(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】モノリス型分離膜構造体
(51)【国際特許分類】
B01D 63/06 20060101AFI20220630BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220630BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220630BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20220630BHJP
C04B 41/89 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
B01D63/06
B01D69/10
B01D69/12
C04B38/06 D
C04B41/89 A
(21)【出願番号】P 2018508583
(86)(22)【出願日】2017-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2017006382
(87)【国際公開番号】W WO2017169304
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2019-10-23
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2016071754
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】古川 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓
(72)【発明者】
【氏名】三浦 綾
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】山田 倍司
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/134514(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/001970(WO,A1)
【文献】特開2001-269921(JP,A)
【文献】国際公開第2012/128218(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/147272(WO,A1)
【文献】特表2010-532259(JP,A)
【文献】特開2014-46285(JP,A)
【文献】特開平07-124428(JP,A)
【文献】特開2000-203957(JP,A)
【文献】特開2009-262129(JP,A)
【文献】特開2001-104742(JP,A)
【文献】特開平11-005020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 63/06
B01D 69/04
B01D 69/10
B01D 69/12
C04B 38/06
C04B 41/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス多孔質体からなるモノリス型分離膜構造体であって、
第1端面から第2端面までそれぞれ連なる複数の濾過セルを有するモノリス型基材と、
前記濾過セルの内表面に形成される中間層と、
前記中間層の内表面に形成される分離膜と、
を備え、
前記複数の濾過セルそれぞれの前記中間層及び前記分離膜を含まない内径は、1.0mm以上2.0mm以下であり、
前記複数の濾過セルのうち隣接する2つの濾過セル間におけるモノリス型基材の最短部分の隔壁厚みは、0.05mm以上0.2mm未満であり、
前記中間層の厚みは、20μm以上100μm未満である、
モノリス型分離膜構造体。
【請求項2】
前記モノリス型基材は、前記第1端面から前記第2端面までそれぞれ連なり、両端部が封止された複数の集水セルを有し、
前記複数の濾過セルは、前記第1端面を平面視した場合に、所定方向に沿って並んだ2本以上の濾過セルをそれぞれ含む複数の濾過セル列を形成し、
前記複数の集水セルは、前記第1端面を平面視した場合に、前記所定方向に沿って並んだ2本以上の集水セルをそれぞれ含む複数の集水セル列を形成しており、
前記複数の集水セル列のうち2列の集水セル列の間には、前記複数の濾過セル列のうち2列以上9列以下の濾過セル列が配置されている、
請求項1に記載のモノリス型分離膜構造体。
【請求項3】
前記モノリス型基材は、前記複数の集水セル列をそれぞれ貫く複数の排出流路を有し、
前記複数の排出流路それぞれは、前記モノリス型基材の外周面に開口する開口部を含み、
前記モノリス型基材の軸心を中心とする周方向における前記開口部の幅は、前記集水セルの内径の10%以上80%以下である、
請求項1又は2に記載のモノリス型分離膜構造体。
【請求項4】
前記モノリス型基材の長手方向における前記開口部の長さは、前記長手方向における前記モノリス型基材の全長の3.3%以上40%以下である、
請求項3に記載のモノリス型分離膜構造体。
【請求項5】
前記モノリス型基材の外壁厚みは、前記隔壁厚みの10倍以上30倍以下である、
請求項1乃至4のいずれかに記載のモノリス型分離膜構造体。
【請求項6】
アイソスタティック強度が20MPa以上である、
請求項1乃至5のいずれかに記載のモノリス型分離膜構造体。
【請求項7】
単位体積当たりにおける前記複数の分離膜の面積は、1m
2/L以上である、
請求項1乃至6のいずれかに記載のモノリス型分離膜構造体。
【請求項8】
単位重量当たりにおける前記複数の分離膜の面積は、0.5m
2/kg以上である、
請求項1乃至7のいずれかに記載のモノリス型分離膜構造体。
【請求項9】
セラミックス多孔質体からなるモノリス型分離膜構造体の製造方法であって、
平均粒径が5μm以上40μm未満の骨材粒子を用いてモノリス型の成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼成することによって、第1端面から第2端面までそれぞれ連なる複数の濾過セルを有するモノリス型基材を形成する工程と、
前記濾過セルの内表面に中間層を形成する工程と、
前記中間層の内表面に分離膜を形成する工程と、
を備え、
前記モノリス型基材において、前記複数の濾過セルそれぞれの
前記中間層及び前記分離膜を含まない内径は、1.0mm以上2.0mm以下であり、前記複数の濾過セル間におけるモノリス型基材の最短部分の隔壁厚みは、0.05mm以上0.2mm未満であり、前記中間層の厚みは、20μm以上100μm未満である、
モノリス型分離膜構造体の製造方法。
【請求項10】
焼成された前記モノリス型基材の前記第1端面に切削加工を施すことによって、排出流路用の切り欠きを形成する工程と、
前記切り欠きに目封止部材を充填する工程と、
前記目封止部材を焼成する工程と、
を備える請求項9に記載のモノリス型分離膜構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノリス型分離膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のセルを有するモノリス型基材と、各セルの内表面に形成される中間層と、中間層の内表面に形成される分離膜とを備えるモノリス型分離膜構造体において、中間層の厚みと2セル間の基材の隔壁厚みとの相互関係を規定することによって、高温アルカリ処理後におけるモノリス型分離膜構造体の強度低下を抑制する手法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、中間層の厚みは100μm以上500μm以下が好ましく、基材の隔壁厚みは0.51mm以上1.55mm以下が好ましいとされている。
【0003】
また、特許文献2では、製造する際の焼成によってモノリス型基材が大きく変形してセルが閉じてしまうことを抑えるには、隔壁厚みは0.2mm以上が好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/128218号
【文献】特許第5599785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、モノリス型分離膜構造体の用途によっては、モノリス型分離膜構造体のさらなるコンパクト化又は/及び軽量化が望まれる場合がある。
【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、透過性能を維持しつつコンパクト化又は/及び軽量化可能なモノリス型分離膜構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るモノリス型分離膜構造体は、モノリス型基材と、中間層と、分離膜とを備える。モノリス型基材は、第1端面から第2端面まで連なる複数の濾過セルを有する。中間層は、濾過セルの内表面に形成される。分離膜は、中間層の内表面に形成される。複数の濾過セルそれぞれの中間層及び分離膜を含まない内径は、1.0mm以上2.0mm以下である。複数の濾過セルのうち隣接する2つの濾過セルどうしの最短部分の、中間層及び分離膜を含まない隔壁厚みは、0.05mm以上0.2mm未満である。中間層の厚みは、20μm以上100μm未満である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、透過性能を維持しつつコンパクト化又は/及び軽量化可能なモノリス型分離膜構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】製造過程のうち分離膜の前駆体溶液を流入する状態の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
以下の説明において、「モノリス」とは、長手方向に貫通した複数のセルを有する形状を意味し、ハニカムを含む概念である。
【0012】
(モノリス型分離膜構造体100の構成)
図1は、モノリス型分離膜構造体100の斜視図である。
図2は、第1端面11Sの平面図である。
図3は、
図2のA-A断面図である。
【0013】
(構造の概要)
図1~3に示されるモノリス型分離膜構造体100は、セラミックス多孔質体から成り、かつ両端面11S,11T及び外周面11Uを有するモノリス型基材10を具備する。モノリス型基材10の外形は円柱形である。モノリス型基材10は、複数の濾過セル24と、複数の集水セル25とを備える。複数の濾過セル24は、一方の端面11Sから他方の端面11Tまで貫通し(
図1において概ね横方向に)列をなして形成されている。複数の集水セル25は、一方の端面11Sから他方の端面11Tまで貫通し(
図1において概ね横方向に)列をなして形成されている。
【0014】
モノリス型分離膜構造体100では、濾過セル24と集水セル25の断面形状は円形である。濾過セル24は、両端面11S,11Tに開口している。集水セル25は、両端面11S,11Tの開口が目封止部12,13で封止され、集水セル25が外部空間と連通するように、排出流路26が設けられている。又、断面形状が円形である濾過セル24の内壁面には、中間層20と分離膜30が配設されている。
【0015】
モノリス型分離膜構造体100では、連通した複数の集水セル25の列25L毎に、両端面11S,11Tの近傍に、排出流路26が2つ形成されている。モノリス型分離膜構造体100において、集水セル25は5列あり、排出流路26は、その列毎に、複数の集水セル25どうしを連通させ、且つ、モノリス型基材10の外周面11Uに開口している。
図1~3では、モノリス型分離膜構造体100内に集水セル列25Lが5列存在するため、モノリス型分離膜構造体100における排出流路26の数は、両端合わせて10である。
【0016】
以上のような構成とすることによって、濾過セル24内に流入する混合流体(液体混合物や気体混合物)と濾過セル24を透過した成分を効率よく分離することができる。より具体的には、濾過セル24の内表面の分離膜30を透過した透過成分は、中間層20を透過して、モノリス型基材10の隔壁内部を構成する多孔質体内を順次通過して外壁面11Uより排出されるが、より内側の濾過セル24ほど隔壁(多孔質体)内を長距離に渡って透過する必要がある。そこで、集水セル25および排出流路26を設けることにより、本来濾過セル24間の隔壁内を延々と通過するところ、圧力損失の少ない集水セル25および排出流路26を通過して容易に外部に排出することが可能である。
【0017】
モノリス型分離膜構造体100は、混合流体がモノリス型基材10の両端面11S,11Tの多孔質体部分から直接流入し、所定の濾過セル24の内壁面に形成された分離膜30で分離されることなく流出することを防止するために、混合流体が流入するモノリス型基材10の両端面11S,11Tの多孔質体を覆うようにシール部14,15を備える。なお、分離膜30が配設された濾過セル24の両端はシール部14,15に連なって開口している。複数の濾過セル24それぞれの内表面には、中間層20と分離膜30が順次形成されている。
【0018】
(各構造の最適な構成)
モノリス型基材10は、円柱状に形成される。長手方向におけるモノリス型基材10の長さは100~2000mmとすることができる。モノリス型基材10の直径は30~220mmとすることができる。モノリス型基材10は、楕円柱や多角柱であってもよい。
【0019】
濾過セル24の中間層20及び分離膜30を含まない内径C1は、1.0mm以上2.0mm以下である。内径C1を2.0mm以下とすることによって、濾過セル24を高密度化して分離膜30の総表面積を大きくしてモノリス型分離膜構造体100をコンパクト化又は/及び軽量化することができる。総表面積を大きくするといった観点からは、内径C1が小さいほど濾過セル24を高密度化できるため良いが、中間層20の成膜時にスラリー詰まりが生じることがあるため、実質的に1.0mm以上とすることができる。製造においてスラリー詰まりを生じさせ難く、かつ総表面積を大きくできるといった観点から、内径C1は、1.10mm以上1.85mm以下であることがより好ましい。
【0020】
隣接する2本の濾過セル24どうしの最短部分の、中間層20及び分離膜30を含まない隔壁厚みD1は、0.05mm以上0.2mm未満である。モノリス型基材10の隔壁厚みD1を0.2mm未満とすることによって、濾過セル24を高密度化して分離膜30の総表面積を大きくすることができる。総表面積を大きくするといった観点からは、隔壁厚みD1が小さいほど濾過セル24を高密度化できるため良いが、小さすぎると強度が不足して、製造時又は/及び使用時にモノリス型基材10の内壁構造が崩れることがあるため、実質的に0.05mm以上とすることができる。モノリス型基材10の内壁構造が崩れ難く、かつ総表面積を大きくできるといった観点から、隔壁厚みD1は、0.10mm以上0.18mm以下であることがより好ましい。
【0021】
なお、本実施形態では、隣接する濾過セル24間の全箇所において隔壁厚みD1が統一されているが、複数種の隔壁厚みD1が存在していてもよい。複数種の隔壁厚みD1が存在する場合、全箇所のうち33%以上の箇所において隔壁厚みD1が0.05mm以上0.2mm未満であることが好ましい。
【0022】
複数の濾過セル24のうち最外周に位置する濾過セル24と外周面11Uとの最短部分の、中間層20及び分離膜30を含まない厚み(外壁厚みD2)は、濾過セル24どうしの隔壁厚みD1の10倍以上30倍以下であることが好ましい。外壁厚みD2を隔壁厚みD1の10倍以上とすることによって、装置への組み付け等で受ける外力に対し、十分な強度を維持することができる。一方で、外壁厚みD2を無為に大きくすると、コンパクト化又は/及び軽量化の効果が相殺されてしまうため、外壁厚みD2を隔壁厚みD1の30倍以下とすることが好ましい。なお、組み付け等による外力に耐えるといった観点から、モノリス型分離膜構造体100の長手方向における圧縮強度は5MPa以上であることが好ましい。
【0023】
図2に示すように、第1端面11Sを平面視した場合、複数の濾過セル24は、複数の濾過セル列24Lを形成している。複数の濾過セル列24Lそれぞれは、長手方向に直交する短手方向(所定方向の一例)に沿って並べられた2本以上の濾過セル24を含む。本実施形態では、28列の濾過セル列24Lが形成されており、各列に7本~29本の濾過セル24が並んでいるが、濾過セル列24Lの列数や各列に含まれる濾過セル24の本数は適宜変更可能である。
【0024】
図3に示すように、集水セル25は、モノリス型基材10の長手方向に沿って形成される。集水セル25の両端部は、第1目封止12と第2目封止13によって封止されており、第1シール部14と第2シール部15に開口しない。集水セル25の内表面には、中間層20と分離膜30が形成されていない。
【0025】
集水セル25の内径C2は、0.5mm以上3.0mm以下とすることができる。総表面積を大きくするといった観点からは、内径C2は小さいほど濾過セル24を高密度化できるため良いが、透過分離成分の透過抵抗を低減するといった観点からは、内径C2は大きいほど良いため、モノリス型分離膜構造体100の使用条件によって適宜選択される。なお、製造の容易さといった観点からは、内径C2は、1.0mm以上2.0mm以下であることが好ましい。内径C2は、濾過セル24の中間層20及び分離膜30を含まない内径C1と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0026】
隣接する濾過セル24と集水セル25の最短部分の、中間層20及び分離膜30を含まない隔壁厚みD3は、0.05mm以上0.2mm未満とすることができる。隔壁厚みD3を0.2mm未満とすることによって、総表面積を大きくすることができる。総表面積を大きくするといった観点からは、隔壁厚みD3が小さいほど濾過セル24を高密度化できるため良いが、小さすぎると強度が不足して、製造時又は/及び使用時にモノリス型基材10の内壁構造が崩れることがあるため、実質的に0.05mm以上とすることができる。モノリス型基材10の内壁構造が崩れ難く、かつ総表面積を大きくできるといった観点から、隔壁厚みD3は、0.1mm以上0.18mm以下であることがより好ましい。また、図示しないが、隣接する集水セル25どうしの間隔も0.05mm以上0.2mm未満とすることができ、0.1mm以上0.18mm以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、本実施形態では、隣接する濾過セル24と集水セル25の間の全箇所において隔壁厚みD3が統一されているが、複数種の隔壁厚みD3が存在していてもよい。複数種の隔壁厚みD3が存在する場合、全箇所のうち33%以上の箇所において隔壁厚みD3が0.05mm以上0.2mm未満であることが好ましい。
【0028】
図2に示すように、第1端面11Sを平面視した場合、複数の集水セル25は、複数の集水セル列25Lを形成している。複数の集水セル列25Lそれぞれには、短手方向(所定方向の一例)に沿って並べられた2本以上の集水セル25を含む。本実施形態では、5列の集水セル列25Lが互いに離れた位置に配置されており、各列に22本~29本の集水セル25が並んでいるが、集水セル列25Lの位置及び列数や各列に含まれる集水セル25の本数は適宜変更可能である。
【0029】
2列の集水セル列25Lの間には、4列又は5列の濾過セル列24Lが配置されている。すなわち、1列の集水セル列25Lの両側には、4列又は5列の濾過セル列24Lが配置されている。2列の集水セル列25Lの間に配置される濾過セル列24Lの列数(集水セル列間濾過セル列数)は、2列以上9列以下であることが好ましい。集水セル列間濾過セル列数を9列以下とすることによって、集水セル列25Lの間に位置する濾過セル24のうち、最も内側に位置する濾過セル24から集水セル25へ至るまでの透過成分の流れる距離を短くすることができる。
【0030】
ここで、透過成分の流れが律速することを抑制できるといった観点からは、集水セル列間濾過セル列数は少ないほどよいが、少なくすることによって相対的に集水セル25の数が増え、濾過セル24の数が減って分離膜30の総表面積を減ずることになる。分離膜30の総表面積を所定量より減らし過ぎないといった観点からは、集水セル列間濾過セル列数を2列以上とすることが好ましい。なお、濾過セル24から集水セル25へいたるまでの透過成分の圧力損失を低減し、かつ分離膜30の総表面積を高く維持するといった観点から、集水セル列間濾過セル列数は、4列以上6列以下であることが特に好ましい。
【0031】
図1に示すように、排出流路26は、外周面11Uに開口する開口部26aを有する。モノリス型基材10の軸心AXを中心とする周方向における開口部26aの幅W1は、集水セル25の内径C2の10%以上80%以下とすることができ、開口部26aの面積を大きくして透過成分の圧力損失を低減するといった観点から内径C2の16%以上、製造における切削加工が容易であるといった観点から50%以下であることが好ましい。
【0032】
モノリス型基材10の長手方向における2本の開口部26aの長さL1の総和(すなわち、L1+L1)は、長手方向におけるモノリス型基材10の全長L2の3.3%以上40%以下とすることができ、開口部26aの面積を大きくして透過成分の圧力損失を低減するといった観点から全長L2の9%以上が好ましく、モノリス型分離膜構造体100の機械的強度の観点から17%以下であることが好ましい。これによって、集水セル25に集められた透過成分(流体)の圧力損失を低減することができるため、透過成分の透過速度を向上させることができる。
【0033】
なお、ここで開口部26aは両端部のうち一方のみに配置されていてもよく、または両端部に加えて長手方向の途中に穿設されていてもよい。透過成分が均等に排出されるといった観点からは、少なくとも両端部に配置されていることが好ましい。また、複数の開口部が設置される場合、各々の開口長さは等しくてもよく、異なっていてもよい。なお、排出流路26の本数、形状及び位置は、全集水セル列25Lにおいて同じでもよく、異なっていてもよい。
【0034】
第1目封止12と第2目封止13は、全ての集水セル25に配置される。各集水セル25の両端部には第1目封止12と第2目封止13が対向して配置される。第1目封止12と第2目封止13は、多孔質材料によって構成することができる。第1目封止12と第2目封止13の充填深さは、5~20mm程度とすることができる。
【0035】
第1シール部14は、第1端面11Sの全面と外周面11Uの一部を覆う。第1シール部14は、混合流体が第1端面11Sに浸潤することを抑制する。第1シール部14は、濾過セル24の流入口を塞がないように形成される。第1シール部14は、第1目封止12を覆う。第1シール部14を構成する材料としては、ガラスや金属、ゴム、樹脂などを用いることができ、モノリス型基材10の熱膨張係数との整合性を考慮するとガラスが好適である。
【0036】
第2シール部15は、第2端面11Tの全面と外周面11Uの一部を覆う。第2シール部15は、混合流体が第2端面11Tに浸潤することを抑制する。第2シール部15は、濾過セル24の流出口を塞がないように形成される。第2シール部15は、第2目封止13を覆う。第2シール部15は、第1シール部14と同様の材料によって構成することができる。
【0037】
(モノリス型基材10)
次に、モノリス型基材10について説明する。
【0038】
モノリス型基材10は、骨材と結合材を含有する。骨材としては、アルミナ、炭化珪素、チタニア、ムライト、セルベン、及びコージェライトなどを用いることができる。結合材は、骨材成分より低い温度で溶融し、骨材同士を連結させる無機酸化物材料のことである。結合材としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等を含むアルミナ、シリカ系の無機酸化物材料を用いることができる。
【0039】
モノリス型基材10における骨材の含有率は、60体積%以上80体積%以下とすることができ、65体積%以上75体積%以下が好ましい。骨材の含有率は、アルキメデス法によって測定することができる。
【0040】
結合材としての酸化物材料は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方と、ケイ素(Si)と、アルミニウム(Al)とを含むガラス材料である。アルカリ金属としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びリチウム(Li)のうち少なくとも1つを用いることができる。酸化物材料は、アルカリ金属をアルカリ金属酸化物として含んでいてもよい。アルカリ土類金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)のうち少なくとも1つを用いることができる。酸化物材料は、アルカリ土類金属をアルカリ土類金属酸化物として含んでいてもよい。酸化物材料は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の両方を含むことが好ましい。酸化物材料は、SiをSiO2として含んでいてもよい。酸化物材料は、AlをAl2O3として含んでいてもよい。
【0041】
モノリス型基材10における酸化物材料の含有率は、20体積%以上40体積%以下とすることができ、25体積%以上35体積%以下が好ましい。酸化物材料の含有率酸化物材料の含有率は、アルキメデス法によって測定することもできる。
【0042】
モノリス型基材10の気孔率は特に制限されるものではないが、25%~50%とすることができ、30%~45%であることが好ましい。モノリス型基材10の気孔率は、水銀圧入法によって測定することができる。
【0043】
モノリス型基材10の平均細孔径は特に制限されるものではないが、0.1μm~50μmとすることができ、中間層20を成膜しやすいといった観点から1μm~10μmであることがより好ましい。
【0044】
(中間層20)
中間層20は、濾過セル24の内表面に形成される。中間層20は、筒状に形成される。
【0045】
中間層20は、骨材と結合材を含有する。骨材としては、アルミナ、チタニア、ムライト、セルベン、及びコージェライトなどを用いることができる。結合材は、骨材成分が焼結しない温度で焼結固化する無機成分のことである。結合材としては、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、及び易焼結性コージェライトなどを用いることができる。
【0046】
中間層20における無機固形分(骨材+結合材)中の結合材割合は、5質量%以上42質量%以下とすることができ、中間層20が高強度であるいった観点から28質量%以上42質量%以下が好ましく、30質量%以上42質量%以下がより好ましい。
【0047】
本実施形態に係る中間層20は、
図3に示すように、第1中間層21と第2中間層22を有する。第1中間層21は、モノリス型基材10の濾過セル24の内表面に形成される。第2中間層22は、第1中間層21の内表面に形成される。第2中間層22の平均細孔径は、第1中間層21の平均細孔径よりも小さいことが好ましい。例えば、第1中間層21の平均細孔径が1μm程度である場合には、第2中間層22の平均細孔径は0.1μm程度とすることができる。
【0048】
なお、中間層20は、第1中間層21と第2中間層22の二層構造に限らず、一様な平均細孔径を有する1つの中間層によって構成される単層構造であってもよいし、分離膜30に近いほど小さな平均細孔径を有する3以上の中間層によって構成される多層構造であってもよい。
【0049】
中間層20の厚みE1は、20μm以上100μm未満である。中間層20の厚みE1を100μm未満とすることによって、分離膜30の表面積を大きくすることができる。表面積を大きくするといった観点からは、中間層20の厚みE1は小さいほどよく、100μm未満であることが望ましいが、小さすぎると中間層20の表面が十分平滑化されず、欠陥が発生しやすくなるため、実質的には20μm以上とすることができる。なお、欠陥による不良の発生頻度を抑制しながら分離膜30の表面積をできるだけ大きくするといった観点から、中間層20の厚みE1は、40μm以上80μm未満であることがより好ましい。
【0050】
(分離膜30)
分離膜30は、中間層20の内表面に形成される。分離膜30は、筒状に形成される。分離膜30は、混合流体に含まれる透過分離成分を透過させる。モノリス型分離膜構造体100の分離機能は、分離膜30によって発揮される。分離膜30の平均細孔径は、要求される濾過性能及び分離性能に基づいて適宜決定することができる。例えば、分離膜30の平均細孔径は、例えば0.0003μm(0.3nm)~1.0μmとすることができるが特に制限されるものではない。分離膜30の平均細孔径は、ASTM F316に記載のエアフロー法により測定することができる。
【0051】
分離膜30としては、公知のMF(精密濾過)膜、UF(限外濾過)膜、ガス分離膜、浸透気化膜、或いは蒸気透過膜などを用いることができる。具体的に、分離膜30としては、セラミック膜(例えば、特開平3-267129号公報、特開2008-246304号公報参照)、一酸化炭素分離膜(例えば、特許第4006107号公報参照)、ヘリウム分離膜(例えば、特許第3953833号公報参照)、水素分離膜(例えば、特許第3933907号公報参照)、炭素膜(例えば、特開2003-286018号公報参照)、ゼオライト膜(例えば、特開2004-66188号公報参照)、シリカ膜(例えば、国際公開第2008/050812号パンフレット参照)、有機無機ハイブリッドシリカ膜(特開2013-203618号公報)、p-トリル基含有シリカ膜(特開2013-226541号公報)などが挙げられる。
【0052】
分離膜30の内径E2は、0.8mm以上1.96mm以下とすることができる。分離対象である混合流体を流通させやすく、かつ分離膜30の総評面積を大きくできるといった観点から、内径E2は、1.2mm以上1.8mm以下であることが好ましい。内径E2は、分離膜30の最大内径である。各濾過セル24中の分離膜30の総表面積を合算したものがモノリス型分離膜構造体100の「膜面積」である。
【0053】
以上のように、本実施形態に係るモノリス型分離膜構造体100では、濾過セル24の内径C1が1.0mm以上2.0mm以下であり、隣接する濾過セル24どうしの隔壁厚みD1が0.05mm以上0.2mm未満であり、中間層20の厚みE1が20μm以上100μm未満である。従って、分離膜30の総表面積を大きくすることができるため、モノリス型分離膜構造体100の単位体積当たりにおける分離膜30の面積を1m2/L以上とし、モノリス型分離膜構造体100の単位重量当たりにおける分離膜30の面積を0.5m2/kg以上とすることができる。その結果、モノリス型分離膜構造体100の透過性能を維持しながらモノリス型分離膜構造体100をコンパクト化又は/及び軽量化することができる。
【0054】
(モノリス型分離膜構造体100の製造方法)
最初に、モノリス型基材10の原料を、例えば、真空押出成形機を用い、押出成形して、濾過セル24と集水セル25を有するモノリス型の成形体を得る。モノリス型基材10の原料としては、例えば、骨材粒子と無機結合材に、メチルセルロース等の有機バインダ、分散材及び水を加えて混練して調製した坏土を挙げることが出来る。骨材粒子として、具体的には、アルミナ、炭化珪素、ムライト、セルベン、及びコージェライトからなる群より選択される少なくとも一のセラミック材料を好適に用いることが出来る。
【0055】
この際、用いられる骨材粒子の平均粒径は5μm以上、40μm未満とすることができる。40μmより大きい場合は、本発明のように隔壁厚みの薄いモノリス型基材10を押出成形する際に、口金に坏土が詰まって成形できなることがあるためである。一方、5μm以下の場合は、材料強度が不足してモノリス型基材10の構造を維持できなくなることがあるためである。なお、本発明の隔壁厚みの薄いモノリス型基材10をより好適に押出成形できるといった観点からは、骨材粒子の平均粒径は10μm以上、25μm以下であることがより好ましい。
【0056】
また、無機結合材としての酸化物材料は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方と、ケイ素(Si)と、アルミニウム(Al)とを含むガラス材料である。アルカリ金属としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びリチウム(Li)のうち少なくとも1つを用いることができる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)のうち少なくとも1つを用いることができる。酸化物材料は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の両方を含むことが好ましい。酸化物材料は、SiをSiO2として含んでいてもよい。酸化物材料は、AlをAl2O3として含んでいてもよい。具体的には、カオリン、タルク、長石、ドロマイト、粘土、珪砂等の天然原料を用いてもよいし、電融アルミナ、シリカ、炭酸カルシム等の工業原料を用いてもよく、これらを混合して用いても良い。
【0057】
また、用いられる無機結合材の平均粒径は、0.1μm以上、10μm以下とすることができる。10μm以下であると、焼成で溶融しやすい又は/及び骨材粒子間に高分散して高強度なモノリス型基材10を提供できる。より骨材粒子間に高分散できると言った観点から、無機結合材の平均粒径は小さいほうがよいが、原料が細かいほどコスト高となる傾向であるため、実質的に0.1μm以上とすることができる。なお、上述した平均粒径が10μm以上、25μm以下である骨材粒子と共に用いるといった観点からは、無機結合材の平均粒径は0.5μm以上、5μm以下であることがより好ましい。
【0058】
そして、得られたモノリス型の成形体を、例えば、900~1600℃で焼成してモノリス型基材を得、その外周面の一の部位から集水セル25を貫通して他の部位まで連通する排出流路26を形成して、排出流路26が形成されたモノリス型基材を得る。排出流路用の切り欠きは、例えば、排出流路26を形成すべき両端面にレーザー照準を当てながら、ダイヤモンド砥粒を施したバンドソーやディスクカッター、ワイヤーソー等を用いて切削することによって形成することが出来る。当該切削時は、モノリス型基材と切削加工具の摩擦によって、ダイヤモンド砥粒が脱粒する又は/及び熱が発生することで切削加工具の寿命を短くするため、水等の溶媒を使って摩擦又は/及び熱を軽減させることができる。
【0059】
排出流路26の幅W1を好適なものとするために、バンドソーやディスクカッター、ワイヤーソー等の切削工具の厚みを選択することができ、その際、狙いとする幅W1に対して切り代分を減じた厚みとすることができる。例えば、排出流路26の幅W1として0.8mmを狙いとする場合は、切り代分を減じた0.6mmの厚みを持つダイヤモンドディスクを選択することができる。なお、幅W1は、切削加工が容易であるといった観点から、当該排出流路26を形成する集水セル25の内径C2の50%以下であることがより好ましい。内径C2に対して幅W1の割合が大きいと、レーザー照準の精度や、切削時の加工精度によって濾過セル24と集水セル25間の隔壁を突き破ってしまうことがあるためである。
【0060】
排出流路26の切削に当っては、長手方向に切り進む距離を調整することで、好適な排出流路26の長さL1を選択することができる。切り進む切削速度は、モノリス型基材の強度や発生する摩擦熱などを考慮して適宜選択されるが、0.1~50mm/secとすることができる。0.1mm/sec以下であると切削時間がかかり過ぎるために好ましくなく、50mm/sec以上であるとモノリス型基材に過度に応力がかかって破損させることがあるために好ましくない。加工具の寿命を短くすること無く、かつ容易に加工できるといった観点から、切削速度は0.5~10mm/secであることがより好ましい。
【0061】
なお、用いる切削加工具によっては、排水流路26の切削面は直線ではなく、特にディスクカッターを用いた場合は、内部で扇状になることがあるが、この場合は、外周面11Uに形成された開口長さを開口部26aの長さL1とする。さらに、透過成分の排出を好適なものとするために、両端部以外の胴体部にドリル、リューター、ウォーターカッター等を用いて排出流路を穿設することもできる。
【0062】
次いで、得られたモノリス型基材における、排出流路用の切り欠きが形成された集水セルの両端面から、排出流路26に達するまでの空間内に目封止部材を充填する。
【0063】
具体的には、モノリス型基材の両端面にポリエステル等のフィルム(マスキング)を添付し、排出流路26に対応する部分にレーザー照射等によりフィルムに穴を穿設する。その後に、モノリス型基材のフィルムを添付した端面を、目封止部材(スラリー)が満たされた容器内に押し付け、更に、エアシリンダ等で、例えば、200kgで加圧して充填する。そして、得られた目封止部材充填未焼成モノリス型基材を、例えば、900~1400℃で焼成して目封止部材充填モノリス型基材を得る。
【0064】
そして、目封止部材充填モノリス型基材の濾過セル24の内壁面に、分離膜30の下地となる中間層20を形成する。中間層20を形成する(成膜する)ためには、先ず中間層用スラリーを調製する。中間層用スラリーは、所望の粒径の(例えば、平均粒径1~5μmの)、アルミナ、ムライト、チタニア、コージェライト等のセラミックス原料100質量部に、400質量部の水を加えて調製することが出来る。
【0065】
また、この中間層スラリーには、焼結後の膜強度を上げるために膜用無機結合材を添加してもよい。膜用無機結合材は、粘土、カオリン、チタニアゾル、シリカゾル、ガラスフリット等を用いることが出来る。膜用無機結合材の添加量は、膜強度の点から5~42質量部であることが好ましい。この中間層用スラリーを(例えば特開昭61-238315号公報において開示されている装置を用いて)、濾過セル24の内壁面に付着させ、乾燥した後、例えば、900~1050℃で焼結させることで中間層20を成膜することが出来る。
【0066】
中間層20は、平均粒径を変えた複数の種類のスラリーを用いて中間層21と中間層22のように複数層に分けて成膜することも出来、そうすれば、本発明のモノリス型分離膜構造体100のように、例えば複数層の中間層20を有するものとすることが出来る。複数層の中間層20を成膜する場合は、成膜工程と焼成工程を中間層毎に実施してもよいし、複数の成膜工程を繰り返した後に、一体として焼成してもよい。中間層20の上に分離膜30を配設することによって、モノリス型基材の表面の凹凸の影響を中間膜20によって減少させることが出来る。その結果、分離膜30を薄膜としても、欠陥を少なくすることが可能である。即ち、高フラックス、低コスト、高分離能を有するモノリス型分離膜構造体100を得ることが出来る。
【0067】
次に、得られた中間層付モノリス型基材の端面に、ガラス原料スラリーをスプレー噴霧や刷毛で塗布した後、例えば、800~1000℃で焼成することで、第1及び第2シール部14,15の成形体を形成する。ガラス原料スラリーは、例えば、ガラスフリットに水と有機バインダを混合することによって調製する。以上、第1及び第2シール部14,15の材料がガラスである場合を述べたが、第1及び第2シール部14,15は、分離対象である混合流体と分離後に排出流路26から排出される分離流体を通さないものであればよく、例えばシリコン樹脂やテフロン(登録商標)樹脂等を用いてもよい。なお、中間層20を複層構造とする場合には、中間層20の形成途中に第1及び第2シール部14,15の成形体を形成してもよい。
【0068】
次に、中間層20内表面に分離膜30を形成する。ここで、分離膜30の平均細孔径が1nmよりも小さく、圧力損失低減のためにより薄膜化が必要な場合は、中間層20と分離膜30の間にさらに下地層を配設することが好ましい。例えば、中間層20の上に、チタンイソプロポキシドを硝酸の存在下で加水分解してチタニアゾル液を得、水で希釈して下地層用ゾルを調製し、調製した下地層用ゾルを、中間層付モノリス型基材の所定のセルの内壁面に流通した後、例えば、400~500℃で熱処理することによって、下地層を成膜しておくことが望ましい。
【0069】
分離膜30がシリカ膜である場合、前駆体溶液(シリカゾル液)は、有機シラン化合物を硝酸の存在下で加水分解してゾル液とし、例えば、エタノール等の有機溶媒で希釈することで調製することが出来る。また、有機溶媒で希釈する代わりに、水で希釈することも可能である。そして、例えば、
図4に示されるように、下地層が形成されたモノリス型基材10の外周面11Uを、マスキングテープ71でシールし、図示しない広口ロート下端に第1端面11Sを固定し、モノリス型基材10の上方から、シリカ膜となる前駆体溶液70(シリカゾル液)を流し込み、濾過セル24の表面(下地層)を通過させ、あるいは、一般的なディッピングによって、前駆体溶液70を、濾過セル24の表面(下地層)に付着させる。その後、100℃/時にて昇温し、例えば、350~500℃で1時間保持した後、100℃/時で降温する。このような流し込み、乾燥、昇温、降温の操作を1~5回繰り返すことによって、シリカ膜を配設することが出来る。以上により、分離膜30がシリカ膜であるモノリス型分離膜構造体が得られる。
【0070】
分離膜30の形成方法としては、以上のように分離膜30の種類に応じた適切な方法を用いればよい。本明細書では、上述した各公報に記載された分離膜30の作製方法を引用する。
【0071】
(その他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0072】
モノリス型分離膜構造体100は、濾過セル24と集水セル25を備えることとしたが、集水セル25を備えていなくてもよい。この場合、モノリス型分離膜構造体100は、排出流路26を備えていなくてもよい。
【0073】
濾過セル24の内径C1は全て等しいこととしたがこれに限られるものではない。集水セル25の内径C2は全て等しいこととしたがこれに限られるものではない。
【0074】
第1及び第2シール部14,15それぞれは、外周面11Uの一部を覆っていることとしたが、外周面11Uを覆っていなくてもよい。
【実施例】
【0075】
以下において本発明に係るモノリス型分離膜構造体の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1~3、5~11の作製)
以下のようにして、実施例1~3、5~11に係るモノリス型分離膜構造体を作製した。
【0077】
まず、平均粒径12μmのアルミナ粒子(骨材)70体積%に対して無機結合材30体積%を添加し、更に必要に応じて有機バインダ等の成形助剤や造孔剤を添加して乾式混合した後、水、界面活性剤を加えて混合し混練することにより坏土を調製した。無機結合材としては、平均粒径が1~5μmであるタルク、カオリン、長石、粘土等をSiO2(70質量%)、Al2O3(16質量%)、アルカリ土類金属およびアルカリ金属(11質量%)が狙いの含有率となるように適宜混合したものを用いた。
【0078】
次に、坏土を押出成形して、多数のセルを有するモノリス型の成形体を作成した。得られた成形体を焼成(1250℃、1時間)してモノリス型基材を得た。焼成後のモノリス型基材のサイズは、直径63mmφ×長さ300mmであった。
【0079】
次に、モノリス型基材の両端面それぞれにおいて、集水セル列に沿ってダイヤモンドディスクカッターで切り込みを入れた。この際、ダイヤモンドディスクの厚みと長手方向に切り進む距離を調整することによって、表1に示すように排出流路の開口部の幅と長さの総和を変更した。なお、切り込みを入れる位置は、2列の集水セル列の間に配置される濾過セル列の列数(集水セル列間濾過セル列数)が表1に示すようになるように実施例ごとに変更した。
【0080】
次に、モノリス型基材の両端面にポリエステルフィルムを貼付し、集水セル列に対応する部分にレーザー照射によって孔を穿設した。
【0081】
次に、モノリス型基材の両端部をスラリー状態の目封止部材に押し付けた。目封止部材は、主成分のアルミナ骨材へガラス結合材を添加し、更に水とバインダを加えて混合したものを用いた。
【0082】
次に、目封止部材が充填されたモノリス型基材を焼成(950℃、1時間)して、目封止部材充填モノリス型基材を得た。
【0083】
濾過セルの内径、隔壁厚さ、外壁厚さ、本体部の外周面に開口する排出流路の開口幅および開口長さの総和は表1に示す通りであった。なお、集水セルの内径、集水セルどうしの隔壁厚さ、および濾過セルと集水セルの間の隔壁厚さは、濾過セルと同じであった。
【0084】
次に、平均粒径2.3μmのアルミナ粒子(骨材)100質量部に対して無機結合材14質量部を添加し、更に水、分散材、及び増粘剤を加えて混合することにより第1中間層用スラリーを調製した。そのスラリーを用い、特公昭63-66566号公報に記載の濾過成膜法により、濾過セル用貫通孔の内周面にスラリーを付着させた。その後、大気雰囲気下、電気炉にて焼成(950℃、1時間)することによって、第1中間層を形成した。なお、無機結合材としては、SiO2(77モル%)、ZrO2(10モル%)、LiO2(3.5モル%)、Na2O(4モル%)、K2O(4モル%)、CaO(0.7モル%)及びMgO(0.8モル%)を含有するガラス原料を、1600℃で溶融して均一化し、これを冷却した後に平均粒径1μmとなるように粉砕したものを用いた。
【0085】
次に、平均粒径0.3μmのチタニア粒子(骨材)100質量部に対して無機結合材20質量部を添加し、有機バインダとpH調整剤と界面活性剤などを混合して第2中間層用スラリーを調製した。
【0086】
次に、第2中間層用スラリーを第1中間層の内表面に濾過法で堆積させることによって、第2中間層の成形体を形成した。
【0087】
次に、第2中間層の成形体を焼成(950℃、1時間)することによって第2中間層を形成した。
【0088】
次に、中間層付モノリス型基材の端面に、ガラス原料スラリーをスプレー噴霧によって塗布した後、焼成(950℃、1時間)することによって、端面にシール部を形成した。
【0089】
次に、チタンイソプロポキシドを硝酸の存在下で加水分解してチタニアゾル液を得、水で希釈して第3中間層(下地層)用スラリーを調製した。
【0090】
次に、第3中間層用スラリーを第2中間層の内表面に流通した後、熱処理(425℃、1時間)することによって、第3中間層を形成した。
【0091】
第1中間層、第2中間層及び第3中間層(以下、「中間層」と総称する。)の合計厚みは表1に示す通りであった。
【0092】
次に、p-トリルトリメトキシシランを硝酸の存在下で加水分解してシリカゾル液を得、エタノールで希釈して分離膜用前駆体溶液を調製した。
【0093】
次に、分離膜用前駆体溶液を第3中間層の内表面に流通した後、熱処理(400℃、1時間)することによって、分離膜を形成した。
【0094】
(実施例4,12の作製)
実施例4、12では、モノリス基材の作製工程において、(1)平均粒径12μmのアルミナ粒子(骨材)60体積%に対して無機結合材40体積%を添加したこと、(2)無機結合材として、平均粒径が1~5μmであるタルク、カオリン、長石、粘土等をSiO2(14質量%)、Al2O3(80質量%)、アルカリ土類金属およびアルカリ金属(3質量%)が狙いの含有率となるように適宜混合したものを用いたこと、及び(3)焼成条件を1525℃、1時間としたこと、以外は実施例1~3、5~11と同じ工程でモノリス型分離膜構造体を作製した。
【0095】
以上により、実施例1~12に係るモノリス型分離膜構造体が完成した。モノリス型分離膜構造体の単位体積当たりにおける分離膜の面積、及びモノリス型分離膜構造体の単位重量当たりにおける分離膜の面積は表1に示す通りであった。
【0096】
(比較例1の作製)
比較例1では、坏土の調製において、平均粒径80μmのアルミナ粒子(骨材)80体積%に対して無機結合材20体積%を添加したこと、および押出成形において、濾過セルの内径、隔壁厚み及び中間層の厚みを表1に示すように大きくした以外は実施例1~12と同じ工程にてモノリス型分離膜構造体を作製した。
【0097】
(比較例2の作製)
比較例2では、表1に示すように濾過セルの数を増やすために、押出成形において内径を0.9mmに設定したところ、中間層の成膜において、中間層用スラリーが濾過セル内部に詰まってしまったため中間層を形成できなかった。
【0098】
(比較例3の作製)
比較例3では、隔壁厚みを0.04mmに設定したところ、押出成形において、隔壁厚みが薄すぎることによる強度不足でモノリス構造を維持できずモノリス型基材を形成できなかった。
【0099】
(比較例4の作製)
比較例4では、中間層の厚みを表1に示すように小さくした以外は実施例1~12と同じ工程にてモノリス型分離膜構造体を作製した。
【0100】
(エタノール透過性試験)
実施例1~12、比較例1,4のモノリス型分離膜構造体を分離装置に組み込み、有機溶媒(n-オクタン:33体積%、p-キシレン:33体積%)とエタノール(33体積%)の混合流体を分離膜の内側の濾過セルに流入させながら、モノリス型分離膜構造体の外周を45Torrに減圧した。
【0101】
そして、分離膜を透過して排出流路の開口部から流出するエタノールを回収して、回収したエタノールの質量及び分離処理時間に基づいてエタノールの透過速度を算出するとともに、回収したエタノールの透過濃度を測定した。
【0102】
(アイソスタティック強度試験)
社団法人自動車技術会発行の自動車規格であるJASO規格M505-87に規定されているアイソスタティック破壊強度の測定方法に従って、実施例1~12、比較例1,4のモノリス型分離膜構造体のアイソスタティック強度を測定した。アイソスタティック強度とは、水中で静水圧をかけて測定した破壊強度である。
【0103】
表1では、20MPaを印加しても破壊されなかったものが“○(良)”と評価され、5MPa以上20MPa未満で破壊されたものが“△(可)”と評価されている。
【0104】
【0105】
表1に示すように、実施例1~12では、比較例1(従来例)と比較して、単位体積当たりの分離膜面積と単位重量当たりの分離膜面積を向上させることができた。これは、濾過セルの内径を従来の2.2mmから2.0mm以下とすること、隔壁厚みを従来の0.8mmから0.2mm未満と小さくすること、および中間層の厚みを従来の170μmから100μm未満とすることによって分離膜の総面積を大きくできたためである。
【0106】
分離膜面積を大きくするといった観点からは、濾過セルの内径、隔壁厚み、及び中間層厚みは小さいほうがよい。従って、実施例3では、実施例1に比べて、内径を1.85mmから1.10mm、隔壁厚さを0.15mmから0.05mm、中間層の厚みを70μmから20μmまで小さくしたため、分離膜面積を大幅に向上させることができ、透過速度を向上させることができた。なお、実施例3では、同時に集水セルの内径も1.10mmと小さくしたため、排出流路の加工を容易にするために、開口幅を0.8mmから0.3mmに小さくした。
【0107】
一方、濾過セルの内径、隔壁厚み、及び中間層をあまり小さくし過ぎると不具合が発生する。比較例2のように濾過セルの内径を0.9mmまで小さくすると、中間層の成膜において、中間層用スラリーが濾過セル内部に詰まってしまったため中間層を形成できなかった。比較例3のように隔壁厚さを0.04mmとした場合は、押出成形において、内壁が薄すぎることによる強度不足でモノリス構造を維持できずモノリス型基材を形成できなかった。比較例4のように中間層厚みを15μmとした場合は、濾過セル表面を十分に平滑化できない、又は/及び表面を被覆できない部分が発生したため、その上に成膜した分離膜に欠陥が発生してほとんど濃縮できなかった(元の混合流体と同じ濃度であった)。
【0108】
また、実施例1~12では、比較例4と比較してエタノールの透過濃度を高くすることができた。これは、中間層の厚みを確保して表面を平滑化することによって分離膜の欠陥を抑制できたためである。
【0109】
なお、実施例4は、濾過セルの内径、隔壁厚さ、中間層の厚みおよび材料密度それぞれが膜面積に対して最も不利な状況であっても、本願の設計範囲内であれば、必要な透過性能を維持できることを示している。
【0110】
以上より、隔壁厚さを0.05mm以上0.2mm未満とし、中間層の厚みを20μm以上100μm未満とし、かつ、濾過セル用貫通孔の内径を1.0mm以上2.0mm以下とすることによって、モノリス型分離膜構造体の透過性能を維持しつつコンパクト化又は/及び軽量化可能であることを確認できた。
【0111】
次に、集水セル列間濾過セル列数について説明する。
【0112】
実施例6では、実施例8に比べてエタノールの透過速度をより向上させることができた。これは、集水セル列間濾過セル列数を9列以下とすることによって、分離膜表面で分離されたエタノールが隔壁内を透過する距離を短くすることで、圧力損失を低減できたためである。圧力損失を低減すると言った観点からは、集水セル列間濾過セル列数は小さいほどよいため、実施例1では、さらに透過速度が向上した。
【0113】
一方で、集水セル列間濾過セル列数を小さくすることは、集水セル列数を増やすことになるため、相対的に集水セルの数が増え、濾過セルの数が減って分離膜の表面積を減ずることになる。このため、実施例5では、集水セル列間濾過セル列数が実施例1よりも小さくなったにもかかわらず、透過速度は低下した。これは、圧力損失を低減できる効果よりも膜面積が減少する影響の方が大きくなったためである。
【0114】
さらに、実施例7では、集水セル列間濾過セル列数を1としたために、大幅に濾過セル数が減って膜面積が低下したため、透過速度が低下した。以上の結果より、エタノールが透過する際の圧力損失を低減し、かつ分離膜の表面積を高く維持するといった観点から、集水セル列間濾過セル列数は、4列以上6列以下であることが特に好ましいことが分かった。
【0115】
次に、スリット開口幅および開口長さの総和について説明する。実施例9では、実施例1に比べてエタノールの透過速度が低下している。これは、スリット開口幅とスリット開口長さが小さいために、集水セル列を透過してきたエタノールがスリット開口部で圧力損失を受けたためである。なお、実施例6および実施例8においては、集水セル列間濾過セル列数が大きく、1列の集水列に対してより多くの透過成分が集中するため、開口長さを大きくすることで圧力損失を低減させた。従って、スリット開口幅は、集水セルの内径の10%以上が好ましく、スリット開口長さの総和は、モノリス型基材の全長の3.3%以上が好ましいことが分かった。
【0116】
次に、外壁厚みについて説明する。実施例10では、外壁厚みが0.9mm(隔壁厚さの6倍)と薄いために、実施例1に比べて膜面積が増大してエタノールの透過速度が向上しているが、強度試験の結果、20MPa未満で構造が破壊されてしまった。一方で、実施例11では、外壁厚みを6mm(隔壁厚さの40倍)と厚くしたために、相対的に膜面積が減少してエタノールの透過速度が低下してしまった。また、実施例12では、濾過セルの内径、隔壁厚さ、中間層の厚みおよび材料密度それぞれが膜面積に対して最も不利な状況にある上に、さらに外壁厚みも厚くしてしまったために、単位重量当たりにおける膜面積が、0.5m2/kg以下となり、透過速度が大幅に低下してしまった。以上より、外壁厚は隔壁厚さの10倍以上30倍以下が好ましいことを確認できた。
【符号の説明】
【0117】
100 モノリス型分離膜構造体
10 モノリス型基材
11 本体部
11S 第1端面
11T 第2端面
11U 外周面
12 第1目封止
13 第2目封止
14 第1シール部
15 第2シール部
20 中間層
21 第1中間層
22 第2中間層
24 濾過セル
24L 濾過セル列
25 集水セル
25L 集水セル列
26 排出流路
26a 開口部