(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】代謝性障害
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220630BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220630BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220630BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220630BHJP
A61K 31/4418 20060101ALI20220630BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220630BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20220630BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20220630BHJP
A61K 31/4172 20060101ALI20220630BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220630BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220630BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20220630BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20220630BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20220630BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20220630BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220630BHJP
C12Q 1/533 20060101ALI20220630BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20220630BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20220630BHJP
C12N 9/88 20060101ALN20220630BHJP
【FI】
G01N33/50 D ZNA
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
A61K45/00
A61K48/00
A61K31/4418
A61K31/713
A61K31/5377
A61K31/436
A61K31/4172
A61P3/10
A61P43/00 111
C12Q1/06
C12Q1/26
C12Q1/48 Z
C12N9/99
C12N15/113 130Z
C12Q1/533
C12N9/12
C12N9/02
C12N9/88
(21)【出願番号】P 2019548859
(86)(22)【出願日】2017-11-24
(86)【国際出願番号】 SE2017051169
(87)【国際公開番号】W WO2018097793
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-09-30
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519187517
【氏名又は名称】ベケッド、フレデリク
(73)【特許権者】
【識別番号】519187528
【氏名又は名称】コウ、アラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベケッド、フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】コウ、アラ
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-520192(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0266148(US,A1)
【文献】特表2008-506379(JP,A)
【文献】特表2016-510409(JP,A)
【文献】Danxia Yu,Plasma metabolomic profiles in association with type 2 diabetes risk and prevalence in Chinese adults,Metabolomics,2015年11月07日,Vol.12 No.1,Page.3
【文献】Muhammad Tanweer Khan,Microbial Modulation of Insulin Sensitivity,Cell Metabolism,2014年11月04日,Vol.20 No.5,Page.753-760
【文献】Fredrik Karlsson,Assessing the Human Gut Microbiota in Metabolic Diseases,DIABETES,2013年10月,Vol.62 No.10,Page.3341-3349
【文献】Annick V. Hartstra,Insights Into the Role of the Microbiome in Obesity and Type 2 Diabetes,Diabetes Care,2015年01月,Vol.38 No.1,Page.159-165
【文献】Ara Koh,Microbially Produced Imidazole Propionate Impairs Insulin Signaling through mTORC1,Cell,2018年11月01日,Vol.175,Page.947-961
【文献】Antonio Molinaro,Imidazole propionate is increased in diabetes and associated with dietary patterns and altered microbial ecology,NATURE COMMUNICATIONS,2020年,Vol.11,Page.5881
【文献】Lei Fan,Magnesium and imidazole propionate,Clinical Nutrition ESPEN,2021年,Vol.41 ,Page.436-438
【文献】Cristina Menni,Serum metabolites reflecting gut microbiome alpha diversity predict type 2 diabetes,GUT MICROBES,2020年06月24日,Vol.11 No.6,Page.1632-1642
【文献】向山広美,宿主エネルギー代謝制御における腸内細菌と遊離脂肪酸の役割,オレオサイエンス,2019年,Vol.19 No.4,Page.139-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
G01N 33/15
A61K 45/00
A61K 48/00
A61K 31/4418
A61K 31/713
A61K 31/5377
A61K 31/436
A61K 31/4172
A61P 3/10
A61P 43/00
C12Q 1/06
C12Q 1/26
C12Q 1/48
C12N 9/99
C12N 15/113
C12Q 1/533
C12N 9/12
C12N 9/02
C12N 9/88
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象が2型糖尿病(T2D)もしくは耐糖能障害(IGT)に罹患しているか、又は2型糖尿病(T2D)もしくは耐糖能障害(IGT)に罹患する危険性を有しているかどうかを判定する
ための判断指標を提供するための方法であって、
対象からの、血液サンプル、血漿サンプル及び血清サンプルからなる群から選択される体液サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量を決定すること、該体液サンプルにおけるウロカニン酸の量を決定すること、並びに
対象が2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患しているか、又は2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患する危険性を有しているかどうか
を判定するのに用いるために、イミダゾールプロピオン酸の決定された量及びウロカニン酸の決定された量
を提供すること
を含む、上記方法。
【請求項2】
対象が2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患しているか、又は2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患する危険性を有しているかどうかを判定する
ための判断指標を提供するこ
とが、対象が2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患しているか、又は2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患する危険性を有しているかどうかを
、イミダゾールプロピオン酸の決定された量
とウロカニン酸の決定された量との間における比に基づいて判定する
ための判断指標を提供することを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
対象が2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患しているか、又は2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患する危険性を有しているかどうかを判定する
ための判断指標を提供すること
が、
前記比を
、0.15~0.325の区間の範囲内の
2型糖尿病もしくは耐糖能障害を罹患していない又は2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患する危険性を有していない正常な対象の閾値比と比較すること、及
び
該対象は2型糖尿病に罹患している、又は2型糖尿病に罹患する危険性を有していると判定する
ために、前記比が前記閾値比以上であるかどうか判定すること
を含む、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記閾値比が0.17~0.3の区間の範囲内である、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記閾5比が0.2~0.3の区間の範囲内である、請求項
3に記載の方法。
【請求項6】
対象が2型糖尿病(T2D)もしくは耐糖能障害(IGT)に罹患しているか、又は2型糖尿病(T2D)もしくは耐糖能障害(IGT)に罹患する危険性を有しているかどうかを判定する
ための判断指標を提供するための方法であって、
対象からの便サンプルにおける、アドレルクロイチア属(Adlercreutzia)、アエロコッカス属(Aerococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、デスルファチバシルム属(Desulfatibacillum)、エガセラ属(Eggerthella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、ラクトバ
チルス属(Lactobacillus)、シェワネラ属(Shewanella)、及びストレプトコッカス属(Streptococcus)からなる群から選択されるイミダゾールプロピオン酸産生細菌の量を決定すること、並びに
対象が2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患しているか、又は2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患する危険性を有しているかどうかを
判定するのに用いるために、該イミダゾールプロピオン酸産生細菌の決定された量
を提供すること
を含む、上記方法。
【請求項7】
2型糖尿病もしくは耐糖能障害を対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的である薬剤を特定する方法であって、
薬剤を、ヒスチジン及び/又はウロカニン酸による暴露を受けたインビトロ模擬ヒト腸モデルに加えること、
該インビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されたイミダゾールプロピオン酸の量を測定すること、及び
該薬剤を、
該イミダゾールプロピオン酸の量に基づいて、2型糖尿病もしくは耐糖能障害を防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定すること
を含む、上記方法。
【請求項8】
前記薬剤を加えることが、2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患している対象からの便のアリコートが接種された
前記インビトロ模擬ヒト腸モデルに
前記薬剤を加えることを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記薬剤を、2型糖尿病もしくは耐糖能障害を防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することが、
前記イミダゾールプロピオン酸の量を、薬剤添加後にヒスチジン及び/又はウロカニン酸による暴露を受けた参照用インビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されたイミダゾールプロピオン酸の参照量と比較すること、ここで、該参照用インビトロ模擬ヒト腸モデルは、ウロカニン酸レダクターゼ産生細菌をどれも欠いており、又は、正常な耐糖能を有する対象からの便のアリコートが接種されている、
並びに
前記薬剤を、
前記イミダゾールプロピオン酸の量と、
前記イミダゾールプロピオン酸の参照量との比較に基づいて、2型糖尿病もしくは耐糖能障害を防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定すること
を含む、請求項
7又は
8に記載の方法。
【請求項10】
前記薬剤を、2型糖尿病もしくは耐糖能障害を防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することが、
前記イミダゾールプロピオン酸の量を、
前記薬剤の非存在下、ヒスチジン及び/又はウロカニン酸による暴露を受けたインビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されたイミダゾールプロピオン酸の参照量と比較すること、
並びに
前記薬剤を、
前記イミダゾールプロピオン酸の量と、
前記イミダゾールプロピオン酸の参照量との比較に基づいて、2型糖尿病もしくは耐糖能障害を防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定すること
を含む、請求項
7又は
8に記載の方法。
【請求項11】
前記インビトロ模擬ヒト腸モデルにおいて蓄積されたウロカニン酸の量を測定することをさらに含み、
前記薬剤を、2型糖尿病もしくは耐糖能障害を防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することが、
前記薬剤を、
前記イミダゾールプロピオン酸の量と、
前記ウロカニン酸の量との比に基づいて、2型糖尿病もしくは耐糖能障害を防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む、請求項
7~
10のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、一般には代謝性障害、具体的には2型糖尿病及び耐糖能障害、ならびにそのような代謝性障害の診断及び処置に関する。
【背景技術】
【0002】
代謝性障害、例えば、肥満、糖尿病及び心臓血管疾患などには、腸内微生物叢の変化した構成及び機能が伴っており、最近のデータは、腸内微生物叢が、摂った食事に対する代謝応答における変動の一因であることを示唆する。腸内微生物叢に対する食事介入の影響を評価する研究はほとんどがこれまで、細菌発酵のための前駆体であって、改善された代謝に関連する代謝産物(例えば、短鎖脂肪酸など)をもたらす食物繊維に集中している。さらに、最近の研究では、トリメチルアミン(TMA)N-オキシド(TMAO)が、マウスモデルにおけるアテローム性動脈硬化症の一因である微生物叢依存性の代謝産物として特定されている。TMAOは、微生物のTMAリアーゼと、宿主肝臓のフラビンモノオキシゲナーゼとを伴う2段階プロセスで、食事性の前駆体であるコリン、ホスファチジルコリン及びカルニチンから形成される。微生物のTMAリアーゼをアテローム性動脈硬化症に対する可能性のある治療取り組みとして阻害する試みが現在、進行中である。
【0003】
腸内微生物叢は非常に大きい影響をアミノ酸代謝に及ぼしており、そして、アミノ酸由来のシグナル伝達分子(例えば、神経伝達物質及びセロトニンなど)のレベルを調節することができるにもかかわらず、微生物産生されたアミノ酸代謝産物の宿主代謝への寄与には、議論の余地がある。腸内微生物叢が肥満又はインスリン抵抗性の個体においては分岐鎖アミノ酸(BCAA)の増大した循環濃度の一因であることが報告されており、しかし、いくつかの研究では、改善された代謝的健康状態が食事性BCAA補給の後で明らかにされている。今日に至るまで、微生物叢依存性のアミノ酸由来代謝産物が代謝性障害の一因であることを示す直接的証拠は得られていない。
【発明の概要】
【0004】
2型糖尿病(T2D)もしくは耐糖能障害(IGT)に罹患している、又は2型糖尿病(T2D)もしくは耐糖能障害(IGT)に罹患する危険性を有している対象を特定することが、一般的な目的である。
【0005】
T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的である薬剤を特定し、使用することが、別の一般的な目的である。
【0006】
これらの目的及び他の目的が、本明細書中において開示される実施形態によって満たされる。
【0007】
開示される実施形態の1つの局面が、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有しているかどうかを判定する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量を決定することを含む。本方法はまた、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有しているかどうかをイミダゾールプロピオン酸の決定された量に基づいて判定することを含む。
【0008】
開示される実施形態の1つの局面が、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有しているかどうかを判定する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸産生細菌の量を決定することを含む。本方法はまた、対象が2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患しているか、又は2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患する危険性を有しているかどうかをイミダゾールプロピオン酸産生細菌の決定された量に基づいて判定することを含む。
【0009】
開示される実施形態の別の局面が、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的である薬剤を特定する方法に関する。本方法は、薬剤が、ウロカニン酸レダクターゼ、ヒスチジンアンモニアリアーゼ、p38γマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、p38δ MAPK、及び代替p38 MAPK活性化経路のうちの少なくとも1つを阻害し得るかどうかを判定することを含む。本方法はまた、薬剤を、前記薬剤が、ウロカニン酸レダクターゼ、ヒスチジンアンモニアリアーゼ、p38γ MAPK、p38δ MAPK、及び代替p38 MAPK活性化経路のうちの少なくとも1つを阻害し得ると判定されるならば、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0010】
開示される実施形態のさらなる局面が、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的である薬剤を特定する方法に関する。本方法は、ヒスチジン及び/又はウロカニン酸(urocanate)による暴露を受けたインビトロ模擬ヒト腸モデルに薬剤を加えることを含む。本方法はまた、インビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されるイミダゾールプロピオン酸の量を測定することを含む。本方法はさらに、薬剤を、イミダゾールプロピオン酸の量に基づいて、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0011】
開示される実施形態のさらに別の局面が、T2DもしくはIGTを対象において防止する、抑制する、又は処置する方法に関する。本方法は、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、ヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤、p38γ MAPKの阻害剤、p38δ MAPKの阻害剤、及び代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤からなる群から選択される阻害剤の効果的な量を対象に投与することを含む。
【0012】
開示される実施形態のさらなる局面には、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおける使用のためのウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、ヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤、p38γ MAPKの阻害剤、p38δ MAPKの阻害剤、代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤、ラパマイシン標的タンパク質複合体1(mTORC1)の阻害剤、及び/又はイミダゾールプロピオン酸誘導体が含まれる。
【0013】
開示される実施形態は、微生物産生されたイミダゾールプロピオン酸が、インスリンのシグナル伝達を、T2D又はIGTに罹患しているヒトにおいて、代替p38 MAPKを活性化することによって損なうことを示す実験結果に基づいている。
【0014】
開示される実施形態はそのさらなる目的及び利点と共に、添付の図面と一緒になる以下の説明を参照することによって最もよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】イミダゾールプロピオン酸が2型糖尿病罹患の個体では増大し、微生物により調節される。
図1a、GFマウス及びCONVRマウスの門脈血及び大静脈血におけるイミダゾールプロピオン酸(ImP)及びグルタミン酸の相対的レベル(n=6/群)。
図1b、BMIが一致する2型糖尿病非罹患の肥満被験者(非T2D、n=10)又はT2D罹患の肥満被験者(n=5)におけるImPの門脈レベル及び末梢レベル。
図1c、T2Dを有しないヒトからの便が接種される場合(左側パネル)、又はT2Dを有するヒトからの便が接種される場合(右側パネル)のインビトロ腸シミュレーターにおける10mMヒスチジンからのウロカニン酸及びImPの産生。
図1d、正常な耐糖能(NGT)を有するヒト、空腹時血糖異常(IFG)を有するヒト、耐糖能障害(IGT)を有するヒト、及び処置未経験のT2Dを有するヒトにおけるImP又はウロカニン酸の末梢レベル。
図1e、T2D非罹患被験者からの便(n=5)、及びT2D罹患被験者からの便(n=5)を使用する回分培養実験における10mMヒスチジンからのImP産生の終点測定。データは、0時間と比較しての36時間におけるImP産生のlog変換された変化倍数として示される。
図1f、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の予測、及びヒスチジン又はウロカニン酸を基質として使用する実験的検証。ブランクサンプルと比較してのlog変換された変化倍数として示されるImP産生。
図1a、
図1b及び
図1dにおけるデータは、平均±s.e.m.である。反復測定による二元配置ANOVA(
図1a、
図1b)。
*P<0.05、
**P<0.01;ウィルコクソン順位和検定(
図1d);ウィルコクソン片側検定(
図1e)。
【
図2】ヒスチジン分解産物としてのイミダゾールプロピオン酸。図はヒスチジン分解経路を示す。
【
図3】イミダゾールプロピオン酸は耐糖能及びインスリンシグナル伝達を損なう。
図3a、イミダゾールプロピオン酸(ImP)及びウロカニン酸の循環レベル。
図3b、腹腔内グルコース負荷試験。
図3c、ビヒクル(1%DMSO水溶液;n=4)又はImP(500μg;n=5)の3日間にわたる1日に2回の腹腔内注射の後でのGFマウスにおける糖生成及び脂肪生成に関与する遺伝子の発現。
図3d、インスリンシグナル伝達成分に対するビヒクル又はImP(500μgを1日に2回)による3日間の処置の影響を示す、GFマウスからの肝臓溶解物の免疫ブロット。
図3e、初代肝細胞におけるインスリン刺激されたIRSチロシンリン酸化及びAkt活性化[基礎時及びインスリン(5nM)刺激時]に対するImP(100μM、8時間)の影響。
図3f、ビヒクル(1%DMSO水溶液;n=4)又はImP(100μg;n=4)の3日間にわたる1日に2回の腹腔内注射の後でのCONVRマウスにおけるImP及びウロカニン酸の血漿中レベル。
図3g、ビヒクル(n=6)又はImP(100μg;n=5)が注射されるCONVRマウスにおける腹腔内グルコース負荷試験。
図3h、初代肝細胞におけるIRSタンパク質レベルに対するImP(100μM、20時間)の影響(n=7)。
図3a~
図3cにおけるデータは平均値±s.e.m.である。
*P<0.05、
**P<0.01。対応のない両側スチューデントt検定。
図3fにおけるデータはボックスプロットとして示され、最小値、25%四分位値、中央値、75%四分位値及び最大値を示す。反復測定による二元配置ANOVA、それに引き続いてのシダクの多重比較検定(
図3f)、及び対応のない両側スチューデント検定(
図3e、
図3g、
図3h)。
【
図4】イミダゾールプロピオン酸はGFマウスにおいてIrsのmRNAレベルに影響を及ぼさない。ビヒクル(1%DMSO水溶液;n=4)又はイミダゾールプロピオン酸(ImP)(500μg;n=5)の3日にわたる1日に2回の腹腔内注射の後でのGFマウスの肝臓におけるIrs-1及びIrs-2のmRNAレベル。
【
図5】イミダゾールプロピオン酸によるJNK非依存的なIRS低下。初代肝細胞をJNK阻害剤のSP600125(20μM)又はBI78D3(20μM)の非存在下又は存在下においてImP(100μM)と24時間インキュベーションし、その後、インスリン(5nM)により5分間にわたって刺激した。
【
図6】イミダゾールプロピオン酸は、リソソームにおけるアミノ酸感知経路を介してmTORC1を活性化する。
図6a、ラパマイシン(20nM)は初代肝細胞においてIRS及びpS6K1に対するイミダゾールプロピオン酸(ImP)(100μM、24時間)の影響を阻害する。
図6b、ビヒクル又はImP(500μgを1日に2回)による3日間の処理は、mTOR S2481ではなく、pS6K1のリン酸化を増大させることを示すGFマウスからの肝臓溶解物の免疫ブロット。
図6c、
図6d、アミノ酸欠乏させた初代肝細胞(
図6c)及びHEK293細胞(
図6d)におけるpS6K1に対するImP(100μM)の迅速な影響。
図6e、インスリン(5nM)と示された時間にわたってインキュベーションされるアミノ酸欠乏HEK293細胞におけるインスリンシグナル伝達成分に対するImP(100μM)による2時間及び8時間の前処理の影響。
図6f、mTORのリソソーム局在化を示す、ImPとインキュベーションされ(100μM、1時間)、mTOR及びLAMP2について共免疫染色されるアミノ酸欠乏HEK293細胞の画像。スケールバー、10μm。
図6g、ImPは、活性なp62/Rag/GTPアーゼ/mTORC1複合体の形成を誘発した。HEK293細胞を、FLAG mTOR、HA Raptor、及びMyc Rag GTPアーゼにより24時間コトランスフェクションし、アミノ酸の非存在下においてImP(100μM)と1時間インキュベーションした。IP:免疫沈殿物、TCL:全細胞溶解物。
図6h、ImP誘発のmTORC1活性化におけるRag GTPアーゼの関与。HEK293細胞を指示されるようなMycタグ化構築物により24時間トランスフェクションし、アミノ酸の非存在下において100μMのImPと1時間インキュベーションした。
図6i、ラパマイシン(20nM)又はトリン(torin)1(50nM)は初代肝細胞においてIRS及びpS6K1に対するイミダゾールプロピオン酸(ImP)(100μM、15時間)の影響を阻害する(n=2)。
【
図7】イミダゾールプロピオン酸媒介のシグナル伝達は、代替p38 MAPKに依存している。
図7a、初代肝細胞におけるp62リン酸化(T269及びS272)に対する24時間にわたるイミダゾールプロピオン酸(ImP)(100μM)及びラパマイシン(20nM)の影響。
図7b、アミノ酸欠乏HEK293細胞におけるインスリンシグナル伝達成分に対する(示された濃度での)ImPによる1時間及び2時間の前処理の影響。
図7c、アミノ酸欠乏HEK293細胞におけるp62リン酸化(T269及びS272)及びIRS1に対する、ImP、ヒスチジン、ウロカニン酸、グルタミン酸又はインドールプロピオン酸(100μM、1時間)の影響。
図7d、ImP(100μM、1時間)とインキュベーションされるアミノ酸欠乏HEK293細胞におけるp62のリン酸化(T269及びS272)及びS6K1のリン酸化に対する、BIRB796(10μM)、SB202190(10μM)又はラパマイシン(100nM)による30分間の前処理の影響。
図7e、ImP誘発のシグナル伝達に対する、代替p38ノックダウンの影響。HEK293細胞を、コントロールsiRNA(con siRNA)、p38δ siRNA2、又はp38γ siRNA1により24時間トランスフェクションし、アミノ酸の非存在下においてImP(100μM)と1時間インキュベーションした。
図7f、インビトロキナーゼアッセイ。p38γ及びp62をプレインキュベーションし、キナーゼ反応を、ImPの非存在下又は存在下でATPを加えることによって開始した。データは平均値±s.e.m.である。ImPを伴わないATP(50μM)に対して、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。対応のない両側スチューデントt検定。
図7g、ImP誘発のシグナル伝達の概略図。
【
図8】ImP媒介のシグナル伝達におけるp38γの役割。HEK293細胞を、コントロールsiRNA(con siRNA)、p38δ siRNA、又はp38γ siRNAにより24時間トランスフェクションし、アミノ酸の非存在下においてImP(100μM)と1時間インキュベーションした。
図8a、p38δに対する2つの異なった非重複siRNAの、ImP誘発のmTORC1活性化に対する影響。
図8b、p38γに対する2つの異なった非重複siRNAの、ImP誘発のシグナル伝達に対する影響。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態は、一般には代謝性障害、具体的には2型糖尿病(T2D)及び耐糖能障害(IGT)、ならびにそのような代謝性障害の診断及び処置に関する。
【0017】
本発明の実施形態は、T2D及びIGTと、これらの疾患の発症の一因であるかもしれない変化した腸内微生物叢との間における関連に基づいている。具体的には、微生物によりアップレギュレーションされたヒスチジン由来代謝産物のイミダゾールプロピオン酸が、T2D及びIGTを有する対象では、正常な耐糖能(NGT)を有する健康な対象と比較して、より高濃度で存在する。微生物産生されたイミダゾールプロピオン酸はインスリン受容体基質(IRS)タンパク質レベルを低下させ、インスリンシグナル伝達を、ラパマイシン標的タンパク質複合体1(mTORC1)の代替p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)活性化経路を介して損なう。したがって、微生物代謝産物のイミダゾールプロピオン酸がT2D及びIGTの病理発生の一因となっている。
【0018】
耐糖能障害(IGT)は、インスリン抵抗性と、心臓血管病理の増大した危険性とが伴う高血糖症の前糖尿病状態である。IGTがT2Dに何年も先行する場合がある。世界保健機関(WHO)及び米国糖尿病協会(AAD)の基準によれば、IGTは、75g経口ブドウ糖負荷試験での140~199mg/dl(すなわち、7.8~11.0mmol/l)の2時間グルコースレベルとして定義される。2時間後でのグルコースレベルが中程度に上昇しており、しかし、T2Dについて認定されるであろうレベルよりも低いときには、患者は、IGTの状態にあると言われる。空腹時血糖が正常であるか、又は穏やかに上昇して、典型的には6.1mmol/l未満であるかのどちらもあり得る。
【0019】
2型糖尿病(T2D)は、2型真性糖尿病とも呼ばれており、高血糖、インスリン抵抗性、及びインスリンの相対的欠乏によって特徴づけられる長期の代謝性障害である。高血糖から生じる長期の合併症には、心臓疾患、脳卒中、糖尿病性網膜症(これは失明をもたらし得る)、腎不全、及び切断を引き起こす場合がある四肢での血流不良が含まれる。
【0020】
T2DのWHOの定義は、7.0mmol/l(126mg/dl)以上の空腹時血糖値、又は、グルコース負荷試験を用いた場合には、11.1mmol/l(200mg/dl)以上の経口投薬後2時間での血漿中グルコースのどちらかの、症状を伴う1回だけの上昇したグルコース読取り、そうでなければ、2回にわたる上昇した値についてである。
【0021】
下記の表1には、WHOの糖尿病診断基準が要約される。
【表1】
【0022】
本発明の実施形態の1つの局面が、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有しているかどうかを判定する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量を決定することを含む。本方法はまた、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有しているかどうかをイミダゾールプロピオン酸の決定された量に基づいて判定することを含む。
【0023】
この実施形態において、対象からの身体サンプルにおいて決定されるようなイミダゾールプロピオン酸の量又は濃度は、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を少なくとも有しているかどうかを判定するために使用される。本明細書中においてさらに示されるように、IGT又はT2Dに罹患している対象は、正常な対象、すなわち、健康な対象と比較して、加えて、IFG対象と比較してもまた、イミダゾールプロピオン酸の有意により高い量及び濃度を有する。
【0024】
それによって、イミダゾールプロピオン酸が、この実施形態においては、T2DもしくはIGTに罹患しているかもしれない、又はこれらの代謝性障害に罹患する可能性が高い、すなわち、これらの代謝性障害に罹患する危険性を有している個体を特定するためのバイオマーカーとして使用される。
【0025】
対象は哺乳動物対象であり、好ましくはヒト対象である。しかしながら、本発明の実施形態はまた、T2D又はIGTに罹患しているかもしれない他の哺乳動物対象に対しても適用される場合がある。したがって、本発明の実施形態はまた、T2DもしくはIGTに罹患している、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有している動物対象を特定するために獣医学目的のために使用することができる。
【0026】
1つの実施形態において、方法は、いわゆる意思決定支援法、すなわち、非診断法である。このことは、意思決定支援方法により、意思決定支援情報、例えば、中間結果にすぎないイミダゾールプロピオン酸の量又は濃度によって例示されるような意思決定支援情報がもたらされることになることを意味する。さらなるデータ、及び医師又は獣医師の能力が典型的には、最終的な診断を下すために必要である。さらに、イミダゾールプロピオン酸の量とは異なる他のパラメーターが、T2D又はIGTの進行又は発症に影響する場合がある(例えば、対象の病歴、年齢及び性別、遺伝的要因など)。したがって、本実施形態は、医師又は獣医師が、どの対策が採用されなければならないかについての決定の基礎とすることができる意思決定支援を与える。
【0027】
そのような実施形態において、意思決定支援情報を得る方法が提供される。本方法は、対象からの身体サンプルにおいて決定されるイミダゾールプロピオン酸の量に基づく意思決定支援情報を得ることを含む。
【0028】
1つの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の量が対象からの体液サンプルにおいて決定される。そのような体液サンプルの例示的な、しかし、限定されない例には、血液サンプル、血漿サンプル、血清サンプル、尿サンプル及び便サンプルが含まれる。特定の実施形態において、体液サンプルが、血液サンプル、血漿サンプル及び血清サンプルからなる群から選択される。
【0029】
身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量は、様々な実施形態に従って決定することができる。特定の実施形態において、身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量が、質量分光(MS)分析を使用して決定される。例えば、体液サンプルは氷冷アセトニトリルにより抽出され、窒素流下で乾燥され得るであろう。体液サンプルはその後、n-ブタノールにおけるHCl(例えば、5%HClなど)により、例えば、70℃で1時間にわたって再構成され、これにより、n-ブチルエステルが形成させられる場合がある。この誘導体化の後、サンプルはエバポレーションされ、水:アセトニトリル(例えば、90:10など)で再構成される場合がある。サンプルはその後、グラジエントを使用して、例えば、A相としての、例えば、0.1%ギ酸を含む水と、B相としての、例えば、0.1%ギ酸を含むアセトニトリルとからなるグラジエントなどを使用して、カラム(例えば、C18エチレン架橋型ハイブリッド(BEH)カラムなど)に注入される場合がある。イミダゾールプロピオン酸がその後、遷移197/81を使用する多重反応モニタリングによって検出される場合がある。
【0030】
しかしながら、上記実施形態は、身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸のMSに基づく決定に限定されない。例えば、イミダゾールプロピオン酸に関してのトレーサーを使用する、例えば、イミダゾールプロピオン酸-アセチルコリンエステラーゼ(AChE)コンジュゲート又はビオチン化イミダゾールプロピオン酸(これらは、例えば、エルマン試薬、又は基質としての3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)とともに西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート化ストレプトアビジンを使用することによってそれぞれ検出することができる)などを使用する競合的な酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)。そのような場合、反応後の色の強度が、身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量に反比例するであろう。競合的ELISAにおいては、標識されたイミダゾールプロピオン酸がそれによってトレーサーとして使用される。
【0031】
実際、体液サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量又は濃度を直接的もしくは間接的に決定するために、又は少なくとも推定するために使用することができる方法又は技術はどれも、上記実施形態に従って使用することができる。
【0032】
1つの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の濃度が身体サンプルにおいて決定される。イミダゾールプロピオン酸の濃度はその後、閾値濃度と比較され、そして、イミダゾールプロピオン酸の濃度が閾値以上であるならば、対象は、T2DもしくはIGTに罹患していると判定され、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有していると判定される。
【0033】
1つの実施形態において、閾値濃度は5nMに等しく、例えば、5.1nMなどに等しい。閾値濃度は好ましくは6nMであり、例えば、7nMなどであり、例えば、7.7nM又は7.8nMである。特定の実施形態において、閾値濃度は8nMであり、好ましくは9nMであり、より好ましくは10nMであり、例えば、10.1nMなどである。
【0034】
実験データは、正常な耐糖能(NGT)を有する被験者が9.1nMの平均イミダゾールプロピオン酸濃度(中央値、7.1nM)を有したこと、空腹時血糖異常(IFG)を有する被験者が9.1mMの平均イミダゾールプロピオン酸濃度(中央値、7.2nM)を有したこと、IGT被験者が10.5nMの平均イミダゾールプロピオン酸濃度(中央値、7.7nM)を有したこと、これに対して、T2D被験者が20.1nMの平均イミダゾールプロピオン酸濃度(中央値、13.8nM)を有したことを示す。さらに、NGT被験者の75%が10.7nM未満のイミダゾールプロピオン酸濃度を有し、IFG被験者の75%が11.7nM未満のイミダゾールプロピオン酸濃度を有し、IGT被験者の75%が13.1nM未満のイミダゾールプロピオン酸濃度を有し、T2D被験者の75%が19.1nM未満のイミダゾールプロピオン酸濃度を有した。
【0035】
特定の実施形態において、上記方法は、対象がT2Dに罹患しているか、又はT2Dに罹患する危険性を有しているかどうかを判定する方法である。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量を決定することを含む。本方法はまた、対象がT2Dに罹患しているか、又はT2Dに罹患する危険性を有しているかどうかをイミダゾールプロピオン酸の決定された量に基づいて判定することを含む。
【0036】
上記実施形態に従って決定される、又は測定されるイミダゾールプロピオン酸は好ましくは微生物由来のイミダゾールプロピオン酸であり、具体的には細菌由来のイミダゾールプロピオン酸である。
【0037】
イミダゾールプロピオン酸の濃度が閾値濃度未満であるならば、対象は好ましくは、T2DもしくはIGTに罹患していないとして、又はT2DもしくはIGTに罹患する低い危険性を有しているとして判定され、又は特定される。
【0038】
1つの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の濃度はIGT閾値濃度及びT2D閾値濃度と比較される。そのような場合、方法は、イミダゾールプロピオン酸の濃度がIGT閾値濃度以上であり、しかし、T2D閾値濃度未満であるならば、対象はIGTに罹患している、又はIGTに罹患する危険性を有していると判定することを含む。それに対応して、方法はまた、イミダゾールプロピオン酸の濃度がT2D閾値濃度以上であるならば、対象はT2Dに罹患している、又はT2Dに罹患する危険性を有していると判定することを含む。
【0039】
この実施形態において、IGT閾値濃度はT2D閾値濃度未満である。
【0040】
1つの実施形態において、IGT閾値濃度は5nMに等しく、例えば、5.1nMなどに等しい。IGT閾値濃度は好ましくは6nMであり、例えば、7nMなどであり、例えば、7.7nMである。特定の実施形態において、IGT閾値濃度は8nMであり、好ましくは9nMであり、より好ましくは10nMである。
【0041】
1つの実施形態において、IGT閾値濃度は好ましくは7.2nM以上であり、例えば、9.1nM以上である。
【0042】
1つの実施形態において、T2D閾値濃度は7nMに等しく、例えば、7.8nMなどに等しい。T2D閾値濃度は好ましくは8nMであり、例えば、9nMなどである。特定の実施形態において、T2D閾値濃度は、IGT閾値濃度<T2D閾値濃度という条件で、10nMであり、例えば、10.1nMなどであり、好ましくは11nMであり、より好ましくは12nMである。
【0043】
1つの実施形態において、T2D閾値濃度は9.1nMを超えており、しかし、好ましくは20.1nM未満である。より好ましくは、T2D閾値濃度は10.7nMを超えており、好ましくは19.1nM未満であり、例えば、13.8nM未満などである。したがって、T2D閾値濃度は好ましくは、10.7から13.8nMまでの区間の範囲内で選択され、例えば、10.75nM、11nM、11.25nM、11.5nM、11.75nM、12nM、12.25nM、12.5nM、12.75nM、13nM、13.25nM、13.5nM又は13.75nMなどである。
【0044】
1つの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の量だけではなく、ウロカニン酸の量もまた、身体サンプルにおいて測定される。そのような実施形態において、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有するかどうかの判定は、イミダゾールプロピオン酸の量及びウロカニン酸の量に基づいており、好ましくイミダゾールプロピオン酸の量と、ウロカニン酸の量との間における比又は商に基づく。
【0045】
したがって、この実施形態において、方法はまた、身体サンプルにおけるウロカニン酸の量を決定することを含む。方法はまた、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有しているかどうかを、イミダゾールプロピオン酸の決定された量と、ウロカニン酸の決定された量との間における比に基づいて判定することを含む。
【0046】
実験データは、NGTを有する被験者が0.1433の平均イミダゾールプロピオン酸対ウロカニン酸(ImP/Uro)比を有したこと、IFG被験者が0.1335の平均ImP/Uro比を有したこと、IGT被験者が0.1657の平均ImP/Uro比を有したこと、T2D被験者が0.3417の平均ImP/Uro比を有したことを示す。さらに、NGT被験者の75%が0.1677未満のImP/Uro比を有し、IFG被験者の75%が0.1644未満のImP/Uro比を有し、IGT被験者の75%が0.1836未満のImP/Uro比を有した。
【0047】
それに従えば、0.15~0.325の区間の範囲内で選択されるImP/Uro比閾値が、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有しているかどうかを判定するために使用され得るであろう。
【0048】
特定の実施形態において、ImP/Uro比閾値が0.17~0.3の区間の範囲内で選択され、好ましくは0.2~0.3の区間の範囲内で選択され、例えば、0.2、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29又は0.3などである。0.2~0.3の範囲内のImP/Uro比閾値が、対象がT2Dに罹患しているか、又はT2Dに罹患する危険性を有しているかどうかを判定するときには特に好ましい。
【0049】
身体サンプルが体液サンプル(例えば、血液サンプル、血漿サンプル又は血清サンプルなど)であるならば、比閾値及び閾値の上記値が特に適用可能である。
【0050】
T2D非罹患の肥満被験者からの便、及びT2D罹患の肥満被験者からの便を使用する回分培養実験から得られるImP/Uro比の対応する値が、T2D非罹患の肥満被験者については32.1152の平均ImP/Uro比であり、T2D罹患の肥満被験者については413.0492の平均ImP/Uro比である。それに対応して、肥満の非T2D被験者の75%が1.0255未満のImP/Uro比を有し、これに対して、肥満のT2D被験者の75%が615.6992未満のImP/Uro比を有した。
【0051】
それに従えば、便を使用する回分培養実験のための好適なImP/Uro比閾値が、50~400の区間の範囲内で、好ましくは100~400の区間の範囲内で、より好ましくは200~400の区間の範囲内で、例えば、200~300の区間などの範囲内で選択され得るであろう。
【0052】
ImP/Uro比閾値の上記の例は、イミダゾールプロピオン酸の決定された量と、ウロカニン酸の決定された量との間における比又は商を計算することに基づく。比率又は商がその代わりに、ウロカニン酸の決定された量と、イミダゾールプロピオン酸の決定された量との間においてであるならば、すなわち、Uro/ImPであるならば、好適なUro/ImP比閾値を、上記の値によって除されるUro/ImP比閾値として得ることができる。
【0053】
1つの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の決定された量と、ウロカニン酸の決定された量との間における比が、比閾値と比較され、そして、イミダゾールプロピオン酸の決定された量と、ウロカニン酸の決定された量との間における比が閾値比以上であるならば、対象は、T2DもしくはIGTに罹患していると判定され、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有していると判定される。
【0054】
この実施形態は、ウロカニン酸の決定された量と、イミダゾールプロピオン酸の決定された量との間における比を計算し、計算された比をUro/ImP閾値比と比較することと同等である。そのような場合には、計算された比がUro/ImP閾値比以下である(例えば、Uro/ImP閾値比よりも小さい)ならば、対象は、T2DもしくはIGTに罹患していると判定され、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有していると判定される。
【0055】
イミダゾールプロピオン酸の量だけではなく、ウロカニン酸の量もまた決定する上記の実施形態は、意思決定支援法(すなわち、非診断法)の前述の実施形態に適用することができる。
【0056】
特定の実施形態が、対象がT2DもしくはIGTを有しているか、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があるかどうかを判定する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量を測定することを含む。本方法はまた、イミダゾールプロピオン酸の濃度がIGTについての閾値濃度以上であり、しかし、T2Dについての閾値濃度未満であるならば、対象はIGTを有している、又はIGTを発症する危険性があると判定すること、ならびに/又は、イミダゾールプロピオン酸の濃度がT2Dについての閾値濃度以上であるならば、対象はT2Dを有している、又はT2Dを発症する危険性があると判定することを含む。
【0057】
この特定の実施形態の一例において、IGTについてのイミダゾールプロピオン酸の閾値濃度は8nMであり、好ましくは9nMであり、より好ましくは10nMであり、かつ、T2Dについてのイミダゾールプロピオン酸の閾値濃度は10nMであり、好ましくは11nMであり、より好ましくは12nMであり、例えば、10.7nMから13.8nMまでの区間の範囲内などである。
【0058】
特定の実施形態において、方法はさらに、T2DもしくはIGTを有していると判定される、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があると判定される対象を処置することを含む。対象のこの処置は好ましくは、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、ヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤、p38γ MAPKの阻害剤、p38δ MAPKの阻害剤、mTORC1の阻害剤、代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤、及び、どのような組合せであれ、それらの組合せからなる群から選択される阻害剤の効果的な量、ならびに/あるいはイミダゾールプロピオン酸誘導体の効果的な量を対象に投与することを含む。
【0059】
イミダゾールプロピオン酸はp38 MAPK活性を直接に調節することができる。したがって、イミダゾールプロピオン酸を、p38 MAPKについての阻害剤を特定するための足場として使用することができる。それに従えば、イミダゾールプロピオン酸の細菌標的及び宿主標的の両方の二重標的化が可能である。ウロカニン酸レダクターゼを細菌において標的とする潜在的な阻害剤は、ウロカニン酸又はイミダゾールプロピオン酸の誘導体である。イミダゾールプロピオン酸はp38γキナーゼ活性を直接に促進させることができる。したがって、イミダゾールプロピオン酸に対する構造類似体は潜在的にp38γガンマを競合的様式で阻害することができる。
【0060】
さらなる特定の実施形態が、対象を、T2DもしくはIGTを有しているとして、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があるとして判定する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量を測定することを含む。この特定の実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の量が少なくとも8nMであり、好ましくは9nMであり、より好ましくは10nMであり、しかし、10nM未満であり、好ましくは11nM未満であり、より好ましくは12nM未満である場合、対象は、IGTを有しているとして、又はIGTを発症する危険性があるとして診断され、また、イミダゾールプロピオン酸の量が少なくとも10nMであり、好ましくは11nMであり、より好ましくは12nMである場合、対象は、T2Dを有しているとして、又はT2Dを発症する危険性があるとして診断され、このことはそれによって、対象を、T2Dを有しているとして、又はT2Dを発症する危険性があるとして診断する。
【0061】
特定の実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の量が、10.7nMから13.8nMまでの区間の範囲内にあるIGT濃度閾値を超えるならば、対象は、IGTを有しているとして、又はIGTを発症する危険性があるとして診断される。
【0062】
特定の実施形態において、方法はさらに、T2DもしくはIGTを有していると判定される、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があると判定される対象を処置することを含む。対象を処置することは好ましくは、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、ヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤、p38γ MAPKの阻害剤、p38δ MAPKの阻害剤、代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤、mTORC1の阻害剤、及び、どのような組合せであれ、それらの組合せからなる群から選択される阻害剤の効果的な量、ならびに/あるいは又はイミダゾールプロピオン酸誘導体の効果的な量を対象に投与することを含む。
【0063】
さらに別の特定の実施形態が、対象がT2DもしくはIGTを有しているか、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があるかどうかを判定する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量を、身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量に対応するデータ出力を提供するように構成される代謝産物検出装置を使用して決定すること、及び/又は測定することを含む。本方法はまた、対象がT2DもしくはIGTを有しているか、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があるかどうかをデータ出力に基づいて判定することを含む。
【0064】
特定の実施形態において、代謝産物検出装置は、質量分析計、分光計(例えば、ELISAに伴う分光計など)、液体クロマトグラフィー装置、ガスクロマトグラフィー装置、気液クロマトグラフィー装置、高速液体クロマトグラフィー装置、及び、どのような組合せであれ、それらの組合せ(例えば、質量分析計とクロマトグラフィー装置との組合せなど)から選択される。
【0065】
代謝産物検出装置は1つの実施形態においては、身体サンプルにおけるウロカニン酸の量に対応するデータ出力を提供するためにもまた構成される。代替において、第1の代謝産物検出器が、身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量に対応するデータ出力を提供するために構成され、第2の代謝産物検出器が、身体サンプルにおけるウロカニン酸の量に対応するデータ出力を提供するために構成される。
【0066】
1つの実施形態が、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有しているかどうかを判定する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸産生細菌の量を決定することを含む。本方法はまた、対象が2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患しているか、又は2型糖尿病もしくは耐糖能障害に罹患する危険性を有しているかどうかをイミダゾールプロピオン酸産生細菌の決定された量に基づいて判定することを含む。
【0067】
1つの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸産生細菌は、アドレルクロイチア属(Adlercreutzia)、アエロコッカス属(Aerococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、デスルファチバシルム属(Desulfatibacillum)、エガセラ属(Eggerthella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、エンテロコッカス属、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、シェワネラ属(Shewanella)及びストレプトコッカス属(Streptococcus)からなる群から選択される。方法はまた、対象がT2DもしくはIGTを有しているか、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があるかどうかを身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸産生細菌の決定された量及び/又は測定された量に基づいて判定することを含む。
【0068】
1つの実施形態において、対象がT2DもしくはIGTに罹患しているか、又はT2DもしくはIGTに罹患する危険性を有しているかどうかの判定は、身体サンプルにおけるどのようなImP産生細菌であれ、その検出に基づくことができるであろう。別の実施形態において、判定は、身体サンプルにおけるImP産生細菌の決定された量に基づく。さらなる変形が、判定を、ImP産生細菌である身体サンプル中の細菌の割合に基づいて実施することである。
【0069】
本発明の実施形態の別の局面が、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的である薬剤を特定する方法に関する。本方法は、薬剤が、ウロカニン酸レダクターゼ、ヒスチジンアンモニアリアーゼ、p38γ MAPK、p38δ MAPK、及び代替p38 MAPK活性化経路のうちの少なくとも1つを阻害し得るかどうかを判定することを含む。本方法はまた、薬剤が、少なくとも1つのウロカニン酸レダクターゼ、ヒスチジンアンモニアリアーゼ、p38γ MAPK、p38δ MAPK、及び代替p38 MAPK活性化経路を阻害し得ると判定されるならば、薬剤を、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0070】
ウロカニン酸レダクターゼは、T2D及びIGTに罹患している対象の腸内微生物叢において多い酵素である。これらの細菌において、ウロカニン酸レダクターゼは、遺伝子urdAによってコードされており、ウロカニン酸のイミダゾールプロピオン酸への転換に関与する。
図2を参照のこと。30%を超える配列同一性を有するurdAホモログがヒトゲノムにおいて特定されていないので、この酵素(ウロカニン酸レダクターゼ)は、本発明者らが知る限りでは、ヒトには存在していない。
【0071】
したがって、1つの実施形態において、方法は、薬剤がウロカニン酸レダクターゼを阻害し得るかどうかを判定すること、及び、薬剤が、ウロカニン酸レダクターゼを阻害し得ると判定されるならば、薬剤を、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0072】
特定の実施形態において、方法は、薬剤が、ウロカニン酸レダクターゼによるウロカニン酸のイミダゾールプロピオン酸への転換を阻害し得るかどうかを判定することを含む。そのような特定の実施形態において、薬剤は、前記薬剤が、ウロカニン酸レダクターゼによるウロカニン酸のイミダゾールプロピオン酸への転換を阻害し得ると判定されるならば、T2D又はIGTを前記対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定される。
【0073】
薬剤がウロカニン酸レダクターゼを阻害し得るかどうかの判定を、薬剤の存在下及び非存在下でのウロカニン酸の暴露を受けて産生されるイミダゾールプロピオン酸の量を測定することによって実施することができる。そのような試験において、酵素は、例えば、組換え産生されるか、又は腸内微生物叢から単離されるなどして、実質的に純粋な形態である場合がある。代替において、イミダゾールプロピオン酸産生細菌は、薬剤の存在下又は非存在下でのウロカニン酸及び/又はヒスチジンによる暴露を受けることができるであろう。
【0074】
ヒスチジンアンモニアリアーゼは、ヒスチジンのウロカニン酸への転換に関与する酵素である。ヒトにおいて、ウロカニン酸はさらに、
図2に示されるようにグルタミン酸に転換される。細菌において、ウロカニン酸レダクターゼは、ウロカニン酸を基質として使用することにおいてウロカニン酸ヒドラターゼと競合する。ヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害することにより、ウロカニン酸の量が効果的に減少し、それにより、ウロカニン酸レダクターゼの基質が減少する。ヒスチジンアンモニアリアーゼのそのような阻害の結果として、細菌によって産生されるイミダゾールプロピオン酸の量が有意に減少することになる。
【0075】
したがって、1つの実施形態において、方法は、薬剤がヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害し得るかどうかを判定すること、及び、薬剤が、ヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害し得ると判定されるならば、薬剤を、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0076】
特定の実施形態において、方法は、薬剤が細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害し得るかどうかを判定すること、及び、薬剤を、前記薬剤が、細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害し得ると判定されるならば、T2DもしくはIGTを前記対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0077】
したがって、この特定の実施形態において、薬剤は好ましくは、hutH遺伝子によってコードされる細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害することができ、しかし、好ましくは、HAL遺伝子によってコードされるヒト型ヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害することはできない、又は、阻害のより低いレベルもしくは程度であることを除いて、少なくとも阻害することはできない。そのような実施形態において、薬剤は、細菌におけるヒスチジンからイミダゾールプロピオン酸への経路を停止させることができ、又は少なくとも低下させることができ、しかし、それでもなお、少なくともある程度又は度合いではあるが、ヒスチジンからのヒト細胞におけるグルタミン酸の形成を可能にする。
【0078】
特定の実施形態において、薬剤は、ヒト型ヒスチジンアンモニアリアーゼと比較した場合、細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害することにおいてより効果的である。具体的には、薬剤は好ましくは、ヒト型ヒスチジンアンモニアリアーゼと比較した場合、細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害することにおいて1.25倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍又はそれ以上効果的である。
【0079】
別の特定の実施形態において、薬剤は、非吸収性阻害剤、すなわち、対象の胃腸管によって吸収されない阻害剤である。このことは、阻害剤が胃腸管に存在して、それにより、その阻害効果、例えば、胃腸管における細菌の細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼに対するその阻害効果などを発揮するであろうことを意味する。非吸収性は、本明細書中において使用される場合、阻害剤が大腸(例えば、結腸)及び/又は小腸(例えば、回腸)の腸粘膜によって吸収され得ないことを含意するとは限らない。非吸収性阻害剤は、本明細書中において使用される場合、大腸及び/又は小腸によって容易に吸収される薬剤と比較して、腸粘膜による吸収が有意により低い阻害剤もまた包含する。このことは、非吸収性阻害剤が、ある程度、腸粘膜によって吸収されることがあり、しかし、その場合、容易に吸収される薬剤と比較して、より低い程度で、又はより低い吸収速度論で腸粘膜によって吸収されることがあることを意味する。
【0080】
薬剤は好ましくは、ヒスチジンアンモニアリアーゼによる、より好ましくは細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼによるヒスチジンのウロカニン酸への転換を阻害することができる。薬剤はその後、薬剤が、ヒスチジンアンモニアリアーゼによる、より好ましくは細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼによるヒスチジンのウロカニン酸への転換を阻害し得ると判定されるならば、2型糖尿病又は耐糖能障害を対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定される。
【0081】
薬剤がヒスチジンアンモニアリアーゼを阻害し得るかどうかの判定を、薬剤の存在下及び非存在下でヒスチジンの暴露を受けて産生されるウロカニン酸の量を測定することによって実施することができる。そのような試験において、酵素は、例えば、組換え産生されるか、又は腸内微生物叢から単離されるなどして、実質的に純粋な形態である場合がある。代替において、イミダゾールプロピオン酸産生細菌は、薬剤の存在下又は非存在下でのヒスチジンによる暴露を受けることができるであろう。
【0082】
図7gは、イミダゾールプロピオン酸誘発のシグナル伝達の概略図である。この図に示されるように、また、本明細書中においてさらに開示されるように、イミダゾールプロピオン酸は、p38γ MAPK及びおそらくはp38δ MAPKに結合し、それらを活性化することができ、又は誘発することができる。p38γ MAPK及びp38δ MAPKのこの活性化はその結果として、IRSの分解をもたらす活性化経路を開始させる。このことは、p38γ MAPK及び/又はp38δ MAPKの阻害が、T2D又はIGTに罹患している対象におけるイミダゾールプロピオン酸の有害な影響を抑制する効果的な方法であろうことを意味する。
【0083】
したがって、1つの実施形態において、方法は、薬剤がp38γ MAPKを阻害し得るかどうかを判定すること、及び、薬剤が、p38γ MAPKを阻害し得ると判定されるならば、薬剤を、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0084】
特定の実施形態において、方法は、薬剤が、セクエストソーム-1(p62)、リボソームタンパク質S6キナーゼβ-1(S6K1)、インスリン受容体基質1(IRS1)、プロテインキナーゼB(PKB)、及びp38γ MAPKのうちの少なくとも1つをリン酸化する際にp38γ MAPKを阻害し得るかどうかを判定することを含む。方法はまた、この特定の実施形態において、薬剤が、p62、S6K1、IRS1、PKB、及びp38γ MAPKのうちの少なくとも1つをリン酸化する際にp38γ MAPKを阻害し得ると判定されるならば、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。p38γ MAPKは、自己リン酸化プロセスにおいて自身をリン酸化することができる。
【0085】
薬剤がp38γ MAPKを阻害し得るかどうかの判定を、ホスホ-p62に対する抗体、ホスホ-S6K1に対する抗体、ホスホ-IRS1に対する抗体、ならびに/あるいはホスホ-PKB及び/又はホスホ-p38γ MAPKに対する抗体を使用するために本明細書中においてさらに記載されるように決定することができるであろう。その後、薬剤の存在下及び非存在下におけるこれらの分子のリン酸化形態の量を決定することができるであろう。
【0086】
別の実施形態において、方法は、薬剤がp38δ MAPKを阻害し得るかどうかを判定すること、及び、薬剤が、p38δ MAPKを阻害し得ると判定されるならば、薬剤を、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0087】
特定の実施形態において、方法は、薬剤が、p62、S6K1、IRS1、PKB、及びp38δγ MAPKのうちの少なくとも1つをリン酸化する際にp38δ MAPKを阻害し得るかどうかを判定することを含む。方法はまた、この特定の実施形態において、薬剤が、p62、S6K1、IRS1、PKB、及びp38δγ MAPKのうちの少なくとも1つをリン酸化する際にp38δ MAPKを阻害し得ると判定されるならば、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0088】
薬剤がp38δ MAPKを阻害し得るかどうかの判定を、ホスホ-p62に対する抗体、ホスホ-S6K1に対する抗体、ホスホ-IRS1に対する抗体、ホスホ-PKBに対する抗体、及び/又はホスホ-p38δ MAPKに対する抗体を使用するために本明細書中においてさらに記載されるように決定することができるであろう。その後、薬剤の存在下及び非存在下におけるこれらの分子のリン酸化形態の量を決定することができるであろう。
【0089】
本明細書中において示される実験データは、イミダゾールプロピオン酸が、代替p38 MAPK経路を活性化することによってインスリンシグナル伝達を損なうことを示す。この代替p38 MAPK経路は、p38δ MAPK及び/又はp38γ MAPKの活性化を伴う。この代替p38 MAPK経路は、p38α MAPK及びp38β MAPKの活性化を伴う通常のp38 MAPK経路とは異なっている。
【0090】
したがって、1つの実施形態において、方法は、薬剤が代替p38 MAPK活性化経路を阻害し得るかどうかを判定すること、及び、薬剤が、代替p38 MAPK活性化経路を阻害し得ると判定されるならば、薬剤を、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定することを含む。
【0091】
代替p38 MAPK活性化経路の阻害を、
図7gに示されるように、p38δ MAPK及び/又はp38γ MAPKの活性化から、IRSの分解の最終結果までの経路に関与する分子をどれでもモニターすることによって評価することができ、又は判定することができる。例えば、p38δ MAPK及び/又はp38γ MAPKの標的のリン酸化を、本明細書中に記載されるような抗体を使用して薬剤の存在下及び非存在下でモニターすることができる。
【0092】
したがって、様々な阻害剤が、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的である薬剤として特定され得るであろう。阻害剤は、胃腸管における細菌によるイミダゾールプロピオン酸の産生の阻害剤である場合がある(例えば、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤又はヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤など)。代替において、阻害剤は、イミダゾールプロピオン酸によって活性化され、そして
図7gに示されるシグナル経路において活性な阻害剤である場合がある(例えば、p38γ MAPK阻害剤、p38δ MAPK阻害剤、又は代替p38 MAPK経路の阻害剤など)。
【0093】
薬剤を特定する上記の実施形態は好ましくはインビトロ法である。したがって、方法は好ましくはインビトロで実施され、例えば、薬剤が、ウロカニン酸レダクターゼ、ヒスチジンアンモニアリアーゼ、p38γ MAPK、p38δ MAPK、及び代替p38 MAPK経路のうちの少なくとも1つを阻害し得るかどうかをインビトロで判定することなどによって実施される。
【0094】
別の局面において、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的である薬剤が、本明細書中においてさらに開示されるようなインビトロ模擬されたヒト腸モデル又は他の標的哺乳動物の腸モデルを使用して特定される。そのような局面はそれによって、T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的である薬剤を特定する方法に関する。本方法は、ヒスチジン及び/又はウロカニン酸による暴露を受けたインビトロ模擬ヒト腸モデルに薬剤を加えることを含む。インビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されるイミダゾールプロピオン酸の量が測定される。その後、薬剤は、イミダゾールプロピオン酸の量に基づいて、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定される。
【0095】
1つの実施形態において、薬剤は、T2D又はIGTに罹患している対象からの便のアリコートが接種されるインビトロ模擬ヒト腸モデルに加えられる。そのようなインビトロ模擬ヒト腸モデルの一例がさらに例の節において記載される。
【0096】
1つの実施形態において、方法は、イミダゾールプロピオン酸の量を、参照用インビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されるイミダゾールプロピオン酸の参照量と比較することを含む。参照用インビトロ模擬ヒト腸モデルはウロカニン酸レダクターゼ産生細菌をどれも欠いており、又は、正常な耐糖能を有する対象からの便のアリコートが接種される。その後、薬剤は、イミダゾールプロピオン酸の量と、イミダゾールプロピオン酸の参照量との比較に基づいて、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定される。
【0097】
したがって、この実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の参照量が決定され、ヒスチジン及び/又はウロカニン酸による暴露を受け、かつ、薬剤が加えられた後の参照用インビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されるイミダゾールプロピオン酸の量と比較される。この参照用インビトロ模擬ヒト腸モデルは、健康なヒト対象(すなわち、T2D又はIGTに罹患していない対象)の胃腸管を模倣する。このことは、薬剤が、インビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されるイミダゾールプロピオン酸の量を参照量にまで、又は少なくとも参照量の近くにまで低下させることができるならば、薬剤は、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定されることを意味する。
【0098】
別の実施形態において、方法は、イミダゾールプロピオン酸の量を、薬剤の非存在下であることを除いてヒスチジン及び/又はウロカニン酸による暴露を受けたインビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されるイミダゾールプロピオン酸の参照量と比較することを含む。その後、薬剤は、イミダゾールプロピオン酸の量と、イミダゾールプロピオン酸の参照量との比較に基づいて、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定される。
【0099】
1つの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の量だけではなく、ウロカニン酸の量もまた測定される。そのような実施形態において、方法は、インビトロ模擬ヒト腸モデルにおいて蓄積されるウロカニン酸の量を測定することを含む。方法はまた、イミダゾールプロピオン酸の量及びウロカニン酸の量に基づいて、例えば、イミダゾールプロピオン酸の量と、ウロカニン酸の量との比などに基づいて、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして薬剤を特定することを含む。
【0100】
1つの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の量と、ウロカニン酸の量との間における比が、薬剤の非存在下であることを除いてヒスチジン及び/又はウロカニン酸による暴露を受けたインビトロ模擬ヒト腸モデルによって産生されるイミダゾールプロピオン酸の参照量と、ウロカニン酸の参照量との間における比として計算される参照比と比較される場合がある。その後、薬剤は、比及び参照比の比較に基づいて、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定される。
【0101】
これらの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸又はウロカニン酸の参照量は、薬剤の非存在下でインビトロ模擬腸モデルによって産生されるイミダゾールプロピオン酸の量、又は薬剤の非存在下でインビトロ模擬腸モデルにおいて蓄積されるウロカニン酸の量である。このことは、イミダゾールプロピオン酸の量がイミダゾールプロピオン酸の参照量よりも有意に少ない、及び/又は、ウロカニン酸の量がウロカニン酸の参照量よりも有意に多いならば、薬剤は、イミダゾールプロピオン酸又はウロカニン酸の量と、イミダゾールプロピオン酸又はウロカニン酸の参照量との比較に基づいて、T2DもしくはIGTを防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて効果的であるとして特定されることを意味する。
【0102】
本発明の実施形態のさらなる局面が、T2DもしくはIGTを対象において防止する、抑制する、又は処置する方法に関する。本方法は、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、ヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤、p38γ MAPKの阻害剤、p38δ MAPKの阻害剤、mTORC1の阻害剤、及び代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤からなる群から選択される阻害剤の効果的な量を対象に投与することを含む。
【0103】
1つの実施形態において、方法は、イミダゾールプロピオン酸(ImP)の誘導体又は類似体の効果的な量の投与することを含む。そのようなイミダゾールプロピオン酸誘導体は、ヒスチジンアンモニアリアーゼのImP誘発誘導を阻害することが示されており、しかし、それ自体はこの酵素を誘発しなかった。このことは、そのようなImP誘導体がヒスチジンのウロカニン酸への転換及びさらにはイミダゾールプロピオン酸への転換を阻止し得ることを意味する。
【0104】
使用され得るそのようなImP誘導体の限定されない、しかし、例示的な一例が、クロロイミダゾールプロピオン酸である。
【0105】
1つの実施形態において、阻害剤はmTORC1阻害剤である。
図7gにおいてさらに示されるように、また、本明細書中においてさらに記載されるように、そのようなmTORC1阻害剤はIRSのImP誘発された低下を阻害する。したがって、mTORC1を阻害することにより、IRSのImP誘発された分解が効果的に阻害されることになる。
【0106】
そのようなmTORC1阻害剤の限定されない、しかし、例示的な例には、下記のものが含まれる:ラパマイシン、これはまた、シロリムス又は(7E,15E,17E,19E)-9,10,12,13,14,21,22,23,24,25,26,27,32,33,34aS-ヘキサデカヒドロ-9R,27-ジヒドロキシ-3S-[(1R)-2-[(1S,3R,4R)-4-ヒドロキシ-3-メトキシシクロヘキシル]-1-メチルエチル]-10R,21S-ジメトキシ-6R,8,12R,14S,20,26R-ヘキサメチル-23S,27R-エポキシ-3H-ピリド[2,1-c][1,4]オキサアザシクロヘントリアコンチン-1,5,11,28,29(4H,6H,31H)-ペントン(CAS 53123-88-9)として示される;エベロリムス、これはまた、42-O-(2-ヒドロキシエチル)-ラパマイシン(CAS 159351-69-6)として示される;AZD8055、これはまた、CGI-168又は5-[2,4-ビス[(3S)-3-メチル-4-モルホリニル]ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]-2-メトキシ-ベンゼンメタノール(CAS 1009298-09-2)として示される;テムシロリムス、これはまた、CGI-779又は42-[3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロパノアート]ラパマイシン(CAS 162635-04-3I)として示される;PP242、これはまた、トルキニブ(torkinib)又は2-[4-アミノ-1-(1-メチルエチル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-3-イル]-1H-インドール-5-オール(CAS1092351-67-1)として示される;トリン(torin)1、これはまた、1-[4-[4-(1-オキソプロピル)-1-ピペラジニル]-3-(トリフルオロメチル)フェニル]-9-(3-キノリニル)-ベンゾ[h]-1,6-ナフチリジン-2(1H)-オン(CAS 1222998-36-8)として示される;及びWYE-125132、これはまた、N-[4-[1-(1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカ-8-イル)-4-(8-オキサ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-6-イル]フェニル]-N’-メチル-尿素(CAS 1144068-46-1)として示される。
【0107】
1つの実施形態において、阻害剤は、p38γ MAPK阻害剤である。
図7gにおいてさらに示されるように、また、本明細書中においてさらに記載されるように、そのようなp38γ MAPK阻害剤は、最終的にはIRSの分解を引き起こす上流側の事象(
図7gを参照のこと)である、p62及びS6K1のImP誘発リン酸化を阻害する。
【0108】
そのようなp38γ MAPK阻害剤の限定されない、しかし、例示的な例には、1-(5-tert-ブチル-2-p-トリル-2H-ピラゾール-3-イル)-3-[4-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素(BIRB796、CAS 285983-48-4)、ピルフェニドン(これはまた、ペルフェニドン(perfenidone)又は5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリジノン(CAS 53179-13-8)として示される)、ならびにRNAi分子(例えば、マイクロRNA(miRNA)及び低分子干渉RNA(siRNA)など)が含まれる。
【0109】
1つの実施形態において、阻害剤は、p38δ MAPK阻害剤である。
図7gにおいてさらに示されるように、また、本明細書中においてさらに記載されるように、そのようなp38δ MAPK阻害剤は、最終的にはIRSの分解を引き起こす上流側の事象(
図7gを参照のこと)である、p62及びS6K1のImP誘発リン酸化を阻害する。
【0110】
そのようなp38δ MAPK阻害剤の限定されない、しかし、例示的な例には、BIRB796及びRNAi分子(例えば、miRNA及びsiRNAなど)が含まれる。
【0111】
1つの実施形態において、阻害剤はウロカニン酸レダクターゼ阻害剤である。阻害剤は、ウロカニン酸レダクターゼに結合し、その酵素作用を阻止する、又は少なくとも妨害することによってその阻害効果を達成することができるであろう。代替において、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤は、ウロカニン酸レダクターゼの転写、翻訳及び/又はいずれかの翻訳後プロセシングを阻害すること、又は少なくとも低下させることができるであろう。そのような阻害剤の限定されない例が、RNAi分子(例えば、miRNA及びsiRNAなど)である。
【0112】
1つの実施形態において、阻害剤は細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼの阻害剤である。阻害剤は、細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼに結合し、その酵素作用を阻止し、又は少なくとも妨害することによってその阻害効果を達成することができるであろう。代替において、阻害剤は、細菌型ヒスチジンアンモニアリアーゼの転写、翻訳及び/又はいずれかの翻訳後プロセシングを阻害すること、又は少なくとも低下させることができるであろう。そのような阻害剤の限定されない例が、RNAi分子(例えば、miRNA及びsiRNAなど)である。
【0113】
ImP産生細菌の阻害剤には、基質を枯渇させることができるであろうプロバイオティクスが含まれる。コハク酸産生細菌が、基質を枯渇させ、かつ、それにより、細菌によって産生されるイミダゾールプロピオン酸の量を低下させる潜在的なプロバイオティクスであるかもしれない[4]。使用され得るであろう他のプロバイオティクスには、ラクトバシラス属、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属、バクテロイデス属(Bacteroides)、プレボテラ属(Prevotella)及びクロストリジウム属が含まれる。ImP産生細菌を標的とし得る具体的な抗生物質には、少なくとも1つのラクトバシラス属、アドレルクロイチア属、クロストリジウム属、デスルファチバシルム属、エガセラ属、リステリア属(Listeria)、クレブシエラ属(Klebsiella)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、シェワネラ属、ストレプトコッカス属、エンテロバクター属、エンテロコッカス属、フソバクテリウム属及びアエロコッカス属を標的とする抗生物質が含まれ、なお、これらはほとんどがフィルミクテス門(Firmicutes)及びプロテオバクテリア門(Proteobacteria)に属する。したがって、これらの種類の細菌の少なくとも1つを標的とする抗生物質が、イミダゾールプロピオン酸の低下を達成するために有用である場合がある。一例には、アモキシシリンが含まれるが、これに限定されない。
【0114】
方法は、少なくとも1つのウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、少なくとも1つのヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の少なくとも1つの阻害剤、p38γ MAPKの少なくとも1つの阻害剤、p38δ MAPKの少なくとも1つの阻害剤、mTORC1の少なくとも1つの阻害剤、及び/又は代替p38 MAPK活性化経路の少なくとも1つの阻害剤の効果的な量を投与することを含む場合がある。
【0115】
本発明の実施形態の阻害剤又は薬剤は、様々な経路に従って投与され得る。例えば、阻害剤又は薬剤は、当業者には知られている適切な投与手段を使用して、胃腸管への直接的(局所的)な送達のために、又は全身送達のために投与され得る。
【0116】
1つの実施形態において、本発明の実施形態の阻害剤(例えば、イミダゾールプロピオン酸の誘導体)は、胃腸管における細菌酵素(例えば、細菌のヒスチジンアンモニアリアーゼ及び/又はウロカニン酸レダクターゼなど)を優先的に標的とするために非吸収性阻害剤である。
【0117】
別の実施形態において、特に阻害剤が、対象における標的に向けられるならば、例えば、p38γ MAPK又はp38δ MAPKの阻害剤などについては、阻害剤は吸収性阻害剤であり得るであろう。
【0118】
本発明の実施形態によれば、阻害剤又は薬剤は、有効成分を医薬的に許容される投薬形態物において含む医薬用調製物の形態での経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、口腔投与、直腸投与、皮膚投与、鼻腔投与、気管投与、気管支投与、局所的投与、どのような非経口経路であれ、他の非経口経路による投与、又は吸入を介した投与によって投与され得る。
【0119】
哺乳動物の治療的処置、とりわけ、ヒトの治療的処置において、阻害剤又は薬剤は単独で投与される場合があり、しかし、一般には、意図された投与経路及び標準的な薬務に対する相応の考慮とともに選択され得る医薬的に許容される補助剤、希釈剤又はキャリアとの混合での医薬配合物として投与されるであろう。
【0120】
本明細書中において使用される場合、効果的な量は、上述の状態の1つ(すなわち、T2D又はIGT)の症状を少なくとも改善する、又は防止するために十分である量を意味する。特定の患者のための効果的な量は、処置されている病状の状態、患者の全体的な健康状態、投与方法、及び副作用の重篤度などのような要因に依存して変動する場合がある。
【0121】
特定の実施形態が、T2DもしくはIGTを有している、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性がある対象を処置する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量を測定することを含む。本方法はまた、イミダゾールプロピオン酸の濃度がIGTについての閾値濃度以上であり、しかし、T2Dについての閾値濃度未満であるならば、対象はIGTを有している、又はIGTを発症する危険性があると判定すること、ならびに/又は、イミダゾールプロピオン酸の濃度がT2Dについての閾値濃度以上であるならば、対象はT2Dを有している、又はT2Dを発症する危険性があると判定することを含む。
【0122】
特定の実施形態において、IGTについてのイミダゾールプロピオン酸の閾値濃度は8nMであり、好ましくは9nMであり、より好ましくは10nMであり、かつ、T2Dについてのイミダゾールプロピオン酸の閾値濃度は10nMであり、好ましくは11nMであり、より好ましくは12nMである。
【0123】
別の特定の実施形態において、T2Dについてのイミダゾールの閾値濃度は、10.7nMから13.8nMまでの区間の範囲内で選択される。
【0124】
方法はさらに、T2DもしくはIGTを有していると判定される、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があると判定される対象に、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、ヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤、p38γ MAPKの阻害剤、p38δ MAPKの阻害剤、mTORC1の阻害剤、代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤、及び、どのような組合せであれ、それらの組合せからなる群から選択される阻害剤の効果的な量、ならびに/あるいは又はイミダゾールプロピオン酸誘導体の効果的な量を投与し、それにより、T2DもしくはIGTを有していると判定される、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があると判定される対象を処置することを含む。
【0125】
別の特定の実施形態が、T2DもしくはIGTを有している、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性がある対象を処置する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量を測定することを含む。
【0126】
特定の実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の量が少なくとも8nMであり、好ましくは9nMであり、より好ましくは10nMであり、しかし、10nM未満であり、好ましくは11nM未満であり、より好ましくは12nM未満である場合、対象は、IGTを有しているとして、又はIGTを発症する危険性があるとして診断され、また、イミダゾールプロピオン酸の量が少なくとも10nMであり、好ましくは11nMであり、より好ましくは12nMである場合、対象は、T2Dを有しているとして、又はT2Dを発症する危険性があるとして診断され、このことはそれによって、対象を、T2DもしくはIGTを有しているとして、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があるとして診断する。
【0127】
別の特定の実施形態において、イミダゾールプロピオン酸の量が、10.7nMから13.8nMまでの区間の範囲内で選択されるイミダゾールプロピオン酸の閾値濃度を超える場合、対象は、T2Dを有しているとして、又はT2Dを発症する危険性があるとして診断される。
【0128】
方法はまた、T2DもしくはIGTを有しているとして診断される、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があるとして診断される対象に、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、ヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤、p38γ MAPKの阻害剤、p38δ MAPKの阻害剤、mTORC1の阻害剤、代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤、及び、どのような組合せであれ、それらの組合せからなる群から選択される阻害剤の効果的な量、ならびに/あるいは又はイミダゾールプロピオン酸誘導体の効果的な量を投与し、それにより、T2DもしくはIGTを有しているとして診断される、又はT2DもしくはIGTを発症する危険性があるとして診断される対象を処置することを含む。
【0129】
さらなる特定の実施形態が、T2Dを有している、又はT2Dを発症する危険性がある対象を処置する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量が少なくとも10nMであり、好ましくは11nMであり、より好ましくは12nMであり、例えば、10.7nMから13.8nMまでの区間の範囲内で選択されるイミダゾールプロピオン酸の閾値濃度を超えるなどする対象に、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、ヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤、p38γ MAPKの阻害剤、p38δ MAPKの阻害剤、代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤、mTORC1の阻害剤、及び、どのような組合せであれ、それらの組合せからなる群から選択される阻害剤の効果的な量、ならびに/あるいは又はイミダゾールプロピオン酸誘導体の効果的な量を投与することを含む。
【0130】
さらに別の特定の実施形態が、IGTを有している、又はIGTを発症する危険性がある対象を処置する方法に関する。本方法は、対象からの身体サンプルにおけるイミダゾールプロピオン酸の量が少なくとも8nMであり、好ましくは9nMであり、より好ましくは10nMであり、しかし、10nM未満であり、好ましくは11nM未満であり、より好ましくは12nM未満であり、例えば、10.7nMから13.8nMまでの区間の範囲内で選択されるイミダゾールプロピオン酸の閾値濃度を超えるなどする対象に、ウロカニン酸レダクターゼ阻害剤、ヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤、p38γ MAPKの阻害剤、p38δ MAPKの阻害剤、代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤、mTORC1の阻害剤、及び、どのような組合せであれ、それらの組合せからなる群から選択される阻害剤の効果的な量、ならびに/あるいは又はイミダゾールプロピオン酸誘導体の効果的な量を投与することを含む。
【0131】
本発明の実施形態はまた、T2PもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて使用するための上記の阻害剤に関する。これらの実施形態はそれによって、以下の使用を規定する。
【0132】
T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて使用するためのウロカニン酸レダクターゼ阻害剤。
【0133】
T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて使用するためのヒスチジンアンモニアリアーゼ阻害剤。
【0134】
T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて使用するための、イミダゾールプロピオン酸産生細菌の阻害剤。
【0135】
T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて使用するための、p38γ MAPKの阻害剤。1つの実施形態において、p38γ MAPK阻害剤は、1-(5-tert-ブチル-2-p-トリル-2H-ピラゾール-3-イル)-3-[4-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素(BIRB796)、ピルフェニドン及びRNAi分子からなる群から選択される。
【0136】
T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて使用するための、p38δ MAPKの阻害剤。1つの実施形態において、p38γ MAPK阻害剤は、1-(5-tert-ブチル-2-p-トリル-2H-ピラゾール-3-イル)-3-[4-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)ナフタレン-1-イル]尿素(BIRB796)及びRNAi分子からなる群から選択される。
【0137】
T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて使用するための、代替p38 MAPK活性化経路の阻害剤。
【0138】
T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて使用するための、mTORC1の阻害剤。1つの実施形態において、mTORC1阻害剤は、ラパマイシン、エベロリムス、AZD8055、テムシロリムス、PP242(トルキニブ)、トリン1及びWYE-125132からなる群から選択される。
【0139】
T2DもしくはIGTを対象において防止すること、抑制すること、又は処置することにおいて使用するためのイミダゾールプロピオン酸誘導体。1つの実施形態において、イミダゾールプロピオン酸誘導体はクロロイミダゾールプロピオン酸である。
【0140】
例
2型糖尿病には、この疾患の発症の一因であるかもしれない変化した腸内微生物叢が伴っている。腸内微生物叢は、アミノ酸由来のシグナル伝達分子のレベルを変化させることが知られており、しかし、アミノ酸代謝の微生物叢依存的調節が宿主代謝に影響しているか、また、どのように影響しているかは明らかでない。本明細書中において、微生物によりアップレギュレーションされたヒスチジン由来代謝産物のイミダゾールプロピオン酸が、2型糖尿病罹患被験者ではより高い濃度で存在することが明らかにされる。2型糖尿病罹患個体及び2型糖尿病非罹患個体からの便微生物叢を使用して、イミダゾールプロピオン酸の劇的に増大した産生が、糖尿病関連の微生物叢が存在する場合にだけインビトロで明らかにされる。イミダゾールプロピオン酸がインスリン受容体基質タンパク質レベルを低下させ、かつ、それにより、mTORC1の代替p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ媒介活性化を介してインスリンシグナル伝達を損なうこともまた明らかにされる。まとめると、これらの知見は、微生物代謝産物のイミダゾールプロピオン酸が2型糖尿病の病理発生の一因であることを示している。
【0141】
イミダゾールプロピオン酸はヒトにおけるインスリン抵抗性に関連する
腸において産生される細菌代謝産物は門脈を通って肝臓に到達し、その後、体循環に入る。したがって、インスリン抵抗性及び2型糖尿病の一因となっているかもしれない、微生物によりアップレギュレーションされたアミノ酸由来代謝産物を特定するために、5名の2型糖尿病罹患の肥満被験者(ボディーマス指数(BMI)>40)、及び10名の2型糖尿病非罹患のBMI一致被験者の門脈血に対して非標的メタボロミクスを最初に行った。表2を参照のこと。4つのアミノ酸由来代謝産物(硫酸ドパミン、グルタミン酸、イミダゾールプロピオン酸及びN-アセチルプトレシン)のみが、2型糖尿病罹患被験者の門脈血では有意により高かった(すなわち、偽発見率(FDR)<0.1)(表3を参照のこと)。
【表2】
【表3】
【0142】
微生物代謝産物のみに集中するために、その後、C57BL/6Jの無菌(GF)マウス及び通常飼育(CONVR)マウスからの血液の網羅的メタボロミクスプロフィルにおけるこれら4つの代謝産物のレベルを調べた。グルタミン酸ではなく、イミダゾールプロピオン酸がCONVRマウス由来の門脈血及び大静脈血の両方においてより高いレベルで存在し(
図1aを参照のこと)、硫酸ドパミン及びN-アセチルプトレシンは検出されないことが示された。次に、イミダゾールプロピオン酸測定のための標的化方法を開発し、マウス血漿におけるピークが、合成参照物質(CAS 1074-59-5、Santa Cruz)と同じ保持時間及び断片化パターンを有することを確認した。初期ヒトコホートからの門脈血及び末梢血におけるイミダゾールプロピオン酸の標的化測定では、(1)イミダゾールプロピオン酸の濃度が2型糖尿病罹患被験者の門脈血ではより高いことが確認され、加えて、(2)イミダゾールプロピオン酸の濃度はまた、2型糖尿病非罹患被験者と比較して、2型糖尿病罹患被験者の末梢血でもより高いことが示された(
図1bを参照のこと)。
【0143】
イミダゾールプロピオン酸が微生物産生の代謝産物であるかどうかを直接的に取り組むために、嫌気性で、還元性の腸環境を模倣するインビトロ腸シミュレーターを使用した。2型糖尿病罹患又は2型糖尿病非罹患の肥満被験者からの微生物群集の1週間の安定化の後、群集への10mMヒスチジン暴露を行い、イミダゾールプロピオン酸及びその前駆体(ウロカニン酸)のレベルを7時間にわたって測定した(
図2を参照のこと)。2型糖尿病非罹患被験者からの細菌群集は、ウロカニン酸を、ヒスチジン補充後3時間でピークに達するレベルに速やかに産生した。イミダゾールプロピオン酸はどの時点でもほとんど検出されなかった(
図1c(左側)を参照のこと)。2型糖尿病関連の微生物叢もまた、ウロカニン酸をヒスチジン補充直後に産生し、しかし、より低い速度で産生した。注目すべきことに、イミダゾールプロピオン酸の生成がヒスチジン補充後1.5時間で認められ(
図1c(右側)を参照のこと)、このことは、ウロカニン酸と、イミダゾールプロピオン酸との間における前駆体と生成物との関係を反映していた。これらの所見は、2型糖尿病関連の微生物叢はウロカニン酸の代謝を、グルタミン酸を生じさせるための従来のHut経路から、イミダゾールプロピオン酸を生じさせるためのあまり知られていない経路に移行させることができることを示唆する(
図2を参照のこと)。
【0144】
これらの所見を検証するために、回分培養を行い、2型糖尿病罹患被験者及び2型糖尿病非罹患被験者(n=5/群、再度ではあるが、最初のコホートから)に由来する細菌群集におけるヒスチジンからのイミダゾールプロピオン酸産生を比較した。終点測定により、より高濃度のイミダゾールプロピオン酸が2型糖尿病関連の微生物叢の存在下で産生されることが示された(
図1e)。これらの所見は、2型糖尿病関連の微生物叢はウロカニン酸をあまり知られていない経路に分流して、イミダゾールプロピオン酸を産生することを示唆する。
【0145】
細菌型ウロカニン酸レダクターゼ(UrdA)は、ウロカニン酸からのイミダゾールプロピオン酸の生成を触媒するものであり、最近になって(シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)において)発見されたばかりである。可能性のあるUrdAについての大規模スクリーニングをFAD活性部位に基づいて行い、812個のUrdAホモログを細菌ゲノムにおいて特定した:639個が、保存された「H」を有しており、173個は「H」を有していなかった(「Y」又は「M」により置換されていた)。次に、「H」を有する、又は「H」を有しない細菌はイミダゾールプロピオン酸をヒスチジン又はウロカニン酸から産生することができるかを比較した。「H」-UrdAホモログを有する細菌はイミダゾールプロピオン酸を産生せず、これに対して、「Y」又は「M」-UrdAホモログを有する細菌がイミダゾールプロピオン酸を産生することが明らかにされた(
図1f)。このことは、これにより、イミダゾールプロピオン酸を産生する細菌を予測することができるであろうことを示している(すなわち、「Y」又は「M」-UrdAホモログが正真正銘のウロカニン酸レダクターゼである)。
【0146】
イミダゾールプロピオン酸濃度が2型糖尿病罹患個体の末梢血では増大しているという本発明者らの所見を検証するために、最初に584名の中年個体をスウェーデン人集団から募集し、その後、拡大変形では649名の個体を募集し、これらの個体を耐糖能のレベルに従って4つの群に分けた(表4A及び4Bを参照のこと)。BMI及び性別について補正を行った後、有意により高いレベルのイミダゾールプロピオン酸が、正常な耐糖能を有する個体と比較して、耐糖能障害を有する個体において(P=0.020)、又は処置を受けたことがない2型糖尿病を有する個体において見出された(P=0.002)(
図1dを参照のこと)。イミダゾールプロピオン酸は、正常な耐糖能を有する個体と比較して、耐糖能障害を有する個体ではより高いレベルに向かう傾向を示し(P=0.057)、処置を受けたことがない2型糖尿病を有する個体では有意により高いままであった(P=0.047)。イミダゾールプロピオン酸のレベルがすべての群にわたって有意により高いこと(P<0.0001)、そして、潜在的な交絡要因(BMI、性別及び年齢)について補正を行った後では、処置を受けたことがない2型糖尿病を有する個体は、正常な耐糖能を有する個体と比較して、より高いレベルのイミダゾールプロピオン酸を有することが見出された(P<0.0001)。対照的に、ウロカニン酸のレベルは群間において異なっていなかった(
図1dを参照のこと)。
【表4A】
【表4B】
【0147】
イミダゾールプロピオン酸は耐糖能及びインスリンシグナル伝達を損なう
イミダゾールプロピオン酸がグルコース代謝に影響を及ぼし得るであろうかどうかを直接的に調べるために、イミダゾールプロピオン酸を3日間にわたってGFマウスに腹腔内注射した。この処置は、およそ13nMのイミダゾールプロピオン酸の循環濃度を、ウロカニン酸のレベルに影響を与えることなくもたらした(
図3aを参照のこと)。重要なことに、イミダゾールプロピオン酸のこれらの低い濃度は、著しいグルコース不耐性を誘発するために十分であり(
図3bを参照のこと)、このことは、インビボでの損なわれたグルコース代謝のもっともらしい一因としてイミダゾールプロピオン酸が果たす役割を裏づけていた。G6pアーゼ及びPepck(重要な糖生成律速酵素の遺伝子)の肝臓での発現が、コントロールと比較して、イミダゾールプロピオン酸が注射されたGFマウスでは有意に増大したこともまた認められた(
図3cを参照のこと)。しかしながら、イミダゾールプロピオン酸はSrebp1c及びFasn(重要な脂質生成酵素の遺伝子)の肝臓での発現に影響を及ぼさなかった(
図3cを参照のこと)。
【0148】
次に、インスリンシグナル伝達に関与する重要なタンパク質に対するイミダゾールプロピオン酸注射の影響を調べた。イミダゾールプロピオン酸はインスリン受容体(IR)の肝臓レベルに影響を及ぼさず、しかし、インスリン受容体基質1及びインスリン受容体基質2(IRS1及びIRS2)の肝臓レベルをGFマウスにおいて低下させることが見出された(
図3dを参照のこと)。肝臓でのIrs1及びIrs2のmRNAレベルにおける有意な変化が認められなかったので、これらの低下は転写後のレベルで生じた(
図4を参照のこと)。
【0149】
次に、イミダゾールプロピオン酸の3日間の注射がCONVRマウス(代謝ケージに収容される)におけるグルコース代謝及びインスリンシグナル伝達に影響を及ぼし得るであろうかどうかを調べた。この処置は、イミダゾールプロピオン酸の循環濃度を、ウロカニン酸のレベルに影響を伴うことなく、およそ4倍増大させることが示された(
図3fを参照のこと)。注目すべきことに、イミダゾールプロピオン酸処置は、CONVRマウスにおいて、体重、肝臓重量及びWAT重量又は食物摂取量に対する有意な影響を何ら与えることなく、耐糖能を損なった(
図3g)。初期暗期におけるエネルギー消費が、自発運動活動における低下と並行してイミダゾールプロピオン酸によって有意に低下し、しかしながら、総自発運動活動はイミダゾールプロピオン酸処置によって有意に低下しなかった。
【0150】
GFマウスにおける本発明者らの所見とは対照的に、イミダゾールプロピオン酸処置は、CONVRマウスにおいて、肝臓、筋肉又はWATにおけるIRSレベルを低下させなかった。したがって、インスリンシグナル伝達に対するイミダゾールプロピオン酸の役割を、初代肝細胞を使用してさらに調べた。イミダゾールプロピオン酸による20時間にわたる処置は、GF肝臓におけるイミダゾールプロピオン酸に対する応答と一致して、IRSを肝細胞において低下させた(
図3h)にもかかわらず、イミダゾールプロピオン酸による8時間の処置はIRSに影響を及ぼさなかった(
図3e)。しかしながら、この短期間の処置は、IRS-1関連PI3K及び下流側Aktのインスリン刺激された活性化のために要求されるインスリン誘発のIRS1 Y612リン酸化を弱らせた(
図3e)。Aktは、残基S473及び残基T308の両方がリン酸化されたときに完全に活性化され21、しかし、AktのS473リン酸化及びT308リン酸化は、異なる生理学的役割を媒介することが報告されている。今回、イミダゾールプロピオン酸による8時間の処置が、インスリン誘発のAkt T308リン酸化ではなく、インスリン誘発のAkt S473リン酸化を低下させることが明らかにされた(
図3e)。インスリン刺激されたAkt T308リン酸化ではなく、インスリン刺激されたAkt S473リン酸化を肝臓又は脂肪において特異的に除くことが、耐糖能を損なうために十分であり、このことは、Akt S473リン酸化が、インスリンの有益な応答を媒介することにおいて重要であることを示唆する。
【0151】
注目すべきことに、イミダゾールプロピオン酸による初代肝細胞の8時間の処置は、S473及びT308の両方での基礎的Aktリン酸化を誘発し、それにより、インスリンに対するAktの応答性を低下させた(
図3e)。本発明者らは、基礎的Akt S473リン酸化が、ビヒクル処置されたCONVRマウスと比較して、3日間のイミダゾールプロピオン酸注射を受けたCONVRマウスからの肝臓、筋肉及びWATではより高いことにもまた注目した。基礎的Akt活性化が西洋型食餌誘発のインスリン抵抗性動物及び糖尿病性レプチン欠損ob/obマウスにおいてしばしば認められており、基礎的Akt活性化はインスリン刺激されたグルコース取り込みを阻害し、そして、インスリン感受性を、インスリン刺激されたIRS1チロシンリン酸化及びIRS1関連PI3K活性を阻害することによって低下させることができる。
【0152】
IRSタンパク質レベルとは対照的に、S473又はT308のどちらにおいてでも、Aktリン酸化における低下が、イミダゾールプロピオン酸による処置の後のGFマウスからの肝臓では認められなかった(
図3dを参照のこと)。注目すべきことに、以前の研究では、マウスに高脂肪食を8週間~12週間にわたって与えると、耐糖能障害がIRS1タンパク質の低下したレベルとともに生じ、しかし、Aktリン酸化は変化しないか、又は増大することが示されている。同様に、イミダゾールプロピオン酸と14時間インキュベーションされる初代肝細胞では、IRS1における劇的低下が、S473及びT308での基礎的Aktリン酸化における増大と組み合わさって認められた(
図3eを参照のこと)。増大した基礎的Akt活性化にもかかわらず、インスリン誘発のAkt S473リン酸化が、イミダゾールプロピオン酸にさらされる初代肝細胞では低くなっていた(
図3eを参照のこと)。対照的に、インスリン誘発のAkt T308リン酸化が、ビヒクル処置された肝細胞と比較して、イミダゾールプロピオン酸にさらされる初代肝細胞では高くなっていた(
図3eを参照のこと)。以前の研究では、インスリン誘発のAkt T308リン酸化ではなく、インスリン誘発のAkt S473リン酸化を肝臓又は脂肪において特異的に除くことが、耐糖能を損なうために十分であることが示されており、このことは、Akt S473リン酸化が、インスリンの有益な応答を媒介することにおいて重要であることを示唆する。
【0153】
まとめると、これらのデータは、イミダゾールプロピオン酸は耐糖能を悪化させることを明らかにし、このことは、低下したIRSタンパク質レベル及び低下したインスリン誘発のAkt S473リン酸化によって少なくとも部分的には説明され得るであろう。
【0154】
したがって、本発明者らの結果は、イミダゾールプロピオン酸は、潜在的には基礎的Akt活性化を増大させ、かつ、それにより、インスリン刺激されたチロシンリン酸化を低下させることによって、IRSのレベルでのインスリンシグナル伝達に対する負の影響を有することが明らかにする。
【0155】
イミダゾールプロピオン酸はアミノ酸感知経路を調節する
イミダゾールプロピオン酸をIRS低下に結びつけることができるであろう潜在的な経路には、c-Jun N末端キナーゼ(JNK)又はラパマイシン標的タンパク質複合体1(mTORC1)を伴う経路が含まれる。最初に、JNK阻害剤のSP600125又はBI78D3はイミダゾールプロピオン酸誘発のIRS1低下を初代肝細胞において回復させないことが示され(
図5を参照のこと)、これにより、JNK経路についての役割が除外された。対照的に、mTORC1阻害剤のラパマイシン及びトリン1はこれらの細胞におけるIRSのイミダゾールプロピオン酸誘発低下を阻害することが示された(
図6a及び
図6iを参照のこと)。さらに、S6K1リン酸化(これはmTORC1活性化のマーカーである)が、イミダゾールプロピオン酸とインキュベーションされる初代肝細胞において増大し、この応答がラパマイシン及びトリン1によって取り消された(
図6a及び
図6iを参照のこと)。これらの結果から、イミダゾールプロピオン酸はIRSタンパク質レベルを、mTORC1の上流側のシグナル伝達分子に影響を及ぼすことによって低下させることが示唆される。イミダゾールプロピオン酸によるGFマウスの3日間の処置は、肝臓において、mTORC1 S2481の自己リン酸化に影響を与えることなく、S6K1リン酸化を増大させることもまた示された(
図6bを参照のこと)。mTOR S2481の自己リン酸化は、全細胞溶解物で測定されるとき、インスリンによって増大し、しかし、アミノ酸によって増大しないことが知られているので、本発明者らの結果は、イミダゾールプロピオン酸によるアミノ酸感知経路の活性化を示唆する。
【0156】
アミノ酸感知経路におけるイミダゾールプロピオン酸の役割をさらに調べるために、アミノ酸欠乏させた初代肝細胞をイミダゾールプロピオン酸とインキュベーションした。アミノ酸の非存在において、イミダゾールプロピオン酸との2時間にわたるインキュベーションはS6K1リン酸化を強く誘発した(
図6cを参照のこと)。ヒト細胞株(HEK293細胞)における1時間にわたるイミダゾールプロピオン酸とのインキュベーションは、アミノ酸の存在下で認められるレベルに匹敵するレベルでS6K1リン酸化を誘発することもまた示された(
図6dを参照のこと)。
【0157】
本発明者らのデータは、イミダゾールプロピオン酸はアミノ酸誘発mTORC1活性化のシグナル伝達機構を共有することを示唆したにもかかわらず、イミダゾールプロピオン酸は、細胞によって利用され得る典型的なアミノ酸ではない。mTORC1活性化におけるイミダゾールプロピオン酸とアミノ酸との間における相違点又は類似点を明確化するために、アミノ酸欠乏させた初代肝細胞をイミダゾールプロピオン酸とインキュベーションした。アミノ酸の非存在において、イミダゾールプロピオン酸との2時間にわたるインキュベーションはS6K1リン酸化を強く誘発した(
図6c)。ヒト細胞株(HEK293細胞)における1時間にわたるイミダゾールプロピオン酸とのインキュベーションは、アミノ酸の存在下で認められるレベルに匹敵するレベルでS6K1リン酸化を誘発することもまた示された。ロイシンは、mTORC1を強力に活性化することが知られており、S6K1リン酸化をほんの15分後にHEK293細胞において増大させ、しかし、その影響は一過性であり、その後の時点で認められるイミダゾールプロピオン酸に対する応答ほど強くなかった。しかしながら、イミダゾールプロピオン酸はS6K1リン酸化をアミノ酸の存在下ではほんの30分後にHEK293において誘発した。これらの結果は、mTORC1の活性化における典型的なアミノ酸とイミダゾールプロピオン酸との間における相違点を示唆する。
【0158】
免疫沈降実験を行うことによって、HEK293細胞におけるイミダゾールプロピオン酸との2時間のインキュベーションは、mTORC2ではなく、mTORC1を特異的に調節することが示された。注目すべきことに、イミダゾールプロピオン酸及びアミノ酸の両方がmTORC1を類似した程度にリン酸化したにもかかわらず、イミダゾールプロピオン酸のみがAktリン酸化を誘発した。以前の所見と一致して、イミダゾールプロピオン酸誘発のAkt活性化とは対照的に、インスリン誘発のAkt活性化はアミノ酸の非存在下においてmTORC1を活性化しないことが示された。mTORC1及びAktはアミノ酸の非存在下においてイミダゾールプロピオン酸によって無関係に活性化され、しかし、Aktはアミノ酸の存在下においてmTORC1の上流側の調節因子として作用し得るであろうこともまた示された。まとめると、これらの結果は、イミダゾールプロピオン酸はアミノ酸又はインスリンのどちらとも異なる様式でmTORC1を活性化することを示している。
【0159】
IRS1タンパク質レベルが、アミノ酸欠乏細胞において、2時間までの短いインキュベーション時間の後ではイミダゾールプロピオン酸によって低下しなかった(
図6c及び
図6dを参照のこと)。以前の研究では、IRS1の分解に先立って、mTOR/S6K1の過剰活性化及びそれに続くユビキチン/プロテアソーム媒介分解によって誘発されるS636及びS639でのIRS1のリン酸化が生じることが示されたので、イミダゾールプロピオン酸がアミノ酸欠乏HEK293細胞においてIRS1 S636/S639リン酸化を誘発し得るであろうかを次に調べた。イミダゾールプロピオン酸との2時間にわたるインキュベーションは、IRS1 S636/S639リン酸化を、IRS1タンパク質レベルに影響を及ぼすことなく誘発することが示された。8時間のイミダゾールプロピオン酸はIRS1レベルを劇的に低下させ、IRS1のセリンリン酸化によって引き起こされることが知られている移動度シフトをもたらした(
図6eを参照のこと)。これらの結果は、イミダゾールプロピオン酸はIRS1のセリンリン酸化に応答してIRS1分解を促進させることを示唆する。
【0160】
インスリンは、Aktの活性化を介してmTORC1を活性化し、これにより、Rheb-GTP(mTORC1の強力な活性化剤)に対するTSCの阻害作用が軽減される。対照的に、mTORC1の永続的な活性化は、IRSに向かう負のフィードバックループを介してインスリン誘発のAkt活性化を阻害する。しかしながら、インスリンはアミノ酸の非存在下においてmTORC1を活性化することができず、加えて、本発明者らは、インスリン誘発のAkt活性化が、アミノ酸又はイミダゾールプロピオン酸の非存在下では、S6K1リン酸化によって測定されるようなmTORC1活性化をもたらさないことを明らかにした(
図6eを参照のこと)。さらに、イミダゾールプロピオン酸による8時間にわたる前処理は、mTORC1活性化と、IRS1の減少とを、Aktの増大した基礎的活性化及びインスリンに対するAkt S473の低下した応答性と一緒にもたらし(
図6eを参照のこと)、このことから、インスリンシグナル伝達のmTORC1媒介阻害がIRS1分解を介して生じるという考えがさらに裏づけられた。
【0161】
イミダゾールプロピオン酸との8時間にわたるインキュベーションはIRS1のさらなる移動度シフトを促進させ、IRS1レベルを劇的に低下させた(
図6e)。イミダゾールプロピオン酸による6時間の処置はIRS1のユビキチン化を促進させることもまた示された。まとめると、これらの結果から、イミダゾールプロピオン酸がmTORC1依存的経路を介してIRS分解を促進させることが示唆され、また、IRS分解に先立って、IRS S636/S639リン酸化及びユビキチン化が生じるという考えが裏づけられる。
【0162】
イミダゾールプロピオン酸はmTORC1のリソソーム局在化を促進させる
以前の研究では、アミノ酸によるmTORC1活性化は、アダプタータンパク質p62(活性なRagヘテロ二量体RagB-GTP/RagC-GDP)、Raptor及びmTORC1の間での複合体の形成によって媒介されるmTORC1のリソソーム局在化を必要とすることが示されている。今回、イミダゾールプロピオン酸がmTORのリソソーム局在化を誘発することが示された(
図6fを参照のこと)。したがって、イミダゾールプロピオン酸がこの活性複合体の形成を促進し得るであろうかどうかを次に調べた。FLAGタグ化されたmTORとの免疫沈降を行い、HAタグ化されたRaptor、Mycタグ化されたRag GTPアーゼ、及びp62との相互作用をモニターすることによって、イミダゾールプロピオン酸はmTORC1-Ragヘテロ二量体複合体-p62の形成を、構成的に活性なRagB-GTP/RagC-GDPを発現する細胞において達成されるレベルに匹敵するレベルに誘発することが示された(
図6gを参照のこと)。次に、イミダゾールプロピオン酸誘発のS6K1活性化におけるRag GTPアーゼの関与が明らかにされた。RagA/B-GDP及びRagC/D-GTP(これらは不活性なRag GTPアーゼである)はイミダゾールプロピオン酸誘発のS6K1リン酸化を阻止することが示された(
図6hを参照のこと)。そのうえ、活性なRag GTPアーゼ(RagA/B-GTP)はS6K1リン酸化をさらに増大させず(
図6hを参照のこと)、このことから、イミダゾールプロピオン酸はRag GTPアーゼの活性化を介してmTORを活性化することが示唆された。
【0163】
イミダゾールプロピオン酸はp62リン酸化を誘発するが、他のヒスチジン誘導体はp62リン酸化を誘発しない
T269及びS272でのアダプタータンパク質p62のリン酸化は最近、リソソームでのmTORC1活性化のアミノ酸誘発のために非常に重要であることが示されている。今回、p62リン酸化がイミダゾールプロピオン酸とのインキュベーションによって初代肝細胞において誘発されることが示された(
図7aを参照のこと)。さらに、この応答はmTORC1阻害剤のラパマイシンによって影響されず(
図7aを参照のこと)、このことは、mTORC1はp62リン酸化の下流側であることを示した。
【0164】
イミダゾールプロピオン酸はp62リン酸化における濃度依存的かつ時間依存的な増大をHEK293細胞において促進させ、活性化がアミノ酸の非存在下において10nMもの低い濃度で認められた(
図7bを参照のこと)。S6K1リン酸化及びIRS1 S636/S639リン酸化は、イミダゾールプロピオン酸に対して、p62ほど敏感でなかった(
図7bを参照のこと)。このことは、mTORC1活性化の上流側でp62リン酸化が果たす役割を裏づけている。注目すべきことに、ヒスチジンもしくはその分解生成物(すなわち、ウロカニン酸及びグルタミン酸)、又は構造的に類似する細菌代謝産物のインドールプロピオン酸のどちらも、p62又はS6K1をリン酸化しなかった(
図7cを参照のこと、
図7cでは、イミダゾールプロピオン酸の特異性が強調される)。
【0165】
代替p38 MAPKはイミダゾールプロピオン酸誘発のシグナル伝達を促進させる
最近の研究では、p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)p38δが、p62/mTORC1のアミノ酸誘発活性化を媒介するために要求されることが報告された。したがって、p38δもまた、p62/mTORC1のイミダゾールプロピオン酸誘発活性化に関与するかどうかを調べた。p38δは、哺乳動物細胞に存在する4つのp38 MAPKイソ型の1つであり、これらのイソ型は、p38α/p38β及びp38γ/p38δ(これは代替p38 MAPKとも呼ばれる)の2つのサブセットに分けることができる。p38γ/p38δではなく、p38α/p38βが、ピリジニルイミダゾール系阻害剤のSB20219037によって阻害され、これに対して、BIRB796はp38サブファミリー全体を阻害する。今回、SB202190ではなくBIRB796がp62及びS6K1のイミダゾールプロピオン酸誘発リン酸化を阻害することが示され(
図7dを参照のこと)、このことは、p38α/p38βではなく、p38γ/p38δがイミダゾールプロピオン酸の下流側標的であることを示した。
【0166】
p38δ又はp38γがイミダゾールプロピオン酸誘発のp62/mTORC1活性化に関与しているかどうかを明らかにするために、siRNAを使用して、これら2つのイソ型を別々にノックダウンした。p38δのノックダウンは、p62及びS6K1のリン酸化に対する小さい阻害作用を有しただけであり、イミダゾールプロピオン酸との1時間にわたるインキュベーションによって誘発されるIRS1リン酸化には影響を与えなかった(
図7e及び
図8aを参照のこと)。対照的に、p38γのノックダウンは、p62、S6K1、IRS1 S636/S639、及びAktのイミダゾールプロピオン酸誘発リン酸化をほぼ完全に阻止した(
図7e及び
図8bを参照のこと)。以前の研究では、p38γ/p38δが、リン酸化することによって、したがって、mTORC1及びmTORC2の阻害剤(DEPドメイン含有mTOR相互作用タンパク質(DEPTOR))の分解を促進させることによって、mTOR活性化を促進させることが報告された。しかしながら、DEPTORレベルが、コントロールsiRNA又はp38δ/p38γ siRNAのいずれかによりトランスフェクションされた細胞ではイミダゾールプロピオン酸によって影響されないことが示された(
図7eを参照のこと)。
【0167】
p38γのノックダウンはイミダゾールプロピオン酸誘発のシグナル伝達を妨げたので、次に、イミダゾールプロピオン酸はp38γのキナーゼ活性を直接に活性化することができるであろうかを検討した。インビトロキナーゼアッセイを行うことによって、T269及びS272でのp62リン酸化が50μMのATPの存在下においてp38γによって誘発され、このことが200μMのATPによりさらに増大することが示された(
図7fを参照のこと)。重要なことに、イミダゾールプロピオン酸はp62リン酸化を濃度依存的様式で増強し(
図7fを参照のこと)、このことは、イミダゾールプロピオン酸はp38γを直接に活性化することができるであろうことを示した。
【0168】
p38γを含むp38MAPKの活性化は、上流側のキナーゼによるT180/Y182でのリン酸化によって媒介されることが知られている。ATP自体はp38γ自己リン酸化を誘発しなかった。しかしながら、驚くべきことに、イミダゾールプロピオン酸はATPと一緒になって、p38γ自己リン酸化を誘発した。上流側のキナーゼにより媒介されたp38リン酸化は、p38を活性化するための従来の機構であるにもかかわらず、p38は自己リン酸化することができ、したがって、自身を活性化することができることを裏づける研究が行われてきている。
【0169】
Akt S473及びAkt T308
Aktキナーゼは、残基S473及び残基T308の両方がリン酸化されたときに完全に活性化され得る。しかしながら、インスリン刺激されたAkt T308リン酸化ではなく、インスリン刺激されたAkt S473リン酸化を肝臓又は脂肪において特異的に除くことが、耐糖能を損なうために十分であり、このことは、Akt S473リン酸化が、インスリンの有益な応答を媒介することにおいて重要であることを示唆する。対照的に、Akt S473リン酸化ではなく、Akt T308リン酸化が、急性骨髄性白血病患者の生存、及びヒト非小細胞肺ガンにおけるAktキナーゼ活性と相関づけられており、このことはおそらくは、細胞成長及び生存を媒介することにおけるそのAkt T308を示唆する。イミダゾールプロピオン酸はS473及びT308での基礎的Aktリン酸化を初代肝細胞において増大させた(
図3e)。しかしながら、S473でのインスリン誘発のAktリン酸化は、おそらくは低下したIRS1チロシンリン酸化のために、イミダゾールプロピオン酸にさらされる初代肝細胞では低くなっていた(
図3e)。
【0170】
ロイシンとの比較
ロイシンは、アミノ酸感知経路におけるmTORC1の強力な活性化剤の1つである。ロイシン誘発のmTORC1活性化はアミノ酸の非存在下において迅速であり(15分以内)、しかし、一過性であった。対照的に、イミダゾールプロピオン酸誘発のmTORC1活性化は30分のインキュベーションまでは認められず、しかし、2時間の処置の後では強くなっていた。アミノ酸の非存在下において、mTORC1は細胞質に局在化し、アミノ酸誘発のmTORC1活性化のためのすべての機構が見出されるリソソームには局在化していない6。アミノ酸の存在下において、イミダゾールプロピオン酸はまた、おそらくはリソソームにおける事前に局在化したmTORC1に起因して、S6K1リン酸化をインキュベーションの30分以内に誘発した。このことは、イミダゾールプロピオン酸は、mTORC1をリソソームに動員することにおいてアミノ酸ほど効率的でないかもしれないことを示唆する。
【0171】
mTORC1に対するイミダゾールプロピオン酸の特異性及びAktの調節におけるイミダゾールプロピオン酸の特有の特性
イミダゾールプロピオン酸はアミノ酸感知経路を活性化するので、mTOR調節に対するその影響をさらに調べた。mTOR、mTORのS2448及びS2481のリン酸化は、mTORC1及びmTORC2に関連することがそれぞれ知られている7。(Raptor免疫沈降によって単離される)mTORC1におけるmTOR S2448リン酸化がイミダゾールプロピオン酸又はアミノ酸によって強く誘発され、しかし、mTORC1におけるmTOR S2481リン酸化のためではなかった。しかしながら、(Rictor免疫沈降法によって単離される)mTORC2におけるmTORのS2448リン酸化又はS2481リン酸化はイミダゾールプロピオン酸による影響を受けず、また、Aktに対するインビトロmTORC2キナーゼ活性もイミダゾールプロピオン酸によって変化しなかった。これらのデータから、イミダゾールプロピオン酸は、mTORC1経路に対する特異性がmTORC2経路よりも大きいことが示唆される。
【0172】
アミノ酸はAktリン酸化を誘発することができないため、イミダゾールプロピオン酸はアミノ酸とは異なっていた。また、インスリンはアミノ酸の非存在下においてmTORC1を活性化することができないので、イミダゾールプロピオン酸はインスリンとは異なっていた。Aktはアミノ酸の存在下ではmTORC1についての上流側の活性化剤である。したがって、Aktのイミダゾールプロピオン酸誘発の基礎的活性化がmTORC1活性化の原因であるかどうかを明らかにした。Aktの高選択的アロステリック阻害剤(MK2206)は、イミダゾールプロピオン酸誘発のAkt活性化を効率的に阻止し、しかし、イミダゾールプロピオン酸誘発のS6K1リン酸化には影響しなかった。このことは、mTORC1及びAktがイミダゾールプロピオン酸によって無関係に活性化され得ることを示唆する。しかしながら、アミノ酸の存在下では、Aktは、イミダゾールプロピオン酸誘発のS6K1リン酸化におけるMK2206媒介阻害によって示されるmTORC1の上流側調節因子として作用することができる。これらのことから、イミダゾールプロピオン酸はそのシグナル伝達において特有の性質を有することが示唆される。
【0173】
IRSに対するイミダゾールプロピオン酸の詳細な作用
mTORC1媒介のIRSのセリンリン酸化は十分に研究されているにもかかわらず、mTORC1自身又はmTORC1活性化S6K1がこの事象の原因であるかどうかは明らかではなかった。したがって、mTORC1又はS6K1を、Raptor siRNA又はS6K1 siRNAを介してそれぞれ枯渇させた。これらは、Raptorサイレンシングが、IRS S636/S639リン酸化の阻害と、IRS移動度シフトの部分的阻止とを引き起こしたので、mTORC1がIRSのイミダゾールプロピオン酸誘発調節の原因であることを示した。イミダゾールプロピオン酸がIRS S636/S639リン酸化及びユビキチン化を引き起こすことが明らかにされたにもかかわらず、このS636/S639リン酸化がユビキチン化の原因であるかどうかをさらに調べる必要がある。また、イミダゾールプロピオン酸がIRSの他の調節を誘発し得ることも依然として可能である。
【0174】
本研究において、本発明者らは、2型糖尿病の患者において増大する、微生物によりアップレギュレーションされたヒスチジン由来代謝産物としてイミダゾールプロピオン酸を特定した。本発明者らはまた、イミダゾールプロピオン酸処置がマウスにおいて耐糖能を損ない、低下したIRSタンパク質レベルをもたらすことを明らかにした。加えて、本発明者らは、可能性のあるシグナル伝達経路を調べ、イミダゾールプロピオン酸が、(1)IRSタンパク質をリン酸化し、かつ、それによってIRSタンパク質を分解のために標的とする代替p38 MAPK/mTORC1を活性化すること、そして、(2)基礎的Akt活性化を、インスリンに対する応答性をさらに低下させるかもしれないp38γを介して促進させることを示すための証拠を提供する(
図7gを参照のこと)。
【0175】
イミダゾールプロピオン酸が門脈血及び末梢血において類似した濃度で存在するという本発明者らの所見は、この代謝産物が代謝されず、したがって、直接的な全身影響を有し得るであろうことを示している。高インスリン血症及びBCAAが、基礎的Akt及びmTORC1活性化にそれぞれ影響を及ぼすことによってインスリン抵抗性の一因となっていることが示唆されている。しかしながら、インスリンレベルが2型糖尿病の後期段階では低下しており、そして、BCAAがインスリン抵抗性及び2型糖尿病の原因因子であるかどうかは依然として不明である(BCAAそのものではなく、むしろ、毒性のBCAA代謝産物が代謝症候群の一因となっているようである)。本発明者らの研究において特定されるイミダゾールプロピオン酸シグナル伝達経路は、基礎的Akt及びmTORC1の活性化がどのように代謝症候群の発症の一因となり得るであろうかを説明するために役立つ。さらに、イミダゾールプロピオン酸の標的として広範囲の組織発現を有する代替p38 MAPKが特定された。p38γ及びp38δはともに、耐糖能障害を含む様々な病理学的状態に関係している。イミダゾールプロピオン酸はインビトロにおいてp38キナーゼ活性を変化させたので、イミダゾールプロピオン酸は潜在的には、他の関連したキナーゼに影響を及ぼし、そして、mTORC1に加えて下流側のシグナル伝達経路を活性化するであろう。
【0176】
ウロカニン酸及びグルタミン酸の生成を引き起こすヒスチジン分解経路が細菌及びヒトの両方において十分に保存されている。しかしながら、細菌型ウロカニン酸レダクターゼ(urdA)(これはウロカニン酸からイミダゾールプロピオン酸の生成を触媒する)は最近になって特定されたばかりである。配列同一性が30%を超えるurdAホモログがヒトゲノムにおいて何ら特定されず、このことから、イミダゾールプロピオン酸が微生物により産生されるという考えがさらに裏づけられた。812個のUrdAホモログが細菌ゲノムにおいて予測され、そして、保存された「H」ではなく、「Y」又は「M」をFAD活性部位に有する細菌がイミダゾールプロピオン酸を生成し得るであろうことが示された。試験された、「Y」又は「M」-UrdAホモログを有する細菌の中でも、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)及びエガセラ・レンタ(Eggerthella lenta)が、健常者コントロールと比較して、2型糖尿病罹患被験者では高まっていることが報告されている。注目すべきことに、ラクトバシラス・パラプランタルム(Lactobacillus paraplantarum)がイミダゾールプロピオン酸産生細菌として特定された。なお、この細菌は、肥満に対するラクトバシラス属の、議論の余地がある役割と、2型糖尿病における増大した存在量とを考慮すると、潜在的な臨床的重要性を有するであろう。
【0177】
食物繊維由来の微生物代謝産物(例えば、酪酸及びプロピオン酸など)が腸において大量に産生されるにもかかわらず、それらは末梢血には低濃度で存在するだけであり、したがって、腸におけるホルモン系及び神経系を介して間接的に宿主代謝に対する影響を媒介する可能性が高い。対照的に、コリン由来の微生物代謝産物(TMA及びTMAO)の循環レベルは、心臓血管疾患をヒトにおいて予測することが示されており、このことは、それらが全身的に直接的影響によって有害な影響を有することを示唆する。しかしながら、微量アミン関連受容体5がTMAの標的として示唆されているにもかかわらず、その発現は嗅覚ニューロンに限定されており、したがって、TMA/TMAOの直接的な標的は不明のままである。イミダゾールプロピオン酸が門脈血及び末梢血において類似したレベルで存在するという本発明者らの所見は、この代謝産物もまた、直接的な全身影響を有し得るであろうことを示している。さらに、広範囲の組織発現を有する代替p38 MAPKがイミダゾールプロピオン酸の標的として特定された。p38γ及びp38δはともに、耐糖能障害を含む様々な病理学的状態に関係しており、したがって、本明細書中において示されるようなイミダゾールプロピオン酸によって誘発されるシグナル伝達経路を特定することは、インスリン抵抗性及び2型糖尿病に取り組むための新規な薬物標的を明らかにするための基礎を形成し得るであろう。さらに、微生物TMAリアーゼの非致死的阻害によってアテローム性動脈硬化を処置するための最近記載された戦略に従うと、本発明者らの知見は、特定のイミダゾールプロピオン酸産生細菌又はイミダゾールプロピオン酸を産生する細菌酵素を標的とすることが2型糖尿病のための可能性のある治療戦略となることを示唆する。
【0178】
方法
ヒト研究集団
2つのヒトコホートを本研究において使用した。第1のコホートは、Slotervaart病院(アムステルダム、オランダ)で腹腔鏡下Roux-and-Y胃バイパス手術を順次受ける5名の2型糖尿病罹患の肥満被験者及び10名の2型糖尿病非罹患のBMI一致被験者を含んでいた(表2を参照のこと)。被験者は手術の朝まで一晩絶食させられ、末梢静脈サンプルを、患者が手術室に入る直前に採取した。人体計測測定値及び便サンプルもまた手術前に得た。手術中に、門脈サンプル(静脈穿刺)を前述[1]のように採取した。空腹時血糖(グルコース計(Roche Diagnostics)によって)、インスリン(電気化学発光免疫アッセイ(Roche Modular System)によって)及びHbA1c(Menarini Diagnostic)を末梢血において測定した。すべての参加者がインフォームドコンセントを手術前に与え、プロトコルがSlotervaart病院(アムステルダム、オランダ)の医療倫理委員会によって承認された。
【0179】
第2のコホートは当初は584名の被験者を含んでおり、その後、年齢が50歳~64歳であり、イェーテボリ地域(スウェーデン)に住む成人の無作為選択された集団サンプルからの649名の被験者に拡張された。これらの被験者は国勢調査登録簿から募集された。除外基準が、既知の糖尿病、炎症性疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、リウマチ性疾患など)、ステロイド又は免疫調節薬による処置、ガン(再発が過去5年間にわたってない場合は除く)、認知機能不全であった。75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を一晩の絶食の後での午前中に行い、空腹時及び負荷後2時間の毛細管血中グルコースを測定した。2型糖尿病についての基準を満たす被験者を、OGTTを3週間以内に繰り返すことにより再検査した。被験者は、下記の事象を有することが見出された場合に研究に含まれた:空腹時血糖異常(n=119)、耐糖能障害(n=142)又は2型糖尿病(n=20/n=53)。加えて、およそ5名毎に、正常な耐糖能を有する被験者が含まれた(n=303/n=335)。血液サンプルを参加者の全員から得た。検査をWallenberg研究所(イェーテボリ大学、スウェーデン)で行った。すべての参加者がインフォームドコンセントを与え、研究はイェーテボリ大学倫理委員会によって承認された。
【0180】
マウス
15週齢のオスのC57BL/6JのGFマウス又はCONVRマウスを動物実験のすべてのために使用した。GFマウスを、厳密な12時間の光周期のもと、柔軟な薄膜隔離飼育器において維持した。GF状態を、プライマー27F(5’-GTTTGATCCTGGCTCAG-3’、配列番号19)及びプライマー1492R(5’-CGGCTACCTTGTTACGAC-3’、配列番号20)を使用する細菌16S rDNAについてのPCRによって定期的に確認した。PCR反応を、95℃での5分間のプレインキュベーション、続いて、94℃での30秒間、52℃での45秒間、及び72℃での90秒間の30サイクルにより行い、その後、PCR反応を72℃で7分間保った。すべてのマウスには、オートクレーブ処理された固形飼料(Labdiet)を自由に摂らせた。微生物代謝産物を測定するために、血液を4時間の絶食の後でGFマウス及びCONVRマウスの門脈及び大静脈から採取した。
【0181】
グルコース代謝に対するイミダゾールプロピオン酸の影響を調べるために、1%のDMSOを含有する200μlの水における500μgのイミダゾールプロピオン酸、又はビヒクル(1%のDMSO水溶液)を3日間にわたって1日に2回、GFマウスに腹腔内注射した。CONVRマウスについては、CONVRマウスは微生物代謝産物に継続的にさらされ、また、GFマウスと比較して、有機溶質のより長い滞留時間を有するので、100μgのイミダゾールプロピオン酸を使用した。その後、腹腔内ブドウ糖負荷試験(1kgの体重あたり1gのグルコースを使用する)を4時間の絶食の後で行った。血中グルコースレベルを、HemoCue201+分析計(HemoCue、エンゲルホルム、スウェーデン)を使用して尾血から測定した。肝臓及び血漿サンプルを4時間の絶食の後で集めた。マウスをイソフルラン麻酔下に置き、頸椎脱臼によって絶命させた。新鮮な肝臓を採取し、液体窒素で急速凍結し、タンパク質抽出まで-80℃で貯蔵した。
【0182】
CONVRマウスに対するイミダゾールプロピオン酸の代謝的影響を評価するために、食物摂食量、酸素消費量及び自発運動活動を、PhenoMasterシステム(TSE systems、バートホンブルグ、ドイツ)を製造者の推奨法に従って使用して測定した。マウスを2日間にわたって単独収容し、その後、PhenoMasterケージに移し、さらに2日間を新しいケージに慣れさせ、その後、測定を行った。様々なパラメーターを5日間にわたって15分毎に自動測定した。測定期間中、マウスは水及び食物を自由に摂った。マウスを無作為に2つの体重一致群に分け、イミダゾールプロピオン酸(100μg)又はビヒクルのどちらかを3日間にわたって1日に2回(午前8時及び午後5時)、腹腔内注射した。酸素消費量(VO2)を、サンプルケージと比較して、参照ケージにおける酸素濃度及び二酸化炭素濃度の測定値から計算した。酸素消費量及びエネルギー消費の測定値を、MRI(EchoMRI、ヒューストン、TX州、米国)によって求められる除脂肪体重に対して調節した。
【0183】
すべてのマウス実験が本発明者らの動物施設において行われ、イェーテボリ(スウェーデン)における動物管理使用に関する倫理委員会によって承認された。
【0184】
代謝産物分析
(1)2型糖尿病罹患の肥満者及び2型糖尿病非罹患の肥満者からの門脈血、ならびに(2)C57BL/6JのGFマウス及びCONVRマウスの門脈及び大静脈からの血液に対する包括的代謝産物プロファイリング分析が、超高速液体クロマトグラフィー及び質量分析(UPLC-MS/MS)を使用してMetabolon(ダーラム、NC州)によって行われた。簡単に記載すると、サンプルが、自動化されたMicroLab STAR(登録商標)システム(Hamilton Company)を使用して調製された。回収標準物が品質管理のために抽出プロセスにおける最初の工程の前に加えられた。タンパク質が、2分間にわたる激しい振とうのもと(Glen Mills GenoGrinder 2000)、メタノールにより沈殿させられ、その後、遠心分離が行われた。得られた抽出物が5つの画分に分けられた:1つが、陽イオンモードのエレクトロスプレーイオン化を用いたUPLC-MS/MSによる分析のためであり、1つが、陰イオンモードのエレクトロスプレーイオン化を用いたUPLC-MS/MSによる分析のためであり、1つがLC極性プラットフォームのためであり、1つがGC-MSによる分析のためであり、そして、1つのサンプルがバックアップのために残された。サンプルは、有機溶媒を除くために短時間、TurboVap(登録商標)(Zymark)に置かれた。LCのために、サンプルは、分析のための調製の前に窒素下で一晩貯蔵された。GCのために、それぞれのサンプルが、分析のための調製の前に一晩、真空下で乾燥された。
【0185】
イミダゾールプロピオン酸及びウロカニン酸の標的化測定のために、血漿サンプルが1.5mlのポリプロピレンチューブにおいて3体積の氷冷アセトニトリルにより抽出され、窒素流下で乾燥させられた。サンプルはその後、5%HCl/n-ブタノールにより70℃で1時間にわたって再構成され、これにより、n-ブチルエステルを形成させた。誘導体化後、サンプルはエバポレーションされ、50nMの内部標準物(d10標識化ブタノールを使用する誘導体化から作製される標識されたイミダゾールプロピオン酸及びウロカニン酸)を含有する100μlの水/アセトニトリル(90:10)において再構成された。サンプル(5μl)が、0.1%ギ酸を含む水(A相)と、0.1%ギ酸を含むアセトニトリル(B相)とからなるグラジエントを使用して、C18 BEHカラム(1.7μmの粒子を含む2.1×100mm;Waters、ミルフォード、MA州)に注入された。質量分光分析が、QTRAP 5500(ABSciex、コンコード、カナダ)に連結されるInfinity 1290四連UPLCポンプ(Agilent、サンタクララ、CA州)を使用して行われた。イミダゾールプロピオン酸及びウロカニン酸が、遷移197/81及び遷移195/93をそれぞれ使用する多重反応モニタリングによって検出された。内部標準物のために、遷移206/81及び遷移204/93が使用された。イミダゾールプロピオン酸及びウロカニン酸の校正曲線が水において作製され、サンプルと同じように処理された。
【0186】
インビトロ腸シミュレーター
模擬されたヒト腸レドックスモデル(SHIRM)を、イミダゾールプロピオン酸が微生物産生の代謝産物であり得るであろうかどうかを直接的に調べるために使用した。SHIRMは、CMI-7000Sメンブラン(Membrane International、NJ州)によって隔てられ、窒素及び酸素がそれぞれ連続してパージされる嫌気性管腔チャンバー及び酸素供給装置を有する2チャンバー発酵槽である。酸素チャンバーは100mMリン酸カリウム緩衝液を含有した。管腔チャンバーのための供給物は、(g/lで)アラビノガラクタン(1.0)、ペクチン(2.0)、キシロース(1.5)、デンプン(4.0)、グルコース(0.4)、酵母エキス(3.0)、ペプトン(3.0)、II型ムチン(4.0)及びシステイン(0.5)からなった。消化過程を模擬するために、供給物を、6M HClにより2前後のpHに酸性化し、模擬膵液[(g/lで)NaHCO3(12.5)、Ox胆胆汁酸塩(6.0)及びパンクレアチン(0.9)]によりpH6.9に中和した。管腔チャンバーには、SHIRM供給物(上記で記載される供給物及び膵液の70:30混合物)が、24時間前後の滞留時間を与える速度で連続的に与えられ、pHを、pH制御装置及び投与ポンプ(Black Stone BL7912、Hanna Instruments、英国)を使用して6.6~6.9で維持した。
【0187】
SHRIMシステムに、(第1のコホートからの)1名の2型糖尿病罹患の肥満者及び1名の2型糖尿病非罹患者からの便のアリコートを接種した。前培養物を、(g/lで)酵母エキス(5)、セロビオース(1)、マルトース(1)、システイン(0.5)及びヘミン(0.01)を含有する5mlのブレーン・ハート・インフュージョン培地に2%の便物質を加えることによってCoyチャンバーにおいて嫌気的(5%水素、10%二酸化炭素及び85%窒素)に調製した。前培養物を37℃で3時間インキュベーションし、2%の前培養物をSHRIMの管腔区画に播種した。管腔群集をヒスチジン暴露前の1週間にわたって安定化させた。サンプルを7時間までの間にわたって集め、イミダゾールプロピオン酸及びウロカニン酸のレベルを上記のように測定した。
【0188】
便サンプルの回分培養
(第1のコホートからの)2型糖尿病罹患ドナー及び2型糖尿病非罹患ドナーからの便サンプル(100mg)を5mlのBHI培地(上記の通り)に接種し、Coyチャンバーにおける厳密な嫌気性条件のもと、37℃で一晩インキュベーションした。インキュベーション後、1%(v/v)のそれぞれのBHI前培養物を、10mMのヒスチジンが補充されるSHIRM供給物(上記)に接種した。36時間のインキュベーションの後、上清をイミダゾールプロピオン酸及びウロカニン酸の定量のために使用した。消費されたウロカニン酸のレベルを、産生されたイミダゾールプロピオン酸のレベルを調整するために使用し、0時間に対する対数変換された変化倍数を、これらの調整された値を使用して計算した。
【0189】
UrdA含有細菌のコンピューター予測及び実験的検証
UrdAは、フマル酸レダクターゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ及びL-アスパラギン酸オキシダーゼのFAD結合ドメイン及びFMN結合ドメインに対するその高い配列相同性のために、フマル酸レダクターゼをコードすると以前には予測されていた。しかしながら、UrdAからのFAD結合ドメインの構造モデリングにより、フマル酸レダクターゼにおけるアミノ酸配列からのアミノ酸配列における違いで、ウロカニン酸に対する基質選択性を与える可能性がある違いが特定された。可能性のあるイミダゾールプロピオン酸産生細菌についてスクリーニングするために、シェワネラ・オネイデンシス由来のフマル酸レダクターゼにおいて保存されており、しかし、可能性のあるUrdAでは置換されているアミノ酸配列に注目した。酵素の活性部位における保存された「H」は様々な酵素における触媒作用のために重要であるので4~6、UrdAのFAD活性部位におけるチロシン373(Y373)に注目した(Y373はフマル酸レダクターゼにおけるヒスチジン(H)に対応する)。広範囲にわたるタンパク質スクリーニング、続いての正確なドメインアラインメントにより、812個のUrdAホモログが670種の細菌ゲノムにおいて存在することが確認された。それらのうち、639個が、「H」残基をその活性部位に有することが確認された;これに対して、173個が非「H」残基(例えば、「Y」又は「M」など)を有する。
【0190】
S.oneidensis MR-1由来のUrdAに対する高い同一性を有する27種のシードタンパク質配列(KEGGアノテーション7由来の22種を含む)を、4893種の細菌ゲノムから引き出される16,403,888個のタンパク質の中での可能性のあるUrdAホモログをスクリーニングするために使用した。これらのデータをNCBIのftpサイト(ftp://ftp.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/all/)から2016年6月26日にダウンロードした。658個のタンパク質ヒットが、BLASTPプログラムを(E値=1e-4;同一性=30%;カバー範囲=70%の設定により)使用して特定され、それらのヒットを、(少なくとも50%のカバー範囲、及び200を超えるスコアとともに)2回目のタンパク質BLAST及びHMMプロファイリングの両方を行うためのシードとしてさらに使用し、これにより、2230個及び2526個のタンパク質ヒットがそれぞれもたらされた。すべての特定されたUrdA候補に対するさらなるPfamドメインスキャン10により、1774個の配列がFADドメインを有することが明らかにされた。このように、S.oneidensis MR-1由来のUrdAのFAD活性部位(Y373の上流側及び下流側の30アミノ酸にまで及ぶ)を取り出し、3回目のタンパク質BLASTを、取り出されたY373含有ドメインをクエリー配列として使用して、1774個のFAD含有ヒットに対して行った。812個のタンパク質ヒットが、最終的なUrdAホモログとして特定された。さらなるドメインアラインメントを、対応する活性部位に注釈を付けるためにClustalXを使用して行った。
【0191】
8種の代表的なUrdA含有細菌株(これらは保存された「H」を有していない)をさらに、(保存された「H」を有する)コントロールとしての大腸菌(Escherichia coli)k12及びビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)NCC2705と一緒に純粋培養物における実験的検証に供した。最尤系統樹は、デフォルト設定によるMEGA(バージョン7)を使用して10種すべての細菌からの取り出されたFADドメインに基づいた。
【0192】
純粋細菌培養物のイミダゾールプロピオン酸生成能を評価するために、すべての菌株をCoyチャンバーにおける厳密な嫌気性条件(5%水素、10%二酸化炭素及び85%窒素)のもと、37℃で、ヒスチジン又はウロカニン酸を伴わないBHI培地(上記の通り)で維持した。イミダゾールプロピオン酸を産生するそれらの潜在能力を調べるために、それぞれの細菌株の単一コロニーをBHI培地に接種し、一晩のインキュベーションの後、1%の前培養物を、10mMのヒスチジン又はウロカニン酸が補充されるBHI培地に接種し、24時間インキュベーションした。インキュベーション後、無細胞上清をイミダゾールプロピオン酸の定量のために使用した。
【0193】
定量的リアルタイムPCR分析
マウス肝臓を、TissueLyser(Qiagen、ヒルデン、ドイツ)を使用して、β-メルカプトエタノールを含むRLT緩衝液においてホモジナイズした。RNAを、RNeasy Minikit(Qiagen)を使用して単離し、High Capacity cDNA逆転写キット(Applied Biosystems、フォスターシティー、CA州、米国)を製造者のプロトコルに従って使用してcDNAを合成するために逆転写した。リアルタイムPCRを、以下のプライマーを使用して、1X SYBR Green Master Mix(Thermo Scientific、ウォルサム、MA州、米国)を使用して行った。
L32:5’-CCTCTGGTGAAGCCCAAGATC-3’(配列番号1)及び5’-TCTGGGTTTCCGCCAGTTT-3’(配列番号2);
Pepck:5’-GGCCACAGCTGCTGCAG-3’(配列番号3)及び5’-GGTCGCATGGCAAAGGG-3’(配列番号4);
G6pアーゼ:5’-CTGTGAGACCGGACCAGGA-3’(配列番号5)及び5’-GACCATAACATAGTATACACCTGCTGC-3’(配列番号6);
Fasn:5’-CGGAAACTTCAGGAAATGTCC-3’(配列番号7)及び5’-TCAGAGACGTGTCACTCCTGG-3’(配列番号8);
Srebp1c:5’-AGCCATGGATTGCACATTTGA-3’(配列番号9)及び5’-CAAATAGGCCAGGGAAGTCA-3’(配列番号10);
Irs1:5’-GTGAACCTCAGTCCCAACCATAAC-3’(配列番号11)及び5’-CCGGCACCCTTGAGTGTCT-3’(配列番号12);
Irs2:5’-TCCCACATCGGGCTTGAA-3’(配列番号13)及び5’-CTGCACGGATGACCTTAGCA-3’(配列番号14)。
【0194】
タンパク質抽出物の調製
急速凍結された肝臓及び採取された細胞を、50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM Na3VO4、20mM NaF、10mMグリセロリン酸、1mM PMSF、10%グリセロール、1%Triton X-100、及びプロテアーゼ阻害剤カクテルを含有する緩衝液において溶解した。免疫沈降のために、細胞溶解物を、0.3%のCHAPSを含有する溶解緩衝液において得て、超音波処理し、4℃で15分間にわたって20,000gで遠心分離し、上清を、穏やかな撹拌のもと、4℃で4時間、20μlの抗FLAGビーズ(Sigma)とインキュベーションした。
【0195】
初代肝細胞
初代肝細胞を、以前に記載されたように(2)、肝臓をIV型コラゲナーゼの灌流により消化することによってC57BL/6Jマウスから単離した。灌流後、16×105個の細胞を、ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン/ストレプトマイシン及び100nMデキサメタゾンが補充されるダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12においてコラーゲン被覆の60mmディッシュに置床した。4時間後、培地を、ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM/F12に交換した。
【0196】
インスリン刺激のために、初代肝細胞を、100μMのイミダゾールプロピオン酸を伴う、又は伴わないDMEM/F12において14時間~24時間培養し、指示された時間にわたって5nMのインスリンにより処理した。アミノ酸欠乏のために、初代肝細胞をDMEM/F12において24時間培養し、イーグル平衡塩溶液(EBSS)により1回すすぎ、その後、EBSSにおける1時間のインキュベーションを、100μMのイミダゾールプロピオン酸との指示された時間にわたるインキュベーションの前に行った。
【0197】
HEK293細胞
HEK293細胞(ATCC CRL-1573)を、10%(v/v)のFBSを含む高グルコース(4.5g/lのグルコース)DMEMにおいて成長させ、維持した。すべてのHEK293細胞実験を血清飢餓かつアミノ酸枯渇の条件で行った。(示されるようなプラスミド又はsiRNAによる)トランスフェクションの24時間後、ポリ-L-リシン被覆の60mmディッシュで培養されるHEK293細胞を、FBSを含まないDMEMにより2回すすぎ、血清非含有DMEMにおいて18時間インキュベーションした。その後、HEK293細胞をEBSSにより1回洗浄し、EBSSにおいて1時間インキュベーションした。インスリン刺激のために、血清飢餓かつアミノ酸飢餓のHEK293細胞をEBSSにおいて2時間又は8時間にわたってイミダゾールプロピオン酸とプレインキュベーションし、EBSSにおいて5nMのインスリンにより処理した。
【0198】
抗体及び試薬
ホスホ-Akt(S473、T308)、ホスホ-S6K1(T389)、ホスホ-IRS(S636/S639)、ホスホ-p62(T269/S272)、ホスホ-mTOR(S2481)、mTOR、DEPTOR、p62、IR、IRS-2、p38γ、Akt、GAPDH及びアクチンに対する抗体を、Cell Signaling(ダンバース、MA州)から購入した。抗IRS-1をMillipore(ダルムシュタット、ドイツ)から得た。p38δ、Myc及びHAに対する抗体を、Santa Cruz Biotechnology(サンタクルーズ、CA州、米国)から入手した。抗FLAGをSigma-Aldrich(セントルイス、MO州、米国)から購入した。抗LAMP2をAbcamから得た(ab25631)。イミダゾールプロピオン酸(デアミノヒスチジン、CAS 1074-59-5、sc294276)、ウロカニン酸(4-イミダゾールアクリル酸、CAS 104-89-3、sc214246)、ヒスチジン(CAS 71-00-1、sc394101)及びインドールプロピオン酸(CAS 830-96-6、sc255215)を、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。グルタミン酸、インスリン及びSP600125をSigma-Aldrichから得た。ラパマイシン及びBIRB796をMerck Milliporeから得て、BI78D3をTocrisから入手した。
【0199】
プラスミド及びsiRNA
FLAG mTOR及びHA Raptorは厚意によりSung Ho Ryu博士(浦項工科大学校、浦項、韓国)によって提供された。Myc-Rag GTPアーゼ構築物はDo-Hyung Kim博士(ミネソタ大学、MN州、米国)からの譲渡物であった。AllStars陰性コントロールsiRNA、p38δ siRNA1(CCGGAGTGGCATGAAGCTGTA(配列番号15)を標的とするHs_MAPK13_5)、p38δ siRNA2(CGGGATGAGCCTCATCCGGAA(配列番号16)を標的とするHs_MAPK13_6)、p38γ siRNA1(CTGGACGTATTCACTCCTGAT(配列番号17)を標的とするHs_MAPK12_5)、p38γ siRNA2(CTGGGAGGTGCGCGCCGTGTA(配列番号18)を標的とするHs_MAPK12_8)、p38α siRNA(AACTGCGGTTACTTAAACATA(配列番号21)を標的とするHs_MAPK14_5)、p38β siRNA(CTGAGCGACGAGCACGTTCAA(配列番号22)を標的とするHs_MAPK11_6)、S6K1 siRNA(GGGAGTTGGACCATATGAACT(配列番号23)を標的とするHs_RPS6KB1_5)、及びRaptor siRNA(GACACGGAAGATGTTCGACAA(配列番号24)を標的とするHs_RPTOR_1)(Qiagen、バレンシア、CA州)を、Lipofectamin 2000を製造者の説明書に従って使用してHEK293細胞にトランスフェクションした。
【0200】
免疫蛍光
細胞をポリ-L-リシン(Sigma)被覆の4ウエル・チャンバースライドの上で成長させ、4%パラホルムアルデヒドにより37℃で15分間、固定処理し、その後、グリシン-PBSにより洗浄し、0.3%のTriton X-100により10分間にわたって透過処理した。PBSにおける3%BSAによるブロッキング処理の後、細胞をmTOR及びLAMP2について染色した。画像を共焦点顕微鏡によって得た。
【0201】
ユビキチン化を検出するためのタンパク質抽出物の調製
細胞を、2%のSDSを含有する100μlの緩衝液Aを用いて変性条件下で溶解し、細胞溶解物を1.5mlの微量遠心分離チューブに移した。チューブをホットプレートに直ちに95℃で10分間置いた。細胞溶解物を超音波処理し、SDSを含まない700μlの緩衝液Aを加えた。サンプルを4℃で30分間インキュベーションし、その後、遠心分離を行った(20,000g、20分)。上清を、穏やかな撹拌のもと、4℃で4時間、20μlの抗FLAGビーズ(Sigma)とインキュベーションした。
【0202】
mTORC2キナーゼ活性アッセイ
HEK293細胞をmTORC2活性アッセイのために1μgのHA Rictor及び0.5μgのFlag mTORによりトランスフェクションし、0.3%のCHAPSを含有する溶解緩衝液において溶解し、超音波処理し、4℃で15分間にわたって20,000gで遠心分離し、上清を、穏やかな撹拌のもと、4℃で一晩、2μgの抗HA抗体とインキュベーションした。その後、免疫複合体をプロテインA-セファロースビーズ(RepliGen、ニーダム、MA州)を用いて4℃で2時間にわたって集め、0.3%のCHAPSを含有する溶解緩衝液により3回洗浄した。免疫沈降物を、キナーゼアッセイ緩衝液[12.5mM MOPS(pH7.2)、10mMベータ-グリセロール-リン酸、12.5mM MgCl2、2.5mM EGTA、及び1mM EDTA]において450ngの不活性Akt1(abcam、ab116412)と氷上で10分間プレインキュベーションした。キナーゼ反応を、100μMのATPを37℃で15分間加えることによって開始させ、5×Laemmli緩衝液を加えることによって停止させた。
【0203】
インビトロキナーゼアッセイ
400ngの組換えp62(Abcam、ab95320)及び200ngの組換えp38γ(Abcam、ab125651)を、キナーゼアッセイ緩衝液[25mM MOPS(pH7.2)、12.5mMベータ-グリセロール-リン酸、25mM MgCl2、5mM EGTA、2mM EDTA、及び1mM DTT]において氷上で15分間インキュベーションした。別個のチューブにおいて、キナーゼアッセイ緩衝液で希釈される1mMのATPをDMSO又はイミダゾールプロピオン酸とインキュベーションした(キナーゼ反応におけるATPの最終濃度は50μM又は200μMであった)。キナーゼ反応を、DMSO又はイミダゾールプロピオン酸を伴うATPをp38γ及びp62の混合物に30℃で10分間加えることによって開始させ、5×Laemmli緩衝液を加えることによって停止させた。
【0204】
統計学的分析
ウィルコクソン順位和検定を使用して、門脈血における代謝産物は存在量が2型糖尿病罹患被験者と2型糖尿病非罹患被験者との間で異なるかどうかを調べた(非標的化メタボロミクス)。未処理のP値を、0.1のFDRを用いてベンジャミニ・ホフバーグ法[3]によって調整した。クラスカル・ウォリス順位和検定、それに続くダネットの多重比較を、大規模なスウェーデン人コホートからの、耐糖能のレベルが異なる群の中におけるイミダゾールプロピオン酸の標的化比較のために使用した。交絡因子(BMI、年齢及び性別)についての補正を伴う重回帰及び分散分析をこのより大規模なスウェーデン人コホートのために使用した。マウス及びヒトからの多数の測定値を含むデータセットの分析(門脈血及び大静脈血の血漿における代謝産物が比較される)を、反復測定による二元配置ANOVA分散分析を用いて行った。ウィルコクソン片側検定を、2型糖尿病関連の微生物叢がヒスチジンからより多いイミダゾールプロピオン酸を産生するかを確かめるために行った。チューキー検定を伴う一元配置ANOVAを、3つ以上の群を比較するときには行った。種々の代謝産物の濃度又は明暗周期に依存するマウスの生理学(エネルギー消費又は自発運動活動)に対するイミダゾールプロピオン酸の影響の分析を、シダクの多重比較検定を伴う二元配置ANOVAを用いて行った。それ以外の場合には、示されるように、対応のない両側スチューデントt検定を使用した。
【0205】
上記の実施形態は、本発明の少数の例示的な例として理解されなければならない。様々な改変、組合せ及び変化が、本発明の範囲から逸脱することなく、上記の実施形態に対してなされ得ることが、当業者によって理解されるであろう。特に、異なる実施形態における異なる部分解決策を、技術的に可能である場合には他の構成で組み合わせることができる。しかしながら、本発明の範囲は、添付された請求項によって規定される。
参考文献:
【配列表フリーテキスト】
【0206】
配列表1~14 <223>PCRプライマー
配列表19~20 <223>PCRプライマー
【配列表】