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特許7097330乗客コンベアのステップ踏面の浮上りを検出する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】乗客コンベアのステップ踏面の浮上りを検出する装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
B66B31/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019103300
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020196578
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊昭
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-24489(JP,A)
【文献】特許第6522203(JP,B1)
【文献】特開2002-187687(JP,A)
【文献】特開2011-116515(JP,A)
【文献】米国特許第05467658(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結されそれぞれステップ踏面を有する複数のステップを循環駆動させる乗客コンベアにおけるステップ踏面の浮上りを検出する装置であって、
各ステップについて、当該ステップのステップ踏面の浮上り量を検出する浮上り量検出部と、
前記各ステップについて、当該ステップのステップ踏面における浮上り位置を判定する浮上り位置判定部と、
異常ステップ判定と交換時期判定とのうちの少なくとも一つを含むコンベア状況判定を行うコンベア状況判定部と、
前記コンベア状況判定の結果を示す情報である判定結果情報を出力する結果出力部と
を備え、
前記異常ステップ判定は、ステップが異常ステップであるか否かを判定することであり、
前記異常ステップは、ステップ踏面について判定された浮上り位置に従う閾値を当該ステップについて検出された浮上り量が超えているステップであり、
前記交換時期判定は、前記複数のステップのうちの一つ以上のステップの各々についての劣化速度と判定された浮上り位置とに基づいて、前記一つ以上のステップの各々と全部のステップとのうちの少なくとも一方の交換時期を判定することであり、
前記一つ以上のステップの各々について、劣化速度は、当該ステップについて今回検出された浮上り量及びその検出時刻と当該ステップについて前回検出された浮上り量及びその検出時刻とから求まる速度である、
装置。
【請求項2】
前記複数のステップの各々について、当該ステップのステップ踏面は、当該ステップの移動方向側の縁と当該ステップの移動方向反対側の縁との少なくとも一方を含む領域である第1領域と、前記第1領域以外の領域である第2領域とを含み、
各ステップについて、判定された浮上り位置は、当該ステップのステップ踏面の第1領域及び第2領域のいずれかである、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
単一のステップの交換時期は、当該ステップの浮上り量が当該ステップの劣化速度に従い所定値に達する時期であり、
前記交換時期判定は、前記一つ以上のステップの各々について、当該ステップの劣化速度に従う交換時期を、当該ステップについて判定された浮上り位置に応じて補正することを含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記コンベア状況判定は、前記異常ステップ判定と前記交換時期判定の両方を含み、
前記交換時期判定は、前記一つ以上のステップの各々について、当該ステップの交換時期を、当該ステップについて判定された浮上り位置の他に、ステップ総数に対する異常ステップ数の割合に応じて補正することを含む、
請求項3に記載の装置。
【請求項5】
ステップ踏面の高さに応じた値を測定するセンサと、
ステップ踏面を撮影するカメラと、
前記センサ及び前記カメラに接続され、前記浮上り量検出部、前記浮上り位置判定部、前記コンベア状況判定部及び前記結果出力部を備える制御装置である本体装置と
を備え、
前記浮上り量検出部が、前記各ステップについて、前記センサにより測定された値の変化を基に、当該ステップのステップ踏面の浮上り量を検出し、
前記浮上り位置判定部が、前記各ステップについて、前記カメラによる撮影画像を基に、浮上り位置を判定し、
前記判定結果情報は、少なくとも一つの異常ステップの撮影画像を示す情報を含む、
請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、乗客コンベアのステップ踏面の浮上りを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に設置された搬送機であるエスカレーターや動く歩道などの乗客コンベアは、無端状に連結された多数のステップを、無端状の連結鎖により循環駆動させることで、ステップに乗る乗客を搬送する。このステップは、乗降部でトラス内を出入りする構造上、ステップと乗客が乗降するプレート(トラス内との境界部)では、極力隙間が無い構造が求められる。このため、ステップ踏面と乗降プレートの隙間は、例えば数ミリに設計され、且つ、踏面と乗降プレートの端部は、櫛状にする(言い換えれば、互い違いにかみ合わせる)事で、乗客の靴や衣服が、トラス内に入り込まない構造となっている。ステップは、外的要因(例えば、経年使用による雨水等がステップ踏面上に滴下した場合に発生する錆、小石等が櫛状に形成されたステップ踏面に入り込み乗降プレートに設置の櫛板等により当接した際の衝撃)によって浮き上がることがある。ステップ踏面が許容値を超えて浮き上った状態でステップが乗降プレートに収納される際、乗降プレートにステップが衝突してしまうことになる。これを防止するため、定期的な保守点検業務において、ステップの浮上り有無を確認することが行われる。
【0003】
特許文献1や特許文献2では、ステップ踏面の浮上りを検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-24489号公報
【文献】特開2005-255303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステップ踏面の浮上りに関わる保守管理の精度を高めることが望ましい。その理由の一つとして、特定のステップ或いは全部のステップの交換を、適切な時期に行うことが期待できることにある。しかし、ステップ踏面の浮上りの管理が一律であると、保守管理の精度を高めることは困難である。
【0006】
本発明の目的は、上記課題を解決するため、ステップの踏面浮上りに関わる保守管理の精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、浮上り検出装置(無端状に連結されそれぞれステップ踏面を有する複数のステップを循環駆動させる乗客コンベアにおけるステップ踏面の浮上りを検出する装置)は、各ステップについて、当該ステップのステップ踏面の浮上り量を検出することの他に、当該ステップのステップ踏面における浮上り位置を判定する。浮上り検出装置は、異常ステップ判定と交換時期判定とのうちの少なくとも一つを含むコンベア状況判定を行い、コンベア状況判定の結果を示す情報である判定結果情報を出力する。異常ステップ判定は、ステップが異常ステップ(ステップ踏面について判定された浮上り位置に従う閾値を当該ステップについて検出された浮上り量が超えているステップ)であるか否かを判定することである。交換時期判定は、複数のステップのうちの一つ以上のステップの各々についての劣化速度と判定された浮上り位置とに基づいて、当該一つ以上のステップの各々と全部のステップとのうちの少なくとも一方の交換時期を判定することである。当該一つ以上のステップの各々について、劣化速度は、当該ステップについて今回検出された浮上り量及びその検出時刻と当該ステップについて前回検出された浮上り量及びその検出時刻とから求まる速度である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ステップ踏面の浮上りに関わる保守管理の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る浮上り検出装置の機能ブロックを示す図。
図2】浮上り検出装置による浮上り検出を示す模式図。
図3】浮上り量の検出信号の波形の一例と、ステップ踏面の領域の一例とを示す図。
図4】浮上り検出装置が行う処理の流れの一例を示す図。
図5】或るステップの交換時期の補正の一例を示す図。
図6】判定結果情報の画面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明では、「インターフェース装置」は、一つ以上のインターフェースデバイスでよい。当該一つ以上のインターフェースデバイスは、下記のうちの少なくとも一つでよい。
・一つ以上のI/O(Input/Output)インターフェースデバイス。I/Oインターフェースデバイスは、I/Oデバイスと遠隔の表示用計算機とのうちの少なくとも一つに対するインターフェースデバイスである。表示用計算機に対するI/Oインターフェースデバイスは、通信インターフェースデバイスでよい。少なくとも一つのI/Oデバイスは、ユーザインターフェースデバイス、例えば、キーボード及びポインティングデバイスのような入力デバイスと、表示デバイスのような出力デバイスとのうちのいずれでもよい。
・一つ以上の通信インターフェースデバイス。一つ以上の通信インターフェースデバイスは、一つ以上の同種の通信インターフェースデバイス(例えば一つ以上のNIC(Network Interface Card))であってもよいし二つ以上の異種の通信インターフェースデバイス(例えばNICとHBA(Host Bus Adapter))であってもよい。
【0011】
また、以下の説明では、「メモリ」は、一つ以上のメモリデバイスであり、典型的には主記憶デバイスでよい。メモリにおける少なくとも一つのメモリデバイスは、揮発性メモリデバイスであってもよいし不揮発性メモリデバイスであってもよい。
【0012】
また、以下の説明では、「永続記憶装置」は、一つ以上の永続記憶デバイスである。永続記憶デバイスは、典型的には、不揮発性の記憶デバイス(たとえば補助記憶デバイス)であり、具体的には、たとえば、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)である。
【0013】
また、以下の説明では、「記憶装置」は、メモリと永続記憶装置の少なくともメモリでよい。
【0014】
また、以下の説明では、「プロセッサ」は、一つ以上のプロセッサデバイスである。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、典型的には、CPU(Central Processing Unit)のようなマイクロプロセッサデバイスであるが、GPU(Graphics Processing Unit)のような他種のプロセッサデバイスでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、シングルコアでもよいしマルチコアでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、プロセッサコアでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、処理の一部又は全部を行うハードウェア回路(たとえばFPGA(Field-Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit))といった広義のプロセッサデバイスでもよい。
【0015】
また、以下の説明では、「kkk部」の表現にて機能を説明することがあるが、機能は、一つ以上のコンピュータプログラムがプロセッサによって実行されることで実現されてもよいし、一つ以上のハードウェアデバイス(たとえばFPGA又はASIC)によって実現されてもよいし、それらの組合せによって実現されてもよい。各機能の説明は一例であり、複数の機能が一つの機能にまとめられたり、一つの機能が複数の機能に分割されたりしてもよい。
【0016】
また、以下の説明では、同種の要素を区別しないで説明する場合には、参照符号のうちの共通符号を使用し、同種の要素を区別して説明する場合は、参照符号を使用することがある。例えば、ステップを特に区別しないで説明する場合には、「ステップ14」と記載し、個々のステップを区別して説明する場合には、「ステップ14a」、「ステップ14b」のように記載することがある。
【0017】
以下、本発明に係る浮上り検出装置の実施の形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る浮上り検出装置の機能ブロックを示す。
【0019】
浮上り検出装置10は、I/Oデバイス191、後述の可動アーム11、後述のカメラ13及びそれらに接続された本体装置12(例えば計算機)を有する。I/Oデバイス191は、入力デバイスと表示デバイスを兼ねたデバイス、例えば、タブレット型の計算機でもよいし、タッチパネル式の表示デバイスでもよい。I/Oデバイス191は、入力デバイスと表示デバイスとに分離していてもよい。
【0020】
本体装置12は、インターフェース装置101、記憶装置102及びそれらに接続されたプロセッサ103を備える。
【0021】
インターフェース装置101は、例えば、I/Oデバイス191、可動アーム11及びカメラ13に接続される。インターフェース装置101を介して、I/Oデバイス191に対し、情報が入出力される。また、可動アーム11に設けられたセンサからのデータや、カメラ13による撮影画像を示すデータが、インターフェース装置101を介して入力される。
【0022】
記憶装置102は、管理情報(例えばテーブル)やプログラムを記憶する。管理情報は、例えば、乗客コンベアを構成するステップ毎に、コンベア状況判定において検出された浮上り量の履歴を示す情報を含む。プログラムはプロセッサ103により実行される。
【0023】
プロセッサ103によりプログラムが実行されることで、例えば、浮上り量検出部1、浮上り位置判定部2、コンベア状況判定部3及び結果出力部9が実現される。コンベア状況判定部3は、例えば、異常ランク判定部4、値I/O部8、補正部5、異常ステップ判定部6、交換時期判定部106及び結果記録部7を含む。
【0024】
浮上り量検出部1は、ステップ踏面の浮上り量を検出する。浮上り位置判定部2は、浮上り位置を判定する。コンベア状況判定部3は、異常ステップ判定及び交換時期判定の少なくとも一つ(本実施形態では両方)を含むコンベア状況判定を行う。異常ランク判定部4は、各ステップについて当該ステップの浮上り位置に基づき当該ステップの異常ランクを判定する。値I/O部8は、各ステップについて、当該ステップの今回検出された浮上り量及びその検出時刻を示すデータを管理情報に記録したり、当該ステップの前回検出された浮上り量及びその検出時刻を示すデータを管理情報から読み出したりする。補正部5は、各ステップについて、当該ステップの異常ランクを基に、浮上り量の閾値である判定値を補正したり、ステップの交換時期を補正したりする。異常ステップ判定部6は、異常ステップ判定を行う。異常ステップ判定では、例えば、各ステップについて、当該ステップが異常ステップ(浮上り量が判定値を超えるステップ)であるか否かが判定される。交換時期判定部106は、交換時期判定を大なう。交換時期判定では、例えば、一つ以上のステップの各々についての劣化速度と判定された浮上り位置とに基づいて、当該一つ以上のステップの各々と全部のステップとのうちの少なくとも一方の交換時期が判定される。結果記録部7は、コンベア状況判定の結果を示す情報である判定結果情報を管理情報に記録する。結果出力部9は、記録された判定結果情報を読み出し、当該判定結果情報を出力(例えば表示)する。
【0025】
図2は、浮上り検出装置10による浮上り検出を示す。
【0026】
乗客コンベアは、無端状に連結された複数のステップ14を、無端状の連結鎖により循環駆動させることで、ステップに乗る乗客を搬送する。各ステップ14は、移動に伴い、乗客コンベアの一方の乗降プレートの下方に入り、やがて、乗客コンベアの他方の乗降プレートの下方より出る。なお、図2には、ステップ14a~14eが例示されている。
【0027】
浮上り検出装置10は、乗客コンベアの保守点検において、乗客コンベアの一方及び/又は他方の乗降プレート上に載置される。つまり、本実施形態に係る浮上り検出装置10は、保守点検の現場において使用される。
【0028】
浮上り検出装置10は、可動アーム11、カメラ13及びそれらに接続された本体装置12を有する。
【0029】
可動アーム11は、ステップ14の幅にわたって延びステップ踏面に載置される部材を先端に有し、且つ、当該部材の高さに応じた値を測定するセンサ(例えば変位センサ)を有し、当該部材が接触するステップ踏面の高さに応じて所定の支点を軸に上下方向(+z方向及び-z方向)に動き得る。ステップの幅方向は、図2で言えばy方向である。また、可動アーム11が先端に有する部材は、例えば、幅方向に延びた棒状の部材である。踏面の高さに応じ上下方向に可動アーム11が追従することに伴うセンサ値変化(例えば変位量)から、浮上り量検出部1により浮上り量が検出される。
【0030】
カメラ13は、ステップ踏面を撮影する。撮影画像は、静止画でも動画でもよい。静止画が採用される場合、例えば、カメラ13は、本体装置12からの撮影指示に応答して撮影を行う。撮影指示は、例えば、ステップの移動速度等を基にステップの位置と所定の撮影位置との相対関係が所定の条件を満たしたと本体装置12により特定された場合に本体装置12により発行される。浮上り位置判定部2は、カメラ13の撮影画像を解析することで、浮上り位置を判定する。
【0031】
本体装置12が、図1に示したインターフェース装置101、記憶装置102及びプロセッサ103を有する。本体装置12は、ステップ毎の浮上り量と浮上り位置とを信号処理する。
【0032】
図3は、浮上り量の検出信号の波形の一例と、ステップ踏面の領域の一例とを示す。
【0033】
本実施形態では、ステップ踏面は、前後方向(図2の+x方向及び-x方向)に沿って、前輪側領域16aと、中央領域16bと、後輪側領域16cとを有する。各ステップ14について、領域16a~16cのどの位置でどれだけ浮上りがあるかが計測される。
【0034】
なお、上下方向の浮上り量の計測は、非接触のレーザー距離計測等でよい。また、浮上り位置の判定は、カメラ13からの撮影画像を解析することに代えて、例えば、レーザーの変化量と乗客コンベアの速度とから計算により判定されてもよい。
【0035】
図3に例示する信号波形によれば、図2に示すステップ14a、14b、14c及び14d及び14eに、それぞれ、出力波形15a、15b、15c、15d及び15eが対応している。
【0036】
ステップ14aは正常であるため、出力波形15aはフラットである。ステップ14bは前輪側領域16aに浮き上がりがあるため、出力波形15bでは、前輪側領域16aに対応する部分が高い。ステップ14cは全体が浮き上がっているため、出力波形15cはフラットであるもののその全体が出力波形15aより高い。ステップ14dは後輪側領域16cが浮き上がっているため、出力波形15dでは、後輪側領域16cに対応する部分が高い。ステップ14eは中央領域16bに浮き上がりがあるため、出力波形15eでは、中央領域16bに対応した部分が高い。
【0037】
次に、浮上り量の検出と浮上り位置の判定とを含む処理について図4を使用して説明する。
【0038】
まず、S01にて、値I/O部8が、過去の検出データ(例えば、各ステップの浮上り量及び検出時刻を示すデータ)を管理情報(例えば、データベース)から読み出す。当該過去の検出データが示す前回検出値(例えば、前回の浮上り量及び検出時刻)は、今回検出値(例えば、今回の浮上り量及び検出時刻)との差を算出するために用いられる。
【0039】
次に、S02では、乗客コンベアの各ステップ踏面について、浮上り量検出部1により浮上り量が検出され、浮上り位置判定部2により浮上り位置が判定される。
【0040】
次に、S03にて、異常ステップ判定部6が、各ステップについて、浮上り量が所定値を超えているか否かを判定する。浮上り量が所定値を超えているステップは、乗降プレートとステップ踏面が当接しない段階ではあるが、交換が必要なステップとみなされる。つまり、ここで言う「所定値」は、判定値の一例、例えば基準としての判定値としての絶対判定値である。
【0041】
次に、S04では、異常ステップ判定部6が、浮上り量が所定値を超えていないステップ毎に、当該ステップを、劣化モードA及びBのいずれかに分類する。劣化モードAとは、浮上り位置が前輪側領域16a及び後輪側領域16cのいずれにも無いことを意味する。劣化モードBとは、浮上り位置が前輪側領域16a及び後輪側領域16cのいずれかにあることを意味する。
【0042】
なお、乗降プレート間を一定方向にのみステップが移動する乗客コンベアの場合、劣化モードBとは、浮上り位置が前輪側領域16aにあることを意味してよい。言い換えれば、浮上り位置が前輪側領域16aに無いステップは、劣化モードBではなく劣化モードAに分類されてよい。なぜなら、中央領域16bや後輪側領域16cでの浮上りは、前輪側領域16aでの浮上りに比較し重要性が低い為である。具体的には、ステップの移動方向に対して、ステップ踏面の中央や後輪側に浮上り部分があり、その浮上り部分が乗降プレートに衝突するにしても、その衝突は、ステップ踏面が乗降プレートに入った後の途中での衝突であるため、ステップ踏面を押下げる力が働き、衝突してもステップが損傷する可能性は低い。
【0043】
また、S03は、S04の後に行われてもよいが、S04の前に行われると、より効率的であると考えられる。なぜなら、S04において、劣化モードA及びBのいずれかへ分類されるステップの数が、S03がS04の後に行われる場合に比べて、少ない可能性があるからである。
【0044】
さて、次に、S05では、異常ステップ判定部6が、ステップ総数に対する異常ステップ数の割合を計算する。「異常ステップ」とは、劣化モードに従う判定値を検出された浮上り量が超えているステップである。劣化モードに従う判定値は、予め用意されていてもよいが、本実施形態では、例えば、下記が行われる。
・各劣化モードについて、補正部5が、基準値(例えば、絶対判定値)を基に、当該劣化モードに対応する判定値を決定する、言い換えれば、基準値を、当該劣化モードに対応する判定値に補正する。基準値の補正は、当該劣化モードに分類されたステップの数を基に行われてよい。つまり、補正後の判定値は、いずれの劣化モードであるかと、当該劣化モードに分類されたステップの数とのうちの少なくとも劣化モードに従う値でよい。
・各劣化モードについて、異常ステップ判定部6が、当該劣化モードに分類されたステップ毎に、当該ステップが、当該劣化モードに対応した判定値を浮上り量が超える異常ステップであるか否かを判定する。
・異常ステップ判定部6が、ステップ総数(乗客コンベアが有するステップの数)に対する異常ステップ数の割合である異常割合を計算する。なお、異常割合は、劣化モード別であってもよい。
【0045】
次に、S06では、補正部5が、劣化速度に従う交換時期の補正度合をランク別に決定する。
【0046】
ここで、各ステップについて、「劣化速度」とは、当該ステップについて今回検出された浮上り量及びその検出時刻と当該ステップについて前回検出された浮上り量及びその検出時刻とから求まる速度である。
【0047】
また、「ランク」とは、劣化モードと異常割合とのうちの少なくとも劣化モードに従う。本実施形態では、ランクとして下記の四つがある。なお、「一部異常」とは、異常割合が所定割合未満であること、すなわち、乗客コンベアのうちの一部のステップが異常であるとみなされることを意味する。「全体異常」とは、異常割合が所定割合以上であること、すなわち、乗客コンベアのうちの全体的にステップに異常があるとみなされることを意味する。一部異常と全体異常のどちらの異常が生じているかは、S05で計算された異常割合を基に交換時期判定部106により判定されてよい。
ランク1:劣化モードA、且つ、一部異常
ランク2:劣化モードA、且つ、全体異常
ランク3:劣化モードB、且つ、一部異常
ランク4:劣化モードB、且つ、全体異常
【0048】
S06において交換時期判定部106により決定されるランク別の補正度合は、図4の例によれば、下記の通りである。なお、補正度合が大きい程、交換時期、すなわち、浮上り量が絶対判定値に到達する時期が、早いとみなされる。そして、本実施形態では、後述の理由から、補正度合としての値(%)が小さい程、補正度合が大きい。
・劣化モードAより劣化モードBの方が、補正度合が大きい。前輪側領域16a又は後輪側領域16cに浮上り位置がある方が、それらの領域16a及び16cのいずれにも浮上り位置が無いことに比べて、重要性が高いためである。
・一部異常より全体異常の方が、補正度合が大きい。部分的にステップを交換することに比べて、全体的にステップを交換する方が、重要性が高いためである。
【0049】
S07では、交換時期判定部106は、S06で決定された補正度合を基に、異常ステップの交換時期を判定する。ここで、交換時期が補正される異常ステップは、一部異常の場合においては各異常ステップでよく、全体異常の場合においては各異常ステップでもよいし特定の異常ステップ(例えば、浮上り量が最も大きい異常ステップ)のみでもよい。S07の詳細の一例は、下記の通りである。
【0050】
例えば、24ヶ月後に浮上り量が絶対判定値に到達する劣化速度が得られランク3に分類されたステップについて言えば、当該ステップは、補正度合“80%”であることから、(24カ月後)×(0.8)=約19ヶ月後が交換時期となる補正を行う。図4の例によれば、ランク4に分類されたステップについては、更に、補正度合が“70%”であるため(補正度合が更に10%厳しくなるため)、(24カ月後)×(0.7)=約16ヶ月後が交換時期となる補正が行われる。単一ステップ踏面の浮上りが複数位置で発生する場合(一部異常において、浮上り位置の数が所定数より多いステップについて)、補正度合はより大きくされてもよい、言い換えれば、交換時期がより厳しく判定されてもよい。
【0051】
図5は、或るステップの交換時期の補正の一例を示す。横軸は時間に対応し、縦軸は浮上り量に対応する。2回目(前回)の測定点K01(浮上り量及び検出時刻)と3回目(今回)の測定点K02から得られる傾きK06が、劣化速度に相当する。この傾きK06によれば、浮上り量が絶対判定値Xに到達すると予測される交換時期K04が求められる。ここで、3回目について、当該或るステップがランク3に分類されている場合は、補正度合が80%であることから、予測交換時期K04が80%の寿命である交換時期K07に補正され、結果として、傾きK03が傾きK06に補正される。
【0052】
S08では、結果記録部7が、集計を行う。例えば、ランク別に、当該ランクに分類された異常ステップの数が集計されたり、当該ランクに分類された異常ステップの識別番号が集計されたり、各異常ステップについて、浮上り位置、浮上り量及び交換時期が集計されたりする。この集計結果を示す情報が、判定結果情報として、結果記録部7により記憶装置102に記録される。
【0053】
最後に、S09にて、結果出力部9が、判定結果情報を出力する。出力は、電子メール等の方法により情報を所定のアドレスに送信することであってもよいし、I/Oデバイス191に表示することであってもよい。
【0054】
判定結果情報を表示する画面の一例を図6に示す。
【0055】
画面600は、ランク別情報H01、ステップ別情報H02及び撮影画像H03を表示する。
【0056】
ランク別情報H01は、例えば下記の情報を含む。
・S03において判定値を超えたステップの数と、S03において判定値を超えたステップ毎の識別番号(これらの情報は、最上段に表示される)。
・ランク別に、当該ランクに分類された異常ステップの数と、当該ランクに分類されたステップ毎の識別番号。
【0057】
ステップ別情報H02は、例えば、各異常ステップについて、識別番号、浮上り位置、浮上り量及び予測交換時期(補正後の交換時期)を示す情報を含む。異常ステップの並びは、予測交換時期が早い順等に変更されてよい。これにより、保守管理が容易になる。
【0058】
撮影画像H03は、例えば、浮上り量と浮上り位置の数とに基づき結果記録部7により最も劣化が進んでいると決定されたステップのステップ踏面の撮影画像である。撮影画像H03は、浮上り量と浮上り位置の数とに基づき決定された劣化度合が上位N位(Nは自然数)に属する各ステップのステップ踏面の撮影画像でもよい。
【0059】
以上の説明を、例えば下記のように総括することができる。
【0060】
浮上り検出装置10は、無端状に連結されそれぞれステップ踏面を有する複数のステップを循環駆動させる乗客コンベアにおけるステップ踏面の浮上りを検出する装置である。浮上り検出装置10は、各ステップについて当該ステップのステップ踏面の浮上り量を検出する浮上り量検出部1と、各ステップについて当該ステップのステップ踏面における浮上り位置を判定する浮上り位置判定部2と、異常ステップ判定と交換時期判定とのうちの少なくとも一つを含むコンベア状況判定を行うコンベア状況判定部3と、コンベア状況判定の結果を示す情報である判定結果情報を出力する結果出力部9とを備える。異常ステップ判定は、ステップが異常ステップであるか否かを判定することである。異常ステップは、ステップ踏面について判定された浮上り位置に従う判定値(閾値)を当該ステップについて検出された浮上り量が超えているステップである。交換時期判定は、一つ以上のステップ(例えば、S03において浮上り量が絶対判定値未満と判定されたステップ)の各々についての劣化速度と判定された浮上り位置とに基づいて、当該一つ以上のステップの各々と全部のステップとのうちの少なくとも一方の交換時期を判定することである。全部のステップの交換時期は、例えば、一つ以上のステップにそれぞれ対応した一つ以上の交換時期のうちの最も早い交換時期でよい。当該一つ以上のステップの各々について、劣化速度は、当該ステップについて今回検出された浮上り量及びその検出時刻と当該ステップについて前回検出された浮上り量及びその検出時刻とから求まる速度である。
【0061】
このように、ステップ踏面の浮上り位置に応じたコンベア状況判定がされるので、精度の高い保守管理が期待できる。
【0062】
なお、結果出力情報は、異常ステップ判定の結果を示す情報である第1の結果情報(例えば、ランク別情報H01)と、交換時期判定の結果を示す情報である第2の結果情報(例えば、ステップ別情報H02)とのうちの少なくとも一方を含んでよい。第1の結果情報は、複数の浮上り位置の各々について、当該浮上り位置に浮上りのある異常ステップに関する情報を含んでよい。第2の結果情報は、上述の一つ以上のステップの少なくとも一部のステップについて、判定された交換時期を示す情報を含んでよい。
【0063】
ステップ踏面の領域が、例えば次のように区別される。ステップ踏面は、当該ステップの移動方向側の縁と当該ステップの移動方向反対側の縁との少なくとも一方を含む領域である第1領域と、第1領域以外の領域である第2領域とを含む。第1領域の一例が、前輪側領域16a及び後輪側領域16cのうちの少なくとも前輪側領域16aである。第2領域の一例が、中央領域16bである。第2領域は、例えば、ステップの移動方向が一定であれば、後輪側領域16c(ステップの移動方向反対側の縁を含む領域の一例)を含んでもよい。各ステップについて、判定された浮上り位置は、当該ステップのステップ踏面の第1領域及び第2領域のいずれかである。
【0064】
第1領域及び第2領域の違いは、言い換えれば、浮上り位置の重要性の違いに相当する。なぜなら、ステップの移動方向に対して、ステップ踏面の中央や後側に浮上り部分があり、その浮上り部分が乗降プレートに衝突するにしても、上述したように、ステップが損傷する可能性は低いからである。このような浮上り位置の重要性を考慮したコンベア状況判定が行われ、故に、精度の高い保守管理が期待できる。
【0065】
単一のステップの交換時期は、当該ステップの浮上り量が当該ステップの劣化速度に従い所定値に達する時期である。交換時期判定は、上述の一つ以上のステップの各々について、当該ステップの劣化速度に従う交換時期を、当該ステップについて判定された浮上り位置に応じて補正することを含む。
【0066】
これにより、浮上り位置に応じた重要性に基づく適切な交換時期が判定されることが期待される。
【0067】
コンベア状況判定は、異常ステップ判定と交換時期判定の両方を含む場合、交換時期判定は、上述の一つ以上のステップの各々について、当該ステップの交換時期を、当該ステップについて判定された浮上り位置の他に、ステップ総数に対する異常ステップ数の割合に応じて補正することを含む。
【0068】
これにより、浮上り位置に応じた重要性の他に異常ステップ数の割合に応じた重要性にも基づくより適切な交換時期が判定されることが期待される。
【0069】
上述の浮上り量検出部1、浮上り位置判定部2、コンベア状況判定部3及び結果出力部9を有する装置は、クラウド基盤のような複数種類の計算リソース上で所定のソフトウェアが実行されることでソフトウェアデファインドのシステムとして実現されてもよい。この場合、浮上り量の検出に必要なデータ(例えば、センサによる測定データ)が、当該システムに送信されてよい。当該データが示す信号波形や、ステップの移動速度から、浮上り位置が判定されてもよい。また、浮上り位置の判定に使用されるデータ(例えば、ステップ踏面の撮影画像を示すデータ)も、当該システムに送信され、当該データを用いて浮上り位置が判定されてよい。
【0070】
上述した実施形態に係る浮上り検出装置10は、乗客コンベアがある現場で使用される装置である。具体的には、浮上り検出装置10は、ステップ踏面の高さに応じた値を測定するセンサ(例えば、上述の可動アーム11)と、ステップ踏面を撮影するカメラ13と、それらに接続された本体装置12とを備える。本体装置12は、浮上り量検出部1、浮上り位置判定部2、コンベア状況判定部3及び結果出力部9を備える制御装置である。浮上り量検出部1が、各ステップについて、センサにより測定された値の変化を基に、当該ステップのステップ踏面の浮上り量を検出する。浮上り位置判定部2が、各ステップについて、カメラによる撮影画像を基に、浮上り位置を判定する。判定結果情報は、少なくとも一つの異常ステップの撮影画像を示す情報を含む。
【0071】
これにより、現場でのユーザ(例えば、保守員)の保守点検が支援される。
【0072】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、これは本発明の説明のための例示であって、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
10:浮上り検出装置
図1
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図3
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図6