(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】核遮蔽用途のための鉄タングステンボロカーバイド体
(51)【国際特許分類】
G21F 1/08 20060101AFI20220630BHJP
G21F 3/00 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
G21F1/08
G21F3/00 N
(21)【出願番号】P 2019561968
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(86)【国際出願番号】 EP2018054585
(87)【国際公開番号】W WO2018206173
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-01-22
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518414476
【氏名又は名称】ハイペリオン マテリアルズ アンド テクノロジーズ (スウェーデン) アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マーシャル, ジェシカ
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101353771(CN,A)
【文献】特開昭54-084200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0263766(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
21~41
原子パーセント(at%)の量のホウ素;
25~35
at%の量の鉄;
2~4
at%の量のクロム;
3~10
at%の量の炭素;
本体組成物のタングステン
のバランス
を含
み、
Feの少なくとも95at%が、ホウ化物、金属間ホウ化物又は金属間炭化物の形態である、
本体
組成物。
【請求項2】
Feの5at%未満がFeCrの形態である、請求項
1に記載の本体
組成物。
【請求項3】
a.B、Fe、Cr、C及びWを含む一又は複数種の粉末を提供する
こと;
b.粉末を有機バインダーと共に粉砕して粉末混合物を得る
こと;
c.粉砕された粉末混合物を圧縮する
こと;及び
d.圧縮粉末混合物を焼結して焼結体を得る
こと
を含む本体
組成物の製造方法において、
工程aにおいて添加される粉末が
、
21~41
原子パーセント(at%)の量のホウ素;
25~35
at%の量の鉄;
2~4
at%の量のクロム;
3~10
at%の量の炭素;
本体組成物のタングステン
のバランスを含
み、
Feの少なくとも95at%が、ホウ化物、金属間ホウ化物又は金属間炭化物の形態である、方法。
【請求項4】
焼結工程が反応焼結プロセスである、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
ホウ素がB
4Cの形態で添加される、請求項
3又は請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
鉄とクロムがFeCrの形態で添加される、請求項
3から
5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
Wが、Wと場合によってはWCの形態で添加される、請求項
3から
6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
添加されるWCの量が5wt%未満である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
原子炉における核遮蔽のための物体を製造するための、請求項
1に記載の本体
組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、本体、本体の製造方法、及び原子炉における核遮蔽のための本体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一人当たりのエネルギー消費率は、現在の発電能力よりも大きいため、エネルギーギャップを潜在的に解決できるカーボンニュートラルな電源としての原子力の可能性に新たな関心が寄せられている。特に、磁石技術の最近の進歩により、実現可能なカーボンネガティブな電源としての制御核融合の可能性が、近い将来、真の代替手段となる。国際熱核融合実験炉(ITER)や欧州トーラス共同研究施設(JET)などの大型の原子炉では、プラズマ対向機器にベリリウムを含むタングステン金属を使用する計画がある。しかし、この用途にタングステン金属を使用することには、タングステン金属を大量に製造することが難しいという問題があり、更に、タングステンとベリリウムの双方が高温で有害な酸化物を形成する可能性がある。従って、より低コストでより安全な代替品を見つける動因がある。
【0003】
如何なるタイプの原子炉を設計する際にも、原子炉構成要素が原子炉によって生成されるガンマ線と高中性子束からどのように保護されるべきかを考慮することが重要である。放射線遮蔽に関しては、効率的な生物学的遮蔽が必要であり、また電子装置などの原子炉の他の部分を遮蔽できなければならない。遮蔽材は、近距離のα線、β線、γ線中性子を含む広範囲の高エネルギー放射性種に対する保護を提供できなければならない。これらの条件は、使用できる材料の種類に厳しい制限を課す。また、遮蔽体自体が放射化に抵抗性があり、放射時に有害な放射性同位体に放射化されないことも重要である。これは、有意量のNi及びCoを含む材料は、放射時に放射化の危険があるため使用できないことを意味する。
【0004】
小型モジュール型核分裂原子炉と磁場閉じ込め原子炉の両方が次世代の原子力発電所の一部として提案されている。小型モジュール型原子力発電所は、現在使用されている大型の原子力発電所よりも安全でより効率的である可能性を有している。磁場閉じ込め核融合炉の場合、低温冷却された銅及び/又は高温超伝導体(HTS)に依存して磁場を生成するため、プラズマチャンバと低温伝導体(銅/HTS)の間のスペースが限られている。何れの場合も、放射線遮蔽のための材料の選択を検討する場合、その原子炉の構造は、スペースが限られ、よって遮蔽材料を薄い層で適用でき、なお遮蔽効率を維持できなければならないことを意味するため、これらのタイプの原子炉には更なる課題が提起される。
【0005】
従って、課題は、優れた遮蔽を達成するために過度に厚く適用する必要がなく、また核融合プロセスへの曝露による何らかの危険な副産物も形成することのない代替の遮蔽材料を見出すことである。その材料は、デューティサイクルの終了時にそのような装置の廃炉措置及び燃料補給を妨げるような、有害な放射性核種に変わる元素を含まないことが不可欠である。重要なことは、一般的な技術を使用して、この用途に使用される材料を製造することができなければならない。この用途に最も適した材料は、また良好な耐酸化性と良好な熱伝導性を有するであろう。
【発明の概要】
【0006】
而して、本開示は、従って、原子パーセント(at%)で次の元素:ホウ素(B)21~41;鉄(Fe)25~35;クロム(Cr)2~4;炭素(C)3~10;及び残部タングステン(W)を含む本体を提供する。本開示は、焼結可能であり、可能な限り高い密度と可能な限り低い多孔性を有する、核遮蔽に最適な特性を備えた材料を提供する。
【0007】
本発明者等は、驚くべきことに、ここに開示される組成範囲が核遮蔽に最適な材料特性を有する本体をもたらすことを見出した。よって、ホウ素とタングステンのバランスは、核遮蔽に使用される本体が最適な吸収特性を持つように選択されている。
【0008】
本開示はまた、
a.元素B、Fe、Cr、C及びWを含む一又は複数種の粉末を提供する工程;
b.一又は複数種の粉末を有機バインダーと共に粉砕して粉末混合物を得る工程;
c.粉砕された粉末混合物を圧縮する工程;及び
d.圧縮粉末混合物を焼結して焼結体を得る工程
を含む本体の製造方法において、
一又は複数種の粉末が原子パーセントで次の元素:ホウ素21~41;鉄25~35;クロム2~4;炭素3~10;及び残部タングステンを含むことを特徴とする方法に関する。
【0009】
加えて、本開示は、原子炉における核遮蔽のための物体を製造するための本体の使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】サンプルAの微細構造の光学顕微鏡画像を開示する。
【
図2】サンプルBの微細構造の光学顕微鏡画像を開示する。
【
図3】サンプルCの微細構造の光学顕微鏡画像を開示する。
【
図4】サンプル
Fの微細構造の光学顕微鏡画像を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従って、本開示の一態様は、原子パーセント(at%)で次の元素:ホウ素(B)21~41;鉄(Fe)25~35;クロム(Cr)2~4;炭素(C)3~10;及び残部タングステン(W)を含む本体に関する。
【0012】
この組成物は、良好な焼結性、良好な機械的特性、研磨し、多孔性のレベルを最小限に抑える処理工程中の破砕と引き抜けの発生を回避する能力の観点から、最も安定した微細構造を形成することが見出された。
従って、元素の「原子パーセント(at%)」が計算される。
a.添加された各粉末に対して、その粉末中の元素の分子量を使用して「原子ブレイクダウンパーセント」を計算する。例えば、B4Cの場合、相対的ホウ素含有量は次のようにして計算される:(4×B分子量(10.81))/((炭素分子量(12.01)+(4×ホウ素分子量(10.81)))×100=78.2wt%のB。よって、B4C中のCの「原子ブレイクダウンパーセント」は21.8wt%である。
b.「原子ブレイクダウンパーセント」に添加した粉末の重量(グラム)を掛けて「グラムでの原子ブレイクダウン」を計算する。この工程では、組成物の各元素について存在する原子の重量にその量を変換する。
c.「グラムでの原子ブレイクダウン」を取り、それを元素のモル質量で割って「モル量」を計算する。これから、組成物中の各元素に対しての原子のモル数が決定される。
d.各元素に対して「モル量」を取り、それを全ての「モル量」の合計で割って各原子種のモル分率をパーセントに正規化することによって「原子パーセント(at%)」を計算する。
【0013】
前述及び後述の組成範囲は、高密度、低多孔性、及び高熱伝導性を有する本体を提供する。材料特性のこの組み合わせは、可能な限り最高の核遮蔽能をもたらす。高密度とは、中性子と電磁放射線を吸収するために利用可能な原子が可能な限り多く存在することを意味する。材料に何らかの気孔があると、本体が放射線と熱を吸収する能力に悪影響を及ぼす。よって、可能な限り低い多孔性を有することが従って望ましい。不要な熱の蓄積を除去するために必要な電力を削減するために、高い熱伝導率を備えた本体を得ることもまた有益である。
【0014】
一実施態様によれば、本体は、25~35at%、例えば28~32at%、例えば29~31at%のFe含有量を有する。この組成物は、良好な焼結性、良好な機械的特性、研磨し、多孔性のレベルを最小限に抑える処理工程中の破砕及び引き抜けの発生を回避する能力の観点から、最も安定した微細構造を形成することが見出された。
【0015】
ホウ素(B)は中性子のエネルギーを吸収するため、中性子を遮蔽し易やすくする。本体内のBの含有量は21~41at%である。最適な遮蔽能を得るには、中性子を遅くするためにB含有量はできるだけ高くされるべきである。B含有量が低すぎる場合、得られた本体は良好な遮蔽能を持たない。一方、B含有量が高すぎると、得られた本体は非常に脆くなり、γ線などのよりエネルギーの高い種に対して遮蔽をもたらすにはW含有量がまた不十分になる。
【0016】
クロムは炭素吸収源(カーボンシンク)として機能し、またFeの磁性を抑え、耐食性を助ける。耐食性は、本体の製造中の酸化のリスクを減らすため重要である。
【0017】
炭素(C)は結晶成長抑制剤である。C含有量が低すぎると、FeBなどの望ましくない脆性相が形成される可能性があり、C含有量が高すぎると、本体内で細孔と脆性炭素リッチ相が形成される傾向が高くなり、これが材料の遮蔽効率に有害な影響を及ぼしうる。
【0018】
本体の残部を構成するタングステン(W)は中性子に対する良好な遮蔽をもたらし、更にタングステンリッチの環境は高密度化に有益である。Wが主にWCの形で添加される場合、WはCとFe(Cr)によって消費される。これは、Wの量が不十分な場合、遊離Cが残ることを意味する。遊離Wがある場合、得られた本体は低密度で多孔性の微細構造になる。従って、Wは主にW金属の形で添加される。しかしながら、WC粉砕媒体のピックアップ又は有機バインダーとして使用されプレス助剤として作用するポリエチレングリコール(PEG)に起因する組成変動に対抗するために、全組成の一部として計算された5wt%以下のWCなど、WCの形態の少量のWを添加することが有益な場合がある。WCはまたB4Cから炭素を吸収するWC/WB2成長の核形成シードとして作用しうる。
【0019】
この開示において、良好な焼結性を有する本体は、15~22%などの三次元収縮を示し、焼結後に圧縮粉末サンプルから緻密な焼結構造を有するであろう。
【0020】
一実施態様では、上記又は以下で定義される本体において、Feの少なくとも95at%が、ホウ化物、金属間ホウ化物又は金属間炭化物の形態である。
【0021】
一実施態様では、上記又は以下で定義される本体において、Crの少なくとも95at%が、ホウ化物、金属間ホウ化物又は金属間炭化物の形態である。
【0022】
一実施態様では、上記又は以下で定義される本体において、Feの5at%未満がFeCrの形態である。
【0023】
超硬合金材料に中性子が照射されると、「気泡」が「硬質相-金属バインダー相」境界に形成されることが観察されている。これらの「気泡」はついで蓄積して細孔になることがある;核遮蔽材料では細孔が存在することは、その存在が材料の遮蔽効率を低下させるため、望ましくない。従って、金属バインダー相を含まない材料があることは有利な場合がある。超硬合金とは対照的に、本開示の場合、焼結中に全てのB4C及びWがFeCrと反応し、従って金属バインダー相のない本体が製造される。従って、本開示の本体は超硬合金ではない。Fe及びCr含有粉末を添加する場合の超硬合金では、典型的には、組成は炭素に関して化学量論的にバランスがとられて提供され、Fe及びCrの大部分は焼結後にFeCr金属バインダー相を形成し、例えばFeの少なくとも95at%とCrの少なくとも95at%がFeCr金属結合相の形態で存在し、金属間炭化物として存在するFe及びCrはほんの痕跡量であろう。これに対して、本開示の本体では、Feの少なくとも95at%とCrの少なくとも95at%など、大部分が、FeB又はFe2Bなどのホウ化物、又はB8Fe5W7などの金属間ホウ化物、又は金属間炭化物の形態で存在する。更に、形成されるFeCr金属バインダー相は全く存在しないか、又は5at%未満など、ほんの痕跡量であり、従って、本開示の本体は金属バインダー相を有さないと見なされうる。
【0024】
本開示の別の態様は、以下の工程:
a.元素B、Fe、Cr、C及びWを含む一又は複数種の粉末を提供する工程;
b.一又は複数種の粉末を有機バインダーと共に粉砕して粉末混合物を得る工程;
c.粉砕された粉末混合物を圧縮する工程;及び
d.圧縮粉末混合物を焼結して焼結体を得る工程
を含む本体の製造方法において、
一又は複数種の粉末が、原子パーセントで次の元素:
ホウ素 21~41;
鉄 25~35;
クロム 2~4;
炭素 3~10;
タングステン 残部
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0025】
一又は複数種の粉末は、典型的にはボールミルを使用することにより、有機バインダーと共に粉砕される。有機バインダーは、プレスを補助するために添加され、典型的には、PEG34などのポリ(エチレングリコール)(PEG)である。典型的には、次に、例えばTOXプレスを使用するプレス方法を使用することにより、粉末が成形される。次に、プレス後、例えばSinter HIP炉を使用して、粉末混合物を焼結する。しかし、他の粉砕、成形及び焼結方法を採用することもでき、他のプレス助剤をここに記載の本開示の方法に使用することもできる。
【0026】
また、焼結工程の前に予備焼結工程を追加することも有用な場合があることもまた理解されたい。
【0027】
本開示において、「粉末」という用語は、固体物質の微細な乾燥粒子を指す。
【0028】
一実施態様では、上記又は以下で定義される焼結方法は、反応焼結プロセスである。本開示において、「反応焼結」という用語は、焼結プロセス中に化学反応がその場で起こるため、焼結体に存在する相の組み合わせが、その粉末形態で提供される元素の組み合わせ及び/又は化合物と比較して異なることを意味する。これは、一般的な液相焼結では焼結材料に存在する相の組み合わせがその粉末形態で添加される元の元素の組み合わせ及び化合物と同じであるため、超硬合金又はサーメットの製造に典型的に使用される一般的な液相焼結とは異なる。一般的な液相焼結炭化物は、液相点以下で幾分かの固体状態高密度化反応を起こすが、高密度化の大部分は、固体状態の相互作用期間中ではなく液相温度範囲で起こり、これは本開示において開示された材料の本体では起こり得ない。
【0029】
本開示の場合、焼結プロセスは、1450℃~1520℃の間の温度で、アルゴン雰囲気中のSinterHIPing(典型的には約50bar)又は真空で実施されうる。加熱すると、粉末混合物内で反応が起こる。焼結サイクル中、最初に有機バインダーが除去される。その後、最初の反応が典型的には550℃付近で固体状態で起こる。800℃付近で更なる反応が始まり、準安定相が形成され、より安定した相が1000℃以上で形成される。焼結プロセス中に、存在するWCとB4Cが消費され、FeB、WB、WB2を含む様々な混合相が形成される。他のより複雑なFexWyBz相がまた存在する場合がある。反応焼結プロセスは、炭化タングステン基超硬合金の一般的な液相焼結と同様の質量損失と三次元収縮を示すため、反応焼結プロセスを使用すると、良好な収縮と寸法制御が可能である。反応焼結プロセスにより、焼結後に何ら金属バインダーを含まない本体が形成される。重要なのは、標準的な工業用焼結装置とプロセスを使用して本体を製造できることである。
【0030】
一実施態様では、ホウ素はB4C粉末の形態で添加される。添加される量は、添加される一又は複数種の粉末の全量に基づいて4wt%~9wt%である。B4Cの量が4wt%未満である場合、得られる材料は焼結が不十分で、かなりの層間剥離を被り、非常に脆くなるため、有用なホウ素リッチの遮蔽材料が得られない。B4Cの添加量が9wt%を超える場合、ホウ素との反応に十分なW金属が利用できない可能性があるため、多孔性のリスクが増加するという焼結性の問題がある。多孔率は遮蔽効率に影響するため、多孔率をできるだけ低く保つことが重要である。別法では、ホウ素は、等量のFeB、WB、元素B又はCrBで添加されうる。
【0031】
本開示において、「重量パーセント」(wt%)という用語は、提供された粉末の全量と比較した、計量された一又は複数種の粉末の相対重量を指す。
【0032】
上記又は以下で定義される方法の一実施態様では、鉄及びクロムは、FeCr粉末の形態で、17~26wt%の量で添加される。添加されるFeCrの量は、本体内のFeの最適な原子量を得るために選択される。一実施態様によれば、添加されるFeCr粉末のCr含有量は2~20wt%、例えばFeCrの全量の2~8重量%である。言い換えれば、組成物に添加されるFeCrの量が20wt%である場合、これの0.4~4wt%はCrであり、残部はFeである。FeCrは、典型的には、これがFeの存在による酸化と腐食のリスクを低減するため、そのあらかじめ合金化された形態で添加される。CrはまたCr3C2又はCr金属の形態で添加されうる。FeCrが2wt%未満のCrからなる場合、プロセス中の酸化リスクが高くなり、焼結体の耐食性が低下する。しかしながら、FeCrの量が20wt%を超えるCrからなる場合、Crの濃度が高すぎ、取り込まれたBの正味量が減少し、本体の遮蔽効率が低下する。Fe8Cr(FeCrのCr含有量が8wt%であることを意味する)は、W-B-FeCr材料の製造に使用されるFeCrの最も一般的な組成である。
【0033】
上記又は下記で定義される方法の一実施態様によれば、Wは、Wと場合によってはWC、例えば場合によっては<5wt%のWCの形態で、添加される。
【0034】
上記又は下記に開示された組成範囲内で、特定のタイプの原子炉又は原子炉の特定の部分で使用するための最も最適な本体特性のために特定の組成が選択される場合がある。例えば、本体の主な目的が、有意なガンマ線と高速中性子の不測の事態を有するフラックスを遮蔽することである場合、より多くのWリッチ組成が選択されうる。一方、本体の主な目的が、遅い中性子が最も一般的な不測の事態であるフラックスから遮蔽することである場合、よりホウ素リッチな組成を選択することができる。
【0035】
次の実施例は、例示的で非限定的な実施例である。
【実施例】
【0036】
実験から分かるように、WCではなくW金属が主成分として使用されている材料が、更により有望な結果を示している。
【0037】
実施例において使用される材料は、標準的な実験室の粉末冶金法を使用して調製した。全ての実施例において、FeCrはFe8Crの形態(FeCrのCr含有量が8wt%であることを意味する)であり、ホウ素源はB4Cの形態で、これは8μmの標的粒子径を有していた。粉末を表1に示された量に従って計量し、エタノールと水中9:1の粉末:粉砕媒体の比率で、PEG3400有機バインダーと炭化タングステン媒体と共に2時間粉砕した。次に、粉末を乾燥させ、篩にかけ、TOXプレス又は分割ダイの何れかを用いて、100MPaの標的圧でプレスした。次に、圧縮サンプルを、50barの真空(DMK)サイクルを使用して、1450~1520℃の間の温度で1時間焼結した。結晶の品質と機械的特性を改善するために、より高いホウ素含有サンプルの幾つかに対して、より高い焼結温度を使用し、詳細を以下の表1に示す。サンプルの断面を、湿式研磨と最終段階の研磨としてコロイダルシリカを用いた連続微細ダイヤモンド研磨を使用して研磨した。次に、サンプルを光学及び走査電子顕微鏡(SEM)で検査した。以下の表1は、試験された粉末サンプルの重量パーセントと原子パーセントでの焼結サンプルの組成を含む、試験された実施例の概要を示し、表2は焼結後の各実施例の材料の特性を示す。
【0038】
【0039】
【0040】
表2の特性は、密度についてはISO3369:1975、硬度についてはISO3878:1983に従って測定した。「理論密度と比較した密度(%)」は、測定密度を理論密度で割って100を掛けたものとして定義される。本開示において、ここに開示されるホウ化物系化合物について測定されているのは近似理論密度であり、反応焼結中に起こるかなりの量の相転移がある。理論密度は、焼結前の試薬の加重平均密度として定義される。
【0041】
実施例の多くでは、理論密度と比較した密度が100%を超えている。これは、焼結プロセス中に炭素が失われるためであると仮定される。
【0042】
サンプルA、B及びCは、本開示の組成範囲外にあり、焼結後の構造がより悪い比較組成物を示す。サンプルD、E及びFは、本発明の範囲内にあり、最も最適化された焼結構造を有する組成物の実施例を示している。
【0043】
サンプルAの光学顕微鏡画像を
図1に示す。サンプルAではFeが多すぎ、Bが少なすぎ、Cが少なすぎる。そのサンプルは脆い;また、焼結が不十分で、研磨すると容易に破砕する。微細構造内の長く薄い特徴(2)は、バインダー除去が不十分であることを示している。
【0044】
サンプルBの光学顕微鏡画像を
図2に示す。サンプルBでは、Feが多すぎ、Wが少なすぎる。微細構造に空隙があり(4)、顕著な脆性破砕がある。
【0045】
サンプルCの光学顕微鏡画像を
図3に示す。サンプルCではFeが少なすぎる。このサンプルは非常に多孔性であり、微細構造に空隙が存在する(4)。
【0046】
サンプルD、E及びFは、本開示の組成範囲内に入る。これらのサンプルは一般に「高密度/理論密度」を有しており、細孔と空隙が少なく、割れにくい傾向がある。本開示の範囲内に入るサンプルの微細構造の例を、
図4に示す。
【0047】
本開示の本体の構造及び特性は、超硬合金よりもセラミックにより類似している。電子後方散乱回折(EBSD)分析は、本体の構造が、WBとWCのような痕跡量の他の相を伴うが金属バインダー相を含まない、ホウ化鉄によって分離されたホウ化鉄タングステンの領域によって支配されているという証拠を示している。従って、本開示の本体では、「気泡形成」が生じる可能性のある「硬質相-金属バインダー相」境界は存在しない。
【0048】
Zeiss Supra 55VP FEGSEMを使用して、サンプルE及びFで完了した(EBSD)分析から検出された相の結果を表3に示す。「痕跡量」とは<2%の存在量、「有意」とは2~15%の存在量、「豊富」とは、>15%の存在量を指し、「優勢」とは、>25%の存在量を指す。様々な相の豊富さを定量できるEBSD技術の精度内で、分析は、FeCrの検出可能な存在が存在しないこと、つまり5at%未満であることを示した。Feの存在は、Fe2B、FeB及びB8Fe5W7の形態であることが検出された。すなわち、Feの>95at%は、ホウ化物、金属間ホウ化物又は金属間炭化物の形態で存在する。
【0049】