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  • 特許-ハナバチ寿命延長剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】ハナバチ寿命延長剤
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/90 20160101AFI20220630BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20220630BHJP
   A01K 67/033 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A23K50/90
A23K20/163
A01K67/033 502
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018149091
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020022401
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100133260
【氏名又は名称】小林 基子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真裕子
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝昭
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】河合 政樹
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099065(JP,A)
【文献】特開平02-222654(JP,A)
【文献】特開2006-321786(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105055438(CN,A)
【文献】国際公開第2018/117198(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/90
A23K 20/163
A01K 67/033
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-ケストースを有効成分とする、ハナバチ寿命延長剤。
【請求項2】
請求項1に記載のハナバチ寿命延長剤を含有するハナバチ寿命延長用飼料。
【請求項3】
請求項1に記載のハナバチ寿命延長剤をハナバチに摂取させる工程を有する、ハナバチの飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-ケストースを有効成分とする、ハナバチ寿命延長剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミツバチやマルハナバチ等のハナバチ類は、野菜や果物といった農作物の受粉に極めて重要な役割を果たしている。また、ミツバチは、人間の生活に有用な蜂蜜や蜜ろう、プロポリスやローヤルゼリーを生産する。これらのことから、ハナバチは従来からヒトによって飼育され、農作物の受粉の媒介や、蜂蜜等の生産に用いられている。
【0003】
ハナバチの寿命は、種やコロニーにおける役割、生育環境などによって異なるが、例えば、ミツバチの働き蜂であれば、活発に活動する開花時期では30日程度、活動量が低下する越冬時期では140日程度であることが知られている。その寿命は、農薬や感染症などの影響を受け、より短くなる場合もある。
【0004】
係るハナバチの寿命を延ばすことができれば、蜂蜜等のハナバチ生産物や、それを介した受粉によって生産される農作物の生産性向上を図ることができる。そこで、ハナバチの寿命を延長する技術の開発が望まれており、例えば、特許文献1には、穀物由来の麹を発酵させた酸性発酵物を養蜂飼料に混ぜてミツバチに給餌することにより、寿命の長いミツバチを育成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平3-16101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、当該酸性発酵物を摂取させた試験区において、それを与えなかった対照区よりも1群当たりの蜂数が多くなったことを示しているに過ぎず、係る蜂数の増加が、女王蜂の産卵数の増加によるものか、幼虫の成育促進によるものか、あるいは寿命の延長によるものかは不明である。すなわち、これらの従来技術を鑑みても、ハナバチの寿命を延長する技術は未だ十分に提供されておらず、そのような技術の開発が求められていた。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、ハナバチの寿命を延長する剤、これを用いるハナバチ用飼料およびハナバチの飼育方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、1-ケストースが、ハナバチの寿命を延長する効果を有することを見出した。そこで、この知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0009】
(1)本発明に係るハナバチ寿命延長剤は、1-ケストースを有効成分とする。
【0010】
(2)本発明に係るハナバチ用飼料は、本発明に係るハナバチ寿命延長剤を含有する。
【0011】
(3)本発明に係るハナバチの飼育方法は、本発明に係るハナバチ寿命延長剤をハナバチに摂取させる工程を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハナバチの寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】左側は羽化後3日目(羽化後7日以内)のミツバチを、右側は羽化後11日目(羽化後7日超)のミツバチを、それぞれ示す写真である。後段の写真における白矢印は、胸部の毛を指している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るハナバチ寿命延長剤、ハナバチ用飼料およびハナバチの飼育方法について、詳細に説明する。
【0015】
本発明において、「ハナバチ」とは、ハチ目(Hymen optera)ハナバチ上科(Apoidea)に属する昆虫のうち、花を訪れ花蜜や花粉を採取する習性を持つものをいう。ハナバチとして、具体的には、例えば、ミツバチ(ミツバチ属(Apis)に属するハチ)、マルハナバチ(マルハナバチ属(Bombus)に属するハチ)、クマバチ(クマバチ亜科(Xylocopinae)に属するハチ)、ハリナシバチ(ハリナシバチ族(Meliponini)に属するハチ)、マメコバチ(ツツハナバチ属(Osmia)に属するハチ)などを挙げることができる。
【0016】
1-ケストースは、1分子のグルコースと2分子のフルクトースからなる三糖類のオリゴ糖である。1-ケストースは、スクロースを基質として、特開昭58-201980号公報に開示されているような酵素による酵素反応を行うことにより作ることができる。具体的には、まず、β-フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃~50℃で20時間程度静置することにより酵素反応を行って、酵素反応液を得る。この酵素反応液は1-ケストースを相当量含む糖液であるため、これをそのまま、本発明に係るハナバチ寿命延長剤あるいはハナバチ用飼料として用いることができる。
【0017】
一方、1-ケストースを精製する場合は、酵素反応液を、特開2000-232878号公報で開示されているようなクロマト分離法に供することよって、1-ケストースと他の糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖、4糖以上のオリゴ糖)とを分離して精製し、高純度1-ケストース溶液を得る。続いて、この高純度1-ケストース溶液を濃縮した後、特公平6-70075号公報に開示されているような結晶化法で結晶化することにより、1-ケストースを結晶として得ることができる。
【0018】
また、1-ケストースは市販のフラクトオリゴ糖に含まれているため、これをそのまま、あるいは、フラクトオリゴ糖から上述の方法により1-ケストースを分離精製して用いてもよい。すなわち、本発明の1-ケストースとして、1-ケストースを含有するオリゴ糖などの1-ケストース含有組成物を用いてもよい。1-ケストース含有組成物を用いる場合、1-ケストースの純度は80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。なお、本発明において、特定のオリゴ糖の「純度」とは、糖の総量を100%とした場合の、当該オリゴ糖の質量%をいう。
【0019】
ハナバチ寿命延長剤の形体は特に限定されず、例えば、粉末や塊などの固形状または液体状のいずれの形体であってもよい。また、本剤には、本発明の特徴を損なわない限りにおいて、他の成分を添加して用いてもよい。そのような添加物としては、例えば、1-ケストース以外の糖類、市販の代用花粉、花粉、大豆粉末やカゼイン、ビール酵母などの花粉代用物、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、ハチの誘引剤(キンリョウヘンやその成分、ナサノフ腺フェロモン、蜂蜜など)、その他賦形剤などを挙げることができる。
【0020】
ハナバチ寿命延長剤は、ハナバチに摂取させることにより使用する。簡便には、経口摂取させる方法を例示することができる。具体的には、本剤をそのまま、あるいは飼料や水に添加して、給餌器や給水器等の適当な容器に入れ、巣箱の中または近傍に置いておけばよい。本剤あるいはこれを添加した飼料等を液体状とする場合は、ハナバチが溺れないように、容器は底の浅いもので、ガラス製や樹脂製など表面が平滑なものは避け、木製などがよい。また、容器の中に割り箸や小枝、ロープなど足場になるようなものを入れることが好ましい。
【0021】
ハナバチ用飼料の形体もまた、特に限定されず、例えば、粉末や塊などの固形状または液体状のいずれの形体であってもよい。本発明に係るハナバチ用飼料は、従来のハチ用飼料と同様に使用することができる。
【0022】
ハナバチ寿命延長剤の有効成分の摂取量(投与量)は、ハナバチの種や週齢、季節などに応じて適宜設定することができる。例えば、後述の実施例に準ずれば、1日あたり、0.1~10g/1000匹、0.5~8g/1000匹、または1~5g/1000匹などとすることができる。
【0023】
以下、本発明について各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲はこれらの実施例によって示される特徴に限定されない。本実施例においては、別段の記載のない限り「%」は質量百分率(質量%)を意味する。また、固形分濃度は、試料に含まれる可溶性固形分の含有量を表す。固形分濃度は、糖用屈折計で測定し、単位を「°Bx」とするBrix値で表す。
【実施例
【0024】
<実施例1>1-ケストースの製造
特公昭59-53834号公報(第2~3頁)および特開2010-273580号公報(段落[0096])に記載の方法に準じて、スクロースを基質としてフラクトシルトランスフェラーゼの酵素反応を行い、1-ケストースを製造した。具体的には、まず、アスペルギルス・ニガーACE-2-1株(寄託番号:FERM P-5886)を酵素生産培地(5%スクロース、0.7%麦芽エキス、1%ポリペプトン、0.5%カルボキシメチルセルロース、0.3%NaCl)に植菌し、28℃で3日間培養した後、菌体を超音波で破砕して粗酵素液を調製した。45%スクロース水溶液(pH7.5)に、粗酵素液をスクロース1gあたり2.5単位の割合で添加して、40℃にて24時間反応させて酵素反応液を得た。酵素反応液を100℃で10分間加熱して酵素反応を停止させた後、ろ過してろ液を回収した。ろ液を定法により活性炭で脱色し、さらにイオン交換樹脂で脱塩して、これを1-ケストースを含有する糖液(供試試料)とした。
【0025】
<実施例2>糖組成
市販の養蜂用砂糖(固形品:一般社団法人日本養蜂協会)を用意し、これを比較対照の試料(対照試料)とした。供試試料および対照試料を下記の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して、糖組成(単糖・オリゴ糖の種類ならびにそれらの含有割合)を確認した。各糖の含有割合は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として、百分率で算出した。その結果を表1に示す。なお、表1において「-」は検出限界以下(0.1%以下)であることを示す。
《HPLCの条件》
カラム:Shodex SUGAR KS-802 HQ(8.0mm ID x 300mm) 2本
溶離液:高純水
流速:1.0mL/分
カラム温度:50℃
注入量:200μL
検出:示差屈折率検出器Shodex RI
【表1】
【0026】
表1に示すように、供試試料および対照試料のいずれも、比較的多量のスクロース、並びに少量のグルコースおよびフルクトースを含有していた。その一方で、供試試料は20%程度の1-ケストースを含有するのに対して、対照試料の1-ケストース含有量は検出限界以下であった。この結果から、供試試料は、1-ケストースを特有の成分として含有することが明らかになった。
【0027】
<実施例3>寿命延長効果
本実施例3は、外的因子を極力排除するためビニールハウス内で実施した。供試試料は固形分濃度を70°Bxとした。対照試料は、一般的な使用濃度である50°Bxとした(対照試料はスクロースを多く含むことから、70°Bxとすると粘性が高く、結晶が析出し易くて操作性が悪いため)。
【0028】
ビニールハウスを6棟および養蜂箱(1番~6番)を6個用意した。1棟のビニールハウスにつき1箱の養蜂箱を設置し、空の巣枠に約8,000匹/1箱のミツバチを投入した。半数(1~3番の養蜂箱)を試験群として供試試料を給餌し、残りの半数(4~6番の養蜂箱)を対照群として対照試料を給餌した。給餌は、2週間毎に、3000mLの試料を養蜂箱の給餌器に入れることにより行った。環境変化によるミツバチの混乱の影響を除くため、最初の4週間は環境適応期間とし、4週間経過後の初日を「0日目」として、以下(1)(2)の試験を行った。0日目には、ビニールハウス内の環境および養蜂箱内の様子(蜂数、活動量など)のいずれにも、大きな違いがないことを確認した。
【0029】
(1)試料消費量の確認
2週間毎の給餌の際に試料の残存量を計測し、3000mLから減ずることにより消費量(単位:mL)を算出した。これに固形分濃度を乗ずることにより試料消費量(固形分換算)(単位:g)を算出した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0030】
表2に示すように、試験期間中の試験群における試料消費量は、対照群と比較して同等以下であった。この結果から、後述の本実施例3(2)で示す試験群における寿命延長効果は、「ハチが試料を多く摂取したこと」に起因しないことが確認された。
【0031】
(2)寿命延長効果の確認
一般に、羽化後7日以内のミツバチは、図1左側に示すように胸部の毛が長く、その量が多い。これに対して、羽化後7日超のミツバチは、図1右側に示すように胸部の毛が短く、その量が少ない。このことから、試験期間の0日目に、胸部の毛が長く、量が多いものを羽化後7日以内の若蜂と判断して、養蜂箱1箱あたり300匹の若蜂の背にサインペンで印をつけた(マーキング)。その後、2週間毎に、マーキングしたミツバチ10匹を採取できるかどうかを確認した。10匹採取できた場合は評価を「○」とし、10匹採取できなかった場合は評価を「×」とした。評価が×の際は、採取できたミツバチの数を括弧内に記録した。その結果を表3に示す。
【表3】
【0032】
表3に示すように、マーキングしたミツバチの採取数は、試験群では、2週目、4週目、6週目および8週目のいずれの時点においても、1~3番の全ての養蜂箱で10匹の採取が可能で、評価が○であった。すなわち、試験群では、0日目において若蜂であったものの大多数が、8週目において未だ寿命を迎えておらず、生存していると推測される。
【0033】
これに対して、対照群では、マーキングしたミツバチの採取数は、6週目に4番の養蜂箱で4匹となり評価が×となった。そして8週目には、4~6番の全ての養蜂箱で0~1匹となり、評価が×となった。すなわち、対照群では、0日目において若蜂であったものの大多数が、8週目には寿命を迎えて死に絶えたと推測される。
【0034】
この結果から、供試試料に特有の成分である1-ケストースは、ハナバチの生存期間(寿命)を延長する効果を有することが明らかになった。
図1