(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】農業用、工業用およびその他の使用のための消毒薬としてのビスマス-チオール
(51)【国際特許分類】
A61K 31/29 20060101AFI20220630BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220630BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220630BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220630BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220630BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20220630BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20220630BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220630BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A61K31/29
A61P31/04
A61K47/32
A61K9/06
A61K9/10
A61L29/14
A61L24/00 210
A61L27/50
A61L31/16
(21)【出願番号】P 2019219070
(22)【出願日】2019-12-03
(62)【分割の表示】P 2017141774の分割
【原出願日】2011-08-11
【審査請求日】2019-12-27
(31)【優先権主張番号】PCT/US2011/023549
(32)【優先日】2011-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2010-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511186826
【氏名又は名称】マイクロビオン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】ベイカー,ブレット,ヒュー,ジェイムズ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特許第6272366(JP,B2)
【文献】特表2001-526179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/29
A61P 31/04
A61K 47/32
A61K 9/06
A61K 9/10
A61L 29/14
A61L 24/00
A61L 27/50
A61L 31/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオフィルム形成に感受性のある細
菌感染を有するリスクのあった、または前記細
菌感染を有するリスクのある、開放型創傷、慢性創傷、または急性創傷において、前記
細菌感染に基づくバイオフィルム形成を除去、低減、または阻害する
ための医薬の製造における、ビスマスチオール(BT)組成物の使用であって、
前記BT組成物が、0.4μmないし5μmの体積平均直径を有するビスマス-エタンジチオール(BisEDT)の固体微粒子の単分散懸濁液を含有する、使用。
【請求項2】
前記開放型創傷、慢性創傷、または急性創傷が、開放型創傷である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記開放型創傷が、開放骨折を含む、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記開放型創傷、慢性創傷、または急性創傷が、慢性創傷である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記開放型創傷、慢性創傷、または急性創傷が、急性創傷である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記開放型創傷、慢性創傷、または急性創傷が、(i)天然表面、または(ii)天然表面および人工表面を含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬が骨セメントである、請求項1または3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記組成物がヒドロゲルを含有する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記ヒドロゲルがポリメチルメタクリレート(PMMA)を含有する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記細
菌感染が、以下項目(i)ないし(v)のうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載の使用:
(i)1種以上のグラム陰性菌;
(ii)1種以上のグラム陽性菌;
(iii)1種以上の抗生物質感受性細菌;
(iv)1種以上の抗生物質耐性細菌;および
(v)スタフィロコッカス・アウレウス(黄色ブドウ球菌)、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、スタフィロコッカス・エピデルミディス、MRSE(メチシリン耐性S.エピデルミディス)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・アビウム、シュードモナス・エルギノーサ、薬物耐性緑膿菌、大腸菌、腸管毒素原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、クロストリジウム・ディフィシル、ヘリコバクター・ピロリ、レジオネラ・ニューモフィラ、エンテロコッカス・フェカーリス、メチシリン感受性エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロバクター・クロアカエ、サルモネラ・ティフィムリウム、プロテウス・ブルガリス、エルシニア・エンテロコリチカ、ビブリオ・コレレ、シゲラ・フレクスネリ、バンコマイシン耐性エンテロコッカス(VRE)、フランシセラ・ツラレンシス、バチルス・アントラシス、エルシニア・ペスチス、シュードモナス・エルギノーサ、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ペニシリン耐性ストレプトコッカス・ニューモニエ、バークホルデリア・セパシア、バークホルデリア・マルチボランス、マイコバクテリウム・スメグマチスおよびアシネトバクター・バウマニーから選択される細菌病原体。
【請求項11】
細菌性病原体から製品を保護するための医薬の製造におけるビスマスチオール(BT)組成物の使用であって、
前記医薬は、以下(i)ないし(iv)のうち1つ以上のための十分な条件または時間で、前記製品の表面と有効量の前記BT組成物が接触する際、または前記製品に組込む際に使用され、
(i)細菌性病原体による製品の感染の予防、
(ii)細性病原体の実質的に全てのプランクトン性細胞の細胞生存性または細胞増殖の阻害、
(iii)細菌性病原体によるバイオフィルム形成の阻害、および
(iv)細菌性病原体の実質的に全てのバイオフィルム型細胞のバイオフィルム生存性またはバイオフィルム成長の阻害、
ここで、前記BT組成物が、0.4μmないし5μmの体積平均直径を有するビスマス-エタンジチオール(BisEDT)の固体微粒子の単分散懸濁液を備え、かつ前記医薬と前記製品の表面を接触させること、または前記製品に前記医薬を組込むことが、生体外で実行されることを特徴とし、
前記製品の表面が、(i)医療用装置または医療用インプラント上に存在するか、または(ii)歯科用装置または歯科用インプラント上に存在することを特徴とする、使用。
【請求項12】
前記医療用装置または前記医療用インプラントが人工骨、人工関節、カテーテル、ステント、栄養チューブ、または胃瘻用チューブである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記製品が、セメント表面、コンクリート表面、ゴム表面、シリコン表面、プラスチック表面、塗料表面、または被覆表面を備える、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記製品が、細菌性病原体から保護され、
前記製品が、人工骨または人工関節を備え、かつ
前記BT組成物が、骨セメン
トをさらに含有する、
請求項11に記載の使用。
【請求項15】
前記組成物がヒドロゲルを含有する、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記ヒドロゲルがポリメチルメタクリレートを含有する、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記微粒子が
、摩砕されず、または超臨界流体プロセシングを受けないことを特徴とする、請求項1ないし16のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年2月3日出願のPCT出願第PCT/US2011/023549号、および2010年8月12日出願の米国特許仮出願第61/373,188号の利益を主張するものであり、それらは、それぞれ参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ここに開示された発明の実施形態は、微生物感染の処置のための組成物および方法に関する。特に、本発明の実施形態は、細菌バイオフィルムおよび他の状態の処置をはじめとし、農業、工業、製造、臨床、個別健康管理ならびに他の局面での細菌感染を管理するための改善された処置に関する。
【0003】
関連技術の記載
微生物感染に対する応答および抵抗に、および/または植物および動物(ヒトを含む)身体組織の治癒または保持に寄与する複雑な一連の協調的細胞および分子相互作用は一般的に、種々の外的要因、例えば日和見感染および院内感染(例えば、感染のリスクを高めうる臨床レジメン)、抗生物質の局所もしくは全身投与(細胞の発育、遊走または他の機能に影響を及ぼす場合があり、抗生物質耐性微生物に向けて選択することもできる)、および/またはその他の要因により有害な影響を受ける場合がある。
【0004】
残念ながら、全身的にまたは局所的に導入される抗生物質は、しばしば、多くの慢性細菌感染の処置のために有効ではなく、一般には、急性細菌感染が存在しない限り用いられない。現行のアプローチとしては、抗生物質の投与または適用が挙げられるが、そのような救済法は、抗生物質耐性菌株の出現を促進する場合があり、そして/または細菌バイオフィルムに無効となる場合がある。それゆえ、薬物耐性菌(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌またはMRSA)が検出された場合に消毒薬を用いることが特に重要となりうる。広範に用いられる消毒薬が多く存在するが、定着した細菌集団または亜集団が、これらの薬剤、または任意の他の現在利用できる処置に応答しない場合がある。加えて、複数の消毒薬は、定着した細菌感染物に効果的であるために必要な濃度では、宿主細胞に有毒となる場合があり、このためそのような消毒薬は、不適切である。この問題は、天然表面、例えば商業的および/または農業的に重要な植物、例えば多数の作物植物の表面特質、および/または、例えば体内上皮表面、例えば呼吸器管(例えば、気道、鼻咽頭および喉頭管、気管、肺、気管支、細気管支、肺胞など)もしくは胃腸管(例えば、口腔、食道、胃、腸、直腸、肛門など)、または他の上皮表面からの感染を浄化しようとする試みの場合には、特に深刻となりうる。
【0005】
特に問題なのは、比較的近年に認知された細菌組織である細菌バイオフィルムで構成された感染物であり、それは浮遊性単細胞(プランクトン性)細菌が、細胞間接着により、著しく異なる行動様式、遺伝子発現、および抗生物質などの環境薬物への感受性を有する組織化された多細胞共同体(バイオフィルム)に構築されたものである。バイオフィルムは、プランクトン性細菌に見出されない生物学的防衛機構を展開する場合があり、その機構は、バイオフィルム共同体を抗生物質および宿主免疫反応から防御することができる。定着されたバイオフィルムは、組織治癒プロセスを停止させることができる。
【0006】
持続的で潜在的に有毒な感染に潜む一般的な微生物学的汚染体としては、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)をはじめとする黄色ブドウ球菌、腸球菌属、大腸菌、緑膿菌、連鎖球菌属およびアシネトバクター・バウマニーが挙げられる。これらの生物体の幾つかは、数ヶ月間にわたり無栄養の臨床表面上で生存する能力を示す。黄色ブドウ球菌は、乾燥したガラス上で4週間、そして乾燥血液および木綿繊維上で3~6ヶ月間生存可能であることが示された(Domenico et al., 1999 Infect. Immun. 67:664-669)。大腸菌および緑膿菌は両者とも、乾燥血液および木綿繊維上で黄色ブドウ球菌よりも長期間生存することが示された(前著)。
【0007】
微生物バイオフィルムは、殺菌剤および抗生物質の両者に対する耐性の実質的上昇に関連する。バイオフィルムの形態は、細菌および/または真菌が表面に付着すると生じる。この付着は、遺伝子転写の変化を惹起し、著しく活発で、多糖マトリクスを浸透することが困難な分泌物をもたらして、微生物を防御する。バイオフィルムは、抗生物質に対して非常に実質的な耐性を有することに加えて、ホ乳類の免疫系に非常に耐性がある。バイオフィルムは、一旦定着すると根絶が非常に困難となるため、バイオフィルムの形成を予防することは、非常に重要な臨床的優先事項である。近年の研究から、開放型創傷がバイオフィルムにより急速に汚染されうることが示された。これらの微生物バイオフィルムは、創傷治癒を遅延させると考えられ、重篤な創傷感染の定着に関連する可能性が高い。
【0008】
無傷で機能を果たしている皮膚および他の上皮組織(例えば、生物体とその外部環境の間にバリアを形成する一般には無血管の上皮表面、例えば皮膚内に見出され、呼吸器および胃腸管、腺組織などの内層にも見出されるもの)の維持は、ヒトおよび他の動物の健康および生存に重大である。
【0009】
ビスマスチオール(BT)を基剤とする消毒薬
抗微生物性、特に抗細菌特性を有する複数の天然産物(例えば、抗生物質)および合成化学薬品は、当該技術分野で公知であり、化学構造と、抗微生物効果、例えば微生物を殺傷する能力(殺菌性などの「殺傷」効果)、微生物の増殖を停止もしくは損傷する能力(静菌性などの「静止」効果)、あるいは微生物機能、例えば部位でのコロニー形成もしくは感染、細菌によるエキソポリサッカライド分泌、ならびに/またはプランクトン性集団からバイオフィルム集団への変換もしくはバイオフィルム形成の拡大などを妨害する能力と、により少なくとも一部が特徴づけられている。例えば殺菌または静菌能力、効果的濃度、および宿主組織への毒性のリスクなど、そのような組成物の選択および使用に影響を及ぼす因子を含む抗生物質、殺菌剤、消毒薬など(ビスマス-チオールまたはBT化合物を含む)は、例えば、U.S.6,582,719号で議論されている。
【0010】
ビスマスは第V族金属であり、(銀と同様に)抗微生物性を有する元素である。ビスマス単独では、治療的に有用となりえず、特定の不適切な性質を示す場合があり、そのため、代わりに錯化剤、担体、および/または他のビヒクルでの送達によって投与してもよく、その最も一般的な例が、ビスマスを次サリチル酸塩と組み合わせた(キレート化した)Pepto Bismol(登録商標)である。特定のチオール(-SH、スルフヒドリル)含有化合物、例えばエタンジチオールとビスマスとを組み合わせて、例示的なビスマスチオール(BT)化合物を提供すると、現在入手できる他のビスマス調製物と比較して、ビスマスの抗微生物能が改善されることが、これまでの研究で決定された。BTを製造するのに用いられうるチオール化合物は多く存在し(例えば、Domenico et al., 2001 Antimicrob. Agent. Chemotherap. 45(5):1417-1421, Domenico et al., 1997 Antimicrob. Agent. Chemother. 41(8):1697-1703、およびU.S RE37,793号、U.S.6,248,371号、同6,086,921号、および同6,380,248号に開示されており;例えばU.S.6,582,719号も参照)、これらの調製物の複数は、バイオフィルム形成を阻害することができる。
【0011】
BT化合物は、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、MRSE(メチシリン耐性S.エピデルミディス)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・アビウム、薬物耐性緑膿菌、腸管毒素原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、クロストリジウム・ディフィシル、ヘリコバクター・ピロリ、レジオネラ・ニューモフィラ、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロバクター・クロアカエ、サルモネラ・ティフィムリウム、プロテウス・ブルガリス、エルシニア・エンテロコリチカ、ビブリオ・コレレ、およびシゲラ・フレクスネリに対する活性が立証されている(Domenico et al., 1997 Antimicrob. Agents Chemother. 41:1697-1703)。サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)およびHSV-2、ならびに酵母および真菌、例えばカンジダ・アルビカンスに対する活性の証拠も存在する。BTの役割は、細菌の病原性を低下させて、広域スペクトル抗生物質に耐性の微生物(グラム陽性菌およびグラム陰性菌)を阻害または殺傷し、バイオフィルムの形成を予防し、敗血症性ショックを予防し、敗血症を処置し、過去に耐性を示した抗生物質への細菌感受性を上昇させることにおいても実証された(例えば、Domenico et al., 2001 Agent. Chemother. 45:1417-1421;Domenico et al., 2000 Infect. Med. 17:123-127; Antimicrob. Agents & Chemother. 3:79-85のDomenico et al., 2003 Res. Adv.; Domenico et al., 1997 Antimicrob. Agent. Chemother. 41(8):1697-1703;Domenico et al.,1999 Infect. Immun. 67:664-669; Huang et al. 1999 J Antimicrob. Chemother. 44:601-605; Veloira et al., 2003 J Antimicrob. Chemother. 52:915-919; Wu et al., 2002 Am J Respir Cell Mol Biol. 26:731-738参照)。
【0012】
10年を十分に超える期間のBT化合物の利用性にもかかわらず、特定の感染疾患の徴候に関する適切なBT化合物の効果的選択は、依然として捕えどころのない目標であり、特定の微生物に対する特定のBTの挙動は予測できず、特定の微生物に対する特定のBTと特定の抗生物質との相乗活性は予測できず、インビトロでのBTの効果からは通常、インビボでのBT効果を予測することができず、プランクトン(単一細胞)性微生物集団に対するBT効果は、微生物共同体、例えばバイオフィルムへ構成された細菌に対するBT効果の予測因子となりえない。加えて、溶解度、組織透過性、生物学的利用度、生体内分布などの限界が、一部のBT化合物の場合に、臨床利益を安全に、そして効果的に送達する能力を妨害する可能性がある。ここに開示された発明の実施形態は、これらの必要性に取り組んでおり、他の関連の利益を提示する。
植物および農業産物の防御:関連技術分野の説明
【0013】
農業および植物学的技術分野では、植物におけるバイオフィルムおよび疾患を低減するための処方物に対する、ならびに例えば種子、植物体、果実および花、土壌における、そして切花、樹木、果実、葉、茎および他の植物部分における、このような処方物の使用方法に対する必要性が認識されている。
【0014】
農業においては、バイオフィルムの形成のために、毎年、数十億ドルの作物が失われる。植物における炭疽病およびバイオフィルム関連疾患の問題は、それに取り組もうと試みられてきた多数のアプローチが要求を満たさないにもかかわらず、十分に理解されている。無傷の生きている植物により用いられる正常の防御機序は収穫された産物においてはもはや有効ではないので、植物疾患は、果実、野菜、切花および樹木、ならびにその他の植物産物の輸送および保存に関与する産業にも影響を及ぼす。
【0015】
したがって、農業目的のためには、環境規則の遵守を保持しながら、輸送における、または商業的立場での、in situの葉、茎、果実および花の表面での微生物増殖の量を低減することが望ましい。同時に、これらの産物の望ましい特質を増強するために、切花、植物体および樹木内の水の流れが、植物組織の腫脹、完全性および質を保持し得るようにするのが望ましい。
【0016】
植物における感染性疾患を引き起こす生物体としては、真菌、細菌、ウイルス、原生動物、線虫および寄生性植物が挙げられる。昆虫およびその他の害虫も、植物組織の消費により、そして微生物への植物組織の曝露により、植物の健康に影響を及ぼす。
【0017】
バイオフィルムは、典型的には、水中条件下、あるいは水滴中または他の高湿度条件中といったような水性環境において、細菌が表面と結合する場合に生じ、そして結合後、バイオフィルム形成物は粘着性物質を分泌し始め、これは次に、種々の材料、例えば金属、プラスチック、医療用移植片および組織と結合し得る。これらのバイオフィルムは、興行および農業的環境における材料の分解およびパイプの詰り、ならびに医療環境で生じる場合には周囲組織の感染を含めた多くの問題を引き起こし得る。医療分野は、特に、バイオフィルム形成により引き起こされる問題を蒙り易い;埋め込まれた医療用具、カテーテル(泌尿器、静脈、透析、心臓)および緩徐治癒性創傷は、バイオフィルム中に存在する細菌により容易に浸潤される。農業では、バイオフィルムは、乳腺炎、ピアス氏病、ジャガイモの輪腐れ病、種々の作物のべと病、ならびに多くの種類の植物における炭疽病を引き起こし得る。バイオフィルムは、さらにまた、切花および樹木の質および製品寿命を低減する。
【0018】
多くの植物疾患は、土壌に固有のバイオフィルム産生細菌により引き起こされる。天然環境におけるほとんどの微生物は、バイオフィルムとして一般的に記載される多細胞性集合体中に存在する。細胞は、種々の細胞外高分子物質(EPS)、例えばエキソポリサッカリド、タンパク質およびDNAを含む複合マトリックスを介して、表面に、そして互いに接着する。植物会合細菌は、発病および共生中に、そして片利共生関係で、宿主組織表面と相互作用する。植物と会合される細菌の観察は、細胞の小集団から広範なバイオフィルムに変化するバイオフィルム型構造を漸増的に明示する。植物組織の表面特性、栄養および水利用可能性、ならびにクローン化細菌の性癖は、結果的に生じるバイオフィルム構造に強く影響する(Ramey et al., 2004 Curr Opinion Microbiol. 7: 602-9)。
【0019】
陸地環境は、資源プールに関して競合し、改質し得る豊富な且つ多様な微生物集団を棲息させている。植物は、それらの葉、根、種子および内部維管束上の細菌によりコロニー形成される。各組織型は、外来微生物に関する挑戦および機会を表す独自の化学的および物理的特性を有する。バイオフィルムは、会合時に、または後期段階で形成され、植物-微生物相互作用を指図するかまたは調整する有意の潜在力を有する。多数の微生物がコロニー化植物環境を能動的に改質するので、付加的な時間的および空間的複雑性が生じる。
【0020】
表面会合細菌は、農業に及ぼす有意の影響を有する。先進国では、植物疾患により引き起こされる損失は、作物収量の25%までに達しており、そのパーセンテージは開発途上国におけるよりもはるかに高い。着生集団は、感染のレザバーおよび将来的感染源を構成し、宿主および非宿主植物上に見出され得る。ブドウの蔓の細菌病原体であるブドウつる割病菌(Xylophilus ampelinus)は、これらの植物の維管束中に厚いバイオフィルムを形成する(Grail & Manceau 2003)。ピアス病菌(Xylella fastidiosa)は、ブドウの蔓のピアス病の原因作因である。ピアス病菌は、多数の経済的に重要な作物の木部道管内にバイオフィルムを形成し得る。病原性の機序は、ピアス病菌の凝集およびバイオフィルム形成による木部道管の閉塞によるところが大きい。道管遮断は、疾患発症に大きく関与すると考えられ、木部樹液は、ブドウの蔓のピアス病および柑橘類斑入り白化の病毒力を助長する天然媒質を提供する(Zaini et al., 2009 FEMS Microbiol LETT. 295: 129-34)。
【0021】
最も関係のある植物病原体の1つであるシュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)は、豆における褐斑病を引き起こす。それは、単独小群(10細胞より少ない)で散在的に葉の表面をコロニー化するが、一方、より大きい集団(1000細胞より多い)は主に、より高い栄養利用能を伴って毛状突起または葉脈付近で発達する。大型集合体は、単独細胞より良好に乾燥ストレスを生き残る。宿主植物組織における感染を引き起こさない場合、シュードモナス・シリンゲは植物着生生物(すなわち、植物の気生部分のコロニー形成体)として生き続ける(Monier et al., PNAS 2003; 100: 15977-82)。
【0022】
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)は、土壌中の根浸出物の存在に迅速に応答して、根のコロニー形成部位に集まって、安定したバイオフィルムを確立し得る(Espinosa-Urgel et al., Microbiol 2002; 148: 341-3)。
【0023】
キャベツ黒腐病菌(Xanthomonas campestris pv. Campestris (Xcc))は、十字花科植物に黒根を生じ、根の創傷部位を通して維管束に近づく。病毒性は、病毒性に必要な分解性外酵素およびエキソポリサッカリド・キサンタンゴムを伴う(Dow et al., PNAS 2003; 100: 10995-10000)。
【0024】
キサントモナス・スミシイ亜種シトリ(Xanthomonas smithii subsp. citri)は、柑橘潰瘍病の原因である。この疾患は、欧州以外の世界中のほとんどの大陸で見出されている。当該病原体は、多くの国で撲滅されてきた。キサントモナス・スミシイは、柑橘類植物の果実、葉および小枝に潰瘍病変を形成する。風雨が細菌を15km先まで広げて、気孔または創傷を解して柑橘類の樹木に伝染し得る(Sosnowski, et al., Plant Pathol 2009; 58: 621-35)。
【0025】
パントエア・ステワルティイ亜種ステワルティイ(Pantoea stewartii subsp. stewartii)は、トウモロコシにスチュワート立枯れ病を引き起こし、トウモロコシ・ノミハムシにより伝播される。細菌は主に宿主木部に生息し、多量のエキソポリサッカリドを産生する(von Bodman et al., PNAS 1998; 95: 7687-92)。
【0026】
青枯病菌(Ralstonia solanacearum)は、多数の植物に致命的立ち枯れを引き起こす土壌性病原体である。病毒性は、複合調節ネットワークにより制御されるEPSおよび細胞壁分解酵素によって決まる(Kang et al., Mol Microbiol 2002; 46: 427-37)。
【0027】
クラビバクター・ミシガネンシス亜種セペドニクス(Clavibacter michiganensise subsp. sepedonicus)は、ジャガイモの細菌性輪腐病を引き起こすグラム陽性植物病原体である。Marques等は、木部道管と結合された大型細菌性のマトリックスで包まれた集合体を示した(Marques et al., Phytopathol 2003; 93: S57)。
【0028】
バイオフィルム産生性エルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)は、植物組織の急速な浸解により軟腐病を引き起こす。ペクチン酵素の産生はクオラムセンシング(QS)調節され、したがって、細菌集合体を形成できないと、ペクチン分解酵素分泌が不可能になり得る。関連植物病原体であるエルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)は、すべてバラ科の約75の異なる種の植物を感染させる。この細菌に関する宿主としては、リンゴ、ナシ、ブラックベリー、コトネアスター、野生リンゴ、トキワサンザシ(ピラカンサ)、サンザシ、ボケ、ナナカマド、ナシ、カリン、ラズベリー、ザイフリボクおよびユキヤナギが挙げられる。栽培種のリンゴ、ナシおよびマルメロは、最も深刻な影響を受ける種である。2000年のミシガン州における1回の火傷病流行は、220,000本を上回る樹木が失われ、総計4200万ドルの損失を生じた。米国における火傷病のための年間の損失および管理経費は、1億ドルを上回ると概算される(Norelli et al., Plant Dis 2003; 87: 26-32)。
【0029】
エルウィニア・アミロボラは、宿主植物における特徴的火傷病立枯れ症候を引き起こす2つのエキソポリサッカリド、すなわちアミロボランおよびレバンを産生する(Koczan et al., Phytopathol 2009; 99: 1237-44)。さらに、他の遺伝子、ならびにそれらのコード化タンパク質は、ソルビトール代謝、タンパク質分解活性および鉄獲得を助長する酵素をコードするエルウィニア・アミロボラの病毒性因子として特性化されている(Oh & Beer. FEMS Microbiology Lett. 2005; 253: 185-192)。
【0030】
植物の一部が、微生物植物病原体、例えばバイオフィルム形成体に攻撃されても、その作用は通常は植物を弱めるかまたは殺すことである。葉を感染させることにより、病原体は、(例えば光合成による)その食物を産生する植物の能力を危うくする。いくつかの植物病原体は、葉に供給する茎中の流体輸送道管を遮断し、そしてこのような病原体が根を攻撃する場合、水および栄養物の取込みは低減されるかまたは完全に停止される。植物維管束の遮断は、しばしば、土壌中で成長中の植物ならびに花瓶の水の中の切り取った植物の両方において、水および栄養物の流れを詰らせるバイオフィルム産生細菌を伴う。
【0031】
植物がこれらの微生物のうちの1つにより攻撃される場合、その結果生じる損害は、植物組織の付加的微生物侵襲の機会を提供し、それは、最終的に植物を損傷し、破壊する組み合わされた猛攻撃である。環境的ストレス、例えば旱魃または栄養不足の下にある植物は、微生物の攻撃を特に受け易い。
【0032】
時として、微生物「感染」は共生的であり、この場合、両方の生物体が利益を得る。この好例は周知の窒素固定細菌(根粒菌)であって、これは、マメ科(エンドウマメ)植物の根の根粒中に生息しており、当該植物は栄養物と保護を提供するが、一方、細菌は空気中から窒素を得て、それを宿主が利用可能な形態に転化する。別の例として、菌根は、植物の根と共生関係を有する真菌の1つの大きな目である。このような相互に有益な共生にかんがみて、有害微生物病原体に対する植物の防御または保護は、望ましくは、可能な場合はいつでも、これらの共生関係を崩壊しない抗菌剤を用いる。
【0033】
腐生真菌は、死生体物質を分解して、良好な土壌構造に必要とされる腐植質を生成するのに不可欠である。それらは、如何なるクロロフィルも有さず、したがってエネルギーを捕獲するために光を用いること(例えば、光合成による)ができない;代わりに、それらは、植物および動物物質(生きているものまたは死んだもの)を分解することによりそのエネルギーを得る。それらはさらにまた、ある植物種、例えば球果植物の細い根の菌根と共生関係で生存し得るが、それらは、生命維持に必要な栄養素を取り込むためにそれらなしでは生存できない。有害植物病原体を制御するための化学物質の広範な使用は、これらの有益な真菌の平衡を損害し、有機物管理の原則に反する。
【0034】
しかしながら、他の余り歓迎されない真菌があり、これらは、生きている植物を攻撃して、それらを衰弱させるかまたは殺してしまう。他の部類の微生物植物病原体である、ウイルスは、植物組織の細胞内に生息し、したがって局所的に適用される化学物質では処置できないことが多く、罹患植物は破壊を免れなくなる。一般に植物の処置のために特定的に開発された抗生物質はなく(しかし、他の目的のために開発されたいくつかの抗生物質は植物における用途を見出している)、多数の経済的に有意の植物種が病原性細菌攻撃を受け易いままにされている。例えば、バラ科の多数の植物種の火傷病侵襲は、治療不可能と判明した。これに対比して、多数の有害な真菌は、植物宿主を害することなく、局所適用化学物質で殺害され得るが、これは、真菌増殖習性が異なるためであり、すなわち、多数の望ましくない病原性真菌は、栄養物を抽出するために根様構造を用いて、植物表面で増殖し、植物組織内では増殖しないためである。
【0035】
多くの植物病原体を殺害することはしばしば難しいかまたは不可能であるため、有害微生物病原体に対して植物を保護するための多数の戦略は、「予防は治療に勝る」という哲理を是とする。植物を増殖、成長させる場合の良好な衛生状態を観察することにより、多くの微生物性植物疾患が、確立されるべき微生物感染の機会を遮断することにより、防止され得る。しばしば、確立された感染に応答してというよりむしろ、このような作用物質が予防的に用いられる場合、有意に低量の殺虫剤または殺微生物剤が有効であり得る。
【0036】
例えば、土壌が、それ自体、あるいは旱魃または大雨または洪水との組合せで、質不良(例えば、栄養分の欠乏)であるため、最適または最適に近い条件下で植物が生育していない場合、植物は疾患に罹り易くもなる。例えば極端な湿潤条件は、病原性真菌および/または細菌増殖を促進し得る。例えばシュードモナス・シリンゲにおけるクオラムセンシングは、葉の表面の水利用可能性により示される(Dulla & Lindow. PNAS 2008; 105: 3-082-7)。もちろん、すべての植物疾患が昆虫により伝染されるというわけではなく、その他は風媒性である。例えば、アブラムシおよびその他の汁吸い昆虫は、ウイルスの主な媒介動物である。真菌疾患の胞子は、空気中で、そして雨滴および飛沫中で運ばれる。
種子および新芽上のバイオフィルム
【0037】
種子への細菌接着は、根圏コロニー形成に強力に影響を及ぼすプロセスである。種子供給者は、しばしば、微生物バイオフィルムで種子ストックを故意に被覆して、発達中の根圏を接種処置する。逆に、ヒトが消費するために用いられる種子および新芽上のバイオフィルムは、しばしば、消化管感染の一般的感染源である。シュードモナス・プチダは種子と効果的に接着し、その後、根圏をコロニー化する。コムギ組織中に見出される非病原性放線菌類の内部寄生性集団は、表面滅菌化種子の放線菌により内部コロニー形成から得られた。種子コロニー形成の他の研究は、アルファルファの種子および新芽の走査電子顕微鏡写真においてEPS内に埋め込まれた棒形および球菌型細菌を報告している。バイオフィルムは、周知のように、種子および新芽における洗浄およびその他の一般的抗細菌処理に対して耐性である。アルファルファ新芽上の大腸菌O157:H7およびサルモネラ集団はともに、接着微生物の数を低減するためには単に水洗いするよりもはるかに過酷な処理を要し、完全な除去は達成されない、ということを、Fett等は見出した。生存細菌は、バイオフィルム内に棲息すると思われた(Ramey et al. Curr Opinion Microbiol 2004; 7: 602-9)。
切花および切断樹木
【0038】
維管束病原体は、植物宿主の木部または師部に生息し、一般的に、伝播に関する昆虫媒介物または創傷によって決まる。切花または切断樹木は、特に維管束感染しがちな同様型の創傷である。バイオフィルム細菌は切断面の維管束に進入し、詰らせて、水、鉱物および栄養物の流れを妨害する。花瓶の水中で希釈される切花防腐剤は、しばしば、バイオフィルム形成を低減するためにサリチル酸塩またはアスピリンを含有し(Domenico et al., J Antimicrob Chemo 1991; 28: 801-10;Salo et al., Infection 1995; 23: 371-7)、低pHを提供して、細菌増殖を防止し、バイオフィルムを分断する。
【0039】
農業における抗菌剤. 植物病原体侵入の撲滅は、世界中の植物産業、管理庭園および天然環境の保護のために非常に重要である。風土病になりつつある病原体の結果は深刻で、いくつかの場合には、国の経済に影響を及ぼし得る。病原体の撲滅のための目下の戦略は、罹患宿主植物の処置、除去および廃棄のための技法に頼っている。これらの技法が成功している多数の例があるが、しかし、そうでない場合も多くある。精巧は、病原体の生物学および疫学ならびに宿主とのその相互作用についてのしっかりした理解に頼っている。世界中の、特にオーストラリアの植物病原体および罹患宿主を論じている例を調べるに際して、種々の技法、例えば燃焼する、埋める、堆肥にする、土壌および生物燻蒸、ソラリゼーション、蒸気滅菌ならびに生物学的媒介体制御が用いられてきた(Sosnowski, et al., Plant Pathol 2009; 58: 621-35)。
【0040】
価値の高い果実、野菜および観賞植物のある種の細菌疾患を制御するために、1950年代以来、抗生物質も用いられてきた。今日、植物に最も一般的に用いられる抗生物質は、オキシテトラサイクリンおよびストレプトマイシンである。米国では、植物に適用される抗生物質は、総抗生物質使用の0.5%未満を占める。オキシテトラサイクリンに対する植物病原体の耐性は稀であるが、しかしエルウィニア・アミロボラ、シュードモナス種およびキサントモナス・カンペストリスのストレプトマイシン耐性株の出現は、いくつかの重要な疾患の制御を妨げている。したがって、ヒト医療における抗生物質耐性危機において植物における抗生物質使用の役割は、論議の主題である(McManus et al., Annu Rev Phytopathol 2002; 40: 443-65)。
【0041】
ストレプトマイシン耐性(SmR)植物病原体の出現は、植物の細菌性疾患の制御を複雑にしている。例えば、米国では、ストレプトマイシンは、キサントモナス・カンペストリス pv.ベシカトリアの制御のためにトマトおよびコショウに関して許可されているが、しかし耐性株は目下広範であるため、この目的で用いられることは稀である。火傷病病原体であるエルウィニア・アミロボラにおける耐性は、広範囲に及ぶ経済的および政治的含意を有している。SmRが報告されている他の植物病原性細菌としては、ペクトバクテリウム・カロトボラ、シュードモナス・チコリ、シュードモナス・ラクリマンス、シュードモナス・シリンゲpv.パプランス、シュードモナス・シリンゲpv.シリンゲおよびキサントモナス・ジエッフェンバキエが挙げられる(McManus et al., Annu Rev Phytopathol 2002; 40: 443-65)。SmRエルウィニア・アミロボラの出現は、米国西部およびミシガンにおける火傷病流行を増大してきた。
【0042】
ストレプトマイシンおよびオキシテトラサイクリンは、米国環境保護庁(EPA)により最低毒性部類に割り当てられており、発癌性および突然変異誘発性活性はどちらの抗生物質に関しても観察されていない。
【0043】
抗生物質の代替物が利用可能であり、少なくともある程度まで、実用的である。実際、ほとんどの作物系における細菌性疾患管理は、宿主の遺伝的耐性の組込み、衛生設備(接種の回避または除去)、ならびに疾患発生のために好ましくない環境を作る栽培実施に基づいている。種々の細菌種および真菌種を用いる植物の生物制御は、関心が増しつつある。根粒菌は、根帯域における効率的微生物競合体とみなされる。多数の異なる細菌属の代表物が、作物成長を改善するために、土壌中に、種子、根、塊茎または他の植物物質上に導入されてきた。これらの細菌属としては、アシネトバクター、アグロバクテリウム、アルスロバクター、アゾスピリルム、バシラス、ブラディリゾビウム、フランキア、シュードモナス、根粒菌、セラチア、チオバシラス等が挙げられる。例えばある種のバシラスは、多数の植物において全身性耐性を誘導し得る(Choudhary & Johri. Microbiol Res 2009; 164: 493-513)。
【0044】
銅化合物の適用は、いくつかの細菌性植物病原体の集団を低減するのに有効であるが、しかしいくつかの種は銅に対して耐性になり(Cooksey Annu Rev Phytopathol 1990; 28: 201-14)、ほとんどの樹木-果実作物は銅損傷に対して感受性である。
【0045】
多数の合成および天然療法が、種々の植物疾患に関して存在する。天然療法としては、病斑、うどん粉病および赤カビ病のためのリンゴ酢;炭疽病、早期トマト胴枯れ病、葉枯れ病、うどん粉病のための、ならびに一般的殺真菌剤としての重曹噴霧;ニーム油;イオウ;ニンニク;過酸化水素;堆肥茶等が挙げられる。多数の合成化学物質が用いられて、植物疾患を防止するかまたは処置し、水溶性または水不溶性処方物を生じる。殺菌剤としては、フェノキシアルシンまたはフェナルサジン、マレイミド、イソインドールジカルボキシイミド、ハロゲン化アリールアルカノール、4-チオキソピリミジン誘導体(米国特許第6384040号)、複素環式オルガノシリル化合物およびイソチアゾリノンが挙げられる。多くの殺菌剤がピリチオン誘導体と組合わされて、相乗性化合物を作る(例えばEP1468607)。あるイソチアゾールカルボキシアミドは、植物害虫の制御のために用いられ得る(例えば、米国特許第6552056号;WO 2001/064644)。
【0046】
粉末または結晶形態の殺菌剤の毒性問題を理解して、米国特許登録番号29,409号は、液体溶媒中に殺菌剤を溶解し、これを処方物混合物に付加して、これから最終用途樹脂組成物が加工され得ることを教示している。分散液は最終用途樹脂組成物を調製する場所で安全に用いられ得るが、しかし、液体の不注意な使用または廃棄は、依然として、環境および健康危害を生じ得る。あるいは殺菌剤は、水溶性熱可塑性樹脂中にも投与され得る。殺菌剤は、剛性熱可塑性樹脂組成物に付加されて、その表面における微生物増殖を抑制するよう、それに殺生物活性を付与し得る(米国特許第5,229,124号)。これは、ビニルアルコールおよび(アルキレンオキシ)アクリレートのコポリマーである担体樹脂中に溶解された殺菌剤で本質的に構成される固体融解配合溶液である。殺菌剤は高毒性化学物質であり得るが、しかし最終用途製品中のその低濃度ならびに樹脂組成物によるその保持は、最終用途製品中の抗菌剤がヒトまたは動物に危害を与えない、ということを保証する。
【0047】
イソチアゾリノン、例えばN-アルキルベンゼンスルホニルカルバモイル-5-クロロイソチアゾール誘導体は、しばしば、農業における殺菌剤として用いられる(例えば、米国特許第5,045,555号)。この殺菌剤は、例えば製紙産業、繊維産業で、コーティングおよび接着剤を製造するために、塗装、金属加工で、樹脂産業、材木産業、建築産業、農業、林業、水産業、食品産業および石油産業で、ならびに医療において、広範囲に有用である。それは強い抗菌作用を示し、適量で、工業用水、循環水、原料または製品に付加され得る。さらにそれは、設備、工業施設、家畜小屋または器機、ならびに種子、苗木および原料を消毒し、滅菌するために用いられ得る。イソチアゾロンの他の誘導体も既知である(米国特許第3,523,121号およびJ. Heterocyclic Chem., 8, 587 (1971))。しかしながら、すべての既知の誘導体化合物は動物および魚類に対して高毒性であり、これはその適用を有意に制限する。
【0048】
重炭酸ナトリウムは、一般に、植物に適用される場合、殺真菌特性を保有することも見出されているが、しかし典型的には、効力を実現するためには頻繁な再適用を要する。
【0049】
植物宿主-寄生生物関係における鉄の役割は、エルウィニア・クリサンテミおよびエルウィニア・アミロボラによりそれぞれ誘発される軟腐病および火傷病と同様に異なる疾患において解明されている(Expert. Annu Rev Phytopathol 1999; 37: 307-34)。生物学的系におけるその独特の位置のため、鉄は、植物病原体の活動を制御する。病原体によるシデロフォアの産生は、宿主組織から鉄を獲得するための強力な戦略を表すだけでなく、鉄毒性に対する保護剤としても作用し得る。病気発生中に金属を結合し、おそらくは封鎖する宿主の必要性は、別の主要な問題である。細菌性鉄取込みおよび細胞呼吸を妨げる抗菌剤は、植物消毒において重要な役割を果たし得る。
【0050】
抗菌、殺菌および特に抗細菌特性を有する多数の天然産物(例えば抗生物質)および合成化学物質が既知であり、少なくとも一部は化学的におよび生物学的に特性化されている。例示的特性としては、微生物を殺害する能力(殺細菌作用)、微生物増殖を停止させるかまたは減損する能力(静菌作用)、あるいはある部位をコロニー化するかまたは感染させる、代謝産物の細菌性分泌(そのいくつかは悪臭を放つ)および/またはプランクトン性集団からバイオフィルム集団への転換またはバイオフィルム拡張といったような微生物機能を妨げる能力(抗バイオフィルム作用)が挙げられる。抗生物質、消毒剤、殺菌剤等(ビスマス-チオールまたはBT化合物を含む)は、このような組成物の選択および使用に影響を及ぼす因子、例えば殺細菌剤、静菌剤または抗バイオフィルム効力、有効濃度および宿主組織に対する毒性の危険を含めて、米国特許第6,582,719号で考察されている。
【0051】
バイオフィルム内に保護される細菌マイクロコロニーは、典型的には、抗菌剤または消毒剤に対して耐性である。例えば浮動性細菌を殺害する抗生物質用量は、バイオフィルム細菌を殺害するための1,500倍増大される必要がある。この高濃度では、いくつかの抗菌剤は有毒であり得る。例えば、臭化および塩素化化合物を酸化すると、非常に有毒に且つ腐食性になる。
【0052】
花腐期の抑圧は、火傷病の管理のために重要である。花感染を起こすためには、エルウィニア・アミロボラは着生期に柱頭表面で増殖する必要がある。雨は、花托筒上の糖をエルウィニア・アミロボラに対して阻害性でない浸透ポテンシャルに希釈するため、感染のために必要である。雨は、柱頭から花托筒への細菌の再分布のための作因としても重要である。これらの観察は、抗生物質噴霧を用いるための最適時機はこの着生期中、ならびに大雨の後である、ということを示唆している(Johnson & Stockwell. Annu Rev Phytopathol 1998; 36: 227-48)。
【0053】
他の細菌着生植物も柱頭をコロニー形成し、そこで、それらは病原体の着生増殖と相互作用し、抑圧し得る。エルウィニア・アミロボラの市販の細菌アンタゴニスト(BlightBan、シュードモナス・フルオレッセンスA506)が、抗生物質噴霧プログラムに含まれ得る。化学的方法による細菌アンタゴニストの取込みは、病原体の集団を抑圧し、共存的に、柱頭により提供される生態学的適所に非病原性競合微生物を充填する(Johnson & Stockwell. Annu Rev Phytopathol 1998; 36: 227-48)。
【0054】
ピリチオンは、ピリジン-N-オキシドの誘導体である2-メルカプトピリジン-N-オキシド(CAS#1121-31-9)由来の共役塩基である。その抗真菌作用は、輸送機序を活発にするプロトンポンプを遮断することにより、膜輸送を分断するその能力にある。真菌は低濃度でピリチオンを不活性化し得る、ということを実験は示唆している(Chandler & Segel. Antimicrob. Agents Chemother 1978; 14: 60-8)。亜鉛ピリチオンは、亜鉛の配位複合体である。この無色固体は、抗真菌剤および抗細菌剤として用いられる。その低水溶性(中性pHで8ppm)のため、亜鉛ピリチオンは、屋外用ト量、セメントならびにうどん粉病菌および藻類に対する保護を提供する他の製品中で用いるのに適している。それは有効な殺藻剤である。しかしながら、それは、金属カルボキシレート硬化剤に頼ると量と化学的に非相溶性である。多量の鉄を含有する水を含むラテックス塗料中に用いられる場合、鉄イオンと選択的に結合する金属イオン封鎖剤が必要である。
【0055】
農業において特に問題であるのは、かなり最近になって認識された細菌の組織化である細菌バイオフィルムからなる感染であって、これにより、遊離単細胞化(「プランクトン性」)細菌は、細胞間接着によって、顕著に異なる行動パターン、遺伝子発現、ならびに抗生物質を含めた環境作因に対する感受性を有する組織化多細胞共同体(バイオフィルム)に集合される。バイオフィルムは、プランクトン性細菌においては認められない生物学的防御機序を展開し、この機序は、抗生物質および宿主免疫応答に対してバイオフィルム共同体を保護し得る。確立されたバイオフィルムは、植物における増殖、発育または創傷治癒過程を止め得る。
【0056】
微生物バイオフィルムは、消毒剤および抗生物質の両方に対する耐性の実質的増大と関連する。バイオフィルム形態は、細菌および/または真菌が表面に付着すると生じる。この付着は、遺伝子の転写変更を誘発して、顕著に弾性を有し且つ浸透するのが困難な多糖マトリックスの分泌を生じて、微生物を保護する。バイオフィルムは、抗生物質に対するそれらの非常に実質的な抵抗性のほかに、植物免疫防御機序に対して非常に抵抗性である。バイオフィルムは、一旦確立されると、根絶するのが非常に難しく、したがって、バイオフィルム形成を防止することは、非常に重要な農業的優先事項である。開放性創傷は、バイオフィルムにより即時に汚染されるようになる、ということを、近年の研究は示している。これらの微生物バイオフィルムは、増殖、清澄および/または創傷治癒を減損すると考えられており、重篤な、そしてしばしば難治性の感染の確率に大いに関連していると思われる。
【0057】
明らかに、バイオフィルムとして生じる微生物感染を含めた植物中および植物上の微生物感染を処置し、防止するための改善された組成物および方法が必要とされている。本明細書中に記載されるある実施形態は、この必要性を取り扱い、他の関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0058】
本明細書に開示されているように、そして理論に縛られずに考えると、本明細書中で初めて記載されるある実施形態によれば、ビスマス-チオール(BT)化合物は、広範な種々の農業、工業、製造業および他の状況において、ならびに感染性疾患および関連症状の処置または防止において、そして個別健康管理に用いるパーソナルヘルスケアにおいて用いるための消毒薬として用いることができる一方で、BTにより少なくとも一部は仲介される防止または予防により実行される節減を含めた、このような感染の処置にかかるコストも低下させる。
【0059】
同じく本明細書に記載された特定の実施形態において、本明細書に記載された1種以上のBT化合物および1種以上の抗生物質化合物を含み、細菌バイオフィルムまたはバイオフィルム形成に関連する細菌(例えば、バイオフィルムを形成または他の方法で促進することができる細菌)を含む植物または植物組織(例えば、根、球根、茎、葉、枝、蔓、匍匐枝、蕾、花またはその一部分、新芽、果実、種子、莢等)および動物組織および/または天然および人工表面を処置するための処方物が企図され、非限定的理論によれば、本開示を基にして適宜選択されたBT化合物(単数または複数)と抗生物質との組み合わせは、そのような処方物の抗菌(抗バイオフィルムを含む)効果において以前は予測されなかった相乗性を、ならびに/または細菌バイオフィルムを含む感染などの微生物感染の防止、予防および/もしくは治療上効果的な処置のための予測されなかった増強効果を提供する。
【0060】
同じく、これらのおよび関連する実施形態で用いるために本明細書において提供されるのは、実質的に単分散の微粒子懸濁液を有益に含むビスマス-チオール組成物、ならびにそれらの合成および使用方法である。
【課題を解決するための手段】
【0061】
したがって本明細書に記載された発明の特定の実施形態によれば、細菌、真菌またはウイルス病原体に対して植物を防御するための方法であって、以下の:(i)細菌、真菌またはウイルス病原体による植物の感染の予防、(ii)細菌、真菌またはウイルス病原体の実質的に全てのプランクトン性細胞の細胞生存性または細胞増殖の阻害、(iii)細菌、真菌またはウイルス病原体によるバイオフィルム形成の阻害、および(iv)細菌、真菌またはウイルス病原体の実質的に全てのバイオフィルム型細胞のバイオフィルム生存性またはバイオフィルム成長の阻害:のうちの1つ以上のために十分な条件および時間で、植物またはその一部分(例えば、根、球根、茎、葉、枝、蔓、匍匐枝、蕾、花またはその一部分、新芽、果実、種子、莢等のうちの全部または一部)を有効量のビスマス-チオール(BT)組成物と接触させることを包含する方法であり、BT組成物が、BT化合物を含む微粒子の実質的に単分散性懸濁液を含み、前記微粒子が、約0.4μm~約10μmの体積平均直径を有する方法が提供される。さらなる一実施形態では、細菌病原体は、エルウィニア・アミロボラ細胞を含む。別の実施形態では、細菌病原体は、エルウィニア・アミロボラ、キサントモナス・カンペストリス病原型dieffenbachiae、シュードモナス・シリンガエ、キシレラ・ファスチジオサ;キシロフィルス・アンペリヌス;モニリニア・フルクチコラ、パントエア・ステワルチイ亜種ステワルチイ、ラルストニア・ソラナセアルムおよびクラビバクター・ミシガネンシス亜種セペドニクスから選択される。ある実施形態では、細菌病原体は、抗生物質耐性を示す。ある実施形態では、細菌病原体は、ストレプトマイシン耐性を示す。ある実施形態では、植物は食用作物植物であり、さらなるある実施形態では、食用作物植物は果樹である。さらなるある実施形態では、果樹は、リンゴ、ナシ、モモ、ネクタリン、プラム、アンズの木から選択される。ある実施形態では、食用作物植物はバショウ属のバナナの木である。他の実施形態では、食用作物植物は、塊根植物、マメ科植物および穀粒植物から選択される植物である。更なるある実施形態では、塊根植物は、馬鈴薯(ジャガイモ)および甘藷(サツマイモ)から選択される。上記方法のある実施形態では、接触ステップは、1回または複数回実施される。さらなるある実施形態では、接触することのうちの少なくとも1つのステップは、植物に噴霧すること、植物を浸漬すること、植物を被覆することおよび植物に塗ることのうちの1つを含む。他のさらなるある実施形態では、接触の少なくとも1つのステップは、植物の花蕾、新芽または成長部位で実施される。ある実施形態では、接触の少なくとも1つのステップは、植物における最初の開花の24、48または72時間以内に実施される。
【0062】
上記方法のある実施形態では、BT組成物は、BisBAL、BisEDT、Bis-ジメルカプロール、Bis-DTT、Bis-2-メルカプトエタノール、Bis-DTE、Bis-Pyr、Bis-Ery、Bis-Tol、Bis-BDT、Bis-PDT、Bis-Pyr/Bal、Bis-Pyr/BDT、Bis-Pyr/EDT、Bis-Pyr/PDT、Bis-Pyr/Tol、Bis-Pyr/Ery、ビスマス-1-メルカプト-2-プロパノールおよびBis-EDT/2-ヒドロキシ-1-プロパンチオールから選択される1つ以上のBT化合物を含む。ある実施形態では、細菌病原体は抗生物質耐性を示す。
【0063】
上記方法のさらなるある実施形態では、当該方法は、植物とBT組成物とを接触するステップに関連して、同時的にまたは逐次的に、そして任意の順序で、植物を相乗性または増強性抗生物質と接触することを包含する。ある実施形態では、相乗性または増強性抗生物質は、アミノグリコシド系抗生物質、カルバペネム系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン系抗生物質、およびアミノペニシリン系抗生物質から選択される抗生物質を含む。ある実施形態では、相乗性または増強性抗生物質は、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンおよびアプラマイシンから選択されるアミノグリコシド系抗生物質である。
【0064】
他のある実施形態によれば、その中または上に抗生物質耐性細菌性植物病原体が存在する植物における抗生物質耐性を克服するための方法であって、以下の:(a)以下のうちの1つ以上のために十分な条件および時間で、植物を有効量のBT組成物と接触させること:(i)抗生物質耐性細菌病原体による植物の感染の予防、(ii)抗生物質耐性細菌病原体の実質的に全てのプランクトン性細胞の細胞生存性または細胞増殖の阻害、(iii)抗生物質耐性細菌病原体によるバイオフィルム形成の阻害、および(iv)抗生物質耐性細菌病原体の実質的に全てのバイオフィルム型細胞のバイオフィルム生存性またはバイオフィルム成長の阻害(この場合、前記BT組成物は、BT化合物を含む微粒子の実質的に単分散性の懸濁液を含み、前記微粒子は、約0.5μm~約10μmの体積平均直径を有する):(b)植物とBT組成物とを接触するステップに関連して、同時的にまたは逐次的に、そして任意の順序で、植物を相乗性または増強性抗生物質と接触すること:を包含する方法が提供される。
【0065】
上記方法のある実施形態では、ビスマス-チオール組成物は、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含み、前記微粒子の実質的に全てが、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有し、そして以下の:(a)固体沈殿物を実質的に含まない溶液を得るのに十分な条件および時間で、(i)少なくとも50mMの濃度のビスマスを含むビスマス塩を含み、親水性、極性または有機性可溶化剤を含まない酸性水溶液を、(ii)約25容量%のエタノールを含む混和物を得るのに十分な量のエタノールと混和すること;ならびに(b)チオール含有化合物を含むエタノール性溶液を(a)の混和物に添加して、反応溶液を得ること(この場合、前記チオール含有化合物は、BT化合物を含む微粒子を含む沈殿物の形成に十分な条件および時間で、ビスマスに対して約1:3~約3:1のモル比で反応溶液中に存在する)を包含する工程により形成される。
【0066】
ある実施形態では、ビスマス塩はBi(NO3)3である。ある実施形態では、酸性水溶液が、少なくとも5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、22重量%または22.5重量%のビスマスを含む。ある実施形態では、酸性水溶液は、少なくとも0.5重量%、1重量%、1.5重量%、2重量%、2.5重量%、3重量%。3.5重量%、4重量%、4.5重量%または5重量%の硝酸を含む。ある実施形態では、チオール含有化合物は、1,2-エタンジチオール、2,3-ジメルカプトプロパノール、ピリチオン、ジチオエリトリトール、3,4-ジメルカプトトルエン、2,3-ブタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、2-ヒドロキシプロパンチオール、1-メルカプト-2-プロパノール、ジチオエリトリトール、α-リポ酸、ジチオトレイトール、メタンチオール(CH3SH[m-メルカプタン])、エタンチオール(C2H5SH[e-メルカプタン])、1-プロパンチオール(C3H7SH[n-Pメルカプタン])、2-プロパンチオール(CH3CH(SH)CH3[2C3メルカプタン])、ブタンチオール(C4H9SH[n-ブチルメルカプタン])、tert-ブチルメルカプタン(C(CH3)3SH[t-ブチルメルカプタン])、ペンタンチオール(C5H11SH[ペンチルメルカプタン])、コエンザイムA、リポアミド、グルタチオン、システイン、シスチン、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、2-メルカプトインドール、トランスグルタミナーゼ、(11-メルカプトウンデシル)ヘキサ(エチレングリコール)、(11-メルカプトウンデシル)テトラ(エチレングリコール)、(11-メルカプトウンデシル)テトラ(エチレングリコール)官能基化金ナノ粒子、1,1′,4′,1′′-テルフェニル-4-チオール、1,11-ウンデカンジチオール、1,16-ヘキサデカンジチオール、技術的な等級の1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、1,4-ブタンジチオール、1,4-ブタンジチオール二酢酸塩、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、アダマンタンチオール、1-ブタンチオール、1-デカンチオール、1-ドデカンチオール、1-ヘプタンチオール、1-ヘプタンチオールプルム(purum)、1-ヘキサデカンチオール、1-ヘキサンチオール、1-メルカプト(トリエチレングリコール)、1-メルカプト(トリエチレングリコール)メチルエーテル官能基化金ナノ粒子、1-メルカプト-2-プロパノール、1-ノナンチオール、1-オクタデカンチオール、1-オクタンチオール、1-ペンタデカンチオール、1-ペンタンチオール、1-プロパンチオール、1-テトラデカンチオール、1-テトラデカンチオールプルム、1-ウンデカンチオール、11-(1H-ピロール-1-イル)ウンデカン-1-チオール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール塩酸塩、11-ブロモ-1-ウンデカンチオール、11-メルカプト-1-ウンデカノール、11-メルカプトウンデカン酸、11-メルカプトウンデシルトリフルオロ酢酸塩、11-メルカプトウンデシルリン酸、12-メルカプトドデカン酸、15-メルカプトペンタデカン酸、16-メルカプトヘキサデカン酸、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオール、2,2′-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、2,3-ブタンジチオール、2-ブタンチオール、2-エチルヘキサンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、2-フェニルエタンチオール、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサンチオールプルム、3-(ジメトキシメチルシリル)-1-プロパンチオール、3-クロロ-1-プロパンチオール、3-メルカプト-1-プロパノール、3-メルカプト-2-ブタノール、3-メルカプト-N-ノニルプロピオンアミド、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピル官能基化シリカゲル、3-メチル-1-ブタンチオール、4,4′-ビス(メルカプトメチル)ビフェニル、4,4′-ジメルカプトスチルベン、4-(6-メルカプトヘキシルオキシ)ベンジルアルコール、4-シアノ-1-ブタンチオール、4-メルカプト-1-ブタノール、6-(フェロセニル)ヘキサンチオール、6-メルカプト-1-ヘキサノール、6-メルカプトヘキサン酸、8-メルカプト-1-オクタノール、8-メルカプトオクタン酸、9-メルカプト-1-ノナノール、ビフェニル-4,4′-ジチオール、3-メルカプトプロピオン酸ブチル、1-ブタンチオール酸銅(I)、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、デカンチオール官能基化銀ナノ粒子、ドデカンチオール官能基化金ナノ粒子、ドデカンチオール官能基化銀ナノ粒子、ヘキサ(エチレングリコール)モノ-11-(アセチルチオ)ウンデシルエーテル、メルカプトコハク酸、3-メルカプトプロピオン酸メチル、NanoTether BPA-HH、NanoThinks(商標)18、NanoThinks(商標)8、NanoThinks(商標)ACID11、NanoThinks(商標)ACID16、NanoThinks(商標)ALCO11、NanoThinks(商標)THIO8、オクタンチオール官能基化金ナノ粒子、PEGジチオール平均Mn8,000、PEGジチオール平均分子量1,500、PEGジチオール平均分子量3,400、S-(11-ブロモウンデシル)チオアセタート、S-(4-シアノブチル)チオアセタート、チオフェノール、トリエチレングリコールモノ-11-メルカプトウンデシルエーテル、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)、[11-(メチルカルボニルチオ)ウンデシル]テトラ(エチレングリコール)、m-カルボラン-9-チオール、p-テルフェニル-4,4′′-ジチオール、tert-ドデシルメルカプタン、およびtert-ノニルメルカプタンから選択される1つ以上の薬剤を含む。
【0067】
ある実施形態では、細菌病原体は、以下の:(i)1種以上のグラム陰性細菌;(ii)1種以上のグラム陽性細菌;(iii)1種以上の抗生物質感受性細菌;(iv)1種以上の抗生物質耐性細菌;(v)黄色ブドウ球菌、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、表皮ブドウ球菌、MRSE(メチシリン耐性表皮ブドウ球菌)、ヒト型結核菌、鳥型結核菌、緑膿菌、薬物耐性緑膿菌、大腸菌、腸毒性大腸菌、腸管出血性大腸菌、肺炎桿菌、クロストリジウム・ディフィシル、ヘリコバクター・ピロリ、レジオネラ・ニューモフィラ、糞便連鎖球菌、メチシリン感受性糞便連鎖球菌、エンテロバクター・クロアカエ、ネズミチフス菌、プロテウス・ブルガリス、エルシニア・エンテロコリチカ、コレラ菌、フレクスナー赤痢菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、バークホルデリア・セパシア菌群、野兎病菌、炭疽菌、ペスト菌、緑膿菌、肺炎連鎖球菌、ペニシリン耐性肺炎連鎖球菌、大腸菌、バークホルデリア・セパシア、バークホルデリア・マルチボランス、恥垢菌およびアシネトバクター・バウマニーから選択される細菌病原体:のうちの少なくとも1つを含む。
【0068】
ある実施形態では、当該方法は、当該表面とBT組成物とを接触するステップに関連して、同時的にまたは逐次的に、そして任意の順序で、植物を、(i)相乗性抗生物質および(ii)協同的抗菌性効力増強性抗生物質のうちの少なくとも1つと接触することを包含する。さらなるある実施形態では、相乗性抗生物質または協同的抗菌性効力増強性抗生物質は、アミノグリコシド系抗生物質、カルバペネム系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、糖ペプチド系抗生物質、リンコサミド系抗生物質、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン系抗生物質、およびアミノペニシリン系抗生物質から選択される抗生物質を含む。さらなるある実施形態では、相乗性抗生物質または協同的抗菌性効力増強性抗生物質は、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンおよびアプラマイシンから選択されるアミノグリコシド系抗生物質である。
【0069】
他のある実施形態では、その中または上に抗生物質耐性細菌病原体が存在する植物における抗生物質耐性を克服するための方法であって、以下の:(i)細菌病原体による植物の感染の予防、(ii)細菌病原体の実質的に全てのプランクトン性細胞の細胞生存性または細胞増殖の阻害、(iii)細菌病原体によるバイオフィルム形成の阻害、および(iv)細菌病原体の実質的に全てのバイオフィルム型細胞のバイオフィルム生存性またはバイオフィルム成長の阻害:のうちの1つ以上のために十分な条件および時間で、植物を、有効量の(1)少なくとも1つのビスマス-チオール(BT)組成物および(2)少なくとも1つのBT組成物と相乗的に増強するかまたは作用し得る少なくとも1つの抗生物質と接触させることを包含すること(この場合、前記BT組成物は、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含むビスマス-チオール組成物であって、前記微粒子の実質的に全てが、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有する);そして、それにより上皮組織表面の抗生物質耐性を克服することを包含する方法が提供される。さらなるある実施形態では、細菌病原体は、メチシリン、バンコマイシン、ナフシリン、ゲンタマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、ドキシサイクリン、トブラマイシン、クリンダマイシンおよびガチフロキサシンから選択される抗生物質に対して耐性を示す。他のある実施形態では、BT組成物は、BisBAL、BisEDT、Bis-ジメルカプロール、Bis-DTT、Bis-2-メルカプトエタノール、Bis-DTE、Bis-Pyr、Bis-Ery、Bis-Tol、Bis-BDT、Bis-PDT、Bis-Pyr/Bal、Bis-Pyr/BDT、Bis-Pyr/EDT、Bis-Pyr/PDT、Bis-Pyr/Tol、Bis-Pyr/Ery、ビスマス-1-メルカプト-2-プロパノール、およびBis-EDT/2-ヒドロキシ-1-プロパンチオールから選択されるBT化合物を1種以上含む。ある実施形態では、相乗性または増強性抗生物質は、クリンダマイシン、ガチフロキサシン、アミノグリコシド系抗生物質、カルバペネム系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン系抗生物質、およびアミノペニシリン系抗生物質から選択される。さらなるある実施形態では、相乗性抗生物質または増強性抗生物質は、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンおよびアプラマイシンから選択されるアミノグリコシド系抗生物質である。
【0070】
他のある実施形態によれば、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含むビスマス-チオール組成物が提供され、前記微粒子の実質的に全てが、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有し、BT化合物は、ビスマスまたはビスマス塩およびチオール含有化合物を含む。別の実施形態において、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含むビスマス-チオール組成物が提供され、前記微粒子の実質的に全てが、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有し、(a)固体沈殿物を実質的に含まない溶液を得るのに十分となる条件および時間で、(i)少なくとも50mMの濃度のビスマスを含むビスマス塩を含み、親水性、極性または有機性可溶化剤を含まない酸性水溶液を、(ii)少なくとも約5容量%、10容量%、15容量%、20容量%、25容量%または30容量%のエタノールを含む混和物を得るのに十分な量のエタノールと混和すること;ならびに(b)BT化合物を含む微粒子を含む沈殿物の形成に十分となる条件および時間で、ビスマスに対して約1:3~約3:1のモル比で反応溶液中に存在するチオール含有化合物を含むエタノール性溶液を(a)の混和物に添加して、反応溶液を得ること、を含む方法により形成される。特定の実施形態において、ビスマス塩は、Bi(NO3)3である。特定の実施形態において、酸性水溶液は、少なくとも5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、22重量%または22.5重量%のビスマスを含む。特定の実施形態において、酸性水溶液は、少なくとも0.5重量%、1重量%、1.5重量%、2重量%、2.5重量%、3重量%。3.5重量%、4重量%、4.5重量%または5重量%の硝酸を含む。特定の実施形態において、チオール含有化合物は、1,2-エタンジチオール、2,3-ジメルカプトプロパノール、ピリチオン、ジチオエリトリトール、3,4-ジメルカプトトルエン、2,3-ブタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、2-ヒドロキシプロパンチオール、1-メルカプト-2-プロパノール、α-リポ酸、およびジチオトレイトールから選択される薬剤を1種以上含む。
【0071】
別の実施形態において、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含むビスマス-チオール組成物を調製する方法が提供され、前記微粒子の実質的に全てが、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有し、前記方法が、(a)固体沈殿物を実質的に含まない溶液を得るのに十分となる条件および時間で、(i)少なくとも50mMの濃度のビスマスを含むビスマス塩を含み、親水性、極性または有機性可溶化剤を含まない酸性水溶液を、(ii)少なくとも約5容量%、10容量%、15容量%、20容量%、25容量%または30容量%のエタノールを含む混和物を得るのに十分な量のエタノールと混和するステップ;ならびに(b)BT化合物を含む微粒子を含む沈殿物の形成に十分となる条件および時間で、ビスマスに対して約1:3~約3:1のモル比で反応溶液中に存在するチオール含有化合物を含むエタノール性溶液を(a)の混和物に添加して、反応溶液を得るステップ、を含む。特定の実施形態において、その方法は、沈殿物を回収して不純物を除去することを更に含む。特定の実施形態において、ビスマス塩は、Bi(NO3)3である。特定の実施形態において、酸性水溶液は、少なくとも5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、22重量%または22.5重量%のビスマスを含む。特定の実施形態において、酸性水溶液は、少なくとも0.5重量%、1重量%、1.5重量%、2重量%、2.5重量%、3重量%。3.5重量%、4重量%、4.5重量%または5重量%の硝酸を含む。特定の実施形態において、チオール含有化合物は、1,2-エタンジチオール、2,3-ジメルカプトプロパノール、ピリチオン、ジチオエリトリトール、3,4-ジメルカプトトルエン、2,3-ブタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、2-ヒドロキシプロパンチオール、1-メルカプト-2-プロパノール、ジチオトレイトール、α-リポ酸、メタンチオール(CH3SH[m-メルカプタン])、エタンチオール(C2H5SH[e-メルカプタン])、1-プロパンチオール(C3H7SH[n-Pメルカプタン])、2-プロパンチオール(CH3CH(SH)CH3[2C3メルカプタン])、ブタンチオール(C4H9SH[n-ブチルメルカプタン])、tert-ブチルメルカプタン(C(CH3)3SH[t-ブチルメルカプタン])、ペンタンチオール(C5H11SH[ペンチルメルカプタン])、コエンザイムA、リポアミド、グルタチオン、システイン、シスチン、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、2-メルカプトインドール、トランスグルタミナーゼ、(11-メルカプトウンデシル)ヘキサ(エチレングリコール)、(11-メルカプトウンデシル)テトラ(エチレングリコール)、(11-メルカプトウンデシル)テトラ(エチレングリコール)官能基化金ナノ粒子、1,1′,4′,1′′-テルフェニル-4-チオール、1,11-ウンデカンジチオール、1,16-ヘキサデカンジチオール、技術的な等級の1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、1,4-ブタンジチオール、1,4-ブタンジチオール二酢酸塩、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、アダマンタンチオール、1-ブタンチオール、1-デカンチオール、1-ドデカンチオール、1-ヘプタンチオール、1-ヘプタンチオールプルム(purum)、1-ヘキサデカンチオール、1-ヘキサンチオール、1-メルカプト(トリエチレングリコール)、1-メルカプト(トリエチレングリコール)メチルエーテル官能基化金ナノ粒子、1-メルカプト-2-プロパノール、1-ノナンチオール、1-オクタデカンチオール、1-オクタンチオール、1-ペンタデカンチオール、1-ペンタンチオール、1-プロパンチオール、1-テトラデカンチオール、1-テトラデカンチオールプルム、1-ウンデカンチオール、11-(1H-ピロル-1-イル)ウンデカン-1-チオール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール塩酸塩、11-ブロモ-1-ウンデカンチオール、11-メルカプト-1-ウンデカノール、11-メルカプトウンデカン酸、11-メルカプトウンデシルトリフルオロ酢酸塩、11-メルカプトウンデシルリン酸、12-メルカプトドデカン酸、15-メルカプトペンタデカン酸、16-メルカプトヘキサデカン酸、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオール、2,2′-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、2,3-ブタンジチオール、2-ブタンチオール、2-エチルヘキサンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、2-フェニルエタンチオール、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサンチオールプルム、3-(ジメトキシメチルシリル)-1-プロパンチオール、3-クロロ-1-プロパンチオール、3-メルカプト-1-プロパノール、3-メルカプト-2-ブタノール、3-メルカプト-N-ノニルプロピオンアミド、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピル官能基化シリカゲル、3-メチル-1-ブタンチオール、4,4′-ビス(メルカプトメチル)ビフェニル、4,4′-ジメルカプトスチルベン、4-(6-メルカプトヘキシルオキシ)ベンジルアルコール、4-シアノ-1-ブタンチオール、4-メルカプト-1-ブタノール、6-(フェロセニル)ヘキサンチオール、6-メルカプト-1-ヘキサノール、6-メルカプトヘキサン酸、8-メルカプト-1-オクタノール、8-メルカプトオクタン酸、9-メルカプト-1-ノナノール、ビフェニル-4,4′-ジチオール、3-メルカプトプロピオン酸ブチル、1-ブタンチオール酸銅(I)、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、デカンチオール官能基化銀ナノ粒子、ドデカンチオール官能基化金ナノ粒子、ドデカンチオール官能基化銀ナノ粒子、ヘキサ(エチレングリコール)モノ-11-(アセチルチオ)ウンデシルエーテル、メルカプトコハク酸、3-メルカプトプロピオン酸メチル、NanoTether BPA-HH、NanoThinks(商標)18、NanoThinks(商標)8、NanoThinks(商標)ACID11、NanoThinks(商標)ACID16、NanoThinks(商標)ALCO11、NanoThinks(商標)THIO8、オクタンチオール官能基化金ナノ粒子、PEGジチオール平均Mn8,000、PEGジチオール平均分子量1,500、PEGジチオール平均分子量3,400、S-(11-ブロモウンデシル)チオアセタート、S-(4-シアノブチル)チオアセタート、チオフェノール、トリエチレングリコールモノ-11-メルカプトウンデシルエーテル、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)、[11-(メチルカルボニルチオ)ウンデシル]テトラ(エチレングリコール)、m-カルボラン-9-チオール、p-テルフェニル-4,4′′-ジチオール、tert-ドデシルメルカプタン、tert-ノニルメルカプタンからなる群から選択される薬剤を1種以上含む。
【0072】
別の実施形態において、(i)細菌、真菌またはウイルス病原による表面の感染の予防、(ii)細菌、真菌またはウイルス病原の実質的に全てのプランクトン性細胞の細胞生存性または細胞発育の阻害、(iii)細菌、真菌またはウイルス病原によるバイオフィルム形成の阻害、および(iv)細菌、真菌またはウイルス病原の実質的に全てのバイオフィルム型細胞のバイオフィルム生存性またはバイオフィルム発育の阻害、のうちの1つ以上に十分となる条件および時間で、上皮組織表面を効果的量のBT組成物と接触させることを含み、BT組成物が、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含み、前記微粒子の実質的に全てが、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有する、細菌病原、真菌病原およびウイルス病原のうちの1種以上に対して、天然または人工表面、例えば生体組織表面、例えば植物表面(例えば、根、球根、茎、葉、枝、蔓、匍匐枝、蕾、花またはその一部分、新芽、果実、種子、莢等の表面の全部または一部)または上皮組織表面を防御する方法が提供される。特定の実施形態において、細菌病原は、(i)1種以上のグラム陰性菌;(ii)1種以上のグラム陽性菌;(iii)1種以上の抗生物質感受性菌;(iv)1種以上の抗生物質耐性菌;(v)スタフィロコッカス・アウレウス(黄色ブドウ球菌)、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、スタフィロコッカス・エピデルミディス、MRSE(メチシリン耐性S.エピデルミディス)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・アビウム、シュードモナス・エルギノーサ、薬物耐性緑膿菌、大腸菌、腸管毒素原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、クロストリジウム・ディフィシル、ヘリコバクター・ピロリ、レジオネラ・ニューモフィラ、エンテロコッカス・フェカーリス、メチシリン感受性エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロバクター・クロアカエ、サルモネラ・ティフィムリウム、プロテウス・ブルガリス、エルシニア・エンテロコリチカ、ビブリオ・コレレ、シゲラ・フレクスネリ、バンコマイシン耐性エンテロコッカス(VRE)、バークホルデリア・セパシア菌群、フランシセラ・ツラレンシス、バチルス・アントラシス、エルシニア・ペスチス、シュードモナス・エルギノーサ、バンコマイシン耐性エンテロコッカス属、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ペニシリン耐性ストレプトコッカス・ニューモニエ、大腸菌、バークホルデリア・セパシア、バークホルデリア・マルチボランス、マイコバクテリウム・スメグマチスおよびアシネトバクター・バウマニーから選択される細菌病原、のうちの少なくとも1つを含む。特定の実施形態において、細菌病原は、抗生物質耐性を示す。特定の実施形態において、細菌病原は、メチシリン、バンコマイシン、ナフシリン、ゲンタマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、ドキシサイクリンおよびトブラマイシン、から選択される抗生物質に対して耐性を示す。
【0073】
特定の実施形態において、天然または人工表面は、口内/口腔表面、人工装置、セラミック、プラスチック、ポリマー、ゴム、金属製品、塗装表面、海洋性構造物、例えば船体、舵、プロペラ、アンカー、船倉、バラストタンク、ドック、乾ドック、埠頭、杭、護岸、あるいはその他の天然または人工表面を含む。
【0074】
特定の実施形態において、表面は、表皮、真皮、気道、消化管および腺内層から選択される組織を含む上皮組織表面を含む。
【0075】
特定の実施形態において、接触のステップは、1回または複数回実施される。特定の実施形態において、少なくとも1回の接触ステップは、天然または人工表面の噴霧、灌注、浸漬および塗装のうちの1つを含む。特定の実施形態において、少なくとも1回の接触ステップは、吸入、摂取および経口灌注のうちの1つを含む。特定の実施形態において、少なくとも1回の接触ステップは、局所、腹腔内、経口、非経口、静脈内、動脈内、経皮、舌下、皮下、筋肉内、経頬、鼻腔内、吸入、眼内、耳内、心室内、脂肪内、関節内およびくも膜下腔内から選択される経路により投与することを含む。特定の実施形態において、BT組成物は、BisBAL、BisEDT、Bis-ジメルカプロール、Bis-DTT、Bis-2-メルカプトエタノール、Bis-DTE、Bis-Pyr、Bis-Ery、Bis-Tol、Bis-BDT、Bis-PDT、Bis-Pyr/Bal、Bis-Pyr/BDT、Bis-Pyr/EDT、Bis-Pyr/PDT、Bis-Pyr/Tol、Bis-Pyr/Ery、ビスマス-1-メルカプト-2-プロパノール、およびBis-EDT/2-ヒドロキシ-1-プロパンチオールからなる群より選択されるBT化合物を1種以上含む。
【0076】
特定の実施形態において、細菌病原は、抗生物質耐性を示す。他の特定の実施形態において、上記方法は、天然または人工表面をBT組成物と接触させるステップに関して同時に、または連続して任意の順序で、天然表面を相乗性抗生物質(synergizing antibiotic)および/または増強性抗生物質(enhancing antibiotic)と接触させることを更に含む。特定の実施形態において、相乗性抗生物質および/または増強性抗生物質は、アミノグリコシド系抗生物質、カルバペネム系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、リンコサミド系抗生物質、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン系抗生物質、およびアミノペニシリン系抗生物質から選択される抗生物質を含む。特定の実施形態において、相乗性抗生物質および/または増強性抗生物質は、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンおよびアプラマイシンから選択されるアミノグリコシド系抗生物質である。
【0077】
本明細書に記載された本発明の別の実施形態において、(i)抗生物質耐性菌病原が存在する表面の、細菌病原による感染の予防、(ii)細菌病原の実質的に全てのプランクトン性細胞の細胞生存性または細胞発育の阻害、(iii)細菌病原によるバイオフィルム形成の阻害、および(iv)細菌病原の実質的に全てのバイオフィルム型細胞のバイオフィルム生存性またはバイオフィルム発育の阻害、のうちの1つ以上に十分となる条件および時間で、抗生物質耐性菌病原が存在する天然または人工表面を、効果的量の(1)少なくとも1種のビスマス-チオール(BT)組成物および(2)少なくとも1種のBT組成物により増強され、そして/またはそれと相乗的に作用することが可能である少なくとも1種の抗生物質と同時に、または連続して任意の順序で接触させることを含み、BT組成物が、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含み、前記微粒子の実質的に全てが、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有し、それにより上皮組織表面での抗生物質耐性を克服する、抗生物質耐性菌病原が存在する天然または人工表面で抗生物質耐性を克服する(例えば、同じ菌種の細菌に対して抗菌効果を有することが公知の少なくとも1種の抗生物質の少なくとも1種の抗菌効果に耐性のある細菌病原に関して、そのような病原を抗生物質に対して感受性にさせる)方法が提供される。特定の実施形態において、細菌病原は、(i)1種以上のグラム陰性菌;(ii)1種以上のグラム陽性菌;(iii)1種以上の抗生物質感受性菌;(iv)1種以上の抗生物質耐性菌;(v)スタフィロコッカス・アウレウス(黄色ブドウ球菌)、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、スタフィロコッカス・エピデルミディス、MRSE(メチシリン耐性S.エピデルミディス)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・アビウム、シュードモナス・エルギノーサ、薬物耐性緑膿菌、大腸菌、腸管毒素原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、クロストリジウム・ディフィシル、ヘリコバクター・ピロリ、レジオネラ・ニューモフィラ、エンテロコッカス・フェカーリス、メチシリン感受性エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロバクター・クロアカエ、サルモネラ・ティフィムリウム、プロテウス・ブルガリス、エルシニア・エンテロコリチカ、ビブリオ・コレレ、シゲラ・フレクスネリ、バンコマイシン耐性エンテロコッカス(VRE)、バークホルデリア・セパシア菌群、フランシセラ・ツラレンシス、バチルス・アントラシス、エルシニア・ペスチス、シュードモナス・エルギノーサ、バンコマイシン耐性エンテロコッカス属、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ペニシリン耐性ストレプトコッカス・ニューモニエ、大腸菌、バークホルデリア・セパシア、バークホルデリア・マルチボランス、マイコバクテリウム・スメグマチスおよびアシネトバクター・バウマニーから選択される細菌病原、のうちの少なくとも1種を含む。
【0078】
特定の実施形態において、細菌病原は、メチシリン、バンコマイシン、ナフシリン、ゲンタマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、ドキシサイクリン、トブラマイシン、クリンダマイシンおよびガチフロキサシンから選択される抗生物質に対して耐性を示す。
【0079】
特定の実施形態において、天然または人工表面は、口内/口腔表面、人工装置、セラミック、プラスチック、ポリマー、ゴム、金属製品、塗装表面、海洋性構造物、例えば船体、タイヤ、プロペラ、アンカー、船倉、バラストタンク、ドック、乾ドック、埠頭、杭、護岸、あるいはその他の天然または人工表面を含む。
【0080】
特定の実施形態において、表面は、表皮、真皮、気道、消化管および腺内層からなる群より選択される組織を含む。特定の実施形態において、接触のステップは、1回または複数回実施される。特定の実施形態において、少なくとも1回の接触ステップは、表面を噴霧、灌注、浸漬および塗装することのうちの1つを含む。他の特定の実施形態において、少なくとも1回の接触ステップは、吸入、摂取および経口灌注のうちの1つを含む。特定の実施形態において、少なくとも1回の接触ステップは、局所、腹腔内、経口、非経口、静脈内、動脈内、経皮、舌下、皮下、筋肉内、経頬、鼻腔内、吸入、眼内、耳内、心室内、脂肪内、関節内およびくも膜下腔内から選択される経路により投与することを含む。特定の実施形態において、BT組成物は、BisBAL、BisEDT、Bis-ジメルカプロール、Bis-DTT、Bis-2-メルカプトエタノール、Bis-DTE、Bis-Pyr、Bis-Ery、Bis-Tol、Bis-BDT、Bis-PDT、Bis-Pyr/Bal、Bis-Pyr/BDT、Bis-Pyr/EDT、Bis-Pyr/PDT、Bis-Pyr/Tol、Bis-Pyr/Ery、ビスマス-1-メルカプト-2-プロパノール、およびBis-EDT/2-ヒドロキシ-1-プロパンチオールから選択されるBT化合物を1種以上含む。特定の実施形態において、相乗性抗生物質および/または増強性抗生物質は、クリンダマイシン、ガチフロキサシン、アミノグリコシド系抗生物質、カルバペネム系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、リンコサミド系抗生物質、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン系抗生物質、およびアミノペニシリン系抗生物質から選択される抗生物質を含む。特定の実施形態において、相乗性抗生物質および/または増強性抗生物質は、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンおよびアプラマイシンから選択されるアミノグリコシド系抗生物質である。
【0081】
別の実施形態に変わると、(a)少なくとも1種のBT化合物;(b)BT化合物により増強され、そして/またはそれと相乗的に作用することが可能である少なくとも1種の抗生物質化合物;および(c)局所使用のための担体をはじめとする薬学的に許容しうる賦形剤または担体、を含む、消毒性組成物が提供される。特定の実施形態において、BT化合物は、BisBAL、BisEDT、Bis-ジメルカプロール、Bis-DTT、Bis-2-メルカプトエタノール、Bis-DTE、Bis-Pyr、Bis-Ery、Bis-Tol、Bis-BDT、Bis-PDT、Bis-Pyr/Bal、Bis-Pyr/BDT、Bis-Pyr/EDT、Bis-Pyr/PDT、Bis-Pyr/Tol、Bis-Pyr/Ery、ビスマス-1-メルカプト-2-プロパノール、およびBis-EDT/2-ヒドロキシ-1-プロパンチオールから選択される。特定の実施形態において、BT組成物は、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含み、前記微粒子の実質的に全てが、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有する。特定の実施形態において、BT化合物は、BisEDTおよびBisBALから選択される。特定の実施形態において、抗生物質化合物は、メチシリン、バンコマイシン、ナフシリン、ゲンタマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、ドキシサイクリン、トブラマイシン、クリンダマイシン、ガチフロキサシンおよびアミノグリコシド系抗生物質から選択される抗生物質を含む。特定の実施形態において、アミノグリコシド系抗生物質は、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンおよびアプラマイシンから選択される。特定の実施形態において、アミノグリコシド系抗生物質は、アミカシンである。
【0082】
他の特定の実施形態において、(a)表面上または表面内の細菌感染物を、(i)グラム陽性菌、(ii)グラム陰性菌、ならびに(iii)(i)および(ii)の両方、のうちの1つを含むことについて同定すること;および(b)1種以上のビスマスチオール(BT)組成物を含む処方物を表面へ投与すること、を含む細菌バイオフィルムを支持または含有する天然または人工表面を処置する方法が提供され、ここで(i)細菌感染物がグラム陽性菌を含む場合、処方物は少なくとも1種のBT化合物と、リファマイシンである少なくとも1種の抗生物質との治療上効果的な量を含み、(ii)細菌感染物がグラム陰性菌を含む場合、処方物は少なくとも1種のBT化合物とアミカシンの治療上効果的な量を含み、(iii)細菌感染物がグラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方を含む場合、処方物はBT化合物、リファマイシンおよびアミカシンのうちの1種または複数の治療上効果的な量を含んで、それにより当該表面を処置する。
【0083】
特定の実施形態において、バイオフィルムは、1種または複数の抗生物質耐性菌を含む。特定の実施形態において、表面を処置することは、(i)細菌バイオフィルムを根絶すること、(ii)細菌バイオフィルムを低減すること、および(iii)細菌バイオフィルムの発育を抑制すること、のうちの少なくとも1つを含む。特定の実施形態において、BT組成物は、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含み、前記微粒子の実質的に全てが、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有する。
【0084】
本明細書に記載された本発明の実施形態のこれらおよび他の態様は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照することにより自明となろう。U.S.RE37,793号、U.S.6,248,371号、U.S.6,086,921号、およびU.S.6,380,248号をはじめとする、本明細書において参照され、そして/または出願データシートに列挙された米国特許および米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許発行物の全てが、それぞれ個別に組み入れられるように、全体として参照により本明細書に組み入れられる。本発明の態様および実施形態は、必要に応じて改良され、様々な特許、出願および発行物の概念を用いて、更なる実施形態を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図面の複数の外観の簡単な説明
【
図1】10%トリプシン大豆寒天(TSA)上で37℃で24時間発育させ、その後、示された処置を18時間行った後得られたシュードモナス・エルギノーサ・コロニーバイオフィルムの生存数(logCFU;コロニー形成単位)を示す。示された抗生物質処置は、TOB、トブラマイシン10×MIC;AMK、アミカシン、100×MIC;IPM、イミペネム10×MIC;CEF、セフェピム10×MIC;CIP、シプロフロキサシン、100×MIC;Cpd 2B、化合物2B(Bis-BAL、1:1.5)である。(MIC;最小阻止濃度、例えば、細菌の発育を予防する最低濃度)。
【
図2】10%トリプシン大豆寒天上で24時間発育させ、その後、示された処置を行った後得られたスタフィロコッカス・アウレウス・コロニーバイオフィルムの生存数(logCFU)を示す。示された抗生物質処置は、リファマイシン、RIF 100×MIC;ダプトマイシン、DAP 320×MIC;ミノサイクリン、MIN 100×MIC;アンピシリン、AMP 10×MIC;バンコマイシン、VAN 10×MIC;Cpd 2B、化合物2B(Bis-BAL、1:1.5)、Cpd8-2、化合物8-2(Bis-Pyr/BDT、1:1/0.5)。
【
図3】バイオフィルムに暴露された角化細胞の、時間経過による掻き傷閉鎖を示す。(*)対照との有意差あり(P<0.001)。
【
図4A】複数の抗生物質に対する抗生物質耐性を抑制する亜阻害BisEDTを示す。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の菌叢に対するBisEDTを含む、または含まない抗生物質の効果を示す。パネルAは、標準の抗生物質浸漬ディスクのみを示す。[GM=ゲンタマイシン、CZ=セファゾリン、FEP=セフェピム、IPM=イミペネム、SAM=アンピシリン/スルバクタム]、LVX=レボフロキサシン。
【
図4B】複数の抗生物質に対する抗生物質耐性を抑制する亜阻害BisEDTを示す。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の菌叢に対するBisEDTを含む、または含まない抗生物質の効果を示す。パネルBは、BisEDT(BE)を混和されたディスクを示す。[GM=ゲンタマイシン、CZ=セファゾリン、FEP=セフェピム、IPM=イミペネム、SAM=アンピシリン/スルバクタム]、LVX=レボフロキサシン。
【
図5】バイオフィルム形成に対するBisEDTおよび抗生物質の効果を示す。S.エピデルミディスを、ポリスチレンプレート内のTSB+2%グルコース中で37℃で48時間発育させた。ガチフロキサシン(GF)、クリンダマイシン(CM)、ミノサイクリン(MC)、ゲンタマイシン(GM)、バンコマイシン(VM)、セファゾリン(CZ)、ナフシリン(NC)、およびリファンピシン(RP)。結果を、0.25μM BisEDTでのBPC(2倍系列希釈ステップ)の平均変動率として表わした(n=3)。
【
図6】TSB+2%グルコース中で37℃で48時間発育させたS.エピデルミディスの発育に対するBisEDTおよび抗生物質の効果を示す。結果を、BisEDTの増加を伴うMIC(希釈ステップ)の平均変動率として表わす(n=3)。抗生物質の定義に関しては
図5の凡例を参照されたい。
【
図7】3種のBT処方物、Bis-EDT、MB-11およびMB-8-2に加えて、セファゾリン抗生物質処置を行った、または行わなかった、インビボラットモデルにおける開放骨折の骨および金属類試料において検出された黄色ブドウ球菌平均レベルを示す棒グラフである。その平均値の標準誤差を、エラーバーとして示す。早期に安楽死された動物は、分析から除外しないが、群2中の動物1匹の試料は、著しい汚染により除外した。
【発明を実施するための形態】
【0086】
本明細書に開示された本発明の特定の実施形態は、本明細書に提供された特定のビスマス-チオール(BT)化合物(好ましくは、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有するBT微粒子を含む)が、細菌バイオフィルムを含みうる感染を含む多数の臨床的に有意の感染に関連する細菌をはじめとする特定の細菌に対して、強力な消毒、抗細菌および/または抗バイオフィルム活性を示すが、他の特定のBT化合物は示さない(微粒子として提供されたとしても)、という驚くべき発見に基づいている。
【0087】
予想に反して、全てのBT化合物が、そのような細菌に対して予測可能な様式で均一に効果的というわけではないが、代わりに標的菌種に応じて異なる効能を示す。詳細には、本明細書に記載された通り、非限定的理論により細菌バイオフィルム感染物をはじめとする細菌感染物の管理のための臨床関連方策を初めて付与しうる手法で、特定のBT化合物(好ましくは約0.4μm~約5μmの体積平均径を有するBT微粒子を含む)は、グラム陰性菌に対してより高い効能を示すことが見出されたが、他の特定のBT化合物(好ましくは約0.4μm~約5μmの体積平均径を有するBT微粒子を含む)は、グラム陽性菌に対してより大きな効能を示すことが見出された。
【0088】
加えて、以下により詳細に記載される通り、本明細書に記載された本発明の特定の実施形態は、本明細書に開示された通り、粒子径(例えば、約0.4μm~約5μmの体積平均径を有する)に関して実質的に単分散である複数のBT微粒子を含む調製物において製造されうる新規なビスマス-チオール(BT)組成物により提供される驚くべき利点に関する。これらおよび関連の実施形態の特定のものにおいて、微粒子BTは、マルチラメラホスホコリン-コレステロールリポソームまたは他のマルチラメラもしくはユニラメラリポソーム小胞などの脂質小胞またはリポソームの成分として提供されない。
【0089】
同じく本明細書に開示される通り、特定の実施形態に関して、そのような細菌感染物に対する強力な治療効果が欠如していることが過去に見出された特定の抗生物質の抗菌および抗バイオフィルム効力が、これらの抗生物質の1種以上と選択されたBT化合物とで協調的に、同時に、または連続していずれかの順序で感染物を処置することにより(例えば、天然表面などの感染部位の表面または内部に直接適用することにより)、有意に増強しうる(例えば、統計学的に有意な手法で上昇させうる)ことが発見された。本発明の開示以前に予測することができなかった手法において、特定のBT化合物は、特定の抗生物質と組み合わせて、特定の菌種または菌株に対する抗菌および/または抗バイオフィルム活性に関して本明細書に提供された相乗的または増強的な組み合わせを提供することができる。特定のBT/抗生物質・組み合わせが特定の細菌に対して相乗的に作用するか、または増強性を示し、他の特定のBT/抗生物質・組み合わせがそのような相乗的または増強的な抗菌および/または抗バイオフィルム活性を示すことができなかったという観察によって、以下により詳細に記載されるそのような組み合わせの予測されなかった性質が立証される。
【0090】
これらおよび関連の実施形態によれば、抗生物質およびBT化合物は、同時に、または連続していずれかの順序で投与してもよく、特定の感染物(例えば、グラム陰性菌またはグラム陽性菌により形成されたバイオフィルム)を処置するための本明細書に開示された1種以上の抗生物質と1種以上のBT化合物との特異的な相乗的または増強的組み合わせが、予測可能な(例えば、単に相加的)活性を示さず、代わりに、選択された抗生物質、選択されたBT化合物および特異的に同定された標的細菌の関数として、予想外に相乗的または増強的な(例えば、超相加的)様式で作用したことは、注目に値する。
【0091】
例えば、限定ではなく例示として、実際にまたは潜在的に微生物感染された非常に様々な天然および/または人工表面という局面において、そして更に、改善された実質的に単分散の微粒子BT処方物という局面において本明細書に開示された、特定の抗生物質化合物および特定のBT化合物のいずれかまたは両方は、特定の菌株または菌種に対して単独で用いられた場合にわずかな抗菌効果を発揮しうるが、抗生物質化合物とBT化合物の両方の組み合わせは、同じ菌株または菌種に対して、単独で用いられた場合の各化合物の効果の単純な合計よりも、大きな規模で(統計学的有意差のある)強力な抗菌効果を発揮し、それにより非限定的理論により、抗生物質の効能に対するBTの、そして/またはBTの効能に対する抗生物質の、抗生物質-BT相乗効果(例えば、FICI≦0.5)または増強効果(例えば0.5<FICI≦1.0)を反映すると考えられる。したがって各々のBT化合物が、各々の抗生物質に関して相乗的または増強的となるわけではなく、各々の抗生物質が、各々のBT化合物に対して相乗的または増強的となるわけではないため、抗生物質-BTの相乗性およびBT-抗生物質の増強性は、一般に予測可能ではない。代わりに、本明細書に開示された特定の実施形態によれば、抗生物質およびBT化合物を相乗または増強する特定の組み合わせは、驚くべきことに、本明細書に記載された天然および/または人工表面などの特定の環境、そして更に特定の状況における、特定の細菌により形成されたバイオフィルムに対する抗菌効果など、特定の細菌に対する強力な抗菌効果を付与する。
【0092】
即ち、本明細書に提供された少なくとも1種のBT化合物を含む少なくとも1種のBT組成物と相乗的に作用することが可能である(FICI≦0.5)抗生物質を含む、特定のBTと相乗する抗生物質が、本明細書に記載されており、そのような相乗性は、抗生物質が存在するがBT化合物が存在しない場合、そして/またはBT化合物が存在するが抗生物質が存在しない場合に、検出されうる効果よりも大きな規模で(即ち、適切な対照条件に関して統計学的に有意な手法で)検出可能な効果として発現する。同様に、特定のBT-抗生物質・組み合わせは、増強性(0.5<FICI<1.0)を示し、そのような増強性は、抗生物質が存在するがBT化合物が存在しない場合、そして/またはBT化合物が存在するが抗生物質が存在しない場合に、検出されうる効果よりも大きな規模で(即ち、適切な対照条件に関して統計学的に有意な手法で)検出可能な効果として発現する。
【0093】
そのような検出可能な効果の例は、特定の実施形態において、(i)細菌病原による感染の予防、(ii)細菌病原の実質的に全てのプランクトン性細胞の細胞生存性または細胞発育の阻害、(iii)細菌病原によるバイオフィルム形成の阻害、および(iv)細菌病原の実質的に全てのバイオフィルム型細胞のバイオフィルム生存性またはバイオフィルム発育の阻害、を含むが、本発明は、それに限定されるものではなく、他の企図される実施形態において、抗生物質-BT相乗性は、1種以上の他の臨床的に重要なパラメータ、例えば1種以上の抗生物質または他の薬物もしくは化学剤に対する細菌病原の耐性または感受性の度合い、1種以上の化学的、物理的または機械的条件(例えば、pH、イオン強度、温度、圧力)に対する細菌病原の耐性および感受性の度合い、ならびに/あるいは1種以上の生物剤(例えば、ウイルス、別の細菌、生物活性のあるポリヌクレオチド、免疫細胞または免疫細胞産物、例えば抗体、サイトカイン、ケモカイン、分解酵素をはじめとする酵素、膜崩壊タンパク質、フリーラジカル、例えば活性酸素種など)に対する細菌病原の耐性または感受性の度合い、の変化(例えば、統計学的に有意な上昇または減少)を含みうる1種以上の検出可能な効果として発現してもよい。
【0094】
本明細書において提供された通り、相乗的または増強的な抗生物質-BT・組み合わせの効果が、組み合わせの一方の成分が存在しない場合に観察される効果の単純な合計を超える場合に存在する抗生物質-BT相乗性または増強性を確認する目的で、構造、機能および/または細菌集団の活性に対する特定の薬剤の効果を決定しうるこれらおよび他の様々な基準を、当業者は理解するであろう(例えば、Coico et al.(Eds.), Current Protocols in Microbiology, 2008, John Wiley & Sons, Hoboken, NJ;Schwalbe et al., Antimicrobial Susceptibility Testing Protocols, 2007, CRC Press, Boca Raton, FL)。
【0095】
例えば、特定の実施形態において、本明細書に記載されたような抗菌効果を、様々な濃度の候補剤(例えば、単独または組み合わせたBTおよび抗生物質)を用いて測定して、Eliopoulos他(Antibiotics in Laboratory Medicine(Lorian, V., Ed.), pp.330-96, Williams and Willkins, Baltimore, MD、USA内のEliopoulos and Moellering, (1996) Antimicrobial combinations)により部分阻止濃度指数(FICI)および部分殺菌濃度指数(FBCI)を計算することにより、相乗性を決定してもよい。相乗性は0.5以下の、そしてアンタゴニズムは4を超えるFICIまたはFBCI指数として、定義してもよい(例えば、Odds, FC(2003) Synergy, antagonism, and what the chequerboard puts between them. Journal of Antimicrobial Chemotherapy 52:1)。相乗性は、従来通り抗生物質濃度の4倍以上の低下として、あるいは、例えばHollander他(1998 Antimicrob. Agents Chemother. 42:744)により記載された通り、部分阻止濃度(FIC)を用いて、定義してもよい。特定の実施形態において、相乗性は、2種の薬物(例えば、抗生物質およびBT組成物)の組み合わせにより得られ、第二の薬物の濃度を第一の薬物で置き換えた場合よりも大きくなる(例えば、統計学的に有意な手法で)組み合わせの効果として定義されてもよい。
【0096】
したがって本明細書に記載された通り、特定の好ましい実施形態において、BTと抗生物質との組み合わせは、0.05以下のFICI値が観察された場合に相乗すると理解されよう(Odds, 2003)。同じく本明細書に記載された通り、他の特定の好ましい実施形態において、そして非限定的理論によれば、特定のBT-抗生物質・組み合わせが、そのような相乗性の高い可能性を表わす0.5~1.0のFICI値を示しうることが開示され、その相乗性は、片側または相互に増強された協同的抗菌効力を示す少なくとも1種のBTおよび少なくとも1種の抗生物質の非最適濃度を用いて観察される場合がある。そのような効果は、本明細書において「増強的」抗生物質活性または「増強的」BT活性と呼んでもよい。
【0097】
特定の実施形態により、(i)所定の標的微生物(例えば、所定の菌種または菌株)のためのBTの特徴的最小阻止濃度(MIC)よりも低い(統計学的に有意な手法で)濃度の少なくとも1種のBTと、(ii)特徴的IC50(微生物集団の50%の発育を阻止する濃度;例えば、Soothill et al., 1992 J Antimicrob Chemother 29(2):137)よりも低く(統計学的に有意な手法で)、そして/または所定の標的微生物のための抗生物質のバイオフィルム予防濃度(BPC)よりも低い濃度の少なくとも1種の抗生物質、の両方の存在が、いずれかの抗微生物剤(例えば、BTまたは抗生物質)が他方の抗菌剤(例えば、抗生物質またはBT)の非存在下で同じ濃度で用いられた場合に観察される抗微生物効果に関して、高い(統計学的に有意な手法で)BT-抗生物質・組み合わせの抗菌効力をもたらす場合に、増強性抗生物質および/またはBT活性が検出されうる。好ましい実施形態において、1.0以下で0.5を超えるFICI値が測定された場合に、「増強的」抗生物質および/またはBT活性が存在する。
【0098】
本発明の開示に基づいて当業者に理解される通り、特定の実施形態において、相乗性または増強性抗生物質および/またはBT活性は、当該技術分野で公知の方法により、例えばLoeweの付加性に基づくモデル(例えば、FIC指数、Grecoモデル)、またはBlissの独立性に基づくモデル(例えば、ノンパラメトリックおよびセミパラメトリックモデル)または本明細書に記載された当該技術分野で公知の他の方法(例えば、Meletiadis et al., 2005 Medical Mycology 43:133-152)を用いて測定してもよい。こうして相乗性または増強性抗生物質および/またはBT活性を測定する例示的方法は、例えばMeletiadis et al., 2005 Medical Mycology 43:133-152およびそれに引用された参考資料に記載されている(同じく、Meletiadis et al., 2002 Rev Med Microbial 13:101-117; White et al., 1996 Antimicrob Agents Chemother 40:1914-1918; Mouton et al., 1999 Antimicrob Agents Chemother 43:2473-2478参照)。
【0099】
他の特定の実施形態は、BT化合物および抗生物質がインビボで予測可能な(単に相加的な)活性を示さず、代わりに、選択された抗生物質、選択されたBT化合物、および感染物を含む特異的に同定された標的菌種の1種以上の関数として、予想外に相乗的または増強的な(例えば、超相加的;または2種以上のそのような薬剤が組み合わせで存在する場合に、第二の薬剤の濃度を第一の薬剤に置き換えた場合に得られる効果よりも大きな(例えば、統計学的に有意な手法で)効果を付与する)様式で作用する場合でも、特定の感染物(例えば、グラム陰性菌またはグラム陽性菌により形成されたバイオフィルム)の処置のためにインビボで相乗的または増強的効果を示す場合がある、本明細書に開示された1種以上の抗生物質と1種以上のBT化合物との特異的組み合わせを企図する。それゆえ、これらおよび関連の実施形態によれば、特定のインビボの状況において、FICIまたはFBCI値(インビトロでの測定)は、直ちに入手できない場合があり、代わりにBT-抗生物質の相乗または増強効果を、感染物の定量可能な尺度により得られる手法で決定してもよいことは、理解されよう。
【0100】
例えば、実施例11に記載されたインビボ開放骨折のドブネズミ大腿骨臨界欠損モデルなどの一実施形態において、抗生物質処置またはBT化合物単独に比較した、BT-抗生物質・組み合わせでの処置後に観察された細菌数の統計学的に有意な減少は、相乗的または増強的効果の指標である。統計学的有意性は、当業者に周知の方法を用いて決定することができる。他の特定の実施形態において、抗生物質処置またはBT化合物単独に比較した、BT-抗生物質・組み合わせでの処置後に損傷において観察された細菌数の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、または50%という、このインビボモデルまたは他のインビボモデルにおいて観察された減少は、相乗または増強効果の指標と見なされる。
【0101】
インビボ感染の他の例示的指標は、感染の重症度を定量するために開発された確立された方法論、例えば当業者に公知の様々な創傷スコアリングシステム(例えば、European Wound Management Association (EWMA), Position Document: Identifying criteria for wound infection. London: MEP Ltd, 2005にレビューされたスコアリングシステムを参照)に従って決定してもよい。本明細書に記載されたBT-抗生物質・組み合わせの相乗または増強活性を評価する際に用いられうる例示的な創傷スコアリングシステムとしては、ASEPSIS(Wilson AP, J Hosp Infect 1995;29(2):81-86;Wilson et al., Lancet 1986;1:311-13)、the Southampton Wound Assessment Scale(Bailey IS, Karran SE, Toyn K, et al. BMJ 1992; 304:469-71)が挙げられる。Horan TC, Gaynes P, Martone WJ, et al.,1992 Infect Control Hosp Epidemiol 1992;13:606-08も参照されたい。加えて、熟練の臨床医に公知の創傷治癒の認知された臨床指標、例えば創傷のサイズ、深さ、肉芽組織の状態、感染などを、BT化合物および/または抗生物質の存在下または非存在下で測定してもよい。したがって本発明の開示に基づけば、BT組成物-抗生物質・組み合わせがインビボ創傷治癒を変化させるか(例えば適切な対照に関して統計学的に有意な手法で増加または減少させるか)を決定するための様々な方法は、当業者に直ちに理解されよう。
【0102】
これらおよび関連の実施形態を考慮して、微生物感染された天然および人工表面、例えば細菌バイオフィルムを支持または含有する表面を、1種以上のBT化合物および場合により1種以上の抗生物質化合物、例えば本明細書に提供された1種以上の相乗性抗生物質または1種以上の増強性抗生物質を含む組成物または処方物の効果的量(例えば特定の実施形態において、治療上効果的な量)で処置するための非常に様々な方法が、本明細書において提供される。本開示に基づけば、当業者により過去に所定のタイプの感染に対して無効であると見なされた特定の抗生物質が、ここに同じタイプの感染の処置における使用に企図されることを理解されたい。
【0103】
つまり特定の実施形態は、消毒薬として使用される1種以上のBT化合物を含む組成物を企図する。消毒薬は、微生物を殺傷する、またはその発育を妨害する物質であり、典型的には生存する組織に適用されることで、通常は無生物対象へ適用される殺菌剤と分類を区別する場合がある(Goodman and Gilman′s“The Pharmacological Basis of Therapeutics”, Seventh Edition, Gilman et al., editors, 1985, Macmillan Publishing Co.,(本明細書では以後、Goddman and Gilman)pp.956-960)。消毒薬の一般的例は、エチルアルコールおよびヨードチンキである。殺菌薬は、微生物病原などの微生物を殺傷する消毒薬を含む。
【0104】
本明細書に記載された特定の実施形態は、1種以上のBT化合物および1種以上の抗生物質化合物(例えば、本明細書に提供された相乗性抗生物質および/または増強性抗生物質)を含む組成物を企図してもよい。抗生物質は当該技術分野で公知であり、典型的には微生物の1種により産生されて、微生物の別の種を殺傷する化合物から製造される薬物、または同一もしくは類似の化学構造および作用機序を有する合成産物から製造される薬物、例えば局所適用される場合の、生存生物体の体内または体表面の微生物を破壊する薬物、を含む。とりわけ本明細書に開示された実施形態は、抗生物質が以下の分類のうちの1種に属しうるものである:アミノグリコシド、カルバペネム、セファロスポリン、フルオロキノロン、グリコペプチド系抗生物質、リンコサミド(例えば、クリンダマイシン)、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン、およびアミノペニシリン。つまり抗生物質は、限定される必要はないが、オキサシリン、ピペラシリン、セフロキシム、セフォタキシム、セフェピム、イミペネム、アズトレオナム、ストレプトマイシン、トブラマイシン、テトラサイクリン、ミノサイクリン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、エリスロマイシン、リネゾリド、ホスホマイシン、カプレオマイシン、イソニアジド、アンサマイシン、カルバセフェム、モノバクタム、ニトロフラン、ペニシリン、キノロン、スルホンアミド、クロファジミン、ダプソン、カプレオマイシン、シクロセリン、エタムブトール、エチオナミド、イソニアジド、ピラジナミド、リファムピシン、リファムピン、リファブチン、リファペンチン、ストレプトマイシン、アルスフェナミン、クロラムフェニコール、ホスホマイシン、フシジン酸、リネゾリド、メトロニダゾール、ムピロシン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン、ダルホプリスチン、リファキシミン、チアムフェニコール、チニダゾール、アミノグリコシド、β-ラクタム、ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム、フルロキノロン、ケトリド、リンコサミド、マクロリド、オキサゾリジノン、ストレプトグラミン、スルホンアミド、テトラサイクリン、グリシルサイクリン、メチシリン、バンコマイシン、ナフシリン、ゲンタマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、ドキシサイクリン、トブラマイシン、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アプラマイシン、クリンダマイシン、ガチグロキサシン、アミノペニシリン、および当該技術分野で公知の他のものを挙げることができる。これらおよび他の臨床的に有用な抗生物質の概論は入手可能であり、当業者に公知である(例えば、Washington University School of Medicine, The Washington Manual of Medical Therapeutics(32nd Ed.), 2007 Lippincott, Williams and Wilkins, Philadelphia, PA; Hauser, AL, Antibiotic Basics for Clinicians, 2007 Lippincott, Willians and Wilkins, Philadelphia, PA)。
【0105】
特定の本明細書に開示された実施形態における1種以上のBT化合物と共に使用される抗生物質の例示的分類は、Edson RS, Terrell CL. The aminoglycosides. Mayo Clin Proc. 1999 May; 74(5):519-28にレビューされているアミノグリコシド類の抗生物質である。この分類の抗生物質は、細菌のリボソームサブユニットの結合および不活化を通して、細菌のタンパク質合成を損傷することにより、細菌の発育を阻害する。アミノグリコシドは、そのような静菌特性に加えて、グラム陰性菌の細胞壁の崩壊を通して殺菌効果も示す。
【0106】
アミノグリコシド抗生物質としては、ゲンタマイシン、アミカシン、ストレプトマイシンなどが挙げられ、一般にはグラム陰性菌、マイコバクテリアおよび他の微生物病原の処置に有用と見なされるが、耐性株の分類は報告されている。アミノグリコシドは、消化管からは吸収されず、そのため一般には経口処方物に適用可能と見なされていない。アミカシンは例えば、多くの場合、ゲンタマイシン耐性菌株に対して効果的であるが、典型的には静脈内または筋肉内に投与されて、患者において疼痛を誘発する可能性がある。加えて、アミカシンなどのアミノグリコシド系抗生物質に関連する毒性は、腎臓障害および/または不可逆的聴力損傷をまねく可能性がある。
【0107】
これらの特性にもかかわらず、本明細書に開示された特定の実施形態は、例えば口腔、胃腸管/消化管に沿って1ヶ所以上の位置で上皮組織表面を処置するために、相乗的なBT/抗生物質・組み合わせの経口投与(例えば、抗生物質はアミノグリコシドに限定される必要がない)を企図する。同じく他の特定の実施形態において企図されるのは、本明細書において、無生物対象の外表面の微生物を殺傷する、またはその発育を遮断する調製物を指す殺菌剤としての、本明細書に記載された組成物および方法の使用であってもよい。
【0108】
同じく本明細書の他の箇所に記載された通り、BT化合物は、Domenico et al., 1997 Antimicrob. Agent. Chemother. 41(8):1697-1703、Domenico et al., 2001 Antimicrob. Agent. Chemother. 45(5):1417-1421、ならびにU.S RE37,793号、U.S.6,248,371号、同6,086,921号、および同6,380,248号(例えばU.S.6,582,719号も参照)に記載されたもの(調製方法を含む)をはじめとする、ビスマスまたはビスマス塩およびチオール(例えば、-SH、またはスルフヒドリル)含有化合物を含む組成物であってもよい。しかし特定の実施形態は、そのように限定されず、ビスマスまたはビスマス塩およびチオール含有化合物を含む他のBT化合物を企図してもよい。チオール含有化合物は、1、2、3、4、5、6またはそれを超えるチオール(例えば、-SH)基を含んでいてもよい。好ましい実施形態において、BT化合物は、イオン結合を介して、そして/または配位錯体として、チオール含有化合物と会合したビスマスを含むが、他の幾つかの実施形態において、ビスマスは、有機金属化合物中で見出されうる通り、共有結合を介してチオール含有化合物と会合していてもよい。しかし、特定の企図される実施形態は、有機金属化合物、例えばビスマスが有機部分への共有結合的なつながりにおいて見出される化合物であるBT化合物を明白に除外する。
【0109】
例示的なBT化合物を、表1に示す。
【表1】
* 硫黄含有化合物と三価錯体を形成するために用いられる反応体の化学量論比およびビスマスの公知の傾向に基づき、比較のために単一ビスマス原子に対する原子比を示す。示された原子比は、所定の調製物中の全ての化学種の正確な分子式でない場合がある。カッコ内の数字は、1種(またはそれを超える)チオール剤に対するビスマスの比である(例えば、Bi:チオール1/チオール2)。「CPD」:化合物。
【0110】
ここに開示された実施形態の特定のものにおいて使用されるBT化合物は、確立された手順(例えば、U.S RE37,793号、U.S.6,248,371号、同6,086,921号、および同6,380,248号;Domenico et al., 1997 Antimicrob. Agent. Chemother. 41(8):1697-1703、Domenico et al., 2001 Antimicrob. Agent. Chemother. 45(5):1417-1421)に従って調製してもよく、他の特定の実施形態において、BT化合物は、本明細書に記載された方法論に従って調製してもよい。つまり特定の好ましい実施形態は、BT化合物を含む微粒子を含む沈殿物の形成に十分な条件および時間で(例えば、本明細書に記載され、本開示に基づいて当業者に理解される濃度、溶媒強度、温度、pH、混合および/または圧力などの条件で)、溶解されたビスマスを少なくとも50mM、少なくとも100mM、少なくとも150mM、少なくとも200mM、少なくとも250mM、少なくとも300mM、少なくとも350mM、少なくとも400mM、少なくとも500mM、少なくとも600mM、少なくとも700mM、少なくとも800mM、少なくとも900mM、または少なくとも1Mの濃度で含有し、親水性、極性または有機性可溶化剤を含まない酸性ビスマス水溶液を、エタノールと混和して第一のエタノール性溶液を得て、ビスマスに対して約1:3~約3:1のモル比で反応溶液中に存在するチオール含有化合物を含む第二のエタノール性溶液と反応させて、反応溶液を得る、BT化合物を調製するための、詳細にはBT化合物を実質的に単分散の微粒子形態で得るための本明細書に記載された合成方法を企図する。
【0111】
従って例示的BTとしては、化合物 1B-1、Bis-EDT(1:1のビスマス-1,2-エタンジチオール反応体);化合物 1B-2、Bis-EDT(1:1.5);化合物 1B-3、Bis-EDT(1:1.5);化合物 1C、Bis-EDT(可溶性Bi調製物、1:1.5);化合物 2A、Bis-Bal(ビスマス-イギリス抗ルイサイト(ビスマス-ジメルカプロール、ビスマス-2,3-ジメルカプトプロパノール)、1:1);化合物 2B、Bis-Bal(1:1.5);化合物 3A Bis-Pyr(ビスマスピリチオン、1:1.5);化合物 3B、Bis-Pyr(1:3);化合物 4、Bis-Ery(ビスマスジチオエリトリトール、1:1.5);化合物 5、Bis-Tol(ビスマス-3,4-ジメルカプトトルエン、1:1.5);化合物 6、Bis-BDT(ビスマス-2,3-ブタンジオール、1:1.5);化合物 7、Bis-PDT(ビスマス-1,3-プロパンジチオール、1:1.5);化合物 8-1 Bis-Pyr/BDT(1:1/1);化合物 8-2、Bis-Pyr/BDT(1:1/0.5);化合物 9、Bis-2-ヒドロキシ,プロパンチオール(ビスマス-1-メルカプト-2-プロパノール、1:3);化合物 10、Bis-Pyr/Bal(1:1/0.5);化合物 11、Bis-Pyr/EDT(1:1/0.5);化合物 12 Bis-Pyr/Tol(1:1/0.5);化合物 13、Bis-Pyr/PDT(1:1/0.5);化合物 14 Bis-Pyr/Ery(1:1/0.5);化合物 15、Bis-EDT/2-ヒドロキシ,プロパンチオール(1:1/1)が挙げられる(例えば、表1参照)。
【0112】
理論に束縛されるのを望むものではないが、特定の好ましい実施形態において、硝酸ビスマスを含む硝酸水溶液などのビスマスを含む酸性水性液体溶液を調製する、または得ることを含んでいてもよい、BT化合物を調製するための本開示の方法は、所望なら、大量生産の容易性、改善された生成物純度、均質性もしくは一貫性(粒子径の均一性を含む)、または本発明の局所処方物の調製および/もしくは投与に有用な他の特性をはじめとする1種以上の所望の特性を有する、BT化合物を含む組成物を得ることができると考えられる。
【0113】
特定の実施形態において、初めて本明細書に記載された方法により調製されたBT組成物が、特定の目下好ましい実施形態により、それぞれが約0.4μm~約5μmの体積平均径(VMD)を有する実質的に単分散の微粒子懸濁液としてのそれらの出現に関連して有利な均質度を示すことが発見された。粒子径の測定値は、体積平均径(VMD)、質量中央径(MMD)、または空気動力学的質量中央径(MMAD)と呼ぶことができる。これらの測定は、例えば、インパクション(MMDおよびMMAD)またはレーザ(VMD)での特徴づけにより実施してもよい。液体粒子の場合、環境条件、例えば標準的湿度が保持されていれば、VMD、MMDおよびMMADは同一となりえる。しかし、湿度が保持されていなければ、インパクター測定時の脱水により、MMDおよびMMADの測定値は、VMDよりも小さくなるであろう。本明細書の目的では、VMD、MMDおよびMMADの測定値は、標準条件下のものと見なされるため、VMD、MMDおよびMMADの記載は、同等であろう。同様に、MMDおよびMMADでの乾燥粉末の粒子径測定値も、同等と見なされる。
【0114】
本明細書に記載された通り、好ましい実施形態は、BT含有微粒子の実質的に単分散の懸濁液に関する。わずかな幾何学的標準偏差(GSD)を有する定義されたBT粒子径を生成すると、例えば、BTの付着、天然表面内もしくは表面上にある所望の標的部位への接近性、および/またはBT微粒子を投与する対象による耐容性が最適化される場合がある。狭いGSDであれば、所望のVMDまたはMMADサイズ範囲以外の粒子の数が限定される。
【0115】
一実施形態において、本明細書に開示されたBT化合物を1種以上含有する、約0.5ミクロン~約5ミクロンのVMDを有する微粒子の液体またはエアロゾル懸濁液が、提供される。別の実施形態において、約0.7ミクロン~約4.0ミクロンのVMDまたはMMADを有する液体またはエアロゾル懸濁液が、提供される。別の実施形態において、約1.0ミクロン~約3.0ミクロンのVMDまたはMMADを有する液体またはエアロゾル懸濁液が、提供される。他の特定の実施形態において、VMDが約0.1~約5.0ミクロン、または約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8または約0.9~約1.0、約1.5、約2.0、約2.5、約3.0、約3.5、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0、約7.5または約8.0ミクロンの本明細書に記載された通り調製されたBT化合物粒子を1種または複数含む液状懸濁液が提供される。
【0116】
したがって、特定の好ましい実施形態において、「実質的に」単分散である本明細書に初めて記載されたBT調製物、例えば微粒子の「実質的に」全てが具体的な範囲内(例えば、約0.4μm~約5μm)の体積平均径(VMD)を有する微粒子形態のBT化合物を含むBT組成物は、粒子の少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、または94%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、またはそれを超えて、引用されたサイズ範囲内のVMDを有する、それらの組成物を包含する。
【0117】
本明細書に記載された合成方法により調製されたBT組成物のこれらおよび関連の特性は、1種以上の医薬、処方薬および薬用化粧品基準に従って規制順守を促進する手法で、特徴づけを可能にしうる、より低い製造コストおよび製造の容易性、ならびに組成物内の均質性などの、過去に記載されたBTを超える前例のない利点を提示する。
【0118】
加えて、またはあるいは、本明細書に記載された実質的に単分散のBT微粒子は、有利には微粒子化を必要とせずに、即ち高価で労作の多い摩砕もしくは超臨界流体プロセシング、または微粒子を生成するのに典型的に用いられる他の機器および手順を用いずに、製造してもよい(例えば、Martin et al.2008 Adv. Drug Deliv. Rev.60(3):339;Moribe et al., 2008 Adv. Drug Deliv. Rev. 60(3):328; Cape et al., 2008 Pharm. Res. 25(9):1967; Rasenack et al.2004 Pharm. Dev. Technol.9(1):1-13)。こうして本発明の実施形態は、非限定的に、強化されて実質的に均質な可溶化特性、経口、吸入または皮膚科的/皮膚の創傷への局所形態など所望の投与形態への適切性、高度の生物学的利用度および他の有益な特性をはじめとする、実質的に均質な微粒子調製物の有益効果を提示する。
【0119】
BT化合物の微粒子懸濁液は、例えば懸濁液中に個々の微粒子を保持するための、湿潤剤、界面活性剤、鉱物油、または処方の当業者に公知であろう他の成分もしくは添加剤を含有する調製物など、水性処方物として、ハロゲン化炭化水素噴射剤など水性溶媒および有機溶媒中の懸濁液もしくは溶液として、乾燥粉末として、または以下の詳述された他の形態で投与することができる。水性処方物は、例えば液圧式または超音波式のいずれかの噴霧を用いて、液体ネブライザによりエアロゾル化してもよい。噴射剤を基にしたシステムは、適切な加圧式ディスペンサを用いてもよい。乾燥粉末は、BT含有微粒子を効果的に分散させることが可能な乾燥粉末分散デバイスを用いてもよい。適切なデバイスを選択することにより、所望の粒子径および分布を得てもよい。
【0120】
先にも言及された通り、同じく特定の実施形態により本明細書に提供されるのは、ビスマス-チオール(BT)化合物を含む複数の微粒子を含むBT組成物を調製する方法であり、そのような微粒子の実質的に全てが約0.1~約8ミクロン、特定の好ましい実施形態において約0.4ミクロン~約5ミクロンの体積平均径(VMD)を有する。
【0121】
一般的条件において、その方法は、(a)固体沈殿物を実質的に含まない溶液を得るのに十分な条件および時間で、(i)少なくとも50mMの濃度のビスマスを含むビスマス塩を含み、親水性、極性または有機性可溶化剤を含まない酸性水溶液を、(ii)十分な量のエタノールと混和して、少なくとも約5容量%、10容量%、15容量%、20容量%、25容量%または30容量%、好ましくは約25容量%のエタノールを含む混和物を得るステップ;および(b)BT化合物を含む沈殿物の形成に十分な条件および時間で、ビスマスに対して約1:3~約3:1のモル比で反応溶液中に存在するチオール含有化合物を含むエタノール性溶液を、(a)の混和物に添加して、反応溶液を得るステップ、を含む。
【0122】
特定の好ましい実施形態において、ビスマス塩は、Bi(NO3)3であってもよいが、ビスマスが他の形態で提供されうることは、本開示により理解されよう。特定の実施形態において、酸性水溶液中のビスマス濃度は、少なくとも100mM、少なくとも150mM、少なくとも200mM、少なくとも250mM、少なくとも300mM、少なくとも350mM、少なくとも400mM、少なくとも500mM、少なくとも600mM、少なくとも700mM、少なくとも800mM、少なくとも900mMまたは少なくとも1Mであってもよい。特定の実施形態において、酸性水溶液は、少なくとも5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、22重量%または22.5重量%のビスマスを含む。酸性水溶液は、特定の好ましい実施形態において、少なくとも5重量%またはそれを超える硝酸を含んでいてもよく、他の特定の実施形態において、酸性水溶液は、少なくとも0.5重量%、少なくとも1重量%、少なくとも1.5重量%、少なくとも2重量%、少なくとも2.5重量%、少なくとも3重量%、少なくとも3.5重量%、少なくとも4重量%、少なくとも4.5重量%または少なくとも5重量%の硝酸を含んでいてもよい。
【0123】
チオール含有化合物は、本明細書に記載された任意のチオール-含有化合物であってもよく、特定の実施形態において、1,2-エタンジチオール、2,3-ジメルカプトプロパノール、ピリチオン、ジチオエリトリトール、3,4-ジメルカプトトルエン、2,3-ブタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、2-ヒドロキシプロパンチオール、1-メルカプト-2-プロパノール、およびジチオトレイトールのうちの1種以上を含んでいてもよい。他の例示的なチオール含有化合物としては、α-リポ酸、メタンチオール(CH3SH[m-メルカプタン])、エタンチオール(C2H5SH[e-メルカプタン])、1-プロパンチオール(C3H7SH[n-Pメルカプタン])、2-プロパンチオール(CH3CH(SH)CH3[2C3メルカプタン])、ブタンチオール(C4H9SH[n-ブチルメルカプタン])、tert-ブチルメルカプタン(C(CH3)3SH[t-ブチルメルカプタン])、ペンタンチオール(C5H11SH[ペンチルメルカプタン])、コエンザイムA、リポアミド、グルタチオン、システイン、シスチン、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、2-メルカプトインドール、トランスグルタミナーゼ、およびSigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から入手できる以下のチオール化合物のいずれかが挙げられる:(11-メルカプトウンデシル)ヘキサ(エチレングリコール)、(11-メルカプトウンデシル)テトラ(エチレングリコール)、(11-メルカプトウンデシル)テトラ(エチレングリコール)官能基化金ナノ粒子、1,1′,4′,1′′-テルフェニル-4-チオール、1,11-ウンデカンジチオール、1,16-ヘキサデカンジチオール、技術的な等級の1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、1,4-ブタンジチオール、1,4-ブタンジチオール二酢酸塩、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、アダマンタンチオール、1-ブタンチオール、1-デカンチオール、1-ドデカンチオール、1-ヘプタンチオール、1-ヘプタンチオールプルム、1-ヘキサデカンチオール、1-ヘキサンチオール、1-メルカプト(トリエチレングリコール)、1-メルカプト(トリエチレングリコール)メチルエーテル官能基化金ナノ粒子、1-メルカプト-2-プロパノール、1-ノナンチオール、1-オクタデカンチオール、1-オクタンチオール、1-ペンタデカンチオール、1-ペンタンチオール、1-プロパンチオール、1-テトラデカンチオール、1-テトラデカンチオールプルム、1-ウンデカンチオール、11-(1H-ピロル-1-イル)ウンデカン-1-チオール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール塩酸塩、11-ブロモ-1-ウンデカンチオール、11-メルカプト-1-ウンデカノール、11-メルカプトウンデカン酸、11-メルカプトウンデシルトリフルオロ酢酸塩、11-メルカプトウンデシルリン酸、12-メルカプトドデカン酸、15-メルカプトペンタデカン酸、16-メルカプトヘキサデカン酸、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオール、2,2′-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、2,3-ブタンジチオール、2-ブタンチオール、2-エチルヘキサンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、2-フェニルエタンチオール、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサンチオールプルム、3-(ジメトキシメチルシリル)-1-プロパンチオール、3-クロロ-1-プロパンチオール、3-メルカプト-1-プロパノール、3-メルカプト-2-ブタノール、3-メルカプト-N-ノニルプロピオンアミド、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピル官能基化シリカゲル、3-メチル-1-ブタンチオール、4,4′-ビス(メルカプトメチル)ビフェニル、4,4′-ジメルカプトスチルベン、4-(6-メルカプトヘキシルオキシ)ベンジルアルコール、4-シアノ-1-ブタンチオール、4-メルカプト-1-ブタノール、6-(フェロセニル)ヘキサンチオール、6-メルカプト-1-ヘキサノール、6-メルカプトヘキサン酸、8-メルカプト-1-オクタノール、8-メルカプトオクタン酸、9-メルカプト-1-ノナノール、ビフェニル-4,4′-ジチオール、3-メルカプトプロピオン酸ブチル、1-ブタンチオール酸銅(I)、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、デカンチオール官能基化銀ナノ粒子、ドデカンチオール官能基化金ナノ粒子、ドデカンチオール官能基化銀ナノ粒子、ヘキサ(エチレングリコール)モノ-11-(アセチルチオ)ウンデシルエーテル、メルカプトコハク酸、3-メルカプトプロピオン酸メチル、NanoTether BPA-HH、NanoThink(商標)18、NanoThinks(商標)8、NanoThinks(商標)ACID11、NanoThinks(商標)ACID16、NanoThinks(商標)ALCO11、NanoThinks(商標)THIO8、オクタンチオール官能基化金ナノ粒子、PEGジチオール平均Mn8,000、PEGジチオール平均分子量1,500、PEGジチオール平均分子量3,400、S-(11-ブロモウンデシル)チオアセタート、S-(4-シアノブチル)チオアセタート、チオフェノール、トリエチレングリコールモノ-11-メルカプトウンデシルエーテル、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)、[11-(メチルカルボニルチオ)ウンデシル]テトラ(エチレングリコール)、m-カルボラン-9-チオール、p-テルフェニル-4,4′′-ジチオール、tert-ドデシルメルカプタンおよびtert-ノニルメルカプタン。
【0124】
温度、pH、反応時間、溶質を溶解するための撹拌またはかきまぜの利用、および沈殿物を回収および洗浄する手順などの例示的反応条件は、本明細書に記載されており、当該技術分野で一般に公知の技術を用いる。
【0125】
過去に記載された、BT化合物を製造するための方法論とは異なり、BTを調製するための本発明の方法によれば、BT生成物は、特定の好ましい実施形態において約0.4ミクロン~約5ミクロン、他の特定の実施形態によれば一般に約0.1ミクロン~約8ミクロンのVMDを有する、実質的に全ての微粒子を有する微粒子懸濁液として提供される。更に過去のアプローチとは異なり、本発明の実施形態によれば、ビスマスは、少なくとも約50mM~約1Mの濃度のビスマス塩、および少なくとも約0.5%(w/w)~約5%(w/w)、好ましくは5%(重量/重量)未満の量の硝酸を含み、親水性、極性または有機性可溶化剤を含まない酸性水溶液中で提供される。
【0126】
これに関連して本発明の方法は、ビスマスが50μMで水溶性でなく(例えば、U.S.RE37793号)、ビスマスが水中で不安定であり(例えば、Kuvshinova et al., 2009 Russ. J Inorg. Chem 54(11):1816)、親水性、極性または有機性可溶化剤が存在しない限りビスマスが硝酸水溶液中でも不安定になる、という一般に認識された当該技術を考慮すると驚くべき、そして予想外の利益を提示する。例えば、BT調製方法論の最も信頼のおける記載の全てにおいて(例えば、Domenico et al., 1997 Antimicrob. Agents. Chemother. 41:1697;U.S.6,380,248号;U.S RE37,793号、U.S.6,248,371号)、親水性可溶化剤プロピレングリコールは、硝酸ビスマスを溶解するのに必要とされ、チオールとの反応用に調製された溶液のビスマス濃度は、15mMよりも十分に低く、それによりBT化合物の利用可能な生産様式が限定される。
【0127】
これに反して、本開示によれば、ビスマスを溶解するのに親水性、極性または有機性可溶化剤を必要とせず、驚くべきことに、より高い濃度が実現される。親水性、極性または有機性可溶化剤は、プロピレングリコール(PG)およびエチレングリコール(EG)が挙げられ、ジオキサンおよびジメチレンスルホキシド(DMSO)などの極性溶媒、ポリオール(例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ペンタエリトリトールなどを含む)、グリセロールおよびマンニトールなどの多価アルコール、ならびに他の薬剤をはじめとする多数の公知の溶解度増強剤のいずれかを含んでいてもよい。他の高極性の水混和性有機物質としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)およびNMP(N-メチル-2-ピロリドン)が挙げられる。
【0128】
つまり本明細書において提供された親水性、極性または有機性可溶化剤として一般に用いられるような溶媒は、例えば、Catalan他(例えば、1995 Liebigs Ann. 241;Handbook of Solvent, Wypych (Ed.), Andrew Publ., NY内のCatalan, 2001、およびそれらに引用された参考資料も参照)のシステムを用いた溶媒極性/分極率(SPP)スケール値に基づいて選択してもよく、それによれば、例えば水はSPP値0.962、トルエンはSPP値0.655、そして2-プロパノールはSPP値0.848を有することは、当業者に理解されるであろう。2-N,N-ジメチル-7-ニトロフルオレン/2-フルオロ-7-ニトロフルオレンプローブ/同型対(homomorph pair)の紫外線測定に基づいて溶媒のSPP値を測定する方法は、記載されている(Catalan et al., 1995)。
【0129】
特定のBT組成物の溶解度特性に基づいて所望のSPP値を有する溶媒(純粋な単一成分溶媒、または2種、3種、4種またはそれを超える溶媒の溶媒混合物のいずれかとして;溶媒混和性に関しては、例えばGodfrey 1972 Chem. Technol. 2:359参照)は、本開示を考慮して当業者により直ちに同定することができるが、先に言及された通り、本明細書に記載された合成方法ステップに関する特定の好ましい実施形態によれば、親水性、極性または有機性可溶化剤は、ビスマスを溶解するのに必要とならない。
【0130】
溶解度パラメータは、相互作用パラメータC、ヒルデブランド溶解度パラメータd、または部分(ハンセン)溶解度パラメータ:溶媒極性、水素結合能および分散力相互作用能を表わす、それぞれδp、δhおよびδdを含んでいてもよい。特定の実施形態において、ビスマスを含むビスマス塩が溶解する溶媒または共溶媒系を記載する溶解度パラメータの最高値が、例えば本明細書に記載された微粒子BT組成物を調製する方法により、ビスマス塩を含む水溶液の限界を提供してもよい。例えば高いδh値ほど、大きな水素結合能力を有し、それゆえ水などの溶媒分子に対してより大きな親和力を有する。それゆえ、より親水性の環境が望ましい状況では、観察された溶媒の最大δhがより高い値であることが好ましくなりうる。
【0131】
非限定的実施例として、以下の式Iに示された構造を有するBisEDTを、以下の反応スキームにより調製してもよい:
【化1】
【0132】
手短に言えば、非限定的例示として、室温の5%水性HNO3の過剰量(11.4L)に、Bi(NO3)3溶液(例えば、43%Bi(NO3)3(w/w)、5%硝酸(w/w)、52%水(w/w)、Shepherd Chemical Co., Cincinnati, OHから入手)などの酸性ビスマス水溶液0.331L(約0.575モル)を撹拌しながら徐々に添加し、その後、無水エタノール(4L)を徐々に添加してもよい。別個に、60mLシリンジを用いて1,2-エタンジチオール72.19mL(0.863モル)を無水エタノール1.5Lに添加し、その後5分間撹拌することにより、1,2-エタンジチオール[~0.55M]などのチオール化合物のエタノール性溶液(1.56L)を調製してもよい。1,2-エタンジチオール(CAS 540-63-6)および他のチオール化合物は、例えばSigma-Aldrich, St. Louis, MOから入手できる。その後、チオール化合物のエタノール性溶液を、水性Bi(NO3)3/HNO3溶液に徐々に添加して、一晩撹拌し、反応溶液を形成させてもよい。チオール含有化合物は、特定の好ましい実施形態に従って、ビスマスに対して約1:3~約3:1のモル比で反応溶液中に存在してもよい。形成された生成物は、本明細書に記載された微粒子を含む沈殿物として沈殿させ、その後、ろ過により回収し、エタノール、水およびアセトンで引き続き洗浄して、BisEDTを黄色非晶質粉末固体として得る。粗生成物を撹拌しながら無水アルコールに再溶解し、その後、ろ過して、エタノールで数回、その後、アセトンで数回引き続き洗浄してもよい。洗浄した粉末を1M NaOH(500mL)中で研和し、ろ過して水、エタノールおよびアセトンで引き続き洗浄して、精製された微粒子BisEDTを得てもよい。
【0133】
非限定的理論によれば、ビスマスは、細菌による、菌体外多糖などの細胞外ポリマー物質(EPS)を産生する細菌の能力を阻害し、この阻害がバイオフィルム形成の減損に導く。細菌は、バイオフィルム粘着のためにニカワ状EPSを用いると考えられる。感染物の性質に応じて、バイオフィルム形成およびEPSの同化は、創傷治癒の妨害など細菌病原性に寄与する可能性がある。しかしビスマス単独では、介入剤として治療上有用ではなく、代わりに典型的にBTなどの錯体の一部として投与される。つまりビスマス-チオール(BT)は、チオール化合物でのビスマスのキレート化から得られ、ビスマスの抗菌治療効力の劇的改善を示す化合物を含む組成物のファミリーである。BTは、顕著な抗感染効果、抗バイオフィルム効果、および免疫調整効果を示す。ビスマス-チオールは、広範囲の微生物に対して効果的であり、典型的には抗生物質耐性による影響を受けない。BTは、著しく低い(亜阻害)濃度でバイオフィルム形成を予防し、同じ亜阻害レベルで一般の創傷病原の多くの病原的特徴を予防し、動物モデルにおける敗血性ショックを予防することができ、多くの抗生物質と相乗性を有しうる。
【0134】
本明細書に記載された通り、1種以上の特異的抗生物質化合物と組み合わせた場合の1種以上の特異的BTの抗菌効果におけるそのような相乗性は、特定の細菌タイプに対する別個の抗生物質およびBT効果のプロファイルに基づいて直ちに予測することはできないが、驚くべきことに、グラム陰性菌またはグラム陽性菌(または両方)が存在するかどうかの確認など、特異的細菌集団を考慮した特定のBT-抗生物質・組み合わせを選択することで得られる場合がある。例えば本明細書に開示された通り、特定のBTと相乗する抗生物質は、アミカシン、アンピシリン、アズトレオナム、セファゾリン、セフェピム、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、クリンダマイシン(または他のリンコサミド系抗生物質)、ダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、ドキシサイクリン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、イミペニム、レボフロキサシン、リネゾリド(Zyvox(登録商標))、ミノサイクリン、ナフシリン、パロモマイシン、リファムピン、スルファメトキサゾール、テトラサイクリン、トブラマイシンおよびバンコマイシンのうちの1種以上を含んでいてもよい。例えばゲンタマイシン、セファゾリン、セフェピム、スファメトキサゾール、イミペニムまたはレボフロキサシンに対して個別では感受性がほとんど、または全くないMRSAが、BT化合物のBisEDTの存在下でこれらの抗生物質に暴露すると、抗生物質のいずれか1種への顕著な感受性を示すことが、インビトロ試験で示された。つまり本明細書において企図される特定の実施形態は、BT化合物と、アミカシン、アンピシリン、セファゾリン、セフェピム、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、クリンダマイシン(または他のリンコサミド系抗生物質)、ダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、ドキシサイクリン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、イミペニム、レボフロキサシン、リネゾリド(Zyvox(登録商標))、ミノサイクリン、ナフシリン、パロモマイシン、リファムピン、スルファメトキサゾール、トブラマイシンおよびバンコマイシンから選択される1種以上の抗生物質との組み合わせを含みうる組成物および/または方法を明白に企図し、本明細書において企図される他の特定の実施形態は、BT化合物と、アミカシン、アンピシリン、アズトレオナム、セファゾリン、セフェピム、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、クリンダマイシン(または他のリンコサミド類)、ダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、ドキシサイクリン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、イミペニム、レボフロキサシン、リネゾリド(Zyvox(登録商標))、ミノサイクリン、ナフシリン、パロモマイシン、リファムピン、スルファメトキサゾール、トブラマイシンおよびバンコマイシンから選択される1種以上の抗生物質が明白に除外されうる、1種以上の抗生物質との組み合わせを含んでいてもよい組成物および/または方法を企図する。本明細書において、ゲンタマイシンおよびトブラマイシンが抗生物質のアミノグリコシド類に属することに、留意されたい。同じく特定の企図される実施形態から明白に除外されるのは、Domenico et al., 2001 Agent. Chemother. 45:1417-1421;Domenico et al.,2000 Infect. Med.17:123-127;Antimicrob. Agents & Chemother.3:79-85内のDomenico et al.,2003 Res. Adv.;Domenico et al., 1997 Antimicrob. Agents Chemother. 41(8):1697-1703;Domenico et al., 1999 Infect. Immun. 67:664-669; Huang et al. 1999 J Antimicrob. Chemother. 44:601-605;Veloira et al., 2003 J Antimicrob. Chemother. 52:915-919; Wu et al., 2002 Am J Respir Cell Mol Biol. 26:731-738;Halwani et al., 2008 Int. J Pharmaceut. 358:278; Halwani et al., 2009 Int. J. Pharmaceut. 373:141-146に記載された特定の組成物および方法であり、これらの発行物のいずれも、本明細書に開示された単分散微粒子BT組成物を教示または示唆していないことに留意されたい。
【0135】
したがって本明細書に記載された通り、特定の好ましい実施形態において、本明細書に記載された微粒子BTを含み、場合により、他の特定の実施形態において、相乗性および/または増強性抗生物質も含む組成物で、植物、動物またはヒト被験体、あるいは製品を処置するための組成物および方法が提供される。関連の技術分野の当業者は、本発明の開示に基づけば、そのような処置が望ましくなりうる適切な農業、臨床、商業、工業、製造、家庭、およびその他の局面および状況を認識すると思われ、その基準は、とりわけ、例えば外科的、軍事外科的、皮膚科学的、外傷医療による、老年学的、心臓血管の、代謝的な疾患(例えば、糖尿病、肥満など)、感染および炎症(気道もしくは消化管の上皮内層、または腺組織などの他の上皮組織表面など)、ならびに関連の医療専門分野および下位専門領域をはじめとする医療技術分野で確立されている。
【0136】
本明細書に記載された実施形態に従って用いられる天然または人工表面上または表面内の微生物感染を処置する好ましい組成物は、特定の実施形態において、本明細書に記載されたビスマス-チオール(BT)化合物を含む組成物を含んでいてもよく、それは、異なるが関連する特定の実施形態において、本明細書に記載された1種以上の抗生物質化合物など当該技術分野で公知の他の化合物を含んでいてもよい。BT化合物およびそれを製造する方法が、本明細書において開示されており、例えば、Domenico et al.(1997 Antimicrob. Agent. Chemother. 41(8):1697-1703;2001 Antimicrob. Agent. Chemother. 45(5):1417-1421)ならびにU.S RE37,793号、U.S.6,248,371号、同6,086,921号、および同6,380,248号にも開示されている。同じく先に言及された通り、特定の好ましいBT化合物は、チオール含有化合物にイオン結合した、またはそれとの配位錯体におけるビスマスまたはビスマス塩を含有するもの、例えばチオール含有化合物にキレート化されたビスマスを含む組成物であり、他の特定の好ましいBT化合物は、チオール含有化合物への共有結合的つながりにおいてビスマスまたはビスマス塩を含有するものである。同じく好ましいのは、本明細書に記載された実質的に単分散の微粒子BT組成物である。過去の、細菌感染物を処置する努力からも、または天然および/または人工表面の本明細書に記載された処置を促進するための組成物および方法において用途を有する、本明細書に初めて記載された任意の化合物の他の局面における特徴づけからも、そのような化合物を用いる本発明の方法が本明細書に記載された有益効果を有することを予測できなかった。
【0137】
こうして好ましい実施形態によれば、本明細書に記載された少なくとも1種の微粒子BT化合物を天然表面に投与することを含む、天然または人工表面を処置する方法が提供される。特定の実施形態において、その方法は、特定の好ましい実施形態において、本明細書に記載された相乗性抗生物質となる可能性があり、他の特定の実施形態において、本明細書に記載された増強性抗生物質となる可能性がある、少なくとも1種の抗生物質化合物を同時、または連続していずれかの順序で投与することを更に含む。抗生物質化合物は、アミノグリコシド系抗生物質、カルバペネム系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、リンコサミド系抗生物質、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン系抗生物質、またはアミノペニシリン系抗生物質であってもよい。臨床的に有用な抗生物質は、本明細書の他の箇所で議論されており、例えば、Washington University School of Medicine, The Washington Manual of Medical Therapeutics(32nd Ed.), 2007 Lippincott, Williams and Wilkins, Philadelphia, PA; Hauser, AL, Antibiotic Basics for Clinicians, 2007 Lippincott, Willians and Wilkins, Philadelphia, PAにも記載されている。
【0138】
本明細書に記載された通り、特定の実施形態は、グラム陽性菌を含む細菌感染物の場合に、好ましい治療上効果的な処方物が、BT化合物(例えば、BisEDT、ビスマス;1,2-エタンジチオール;BisPyr、ビスマス:ピリチオン;BisEDT/Pyr、ビスマス:1,2-エタンジチオール/ピリチオン)とリファマイシン、またはBT化合物とダプトマイシン(Cubicin(登録商標)、Cubist Pharmaceuticals, Lxinton, MA)、またはBT化合物とリネゾリド(Zyvox(登録商標)、Pfizer, Inc., NY, NY)、またはBT化合物(例えば、BisEDT、ビスマス;1,2-エタンジチオール;BisPyr、ビスマス:ピリチオン;BisEDT/Pyr、ビスマス:1,2-エタンジチオール/ピリチオン)とアンピシリン、セファゾリン、セフェピム、クロラムフェニコール、クリンダマイシン(または他のリンコサミド系抗生物質)、ダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、ドキシサイクリン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、イミペニム、レボフロキサシン、リネゾリド(Zyvox(登録商標))、ナフシリン、パロモマイシン、リファムピン、スルファメトキサゾール、トブラマイシンおよびバンコマイシンのうちの1種以上、を含みうる、という予想外の発見に由来する。
【0139】
同じく本明細書に記載された通り、特定の実施形態は、グラム陰性菌を含む細菌感染物の場合に、好ましい治療上効果的な処方物が、BT化合物およびアミカシンを含みうる、という予想外の発見に由来する。特定の関連する実施形態は、グラム陰性菌を含む感染物を、BT化合物および別の抗生物質、例えば特定の実施形態においてゲンタマイシンまたはトブラマイシンではない別のアミノグリコシド系抗生物質で処置することを企図する。したがって、これらの実施形態を考慮して、他の関連の実施形態は、本発明の方法により投与される処方物に含まれる適切な抗生物質化合物を選択するステップとして、医療的方法論の技術分野の当業者によく熟知された方法論により、グラム陽性またはグラム陰性である周知基準により天然または人工表面の内または上の1種以上の細菌集団または亜集団を同定することを企図する。
【0140】
ここに記載された組成物および方法は、典型的には本明細書に記載された化合物を(例えば、1種以上の微粒子BTのみで、または本明細書に開示された1種以上の相乗性および/もしくは増強性抗生物質と組み合わせて)、天然または人工表面の上または内の微生物の存在など微生物部位へ適用または投与することにより、様々な局面における微生物(例えば、細菌、ウイルス、酵母、カビおよび他の真菌、微生物寄生虫など)の処置において用途を見出してもよい。そのような天然表面としては、非限定的に植物(例えば、根、球根、茎、葉、枝、蔓、匍匐枝、蕾、花またはその一部分、新芽、果実、種子、莢等の表面の全部または一部)、哺乳動物組織(例えば、皮膚、頭皮、消化管内層、口腔などの上皮;内皮、細胞および組織膜、例えば腹膜、心膜、肋膜、骨膜、髄膜、筋線維膜など;角膜、強膜、粘膜など;および他の哺乳動物組織、例えば筋肉、心臓、肺、腎臓、肝臓、脾臓、胆嚢、膵臓、膀胱、神経、歯、骨、関節、腱、靭帯など)が挙げられるし、微生物の存在が見出され得る製品の任意の部位(例えば、商業、住宅、工業、教育、健康管理およびその他の公共建築物の壁、窓、床、床下空間、屋根裏、地下室、塀、屋根、天井、照明および配管固定具、通気孔、ダクト、管路、ドアノブ、スイッチ、衛生設備、排水設備、タンク、送水管;医療および歯科装置、インプラント、工具、器機、設備等;金属、ガラス、プラスチック、木材、ゴムおよび紙製品;輸送設備、例えば出荷用コンテナ、自動車、鉄道設備、ボート、船(例えば外部船体、舵、アンカーおよび/またはプロペラ表面、内部固定装置およびバラストタンク、ならびにその他の内部表面)、はしけ、ならびにその他の海洋設備、例えばドック、隔壁、埠頭等)も挙げられる。
【0141】
本明細書に記載された微粒子抗微生物剤は、微生物の発育を抑制するため、微生物感染を低減するため、天然および/または人工表面を含めた生成物を処理して、微生物感染に対する生成物耐性を改良するため、バイオフィルムを減少させるため、細菌からバイオフィルムへの変換を予防するため、微生物感染を予防または阻害するため、損傷を防止するため、そして本明細書に記載された他の任意の使用のために用いてもよい。これらの作用物質は、サイトメガロウイルス、単純ヘルペス1型、および単純ヘルペス2型などのヘルペス族ウイルスによるウイルス感染、ならびに/または他のウイルスによる感染の予防または阻害をはじめとする、複数の抗ウイルス目的にも有用である。これに関連して、その薬剤は、様々なウイルス、例えば一本鎖RNAウイルス、一本鎖DNAウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSA)、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、インフルエンザウイルス、西ナイルウイルス(WNV)、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)、東部ウマ脳炎ウイルス(EEEV)、重症急性呼吸器ウイルス(SARS)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、およびヒトT細胞リンパ腫ウイルス(HTLV)による、そして植物病原体(例えばジャガイモ葉巻ウイルス;ジャガイモウイルスA、M、S、XまたはY;トマト黄化壊疽ウイルス;ブドウ葉巻随伴ウイルス3;プラムポックスウイルス;レタスモザイクウイルス;ペピーノモザイクウイルス;トウガラシ微斑ウイルス;トマトモザイクウイルス;タバコモザイクウイルス;カリブらコア斑紋ウイルス;インパチェンス壊疽斑紋ウイルス等)として既知であるウイルスも含めたウイルス感染の予防または阻害に有用である。
【0142】
本明細書に記載された抗微生物剤の他の内用および外用医薬品使用として、非限定的に、細菌感染の、結核の、酵母およびカビ感染などの真菌感染の(例えば、カンジダ(例えば、カンジダ属(例えば、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラタ、C.パラプシローシス、C.トロピカリス、およびC.デュブリニエンシス)またはクリプトコッカスもしくは他の真菌)、ヘリコバクター・ピロリ感染の、そして消化性潰瘍疾患の処置または予防が挙げられる。一実施形態において、その薬剤は、細菌にとって一般に致死的でないが、それでもなお自然な免疫反応に他の方法で抵抗する防御的多糖コーティングを低下させるのに十分となる投与量で用いられる。こうしてこの技術は、ヒト共生微生物(例えば、通常の腸内細菌叢など)を損傷することなく、抗生物質を用いる症例になりうる程度まで、免疫系を介した細菌感染の根絶を補助すると考えられる。限定ではなく例示として、特定の企図される実施形態を、ここに記載する。
【0143】
送水管をコーティングし、処理するための微粒子ビスマス-チオール 一実施形態では、バイオフィルム発達を防止し、および/または制御する(すなわち、緩慢にする、遅らせる、抑制する)、バイオフィルムを崩壊させる、あるいは送水管(例えば歯科医、歯科衛生士およびその他の口腔ケア専門家および治療奉仕者により用いられる送水管)、あるいはその他の水送達ビヒクル、例えば管、パイプ、蛇口、噴水、シャワーヘッド、あるいはヒトまたは非ヒト動物により消費されるかまたはそれらに適用される水と接触するかまたは水を送達する任意の他の器具または装置(例えば歯科用器機、例えば高速歯科用ドリル、エア・ウォーターシリンジ、および清掃用装置または器機(例えばCavitron(登録商標)))の内表面または外表面上のバイオフィルムの量を低減するための方法が本明細書中で提供される。これらの方法は、送水管または水送達ビヒクル中の細菌、真菌および/または原生動物の増殖および分裂を防止し、低減し、抑制し、排除し、または阻止するために有用でもあり得る。これらの方法は、送水管または水送達ビヒクルの表面に微粒子BT化合物を適用し、フラッシングし、付着し、または接着することを包含する。
【0144】
バイオフィルムは、主に天然細菌および真菌からなる顕微鏡的共同体である。微生物は、歯科用水送達系およびその他の水送達ビヒクル、例えばシャワーヘッド、蛇口および管を含めた表面に薄い層を形成する。歯科手法中の冷却剤および洗浄剤として用いられる水は、微生物により重度に汚染され得る(例えば、環境保護庁ウェブサイト:epa.gov/safewater/mcl/html参照)。歯科用送水管および器機からの水中に見出されている病原性微生物または日和見病原体としては、放線菌属、バクテロイデス属、バシラス属、クロプトスポリジウム属、大腸菌属、フラボバクテリウム属、クレブシエラ属、レジオネラ属、モラキセラ属、マイコバクテリウム属、ペプトストレプトコッカス属、シュードモナス属、ブドウ球菌属、連鎖球菌属およびベイヨネラ属が挙げられる。さらに、バイオフィルム形成の結果、レジオネラ種および原生動物は、送水管または水送達ビヒクル中で増殖し得る。バイオフィルムからの細菌ならびに送水管または水送達ビヒクル中に存在する他の微生物は、送水管またはビヒクルを通して水流として継続的に放出される。患者および臨床スタッフは、送水管または水送達ビヒクルから噴霧される微小液滴または微細霧中に存在する微生物に曝露される。
【0145】
歯科用途における水の使用および消費に関して、米国疾病予防管理センターは、非外科的歯科手法のための冷却剤/洗浄剤として用いられる水中の細菌の数は、好気性従属栄養性プレート数(HPC)が≦500CFU/mlであることを推奨している。米国歯科医師会(ADA)は、さらに厳しい標準を提唱し、歯科処置に用いられる水は≦200CFU/mlの細菌レベルを含有する、と推奨している。歯科用水系中の細菌数を低レベルに保持するためになされる測定としては、抗菌剤の使用(例えば、McDowell et al., J. Am. Dent. Assoc. 135: 799-805 (2004)参照);過酸化水素ベースの消毒薬(例えば、Linger et al., J. Am. Dent. Assoc. 132: 1287-91 (2001)参照);使用前後の送水管の慣例のフラッシング;送水管および水送達系の保持;濾過系の使用;消毒薬としての化学物質の使用(例えば、1:10希釈漂白剤、グルタルアルデヒド、食品等級エチルアルコール、クロルヘキシジンベースの製品);熱性根絶;銅-銀イオン化;二酸化塩素;紫外線;オゾン;消毒薬組合せ(例えば、Adec(登録商標)ICX(Adex, Newburg, OR));過炭酸ナトリウム;硝酸銀および陽イオン性界面活性剤および銀イオン触媒が挙げられる。
【0146】
バイオフィルムの発生を予防および/もしくは制御する(即ち、緩徐にする、遅延する、阻害する)、バイオフィルムを崩壊させる、あるいは送水管または水送達ビヒクルの内または外表面上のバイオフィルムの量を低減するために用いられ得る代替的抗菌剤としては、微粒子BT化合物(または少なくとも1つの微粒子BT化合物を含む組成物)が挙げられる。微粒子BT化合物は、ゲル、噴霧、ペースト、液体または粉末あるいは当業者に既知の他の形態として、手動でまたは自動的に、送水管、水道管系および水送達ビヒクル中に導入され得る。特定の実施形態では、微粒子BT化合物は、粉末または液体形態のいずれかで、少なくとも1つの付加的成分と混合され、これは、少なくとも1つの付加的生物学的活性成分および/または生物学的不活性賦形剤を含んで生成物を処方し、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系中に定期的に送達されるかまたは注入される。組成物は、当該技術分野で既知の任意数の方法を用いて、当業者により調製され得る。例として、抗菌的有効量での微粒子BT化合物がDMSOと組合されて、用いられ得る。慣例的使用では、バイオフィルム形成を防止するのに十分であるレベルの微粒子BT化合物が所望される。しかしながら、他の実施形態では、微粒子BT化合物のレベルは、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系中に存在するバイオフィルムを低減し、除去し、崩壊し、または排除するためにはより高いことがある。
【0147】
微粒子BT化合物はさらにまた、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系に適用される微粒子BT化合物を含む組成物から徐々に放出するよう処方され得る。微粒子BT化合物は、コーティング中にも混入され得るが、これは、送水管、ビヒクルまたは系の内表面に適用され、固定され、接着されるか、あるいはいくつかの方法では接触するよう配置され得る。微粒子BT化合物を含む組成物は、ゲル(例えばヒドロゲル、チオマー、エーロゲルまたはオルガノゲル)または液体であり得る。オルガノゲルは、有機溶媒、リポ酸、植物油または鉱油を含み得る。緩徐放出組成物は、抗菌的有効量の微粒子BT化合物を、1、2、3、4、5、6または7日(1週間)、あるいは2、3、4、5、6、7週間、あるいは1、2、3、4、5または6ヶ月間、送達し得る。
【0148】
微粒子BT化合物(または微粒子BT化合物を含む組成物)は、組合せて投与されると、本明細書中に記載されるような増強されたまたは相乗的な抗菌作用を有する少なくとも1つ以上の他の抗菌剤(すなわち、第二、第三、第四等の抗菌剤)と組合せされ得る。例として、増強化抗菌作用は、微粒子BT化合物が鉄をキレート化する抗菌剤と一緒に投与される場合に観察され得る。微粒子BT化合物は、酸化剤、殺微生物剤または消毒剤のうちの少なくとも1つと組合され得る。疎水性チオール(例えばチオクロロフェノール)を用いて調製される微粒子BT化合物が用いられ、これは、送水管ならびに水送達ビヒクルおよび系の表面と接着するために、低疎水性BT化合物より大きい能力を示し得る。正味負電荷を有するBT化合物、例えば1:2モル比(ビスマス対チオール)を有するものも、好ましい接着特性を有し得る。
【0149】
微粒子BT化合物(および微粒子BT化合物を含む組成物)は、重曹あるいは別のアルカリ性化合物または物質と組み合わされ得る。重曹の化学的および物理学的特性のため、それは、清掃、脱臭および緩衝といったような広範囲の用途を有する。重曹は、臭気を遮蔽するかまたは吸収するというよりむしろ、化学的に中和する。重曹は、粉末の混合物として、あるいは本明細書中に記載される粉末、噴霧、ゲル、ペーストまたは液体中に溶解されるかまたは懸濁されて、微粒子BT化合物と組み合わされ得る。他の実施形態では、微粒子BT化合物は、所望のアルカリ性pHを保持するのに役立ち、浄化および脱臭特性も保有する他のアルカリ金属重炭酸塩または炭酸塩物質(例えば重炭酸カリウムまたは炭酸カルシウム)と組み合わされ得る。
【0150】
付加的例として、微粒子BT化合物(または微粒子BT化合物を含む組成物)は、下記のうちの1つ以上と組み合わされ得る。抗菌剤:例えば、クロルヘキシジン;サンギナリン抽出物;メトロニダゾール;第四級アンモニウム化合物(例えば塩化セチルピリジニウム);ビス-グアニド(例えば、クロルヘキシジンジグルコネート、ヘキセチジン、オクテニジン、アレキシジン);ハロゲン化ビスフェノール化合物(例えば、2,2′メチレンビス-(4-クロロ-6-ブロモフェノール)またはその他のフェノール系抗細菌化合物);アルキルヒドロキシベンゾエート;陽イオン性抗菌性ペプチド;アミノグリコシド;キノロン;リンコサミド;ペニシリン:セファロスポリン;マクロリド;テトラサイクリン;当該技術分野で公知の他の抗生物質;コレウス・フォルスコリ精油;銀または銀コロイド抗微生物剤;スズまたは銅を基剤とする抗微生物剤;マヌカオイル;オレガノ;タイム;ローズマリー;または他のハーブエキス;およびグレープフルーツシードエキス。虫歯予防剤:例えば、フッ化ナトリウムおよびフッ化第一スズ、フッ化アミン、モノフルオロリン酸ナトリウム、トリメタリン酸ナトリウム、クエン酸亜鉛または他の亜鉛剤、およびカゼイン。プラーク緩衝液:例えば、尿素、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、およびポリアクリル酸ストロンチウム。ビタミン:例えば、ビタミンA、CおよびE。植物エキス。歯石防止剤:例えば、アルカリ金属ピロリン酸塩、次亜リン酸塩含有ポリマー、有機ホスホン酸塩およびホスホクエン酸塩など。生体分子:例えば、バクテリオシン。防腐剤。不透明化剤。pH調整剤。甘味剤。界面活性剤:例えば、陰イオン性、非イオン性、陽イオン性および双性イオン性または両性界面活性剤、植物材料由来のサポニン(例えば、米国特許第6,485,711号参照)。粒子研磨剤:例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、トリメタリン酸塩、不溶性ヘキサメタリン酸塩、凝集粒子研磨剤、チョーク、微粉砕性天然チョーク等。保湿剤:例えば、グリセロール、ソルビトール、プロピレングリコール、キシリトール、ラクチトール等。結合剤および増粘剤:例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol(登録商標))、キサンタンゴム、アラビアゴム、合成ポリマー(例えば、ポリアクリラートおよびカルボキシビニルポリマー、例えばCarbopol(登録商標))。抗微生物剤のような有効成分の送達を増強する高分子化合物。口腔ケア組成物のpHおよびイオン強度を緩衝するための緩衝剤および塩。漂白剤:例えば、ペルオキシ化合物(例えば、ペルオキシ二リン酸カリウム)。発泡系:例えば、重炭酸ナトリウム/クエン酸系。
【0151】
別の実施形態では、本明細書中に記載される微粒子BT化合物(または微粒子BT化合物を含む組成物)は、バイオフィルム発生を制御し、バイオフィルムを崩壊し、またはバイオフィルムの量を低減するために、少なくとも1つ以上の抗バイオフィルム剤と組合せられ得る。当該技術分野で理解されているように、種間クオラムセンシングは、バイオフィルム形成と関連づけられる。LuxS依存性経路または種間クオラムセンシングシグナルを増大するある種の作用物質(例えば米国特許第7,427,408号参照)は、バイオフィルムの発生および/または増殖を制御するのに寄与する。例示的作用物質は、例として、組み合わせまたは別個での、N-(3-オキソドデカノイル)-L-ホモセリンラクトン(OdDHL)遮断化合物およびN-ブチリル-L-ホモセリンラクトン(BHL)類似体が挙げられる(例えば、米国特許第6,455,031号参照)。微粒子BT化合物および少なくとも1種の抗バイオフィルム剤を含む口内衛生組成物を、細菌バイオフィルムの崩壊および阻害のため、ならびに歯周病の処置のために局所的に送達することができる(例えば、例えば、米国特許第6,726,898号参照)。
【0152】
抗バイオフィルム剤としての微粒子BT化合物の有効性は、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系を加熱することにより微粒子BT化合物が適用される当該送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系を加熱することによって増強され得る。ある実施形態では、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系は、約37℃~約60℃または約37℃~約100℃に加熱される。他の実施形態では、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系は、約45℃~約50℃;約50℃~約55℃;約55℃~約60℃;約60℃~約70℃;約70℃~約80℃;約80℃~約90℃;または約90℃~約100℃に加熱される。特定の実施形態では、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系は、約37℃に加熱される。別の実施形態では、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系は55℃に加熱される。当業者に理解されるように、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系が加熱されている時間の長さは、適用される温度によって変わる。例えば、同一抗菌作用を達成するために必要とされる時間の長さは、高温に加熱される場合に必要とされるよりも、送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系が低温に加熱される場合のほうが長い。各温度での送水管、水送達ビヒクルまたは水道管系の曝露のための適切な時間の長さの決定は、当業者により容易に決定され得る。
【0153】
微粒子BT化合物(または微粒子BT化合物を含む組成物)は、バイオフィルムの発生を低減するかまたは防止するために、他の療法と連係して用いられ得る。例として、微粒子BT化合物は、本明細書中に記載され、当該技術分野で用いられる酸化性化学物質、歯石除去化合物、バイオフィルム崩壊剤またはフラッシング系と組み合わされ得る。
【0154】
微粒子ビスマス-チオールを含む組成物ならび歯修復のための使用 別の実施形態では、微粒子BT化合物を含む組成物、ならびに歯科用アマルガムおよび微粒子BT化合物ならびにむし歯の防止および/または処置に用いるための歯科用複合材料が、本明細書中で提供される。一般に、う蝕病変のための唯一の処置は、さらなるう蝕に対する遮断として作用する不活性物質の配置による歯の修復である。歯科用アマルガムおよび歯科用複合材料は、むし歯に冒された歯の修復のために最も一般に用いられる。
【0155】
再発性周辺性う蝕は、特に、歯科用複合材料が修復のために用いられる場合、修復失敗の重要な一因となる。複合材料と歯の組織との間の界面に生息する細菌の存在は、修復失敗の重要な因子であり得る(例えば、Hansel et al, J. Dent. Res. 77: 60-67 (1998)参照)。ポルトガルにおける研究(Casa Pia Study, 1986-1989)では、1,748例の後方修復が確認され、そのうち177例(10.1%)が研究途中で失敗した。再発性周辺性う蝕は、アマルガムおよび複合材料修復における失敗の主な理由で、それぞれ失敗率66%(32/49)および88%(113/129)を占めた(Bernardo et al. JADA 2007; 138: 775-83参照)。複合材料硬化工程の間に起こる収縮である重合収縮は、術後周辺性漏出の主な理由として密接に結びつけられている(例えば、Estefan et al., Gen. Dent. 2003; 51: 506-509参照)。
【0156】
デンチン結合系(DBS)のような修復材料中への抗微生物性化合物および作用物質の混入が試みられてきたが、成功例は限られている。複合材料およびアマルガムならびに抗菌特性を有するその他の修復材料の開発は、続発性むし歯の防止に寄与し得る(例えば、Imazato, Dent. Materials 19: 449 (2003)参照)。本実施形態は、当該技術分野で記載されている本明細書中に記載の修復組成物を用いて処方される抗微生物剤を、本発明に記載の微粒子BT化合物に取り替えて、本明細書中に開示される利点、例えば抗菌活性、溶解性および生物学的利用能、抗バイオフィルム作用、非毒性、抗生物質効力の増強、ならびに本明細書中に記載されるような他の特性を提供することを意図する。
【0157】
ある実施形態では、微粒子BT化合物および歯科用複合材料を含む組成物が提供される。歯科用複合材料は、典型的には、セラミック充填剤を含有する重合可能樹脂基剤を含有する。微粒子BT化合物は、当該技術分野で実行される方法を用いて、当該技術分野で既知の歯科用複合材料のうちのいずれかと組み合わされ得る(例えば、Chicago: Quintessence Publishing Co.) (2002); Powers et al., Dental Materials: Properties and Manipulation (New York: Mosby) (2007); Roeters et al., J. Dent. 32:371-77 (1998)参照)。
【0158】
他の実施形態では、微粒子BT化合物およびアマルガムを含む組成物が提供される。アマルガムは、水銀と1つ以上の他の金属との合金である。ほとんどの歯科用アマルガムは、銀が水銀と反応する主要構成物質であるため、銀アマルガムと呼ばれる。水銀と銀との間の反応の動力学は、臨床使用のために適切でなく、したがって、銀は他の元素との合金として提供される。この合金は、しばしば、歯科用アマルガム合金と呼ばれ、あるいは集合的に、合金は「歯科用アマルガムのための合金」として知られている(例えば、International Standars Organization Standard ISO 1559, Dental Materials - Alloys for Dental Amalgam (1995)参照)。いくつかの型の歯科用アマルガム合金が既知であり、すべてがスズを含み、ほとんどが多少の銅を有し、そして少程度に亜鉛を含む。歯科用アマルガム合金のうちのいくつかは、それ自体、アマルガム化反応を助長するために、少量の水銀を含有する。慣用的歯科用アマルガム合金は、67%ないし74%の銀、25~28%のスズ、そして6%までの銅と2%の亜鉛および3%の水銀を含有する。いわゆる分散型アマルガム合金は、約70%の銀、16%のスズおよび13%の銅を有する。異なる群のアマルガム合金は、30%までの銅を含有し得るが、これは、高銅含量アマルガム合金として既知である。アマルガム合金は、1:1重量比での臨床的配置前に水銀と混合される。したがって完成歯科用アマルガム修復物の水銀含量は、約50重量%である。慣用的歯科用アマルガム合金では、銀対スズの比は、本質的に、ガンマ(γ)相と呼ばれる金属間化合物Ag3Snである結晶構造を生じる。この相の正確なパーセンテージは、アマルガム化反応の動力学、ならびにその結果生じるアマルガム構造の多数の特性を制御する。高銅分散合金では、微細構造は通常は、ガンマ相と共晶性銀-銅相の混合物である。メーカーが違うとアマルガム合金のフォーマットは異なるが、しかしそれらは通常は、球形または不規則形で、約25~35ミクロンの粒子サイズの微細粒子として利用可能である(Scientific Committee on Emerging and Newly Identified Health Risks (SCENIHR), European Commission: Directorate-General, Health & Consumer Protection, May 6, 2008 at Internet site:
ec.europa.eu/health/ph_risk/committees/04_scenihr/docs/scenihr_o_016.pdf.参照)。
【0159】
微粒子BT化合物は、歯、アマルガムまたは複合材料の表面に微粒子BT化合物を投与することにより、虫歯および/または炎症を防止するかまたは処置する(すなわち、それぞれ虫歯および/または炎症の発生または再発の見込みを低減する)ためにも用いられ得る。微粒子BT化合物を含む組成物は、歯および/または歯肉または口腔粘膜の表面に適用される粘膜接着性組成物であり得るし、表面にある程度接着するか、あるいは所望の表面に薬学的有効量の活性成分(単数または複数)を送達する任意の形態であり得る。微粒子BT化合物はさらにまた、歯に適用される組成物から徐々に放出するよう処方され得る。例えば、複合材料は、ゲル(例えば、ヒドロゲル、チオマー、エーロゲルまたはオルガノゲル)または液体であり得る。オルガノゲルは、有機溶媒、リポ酸、植物油または鉱油を含み得る。このようなゲルまたは液体コーティング処方物は、アマルガムまたは複合材料あるいはその他の修復組成物の内外に適用され得る。緩徐放出組成物は、薬学的有効量の微粒子BT化合物を、1、2、3、4、5、6または7日間(1週間)、あるいは2、3、4、5、6、7週間、あるいは1、2、3、4、5または6ヶ月間送達し得る。このような組成物は、当該技術分野で既知の任意数の方法を用いて、当業者により調製され得る。
【0160】
歯の修復のために有用である微粒子BT化合物を含む組成物は、グラスイオノマーセメント;ジャイオマー(フッ化物含有ガラスおよび液体ポリ酸を反応させることにより生成);コンポマー(重合可能なジメタクリレート樹脂およびイオン濾過可能なガラス充填粒子)を含み得る。コンポマーは、フッ化物をさらに含み得る。
【0161】
歯、アマルガムまたは複合材料の表面に適用される微粒子BT化合物を含む組成物は、抗菌作用を増強する1つ以上の他の表面活性剤をさらに含み得る。微粒子BT化合物を含む組成物中に用いるための例示的抗微生物剤としては、例えば、クロルヘキシジン、サンギナリンエキス、メトロニダゾール、第四級アンモニウム化合物(例えば、セチルピリジニウムクロリド);ビスグアニド(例えば、クロルヘキシジンジグルコナート、ヘキセチジン、オクテニジン、アレキシジン);およびハロゲン化ビスフェノール系化合物(例えば、2,2′-メチレンビス-(4-クロロ-6-ブロモフェノール)または他のフェノール系抗菌化合物;アルキルヒドロキシベンゾアート;陽イオン性抗微生物ペプチド;アミノグリコシド;キノロン;リンコサミド;ペニシリン:セファロスポリン;マクロリド;テトラサイクリンならびにその他の抗生物質;タウロリジンまたはタウルルタム、A-dec ICX、コレウス・フォルスコリの精油;銀または銀コロイド抗微生物剤;スズまたは銅を基剤とする抗微生物剤;塩素または臭素酸化剤、マヌカオイル;オレガノ;タイム;ローズマリー;または他のハーブエキス;およびグレープフルーツシードエキス;抗炎症剤または酸化防止剤、例えばイブプロフェン、フルルビプロフェン、アスピリン、インドメタシン、アロエベラ、ターメリック、オリーブの葉の抽出物、クローブ、パンテノール、レチノール、オメガ-3脂肪酸、ガンマリノレン酸(GLA)、緑茶、ショウガ、グレープシード等が挙げられる。
【0162】
組成物は、1つ以上の製薬上許容可能な担体、例えばデンプン、スクロース、水または水/アルコール系、DMSO等もさらに含み得る。組成物は、界面活性剤、例えば陰イオン性、非イオン性、陽イオン性および双性イオン性または両性界面活性剤も含み得るし、あるいは植物材料由来のサポニンを含み得る(例えば、米国特許第6,485,711号参照)。口腔使用のための組成物のpHおよびイオン強度を緩衝するための緩衝液および塩も含まれ得る。含まれ得るその他の任意の成分は、漂白剤、例えば、ペルオキシ化合物;ペルオキシ二リン酸カリウム;発泡系、例えば、重炭酸ナトリウム/クエン酸系等である。
【0163】
微粒子ビスマス-チオールを含む組成物ならびに口腔衛生のためのそして口腔の炎症および感染を処置するための使用
別の実施形態において、微粒子BT化合物を含む組成物が、経口使用のために配合され、口内の微生物発育を予防または低減するため、そして口腔の微生物感染および炎症を予防および/または処置するための方法において用いてもよい。それゆえこれらの組成物は、歯垢、口臭、歯周病、歯肉炎、および口の他の感染を予防または処置するのに(即ち、それらの発症を低下もしくは阻害する、また発生もしくは再発の尤度を低下させるのに)有用である。微粒子BT化合物を含む経口組成物は、バイオフィルムの発生を予防および/もしくは制御する(即ち、緩徐にする、遅延する、阻害する)、バイオフィルムを崩壊させる、または口内表面、詳細には歯もしくは歯茎上に存在するバイオフィルムの量を減少させるのにも有用となりうる。
【0164】
閉じ込められた食物粒子、劣悪な口内衛生および劣悪な口内健康、ならびに総義歯の不適切な洗浄は、歯、歯茎周辺、および舌上の微生物発育を促進する可能性がある。微生物の継続的な発育および虫歯の存在は、口臭、歯垢(即ち、微生物のコロニー形成により形成されたバイオフィルム)、歯肉炎、および炎症をもたらす場合がある。適切な口内ケア(例えば、歯磨き、フロッシング)が行われていない場合、より重症の感染、例えば歯周病および顎の感染が、結果として起こりうる。
【0165】
良好な口内衛生は、口内健康だけでなく、複数の慢性状態の予防にとっても重要である。口内の細菌発育を制御することは、心臓疾患のリスク低下、記憶の維持、ならびに身体の他の領域での感染および炎症のリスク低下を支援することができる。糖尿病の人々は、重度の歯茎問題を発症するリスクが大きく、良好な口内健康を維持することにより歯肉炎のリスクを低下させることが、血糖値制御の一助となりうる。妊婦は、歯肉炎に見舞われる可能性が高く、幾つかの研究で、妊婦における歯茎疾患と、早産で出生時低体重児の分娩との関連性が、示唆されている。
【0166】
細菌は、歯周病における主要な病因物質である。500を超える菌株が、歯垢において見出される場合がある(Kroes et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:14547-52(1999))。細菌は、歯の表面、歯肉の上皮、および口腔の環境で、バイオフィルムとして生き残るように進化したが、それが歯周炎処置を困難にする原因である。そのような感染を処置するのに現在用いられている殺菌剤および抗生物質は、多くの場合、問題のある生物体の全てを殺傷するのではない。特定の菌種に対して無効となる薬剤を使用すると、耐性菌種の増殖をもたらす場合がある。その上、これらの薬剤は、好ましくない副作用、そのようなアレルギー反応、炎症、および歯の変色を誘発する場合がある。
【0167】
歯の細菌性歯垢は、歯の表面、修復物、補綴に頑固に付着するバイオフィルムである。口内のバイオフィルムを制御する主な手段は、機械的洗浄(即ち、歯磨き、フロッシングなど)による。そのような洗浄を受けなかった場合、その後2日以内に、歯の表面が主としてストレプトコッカス属である通性グラム陽性球菌により主に着色される。細菌は、表面への細菌固定を助けて付着された細菌を保護する、細胞外粘液層を分泌する。歯の表面が付着された細菌で覆われると、ミクロコロニー形成が開始する。バイオフィルムは、新しい細菌の付着よりもむしろ、主として粘着した細菌の細胞分裂により成長する。細菌が形成する歯垢の倍加時間は、初期の発達時は急速であり、より成熟したバイオフィルムでは緩徐である。
【0168】
既に菌膜に付着した細菌に生着菌が引き続き粘着すると、共凝集が起こる。共凝集の結果、互いにつながった異なる細菌の複合配列(complex array)が形成される。中断されずに歯垢が形成された2、3日後に、歯肉縁が炎症を起こして腫脹するようになる。炎症により、深い歯肉溝が形成する場合がある。バイオフィルムは、この歯肉下の領域へ拡大し、この防御された環境で増殖し、成熟した歯肉下歯垢バイオフィルムが形成される。バイオフィルムが、大部分がグラム陽性菌で構成されたものからグラム陰性嫌気細菌を含むものに変化するまでは、歯肉の炎症は認められない。主にグラム陰性嫌気性細菌で構成された歯肉下細菌ミクロコロニーが、歯肉縁上の歯垢形成が開始した後、3~12週間の間に歯肉溝に定着するようになる。現在、歯周病原の疑いがあるほとんどの菌種が、嫌気性グラム陰性菌である。
【0169】
バイオフィルム内で防御された細菌ミクロコロニーは、典型的には抗生物質(全身投与)、消毒薬または殺菌剤(局所投与)、および免疫防御に対して耐性である。例えば、浮遊菌を殺傷する抗生物質用量は、バイオフィルム菌を殺傷する用量の1500倍も増加させる必要がある。この高濃度では、これらの抗微生物剤は、患者にも毒性となる傾向がある(例えば、Coghlan 1996, New Scientist 2045:32-6;Elder et al., 1995, Eye 9:102-9参照)。
【0170】
細菌性歯垢バイオフィルムの入念で頻繁な物理的除去が、歯垢を排除および制御する最も効果的な手段である。しかし、ポケット内の歯肉下歯垢は、ブラシ、フロス、または口内すすぎにより届くことができない。それゆえ、歯科衛生士または歯科医による歯肉下の歯根表面の頻繁な歯周デブリドマンが、歯周炎の予防および処置に不可欠な要素となる。
【0171】
特定の実施形態において、微粒子BT化合物は、任意の対象により日常的に用いられうる口内衛生組成物、例えば、練り歯磨き、マウスウォッシュ(即ち、マウスリンス)、口腔ゲル、歯磨き粉、口内スプレー(口内吸入器により分散されるスプレーなど)、食用フィルム、チューインガム、口内スラリー、総義歯洗浄液、総義歯保存液、およびデンタルフロスなどの中に、例えばコーティング上または装置中に、組み入れられていてもよい。微粒子BT化合物は、例えば液体フッ素処置、洗浄組成物、バフ研磨組成物、口内リンス、デンタルフロスおよび浄化用具をはじめとする、主としてデンタルケアの専門家により用いられる口内衛生組成物中に、ならびに装置上に組み入れられてもよい。本発明の実施形態は、当該技術分野で記載された口内衛生組成物と共に配合され、および/または装置上に被覆される抗菌剤を、本明細書に記載された微粒子BT化合物と置換して、抗菌活性、溶解度および生物学的利用度の範囲、抗バイオフィルム効果、非毒性、抗生物質効力の増強、ならびに本明細書に記載された他の特性をはじめとする、本明細書に開示された利点を提供することを企図する。
【0172】
微粒子BT化合物は、微粒子BT化合物を歯の表面に投与することにより、虫歯および/または炎症を予防または処置するために(即ち、それぞれ虫歯および/または炎症の発生または再発の尤度を低下させるために)用いられてもよい。微粒子BT化合物を含む組成物は、歯および/または歯茎または口腔粘膜の表面に適用される粘膜付着性組成物であってもよく、表面にある程度付着する任意の形態、または薬学上効果的な量の有効成分を所望の表面に送達する任意の形態であってもよい。微粒子BT化合物は、歯に適用される組成物から緩徐に放出されるように配合することもできる。例えばその組成物は、ゲル(例えば、ハイドロゲル、チオマー、エアロゲル、またはオルガノゲル)または液体であってもよい。オルガノゲルは、有機溶媒、リポ酸、植物油、または鉱物油を含んでいてもよい。そのようなゲルまたは液体コーティング処方物は、アマルガムまたはコンポジットまたは他の修復組成物の内部または外部に適用してもよい。徐放性組成物が、薬学上効果的な量の微粒子BT化合物を1、2、3、4、5、6、もしくは7日間(1週間)、または2、3、4、5、6、7週間、または1、2、3、4、5、もしくは6ヶ月間送達してもよい。そのような組成物は、当該技術分野で公知の任意の数の方法を用いて、当業者により調製することができる。
【0173】
他の特定の実施形態において、本明細書に記載された通り、微粒子BT化合物および1種以上の追加の抗微生物化合物または薬剤を含む抗微生物性組成物が、経口使用に向けて提供される。特に有用なのは、組み合わせて投与されると、本明細書に記載される通り増強的または相乗的抗微生物効果を有する第二の抗微生物剤を含む組成物である。例としては、増強的抗微生物効果は、微粒子BT化合物を、鉄をキレート化する抗微生物剤と共に投与する際に観察される可能性がある。他の特定の実施形態において、微粒子BT化合物は、抗炎症剤、化合物、小分子、または巨大分子(例えば、ペプチドまたはポリペプチド)と共に配合される。
【0174】
本明細書に記載された微粒子BT化合物のいずれかを、経口使用に向けて配合してもよい。特定の実施形態において、疎水性チオール(例えば、チオクロロフェノール)を用いて調製される微粒子BT化合物を用いてもよく、それは疎水性の低いBT化合物よりも歯および口の組織に付着する能力を大きく示す場合がある。モル比1:2(ビスマス対チオール)を有するものなど、正味の負電荷を有するBT化合物が、好適な付着性を有する場合がある。
【0175】
微粒子BT化合物を含む口内衛生組成物は、1種以上の有効成分および/または1種以上の経口的に適した賦形剤もしくは担体を更に含んでいてもよい。一実施形態において、口内衛生組成物は、重曹または他のアルカリ化合物もしくは物質を更に含んでいてもよい。重曹の化学的および物理的特性により、それは、洗浄、脱臭、および緩衝をはじめとする広範囲の適用例を有する。重曹は、臭気を遮蔽または吸収するというよりむしろ化学的に中和する。重曹は、微粒子BT化合物と、粉末混合物として組み合わせることができ、または本明細書に記載された歯磨き粉、ゲル、ペースト、および液体のいずれか1つに溶解もしくは懸濁させることができる。他の実施形態において、微粒子BT化合物は、所望のアルカリpHを保持する一助となり、洗浄および脱臭特性も有する他のアルカリ金属重炭酸塩または炭酸塩物質(例えば、重炭酸カリウムまたは炭酸カルシウム)と組み合わせることができる。
【0176】
微粒子BT化合物を含む口内衛生組成物は、以下の成分の1種以上を更に含んでいてもよい。
抗微生物剤:例えば、クロルヘキシジン:サンギナリンエキス、メトロニダゾール、第四級アンモニウム化合物(例えば、セチルピリジニウムクロリド);ビスグアニド(例えば、クロルヘキシジンジグルコナート、ヘキセチジン、オクテニジン、アレキシジン);ハロゲン化ビスフェノール系化合物(例えば、2,2′-メチレンビス-(4-クロロ-6-ブロモフェノール)または他のフェノール系抗菌化合物;アルキルヒドロキシベンゾアート;陽イオン性抗微生物ペプチド;アミノグリコシド;キノロン;リンコサミド;ペニシリン:セファロスポリン;マクロリド;テトラサイクリン;当該技術分野で公知の他の抗生物質;コレウス・フォルスコリの精油;銀または銀コロイド抗微生物剤;スズまたは銅を基剤とする抗微生物剤;マヌカオイル;オレガノ;タイム;ローズマリー;または他のハーブエキス;およびグレープフルーツシードエキス。
抗炎症剤または抗酸化剤:例えば、イブプロフェン、フルルビプロフェン、アスピリン、インドメタシン、アロエベラ、ターメリック、オリーブリーフエキス、クローブ、パンテノール、レチノール、ω-3脂肪酸、γ-リノレン酸(GLA)、緑茶、生姜、グレープシードなど。虫歯予防剤:例えば、フッ化ナトリウムおよびフッ化第一スズ、フッ化アミン、モノフルオロリン酸ナトリウム、トリメタリン酸ナトリウム、クエン酸亜鉛または他の亜鉛剤、およびカゼイン。プラーク緩衝液:例えば、尿素、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、およびポリアクリル酸ストロンチウム。ビタミン:例えば、ビタミンA、CおよびE。植物エキス。脱感作剤:例えば、クエン酸カリウム、塩化カリウム、酒石酸カリウム、重炭酸カリウム、シュウ酸カリウム、硝酸カリウム、およびストロンチウム塩。歯石防止剤:例えば、アルカリ金属ピロリン酸塩、次亜リン酸塩含有ポリマー、有機ホスホン酸塩およびホスホクエン酸塩など。生体分子:例えば、バクテリオシン、バクテリオファージ、抗体、酵素など。着香剤:例えば、ペパーミントおよびスペアミントオイル、ウイキョウ、シナモンなど。タンパク質性材料:例えば、コラーゲン。防腐剤。不透明化剤。着色剤。pH調整剤。甘味剤。薬学的に許容しうる担体:例えば、デンプン、スクロース、水または水/アルコール系など。界面活性剤:例えば、陰イオン性、非イオン性、陽イオン性および双性イオン性または両性界面活性剤、植物材料由来のサポニン(例えば、米国特許第6,485,711号参照)。粒子研磨剤:例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、トリメタリン酸塩、不溶性ヘキサメタリン酸塩、凝集粒子研磨剤、チョーク、微粉砕性天然チョークなど。保湿剤:例えば、グリセロール、ソルビトール、プロピレングリコール、キシリトール、ラクチトールなど。結合剤および増粘剤:例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol(登録商標))、キサンタンガム、アラビアガム、合成ポリマー(例えば、ポリアクリラートおよびカルボキシビニルポリマー、例えばCarbopol(登録商標))。抗微生物剤などの有効成分の送達を向上させるポリマー化合物。オーラルケア組成物のpHおよびイオン強度を緩衝する緩衝剤および塩。漂白剤:例えば、ペルオキシ化合物(例えば、ペルオキシ二リン酸カリウム)。発泡系:例えば、重炭酸ナトリウム/クエン酸系。変色系。特定の実施形態において、研磨剤は、シリカまたは微粉砕天然チョークである。
【0177】
練り歯磨きとして使用されるために配合された微粒子BT化合物を含む口内衛生組成物は、吸湿剤(例えば、グリセロールまたはソルビトール)、界面活性剤、結合剤、および/または着香剤を更に含んでいてもよい。練り歯磨きは、甘味剤、白色化剤、防腐剤、および抗微生物剤を含んでいてもよい。練り歯磨きおよび他の経口使用に向けた組成物のpHは、典型的にはpH5.5~8.5である。特定の実施形態において、練り歯磨きをはじめとする口内衛生組成物は、7~7.5、7.5~8、8~8.5、または8.5~9のpHを有し、微粒子BT化合物の抗微生物活性を増強することができる。本明細書に記載された練り歯磨き組成物は、チョーク、リン酸二カルシウム二水和物、ソルビトール、水、水和酸化アルミニウム、沈降シリカ、ラウリル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、着香剤、モノオレイン酸ソルビタン、サッカリンナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン。所望なら、1種以上の着色剤、例えばFD&C Blueを用いることができる。練り歯磨き処方物に含まれうる他の適切な成分は、当該技術分野において、例えば米国特許第5,560,517号に記載されている。
【0178】
特定の一実施形態において、口内衛生組成物は、マウススプレーであり、微粒子BT化合物、アルカリ緩衝剤(例えば、重炭酸カリウム)、アルコール、甘味成分、および着香剤系を含む。着香剤系は、以下のものを1種以上有していてもよい:着香剤、吸湿剤、界面活性剤、甘味剤、および着色剤(例えば、米国特許第6,579,513号参照)。本明細書に記載され、口内衛生組成物中での使用に関する技術分野で公知である界面活性剤は、陰イオン性、非イオン性または両性であってもよい。
【0179】
別の実施形態において、微粒子BT含有口内衛生組成物は、重症の感染を処置するための練り歯磨き、歯磨き用ゲル、およびマウスウォッシュなどへの含有に有用であることが当該技術分野において記載されたタウロリジンおよびタウルルタムなどの更なる有効成分と組み合わせてもよい(例えば、英国特許出願第GB1557163号、米国特許第6,488,912号参照)。本明細書に記載された通り、微粒子BTは、微粒子BTと組み合わせると、その組み合わせが付加または相乗効果を有する、1種以上の追加的抗微生物剤と組み合わせることもできる。
【0180】
更に別の特定の実施形態において、本明細書に記載された口内衛生組成物は、バイオフィルム発生を制御するため、バイオフィルムを崩壊させるため、またはバイオフィルムの量を減少させるための少なくとも1種のまたはそれを超える抗バイオフィルム剤を更に含んでいてもよい。当該技術分野で理解される通り、種間クオラムセンシングが、バイオフィルムの形成に関係する。LuxS依存性経路または種間クオラムセンシングシグナルを増加させる特定の薬剤は(例えば、米国特許第7,427,408号参照)、バイオフィルムの発生および/または増殖の制御に寄与する。例示的薬剤としては、例えば、組み合わせまたは別個での、N-(3-オキソドデカノイル)-L-ホモセリンラクトン(OdDHL)遮断化合物およびN-ブチリル-L-ホモセリンラクトン(BHL)類似体が挙げられる(例えば、米国特許第6,455,031号参照)。微粒子BT化合物および少なくとも1種の抗バイオフィルム剤を含む口内衛生組成物を、細菌バイオフィルムの崩壊および阻害、ならびに歯周病の処置のための局所に送達することができる(例えば、例えば、米国特許第6,726,898号参照)。
【0181】
本明細書に記載された口内衛生組成物は、実質的な抗微生物作用を通常の歯磨き、口すすぎ、またはフロッシングに必要な時間に実行する、十分な量の微粒子BT化合物を含有していてもよい。本明細書に記載された通り、微粒子BT化合物は、口内表面(例えば、歯、アマルガム、コンポジット、粘膜、歯茎)に保持されてもよい。例えば、ブラッシング、すすぎ、フロッシングの完了後に歯および歯茎に保持された微粒子BT化合物が、長期間の抗バイオフィルムおよび抗炎症作用を提供し続けてもよい。
【0182】
他の実施形態において、微粒子BT化合物は、粘膜、歯および修復物表面上の微粒子BT化合物の保持に寄与する粘膜付着性ポリマーまたは他の薬剤から緩徐に放出される。微粒子BT化合物は、安定した粘性粘膜付着性水性組成物へ添加されてもよく、それが粘膜の潰瘍性、炎症性、および/もしくはびらん性障害の予防および処置、ならびに/または局所処置のための薬学的活性化合物の粘膜表面への送達もしくは全身循環への移入に用いられてもよい(例えば、米国特許第7,547,433号参照)。
【0183】
別の実施形態において、微粒子BT化合物を含む口内衛生組成物は、歯垢除去を強化しうるオリーブオイルを更に含む。口内衛生を目的とした製品、例えば練り歯磨き、マウスウォッシュ、スプレー、口内吸入器、またはチューインガムの中でのオリーブオイルの使用は、細菌性歯垢の排除もしくは低下(減少)および/または口腔内に存在する細菌数の排除または低下(減少)に寄与し、それにより歯の疾患(例えば、う歯、歯周病)および口臭の発生低下を実現することができる(例えば、米国特許第7,074,391号参照)。
【0184】
他の実施形態において、微粒子BT化合物を含む口内衛生組成物は、口内の局所適用のための粘膜用殺菌調製物を更に含んでいてもよい。口内衛生組成物は、舌および喉を洗浄するのに有用な水性スラリーを更に含んでいてもよい(例えば、米国特許第6,861,049号)。更に別の実施形態において、微粒子BT化合物を含む口内衛生組成物は、窩洞(虫歯)の形成を予防する(即ち、発生の尤度を低下させる)または窩洞の数を減少させるのに用いられる少なくとも1種のミントを更に含んでいてもよい。CaviStat(登録商標)(Ortek Therapeutics, Inc., Roslyn Heights, NY)と呼ばれるそのようなミントの1種は、アルギニンおよびカルシウムを含有し、酸性pHの中和を助け、エナメル質表面へのカルシウム付着を促進する。微粒子BT化合物を含む口内衛生組成物におけるミントの含有は、こうしてpHを上昇させて、口内表面への微粒子BT化合物の付着を増強することができる。
【0185】
歯科および整形外科的使用のために配合された微粒子ビスマス-チオールを含む接着性組成物別の実施形態では、微粒子BT化合物を含む組成物は、骨または関節補填材(人工関節)上の、あるいは骨または関節補填材(人工関節)に隣接する組織および骨格構造の微生物増殖を防止するかまたは低減するための方法で用いるために処方される。特定の実施形態において、整形外科的手順(例えば、整形外科手術、整形外科治療、関節形成術(二段階関節形成術を含む)、歯科矯正治療)により生じた微生物感染および炎症を予防および/または処置するための微粒子BT化合物を含む組成物を使用する方法が、提供される。ある実施形態では、組成物は、微粒子BT化合物および骨セメントを含み、そして他のある実施形態では、微粒子BT化合物および歯科用セメントを含む。したがって、これらの組成物は、骨格および支持構造(即ち、骨、関節、筋肉、靭帯、腱)の微生物感染、例えば骨髄炎を予防および/または処置する(即ち、その発症を低下または阻害する、その発生または再発の尤度を低下させる)のに有用である。微粒子BT化合物および骨セメントまたは歯科用セメントを含む本明細書に記載された組成物は、バイオフィルムの発生を予防および/もしくは制御する(即ち、緩徐化、遅延、阻害する)、バイオフィルムを崩壊させる、あるいは関節内、または関節、骨、靭帯、腱もしくは歯、あるいは置換関節、骨(部分的または全体)、靭帯、腱または歯の表面に存在するバイオフィルムの量を減少させるのにも有用となりうる。
【0186】
本明細書中に記載される、そして当該技術分野で既知のセメントは、材料を一緒に結合し、そして硬化し得る結合剤物質である。このような物質は、組織を一緒に結合し得るし、あるいは補填または人工装置(例えば、補填用の関節、骨または歯)を隣接組織に結合し得る。骨セメントとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、リン酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムが挙げられる。リン酸カルシウムの形態は、移植材料を用いずに、十分に迅速におよび/または適切に治癒し得ない骨の亀裂および切断を処置するための「置換骨」として用いられる。骨セメント(例えばリン酸カルシウム)および微粒子BT化合物を含む組成物は、海綿質骨との機械的一体性を提供することにより、海綿質骨欠損を処置するためにも用いられ得る。セメントは、再吸収され得るし、または移植部位で保持され得る。
【0187】
特定の実施形態では、骨セメントとして有用である本明細書中に記載される組成物は、BT化合物または微粒子BT化合物、ならびに骨セメントとして用いるのに適したリン酸カルシウムまたはリン酸マグネシウムの調製物を含む。リン酸カルシウムまたは硫酸マグネシウムの調製物も、それぞれ、リン酸カルシウム含有骨セメントまたはリン酸カルシウム骨セメント、あるいはリン酸マグネシウム含有骨セメントまたはリン酸マグネシウム骨セメントとも、本明細書中で呼ばれ得る。リン酸カルシウムは、当該技術分野で既知で且つ用いられるいくつかの形態のうちのいずれか1つで組成物中に含まれ、非限定例としては、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2);ブルシャイト(CaHPO4 *2H2O);モネタイト(CaHPO4);カルシウム欠乏性ヒドロキシアパタイト(CDHA、Cag(PO4)5HPO4OH);カルシウム硫酸塩/リン酸塩(CSPC)(例えば、Hu et al., J. Mater. Sci. Mater. Med. 2009 October 13, e-publication ahead of print参照)セメントが挙げられる。当該技術分野で用いられるリン酸マグネシウムは、ストルバイト(MgNH4PO4 *6H2O)セメントとも呼ばれる(例えば、Grosshardt et al., Tissue Eng. Part A, 2010 Jul 30, e-pub ahead of print参照;例えば、Bohner et al., J. Pharm. Sci. 86:565-72; (1997); Fulmer et al., 3:299-305 (1992); Lobenhoffer et al., J. Orthopaedic Trauma 16:143-49 (2002); Lee et al., J. Carniofac. Surg. 21:1084-88 (2010)も参照)。特定の一実施形態では、微粒子BT化合物およびリン酸カルシウム含有骨セメントを含む本明細書中に記載される組成物は、リン酸カルシウムの形態としてカルシウム硫酸塩/リン酸塩(CSPC)を含む(例えば、Hu et al., J. Mater. Sci. Mater. Med. 2009 October 13, e-publication ahead of print参照)。他のある実施形態では、微粒子BT化合物およびリン酸カルシウムまたはリン酸マグネシウムセメントを含む組成物は、キトサン(甲殻類細胞からの生体ポリマー);少なくとも1つ以上の抗生物質または抗微生物剤;および/または少なくとも1つ以上の抗炎症剤をさらに含み得る。
【0188】
骨セメントは、薬剤および作用物質の放出のために当該技術分野で用いられれきた。特定のある実施形態では、リン酸カルシウムセメントは、少なくとも一部は、治療的使用のための作用物質(例えば抗微生物剤)を封入するヒドロキシアパタイト微小球としての形態であり得る(例えば米国特許第6,730,324号参照)。微小球を含むこのようなセメントは、微小球内に含まれる作用物質の緩徐放出のために有用である。本明細書中で意図されるのは、微粒子BT化合物を含むリン酸カルシウム微小球を含む組成物である。
【0189】
微粒子BT化合物およびPMMA骨セメントを含む組成物も、本明細書中で提供される。PMMA骨セメントは、抗微生物活性を有する他の作用物質とともにPMMAを処方するために、当該技術分野で記載される方法に従って、微粒子BT化合物とともに処方され得る(例えば欧州特許出願EP1649874号参照)。
【0190】
微粒子BT化合物および歯科用セメント(すなわち歯科用接着剤)を含む組成物も、本明細書中で提供され、この組成物は、歯または歯肉の微生物感染を抑制し、防止しまたは処置するために用いられ得る。歯科用セメントは、以下の化合物または組成物のうちのいずれか1つを含み得る:リン酸亜鉛、グラスイオノマー、アルファ-リン酸三カルシウム(α-TCP)、アルキルメタクリレート(例えば米国特許第6,071,528号参照);酸化ビスマス(例えば、Bueno et al., Oral Surg. Oral Med. Oral Pathol. Oral Radiol. Endod. 107: e65-69 (2009)参照);ならびに無機三酸化物集合体(MTA)(例えば、Hwang et al., Oral Surg. Oral Med. Oral Pathol. Oral Radiol. Endod. 107: e96-102 (2009)参照)。
【0191】
本発明の実施形態は、当該技術分野で記載されている歯科用セメントまたは骨セメントを用いて処方される抗微生物剤を、本発明に記載の微粒子BT化合物に取り替えて、本明細書中に開示される利点、例えば抗微生物活性、溶解性および生物学的利用能、抗バイオフィルム作用、非毒性、抗生物質効力の増強、ならびに本明細書中に記載されるような他の特性を提供することを意図する。骨および歯科用セメントは、当業界で記載される方法に従って、微粒子BT化合物および1つ以上の付加的構成成分を用いて処方され得る(例えば、米国特許出願第2006/0205838号;Alt et al., Antimicrob. Agents Chemother. 48:4-84-88 (2004);Bohner et al., supra; Bueno et al., supra; Chuard et al., Antimicrob. Agents Chemother. 37:625-32 (1993);J. Orthopaed. Res. 27:1008-15 (2009);De Lalla, J. Chemother. 13:48-53 (2001);Domenico et al., Peptides 25:2047-53 (2004);Widmer et al., Antimicrob. Agents Chemother. 35:741-46 (1991)).
参照)。
【0192】
骨セメントまたは歯科用セメントを含む微粒子BT化合物含有組成物中に用いられるBT化合物の量は、約10~500μgBT/それぞれのセメント1gの範囲であり得る。微粒子BT化合物は、単独で、または少なくとも1つの付加的構成成分と組合せて、骨および歯科用セメント中に現在用いられている抗生物質を上回る本明細書中に記載されるような利点を提供する。微粒子BT化合物および骨セメント(例えば、リン酸カルシウム)または歯科用セメントを含む本明細書中に記載される組成物は、1つ以上の付加的抗微生物化合物または抗微生物剤をさらに含み得る。特に有用なのは、微粒子BT化合物、ならびに組合せた場合に、本明細書中に記載されるような増強されたまたは相乗的抗微生物作用を有する第二抗微生物剤を含む組成物である。付加的一例として、増強された抗微生物作用は、微粒子BT化合物が、鉄をキレート化する抗微生物剤と一緒に投与される場合に観察され得る。他の特定の実施形態では、微粒子BT化合物は、抗炎症剤、化合物、小分子または高分子物質(例えば、ペプチドまたはポリペプチド)とともに処方される。
【0193】
微粒子BT化合物および本明細書中に記載されるような骨セメントを含む組成物は、骨折、癒合、骨切断術または置換関節を付着し、安定化し、または固定するために用いられる金属製品(例えば、ねじ、プレート、ステープル、ピンおよびワイヤ等)を被覆するためにも用いられ得る。微粒子BT化合物および本明細書中に記載されるような歯科用セメントを含む組成物は、歯髄、歯冠(tooth cap)、内層、歯、あるいは歯の中の歯科用充填または修復組成物等を被覆するために用いられ得る。これらの組成物は、骨および/または関節関連金属製品の表面に固定し、接着するよう適用され、またはいくつかの方法で接触して配置され得るコーティングに処方され得る。特定実施形態では、コーティングは、微粒子BT化合物およびリン酸カルシウムまたはリン酸マグネシウム骨セメントを含む。微粒子BT化合物およびリン酸カルシウムまたはリン酸マグネシウムは、当該技術分野で実行される方法に従って、骨金属製品に適用するために一緒に処方される。例えば、微粒子BT化合物および骨セメント(例えば、リン酸カルシウムまたはリン酸マグネシウム骨セメント)を含む組成物は、金属製品への適用のための液体、ゲル、ペーストまたはスプレー(例えばプラズマスプレーを含む熱スプレー)の形態であり得る。微粒子BT化合物および骨セメントを含む組成物は、ゲル(例えばヒドロゲル、チオマー、エーロゲルまたはオルガノゲル)または液体であり得る。オルガノゲルは、有機溶媒、リポ酸、植物油または鉱油を含み得る。緩徐放出組成物は、抗菌的有効量の微粒子BT化合物を、1、2、3、4、5、6または7日(1週間)、あるいは2、3、4、5、6、7週間、あるいは1、2、3、4、5または6ヶ月間、送達し得る。放出速度は、少なくとも一部は、セメントの多孔度によって制御され得る(例えば、Bohner et al.、上記、参照)。
【0194】
微粒子BT化合物および骨セメントまたは歯科用セメントを含む組成物は、組合せて投与される場合、増強されたまたは相乗的な抗菌作用(すなわち、付加的作用より大きい)を有する少なくとも1つの他の抗菌剤(すなわち、第二、第三、第四等の抗菌剤)と組合せされ得る。例として、増強化抗菌作用は、微粒子BT化合物が鉄をキレート化する抗菌剤と一緒に投与される場合に観察され得る。特定実施形態では、微粒子BT化合物および骨セメントまたは歯科用セメントを含む組成物は、以下のものから選択される少なくとも1つの他の抗菌剤および/または抗炎症剤と組み合わされ得る:抗菌剤:例えば、クロルヘキシジン;サンギナリン抽出物;メトロニダゾール;第四級アンモニウム化合物(例えば塩化セチルピリジニウム);ビス-グアニド(例えば、クロルヘキシジンジグルコネート、ヘキセチジン、オクテニジン、アレキシジン);ハロゲン化ビスフェノール化合物(例えば、2,2′メチレンビス-(4-クロロ-6-ブロモフェノール)またはその他のフェノール系抗細菌化合物);アルキルヒドロキシベンゾエート;陽イオン性抗菌性ペプチド;アミノグリコシド;キノロン;リンコサミド;ペニシリン:セファロスポリン;マクロリド;テトラサイクリン;当該技術分野で公知の他の抗生物質;コレウス・フォルスコリ精油;銀または銀コロイド抗微生物剤;スズまたは銅を基剤とする抗微生物剤;マヌカオイル;オレガノ;タイム;ローズマリー;または他のハーブエキス;およびグレープフルーツシードエキス。抗炎症剤または抗酸化剤:例えば、イブプロフェン、フルルビプロフェン、アスピリン、インドメタシン、アロエベラ、ターメリック、オリーブリーフエキス、クローブ、パンテノール、レチノール、ω-3脂肪酸、γ-リノレン酸(GLA)、緑茶、生姜、グレープシードなど。特定の実施形態において、微粒子BT化合物および骨セメントまたは歯科用セメントを含む組成物は、クリンダマイシン、バンコマイシン、ダプトマイシン、セファゾリン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、メトロニダゾール、セファクロル、シプロフロキサシンから選択される抗生物質、または他の抗微生物剤、例えば、第四級アンモニウム化合物(例えば、塩化ベンザルコニウム、セチルピリジニウムクロリド)、抗微生物性ゼオライト、アルカリ金属水酸化物、もしくはアルカリ土類金属酸化物をさらに含み得る。その組成物は、任意に、本明細書に記載された1種以上の薬学的に適切な担体(即ち、賦形剤)、界面活性剤、緩衝剤、希釈剤、および塩、および漂白剤を含み得る。抗微生物剤は、本明細書中にそして当該技術分野で記載されるような歯科用セメントおよび骨セメントとともに処方され得る(例えば、Akashi et al., Biomaterials 22: 2713-17 (2001);米国特許第6,071,528号;Alt et al.、上記参照)。
【0195】
異物感染の動物モデルは、微粒子BT化合物および死歌謡セメントまたは骨セメントを含む組成物の抗微生物活性を特性化するために用いられ得る(例えば、Chuard et al., Antimicrob. Agents Chemother. 1993; 37:625-32参照)。これらのモデルにおける抗生物質のin vivo効力は、静止期微生物ならびに外来物質と接着性であるものを殺害する抗微生物剤の能力と相関する(例えば、Widmer et al. J. Infect. Dis. 1990;162:96-102;Widmer et al. Antimicrob Agents Chemother 1991;35:741-6参照;例えばKarchmer. Clin. Infect. Dis. 1998;27:714-6も参照)。
【0196】
非源定例として、そして例証目的だけのために、骨セメントは、75%(2/2)メチルメタクリレートスチレンコポリマー、15%ポリメチルメタクリレート(組成物の取扱いを手助けするため)および10%硫酸バリウム(放射線不透過のため)、ならびに約10~約500μgの微粒子BT化合物/セメント粉末1g(すなわち、0.001~0.05% w/w)中に、微粒子BT化合物を含み得る。他の特定実施形態では、少なくとも1つの付加的抗微生物剤が付加され得る。
【0197】
塗料および塗料コーティングとともに処方される微粒子ビスマス-チオールを含む組成物 他のある実施形態は、生体付着物を低減し、バイオフィルム発生を防止しおよび/または制御し(すなわち、緩慢にし、遅延し、抑制する)、バイオフィルムを崩壊し、あるいは塗装表面に存在するバイオフィルムの量を低減するために、本明細書中に記載される微粒子BT化合物を、塗料中に、または塗料コーティングとして塗料上に組入れることを意図する。微粒子BT化合物を含む本明細書中に記載される組成物は、多数の製品、例えば、医療用装置、整形外科用装置、歯科用装置、工業用装置、電子装置、壁、床、天井、屋根、杭、埠頭、橋脚、導管、パイプラインおよび配管構造物(例えば、取り入れ口スクリーン、冷却塔)、熱交換器、ダムおよび織物、ならびにその他の表面、例えば自動車、列車、飛行機および船、例えば大型船、ボート、潜水艦およびその他の船を含めたすべての型の乗り物の中および上に存在する表面(これらに限定されない)のうちのいずれか1つに適用される塗料または塗料コーティングとともに処方され得る。
【0198】
特定の一実施形態では、本明細書中に記載される組成物および方法は、水に曝露される製品上に形成される生体付着物またはバイオフィルムを防止しおよび/または低減するために有用である。海洋環境における表面上のバイオフィルムの形成は、海洋性構造物上のいくつかの固着性無脊椎動物共同体のコロニー形成および動員に関与する重要な一因であると考えられる(例えば、Siboni et al., FEMS Microbilol Lett 2007; 274: 24-9参照)。大型生物相とこれらの微生物皮膜とのその後の相互作用は、数日または数週間以内に、無脊椎動物および藻類(これらは性体付着物に関連した水力学的邪魔物(drag)のほとんどを占める)の付着および増殖をもたらす(例えば、Schultz, Biofouling 2007; 23: 331-41参照)。表面上の古いバイオフィルムは、支持体の型に関係なく、フジツボ幼虫付着を支持した(例えば、Hunga et al., J Exptl Marine Biol Ecol 2008; 361: 36-41参照)。微フィルは、ホヤ類のファルシア・ニグラ(Phallusia nigra)、多毛類管棲虫のカサネカンザシ(Hydroides elegans)およびフジツボ類のタテジマフジツボ(Balanus amphitrite)における1つ以上の発生段階での接着強度も有意に増大した(例えば、Zardus et al., Biol Bull 2008; 214: 91-8参照)。バイオフィルムは、いくつかの人工表面へのイガイ類のカワホトトギスガイ(Dressena polymorpha)の付着も増強し得る(例えば、Kavouras & Maki. Inverteb Biol 2005; 122: 138-51参照)が、これは、海産食品、発電および製造業に対する、ならびに水および廃水処理設備に対する、数十億ドルでないとしても数億ドルの損益および経費を生じてきており、イガイ類が導入されるエコシステムに有意の損害を引き起こしている。
【0199】
海水、汽水および淡水環境において、生物体は、水中構造物および船の上に集合し、棲みつき、付着し、そして増殖する。このような生物体としては、藻類、真菌およびその他の微生物、ならびに水棲動物、例えばホヤ類、ヒドロ虫類、二枚貝類、コケムシ類、多毛類、海綿類、フジツボ類が挙げられる。構造物の「付着物」として既知のこれらの生物体の存在は、例えば、構造物の重量に付加するか、および/またはその流体力学を妨害し、それによりその作動効率を低減し、腐食されやすさを増大し、当該構造物を分解するかまたは砕くことにより、有害であり得る。
【0200】
生体付着物およびバイオフィルム産生を防止するかまたは低減するために今まで用いられたある種の塗料およびコーティングは、生体付着物およびバイオフィルム形成を抑制する一方で、所望のおよび有益な植物相および動物相に有毒であり得る毒性構成成分を含む。例示的殺生物剤および化学的毒素としては、銅および銅含有化合物(例えば酸化第一銅)、水銀、ヒ素、酸化トリブチルスズ(TBT)、有機スズ(すなわち、付着された1つ以上の炭素基を有するスズ)、ヘキシオ2部ビスフェノール-A-エピクロロヒドリンエポキシ化合物、二機能性グリシジルエーテルエポキシ樹脂、グリシジルエーテルエポキシ、およびバリウムメタボレートエポキシが挙げられる。
【0201】
本発明で記載される微粒子BT化合物は、非毒性代替物を提供し、そして本明細書中に開示される利点、例えば、抗菌活性、溶解性および生物学的利用能の範囲、抗バイオフィルム作用、抗生物質効力の増強、ならびに本明細書中に記載されるような他の特性を提供する。微粒子BT化合物は、塗料および塗料コーティング中の他の抗微生物剤の代わりに置換され、殺生物剤を含む塗料および塗料コーティングを産生することに関して知られている方法を用いて、本明細書中に記載される微粒子BT化合物および方法の一体化によりこれらの塗料および塗料コーティング中に組み入れられ得る(例えば、米国特許第4,596,724号;第4,410,642号;第4,788,302号;第5,470,586号;第6,162,487号;第5,384,176号;米国特許出願公開番号 2007/125703および2009/0197003;Gerhart et al., J. Chem. Ecol. 14:1905-17 (1988);Sears et al., J. Chem. Ecol. 16:791-99 (1990);Ganguli et al., Smart Mater. Struct. 18:104027 (2009); Cao et al., ACS Applied Materials Interfaces 1:494 (2009);Kumar et al., Nature Materials 7:236-41 (2008)参照)。微粒子BT化合物が混入され得る塗料としては、エポキシ、シリコーンまたはアクリルを基材とする塗料が挙げられる。さらに特定の実施形態では、微粒子BT化合物は、海洋での使用および海水への曝露のために処方される塗料中に混入され得るが、この例としては、アルキド樹脂基材、ビチューメン基材、ギルソナイト基材の塗料、塩素化ゴム基材およびエポキシ樹脂基材の塗料が挙げられる。
【0202】
抗微生物剤は、塗料コーティング中に作用物質を組入れることにより制御的に放出され得る。複合材料からの薬剤放出速度の増強方法は、当該技術分野で既知である。複合材料は、天然または合成の、生体吸収性ポリマーマトリックスおよびその中に分散される薬剤粒子相を含み得る(例えば、米国特許第7,419,681号および第5,028,664号参照;米国特許出願第2009/0043388号も参照)。例として、薬剤溶出塗料コーティング組成物は、改質された生物学的に活性な結合剤中に分散される少なくとも1つの微粒子BT化合物を含み得る。
【0203】
微粒子BT化合物は、塗装表面に適用される微粒子BT化合物を含む組成物から徐々に放出するようにも処方され得る。微粒子BT化合物は、塗装構造物または製品の表面に固定し、接着するよう適用され、またはいくつかの方法で接触して配置され得るコーティング(例えば、エポキシコーティング)中にも混入され得る。微粒子BT化合物は、このような組成物から徐々に放出され得る。微粒子BT化合物を含む緩徐放出組成物は、ゲル(例えばヒドロゲル、チオマー、エーロゲルまたはオルガノゲル)または液体であり得る。オルガノゲルは、有機溶媒、リポ酸、植物油または鉱油を含み得る。緩徐放出組成物は、抗菌的有効量の微粒子BT化合物を、1、2、3、4、5、6または7日(1週間)、あるいは2、3、4、5、6、7週間、あるいは1、2、3、4、5または6ヶ月間、送達し得る。
【0204】
当該技術分野で用いられ、本明細書中に記載される微粒子BT化合物が一緒に処方され得る他のコーティングとしては、多糖、例えば多価金属陽イオンと可逆的に架橋される多糖マトリックス(例えば、米国特許出願第2009/0202610号参照);チタンナノチューブ;ナノ構造化表面;生体適合性デキストラン被覆ナノセリア(pH依存性酸化防止特性を有する);ポリソルフォンブロックポリマー;ならびにその他の生分解性コーティング(例えば、米国特許第6,162,487号も参照)が挙げられる。本明細書中で意図される他のコーティングは、微粒子BT化合物を、工業で用いられる腐食防止および付着物防止抗菌コーティングとともに処方するもので、非限定例としては、カルナウバ蝋フルオロポリマー、キシラン(登録商標)、PTFEおよびモリブデン材料が挙げられる。
【0205】
塗料または塗料コーティング内の微粒子BT化合物濃度(重量で)は、塗料または塗料コーティングの意図される使用および所望の特性によって、例えば、約0.001%という低い値から約0.1%まで変わり得る。塗料または塗料コーティング中に混入される微粒子BT化合物(または微粒子BT化合物を含む組成物)は、組合せて投与されると本明細書中に記載されるような増強化または相乗的抗微生物作用を有する、少なくとも1つの他の抗微生物剤(すなわち第二、第三、第四、等の抗微生物剤)と組み合わされ得る。非限定例として、微粒子BT化合物を含む組成物中に含まれ得る抗微生物剤としては、クロルヘキシジン;サンギナリンエキス;メトロニダゾール;第四級アンモニウム化合物(例えば、セチルピリジニウムクロリド);ビスグアニド(例えば、クロルヘキシジンジグルコナート、ヘキセチジン、オクテニジン、アレキシジン);ハロゲン化ビスフェノール系化合物(例えば、2,2′-メチレンビス-(4-クロロ-6-ブロモフェノール)または他のフェノール系抗菌化合物;アルキルヒドロキシベンゾエート;陽イオン性抗微生物ペプチド;アミノグリコシド;キノロン;リンコサミド;ペニシリン:セファロスポリン;マクロリド;テトラサイクリン;当該技術分野で既知のその他の抗生物質;コレウス・フォルスコリの精油;銀または銀コロイド抗微生物剤;スズまたは銅を基剤とする抗微生物剤;マヌカオイル;オレガノ;タイム;ローズマリー;または他のハーブエキス;およびグレープフルーツシードエキスが挙げられる。組成物は、さらに任意に、上記のおよび本明細書中に記載される界面活性剤、希釈剤または担体、緩衝剤および/または漂白剤も含み得る。
【0206】
コンクリートおよびセメント化合物とともに処方される微粒子ビスマス-チオールを含む組成物 他のある実施形態は、バイオフィルムの発生を予防および/もしくは制御する(即ち、緩徐にする、遅延する、阻害する)、バイオフィルムを崩壊させる、あるいはコンクリート表面に存在するバイオフィルムの量を低減するために、工業用セメント中に、ならびにコンクリート、モルタルおよびグラウト(コンクリート、モルタルおよびグラウトのコーティングを含む)中または上に、本明細書中に記載される微粒子BT化合物を混入することを意図する。コンクリート構造物の上および内部で増殖する微生物は、製品の有用な寿命を低減し、コンクリート表面に存在する微生物に曝露される動物およびヒトに対する健康危害を有し得る(例えば、Idachaba et al., Waste Manag. Res. 19:284-91 (2001);Idachaba et al., J. Hazard. Mater. 90:279-95 (2002);Tazaki, Canadian Mineralogist 30:431 -34 (1992)参照)。
【0207】
本明細書中で、ならびに当該技術分野で用いられる場合、セメントは、コンクリートの骨材を結合するために用いられる乾燥粉末物質(典型的には、付加的物質も含有し得る石灰石)を指す。当該技術分野で記載される例示的セメントは、普通ポルトランドセメント、高炉セメント、メーソンリーセメント、石灰くずセメントおよびアルミン酸カルシウムセメントと呼ばれる。水および/または添加剤の付加時、セメント混合物は、特に骨材が付加されている場合、コンクリートと呼ばれる。コンクリートは、骨材(例えば、砂利および砂)、セメントおよび水からなる複合材料である。建築に用いられるセメントは、水硬性または非水硬性として特性化される。水硬性セメントは、典型的には、湿潤気候におけるレンガ建造物を仕上げるために;海水と接触する港湾建造物の石造建築のために用いられる。
【0208】
微粒子BT化合物を含む本明細書中に記載される組成物は、コンクリート構造物、例えば橋、建物、パイプ、高架高速道路、トンネル、車庫、海底石油採掘台、埠頭、ダム壁、水系およびパイプライン、床、調理台、歩道、車道、積み降ろし用埠頭、スケートボード場構造物、ならびに放射性廃棄物一次保存用構造物のために用いられるセメントを被覆するために用いられ得るし、あるいはそれと混合され得る。本明細書中に記載される微粒子BT化合物は、当該技術分野で記載されるようなセメント中に混入され得る(例えば米国特許第7,507,281号参照)。セメントまたはコンクリートのアルカリ度も、微粒子BT化合物の抗微生物作用を増強し得る。
【0209】
セメントは、酸化細菌、例えば硫黄酸化細菌(Thiobacillus thiooxidans)によっても分解され得る。例証による非限定例として、ビスマスチオール化合物BisEDT(しかしここで記載される微粒子BT化合物ではない)は、廃棄物および放射性廃棄物処分システムのために用いられるコンクリート中の硫黄酸化細菌の増殖を遅延することが示されている。コンクリート中のBisEDTの有効抗細菌範囲は、10~500μg/gまたは0.001~0.05%であることが示されている。より高いBisEDTレベルは、コンクリート強度を妨害した。他の化合物、例えばBisPYRは、カビおよび藻類による付着物およびバイオフィルム発生を抑制するために有用であり得る。本発明の実施形態は、ビスマス-チオール化合物およびその他の抗微生物剤を本発明に記載される微粒子BT化合物に取替えて、本明細書中に開示される利点、例えば抗微生物活性、溶解性および生物学的利用能、抗バイオフィルム作用、非毒性、抗生物質効力の増強、ならびに本明細書中に記載されるような他の特性を提供することを意図する。
【0210】
微粒子BT化合物は、ゲル、噴霧、ペースト、液体または粉末あるいは当業者に既知の他の形態として、手動でまたは自動的に、コンクリート表面に導入され得る。特定の実施形態では、微粒子BT化合物は、粉末または液体形態のいずれかで、少なくとも1つの付加的成分と混合され、これは、少なくとも1つの付加的生物学的活性成分および/または生物学的不活性賦形剤を含んで生成物を処方し、コンクリート構造物の中または上に(すなわち、曝露されるコンクリート構造物の表面、特に水に曝露される表面に)、定期的に送達されるかまたは注入される。組成物は、当該技術分野で既知の任意数の方法を用いて、当業者により調製され得る。例として、抗菌的有効量での微粒子BT化合物がDMSOと組合されて、用いられ得る(例えば、DMSO中に1mg/ml微粒子BT化合物)。慣例的使用では、バイオフィルム形成を防止するのに十分であるレベルの微粒子BT化合物が所望される。しかしながら、他の実施形態では、微粒子BT化合物のレベルは、コンクリート表面に存在するバイオフィルムを低減し、除去し、崩壊し、または排除するためにはより高いことがある。
【0211】
微粒子BT化合物はさらにまた、コンクリート構造物の表面に適用される微粒子BT化合物を含む組成物から徐々に放出するよう処方され得る。微粒子BT化合物は、コーティング(例えば、エポキシコーティング)中にも混入され得るが、これは、コンクリート構造物の表面に適用され、固定され、接着されるか、あるいはいくつかの方法では接触するよう配置され得る。微粒子BT化合物は、このような組成物から徐々に放出され得る。微粒子BT化合物を含む緩徐放出組成物は、ゲル(例えばヒドロゲル、チオマー、エーロゲルまたはオルガノゲル)または液体であり得る。オルガノゲルは、有機溶媒、リポ酸、植物油または鉱油を含み得る。緩徐放出組成物は、抗菌的有効量の微粒子BT化合物を、1、2、3、4、5、6または7日(1週間)、あるいは2、3、4、5、6、7週間、あるいは1、2、3、4、5または6ヶ月間、送達し得る。
【0212】
微粒子BT化合物(または微粒子BT化合物を含む組成物)は、組合せて投与されると、本明細書中に記載されるような増強されたまたは相乗的な抗菌作用を有する少なくとも1つ以上の他の抗菌剤(すなわち、第二、第三、第四、等の抗菌剤)と組合せされ得る。例として、増強化または相乗的抗菌作用は、微粒子BT化合物が鉄をキレート化する抗菌剤と一緒に投与される場合に観察され得る。微粒子BT化合物は、殺真菌剤または殺藻類剤を含めた少なくとも1つの他の抗微生物剤と組合され得る。非限定例として、微粒子BT化合物を含む組成物中に含まれ得る抗微生物剤としては、クロルヘキシジン;サンギナリンエキス;メトロニダゾール;第四級アンモニウム化合物(例えば、セチルピリジニウムクロリド);ビスグアニド(例えば、クロルヘキシジンジグルコナート、ヘキセチジン、オクテニジン、アレキシジン);ハロゲン化ビスフェノール系化合物(例えば、2,2′-メチレンビス-(4-クロロ-6-ブロモフェノール)または他のフェノール系抗菌化合物;アルキルヒドロキシベンゾエート;陽イオン性抗微生物ペプチド;アミノグリコシド;キノロン;リンコサミド;ペニシリン:セファロスポリン;マクロリド;テトラサイクリン;当該技術分野で既知のその他の抗生物質;コレウス・フォルスコリの精油;銀または銀コロイド抗微生物剤;スズまたは銅を基剤とする抗微生物剤;マヌカオイル;オレガノ;タイム;ローズマリー;または他のハーブエキス;およびグレープフルーツシードエキスが挙げられる。組成物は、さらに任意に、上記のおよび本明細書中に記載される界面活性剤、希釈剤または担体、緩衝剤および/または漂白剤も含み得る。
【0213】
疎水性チオール(例えばチオクロロフェノール)を用いて調製される微粒子BT化合物が用いられ、これは、コンクリート表面、特に水に曝露されるものと接着するために、低疎水性BT化合物より大きい能力を示し得る。正味負電荷を有するBT化合物、例えば1:2モル比(ビスマス対チオール)を有するものも、好ましい接着特性を有し得る。
【0214】
ゴム、シリコーンおよびプラスチック製品中の微粒子BT ある実施形態は、加工天然および合成ゴムおよび/またはゴムコーティング、例えばシリコーンおよびシリコーンコーティングを含む人工表面の中または上に、本明細書中に記載される微粒子BT化合物を混入して、例えば医療装置(カテーテル、ステント、フォーリーカテーテルおよびその他の泌尿器カテーテル、胃造瘻管、栄養管等)、整形外科用装置、歯科用装置、工業用装置、電子装置、表面、例えば自動車、タイヤ、ドアおよび窓枠、注水管、ベルト、マット、減衰器(防振架台)、列車、飛行機、船、ボート、潜水艦、杭、パイプ、パイプライン、管類および織物、測深/水取り付け具、家庭雑貨製品、床材、履物製品、運動器具、携帯電話、コンピューター設備、ならびに有機充填剤を用いる化合物、野外製品、例えばルーフィング材、日よけ、防水シート、屋根防水層および水泳用プール内張り、ならびに、例えば滅菌製品、ならびに食品および飲料防腐、製薬、そして化学物質および水滅菌のための系におけるこのようなゴム表面のバイオフィルムおよび生体付着物を低減することを意図する。
【0215】
本発明に記載される微粒子BT化合物は、本明細書中に記載されるBT組成物および方法を、これらの製品部類に関して既知である加工工程と一体化することによりこれらのおよびその他の天然および人工ゴム製品中に混入され得る。例証による非限定例として、BT(しかし本発明に記載される微粒子BTではない)は、ヒドロゲル被覆ポリウレタンロッドおよびダクロングラフト中に混入されてきた(Domenico et al. Antimicrob Agents Chemother 2001;45:1417-1421;Domenico et al., Peptides 2004;25:2047-53)。WO/2002/077095および日本国特許出願第1997-342076号は、抗微生物特質を提供するための銀基剤化合物を含有する前加硫および/または加硫生ゴム処方物を記載する;米国特許第6,448,306号、第6,555,599号、第6,638,993号、第6,848,871号、第6,852,782号、第6,943,205号および第7,060,739号は、ゴムマトリクス中の銀基剤抗微生物剤の使用を教示する。薬剤溶出シリコーン組成物は、不活性ポリマー担体を用いずに、医療装置または他の表面に適用され得る改質された生物学的に活性な結合剤中に分散される抗微生物剤を含み得る(米国特許出願第2009/0043388号)。
【0216】
シリコーン油は、一般的に、2,000~30,000の範囲の分子量を有し、粘度は20~1,000センチストークの範囲である。シリコーンゴムは、一般的に、40,000~100,000の範囲の分子量を有し、粘度は10~1,000ストークの範囲である。シリコーンは、典型的には微生物付着物を蒙る種々の材料で用いられる。これらの例としては、封止剤、コーキング剤、グリース、油、噴霧剤、ゴム、注水管および埋込み物が挙げられる。シリコーン基剤抗付着物コーティングおよびその他の抗微生物コーティングが記載されてきたが、しかし不十分な効力、不十分な耐久性、不十分な生体適合性、抗微生物活性の損失、短い有用寿命、高額な材料およびその他の織物に関連した欠点を蒙る(例えば、Schultz J Fluids Eng 2004;126:1039-47;米国特許第4,025,693号;Yan & Li. Ophthalmologica 2008;222:245-8;米国特許第6,221,498号;米国特許第7,381,751号;欧州特許出願 EP0506113;Sawada et al. JPRAS 1990;43:78-82;Tiller et al. Surface Coatings International Part B: Coatings Transactions 2005;88:1-82;Juhni & Newby Proceedings Annual Meeting Adhesion Society 2005;28:179-181;Ozdamar et al. Retina 1999;19:122-6;Piccirillo et al. J Mater Chem 2009;19:6167;米国特許公開番号2009/0215924;Bayston et al. Biomaterials 2009;30:3167-73;Gottenbos et al. Biomaterials 2002;23:1417-23;Millsap et al. Antonie Van Leeuwenhoek 2001 ;79:337-43)。これらの出版物は、ゴム製品中に抗微生物材料を混入するための方法を記載しているが、しかしそれらが記載する製品または方法のうち、本明細書中に記載される微粒子BTにより提供される利点を提供するものは全くない。
【0217】
したがって、本発明の実施形態は、これらのおよび類似のゴム(シリコーンを含む)製品および方法における、ならびにプラスチックおよびポリマー化抗方法、例えば以下で参照される方法における、本明細書中に記載される微粒子BTの置換を意図する。これらのおよび他の既知の加工状況の各々において、ここに記載される微粒子BTは、他の抗微生物剤の代わりに、本明細書における開示に基づいて混入されて、これらの微粒子BTにより提供されるような本明細書中に開示の利点、例えば抗菌活性、溶解性および生物学的利用能、抗バイオフィルム作用、非毒性、抗生物質効力の増強を提供し得る。
【0218】
BT化合物は、例えば、バイオフィルムを低減し、シリコーン製品の中または上の付着物を防止するために、ゴム加工工程を妨げない低濃度で、製品中に処方され得る。シリコーン内の微粒子BT濃度(重量で)は、例えば、シリコーンゴム製品の意図される使用および特性によって、約0.0001%という低い値から約0.1%まで変わり得る。本明細書中に記載される微粒子BTは、同様に、シリコーン上のコーティングとして、あるいはシリコーンゲルまたは油中に混入されて、長期間に亘ってシリコーン表面のバイオフィルムを防止するかまたは処理し得る。シリコーンゴム注入口弁は、WO/2008/064173に記載されており、これは、シリコーン油を定期的に滲み出させて、本明細書中に記載される微粒子BTの有効抗微生物レベルのこのような滲出液中の存在が、このような弁または同様に造形されたシリコーンゴム装置を含有する製品に抗バイオフィルムおよび/または抗付着物能力を付与する。侵食性油は弁の近辺の任意の表面に広がって、長時間に亘って保護の再生可能な供給源を提供する。この形状は、例えば、船体の表面下に、または水または湿度に曝露される他の表面に造り上げられる。
【0219】
ゴム表面のBTの保持増強のために、本明細書中に記載される微粒子BTは、例えば疎水性チオール(例えばチオクロロフェノール)(これは接着特性増強を有し得る)を用いることにより、および/または正味負電荷を有するよう作られるBTを含む(例えば1:2モル比のビスマス対チオール)(これも、接着特性増強を有し得る)ことにより、特定のチオール部分に基づいてより大きな疎水性を保有するよう選択され得る。例えばシリコーン物質は、適切な濃度の本明細書中に記載される微粒子BTの存在下で、100℃以下の温度で、集合され得る。生体侵食性物質は、バイオフィルム形成を妨げるレベル、例えば約1~2ppmでのこのようなBTの漸次放出を可能にする。他の実施形態では、微粒子BT化合物を徐々に溶出し、規則的に取り替えられて、種々の工業的系または医療装置中の生体付着物を防止し得るゴムおよび/またはプラスチック構成成分が意図される。
【0220】
他のある実施形態において、そしてゴム(シリコーンを含めて)品目中へのBT混入に関する組成物および方法に関して上記されたものと同様に、ここに記載される微粒子BT化合物は、本明細書中に記載されるBT組成物および方法を、これらの部類の製品に関して既知である加工工程と一体化することにより、これらのおよび他のプラスチックおよびポリマー製品中にも混入され得る。
【0221】
このような微粒子BT含有プラスチック製品に関する使用の非限定例としては、医療装置、整形外科用装置、歯科用装置、工業用装置、電子装置、壁、床、天井、屋根、ならびにその他の表面、例えば自動車、列車、飛行機および船、ボート、潜水艦、杭、パイプ、パイプラインおよび織物を含めたすべての型の乗り物の中および上に存在する表面、スプリンクラーヘッド、ヘアケア製品、測深/水取り付け具、家庭雑貨製品、床材、履物製品、運動器具、携帯電話、有機充填剤を用いる化合物、野外製品、例えばルーフィング材、日よけ、防水シート、屋根防水層および水泳用プール内張り、ならびに食品および飲料防腐に用いられるものを含めた他の製品における、ならびに製薬、そして化学物質および水滅菌におけるプラスチックおよびプラスチックコーティングが挙げられる。
【0222】
現代のプラスチック物質は、1930年代以来、用いられてきている。プラスチック製品は、典型的には、ポリマーと、通常は添加剤から製造される。典型的ポリマーとしては、合成樹脂、スチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、フルオロポリマー、ビニル、アクリル、ポリウレタン、セルロース系、イミド系、アセタル系、ポリカーボネートおよびポリスルホンが挙げられる。ポリマーの物理学的特質を改良するために、添加剤、例えば可疎剤がしばしば用いられ、これは、微生物のための栄養源として役立つ。このような現代の可塑剤の例としては、フタレート、アジペートおよびその他のエステルが挙げられる。これらのおよびその他の可塑剤は、特に高湿度領域において、細菌および真菌の影響を特に受け易く、微生物表面増殖および胞子の成長を生じて、これがヒトおよび動物における1つ以上の感染、アレルギー反応、不快な臭い、染み、プラスチックの脆化、早期製品故障およびその他の望ましくない結果を引き起こし得る。
【0223】
抗付着物およびその他の抗微生物コーティングの導入による加工工程の間または後のプラスチック製品の改質が記載されてきたが、しかし典型的には、不十分な効力、不十分な耐久性、不十分な生体適合性、抗微生物活性の損失、短い有用寿命、高額な材料およびその他の織物に関連した欠点を蒙る(例えば、米国特許第3,624,062号;第4,086,297号;第4,663,077号;第3,755,224号;第3,890,270号;第6,495,613号;第4,348,308号;第5,654,330号;第5,281,677号;第6,120,790号;第5,906,825号;第7,419,681号;第5,028,664号;第6,162,487号;Markarian, Plastics, Additives and Compounding 2009, 11:18-22;EP927222 B1;JP08-157641;CN1528470 A;Masatoshi etal. 2006;51:18-23;米国特許公開番号2008/0071229、2009/0202610および2009/0043388)。現行アプローチのうち、本明細書中に記載される微粒子BTにより提供される利点を提供するものは全くない。それにもかかわらず、当業者に一般的に既知であるのは、以下のような戦略に従って、プラスチック製品の中または上に抗微生物剤を組入れることである:(a)ポリマー表面の作用物質の吸着(受動的または界面活性剤による);(b)成型装置の表面に適用される抗微生物コーティングのポリマー中への導入;(c)高分子基質材料のバルク相中への混入;(d)ポリマー表面への作用物質の共有結合;および/または(e)重合反応前に抗微生物剤をポリマー形成(例えばポリウレタン)構成成分と混合して完成ポリマーを得ること。
【0224】
例えば、本明細書中に記載される微粒子BTは、これらのおよび同様の系に、手動でまたは自動的に、ゲル、噴霧、液体または粉末として導入され得る。一実施形態では、例えば粉末または液体形態の微粒子BTは、プラスチック加工のための成分、例えば活性構成成分(例えば、ポリマー前駆体、触媒、反応開始剤、架橋剤等)、ならびに産生混合物に関与する賦形剤(例えば、担体、溶媒、離型剤、染料または着色剤、可塑剤)と混合され、これは、定期的に加工系に注入される。例えば、DMSO中の微粒子BTの1mg/ml溶液または懸濁液は、ポリマー形成反応液中に定期的に注入されるか、または成型ユニットの作業部分に噴霧されて、完成品における所望の抗バイオフィルム濃度を達成し得る。
【0225】
したがって、本明細書中に開示されるこれらおよび関連するある実施形態は、1つ以上の微粒子BTを含み得る、そして任意に本明細書中に記載されるような相乗的または増強性抗生物質といったような抗生物質をさらに含み得る、本発明に開示される微粒子BT組成物のこのような製品および工程における包含を意図する。
【0226】
本明細書に記載された特定の実施形態により、本明細書に記載された組成物および方法が有益な用途を見出しうる細菌の非限定的例としては、スタフィロコッカス・アウレウス(黄色ブドウ球菌)、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、スタフィロコッカス・エピデルミディス、MRSE(メチシリン耐性S.エピデルミディス)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、マイコバクテリウム・アビウム、シュードモナス・エルギノーサ、薬物耐性緑膿菌、大腸菌、腸管毒素原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、クロストリジウム・ディフィシル、ヘリコバクター・ピロリ、レジオネラ・ニューモフィラ、エンテロコッカス・フェカーリス、メチシリン感受性エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロバクター・クロアカエ、サルモネラ・ティフィムリウム、プロテウス・ブルガリス、エルシニア・エンテロコリチカ、ビブリオ・コレレ、シゲラ・フレクスネリ、バンコマイシン耐性エンテロコッカス(VRE)、バークホルデリア・セパシア菌群、フランシセラ・ツラレンシス、バチルス・アントラシス、エルシニア・ペスチス、シュードモナス・エルギノーサ、バンコマイシン感受性およびバンコマイシン耐性エンテロコッカス属(例えば、E.フェカーリス、E.フェシウム)、メチシリン感受性およびメチシリン耐性スタフィロコッカス属(例えば、黄色ブドウ球菌、S.エピデルミディス)およびアシネトバクター・バウマニー、スタフィロコッカス・ヘモリティカス、スタフィロコッカス・ホミニス、エンテロコッカス・フェシウム、ストレプトコッカス・ピオゲネス、ストレプトコッカス・アガラクチア、バチルス・アントラシス、クレブシエラ・ニューモニエ、プロテウス・ミラビリス、プロテウス・ブルガリス、エルシニア・エンテロコリチカ、ステノトロホモナス・マルトフィリア、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ペニシリン耐性ストレプトコッカス・ニューモニエ、バークホルデリア・セパシア、バークホルデリア・マルチボランス、マイコバクテリウム・スメグマチスおよびE.クロアカエが挙げられる。
【0227】
本発明の特定の実施形態の実践は、反することが明記されない限り、当該技術の範囲内である微生物学、分子生物学、生化学、細胞生物学、ウイルス学および免疫学の技術の従来法、ならびに例示の目的で以下に示された複数の参考資料を用いる。そのような技術は、文献に完全に説明されている。例えば、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual(2nd Edition, 1989):Maniatis et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual(1982);DNA Cloning: A Practical Approach, vol. I & II(D. Glover, ed.);Oligonucleotide Synthesis(N. Gait ed., 1984);Nucleic Acid Hybridization(B. Hames & S. Higgins eds., 1985);Transcription and Translation(B. Hames & Higgins eds., 1984); Animal Cell Culture(R. Freshney ed., 1986);Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)を参照されたい。
【0228】
文脈がその他のことを必要としていない限り、本明細書および特許請求の範囲の全体を通して、言語「含む(comprise)」およびその変形例、例えば「含む(comprises)」および「含んでいる」は、開かれた包括的な意味であり、「含むが、非限定的である」と解釈されなければならない。
【0229】
本明細書全体を通した「一実施形態」または「実施形態」または「態様」の参照は、その実施形態に関連して記載された特定の特色、構造または特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味している。本明細書全体の様々な箇所にある「一実施形態」または「実施形態」という熟語の出現は、必ずしも全てがその実施形態を参照しているのではない。更に、特定の特色、構造または特徴を、1つ以上の実施形態における任意の適切な手法において組み合わせてもよい。
【0230】
先に言及された通り、本明細書に記載された本発明の特定の実施形態は、記載されたBT化合物(例えば、BisEDTおよび/またはBisBAL)の農業用、工業用、製造業用およびその他の処方物に関し、その処方物は、特定の更なる実施形態において、本明細書に記載された1種以上の抗生物質化合物、例えば、アミカシン、アンピシリン、セファゾリン、セフェピム、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、クリンダマイシン(または他のリンコサミド系抗生物質)、ダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、ドキシサイクリン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、イミペニム、レボフロキサシン、リネゾリド(Zyvox(登録商標))、ミノサイクリン、ナフシリン、パロモマイシン、リファムピン、スルファメトキサゾール、トブラマイシンおよびバンコマイシン;またはカルバペネム系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、リンコサミド系抗生物質、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン系抗生物質、および/またはアミノペニシリン系抗生物質および/またはアミノグリコシド系抗生物質、例えばアミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンもしくはアプラマイシン、および/またはリポペプチド系抗生物質、例えばダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、またはオキサゾリジノン系抗生物質、例えばリネゾリド(Zyvox(登録商標))を含んでいてもよい。これらおよび関連の処方物は、バイオフィルム関連性であり得る細菌感染(この場合、バイオフィルム形成を促進し得る細菌は存在するが、しかしバイオフィルムは未だ検出可能でない)がその中または上に存在する細菌感染を含有するか、あるいはバイオフィルムまたは他の細菌の存在を含有する、植物または動物または製品といったような植物または動物に投与され、天然または人工表面に適用される場合、本明細書中に開示されるような有効量で、適切な担体、賦形剤または希釈剤中にBT化合物(単数または複数)(および任意に1つ以上の抗生物質)を含み得る。
【0231】
純粋な形態または適切な農業用、製造業用またはその他の組成物中の、本明細書に記載されたBT化合物またはその塩の投与または混入は、類似の用途に適う薬物の許容される投与または混入様式のいずれかを介して実施することができる。組成物の適用、混入または投与は、好ましい実施形態では、組成物を、処置を受ける対象植物または動物あるいは製品と直接接触させることを含み、それは、1ヶ所以上の局在化された、または広く分布する表面部位であってもよく、一般には局所処方物を、限定する必要はないが無傷の組織に取り囲まれた急性または慢性感染部位(例えば、植物表面の創傷部位)と接触させることを指し得るし、例えば特定の実施形態は、局所適用として、損傷、擦り傷もしくは障害を負った天然または人工の表面へ本明細書に記載された局所処方物を投与することを企図する。
【0232】
処方物(例えば農業用組成物)は、記載されたBT化合物(例えば、RE37,793号、U.S.6,248,371号、同6,086,921号、および/もしくは同6,380,248号に記載された化合物、ならびに/または本明細書に記載された微粒子BT懸濁液などの本開示により調製された化合物を含む)を組み合わせることにより調製してもよく、本明細書中に記載されるようなある実施形態では、1種以上の所望の抗生物質(例えば、アミカシンなどのアミノグリコシド系抗生物質)を、BT化合物と別個にまたは一緒に、処方物の調製に用いるための適切なビヒクル、分散剤、担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせることにより、意図される用途によって変えて調製してもよく、固体、半固体、ゲル、クリーム、コロイド、懸濁液もしくは液体、または他の局所適用形態、例えば粉末、顆粒、軟膏、溶液、ウォッシュ、ゲル、ペースト、プラスター、塗布剤、生体接着剤、ミクロスフェア懸濁液、およびエアロゾルスプレーなどで、調製物中に処方され得る。
【0233】
これらおよび関連の実施形態の組成物は、有効成分を組成物に含ませることができるように配合させ、そして特定の好ましい実施形態において、本明細書に記載されたBT化合物を単独または1種以上の所望の抗生物質(例えば、カルバペネム系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、リンコサミド系抗生物質、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン系抗生物質、およびアミノペニシリン系抗生物質、またはアミノグリコシド系抗生物質、例えばアミカシン、またはリファマイシン)と配合させるが、それらは、所望の部位に、そして任意に、植物または動物(例えばヒト)被験体の、あるいは製品の天然または人工表面周囲に、BT化合物(単数または複数)および/または抗生物質組成物(単数または複数)を含有する処方物の投与時に生物学的利用性となるように、同時または連続していずれかの順序で適用され得る。本明細書に開示された特定の実施形態は、同時または連続して、そしていずれかの順序であってもよい投与など、このような被験体または製品へのBT化合物および抗生物質の投与および/または混入を企図するが、本発明は、それに限定されず、他の実施形態において、抗生物質の投与経路に比して別個のBT化合物投与経路を明白に企図する。つまり、抗生物質は、本明細書に記載された任意の投与経路により投与してもよく、一方、BT化合物は、抗生物質に用いられる経路とは独立した経路により投与され得る。
【0234】
本明細書に記載される処方物は、有効量の消毒薬(単数または複数)(および二二二抗生物質(単数または複数))を、所望の部位、例えば感染またはバイオフィルム形成を防止することが望ましい部位に送達する。
【0235】
先に言及された通り、本発明の処方物は、広範な種々の形態のいずれをとってもよく、例えば、液体、懸濁液、硬膏剤、クリーム、ローション、溶液、スプレー、ゲル、軟膏、ペーストなどが挙げられ、そして/またはリポソーム、ミセルおよび/もしくはミクロスフェアを含有するように調製されていてもよい。例えば、米国特許第7,205,003号を参照されたい。例えばクリームは、薬学的および化粧品処方物の技術分野で周知の通りであり、粘液または半固体エマルジョンであり、水中油または油中水のいずれかである。クリーム基剤は、水洗可能であり、油相、乳化剤および水相を含有する。油相は、「内」相とも呼ばれ、一般にはワセリンおよび脂肪アルコール、例えばセチルアルコールまたはステアリルアルコールで構成される。水相は必ずというわけではないが通常は、容量が油相を超えていて、一般に保湿剤を含有する。クリーム処方物中の乳化剤は、一般に非イオン性、陰イオン性、陽イオン性または両性界面活性剤である。
【0236】
溶液は、1種以上の化学物質(溶質)を液体に溶解して、溶解された物質の分子を溶媒の分子に分散させることにより調製される、均質混合物である。溶液は、溶質を緩衝、安定化または保存するために他の化学物質を含有し得る。溶液を調製するのに用いられる溶媒の一般的例は、エタノール、水、プロピレングリコールまたは他の任意のビヒクルである。
【0237】
ゲルは、半固体の懸濁タイプの系である。単相ゲルは、典型的には水性であるが、好ましくはアルコール、そして任意の油も含有する担体液全体に実質的に均質に分配された有機巨大分子を含有する。好ましい「有機巨大分子」、即ちゲル化剤は、化学的に架橋されたポリマー、例えば架橋アクリル酸ポリマー、例えばポリマーの「カルボマー」類、例えばカルボキシポリアルキレンであってもよく、それらはCarbopol(登録商標)の商品名で商業的に得てもよい。同じく特定の実施形態において好ましいのは、親水性ポリマー、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン・コポリマー、およびポリビニルアルコール;セルロース系ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート、およびメチルセルロース;ガム、例えばトラガカントガムおよびキサンタンガム;アルギン酸ナトリウム;ならびにゼラチンであってもよい。均質なゲルを調製するために、アルコールまたはグリセリンなどの分散剤を添加することができ、研和、機械的混合もしくは撹拌、またはそれらの組み合わせにより、ゲル化剤を分散させることができる。
【0238】
同じく当該技術分野で周知である軟膏は、典型的にはワセリンまたは他の石油誘導体を基にした半固体調製物である。用いられる具体的な軟膏基剤は、当業者により理解された通り、複数の所望の特徴、例えばエモリエント性などを提供するものである。他の担体またはビヒクルと同様に、軟膏基剤は、不活性、安定性、非刺激性、そして非感作性でなければならない。Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th Ed(Easton, Pa.:Mack Publishing Co.,1995)のp1399-1404に説明される通り、軟膏基剤は、4つの分類:油性基剤;乳化性基剤;エマルジョン基剤;および水溶性基剤にグループ化することができる。油性の軟膏基剤は、例えば、植物油、動物から得られる脂肪、および石油から得られる半固体炭化水素を含む。吸収性軟膏基剤としても公知である乳化性軟膏基剤は、水をほとんど、または全く含有せず、例えばヒドロキシステアリン硫酸、無水ラノリン、および親水性ワセリンを含む。エマルジョンの軟膏基剤は、油中水(W/O)エマルジョンまたは水中油(O/W)エマルジョンのいずれかであり、例えば、セチルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ラノリン、およびステアリン酸を含む。好ましい水溶性軟膏基剤は、様々な分子量のポリエチレングリコールから調製される(例えば、Remingtonの前著を参照)
【0239】
ペーストは、半固体投与形態であり、その活性剤は、適切な基剤で懸濁されている。ペーストは、基剤の性質に応じて、脂肪ペーストまたは単相水性ゲルで生成されたペーストに分別される。脂肪ペースト中の基剤は、一般にワセリンまたは親水性ワセリンなどである。単相水性ゲルで生成されたペーストは、一般にカルボキシメチルセルロースなどを基剤として組み込んでいる。
【0240】
処方物は、リポソーム、ミセルおよびミクロスフェアを用いて調製してもよい。リポソームは、脂質二重層を含む1つ(ユニラメラ)または複数(マルチラメラ)の脂質壁を有する微視的ベシクルであり、本明細書においては、本明細書に記載された処方物の1種以上の成分、例えば消毒薬、または特定の担体もしくは賦形剤を、その脂質膜表面に封入および/または吸着し得る。本明細書のリポソーム調製物は、陽イオン性(正電荷)、陰イオン性(負電荷)、および中性の調製物を含む。陰イオン性リポソームは、直ちに入手できる。例えば、N[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリエチルアンモニウム(DOTMA)リポソームは、商品名Lipofectin(登録商標)(GIBCO BRL,Grand Island,N.Y.)として入手できる。同様に陰イオン性および中性リポソームも、例えばAvanti Polar Lipids(Birmingham, AL)から直ちに入手でき、または直ちに入手できる材料を用いて容易に調製することができる。そのような材料としては、とりわけ、ホスファチジルコリン、コレステロール、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジオレイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、およびジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)が挙げられる。これらの材料は、適切な比でDOTMAと混合することもできる。これらの材料を用いたリポソームの製造方法は、当該技術分野で周知である。
【0241】
ミセルは、極性頭部基が外側の球状シェルを形成し、疎水性炭化水素鎖がその球状物の中心に向かって配置してコアを形成するように配列された界面活性剤分子で構成されていることが、当該術分野で公知である。ミセルは、十分に高い濃度の界面活性剤を含有する水溶液中で形成するため、ミセルは自然に得られる。ミセルを形成するのに有用な界面活性剤としては、非限定的に、ラウリン酸カリウム、オクタンスルホン酸ナトリウム、デカンスルホン酸ナトリウム、ドデカンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドクサートナトリウム、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルアンモニウムクロリド、ポリオキシ-8ドデシルエーテル、ポリオキシ-12ドデシルエーテル、ノノキシノール10、およびノノキシノール30が挙げられる。
【0242】
同様にミクロスフェアが、本明細書に記載された局所処方物に組み込まれていてもよい。リポソームおよびミセルと同様に、ミクロスフェアは、本質的に本発明の処方物の1種以上の成分を封入している。それらは必ずではないが一般に、脂質、好ましくは帯電した脂質、例えばリン脂質から形成されている。脂質性ミクロスフェアの調製は、当該技術分野で周知である。
【0243】
当業者に公知の様々な添加剤が、局所処方物に含まれていてもよい。例えば比較的少量のアルコールを含む溶媒を、特定の処方物成分を可溶化するのに用いてもよい。適切な増強剤の例としては、非限定的に、エーテル、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutol(登録商標)として市販)およびジエチレングリコールモノメチルエーテル;界面活性剤、例えばラウリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、塩化ベンザルコニウム、Poloxamer(登録商標)(231、182、184)、Tween(登録商標)(20、40、60、80)、およびレシチン(米国特許第4,783,450号);アルコール、例えばエタノール、プロパノール、オクタノール、ベンジルアルコールなど;ポリエチレングリコールおよびそのエステル、例えばポリエチレングリコールモノラウラート(PEGML;例えば、米国特許第4,568,343号参照);アミドおよび他の窒素化合物、例えば尿素、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミン;テルペン;アルカノン;ならびに有機酸、特にクエン酸およびコハク酸が挙げられる。Azone(登録商標)およびスルホキシド、例えばDMSOおよびC10MSOを用いてもよいが、あまり好ましくはない。
【0244】
ある種の皮膚浸透増強剤は、典型的には「可塑化」増強剤と呼ばれるそれらの親油性共増強剤(co-enhancer)、即ち、約150~1000ダルトンの範囲内の分子量、約1重量%未満、好ましくは約0.5重量%未満、最も好ましくは約0.2重量%未満の水溶性を有する増強剤を含み得る。可塑化増強剤のヒルデブランド溶解度パラメータは、約2.5~約10の範囲内、好ましくは約5~約10の範囲内である。好ましい親油性増強剤は、脂肪エステル、脂肪アルコール、および脂肪エーテルである。特異的で最も好ましい脂肪酸エステルの例としては、ラウリン酸メチル、オレイン酸エチル、プロピレングリコールモノラウラート、プロピレングリセロールジラウラート、グリセロールモノラウラート、グリセロールモノオレアート、イソプロピルn-デカノアート、およびオクチルドデシルミリスタートが挙げられる。脂肪アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコールおよびオレイルアルコールが挙げられ、脂肪エーテルとしては、ジオールまたはトリオール、好ましくはC2-C4アルカンジオールまたはトリオールが1または2個の脂肪エーテル置換基で置換されている化合物が挙げられる。追加的な浸透増強剤は、局所薬物送達の当業者に公知であり、そして/または関連の文献に記載されている。例えば、Percutaneous Penetration Enhancers eds. Smith et al.(CRC Press, Boca Raton, FL, 1995)を参照されたい。
【0245】
先に同定されたものに加えて、様々な他の添加剤が、本発明の特定の実施形態による局所処方物に含まれていてもよい。これらには、非限定的に、抗酸化剤、収れん剤、香料、防腐剤、エモリエント剤、顔料、染色剤、吸湿剤、噴射剤、および日焼け防止剤に加え、存在が化粧品として、薬品として、または他の面で望ましい他の種類の材料が挙げられる。本発明の特定の実施形態の処方物に含まれる任意の添加剤の典型的な例は、以下の通りである:防腐剤、例えばソルビン酸塩;溶媒、例えばイソプロパノールおよびプロピレングリコール;収れん剤、例えばメントールおよびエタノール;エモリエント剤、例えばポリアルキレンメチルグルコシド;吸湿剤、例えばグリセリン;乳化剤、例えばステアリン酸グリセロール、ステアリン酸PEG-100、ポリグリセリル-3ヒドロキシラウリルエーテル、およびポリソルベート60;ソルビトールおよび他のポリヒドロキシアルコール、例えばポリエチレングリコール;日焼け防止剤、例えばメトキシケイヒ酸オクチル(Parsol MCXとして市販)およびブチルメトキシベンゾイルメタン(商品名Parsol 1789として市販);抗酸化剤、例えばアスコルビン酸(ビタミンC)、α-トコフェロール(ビタミンE)、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、ε-トコフェロール、ζ1-トコフェロール、ζ2-トコフェロール、η-トコフェロール、およびレチノール(ビタミンA);精油、セラミド、必須脂肪酸、鉱物油、湿潤剤および他の界面活性剤、例えばBASF(Mt Olive, NJ)から入手できる親水性ポリマーのPLURONIC(登録商標)シリーズ、植物油(例えば、大豆油、パーム油、シアバターの液体分画、ヒマワリ油)、動物油(例えば、ペルヒドロスクアレン)、鉱物油、合成油、シリコーン油またはワックス(例えば、シクロメチコーンおよびジメチコーン)、フッ素化油(一般にペルフルオロポリエーテル)、脂肪アルコール(例えば、セチルアルコール)、およびワックス(例えば、ビーズワックス、カルナバワックス、およびパラフィンワックス);スキンフィールモディファー(skin-feel modifier);ならびに増粘剤および構造体(structurants)、例えば膨潤性粘土および商品名Carbopol(登録商標)として商業的に得てもよい架橋カルボキシポリアルキレン。
【0246】
他の添加剤としては、例として、ピロリジンカルボン酸およびアミノ酸;有機抗微生物剤、例えば2,4,4′-トリクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)および安息香酸;抗炎症剤、例えばアセチルサリチル酸およびグリチルレチン酸;抗脂漏剤、例えばレチノイン酸;血管拡張剤、例えばニコチン酸;メラニン形成阻害剤、例えばコウジ酸;ならびにその混合物のような作用物質が挙げられる。含まれると有益である他の活性作用物質として、例えばα-ヒドロキシ酸、α-ケト酸、ポリマーヒドロキシ酸、保湿剤、コラーゲン、海洋性エキス、および抗酸化剤、例えばアスコルビン酸(ビタミンC)、α-トコフェロール(ビタミンE)もしくは他のトコフェロール、例えば先に記載されたもの、およびレチノール(ビタミンA)、ならびに/またはその適切な塩、エステル、アミド、もしくは他の誘導体が存在してもよい。追加的な作用物質としては、例えばWO94/00098号およびWO94/00109号に記載された、生体組織内での酸素供給の改善が可能なものが挙げられる。日焼け防止剤が、含まれていてもよい。
【0247】
本発明の特定の実施形態の処方物は、不透明化剤、芳香剤、着色剤、ゲル化剤、増粘剤、安定化剤、界面活性剤などの従来の添加剤を含んでいてもよい。貯蔵時の腐敗を予防するため、即ち、酵母およびカビなどの微生物の発育を阻害するために、他の薬剤、例えば抗微生物剤を添加してもよい。適切な抗微生物剤は、典型的にはp-ヒドロキシ安息香酸のメチルおよびプロピルエステル(例えば、メチルおよびプロピルパラベン)、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、イミド尿素、およびそれらの組み合わせから選択される。
【0248】
局所処方物は、BT化合物(例えば、本明細書中で提供されるような実質的に均質な微粒子として、任意に、本明細書中に記載されるような1つ以上の相乗的抗生物質と組合せて)のほかに、特定の投与または混入方式に適した有効量の1つ以上の付加的活性作用物質も含有し得る。
【0249】
薬理学的に許容しうる担体が、特定の本発明の実施形態の局所処方物に組み込まれていてもよく、当該技術分野で従来から用いられる任意の担体であってもよい。例としては、水、低級アルコール、高級アルコール、蜂蜜、多価アルコール、単糖類、二糖類、多糖類、糖アルコール、例えば、グリコール(2-炭素)、グリセロール(3-炭素)、エリトリトールおよびトレイトール(4-炭素)、アラビトール、キシリトールおよびリビトール(5-炭素)、マンニトール、ソルビトール、ダルシトールおよびイジトール(6-炭素)、イソマルトール、マルチトール、ラクチトールおよびポリグリシトール、炭化水素油、油脂、ワックス、脂肪酸、シリコーン油、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、シリコーン界面活性剤、ならびにそのような担体の水系混合物およびエマルジョン系混合物が挙げられる。
【0250】
本発明の局所処方物の実施形態は、天然(例えば、植物または動物(ヒトを含む))または人工(例えば、製品)表面で、所望の結果を実現するのに必要な頻度および量での処置を必要とするものすべてに、定期的に適用され得る。処置頻度は、適用の性質、特定実施形態における活性成分(例えば、BT化合物および任意に1つ以上の付加的活性成分、例えば抗生物質、例えばアミカシンまたは他の抗生物質)の強度、活性成分を送達するために用いられるビヒクルの有効性、ならびに環境因子(例えば、他の物質または対象との物理的接触、沈澱、風、温度)による処方物の除去される易さによって決まる。
【0251】
活性物質、例えば本明細書に記載される組成物中のBT化合物の典型的濃度は、例えば組成物の総重量に基づいて0.001~30重量%から、約0.01~5.0%まで、より好ましくは約0.1~2.0%までの範囲内であり得る。代表的な一例として、本発明のこれらの実施形態の組成物は、約1.0mg/cm2~約20.0mg/cm2の割合で、天然または人工表面に適用され得る。局所処方物の代表的な例としては、非限定的に、エアロゾル、アルコール、無水基剤、水溶液、クリーム、エマルジョン(油中水または水中油のいずれかのエマルジョンを含む)、脂肪、発泡体、ゲル、ヒドロアルコール性溶液、リポソーム、ローション、ミクロエマルジョン、軟膏、油、有機溶媒、ポリオール、ポリマー、粉末、塩、シリコーン誘導体、およびワックスが挙げられる。処方物は、例えば、キレート化剤、コンディショニング剤、エモリエント剤、賦形剤、吸湿剤、保護剤、増粘剤、またはUV吸収剤を含んでいてもよい。当業者には、列挙されたもの以外の処方物を本発明の実施形態に用いうることが理解されるであろう。
【0252】
キレート化剤は、ある種の処方物中に任意に含まれ得るし、Ca2+、Mn2+、またはMg2+などの二価陽イオン金属と結合する能力を有する任意の天然または合成化学薬品を含み得る。キレート化剤の例としては、非限定的に、EDTA、EDTA二ナトリウム、EGTA、クエン酸、およびジカルボン酸が挙げられる。
【0253】
コンディショニング剤も、ある種の処方物中に任意に含まれ得る。コンディショニング剤の例としては、非限定的に、アセチルシステイン、N-アセチルジヒドロスフィンゴシン、アクリラート/ベヘニルアクリラート/ジメチコーンアクリラート・コポリマー、アデノシン、環状アデノシン一リン酸、アデノシン一リン酸、アデノシン三リン酸、アラニン、アルビューメン、海藻エキス、アラントインおよび誘導体、アロエバルバデンシスエキス、アルミニウムPCA、アミログルコシダーゼ、アルブチン、アルギニン、アズレン、ブロメライン、粉末バターミルク、ブチレングリコール、カフェイン、グルコン酸カルシウム、カプサイシン、カルボシステイン、カルノシン、β-カロテン、カゼイン、カタラーゼ、セファリン、セラミド、カモミラ・レキュチタ (マトリカリア)花エキス、コレカルシフェロール、コレステリルエステル、ココベタイン、コエンザイムA、加工コーンスターチ、クリスタリン、シクロエトキシメチコーン、システインDNA、シトクロムC、ダルトシド、デキストラン硫酸、ジメチコーンコポリオール、ヒアルロン酸ジメチルシラノール、DNA、エラスチン、エラスチンアミノ酸、上皮成長因子、エルゴカルシフェロール、エルゴステロール、エチルヘキシルPCA、フィブロネクチン、葉酸、ゼラチン、グリアジン、β-グルカン、グルコース、グリシン、グリコーゲン、糖脂質、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、グリコスフィンゴリピド、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、水素化タンパク質、タンパク質加水分解物、ホホバ油、ケラチン、ケラチンアミノ酸、およびキネチン、ラクトフェリン、ラノステロール、ラウリルPCA、レシチン、リノール酸、リノレン酸、リパーゼ、リシン、リゾチーム、麦芽エキス、マルトデキストリン、メラニン、メチオニン、無機塩、ナイアシン、ナイアシンアミド、燕麦アミノ酸、オリザノール、パルミトイル加水分解タンパク質、パンクレアチン、パパイン、PEG、ペプシン、リン脂質、フィトステロール、胎盤の酵素、胎盤の脂質、ピリドキサル5-リン酸、ケルセチン、酢酸レゾルシノール、リボフラビン、RNA、サッカロミセス溶解質エキス、シルクアミノ酸、スフィンゴリピド、ステアラミドプロピルベタイン、パルミチン酸ステアリル、トコフェロール、酢酸トコフェリル、リノール酸トコフェリル、ユビキノン、ヴィティス・ヴィニヘラ(グレープ)シードオイル、小麦アミノ酸、キサンタンガム、およびグルコン酸亜鉛が挙げられる。当業者により直ちに理解されうる通り、先に列記されたもの以外のコンディショニング剤を、開示された組成物またはそれらにより提供される調製物と組み合わせてもよい。
【0254】
ある実施形態では、本明細書中に記載される処方物は、1種以上のエモリエント剤を場合により含んでもよく、その例としては、非限定的に、アセチル化ラノリン、アセチル化ラノリンアルコール、アクリラート/C10-30アルキルアクリラート・クロスポリマー、アクリラートコポリマー、アラニン、海藻エキス、アロエバルバデンシスエキスまたはゲル、アルテア・オフィシナリスエキス、オクテニルコハク酸デンプンアルミニウム、ステアリン酸アルミニウム 、アンズ(プルヌス・アルメニアカ)核油、アルギニン、アスパラギン酸アルギニン、アルニカ・モンタナエキス、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、アスパラギン酸、アボカド(パーシア・グラティッシマ)油、硫酸バリウム、バリア(barrier)スフィンゴリピド、ブチルアルコール、蜜ろう、ベヘニルアルコール、β-シトステロール、BHT、バーチ(ベチュラ・アルバ)バークエキス、ルリジサ(ボラゴ・オフィシナリス)エキス、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ナギイカダ(ルスカス・アキュレアツス)エキス、ブチレングリコール、カレンデュラ・オフィシナリスエキス、カレンデュラ・オフィシナリス油、キンセンカ(ユーホルビア・セリフェラ)ワックス、キャノーラ油、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、カルダモン(エレッタリア・カルダモムム)油、カルナバ(コペルニシア・セリフェラ)ワックス、カラゲナン(コンドラス・クリスパス)、ニンジン(ダウカス・キャロッタ・サティバ)油、ヒマシ(リシナス・コミュニス)油、セラミド、セレシン、セテアレス-5、セテアレス-12、セテアレス-20、オクタン酸セテアリル、セテス-20、セテス-24、酢酸セチル、オクタン酸セチル、パルミチン酸セチル、カモミール(アンテミス・ノビリス)油、コレステロール、コレステロールエステル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、クエン酸、サルビア(サルビア・スクラレア)油、ココア(テオブロマカカオ)バター、ココ-カプリル酸/カプリン酸、ココナッツ(ココス・ヌシフェラ)油、コラーゲン、コラーゲンアミノ酸、コーン(ジー・メイス)油、脂肪酸、オレイン酸デシル、デキストリン、ジアゾリジニル尿素、ジメチコーンコポリオール、ジメチコノール、アジピン酸ジオクチル、コハク酸ジオクチル、ヘキサカプリル酸/ヘキサカプリン酸ジペンタエリトリチル、DMDMヒダントイン、DNA、エリトリトール、エトキシジグリコール、リノール酸エチル、ユーカリ・グロブルス油、月見草(オエノセラ・ビエンニス)油、脂肪酸、果糖、ゼラチン、ワイルドゼラニウム油、グルコサミン、グルタミン酸グルコース、グルタミン酸、グリセレス-26、グリセリン、グリセロール、ジステアリン酸グリセリル、ヒドロキシステアリン酸グリセリル、ラウリン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、ミリスチン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリルSE、グリシン、ステアリン酸グリコール、ステアリン酸グリコールSE、グリコサミノグリカン、グレープ(ヴィティス・ヴィニヘラ)シードオイル、ヘーゼル(コリラス・アメリカーナ)ナッツ油、ヘーゼル(コリラス・アベラナ)ナッツ油、ヘキシレングリコール、蜂蜜、ヒアルロン酸、ハイブリッドベニバナ(カーサマス・ティンクトリアス)油、水添ヒマシ油、水素化ココグリセリド、水素化ココナッツ油、水素化ラノリン、水素化レシチン、水素化パームグリセリド、水素化パーム核油、水素化大豆油、水素化獣脂グリセリド、水素化植物油、加水分解コラーゲン、加水分解エラスチン、加水分解グリコサミノグリカン、加水分解ケラチン、加水分解大豆タンパク質、ヒドロキシル化ラノリン、ヒドロキシプロリン、イミダゾリジニル尿素、ヨードプロピニルブチルカルバマート、ステアリン酸イソセチル、ステアロイルステアリン酸イソセチル、オレイン酸イソデシル、イソステアリン酸イソプロピル、ラノリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル、イソステアラミドDEA、イソステアリン酸、乳酸イソステアリル、ネオペンタン酸イソステアリル、ジャスミン(ジャスミナム・オフィシナレ)油、ホホバ(バクサス・チネンシス)油、ケルプ、ククイ(アレウリテス・モルカナ)ナッツ油、ラクタミドMEA、ラネス-16、酢酸ラネス-10、ラノリン、ラノリン酸、ラノリンアルコール、ラノリン油、ラノリンワックス、ラベンダー(ラバンデュラ・アングスティフォリア)油、レシチン、レモン(シトラス・メディカ・リモナム)油、リノール酸、リノレン酸、マカダミア・テルニフォリア・ナッツ油、ステアリン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、マルチトール、カツミレ(カモミラ・レキュチタ)油、セスキステアリン酸メチルグルコース、メチルシラノールPCA、微結晶ワックス、鉱物油、ミンクオイル、モルティエレラ油、乳酸ミリスチル、ミリスチン酸ミリスチル、プロピオン酸ミリスチル、ジカプリル酸/ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、オクチルドデカノール、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアロイルステアリン酸オクチルドデシル、ヒドロキシステアリン酸オクチル、パルミチン酸オクチル、サリチル酸オクチル、ステアリン酸オクチル、オレイン酸、オリーブ(オレア・エウロパエア)油、オレンジ(シトラス・アウランチウム・デュルシス)油、ヤシ(エラエイス・グイネンシス)油、パルミチン酸、パンテチン、パンテノール、パンテニルエチルエーテル、パラフィン、PCA、モモ(プルヌス・ペルシカ)核油、ピーナッツ(アラキス・ヒポガエ)油、PEG-8 C12 18エステル、PEG-15コカミン、PEG-150ジステアリン酸、イソステアリン酸PEG-60グリセリル、ステアリン酸PEG-5グリセリル、ステアリン酸PEG-30グリセリル、PEG-7水添ヒマシ油、PEG-40水添ヒマシ油、PEG-60水添ヒマシ油、セスキステアリン酸PEG-20メチルグルコース、PEG-40ペルオレイン酸ソルビタン、PEG-5大豆ステロール、PEG-10大豆ステロール、ステアリン酸PEG-2、ステアリン酸PEG-8、ステアリン酸PEG-20、ステアリン酸PEG-32、ステアリン酸PEG-40、ステアリン酸PEG-50、ステアリン酸PEG-100、ステアリン酸PEG-150、ペンタデカラクトン、ペパーミント(メンタ・ピペリタ)油、ワセリン、リン脂質、ポリアミノ糖縮合物、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-3、ポリクオタニウム-24、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポリソルベート85、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、ソルビン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、プロピレングリコール、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール、ジオクタン酸プロピレングリコール、ジペラルゴン酸プロピレングリコール、ラウリン酸プロピレングリコール、ステアリン酸プロピレングリコール、ステアリン酸SEプロピレングリコール、PVP、ジパルミチン酸ピリドキシン、クオタニウム-15、クオタニウム-18ヘクトライト、クオタニウム-22、レチノール、パルミチン酸レチニル、コメ(オリザ・サティバ)ヌカ油、RNA、ローズマリー(ロスマリヌス・オフィシナリス)油、バラ油、ベニバナ(カーサマス・ティンクトリアス)油、セージ(サルビア・オフィシナリス)油、サリチル酸、白檀(サンタラム・アルバム)油、セリン、血清タンパク質、ゴマ(セサマム・インディカム)油、シアバター(ブチロスパーマム・パーキー)、シルクパウダー、コンドロイチン硫酸ナトリウム、DNAナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ナトリウムPCA、ポリグルタミン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、水溶性コラーゲン、ソルビン酸、ラウリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタン、ソルビトール、大豆(グリシンソヤ)油、スフィンゴリピド、スクワラン、スクアレン、ステアリン酸ステアラミドMEA、ステアリン酸、ステアロキシジメチコーン、ステアロキシトリメチルシラン、ステアリルアルコール、グリチルレチン酸ステアリル、ヘプタン酸ステアリル、ステアリン酸ステアリル、ヒマワリ(ヘリアンサス・アナス)種子油、スイートアーモンド(プルーナス・アミグダラス・デュルシス)油、合成蜜ろう、トコフェロール、酢酸トコフェリル、リノレイン酸トコフェリル、トリベヘニン、ネオペンタン酸トリデシル、ステアリン酸トリデシル、トリエタノールアミン、トリステアリン、尿素、植物油、水、ワックス、小麦(トリチカム・ブルガレ)胚芽油、およびイランイラン(カナンガ・オドラータ)油が挙げられる。
【0255】
界面活性剤も、所望なら、本明細書において企図された特定の処方物に含まれていてもよく、陽イオン性、陰イオン性、双性イオン性もしくは非イオン性界面活性剤、またはそれらの混合物などの、化粧品組成物における使用に適した任意の天然または合成界面活性剤から選択することができる(Rosen, M., “Surfactants and Interfacial Phenomena,” Second Edition, John Wiley & Sons, New York., 1988, Chapter 1p431参照)。陽イオン性界面活性剤の例としては、非限定的に、DMDAOまたは他のアミンオキシド、長鎖第一級アミン、ジアミン、ポリアミンおよびそれらの塩、第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレン化された長鎖アミン、ならびに第四級化ポリオキシエチレン化された長鎖アミンを挙げることができる。陰イオン性界面活性剤の例としては、非限定的に、SDS;カルボン酸の塩(例えば石鹸);スルホン酸の塩、硫酸の塩、リン酸およびポリリン酸エステル;アルキルホスファート;モノアルキルホスファート(MAP);およびペルフルオロカルボン酸の塩を挙げることができる。双性イオン性界面活性剤の例としては、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン(CAPHS)、およびpH感受性があり処方物の至適pHを設計する際に特別な注意を必要とするその他のもの(すなわち、アルキルアミノプロピオン酸、カルボン酸イミダゾリン、およびベタイン)またはpH感受性でないもの(例えば、スルホベタイン、スルタイン) を挙げることができる。非イオン性界面活性剤の例としては、非限定的に、アルキルフェノールエトキシラート、アルコールエトキシラート、ポリオキシエチレン化されたポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化されたメルカプタン、長鎖カルボン酸エステル、アルカノールアミド、第三級アセチレングリコール、ポリオキシエチレン化されたシリコーン、N-アルキルピロリドン、およびアルキルポリグリコシダーゼを挙げることができる。湿潤剤、鉱物油または他の界面活性剤、例えば非イオン性洗剤またはPLURONIC(登録商標)シリーズ(BASF, Mt Olive, NJ)のうちの1種以上などの薬剤も、例えば非限定的理論により、微粒子懸濁液中のBT微粒子の凝集を防止するために、含まれていてもよい。界面活性剤の任意の組み合わせを、許容しうる。特定の実施形態は、相溶性である、即ち混合の際に感知できるほどに沈殿する錯体を形成しない、少なくとも1種の陰イオン性界面活性剤と少なくとも1種の陽イオン性界面活性剤、または少なくとも1種の陽イオン性界面活性剤と少なくとも1種の双性イオン性界面活性剤を含んでいてもよい。
【0256】
同じく特定の局所処方物中に存在しうる増粘剤の例としては、非限定的に、アクリルアミドコポリマー、アガロース、アミロペクチン、ベントナイト、アルギン酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボマー、カルボキシメチルキチン、セルロースガム、デキストリン、ゼラチン、水素化獣脂、ヒドロキシエチルセルロース(hydroxytheylcellulose)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルデンプン、アルギン酸マグネシウム、メチルセルロース、微結晶セルロース、ペクチン、様々なPEG類、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルアルコール、様々なPPG類、アクリル酸ナトリウムコポリマー、カラゲナンナトリウム、キサンタンガム、および酵母β-グルカンが挙げられる。先に列挙されたもの以外の増粘剤を、本発明の実施態様に用いてもよい。
【0257】
本明細書において企図された特定の実施態様によれば、BT処方物は、1種以上の日焼け防止剤またはUV吸収剤を含んでいてもよい。紫外線(UVAおよびUVB)吸収特性が望ましい場合、そのような薬剤は、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾフェノン-1、ベンゾフェノン-2、ベンゾフェノン-3、ベンゾフェノン-4、ベンゾフェノン-5、ベンゾフェノン-6、ベンゾフェノン-7、ベンゾフェノン-8、ベンゾフェノン-9、ベンゾフェノン-10、ベンゾフェノン-11、ベンゾフェノン-12、サリチル酸ベンジル、ブチルPABA、ケイヒ酸エステル、シノキサート、DEA-メトキシケイヒ酸、メチルケイヒ酸ジイソプロピル、エチルジヒドロキシプロピルPABA、ジイソプロピルケイヒ酸エチル、メトキシケイヒ酸エチル、エチルPABA、ウロカニン酸エチル、ジメトキシケイヒ酸オクタン酸グリセリル、グリセリルPABA、サリチル酸グリコール、ホモサレート、p-メトキシケイヒ酸イソアミル、チタン、亜鉛、ジルコニウム、ケイ素、マンガンおよびセリウムの酸化物、PABA、PABAエステル、Parsol 1789、ならびにサリチル酸イソプロピルベンジル、ならびにそれらの混合物を含んでいてもよい。当業者には、列挙されたもの以外の日焼け防止剤およびUV吸収剤または保護剤を本発明の特定の実施形態で用いてもよいことが、理解されよう。
【0258】
本明細書において開示されるBT処方物は、典型的には、約2.5~約10.0の間のpH値で効果的である。好ましくは、組成物のpHは、下記のpH範囲またはその近似値である:約pH5.5~約pH8.5、約pH5~約pH10、約pH5~約pH9、約pH5~約pH8、約pH3~約pH10、約pH3~約pH9、約pH3~約pH8、および約pH3~約pH8.5。最も好ましくは、pHは、約pH7~約pH8である。当業者は、pHを許容しうる範囲に調整するために、適切なpH調整成分を本発明の組成物に添加してもよい。処方物の組成および貯蔵条件により、pHが本来の値から変動しうることが認識されれば、「約」の付いた具体的なpHが、任意の所定の時間に実測されたpHが具体的な値よりも0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2または0.1pH単位以下だけ上下しうる処方物を含むことを、当業者は理解するであろう。
【0259】
クリーム、ローション、ゲル、軟膏、ペーストなどを、罹患した表面に延ばして、優しく擦り込んでもよい。溶液は、同じ方式で適用してもよいが、より典型的には、点滴器、綿棒などを用いて適用され、罹患領域に慎重に適用されるであろう。この適用レジメンは、感染の重症度および初期処置への応答性など、容易に決定されうる多くの要因によって決まる。当業者は、投与される処方物の適量、投与方法および反復の割合を直ちに決定することができる。一般に本発明のこれらおよび関連の実施形態の処方物は、週に1または2またはそれを超える回数から、1日1、2、3、4回またはそれを超える回数までの範囲で適用されることが企図される。
【0260】
同じく先に議論された通り、こうして本明細書において有用なBT処方物は、任意の適切な希釈剤または賦形剤をはじめとする許容可能な担体も含有し得るし、それ自体では組成物を投与される対象(例えば、植物または動物(ヒトを含む))に有害ではない任意の作用物質を含み、過度の毒性を示さずに投与することができる。許容可能な担体としては、非限定的に、液体、例えば水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノール等が挙げられ、粘度増強剤(例えば、バルサムモミ樹脂)またはコロジオンもしくはニトロセルロース溶液などの皮膜形成剤も含み得る。薬学的に許容可能な担体、希釈剤、および他の賦形剤の徹底した議論は、REMINGTON′S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub. Co., N.J.最新版)に示されている。
【0261】
BT処方物は、BT化合物と結合し、それにより被験体または製品上の所望の部位にそれを送達するかまたは保持するのを支援する作用物質を含み得る。この能力において作用し得る適切な作用物質としては、包接化剤、例えばシクロデキストリンが挙げられる;他の作用物質は、タンパク質またはリポソームを含み得る。
【0262】
BT処方物は有効量で投与され、適用され、混入されるが、その量は、種々の因子、例えば送達部位の性質(関連する場合)、用いられる特定BT化合物の活性(アミノグリコシド系抗生物質、例えばアミカシンなど抗生物質の処方物を含む、または含まないものなど);化合物の代謝安定性および作用期間;(植物またはヒトを含めた動物)被験体または製品のの状態;投与様式および時間;排泄速度;被験体または製品が受ける活性の通常経過におけるBT化合物の損失速度;ならびにその他の因子に応じて変動する。一般に治療的有効一日用量は、(70kgのホ乳類では)約0.001mg/kg(即ち、0.07mg)~約100mg/kg(即ち、7.0g);好ましくは治療的有効用量は、(70kgのホ乳類では)約0.01mg/kg(即ち、7mg)~約50mg/kg(即ち、3.5g);より好ましくは治療的有効用量は、(70kgのホ乳類では)約1mg/kg(即ち、70mg)~約25mg/kg(即ち、1.75g)である。植物の有効用量は、約10、20、50または75%またはそれ以上低いと予測され得る。
【0263】
本明細書において提供された効果的用量の範囲は、限定されるものではなく、好ましい用量範囲を表わす。しかし最も好ましい投与量は、関連の技術分野の当業者により理解され、決定しうる通り、各対象に適合させることになる(例えば、Berkow et al.,eds., The Merk Manual 16th edition, Merk and Co., Rahway, N.J.,1992;Goodman et al., eds., Goodman and Gilman′s The Pharmacological Basis of Therapeutics, 10th edition,Pergamon Press, Inc., Elmsford, N.Y.,(2001);Avery′s Drug Treatment: Principles and Practice of Clinical Pharmacology and Therapeutics, 3rd edition, ADIS Press,Ltd., Williams and Wilkins, Baltimore, MD.(1987), Ebadi, Pharmacology, Little, Brown and Co., Boston, (1985); Osolci al.,eds.,Remington′s Pharmaceutical Sciences, 18th edition, Mack Publishing Co., Easton, PA(1990);Katzung, Basic and Clinical Pharmacology, Appleton and Lange,Norwalk, CT(1992)参照)。
【0264】
所望により、各処置に必要な総用量を、その日のうちに反復投与または単回投与により投与することができる。特定の好ましい実施形態は、1日あたり、一週間当たり、10日当たり、14日当たりまたはそれより長い期間当たりで、BT処方物を単回適用することを企図する。一般に、異なる実施形態において、処置は、化合物の最適用量よりも少ない少なめの投与量で開始させてもよい。その後、その状況下で最適な効果に達するまで、投与量を少ない増分で増加させる。
植物および農業製品の保護のためのビスマス-チオール
【0265】
本明細書に開示されるある実施形態は、微生物感染および侵襲、例えばバイオフィルムから植物体および花を防御して、枯死を低減し、製品寿命を増大するための組成物および方法に関する。
【0266】
本明細書中に記載されるある実施形態、例えば上記で要約されたものによれば、細菌、真菌またはウイルス病原体に対して植物を防御するための方法であって、(i)細菌、真菌またはウイルス病原体による植物の感染の予防、(ii)細菌、真菌またはウイルス病原体の実質的に全てのプランクトン性細胞の細胞生存性または細胞増殖の阻害、(iii)細菌、真菌またはウイルス病原体によるバイオフィルム形成の阻害、および(iv)細菌、真菌またはウイルス病原体の実質的に全てのバイオフィルム型細胞のバイオフィルム生存性またはバイオフィルム成長の阻害、のうちの1つ以上のために十分な条件および時間で、植物を有効量のBT組成物と接触させることを包含する方法であり、BT組成物が、BT化合物を含む微粒子の実質的に単分散性懸濁液を含み、前記微粒子が、約0.5μm~約10μmの体積平均直径を有する方法が提供される。
【0267】
ある実施形態では、細菌病原体はエルウィニア・アミロボラ細胞を含み、そしてある実施形態では、細菌病原体は、エルウィニア・アミロボラ、キサントモナス・カンペストリス病原型dieffenbachiae、シュードモナス・シリンガエ、キシレラ・ファスチジオサ;キシロフィルス・アンペリヌス;モニリニア・フルクチコラ、パントエア・ステワルチイ亜種ステワルチイ、ラルストニア・ソラナセアルムおよびクラビバクター・ミシガネンシス亜種セペドニクスから選択される。ある実施形態では、細菌病原体は抗生物質耐性を示し、他のある実施形態では、細菌病原体はストレプトマイシン耐性を示す。ある実施形態では、植物は食用作物植物であり、これは、さらなるある実施形態では果樹であり、これはさらなる実施形態では、リンゴ、ナシ、モモ、ネクタリン、プラム、アンズの木から選択される。ある実施形態では、食用作物植物はバショウ属のバナナの木である。他のある実施形態では、食用作物植物は、塊根植物、マメ科植物および穀粒植物から選択される植物である。更なるある実施形態では、塊根植物は、馬鈴薯(ジャガイモ)および甘藷(サツマイモ)から選択される。
【0268】
ある実施形態では、接触ステップは、1回または複数回実施される。ある実施形態では、接触することのうちの少なくとも1つのステップは、植物に噴霧すること、植物を浸漬すること、植物を被覆することおよび植物に塗ることのうちの1つを含む。ある実施形態では、接触の少なくとも1つのステップは、植物の花蕾、新芽または成長部位で実施されるか、あるいは他の植物部分、例えば、根、球根、茎、葉、枝、蔓、匍匐枝、蕾、花またはその一部分、新芽、果実、種子、莢等で、そのの上または中で実施される。ある実施形態では、接触の少なくとも1つのステップは、植物における最初の開花の24、48または72時間以内に実施される。ある実施形態では、BT組成物は、BisBAL、BisEDT、Bis-ジメルカプロール、Bis-DTT、Bis-2-メルカプトエタノール、Bis-DTE、Bis-Pyr、Bis-Ery、Bis-Tol、Bis-BDT、Bis-PDT、Bis-Pyr/Bal、Bis-Pyr/BDT、Bis-Pyr/EDT、Bis-Pyr/PDT、Bis-Pyr/Tol、Bis-Pyr/Ery、ビスマス-1-メルカプト-2-プロパノールおよびBis-EDT/2-ヒドロキシ-1-プロパンチオールから選択される1つ以上のBT化合物を含む。
【0269】
上記方法のある実施形態では、当該方法は、植物とBT組成物とを接触するステップに関連して、同時的にまたは逐次的に、そして任意の順序で、植物を相乗性または増強性抗生物質と接触することをさらに包含する。さらなるある実施形態では、相乗性または増強性抗生物質は、アミノグリコシド系抗生物質、カルバペネム系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン系抗生物質、およびアミノペニシリン系抗生物質から選択される抗生物質を含む。ある実施形態では、相乗性または増強性抗生物質は、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンおよびアプラマイシンから選択されるアミノグリコシド系抗生物質である。
【0270】
別の実施形態では、その中または上に抗生物質耐性細菌性植物病原体が存在する植物における抗生物質耐性を克服するための方法であって、以下の:(a)以下のうちの1つ以上のために十分な条件および時間で、植物を有効量のBT組成物と接触させること:(i)抗生物質耐性細菌病原体による植物の感染の予防、(ii)抗生物質耐性細菌病原体の実質的に全てのプランクトン性細胞の細胞生存性または細胞増殖の阻害、(iii)抗生物質耐性細菌病原体によるバイオフィルム形成の阻害、および(iv)抗生物質耐性細菌病原体の実質的に全てのバイオフィルム型細胞のバイオフィルム生存性またはバイオフィルム成長の阻害
(この場合、前記BT組成物は、BT化合物を含む微粒子の実質的に単分散性の懸濁液を含み、前記微粒子は、約0.5μm~約10μmの体積平均直径を有する)、ならびに(b)植物とBT組成物とを接触するステップに関連して、同時的にまたは逐次的に、そして任意の順序で、植物を相乗性または増強性抗生物質と接触すること、を包含する方法が提供される。
ビスマス-チオール(BT)を基剤とする消毒薬
【0271】
上記のように、抗微生物(抗細菌、抗ウイルス、抗真菌)特性、特に抗細菌特性を有する多数の天然生成物(例えば抗生物質)および合成化学物質が当該技術分野で既知であり、少なくとも一部は、化学構造により、ならびに抗微生物作用、例えば、微生物を殺害する能力(「殺」作用、例えば殺細菌特性)、微生物増殖を停止し、減損する能力(「静」作用、例えば静菌特性)、あるいは微生物機能、例えばコロニー形成し、またはある部位に感染すること、エキソポリサッカリドの細菌分泌、および/またはプランクトン性集団からバイオフィルム集団への転換、またはバイオフィルム形成の拡大を妨害する能力により、特性化されている。抗生物質、殺菌薬、消毒薬等(ビスマス-チオールまたはBT化合物を含む)は、このような組成物の選択および使用に影響を及ぼす因子、例えば殺細菌または静菌能力、有効濃度、ならびに宿主組織に対する毒性の危険を含めて、上記で、そして米国特許第6,582,719号で考察されている。
【0272】
ビスマス-チオール(BT)、ならびに異なるV群金属(例えばヒ素、アンチモン)でビスマスが置換される関連チオール化合物が、上記で考察されている。約0.5μm~約10μmの体積平均直径を有する有益な微粒子BT組成物微粒子に関する組成物および方法も、本明細書中で考察されている。したがって、ある例示的実施形態は、植物における感染およびバイオフィルムを処置するかまたは防止するための、本明細書中に記載される抗微生物剤、例えば抗バイオフィルム剤の使用に関する。上記作用物質は、典型的には、0.0001重量%~0.001重量%の濃度で、アルカリ性形態で、1つ以上の微粒子ビスマス-チオールを含有する組成物中に存在する。組成物は、BTおよび1つ以上の担体または賦形剤を含み得るし、および/または他の成分、例えば他の適合性殺菌剤をさらに含み、好ましいある実施形態では、本明細書中に記載されるような相乗的または増強性抗生物質を含む。
【0273】
意図された、しかし非限定的なある実施形態内で保護されるべき標的作物としては、例えば、以下の植物種が挙げられる:穀類(例えば、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、コメ、モロコシおよび関連作物)、ビート(例えば、テンサイおよび飼料ビート)、梨状果、核果および軟果(例えば、リンゴ、ナシ、プラム、モモ、アーモンド、サクランボ、イチゴ、ラズベリーおよびブラックベリー)、マメ科植物(例えば、インゲンマメ、レンズマメ、エンドウマメ、ダイズ)、油植物(例えば、アブラナ、カラシ、ケシ、オリーブ、ヒマワリ、ココヤシ、ヒマシユ植物、カカオ豆、落花生)、ウリ科植物(例えば、キュウリ、セイヨウカボチャ、メロン)、繊維植物(例えば、ワタ、アマ、アサ、ジュート)、柑橘類果実(例えば、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、マンダリンオレンジ)、野菜(例えば、ホウレンソウ、レタス、アスパラガス、キャベツ、ニンジン、タマネギ、トマト、ジャガイモ、パプリカ)、クスノキ科(例えば、アボカド、肉桂、ショウノウ)、ならびにその他の植物、例えばトウモロコシ、タバコ、ナッツ、コーヒー、サトウキビ、茶、蔓植物、ホップ、バナナおよび天然ゴム植物、ならびに観賞植物(キク科)、例えば花卉植物およびその切花。したがって、ある実施形態は、作物品目を、本明細書中で提供されるような微粒子BT化合物のうちの1つ以上を含む組成物と接触させることにより、収穫される標的作物品目、例えば切花または標的作物由来食品(例えば、果物、野菜、穀粒、種子等)の製品寿命を拡大すること(例えば、当該品目が、本発明に記載の微粒子BTと接触されない対照群に比して、商業的に、栄養的に、および/または審美学的に有用である期間を、統計学的有意に延長すること)を意図する。
【0274】
これらのおよび関連の実施形態で用いるための本明細書中に記載されるような微粒子BTの有効濃度は、多数の因子、例えばBT、pH、温度、BT構成成分のモル比、ならびに危害微生物から選択されるものによって決まる。有効性も、感染の防止または現存する感染(バイオフィルム)の処置が特定の適用の目標であるか否かによって決まる。防止用量は、ほとんどの例で十分である。BTの有効持続濃度は、ほとんどの耐性生物体のほぼMICであると思われる。この濃度は、約1~2μg/mlの範囲であると思われるが、しかし具体的微粒子BT化合物(単数または複数)によっては8μg/mlまたはそれを超えることもある。例示的一実施形態では、微粒子Bisピリチオン(BisPyr)は、植物に適用するために5:1のモル比(ビスマス対ピリチオン)で提供される。別の実施形態では、微粒子形態での二元性ビスマス-チオール BisPys/Ery(ビス-ピリチオン/ジチオエリトリトール)は、広範囲抗微生物剤として提供され得る。さらに別の実施形態では、微粒子BTは、本明細書中に提供されるような具体的抗生物質、好ましくは相乗的または増強性抗生物質と組み合わされて、植物および切花/木に関する微生物感染に対する標的化された且つ強力な防御を提供し得る。BisEDTおよびゲンタマイシン間の観察された相乗作用に基づいて、このBT-抗生物質の組合せは、農業的適用のためのある実施形態において選択される。
【0275】
他の実施形態では、重曹(重炭酸ナトリウム)またはその他のアルカリ性物質(単数または複数)(例えば、重炭酸カリウム、炭酸カルシウム)の微粒子BT処方物への付加は、BTの抗微生物作用に付加するかまたはそれを増強し得る。農業用使用のための微粒子BT処方物中の他の成分としては、界面活性剤およびその他の抗微生物剤、例えば、クロルヘキシジン、サンギナリンエキス、メトロニダゾール、第四級アンモニウム化合物(例えば、セチルピリジニウムクロリド);ビスグアニド(例えば、クロルヘキシジンジグルコナート、ヘキセチジン、オクテニジン、アレキシジン);およびハロゲン化ビスフェノール系化合物(例えば、2,2′-メチレンビス-(4-クロロ-6-ブロモフェノール)または他のフェノール系抗菌化合物;アルキルヒドロキシベンゾアート;陽イオン性抗微生物ペプチド;アミノグリコシド;キノロン;リンコサミド;ペニシリン:セファロスポリン;マクロリド;テトラサイクリンならびにその他の抗生物質;タウロリジンまたはタウルルタム、A-dec ICX、コレウス・フォルスコリの精油;銀または銀コロイド抗微生物剤;スズまたは銅を基剤とする抗微生物剤;塩素または臭素酸化剤、マヌカオイル;オレガノ;タイム;ローズマリー;または他のハーブエキス;およびグレープフルーツシードエキス;抗炎症剤または酸化防止剤、例えばイブプロフェン、フルルビプロフェン、アスピリン、インドメタシン、アロエベラ、ターメリック、オリーブの葉の抽出物、クローブ、パンテノール、レチノール、オメガ-3脂肪酸、ガンマリノレン酸(GLA)、緑茶、ショウガ、グレープシード等;製薬上許容可能な担体、例えばデンプン、スクロース、水または水/アルコール系、DMSO等;界面活性剤、例えば陰イオン性、非イオン性、陽イオン性および双性イオン性または両性界面活性剤、あるいは植物材料由来のサポニン(例えば、米国特許第6,485,711号参照);緩衝液および塩;ならびに含まれ得るその他の成分、例えば漂白剤、例えば、ペルオキシ化合物;ペルオキシ二リン酸カリウム;発泡系、例えば、重炭酸ナトリウム/クエン酸系等が挙げられる。
【0276】
農業用使用および植物関する使用のための微粒子BT組成物は、、ある実施形態では、本明細書中に記載されるような、あるいはリポソームまたはナノ粒子形態での、付加的、増強性または相乗性作用を生じるこれらのおよび任意にその他の作用物質とも組み合わされて、活性および送達を増強し得る。ある実施形態は、明白に、リポソーム、例えばリン脂質(例えばホスホコリン)および/またはコレステロール含有リポソームを含む微粒子BT処方物を排除するが、一方、他のある実施形態は、そのように限定されず、これらのおよび他のリポソームを含み得る。担体、賦形剤、または表面への処方物の接着を促す他の添加剤(例えば、グルコース、デンプン、クエン酸、キャリアオイル、乳濁液、分散液、界面活性剤等)を含有する微粒子BTの特定処方物も製造され得る。
【0277】
他の意図される実施形態では、植物または農作物上で抗バイオフィルム剤として用いるための微粒子BT処方物は、バイオフィルム発達を制御するために他の作用物質と組み合わされ得る。例えば、種間クオラムセンシングは、バイオフィルム形成と関連づけられる、ということが知られている。LuxS依存性経路または種間クオラムセンシングシグナルを増大するある種の作用物質、例えばN-(3-オキソドデカノイル)-L-ホモセリンラクトン(OdDHL)遮断化合物およびN-ブチリル-L-ホモセリンラクトン(BHL)類似体(例えば米国特許第7,427,408号および第6,445,031号)は、バイオフィルムを制御するのに役立つ。本明細書中に記載される微粒子BTと組合されるこれらの抗バイオフィルム剤は、細菌バイオフィルム発達の抑制のため、ならび前形成バイオフィルムの処置のために、葉噴霧で送達され得る。別の実施形態では、これらの抗バイオフィルム剤は、制御放出のために生分解性微粒子内に、および/または他の抗微生物剤とともにリポソーム形態で、含有される。
【0278】
したがって、本発明に記載される微粒子BTは、ある実施形態によれば、他の現行技術とともに用いて、抗バイオフィルム作用を改善し得る。本発明の微粒子BTは、抗生物質ストレプトマイシンおよび/またはゲンタマイシンのある種の植物病原体に対する活性を相乗化するかまたは増強し得る。ストレプトマイシンは、細菌を殺害しないが、その代わり、それらの増殖を抑制し、したがって、花の柱頭がコロニー形成される速度を低減し、それにより蜜腺内の細菌のその後の増殖を減少させる(例えば、Domenico et al. J Antimicrob Chemo 1991 ;28:801 -10;Domenico et al. Research Advances in Antimicrob Agents Chemother 2003;3:79-85参照)。さらなる利益は、低減量のストレプトマイシンを安全に用いさせるのに十分なこの抗生物質の適用範囲および浸透を改善する活性剤型噴霧アジュバント(例えばRegulaid(商標))の使用により生じ得る。
【0279】
本発明の微粒子BTは、農業および植物微生物病原体と闘うために現在使用中の活性成分、例えば酸化剤、キレート化剤(例えば鉄キレート化剤)、殺菌剤および消毒剤のいずれかと組み合わされ得る。好ましい組合せは、それらの抗バイオフィルム作用に関して、付加的であり得るし、あるいは本開示に従って増強性または相乗性であり得る。ある実施形態は、例えば、接着特性増強を付与する疎水性チオール(例えばチオクロロフェノール)を用いることにより、表面でのBTの保持を増強するために、疎水性であるよう処方される微粒子BT組成物を意図する。正味負電荷を有するBT(例えば1:2モル比のビスマス対チオール)も、接着特性増強を有し得る。
【0280】
BT化合物微粒子懸濁液は、水性処方物として、ハロゲン化炭化水素噴射剤、分散油を含めた有機溶媒中の懸濁液または溶液として、あるいは乾燥粉末として投与され得る。水性処方物は、水圧または超音波性霧化を用いる液体ネブライザーによりエーロゾル化され得る。噴射剤ベースの系は、適切な加圧ディスペンサーを用い得る。乾燥粉末は、乾燥粉末ディスペンサー装置を用い得るが、これは、BT含有微粒子を有効に分散し得る。所望の粒子サイズおよび分布は、適切な装置を選択することにより得られる。
【0281】
本明細書全体を通して、他に必要がなければ、言語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」および「含んでいる」は、言及されたステップもしくは要素、またはステップ群もしくは要素群を包括し、任意の他のステップもしくは要素、またはステップ群もしくは要素群を除外しないことを意味すると理解されたい。「からなる」は、熟語「からなる」に続く事柄を含むことを意味し、それに限定される。つまり熟語「からなる」は、列挙された要素が必要または必須であり、他の要素が存在しえないことを示す。「本質的に~からなる」は、その熟語の後に列挙された任意の要素を含むことを意味し、列挙された要素に関する開示に明記された活性または作用と干渉しない、またはそれに寄与しない他の要素に限定される。つまり熟語「本質的に~からなる」は、列挙された要素が必要または必須であるが、他の要素は必要でなく、列挙された要素の活性または作用に影響を及ぼすか否かに応じて、存在しても、または存在しなくてもよい。
【0282】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形「a」、「an」、および「the」は、他に明記されない限りは、複数の参照例を含む。本明細書の特定の実施形態において用いられる用語「約」または「およそ」は、数値の前に存在する場合には、その値プラスまたはマイナス5%、6%、7%、8%または9%の範囲を示す。他の実施形態において用語「約」または「およそ」は、数値の前に存在する場合には、その値プラスまたはマイナス10%、11%、12%、13%または14%の範囲を示す。更に別の実施形態において用語「約」または「およそ」は、数値の前に存在する場合には、その値プラスまたはマイナス15%、16%、17%、18%、19%または20%の範囲を示す。
【0283】
参考文献:Badireddy et al., Biotechnol Bioengineering 2008;99:634-43; Badireddy et al., Biomacromolecules, 2008;9:3079-89;Bayston et al., Biomaterials 2009;30:3167-73. Codony et al., J Applied Microbiol 2003;95:288-93. Domenico et al., J Antimicrob Chemo 1991 ;28:801- 810. Domenico et al., Antimicrob Agents Chemother 1997;41:1697-703. Domenico et al., 1999 Infect Immun 67:664-669. Domenico et al., Antimicrob Agents Chemother 2001 ;45:1417-21. Domenico et al., Research Advances in Antimicrob Agents Chemother 2003;3:79-85. Domenico et al., Peptides 2004.;25:2047-53. Domenico et al., 2005 Antibiotics for Clinicians 9:291 -297. Dufrene, J Bacteriol 2004;186:3283-5. Eboigbodin et al., Biomacromolecules 2008;9:686-95. Feazel LM, Baumgartner LK, Peterson KL, et al. Opportunistic pathogens enriched in showerhead biofilms. PNAS 2009 (epub ahead of print). Geesey GG, Lewandowski Z, Flemming H-C (eds). Biofouling and biocorrosion in industrial water systems. CRC Press, Boca Raton, FL, 1994. Huang et al., J Antimicrob Chemother 1999;44:601-5; Juhni et al., Proceedings Annual Meeting Adhesion Society 2005;28:179-181. Omoike et al.,
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【0284】
以下の実施例は、例示として示されており、限定を示すものではない。
【0285】
実施例
実施例1
BT化合物の調製
以下のBT化合物を、Domenico他(U.S RE37,793号、U.S.6,248,371号、同6,086,921号、同6,380,248号)の方法により、またはBisEDTに関して以下に記載された合成プロトコルによる微粒子として、調製した。示されているのは、硫黄含有化合物と三価錯体を形成するのに用いられた反応体の理論比およびビスマスの公知の性向に基づく、比較としての、単一ビスマス原子に対する原子比である。カッコ内の数値は、1種の(または数種の)チオール剤に対するビスマスの比である(例えば、Bi:チオール1/チオール2;表1も参照)。
1)CPD 1B-1 Bis-EDT(1:1) BiC2H4S2
2)CPD 1B-2 Bis-EDT(1:1.5) BiC3H6S3
3)CPD 1B-3 Bis-EDT(1:1.5) BiC3H6S3
4)CPD 1C Bis-EDT(可溶性Bi調製物)(1:1.5) BiC3H6S3
5)CPD 2A Bis-Bal(1:1) BiC3H6S2O
6)CPD 2B Bis-Bal(1:1.5) BiC4.5H9O1.5S3
7)CPD 3A Bis-Pyr(1:1.5) BiC7.5H6N1.5O1.5S1.5
8)CPD 3B Bis-Pyr(1:3) BiC15H12N3O3S3
9)CPD 4 Bis-Ery(1:1.5) BiC6H12O3S3
10)CPD 5 Bis-Tol(1:1.5) BiC10.5H9S3
11)CPD 6 Bis-BDT(1:1.5) BiC6H12S3
12)CPD 7 Bis-PDT(1:1.5) BiC4.5H9S3
13)CPD 8-1 Bis-Pyr/BDT(1:1/1)
14)CPD 8-2 Bis-Pyr/BDT(1:1/0.5)
15)CPD 9 Bis-2ヒドロキシ,プロパンチオール(1:3)
16)CPD 10 Bis-Pyr/Bal(1:1/0.5)
17)CPD 11 Bis-Pyr/EDT(1:1/0.5)
18)CPD 12 Bis-Pyr/Tol(1:1/0.5)
19)CPD 13 Bis-Pyr/PDT(1:1/0.5)
20)CPD 14 Bis-Pyr/Ery(1:1/0.5)
21)CPD 15 Bis-EDT/2ヒドロキシ,プロパンチオール(1:1/1)
【0286】
微粒子ビスマス-1,2-エタンジチオール(Bis-EDT、可溶性ビスマス調製物)を、以下の通り調製した:
【0287】
15Lポリプロピレンカルボイ内の室温の5%水性HNO3の過剰量(11.4L)に、水性Bi(NO3)3溶液(43%Bi(NO3)3(w/w)、5%硝酸(w/w)、52%(w/w)水、Shepherd Chemical Co., Cincinnati, OH,製品番号2362;δ~1.6g/mL)0.331L(~0.575モル)を撹拌しながら緩やかに滴加して、無水エタノール(4L)を緩やかに添加した。少量の白色沈殿物が形成されたが、連続して撹拌すると溶解した。別個に、60mLシリンジを用いて、無水エタノール1.5Lに1,2-エタンジチオール(CAS 540-63-6)72.19mL(0.863モル)を添加し、その後、5分間撹拌することにより、1,2-エタンジチオールのエタノール性溶液(~1.56L、~0.55M)を調製した。その後、1,2-エタンジチオール/EtOH試薬を水性Bi(NO3)3/HNO3溶液に5時間かけて緩やかに滴加し、連続して一晩撹拌した。形成された生成物をおよそ15分間沈殿物として沈殿させ、その後、ペリスタポンプを用いて300mL/分でろ液を除去した。その後、生成物を15cm径ブフナー漏斗内の濾紙でろ過することにより回収し、エタノール、USP水およびアセトンそれぞれ500mL容量で3回ずつ引き続き洗浄して、BisEDT(694.51g/モル)を黄色非晶質粉末固体として得た。生成物を500mL褐色ガラス瓶に入れて、高真空下で48時間、CaCl2により脱水した。回収された材料(収量~200g)は、チオールに特徴的な臭気を放出した。粗生成物を無水エタノール750mLに再溶解し、30分間撹拌し、その後、ろ過して、エタノル50mLで3回、アセトン50mLで2回、引き続き洗浄し、アセトン500mLで再度洗浄した。再洗浄された粉末を1M NaOH(500mL)中で研和し、ろ過して水220mlで3回、エタノール50mLで2回、アセトン400mLで1回洗浄して、精製されたBisEDT156.74gを得た。本質的に同じ手法で調製された次のバッチは、収率約78.91%をもたらした。
【0288】
生成物は、1Hおよび13C核磁気共鳴(NMR)、赤外分光法(IR)、紫外分光法(UV)、質量分析(MS)および元素分析からのデータの分析により、先に示された式Iの構造を有することが特徴づけられた。HPLCの方法を開発して、BisEDTの化学純度を決定し、それにより試料をDMSO(0.5mg/mL)中に調製した。DMSO中のBisEDTの溶液を190~600nmでスキャニングすることにより、λmaxを測定した。265nm(λmax)でモニタリングするUV検出器を有し、注入容量2μLでYMC Pack PVC Sil NP(内径250×4.6mm)分析カラム(Waters)を備えたWaters(Millipore Corp.,Milford, MA)モデル2695クロマトグラフを用い、アセトン:水(9:1)中の0.1%ギ酸を移動相として、1mL/分での無勾配HPLC溶離を周囲温度で実施し、単一ピークを検出して、化学的純度100±01%を示した。元素分析は、式(I)の構造と一致した。
【0289】
乾燥粒子物質を、粒子径の特性を評価するために特徴づけた。手短に言えば、微粒子を2%Pluronic(登録商標)F-68(BASF、Mt. Olive, NJ)に再懸濁させて、その懸濁液を標準設定の水浴音波装置内で10分間音波処理した後、Nanosizer/Zetasizer Nano-S粒子分析機(モデルZEN1600(ゼータ電位測定能を有さない)、Malverm Instruments,Worcestershire, UK)を用いて製造業者の推奨に従って分析した。2つの測定値をまとめたデータから、微粒子が一峰性分布を示し、全ての検出可能な事象が体積平均径(VMD)0.6ミクロン~4ミクロンの間で生じ、約1.3ミクロンにピークVMDを有していた。これに反してBisEDTを先行技術の方法(Domenico et al., 1997 Antimicrob. Agents Chemother. 41(8):1697-1703)により調製すると、粒子の大部分がヘテロ分散で有意に大きなサイズとなり、VMDに基づく特徴づけが不可能となった。
【0290】
実施例2
慢性創傷感染のコロニーバイオフィルムモデル:BT化合物による阻害
慢性創傷内に存在する細菌は、バイオフィルムのライフスタイルを採り入れるため、本質的には記載された方法に従って(Anderl et al., 2003 Antimicrob Agents Chemother 47:1251-56; Walters et al., 2003 Antimicrob Agents Chemother 47:317; Wentland et al., 1996 Biotchnol. Prog. 12:316; Zheng et al., 2002 Antimicrob Agents Chemother 46:900)、調製されたバイオフィルムを用いて、細菌細胞生存に対する効果について、BTをバイオフィルムに対して検査した。
【0291】
手短に言えば、コロニーバイオフィルムを10%トリプシン大豆寒天上で24時間発育させて、トリートメント含有Mueller Hintonプレートへ移し入れた。処理の後、バイオフィルムを2%w/vグルタチオン(BTの中和)含有ペプトン水に分散させて、ペプトン水で系列希釈した後、カウント用プレートにスポットした。慢性創傷から単離された2種の細菌を別個に、検査用のコロニーバイオフィルムを生成する際に用いた。これらは、シュードモナス・エルギノーサのグラム陰性菌株、およびグラム陽性菌であるメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)であった。
【0292】
細菌バイオフィルムコロニーを、本質的に記載された通り(Anderl et al., 2003 Antimicrob Agents Chemother 47:1251-56; Walters et al., 2003 Antimicrob Agents Chemother 47:317; Wentland et al., 1996 Biotchnol. Prog. 12:316; Zheng et al., 2002 Antimicrob Agents Chemother 46:900)、寒天プレート上の微細孔膜の上で発育させた。コロニーバイオフィルムは、他のバイオフィルムモデルの熟知された特性の多くを示しており、例えばそれらは、高水和マトリックス中に高密度に凝集された細胞で構成されていた。他でも報告された通り(Brown et al., J Surg Res 56:562;Millward et al., 1989 Microbios 58:155; Sutch et al., 1995 J Pharm Pharmacol 47:1094;Thrower et al., 1997 J Med Microbiol 46;:425)、コロニーバイオフィルム内の細菌が、より高性能のインビトロバイオフィルムリアクター内での定量で、同様に顕著に低下した抗微生物感受性を示すことが観察された。コロニーバイオフィルムは、直ちに、そして再生可能に大多数発生した。非限定的理論によれば、このコロニーバイオフィルムモデルは、感染された創傷の特性の幾つかを共有しており、細菌は、バイオフィルムおよび最小量の流体の下から供給された栄養素との空気界面で発育した。インビボ栄養条件を模倣すると考えられる血液寒天など、様々な栄養素の供給源を、コロニーバイオフィルムを培養するのに用いた。
【0293】
コロニーバイオフィルムは、25mm径ポリカーボネートフィルター膜上へプランクトン性細菌液体培地5μlのスポットを接種することにより、調製した。接種前に膜へ片面あたり10分間ずつ紫外線を暴露することにより、滅菌した。接種物を37℃の細菌培地で一晩発育させ、新しい培地で、600nmで0.1の光学密度に希釈した後、膜に付着させた。その後、発育培地を含む寒天プレート上に、膜を置いた。その後、プレートに蓋をして37℃のインキュベータに反転させて入れた。24時間ごとに、滅菌ピンセットを用いて、膜およびコロニーバイオフィルムを新しいプレートへ移し入れた。コロニーバイオフィルムを、典型的には発育の48時間後に実験に用い、その時間には膜あたりおよそ109個の細菌が存在した。コロニーバイオフィルム法は、非常に様々な単一種および混合種バイオフィルムの培養への使用に成功した。
【0294】
抗微生物剤(例えば、BT化合物の組み合わせなどのBT化合物;抗生物質;およびBT化合物-抗生物質・組み合わせ)への感受性を測定するために、コロニーバイオフィルムを、候補となる抗微生物処置剤を補足した寒天プレートへ移し入れた。抗微生物処置への暴露期間が24時間を超えたら、コロニーバイオフィルムを新しい処置プレートに毎日移動させた。処置期間の終了時に、緩衝液10mlを含む試験管にコロニーバイオフィルムを入れて、1~2分間ボルテックスにかけてバイオフィルムを分散させた。幾つかの例において、試料を組織ホモジナイザーで簡単に処理して、細胞凝集物を破壊する必要があった。得られた細胞懸濁液を、その後系列希釈して静置し、生存する細菌を数え上げて、単位面積あたりのコロニー形成単位(CFU)として報告した。生存データは、log10変換を利用して分析した。
【0295】
細菌バイオフィルムコロニー培養物の各タイプについて(シュードモナス・エルギノーサ、PA;メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス、MRSAまたはSA)、5種の抗生物質および13種のBT化合物を検査した。PAに対して検査された抗微生物剤は、本明細書においてBisEDTならびに化合物2B、4、5、6、8-2、9、10、11および15(表1参照)と呼ばれるBTと、抗生物質トブラマイシン、アミカシン、イミペニム、セファゾリン、およびシプロフロキサンと、を含むものであった。SAに対して検査された抗微生物剤は、BisEDTならびに化合物2B、4、5、6、8-2、9、10および11(表1参照)と呼ばれるBTと、抗生物質リファンピシン、ダプトマイシン、ミノサイクリン、アンピシリン、およびバンコマイシンとを含むものであった。先に「図面の簡単な説明」で記載された通り、抗生物質は、確立された微生物学的方法論に従って、最小阻止濃度(MIC)のおよそ10~400倍の濃度で検査した。
【0296】
7種のBT化合物は、検査された濃度でPA細菌生存に対して顕著な効果を示し、2種のBT化合物は、検査された濃度でMRSA生存に対して顕著な効果を実証し;細菌生存に対するBTの効果を示す代表的な結果を、BisEDTおよびBT化合物2B(PAに対して検査)に関しては
図1に、そしてBT化合物2Bおよび8-2(SAに対して検査)に関しては
図2に示しており、両者とも示された抗生物質の効果に相対させている。同じく
図1および2に示す通り、示された抗生物質との組み合わせで、示されたBT化合物を含有すると、相乗効果が得られ、それにより細菌生存を低下させる能力が、抗生物質単独またはBT化合物単独のいずれかの抗菌効果に比較して増強した。PA生存アッセイにおいて、80μg/mLの濃度の化合物15(BisEDT/2-ヒドロキシ,プロパンチオール(1:1/1))が、1600μg/mL AMK+80μg/mL BisEDTの組み合わせを用いて得られた効果(
図1)に匹敵する効果(図示しない)を示した。
【0297】
実施例3
慢性創傷感染のドリップフローバイオフィルムモデル
BT化合物による阻害
ドリップフローバイオフィルムは、細菌バイオフィルムを形成させて、それに対して候補となる抗菌化合物の効果を検査するための公認の信頼性のあるモデルである。ドリップフローバイオフィルムは、ドリップフローリアクターの溝に入れたクーポン(基質)上に生成する。すりガラス顕微鏡スライドなど、多くの異なるタイプの材料を、細菌バイオフィルム形成用の基板として用いることができる。栄養性液体培地をドリップフローバイオリアクターの細胞チャンバーに上部付近で滴加することにより、培地をチャンバーに入れ、その後、クーポンの長さに10℃の傾斜で流す。
【0298】
バイオフィルムをドリップフローバイオリアクター内で発育させて、BT化合物に単独で、または抗生物質化合物と組み合わせて、そして/または抗生物質化合物に単独で、またはBT化合物をはじめとする他の抗菌剤と組み合わせて、または慢性創傷用の他の従来処置もしくは候補処置に暴露する。こうしてBT化合物を、ドリップフローリアクター内の細菌バイオフィルムへの効果に関して特徴づける。ドリップフローリアクター内のバイオフィルムは、確立された方法論に従って調製される(例えば、Stewart et al., 2001 J Appl Microbiol. 91:525;Xu et al., 1998 Appl. Environ. Microbiol. 64:4035)。この設計は、カバーのあるチャンバー内で傾けたポリスチレンクーポン上でバイオフィルムを培養することを含む。例示的な培地は、慢性創傷などのインビボのバイオフィルム発育条件と類似した、血清蛋白質が高濃度で鉄濃度が非常に低い条件を模倣する5%v/v成体ドナーウシ血清(pH6.8)を補足した、1g/lグルコース、0.5g/l NH4NO3、0.25g/l KCl、0.25g/l KH2PO4、0.25g/l MgSO4・7H2Oを含有している。それぞれが10cm×1.9cmで深さ1.9cmである4つの別々の並行チャンバー内に含まれる4つのクーポンの上に、この培地を滴加して流す(5ml/時)。チャンバーに分けられたリアクターを、ポリスルホンプラスチックで組み立てた。チャンバーのそれぞれに、緊密に閉鎖しうる個々の取り外し可能なプラスチック蓋を取り付ける。バイオフィルムリアクターを37℃のインキュベータに入れて、細菌細胞培地をインキュベータ内に保持されたアルミニウム加熱槽に通過させることにより、加温する。この方法は、特定のバイオフィルム内で観察された抗生物質耐性フェノタイプを再現しており、流体せん断力の低い環境と慢性創傷の空気界面的特徴への近似性とを模倣する一方で栄養素の連続補充を提供し、導入された候補の抗菌レジメンの効果を特徴づけてモニタリングする多数の分析方法と適合する。ドリップフローリアクターは、非常に様々な純粋および混合種バイオフィルムの培養への使用に成功した。バイオフィルムは、典型的には2~5日間発育させた後、抗微生物剤を適用する。
【0299】
ドリップフローリアクター内で発育させたバイオフィルムに対する抗バイオフィルム剤の効果を測定するために、バイオフィルムの上を通過する流体流れを、所望の処置処方物(例えば、1種以上のBT化合物および/または1種以上の抗生物質、または対照、および/または他の候補剤)で改変または補充する。流れを特定の処置期間、継続させる。処置されたバイオフィルムクーポンを、その後、リアクターから手短に取り出して、緩衝剤10mlを含むビーカーにバイオフィルムをこすり取る。試料を組織ホモジナイザーで手短に(典型的には30秒~1分間)処理して、細菌凝集物を分散させる。懸濁液を系列希釈して、標準の微生物学的方法論に従って生存する微生物を数え上げる。
【0300】
実施例4
創傷バイオフィルムによる、角化細胞の掻き傷修復の阻害:BT化合物によるバイオフィルム抑制
この実施例は、創傷治癒の確立されたインビトロ角化細胞掻き傷モデルを改変して、バイオフィルム関連の創傷病理および創傷治癒への関連性、詳細には急性もしくは慢性創傷または本明細書に記載された創傷含有バイオフィルムへの関連性を有するモデルへ到達することを記載している。慢性創傷バイオフィルムの効果についての角化細胞掻き傷モデルにより、ホ乳類(例えばヒト)角化細胞および細菌バイオフィルム集団の培養を、互いに流動接触している別個のチャンバー内で進行させて、バイオフィルムにより同化された可溶性成分の、角化細胞創傷治癒事象に対する効果に影響を及ぼす条件の効果の評価を可能にする。
【0301】
新生児ヒト包皮細胞を、処理済みプラスチックディッシュ内で単層として培養し、その単層内で、制御された「創傷」または掻き傷を機械的手段により形成させる(例えば、滅菌されたメス、かみそり、細胞スクレーパ、ピンセット、または他の器具などの適切な道具を用いて単層の領域の間の本質的に直線上の無細胞ゾーンを引っ掻くなど、単相の物理的破壊による)。インビトロ角化細胞単層モデルシステムは、インビボでの創傷治癒を模擬する手法で、創傷事象に応答して細胞の構造的および機能的プロセスを受けることが公知である。本明細書に開示された実施形態によれば、そのようなプロセスに対する、例えば掻き傷の治癒時間に対する、細菌バイオフィルムの存在の影響を観察して、これらおよび関連の実施形態において、選択された候補の抗微生物(例えば、抗菌および抗バイオフィルム)処置の存在の効果も評価される。
【0302】
バイオフィルムの存在下で培養された創傷のある角化細胞単層を、形態学的、生化学的、分子遺伝子学的、細胞生理学的および他のパラメータにより調査して、BT化合物の導入がバイオフィルムの障害的影響を変化させるか(例えば、適切な対照に対して統計学的に有意な手法で増加または減少させるか)を決定する。各BT化合物処置の毒性を検査した後でモデル創傷治癒プロセスへのバイオフィルムの影響に対するそのような処置の効果を評価するために、最初に創傷を各BT化合物のみ、およびBT化合物の企図された組み合わせに暴露する。
【0303】
代表的な実施形態において、先の組織培養ウェルに保持されていて、創傷治癒プロセスを開始するために引っ掻かれる角化細胞単層と流体連通している膜(例えば、TransWellメンブレンインサートなど)の上で、3日目のバイオフィルムを培養する。本物の急性または慢性創傷から培養されたバイオフィルムが、これらおよび関連の実施形態における使用に企図される。
【0304】
こうして、ヒト角化細胞の遊走および増殖に対する可溶性バイオフィルム成分の効果を評価するインビトロシステムが、開発された。そのシステムは、バイオフィルムおよび角化細胞を、透析膜を用いて分離する。角化細胞を、先に記載された通り(Fleckman et al., 1997 J Invest. Dermatol. 109:36; Piepkorn et al., 1987 J Invest. Dermatol. 88:215-219)新生児包皮から培養し、ガラスカバースリップ上にコンフルエントな単層として発育させる。その後、角化細胞の単層を引っ掻いて、均一の幅の「創傷」を生成させて、その後、細胞修復プロセスをモニタリングすることができる(例えば、Tao et al., 2007 PLoS ONE 2:e697; Buth et al., 2007 Eur. J Cell Biol. 86:747; Phan et al., 2000 Ann. Acad. Med. Singapore 29:27)。その後、無菌技術を用いて、その人工的な創傷を滅菌両側チャンバー(double-sided chamber)の底に入れて、チャンバーを組み立てる。抗生物質および/またはビスマス-チオールを含む、または含まない角化細胞発育培地(EpiLife)を、チャンバーの両側に充填する。無接種のシステムを、対照として用いる。
【0305】
創傷から単離された細菌をシステムに接種し、静的条件で2時間インキュベートして、細菌を上部チャンバー内の表面に付着させる。付着期間に続いて、液体培地流れを上部チャンバー内で開始させて、付着されていない細胞を除去する。その後、付着されていない細胞を洗い出すことにより、上部チャンバー内のプラクトン性細胞の発育を最小限にする速度で、培地の流れを継続させる。6~48時間の範囲内のインキュベート時間の後、システム(カバースリップ上の角化細胞単層および膜基板上の細菌バイオフィルム)を分解し、カバースリップを取り出して分析する。関連の実施形態において、成熟したバイオフィルムを上部チャンバー内で発育させた後、チャンバーを組み立てる。他の関連の実施形態において、例えば創傷修復が起こる間経過する時間または他の創傷修復の徴候など、掻き傷治癒の少なくとも1種の指標を変化させる(例えば、適切な対照に対して統計学的に有意な手法で増加または減少させる)薬剤または薬剤の組み合わせを同定するために、角化細胞の掻き傷修復に対する、BT化合物などの候補剤または潜在的相乗性のBT化合物+抗生物質・組み合わせ(例えば、微粒子形態で提供されるBTなど本明細書で提供されるBT化合物、ならびにアミカシン、アンピシリン、セファゾリン、セフェピム、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、クリンダマイシン(または他のリンコサミド系抗生物質)、ダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、ドキシサイクリン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、イミペニム、レボフロキサシン、リネゾリド(Zyvox(登録商標))、ミノサイクリン、ナフシリン、パロモマイシン、リファムピン、スルファメトキサゾール、トブラマイシンおよびバンコマイシンうちの1種以上)の効果を決定するために、バイオフィルムおよび掻き傷のある角化細胞単層の別々の共培養を、場合により1種以上の抗生物質を含み、または含まずに、1種以上のBT化合物の非存在下または存在下で実施する(例えば、Tao et al., 2007 PLoS ONE 2:e697; Buth et al., 2007 Eur. J Cell Biol. 86:747; Phan et al., 2000 Ann. Acad. Med. Singapore 29:27)。
【0306】
実施例5
創傷バイオフィルムによる、角化細胞の掻き傷修復の阻害
単離されたヒト角化細胞を、ガラスカバースリップ上で培養して、先の実施例4に記載された方法論に従って掻き傷を作製した。創傷された培養物を、角化細胞培養物と流体連通している膜支持体上で、培養条件下、単独で、または共培養されたバイオフィルムの存在下で保持した。その後、角化細胞の細胞発育および/または遊走が掻き傷のゾーン全体で角化細胞単層を再度定着させる間の掻き傷閉鎖の時間間隔を、測定した。
図3は、バイオフィルムの流体連通による(しかし直接接触していない)存在が引っ掻かれた角化細胞単層の治癒時間に与えた効果を示している。
【0307】
従って特定の実施形態において、候補となる抗バイオフィルム剤が存在する、または存在しない細菌バイオフィルムの存在下で、掻き傷のある細胞(例えば、角化細胞または線維芽細胞)単層を培養すること;および候補となる抗バイオフィルム剤の非存在下および存在下で掻き傷のある細胞単層の治癒の指標を評価すること、を含み、ここで、治癒の少なくとも1種の指標を促進する薬剤(例えば、本明細書に記載された実質的に単分散のBT微粒子懸濁液などのBT化合物を単独で、または抗生物質、例えばアミカシン、アンピシリン、セファゾリン、セフェピム、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、クリンダマイシン、ダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、ドキシサイクリン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、イミペニム、レボフロキサシン、リネゾリド(Zyvox(登録商標))、ミノサイクリン、ナフシリン、パロモマイシン、リファムピン、スルファメトキサゾール、トブラマイシンおよびバンコマイシンのうちの1種以上と相乗的な組み合わせで)が、急性もしくは慢性創傷、またはバイオフィルムを含む創傷を処置する適切な薬剤として同定される、慢性創傷を処置する薬剤を同定する方法が企図される。
【0308】
実施例6
相乗的なビスマス-チオール(BT)抗生物質の組み合わせ
この実施例は、1種以上のビスマス-チオール化合物と、複数の抗生物質耐性菌など様々な菌種および菌株に対する1種以上の抗生物質との組み合わせによる、実証された相乗的効果の例を示す。
【0309】
材料と方法 感受性試験を、NCCLSプロトコル(National Committee for Clinical Laboratory Standards.(1997). Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria that Grow Aerobically: Approved Standard M7-A2 and Informational Supplement M100-S10. NCCLS, Wayne, PA, USA)を遵守して、96ウェル組織培養プレート(Nalge Nunc International, Denmark)でのブロス希釈により実施した。
【0310】
手短に言えば、一晩の細菌培養を利用して、0.5 McFarland標準懸濁液を調製し、それを陽イオン調整Mueller-Hintonブロス培地(BBL,Cockeysville, MD, USA)で更に1:50(~2×106cfu/ml)希釈した。BT(先に記載された通り調製)および抗生物質を増加濃度で添加して、最終容量を0.2mLに一定に保持した。培養物を37℃で24時間インキュベートし、製造業者の推奨に従ってELISAプレートリーダー(Biotek Instruments, Winooski, VT, USA)を用いて、630nmでの吸光度により濁度を評価した。最小阻止濃度(MIC)は、24時間の発育を阻止する最低薬物濃度として表した。栄養寒天上の標準のプレーティングにより、生存細菌数(cfu/mL)を測定した。最小殺菌濃度(MBC)は、接種の24時間目に初期生存性を99.9%低下させた薬物濃度として表した。
【0311】
チェッカーボード法を用いて、抗微生物的組み合わせの活性を評価した。部分阻止濃度指数(FICI)および部分殺菌濃度指数(FBCI)を、Eliopoulos他(Antibiotics in Laboratry Medicine(Lorian, V., Ed.),pp.330-96,Williams and Wilkins、Baltimore, MD, USA内のEliopoulos and Meollering,(1996)Antimicrobial combinations.)に従って計算した。相乗性は、FICIまたはFBCI指数が0.5以下と定義し、0.5を超え4以下は相互作用なし、4を超えたものは拮抗性と定義した(Odds, FC(2003) Synergy, antagonism, and what the chequerbord puts between them. Journal of Antimicrobial Chemotherapy 52:1)。従来通り、抗生物質濃度の4倍以上の低下も、相乗性として定義した。
【0312】
結果を表2~17に表わす。
【表2】
BE=0.2μg/ml BisEDT;菌株は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのClinical Microbiology Laboratoryから得た。ナフシリンは、Sigma(St. Louis, MO)から得た。
【表3】
BE=0.2μg/ml BisEDT;菌株は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのClinical Microbiology Laboratoryから得た。ナフシリンは、Sigmaから得た。
【表4】
BE=0.2μg/ml BisEDT;菌株S2446-3は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのClinical Microbiology Laboratoryから得た。抗体は、Sigmaから得た。
【表5】
GM=ゲンタマイシン;菌株S2400-1は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのClinical Microbiology Laboratoryから得た。ゲンタマイシンは、WinthropのPharmacy Departmentから得た。太字は相乗性。
【表6】
μg/mlでのデータ;菌株S2400-1は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのClinical Microbiology Laboratoryから得た。抗生物質は、WinthropのPharmacy Departmentから得た。
【表7】
μg/mlでのデータ;菌株S2400-1は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのClinical Microbiology Laboratoryから得た。抗生物質は、WinthropのPharmacy Departmentから得た。
【表8】
μg/mlでのデータ;菌株S2400-1は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのClinical Microbiology Laboratoryから得た。抗生物質は、WinthropのPharmacy Departmentから得た。
【表9】
μg/mlでのデータ;抗生物質は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのPharmacy Departmentから得た。
【表10】
AB=抗生物質;CM=クロラムフェニコール;AM=アンピシリン;BE=0.3μg/mlのBisEDT、菌株は、Department of Molecular Genetics and Cell Biology,The Universiity of Chicago, Chicago,ILのDr. MJ Casadabanの研究室から得た。抗生物質は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのPharmacy Departmentから得た。
【表11】
DOX=ドキシサイクリン;BE=0.3μg/mlのBisEDT;菌株は、Department of Bacteriology, The University of Bristol, Bristol, UKのDr.I Chopraの研究室から得た。抗生物質は、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのPharmacy Departmentから得た。
【表12】
Agr=アミノグリコシド耐性;NN=トブラマイシン;PA=シュードモナス・エルギノーサ;BE=BisEDT、0.3μg/ml;菌株は、Department of Microbiology and Immunology, Queens University, Ontario, CNのDr. K. Pooleの研究室から得た。トブラマイシンは、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのPharmacy Departmentから得た。
【表13】
NN=トブラマイシン;BE=BisEDT、0.4μg/ml;菌株は、Department of Pediatrics and Communicable Disease, University of Michigan, Ann Arbor, MIのDr. J. J. LiPumaの研究室から;そして同じくVeloira.他,2003により得た。トブラマイシンは、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのPharmacy Departmentから得た。
【表14】
NN=トブラマイシン;BE=BisEDT、0.4μg/ml;菌株は、Department of Pediatrics and Communicable Disease, University of Michigan, Ann Arbor, MIのDr. J. J. LiPumaの研究室から;そして同じくVeloira.他,2003により得た。トブラマイシンは、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのPharmacy Departmentから得た。
【表15】
NN=トブラマイシン;BE=BisEDT、0.8μg/ml;Lipo-BE-NN=リポソームBE-NN;菌株は、Department of Chemistry and Biochemistry, Laurentian University, Ontario, CNのDr. A. Omriの研究室から得た(M株は、粘液様B.セパシア;PA=緑膿菌;SA=黄色ブドウ球菌)。トブラマイシンは、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのPharmacy Departmentから得た。
【表16】
NN=トブラマイシン;BE=BisEDT、0.8μg/ml;Lipo-BE-NN=リポソームBE-NN;菌株は、Department of Chemistry and Biochemistry, Laurentian University, Ontario, CNのDr. A. Omriの研究室から得た(M株は、粘液様B.セパシア;PA=緑膿菌;SA=黄色ブドウ球菌)。トブラマイシンは、Winthrop-University Hospital, Mineola, NYのPharmacy Departmentから得た。
【表17】
BE=BisEDT;NaPYR=ナトリウムピリチオン;化学薬品は、Sigma Aldrichから得た。太字は相乗性。示された菌株は、American Type Culture Collection (ATCC, Manassas, VA)からのものであった。
【0313】
実施例7
抗生物質耐性菌株を含むグラム陽性およびグラム陰性菌に対するビスマス-チオール(BT)および抗生物質の効果の比較
この実施例において、BisEDTおよび比較剤のインビトロ活性を、皮膚および軟部組織感染を担うグラム陽性および陰性菌の複数の臨床単離物に対して評価した。
【0314】
材料と方法 検査化合物および検査濃度範囲は、以下の通りである:BisEDT(Domenico et al 1997; Domenico et al., Antimicrob. Agents. Chemother. 45(5):1417-1421、および実施例1)、16~0.015μg/mL;リネゾリド(ChemPacifica Inc., #35710)、64-0.06μg/mL;ダプトマイシン(Cubist Pharmaceuticals #MCB2007)、32~0.03μg/mlおよび16~0.015μg/mL;バンコマイシン(Sigma-Aldrich, St. Louis、MO,#V2002)、64~0.06μg/mL;セフタジジム(Sigma #C3809)、64~0.06μg/mLおよび32~0.03μg/mL;イミペネム(米国薬局方、NJ,#1337809)、16~0.015μg/mLおよび8~0.008μg/mL;シプロフロキサシン(米国薬局方、#IOC265)、32~0.03μg/mLおよび4~0.004μg/mL;ゲンタマイシン(Sigma #G3632)32~0.03μg/mLおよび16~0.015μg/mL。ゲンタマイシン以外の検査物質は全て、DMSOに溶解し、ゲンタマイシンは、水に溶解した。原液は、検査プレート内の最高濃度の40倍で調製した。検査システムのDMSOの最終濃度は、2.5%であった。
【0315】
生物体 検査生物体は、以下の臨床検査室から得た:CHP, Clarian Health Partners, Indianapolis, IN; UCLA, Univercity of California Los Angeles Medical Center, Los Angeles, CA; GR Micro, London, UK; PHRI TB Cener, Public Health Research Institute Tuberculosis Center, New York, NY; ATCC, American Type Culture Collection, Manassas, VA; Mt Sinai Hosp., Mount Sinai Hospital, New York, NY; UCSF, University of California San Francisco General Hospital, San Francisco, CA; Bronson Hospital, Bronson Methodist Hospital, Kalamazoo, MI; 品質管理用単離物は、American Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA)からのものであった。各生物体に適した寒天培地での単離のために、生物体をストリークした。コロニーをスワブにより単離プレートから取り出して、凍結保護物質を含む適切なブロス中の懸濁液に入れた。懸濁液を低温貯蔵バイアルに分取して、-80℃に保持した。略語:BisEDT、ビスマス-1,2-エタンジチオール;LZD、リネゾリド;DAP、ダプトマイシン;VA、バンコマイシン;CAZ、セフタジジム;IPM、イミペネム;CIP、シプロフロキサシン;GM、ゲンタマイシン;MSSA、メチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウス;CLSI QC、Clinical and Laboratory Standards Instituteの品質管理株;MRSA、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス;CA-MRSA、市中感染型メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス;MSSE、メチシリン感受性スタフィロコッカス・エピデルミディス;MRSE、メチシリン耐性スタフィロコッカス・エピデルミディス;VSE、バンコマイシン感受性エンテロコッカス。
【0316】
単離物を、凍結バイアルから適切な培地(ほとんどの生物体でTrypticase Soy Agar(Becton-Dickinson, Sparks, MD)、またはストレプトコッカス属用のTrypticase Soy Agar+5%ヒツジ血液(Cleveland Scientific, Bath, OH))上へストリークした。プレートを35℃で一晩インキュベートした。品質管理用生物体を、含ませた。MICアッセイ用に用いられた培地は、ほとんどの生物体でMueller Hinton II Broth(MHB II-Becton Dickinson, #212322)であった。MHBIIに2%溶解ウマ血液(Cleveland Scientific Lot#H13913)を補足して、ストレプトコッカス・ピオゲネスおよびストレプトコッカス・アガラクチアの発育に適応させた。培地を通常重量の102.5%で調製して、微量希釈パネルの各ウェルに薬物溶液5μLを添加することにより生じる希釈を相殺した。加えて、ダプトマイシンでの検査では、培地に追加の25mg/L Ca2+を補足した。
【0317】
MICアッセイ法は、Clinical and Laboratory Standards Institute(Clinical and Laboratory Standards Institute. Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibyity Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard-Seventh Edition. Clinical and Laboratory Standards Institute document M7-A7[ISBN 1-56238-587-9]. Clinical and Laboratory Standards Institute,940 West Valley Road, Suite 1400, Wayne, Pennsylvania 19087-1898 USA, 2006)に記載された手順に従っており、自動リキッドハンドラーを用いて系列希釈および液体移動を実施した。自動リキッドハンドラーは、Multidrop 384(Labsystems, Helsinki, Finland)、Biomek 2000およびMultimek 96(Beckman Coulter, Fullerton CA)を含むものであった。標準の96ウェル微量希釈プレート(Falcon 3918)の2~12列目のウェルに、DMSOまたはゲンタマイシン用の水150μLをMultidrop 384で充填した。薬物(300μL)を、これらのプレート内の適切な行の1列目に分配した。これらは、検査プレート(ドータープレート)を調製する際のマザープレートになった。Biomek 2000により、マザープレートの11列目までの系列移動を完了した。12列目のウェルは、薬物を含まず、ドータープレートでは生物体発育制御ウェルであった。ドータープレートに適切な検査培地(先に記載)185μLをMultidrop 384を用いて添加した。Multimek 96機器で、薬物溶液5μLをマザープレートの各ウェルから各ドータープレートの各対応するウェルへ一段階で移し入れることにより、ドータープレートを調製した。
【0318】
各生物体の標準接種物を、CLSI法により調製した(ISBN 1-56238-587-9、先に引用)。懸濁液を0.5マクファーランド標準液の濁度と等しくなるように、MHB中で調製した。懸濁液を生物体に適したブロスで1:9に希釈した。各生物体の接種物を縦に分かれた滅菌リザーバ(Beckman Coulter)に分配し、Biomek 2000を用いてプレートに接種した。接種が低い薬物濃度から高い薬物濃度へ行われるように逆に向けたBiomek 2000の作業面に、ドータープレートを静置した。Biomek 2000が、標準化された接種物10μLを各ウェルへ送達した。これにより、ドータープレートの最終細胞濃度およそ5×105コロニー形成単位/mLが得られた。こうしてドータープレートのウェルは、最終的にブロス185μL、薬物溶液5μL、および細菌接種物10μLを含んでいた。プレートを3枚ずつ積み重ね、最上プレートに蓋をかぶせて、プラスチック袋に入れ、単離物のほとんどを37℃でおよそ18時間インキュベートした。ストレプトコッカスのプレートを、20時間のインキュベーション後に読み取った。プレートビューワーを用いて、マイクロプレートを底から見た。検査培地それぞれで、未接種の可溶性対照プレートを、薬物沈殿の証拠に関して観察した。MICを、生物体の視覚的な発育を阻害した最低薬物濃度として読み取り記録した。
【0319】
結果 市販の薬物は全て、両方の培地での全ての検査濃度に可溶性であった。BisEDTは、32μg/mLで微量の沈殿物を示したが、検査された生物体全ての阻害濃度がその濃度よりも十分に低かったため、MICの読み取りに影響を及ぼさなかった。各アッセイ日に、適切な品質管理用菌株を、MICアッセイに含ませた。これらの菌株から得られたMIC値を、適宜、各薬物について公表された品質管理範囲(Clinical and Laboratory Standards Institute. Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; Eighteenth Informational Supplement. CLSI document M100-S18[ISBN 1-56238-653-0]. Clinical and Laboratory Standards Institute、940 West Valley Road, Suite 1400, Wayne, Pennsylvania 19087-1898 USA, 2008)と比較した。
【0320】
各アッセイ日に、適切な品質管理用菌株を、MICアッセイに含ませた。これらの菌株から得られたMIC値を、適宜、各薬物について公表された品質管理範囲(Clinical and Laboratory Standards Institute. Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; Eighteenth Informational Supplement. CLSI document M100-S18[ISBN 1-56238-653-0])と比較した。品質管理範囲が公表された品質管理株の141種の値のうち、140種(99.3%)が明記された範囲内であった。1種の例外は、黄色ブドウ球菌29213株に対するイミペネムであり、一度の実施で得られた1つの数値が公表されたQC範囲より1希釈分低かった(0.008μg/mL以下)。その実施の際の他の品質管理の結果は全て、明記された品質管理範囲内であった。
【0321】
BisEDTは、メチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウス(MSSA)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、および市中感染型MRSA(CA-MRSA)対する強力な活性を実証し、1μg/mL以下で検査された菌株全てを阻害し、MIC90値が3種の生物体群全てで0.5μg/mLであった。BisEDTは、リネゾリドおよびバンコマイシンよりも大きな活性、そしてダプトマイシンと同等の活性を示した。イミペネムは、MSSAに対してBisEDTよりも強力であった(MIC90=0.03μg/mL)。しかし、MRSAおよびCAMRSAは、イミペネムに耐性があったが、BisEDTは、MSSAで示されたものと同等の活性を実証した。BisEDTは、メチシリン感受性およびメチシリン耐性スタフィロコッカス・エピデルミディス(MSSEおよびMRSE)に対して高活性であり、MIC90がそれぞれ0.12および025μg/mLであった。BisEDTは、MSSEに対して、イミペネム以外で試験された他の薬剤のいずれよりも活性があった。BisEDTは、MRSEに対して検査された最も活性のある薬剤であった。
【0322】
BisEDTは、バンコマイシン感受性エンテロコッカス・フェカーリス(VSEfc)に対してダプトマイシン、バンコマイシン、およびイミペネムと同等の活性を実証し、MIC90値が2μg/mLであった。重要なこととして、BisEDTは、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェカーリス(VREfc)に対して検査された最も活性のある薬剤であり、MIC90値は1μg/mLであった。
【0323】
BisEDTは、バンコマイシン感受性エンテロコッカス・フェシウム(VSEfm)に対して非常に活性があり、MIC90値が2μg/mLであり、その活性は、ダプトマイシンと同等または類似しており、バンコマイシンよりも1希釈分高かった。BisEDTおよびリネゾリドは、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(VREfm)に対して検査された最も活性のある薬剤であり、それぞれが2μg/mLのMIC90値を実証した。ストレプトコッカス・ピオゲネスに対するBisEDTの活性(MIC90値が0.5μg/mL)は、バンコマイシンと同等であり、リネゾリドよりも大きく、ダプトマイシンおよびセフタジジムよりもわずかに低かった。その化合物は、0.5μg/mL以下で検査された菌株全てを阻害した。これらの試験において、BisEDTに少なくとも感受性のある菌種は、ストレプトコッカス・アガラクチアであり、観察されたMIC90値は、16μg/mLであった。BisEDTは、ゲンタマイシン以外では、検査された薬剤全てよりも低い活性であった。
【0324】
含まれたグラム陰性菌に対するBisEDTおよび比較物質の活性から、アシネトバクター・バウマニーに対するBisEDTの効力が実証され(MIC90値が2μg/mL)、BisEDTが検査された最も活性のある化合物となった。比較剤用の試験単離物のかなりの数でMICが上昇しており、これらの薬剤では測定域を外れたMIC90値となった。BisEDTは、大腸菌の強力な阻害剤であり、2μg/mL以下で菌株全てを阻害した(MIC90=2μg/mL)。その化合物は、イミペネムよりも活性が低いが、セフタジジム、シプロフロキサシンおよびゲンタマイシンよりも活性が高かった。BisEDTは、クレブシエラ・ニューモニエに対する活性も実証し、MIC90値はイミペネムと同等の8μg/mLであった。イミペネム、セフタジジム、シプロフロキサシン、およびゲンタマイシンにより示された比較的高いMIC90値から、これが抗生物質耐性の高い生物体群であることが示された。BisEDTは、シュードモナス・エルギノーサに対して検査された最も活性のある化合物であり、MIC90値が4μg/mLであった。この群の検査単離物では比較剤に対して高レベルの耐性が存在した。
【0325】
要約すると、BisEDTは、ヒトにおける急性および慢性皮膚および皮膚構造感染に一般に関与する菌種など、複数の菌種を代表する複数の臨床単離物に対して広域スペクトルの能力を示す。BisEDTおよび重要な比較剤の活性を、グラム陽性およびグラム陰性菌の臨床単離物723種に対して評価した。BT化合物は、広域スペクトル活性を実証し、この試験での多数の検査生物体に関して、BisEDTは、抗菌活性について検査された最も活性のある化合物であった。BisEDTは、MSSA、MRSA、CA-MRSA、MSSE、MRSEおよびS.ピオゲネスに対して最も活性があり、MIC90値は、0.5μg/mL以下であった。強力な活性が、VSEfc、VREfc、VSEfm、VREfm、A.バウマニー、大腸菌、および緑膿菌でも実証され、MIC90値は、1~4μg/mLの範囲内であった。MIC90値が、K.ニューモニエ(MIC90=8μg/mL)およびS.アガラクチア(MIC90=16μg/mL)で観察された。
【0326】
実施例8
微粒子BT-抗生物質の増強および相乗活性
この実施例は、微粒子ビスマス-チオール(BT)が、増強的および/または相乗的相互作用を通して抗生物質活性を促進することを示している。
【0327】
感染を処置する際の主な複雑化要因は、細菌の抗生物質耐性の出現である。S.エピデルミディス(MRSE)および黄色ブドウ球菌(MRSA)におけるメチシリン耐性は、実際に多剤耐性を表わし、それがこれらの病原の根絶を非常に困難にしている。しかし、検査された何百もの菌株のスタフィロコッカス属は、BTへの耐性を示さなかった。更に亜阻止(subMIC)濃度のBTは、複数の重要な抗生物質に対して耐性を低下させた。
【0328】
スタフィロコッカス・アウレウス MRSAに対するsubMICのビスマスエタンジチオール(BisEDT)の抗生物質再感作的効果(antibiotic-resensitizing effects)のグラフ表示を提供すると(
図4)、ゲンタマイシン、セファゾリン、セフェピム、イミペネム、スルファメトキサゾール、およびレボフロキサシンをはじめとする複数の分類の抗生物質による増強性抗生物質作用が示される。つまりBisEDTは、ほとんどの抗生物質の活性を非特異的に増強した。
【0329】
subMICレベルのBisEDTと組み合わせた複数の抗生物質を用いて、ブロス希釈による抗微生物感受性試験を、12のMRSA菌株に対して実施した。バイオフィルム予防濃度(BPC)および最小阻止濃度(MIC)の両方を、特別なバイオフィルム培地(BHIG/X)で測定した。ゲンタマイシンおよびセファゾリンのMICおよびBPCは、subMICのBisEDTにより低下したが(BisEDT MIC、0.2~0.4μg/mL)、感受性のブレークポイント未満ではなかった。subMICのBisEDTは、ガチフロキサシンおよびセフェピムへのMRSAの感受性を、感受性のブレークポイント付近まで増強した。これらの菌株は、バンコマイシンには既に感受性があったが、subMICのBisEDTの存在下では更に顕著になった。概してMICおよびBPCは、subMICのBisEDTによって2~5倍低下した。
【表18】
12のMRSA臨床単離物をBHIG/X中で発育させて、0~0.1μg/mL BisEDTの存在下で抗生物質の系列希釈物に暴露した。μg/mLで計算されたMICおよびBPCは、少なくとも3回のトライアルから得た平均±標準偏差である。右側の列は、抗生物質感受性(S)および耐性(R)に関する標準MICを列挙している。
【0330】
セフェピム耐性MRSA単離物のブロス希釈試験を、表19に示す。0.1μg/mLのBisEDTは、12種の単離物のうち11種で、セフェピムの阻害活性を有意に増強した。この特定の試験において、データは、BisEDTとセフェピムの間の相乗性を示しており(FIC<0.5)、単離物の多くが感受性のブレークポイントにあった。
【表19】
12種のセフェピム耐性MRSAを、subMICのBisEDTと組み合わせたセフェピムへの感受性について、ポリスチレンプレート内のBHIG/X培地で37℃で48時間検査した。
【0331】
ナフシリンまたはゲンタマイシンでの組み合わせ試験の結果を、表20に示す。ナフシリンと組み合わせたBisEDT(0.2μg/mL)は、ナフシリンのMIC90をMRSAに対して4倍を超えて低下させた(FIC、0.74)。ゲンタマイシンと組み合わせたBisEDTは、ゲンタマイシンのMIC90をMRSAに対して10倍を超えて低下させた(FIC、0.6)。BTは、検査されたゲンタマイシン耐性単離物の4種全ての、臨床的に関連する濃度への耐性を抑制した[Domenico et al., 2002]。これらの抗微生物剤のMICは、特にゲンタマイシンに関して、実質的に低下した。これらの試験に用いられたブロスは、2%グルコースを含むTrypticase Soy Broth(TSB)であり、1%ヒツジ血液を補強したMueller-Hinton IIブロス中で認められたものと類似の結果を示した。
【表20】
NAFまたはGMはμg/mLを表わし;BEは0.2μg/mL
【0332】
スタフィロコッカス・エピデルミディス 抗生物質のほとんどの分類の活性が、BisEDTの存在下で促進された。BPCに関して、クリンダマイシンおよびガチフロキサシンは、BisEDTと組み合わせた場合に、S.エピデルミディスに対して有意に高い抗バイオフィルム活性を示した(
図5)。異なる項目で述べると、クリンダマイシン、ガチフロキサシンおよびゲンタマイシンのBPCは、subMICのBisEDTの存在下でそれぞれ50倍、10倍および4倍低下した。
【0333】
バイオフィルム予防濃度(BPC)のわずかな低下が、ミノサイクリン、バンコマイシン、およびセファゾリンで認められたが、リファンピシンおよびナフシリンは、0.05μg/mL BisEDTで依然として影響を示さなかった。0.1μg/mL BisEDTでは、用いられた抗生物質とは無関係にバイオフィルムが検出されず、拮抗性が生じなかったことが表わされる。このBisEDT濃度は、S.エピデルミディスのMICに近似していた[Domenico et al., 2003](
図5参照)。
【0334】
発育阻害に関して、検査された8種の抗生物質のうち7種が、S.エピデルミディスに対して、0.1μg/mL(0.5μM)BisEDTの存在下で有意に増強された(
図6)。MICの変動は、クリンダマイシンおよびゲンタマイシンで最も顕著であり、続いてバンコマイシン、セファゾリン、ミノサイクリン、ガチフロキサシンおよびナフシリンであり、リファンピシンは影響を及ぼさなかった。これらの菌株は、抗生物質のうち(NC、CZ、GM、CM)に耐性があり、セファゾリン耐性のみが、BisEDTにより臨床的に関連するレベルに抑制された。
【0335】
S.エピデルミディスに対して検査されたほとんどの抗生物質の最小殺菌濃度(MBC)が、subMICのBisEDTによりわずかに低下した。ゲンタマイシンは、MBCの最大低下を示し(4倍~16倍)、続いてセファゾリン(4倍~5倍)、バンコマイシンおよびナフシリン(3倍~4倍)、ミノサイクリンおよびガチフロキサシン(2倍~3倍)となり、クリンダマイシンおよびリファンピシンのMBCは、依然として大きな影響を受けなかった。クリンダマイシンは、静菌剤であり、殺菌活性がないことが説明される。セファゾリン耐性は、MBCに関しては抑制された[Domenico et al., 2003]。これらの効果は、相加的であった。
【0336】
抗微生物剤の効能は、インビボでのラット移植片感染モデルにおいても実証された(表21)。0.1μg/mLという低レベルのBisEDTで、7日間の耐性S.エピデルミディス・バイオフィルムの予防を促進することができた。
【0337】
表21に要約された通り、0.1μg/mL BisEDT、10μg/mL RIPおよび10μg/mLリファンピンを単独で、または組み合わせて含浸させた移植片をラットの皮下へ移植した。2×107cfu/mlのMSおよびMR菌株を含む生理学的溶液(1ml)を、ツベルクリン注射器を用いて移植片の表面へ接種した。移植片は全て、移植後7日目に取り出して、滅菌生理食塩液中で5分間音波処理して、付着した細菌を除去した。希釈物を血液寒天プレート上で培養することにより、生存する細菌の定量を得た。検出限界は、およそ10cfu/cm2であった。
【表21】
【0338】
グラム陰性菌 耐性シュードモナス・エルギノーサに対するトブラマイシンの活性が、subMICのBisEDTにより数倍増強された(表22)。これらのトライアルにおいて、MICをIC24として、より正確に定義した。
【表22】
緑膿菌の耐性株を、トブラマイシン(NN)およびBisEDT(BE;0.33μg/ml)の存在下、37℃のMueller-Hinton IIブロス中で培養した。MICを、24±1時間の発育を阻害する抗生物質濃度として測定した。
【0339】
トブラマイシン耐性バークホルデリア・セパシアに対して、0.4μg/mL BisEDTは、10種の単離物のうち7種をトブラマイシン感受性にし(平均FIC;0.48)、MIC90を10倍低下させた(表23)。トブラマイシンのMICおよびMBCは両者とも、subMICのBisEDTにより50種の臨床的バークホルデリア・セパシア単離物に対して実現可能なレベルまで有意に低下した[Veloria et al., 2003]。リポソーム形態のBisEDTおよびトブラマイシンは、緑膿菌に対して立証された高い相乗性を有する(Halwani et al., 2008; Halwani et al., 2009)。
【表23】
【0340】
クロラムフェニコールおよびアンピシリン耐性大腸菌は、subMICのBisEDTの添加により、これらの薬物への感受性となった(表24)。
【表24】
大腸菌の耐性株を、単独または組み合わせでのクロラムフェニコール(CM)またはアンピシリン(AMP)およびBisEDTの存在下、37℃のMueller-Hinton IIブロス中で培養した(BE:0.33μg/ml)。MICを、24±1時間の発育を阻害した抗生物質濃度として測定した。
【0341】
テトラサイクリン耐性大腸菌は、subMICのBisEDTの添加により、テトラサイクリンに対して感受性となった(表25)。その組み合わせは、TET MおよびTET D株に対して相乗性を示し(FIC≦0.5)、TET AおよびTET B株に対して相加効果を示した。
【表25】
大腸菌の耐性株を、単独または組み合わせでのドキシサイクリン(DOX)およびBisEDTの存在下、37℃のMueller-Hinton IIブロス中で培養した(BE:0.33μg/ml)。MICを、24±1時間の発育を阻害した抗生物質濃度として測定した。
【0342】
参考資料
Domenico P, R O′Leary, BA Cunha. 1992. Differential effect of bismuth and salicylate compounds on antibiotic sensitivity of Pseudomanas aeruginosa. Eur J Clin Microbiol Infec Dis 11:170-175; Domenico P, D Parikh, BA Cunha. 1994. Bismuth modulation of antibiotic activity against gastrointestinal bacterial pathogens. Med Microbiol Lett 3:114-119; Domenico P, Kazzaz JA, Davis JM, Niederman MS.2002. Subinhibitory bismuth ethanedithiol(BisEDT)sensitizes resistant Staphylococcus aureus to nafcillin or gentamicin. Annual Meeting, ASM, Salt Lake City, UT; Domenico P, Kazzaz JA, Davis JM. 2003. Combating antibiotic resistance with bismuth-thiol. Research Advances in Antimicrob Agents Chemother 3:79-85; Domenico P, E Gurzenda, A Giacometti, O Cirioni, R Ghiselli, F Orland, M Korem, V Saba, G Scalise, N Balaban. 2004. BisEDT and RIP act in synergy to prevent graft infections by resistant staphylococci. Peptides 25:2047-2053; Halwani M, Blomme S, Suntres ZE, Alipour M, Azghani AO, Kumar A, Omri A. 2008. Liposomal bismuth-ethanedithiol formulation enhances antimicrobial activity of tobramycin. Intl J Pharmaceut 358:278-84;Halwani M, Hebert S, Suntres ZE, Lafrenie RM, Azghani AO, Omri A. 2009. Bismuth-thiol incorporation enhances biological activities of liposomal tobramycin against bacterial biofilm and quorum sensing molecules production by Pseudomonas aeruginosa. Int J Pharmaceut 373:141-6; Veloira WG, Gurzenda EM, Domenico P, Davis JM, Kazzaz JA. 2003. Synergy of tobramycin and bismuth thiols against Burkholderia cepacia. J Antimicrob Chemother 52:915-919.
【0343】
実施例9
微粒子BT-抗生物質の増強および相乗活性
この実施例は、微粒子ビスマスチオールであるBisEDTが、特異的な微生物標的生物体に対する特異的抗生物質との増強的および/または相乗的相互作用を通して抗生物質活性を促進することを示す。表26に示された各組み合わせの一点データは、本質的には実施例8で用いられた方法に従って作成した。
【表26】
SA、スタフィロコッカス・アウレウス;MRSA、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス;EFc、エンテロコッカス・フェカーリス;SP、ストレプトコッカス・ニューモニエ;PRSP、ペニシリン耐性ストレプトコッカス・ニューモニエ;EC、大腸菌;KP、クレブシエラ・ニューモニエ;PA、シュードモナス・エルギノーサ;Bcep、バークホルデリア・セパシア;Bmult、バークホルデリア・マルチボランス;Abau、アシネトバクター・バウマニー;Msmeg、マイコバクテリウム・スメグマチス
【0344】
実施例10
微粒子BT-抗生物質の増強および相乗活性
先に記載された通り調製された微粒子BisEDTおよび4種のBisEDT類似体と他の薬剤との組み合わせの、複数のグラム陰性病原菌の代表的菌株に対する効果を検査した。一般的検査法の変法を利用して、用いられた部分阻止濃度(FIC)およびFIC指数(FICI)の相乗性(FICI≦0.5)、増強性(0.5<FICI≦1.0)、拮抗性(FICI>4.0)および重要性なし(1.0<FICI≦4.0)を決定した(V Lorian. Williams and Wikins, Baltimore, MDにより編集されたAntibiotics in Laboratory Medicine, Third Edition, pp.432-492内のElipoulos G and R Moellering. 1991. Antimicrobial combinations.; Odds, 2003 J. Antimicrob. Chemother. 52(1):1)。チェッカーボード技術を用いて、FIC指数を決定し、この試験に用いた。
【表27】
【0345】
全ての検査物質の原液を、適切な溶媒で最終目的濃度の40倍に調製した。検査物質は全て、これらの条件下で溶液であった。菌株が検査剤に対して全体的に耐性とならない限り、各検査生物体に関する各薬剤のMIC値が一括されるように、FICアッセイプレート内の最終薬物濃度を設定した。検査された濃度範囲を、表27に示している。検査生物体は、最初、臨床的供給源から、またはAmerican Type Culture Collectionから入手した。入手の際に、単離物をTryptic Soy Agar II(TSA)上にストリークした。コロニーをこれらのプレートから回収し、凍結保護物質を含有する適切なブロス発育培地で細胞懸濁液を調製した。その後、アリコットを-80℃で凍結した。所定のアッセイで検査される生物体の凍結シードを解凍し、単離するためにTSAプレートにストリークし、35℃でインキュベートした。生物体は全て、Mueller-Hinton II Broth(Beckton Dickinson、ロット番号9044411)で検査した。ブロスを通常の重量/容量の1.05倍で調製して、最終的な試験プレートの薬物の5%容量を相殺した。
【0346】
最終阻止濃度(MIC)値は、好気性菌用のブロス微量希釈法を利用して、これまで通り測定した(Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI). Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard-Eight Edition. CLSI document M07-A8[ISBN 1-56238-689-1]. Clinical and Laboratory Standards Institute、940 West Valley Road, Suite 1400, Wayne, Pennsylvania 19087-1898 USA, 2009)。
【0347】
FIC値は、過去に記載されたブロス微量希釈法を用いて測定した(Sweeney et al., 2003 Antimicrob. Agents Chemother. 47(6):1902-1906)。検査プレートを調製するために、自動リキッドハンドラー(Multidrop 384, Labsystems, Helsinki, Finland; Biomek 2000およびMultimek 96, Beckman Coulter, Fullerton CA)を用いて、系列希釈および液体移動を実施した。
【0348】
Multidrop 384を用いて、標準の96ウェル微量希釈プレート(Falcon 3918)の適切なウェルに適切な溶媒150μLを、2列目から12列目まで充填した。各第二の検査薬300μLを、プレートの1列目の各ウェルに添加した。これらのプレートを用いて、薬物の組み合わせプレート用の系列希釈を提供する薬物の「マザープレート」を調製した。Biomek 2000を用いて、マザープレートの1列目のウェルから各第二の薬物溶液(40倍)150μLを移し入れて、11個の2倍希釈系列を生成した。Bis-EDT(および類似体)のマザープレートを、マルチチャンネルピペットを用いて用手法で上から下へ系列希釈した。2枚のマザープレート、つまり各第二の薬物用の1枚およびBis-EDT(または類似体)用の1枚を組み合わせて、(マルチチャンネルピペットを用いて)同容量を薬物組み合わせプレートへ移し入れることにより、「チェッカーボード」パターンを形成させた。H行および12列は、それぞれMICを測定する薬物の1種単独での系列希釈を含んでいた。
【0349】
「ドータープレート」に、Multidrop 384を用いて検査培地180μLを添加した。その後、Multimek 96を用いて、薬物溶液10μLを、薬物組み合わせマザープレートの各ウェルからドータープレートの対応する各ウェルへ一段階で移し入れた。最後に、ドータープレートに検査生物体を接種した。各生物体の標準化接種物を、公表されたガイドライン(CLSI,2009)により調製した。全ての単離物について、各生物体の接種物を縦に分かれた滅菌リザーバ(Beckman Coulter)へ分配し、Biomek 2000を用いてプレートに接種した。機器により標準化接種物10μLを各ウェルへ送達して、ドータープレート内の最終細胞濃度およそ5×105コロニー形成単位/mLを得た。
【0350】
検査フォーマットにより、各化合物を単独で(12列目および8行目)、そして薬物濃度を様々な比で組み合わせて検査する8×12のチェッカーボードを作製した。生物体プレートは全て、3枚ずつ積み重ね、最上プレートに蓋をかぶせて、プラスチック袋に入れ、35℃でおよそ20時間インキュベートした。インキュベーションの後、マイクロプレートをインキュベータから取り出し、ScienceWareプレートビューワを用いて底から見た。準備された読み取りシートに、薬物1(H行目)のMIC、薬物2(12列目)のMICおよび発育ありとなしの境界のウェルを記入した。
【0351】
エクセルプログラムを用いて、式:(組み合わせにおける化合物1のMIC/化合物1単独のMIC)+(組み合わせにおける化合物2のMIC/化合物2単独のMIC)によりFICを測定した。チェッカーボード用のFICIは、式:(FIC1+FIC2+...FICn)/n(式中、n=FICを計算するプレートあたりの各ウェルの数)により、各FICから計算した。単独の薬物で測定域を外れたMIC結果を生じた場合には、最高の次の濃度を、FIC計算でのMIC値として用いた。
【0352】
微粒子Bis-EDT、4種の微粒子BT類似体、および他の薬剤(および薬剤の組み合わせ)の全てが、全ての最終検査濃度で可溶性であった。測定されたMICおよびFICI値を、以下の表に示す。
【表28】
【表29】
【表30】
【表31】
【表32】
【表33】
【表34】
【表35】
【表36】
【表37】
【表38】
【表39】
【表40】
【表41】
【表42】
【表43】
【表44】
【表45】
【表46】
【表47】
【0353】
実施例11
ドブネズミの大腿骨臨界欠損における感染へのビスマス-チオールの効果
開放骨折のための現行のケア標準法は、イリゲーション、壊死組織除去および抗生物質であり、これは、創傷における細菌量を感染が生じない程度に減少させることを意図するものである。これらの処置にもかかわらず、感染は、戦争による重度の脛骨開放骨折の最大75%を複雑化させる。興味深いことに、初期感染が、多くの場合グラム陰性菌により起こるとしても、治癒問題および切断に関与する後期感染は、グラム陽性菌感染、多くはスタフィロコッカス種によるものである(Johnson 2007)。
【0354】
黄色ブドウ球菌が標準処置に耐性である理由の一つは、バイオフィルムを形成する能力である。バイオフィルム内の細菌は、培地中の類似の生物体を殺傷する抗微生物化合物の濃度に耐えることができる(Costerton 1987)。
【0355】
この試験の目的は、BTが単独または抗生物質と一緒になって、汚染された開放骨折モデルでの感染を低減するか、を決定することであった。汚染されたラット大腿骨臨界欠損モデルは、十分に容認されたモデルであり、この実施例に記載された実験に用いた。このモデルは、様々な潜在的処置およびその効果を、感染の低減および/または治癒の改善に関して比較するための標準化モデルである。
【0356】
化合物(CPD)CPD-8-2(ビスマス-ピリチオン/ブタンジチオール;表1)およびCPD-11(ビスマスピリチオン/エタンジチオール;表1)は、Bis-EDTとは異なるスペクトルの活性を有するにもかかわらず、インビトロでバイオフィルム分泌細菌に対する能力を示した2種のBIS-Bis類似体である。
【0357】
3種のBT処方物:Bis-EDT、CPD-11およびCPD-8-2(表1参照)は、ポリメチルメタクリラート(PMMA)セメントビーズビヒクル中のトブラマイシンおよびバンコマイシンを伴って、または伴わずに用いた場合、インビトロでの黄色ブドウ球菌株に対して阻害効果を示した。微粒子BTの3種の処方物を、本明細書に記載された臨床的に有用なハイドロゲル形態で製造した。これらのBTを、ゲル送達のための適切な濃度であることが見出された5mg/ml-1濃度で、ゲルに懸濁させて検査した。ゲル処方物は、創傷の輪郭に適合し、適用後に除去する必要はなかった。
【0358】
2つの処置目的を利用し、第一の目的ではBTを単独で用い、第二の目的ではBTを全身性抗生物質(ABx)と一緒に使用した。
【0359】
(a)BT単独
黄色ブドウ球菌の接種後6時間目に、創傷の壊死組織を除去して、生理食塩水でイリゲーションし、BTゲル 1mlを欠損内に挿入した。
【0360】
(b)BTおよび全身性抗生物質(ABx)
黄色ブドウ球菌の接種後6時間目に、創傷の壊死組織除を除去して、生理食塩水でイリゲーションし、添加されたBTゲル 1mlを欠損内に挿入した。用いられた抗生物質は、損傷後合計3日間に1日2回の皮下注射により送達された5mgkg-1と等しい用量のセファゾリンであった。最初の用量は、壊死組織除去の直前に投与した。過去のデータから、この用量が細菌レベルを約106から約104へ低減し、それゆえ異なるBTの相対的効果を測定する可能性が示唆された。
【0361】
(c)対照
黄色ブドウ球菌の接種後6時間目に、創傷の壊死組織を除去して、生理食塩水でイリゲーションした。対照動物は、先に記載されたレジメンによりセファゾリンでも処置した。
【0362】
手順:
インビボラット損傷モデルの手順を、Chen他により記載された通り実施した(2002 J. Orthop. Res.20:142;2005 J. Orthop. Res. 23:816;2006 J. Bone Joint Surg. Am. 88:1510; 2007 J. Orthop. Trauma 21:693)。ラットに麻酔をかけて、手術の準備をした。大腿骨骨幹部の前外側面を、3cm切開して暴露させた。骨膜および付着した筋肉を、骨から剥離させた。ポリアセチルプレート(27×4×4mm)を大腿骨の前外側表面に配置した。プレートをプレドリルして、0.9mm径のねじれたキルシュナーワイヤを通した。これらのプレートの基板は、大腿骨骨幹部の輪郭に適合するようにかたどった。プレートを鋳型として用いて両方の大腿皮質骨を通して、パイロットホールを削り、プレートおよび大腿骨を通してねじれたキルシュナーワイヤを挿入した。プレート上の6mm間隔に存在するくぼみが、骨の除去のためのガイドになった。熱による損傷を予防する試みとして、組織を継続的なイリゲーションにより冷却しながら、小型の振動鋸を用いて欠損を作製した。
【0363】
10匹からなる複数の群それぞれに、黄色ブドウ球菌 1×105CFUを接種して、先に記載された通り、接種後6時間目にBTを単独で、または抗生物質と組み合わせて処置した。群は以下の通りであった:Bis-EDTゲル;MB-8-2ゲル;Bis-EDTゲル;Bis-EDTゲル&Abx;MB-11ゲル&Abx;MB-8-2ゲル&Abx;対照(Abxのみ)。
【0364】
手術の14日後に動物を安楽死させて、骨および装置を微生物分析に送り、その結果を
図7に示している。
【0365】
検出力分析に基づけば、群あたり動物10匹は、処置群と対照群の間の25%の差を検出するのに80%の検出力を与えることになる。この場合、予測された標準偏差は35%でαは0.05である。
【0366】
図7に示す通り、Bis-EDT、MB-11およびMB-8-2と組み合わせると、セファゾリンの抗生物質活性は、セファゾリンまたは任意のBis化合物の単独と比較して増強され、損傷した骨の黄色ブドウ球菌感染を低減した。MB-11およびMB-8-2と組み合わせたセファゾリンは、単独のセファゾリンと比較して高い抗生物質活性を示し、装置上で検出された黄色ブドウ球菌感染を低減することを示した。Bis-EDTは、この能力におけるセファゾリン活性に影響を及ぼすことは考えられなかった。
実施例12
海洋生物に対するビスマス含有化合物の活性
【0367】
この実施例は、ビスマス含有化合物の抗微生物活性を記載する。3つの異なる海洋性細菌に対する3つのビスマス含有化合物、すなわち、ビスマスジメルカプロール(BisBAL)、ビスマスジメルカプトトルエン(BisTOL)およびビスマスエタンジチオール(BisEDT)のMIC値を、当業者が慣例的に実行している方法を用いて確定した。データを、以下の表に示す。
【表48】
実施例13
フジツボ着生行動に及ぼすビスマス含有化合物の作用
【0368】
化合物 BisBALおよびBisTOLを検定に包含して、フジツボ幼生着生行動に及ぼす各化合物の抑制活性を確定した。当該技術分野で実行される技法に従って、方法を実施した。BisBALは、1.6ppmのEC50(50%の着生抑制が起きる濃度)を有し、そしてBisTOLは15.4ppmのEC50を有した。別の実験では、BisEDTを天然海水中に直接溶解するか、または先ずDMSO中に溶解し、次いで、天然海水中に希釈した。EC50測定値は、統計学的に異ならなかった。BisEDTは、海水中に直接溶解した場合、1.5ppmのEC50を有し、そしてDMSO中に先ず溶解した場合、2.1ppmのEC50を有した。市販の殺生物剤 SEANINE 211のEC50は、0.5ppmであった。
実施例14
藻類の着生に及ぼすビスマス含有化合物の作用
【0369】
藻類の着生に及ぼす3つのビスマス含有化合物、すなわち、ビスマスジメルカプロール(BisBAL)、ビスマスジメルカプトトルエン(BisTOL)およびビスマスエタンジチオール(BisEDT)の作用、特にアオノリ胞子の発芽を抑制する各化合物の能力を確定した。各化合物を、0.001、0.01、0.1、1.0および10・0μg/mlで試験した。BisEDTは最も有効な化合物であった;1μg/ml BisEDTで、藻類胞子集団の約50%の発芽が抑制され、10μg/mlで、約75%藻類胞子の発芽が抑制された。10マイクログラムまで/1mlのBisBALおよびBisTOLは、この特定相類種の胞子の発芽に及ぼす抑制作用を有さなかった。
実施例15
藻類の着生に及ぼすビスマス含有化合物の作用
【0370】
海洋性珪藻類の成長に及ぼす3つのビスマス含有化合物、すなわち、ビスマスジメルカプロール(BisBAL)、ビスマスジメルカプトトルエン(BisTOL)およびビスマスエタンジチオール(BisEDT)の作用を、当該技術分野で実行される技法に従って確定した。3つの化合物の濃度を増大することにより(0.001、0.01、0.1、1.0および10・0μg/ml)、海洋性珪藻類の着生(珪藻/小窩)を抑制した。各化合物は、0.1μg/mlで抑制活性を示した;BisEDTが最も活性で、ほぼ100%抑制を示した。BisTOLおよびBisBALは各々、0.1μg/mlで約30%の海洋性珪藻着生を示した。
【0371】
参考資料:Costerton et al., Ann Rev Microbiol. 1987; 41:435- 64; Domenico et al., Antimicrob Agents and Chemother. 2001; 45(5): 1417-21; Halwani et al., IntJ Pharm. 2008; 358:278-84; Johnson et al., Clin Infect Dis. 2007; 45(4):409-415. ADA Council on Scientific Affairs. Direct and indirect restorative materials. JADA 2003;134:463-72. Alliance for Coastal Technologies (ACT). 2004. Biofouling Prevention Technologies for Coastal Sensors/Sensor Platforms. University of Maryland Center of Environmental Science, Workshop Proceedings, November 2003. UMCES Technical Report Series No. TS-426-04-CBL, Solomons, MD. Athanassiadis et al., Aust Dent J 2007;52:S64-82. Alt et al., Antimicrob Agents Chemother 2004;48:4084-88. Bayston et al., Biomaterials 2009;30:3167-73. Bernardo et al., JADA 2007;138:775-783. Beytha et al., J Dent 2007;35:201-206. Bohneretal., J Pharm Sci 1997;86:565-72. Bruxton, Eng News 1908;59,525; Chem. Abs., 2:2010. Bueno et al. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 2009;107:e65-9. Cao et al. /ACS Applied Materials & Interfaces, 2009;1:494. Centers for Disease Control and Prevention (US). Guidelines for infection control in dental health-care settings-2003. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2003 52(RR-17):1-61. Chandler et al., Antimicrob. Agents Chemother 1978;14:60-68. Chuard et al., Antimicrob Agents Chemother 1993;37:625-32. Chatterji S. Cement Concrete Res 1995;25:929-32. Clifton JC 2nd. Pediatr Clin North Am 2007;54:237-69. Codony et al., J Applied Microbiol 2003;95:288-93. Crane et al., J Orthopaed Res 2009;27:1008-15. De Lalla, J Chemother. 2001;13:48-53. Depaola et al..J Am Dent Assoc. 2002 Sep;133(9):1199-206; quiz 1260. Dezelic et al., Oral Health Prev Dent 2009;7:47-53. Domenico et al., Canadian J. Microbiol. 31:472-78 (1985). Domenico et al., J Antimicrob Chemo 1991;28:801-810. Domenico et al., Infection 20:66-72 (1992). Domenico et al., Infect. Immun. 62:4495-99 (1994). Domenico et al., J. Antimicrol. Chemother. 38:1031 -40 (1996). Domenico et al., Antimicrob Agents Chemother 1997;41:1697-703. Domenico et al., Infect Immun 67:664-669 (1999). Domenico et al., 2000. Infect Med 17:123-127. Domenico et al., Antimicrob Agents Chemother 2001 ;45:1417-21. Domenico et al., Research Advances in Antimicrob Agents Chemother 2003;3:79-85. Domenico et al., J Antimicrob Chemo 1991 ;28:801 -810; Domenico et al., Infection 20:66-72 (1992); Domenico et al., Infect. Immun. 62:4495-99 (1994); Domenico et al., J. Antimicrol. Chemother. 38:1031-40 (1996); Domenico et al., Antimicrob Agents Chemother 1997;41:1697-703; Domenico et al.,
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【0372】
先に記載された様々な実施形態を組み合わせて、更なる実施形態を提供することができる。本明細書において参照され、そして/または出願データシートに列挙された米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許発行物の全てが、参照により全体として本明細書に組み入れられる。実施形態の態様は、必要に応じて改良され、様々な特許、出願および公開の概念を用いて更なる実施形態を提供することができる。
【0373】
先に詳述された記載に照らして、実施形態にこれらおよび他の変更を施すことができる。一般に以下の特許請求の範囲において、用いられる用語は、特許請求の範囲を本明細書および特許請求の範囲に開示された特定の実施形態に限定するものと解釈してはならず、そのような特許請求の範囲が権利を与えた均等物の全ての範囲と共に、可能な実施形態全てを包含すると解釈しなければならない。