(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物、及びこれにより製造された自動車成形部品
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20220630BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20220630BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220630BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20220630BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20220630BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L101/12
C08K3/36
C08K7/00
C08L23/16
C08L9/06
(21)【出願番号】P 2020529436
(86)(22)【出願日】2018-10-30
(86)【国際出願番号】 KR2018013036
(87)【国際公開番号】W WO2019107759
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2017-0163590
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513132586
【氏名又は名称】ジーエス カルテックス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,チョルヒ
(72)【発明者】
【氏名】カン,ピョンウク
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ウォンゴン
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/005239(WO,A1)
【文献】特開2013-067789(JP,A)
【文献】特開2016-160294(JP,A)
【文献】特開昭62-091545(JP,A)
【文献】特開昭58-213032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂、熱可塑性弾性体、ウール状の無機シリカを含み、
前記ウール状の無機シリカは、平均長さが200ナノメーター以上であり、平均アスペクト比が50以上であり、
前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、前記ウール状の無機シリカを5重量部~30重量部含み、
前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、前記熱可塑性弾性体を5重量部~30重量部含み、
前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、相溶化剤を0.1重量部~3重量部さらに含む、
耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリプロピレン樹脂は、5重量%~10重量%のエチレンを含み、
重量平均分子量/数平均分子量である分子量分布度が4~6であることを特徴とする、
請求項1に記載の
耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性弾性体は、ポリオレフィン系ゴム及びスチレン系水添ブロック共重合体ゴムからなる群から選択された1種以上を含む、
請求項1に記載の
耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
板状の無機フィラー及び針状の無機フィラーのうち選択された一つ以上をさらに含む、
請求項1に記載の
耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1、2、4のいずれか一項による
耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物を含む自動車部品用成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物、及びこれにより製造された自動車成形部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン複合樹脂は、成形性、耐衝撃性、耐薬品性等に優れ、低比重、廉価という多くの長所を有しており、安全性及び機能性がともに求められる部品であるバンパー、インストルメントパネル、ドアトリムパネル及び内装トリム類等の自動車部品に幅広く使用されている。しかし、今まで開発されたポリプロピレン樹脂組成物は、剛性及び耐スクラッチ性、耐衝撃性等の物性側面では優れるものの、塗装しない場合、成形製品の外観表面の問題及びスクラッチの問題が生じるため、塗装せずに、実際の産業現場で広く用いられていない実情がある。
【0003】
現在、自動車内装材、例えば、インストルメントパネル、ドアトリムパネル及び内装トリム用素材は、生産コストを下げるために、射出後に塗装工程の不要なモールド-イン-カラー工法で製品を生産中にあるが、塗装しないため、スクラッチ特性が非常に脆弱であり、運転者及び乗客の手と履き物等によって成形品の表面が損なわれやすく、また製品表面が汚れて、外観が良くない問題を有している。よって、このような自動車内装材に使用される樹脂組成物の場合、安全性と感性的な効果を同時に満たしつつ、衝撃強度、剛性、耐スクラッチ性及び帯電防止性の改善した材料を必要としている実情である。
【0004】
また、車両軽量化に伴い、部品の厚さが薄くなるにつれて、射出成形時に求められる流動性を確保し、寸法安定性を有するポリプロピレン複合樹脂を開発することも至急な課題であると言える。
【0005】
通常使用される自動車内装材の素材は、ポリプロピレンにポリオレフィンゴム類と各種無機充填剤を添加した素材を射出成形して使用してきたが、上記で言及した耐衝撃性と耐スクラッチ性との相反する傾向による難しさが常に共存しており、射出成形性の容易性のために、流動性に優れる素材を用いる際には、優れた衝撃特性を維持することが難しかった。
【0006】
よって、自動車内装材として、特に、インストルメントパネル素材として適した耐衝撃性を有しつつ、耐スクラッチ性と成形性に優れる素材の開発が切実に求められている実情がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一具現例は、耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を提供する。
【0008】
本発明の他具現例は、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物を含む自動車成形部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一具現例において、ポリプロピレン樹脂、熱可塑性弾性体、ウール状の無機フィラーを組み合わせた、耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を提供する。
【0010】
本発明の他の具現例において、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物を含む自動車成形部品を提供する。
【発明の効果】
【0011】
前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、ウール状の無機フィラーを含み、優れた耐衝撃性を付与するとともに、低収縮及び配向性を制御することによって、寸法安定性を付与するだけでなく、とても優れた耐スクラッチ性を有し得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の具現例を詳説する。ただし、これは例示として提示されるものであり、これによって本発明が制限されるものではなく、本発明は、後述する請求項の範疇によって定義されるだけである。
【0013】
本発明の一具現例において、ポリプロピレン樹脂、熱可塑性弾性体、ウール状の無機フィラーを含み、前記ウール状の無機フィラーは、シリカ、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化ナトリウム、酸化鉄、及びこれらの組み合わせからなる群から選択された一つを含み、必要によって、板状の無機フィラー及び/又は針状の無機フィラーをさらに含む耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を提供する。
【0014】
前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、ウール状の無機フィラーを含み、優れた耐衝撃性を付与するとともに、低収縮及び配向性を制御することによって、寸法安定性を付与するだけでなく、とても優れた耐スクラッチ性を有し得る。
【0015】
具体的には、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物に含まれるウール状の無機フィラーは、シリカ、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化ナトリウム、酸化鉄、及びこれらの組み合わせ、すなわち、これらの化学結合からなる群から選択された一つを含み、優れた耐衝撃性を付与するとともに、低収縮及び配向性を制御することによって、寸法安定性を付与するだけでなく、とても優れた耐スクラッチ性を有し得る。
【0016】
このとき、ウール状の無機フィラーは、約200ナノメーター以上の長さを有し、平均アスペクト比を約50以上有するウール状の無機フィラーを含み、優れた耐衝撃性を付与するとともに、低収縮及び配向性を制御することによって、寸法安定性を付与するだけでなく、とても優れた耐スクラッチ性を有し得る。具体的には、前記ウール状の無機フィラーの長さ及びアスペクト比が前記範囲の未満である場合は、耐衝撃性及び剛性等の機械的物性を付与することができず、低収縮及び配向性を制御する効果も付与することができないため、寸法安定性の問題が生じ得る。
【0017】
具体的には、前記ウール状の無機フィラーの総含量は、ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約5~約30重量部であってもよい。前記ウール状の無機フィラーが、前記範囲の含量で含まれることによって、ポリプロピレン樹脂に優れた耐スクラッチ性を付与するとともに、耐衝撃性及び寸法安定性を付与することができる。より具体的には、上記範囲未満の含量で含まれる場合は、機械的剛性が十分に向上せず、これにより形成された成形品の形状が取り扱い中に変形しやすいし、上記範囲を超える含量で含まれる場合は、耐衝撃性が低下し得る。
【0018】
また、必要によって、前記ウール状の無機フィラーと板状の無機フィラー及び/又は針状の無機フィラーをさらに含んでいてもよい。
【0019】
前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、ベース原料としてホモ-ポリプロピレン、プロピレンにエチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、及びオクテンからなる群から選択された共単量体(comonomer)が重合したランダム共重合体(代表的な例を挙げると、エチレン-プロピレン共重合体)、ポリプロピレンにエチレン-プロピレンゴムが共重合したブロック共重合体、分岐化ポリプロピレン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択された一つを含むポリプロピレン樹脂を含んでいてもよい。
【0020】
具体的には、前記ポリプロピレン樹脂は、約5重量%~約10重量%のエチレンを含んでいてもよい。前記ポリプロピレン樹脂は、約40重量%~約90重量%の含量で、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物に含まれて、原価節減により経済的かつ優れた加工性を付与することができ、前述したウール状の無機フィラーと共に前記組成物に含まれて、優れた機械的強度と優れた耐衝撃性を付与することができる。
【0021】
このとき、前記ポリプロピレン樹脂は、約5重量%~約10重量%のエチレンを含み、具体的な例としては、13C NMRによって測定した、重合体の立体規則性に関するアイソタクチック指数(Isotactic index)として、約97~約99の値を有する高結晶性エチレン-プロピレン共重合樹脂であってもよく、優れた剛性及び耐熱性を付与することができる。
【0022】
また、前記ポリプロピレン樹脂は、前記アイソタクチック指数を有するとともに、230℃の温度及び2.16kgの荷重で測定された約5g/10min~約50g/10minの溶融指数を有することで、優れた機械的剛性及び耐衝撃性と共に、優れた成形加工性を付与することができる。
【0023】
また、前記ポリプロピレン樹脂は、約3~約7の分子量分布度(重量平均分子量/数平均分子量、Polydispersity Index)、具体的には、約4~約6の分子量分布度を有することで、優れた機械的物性と共に成形性が良くて、優れた加工効果を付与することができる。よって、これを含む前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、この射出品である自動車内装材用成形品、特に、クラッシュパッドのように面積、厚さ等において、複雑な3次元構造を有する複雑な成形品を製造するのに非常に有用である。
【0024】
前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、熱可塑性弾性体を含んでいてもよく、熱可塑性弾性体は、該分野に公知されたものを制限なく用いることができ、例えば、ポリオレフィン系熱可塑性弾性体、スチレン系水添ブロック共重合体ゴム等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
より具体的には、ポリオレフィン系熱可塑性弾性体としては、エチレンプロピレン共重合体ゴム、エチレン1-ブテン共重合体ゴム、エチレン1-ヘキセン共重合体ゴム、エチレン1-オクテン共重合体ゴム等のエチレン・α-オレフィン共重合体ゴム、エチレンプロピレンエチリデンノルボルネン共重合体ゴム(EPDM)等のエチレン・α-オレフィン非共役ジエン共重合体ゴム等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
エチレン・α-オレフィン共重合体ゴムは、ハロゲン化チタンのようなチタン化合物とアルキルアルミニウム-マグネシウム錯体、アルキルアルコキシアルミニウム-マグネシウム錯体のような有機アルミニウム-マグネシウム錯体とアルキルアルミニウム又はアルキルアルミニウムクロライド等から構成されるチグラー型触媒等によって重合したものであってもよい。重合法としては、気相流動床法、溶液法、スラーリ法等の製造プロセスを用いることができる。
【0027】
スチレン系水添ブロック共重合体ゴムは、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体の水素添加物(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体の水素添加物(SEPS)等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
スチレン系水添ブロック共重合体(SEBS、SEPS)は、一般的なアニオンリビング重合法で製造したものであってもよい。
【0029】
SEBSの製造は、順次、スチレン、ブタジエン、スチレンを重合して、トリブロック体を製造した後に水素化する方法と、スチレン-ブタジエンのジブロック共重合体を製造した後、相溶化剤を用いてトリブロック体にした後に水素化する方法を利用することができる。また、前記方法において、ブタジエンの代りにイソプレンを用いることで、SEPSを製造することができる。
【0030】
本発明による熱可塑性弾性体は、例えば、溶融指数(melt flow rate、230℃、2.16kg荷重、ASTM D1238)が0.5g/10分~150g/10分、好ましくは0.7g/10分~100g/10分、特に好ましくは0.7g/10分~80g/10分である。溶融指数が0.5g/10分未満であると、高流動性を確保し難いことがある。溶融指数が150g/10分を超えると、成形品の外観不良が引き起こされうる。
【0031】
前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、前記熱可塑性弾性体を約5重量部~約30重量部で含んでいてもよい。前記熱可塑性弾性体を前記範囲の含量で含むことで、衝撃強度を補強することができ、特に、面衝撃強度を強化させることができる。具体的には、前記範囲未満の場合は、衝撃強度が低下し得るし、前記範囲を超える場合は、流動性及び相溶性に制限があり得る。
【0032】
前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、相溶化剤、スリップ剤、酸化防止剤、中和剤、光安定剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択された一つの添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0033】
相溶化剤は、前述したウール状の無機フィラー及び板状の無機フィラー、針状の無機フィラーと、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物に含まれた樹脂との相溶性を向上させるものであって、相溶性を高めて分散度を良くし、優れた機械的剛性及び耐衝撃性を付与するとともに寸法安定性を付与することができる。
【0034】
具体的には、前記相溶化剤は、ポリオレフィンの主鎖や末端に無機フィラーと反応性のある反応基を含む変性ポリオレフィン樹脂であって、前記反応基としては例えば、マレ酸、無水マレイン酸、カルボキシル酸、ヒドロキシル基、ビニルアセテート、グリシジルメタクリレート、ビニルオキサゾリン、アクリル酸等が挙げられる。
【0035】
具体的には、前記変性ポリオレフィン樹脂は、側鎖に無機フィラーと反応性のある反応基を約1重量%~3重量%含んでいてもよい。より具体的には、側鎖の前記反応基の含量が前記範囲未満である場合、相溶性が低下して物性が減少する現象が発生し得るし、反応基の置換量が小さくて、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物に含まれた無機フィラーとの界面接着力及び分散効率が著しく落ち得る。逆に、前記範囲を超える場合は、ポリプロピレンの樹脂組成物に含まれた変性ポリプロピレン自体の特性が損なわれやすいし、物性増加の効果が少なくいし、期待する効果に比べて製造単価が高くて、実用性が大きく落ちる。
【0036】
前記相溶化剤は、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約0.1重量部~約3重量部の含量で含まれて、無機フィラーと樹脂との間の相溶性を高めて、分散度を良くし、優れた機械的剛性及び耐衝撃性を付与するとともに、寸法安定性を付与することができる。
【0037】
スリップ剤は、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を成形する際に、潤滑性を強化させるものであって、シロキ酸系スリップ剤、アマイド系スリップ剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択された一つであってもよい。
【0038】
酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオジプロピオネート(Thiodipropionate)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択された一つであってもよい。
【0039】
前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、中和剤としてカルシウムステアレート、酸化亜鉛等を用いることができ、光安定剤としてヒンダード(Hindered)アミン系等を用いることができる。
【0040】
本発明の他の具現例において、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物を含む自動車内装材用成形品を提供する。具体的には、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂、熱可塑性弾性体、ウール状の無機フィラーを含み、前記ウール状の無機フィラーは、シリカ、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化ナトリウム、酸化鉄、及びこれらの組み合わせ、すなわち、これらの化学結合からなる群から選択された一つを含むものであって、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物は、自動車内装材用成形品に含まれる。これによって、優れた耐衝撃性を付与するとともに、低収縮及び配向性を制御することによって、寸法安定性を付与するだけでなく、とても優れた耐スクラッチ性を有し得る。
【0041】
ポリプロピレン樹脂組成物の射出品の場合、耐スクラッチ性の向上が耐衝撃性又は剛性の低下を引き起こすことが一般的である。一方、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物は、優れた耐スクラッチ性を有しつつ、耐衝撃性及び剛性も高い水準を満たすことができる。
【0042】
具体的には、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物は、優れた耐スクラッチ性を有し得る。具体的には、エリクソン耐スクラッチ試験法でΔL値が0.5以下の耐スクラッチ性を有し得る。
【0043】
また、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物は、常温のみならず、低温でも優れた衝撃強度を有し得る。具体的には、常温で約45.0Kgfcm/cm、低温(約-10℃)で約5.0Kgfcm/cm以上の衝撃強度を有し、冬にも割れる現象が発生することを防ぐことができる。前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物は、優れた衝撃強度と共に、約21500kgf/cm2以上の剛性を有するところ、自動車部品素材として用いることができる。
【0044】
また、前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物の射出物は、約210kgf/cm2以上の優れた引張強度と、約150%以上の伸率を有し得るし、約125℃以上の熱変形温度を有し得るため、自動車内装材用成形品として適し得る。
【0045】
前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、高い流動性と優れた機械的剛性、耐衝撃性及び優れた寸法安定性を同時に付与することができ、これの射出物を含む自動車内装材用成形品は、優れた成形性と優れた機械的物性と共に、優れた耐スクラッチ性を同時に確保することができる。自動車内装材の具体的な例として、内装用ピラートリム、内装用ドアトリム、グローブボックス、コンソール及びクラッシュパッド等があり得る。
【0046】
具体的には、前記自動車内装材用成形品は、自動車用クラッシュパッド等のように、広さ、厚さ等の3次元構造が複雑であり、高い水準の剛性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性及び耐スクラッチ性が求められる自動車部品に非常に有用である。
【0047】
以下では、本発明の具体的な実施例を提示する。ただし、下記に記載した実施例は、本発明を具体的に例示するか説明するためのものに過ぎないし、これによって本発明が制限されてはならない。
【0048】
実施例1
230℃の温度及び2.16kgの荷重で測定された溶融指数が約20g/10minであり、エチレンの含量が約8重量%であり、13C NMRによって測定したアイソタクチック指数(Isotactic index)が約97であり、分子量分布度(重量平均分子量 /数平均分子量)が約5であるエチレン-プロピレン共重合体樹脂をベースにして、ウール状の無機フィラーを、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約20重量部で含み、このとき、前記ウール状の無機フィラーとしてシリカ素材が選択されたウール状の無機フィラーであり、平均長さが200ナノメーター、平均アスペクト比が50であるウール状の無機フィラーを含めた。そして、エチレン1-オキテン共重合体を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約20重量部含み、耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0049】
また、相溶化剤として無数マレ酸変性ポリプロピレンを、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約1重量部含めた。
【0050】
前記耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を、二軸押出機を用いて200℃~240℃の加工条件で押出した。
【0051】
実施例2
ウール状の無機フィラーを、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約5重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0052】
実施例3
ウール状の無機フィラーを、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約30重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0053】
実施例4
熱可塑性弾性体を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約5重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0054】
実施例5
熱可塑性弾性体を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約30重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0055】
実施例6
相溶化剤を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約0.1重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0056】
実施例7
相溶化剤を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約3重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0057】
実施例8
ウール状の無機フィラーと板状の無機フィラーを、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、それぞれ約10重量部ずつ含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0058】
実施例9
ウール状の無機フィラーと針状の無機フィラーを、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、それぞれ約10重量部ずつ含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0059】
比較例1
板状の無機フィラータルクをウール状の無機フィラーの代わりに、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約20重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0060】
比較例2
アマイド系スリップ剤(ER840、ケムコ精密社)を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約5重量部含むことを除いては、比較例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0061】
比較例3
針状の無機フィラーウィスカー(水酸化マグネシウム)をウール状の無機フィラーの代わりに、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約20重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0062】
比較例4
アマイド系スリップ剤(ER840、ケムコ精密社)を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約5重量部含むことを除いては、比較例3と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0063】
比較例5
平均長さが100ナノメーター未満であるウール状の無機フィラーを平均長さが200ナノメーターであるウール状の無機フィラーの代わりに、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約20重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0064】
比較例6
ウール状の無機フィラーを、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約3重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0065】
比較例7
ウール状の無機フィラーを、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約35重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0066】
比較例8
熱可塑性弾性体を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約3重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0067】
比較例9
熱可塑性弾性体を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約35重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0068】
比較例10
相溶化剤を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約0.05重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0069】
比較例11
相溶化剤を、前記ポリプロピレン樹脂100重量部に対し約5重量部含むことを除いては、実施例1と同様の方法で耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物を製造した。
【0070】
評価
上記実施例及び比較例で製造した樹脂組成物の押出物を射出成形して、それぞれASTM規格に準ずる試片を製造し、これを用いて下記物性を測定しており、その結果を[表1]に示した。
【0071】
実験例1.比重(g/cm3)
実施例及び比較例で製造した試片の比重をASTM D792によって測定しており、その結果を[表1]に示した。
【0072】
実験例2.引張強度(Kgf/cm2)及び伸率(%)
実施例及び比較例で製造した試片の引張強度及び伸率を23℃でASTM D638を利用して測定した。測定の際、荷重印加速度は、50mm/min、試片タイプは、ASTM638のTYPE-Iを用いており、その結果を[表1]に示した。
【0073】
実験例3.曲げ弾性率(Kgf/cm2)
実施例及び比較例で製造した試片の曲げ弾性率を速度10mm/minの条件下でASTM D790を利用して測定した。測定の際、試片の厚さは6.4mmであり、支持台Span距離は50mmであった。その結果を[表1]に示した。
【0074】
実験例4.アイゾッド衝撃強度(Kgfcm/cm)
実施例及び比較例で製造した試片をNotch内でASTM D256によって常温(23℃)及び-10℃の温度でそれぞれ測定した。また、測定時の試片の破損有無も確認して、その結果を[表1]に示した。
【0075】
実験例5.熱変形温度(℃)
実施例及び比較例で製造した6.4mmの厚さの試片を4.6kgf/cm2の荷重で、ASTM D648を利用して測定しており、その結果を[表1]に示した。
【0076】
実験例6.変形
実施例及び比較例の試片(300mm×100mm×2m)を射出成形し、48時間経た後に試片の捻れ度合を評価した。具体的には、X軸とY軸の長さで示される断面積とZ軸の長さ(厚さ)を有する試片において、前記断面積を基準としてZ軸方向で最も高い地点と最も低い地点の長さを測定し、その結果を[表1]に示した。
【0077】
実験例7.エリクソンスクラッチ試験
耐スクラッチ性試験機(エリクソン)で試片にスクラッチを加え、スクラッチ前後の明度差を測定することで、耐スクラッチ性を評価した。
【0078】
設定荷重10N、試験速度1,000mm/分にしており、2×20mm間隔でクロス-カット後にフォトメーターで明度を測定して、スクラッチ前後の明度差を比較した。
【0079】
【0080】
上記表1の結果により、実施例である耐スクラッチ性を向上したポリプロピレン樹脂組成物は、優れた耐スクラッチ性を付与するとともに、自動車部品として用いることのできる優れた機械的剛性及び耐衝撃性を付与し、寸法安定性を付与することが分かる。