(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】ミクロフィブリル化セルロースを含むコーティング層を形成する方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20220630BHJP
D21H 23/50 20060101ALI20220630BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220630BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220630BHJP
D21H 19/34 20060101ALI20220630BHJP
D21H 19/10 20060101ALI20220630BHJP
D21H 21/14 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H23/50
B05D7/24 303G
B05D7/24 303E
B05D7/00 F
D21H19/34
D21H19/10 B
D21H21/14 Z
(21)【出願番号】P 2019521704
(86)(22)【出願日】2017-10-26
(86)【国際出願番号】 IB2017056649
(87)【国際公開番号】W WO2018078558
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-09-28
(32)【優先日】2016-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バックフォルク、カイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスカネン、イスト
(72)【発明者】
【氏名】サウッコネン、エサ
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-050835(JP,A)
【文献】特表2010-527384(JP,A)
【文献】特開2010-156068(JP,A)
【文献】特開平10-095803(JP,A)
【文献】特表2018-504529(JP,A)
【文献】特表2011-516739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の表面にコーティング層を形成する方法であって、前記コーティング層が1~10g/m
2のミクロフィブリル化セルロースを含み、以下を含む方法:
a)リグノセルロース繊維を含む成形品を提供する工程;
b)前記成形品の前記表面にコーティング分散液を塗布する工程であって、前記コーティング分散液がミクロフィブリル化セルロース、少なくとも1種のスリップ助剤及び少なくとも1種の親水コロイドを含む、工程
、ただし前記親水コロイドはCMC、ガラクトグルコマンナン又はキシログルカンである;及び
c)前記塗布したコーティング分散液を乾燥させて、前記コーティング層を形成する工程。
【請求項2】
スリップ助剤の量がコーティング分散液の乾燥固形分1トン当たり1~10kgである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スリップ助剤がAKDである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
親水コロイドの量がコーティング分散液の乾燥固形分1トン当たり1~20kgである請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ミクロフィブリル化セルロースが少なくとも90のSchopper-Riegler数を有する請求項1~
4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
コーティング分散液がスプレーすることによって前記成形品に塗布される請求項1~
5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程c)と同時に又は別個の工程として行われるさらなる工程を含み、該さらなる工程はコーティング分散液が塗布された成形品を、任意に加熱下でプレスすることを含む、請求項1~
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の方法によって得られるコーティングした成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維を含む成形品にコーティング層を形成するための新規な方法に関する。本発明では、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)、スリップ助剤及び少なくとも1種の親水コロイドを含むコーティング分散液を調製する。
【背景技術】
【0002】
過フッ素化カルボン酸、すなわちPFCAは、キッチンパンから覆い(clothing)、食品パッケージに至るまで含む非粘着(non-stick)、撥水(water-repellent)及び防汚(stain-repellent)製品を作るのに使用される化学物質の分解生成物である。最も知られているPFCAがペルフルオロオクタン酸(PFOA)であり、世界中の人々に知られている。ヒトがPFCAに曝露される主な原因は、ポリフルオロアルキルリン酸エステル、すなわちPAPの消費と代謝であろう。PAPは、ファーストフードラッパー及び電子レンジ用ポップコーンバッグ等の紙製の食品に接触するパッケージングへのグリース耐性剤として利用されている。PFOAは最も知られているペルフルオロカルボン酸(PFCA)である。ペルフルオロカルボン酸は、広範囲の他の過フッ素化化合物の(通常の条件下での)最終分解生成物である。
【0003】
フルオロテロマーアルコール(FTOH)は、様々な製品を製造する際に界面活性剤及び中間体として使用されている。撥水/撥グリース性(grease repellence)の紙/厚紙を製造するために使用される全てのフッ素化物質は、FTOH由来ポリマーである。フルオロテロマーアルコール(FTOH)は、大気、生分解、及び代謝の研究において、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)を含む、低レベルのペルフルオロカルボン酸(PFCA)に分解することが分かっている。
【0004】
FTOH由来ポリマー又は添加剤による紙/厚紙の含浸又は表面処理により、撥グリース性、撥油性及び撥水性を共に付与することができる。このようにして処理された製品は、食品に接触する用途(プレート、食品容器、バッグ、及びラップ)並びに食品に非接触の用途の両方で使用される。
【0005】
FTOHとPFCAとの間のリンクは2つのレベルで発生する。第一に、2-ペルフルオロデシルエタノールの生成(8:2FTOH)によって、意図しないPFOAが生成される。第二に、ペルフルオロカルボン酸が安定であるので、これがテロマーアルコールの最終的な環境分解生成物である可能性がある。
それにより、有意なレベルでのフルオロ化合物の移行が、成形パッケージと同様に、例えば食品ラッパー及び電子レンジ用ポップコーンバッグについて実証されている。
【0006】
さらに、撥グリース性及び撥水性の、食品に接触する製品を製造する際にリサイクル繊維を使用する場合、ミネラルオイル炭化水素(MOH)が移行する危険性がある。幾つかの報告では、リサイクルボードから食品へのミネラルオイル炭化水素(MOH)の移行が起こり得ることが示されている。ミネラルオイル飽和炭化水素(MOSH)及びミネラルオイル芳香族炭化水素(MOAH)の供給源は、インク、接着剤及び溶剤である。
【0007】
したがって、とくに食品と接触する可能性があるパッケージでは、フルオロ化合物の使用を避けることが望ましいであろう。成形品の製造に伴うさらなる問題は、成形の際に使用する雌型又は雄型への粘着性又は接着性である。成形品は様々な表面に粘着する傾向がある。使用される雄型又は雌型は、非透過性、非透過性できめの粗い若しくは平滑な性状、又は半透過性、又はワイヤ構造物等の透過性であり得る。雄型又は雌型はまた、透過性又は平滑性等の材料特性又は物理的特性について異なる特性を有することも可能である。
【0008】
国際公開第2016/082025号パンフレットでは、ナノセルロース及びリグニンと複合化した多価金属塩を含むコーティング組成物が検討されている。コーティング組成物は、疎水性表面を得るために、例えばパッケージ材料の表面をコーティングするのに使用される。
【0009】
国際公開第2016/097964号パンフレットは、セルロース系繊維を含むコーティング基材の製造方法に関し、基材の乾燥含量(dry content)は50%未満であり、ミクロフィブリル化セルロース及び任意選択的に保水剤を含むコーティング組成物は5g/m2超過の量で塗布され、コーティング組成物を塗布した後で基材を脱水する。
【0010】
ロシア特許第2589671号では、疎水性及び疎油性紙の製造方法が開示されており、そこでは微結晶性セルロースの紙塊(paper mass)がヒドロゲルの形態で調製され、これにアルキルケテンダイマー及びポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂を添加して、ヒドロゲルを紙の製造に使用している。
【0011】
コーティングした物体又はコーティングが再生可能であるだけでなく、それが食品用のパッケージに使用することができ、且つ適切な耐グリース性/耐油性を有するような表面特性も有する、表面処理又はコーティング方法及びコーティング層に対する必要性がある。とくに、繊維を含む成形品をコーティングするのに有用なそのようなコーティング方法及びコーティング分散液に対する必要性がある。さらに、コーティングは、好ましくは、特性を改善するだけでなく、成形品の製造並びに再パルプ化(repulpability)及びリサイクルを容易にする特性を有するべきである。
【発明の概要】
【0012】
本開示の目的は、成形品の表面にコーティング層を形成する改善された方法を提供することであり、それは先行技術の方法の少なくとも幾つかの欠点を排除又は軽減する。
【0013】
驚くべきことに、とくにスリップ助剤及び親水コロイドを含む特定のコーティング方法及びコーティング分散液を使用することにより、金属塩又は食品と接触させて使用するのに不適切な他の成分を使用することなく、適切な表面特性を達成できることが分かった。本発明において使用されるコーティング分散液はスプレーするのにとくに有用である。本発明に従う方法及びコーティング分散液を使用する場合、スプレーノズルの目詰まりが回避されることが認められた。さらに、本発明は、ミネラルオイル(MOSH/MOAH)の移行に対抗するバリアを提供するが、このことはフッ素化化合物では達成されない。本発明はまた、コーティングした成形品の製造も容易にする。より複雑な形状をより高精度且つより高速で製造することができる。
【0014】
第1の側面によれば、成形品の表面にコーティング層を形成する方法であって、前記コーティング層が1~10g/m2(乾燥重量)のミクロフィブリル化セルロースを含み、前記方法が、
a)繊維を含む成形品を提供する工程、
b)前記成形品の表面にコーティング分散液を塗布する工程であって、
前記コーティング分散液がミクロフィブリル化セルロース、少なくとも1種のスリップ助剤及び少なくとも1種の親水コロイドを含む、工程、及び
c)前記塗布したコーティング分散液を乾燥して、前記コーティング層を形成する工程、
を含む、方法を提供する。
【0015】
一つの態様においては、コーティング分散液は成形品の表面にスプレーすることによって塗布される。コーティングはまた、スポットコーティングとして塗布することもできる。コーティングは成形品の1つ以上の表面に塗布することができ、また1つ又は複数の層で塗布することができる。したがって、スプレーすることにより複数の層を形成することができる。成形品にスプレーした各層の内容は、異なる層で同一でも異なっていてもよく、すなわち異なるコーティング分散液を異なる層に使用してもよい。
【0016】
リグノセルロース繊維等の天然繊維等の繊維を含む成形品は、その成形品が本発明においてコーティングされる場合には、当技術分野で知られている方法を使用して製造することができる。成形パルプパッケージの製造では、形成型は通常パルプで満たしたバット内を下降する。真空により、パルプ混合物が形成型上に吸引される。形成型はステンレス鋼メッシュを含むので、これにより、型を介して確実に均一な真空状態になり、その結果、パルプが均一に広がる。このようにして製造した成形品は典型的には粗い表面を有する。本明細書で使用する場合、成形品という用語には、ウェット、セミドライ、ドライ状態の成形品及び中間品が包含される。したがって、成形品の最終的な形は、工程b)で行うコーティングの後まで、必ずしも得ることができない。本明細書で使用する場合、成形品という用語には熱硬化性成形品は含まれない。しかしながら、成形品が天然繊維を含む場合には、成形品は3D印刷品であり得る。成形品に使用される繊維は、例えば、木材又は農業資源由来のリグノセルロース繊維であり得る。さらに、脱墨パルプ等のリサイクル繊維であり得る。含まれるパルプの他の例には、クラフトパルプ、溶解パルプ、CTMP、TMP、NSSC、強化パルプ、セルロース微粉、亜硫酸パルプ、例えば、オルガノソルブプロセスから得られるパルプがある。
【0017】
コーティング分散液中のミクロフィブリル化セルロースの濃度は、0.1~50%、例えば0.1~20%の範囲である。ミクロフィブリル化セルロースの量は、乾燥コーティング重量に基づいて10から99重量%、例えば10から90重量%であり得る。
【0018】
本発明において使用されるスリップ助剤は、型の表面と成形品との間の界面張力を減少させる薬剤である。スリップ助剤は成形品が型から離れるのを容易にし、また、潤滑助剤又は抗粘着剤又は接着抑制剤と呼ばれる場合もある。スリップ助剤は、典型的には、疎水性又は疎油性又は両親媒性又はオムニフォビック性を有し、食品と直接的に又は間接的に接触して使用するのに適しているか又は許容される。このようなスリップ助剤の例には、アルキルケテンダイマー(AKD)、パラフィン系ワックス、微結晶ワックス、ポリエチレンワックス又はミツロウ等のワックス、シリコーンポリエーテル、ステアリン酸カルシウム等のステアラート、グリセリド、ロジン樹脂、ASAエマルジョン、ダイズレシチン、ポリエチレン又はプロピレングリコール及びスプレーすることによって表面に塗布することができる類似の特性を有する薬剤が含まれる。使用されるスリップ助剤の量は、典型的には、コーティング層の乾燥重量の1~20重量%である。
【0019】
本発明の文脈において有用な親水コロイドの一例は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)等のセルロース誘導体である。使用される親水コロイドの量は、典型的には、コーティングの乾燥重量の0.1~49%である。使用することができる他の種類の親水コロイド、好ましくはバイオベースのものは、例えば、デンプン、キトサン、タンパク質、ガラクトグルコマンナン(GGM)又はキシログルカン(XG)等のヘミセルロース、ペクチン、グアーガム、アルギナート等である。親水コロイドは、典型的には、粒子又はエマルジョンを安定化させるのに及び/又は前記懸濁液の流動挙動を調整するのに使用することができる水溶性ポリマーである。親水コロイドはまた、バリア特性を調整するのに、又はコーティングのフィルム形成を制御若しくは改善するのにも使用することができる。親水コロイドはさらに、系のコロイド安定性を高めるために界面活性剤等の1種又は数種の界面活性化学物質と共に使用することができる。
【0020】
本発明の一つの態様においては、ミクロフィブリル化セルロースのSchopper-Riegler値(SR°)は、85SR°超過、又は90SR°超過、又は92SR°超過である。Schopper-Riegler値は、EN ISO5267-1に定義されている標準的な方法によって測定することができる。
【0021】
ミクロフィブリル化セルロースの保水値は、好ましくは少なくとも200%、より好ましくは少なくとも250%、最も好ましくは少なくとも300%である。特定の化学物質の添加によって、保水値が影響を受ける可能性がある。
【0022】
ミクロフィブリル化セルロースが有する表面積は、好ましくは30m2/gより大きく、より好ましくは50m2/gより大きく、最も好ましくは100m2/gより大きい表面積である。表面積は、当技術分野で知られているBET法を使用して測定することができる。溶媒交換は、凍結乾燥の前に有利に実施することができる。
【0023】
本発明のさらなる態様は、本発明の方法に従って製造された製品である。
【0024】
本発明の一つの態様においては、本方法は、工程c)と同時に又は別個の工程として実施することができるさらなる工程であって、
d)前記コーティング分散液を塗布した前記成形品を、任意選択的に加熱下でプレスする工程、を含む。
【0025】
本発明の一つの態様においては、コーティング分散液の粘度は、Brookfieldで測定した5から2000mPas、例えば10から500mPasであり、これはすなわち標準SCAN-P50:84に従って100rpmで測定するBrookfield粘度である。
【0026】
本発明の一つの態様においては、Parker Print-Surf粗さ(PPS)として測定したコーティング前の成形品の表面粗さは、少なくとも1.0μm、例えば2.0μmである。
【0027】
本発明の一つの態様においては、コーティング前の成形品の乾燥含量は、50重量%超過、例えば60重量%超過、70重量%超過、80重量%超過、又は90重量%超過である。したがって、本発明の一つの態様においては、成形品は、本発明においてコーティングを塗布する前に少なくとも部分的に乾燥される。本発明の一つの態様においては、成形品は、コーティング懸濁液を塗布した後に、少なくとも部分的に乾燥又は脱水される。一つの態様においては、成形品及びコーティング懸濁液は同時に乾燥される。
【0028】
本発明の一つの態様においては、コーティングした成形品の表面に置いた水滴の接触角は、60°超過、例えば80°超過又は90°超過である。接触角は当技術分野で知られている方法を使用して測定することができる。接触角は、標準化した条件にて乾燥表面について測定される。
【0029】
本発明の一つの態様においては、コーティングした成形品のKIT値は、典型的に、少なくとも5である。KIT値は、TAPPI UM557法等の当技術分野で知られている方法を使用して測定することができる。
【0030】
本発明の一つの態様においては、コーティング分散液の各成分は、同時に叩解され(co-refined)、一緒に均質化され、流動化され又は高剪断混合される。
【0031】
詳細な説明
コーティング層のミクロフィブリル化セルロース含量は、一つの態様によれば、コーティング層の固形分の重量に基づいて0.01~99.9重量%の範囲にあり得る。一つの態様においては、コーティング層のミクロフィブリル化セルロース含量は、コーティング層の固形分の70から99重量%の範囲内、80から99重量%の範囲内、又は90から99重量%の範囲内にあり得る。
【0032】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)は、本特許出願の内容においては、100nm未満の少なくとも1つの寸法を有するナノスケールセルロース粒子繊維又はフィブリルを意味するものとする。MFCは、部分的に又は完全にフィブリル化されたセルロース又はリグノセルロース繊維を含む。遊離した(liberated)フィブリルの径は100nm未満であるが、実際のフィブリルの径若しくは粒度分布及び/又はアスペクト比(長さ/幅)は、供給源及び製造方法によって異なる。
【0033】
最も小さなフィブリルは、エレメンタリーフィブリル(elementary fibril)と呼ばれ、約2から4nmの径を有する(参照:例えば、Chinga-Carrasco,G.の文献:Cellulose fibres,nanofibrils and microfibrils,:The morphological sequence of MFC components from a plant physiology and fibre technology point of view,Nanoscale research letters 2011,6:417)が、一方、ミクロフィブリルとしても定義されているエレメンタリーフィブリルの凝集形態(Fengel,D.の文献:Ultrastructural behavior of cell wall polysaccharides,Tappi J.,March 1970,Vol 53,No.3.)は、例えば拡張叩解工程又は圧力降下解繊工程を使用して、MFCを製造するときに得られる主生成物であることが一般的である。供給源及び製造工程に応じて、フィブリルの長さは、1マイクロメートル前後から10マイクロメートルを越える範囲に及び得る。粗いMFCグレードは、実質的な部分のフィブリル化された繊維、すなわち、仮導管から突き出ているフィブリル(セルロース繊維)と、特定量の仮導管から遊離したフィブリル(セルロース繊維)とを含有し得る。
【0034】
セルロースミクロフィブリル、フィブリル化セルロース、ナノフィブリル化セルロース、フィブリル凝集体、ナノスケールセルロースフィブリル、セルロースナノファイバー、セルロースナノフィブリル、セルロースミクロファイバー、セルロースフィブリル、ミクロフィブリル状セルロース、ミクロフィブリル凝集体、及びセルロースミクロフィブリル凝集体等のMFCには、種々の頭字語が存在する。さらに、MFCは、大きな表面積、又は、水中に分散するときの、低い固形分(1~5重量%)でのゲル状物質形成能等の、種々の物理的特性又は物理化学的特性によっても特徴付けることができる。セルロース繊維は、BET法を用いて凍結乾燥物質について測定した場合、形成されたMFCの最終比表面積が約1~約300m2/g、例えば1~200m2/g、又はより好ましくは50から200m2/gである程度にまでフィブリル化されることが好ましい。
【0035】
MFCを製造するには、例えば、単一又は複数叩解(single or multiple pass refining)、予備加水分解、続いて、叩解又は高剪断解繊又はフィブリルの遊離といった種々の方法が存在する。MFCの製造にエネルギー効率と持続可能性を共にもたらすには、通常、1つ以上の前処理工程が必要である。このため、供給されるパルプのセルロース繊維は、例えばヘミセルロース又はリグニンの量を減少させるように、酵素的又は化学的に前処理され得る。セルロース繊維は、フィブリル化前に化学的に修飾されてもよく、セルロース分子は、元のセルロースにみられる官能基以外の(又は元のセルロースにみられる官能基よりも多くの)官能基を含有する。このような基としては、とりわけ、カルボキシメチル(CM)、アルデヒド及び/又はカルボキシル基(N-オキシル媒介酸化によって得られるセルロース、例えば「TEMPO」)、又は第四級アンモニウム(カチオン性セルロース)が挙げられる。上述した方法のうちの1つにより修飾又は酸化された後、繊維は、MFC又はナノフィブリルサイズフィブリルへさらに容易に解繊される。
【0036】
ナノフィブリル状セルロースは、一部のヘミセルロースを含有し得るが、その量は、植物源によって異なる。前処理された繊維の機械的解繊、例えば、セルロース原料の加水分解、予備膨潤又は酸化は、叩解機、粉砕機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦粉砕機、超音波処理機、シングル-又はツイン-スクリューエクストルーダー、マイクロ流動化装置、マクロ流動化装置又は流動化装置型ホモジナイザー等の流動化装置等の適切な装置によって行われる。MFCの製造方法に応じて、製品は、微繊維若しくはナノ結晶セルロース、又は、例えば、木材繊維に若しくは抄紙工程に存在する他の化学物質もまた含有し得る。また、製品は、効果的にフィブリル化されていない種々の量のミクロンサイズの繊維粒子も含有し得る。MFCは、木材セルロース繊維から、硬材繊維又は軟材繊維の両方から生産される。また、MFCは、微生物源、麦わらパルプ、竹、バガス等の農業繊維、又は他の非木材繊維源から製造することもできる。MFCは、バージン繊維由来のパルプ、例えば、メカニカルパルプ、ケミカルパルプ及び/又はケミ-メカニカルパルプを含むパルプから製造されることが好ましい。さらに、MFCは、破損した紙又は再生紙から製造することもできる。
【0037】
上述したMFCの定義には、非限定的に、結晶質領域と非晶質領域の両方を有し、複数のエレメンタリーフィブリルを含有するセルロースナノファイバー材料を定義する新しく提案された、セルロースナノフィブリル(CMF)に関するTAPPI標準W13021が含まれる。
【0038】
本発明において使用されるコーティング分散液はまた、充填剤、架橋剤、着色剤、蛍光増白剤、共結合剤、又はレオロジー調整剤、消泡剤又は発泡剤、殺生物剤、殺微生物剤等の少量の機能性添加剤も含み得る。
【0039】
コーティング分散液のスプレーは、当技術分野で知られている方法を用いて行なうことができる。スプレーは、例えば静電気的にアシストされるか又は超音波によってアシストされ得る。それは、同軸スプレーノズル又は回転ディスクアトマイザーの使用によっても行なうことができる。一回のスプレーで十分であり得るが、同じ又は異なる組成物を用いて反復してスプレーを行うことも可能である。
【0040】
本発明の一つの態様においては、コーティング分散液のスプレーは、成形品がまだその型内にある間に行われる。一態様においては、スプレーが行われるとき、型には依然として真空が適用される。本発明の一つの態様においては、コーティング分散液は、型上に、例えば雄型部分若しくは雌型部分又はその両方の上にスプレーされ、次に型内で成形を行なうときに成形品に付く。
【0041】
典型的には、成形品に塗布されたコーティング分散液は急速に乾燥する。一つの態様においては、コーティングの乾燥時間は1秒から60秒の範囲であり、これによって、気泡及びピンホールの形成が回避され、孔の形成が最小限である光沢のある表面が得られる。空気透過率は、例えばSCAN P60:87(Bendtsen空気透過率)に従って、当技術分野で知られている方法によって測定することができる。本発明の一つの態様においては、乾燥は加圧下で行うことができ、すなわち乾燥中に圧力を加えることができる。乾燥温度は典型的には20℃から250℃、例えば30℃から200℃又は40℃から190℃の範囲である。乾燥は、例えば乾燥板又は型枠上で行うことができる。コーティング後の成形品のフォーミングは、真空(吸引)下で、任意選択的に熱を加えながら行うことができる。
【実施例】
【0042】
例1
電動ハンドペイントスプレーヤー(Graco EasyMax WP II230V)を使用して、試料(吸い取り紙)を、CMC(FF30、2kg/t)及びAKD(Aquapel、5kg/t)を含有するMFCでコーティングした。
【0043】
MFC、CMC及びAKDの混合物を3つの異なる濃度(consistencies)(3、4及び5%)で吸い取り紙上にスプレーし、試料をホットプレート(170℃)に接触させて3×30秒間乾燥させた。これらの30秒の長さの乾燥の間に、吸い取り紙を室温で5秒間冷却させた。吸い取り紙上のMFCコーティング重量を測定し、そしてMFCコーティング層のピンホールを検出するために、欧州規格(EN 13676 2001)に従って着色溶液を用いてコーティング層の完全性を試験した。着色溶液中の試薬は、染料E131Blue及びエタノール(C2H5OH、96%)であった。着色溶液は、100mLのエタノールに溶解した0.5gの染料からなっていた。
【0044】
コーティングした材料の耐グリース性をKIT試験によって評価した。同試験には、ヒマシ油、トルエン及びヘプタンの一連の混合物を使用する。溶媒に対する油の比率が減少するにつれて、粘度及び表面張力もまた減少し、連続的な混合物を保持することがより困難になる。性能は15秒後にシートを薄黒くしない最高の番号の溶液によって評価される。紙の表面を損なわずに維持する最高の番号の溶液(最もアグレシブ)を、「キット評価」(最大12)として報告する。キット試験は、食品との接触やグリース汚れに対する耐性が重要な他のパッケージ用途に使用される紙やボードの性能を定量化又は比較するのに使用される。この方法はフルオロケミカル処理紙には有用であるが、純粋なグリース耐性紙には適用できない。したがって、MFC処理表面のKIT値が高いことは、コーティングについての溶媒遮断性が高いことも示す。
【表1】
【0045】
例2
試料(成形パッケージプレート、成形使い捨て食器プレート)を、CMC(FF30、2kg/t)及びAKD(Aquapel、5kg/t)を含有するMFC(Bauer-McNettに基づく微粉含量は100%である。)で電動ハンドペイントスプレーヤー(Graco EasyMax WP II230V)を使用してコーティングした。
【0046】
MFC、CMC及びAKDの混合物を、第1の乾燥ユニットの前に2つの異なる濃度(consistencies)(3%及び5%)で成形パッケージプレート上にスプレーした。MFCスプレーを適用した後、試料をホットプレート(170℃)と接触させて3×30秒間乾燥させた。
【0047】
試料がグリース耐性になり、表面がフルオロケミカル処理又は未処理試料よりもはるかに光沢があることが認められた。KIT試験に基づいて、MFCスプレーを用いて非フルオロケミカル処理グリース及び溶媒耐性成形パッケージを製造することが可能であった(表2参照)。
【表2】
【0048】
フルオロケミカル処理試料においては、非フルオロケミカル処理試料と比較して、Gurley-Hill及びBendtsen法によって測定した空気透過性が増加することを示した。MFCスプレーで処理した試料においては、非フルオロケミカル処理試料と比較して、Gurley-Hill及びBendtsen法によって測定した空気透過性が有意に減少する(約95%の減少)ことを示した。
【0049】
MFCスプレーで処理した試料においては、非フルオロケミカル処理試料及びフルオロケミカル処理試料の両方と比較して、プレートの表面光沢についての有意な増加(>400%)を示した。
【0050】
本発明の上記の詳細な説明に鑑みて、当業者には、他の改変及び変更が明らかになる。しかしながら、このような他の改変及び変更を、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行い得ることは明らかである。