に-20°以下では、びびり発生率が30%以下となってより好ましい。
一方、図4に示されるように、すくい角θAが負値として小さいほど(負値の絶対値が大きいほど)切削抵抗が増加するため、すくい角θAは、負値として大きいほど好ましい。切削抵抗は、特にすくい角θAが-55°以下で急激に大きくなるので、-50°以上であるとよい。
これらの結果は、被切削材が鉄系材料であれば同様に得られる。
【0026】
これらの結果から、すくい角θAは、-50°以上、かつ-20°以下の範囲αで設定するとよい。
【0027】
図5は、帯鋸刃51を用いて被切削材Wの切削を行ったときの、切削屑Wtの生成状態を説明するための側面図である。帯鋸刃51の進行方向(矢印DRa)は、左方向である。
用いた帯鋸刃51は、すくい角θAが範囲α内の-30°とされ、当て面14aの当て角θBが範囲β内の150°とされている。
【0028】
面取り面11a1によって削り取られた切削屑Wtは、面取り面11a1に沿って切り出される(矢印DRb)。
当て面14aは、面取り面11a1を含む面取り基準面LNbに対し、当て部基準位置P1において当接角度θCで交差する。
当接角度θCは、この例において、すくい角θAが-30°、当て角θBが150°であるから、
当接角度θC=θB-|θA|-90=150-30-90=30(°)
と求められる。
【0029】
歯1によって切り出された切削屑Wtは、面取り面11a1に沿う方向に切り出され(矢印DRb参照)、当て面14aに対し、当接位置P2において当て面14aとのなす角度を、ほぼ当接角度θCとして当接する。
当接角度θCは30°であって、切削屑Wtが、当て面14aに対し比較的伏せた姿勢で当接する、いわゆる薄く当接する角度となっている。そのため、切削屑Wtは、当て面14aに当接後、曲がりながら滑らかに移動してカール状となる(矢印DRc)。
【0030】
切削屑Wtが良好にカールする当て角θBの範囲である範囲βを、実験により明らかにした。範囲βが明らかになったことで範囲βに対応した当接角度θCの範囲γも求めることができた。
【0031】
図6は、すくい角θAが-45°の場合の、当て面14aの当て角θBと切削屑Wtの非カール化率との関係を示すグラフである。非カール化率は、切削屑Wtの所定生成数に対するカール生成失敗の個数比率であって、切削加工中の切削屑生成状態を撮影した映像を観察して求めた。
【0032】
実際の切断加工では、切削屑Wtの全数がカール化しなくても、約半数がカール化すれば目詰まりを生じることなくガレットGから比較的良好に排出される。すなわち、非カール化率は50%未満であるとよい。図6に示される結果を得た切削及び測定の条件は次のとおりである。
【0033】
被切削材:SUJ3(高炭素クロム軸受鋼) 丸棒 直径200(mm)
すくい角θA:-45°
切削速度:200(m/mim)
切削率:400(cm/mim)
測定回数:4本カット分の平均
【0034】
図6に示されるように、当て角θBが145°~170°の範囲βで、非カール化率が40%以下となり、カール化による切削屑Wtの排出が安定して良好となった。また、当て角θBが150°~164°の範囲β2で非カール化率が20%以下となり、切削屑Wtの排出がより良好となった。
さらなる実験で、当て角θBが範囲β内にあれば、すくい角θAが範囲α内のいずれの値であっても、非カール化率が50%未満、すなわち、カール化率が50%以上となり、切削屑Wtの排出が良好となることが明らかとなった。
【0035】
次に、切削屑Wtのカール化を、当て面14aに当接する切削屑Wtの当接角度θCの観点から説明する。
切削屑Wtのカール化率は、当接角度θCに依存する。すなわち、切削屑WtのガレットGからの排出の良好程度は、当接角度θCに依存する。
すくい角θAが範囲α内、かつ当て角θBが範囲β内にある場合、当接角度θCの最大値θC1は、すくい角θAが範囲αの最大値の-20°で、当て角θBが範囲βの最大値の170°のときに得られる。一方、当接角度θCの最小値θC2は、すくい角θAが範囲αの最小値の-50°で、当て角θBが範囲βの最小値の145°のときに得られる。
【0036】
すなわち、
最大値θC1=θB-|θA|-90=170-20-90=60(°)
最小値θC2=θB-|θA|-90=145-50-90=5(°)
となる。
【0037】
当接角度θCが90°から遠く0°に近いほど、切削屑Wtは当て面14aに近い傾斜姿勢で当接するので、カール化し易いのは明らかである。従って、すくい角θAが範囲α、かつ当て角θBが範囲β内にあれば、当接角度θCが0°を超え60°以下の範囲γにおいて、切削屑Wtは、当て面14aに当接した後、当て面14aから繋ぎ部15bの面に沿って良好にカール化される。
【0038】
当接位置P2は、ばらつきのない理想的な状況では当て部基準位置P1とほぼ一致する。しかしながら、実際の切削では、当接位置P2は、切削屑Wtの切り出し方向のばらつきなどによって当て部基準位置P1に対してずれる場合がある。
上述の切削屑生成状態の観察から、当接位置P2は、切削屑Wtの切り出し方向のばらつきによって、帯鋸刃51の進行方向の前後それぞれにばらつくことを確認した。ばらつき量は、前後それぞれ1mm以下であって、位置のばらつきは、当て部基準位置P1を中心としてほぼ正規分布となった。
このことから、当て面14aは、例えば、当て部基準位置P1に対し、進行方向の前方向及び後方向それぞれ1mmの2mmを距離Laとした範囲が、少なくとも当て角θBの平面として延在するよう形成されているとよい。
【0039】
以上詳述した帯鋸刃51は、歯先に硬質の切削チップ11を備えている。切削チップ11は、負値のすくい角θAで形成されたすくい面11a1(面取り面11a1)を有している。すくい面11a1と歯底部13との間に、すくい面11a1を含む面取り基準面LNbに対し当接角度θCで交差する当て面14aが形成されている。当て面14aは、帯鋸刃51の進行方向に対し鈍角の当て角θBをなす。
ここですくい角θAは、-50°以上-20°以下の範囲αで設定され、当て面14aは、当て角θBが145°以上170°以下の範囲β、又は、当接角度θCが0°を超え60°以下の範囲γとなるように設定されている。
【0040】
すくい角θAが範囲α内とされていることで、びびり発生率及び切削抵抗が小さくなっている。その上で、当て角θBが範囲β内、又は当接角度θCが範囲γ内とされていることで、切削屑Wtのカール化率が高くなっており切削屑Wtはガレットから良好に排出される。
【0041】
本発明の実施例は、上述した構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0042】
帯鋸刃51の替わりに切削チップ11を有していない変形例の帯鋸刃51Aとしてもよい。
図7は、帯鋸刃51Aの隣接する二つの歯1A,1Aを含む拡大側面図であり、図2に対応した図である。歯1Aは、先端に切削チップ11が接合されてなく、歯先にすくい角θAなるすくい面1Aaが形成されている。他の形状及び寸法関係は、帯鋸刃51と同じである。
この帯鋸刃51Aも、帯鋸刃51と同様の効果を奏する。
【0043】
図1に示される帯鋸刃51において、強度確保の観点から、胴幅Hwが全幅である胴幅Hw+歯高Hbの80%以上となるように、歯高Hbを全幅の20%未満に設定するとよい。これは、帯鋸刃51Aでも同様である。
帯鋸刃51の全幅は、既述のように54mm又は67mmであるから、歯高Hbは、10mm以下とするとよい。
また、図1に示されるように、切削屑Wtが良好にカール化した場合の最大径は、歯先線LNtと歯底部13とに接する円Ctの直径Dtとなる。この直径Dtは、歯高Hbと等しい。
【0044】
経験上、歯1による送り1回分の切削による側面視の除去断面積Sbが、カール状の切削屑Wtが占める側面視の最大径での面積Stの7割を超えると、目詰まりを生じ易くなることが把握されている。
すなわち、除去断面積Sb≦面積St×0.7であるとよい。
ここで、面積St=(歯高Hb)×π/4である。
また、帯鋸刃51の切削における送り量を、一般的な軟鋼切削における0.03mmとし、被切削材の送り1回分の切削長を150mmとすると、被切削材の除去断面積Sbは、0.03×150(mm)である。
従って、
歯高Hb≧(0.03×150×(π/4)×0.7)0.5=2.86
となる。これにより、歯高Hbは、少なくとも3.0mm以上にすると目詰まりが生じにくく良好な排出が促進されるのでよい。
既述のように、歯高Hbは、強度の観点では10mm以下がよい。これらから、当て部14を有する帯鋸刃51におけるガレットGの深さは、3.0mm以上10mm以下とするのがよい。これは、帯鋸刃51Aについても同様である。
また、帯鋸刃51,51Aは、すべての歯が当て部14を有するものに限定されない。帯鋸刃51,51Aが備える複数の歯1のうちの、必要な歯1について当て部14を有するものとしてもよい。すなわち、帯鋸刃51,51Aは、複数の歯1のうちの少なくとも一つの歯が当て部14を有するものであればよい。
【0045】
本発明の実施の形態に係る鋸刃の実施例及び変形例として、帯鋸刃51及び帯鋸刃51Aを説明したが、鋸刃は円盤状の丸鋸刃であってもよい。
丸鋸刃の場合は、基準線LN51を直線ではなく円とする。また、当て位置基準面LNaを基準線LN51よりも大径で同心の円とし、歯底部13を円弧状に延びる面とし、当て角θBを当て部基準位置P1における接線となす角度として当て面14aを同様に設定することができる。
また、鋸刃の外周部において周方向に繰り返して形成された複数の歯のすべてが上述の当て部14を有していなくてもよく、複数の歯の一部が有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1,1A 歯
1Aa すくい面
11 切削チップ
11a 面取り部、 11a1 面取り面
11b チップ前面、 11c 逃げ面、 11t 先端部
12 連結部、 12a 連結面
13 歯底部
14 当て部、 14a 当て面
15a.15b 繋ぎ部
51,51A 帯鋸刃
511 胴部、 512 歯部、 513 端面
Ct 円
Dt 直径
G ガレット
Ha 距離、 Hb 歯高、 Hw 胴幅
La 距離
LNa 当て位置基準面、 LNb 面取り基準面、 LNt 歯先線
LNv 直交基準面、 LN51 基準線、 LN13 歯底基準面
P1 当て部基準位置、 P2 当接位置、 P3 接続点
Sb 除去断面積、 St 面積
W 被切削材、 Wt 切削屑
θA すくい角(角度)、 θB 当て角
θC 当接角度、 θC1 最大値、 θC2 最小値
α,β,β2,γ (角度の)範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7