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特許7097399リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池用電極
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  • 特許-リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池用電極 図1
  • 特許-リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池用電極 図2
  • 特許-リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池用電極 図3
  • 特許-リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池用電極 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池用電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/70 20060101AFI20220630BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H01M4/70 A
H01M4/66 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020040905
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021144796
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 英起
(72)【発明者】
【氏名】北場 萌
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-089407(JP,A)
【文献】特開2019-160777(JP,A)
【文献】特開平11-073947(JP,A)
【文献】特開2000-243403(JP,A)
【文献】特開2011-151279(JP,A)
【文献】特開2007-059387(JP,A)
【文献】特開2010-262843(JP,A)
【文献】特開2010-080432(JP,A)
【文献】特開2019-057474(JP,A)
【文献】国際公開第2019/097830(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/151063(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/093015(WO,A1)
【文献】特開2010-212092(JP,A)
【文献】特開2009-283452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64 - 84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池内において一方の主面を電極活物質と接触させて使用するリチウムイオン電池用集電体であって、
前記集電体は前記電極活物質と接触する主面に深さ10~45μmであり、上面視で閉じた図形からなる凹部を複数有し、
前記凹部の重心を通る長さのうち最も短い部分の長さが30~105μmであり、
前記集電体に前記凹部が設けられた面の上面視した面積を基準として、前記凹部を上面視した面積の割合が19~61%であることを特徴とするリチウムイオン電池用集電体。
【請求項2】
前記凹部が、上面視した図形の形状が異なる2つ以上の凹部を有する請求項1に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項3】
前記凹部が、アスペクト比が2.0~4.0である凹部と、アスペクト比が0.25~0.5である凹部とを有する請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項4】
前記凹部の上面視形状が楕円形である請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項5】
前記集電体が、高分子材料と導電性フィラーとを含む樹脂組成物からなる請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項6】
前記集電体の前記電極活物質と接触する主面には前記導電性フィラーが多く分布する導電性フィラー層を有する請求項5に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のリチウムイオン電池用集電体と電極活物質粒子を有し、
前記電極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆されていることを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(二次)電池は、高容量で小型軽量な二次電池として、近年様々な用途に多用されている。
【0003】
リチウムイオン電池は、一般に、バインダを用いて正極または負極活物質等を正極用または負極用集電体にそれぞれ塗布して電極を構成している。また、双極型の電池の場合には、集電体の一方の面にバインダを用いて正極活物質等を塗布して正極層を、反対側の面にバインダを用いて負極活物質等を塗布して負極層を有する双極型電極を構成している。
【0004】
従来、集電体に設けられた導電性樹脂層の表面と活物質層との密着性を改善した電極構造体が提案されている。この電極構造体は、導電性基材の少なくとも片面に導電性を有する樹脂層が形成され、導電性を有する樹脂層の表面粗度Raが0.1μm以上1.0μm以下であり、かつ、導電性を有する樹脂層の膜厚さをt[μm]、樹脂層表面の凹凸の平均傾斜角をθa[度]としたとき、(1/3)t+0.5≦θa≦(1/3)t+10となる範囲である集電体を用いたものであって、導電性を有する樹脂層上に形成されている活物質層を有する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/018686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された電極構造体にあっては、導電性を有する樹脂層と活物質層との間の接触抵抗の低減が充分なものとなっておらず、集電体全体を樹脂集電体とすることができないという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、集電体と活物質層の間の接触抵抗が低い集電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リチウムイオン電池内において一方の主面を電極活物質と接触させて使用するリチウムイオン電池用集電体であって、上記集電体は上記電極活物質と接触する主面に深さ10~45μmであり、上面視で閉じた図形からなる凹部を複数有し、上記凹部の重心を通る長さのうち最も短い部分の長さが30~105μmであり、上記集電体に上記凹部が設けられた面の上面視した面積を基準として、上記凹部を上面視した面積の割合が19~61%であることを特徴とするリチウムイオン電池用集電体、及び、本発明のリチウムイオン電池用集電体と電極活物質粒子を有し、上記電極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆されていることを特徴とするリチウムイオン電池用電極、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、集電体と活物質層の間の接触抵抗が低い集電体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、リチウムイオン電池用集電体の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すリチウムイオン電池用集電体の一部を拡大して示す上面図である。
図3図3は、導電性フィラー層を有するリチウムイオン電池用集電体の一例を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、メッシュを使用して凹部を形成する様子を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、リチウムイオン電池内において一方の主面を電極活物質と接触させて使用するリチウムイオン電池用集電体であって、上記集電体は上記電極活物質と接触する主面に深さ10~45μmであり、上面視で閉じた図形からなる凹部を複数有し、上記凹部の重心を通る長さのうち最も短い部分の長さが30~105μmであり、上記集電体に上記凹部が設けられた面の上面視した面積を基準として、上記凹部を上面視した面積の割合が19~61%であることを特徴とする。
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、電極活物質と接触させて使用する。そして、電極活物質と接触する主面に深さ10~45μmであり、上面視で閉じた図形からなる凹部を複数有する。
【0013】
図1は、リチウムイオン電池用集電体の一例を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1に示すリチウムイオン電池用集電体の一部を拡大して示す上面図である。
リチウムイオン電池用集電体1は、樹脂集電体層10からなり、樹脂集電体層は主面11及び主面12を有する。
主面11がリチウムイオン電池内において電極活物質と接触させて使用する面である。
【0014】
リチウムイオン電池用集電体1が電極活物質と接触する主面である主面11には凹部20が複数設けられている。
凹部20は、縦方向に長い楕円形である凹部21と横方向に長い楕円形である凹部22を有する。
凹部21と凹部22はともに楕円形であり、上面視で閉じた図形からなる。
【0015】
リチウムイオン電池用集電体の電極活物質と接触する主面に凹部が設けられていると、当該主面の表面積が増加する。すると、当該主面と電極活物質が接触する面積が充分に大きくなり、集電体と活物質層の間の接触抵抗が低い集電体とすることができる。
【0016】
以下、リチウムイオン電池用集電体の主面に設けられる凹部の形状について詳しく説明する。
凹部は上面視で閉じた図形であり、リチウムイオン電池用集電体の主面に複数設けられる。
凹部の好ましい形状としては、楕円形、円形、多角形(長方形、正方形、平行四辺形、ひし形、その他の四角形、三角形、五角形、六角形等)、外周が曲線であるドーナツ型、外周が直線である枠型等が挙げられる。
【0017】
凹部は、その重心を通る長さのうち最も短い部分の長さが30~105μmである。
図2に示す凹部21では重心Gを示しており、重心Gを通る長さのうち最も短い部分の長さは両矢印Lで示す長さである。
図2に示す凹部22では重心Gを示しており、重心Gを通る長さのうち最も短い部分の長さは両矢印Wで示す長さである。
凹部が楕円形であれば、重心を通る長さのうち最も短い部分の長さは短軸の長さとなる。
凹部がドーナツ型や枠型の場合は、その外周図形における重心と、その重心を通る長さのうち最も短い部分の長さを求める。
【0018】
凹部の重心を通る長さのうち最も短い部分の長さが30μm未満であると、電極活物質を含むスラリーを集電体上に配置しプレス成型する際に電極活物質が凹部に十分に充填されず表面積向上の効果が発揮されない。一方で、凹部の重心を通る長さのうち最も短い部分の長さが105μmを超えると、集電体の主面に凹部を設けることによる表面積向上の度合いが十分ではなくなる。
【0019】
凹部の三次元形状は、その深さが一定となる形状であってもよく、凹部内で深さが異なるような形状であってもよい。凹部内で深さが異なるような形状の例としては、凹部の上面視形状が楕円状である場合の、三次元形状が半楕円球である形状が挙げられる。
【0020】
凹部は、その深さが10~45μmである。凹部の深さが10μm以上であると、集電体の主面に凹部を設けることによる表面積向上の効果が好適に発揮される。また、凹部の深さが45μmを超えて大きくなると集電体に亀裂が生じる可能性がある。
凹部の深さは、凹部のうち最も深い部分の深さで定める。
【0021】
凹部の面積に関して、集電体に凹部が設けられた面の上面視した面積を基準として、凹部を上面視した面積の割合が19~61%である。
凹部を上面視した面積の割合は、複数の凹部の上面視した面積の合計値として定める。
凹部を上面視した面積の割合が19~61%であると、集電体の主面に凹部を設けることによる表面積向上の効果が好適に発揮される。
凹部を上面視した面積の割合が19%未満であると凹部の形成割合が少ないので表面積向上の効果が少ない。また、凹部を上面視した面積の割合が61%を超えると、逆に凹部ばかりになってしまうため、集電体や集電体を電極活物質ともに成型して得られるリチウムイオン電池用電極の強度低下が起こり、繰り返し充放電での耐久性が小さくなる。
【0022】
凹部の1つあたりの寸法は、縦(又は横)が30~290μmであることが好ましく、深さが15~40μmであることが好ましい。
縦の長さと横の長さは同じであっても異なっていてもよい。
凹部が楕円形の場合、縦の長さと横の長さのいずれか一方が長軸の長さであり、他方が短軸の長さである。
【0023】
凹部は、上面視した図形の形状が異なる2つ以上の凹部を有することが好ましい。
上面視した図形の形状が異なる2つ以上の凹部とは、例えば以下の場合を意味する。
(1)幾何図形の種類が異なる場合、例えば長方形と楕円の場合
(2)同じ幾何図形の寸法が異なる場合、例えば扁平率が異なる2種類の楕円の場合や、扁平率は同じで長軸及び短軸の長さが異なる2種類の楕円(すなわち相似形)の場合
(3)凹部の向きが異なる場合、例えば同じ楕円で長軸が縦方向に向く楕円と長軸が横方向に向く楕円の場合
図1及び図2に示す凹部は、上記(3)の場合で幾何図形としては同じ楕円であって長軸方向が縦方向に向く凹部21と長軸方向が横方向に向く凹部22からなる場合に相当する。
凹部が上面視した図形の形状が異なる2つ以上の凹部を有することにより、繰り返し充放電による電極活物質層の活動(体積変化、副反応物の堆積)による電極活物質層と集電体とのズレを起こしにくくすることができる。
【0024】
凹部は、アスペクト比が2.0~4.0である凹部と、アスペクト比が0.25~0.5である凹部とを有することが好ましい。
凹部のアスペクト比は、「凹部の縦方向の寸法/凹部の横方向の寸法」で表される比である。図2に示す凹部では、凹部21のアスペクト比がW/Lで表され、凹部22のアスペクト比がW/Lで表される。W、Wはそれぞれ凹部の縦方向の寸法であり、L、Lはそれぞれ凹部の横方向の寸法である。
図面に示す寸法では、凹部21のアスペクト比(W/L)は1.0を超えており、凹部22のアスペクト比(W/L)は1.0未満である。
このような2種類の凹部を有する際に、アスペクト比が大きくなる凹部のアスペクト比を2.0~4.0とし、アスペクト比が小さくなる凹部のアスペクト比を0.25~0.5とすることが好ましい。
アスペクト比の組合せをこのような範囲とすることによって、繰り返し充放電による電極活物質層の活動(体積変化、副反応物の堆積)による電極活物質層と集電体とのズレを起こしにくくすることができる。
【0025】
リチウムイオン電池用集電体は、高分子材料と導電性フィラーとを含む樹脂組成物からなることが好ましい。このような樹脂組成物からなる集電体を樹脂集電体と呼ぶ。
高分子材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0026】
導電性フィラーとしては、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの材料は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電性フィラーとしては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0027】
導電性フィラーの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「導電性フィラーの平均粒子径」とは、導電性フィラーの輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0028】
導電性フィラーの形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性材料として実用化されている形態であってもよい。
【0029】
導電性フィラーは、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電性フィラーが導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0030】
集電体に占める導電性フィラーの重量割合は、集電体の重量を基準として10~50重量%であることが好ましい。
【0031】
集電体の厚さは特に限定されるものではないが、集電体の厚さは、100μm以下であることが好ましく、40~80μmがより好ましい。
集電体の厚さが100μm以下、特に40~80μmであると、集電体としての厚さが薄く、薄膜化された集電体とすることができる。このような集電体は電池内における体積が小さいため、電池の電池容量を高くするために適している。
なお、集電体の厚さは凹部が形成されていない部分の厚さで計測する。
【0032】
集電体の一方の主面で、凹部が設けられない側の主面には金属膜が設けられていてもよい。金属膜を設ける方法としてはスパッタリング、電着、めっき処理及び塗布等の手法が挙げられる。金属層を構成する金属種としては、銅、ニッケル、チタン、銀、金、白金、アルミニウム、ステンレス、ニクロム等が挙げられる。
リチウムイオン電池用集電体の凹部が設けられない側の主面は、リチウムイオン電池を積層して使用する際に集電体同士が接触する面となる。この面に金属層を設けることにより積層時の集電体間の接触抵抗を低下させることができる。
【0033】
集電体の電極活物質と接触する主面には導電性フィラーが多く分布する導電性フィラー層を有することが好ましい。
導電性フィラー層に含まれる導電性フィラーとしては、上述する樹脂組成物に含まれる導電性フィラーと同様のものを例示することができる。
樹脂組成物に含まれる導電性フィラーと導電性フィラー層に含まれる導電性フィラーは同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。
【0034】
図3は、導電性フィラー層を有するリチウムイオン電池用集電体の一例を模式的に示す斜視図である。
図3に示すリチウムイオン電池用集電体2は、その主面11に導電性フィラー30が多く分布する導電性フィラー層を有する。
導電性フィラー層は、樹脂集電体層10と分離して観察される層というわけではなく、樹脂集電体層10の主面11に、導電性フィラー30が多く分布している部分があることを意味している。
樹脂集電体層の厚さ方向の他の部分(例えば厚さ方向中央部分)に比べて、凹部の存在する主面の表面に導電性フィラーが多く存在していれば、導電性フィラー層が存在しているといえる。
【0035】
導電性フィラー層は、集電体の主面のうち凹部の表面に設けられていてもよく、凹部の表面と凹部以外の表面の両方に設けられていてもよい。
【0036】
集電体の電極活物質と接触する主面に導電性フィラー層が存在していると、リチウムイオン電池用集電体のシート抵抗をより低下させることができるので、集電体と活物質層の間の接触抵抗をより低下させることができる。
また、繰り返し充放電による抵抗値の上昇を抑制することができる。
【0037】
電極活物質は、リチウムイオン電池用集電体の主面のうち、凹部を複数有する主面に接触する。
電極活物質としては、正極活物質又は負極活物質を使用することができ、電極活物質は粒子状の電極活物質粒子として使用することが好ましい。
【0038】
正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0039】
正極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
【0040】
負極活物質粒子としては、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
上記負極活物質粒子のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め負極活物質粒子の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0041】
これらの中でも、電池容量等の観点から、炭素系材料、珪素系材料及びこれらの混合物が好ましく、炭素系材料としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素及びアモルファス炭素がさらに好ましく、珪素系材料としては、酸化珪素及び珪素-炭素複合体がさらに好ましい。
【0042】
負極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、2~10μmであることがさらに好ましい。
【0043】
電極活物質粒子は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆されていることが好ましい。
電極活物質粒子が、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆されている被覆電極活物質粒子であると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
【0044】
本発明のリチウムイオン電池用集電体と電極活物質粒子を有し、上記電極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆されていることを特徴とするリチウムイオン電池用電極は、本発明のリチウムイオン電池用電極である。
【0045】
高分子化合物としては、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート、ポリサッカロイド(アルギン酸ナトリウム等)及びこれらの混合物等が挙げられる。
また、高分子化合物としては、特開2017-054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
これらの中では電解液への濡れ性及び吸液の観点からフッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂及びこれらの混合物が好ましく、ビニル樹脂がより好ましい。
【0046】
被覆層には導電助剤が含まれていることが好ましい。導電助剤としては、樹脂集電体に含まれる導電性フィラーとして例示したものと同様の導電性フィラーを使用することができる。
【0047】
電極活物質粒子を含む電極活物質層は、被覆電極活物質粒子の被覆層に含まれる導電助剤以外にも導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、上述した被覆層に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0048】
電極活物質層は、電極活物質を含み、電極活物質同士を結着する結着材を含まない非結着体であることが好ましい。
ここで、非結着体とは、電極活物質が結着材(バインダともいう)により位置を固定されておらず、電極活物質同士及び電極活物質と集電体が不可逆的に固定されていないことを意味する。
【0049】
電極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていてもよい。
粘着性樹脂としては、例えば、特開2017-054703号公報に記載された非水系二次電池活物質被覆用樹脂に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、特開平10-255805公報に粘着剤として記載されたもの等を好適に用いることができる。
なお、粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性(水、溶剤、熱などを使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。一方、結着材として用いられる溶液乾燥型の電極バインダは、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して活物質同士を強固に接着固定するものを意味する。
従って、溶液乾燥型の電極バインダ(結着材)と粘着性樹脂とは異なる材料である。
【0050】
電極活物質層の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0051】
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、例えば以下の方法により製造することができる。
樹脂集電体層を構成する高分子材料と導電性フィラー、及び、必要に応じてその他の成分を混合することにより、樹脂組成物を得る。
混合の方法としては、導電性フィラーのマスターバッチを得てからさらに高分子材料と混合する方法、高分子材料、導電性フィラー、及び、必要に応じてその他の成分のマスターバッチを用いる方法、及び、全ての原料を一括して混合する方法等があり、その混合にはペレット状又は粉体状の成分を適切な公知の混合機、例えばニーダー、インターナルミキサー、バンバリーミキサー及びロール等を用いることができる。
【0052】
混合時の各成分の添加順序には特に限定はない。得られた混合物は、さらにペレタイザーなどによりペレット化又は粉末化してもよい。
【0053】
得られた樹脂組成物を例えばフィルム状に成形することにより、樹脂集電体層が得られる。フィルム状に成形する方法としては、Tダイ法、インフレーション法及びカレンダー法等の公知のフィルム成形法が挙げられる。
【0054】
また、2種類以上の樹脂集電体層を作製して、それらを重ね合わせて熱プレスすることにより一体化して複層フィルムとしての樹脂集電体層を得るようにしてもよい。
【0055】
得られた樹脂集電体層の一方の主面に凹部を形成する。
凹部の形成は、金属メッシュ(SUSメッシュ等)、樹脂メッシュ(ニトリルメッシュ等)等のメッシュを樹脂集電体層の一方の主面に載置し、上下から加熱プレスすることによって行うことができる。
加熱プレス後にメッシュを樹脂集電体層から取り外すと、樹脂集電体層の一方の主面にメッシュの形状に合わせた凹部が形成される。
【0056】
図4は、メッシュを使用して凹部を形成する様子を模式的に示す斜視図である。
樹脂集電体層10の一方の主面11に対してメッシュ40を載置し、プレスすることによってメッシュの形状に対応した凹部が形成される。
【0057】
金属メッシュ又は樹脂メッシュを使用する場合、平織、綾織、畳織等の任意の形状を使用することができる。
【0058】
加熱プレスにおけるプレス温度は、上側の熱板を110~160℃、下側の熱板を90~120℃とすることが好ましい。
加熱プレスの際は上下から加熱を行うことが好ましい。上下から加熱を行うことにより樹脂集電体層の一方の主面に均一に凹部を形成することができ、樹脂集電体層にしわが生じることを防止することができる。
プレス温度が高すぎるとメッシュが樹脂集電体層と融着してしまうことがある。また、プレス温度が低すぎると凹部の形成が不充分又は不均一になる。また、集電体にしわが生じることがある。
【0059】
プレス時間は樹脂集電体層に均一に熱が加わるのに充分な時間であればよいが、10~60秒とすることが好ましい。プレス時間が長すぎるとメッシュが樹脂集電体層と融着してしまうことがある。また、プレス時間が短すぎると凹部の形成が不充分又は不均一になる。
【0060】
プレス圧力は樹脂集電体層への荷重が300~1500kN、又は、4.8~24.0MPaとなるようにすることが好ましい。
荷重が適切であると樹脂集電体層の一方の主面に均一に凹部を形成することができ、樹脂集電体層にしわが生じることを防止することができる。
荷重が大きすぎるとメッシュが樹脂集電体層に深く食い込んで外れないことがあり、また、凹部が深くなりすぎることで集電体強度が低下することがある。一方で、荷重が小さすぎると凹部の形成が不充分又は不均一になる。また、樹脂集電体層にしわが生じることがある。
【0061】
凹部の形成と同時に、又は、凹部の形成の前後において導電性フィラー層を形成することができる。
凹部を形成するためのメッシュに導電性フィラーを付着させ、導電性フィラーが樹脂集電体層に触れるようにして加熱プレスを行うことで凹部の表面に導電性フィラーを付着させることができる。この場合、導電性フィラー層は凹部の表面に形成される。
メッシュに導電性フィラーを付着させる方法としては、特に限定されるものではないが、導電性フィラーにメッシュを押し付ける方法、樹脂メッシュに静電気を付与して帯電させて炭素系フィラーを付着させる方法、メタノールの溶液中に分散させた導電性フィラーをメッシュに対してスプレー状に吹き付けて付着させる方法、等が挙げられる。
【0062】
また、導電性フィラーを溶液中に分散させた分散液を樹脂集電体層の主面に塗工し、乾燥させることによって、樹脂集電体層の主面に導電性フィラー層を形成することができる。
その後、導電性フィラー層が形成された主面に対して凹部の形成を行うことができる。
この場合、導電性フィラー層は凹部の表面と凹部以外の表面の両方に形成される。
【0063】
導電性フィラーを溶液中に分散させるために分散剤を使用してもよい。分散剤については特に限定されるものではないが、リチウムイオン電池用電極内で電圧に耐えられるものが好ましい。分散剤の中で、適度に分散を示しかつ電圧に耐えられ、かつ有機溶剤に可溶なものとしては、N-ビニルピロリドンやアクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体といったものが挙げられる。
【0064】
上記方法によってリチウムイオン電池用集電体を製造することができる。
【0065】
本発明のリチウムイオン電池用集電体のうち、凹部を複数有する主面に、電極活物質粒子を含む電極活物質層を形成することによってリチウムイオン電池用電極を製造することができる。
電極活物質粒子は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆した被覆電極活物質粒子とすることが好ましい。
【0066】
被覆電極活物質粒子は、電極活物質粒子を、高分子化合物で被覆することで得ることができる。例えば、電極活物質粒子を万能混合機に入れて撹拌した状態で、高分子化合物を含む樹脂溶液を滴下混合し、さらに必要に応じて導電性フィラーを混合し、撹拌したままで昇温し、減圧した後に所定時間保持することにより被覆電極活物質粒子を得ることができる。
【0067】
このようにして得た被覆電極活物質粒子を、電解液又は溶媒と混合し、必要に応じて導電性フィラーを添加したスラリーを作製し、上記スラリーをリチウムイオン電池用集電体の凹部を複数有する主面に塗布して乾燥させることによって電極活物質層を形成して、リチウムイオン電池用電極を製造することができる。
【0068】
リチウムイオン電池用電極を使用して、リチウムイオン電池を製造することができる。
リチウムイオン電池は、対極となる電極を組み合わせて、セパレータと共にセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することにより得られる。
【0069】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0070】
電解液としては公知の電解液を使用することができる。
電解質としては、公知の電解液に用いられている電解質が使用でき、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiClO及びLiN(FSO等の無機アニオンのリチウム塩、LiN(CFSO、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機アニオンのリチウム塩が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiN(FSOである。
【0071】
溶媒としては、公知の電解液に用いられている非水溶媒が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン及びこれらの混合物を用いることができる。
【実施例
【0072】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0073】
<樹脂集電体層の作製>
2軸押出機にて、高分子材料としてのポリプロピレン樹脂75部、導電性フィラーとしてのアセチレンブラック20部、分散剤[商品名「ユーメックス1001(酸変性ポリプロピレン)」、三洋化成工業(株)製]5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物をTダイから押し出し、50℃に温調した冷却ロールで圧延することで、樹脂集電体層(L-1)を得た。得られた樹脂集電体層の厚さは50μmであった。
【0074】
樹脂集電体層(L-1)における樹脂組成物として、表1に示す組成の組成物を使用して樹脂集電体層(L-2)を得た。
【0075】
樹脂集電体層(L-1)と樹脂集電体層(L-2)を重ね合わせて160℃で熱プレスを行うことにより一体化して複層フィルムとしての樹脂集電体層(L-3)を得た。
【0076】
樹脂集電体層(L-1)における樹脂組成物として、表1に示す組成の組成物を使用して樹脂集電体層(L-4)を得た。
ニッケル粒子は商品名「Nickel Powder Type255」、Vale社製」である。
【0077】
樹脂集電体層(L-3)の一方の主面に対してスパッタリングにより白金からなる金属層を形成し、樹脂集電体層(L-5)を得た。
【0078】
樹脂集電体層(L-1)~(L-5)につき、厚さ、表面粗さ(Ra)、貫通抵抗値、破断応力を求めた。
なお、(L-5)については金属層を形成していない面の表面粗さを測定した。
樹脂集電体層の厚さは膜厚計[ミツトヨ製]を用いて測定した。
貫通抵抗値の測定方法は下記の通りである。
これらの物性をまとめて表1に示した。
【0079】
[貫通抵抗値の測定]
樹脂集電体層をΦ15mmに打ち抜き、電気抵抗測定器[IMC-0240型、井元製作所(株)製]及び抵抗計[RM3548、HIOKI製]を用いて各樹脂集電体層の貫通抵抗値を測定した。
電気抵抗測定器に2.16kgの荷重をかけた状態での樹脂集電体層の抵抗値を測定し、2.16kgの荷重をかけてから60秒後の値をその樹脂集電体層の抵抗値とした。下記の式に示すように、抵抗測定時の冶具の接触表面の面積(1.77cm)をかけた値を貫通抵抗値(Ω・cm)とした。
貫通抵抗値(Ω・cm)=抵抗値(Ω)×1.77(cm
【0080】
[破断応力の測定]
樹脂集電体層をJIS K 7127に準拠したダンベル打ち抜き器で成型し、オートグラフ[(株)島津製作所製AGS-X10kN]に固定した1kNのロードセルおよび引張試験用のつかみ具にサンプルを固定し、100mm/minの速度で引っ張った破断点の試験力を破断面の断面積で割った値を破断応力(MPa)とした。
破断応力(MPa)=試験力(N)/(フィルム厚み(mm)×10(mm))
【0081】
【表1】
【0082】
<凹部の形成>
(実施例1)
樹脂集電体層(L-1)の上に目開き77μm、線径50μm、平織りのSUS316メッシュを載せて上側テーブルを160℃、下側テーブルを100℃に温調した卓上型テストプレス機[SA-302、テスター産業(株)製]にセットし、樹脂集電体層への荷重が24.0MPaになるように圧力を調整して60秒間プレスを行った。この場合プレス荷重は1500kNとなる。
プレス終了後、プレス機から樹脂集電体層を取り出しメッシュを剥がすことで凹部が形成された集電体を得た。得られた凹部の形状は、図2に示すような上面視楕円形状であり、横方向に長軸を有する凹部の形状は横方向の長さ/縦方向の長さ/深さがそれぞれ138μm/66μm/28μmである半楕円球状であり、縦方向に長軸を有する凹部の形状は横方向の長さ/縦方向の長さ/深さがそれぞれ44μm/84μm/14μmである半楕円球状であった。
集電体に凹部が設けられた面の上面視した面積を基準として、凹部を上面視した面積の割合は28%であった。
【0083】
(実施例2)
樹脂集電体層の種類を(L-2)に変更し、メッシュの種類を表2に示すメッシュに変更した他は実施例1と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0084】
(実施例3)
樹脂集電体層(L-1)の上に、あらかじめ帯電させた目開き70μm、線径70μm、平織りのニトリルメッシュにカーボンナノファイバー(商品名「VGCF-H」、昭和電工株式会社製、以降CNFと省略)を接触させたCNF付着メッシュを載せた以外は実施例1と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0085】
(実施例4)
樹脂集電体層(L-1)の上に、CNF0.6部及び高分子分散剤0.1部をメタノール30部に溶解させた溶液の中で超音波分散させたCNF分散液を厚み100μmのコーターで塗工し、25℃雰囲気で自然乾燥させて導電性フィラーが均一に塗布された樹脂集電体層を得た。この導電性フィラーが均一に塗布された樹脂集電体を用いた以外は実施例1と同様の操作によるプレスを行って凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0086】
(実施例5)
樹脂集電体層の種類を(L-3)に変更し、メッシュの種類を表2に示すメッシュに変更した。当該メッシュにアセチレンブラック(以降ABと省略)を付着させたAB付着メッシュを載せた以外は実施例1と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0087】
(実施例6)
樹脂集電体層の種類を(L-4)に変更し、メッシュの種類を実施例1と同じとして、当該メッシュにニッケル粒子(以降Niと省略)を付着させたNi付着メッシュを載せた。上側テーブルの温度を110℃、下側テーブルの温度を110℃とした以外は実施例1と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0088】
(実施例7)
実施例3において、樹脂集電体層の種類を(L-5)に変更した。その他の条件は実施例3と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0089】
(実施例8)
実施例3において、プレス荷重を1500kNから1000kNに変更した。その他の条件は実施例3と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0090】
(実施例9)
実施例3において、プレス荷重を1500kNから500kNに変更した。その他の条件は実施例3と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0091】
(比較例1)
実施例1において、プレス荷重を1500kNから30kNに変更した。その他の条件は実施例1と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0092】
(比較例2)
実施例1において、プレス荷重を1500kNから100kNに変更した。その他の条件は実施例1と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0093】
(比較例3)
実施例1において、プレス荷重を1500kNから280kNに変更し、上側テーブルの温度を70℃、下側テーブルの温度を70℃とした。その他の条件は実施例1と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0094】
(比較例4)
実施例1において、プレス荷重を1500kNから280kNに変更し、上側テーブルの温度を170℃、下側テーブルの温度を140℃とした。その他の条件は実施例1と同様にしてプレスを行った。
比較例4ではメッシュと樹脂集電体層が融着してしまい、所望の集電体は得られなかった。集電体の作製条件を表2に示した。
【0095】
(比較例5)
メッシュの種類を表2に示すメッシュに変更し、プレス荷重を1500kNから2000kNに変更した。その他の条件は実施例1と同様にして凹部が形成された集電体を得た。集電体の作製条件及び得られた集電体の仕様を表2に示した。
【0096】
各実施例及び比較例で得られた集電体につき、貫通抵抗値と破断応力を求めた。結果を表2にまとめて示した。
なお、比較例4については測定を行っていない。
【0097】
【表2】
【0098】
各実施例の集電体の貫通抵抗値は、凹部を形成する前の樹脂集電体層の貫通抵抗値よりも高くなっている。これは、貫通抵抗値の測定方法では、凹部が電極に接していない分だけ抵抗が増加してしまうことに起因する。
後述するようにリチウムイオン電池内に集電体を組み込んで内部抵抗を測定した場合に各実施例の集電体の効果が得られる。
【0099】
<高分子化合物の合成>
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口コルベンに、ラウリルメタクリレート95部、メタクリル酸4.6部、1、6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.4部及びトルエン390部を仕込み75℃に昇温した。トルエン10部及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.200部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.200部を混合した。得られた単量体混合液をコルベン内に窒素を吹き込みながら、滴下ロートで4時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.800部をトルエン12.4部に溶解した溶液を滴下ロートを用いて、重合を開始してから6~8時間目にかけて連続的に追加した。さらに重合を2時間継続し、トルエンを488部加えて樹脂固形分濃度30重量%の高分子化合物(B-1)の溶液を得た。
【0100】
単量体組成を表3に示すように変更して高分子化合物(B-2)を合成した。
【0101】
高分子化合物(B-1)~(B-2)につき、分子量(Mw)、ガラス転移温度を求めた。
これらの物性をまとめて表3に示した。
【0102】
【表3】
【0103】
<電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率でEC:PC=1:1)にLiN(FSO(LiFSI)を2mol/Lの割合で溶解させ、リチウムイオン電池用電解液を調製した。
【0104】
<正極での評価試験>
[被覆正極活物質の作製]
樹脂溶液として高分子化合物(B-1)の溶液を用いたリチウムイオン電池用被覆正極活物質を以下の方法で作製した。
正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Al0.05[戸田工業製、体積平均粒子径6.4μm]96.9部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、上記樹脂溶液を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤としてアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を150℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質を得た。
【0105】
[正極ハーフセルの作製]
リチウムイオン電池用集電体(S-1)~(S-12)、(S-14)の凹部が形成された主面上に正極活物質層を形成して正極を作製した。
また、樹脂集電体層(L-1)の主面上に正極活物質層を形成して正極を作製した。
具体的には、電解液42部と炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm]4.2部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで5分間混合し、続いて上記電解液30部と上記の被覆正極活物質206部を追加した後、更にあわとり練太郎で2000rpmで2分間混合し、上記電解液20部を更に追加した後、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行い、更に電解液2.3部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで2分間混合して、正極スラリーを作製した。得られた正極スラリーを活物質目付量が80mg/cmとなるよう、リチウムイオン電池用集電体又は樹脂集電体層の片面に塗布し、1.4MPaの圧力で約10秒プレスし、実施例10~18、比較例6~10に係る正極ハーフセル(15mmφ)を作製した。
【0106】
[リチウムイオン電池の作製]
得られた正極ハーフセルを、セパレータ(セルガード製#3501)を介し、対極Li金属と組み合わせ、電解液を注入して、ラミネートセルを作製した。
【0107】
[放電容量の測定]
45℃下、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて以下の方法によりリチウムイオン電池につき充放電試験を行った。結果を表4に示す。
定電流定電圧方式(0.1C)で4.2Vまで充電した後、10分間の休止後、定電流方式(0.1C)で2.6Vまで放電した。
このとき放電した容量を[放電容量(mAh)]とした。
【0108】
[内部抵抗の測定]
45℃下、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて以下の方法により正極ハーフセルの評価を行った。結果を表4に示す。
定電流定電圧方式(0.1C)で4.2Vまで充電した後、10分間の休止後、定電流方式(0.1C)で2.6Vまで放電した。定電流定電圧方式(CCCVモードともいう)で0.1Cにおける放電0秒後の電圧及び電流並びに0.1Cにおける放電10秒後の電圧及び電流を測定し、以下の式で内部抵抗を算出した。内部抵抗が小さいほど優れた電池特性を有することを意味する。
なお、放電0秒後の電圧とは、放電したと同時に計測される電圧(放電時電圧ともいう)である。
[内部抵抗(Ω・cm)]=[(0.1Cにおける放電0秒後の電圧)-(0.1Cにおける放電10秒後の電圧)]÷[(0.1Cにおける放電0秒後の電流)-(0.1Cにおける放電10秒後の電流)]×[電極の対向面積(cm)]
【0109】
【表4】
【0110】
比較例6の正極ハーフセルを基準値とする。
比較例6は、リチウムイオン電池用集電体が樹脂集電体層(L-1)であり、主面に凹凸が設けられていない樹脂集電体を使用した例に相当する。
内部抵抗が比較例6より明らかに低く(14.4(Ω・cm)未満)、10サイクル容量維持率が比較例6より高い場合を高評価と判断した。
実施例10~18に係る正極ハーフセルはいずれも内部抵抗が比較例6より低く、10サイクル容量維持率は比較例6より高くなっていた。
すなわち、各実施例の正極ハーフセルは内部抵抗を低下させることができ、サイクル試験後の容量維持率を高くできることが分かった。
【0111】
<負極での評価試験>
[被覆負極活物質の作製]
樹脂溶液として高分子化合物(B-2)の溶液を用いたリチウムイオン電池用被覆負極活物質を以下の方法で作製した。
負極活物質として難黒鉛化性炭素[(株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製 カーボトロン(登録商標)PS(F)]100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、上記樹脂溶液を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤としてアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]5.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を150℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質を得た。
【0112】
[負極ハーフセルの作製]
リチウムイオン電池用集電体(S-1)~(S-12)の凹部が形成された主面上に負極活物質層を形成して負極を作製した。
また、樹脂集電体層(L-1)の主面上に負極活物質層を形成して負極を作製した。
具体的には、電解液150部と炭素繊維4.2部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで5分間混合し、続いて上記電解液50部と上記の被覆負極活物質206部を追加した後、更にあわとり練太郎で2000rpmで2分間混合し、上記電解液20部を更に追加した後、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行い、更に電解液2.3部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで2分間混合して、負極スラリーを作製した。得られた負極スラリーを活物質目付量が30.0mg/cmとなるよう、リチウムイオン電池用集電体の片面に塗布し、1.4MPaの圧力で約10秒プレスし、実施例19~27、比較例11~14に係る負極ハーフセル(16mmφ)を作製した。
【0113】
[リチウムイオン電池の作製]
得られた負極を、セパレータ(セルガード製#3501)を介し、対極Li金属と組み合わせ、電解液を注入して、ラミネートセルを作製した。
【0114】
放電容量の測定、内部抵抗の測定を正極での評価試験の場合と同様にして実施し、結果を表5に示した。
【0115】
【表5】
【0116】
比較例11の負極ハーフセルを基準値とする。
比較例11は、リチウムイオン電池用集電体が樹脂集電体層(L-1)であり、主面に凹凸が設けられていない樹脂集電体を使用した例に相当する。
内部抵抗が比較例11より明らかに低く(17.8(Ω・cm)未満)、10サイクル容量維持率が比較例11より高い場合を高評価と判断した。
実施例19~27に係る負極ハーフセルはいずれも内部抵抗が比較例11より低く、10サイクル容量維持率は比較例11より高くなっていた。
すなわち、各実施例の負極ハーフセルは内部抵抗を低下させることができ、サイクル試験後の容量維持率を高くできることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、集電体と活物質層の間の接触抵抗を低くすることができる集電体である。そのため、当該集電体を用いた電極を備えたリチウムイオン電池は、電気自動車及びハイブリッド電気自動車等及び携帯型電子機器用の電池として使用することに適している。
【符号の説明】
【0118】
1、2 リチウムイオン電池用集電体
10 樹脂集電体層
11、12 主面
20 凹部
21 縦方向に長い楕円形である凹部
22 横方向に長い楕円形である凹部
30 導電性フィラー
40 メッシュ
図1
図2
図3
図4