IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 水ing株式会社の特許一覧

特許7097316鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置
<>
  • 特許-鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置 図1
  • 特許-鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置 図2
  • 特許-鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置 図3
  • 特許-鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置 図4
  • 特許-鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置 図5
  • 特許-鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置 図6
  • 特許-鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置 図7
  • 特許-鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置 図8
  • 特許-鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/64 20060101AFI20220630BHJP
   C02F 1/74 20060101ALI20220630BHJP
   C02F 1/56 20060101ALI20220630BHJP
   C01G 49/02 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
C02F1/64 Z
C02F1/74 Z
C02F1/56 Z
C01G49/02 B
C01G49/02 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019027183
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020132467
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】麻生 智香
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
(72)【発明者】
【氏名】大野 克博
(72)【発明者】
【氏名】小林 厚史
(72)【発明者】
【氏名】加納 一憲
(72)【発明者】
【氏名】古市 竜哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 伸二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利宏
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-224466(JP,A)
【文献】特開平07-051684(JP,A)
【文献】特開2010-274180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽に、鉄イオン含有水、アルカリ剤、及び酸素を供給し、前記鉄イオン含有水中の第一鉄イオンの少なくとも一部をオキシ水酸化鉄に変換させ、オキシ水酸化鉄を含むスラリーを得る工程、
前記オキシ水酸化鉄のスラリーに、アニオン性高分子凝集剤を添加する工程、
前記アニオン性高分子凝集剤を添加したオキシ水酸化鉄のスラリーから、オキシ水酸化鉄及びアニオン性高分子凝集剤を含む汚泥を固液分離する工程、
前記オキシ水酸化鉄とアニオン性高分子凝集剤とを含む汚泥の少なくとも一部を、前記反応槽に返送する工程、
を含み、さらに、
前記アニオン性高分子凝集剤を添加する工程の前に、
前記オキシ水酸化鉄の一部を沈殿させる工程、及び
前記沈殿させたオキシ水酸化鉄を前記反応槽へと返送する工程
を含む、鉄イオン含有水から第一鉄イオンを除去する方法。
【請求項2】
前記アニオン性高分子凝集剤を添加する工程において、前記アニオン性高分子凝集剤が、前記オキシ水酸化鉄のスラリーの懸濁物質(SS)量に対して、0.010~0.500質量%の量となるように添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鉄イオン含有水における第一鉄イオン濃度が、1~100mg/Lである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記オキシ水酸化鉄のスラリーのSS量が500~20000mg/Lとなるように前記オキシ水酸化鉄及びアニオン性高分子凝集剤を含む汚泥を返送することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アニオン性高分子凝集剤を添加する工程を凝集槽で行うことを含み、
前記オキシ水酸化鉄及びアニオン性高分子凝集剤を含む汚泥を固液分離する工程の後に、前記オキシ水酸化鉄とアニオン性高分子凝集剤とを含む汚泥の少なくとも一部を前記凝集槽へと返送する工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応槽が循環ライン及び循環ポンプを備えており、前記オキシ水酸化鉄のスラリーが前記循環ラインを循環しており、前記鉄イオン含有水は、前記反応槽の前記循環ラインに供給される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法に用いられる装置であって、
鉄イオン含有水を供給する鉄イオン含有水供給ラインと、アルカリ剤を供給するアルカリ剤供給ラインと、酸素を供給する酸素供給ラインとが接続されている反応槽、
前記反応槽からのオキシ水酸化鉄の一部を沈殿させる中間沈殿槽、
前記中間沈殿槽からの沈殿しなかったオキシ水酸化鉄を含むスラリーにアニオン性高分子凝集剤を供給する凝集剤供給ラインが接続されている凝集槽、
前記アニオン性高分子凝集剤を添加したオキシ水酸化鉄のスラリーから、オキシ水酸化鉄及びアニオン性高分子凝集剤を含む汚泥を固液分離する固液分離槽、
前記オキシ水酸化鉄及びアニオン性高分子凝集剤を含む汚泥の少なくとも一部を前記反応槽へと返送する第1の返送ライン、
前記中間沈殿槽で沈殿したオキシ水酸化鉄を前記反応槽へと返送する第3の返送ライン、及び
前記固液分離槽からの処理水を排出する処理水排出ライン
を含む前記装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄イオン含有水から鉄分を除去する方法及び装置に関する。より詳細には、鉄イオン含有水中の第一鉄イオンをオキシ水酸化鉄に変換して分離することにより鉄分を除去する方法及び装置であって、特に、オキシ水酸化鉄を含有するスラリーに凝集剤を添加すること、及び、凝集剤を添加して得られたオキシ水酸化鉄を含む汚泥の少なくとも一部を、オキシ水酸化鉄を生成するための反応槽へと返送すること、を含む方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水や産業排水に含まれる鉄は、錆や赤水の原因となるため、そのまま使用または排出するには不向きであり、除鉄処理が施される。鉄分を含有する水に対し除鉄処理を行う場合、一般的には水中の鉄分を水酸化鉄として不溶化・析出させ、それを回収する手法が取られる。水に溶解した鉄は2価または3価のイオンを形成し、2価の鉄(第一鉄イオン、Fe2+)は3価の鉄(第二鉄イオン、Fe3+)に比べて水への溶解度が高く、中性付近では可溶化しているため、除去が難しい。
【0003】
水の除鉄方法には、対象水に消石灰や苛性ソーダ等のアルカリ物質を添加して水中の鉄イオンをFe(OH)やFe(OH)として析出させ回収する方法があるが、この方法では特にFe(OH)の沈殿を形成するために対象水にアルカリ物質を多量に添加する必要があり、コストがかかる。これに対し、対象水に曝気や酸化剤の添加といった酸化処理を行うことによって水中の第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化し、Fe(OH)を析出させて回収する方法がある。しかし、Fe(OH)は非常に微細な粒子であり、沈降性・凝集性が悪く、酸化処理の後に凝集や濾過処理が必要となり、薬品コストがかかる、濾材の目詰まりを解消するために頻繁な洗浄が必要となる、といった問題がある。一方、第一鉄イオンの酸化を促進する触媒となるオキシ水酸化鉄(FeOOH)を濾材に担持させ、濾材の表面で鉄を酸化し、濾材表面にオキシ水酸化鉄を析出させて捕捉する自触媒接触濾過法も存在する。この方法は沈降性・凝集性の悪いFe(OH)を濾過で捕捉するのに比べて、濾材の目詰まりを減少させることができるが、やはり濾材を使用している以上、濾材の洗浄や交換は必要となる。
【0004】
上記のようなコストの増大や濾材の目詰まりといった欠点を有しない方法として、オキシ水酸化鉄を濾材に担持させるのではなく、反応槽内の水に浮遊させておき、すなわち、反応槽内にオキシ水酸化鉄のスラリーを形成しておき、処理対象である第一鉄イオンを含有する水とアルカリ剤と酸素とを供給することで、対象水中の第一鉄イオンを酸化させ、スラリー中にオキシ水酸化鉄として析出させる方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭49-21040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される方法では、対象水中の第一鉄イオンの酸化により生じたオキシ水酸化鉄(FeOOH)が高い沈降性及び濃縮性を有しているため、オキシ水酸化鉄を沈殿させることにより、その上澄液を鉄分が除去された処理水として得ることができる。しかし、この方法のみでは、上澄液中にオキシ水酸化鉄を含む懸濁物質(SS)が多少残存するので、完全に澄明な処理水を得るためには、上澄液を砂濾過するなどの処理が必要である。また、特許文献1に記載される方法は、反応槽内に存在するスラリー状のオキシ水酸化鉄を触媒として第一鉄イオンの酸化を行い、第一鉄イオンの酸化により生じたオキシ水酸化鉄もまた同反応槽内で触媒として用いるものであるが、反応槽内に流入する対象水の第一鉄イオン濃度が低い場合には、第一鉄イオンの酸化により生じるオキシ水酸化鉄の量よりも、上澄液中に混入して系から流出するオキシ水酸化鉄の量の方が大きくなることがあり、この場合には反応槽内のオキシ水酸化鉄の量が徐々に減少して、反応が維持できなくなる場合がある。
【0007】
このように、特許文献1に記載される方法は、高濃度の第一鉄イオンを含有する対象水における第一鉄イオンの大幅な除去には非常に適しているが、低濃度の第一鉄イオンを含有する対象水中の鉄分を、さらに低い濃度にまで低減させるには、改良の余地があるといえる。
【0008】
本発明は、鉄イオン含有水から第一鉄イオンを除去するに当たり、低濃度の鉄イオンを含む幅広い範囲の濃度の鉄イオン含有水を処理対象とすることができ、低コストであり、濾材の目詰まりの欠点がなく、澄明な処理水を得ることができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、特許文献1に記載されるようなオキシ水酸化鉄のスラリーとアルカリ剤と酸素とを用いて処理対象の水中の第一鉄イオンをオキシ水酸化鉄に変換して除去する方法において、オキシ水酸化鉄のスラリーに凝集剤を添加することにより、オキシ水酸化鉄の沈降性及び濃縮性を著しく高めることができ、短時間で澄明な処理水を得ることができるようになることを見出した。また、沈殿したオキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥を、オキシ水酸化鉄を生成するための反応槽へと返送することにより、処理対象の水中の第一鉄イオン濃度が低い場合であっても反応を維持することができるようになり、また、生成したオキシ水酸化鉄を速い沈降速度で沈降させることができることを見出した。オキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥を反応槽へと返送すると、反応槽内に凝集剤が存在することとなる。オキシ水酸化鉄の形成反応における凝集剤の影響についてはこれまで知見がなかったが、本発明者らは反応槽中に凝集剤が存在しても、第一鉄イオンのオキシ水酸化鉄への変換が問題なく進むことを見出した。本発明は、以下を含む。
(1)反応槽に、鉄イオン含有水、アルカリ剤、及び酸素を供給し、前記鉄イオン含有水中の第一鉄イオンの少なくとも一部をオキシ水酸化鉄に変換させ、オキシ水酸化鉄を含むスラリーを得る工程、
前記オキシ水酸化鉄のスラリーに、凝集剤を添加する工程、
前記凝集剤を添加したオキシ水酸化鉄のスラリーから、オキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥を固液分離する工程、
前記オキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥の少なくとも一部を、前記反応槽に返送する工程、
を含む、鉄イオン含有水から第一鉄イオンを除去する方法。
(2)前記凝集剤を添加する工程において、前記凝集剤が、前記オキシ水酸化鉄のスラリーの懸濁物質(SS)量に対して、0.010~0.500質量%の量となるように添加される、(1)に記載の方法。
(3)前記鉄イオン含有水における第一鉄イオン濃度が、1~100mg/Lである、(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記オキシ水酸化鉄のスラリーのSS量が500~20000mg/Lとなるように前記オキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥を返送することを含む、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)前記凝集剤を添加する工程の前に、
前記オキシ水酸化鉄の一部を沈殿させる工程、及び
前記沈殿させたオキシ水酸化鉄を前記反応槽へと返送する工程
をさらに含む、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)前記反応槽が循環ライン及び循環ポンプを備えており、前記オキシ水酸化鉄のスラリーが前記循環ラインを循環しており、前記鉄イオン含有水は、前記反応槽の前記循環ラインに供給される、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)(1)~(6)のいずれか1項に記載の方法に用いられる装置であって、
鉄イオン含有水を供給する鉄イオン含有水供給ラインと、アルカリ剤を供給するアルカリ剤供給ラインと、酸素を供給する酸素供給ラインとが接続されている反応槽、
前記反応槽からのオキシ水酸化鉄のスラリーに凝集剤を供給する凝集剤供給ラインが接続されている凝集槽、
前記凝集剤を添加したオキシ水酸化鉄のスラリーから、オキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥を固液分離する固液分離槽、
前記オキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥の少なくとも一部を前記反応槽へと返送する第1の返送ライン、及び
前記固液分離槽からの処理水を排出する処理水排出ライン
を含む前記装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、低濃度の第一鉄イオンを含む幅広い範囲の濃度の鉄イオン含有水を処理対象として、除鉄処理を行うことができ、少量の凝集剤によって、砂濾過などの清澄化処理を行わずに、澄明な処理水を得ることができる。本発明で使用する凝集剤の量は従来の酸化法におけるFe(OH)の凝集に用いる量に比べて有意に少なくて済む。本発明で生成するオキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥は、凝集性及び脱水性に優れており、ベルトプレスなどの汎用の方法で脱水することにより、含水率の低い脱水汚泥(ケーキ)を形成することができ、産業廃棄物として発生する汚泥量を削減することができる。また、本発明では、対象水の第一鉄イオンの割合が高い場合であっても中性付近のpHで処理することができるため、アルカリ剤の使用量が少なくて済み、また、pHの変動による鉄含有析出物の再可溶化が起きにくく、安定した除鉄効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の処理フローの説明図である。
図2】本発明の処理フローの説明図である。
図3】本発明に用いられる反応槽1の一例である。
図4】本発明の処理フローの説明図である。
図5】本発明の処理フローの説明図である。
図6】参考例の結果を示すグラフである。
図7】実施例1の結果を示すグラフである。
図8】実施例4のFT-IR測定の結果である。
図9】実施例5の試験8及び比較3における濾布と濾液の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、反応槽内に、処理対象となる鉄イオン含有水と、アルカリ剤と、酸素を供給することにより、鉄イオン含有水中の第一鉄イオンを酸化してオキシ水酸化鉄(FeOOH)に変換することを含む。
【0013】
本発明で処理対象となる鉄イオン含有水としては、地下水、海水などの鉄イオンを含有する水や、鉄材を酸洗浄した際の廃水、鉱山廃水などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明では、幅広い濃度の第一鉄イオンを含有する水を処理対象とすることができる。例えば、第一鉄イオンの濃度は、1~10000mg/Lの範囲であってもよい。また、本発明は、凝集剤を用いてオキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む非常に凝縮性の高い汚泥を形成すること、また、その一部を反応槽へと返送することを含むため、従来のオキシ水酸化鉄のスラリーを用いた除鉄方法では処理ができなかった低濃度の第一鉄イオンを含有する水の処理も可能である。例えば、1~1000mg/L、さらには、1~100mg/Lといった低濃度の第一鉄イオンを含有する水の処理も可能である。従来の凝集剤を用いない方法では、反応系外に流出するオキシ水酸化鉄を含むSS量が比較的高いため、ある程度の処理速度(水面積負荷)を維持しながら反応を継続させるためには、流出するSSにおける鉄分よりも高い濃度の第一鉄イオンを含有する鉄イオン含有水を供給する必要があった。例えば、水面積負荷50mm/分の条件では、反応系外に100mg/L程度の第一鉄イオンが流出するため、鉄イオン含有水中の第一鉄イオン濃度は少なくとも100mg/Lよりも高く設定する必要があった(後述する参考例参照)。本発明では、凝集剤を用いることにより、水面積負荷50mm/分以上のような高速条件であっても、100mg/L以下のような低濃度の第一鉄イオンを含有する鉄イオン含有水を処理することができるという利点を有する。なお、沈殿池の水面積負荷として、例えば、水道設計指針では、7.2~43.2m/m・日(5~30mm/分)とされており、下水道計画設計指針における最初沈殿池では、合流式の場合で25~50m/m・日(17~35mm/分)とされている。本発明では、5~35mm/分といった標準的な水面積負荷の条件での処理はもちろんのこと、50mm/分以上のような高速条件においても低濃度の第一鉄イオンを含有する鉄イオン含有水を処理することができ、さらには100mm/分以上のような高速処理も可能である。
【0014】
鉄イオン含有水の反応槽への注入速度は特に限定されず、反応槽の容積、反応槽内の循環流量などに応じて適宜設定すればよい。
反応槽としては、通常の槽を用いればよく、特に限定されないが、循環ポンプと循環ラインを有し、槽内のオキシ水酸化鉄を含むスラリーを循環ラインを通じて循環できるものが好ましい。反応槽内のオキシ水酸化鉄を含むスラリーを循環させることにより、鉄イオン含有水中の鉄イオンと、反応槽内のオキシ水酸化鉄と、反応槽に供給されるアルカリ剤及び酸素との接触を促進させ、鉄イオンのオキシ水酸化鉄への変換を促進させることができる。循環流量は特に限定されず、反応槽の容積、鉄イオン含有水の注入速度、鉄イオン含有水中の鉄イオン濃度、反応槽中の懸濁物質(SS)量などに応じて適宜設定すればよい。例えば、これに限定されないが、流入する鉄イオン含有水中の第一鉄イオン濃度が1~100mg/Lである場合、鉄イオン含有水注入体積1Qに対して、好ましくは2Q~10Qの、さらに好ましくは4Q~8Qの水量比率で反応槽内の液を循環ラインを通じて循環させることが好ましい。
【0015】
反応槽が循環ラインを有する場合には、鉄イオン含有水は、反応槽の循環ラインに供給することが好ましい。鉄イオン含有水を循環ラインに供給することにより、鉄イオン含有水における鉄イオンと、反応槽内のスラリーに含まれるオキシ水酸化鉄(FeOOH)と、酸素との接触が促進され、鉄イオンのオキシ水酸化鉄への変換を促進することができる。
【0016】
なお、オキシ水酸化鉄には、α-FeOOH(針鉄鉱)、β-FeOOH(赤金鉱)、γ-FeOOH(鱗鉄鉱)などの種類があるが、本発明に良好に用いられるのはγ-FeOOHとα-FeOOHである。オキシ水酸化鉄は、第一鉄イオンをオキシ水酸化鉄へと変換する反応の触媒として作用する(自触媒作用)。反応槽において、中性付近のpH(pH6~9、好ましくはpH6~8、より好ましくはpH6~7)を維持しながら、第一鉄イオン(Fe2+)と、アルカリ剤と、酸素との供給を続けることにより、水中にオキシ水酸化鉄が生成し、また、先に生成したオキシ水酸化鉄を触媒としてさらにオキシ水酸化鉄が生成し、反応槽内のオキシ水酸化鉄の濃度を増大させることができる。反応槽内のオキシ水酸化鉄の濃度は、500mg/L以上とすることが好ましく、5000mg/L以上とすることがさらに好ましい。反応槽内のオキシ水酸化鉄の濃度が高いほど、鉄イオン含有水中の第一鉄イオンとオキシ水酸化鉄との接触の頻度が向上し、第一鉄イオンのオキシ水酸化鉄への変換反応が効率良く進むようになる。反応槽内のオキシ水酸化鉄の濃度の上限は特に限定されないが、反応槽内の流動性を良好に保つためには、20000mg/L以下とするのが好ましいと言える。
【0017】
鉄イオン含有水中の第一鉄イオンのオキシ水酸化鉄への変換を促進するために、反応槽にアルカリ剤を加え、反応槽内のpHを一定の範囲に保つことが必要である。反応槽内のpHの範囲は、pH6~9であり、好ましくはpH6~8であり、より好ましくはpH6~7である。pHを高くしすぎるとFe(OH)が生成し得るので好ましくない。本発明では中性付近で第一鉄イオンを不溶化(FeOOHへと変換)することができるため、従来のアルカリ性条件下で第一鉄イオンをFe(OH)として析出させる方法に比べて、アルカリ剤の使用量が少なくて済み、また、処理水のpH調整(アルカリ性を中性に戻す作業)も不要であるという利点を有する。
【0018】
pH調整に用いるアルカリ剤としては特に限定されず、上記の中性付近のpH範囲を維持できるものであればよい。例えば、これらに限定されないが、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、消石灰(水酸化カルシウム)などを用いればよい。アルカリ剤の反応槽への注入量は、反応槽内のpHを上記の範囲内に維持できる量であればよい。反応槽内のpHを計測しながら、pHに応じて自動で注入量を制御する制御器等を用いて、アルカリ剤の注入量や注入間隔を制御してもよい。
【0019】
酸素は、第一鉄イオンをオキシ水酸化鉄へと酸化するのに必要である。反応槽内のスラリーに供給する酸素は、酸素含有気体として供給すればよく、通常、空気を用いればよい。反応槽内への酸素(空気)の供給方法は、特に限定されず、通常の曝気装置を用いればよい。反応槽のスラリー内の溶存酸素量(DO)は、1mg/L以上に維持することが好ましく、3~5mg/L程度に維持することがさらに好ましい。反応槽内に供給された鉄イオン含有水中の第一鉄イオンは、中性付近のpH条件下で、酸素と、触媒であるスラリー内のオキシ水酸化鉄とに接触することにより、瞬時に酸化され、オキシ水酸化鉄(FeOOH)に変換される。
【0020】
次に、オキシ水酸化鉄のスラリーに、凝集剤を添加する。凝集剤としては、オキシ水酸化鉄のスラリーからオキシ水酸化鉄を含む懸濁物質(SS)を凝集させることができるものであればよく、特に限定されないが、本発明では高分子凝集剤を用いることが好ましい。高分子凝集剤としては、アニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤のいずれの高分子凝集剤も用いることができるが、アニオン性高分子凝集剤が最も好ましい。
【0021】
凝集剤の添加量は、凝集剤を添加するオキシ水酸化鉄のスラリーにおける懸濁物質(SS)量に対し、0.010質量%以上であることが好ましい。凝集剤を0.010質量%以上添加することにより、オキシ水酸化鉄の凝集を促進することができ、処理水質と汚泥の脱水性が良好となる。より好ましくは、0.025質量%以上である。添加量の上限は、凝集剤のコストや、返送汚泥中の凝集剤による反応槽での反応への影響を考慮すると、0.500質量%以下が好ましく、0.100質量%以下がさらに好ましい。従来法のFe(OH)を凝集させ回収する方法では、通常、凝集剤はSS量に対して1質量%程度の添加が必要となるが、本発明では、従来法に比較して有意に少量の添加で、優れた凝集効果を得ることができる。なお、懸濁物質(SS、suspended solids)とは、水中に浮遊する粒径2mm以下の不溶解性物質をいい、浮遊物質とも呼ばれる。本発明ではSSは主にオキシ水酸化鉄で構成されるが、鉄イオン含有水由来の他の物質も含まれ得る。
【0022】
懸濁物質量(SS量)は、「下水試験方法 2012年版 上巻(日本下水道協会)」第4編 第1章 第6節に記載の遠心分離法に準拠した方法で測定することができる。具体的には以下の通りである:
スラリーの遠心分離(3000~4000rpm、2~3分)を行い、上澄液を捨て、得られた沈殿物に水を加えてよく撹拌した後、再び同一の条件で遠心分離を行う。得られた沈殿物を105~110℃の温度で2時間乾燥させた後、質量を測定し、SS量を算出する。
【0023】
また、SS量は、上記の遠心分離法の他にも、スラリーの濁度から換算することによって算出することもできる。濁度から換算する場合には、まずSS量が既知のサンプルの濁度を測定し、これらの相関係数を求め、サンプルとなるスラリーの濁度からSS量を算出する。
【0024】
凝集剤の添加の際には、撹拌などを行って、凝集剤とオキシ水酸化鉄とを十分に混合させることが好ましい。
次に、凝集剤を添加したオキシ水酸化鉄のスラリーの固液分離を行い、オキシ水酸化鉄及び凝集剤を少なくとも含む汚泥を分離する。固液分離の方法としては、凝集沈殿処理の他、凝集膜分離、凝集加圧浮上などが考えられるが、本発明において生成するオキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥は、沈降性が非常に良いことから、沈殿処理が最も好ましい。
【0025】
続いて、固液分離により得られた汚泥の少なくとも一部を、反応槽へと返送する。これにより、反応槽内のオキシ水酸化鉄量を維持させることができ、反応槽におけるオキシ水酸化鉄の形成反応を継続させることができるようになる。
【0026】
固液分離により得られたオキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥の反応槽への返送量は、反応槽における反応を維持できる量であり、さらに、凝集剤による凝集を促進できる量であることが好ましい。したがって、返送量は、反応槽のオキシ水酸化鉄スラリーのSS量が500~20000mg/Lとなるような量であることが好ましい。さらに好ましくは5000~20000mg/Lである。オキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥を反応槽へと返送することにより、低濃度を含む幅広い濃度の鉄イオン含有水を用いた場合であっても反応槽におけるオキシ水酸化鉄の形成反応を維持することができるようになり、また、凝集剤を添加した際の凝集を促進して濃縮性の高い汚泥を速やかに形成することができるようになる。
【0027】
なお、オキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥を反応槽へと返送すると、反応槽中に凝集剤が流入することとなる。オキシ水酸化鉄の形成反応における凝集剤の影響についてはこれまで知見がなかったが、本発明者らは反応槽中に凝集剤が存在しても、鉄イオン含有水中の第一鉄イオンのオキシ水酸化鉄への変換が問題なく進むことを実験により確認した(実施例3、4参照)。
【0028】
オキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥のうち、反応槽へと返送しない部分は、脱水機などを用いて水分を除去して脱水汚泥(ケーキ)を形成してもよい。本発明で得られるオキシ水酸化鉄と凝集剤とを含む汚泥は、凝集性及び脱水性に優れており、例えばベルトプレスを用いた場合、濾布から目漏れしにくく、高いSS回収率で、含水率の低い脱水汚泥を形成することができる。
【0029】
固液分離により得られた処理水は、回収してそのまま使用することができる。特許文献1に記載される従来のオキシ水酸化鉄スラリーを用いた除鉄方法では、固液分離後の上澄液にオキシ水酸化鉄を含むSSが残存するので、上澄液を砂濾過などによって処理する必要があった。本発明で得られる処理水は、SSの残存が極めて少なく、更なる濾過処理を行う必要がない。しかし、必要に応じて濾過を行うことを排除するものではない。例えば、本発明で得られる処理水における全鉄量は、好ましくは300mg/L以下であり、さらに好ましくは100mg/L以下であり、さらに好ましくは20mg/L以下であり、さらに好ましくは5mg/L以下である。
【0030】
全鉄量は、「下水試験方法 2012年版 上巻(日本下水道協会)」第3編 第1章 第2節に記載の方法に準拠した方法で測定することができる。具体的には、サンプルを硝酸と塩酸を用いて加熱溶出して分解液を得て、分解液のICP発光分光分析により測定することができる。溶解性鉄量は、サンプルを濾過して得た濾液を用いて同様にICP発光分光分析により測定することができる。また、第一鉄イオン及び第二鉄イオンとしてそれぞれ株式会社共立理化学研究所製のパックテスト(登録商標)を用いて簡易的に測定し、これらの合計を溶解性鉄量としてもよい。前者は、JIS K 0102 57.1に記載のフェナントロリン吸光光度法を用いたものであり、後者は、スルホサリチル酸吸光光度法の発色原理を利用したものである。
【0031】
本発明の方法において、凝集剤の添加工程の前に、オキシ水酸化鉄の一部を沈殿させる工程、及び沈殿させたオキシ水酸化鉄を反応槽へと返送する工程を追加してもよい。オキシ水酸化鉄の一部を反応槽に返送することにより、反応槽中のオキシ水酸化鉄量を維持して反応を継続させやすくすることができる。反応槽中のオキシ水酸化鉄を含むSS量は、500~20000mg/Lであることが好ましく、5000~20000mg/Lであることがさらに好ましい。
【0032】
次に本発明に用いる装置について説明する。図1及び図2は、本発明の処理フローを実行する装置の一例である。本発明の装置において、反応槽1には、鉄イオン含有水を供給する鉄イオン含有水供給ライン2、アルカリ剤を供給するアルカリ剤供給ライン3、酸素を供給する酸素供給ライン4が接続されている。反応槽1の後段には、凝集槽9が設けられている。凝集剤を供給する凝集剤供給ライン5は、図1では凝集槽9に、図2では反応槽1に接続されている。凝集槽9の後段には、オキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥を固液分離する固液分離槽6が設けられており、固液分離槽6には、前記オキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥を前記反応槽1へと返送する第1の返送ライン7、処理水を排出する処理水排出ライン8が接続されている。
【0033】
図1及び図2において、鉄イオン含有水供給ライン2を通じて反応槽1へと送られた鉄イオン含有水は、アルカリ剤及び酸素と接触することにより、含有される第一鉄イオンの少なくとも一部が、オキシ水酸化鉄へと変換され、反応槽内にオキシ水酸化鉄のスラリーが形成される。反応槽1には、反応槽1内のスラリーのpHを計測するためのpH計測手段10及び反応槽内のスラリーの懸濁物質(SS)量を測定するための第1のSS量計測手段11が備えられていてもよい。また、反応槽1は、図3に示すように、循環ライン12及び循環ポンプ13を備え、反応槽1内のオキシ水酸化鉄のスラリーが、循環ライン12内を循環していてもよい。また、鉄イオン含有水供給ライン2は、反応槽1の循環ライン12に連結されていてもよい。
【0034】
続いて、オキシ水酸化鉄のスラリーに凝集剤供給ライン5を通じて凝集剤が供給される。凝集槽9では、撹拌羽等を配置してオキシ水酸化鉄と凝集剤との接触、混合を促進してもよい。凝集槽9には、凝集槽内のスラリーのSS量を測定するための第2のSS量計測手段14が備えられていてもよい。
【0035】
図2において、凝集槽9はあってもよいが、なくてもよく、反応槽1に直接に固液分離槽6が連結していてもよい(図4)。凝集槽9を設けると、槽内でオキシ水酸化鉄と凝集剤とのより安定したフロックを形成しやすく、後の固液分離槽6における分離を促進でき、処理水の品質を向上させやすいので、好ましい。しかし、固液分離槽6において十分に汚泥の形成ができるほどの容積が確保できるならば、図4に示すように、凝集槽9は省略してもよい。
【0036】
凝集剤を添加した後、固液分離槽6において、オキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥が分離される。汚泥の少なくとも一部は、第1の返送ライン7を通じて、反応槽1へと返送され、また、一部は汚泥排出ライン15を通じて汚泥の脱水工程へと送られる。一方、処理水排出ライン8を通じて、鉄分が除去された処理水が排出される。固液分離槽には、固液分離槽内のSS量を測定するための第3のSS量計測手段16が備えられていてもよい。
【0037】
第1のSS量計測手段13及び/または第2のSS量計測手段14により計測された各槽のSS量に基づき、返送ライン7へと送る汚泥の量を制御してもよい。返送汚泥の量の制御は、汚泥返送・排出ポンプ17の制御により行うことができる。
【0038】
図5は、本発明の別の態様であり、具体的には、図1の態様において、反応槽1と凝集槽9の間に、中間沈殿槽18を設けたものである。また、固液分離槽6から凝集槽9へとオキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥を返送する第2の返送ライン19と、中間沈殿槽18から反応槽1へとオキシ水酸化鉄の沈殿を返送する第3の返送ライン20が設けられている。図5の反応槽1において、鉄イオン含有水から生成したオキシ水酸化鉄の一部は、中間沈殿槽18において沈殿を形成し、第3の返送ライン20を通じて反応槽1へと返送される。中間沈殿槽18から反応槽1へのオキシ水酸化鉄の沈殿の返送量は、反応槽1及び/または中間沈殿槽18内のSS量に基づいて決定されてもよい。したがって、中間沈殿槽18は、槽内のSS量を計測するための第4のSS量計測手段21を有していてもよい。中間沈殿槽18における上澄液は、中間沈殿槽18において沈殿しなかったオキシ水酸化鉄を含むSSを含有しており、次の凝集槽9へと送られる。凝集槽9では、図1と同様に、凝集剤供給ライン5を通じて凝集剤が添加され、オキシ水酸化鉄と凝集剤との凝集が行なわれる。凝集剤が添加されたオキシ水酸化鉄のスラリーは、続いて、図1と同様に、固液分離槽6へと送られて、オキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥が分離される。オキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥の一部は、図1と同様に、第1の返送ライン7を通じて、反応槽1へと返送され、また、別の一部は汚泥排出ライン15を通じて汚泥の脱水工程へと送られる。さらに図5では、汚泥の一部が、第2の返送ライン19を通じて、凝集槽9へと送られる。凝集槽9へと汚泥の一部を返送することにより、凝集槽9内のSS量を維持して、凝集反応を促進し、後の固液分離槽6での迅速な分離を達成することができるようになる。第2の返送ライン19を通じて返送する汚泥の量は、反応槽1及び/または凝集槽9のSS量に基づいて決定されてもよい。
【0039】
なお、固液分離槽6から凝集槽9へと汚泥を返送する第2の返送ライン19は、図5の態様だけではなく、図1及び図2のような中間沈殿槽18を有しない態様においても設けてよい。固液分離槽6から凝集槽9へと第2の返送ライン19を通じて汚泥の一部を返送することにより、図1、2の態様においても、図5と同様に、凝集槽9内のSS量を維持して、凝集反応を促進し、後の固液分離槽6での迅速な分離を達成することができるという効果が得られる。
【0040】
図示していないが、処理対象となる鉄イオン含有水は、予め貯留槽に貯留しておいてもよく、貯留槽(図示せず)から鉄イオン含有水供給ライン2へと鉄イオン含有水を供給してもよい。また、汚泥排出ライン15から排出された汚泥は、脱水機(図示せず)に送られて脱水汚泥(ケーキ)を形成してもよい。脱水機としては、これらに限定されないが、ベルトプレス、フィルタープレス、スクリュープレス、遠心分離脱水機、真空脱水機などを挙げることができ、いずれを使用してもよい。本発明で得られるオキシ水酸化鉄及び凝集剤を含む汚泥は、濃縮性、脱水性が高く、例えばベルトプレスを用いた場合、濾布から目漏れしにくく、含水率の低い脱水汚泥を形成することができる。
【実施例
【0041】
以下に、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<参考例> 反応系から流出するSS量の確認
地下水(pH6.4)に対し、Fe濃度を5000mg/Lとなるように調整したFeCl水溶液を混和し、Fe濃度を約1000mg/Lに調整し、原水とした。この原水を、循環ライン及び循環ポンプを備えた反応槽に25ml/分の流量で供給し、槽内で循環させた。反応槽は曝気し、また、反応槽に25g/LのNaCO水溶液を添加して、槽内のpHを6.8に制御した。運転中、反応槽内のSS量を計測し、SS量が約39000mg/Lとなったところで運転を終了した。終了した時のスラリーを全量(約200g)採取し、その一部をSS量がそれぞれ5700mg/L、9700mg/L、10700mg/L、及び14600mg/Lの各濃度となるように希釈して試験用のスラリーとした。
【0042】
得られた各スラリーについて、水面積負荷と上澄液におけるSS量との関係を図6のグラフに示した。水面積負荷は、沈殿池への通水速度に相当するものであり、スラリーの流入量mm/分を沈殿池の面積mmで除したものである。上澄液におけるSS量は、採取した上澄液の濁度を測定し、これを別途作成した濁度とSS量との検量線を用いてSS量を換算することにより求めたものである。
【0043】
図6に示されるように、例えば、スラリーのSS量が9700mg/L(図の実線黒丸)のとき、水面積負荷50mm/分では、上澄液中のSS量が160mg/L程度となる。SSの主成分がオキシ水酸化鉄(FeOOH)であるとすると、160mg/Lのオキシ水酸化鉄は、100mg/Lの第一鉄イオン(Fe2+)に相当する。すなわち、スラリーのSS量が9700mg/Lであり、水面積負荷50mm/分の条件では、100mg/Lに相当する第一鉄イオンが、沈殿せずに上澄として反応系外に流出することとなる。この場合、反応系に供給する鉄イオン含有水における第一鉄イオン濃度が100mg/L以下であると、反応系外に流出する第一鉄イオンが、反応系に流入する第一鉄イオンの量を上回ってしまうため、反応系内にオキシ水酸化鉄のスラリーを保持することができず、第一鉄イオンのオキシ水酸化鉄への変換反応を継続させることができなくなる。
【0044】
すなわち、従来の凝集剤を用いない方法では、反応系外に流出するSS量が比較的高いため、ある程度の水面積負荷を確保しながら反応を継続させる場合には、反応系内に高濃度の(流出する第一鉄イオン濃度よりも高い濃度の)鉄イオン含有水を供給する必要がある。従来の凝集剤を用いない方法では、例えば100mg/L以下のような低濃度の鉄イオン含有水を扱うことは難しいことがわかる。
【0045】
<実施例1> 凝集剤の添加の効果の確認
参考例に記載の方法で準備したSS量が約39000mg/Lのスラリーの一部を、SS量がそれぞれ100mg/L、730mg/L、及び10000mg/Lの各濃度となるように希釈して試験用のスラリーとした。
【0046】
得られた各スラリーについて、それぞれアニオン性高分子凝集剤(エバグロース(登録商標)A152、水ing株式会社製)を図7のグラフに記載の濃度で加えたものと、アニオン性高分子凝集剤を加えないものを用意し、水面積負荷と上澄液におけるSS量との関係を図7のグラフに示した。図7のグラフにおいて、実線は凝集剤(A152)を加えたものであり、破線は凝集剤を加えていないものである。また、例えば、「w A152(0.05% to SS)」との記載は、凝集剤(A152)をSS量に対して0.05質量%添加したことを示す。上澄液におけるSS量は、参考例と同様に、濁度から換算することにより求めた。
【0047】
図7の結果から、SS量が100mg/L、730mg/L、及び10000mg/Lのそれぞれについて、凝集剤を添加することで、高い水面積負荷においても上澄のSS量を低減させることができることがわかる。
【0048】
<実施例2> 凝集剤の添加の効果の確認
鉄イオン含有水として、Fe濃度が1000mg/LとなるようにFeCl・4HOを添加した3%並塩水溶液を用い、循環ライン及び循環ポンプを備えた反応槽に25ml/分の流量で供給し、槽内で循環させた。反応槽は曝気し、また、反応槽に25g/LのNaCO水溶液を添加して、槽内のpHを6.8に制御した。運転中、反応槽内のSS量を計測し、SS量が約15000mg/Lとなったところで運転を終了した。終了した時のスラリーを全量(約150g)採取し、その一部をSS量が10000mg/Lの濃度となるように希釈して試験用のスラリーとした。このスラリーを、3つに分け、それぞれ15L水槽に液深が250mmとなるように入れた。ここに、アニオン性高分子凝集剤(エバグロース(登録商標)A152、水ing株式会社製)を表1に記載の量でそれぞれ添加し、撹拌混合後、それぞれ表1に記載の時間静置させ、水槽の底面に堆積した堆積物の厚みを測定した。また、上澄水の外観を目視観察した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果より、凝集剤を添加しなかった比較1では、40分の静置時間をとったにもかかわらず、オキシ水酸化鉄の堆積厚みが少ないことがわかる。一方、凝集剤を添加した試験1及び2では、オキシ水酸化鉄が速やかに沈降したことがわかる。また、比較1では上澄液が濁っていたが、試験1では濁りの程度が小さく、試験2ではほぼ濁りがなかった。
【0051】
<実施例3> 凝集剤添加と汚泥の返送による連続試験
鉄イオン含有水として、Fe濃度が20mg/LとなるようにFeCl・4HOを添加した3%並塩水溶液を用い、循環ライン及び循環ポンプを備えた反応槽に20ml/分の流量で供給し、槽内で循環させた。反応槽は曝気し、また、反応槽に25g/LのNaCO水溶液を添加して、槽内のpHを6.8に制御した。反応槽内のSS量が15000mg/Lとなったところで、除鉄の連続試験を開始した。反応装置としては、図1に記載の装置を用いた。
【0052】
連続試験においては、まず、上記のSS量が15000mg/Lとなった反応槽内のスラリーを一部引き抜き、凝集槽へと送り、凝集槽でアニオン性高分子凝集剤(エバグロース(登録商標)A152、水ing株式会社製)をスラリーのSS量に対し表2に記載の添加率となるように添加した。これを固液分離槽に送り、固液分離槽で生じた汚泥を反応槽に返送した。連続試験の間、反応槽には上記の鉄イオン含有水(Fe濃度20mg/L)を連続的に供給し、また、凝集槽ではSS量に対し表2に記載の添加率となる量の凝集剤を連続的に添加した。この条件で、上記鉄イオン含有水を、反応槽容積の約7倍通水した。7倍通水した後の反応槽内のSS量、ならびに固液分離槽で得られた上澄液中の全鉄量(T-Fe)及び溶解性鉄量(S-Fe)のそれぞれを表2に示す。なお、反応槽内のSS量は上述した濁度からの換算により測定した。また、上澄液中の全鉄量については上澄液をそのまま、また、溶解性鉄量については上澄液を濾過してから上述したICP発光分光分析法で測定した。なお、処理状況を把握するため必要に応じて上述した株式会社共立理化学研究所製のパックテスト(登録商標)による溶解性鉄量の測定も行った。
【0053】
【表2】
【0054】
表2において上澄液の溶解性鉄量(S-Fe)が、凝集剤を添加した試験3~5においても、流入鉄量(20mg/L)の1.5質量%以下までに低下していることから、除鉄処理の観点で、凝集剤を含有する汚泥を反応槽に返送することによる反応槽内のオキシ水酸化鉄形成反応への凝集剤の影響はないと判断した。
【0055】
試験3~5に示されるように、凝集剤とオキシ水酸化鉄とを含む汚泥を反応槽に返送することにより、凝集剤を添加しなかった比較2に比べて、連続試験においても上澄液の全鉄量を低減させることができることがわかる。
【0056】
<実施例4> 凝集剤の添加によるオキシ水酸化鉄形成への影響(FT-IR測定)
鉄イオン含有水として、Fe濃度が500mg/LとなるようにFeCl・4HOを添加した3%並塩水溶液を用いた。循環ライン及び循環ポンプを備えた反応槽に20ml/分の流量で供給し、槽内で循環させた。反応槽は曝気し、また、反応槽に25g/LのNaCO水溶液を添加して、槽内のpHを6.8に制御した。反応装置としては、図1に記載の装置を用いた。反応槽のSS量が1000mg/Lとなったところで、反応槽のスラリーの体積の約4/5を引き抜き、反応槽に残ったスラリーに、アニオン性高分子凝集剤(エバグロース(登録商標)A152、水ing株式会社製)をスラリーのSS量に対し、それぞれ0%、0.1質量%、及び1.0質量%となるように添加した。ここに上記の鉄イオン含有水(Fe濃度500mg/L)を同条件で再び連続的に供給し、曝気とpH制御を行いながら、槽内で循環させた。槽内のSS量が1000mg/Lになったところで反応槽内のスラリーを取得した。取得したスラリーを遠心分離することにより沈殿物を回収し、水を加えてかき混ぜ、再び遠心分離して沈殿物を回収する操作を2回行った。得られた沈殿物を60℃の乾燥機で一晩乾燥させて水分を除去し、得られた固形物を細かくすり潰すことによりFT-IR測定用のサンプルを調製した。各サンプルについて、ATR法(全反射法)によりFT-IRを測定した。測定条件は、プリズムがダイヤモンド、分解能が4cm-1、スペクトル回数が16回である。α-FeOOH及びγ-FeOOHのそれぞれの標準スペクトルと、各サンプルのスペクトルについて、図8に示す。α-FeOOHは、885.2cm-1と798.42cm-1に特徴的なピークを示し、γ-FeOOHは、1022.13cm-1に特徴的なピークを示す。図8より、凝集剤を0.1質量%または1.0質量%添加したサンプルも、凝集剤を添加しなかったサンプルと同様に、α-FeOOHとγ-FeOOHのそれぞれに特徴的なピークを示しており、凝集剤を添加した場合(すなわち、反応槽内に凝集剤を含む汚泥が返送される場合)であっても、凝集剤を添加しない場合と同様に、反応槽においてα-FeOOHとγ-FeOOHの混合スラリーを形成することができたことがわかる。
【0057】
<実施例5> 汚泥の脱水性
参考例に記載の方法で準備したSS量が約39000mg/Lのスラリーの一部に対し、アニオン性高分子凝集剤(エバグロース(登録商標)A152、水ing株式会社製)を表3に記載の添加率となるように添加して撹拌混合した後静置し、オキシ水酸化鉄と凝集剤を含む汚泥を形成した。得られた汚泥をベルトプレス脱水機を用いて脱水した。濾布は、フェルト系濾布(敷島カンバス社製、品番FN1101XB)を用い、濾布緊張力4.9kN/m、濾布スピード1.0m/分とした。得られた脱水固形物における厚さを測定し、SS回収率を計算した。また、得られた脱水固形物の含水率を、脱水固形物の乾燥前後の質量から算出した。結果を表3に示す。また、試験8及び比較3のそれぞれについて、脱水後の濾布と、濾布を通過した濾液の様子を写真撮影した(図9)。
【0058】
【表3】
【0059】
表3より、凝集剤を添加した試験6~11では、汚泥の脱水性及び凝集性がよく、高いSS回収率と低い含水率とを達成できることがわかる。一方、凝集剤を添加しなかった比較3では、汚泥の大凡全てが濾布より漏れ出し、脱水固形物が得られなかった(図9)。
【符号の説明】
【0060】
1 反応槽
2 鉄イオン含有水供給ライン
3 アルカリ剤供給ライン
4 酸素供給ライン
5 凝集剤供給ライン
6 固液分離槽
7 第1の返送ライン
8 処理水排出ライン
9 凝集槽
10 pH計測手段
11 第1のSS量計測手段
12 循環ライン
13 循環ポンプ
14 第2のSS量計測手段
15 汚泥排出ライン
16 第3のSS量計測手段
17 汚泥返送・排出ポンプ
18 中間沈殿槽
19 第2の返送ライン
20 第3の返送ライン
21 第4のSS量計測手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9