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特許7097410リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子、リチウムイオン電池用負極、リチウムイオン電池、及び、リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子、リチウムイオン電池用負極、リチウムイオン電池、及び、リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20220630BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220630BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220630BHJP
   H01M 4/587 20100101ALN20220630BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M10/052
H01M10/058
H01M4/587
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020138090
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034339
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 俊明
(72)【発明者】
【氏名】西村 英起
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-156328(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026268(WO,A1)
【文献】特開2002-134171(JP,A)
【文献】特開2017-152122(JP,A)
【文献】特開2017-188451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 10/052
H01M 10/058
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物と化合物(A)とを含む被覆層で被覆されており、
前記高分子化合物が、(メタ)アクリル酸を構成単量体とする重合体であり、前記重合体における(メタ)アクリル酸の重量割合が前記重合体の重量を基準として70~95重量%であり、
前記化合物(A)が、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である
リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子。
【請求項2】
前記リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子に含まれる前記高分子化合物の重量割合が、前記リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の重量を基準として1~7重量%であり、
前記リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子に含まれる前記化合物(A)の重量割合が、前記リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の重量を基準として0.5~14重量%である請求項1に記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子。
【請求項3】
前記高分子化合物が、ビニルモノマー(b)を構成単量体とする重合体であり、前記ビニルモノマー(b)として下記一般式(1)で表示されるビニルモノマー(b1)を含む請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子。
CH=C(R)COOR (1)
[一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1~12のアルキル基である。]
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の被覆負極活物質粒子を有するリチウムイオン電池用負極。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン電池用負極を有するリチウムイオン電池。
【請求項6】
高分子化合物及び化合物(A)が有機溶媒に溶解した溶液と負極活物質粒子とを混合する混合工程と、前記混合工程の後に前記有機溶媒を留去する留去工程とを含み、
前記高分子化合物が、(メタ)アクリル酸を構成単量体とする重合体であり、前記重合体における(メタ)アクリル酸の重量割合が前記重合体の重量を基準として70~95重量%であり、
前記化合物(A)が、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択された少なくとも1種である
リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子、リチウムイオン電池用負極、リチウムイオン電池、及び、リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる二次電池として、近年様々な用途に多用されている。
【0003】
リチウムイオン電池を製造する方法として、一般的には、電極活物質をバインダ及び溶媒と混合したスラリーを基材上に塗布し、脱溶剤した後に圧縮する方法が挙げられる。
【0004】
しかしながら、このような方法では、電池性能に影響がでないレベルまで難揮発性の溶剤を確実に乾燥させる必要があるため、大型の乾燥炉を設計する必要がある。そのため、脱溶剤に多くの時間とエネルギーを要してしまうという課題があった。
また、溶剤は一般的に非水電解液であるため、大気汚染を防止する観点から溶媒回収機構が必要になる等、製造コストの抑制が困難であった。
【0005】
一方で、例えば、活物質粒子の表面の少なくとも一部が被覆用樹脂及び導電助剤を含む被覆剤で覆われた被覆活物質粒子を用いて脱溶剤工程を経ないでリチウムイオン電池用電極を作成する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
このような方法では、乾燥設備をコンパクトに設計することができ、従来の脱溶剤に要するエネルギーを抑制するだけでなく、リチウムイオン電池製造の用地を小さくすることができる。
また、リチウムイオン電池を作成する際の溶剤量を減らすこともできるため、溶剤回収コストも低下させることができ、また周囲の環境に対する負荷を低減することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-189325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記被覆活物質粒子を用いて作製したリチウムイオン電池用電極は機械強度が十分でないことがあり、これに起因して、リチウムイオン電池の製造工程でリチウムイオン電池用電極が破損したり、リチウムイオン電池のサイクル特性が悪化したりすることがあり、改善の余地があった。
【0009】
そこで本発明は、機械強度に優れたリチウムイオン電池用負極を作製することができ、脱溶剤工程を経ないでリチウムイオン電池を作製したとしても、サイクル特性に優れたリチウムイオン電池を作製することができる被覆負極活物質粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、被覆負極活物質粒子を構成する被覆層が、特定の高分子化合物と化合物(A)とを含むことにより、上記化合物(A)が上記高分子化合物の可塑剤として働き、被覆層に優れた弾性を付与するとともに、被覆負極活物質粒子同士の接着性を向上させることができるため、上記被覆負極活物質粒子を用いることにより、機械強度に優れたリチウムイオン電池用負極を形成できることを見出した。さらに本発明者らは、上記リチウムイオン電池用負極を用いて形成されるリチウムイオン電池では、リチウムイオン電池用負極において被覆負極活物質粒子同士の接着性が向上しており、リチウムイオン電池の充放電をしたとしても、リチウムイオン電池用負極の構造を維持することができるためにサイクル特性が良化することを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物と化合物(A)とを含む被覆層で被覆されており、上記高分子化合物が、(メタ)アクリル酸を構成単量体とする重合体であり、上記重合体における(メタ)アクリル酸の重量割合が上記重合体の重量を基準として70~95重量%であり、上記化合物(A)が、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種であるリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子;上記被覆負極活物質粒子を有するリチウムイオン電池用負極;上記リチウムイオン電池用負極を有するリチウムイオン電池;高分子化合物及び化合物(A)が有機溶媒に溶解した溶液と負極活物質粒子とを混合する混合工程と、上記混合工程の後に上記有機溶媒を留去する留去工程とを含み、上記高分子化合物が、(メタ)アクリル酸を構成単量体とする重合体であり、上記重合体における(メタ)アクリル酸の重量割合が上記重合体の重量を基準として70~95重量%であり、上記化合物(A)が、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択された少なくとも1種であるリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、機械強度に優れたリチウムイオン電池用負極を作製することができ、脱溶剤工程を経ないでリチウムイオン電池を作製したとしても、サイクル特性に優れたリチウムイオン電池を作製することができる被覆負極活物質粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子>
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子は、負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物と化合物(A)とを含む被覆層で被覆されており、上記高分子化合物が、(メタ)アクリル酸を構成単量体とする重合体であり、上記重合体における(メタ)アクリル酸の重量割合が前記重合体の重量を基準として70~95重量%であり、上記化合物(A)が、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする。
【0014】
(負極活物質粒子)
負極活物質粒子としては、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
これらの負極活物質粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0015】
負極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、2~10μmであることがさらに好ましい。
【0016】
(被覆層)
被覆層は、高分子化合物と化合物(A)とを含み、高分子化合物が、(メタ)アクリル酸を構成単量体とする重合体であり、重合体における(メタ)アクリル酸の重量割合が重合体の重量を基準として70~95重量%であり、化合物(A)が、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択された少なくとも1種である。
被覆負極活物質粒子を構成する被覆層が、特定の高分子化合物と化合物(A)とを含むことにより、上記化合物(A)が上記高分子化合物の可塑剤として働き、被覆層に優れた弾性を付与するとともに、被覆負極活物質粒子同士の接着性を向上させることができる。そして、このような被覆負極活物質粒子を用いることにより、機械強度に優れたリチウムイオン電池用負極を形成することができる。
【0017】
高分子化合物は、(メタ)アクリル酸を構成単量体とする重合体であり、重合体における(メタ)アクリル酸の重量割合が重合体の重量を基準として70~95重量%である。
高分子化合物の化合物(A)及び電解液への膨潤度を制御する観点から、(メタ)アクリル酸の重量割合が重合体の重量を基準として80~92重量%であることが好ましい。
【0018】
高分子化合物は、被覆活物質粒子同士の接着性を向上させる観点から、ビニルモノマー(b)を構成単量体とする重合体であり、ビニルモノマー(b)として下記一般式(1)で表示されるビニルモノマー(b1)を含むことが好ましい。
CH=C(R)COOR (1)
[一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1~12のアルキル基である。]
【0019】
における炭素数1~12のアルキル基としては、直鎖アルキル基であってもよく、分岐アルキル基であってもよい。
炭素数1~12のアルキル基の直鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。
炭素数1~12のアルキル基の分岐アルキル基としては、1-メチルプロピル基(sec-ブチル基)、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルエチル基(tert-ブチル基)、1-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、1,1-ジメチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2-エチルペンチル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、1,1-ジメチルヘキシル基、1,2-ジメチルヘキシル基、1,3-ジメチルヘキシル基、1,4-ジメチルヘキシル基、1,5-ジメチルヘキシル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、3-メチルオクチル基、4-メチルオクチル基、5-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、7-メチルオクチル基、1,1-ジメチルヘプチル基、1,2-ジメチルヘプチル基、1,3-ジメチルヘプチル基、1,4-ジメチルヘプチル基、1,5-ジメチルヘプチル基、1,6-ジメチルヘプチル基、1-エチルヘプチル基、2-エチルヘプチル基、1-メチルノニル基、2-メチルノニル基、3-メチルノニル基、4-メチルノニル基、5-メチルノニル基、6-メチルノニル基、7-メチルノニル基、8-メチルノニル基、1,1-ジメチルオクチル基、1,2-ジメチルオクチル基、1,3-ジメチルオクチル基、1,4-ジメチルオクチル基、1,5-ジメチルオクチル基、1,6-ジメチルオクチル基、1,7-ジメチルオクチル基、1-エチルオクチル基、2-エチルオクチル基、1-メチルデシル基、2-メチルデシル基、3-メチルデシル基、4-メチルデシル基、5-メチルデシル基、6-メチルデシル基、7-メチルデシル基、8-メチルデシル基、9-メチルデシル基、1,1-ジメチルノニル基、1,2-ジメチルノニル基、1,3-ジメチルノニル基、1,4-ジメチルノニル基、1,5-ジメチルノニル基、1,6-ジメチルノニル基、1,7-ジメチルノニル基、1,8-ジメチルノニル基、1-エチルノニル基、2-エチルノニル基、1-メチルウンデシル基、2-メチルウンデシル基、3-メチルウンデシル基、4-メチルウンデシル基、5-メチルウンデシル基、6-メチルウンデシル基、7-メチルウンデシル基、8-メチルウンデシル基、9-メチルウンデシル基、10-メチルウンデシル基、1,1-ジメチルデシル基、1,2-ジメチルデシル基、1,3-ジメチルデシル基、1,4-ジメチルデシル基、1,5-ジメチルデシル基、1,6-ジメチルデシル基、1,7-ジメチルデシル基、1,8-ジメチルデシル基、1,9-ジメチルデシル基、1-エチルデシル基、2-エチルデシル基等が挙げられる。
【0020】
ビニルモノマー(b1)は、高分子化合物が化合物(A)に対して膨潤した際の柔軟性向上の観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸(イソ)ブチル、又は、アクリル酸2-エチルヘキシルであることが好ましい。
【0021】
高分子化合物において、ビニルモノマー(b)の重量割合は、重合体の重量を基準として5~30重量%であることが好ましく、10~15重量%であることがより好ましい。
【0022】
高分子化合物は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の単量体を含有してもよい。
他の単量体としては、例えば、特開2017-054703号公報及び国際公開第2015-005117号等において活物質被覆用樹脂に用いられる単量体を適宜選択して用いることができる。
【0023】
高分子化合物は、例えば、公知の重合開始剤{アゾ系開始剤[2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩等]、パーオキサイド系開始剤(ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等)等}を使用して公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等)により製造することができる。
重合開始剤の使用量は、重量平均分子量を好ましい範囲に調整する等の観点から、単量体の全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%、さらに好ましくは0.1~1.5重量%であり、重合温度及び重合時間は重合開始剤の種類等に応じて調整されるが、重合温度は好ましくは-5~150℃、(より好ましくは30~120℃)、反応時間は好ましくは0.1~50時間(より好ましくは2~24時間)で行われる。
【0024】
溶液重合の場合に使用される溶媒としては、例えばエステル(炭素数2~8、例えば酢酸エチル及び酢酸ブチル)、アルコール(炭素数1~8、例えばメタノール、エタノール及びオクタノール)、炭化水素(炭素数4~8、例えばn-ブタン、シクロヘキサン及びトルエン)、アミド(例えばN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する))及びケトン(炭素数3~9、例えばメチルエチルケトン)が挙げられ、重量平均分子量を好ましい範囲に調整する等の観点から、その使用量は単量体の合計重量に基づいて好ましくは5~900重量%、より好ましくは10~400重量%、さらに好ましくは30~300重量%であり、単量体濃度としては、好ましくは10~95重量%、より好ましくは20~90重量%、さらに好ましくは30~80重量%である。
【0025】
乳化重合及び懸濁重合における分散媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、エステル(例えばプロピオン酸エチル)、軽ナフサ等が挙げられ、乳化剤としては、高級脂肪酸(炭素数10~24)金属塩(例えばオレイン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム)、高級アルコール(炭素数10~24)硫酸エステル金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、エトキシ化テトラメチルデシンジオール、メタクリル酸スルホエチルナトリウム、メタクリル酸ジメチルアミノメチル等が挙げられる。さらに安定剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を加えてもよい。
溶液又は分散液の単量体濃度は好ましくは5~95重量%、より好ましくは10~90重量%、さらに好ましくは15~85重量%であり、重合開始剤の使用量は、単量体の全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%である。
重合に際しては、公知の連鎖移動剤、例えばメルカプト化合物(ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン等)及び/又はハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、四臭化炭素、塩化ベンジル等)を使用することができる。
【0026】
高分子化合物は、該高分子化合物をカルボキシル基と反応する反応性官能基を有する架橋剤(A’){好ましくはポリエポキシ化合物(a’1)[ポリグリシジルエーテル(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及びグリセリントリグリシジルエーテル等)及びポリグリシジルアミン(N,N-ジグリシジルアニリン及び1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル))等]及び/又はポリオール化合物(a’2)(エチレングリコール等)}で架橋してなる架橋重合体であってもよい。
【0027】
架橋剤(A’)を用いて高分子化合物を架橋する方法としては、負極活物質粒子を、高分子化合物で被覆した後に架橋する方法が挙げられる。具体的には、負極活物質粒子と高分子化合物を含む樹脂溶液を混合し脱溶剤することにより、被覆活物質粒子を製造した後に、架橋剤(A’)を含む溶液を該被覆活物質粒子に混合して加熱することにより、脱溶剤と架橋反応を生じさせて、高分子化合物が架橋剤(A’)によって架橋される反応を負極活物質粒子の表面で起こす方法が挙げられる。
加熱温度は、架橋剤の種類に応じて調整されるが、架橋剤としてポリエポキシ化合物(a’1)を用いる場合は好ましくは70℃以上であり、ポリオール化合物(a’2)を用いる場合は好ましくは120℃以上である。
【0028】
高分子化合物は、化合物(A)に対する膨潤度が150~400重量%であることがより好ましく、180~220重量%であることがより好ましい。
また、高分子化合物は、リチウムイオン電池内の負極活物質層において導電性を維持する観点から、後述する電解液に対する膨潤度が1~30重量%であることがより好ましく、5~10重量%であることがより好ましい。
高分子化合物がこのような性質を有することにより、被覆層に優れた弾性を付与することができる。
なお、本段落における化合物(A)に対する膨潤度は、後述するリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子を作製する際に用いる化合物(A)に対する膨潤度を意味する。また、本段落における電解液に対する膨潤度は、後述するリチウムイオン電池用負極を作製する際に用いる電解液に対する膨潤度を意味する。
【0029】
高分子化合物は、エチレンカーボネートに対する膨潤度が150~250重量%であることがより好ましく、180~220重量%であることがより好ましい。
また、高分子化合物は、エチレンカーボネート(EC)3.5重量部とプロピレンカーボネート(PC)5重量部の混合溶媒にLiFSI[LiN(FSO]を10重量部溶解させて作製した電解液に対する膨潤度が1~20重量%であることがより好ましく、5~10重量%であることがより好ましい。
【0030】
膨潤度は、例えば、以下の方法により測定することができる。
高分子化合物をハンマーで粗く砕き、コーヒーミルで追加粉砕し粉末状にする。さらにメノウ乳鉢を用いて追加粉砕を行い、高分子化合物を微粉末状にする。次いで高分子化合物を成型可能な温度(例えば、110℃)に加熱ブロックを加熱したヒートプレス機を使い、0.1mmのテフロン(登録商標)シートの上に離型剤をコーティングした、10×40×0.2mmの金枠を載せ、その金枠内に粉末状の高分子化合物を敷き詰めテフロン(登録商標)シートで蓋をし、1MPaの圧力で60秒間プレスを行う。プレス後の金枠内にさらに粉末の高分子化合物を敷き詰め同様に1MPaの圧力で60秒プレスを行う操作を、金枠内に不透明な部分や気泡がない状態になるまで繰り返し、金枠から取り外して試験片を得る。この試験片を溶媒(化合物(A)又は電解液)に50℃で3日間浸漬させて飽和吸液状態とする。
その後、試験片の吸液前後の重量変化から下記式によって膨潤度を求めることができる。
膨潤度[重量%]=[(吸液後の試験片重量-吸液前の試験片重量)/吸液前の試験片重量]×100
【0031】
高分子化合物の重量平均分子量の好ましい下限は3,000、より好ましい下限は5,000、さらに好ましい下限は7,000である。一方、上記高分子化合物の重量平均分子量の好ましい上限は100,000、より好ましい上限は70,000である。
【0032】
高分子化合物の重量平均分子量は、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略記)測定により求めることができる。
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン、DMF、THF
標準物質:ポリスチレン
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0033】
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子において、高分子化合物の重量割合は、電気抵抗とエネルギー密度の観点から、リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の重量を基準として1~7重量%であることが好ましく、2~6重量%であることがより好ましい。
【0034】
化合物(A)は、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である。
被覆層が化合物(A)を含むことにより、被覆層が化合物(A)により膨潤された状態となり、被覆層に優れた弾性を付与するとともに、被覆負極活物質粒子同士の接着性を向上させることができる。また、被覆負極活物質粒子を電解液に浸した際においても、被覆層が化合物(A)を部分的に維持しており、被覆負極活物質粒子同士の接着性も維持されるので、機械強度に優れたリチウムイオン電池用負極を得ることができると考えられる。
【0035】
リチウムイオン電池のサイクル特性を好適に向上させる観点から、化合物(A)としては、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートの組み合わせ、又は、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド及びビニレンカーボネートの組み合わせが好ましい。
【0036】
化合物(A)が、ビニレンカーボネートを含む場合、ビニレンカーボネートは、SEI膜を好適に形成しサイクル特性を向上させる観点から、化合物(A)の重量を基準として、10重量%以下であることが好ましい。
【0037】
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子において、化合物(A)の重量割合は、被覆層に弾性を付与する観点から、リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の重量を基準として0.5~14重量%であることが好ましく、1~2重量%であることがより好ましい。
【0038】
被覆層は、内部抵抗等の観点から、導電助剤を含むことが好ましい。
導電助剤としては、導電性を有する材料から選択されることが好ましい。
導電助剤として好ましいものとしては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック、カーボンナノファイバー等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物として用いられてもよい。
なかでも、電気的安定性の観点から、より好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、金、銅、チタン及びこれらの混合物であり、さらに好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、特に好ましくはカーボンである。
またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料[好ましくは、上記した導電助剤のうち金属のもの]をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0039】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電助剤として実用化されている形態であってもよい。
【0040】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μm程度であることが好ましい。
本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0041】
高分子化合物と導電助剤の比率は特に限定されるものではないが、電池の内部抵抗等の観点から、重量比率で高分子化合物(樹脂固形分重量):導電助剤が1:0.01~1:50であることが好ましく、1:0.2~1:3.0であることがより好ましい。
【0042】
(被覆負極活物質粒子)
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子は、負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物と化合物(A)とを含む被覆層で被覆されている。
負極活物質粒子は、サイクル特性の観点から、下記計算式で得られる被覆率が30~95%であることが好ましい。
被覆率(%)={1-[被覆負極活物質粒子のBET比表面積/(負極活物質粒子のBET比表面積×被覆負極活物質粒子中に含まれる負極活物質粒子の重量割合+導電助剤のBET比表面積×被覆負極活物質粒子中に含まれる導電助剤の重量割合)]}×100
【0043】
<リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法>
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法は、高分子化合物及び化合物(A)が有機溶媒に溶解した溶液と負極活物質粒子とを混合する混合工程と、上記混合工程の後に上記有機溶媒を留去する留去工程とを含み、上記高分子化合物が、(メタ)アクリル酸を構成単量体とする重合体であり、上記重合体における(メタ)アクリル酸の重量割合が上記重合体の重量を基準として70~95重量%であり、上記化合物(A)が、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする。
【0044】
(混合工程)
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法は、高分子化合物及び化合物(A)が有機溶媒に溶解した溶液と負極活物質粒子とを混合する混合工程を含む。
【0045】
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法では、上述した本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子で記載した材料を適宜選択して用いることができる。
また、有機溶媒としては、高分子化合物及び化合物(A)を溶解できるものであれば特に限定されず、例えば、上述した溶液重合の場合に使用される溶媒として例示したもの等を用いることができる。
【0046】
高分子化合物及び化合物(A)が有機溶媒に溶解した溶液と負極活物質粒子とを混合する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
例えば、負極活物質粒子を万能混合機に入れて30~500rpmで撹拌した状態で、高分子化合物及び化合物(A)が有機溶媒に溶解した溶液を1~90分かけて滴下混合し、必要に応じて、導電助剤を混合する方法等が挙げられる。
【0047】
混合工程において各成分の配合比率は特に限定されないが、例えば、固形分における重量比率で、負極活物質粒子が79.5~99.5重量%、高分子化合物が1~7重量%、化合物(A)が0.5~14重量%となるように配合されていることが好ましい。
また、導電助剤は、重量比率で高分子化合物(樹脂固形分重量):導電助剤が1:0.01~1:50となるように配合されていることが好ましい。
【0048】
(留去工程)
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法は、混合工程の後に有機溶媒を留去する留去工程を含む。
【0049】
留去工程としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。
例えば、混合工程で得られた混合組成物を撹拌しながら、50~200℃に昇温し、0.007~0.04MPaまで減圧した後に10~150分保持して、有機溶媒を留去する方法等を用いることができる。
なお、留去工程は、従来のリチウムイオン電池を製造する際の脱溶剤工程と比較して、留去する有機溶媒の量が少ないため、コンパクトな設備で運用することができる。
【0050】
<リチウムイオン電池用負極>
本発明のリチウムイオン電池用負極は、上述した本発明の被覆負極活物質粒子を有することを特徴とする。
本発明のリチウムイオン電池用負極は、被覆負極活物質粒子と電解質及び溶媒を含有する電解液とを含む負極活物質層と、負極集電体とを備えることが好ましい。
【0051】
(負極活物質層)
負極活物質層において、本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の重量割合は、負極活物質層の重量を基準として40~95重量%であることが好ましく、60~90重量%であることがより好ましい。
【0052】
電解質としては、公知の電解液に用いられている電解質が使用でき、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiClO及びLiN(FSO等の無機アニオンのリチウム塩、LiN(CFSO、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機アニオンのリチウム塩が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiN(FSOである。
【0053】
溶媒としては、公知の電解液に用いられている非水溶媒が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン及びこれらの混合物を用いることができる。
【0054】
ラクトン化合物としては、5員環(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環(δ-バレロラクトン等)のラクトン化合物等が挙げられる。
【0055】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)及びブチレンカーボネート(BC)等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0056】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
【0057】
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0058】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
【0059】
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
【0060】
これらの溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
電解液中の電解質の濃度は、1.2~5.0mol/Lであることが好ましく、1.5~4.5mol/Lであることがより好ましく、1.8~4.0mol/Lであることがさらに好ましく、2.0~3.5mol/Lであることが特に好ましい。
このような電解液は、適当な粘性を有するので、被覆負極活物質粒子間に液膜を形成することができ、被覆負極活物質粒子に潤滑効果(被覆負極活物質粒子の位置調整能力)を付与することができる。
【0062】
負極活物質層は、上述した被覆負極活物質粒子の被覆層中に必要に応じて含まれる導電助剤とは別に、導電助剤をさらに含んでもよい。被覆層中に必要に応じて含まれる導電助剤が被覆負極活物質粒子と一体であるのに対し、負極活物質層が含む導電助剤は被覆負極活物質粒子と別々に含まれている点で区別できる。
負極活物質層が含んでいてもよい導電助剤としては、<リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子>で説明したものを用いることができる。
【0063】
負極活物質層が導電助剤を含む場合、負極活物質層中に含まれる導電助剤と被覆層中に含まれる導電助剤の合計含有量は、負極活物質層から電解液を除いた重量を基準として4重量%未満であることが好ましく、3重量%未満であることがより好ましい。一方、負極活物質層中に含まれる導電助剤と被覆層中に含まれる導電助剤の合計含有量は、負極活物質層から電解液を除いた重量を基準として2.5重量%以上であることが好ましい。
【0064】
負極活物質層は、結着剤を含まないことが好ましい。
なお、本明細書において、結着剤とは、被覆負極活物質粒子同士及び被覆負極活物質粒子と集電体とを可逆的に固定することができない薬剤を意味し、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレン等の公知の溶剤乾燥型のリチウムイオン電池用結着剤等が挙げられる。
これらの結着剤は、溶剤に溶解又は分散して用いられ、溶剤を揮発、留去することで固体化して、被覆負極活物質粒子同士及び被覆負極活物質粒子と集電体とを不可逆的に固定するものである。
【0065】
負極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていてもよい。
粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性を有する樹脂を意味し、結着剤とは異なる材料であり、区別される。
また、被覆負極活物質粒子を構成する被覆層が負極活物質粒子の表面に固定されているのに対して、粘着性樹脂は負極活物質粒子の表面同士を可逆的に固定するものである。負極活物質粒子の表面から粘着性樹脂は容易に分離できるが、被覆層は容易に分離できない。従って、上記被覆層と上記粘着性樹脂は異なる材料である。
【0066】
粘着性樹脂としては、酢酸ビニル、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ブチルアクリレート及びブチルメタクリレートからなる群から選択された少なくとも1種の低Tgモノマーを必須構成単量体として含み上記低Tgモノマーの合計重量割合が構成単量体の合計重量に基づいて45重量%以上である重合体が挙げられる。
粘着性樹脂を用いる場合、負極活物質粒子の合計重量に対して0.01~10重量%の粘着性樹脂を用いることが好ましい。
【0067】
負極活物質層の厚みは、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0068】
(負極集電体)
リチウムイオン電池用負極は、負極集電体を備え、上記集電体の表面に上記負極活物質層が設けられていることが好ましい。
【0069】
負極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等が挙げられる。
負極集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体、及び、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
【0070】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、導電性高分子材料からなる樹脂集電体を備え、上記樹脂集電体の表面に負極活物質層が設けられていることが好ましい。
【0071】
樹脂集電体を構成する導電性高分子材料としては例えば、樹脂に導電材を添加したものを用いることができる。
導電性高分子材料を構成する導電材としては、被覆層の任意成分である導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
導電性高分子材料を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
樹脂集電体は、特開2012-150905号公報及び国際公開第2015/005116号等に記載された公知の方法で得ることができる。
【0072】
負極集電体の厚さは、特に限定されないが、5~150μmであることが好ましい。
【0073】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、例えば、本発明の化合物(A)で膨潤した被覆負極活物質粒子及び必要に応じて導電助剤等を混合した粉体(負極前駆体)を負極集電体に塗布しプレス機でプレスして負極活物質層を形成した後に電解液を注液することによって作製することができる。
また、負極前駆体を離型フィルム上に塗布、プレスして負極活物質層を形成し、負極活物質層を負極集電体に転写した後、電解液を注液してもよい。本発明のリチウムイオン電池用負極では、被覆負極活物質粒子同士の接着性に優れるために電解液を注液したとしても、負極活物質層の構造を維持することができるので、機械強度が優れるとともに、サイクル特性にも優れる。
本発明のリチウムイオン電池用負極を製造する際には、不要な溶媒を使用しないため、従来の脱溶剤工程で必要であった大型の乾燥炉や溶媒回収機構を用いなくてもよい。
【0074】
<リチウムイオン電池>
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用負極を有する。
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用負極と、セパレータと、正極とを備える。
【0075】
(セパレータ)
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0076】
(正極)
正極は、正極活物質層と、正極集電体とを備えることが好ましい。
【0077】
正極活物質層は、正極活物質粒子を含む。
正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0078】
正極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
【0079】
正極活物質粒子は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層により被覆された被覆正極活物質粒子であってもよい。
正極活物質粒子の周囲が被覆層で被覆されていると、正極の体積変化が緩和され、正極の膨張を抑制することができる。
【0080】
被覆層としては、上述した本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子で記載した被覆層と同様のものを好適に用いることができる。
【0081】
正極活物質層は、結着剤を含まないことが好ましい。
結着剤とは、上記負極で記載したものを意味する。
【0082】
正極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていてもよい。
粘着性樹脂としては、負極活物質層の任意成分である粘着性樹脂と同様のものを好適に用いることができる。
【0083】
正極活物質層は、導電助剤が含まれていてもよい。
導電助剤としては、負極活物質層に含まれる導電性フィラーと同様の導電性材料を好適に用いることができる。
正極活物質層における導電助剤の重量割合は、2~10重量%であることが好ましい。
【0084】
正極活物質層は電解液を含んでもよい。
電解液としては、負極活物質層で記載したものを適宜選択して用いることができる。
【0085】
正極活物質層の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0086】
正極集電体としては、公知の金属集電体及び導電材と樹脂とを含む導電性樹脂組成物から構成されてなる樹脂集電体(特開2012-150905号公報及び国際公開第2015-005116号等に記載の樹脂集電体等)を用いることができる。
正極集電体は、電池特性等の観点から、樹脂集電体であることが好ましい。
正極集電体の厚さは特に限定されないが、5~150μmであることが好ましい。
【0087】
正極は、例えば、正極活物質粒子及び電解液を含む混合物を正極集電体又は基材の表面に塗布し、余分な電解液を除去する方法によって作製することができる。
基材の表面に正極活物質層を形成した場合、転写等の方法によって正極活物質層を正極集電体と組み合わせればよい。
上記混合物には、必要に応じて、導電助剤や粘着性樹脂等が含まれていてもよい。
【0088】
(リチウムイオン電池の製造方法)
本発明のリチウムイオン電池は、例えば、正極、セパレータ及び本発明のリチウムイオン電池用負極をこの順に重ね合わせた後、必要に応じて電解液を注入することにより製造することができる。
【実施例
【0089】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0090】
<高分子化合物の作製>
高分子化合物の作製に用いた単量体は以下の通りである。
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
MMA:メタクリル酸メチル
BMA:メタクリル酸ブチル
EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル
PCMA:(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート
【0091】
(高分子化合物1の作製)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF150部を仕込み、75℃に昇温した。次いで、アクリル酸92部及びメタクリル酸メチル8部をDMF50部に溶解させた単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.4部をDMF30部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、80℃に昇温して反応を2時間継続した。次いで、85℃に昇温して反応を2時間継続し、さらに95℃に昇温して反応を1時間継続し、樹脂濃度30%の共重合体溶液を得た。得られた共重合体溶液はテフロン(登録商標)製のバットに移して100℃、0.01MPaで3時間の減圧乾燥を行い、DMFを留去して共重合体を得た。この共重合体をハンマーで粗粉砕した後、コーヒーミル[フォースミル、大阪ケミカル(株)製]で追加粉砕して、粉末状の高分子化合物1を作製した。
【0092】
(エチレンカーボネートに対する膨潤度)
化合物(A)としてエチレンカーボネート(EC)を準備した。
高分子化合物1をさらにメノウ乳鉢を用いて追加粉砕を行い微粉末状にした。次いで、0.1mmのテフロン(登録商標)シートの上に離型剤をコーティングした、10×40×0.2mmの金枠を載せ、その金枠内に粉末状の高分子化合物を敷き詰めテフロン(登録商標)シートで蓋をし、上側テーブルを110℃、下側テーブルを110℃に温調した卓上型テストプレス機[SA-302、テスター産業(株)製]にテーブルの中央に載せた。1MPaの圧力で60秒間プレスをおこなった。プレス後、金枠内にさらに粉末の高分子化合物を敷き詰め同様に1MPaの圧力で60秒プレスを行う操作を、金枠内に不透明な部分や気泡がない状態になるまで繰り返し、金枠から取り外して試験片を得た。この試験片を化合物(A)に50℃で3日間浸漬させて飽和吸液状態とした。
その後、試験片の吸液前後の重量変化から下記式によって膨潤度を求めた。その結果を表1に示した。
膨潤度[重量%]=[(吸液後の試験片重量-吸液前の試験片重量)/吸液前の試験片重量]×100
【0093】
(電解液Aに対する膨潤度)
エチレンカーボネート(EC)3.5部とプロピレンカーボネート(PC)5部の混合溶媒にLiFSI[LiN(FSO]を10部溶解させて電解液Aを作製した。
高分子化合物1をさらにメノウ乳鉢を用いて追加粉砕を行い微粉末状にした。次いで、0.1mmのテフロン(登録商標)シートの上に離型剤をコーティングした、10×40×0.2mmの金枠を載せ、その金枠内に粉末状の高分子化合物を敷き詰めテフロン(登録商標)シートで蓋をし、上側テーブルを110℃、下側テーブルを110℃に温調した卓上型テストプレス機[SA-302、テスター産業(株)製]にテーブルの中央に載せた。1MPaの圧力で60秒間プレスをおこなった。プレス後、金枠内にさらに粉末の高分子化合物を敷き詰め同様に1MPaの圧力で60秒プレスを行う操作を、金枠内に不透明な部分や気泡がない状態になるまで繰り返し、金枠から取り外して試験片を得た。この試験片を上記電解液Aに50℃で3日間浸漬させて飽和吸液状態とした。
その後、試験片の吸液前後の重量変化から下記式によって膨潤度を求めた。その結果を表1に示した。
膨潤度[重量%]=[(吸液後の試験片重量-吸液前の試験片重量)/吸液前の試験片重量]×100
【0094】
(高分子化合物2~6の作製)
単量体組成物の配合比率(重量%)を表1に記載のように変更したこと以外は、高分子化合物1の作製と同様にして高分子化合物2~6を作製した。
また、高分子化合物1と同様にして、エチレンカーボネート及び電解液Aに対する膨潤度を測定した。その結果を表1に示した。
【0095】
【表1】
【0096】
(化合物(A)に対する膨潤度)
表2に記載の配合比率(重量%)とした化合物(A)を準備した。
エチレンカーボネートに対する膨潤度の測定と同様にして、高分子化合物1~6の各化合物(A)に対する膨潤度を測定した。その結果を表2に示した。
なお、各高分子化合物とその測定に用いた化合物(A)は、後述する各リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子を作製する際に用いた高分子化合物と化合物(A)に対応する。
【0097】
【表2】
【0098】
(電解液に対する膨潤度)
表3に記載の配合比率(重量%)とした電解液を準備した。
電解液Aに対する膨潤度の測定と同様にして、高分子化合物1~6の各電解液に対する膨潤度を測定した。その結果を表3に示した。
なお、各高分子化合物とその測定に用いた電解液は、後述する各リチウムイオン電池用負極を作製する際に用いた高分子化合物と電解液(表4に記載の化合物(A)も電解液の一部として計算した)に対応する。
【0099】
【表3】
【0100】
<被覆負極活物質粒子の作製>
被覆負極活物質粒子の作製に用いた材料は以下の通りである。
(負極活物質粒子)
HC:ハードカーボン(製品名カーボトロン(登録商標)PS(F)、(株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン社製)
(化合物(A))
EC:エチレンカーボネート
Sf:テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド
VC:ビニレンカーボネート
(導電助剤)
AB:アセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]
【0101】
(被覆負極活物質粒子1の作製)
高分子化合物1と、エチレンカーボネート(EC)とをメタノールに5.0重量%の濃度で溶解して得られた高分子化合物溶液を準備した。
負極活物質粒子を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、高分子化合物溶液を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック(AB)3部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を80℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を3時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆負極活物質粒子1を作製した。
なお、被覆負極活物質粒子1の作製に用いた各材料の配合比率(重量%)を表4に示す。
【0102】
(安息角の測定)
水平に設置した金属平板の表面から上に10cmの場所に漏斗の先端が位置する様にガラス製漏斗(漏斗足部の長さ:50mm、内径:4mm)を水平に設置した。
容量15mlの匙を使って見掛け容積15mlの被覆負極活物質粒子1を漏斗に供給し、漏斗から落下した被覆負極活物質粒子1によって金属平板の上に円錐状の積層体を形成した。
20℃の条件において、積層体が形成する円錐の母線に当たる部分と金属平板表面とが成す角度を3次元形状測定器VR-3200(キーエンス社製)を用いて測定した。
角度は円錐の底面を45度ずつ8等分した場所でそれぞれ行い、その平均値を被覆負極活物質粒子1の安息角(°)とした。その結果を表4に示した。
なお、安息角は、被覆負極活物質粒子1の表面状態を表す指標であり、安息角が大きいほど、化合物(A)により被覆層が膨潤されていることを意味する。
【0103】
(被覆負極活物質粒子2~10の作製)
各材料の配合比率(重量%)を表4に記載のように変更したこと、また、被覆負極活物質粒子3及び5では溶媒にメタノールの代わりとしてDMFを使用したこと、被覆負極活物質粒子6では溶媒にメタノールの代わりとしてテトラヒドロフランを使用したこと、乾燥温度を被覆負極活物質粒子3及び5では140℃に変更したこと以外は、被覆負極活物質粒子1の作製と同様にして被覆負極活物質粒子2~10を作製した。
また、被覆負極活物質粒子1と同様にして、安息角(°)を測定した。その結果を表4に示した。
なお、被覆負極活物質粒子7として示した粒子の製造に際しては高分子化合物を配合していないので被覆層が形成されておらず、厳密には被覆負極活物質粒子とはいえないが、便宜的に被覆負極活物質粒子7として示している。
【0104】
【表4】
【0105】
<電極前駆体の作製>
負極活物質層の作製に用いた材料は以下の通りである。
(輸送媒)
EC:エチレンカーボネート
(バインダ)
SBR:スチレンブタジエンゴム(製品名BM-400B、日本ゼオン(株)社製)
(導電助剤)
CNF:カーボンナノファイバー(製品名VGCF-H、昭和電工(株)社製)
【0106】
(負極前駆体1の作製)
被覆負極活物質粒子1に導電助剤を加えて混合した。その後、1.4MPaの圧力で約10秒プレスし、厚さが350μmの負極前駆体1を作製した。
負極前駆体1の作製に用いた各材料の配合比率(重量%)を表5に示す。
【0107】
(破断応力の測定)
作製した負極前駆体1について、JIS K7074:1988に記載のA法を参考にして測定を行った。(株)島津製作所社製オートグラフ[AGS-X10kN]に3点曲げ治具を設置し、100×15mmに成型した負極前駆体1を支点間距離80mmのスリットの上に静置した。50Nのロードセルを用いて試験速度1mm/minで試験を行った。破断応力はグラフで応力が急落した点を破断点としオートグラフ専用ソフトTRAPEZIUM Xで解析を行った。
【0108】
(負極前駆体2~7及び9~11の作製)
各材料の配合比率(重量%)を表5に記載のように変更したこと以外は、負極前駆体1の作製と同様にして負極前駆体2~7及び9~11を作製した。
また、負極前駆体1と同様にして、破断応力を測定した。その結果を表5に示した。
【0109】
(負極前駆体8の作製)
被覆負極活物質粒子8を95部、SBR(固形分40重量%)20部、CNF1部、及び、イオン交換水10部を遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}に投入し2000rpmで5分間混合し負極前駆体スラリーを得た。負極前駆体スラリーを銅箔上に塗布し、100℃の順風乾燥機で1時間乾燥させ、さらに減圧度-0.1MPa(ゲージ圧)、100℃の減圧乾燥器にてさらに3時間乾燥させた後、1,4MPaの圧力で約10秒プレスし負極前駆体8を作製した。
【0110】
【表5】
【0111】
<リチウムイオン電池用負極の作製>
リチウムイオン電池の作製に用いた材料は以下の通りである。
(電解液)
LiFSI:LiN(FSO
PC:プロピレンカーボネート
EC:エチレンカーボネート
Sf:テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド
(負極集電体)
銅箔(厚さ:20μm)
【0112】
(実施例1)
(リチウムイオン電池用負極1の作製)
得られた負極前駆体1の100部を負極集電体の片面に積層した。その後、EC3.5部とPC5部の混合溶媒にLiFSIを10部溶解させて作製した電解液を注液して負極活物質層1(膜厚350μm)を形成し、厚さが370μmの実施例1に係るリチウムイオン電池用負極1を作製した。
リチウムイオン電池1の作製に用いた負極前駆体1と電解液の配合比率(重量部)を表6に示す。
【0113】
(破断応力の測定)
リチウムイオン電池用負極1の破断応力は、JIS K7074:1988に記載のA法を参考にして測定を行った。(株)島津製作所製オートグラフ[AGS-X10kN]に3点曲げ治具を設置し、基材としての吸液紙の上に100×15mmに成型したリチウムイオン電池用負極活物質層1を支点間距離80mmのスリットの上に静置した(電解液注液後、露点-40℃、室温20℃雰囲気下で12時間静置)。50Nのロードセルを用いて試験速度1mm/minで試験を行った。破断応力はグラフで応力が急落した点を破断点としオートグラフ専用ソフトTRAPEZIUM Xで解析を行った。
【0114】
(形状保持評価)
リチウムイオン電池用負極1の形状保持評価は、電解液を注液した際のリチウムイオン電池用負極1を1分間観察し、以下の基準で評価した。
〇:変化なし
△:電解液を注液後一部に欠損が発生した
×:電解液を注液直後に衝撃で崩れた
【0115】
(正極の作成)
正極活物質粒子としてLiNi0.8Co0.15Al0.05[戸田工業製、体積平均粒子径(D50粒径)6.5μm、NCAと表記]94部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、高分子化合物6の5%トルエン溶液を固形分重量3部となるように2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤としてアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を150℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。被覆正極活物質粒子99部にCNF1部を加えて混合した。その後、1.4MPaの圧力で約10秒プレスし、厚さが280μmの正極前駆体を作製した。アルミ集電箔の上に載せた正極前駆体100重量部に表6に記載の電解液をそれぞれ注液しリチウムイオン電池用正極を得た。
【0116】
(サイクル試験)
リチウムイオン電池用負極1を、セパレータ(セルガード製#3501)を介し、対極に作成したリチウムイオン電池用正極をと組み合わせ、試験用リチウムイオン電池を作製した。
作製した試験用リチウムイオン電池について、1サイクル目の直流抵抗値(初回DCR)と、100サイクル後の直流抵抗値(100サイクルDCR)を測定した。
初回DCRは、1サイクル目の放電開始からの10秒間の電圧降下から算出し、100サイクルDCRは、100サイクル目の放電開始からの10秒間の電圧降下から算出した。結果を表6に示す。
【0117】
サイクル試験の際の初回充電時の電池容量(初期放電容量)と、100サイクル目充電時の電池容量(100サイクル後放電容量)を測定した。下記式から放電容量維持率を算出した。結果を表6に示す。なお、数値が大きいほど、電池の劣化が少ないことを示す。
放電容量維持率(%)=(100サイクル目放電容量/1サイクル目放電容量)×100
【0118】
(実施例2~6、比較例1~5)
負極前駆体及び電解液を表6に記載の配合比率(重量部)に変更したこと以外は、リチウムイオン電池用負極1の作製と同様にしてリチウムイオン電池用負極2~11を作製し、各測定及び評価を行った。
【0119】
【表6】
【0120】
被覆負極活物質粒子を構成する被覆層が、特定の高分子化合物と化合物(A)とを含む実施例1~6では、機械強度に優れ、かつ、サイクル特性にも優れるリチウムイオン電池用負極が得られることを確認した。
一方で、被覆層を構成する重合体において、(メタ)アクリル酸を所定量含まない比較例1では、電解液に対する膨潤度が高すぎるために、被覆層に含まれる導電助剤が被覆負極活物質粒子から離れてしまい、導電パスが切れてサイクル特性が悪化したと考えられる。
また、被覆層を構成する重合体において、(メタ)アクリル酸を所定量含まない比較例2では、化合物(A)に対して膨潤せず、被覆負極活物質粒子同士の接着性が十分では無かったため、導電パスが切れてサイクル特性が悪化したと考えられる。
また、被覆層が化合物(A)を含まない比較例3では、被覆負極活物質粒子同士の接着性が不足しており、リチウムイオン電池用負極の機械強度が不十分であり、時間の経過とともに導電パスが切れてサイクル特性が悪化したと考えられる。
また、被覆層を有さない比較例4では、リチウムイオン電池用負極の形状保持評価が不十分であり、時間の経過とともに導電パスが切れてサイクル特性が悪化したと考えられる。
また、被覆層が化合物(A)を含まず、輸送媒としてエチレンカーボネートを加えた比較例5では、負極前駆体9では、負極前駆体9を作製する際のプレスによりECが凝固して機械的強度が高かったが、リチウムイオン電極を作製する際の電解液の注入により、凝固していたECが溶解してしまい接着点が無くなったため、リチウムイオン電池用負極の機械強度が不十分となり、時間の経過とともに導電パスが切れてサイクル特性が悪化したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子を用いたリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池として有用である。