(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】脳小血管病の治療用医薬の製造における化合物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/568 20060101AFI20220630BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220630BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A61K31/568
A61P9/00
A61P25/00
(21)【出願番号】P 2020536201
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2018124705
(87)【国際公開番号】W WO2019129179
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】201711484028.7
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519303494
【氏名又は名称】広州市賽普特医薬科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Guangzhou Cellprotek Pharmaceutical Co., Ltd
【住所又は居所原語表記】G401-415, 3 Lanyue Road, International Business Incubator, Guangzhou Science City, Guangzhou, 510663, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】顔 光美
(72)【発明者】
【氏名】銀 巍
(72)【発明者】
【氏名】盛 龍祥
(72)【発明者】
【氏名】陸 秉政
(72)【発明者】
【氏名】黄 奕俊
(72)【発明者】
【氏名】林 穗珍
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-513873(JP,A)
【文献】特表2013-529657(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101683348(CN,A)
【文献】日薬理誌,2014年,Vol. 144,pp. 115-119
【文献】Biochemical and Biophysical Research Communications,2017年01月09日,Vol. 483,pp. 892-896
【文献】Stroke and Vascular Neurology,2016年,Vol. 1,e000035, pp. 83-92
【文献】Lancet Neurol,2013年,Vol. 12,pp. 483-497
【文献】International Journal of Stroke,2015年,Vol. 10,pp. 469-478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】
(I)
[式中、R
1はH、1個~5個の炭素原子を有するアルキル基、
=CHCH
2
CH
3
、又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である]に示す化合物、その重水素化物又は薬学的に許容されるその塩を含む、患者における脳小血管病の治療用医薬であって、前記脳小血管病は微小脳出血である、医薬。
【請求項2】
前記R
1はHである請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
R
1は、-CH(CH
3)
2
及び-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2からなる群から選ばれる請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
前記微小脳出血は自発性微小脳出血、薬物関連の微小脳出血、又は外傷性微小脳出血である請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項5】
前記自発性微小脳出血は加齢性の微小脳出血、高血圧性の微小脳出血、急性高山病に併発する微小脳出血、慢性高山病に併発する微小脳出血、虚血性脳卒中に併発する微小脳出血、又は出血性脳卒中に併発する微小脳出血である請求項4に記載の医薬。
【請求項6】
前記薬物関連の微小脳出血は血栓溶解薬関連の微小脳出血、抗凝固薬関連の微小脳出血、血小板凝集抑制薬関連の微小脳出血、又はスタチン系薬物関連の微小脳出血である請求項4に記載の医薬。
【請求項7】
前記外傷性微小脳出血は手術によって引き起こされる微小脳出血である請求項4に記載の医薬。
【請求項8】
前記手術は中枢神経系に直接的な影響を与える手術である請求項7に記載の医薬。
【請求項9】
前記手術は脳動脈瘤クリッピング術、脳動脈瘤塞栓術、又は脳腫瘍切除術である請求項7に記載の医薬。
【請求項10】
前記脳小血管病は無症状である請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項11】
前記脳小血管病は症状がある請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項12】
前記患者はヒトである請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項13】
前記医薬はさらに他の治療薬を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項14】
前記脳小血管病は、脳血管外の遊離ヘモグロビンの分布の顕著な増加として現れる請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5α-アンドロスト-3β,5,6β-トリオール(5α-androst-3β,5,6β-triol、Triolと略記)及びその類似体の新規な医学的用途に関し、詳しく言えば、脳小血管病の治療におけるこれらの化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脳小血管とは、脳内の小さな穿通動脈、小動脈(直径40~200μm)、毛細血管及び小静脈であり、これらは脳組織の血液供給のための基本単位を構成し、脳機能の維持に重要な役割を果たす(1)。脳内の大血管と小血管が脳血管樹(vascular tree)を構成し、それらは構造的に連続しているため、共に血行力学的な要因の影響を受け、危険因子にさらされる。したがって、理論的には、脳内の大血管と小血管の病変はその重症度に相関性があると考えられる。しかしながら、臨床では両者が不一致な症例がよく見られる。例えば、深刻な脳小血管病変があるものの、脳大動脈狭窄が併発しない患者は多くおり、逆の場合も同様である(2)。
【0003】
脳小血管病(cerebral small vessel disease、CSVDと略記)とは、一般に上記の小血管の各種病変によって引き起こされる臨床的、認知的、画像学的及び病理学的所見を有する症候群である(3)。小さな穿通動脈及び小動脈の病変によって引き起こされる臨床的及び画像学的な所見をいう場合が多い。臨床では、CSVDは主に卒中(脳深部の小さな梗塞、脳出血)、認知障害、気分障害及び全身的な機能低下が特徴であり、画像学では、ラクナ梗塞(lacunar infarction、LIと略記)、ラクナ(lacune)、大脳白質病変(white matter lesions、WMLと略記)、血管周囲腔の拡大(enlarged perivascular space、EPVSと略記)及び微小脳出血(cerebral microbleeds、CMBと略記)等として現れるのが多い(1)。
【0004】
CSVDの発生機序は具体的に血管内皮機能障害、血液脳関門(blood-brain barrier、BBBと略記)損傷、炎症、遺伝的要因、虚血再灌流障害があり、中でもBBB損傷は主な要因である。BBBが損傷又は破壊されると透過性が増し、血液成分が血管周囲組織及び脳実質に漏出して、病理学的改変と生理学的改変が生じるため、CSVDに特有の画像学的変化及び病理学的変化が出現する(4)。
【0005】
微小脳出血は脳小血管疾患の症状の1つであり、脳内の微小血管病変によって引き起こされる脳実質の準臨床的な損傷であり、微量の血液漏出を特徴としている。赤血球が血管からあふれるため画像にヘモジデリンが認められる。病変の新旧によって、血管の周囲に新鮮な赤血球か、ヘモジデリン顆粒の沈着か、ヘモジデリンを貪食するマクロファージが見られる。
【0006】
CMBはT2*強調画像(又は磁化率に敏感な他の画像)で小さな領域に信号が欠損した病巣として現れ、病巣の周囲が実際より膨らんで見える現象、いわゆるブルーミングが見られる。病巣の直径は一般に2~5mmであり、最大で10mmである(5)。MR画像でこれらの病巣は「信号欠損(signal void)」、「磁化率アーチファクト(susceptibility artifact)」、「ブラックホール(black hole)」、「ドット(dot)」、「微小出血(microbleed)」、「陳旧性微小出血(old microbleed、OMBと略記)」、「多巣性信号損失病変(multifocal signal loss lesion)」又は「微小出血(microhemorrhage、MHと略記)」と呼ばれる。それは一般に皮質と皮質下部の境界部、皮質深部の灰白質核、大脳半球白質、脳幹及び小脳に分布する。磁化率強調画像(SWI)はT2*W-GRE画像よりもCMBsに対する敏感度が高い。
【0007】
CMBは無症状で、急性的な臨床所見が少ないものとされている。関連の研究により、微小脳出血は年齢、心血管疾患の危険因子、大脳白質変性、脳卒中、卒中後の気分障害と関係があることが示される。また、微小脳出血は急性及び慢性の高山病における脳損傷で主な病理学的要因でもあり(6)、高山病患者の病理解剖、高地脳浮腫を罹患している者のMRI画像検査から脳組織(7)又は網膜(8)に微小の出血が確認されている。MRI磁化率強調画像(Susceptibilit1y weighted imaging、SWIと略記)を利用して、慢性高山病患者(Chronic mountain sickness、CMSと略記)における微小脳出血を検査したところ、確診されたCMS患者20例のうち、11例(55%)に微小脳出血が検出されていた。CMS群における微小脳出血巣の陽性検出率は健常者より顕著に高い(9)。
【0008】
血栓溶解薬(例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子(Tissue plasminogen activator、t-PAと略記)、ストレプトキナーゼ(Streptokinase、SKと略記))、抗凝固薬(例えば、ワルファリン)、抗血小板薬(例えば、アスピリン)は抗血栓治療で頻繁に使用される場合に、薬物関連の原発性脳内出血(ICH)の発生率が顕著に上がる。関連の研究では、ワルファリン関連のICH患者と自発性ICH患者を比較して、前者にCMBの発生が多いことが判明した。これまでの研究では、CMBは抗凝固薬関連の出血の増加に関係があるとされている。アスピリン関連のICHの発生確率はCMB病巣数の増加につれて明らかに上昇する。メタアナリシスを行ったところ、アスピリンを使用する者と使用しない者を比較して、CMBはICHに相関性がある(OR=1.7)ことが判明した。他の研究では、スタチン系薬物(例えば、アトルバスタチン)を大量に使用する脳卒中患者で、ICHの発生率がやや上昇していた。スタチン系薬物を使用する者で、脳葉でのCMBの発生率はスタチン系薬物を使用しない者の約2倍であり、他の部位ではCMBの発生に有意差がないことから、スタチン系薬物は脳アミロイド血管症患者における出血の発生確率を上げる可能性があることが示唆されている。
【0009】
外科手術も中枢神経系に損傷を引き起こす要因であり、これは中枢神経系(脳、脊索を含む)の外科手術による神経組織の直接的な損傷、及び手術中の血液供給、出血等の変化によって引き起こされる神経系の組織病理学的な改変であり、組織浮腫、出血、微小出血、梗塞、微小梗塞を含む。中枢神経系の損傷を引き起こす手術の非限定的な例としては、脳動脈瘤クリッピング術又は脳動脈瘤塞栓術、脳腫瘍切除術、中枢神経系に直接的な影響を与える他の手術が挙げられる。
【0010】
しかしながら、臨床では微小脳出血の治療に効果的な薬物が欠如していることが現状である。微小脳出血を寛解又は解消する薬物を提供することは、臨床的に大きな意義がある。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、式Iの化合物は脳組織の遊離ヘモグロビンの除去能力を高められるという発明者が得た知見に基づいて、脳小血管病の治療における式Iの化合物の新規な用途を提供するものである。
式I
【化1】
式中、R
1はH、1個ないし5個の炭素原子を有するアルキル基、末端アルケニル基又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である。
【0012】
本発明の一態様では、脳小血管病の治療用医薬の製造における式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容されるその塩の使用が提供される。
式I
【化2】
式中、R
1はH、1個ないし5個の炭素原子を有するアルキル基、末端アルケニル基又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である。
【0013】
一つの実施形態において、R1はHであることが好ましく、即ち前記化合物は5α-アンドロスト-3β,5,6β-トリオール(5α-androst-3β,5,6β-triol、以下、Triolとも略記)である。一つの実施形態において、R1は-CHCH2CH3、-CH(CH3)2、-CH(CH2)3CH3、-CH(CH3)(CH2)3CH(CH3)2から選ばれる。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記脳小血管病は微小脳出血であることが好ましい。いくつかの実施形態において、前記微小脳出血は自発性微小脳出血、薬物関連の微小脳出血又は外傷性微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記自発性微小脳出血は加齢性の微小脳出血、高血圧性の微小脳出血、急性高山病に併発する微小脳出血、慢性高山病に併発する微小脳出血、虚血性脳卒中に併発する微小脳出血又は出血性脳卒中に併発する微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記薬物関連の微小脳出血は血栓溶解薬関連の微小脳出血、抗凝固薬関連の微小脳出血、血小板凝集抑制薬関連の微小脳出血又はスタチン系薬物関連の微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記外傷性微小脳出血は手術によって引き起こされる微小脳出血である。
【0015】
本発明の別の態様では、患者における微小脳出血の治療のために、有効量の式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩、又は式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を当該患者に投与することを含む方法が提供される。
式I
【化3】
式中、R
1はH、1個ないし5個の炭素原子を有するアルキル基、末端アルケニル基又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である。
【0016】
一つの実施形態において、R1はHであることが好ましい。一つの実施形態において、R1は-CHCH2CH3、-CH(CH3)2、-CH(CH2)3CH3、-CH(CH3)(CH2)3CH(CH3)2から選ばれる。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記患者における微小脳出血はMRIによって確認される。いくつかの実施形態において、前記患者に自発性微小脳出血、薬物関連の微小脳出血又は外傷性微小脳出血がある。いくつかの実施形態において、前記自発性微小脳出血は加齢性の微小脳出血、高血圧性の微小脳出血、急性高山病に併発する微小脳出血、慢性高山病に併発する微小脳出血、虚血性脳卒中に併発する微小脳出血又は出血性脳卒中に併発する微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記薬物関連の微小脳出血は血栓溶解薬関連の微小脳出血、抗凝固薬関連の微小脳出血、血小板凝集抑制薬関連の微小脳出血又はスタチン系薬物関連の微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記外傷性微小脳出血は手術によって引き起こされる微小脳出血である。
【0018】
本発明の別の態様では、患者における微小脳出血の治療のための、式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容されるその塩の使用が提供される。
式I
【化4】
式中、R
1はH、1個ないし5個の炭素原子を有するアルキル基、末端アルケニル基又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である。
【0019】
一つの実施形態において、R1はHであることが好ましい。一つの実施形態において、R1は-CHCH2CH3、-CH(CH3)2、-CH(CH2)3CH3、-CH(CH3)(CH2)3CH(CH3)2から選ばれる。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記患者における微小脳出血はMRIによって確認される。いくつかの実施形態において、前記患者に自発性微小脳出血、薬物関連の微小脳出血又は外傷性微小脳出血がある。いくつかの実施形態において、前記自発性微小脳出血は加齢性の微小脳出血、高血圧性の微小脳出血、急性高山病に併発する微小脳出血、慢性高山病に併発する微小脳出血、虚血性脳卒中に併発する微小脳出血又は出血性脳卒中に併発する微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記薬物関連の微小脳出血は血栓溶解薬関連の微小脳出血、抗凝固薬関連の微小脳出血、血小板凝集抑制薬関連の微小脳出血又はスタチン系薬物関連の微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記外傷性微小脳出血は手術によって引き起こされる微小脳出血である。
【0021】
本発明の別の態様では、患者における脳血管外の遊離ヘモグロビンの除去を強化するために、有効量の式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩、又は式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を前記患者に投与することを含む方法が提供される。
式I
【化5】
式中、R
1はH、1個ないし5個の炭素原子を有するアルキル基、末端アルケニル基又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である。
【0022】
一つの実施形態において、R1はHであることが好ましい。一つの実施形態において、R1は-CHCH2CH3、-CH(CH3)2、-CH(CH2)3CH3、-CH(CH3)(CH2)3CH(CH3)2から選ばれる。
【0023】
本発明の別の態様では、患者における脳血管外の遊離ヘモグロビンを除去するために、有効量の式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩、又は式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を前記患者に投与することを含む方法が提供される。
式I
【化6】
式中、R
1はH、1個ないし5個の炭素原子を有するアルキル基、末端アルケニル基又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である。
【0024】
一つの実施形態において、R1はHであることが好ましい。一つの実施形態において、R1は-CHCH2CH3、-CH(CH3)2、-CH(CH2)3CH3、-CH(CH3)(CH2)3CH(CH3)2から選ばれる。
【0025】
前記遊離ヘモグロビンは、自発性微小脳出血、薬物関連の微小脳出血又は外傷性微小脳出血によって生じるものである。いくつかの実施形態において、前記自発性微小脳出血は加齢性の微小脳出血、高血圧性の微小脳出血、急性高山病に併発する微小脳出血、慢性高山病に併発する微小脳出血、虚血性脳卒中に併発する微小脳出血又は出血性脳卒中に併発する微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記薬物関連の微小脳出血は血栓溶解薬関連の微小脳出血、抗凝固薬関連の微小脳出血、血小板凝集抑制薬関連の微小脳出血又はスタチン系薬物関連の微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記外傷性微小脳出血は手術によって引き起こされる微小脳出血である。
【0026】
本発明の別の態様では、患者における脳小血管病の治療のために、治療有効量の式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩を投与し、又は治療有効量の、式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を前記患者に投与することを含む方法が提供される。
式I
【化7】
式中、R
1はH、1個ないし5個の炭素原子を有するアルキル基、末端アルケニル基又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である。
【0027】
一つの実施形態において、R1はHであることが好ましい。一つの実施形態において、R1は-CHCH2CH3、-CH(CH3)2、-CH(CH2)3CH3、-CH(CH3)(CH2)3CH(CH3)2から選ばれる。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記脳小血管病は微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記患者における微小脳出血はMRIによって確認される。いくつかの実施形態において、前記患者に自発性微小脳出血、薬物関連の微小脳出血又は外傷性微小脳出血がある。いくつかの実施形態において、前記自発性微小脳出血は加齢性の微小脳出血、高血圧性の微小脳出血、急性高山病に併発する微小脳出血、慢性高山病に併発する微小脳出血、虚血性脳卒中に併発する微小脳出血又は出血性脳卒中に併発する微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記薬物関連の微小脳出血は血栓溶解薬関連の微小脳出血、抗凝固薬関連の微小脳出血、血小板凝集抑制薬関連の微小脳出血又はスタチン系薬物関連の微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記外傷性微小脳出血は手術によって引き起こされる微小脳出血である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】急性の低圧低酸素によって引き起こされるカニクイザルの前頭前皮質の脳組織における遊離ヘモグロビンの血管外分布の増加である。Aはカニクイザルの脳組織の免疫蛍光画像であり、血管内皮細胞マーカーCD31は赤信号で表示され、血管の位置を示し、破線は血管の輪郭を示す。遊離ヘモグロビンは緑色で表示される。細胞核は青色で表示される。Bは平均蛍光強度(Mean Fluorescence Intensity、MFIと略記)で、ニコンのソフトウェアNIS-Elementを用いて定量される。カニクイザルの脳組織の血管外に分布する遊離ヘモグロビンの平均蛍光強度の統計には、一元配置分散分析及びダネットの検定(Dunnutt’s t test)による一対比較を用いて統計的に検証する。**はp<0.01であり、n.s.は統計的に有意差なしであり、n=4である。NNは常圧通常酸素群、HHは低圧低酸素群、HH+Triolは低圧低酸素下Triol投与群、HH+PROGは低圧低酸素下の対照薬投与群である。PROGは対照薬物のプロゲステロン(progesterone)である。
【
図2】カニクイザルの前頭前皮質の脳組織における小膠細胞の活性化である。Aはカニクイザルの前頭前皮質の脳組織におけるIba-1の免疫組織化学染色であり、Iba-1は小膠細胞の活性化マーカー(marker)である。黒色のスケールバー(scale bar)は25μm、赤色のスケールバー(scale bar)は200μmである。BはIba-1の相対光学密度値の統計である。ソフトウェアimage pro plusを用いて、各群の免疫組織化学画像に対し光学密度を走査して光学密度値を得た後、NN群に対して標準化する。NNは常圧通常酸素群(n=4)、HHは低圧低酸素群(n=4)、HH+Triolは低圧低酸素下Triol投与群(n=3)、HH+PROGは低圧低酸素下の対照薬投与群(n=4)である。一元配置分散分析及びダネットの検定(Dunnutt’s t test)による一対比較を用いて統計的に検証する。***はp<0.01であり、n.s.は統計的に有意差なしである。
【
図3】Triolによるカニクイザルの脳組織における炎症性サイトカインIL-6、IL-1β、TNF-αの発現量の顕著な低減である。Aはカニクイザルの前頭葉の脳組織における炎症性サイトカインIL-6、IL-1β、TNF-αのタンパク質発現レベルである。Bはタンパク質の相対グレースケール走査値の統計である。NNは常圧通常酸素群(n=3)、HHは低圧低酸素群(n=3)、HH+Triolは低圧低酸素下Triol投与群(n=3)、HH+PROGは低圧低酸素下の対照薬投与群(n=3)である。ソフトウェアImage Labを用いてグレースケール値を走査して、α-チューブリン(α-Tubulin)に対する標準化により相対値を得る。一元配置分散分析及びダネットの検定(Dunnutt’s t test)による一対比較を用いて統計的に検証する。一対比較で各群はいずれもHH群と比較する。*はp<0.05であり、**はp<0.01である。
【
図4】TriolによるCD163及びヘム酸素添加酵素(Heme Oxygenase-1、HO-1と略記)のタンパク質レベルのアップレギュレーションによる脳組織の遊離ヘモグロビンの除去能力の強化である。Aはカニクイザルの前頭葉の脳組織におけるヘモグロビンスカベンジャー受容体CD163及びヘム酸素添加酵素HO-1のタンパク質発現レベルである。Bはタンパク質の相対グレースケール走査値の統計である。ソフトウェアImage Labを用いてグレースケール値を走査して、α-チューブリン(α-Tubulin)に対する標準化により相対値を得る。NNは常圧通常酸素群(n=3)、HHは低圧低酸素群(n=3)、HH+Triolは低圧低酸素下Triol投与群(n=3)、HH+PROGは低圧低酸素下プロゲステロン投与群(n=3)である。一元配置分散分析及びダネットの検定(Dunnutt’s t test)による一対比較を用いて統計的に検証する。一対比較で各群はいずれもHH群と比較する。*はp<0.05であり、n.s.は統計的に有意差なしである。
【
図5】Triolによる低圧低酸素が引き起こすCD163ダウンレギュレーションの回復及び小膠細胞の活性化である。Aはカニクイザルの脳組織におけるCD163及びIba-1の二重染色免疫蛍光画像である。BはCD163及びIba-1の平均蛍光強度の統計である。CはCD163とIba-1の平均蛍光強度の相関性分析である。NNは常圧通常酸素群、HHは低圧低酸素群、HH+Triolは低圧低酸素下Triol投与群、HH+PROGは低圧低酸素下プロゲステロン投与群である。一元配置分散分析及びダネットの検定(Dunnutt’s t test)による一対比較を用いて統計的に検証する。一対比較で各群はいずれもHH群と比較する。***はp<0.001である。
【
図6】低酸素による遊離ヘモグロビンが引き起こす小膠細胞の炎症性活性化の促進である。Aは遊離ヘモグロビンによる小膠細胞BV2刺激後の異なる時刻における免疫蛍光染色による小膠細胞の活性化マーカーCD11bの検出である。スケールバー(scale bar)は25μmである。BはAのCD11bの平均蛍光強度の統計である。一元配置分散分析及びダネットの検定(Dunnutt’s t test)による一対比較を用いて統計的に検証する。*はp<0.05であり、**はp<0.01である。Cは遊離ヘモグロビンによる小膠細胞BV2刺激後の異なる時刻における免疫蛍光染色による小膠細胞の活性化マーカーIba-1の検出であり、ファロイジン染色によって小膠細胞の形態学的変化を示す。DはCのIba-1の平均蛍光強度の統計である。一元配置分散分析及びダネットの検定(Dunnutt’s t test)による一対比較を用いて統計的に検証する。*はp<0.05であり、**はp<0.01である。Eは遊離ヘモグロビンによる小膠細胞BV2刺激後の異なる時刻におけるウェスタンブロッティング(western blot)によるCD11bのタンパク質レベルの検出である。Fは遊離ヘモグロビンによる小膠細胞BV2の6時間刺激後におけるqPCRによる炎症性サイトカイン及びケモカインのmRNA発現レベルの検出である。Gは低酸素が、遊離ヘモグロビンが引き起こす小膠細胞の炎症性サイトカインTNF-α、IL-1β、IL-6のタンパク質発現レベルの上昇を促進しており、抗炎症性サイトカインIL-4に影響がないことを示している。
【
図7】CD163の発現アップレギュレーションの干渉後、低酸素及びヘモグロビンが誘導したIba-1及びCD11bのアップレギュレーションに対するTriolの抑制作用が解消されている。メーカーが提供する取扱説明書に従って、RNAiMAXを使用してCD163 01号及びスクランブル断片NCをそれぞれBV2細胞にトランスフェクションした後、BV2細胞の培地に10μMのTriolを加え又は加えず、20μMのヘモグロビン及び1%低酸素でBV2細胞を6時間刺激して、タンパク質検体を集め、ウェスタンブロッティング(Western blot)によって小膠細胞の活性化マーカーIba-1及びCD11bの発現を検出する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書で用いられる用語「組成物」とは、治療の目的で所定の動物対象に投与するのに適する製剤であり、少なくとも1種の医薬品有効成分、例えば、化合物を含む。任意選択で、前記組成物はさらに少なくとも1種の薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む。
【0031】
用語「薬学的に許容される」は、その対象となる物質には、治療される疾患又は症状、投与経路を考慮すると、医療従事者が患者への当該物質の投与を避けるような性質がないという意味である。例えば、注射用の場合には、一般に、注射される物質が実質的に無菌であることが求められる。
【0032】
本明細書で、用語「治療有効量」、「有効量」はその対象となる物質と物質の量が、疾患の1種又は複数種の症状の予防、軽減又は改善、及び/又は治療を受ける対象の生存期間の延長に効果的であることを意味する。
【0033】
用語「脳小血管病」又は「CSVD」とは、脳内の小さな穿通動脈、小動脈(直径40~200μm)、毛細血管、小静脈における各種の病変によって引き起こされる臨床的、認知的、画像学的及び病理学的所見を有する症候群である。好ましい実施形態において、「脳小血管病」は血液脳関門の損傷、血液脳関門の破壊によって引き起こされる透過性の向上であり、血液成分が血管周囲組織及び脳実質に漏出して、病理学的改変と生理学的改変が生じることで、CSVDに特有の画像学的変化及び病理学的変化が出現する。特定の実施形態で、前記「脳小血管病」には出血性脳卒中が含まれない。
【0034】
用語「微小脳出血」とは、直径が1cm未満の脳内領域における出血である。微小脳出血は脳MRI(T2*強調GRE MRIを含む)によって検出され、症状のない「無症状脳出血」であってもよいし、一過性の又は永続的な局所運動、感覚障害、脊髄小脳失調症、失語症、構音障害等の症状が伴い、即ち「症候性脳出血」であってもよい(10)。いくつかの実施形態において、微小脳出血は血管外の遊離ヘモグロビンの分布の顕著な増加として現れる。
【0035】
本明細書で、用語「自発性微小脳出血」とは外傷以外の様々な要因による脳部血管(一般には静脈又は毛細血管)の自発性破裂によって引き起こされる脳内出血である。自発性脳出血は複数の要因による疾患であり、環境的要因と遺伝的要因が共に作用する結果である。例えば、高齢は自発性微小脳出血と密接に関係している(加齢性の微小脳出血)。自発性微小脳出血を引き起こす疾患には高血圧(例えば、長期化した高血圧)、虚血性脳卒中、出血性脳卒中等が含まれる。これに対応して、本明細書では「高血圧性の微小脳出血」、「虚血性脳卒中に併発する微小脳出血」、「出血性脳卒中に併発する微小脳出血」と呼ばれる。他の環境的要因又は疾患が微小脳出血を引き起こす場合もあり、本発明はこれらの明示されない微小脳出血の治療にも利用できるであろう。
【0036】
本明細書で、用語「薬物関連の微小脳出血」とは、薬物によって引き起こされる脳内微小出血である。これらの薬物の非限定的な例としては、血栓溶解薬、抗凝固薬、血小板凝集抑制薬、スタチン系薬物が挙げられる。
【0037】
血栓溶解治療の普及に伴い、血栓溶解薬は第1世代から第3世代へと発展している。最初の第1世代の血栓溶解薬物はストレプトキナーゼ(Streptokinase、SKと略記)、ウロキナーゼ(Urokinase、UKと略記)、ルンブロキナーゼ(Lumbrokinase)、プロウロキナーゼ(Pro-urokinase)、スタフィロキナーゼ(Staphylokinase)、アニストレプラーゼ、Anylysantinfarctaseである。第2世代の血栓溶解薬アルテプラーゼ(alteplase、商品名はアクチバシンほか)は組換え型の組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)であり、これは世界初の組換え型血栓溶解薬である。米ジェネンテック(Genetech)社によって開発、発売される。現在、血栓溶解薬は第3世代に発展している。独ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim GmbH)社が1996年に開発したレテプラーゼ(Reteplase、商品名はRetavaseほか)はその代表的な例である。レテプラーゼはタンパク質修飾薬であり、組換え型ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子の欠失変異体であり、半減期が長く、血栓溶解効果に優れており、副作用が少ない等の利点がある。今研究開発中の第3世代の血栓溶解薬(例えば、テネクテプラーゼ(TNKase、teneplase、又はTNK-t-PA)、モンテプラーゼ(Monteplase)、ラノテプラーゼ(La noteplase、nateplase、又はn-PA)等)はいずれもt-PA変異体である。第3世代の血栓溶解薬に共通する特徴は血栓を速やかに溶解でき、閉塞した冠状動脈を疎通し、血液循環を回復させることである。治癒率は73~83%に達する。
【0038】
抗凝固薬は、血管内塞栓症又は血栓形成が伴う疾患の予防と治療、中風もしくは他の血栓性疾患の予防のために使用される。臨床で最もよく使用される抗凝固薬としては、非経口抗凝固薬(例えば、ヘパリン、エノキサパリン、ダルテパリン、アルデパリン)、クマリン系抗凝固薬(例えば、ワルファリン、ジクロマロール、硝酸クマリン)、インビトロ抗凝固薬(例えば、クエン酸ナトリウム)、トロンビン阻害薬(例えば、ヒルジン、アルガトロバン)がある。
【0039】
血小板凝集抑制薬はその作用部位、作用経路によって、次の4種に分けられる。(1)シクロオキシゲナーゼ阻害薬(抗トロンボキサンA2薬、サリチル酸系):よく使用されるのはアスピリン錠。(2)ホスホジエステラーゼ阻害薬:例えば、シロスタゾール(プレタール)、ジピリダモール(ペルサンチン)等。シロスタゾール(プレタール)は血小板及び血管平滑筋におけるホスホジエステラーゼの活性を抑制し、血小板及び平滑筋におけるcAMPの濃度を高め、アスピリン、チクロピジン(パナルジン)よりも血小板の凝集抑制効果が高く、血小板凝集塊を分解する効果があり、末梢血管疾患の治療薬で第1の選択である。臨床では主に慢性の動脈閉塞性潰瘍、痛み、冷え等の局所性疾患の治療に用いられ、心不全のない間欠性跛行患者に使用される場合に、症状の改善、歩行距離の増加が見られる。ジピリダモール(ペルサンチン)の通常用量での経口投与は安定狭心症患者における運動が誘発する心筋梗塞の発生率を上げる恐れがあるため、現在ではその使用は冠状動脈性心疾患のない卒中歴がある患者に限られ、冠状動脈性心疾患患者におけるジピリダモールの単独使用は推奨されない。(3)ADP受容体拮抗薬(チオフェン-ピリジン系):例えば、クロピドグレル(プラビックスほか)、チクロピジン(Ticlopidine、商品名はパナルジン、Ticlidほか)等。(4)血小板膜糖タンパク(GP)IIb/IIIa受容体拮抗薬:例えば、モノクローナル抗体のアブシキシマブ(abciximab)、ペプチド系阻害薬のエプチフィバチド(eptifibatide)、非ペプチド系阻害薬のチロフィバン(tirofiban)等。
【0040】
スタチン系薬物は3-ヒドロキシ3-メチルグルタリルコエンザイムA(HMG-CoA)還元酵素阻害薬とも呼ばれ、コレステロール(TC)、低密度リポタンパク質(LDL-C)、apoB(アポリポタンパク質)を顕著に低減するとともに、トリグリセリド(TG)を低減し高密度リポタンパク質(HDL-C)をわずかに増やすことができる。原発性高コレステロール血症及び混合型高脂血症に適用され、現在では高コレステロール血症及びアテローム性動脈硬化疾患の予防と治療のために主に使用される薬物である。既に販売されている薬物は、第1世代としてロバスタチン、シンバスタチンがあり、第2世代としてプラバスタチン、フルバスタチンがあり、第3世代としてアトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチンがある。
【0041】
本明細書で、用語「外傷性微小脳出血」とは、外傷によって引き起こされる脳内微小出血であり、例えば、手術性外傷、軽度外傷性脳損傷(TBI)又は慢性外傷性脳損傷によって引き起こされる脳内微小出血である。用語「手術によって引き起こされる微小脳出血」又は「手術性微小脳出血」とは、手術によって引き起こされる脳内微小出血である。いくつかの実施形態において、前記手術とは、中枢神経系に直接的な影響を与える手術である。いくつかの実施形態において、前記手術とは、脳動脈瘤クリッピング術、脳動脈瘤塞栓術又は脳腫瘍切除術である。
【0042】
式Iの化合物、その重水素化物、及び薬学的に許容されるその塩:
本発明に係る方法又は用途に適用される化合物は、式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容されるその塩を含む。
式I
【化8】
式中、R
1はH、1個ないし5個の炭素原子を有するアルキル基、末端アルケニル基又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である。本明細書で、「本発明の化合物」とも呼ばれる。一つの実施形態において、R
1はHであり、即ち前記化合物は5α-アンドロスト-3β,5,6β-トリオール(5α-androst-3β,5,6β-triol、以下「Triol」とも略記)であり、構造式は式(II)に示される。Triolは急性の虚血性低酸素性脳損傷に効果的な神経保護剤であることが既に証明されている。
式II
【化9】
【0043】
一つの実施形態において、R1は-CHCH2CH3で、前記化合物は17-プロピレン-アンドロスト-3β,5α,6β-トリオールである。一つの実施形態において、R1は-CH(CH3)2で、前記化合物は17-イソプロピル-アンドロスト-3β,5α,6β-トリオールである。一つの実施形態において、R1は-CH(CH2)3CH3で、前記化合物は17-ブチル-アンドロスト-3β,5α,6β-トリオールである。一つの実施形態において、R1は-CH(CH3)(CH2)3CH(CH3)2で、前記化合物はコレスタン-3β,5α,6β-トリオールである。
【0044】
本発明の化合物は薬学的に許容される塩として製剤化されてよい。薬学的に許容される塩の形態の非限定的な例としては、一塩、二塩、三塩、四塩等が挙げられる。薬学的に許容される塩は、その投与量と濃度においては非毒性である。その生理作用の発揮が妨げられない限り、化合物の物理的性質を改変してこのような塩とすることで、薬理学的な用途に適する。物理的性質に対する有用な改変としては、経粘膜投与のために融点を低減すること、より高い濃度での薬物投与のために溶解度を上げることが挙げられる。
【0045】
薬学的に許容される塩は酸付加塩であってよく、例えば、硫酸塩、塩化物、塩酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、スルファミン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、サイクラミン酸塩、キナ酸塩を含む塩である。薬学的に許容される塩は酸から誘導されてよく、前記酸としては、例えば、塩酸、マレイン酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、マロン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サイクラミン酸、フマル酸、キナ酸である。
【0046】
酸性官能基、例えば、カルボン酸又はフェノールが存在する場合に、薬学的に許容される塩は塩基付加塩であってよく、例えば、ベンジルペニシリンベンザチン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、tert-ブチルアミン、エチレンジアミン、メグルミン、プロカイン、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、アンモニウム、アルキルアミン、亜鉛を含む塩である。前記塩は適切な対応の塩基を使用して製造できる。
【0047】
薬学的に許容される塩は、標準的な技術を利用して製造できる。例えば、遊離塩基の形態の化合物を適切な溶媒、例えば、適切な酸を含む水溶液又は水-アルコール溶液に溶解して、溶液を蒸発して分離させる。別の例として、前記塩は有機溶媒で遊離塩基と酸を反応させて製造される。
【0048】
したがって、特定の化合物が塩基である場合に、本分野の任意の適切な方法で薬学的に許容される所望の塩を製造できる。例えば、無機酸又は有機酸で遊離塩基を処理する。前記無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、類似の酸が挙げられ、前記有機酸としては、酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、ピラノシジル酸(pyranosidyl acid)(例えば、グルクロン酸、ガラクツロン酸)、α-ヒドロキシ酸(例えば、クエン酸、酒石酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、芳香族酸(例えば、安息香酸、ケイ皮酸)、スルホン酸(例えば、p-トルエンスルホン酸、エタンスルホン酸又は類似体)が挙げられる。
【0049】
同様に、特定の化合物が酸である場合に、任意の適切な方法で薬学的に許容される所望の塩を製造できる。例えば、無機塩基又は有機塩基で遊離酸を処理する。前記無機塩基又は有機塩基としては、アミン(第一級アミン、第二級アミン又は第三級アミン)、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物又は類似体が挙げられる。適切な塩の非限定的な例としては、アミノ酸(例えば、L-グリシン、L-リシン、L-アルギニン)、アンモニア、第一級アミン、第二級アミンと第三級アミン、環状アミン(例えば、ヒドロキシエチルピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン)から誘導された有機塩、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、リチウムを含む無機塩が挙げられる。
【0050】
化合物の薬学的に許容される塩は錯体の形態で存在し得る。前記錯体の例としては、8-クロロテオフィリン錯体(例えば、ジメンヒドリナート:ジフェンヒドラミンと8-クロロテオフィリンの1:1錯体)、シクロデキストリンを含む様々な錯体が挙げられる。
【0051】
本発明には、当該化合物が使用される薬学的に許容される重水素化合物又は他の非放射性元素によって置換された化合物も含まれる。重水素化とは、薬物活性分子の官能基における1つの、複数の、又は全ての水素を同位体の重水素に置き換えたものである。非毒性で且つ非放射性であり、炭素-水素結合と比べて安定性は約6~9倍高く、代謝サイトをブロッキングして薬物の半減期を引き延ばすことができるため、治療時の用量が低減されるとともに、薬物の薬理活性に影響はないことから、有益な修飾方法とされる。
【0052】
医薬組成物:
本発明の別の態様では、有効量の式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容されるその塩と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0053】
本発明で「医薬組成物」とは、式Iの化合物と、薬学的に許容される担体とを含む組成物である。前記化合物と薬学的に許容される担体は混合されて組成物に存在している。前記組成物は一般にヒトを対象とする治療に使用される。なお、それらは他の動物を対象とする同じ疾患又は類似の症状の治療にも使用される。本明細書で用語「対象」、「動物対象」、類似の用語とは、ヒト、及び非ヒト脊椎動物、例えば、哺乳動物(例えば、非ヒト霊長類)、競技動物と産業動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、げっ歯類動物)、愛玩動物(例えば、イヌ、ネコ)である。
【0054】
剤形の種類は、用途、又は投与経路(例えば、経口、経皮、経粘膜、吸入又は注射(非経口))によって決定され得る。当該化合物が標的細胞に送達されるように剤形が決定される。他の決定要因は本分野で既知の事項であり、考慮すべき事項には、毒性、化合物又は組成物の効果発揮を遅延させる特定の剤形が含まれる。
【0055】
担体又は賦形剤は組成物を製造するために使用されてよい。前記担体又は賦形剤は化合物の投与に役立つものであってよい。担体の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、各種の糖(例えば、ラクトース、グルコース、スクロース)、デンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコール、生理学的に適合する溶媒が挙げられる。生理学的に適合する溶媒の例としては、注射用水(WFI)、無菌溶液、塩溶液、グルコースが挙げられる。
【0056】
組成物又は組成物の成分を投与するためには様々な経路を利用できる。これには静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、経口、経粘膜、経直腸、経皮、吸入が含まれる。いくつかの実施形態において、注射剤又は凍結乾燥注射剤であることが好ましい。経口投与の場合には、例えば、化合物は通常の経口剤形(例えば、カプセル、錠剤)、液体製剤(例えば、シロップ、エリキシル剤、濃縮された滴剤)として製剤化されてよい。
【0057】
経口薬物製剤を得ることができる。例えば、組成物又はその成分を固形の賦形剤と組み合わせ、任意選択で研磨することにより得た混合物、(必要であれば)適切な補助剤を加えて顆粒に加工した混合物から、錠剤又は糖衣錠を製造する。適切な賦形剤としては、特に、充填剤(例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール等の糖類)、セルロース製剤(例えば、コーンスターチ、小麦デンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、タラカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP、ポビドン(povidone)ともいう)が挙げられる。必要であれば、崩壊剤(例えば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はそれらの塩(例えば、アルギン酸ナトリウム))を加えてもよい。
【0058】
任意選択で、注射用(非経口投与)、例えば、筋肉内投与、静脈内投与、腹腔内投与及び/又は皮下投与用のものを使用できる。注射用の場合には、本発明の組成物又はその成分は無菌の液体溶液として調製される。生理学的に適合する緩衝液又は溶液、例えば、生理食塩水、ハンクス(Hank)溶液、リンガー(Ringer)溶液において調製されることが好ましい。また、組成物又はその成分は固体の形態として調製され、使用直前に再溶解又は懸濁されてよい。凍結乾燥粉末として製造されてもよい。
【0059】
経粘膜、局所又は経皮の方式で投与されてもよい。経粘膜、局所又は経皮投与の場合には、配合には浸透されるバリアに適する浸透剤が使用される。当該浸透剤は本分野で一般的に既知の事項である、例えば、経粘膜投与の場合には、胆汁酸塩、フシジン酸誘導体が挙げられる。また、浸透を促すために洗剤も利用できる。経粘膜投与の場合には、例えば、鼻スプレー、坐剤(経直腸又は経膣)を利用できる。
【0060】
投与される各成分の有効量は標準的な手順によって決定され得る。考慮すべき要因には、前記化合物のIC50、前記化合物の生物学的半減期、投与対象の年齢、体積、体重及び対象における他の関連疾患が含まれる。これらの要因と他の要因の重要性は当業者には既知の事項である。一般には、治療対象における用量は約0.01mg/kg~50mg/kgであり、好ましくは0.lmg/kg~20mg/kgである。複数用量としてもよい。
【0061】
本発明の組成物又はその成分は同じ疾患の他の治療薬と組み合わせ使用されてもよい。組み合わせて使用される場合には、当該化合物と1種又は複数種の他の治療薬を異なる時刻で投与すること、又は当該化合物と1種又は複数種の他の治療薬を同時に使用することを含む。いくつかの実施形態において、本発明の1種又は複数種の化合物又は組み合わせて使用される他の治療薬の用量を変えることができる。例えば、当業者が知る方法で、単独で使用される化合物又は治療薬の用量を低減する。
【0062】
なお、組み合わせて使用される又は併用は、他の治療方法、薬物、医学的手順等と同時に使用されることを含み、当該他の治療方法又は手順は、本発明の組成物もしくはその成分の投与とは異なる時刻(例えば、短い期間内に(例えば、数時間(例えば、1、2、3、4~24時間))又は比較的長い期間内に(例えば、1~2日間、2~4日間、4~7日間、1~4週間))で、又は本発明の組成物もしくはその成分の投与と同じ時刻で投与されてよい。組み合わせて使用されることは、1回だけの又は頻度の高くない治療方法又は医学的手順(例えば、手術)と同時に使用され、且つ、当該他の治療方法又は手順前に又はその後に短い期間又は比較的長い期間内に本発明の組成物もしくはその成分が投与されることを含む。いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の組成物又はその成分と1種又は複数種の他の治療薬を送達するために用いられ、それらは同じ又は異なる投与経路によって送達される。
【0063】
投与経路を組み合わせて投与することは、同じ投与経路で本発明の組成物又はその成分と1種又は複数種の他の治療薬を、任意の製剤の形態で同時に送達することを含み、当該製剤は化学的に結合された2種の化合物が投与時にそれぞれの治療活性が保持されるような製剤を含む。一つの態様では、当該他の治療薬を使用する治療方法は本発明の組成物又はその成分と同時に用いられてよい。同時に投与するように組み合わせて使用することは、合剤(co-formulation)又は化学的に結合された化合物の製剤の投与、又は短い期間内(例えば、1時間以内、2時間以内、3時間以内ないし24時間以内)における2種又は複数種の独立な製剤形態の化合物の投与を含み、それらは同じ経路又は異なる経路で投与される。
【0064】
独立な製剤の同時投与は、一つの装置から送られて同時に投与されること、例えば、一つの吸入装置、注射器等を用いて投与すること、又は短い間隔で異なる装置でそれぞれ投与することを含む。同じ投与経路によって送られる本発明の化合物と1種又は複数種の他の薬物を使用する治療方法で、使用される合剤の形態は一つの装置から投与されるために材料から同時に調製したもの、異なる化合物が一つの製剤に組み合わされたもの、又は化合物が化学的に結合されてもそれぞれの生物学的活性が保持されるように修飾されたものを含む。このような化学的に結合された化合物は2つの活性成分を分離させるリンカーを含んでよく、当該リンカーは生体内で保持されるものであってもよいし、生体内で分解されるものであってもよい。
【0065】
方法と使用:
本発明の別の態様では、脳小血管病の治療用医薬の製造における式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容されるその塩の使用が提供される。そして、本発明では、脳小血管病の治療のための、式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容されるその塩の使用が提供される。そして、本発明では、患者における脳小血管病の治療のために、有効量の式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩、又は上記の医薬組成物を当該患者に投与することを含む方法が提供される。
【0066】
本発明の別の態様では、患者における脳血管外の遊離ヘモグロビンの除去を強化するために、有効量の式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩、又は上記医薬組成物を当該患者に投与することを含む方法が提供される。本発明の別の態様では、患者における脳血管外の遊離ヘモグロビンを除去するために、有効量の式Iの化合物、その重水素化物もしくは薬学的に許容されるその塩、又は上記医薬組成物を当該患者に投与することを含む方法が提供される。
【0067】
いくつかの実施形態において、前記脳小血管病は微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記患者における微小脳出血はMRIによって確認される。いくつかの実施形態において、前記患者に自発性微小脳出血、薬物関連の微小脳出血又は外傷性微小脳出血がある。いくつかの実施形態において、前記自発性微小脳出血は加齢性の微小脳出血、高血圧性の微小脳出血、急性高山病に併発する微小脳出血、慢性高山病に併発する微小脳出血、虚血性脳卒中に併発する微小脳出血又は出血性脳卒中に併発する微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記薬物関連の微小脳出血は血栓溶解薬関連の微小脳出血、抗凝固薬関連の微小脳出血、血小板凝集抑制薬関連の微小脳出血又はスタチン系薬物関連の微小脳出血である。いくつかの実施形態において、前記外傷性微小脳出血は手術によって引き起こされる微小脳出血である。
【実施例】
【0068】
実施例1:Triolによる、遊離ヘモグロビンによる小膠細胞活性化後の炎症性サイトカイン発現の顕著な低減
方法:
組織切片の免疫蛍光イメージング:パラフィン切片の厚さは5μmとする。新鮮なパラフィン切片を、37℃で一晩乾燥後に55℃で30分間乾燥させて、直ちにキシレンに入れて脱パラフィンする。キシレンに10分間置き、これを3回繰り返して充分に脱パラフィンされた後、無水エタノール、95%エタノール、90%エタノール、80%エタノール、70%エタノール、50%エタノール、ddH2Oをこの順に使用して、勾配を利用して再水和させる。再水和後に、切片をEDTA抗原賦活化溶液に入れて、マイクロウェーブによる高温処理で賦活させる。賦活化が完了した後、室温に自然冷却させる。一次抗体インキュベーション:吸取紙で組織の周囲の水分を除き、免疫組織化学用パップペンでサンプルの周りに円を描き、DAKO抗体希釈液で希釈した一次抗体を加え、ウェットボックスで、4℃の暗所環境で一晩インキュベートする。室温で10分間平衡化させて、1回当たり5分間で、PBSTで3回洗浄する。対応の蛍光標識された二次抗体種を加え、ウェットボックスで、室温の暗所環境で1時間インキュベートする。PBSTで3回洗浄して、DAKO抗体希釈液で希釈したHochest33342染色液を用いて、室温の暗所環境で10分間染色し、1回当たり5分間で、PBSTで3回洗浄する。水溶性の封入剤で切片を封入し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて画像を得る。共焦点撮影法は免疫蛍光染色と同じく、ソフトウェアNIS-Elements Analysisを用いて共焦点画像の蛍光強度を解析し、ソフトウェア内のスケールで単位面積の組織の蛍光強度を標準化する。
【0069】
カニクイザルの脳組織の免疫組織化学染色:本実験では免疫組織化学染色の通常の操作手順で次のように操作する。カニクイザルの前頭前皮質組織のパラフィン切片を得て厚さは5μmとし、新鮮なパラフィン切片を37℃で一晩乾燥させる。脱パラフィン:パラフィン切片を55℃で30分間乾燥させた後、直ちにキシレンに入れて脱パラフィンする。キシレンに10分間置き、これを3回繰り返して、充分に脱パラフィンさせる。再水和:無水エタノール、95%エタノール、90%エタノール、80%エタノール、70%エタノール、50%エタノール、ddH2Oをこの順に使用して各3分間浸漬して、勾配を利用して再水和させる。再水和後に、切片をEDTA抗原賦活化溶液に入れて、マイクロウェーブによる高温処理で30分間賦活させる。賦活化が完了した後、室温に自然冷却させる。一次抗体インキュベーション:吸取紙で組織の周囲の水分を除き、免疫組織化学用パップペンでサンプルの周りに円を描き、DAKO抗体希釈液で希釈した一次抗体を加え、ウェットボックスで、4℃の暗所環境で一晩インキュベートする。室温で10分間平衡化させて、1回当たり5分間で、PBSTで3回洗浄する。DAKO抗体希釈液で希釈したHRP二次抗体を加え、ウェットボックスで、室温で1時間インキュベーションする。PBSTで3回洗浄して、DABを滴加して基質を発色させ、各切片の発色時間は同じくする。PBSTで洗浄して、ヘマトキシリンで再度10秒間染色する。低速の流水で切片を洗って、PBSで洗浄する。脱水:ddH2O、50%エタノール、70%エタノール、80%エタノール、90%エタノール、95%エタノール、無水エタノールをこの順に使用して各3分間で浸漬して、勾配を利用して再水和させる。透過処理:キシレンで10分間透過処理をし、これを3回繰り返す。封入:キシレンで希釈した中性樹脂で封入し、2時間後に封入剤が凝固したら、撮影に使用できる。撮影:ニコンの倒立型蛍光顕微鏡ECLIPSE Ti-Uを用いて、明視野下で切片を撮影し、露光強度及び背景のホワイトバランスを適切に調整して、撮影条件を一定にして各群の切片を多視野で且つ多倍率で撮影する。
【0070】
ウェスタンブロッティング:1)タンパク質検体の調製(M-PER細胞溶解液取扱説明書を参照):細胞を所定の時間で処理した後、培地を吸い取って除去し、4℃に予冷したPBS(0.01M pH7.2~7.3)で培地を3回洗浄する。プロテアーゼ阻害剤(PMSF 100×)を混合したM-PER細胞溶解液150~200μlを加え、氷上で10分間溶解させると、細胞は充分に溶解する。溶解物を集めて4℃の低温で、12000rpmで15分間遠心分離して細胞破片を除去する。2)BCA法によるタンパク質の定量(BCAタンパク質定量キットの取扱説明書を参照):定量試薬のA液:B液:ddH2O:タンパク質=100:2:7.5:5の比率で96ウェルのマイクロプレートに所定の成分を加え、標準曲線の作成のために、勾配濃度に希釈したアルブミン標準品を加える。1検体当たり3つの重複ウェルを設ける。ローディングが完了した後、低速で振盪し、次に、ビウレット反応が完全に行われるように、インキュベータで、37℃で30分間インキュベートする。反応が完了した後、マイクロプレートリーダーを利用して波長562nmにて各ウェルの吸光度を検出する。標準品のOD平均値を用いてタンパク質濃度の標準曲線を作成し、相関係数r2が0.99を超える場合に直線的な関係を満たすと見なされる。標準曲線を利用して各群の検体のタンパク質濃度を算出した後、細胞溶解液と5×ローディングバッファー(loading buffer)を用いて各検体の濃度が同じになるよう調整する。100℃の沸騰する水で5分間茹でることで、タンパク質が変性して一次構造になる。12000gで5秒間遠心分離して、管壁の検体が底部に移る。3)ポリアクリルアミドゲル電気泳動:測定対象の目標タンパク質の分子量に応じて適切な濃度の分離ゲルを調製し、分離ゲルが凝固したら濃縮ゲルを調製し、くし形電極を挿入し、気泡の発生は避ける。濃縮ゲルが完全に凝固した後、着色済みのタンパク質分子量マーカー(marker)とタンパク質検体をローディングし、Bio-Rad電気泳動システムを用いて定電圧電気泳動を行う。マーカー(marker)が指し示す目標タンパク質が分離したら電気泳動を停止する。4)転写(ウェット式):ゲルのサイズに適合するようにPVDF膜をカットして、メタノールに入れて予活性化させ、電気泳動ゲルをカットして、PVDF膜とスポンジに挟んで4層のサンドイッチを作り、気泡の発生は避ける。サンドイッチを転写槽に入れて、予冷したウェット転写バッファー(buffer)を注入し、定電圧100Vで転写する。目標タンパク質の分子量に応じて転写時間を調整する。5)ブロッキング:転写が完了した後、PVDF膜を取り出して、TBST洗浄液で、1当たり5分間で3回洗浄する。TBSTを用いて5%脱脂粉乳を調製し、室温で5%脱脂粉乳においてPVDF膜を1時間ブロッキングする。6)抗体インキュベーション:ブロッキングが完了した後、5%TBST洗浄液で膜を、1回当たり5分間で3回洗浄する。目標タンパク質の分子量に応じて膜をカットしていくつかのストリップを得、各ストリップを仕切りが設けられたボックスに入れ、対応の一次抗体を加えて、シェーカーで、4℃で一次抗体を一晩インキュベートする。一次抗体インキュベーションが完了した後、5%TBST洗浄液で膜を、1回当たり5分間で3回洗浄する。一次抗体に対応して二次抗体種を加え、低速シェーカーに置き、室温で1時間インキュベートする。7)露光現像:5%TBST洗浄液で膜を、1回当たり5分間で3回洗浄する。カセットに現像液のA液とB液を1:1の比率で加え、均一に混合する。PVDF膜を現像液に1分間浸漬して、Bio-Rad化学発光検出システムにおいて露光して現像させ、ソフトウェアImage Labを用いて画像を解析する。
【0071】
統計学的処理:実験結果は平均値±標準偏差で表示し、ソフトウェアSigmaPlotで統計学的に解析する。P<0.05である場合に、統計学的に有意差がある。他に用いる方法は図面を参照する。
【0072】
結果:
高原低圧キャビンを利用して、高原に入った初期の急性の低圧低酸素状態をシミュレートする。190分間でカニクイザルを標高320メートルから7500メートルに持ち上げ、次に7500メートルの高さにおいてカニクイザルを48時間保持することにより、非常に高い標高に迅速に到達することを実験的な条件でシミュレートする。標高が増加するにつれて、カニクイザルに顕著な急性高山病の症状、例えば、嘔吐、脊髄小脳失調症、意識障害等が出現することから、非ヒト霊長類であるカニクイザルの急性高山病モデルの複製に成功することが示される。古典的行動学的、病理学的、生化学的手法等によって検出した結果、急性の低圧低酸素のためカニクイザルに顕著な骨格筋の協調性低下、脳組織構造の空胞化改変、脳内の水分含量増加、脳組織の血管性浮腫及びニューロンの変性損傷が生じることから、急性の低圧低酸素が顕著な脳損傷を引き起こすことが示されている。
【0073】
急性の低圧低酸素によるカニクイザルの脳組織損傷におけるヘモグロビンの作用を調べるために、カニクイザルの前頭前皮質の脳組織に免疫蛍光染色を行う。結果を
図1に示す。常圧通常酸素群と比べ、急性の低圧低酸素群では血管外の遊離ヘモグロビンの分布が顕著に増加し(
図1のA)、Triol処理群ではその分布が顕著に低減していた(
図1のB)。さらに、カニクイザルの前頭前皮質において、小膠細胞の活性化マーカーIba-1(ionized calcium-binding adapter molecule 1)の免疫組織化学染色を行う。結果では、急性の低圧低酸素が小膠細胞の糸状又は葉状の仮足の増加を引き起こしており、活性化型の形態変化とIba-1の発現量の増加として現れ(
図2のA)、Triol処理群では活性化型の形態を有する細胞の数量が低減し、且つ、Iba-1の発現が顕著に低減していた(
図2のB)。カニクイザルの前頭前皮質の脳組織に対し、さらにウェスタンブロッティングを利用して炎症性サイトカインIL-6(インターロイキン-6、Interleukin 6)、TNF-α(腫瘍壊死因子α、Tumor necrosis factor alpha)、IL-1β(インターロイキン-1β、Interleukin 1 beta)の前駆体及びスプライシングされた成熟型に対する急性の低圧低酸素の影響を調べ、結果では、急性の低圧低酸素処理がこれらの炎症性サイトカイン発現の顕著な増加を引き起こしており、Triolはこれらの炎症性サイトカインの発現レベルを顕著に低減していた(
図3のAとB)。
【0074】
実施例2:Triolによる脳組織のヘモグロビン除去能力の顕著な回復
CD163は抗炎症活性を有するM2型マクロファージの分子マーカーの1つであり、その機能は哺乳動物における唯一のヘモグロビンスカベンジャー受容体としてヘモグロビン分子の細胞内除去に関与することである。ヘモグロビンとハプトグロビン複合体はマクロファージ/小膠細胞におけるCD163が仲介する貪食過程後に、エンドソームによってリソソームに輸送され、分解してヘムが生成される。さらにヘムはHO-1の作用で分解してFe2+、CO、ビリベルジンが生成され、Fe2+とビリベルジンが酸化されてFe3+、ビリルビンになる。
【0075】
ヘモグロビン除去能力に対する低圧低酸素の影響を調べるために、まずカニクイザルの前頭前皮質の脳組織におけるCD163とその下流のヘム分解律速酵素HO-1の発現レベルを検出する。結果では、急性の低圧低酸素がCD163発現の顕著なダウンレギュレーションを引き起こすことが示され(
図4のAとB)、このようなCD163の発現のダウンレギュレーションはTriolによって顕著に回復され得る。低圧低酸素によりヘム酸素添加酵素HO-1はストレス的にアップレギュレーションされることは関連の文献と一致している。本実験で、Triolで処理されるとHO-1の発現レベルがさらにアップレギュレーションされる。
【0076】
カニクイザルの前頭葉の脳組織の免疫蛍光染色により、CD163の発現変化と小膠細胞活性化マーカーIba1の相関性を解析する。急性の低圧低酸素がCD163発現の顕著なダウンレギュレーションを引き起こしており(
図5のAとB)、且つIba1の発現が上がる。このようなCD163の発現ダウンレギュレーションはTriolによって顕著に回復されて発現がアップレギュレーションされると同時に、Iba1の発現がダウンレギュレーションされる。対照薬プロゲステロンは低酸素が引き起こすCD163の発現抑制を解消しておらず、Iba1の発現が上がる。
【0077】
上記の結果から、CD163の発現がIba1と逆のパターンで行われるため、遊離ヘモグロビンは急性の低圧低酸素性脳損傷で小膠細胞における炎症性誘発要因であり、CD163が仲介するヘモグロビン除去は低酸素によって高度に抑制されることが強く示される。
【0078】
実施例3:Triolによる、ヘモグロビンの除去強化による小膠細胞BV2における炎症性活性化の低減
方法:
細胞培養:小膠細胞BV2を蘇生させた後、FBSを10%含むDMEM培地で培養し、細胞密度が約80%になるとプレートに接種して継代培養し、細胞の接種密度は約4.0~5.0×105/mLとする。
【0079】
低酸素処理:低酸素ワークステーションにおいて細胞処理プロセスをスタートし、ガス条件を酸素ガス1%と二酸化炭素5%に設定し、30分間UV滅菌し、ガス濃度が安定したら試験を始める。細胞の低酸素処理を始める前に新鮮な培地に置き換え、次にシャーレ又は共焦点レーザー撮影用培養プレートを低酸素ワークステーションに置く。所定の時間処理後に速やかにシャーレを取り出して、細胞の固定又はタンパク質溶解等の工程を行う。
【0080】
ヘモグロビン処理:無菌水で遊離ヘモグロビンを10mMの母液に調製し、4℃で保管して、培地で希釈しシャーレに加え、所定の最終濃度にする。20μMのヘモグロビンと低酸素による共刺激を行う際は、遊離ヘモグロビンで細胞を刺激してから、直ちにシャーレを低酸素ワークステーションに置いて低酸素処理を行う。
【0081】
細胞免疫蛍光イメージング:細胞を共焦点レーザー撮影用シャーレに接種し、接着後に新鮮な血清培地に置き換え、ヘモグロビン刺激、低酸素処理又は両方で処理した後、細胞を固定する。培地を吸い取って除去し、0.3%PBSTで3回洗浄し、次に4%パラホルムアルデヒドを加えて細胞を20分間固定する。0.3%PBSTで3回洗浄し、Triton X-100で15分間穿孔する。0.3%PBSTで3回洗浄し、次にDAKO抗体希釈液で対応の一次抗体を希釈して均一に混合して、細胞に滴加し、暗所状態で閉鎖されたウェットボックスに置き、シェーカーで、4℃で一晩インキュベートする。室温で平衡化させた後、0.3%PBSTで3回洗浄する。DAKO抗体希釈液で特定の濃度の蛍光標識二次抗体を希釈して検体に滴加し、ウェットボックスに置き、室温で、暗所環境で1時間インキュベートする。0.3%PBSTで3回洗浄し、DAKO抗体希釈液でHochest33342核染色液を希釈して、均一に混合して検体に滴加し、ウェットボックスに置き、室温で、暗所環境で15分間インキュベートする。インキュベーションが完了した後、PBSで洗浄し、撮影に備え300μlのPBSを加える。ニコンのA1共焦点顕微鏡で撮影し、プログラムをスタートして各チャネルのレーザー強度と露光時間を調整し、撮影条件を一定にして各群のサンプルを撮影する。ソフトウェアNIS-Elements Analysisを用いて共焦点画像の蛍光強度を解析し、細胞数によって平均蛍光強度を標準化する。
【0082】
ウェスタンブロッティング:実施例1と同じである。
【0083】
リアルタイム定量的逆転写PCRによる増幅(qRT-PCR):1)全RNAの抽出:抽出試薬Trizolの取扱説明書に従う。細胞を所定の時間で処理した後、培地を吸い取って除去し、PBSで培地を2回洗浄する。1mlのTriolを加え、充分にピペッティングして細胞を溶解する(以下、試薬量はいずれもTrizol 1mlで算出する)。クロロホルム200μlを加え、高速で振盪して均一に混合したら、室温で3分間静置する。4℃で、12000gで15分間遠心分離し、上層の水相から400μlを取り分け別のチューブに移して、イソプロパノール400μlを加え、低速で振って均一に混合させ、室温で20分間静置する。4℃で、12000gで10分間遠心分離し、上清を捨てる。予冷した75%エタノール500μlを加え、4℃で、7500gで10分間遠心分離し、細やかに上清を捨てる。自然乾燥させて、適量のDEPC処理水を加えてRNA沈殿物を溶解する。2)RNA定量:核酸定量装置Nanodrop 2000を用いてRNAを定量し、波長260/280nmにてOD比値を測定し、比値が1.8~2.0である場合に品質が良いものとされる。3)逆転写反応:各反応系でRNA総量は2μg、オリゴ(dT)プライマーは1μlとして、DEPC処理水で反応系を13μlに調整する。遠心分離して均一に混合したら、65℃で5分間予変性させる。予変性後に、直ちに氷に置き、RT反応バッファー(RT Reaction Buffer)4μl、dNTP 2μl、逆転写酵素(Reverse Transcriptase)1μlを加える。遠心分離して均一に混合したら、逆転写反応を行う。逆転写反応の条件は、42℃で60分間、70℃で10分間、4℃である。4)qPCR増幅反応のパラメータ:qPCR増幅反応系は、SYBR Green Mix 5μl、cDNA 1μl、プライマー(primer)2μl、RNaseフリー水(ddH2O)2μlである。サイクルパラメータは、Holdingステージが95℃で15分間、Cyclingステージ(40サイクル)が95℃で10秒間、56℃で20秒間、72℃で30秒間で、Melt Curveステージが95℃で15秒間、60℃で60秒間、95℃で15秒間、60℃で60秒間である。5)データ処理:Applied Biosystem 7500 fast real-time PCR software v2.0.5を用いてデータを分析し、相対遺伝子発現量は式RQ=2-ΔΔCtで定量する。
【0084】
結果:
遊離ヘモグロビンが直接的に小膠細胞の活性化を引き起こせるかどうかを調べるために、ヘモグロビンで小膠細胞を刺激して、その活性化指標の変化を観察する。結果では、インビトロにおいて遊離ヘモグロビンを用いて異なる時間で、小膠細胞BV2を直接的に刺激したところ、24時間でBV2は活性化型の形態を示し、具体的には細胞体が拡大し、糸状の仮足が増加又は延長しており(
図6のAとC)、且つ小膠細胞の活性化分子マーカーIba-1(
図6のD)及びCD11b(
図6のBとE)の発現量が遊離ヘモグロビンの刺激により顕著にアップレギュレーションされる(
図6のBと6D)。ウェスタンブロッティング実験によって、カニクイザルの脳組織における免疫蛍光試験の結果がさらに確定している(
図6のE)。これらの結果と一致するように、遊離ヘモグロビンの刺激が小膠細胞の炎症性サイトカインTNF-α、IL-1β、IL-6のmRNAレベルにおける顕著な発現増加を引き起こしていることから(
図6のF)、遊離ヘモグロビンが小膠細胞の炎症性活性化を引き起こしていることが示される。
【0085】
遊離ヘモグロビンが仲介する小膠細胞の活性化に対する低酸素の影響を調べるために、遊離ヘモグロビンで小膠細胞を直接的に刺激すると同時に、細胞に対し1%酸素ガスでの低酸素処理を行ったところ、低酸素は遊離ヘモグロビンが引き起こす小膠細胞の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6を含む)のタンパク質レベルの増加を促進しているが、抗炎症性サイトカインIL-4に顕著な影響はないことが示されている(
図6のG)。これらの結果は低酸素が、遊離ヘモグロビンが引き起こす小膠細胞の活性化を促進できることを示している。
【0086】
カニクイザルの脳組織の小膠細胞ではTriolがヘモグロビンスカベンジャー受容体CD163とその下流の分子HO-1の発現をアップレギュレーションしていることが判明され、インビトロ細胞モデルではさらにRNAに対するCD163の干渉を利用して、低酸素とヘモグロビン刺激で小膠細胞を活性化させた後、CD163の干渉が、小膠細胞の活性化に対するTriolの抑制作用を解消できるかどうかを調べる。
図7に示すように、CD163干渉後、低酸素とヘモグロビンで活性化された小膠細胞におけるIba-1及びCD11bの発現アップレギュレーションに対するTriolの抑制作用が解消され、Iba-1とCD11bの発現のアップレギュレーションが回復されることから、Triolが、CD163が仲介する細胞の遊離ヘモグロビン除去を強化することで、小膠細胞の炎症性活性化を阻止することが示されている。
【0087】
以上から分かるように、遊離ヘモグロビンが小膠細胞の活性化を引き起こし、Triolは小膠細胞スカベンジャー受容体CD163の発現レベルを回復することで、遊離ヘモグロビンが引き起こす小膠細胞の活性化を低減する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0088】
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【図 】